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サーナイトSS総合 part5

1管理人★:2010/03/20(土) 23:55:05 ID:???
サーナイトの全年齢SS執筆スレです。
PCから投稿してくれる神の降臨を随時募集しております。

・sage進行+(;´Д`)ハァハァ+マターリでお願いします。
・煽り・荒らしは放置。
・投稿SSに対する過度の叩きはご遠慮下さい。

670名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:28:25 ID:sv0NcSn2
 丁度ニンフィアがバイツの唇から離れたのでキョウカはバイツに一つ質問をした。
「何周したの?バイツ。」
「・・・一周かなー・・・でも・・・」
「でも?」
 バイツは足元にいるイーブイとリーフィアに弱々しく視線を向ける。
「次は私。早くイってシャワーズ。」
「ちょっと待ってよイーブイ!次はアタシ!アンタ三回もヤッたじゃない!」
「でもリーフィア。あんたも三回ヤッたよね。」
「うぐ・・・」
 一人につき一回というレベルの話ではなかった。
「このままだと死ぬわね・・・バイツ。」
 他人事の様にキョウカが言う。
「で・・・キミ達は結局・・・何をしに来たの・・・?」
 何時の間にかブラッキーに接近されていた四人。
「今更私達を助けに?ニンゲンって身勝手ですわ。警察?遅く現れて正義面ですの?」
 エーフィは冷たい視線を向けている。
「どうしてもっと早く救いに来てくれなかったのでしょうねぇ・・・旦那様みたいに。」
 グレイシアに至っては顔に笑みを浮かべているが殺気と冷気を放出しかけている。
 攻撃できない。
 キョウカは指示を出せなかった。
 この場を平和的に収める事が出来るのはバイツしかいなかった。
 キョウカはバイツに視線を送る。
 その視線に気付いたシャワーズ。腰の動きが一層激しくなる。
「お腹の奥・・・当たって・・・ッ!」
 バイツより先に絶頂を迎え激しく仰け反るシャワーズ。
 息を荒くし涙目になりながらバイツの顔に口を近付ける。バイツはそれに気付きシャワーズに優しくキスをする。
 短いキスを終えバイツから口を離したシャワーズ。今まで自分に快楽を与えていたモノを抜くと自分と仲間達の愛液まみれになっているそれの先端にもキスをした。
「ごめんなさい旦那様。私だけ気持ちよくなって・・・次はお尻で精子が出て来るまでしましょう・・・?」
 シャワーズはこう付け足した。
「このニンゲン達を殺した後で・・・」
 バイツの近くにいたイーブイ、シャワーズ、リーフィア、ニンフィアが四人に近付く。
「おいお嬢、こいつはマズいんじゃないか?」
 モウキがイーブイ達から視線を逸らさないで言う。
 イーブイ達は手加減をしないだろう。それにガーディ一人にこの数を止められるとは思えなかった。
 キョウカは最後の手段に出た。
「バイツ、この痴態サーナちゃん達に言うわよ。」
「ハイッ!皆お座り!」
 一瞬だけ全快したバイツがそう言った途端、イーブイ達は瞬時に座った。
 そして、また萎びるバイツ。
 キョウカが内心ガッツポーズをする。彼女はバイツを使うのが結構上手だったりする。



 建物の外では警察官や委員会の職員が慌ただしくしていた。
「・・・うー・・・」
 ヘロヘロのバイツがその様子を腰掛けるのに丁度いい岩に座って眺めていた。

671名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:28:59 ID:sv0NcSn2
 イーブイ達はバイツの周りにいたが今もなお周囲の人間に敵意を放ち続けている。
 ふと、イーブイ達に対し一つの疑問が浮かんだバイツ。
 あまり声を出せない状態だったがイーブイ達に質問する事に。
「・・・なあ・・・何でさっき俺の言う通りに座ったんだ・・・?」
「アハハハ!トーゼンじゃん!大好きなダンナ様のコトバだったんだから。」
 バイツに向き直ってサンダースが明るく言う。
 彼を見るその視線からは好意といった感情が読み取れた。もしかするとそれ以上かもしれない。
 他の皆も同じだった。バイツを見ている時の彼女達の目は先程玩具にしていた割には好意的で優しい目。
「何また素っ頓狂な顔作ってんだよ、好きになったって言ってんじゃねえか。その・・・そんなになるまで搾り取って悪かったと思ってるけどよ。」
 ブースターの声からは好意と反省の色が同時に読み取れた。
「もしかして・・・怒ってんのか?」
「・・・違うブースター・・・ただ好きと言っても・・・皆にここまで想ってもらえるとは思わなくてな・・・」
 バイツが弱々しくだが微笑んでみせるとイーブイ達も微笑みを返した。
「あのさ・・・旦那様。これからの事だけど・・・」
「はーい、バイツご苦労様。」
 イーブイが何かを言いかけた時、キョウカがバイツに向かって歩いて来る。
 イーブイ達は瞬時にキョウカに敵意を向ける。
「・・・なあキョウカさん・・・色々聞きたい事が・・・」
「そうね、でもその前にあんた達全員休息が必要じゃないかしら。」
 キョウカがそう言った途端に委員会の職員が大勢バイツ達の周りを取り囲んだ。
 バイツに組み付き押し倒す職員数名。
 突然の事で消耗しきったバイツは反応できなかった。
「ちょっと!旦那様に何してんのよ!」
 リーフィアがバイツを助ける為に跳びかかろうとした途端、突然職員の一人に体を抑えられ近付いてきたもう一人の職員に注射を打たれる。
 残りのメンバーも同じ様な事をされる。
「イーブイ!シャワーズ!サンダース!ブースター!エーフィ!ブラッキー!リーフィア!グレイシア!ニンフィア!」
 バイツが叫ぶ。
 イーブイ達も最初は暴れ回っていたが徐々に大人しくなっていった。
 目の前が暗くなり始めた時バイツの悲痛な叫びが聞こえた様な気がした。
 その時彼女達は思った。この人は本気で私達の事を想ってくれている。と。
 意識が完全に落ちた時には既に車に乗せられこの地方のポケモン虐待防止委員会の支部へ向かう所だった。
「・・・キョウカさん・・・あんた・・・」
 バイツの声が怒りで震えだす。
「虐待を受けて心に傷を負って人間に不信感を持ち暴れるポケモン・・・私達の業界じゃ珍しくないでしょ。」
 ギリとバイツは歯ぎしりする。
「その上あんたを逆レイプ。弁護は難しいわね。委員会の支部に連れていって検査して回復させるけどその後はどうなるか分からない。」
「・・・あれは同意の上だ・・・俺が引き取る・・・」
「無理よ。あんたにはサーナちゃん達がいるじゃない。それに運よく引き取れたとしても毎日あんな事やってたらいつか死ぬわよ。」

672名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:29:34 ID:sv0NcSn2
 イーブイ達に出会って数時間もしない内にこの体たらく。キョウカの言う事にも一理あった。
「これしか方法が無かったの・・・あまり見せたくないものを見せてしまってごめんなさい。」
 珍しく謝るキョウカ、声色から判断して本気で反省している様なのでバイツはこの件について何も言わなかった。
「・・・もう一つだけ・・・ここは何処だ・・・」
「あんたの家から結構離れた地方よ。色々用があるから少なくとも今週中に帰れるとは思わない事ね。」
 家に帰す気はさらさら無さそうなキョウカ。このパターンかとバイツは力無く項垂れた。



 トレーナーズスクールの教室の一つ。そこでテスラは授業を受けていた。
 エルフーンは教室の後ろの広いスペースでクラスメイトの連れてきた他のポケモンと眠っていた。
 黒板の内容をノートに取りながら先生の話を聞き、時にはサーナイト達の内の誰かを連れてきての簡単なポケモンバトル。そして、休み時間にはクラスメイトとの他愛無い会話。
 充実しているスクールライフ。自分が兵器として造られた人造人間だという事を忘れてしまう位に。
 そして、家に帰れば自分を迎えてくれる家族達。
 それでも時々無性に寂しくある時があった。
 次の授業は講師を招き入れての授業だった。
 何故か集中する事が出来なかったテスラは教室の窓から空を眺めていた。
「今日のポケモン講師、お招きした講師はKOF2002UMからオメガ・ルガール先生です。」
「誰を呼んでるんだよ!ポケモン関係無いやんけ!'96のゲーニッツ呼ぶぞ!超反応で闇慟哭やられてしまえ!」
 男子生徒の一人がツッコミを入れる。
 講師の紹介も男子生徒の声も右から左へ流れていくテスラ。
 ふと、頭の中にバイツの笑顔が過る。
「早速ですがルガール先生ポケモンバトルの基礎とは何ですか。」
「昼の光に、夜の闇の深さはわかるまい。」
「京チームに対しての勝利メッセージやんけ!ポケモンバトル関係無いじゃん!」
 その笑顔が浮かぶ度に胸が苦しくなる。
「次に場に出ているポケモンに対して苦手なタイプのポケモンが出てきたらどうすればいいのでしょうか。」
「あきらめは十分に用意したか?人生の旅支度には何よりも重要だよ。」
「エディットチームに対しての勝利メッセージやんけ!もっと気の利いたアドバイスくれよ!」
 テスラの小さな胸の中で動く恋心。
「ポケモンバトルで強くなる為に欠かしてはいけない事は何だと思いますか?」
「明日は、明日こそは、と人は人生を慰めるものだ。」
「これもエディットチームに対しての勝利メッセージやんけ!設定で常にゲージマックスにしてネームレスをチームに入れて回転型突貫奥義・螺旋を連射するぞ!」
 想える事は嬉しい。でも、苦しい。
「ポケモン育成でこれだけは忘れてはいけないという事は何でしょうか。」
「すまないな、今の私は君達を遥かに超越しているのだよ。」
「オロチチームに対しての勝利メッセージやんけ!何か?キャラランク見てみろお前!クリスはマシだけど残りの二人が下位キャラだぞ!?そんな奴等に勝って嬉しいってか!?」
 想いを伝えたくとも今はいない。
「ポケモンを使って悪事を働く事にどういったお考えをお持ちでしょうか。」
「悪こそこの世の本質なのだよ理解したかい?」
「キムチームに対しての勝利メッセージやんけ!講師として来たなら講師らしいこと言えよ!」
 伝えたい想いが涙になって溢れてくる。

673名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:30:10 ID:sv0NcSn2
「ポケモン達と手と手を取り合って生きていく世界には何が必要でしょう。」
「狂ったこの世で狂うなら気は確かなようだな。」
「八神チームに対しての勝利メッセージやんけ!ポケモン達と暮らすこの世界が狂ってるってか!そんな世界にあんたは呼ばれたんだよこの爆破オチ野郎!」
 あの純粋で真っ直ぐな笑顔を思い浮かべると自然に言葉が漏れる。
「バイツ・・・会いたいよぉ・・・」
 零れ落ちる涙が服を濡らしていく。
 涙が止まらない。
 そんなテスラを知ってか知らずかエルフーンがルガールの前に立つ。
 表情は何時もの笑顔だったが青筋を立てていた。
「うっさい。」
 それだけ口にすると「ぼうふう」をルガールに向けて放つ。
「ぐあぁぁぁ・・・!」
 きりもみ回転をしながらルガールが吹っ飛ぶ。
「ゲェーッ!体力満タンならギャラクティカヴァンガードの一フレームヒット即死を耐えるボス性能ルガールを一撃で倒しおった!」
 先程から頑張ってツッコミを入れる男子生徒。
 ルガールが倒れた事を確認するとエルフーンはまた教室の後ろへ行き眠ってしまった。



 ルガールは傷だらけの体で何とか飛行船に辿り着く。
 そして、笑みを浮かべて自爆スイッチを押す。
 爆発と共に崩れていく飛行船。
 それを遠くから双眼鏡で見ている人物がいた。
「トレーナーズスクールに現れたかと思ったらまた自爆かよ・・・懲りねえな。」
 それはヒートだった。
 携帯電話でとある男に連絡を入れる。
「もしもし、ハイデルン長官?ルガールを見つけたんですがまた自爆しました。ハイ・・・ハイ・・・分かりました。じゃ切ります。」
 ヒートは溜め息を吐き、空を見る。
 ルガールを監視している時偶然目に入ったものを思い出した。
 それは泣いているテスラ。
 学校では虐められている様子は無かった。
「・・・ま、バイツの事考えてたんだろうな。」
 独り言ちて自己嫌悪に駆られる。
「何やってんだろうなアイツは。」
 気晴らしに太陽が上がっていない方向を向いて空を双眼鏡で見上げる。
「ん?」
 ヒートが何かを発見する。橙色をしたポケモンだった。低速飛行で飛んでいる。
「あれは・・・確かデオキシスとか言ったな・・・前に格ゲーで俺をハメ殺しした奴じゃねーか。いやあれはノーカンだったけど・・・何処に飛んでいくんだ?」
 何となく気になったヒートはライキを拾ってからデオキシスを追う事にした。



 夕暮れ時。浮かない表情を浮かべながらテスラは帰路についていた。
 一度バイツの事を考えると中々頭から離れない。

674名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:30:41 ID:sv0NcSn2
 フラワーショップに帰ってきた時、店頭に花は残っていなかった。
「あっ!二人共お帰り!」
 店頭を片付けていたミミロップがテスラに気付き声を掛ける。
「ただいまミミロップ。」
 笑顔を無理に作って返事をする。
「何かあっちゃったの?ちょっと暗いよ?」
「ちょっと疲れただけ。後で耳先の毛のお手入れ手伝うね。」
「うん。ありがとー!」
 ミミロップに感情を見抜かれかけたが何とか誤魔化す事が出来た。
「お帰りー!」
 クチートも二人を出迎える。
「ただいまクチート。ほらエルフーンだよ。」
「エルー!」
「クチー!」
 じゃれ合う年の近い二人を見てテスラは家の中へ。
「お帰りなさい。」
 玄関にいたドレディアがテスラに微笑む。
「うん、ただいま。」
 微笑みを返すテスラ。
「お店の方はどうだったの?」
「いつもの通り大盛況でした。ルルはいつも無茶をするからフォローが大変で・・・」
「でも楽しそうな顔をしてるよ?頭の花飾りも何だか鮮やかだし。」
「ふふ、そうですか?」
 ルルのフォローをするのが性に合っているとでも言いたげに楽しそうに笑ってみせるドレディア。
 ドレディアの頭を撫でてテスラは部屋までの道を歩く。
「お帰りなさい。」
「ただいま。ムウマージ。」
 テスラはジッとムウマージの顔を見る。
「どうかしたの?」
「んー・・・ちょっと相談があるの。ムウマージって恋の願いが叶う呪文とか知っていたりする?」
「呪文というよりは呪いの類ね。でもどうしてそんな事訊くのかしら?」
「仲良くなった女の子がね、他のクラスの男の子を好きになってそれでどう告白すればいいのか分からなくて困っているの。」
「両想いにする呪いならある事はあるけど・・・でもこれは本当の愛じゃなくてあくまでも呪いなの。だから・・・」
「予想しない事が起こる事もある・・・って事?」
「そういう事。その女の子、一度相手に自分の言葉で想いを伝えてみたらどう?どんなにちぐはぐな言葉でも想いが本物なら届くわよ。」
「うん、分かった。告白の後押ししてみる。ありがとう、相談に乗ってくれて。」
「いいのよこれ位。お安い御用だわ。」
 ムウマージも役に立てて何処か嬉しそうな表情を浮かべた。
「お帰り。」
「ただいま。タブンネ。」

675名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:31:16 ID:sv0NcSn2
 ムウマージと一旦別れると今度はタブンネに出会う。
 その瞬間テスラはタブンネに抱きついた。
「んー!タブンネ柔らかい!」
「く・・・くすぐったいよ。」
 そう言いながらもタブンネは楽しそうだった。
 しかし、テスラの体に耳の触角が触れた際テスラが押し隠していた気持ちを読み取る。
 それは強い想いとそれにまとわりついて来る悲しみ。
 タブンネに隠している気持ちを読み取られている事など露知らずテスラはタブンネに抱きつき続けている。
 何を隠しているのか尋ねようとしたがタブンネは口には出さなかった。代わりにテスラの悲しみを少しでも紛らわせようとタブンネもテスラに抱きつく。
「いい匂い・・・」
 テスラの小さな胸に顔を埋めるタブンネ。
 少しの間二人はお互いの体の感触を味わっていた。
「もしかして抱きつかれるの嫌?」
 テスラがタブンネの体から離れてそう言った。
「私は嬉しかったよ。それ位想ってくれてるって事だから。」
 タブンネが笑顔を浮かべてそう言うとテスラも笑顔を浮かべた。
 タブンネの感触を楽しんだテスラは次にゾロアークと出会った。
「おや、お帰り。」
「ただいま。ゾロアーク。」
 ふと、テスラはゾロアークの長い髪の毛を触り始めた。
「ど・・・どうしたんだい?急に。」
「ゾロアークって・・・髪質いいよね。何か特別なお手入れとかしてるの?」
「いいや、これといって何にも。テスラだっていい髪してるじゃないのさ。」
 ゾロアークも爪でテスラの長い銀色の髪を撫でる。
「そう?」
「色々な髪型が出来そうだね、ポニーテールなんてどうだい?」
「うーん・・・」
 テスラが考え込むのでゾロアークは付け足した。
「いや、今の髪型が似合ってないって訳じゃないんだよ?あくまでもバリエーションの一つとして・・・」
「ポニーテールは形的にクチートと被っちゃうから。でもお揃いもいいかなーって。」
 テスラの言葉にゾロアークは軽く噴き出した。
「今のままでも十分可愛いさ。無理に変わる事はないんだから。」
「うん。ありがとうゾロアーク。」
 ゾロアークとも別れたテスラは自分とルルの部屋に荷物を置きに向かう。
「あら、お帰り。」
「ただいま。コジョンド。」
 コジョンドを見て何かに気付いたテスラはコジョンドの両手の長い体毛を弄り始めた。
「ど・・・どうしたの?」
 コジョンドが困惑の声を上げた少し後テスラはコジョンドにあるものを見せた。
「花?」
 それは小さな白い花。茎の部分が無かった。
「うん、引っかかってたみたい。」
「お店の手伝いをしていた時に付いたのかしら?」
 テスラは少しその花を眺めた後微笑んでコジョンドの頭に花をつけた。

676名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:31:57 ID:sv0NcSn2
「可愛いよコジョンド。」
 真っ直ぐな笑顔でそう言うテスラ。コジョンドは少し照れ臭そうにしてこう言った。
「私みたいなはねっかえりには似合わないわ・・・貴女が付けるべきじゃない?」
 コジョンドが自分の頭から花を取るとテスラの髪につけた。
「フフ、ほらこれで一段と可愛くなった。」
 今度はコジョンドが笑顔を浮かべる。
「じゃあ私、今度コジョンドがもっと可愛くなるようにルルと一緒に花飾り作ってあげる。」
 テスラの言葉に対して自分はそういうのは似合わないと返そうとしたコジョンド。だがテスラの笑顔を見ている内に断るのが難しくなってくる。
「あら、じゃあこんなはねっかえりをどれだけ可愛く出来るかお手並み拝見させてもらうわ。」
「任せて!」
 張り切ってテスラはコジョンドと別れた。
 居間には誰も居なかった。
 通り過ぎようとした際、台所からユキメノコが姿を現す。
「あらあ、お帰り。」
「ただいま。ユキメノコ。晩御飯の準備?手伝う?」
「ええのよ。お勉強してきて疲れたでしょう?休んでてええよ。」
「でも・・・」
「大丈夫。ウチ頑張るから。」
 ユキメノコを心配そうに見つめるテスラ。そんな彼女を宥めるかの様にユキメノコはこう言った。
「じゃあ今度お料理教えます。そん時皆はんを驚かせる美味しいお料理作りましょ?」
 笑顔でユキメノコがそう言ったのでテスラも笑顔を浮かべる。
「うん。分かった。約束だよ?そういえばサーナイトとアブソルは?」
「サナはんとアブはん?足りんもの買いにちびっと前に出かけたわぁ。でも、すぐに帰ってきます。」
「そう。それならいいよ。ありがとう。」
 テスラは自分とルルの部屋に行く。
 ルルは居なかった。
 この家は広かったが欠点として誰が何処にいるか分かりづらい。
 皆で一緒に暮らしていてもまだ広い。
 家の一部を皆で悩みに悩んでフラワーショップにしてもまだ広かった。
「家の何処かに居るのかな。」
 取り敢えず机の上に荷物を置き、自分とルルの分の布団を敷く。そして、自分の布団の上に倒れ込む。
 目の上に腕を置く。
 暗闇の中浮かび上がるのはバイツの笑顔。
 心臓の音が静寂な部屋の中に響き渡る位大きくなっていく。
 それに少し下半身が疼く。
「バイツ・・・」
 ミニスカートを少し捲りパンツの中に右手を入れる。少し弄ると濡れているのが分かった。
 途端にバイツと会う前の事がフラッシュバックする。
 汚い男共に体を弄ばれていた自分を思い出す。
 テスラは首を横に振った。今は違うという風に。
 右手の動きを少し激しくする。小さな水音がパンツの中に響く。
「まだ・・・まだ足りないよ・・・バイツ・・・」
 左手でシャツを胸元までたくし上げる。
 小さく膨らんだ胸を弄ると乳首がもう反応しているのが分かった。

677名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:32:32 ID:sv0NcSn2
 両方を弄り回しバイツの事を想い快感に体をくねらせる。
「・・・ッ!」
 そろそろ絶頂を迎えそうになった時にふと声が聞こえた。
「テスラ様?帰っているのでしょうか。」
 部屋の戸が開いた。
 そこに立っていたのはサーナイト。
 自慰行為の最中のテスラとばったり目が合う。
「・・・!」
「どうなさいました?」
 それでもサーナイトは驚く事無く微笑み返した。
「ごめんなさい・・・私・・・バイツの事が頭から離れなくて・・・悪い事だとは思っていたけど・・・バイツで・・・」
 涙ぐむテスラ。
 そんな彼女から感じるのは真っ直ぐなバイツへの感情だった。
「テスラ様・・・少しよろしいですか?」
 サーナイトはテスラの唇に自分の唇を重ねた。
 流れてきた映像はバイツの笑顔。そして強い想い。
 唇を離すサーナイト。
「テスラ様・・・これは貴女にとって教育上あまりいい事ではないとは思いますが・・・女の子同士でエッチ・・・しませんか?」
 意外な言葉にテスラは返答に困った。
 しかし、サーナイトが自分の為に言ってくれたと思うと断るのが難しくなってくる。
 少し悩んでテスラは首を縦に振った。
 サーナイトはもう一度今度はゆっくりとテスラと唇を重ねる。優しい感触にテスラも遠慮がちに唇を貪る。
「まずは服を脱いでいただけますか?」
 唇から離れ微笑んでサーナイトが言う。
 テスラはベストとシャツを脱ぐ。サーナイトはミニスカートとパンツを脱がせる。
 色白の綺麗な肌がサーナイトの目に入る。
「あんまり見ないで・・・その・・・恥ずかしいから・・・」
 真っ赤になってテスラが呟く。
 パンツを見てサーナイトが言う。
「これ程濡らして・・・マスターの笑顔だけで?」
 恥ずかしそうにテスラは頷く。
「・・・少し刺激的ですけれども、私とマスターが初めて交わった時の映像をお見せしますね?」
 サーナイトが自分の額をテスラの額に優しく当てる。
 流れ込んでくる映像にテスラは集中した。
 サーナイト主観のその映像ではバイツが上に覆い被さっていた。
 不意にバイツが横に転がり上下が逆転する。
『俺が上だと重いだろ・・・?』
 頭の中に流れた久しぶりのバイツの声にテスラは涙を流す。
『一転攻勢・・・ですね?』
『参ったな・・・』
 二人が繋がっている部分が見えた。
 興奮がさらに高まる。
 サーナイトはテスラのその状態を読み取り、右の小さな乳首に舌を這わせ、左の乳首を手で弄り始めた。
「うあっ・・・!」
 テスラがその感覚に声を漏らす。

678名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:33:16 ID:sv0NcSn2
 彼女の脳内に流れている映像はバイツに突き上げられているシーン。
 左の乳首を責めていた手は何時の間にか濡れている秘部へ。
 ゆっくりとサーナイトの指が濡れているテスラの中へ入っていく。
 軽く出し入れを繰り返すとすぐに絶頂を迎えた。
 涙を流しながら顔を紅潮させ肩で息をしているテスラ。
 サーナイトは手に付いたテスラの愛液を一舐めする。
 余韻に浸っているテスラを見てサーナイトは邪魔してはいけないと思い何も言わないで立ち去ろうとした。
 立ち上がってテスラに背を向けるとローブの裾をテスラが掴んできた。
「はい?」
「サーナイト・・・しゃがんで・・・」
 言葉通りに膝立ちでしゃがむサーナイト。
 まだ息が荒いテスラはサーナイトにキスをした。
「お礼・・・してない・・・」
 唇を離しそう言ったテスラはサーナイトの下半身に手を伸ばす。
「んっ・・・」
 小さな手がサーナイトの秘部を弄る。
「サーナイトも濡れてる・・・」
 微笑みを浮かべるテスラ。
 サーナイトもあの映像を思い浮かべた際に濡れていた。
 たどたどしい手つきだったがサーナイトの感情は昂ぶりを見せていた。
 急にテスラの手の動きが止まった。
「・・・もしかして・・・気持ちよくない?」
「どうしてその様な事・・・」
「私・・・今まで責められる側だったから・・・こっちから責めるのは初めてで・・・」
 自信なさげに俯くテスラ。そんな彼女をサーナイトは抱きしめる。
 温かい抱擁に少し戸惑う。
「続けてください・・・テスラ様。十分気持ちいいですよ。」
「うん・・・」
 再び室内に響く吐息の音と水音。
 サーナイトの中を小さな指が二本で責めたてる。責められていた彼女は吐息と共に微かな声を漏らしていた。
 心臓の鼓動が速くなっていく二人。
「テスラ様・・・?」
「何?サーナイト。」
 サーナイトがテスラを再び抱きしめて唇を重ねる。そして激しく舌を絡め合う。それだけでは終わらず再度テスラの秘部に指を這わせる。
 十分に濡れている事を確認して、先程よりも深めに指を入れる。
 テスラの体が反応する。
 二人の手は互いの愛液まみれ。そんな事は意に介さず二人は責め合う。
 遂に絶頂を迎えるサーナイトとテスラ。
 軽く仰け反り、互いの体を布団に誘導する。
 二人の呼吸は荒く、また秘部もぐっしょりと濡れていた。
 互いに何か言葉を掛けようと相手を見た時、部屋の戸が開く音がした。
「随分仲が良いのね。二人共?」
 ルルが笑みを浮かべてサーナイトとテスラを見ていた。



 室内に響く水音は先程よりも激しかった。

679名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:33:52 ID:sv0NcSn2
 重なっているサーナイトとテスラ。
 サーナイトが下、テスラが上。二人は両脚を広げて腰を動かし互いの秘部を繋げている双頭ディルドを味わっていた。
「アッ・・・ハァ・・・テスラ様・・・!あまり動かさないで・・・アアッ!」
 ローブを脱ぎ裸になったサーナイトが激しくその身を仰け反らせる。
「バイツ・・・!もっと・・・もっと奥まで突いて!」
 テスラはそれをバイツのモノだと思いながら小さな膣内を一杯にし、乱れている。
「二人共激しいねー」
 ルルが愛液とローションまみれになっている双頭ディルドと二人を順々に見ながら口を開いた。彼女も裸になっている。
「次は別々のサイズ試してみる?」
 そう言った彼女の足元には様々なアダルトグッズが置かれていた。
 二人の表情が目に入ったルル。涙目になりながら、口から流れ出す涎を気にせずに快楽を求め続けている。
「ヤバい・・・二人共超可愛い・・・」
 ふと、自分が変な性癖を持っているのではないかと疑ったルル。
 変な事を考えかけ頭を横に二、三度振る。
 少なくとも今はバイツの代わりに振る舞おうと考えていた。
 いつかどこかで誰かのこういう事の手助けをしなければ我慢を重ねて心を潰しかねない。
 それにあの人の事だ、求められれば応じてしまうだろう。とルルは思っていた。
 その上今は丁度女の子達だけで暮らしている。こういう道具を揃えておけばいつか役に立つ。
 現に今こうやって使っている。
 余計な事かもしれないがルルはこういう事でも家族を助けたかった。
 サーナイトとテスラの動きが一際激しくなり止まる。二人共同時に果ててしまった様だった。
「ねえ・・・二人共・・・抜くよ?」
 ルルは二人を繋いでいる双頭ディルドをゆっくりと二人の膣内から抜いていく。
ディルドが抜けた後の二人の秘部は愛液で濡れて桃色の部分を見せていた。
サーナイトの上にいたテスラは力尽きたかのようにサーナイトの隣に倒れ込んだ。
「どうかな二人共、満足した?」
ルルは笑みを浮かべながらそう言った。
「・・・は・・・はい・・・」
 息も絶え絶えにサーナイトが返事を返す。
「ルル様・・・」
「どうしたの?サーナイト。」
「どうして無理をなさるのですか・・・?」
ルルは一瞬言葉を失った。
「私とテスラ様を慰めてくれた事には感謝しています・・・ですがそれはマスターの様に振る舞おうとしての行動ですね?」
何も言い返せなかったルル。
「・・・大丈夫です。」
サーナイトが優しい声で言う。
「ルル様が無理をなさらなくとも・・・」
「でもそれじゃ・・・!」
言葉が続けられなかった。
「ルル・・・」

680名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:34:26 ID:sv0NcSn2
テスラがルルを見ながら口を開く。
「大丈夫だよ・・・それにルルも我慢しなくていいから・・・」
テスラは体を起こしてルルに近付く、そして唇を重ねる。
「・・・!」
ルルは顔を紅くし目を見開いた。
テスラの手がゆっくりとルルの秘部へと近付いていく。
割れ目の部分を軽くなぞるとルルの体が反応する。
「ルルも・・・濡れてたね。」
テスラの言葉にルルは更に顔を紅くした。
「今度は私達がルル様を満たして差し上げます。」
サーナイトもルルに近付く。
「丁度色々な道具もある事ですし・・・」
「ま・・・待って、二人共!」
ルルが迫ってくる二人を止める。
「その・・・嫌って訳じゃ無いんだけど・・・前の穴は止めてね・・・私・・・その・・・処女だから・・・」
ルルは俯きながら言葉を続ける。
「二人の初めてが望まない相手だったって事は知ってる・・・でも気を悪くしないでね・・・私の初めてはバイツさんにあげたいの・・・」
 サーナイトとテスラは意外な事に微笑みを浮かべた。
「そのお気持ち十分理解できます。大丈夫ですよ、そういう事が普通ですから。」
「ルル・・・可愛いね。私も応援する。」
 テスラの頭にふと疑問が浮かんだ。
「じゃあルル・・・今までどうやって自分を慰めてたの?」
 これ以上ない位にルルが顔を紅くして口を開いた。
「お・・・お尻の穴で・・・み・・・皆にバレない様に・・・」
「じゃあお尻の穴で気持ちよくしてあげるね。」
「待ってテスラ!さっきトイレに行ってきたけどお尻を洗った訳じゃないし・・・」
「大丈夫ですルル様、四つん這いになってお尻を突き出していただけますか?」
 ルルは顔を真っ赤にしたままサーナイトの言う通りに四つん這いになり形のいい尻を突き出した。
 露わになった肛門にサーナイトが指を当てる。
「ひゃっ・・・!何するの?サーナイト。」
「サイコパワーで残っているお尻の中身を奥の方へ戻すだけですよ。」
 少しすると腹部が微かな音を立てて動いた音がした。
「これで綺麗になりましたよ。」
 サーナイトが指を離しながら微笑み言う。
 それと入れ替わる様にテスラがルルの肛門に舌を這わせる。
「ちょ・・・ちょっと!?」
 唾液を十分に纏わせた舌は肛内へと入っていく。
「・・・!」
 指やアダルトグッズとは違う新しい感覚。
 様々な動き方をするテスラの舌がもたらす快楽に息を荒くし涙目になりながら布団のシーツを掴む。
 それからそれが何分続いたかは分からない。
 ただ一つ言える事はテスラが舌を抜き終わった時、ルルは絶頂を迎える一歩前だったという事だった。
「ルルのお尻の穴、ひくひくしてる。」
 楽しそうにテスラは笑みを浮かべる。そして、細いディルドを手に取るとルルの肛門にあてがう。

681名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:34:59 ID:sv0NcSn2
 ゆっくりとディルドを挿入していく。
 深く入っていく程にルルは体をビクリと反応させる。
「テスラ様?ルル様は絶頂を迎えたいようですよ?」
「分かった・・・気持ちよくなってね・・・ルル。」
 ディルドの残りの部分を一気に入れるテスラ。大きくルルは体を仰け反らせディルドを挿したまま倒れた。秘部を多量の愛液で濡らして。
 テスラがディルドを抜く時も軽くルルは絶頂を迎えた。
 息を荒くしたまま倒れ込むルルの隣でテスラも横になった。更にテスラの横でサーナイトも横になる。
 テスラは満足そうに二人に挟まれていた。
「ルル様、テスラ様。」
 サーナイトが柔らかい笑みを浮かべながら口を開く。
「もしもまた感情を抑えられなくなったら・・・私に言ってください。その時はどの様な要求にでも・・・」
「サーナイト、そんな事言わないで。こういう事がまたあったとしたも一緒に気持ちよく・・・ね?」
 ルルがサーナイトの頬に手を添え微笑む。
「はい。」
 サーナイトは静かに頷いた。
 そんな三人を部屋の外からこっそり覗いている影が二つあった。ムウマージとアブソルだった。
 聞こえない様に小声で話し合っている。
「サーナも損な役回りね・・・多分、そういう事になったら一人で私達を満足させる気でいるのよ・・・」
「・・・サナらしいと言ったらサナらしいな。」
「私・・・サーナの重荷になりたくないの・・・だから・・・」
「求める訳にはいかない・・・か?」
「そうね・・・」
「お前も損な役回りだなムウ。」
 悲しげな微笑みをアブソルに返すムウマージ。
 二人は感付かれない様にその場を後にした。
 空を焼いている様な紅い夕焼けの光は徐々に夜の暗闇に変わっていった。



 とある建物の一つの部屋。
 その建物に出入りする人間達はその部屋をスタジオと呼んでいた。
 スタジオ内には一体の雌ポケモンと十人程の男達。その内の半数は裸だった。
 様々な撮影機材と照明道具その先にいたポケモン、ラランテスは両腕を縛り吊るされ怯えながら男達を見回していた。
 男達はその反対にラランテスを笑いながら見ていた。
 そして「撮影」が始まる。
 裸になっている男達が興奮しながら陰部を勃起させラランテスに近付く。
「い・・・嫌・・・」
 ラランテスが涙目になりながら男達を拒もうとする。だがそれは男達をより一層興奮させるだけであった。
 男の一人がラランテスの両脚を広げ秘部を確認する。
 一際醜く笑うとラランテスの秘部を濡らす事無くいきり立った陰部をいきなり挿入した。
「・・・っあ・・・!・・・ああ・・・!」
 結合部から少量の血が流れる。
 無理矢理広げられた膣口、声にならない声、全身を貫く様な痛み、痛みからとめどなく流れ出る涙。
 そんなラランテスを無視し男はラランテスの「初めて」を堪能する。

682名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:35:41 ID:sv0NcSn2
 そして無理矢理深く突き上げて射精。
 その後は入れ替わりに男達がラランテスを堪能する。
 彼女にとっては地獄のような時間だった。いや、地獄そのものだった。
「そろそろ後ろの穴も開発しましょうか。」
 男の一人が言った。
 用意されたのはローションと男達の陰部と変わらない大きさのディルド。
 ラランテスの肛門にローションを垂らす。
 ディルドにもローションを塗り先端をラランテスの肛門に当てる。
「や・・・止めて・・・止めてください・・・」
 懇願するラランテス。
「尻の穴の初めてを堪能するのもいいんだがなぁ。」
「たまんねえよな、キツイ中を無理矢理こじ開けていく感じがよ。」
 笑いながら男達は言う。
 そして、笑いながらラランテスの肛門の中にディルドを勢いよく深く突っ込んだ。
 先程とは比較にならない痛み。
 裂けはしなかったがそれでも段階を踏まずにいきなり異物を挿入されて激痛を感じない訳が無かった。
 痙攣するラランテスの体。
 意識が飛びそうになりながらも男達の笑い声は聞こえていた。
「助け・・・て・・・」
 弱々しく呟き止まる事の無い涙を流す。
 その時、スタジオの入り口のドアが大きな音と共に吹っ飛んだ。
 全員がその方向を向く。意識が飛びかけていたラランテスも音のした方を向く。
 そこから入ってきたのはバイツ。
 最初は男達に鋭い視線と敵意を向けるだけであったが、両腕を縛り吊らされているラランテスを見るとそれは殺気に変わった。
「・・・潰す!」
「け・・・警備班に連絡を・・・!」
 男の一人が震えながら言う。
「警備班?少し遊んだらすぐ壊れたあの連中の事か?」
 バイツの姿が消える。
 それからほぼ時差を置かずに男達の体が弾け飛んだ。
 血、折れた歯、胃液。
 色々と撒き散らし倒れていく男達。
 バイツの視線がラランテスに向けられる。
「あ・・・ああ・・・」
 怯えるラランテス。
 彼女に近付くバイツ。
「大丈夫か?」
 しゃがんで右手をラランテスに近付けるとラランテスは震え始めた。
 そして、膣内から破瓜の血と共に流れ出す精液を見たバイツ。
「・・・済まない。こんな事されて・・・怖かったよな・・・痛かったよな・・・」
 悲しみを帯びた優しい目がラランテスに向けられた。
 ラランテスはその目を見て警戒心を緩める。
「今・・・両手の縄を解くから・・・」
 両手を縛っていた縄を解きラランテスを自由にしたバイツ。

683名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:36:12 ID:sv0NcSn2
「助けるのが遅れてゴメンな・・・」
 ラランテスは感じた、この人間は本心から謝っていると。
 それで完全に警戒心を解いたラランテスはバイツの胸にその身を預けた。
 バイツもラランテスを抱きしめる。
 その時バイツは気付かなかったがラランテスは顔を紅くしていた。
「あの・・・」
「どうした?」
「お願いがあるんですけど・・・いいですか?」
「何だ?」
「お尻に刺さっているこれを抜いてくれますか・・・?」
「ああ・・・」
 バイツはラランテスを膝立ちにさせ抱きしめながら彼女の肛門に挿入されているディルドに手を掛けた。
「なるべく力を抜いていてくれ。」
「はい・・・」
 徐々にバイツが肛門からディルドを抜いていく。
 痛いのかラランテスは体を時々震わせるがその度にバイツは抱きしめる力を少し強くする。
 お陰でラランテスは声を上げる事無く痛みを我慢する事が出来た。
 ここで妙な事が起こった。ラランテスの脳がこの行為をバイツとの性行為だと認識し始めた。
 痛みが快楽に変わっていくのにも時間は掛からなかった。
 快楽からか体が小刻みに震えはじめる。
 その時、ディルドが全て出てきた。
 絶頂まで後一歩という所で行為が終わったのでラランテスは少し残念に思った。
「悪いがもう少しだけ我慢してくれるか?」
 そう言った後何を思ったのかバイツはラランテスの肛門に指を入れて弄り始めた。
 ビクンと体を反応させるラランテス。
「ん・・・っ・・・」
 微かに甘い声が漏れる。
 弄っているのはそう長い時間では無かったがバイツが指を抜いた瞬間ラランテスは絶頂を迎えた。
「よし、出血は見られないな、少なくとも裂傷は無いか・・・ん?どうした?」
 肛門内に傷が無いか触診してみたバイツ。手に巻きついている包帯の指先には少量のローションとラランテスの腸液しか付着していなかった。
「な・・・何でも・・・ありません・・・」
 ラランテスもこれで絶頂を迎えたと思われない様に普通通りに振る舞おうとする。好意を持った異性にはしたないと思われたくなかった。
「ここから出よう、立てるか?」
「は・・・はい・・・」
 震える足で立ち上がるラランテス。しかし、力が入らずすぐにバランスを崩して倒れそうになる。そこをバイツが寸前で抱きかかえる。
「ごめんなさい・・・」
「いいさ。」
 バイツはラランテスをお姫様抱っこするとスタジオを後にした。
 それと入れ替わる様に警官隊が入ってきて男達を逮捕する為駆け寄った。そして、息を呑む。
 男達は辛うじて生きている状態だった。まるで人間以外の何かに襲われたような怪我。
 出血はもちろんの事。下顎は砕け、肋骨は殆どが折れ、手足に関節部分が一つ増え、と全員が重傷を負っていた。

684名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:36:56 ID:sv0NcSn2
 今出て行ったポケモン虐待防止委員会の少年が一人でここまでしたのかと思うと凄惨な現場に慣れているはずの警官隊でも背筋に冷たいものが走った。



 ラランテスをお姫様抱っこしながら建物の出口まで歩くバイツ。
 外は既に黄昏時、建物の所々に明かりがついていた。
 バイツとラランテスの隣を警官や救急隊が通り抜けていく。
 ラランテスはバイツの顔を見上げていた。
「んー?どうした?」
 バイツはラランテスが自分の顔に視線を向けている事に気付き、声を掛ける。
 その優しい微笑みにラランテスは顔を紅くしバイツの顔から少し顔を逸らす。
「あの・・・お名前を聞いてもいいですか?」
「ああ、俺はバイツ。」
「私はラランテスっていいます。」
「ラランテス・・・ね・・・確か進化前はカリキリでアローラ地方に生息しているんだったな?」
 そこそこポケモンの生息地域には詳しいバイツ。
「ここはアローラじゃない・・・言いたくなければ言わなくていいが、どうやってここへ?」
「捕まった後無理矢理戦わされて進化して・・・売られたんです。売られたというのは少し前にここにいた人達がそう話しているのが聞こえました。」
 バイツの心の中でこの組織の連中に対し純粋な怒りの炎ではなく殺意をはらんだ憎悪の炎が燃え広がる。
「・・・バイツさんはこの地方に住んでいる人ですか?」
 ラランテスの声で意識を目の前の事に戻すバイツ。
「いいや、俺もこの地方に住んでる訳じゃない。」
 バイツは自分が住んでいた地方と街の名前を口にする。
「色々あってここの地方に来てな、やる事やったらすぐに帰る予定だ。」
「やる事?何ですか?」
「ラランテスに乱暴していた連中の組織潰し。」
「ひ・・・一人でですか!?」
「一人じゃない、警察のバックアップもある。」
「でもさっき私を助けてくれた時は一人で・・・!」
「殆ど人間じゃないからな・・・俺・・・」
 ラランテスをゆっくりと床に降ろし、バイツは両手のオープンフィンガーグローブを外し、両手が見える様に包帯を解く。
 現れたのは紅い右手と黒い左手。
 ラランテスはバイツの両手をジッと見ていた。
 包帯を手早く適当に巻き直しオープンフィンガーグローブを填める。
「・・・怖かったか?この両手には人間を遥かに超えた力があるんだ。」
 再度ラランテスをお姫様抱っこしながらバイツは言った。
「いいえ・・・でも納得しました。バイツさんがあんなに強い理由。」
「そうか・・・っと、そろそろ出口だ。」
 ラランテスは残念に思った。もう少しこうしていたかった。出来る事ならばずっと。
 そして言い出せない事もあった。
 あなたのポケモンにしてほしい。
 だが、言い出すのが怖かった。
 手持ちが一杯だと言われたら。そもそもポケモンがいらないと言われたら。
 複雑に揺れ動くラランテスの心。

685名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:37:48 ID:sv0NcSn2
 そして、二人は先程より暗くなった外に出た。
 風が少し冷たい。
「バイツ、こっちよ。」
 キョウカの声が聞こえた。
 バイツはラランテスと共にキョウカの近くに行った。
「その子は?」
「・・・あいつらに乱暴されていた。」
「分かった。あの車の近くにいる職員に引き渡して。検査しながら支部まで送るわ。」
 バイツはラランテスを立たせて委員会の人間に託した。
 ラランテスは救急車によく似た車に乗せられる際にバイツに視線を移した。
 バイツもまたラランテスに視線を移した。
 二人はとても悲しい目をしていた。
 バイツが無理に笑顔を作る。
「またな、ラランテス。」
 さようなら。ではなく、またな。と言ったバイツ。
「はい。」
 ラランテスもその気遣いに涙を流しながら笑みを浮かべた。
 そして職員に車に乗せられ、車は発進した。
 車が見えなくなると同時にモウキがバイツに駆け寄ってくる。
「おいバイツ、もうちょい加減できなかったのか?大体の奴が話を聞くどころの状態じゃねえ。」
「加減?十分にしたつもりだが?それに全員生きているんだろ?俺は指示を守った。」
「だが・・・」
「いいんじゃないかしら刑事さん。バイツを使うって事はそういう事なのよ。」
 キョウカが話している二人に近付く。
「さ、これでここの仕事はお終い。新しい情報も入ってこないしこの後皆で飲みに行かない?」
「まあ、俺は構わねえが?」
 モウキも賛成する。
「分かった、付き合うよ。」
 断っても無駄だろうと思ったバイツも参加する事にした。
 本当は他に捕らわれているであろうポケモン達を解放したいところだったが情報が無くその上見知らぬ土地である。
 情報が入るまで大人しくしているのも一つだと思った。
 その心に灯った憎悪の炎を燃やしながら。



 飲みに行く事になったもののキョウカとモウキはもう少しやる事が出来たらしく二人の事が済むまで少し時間が空いたバイツ。
 仮住まいの安ホテルの一室に戻ったバイツはシャワーを浴びる事に。
 服を脱いで両手のオープンフィンガーグローブと包帯を外し浴室へ。
 その際洗面台の鏡に視線を移す。
 自分の顔が目に入る。
「うーん・・・短時間でこの回復力・・・」
 イーブイ達に散々搾り取られて枯れていた筈なのに今は普通の顔に戻っている。
 次に漆黒の体が目に入る。
 それに関しては自嘲的な笑いを浮かべるだけで何も言わなかった。

686名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:38:31 ID:sv0NcSn2
 手早くシャワーを浴び、浴室から出て体を拭きパンツとズボンを穿き両腕に新しい包帯を巻く。そしてオープンフィンガーグローブを填め、上半身に服を着る。
 そこで、丁度ノックの音がバイツの耳に入る。
 ドアを開けるとそこにはキョウカ、ガーディ、トウマ、モウキが立っていた。
「あら、お風呂上り?」
 バイツの濡れている髪を見てキョウカが言った。
「まあ、そんなところ。」
「じゃあ早く行きましょ。」
「あ、もう少し待ってくれ。」
「何?髪を乾かすの?」
「違う違う。俺が渡り歩いてきた異世界の金貨があるんだ。それを質屋で換金してもらおうと思って。何せ今この世界の手持ちが無いからな。」
「バイツ・・・お前さん、身分証明書は?」
 モウキが訊くがバイツは意地の悪い笑みを浮かべてこう返した。
「モウキさんの警察手帳がある・・・まあ警察のお墨付きって訳だ。」
 モウキは呆れた様に溜め息を吐いた。



 ラランテスは車に揺られながら顔を紅くしぼんやりとしていた。
 考えているのはバイツの事。
 向けられた悲しく、そして優しい笑顔を思い出す度に頭の中でそれ以外考えられなくなる。
 そして溜め息。
 気持ちを伝えるべきだったのだろうかと今更後悔し始める。
 車が停まった。
「さあ降りて。大丈夫、ここで検査して回復させたらアローラ地方に戻れるから。」
 一緒に乗っていた女性職員にそう言われてラランテスは頷いた。
 そして心が沈む。アローラ地方に戻されればバイツと会えなくなる。
 泣きそうになるのを何とか堪えながらラランテスは車を降りた。
 どうやら建物の駐車場らしく何台もの車が停まっていた。
 女性職員に促され建物へのドアに向かう。
「バイツさん・・・さようなら・・・でしょうか・・・」
 誰にも聞こえない様に呟くラランテス。
 その時そのドアが爆発した。
「え・・・?」
 ラランテスは驚き思考が一瞬停止した。
 煙の中から九つの影が飛び出してきた。
「ケホッ・・・ちょっとブースター!少し派手じゃないの!?」
 リーフィアが少し咳き込みながら言う。
「いいじゃねえかリーフィア、ここまで来てまた捕まりたくねえだろ?」
 ブースターは自分が吹っ飛ばしたドアに視線を向けながら軽く口から火を噴く。
「私の「サイコキネシス」でも同じ事が出来ましたわよ?」
 エーフィは笑みを浮かべる。
「どうでもいいわ、早く抜けましょう。」
 シャワーズが辺りを見回す。

687名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:39:04 ID:sv0NcSn2
 その視界にラランテスと数人の職員が目に入る。
「あらぁー・・・先回りされていたみたいですねぇ。」
 グレイシアが危機感無くのほほんと言う。
 しかし、それは予想していた事だったのでのほほんと出来る余裕があった。
「だったら倒すまで・・・ボク達は旦那様の元へ向かう・・・」
 ブラッキーが周囲の職員に敵意を向ける。
 職員達も只事ではないと思い腰のモンスターボールに手を掛ける。
「キャハハハ!この程度なら何の問題も無いよ!」
 サンダースは体の周りに電気を軽く放つ。
「ですが、一々戦うのは面倒なので・・・」
 ニンフィアがリボンの様な触角を伸ばす。そして、それをラランテスに巻きつける。
「人質ではなくポケ質というのはどうでしょうか?」
 職員達が次の行動を決めかねている間にイーブイが叫んだ。
「さあ道をあけてよ!ニンゲン!そこを通して!」
 イーブイの言葉通りに道をあける職員達。イーブイはラランテスの近くに寄った際に小声でこう言った。
「大丈夫。大人しくしていれば危害は加えないから。」
 ラランテスを引き連れたイーブイ達はポケモン虐待防止委員会の建物から脱出する事に成功した。



 イーブイ達がラランテスを連れて逃げたのは近くの森。
 暗闇が支配する森の中で月の光が差し込む開けた場所に出る。
「ここで少しは時間を稼げるでしょう。」
 ニンフィアがラランテスの拘束を解く。
「巻き込んでしまってごめんなさい。でもあなたはもう自由です。ニンゲンの所に戻ってもいいですよ。」
 意外と簡単に解放されたラランテスだったが誰かの手持ちだと誤解されていた。
「ええと・・・私、あの人達のポケモンじゃないんです。その・・・悪い人達に捕まって乱暴されたところを助けてもらったんです。」
 簡潔にあの場にいた理由を話すラランテス。
 その言葉にエーフィが同情に似た視線を送る。
「大変でしたわね・・・私達もニンゲン共の汚い手から助けてもらった身ですの。」
 リーフィアが言葉を続ける。
「助けてくれたのもニンゲンなんだけど・・・旦那様は少し・・・ううん、結構変わった・・・存在なの。」
 シャワーズも大切な思い出を語るかのように口を開く。
「少ししか傍に居れなかったのだけれど、ニンゲンのした事に本気で謝ってそれで汚された私達を慰めてくれたわ。私達の無茶なお願いも聞いてくれて・・・」
 グレイシアもその時の事を思い出しフッと微笑み、のほほんとした姿勢を崩さないで言う。
「私達はそんな旦那様に一目惚れしたんですぅ。あれほど優しい目を向けてもらったのは初めてでしたからぁ。」
 サンダースは興奮気味に言う。
「キャハハハ!それで物凄く強いの!ポケモンを使わないでアイツ等を倒したの!包帯を巻いている両手で!」
 両手に包帯という言葉を聞いたラランテスの脳内に一人の人間の姿が浮かぶ。
「もしかして・・・バイツさんっていう人では・・・?長い髪の男の人で・・・」
 ブラッキーはラランテスの発言に驚く。
「キミ・・・どうしてその名前を・・・?他のニンゲンは旦那様をそう呼んでいた・・・まさかキミを助けたのも・・・」
「そうです。私もバイツさんに助けてもらったんです。恩返しをしたいとは思っているんですけど・・・」

688名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:39:45 ID:sv0NcSn2
 ブースターがニヤリと笑った。
「だったらあたし達と一緒に来るか?ニンゲン達の目を掻い潜って旦那様に会おうって思ってんだけどよ。」
 ラランテスの表情が明るくなる。
「い・・・いいんですか!?」
 イーブイはラランテスの明るくなったその表情からバイツに抱いている感情を悟った。ほぼ勘だったが。
「私達もあんたも旦那様に単純じゃない感情を抱いてるって事。だったら行き先は一緒。違う?」
 イーブイ達はラランテスに微笑む。
 ラランテスもまたイーブイ達に微笑みを返した。
「では皆さん。よろしくお願いします。」
 それから、少し遅れて自己紹介を行った。
 次にどの様にバイツを探すのかという話になった。
「バイツさんはここの地方の人じゃないって言ってましたよ?ここでやる事をやったらすぐに帰る予定だとも言ってましたけど。」
 ラランテスのその言葉にブラッキーは困惑の表情を浮かべた。
「困ったなぁ・・・他に何か言ってなかった・・・?」
 ラランテスはバイツの言っていた地方と街の名前を言った。
「でしたら、これを持ってきて正解でしたね。」
 ニンフィアが何処からか地図を取り出した。
「何処から持ってきましたの?」
 エーフィが訊く。
「役に立つと思ってあの建物から逃げる際に頂いてきました。ブースターちゃん、灯りをくれますか?」
「ああ。」
 ブースターは小さな炎を吐きそれを空中に停滞させる。
 ニンフィアは地図を置いて広げる。
「ええと・・・私達がいるのはこの地方ですから・・・」
 リボンの様な触角で地図上をなぞる。
「よくニンゲンの文字が読めますねぇ、ニンフィアさん。」
 グレイシアがそう言うと少し苦い表情を浮かべるニンフィア。
「私、ニンゲン達に無理矢理叩き込まれたんです。私には台本というのが用意されていたみたいで・・・「撮影」中はその台本の通りに喋る様に言われていて・・・」
「だから時々ニンゲン達に一人で連れていかれたんですねぇ・・・ごめんなさい、余計な事でしたぁ・・・」
 落ち込むグレイシアにニンフィアは微笑む。
「いいんですよグレイシアちゃん。今になってこんな形で役に立つとは思いませんでしたが・・・あ!ここです!」
 目的の地方と街の名前を見つけたニンフィア。
 全員が地図を覗き込む。
 ニンフィアが差した場所まではそこそこ距離があったが陸地続きというのが幸いだった。
「目的地は決まったわね。でも少し休みましょう?私達を追ってきているニンゲンがいるとして鉢合わせした時に戦う力を残しておかないと。」
 シャワーズの言葉に反対意見は無かった。
 彼女達は少し休憩を取ってから動く事にした。
 その脳裏にバイツの静かな優しい笑顔を思い浮かべながら。



 所変わって、質屋の中。
「バージルとかいう奴には参ったね。間合い関係無しに居合で空間ごと斬り裂いて来るんだからさ。右腕の力を二パーセントから十パーセント程に引き上げなければ膾斬りにされてた。」

689名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:40:23 ID:sv0NcSn2
 バイツが持っていた金貨を鑑定してもらっている間、渡り歩いてきた世界の事をトウマとモウキに話していた。キョウカはガーディと共に店の外で待っていた。
「この世界にもバージルという青年がいますよ。」
「え・・・?」
「ポケモンレスキュー隊をやっています。確か・・・チーム・イーブイとか言っていましたね。」
「じゃあアレか・・・閻魔刀とかいう父親の形見の刀は使わない。邪魔する者は容赦無く斬り捨てない。ダンテェ・・・とか言わない。ネロとかいう子供がいない。」
「そうですね。寧ろそんなポケモンレスキュー隊がいたら怖いですよ。」
「お前等相当危ない話しをしてるって事分かってんのか?」
 モウキが相当怪訝そうな表情を浮かべてバイツとトウマに苦言する。
「私が話していたのはポケモンレスキュー隊の方のバージルです。」
「ハハハ、悪役は俺一人か。悪魔と踊ろう。」
 バイツが乾いた笑い声を上げる。
「それは2のキャッチコピーですよバイツ君。」
 それから少しした後にバイツ達は質屋から出てきた。
 バイツの持ち込んだ金貨はかなりの額になった様だった。
「幾らでも入る都合のいい財布って便利。」
 そう言ってバイツはキョウカに視線を向けながら歩いていた。
 キョウカはスマートフォンで誰かと会話をしていた。
「何ですって・・・?分かったわ、今すぐ警察と連携して捜索を開始して。」
 真面目な表情のキョウカに三人はすぐに気付く。
 三人に気付いたキョウカはたった今入った報告をバイツに言うべきか迷ったが、隠し立てしていても面倒な事になるだけなので包み隠さずに言う事にした。
「バイツ、イーブイ達が逃げたわ。さっき助けたラランテスを連れていかれた。」
 バイツは一転表情を変え、真面目な表情になる。
「まさか、捜しに行く訳じゃないでしょうね。」
「そのまさかさ、キョウカさん。」
「待ちなさいバイツ。あんたここの土地勘なんて無いでしょ?あんたまで迷子になる気?職員や警官達に捜索に当たらせたわ。」
「だがイーブイ達は・・・!」
「たまには委員会や警察の力を信じたらどう?・・・見つけたらあんたにちゃんと会わせるわ。」
 それでもバイツは納得のいかない苦しい表情を浮かべていた。
「さあ、これでこの話はお終い。さあ「飲み」に行きましょ。言っておくけどバイツ。あんたの力も借りなきゃいけないわよ。」
 キョウカの謎の言葉にバイツとモウキは怪訝そうな表情を浮かべて互いを見合わせた。
 歩き始めるキョウカとガーディ。その後ろをトウマがついていく。更に少し遅れてバイツとモウキもついていく。
 歩きながらモウキは口を開いた。
「バイツ・・・お前さんが保護したポケモン達がどっかに行って心配なのは分かるが―――」
「いや、いいんだモウキさん。イーブイ達はラランテスに酷い扱いはしないよ。それにまた会える気がするんだ。だから今は目の前の事に集中するべきだと思ってね。」
 それは未だに自分にそう無理矢理言い聞かせているバイツの言葉だった。
 モウキはそれを察してか何もバイツに言わなかった。
 十数分程歩いた所で目的の店に着いた一行。

690名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:41:12 ID:sv0NcSn2
 その店は色々な地方にチェーン展開している店だった。
 ここでまたもやバイツとモウキが怪訝そうな表情を浮かべる。
「おいお嬢。この店は・・・」
「そう、悪党のたまり場ってよく言われる店ね。」
 トウマはバイツに声を掛ける。
「どうかしましたか?」
「いいや・・・」
 それだけ言った後にバイツは誰にも聞こえない様にこっそりと呟いた。
「俺の「権限」はまだ生きているかな・・・」
 キョウカを先頭にその店の中に入る。
 店内のテーブル席はガラの悪い連中が安酒で酔っ払い盛り上がっていたが、普段見る客とは違う毛並みの客のキョウカを見ると全員が彼女に注目した。
 キョウカの後ろをガーディ、トウマ、バイツ、モウキの順番についていく。
 バイツは眉を顰めながら周りを見渡す。
「俺と同類の臭いがする・・・嫌になるな。」
「自分を卑下しない方がいいですよバイツ君。」
 トウマにそう言われたもののバイツは顰めた眉を元に戻そうとしなかった。
 カウンター席の椅子が四つ空いていたので先頭を歩いていたキョウカが空いている右端の椅子に座った。そして順々に椅子に座っていく。
「ガーディ。俺の膝の上に座るか?」
「うん!座る!座る!」
 バイツの誘いにガーディは断る様子など微塵も無かった。バイツの膝上に飛び乗るとバイツに背を向けて背筋を伸ばして座った。横に振られているガーディの尻尾がバイツの体に当たる。
 様々な色の酒瓶を並べている棚を背にして立っている中年で細身のバーテンダーはグラスを拭いていた。キョウカに一瞬視線を移したがまたグラスを拭く作業に戻った。
 一見の客はあまり歓迎していない様だった。
「ねえバーテンダーさん。私達は人を待っているんだけど見ていないかしら?丸眼鏡を掛けて・・・」
 バイツとモウキはまたまた怪訝そうな表情を浮かべた。それを察したトウマは二人にこう告げた。
「情報屋に会う予定でしてね。今回私達が関わっている事件の組織の情報を売ってくれる手筈になっているのですが・・・」
 そこまでトウマが口にした時バーテンダーが「何か」をカウンターの上に置いた。
 それは割れて血のこびり付いた丸眼鏡。キョウカとモウキはそれを見てバーテンダーに視線を向けた。
「あんた等が何者で何処の者だかは知らないがとんでもない奴等を相手にしている。俺が言えるのはここまでだ。何も飲まないなら帰りな・・・命がある内に。」
 バーテンダーが手を丁寧に洗ってバイツ達に背を向ける。
「同じ・・・血の臭いがする・・・その眼鏡と・・・」
 ガーディが声を抑えて言ったのでバイツも声を抑えてガーディに訊く。
「何処から?」
「お店の・・・奥・・・」
 バイツはガーディの不安を拭い去るかのように優しく頭を撫でるとバーテンダーに声を掛けた。
「あー・・・バーテンダーさん。六番目と二番目と三番目の棚にある酒でAかCで始まる名前の酒を試飲したい、それからCで始まる酒を出すなら六番目の棚の酒でBかDで始まる名前の酒も試飲したい。その際に酒の名前を後ろから三文字だけ教えて欲しい。」
 バイツの言葉にキョウカ、ガーディ、トウマ、モウキは訳が分からないと言った様に首を傾げた。
 しかし、バーテンダーはその注文の意味をすぐに理解した。そして驚きの表情を浮かべる。
「まさか・・・いや、ライキからの情報ではお前さんは半年ほど前から行方不明の筈じゃ・・・しかし・・・黒い長髪・・・右手に包帯・・・」

691名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:41:53 ID:sv0NcSn2
「色々あって左手にも包帯を巻いてるけどな。っていうか「権限」はまだ生きていたんだな。」
「半年程度では消失しない。」
 バイツとバーテンダーのやり取りにキョウカは口を挟んだ。
「バイツ。説明。」
「えーっと・・・何て言えばいいのかな。このチェーン展開されている店はもう一つ顔があって・・・あー・・・情報交換場所で・・・店が手に入れた情報は店同士で一瞬で共有される。そしてその情報は一部の「権限」を持った客にしか販売しない。まあそんなところか。」
 色々と省いてバイツは簡単な説明をした。
「お前さんが見つかった事をライキやヒートに教えておこうか?」
 その言葉にバイツは内心驚いた。
「あの二人生きてるのか?」
「生きてる?どういう事?バイツ。」
 キョウカがバイツの発言に興味を持つ。
「あの二人は俺達を逃がす為にある奴と戦ってね。それっきり音沙汰も無い上そのある奴が無傷で俺達の前にまた現れたからあの二人はくたばったんじゃないか・・・と、思って。」
「ふーん・・・」
 それだけ言ってキョウカはこれ以上何も聞こうとしなかった。
「伝えようか?ライキから金をふんだくれるチャンスなんだ。」
 バーテンダーはキョウカと話しているよりは多少ではあるが楽しそうにしていた。
「いや、いいよ。本気になったライキにこの店が持っている色々な情報を無料で提供する破目になりそうだ。それに・・・皆に・・・「家族」にこの事が漏れるかもしれない。家にはまだ帰れそうにないしな。」
 バイツは悲しげな表情を一瞬浮かべる。
「で?何が欲しいんだ?情報か?酒か?」
「まずはこの紅い塗装が施された丸眼鏡の持ち主が今何処にいるのか・・・いや「何を」されているのかが知りたい。」
 バーテンダーはバイツの言葉に顔を引き攣らせる。それは恐怖という感情から。少なくともバイツに抱いていた感情ではなかった。
 口を開きかねている内に黒を基調とした服装と黒いサングラスをした三人の男が店の奥から出てきた。
 ガーディが瞬時に敵意を三人の男に向ける。
「・・・血の臭いが・・・強い・・・強くなった・・・!」
 バイツはその言葉を聞いて何故か笑みを浮かべた。
「モウキさん、この時間から取調室は使えるかな?」
 トウマも笑みを浮かべている。
「遺体安置室に空きがあるかの間違いでしょう?この手合いは何も吐きませんよ。」
 店の奥から出て来た男三人もバイツとトウマを見ると明らかに警戒の色を表す。
 バーテンダーは丸眼鏡を隠す。情報の断片を提供したと悟られない様に。
「バーテンダーさん取り敢えず三十万程払っておくよ。修繕費及び迷惑料として。」
 そう言ってバイツは幾らでも金が入るご都合財布から三十万を取り出すとガーディを抱えて瞬時に椅子から飛び退いた。
 その一瞬後にはバイツが座っていた椅子に血のこびり付いた大型の山刀が振り下ろされていた。男の一人がカウンターテーブルに飛び乗ってバイツの脳天を叩き割ろうとしたのだった。
 男はカウンターを跳び越えバイツとガーディに向かって行った。
 素早く正確に男は山刀を振るう。バイツはガーディを抱きかかえながらその攻撃を避け続ける、ガーディからは見えなかったが笑みを浮かべて。
「やべぇぞおい。手助けに・・・」
 モウキがそう言って席を立つ。

692名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:42:26 ID:sv0NcSn2
「どうやらこの方々一対一がお望みのようですよ?モウキさん。」
 トウマの言葉でモウキは男達に再度目を向けた。目に入ったのはこちらに向かって繰り出された拳。しかも丁寧にナックルダスターまで装着していた。
「っとお!」
 モウキはその一撃をスレスレで避ける。
 モウキをターゲットにした男は連撃を繰り出してモウキを後退させる。しかし、後退させるのが精一杯の様だった。モウキは器用に攻撃をいなし続けている。
「おや、中々実戦慣れしているようですね。」
 トウマの視線は戦っているバイツとモウキから残った男に向けられた。
「残ったのは私とあなただけみたいですが・・・」
 男は小型の投げナイフを手に振りかぶっていた。
 次の瞬間二本の鉄の棒の様な大型の針がサングラスと男の両眼を貫いていた。
 男は悲鳴を上げ崩れ落ちる。針を投げたトウマは溜め息を吐いた。
 それを皮切りにバイツとモウキも反撃に出る。
 バイツは男が山刀を振り抜いた瞬間、山刀を蹴り上げた。
 勢いよく吹っ飛んだ山刀は壁に突き刺さる。
 男も大きく体勢を崩し隙を作る。
 バイツが瞬時に男の両足を蹴り払い、倒れた所で顎を蹴り上げる。そして、ダメ押しと言わんばかりに蹴り飛ばす。
 男は柱に叩きつけられてそのままずり落ちた。バイツは十分加減していたので死んではいなかった。悪い事に気絶もしていなかったので男は蹴られた部位の激痛と戦わなければならなかった。
「まあ、中々速い攻撃だったよ。」
 そうバイツが言い捨てたところで、抱いているガーディが震えている事に気が付いた。
「どうした?」
「怖・・・かった・・・ゴメンね・・・バイツ・・・」
「何故謝る?」
 怪我をしていないか確かめる為ガーディの正面が見える様に抱き直す。
 その時大粒の涙を流しているガーディの顔が見えた。
 当然か、とバイツは思った。バイツは最低限の動きで山刀をかわし続けていた。しかし、ガーディにとっては殺意を持った刃が当たるか当たらないかの距離で振り回されていた。それがとてつもなく怖く、そしてそれに怯み援護攻撃が出来なかった。
「ゴメン・・・怖い思い・・・させたな。」
 バイツはガーディを抱きしめた。
「ゴメンね・・・バイツ・・・助けられなくて・・・ゴメンね・・・」
 ガーディは泣きながら謝り続けていた。
「いいんだよ、謝らなくて。俺が謝るべきなんだ。」
 それでもガーディは泣き続けていた。バイツはガーディをあやしながらモウキの加勢に向かおうと、モウキが戦っているであろう方向に目を向けた。
 そこでバイツが見たのは男の懐に入り込み肘打ちを鳩尾に叩き込んでいるモウキの姿だった。
「小技ばっかり振り回してんじゃねえ。」
 前のめりに崩れ落ちる男にそう言ったモウキ。
「俺も結構やるだろう?バイツ。」
「恐れ入ったよ。」
 それからモウキは自分の倒した男とバイツの倒した男を引きずって椅子に座っているキョウカの前に放り投げた。
 トウマによって倒された男も既にキョウカの前にいる。
「さあ、色々吐いてもらうわよ。」

693名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:43:01 ID:sv0NcSn2
 殺気とはまた違う圧力。キョウカの男達を見下すその眼光はトウマによって視力を奪われた男を除いた二人に恐怖を与えた。
「ガーディ・・・キョウカさんの近くにいてくれるか?」
 未だ泣いてはいるが少し落ち着いたガーディにバイツがそう言った。
「どうしたの?」
「店の奥に行く。」
 バイツはガーディを床に下ろす。そして、カウンターに手をついて乗り越えると店の奥に足を進める。
 血の臭いが強くなっていく。
 それは酒を保管する倉庫から漂っていた。
 バイツは躊躇いも無くその中に入る。
 そこに情報屋が居た。人の形を留めていない変わり果てた姿で。
 手足は指先から根元まで切り分けられていた。腹部は切り開かれていて中身が無い。床の上は血だらけでその上には乱雑に腹部から引きずり出された内臓が散らばっていた。
「拷問か・・・?それとも最初から殺すつもりで・・・いや、だとしたら・・・」
 物怖じする事無くバイツは死体を見ていた。
 正直、一人で「コレ」を見に来て正解だとは思っていた。
 キョウカとガーディには見せたくなかった。
 ふと、血の海の上にペンが一本転がっている事に気が付いたバイツ。
 拾い上げてみるとそれはペン型のボイスレコーダーだった。
「何か聞けるかな?」
 バイツは音声を再生する。
 音声は入っていたがノイズが酷く物音なのか人の声なのか全く聞き取れなかった。次の一言以外は。
「・・・「ワルイーノ」の・・・」
 再びノイズを発し始めるボイスレコーダー。
 ワルイーノ。
 バイツはその単語を聞き眉を顰めた。
 半年ほど前自分が異世界巡りをする羽目になった原因を作った種族の名称。
「・・・あの馬鹿共に協力している人間についてはあまり関わっていなかったな。」
 バイツは口端を歪めて笑った。
「・・・いいだろう、ならば飽く迄潰してやるよ・・・」
 取り敢えず先程の男達三人にこの事について話を聞こうと倉庫から出た時店内の方から破裂音が聞こえた。
 バイツは急いで店内の方に戻る。
 店内に戻った時バイツは新しい血の臭いを嗅ぎ取った。
 トウマとモウキがキョウカとガーディを背に立っていた。
 三人の男は力無く倒れていた。首から上が無い状態で。
 周りにいた客の吐いている声が聞こえた。
「怪我は?」
 バイツは男達の惨状を無視し四人に訊く。
「ありませんが・・・いったいこれは?」
 トウマが眉間に皺を寄せて辺りを警戒しているという珍しいものを見たバイツは再度臭いを嗅ぐ、血の臭いに混じって火薬の臭いが微かにした気がした。
 ガーディに訊いて血以外の臭いがするかを確かにしたい所だったが、頭が弾け飛んだ男達の死体を見て震えていた。
「何があったんだ?」
 バイツは周囲を警戒しながら口を開く。
「俺も分かんねえよ。いきなりこいつ等の頭が破裂して・・・」

694名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:43:35 ID:sv0NcSn2
 モウキの言葉でバイツは少し考えた。
「奥歯に爆弾を仕込んでいたか。」
「何?」
 モウキが聞き返す。
「爆弾だよ。奥歯に仕込める自害用の。昔ヒートから聞いた事がある。まあ、詳しくは忘れた。」
「という事は・・・この方々も色々知っていて・・・?」
「多分、今回の件に関わっていて尚且つそれに関わる人物を消しに来たってところかな?」
 バイツはキョウカとガーディに近付く。
「大丈夫か?顔色が・・・」
「悪くもなるわよ・・・こんなものを見せられて・・・あんたの方は?バイツ、店の奥に何が・・・」
「情報屋の死体があった。見ない方がいい。」
「頼まれても見たくないわ。」
 震えているガーディを抱き上げそして先程の様に優しく抱きしめるバイツ。
 涙は止まっているが一点を凝視し息も荒くなり始めて、体も何処か強張っている。
「ガーディ・・・大丈夫・・・大丈夫・・・」
 ゆっくりと宥める様にガーディの耳元で小さく囁く。
「・・・取り敢えず応援呼んで・・・そんで・・・」
 モウキが目頭に指を当てながらそう言った時バイツはモウキに言った。
「無駄だよ。この店自体が利害が一致している色々な連中が守っている治外法権みたいなものでさ・・・まずこの店内なら警察っていう肩書やら何やらは何の役にも立たない。」
 バーテンダーも口を開く。
「そうだ。店は片付けるからとっとと撤収してくれ。「何事も無く」店を続けたいものでね。」
 それからバイツ達は店を出た。
 ガーディは幾分か落ち着いてきた様でバイツの肩に顎を乗せ、すぐ後ろを歩いていたキョウカに声を掛けた。
「キョウカ・・・大丈夫?」
「平気よガーディ。ちょっと考え事をしていただけ・・・」
 そう言って溜め息を吐くキョウカ。
「ここまで相手の素性が分からないんじゃあね・・・ライキとヒートこっちに呼んで直に情報収集に当たらせようかしら。」
 灯りはあるが人通りがまばらな通りに出たところでモウキが口を開いた。
「さあこれからどうする?情報屋のセンは切れちまったし・・・」
 その時バイツは何かに気付いて夜空を見上げた。
「どうしたの?バイツ。」
 ガーディがバイツの異変に気付く。
「何か来る・・・!」
 そして「ソイツ」は叫び声と共にバイツ達の前に降りてきた。
「イエェェェーイ!!」
 バイツは怪訝そうな表情を浮かべて「ソイツ」の名前を口にした。
「デオキシス?」
 降りてきたのはノーマルフォルムのデオキシス。前にバイツと少しばかり旅をした事があった。
 キョウカ、トウマ、モウキもやけにハイテンションのデオキシスを見た途端に凄く怪訝そうな顔をしていた。ガーディは興味深そうに振り向いてデオキシスを見ていた。
「空前絶後のぉー!超絶怒涛のフォルム数!変化を愛し!変化に愛されたポケモン!」
 バイツは目を背けた。まだツッコミどころではないと言うかの様に。
「アタック、ディフェンス、スピード・・・全てのフォルムを持つポケモン!そう!我こそはぁぁぁ!」
「どこかで聞いたなこの自己紹介・・・訴えられない事を祈ろう。」

695名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:44:28 ID:sv0NcSn2
「高さ1.7メートル重さ60.8キロ貯金残高11億4514万円!三か月前に出版した本「デオキシスに会いに行こう!その最短ルートと赤い三角そして時々サイレントヒル」で荒稼ぎしました!全四ページ!今じゃ世界各国で翻訳されて出版されてまぁぁぁす!」
「四ページ?薄い本のゲスト寄稿か何か?」
 バイツはそう返した。
「私持ってるわよ。」
「!?」
 キョウカを驚いた表情で見るバイツ。
「私も持っていますよ。」
「!!??」
 今度は表情をそのままでトウマに顔を向ける。
「俺も持ってるぜ。」
「!!!???」
 モウキにも顔を向ける。
 自分がいない間世界はどうなってしまったのだろうかと考えたくなったバイツ。
「キャッシュカードの暗証番号0721財布は今デボンコーポレーションの社長室に置いてあります!!長髪の旦那今がチャンスです!!」
 名指しされたバイツ。しかし、何も言わない。
「もう一度言います0721・・・HTNが漏らしたNRT高等学校硬式野球部の伝統儀礼、公開オナニー(0721)って覚えてくださぁぁい!!」
「訴えられても文句は言えないな・・・」
 バイツは全てを諦めたかの様にそう言った。
「そう全てをさらけ出したこの俺はサンシャイン・・・を覚えても不遇の扱いを受けるキマリに涙を浮かべる・・・デオキシス!イエェェェーイ!!」
「ユウナが死んだら誰がキマリを守るのだ。か?不遇だなあのツノなし。」
 さらりとバイツが酷い事を言う。
「俺はガガゼト山でキマリの強制戦闘で積んだぞ?」
「あなたはエアプ勢でしょうかモウキさん、ビランとエンケは雑魚ツノなしのステータスで強さ変わりますよ。」
 トウマも酷い言い様。
「キマリのスフィア盤何も知らずにルールールートに進んで物理より魔法の方が体力削れることに気付くまでに苦労したわ。」
 キョウカは少々真面目に話す。
 かなり話がズレ始めた一行。
「ジャスティス!!」
 そう叫んで登場をキメたデオキシス。
「おい!ソル=バッドガイ、本名はフレデリックの恋人のアリアを素体として「あの男」が作り上げた最強最悪のギアでイリュリア連王国の連王カイ=キスクの嫁のディズィーの母であるジャスティスさんは関係ないだろ!いい加減にしろ!」
「バイツ君、君が少々ズレています。そんな事を言っていると猛スピードで突進されて大気圏辺りまで持っていかれてデストローイされますよ。」
 トウマがバイツの発言に対し軽く脅すような感じで注意する。
「あのー俺喋っていいっすか?」
 デオキシスが困った様にそう言った。
「長い自己紹介ご苦労さん。自由にどうぞ。」
 デオキシスはバイツ達を見回す。
「えーっと・・・長髪の旦那この人達は?」

696名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:45:01 ID:sv0NcSn2
「キョウカよ。」
「僕ガーディ!」
「トウマです。」
「モウキだ。」
 一通りの簡単すぎる自己紹介が終わったところでバイツはデオキシスに取り敢えず質問をした。
「で・・・どうしてここに?」
「いやあ稼ぐモン稼いだら暇になりましてね。重い財布をデボンコーポレーションの社長の顔にブン投げてプラプラ世界中飛んでいたら丁度旦那の気配を察知したもんで・・・面白いっすよ旦那の気配、一発で気付きました。旦那は何を?」
「俺もあっちこっちを行ったり来たり。今は見えない敵を追い掛けてるところかなー」
 イーブイ達の事を話そうとしたが知らないだろうと思いそこについては触れなかった。
「ふむ・・・困りましたね・・・」
 トウマがそう言うのでデオキシスが首を傾げた。
「いや・・・迷惑という訳ではないのですがポケモンが絡むとこの話はどうも重くなる傾向がありましてね。まあ例を挙げるとすれば・・・」
 トウマが後ろの建物を見上げた。
 その建物は燃えていた。
「いや・・・火事じゃねえか・・・何で気付かなかった・・・?」
 モウキが燃えている建物を見上げてそう言った。
「ここは一部の方々に「ガン掘リア宮殿」と呼ばれる建物でしてね。」
「くさそう。ポジが空気感染しそう。」
「まあ名前から察するに今のバイツ君の様にそう見るのが普通でしょうね。そして最上階のベランダを見てください。」
 全員がベランダを見る。そこでは一人の男が身を乗り出して隣の部屋を外から見ていた。
「お、やべぇ119番だな!」
 そう男が口に出した瞬間男の背後で爆発が起こった。
 吹っ飛ぶ男。行きつく先はコンクリートの地面。
 男が地面に叩きつけられた瞬間をバイツはガーディに見せまいとガーディの顔を自分の胸に押し付ける。
 男は爆発の衝撃とコンクリートの地面に全身を強く打ち付け即死だった。
「ホモが一人・・・一匹死にましたね。軽い話でしょう?」
「トウマ・・・お前さんの発言相当ヤバい。」
「本題に入りましょう。では向こうを。」
 トウマが指差した先には十階建てのマンションがあった。それも燃えていた。
 バイツ達は急いでそのマンションに向かう。
 マンション前は人や警官や消防士で溢れかえっていた。
 モウキは警察手帳を近くにいた警官に見せ状況を聞く。
「最上階のベランダに女の子とポケモンが取り残されているらしい!進入は困難!火は消えねえし、空から救おうとしているが煙や風の影響でうまく近づけねえみたいだ!」
 最上階のベランダを見上げると確かに炎に追い詰められている女の子が立っていた。
「助けてー!」
 女の子が泣きながら叫ぶ。その子はルリリを抱きかかえていた。
 ルリリは「みずでっぽう」で迫ってくる炎に対抗しようとしているが炎の勢いは衰えない。
「ほら、ポケモンが絡んで来ると重くなるでしょう?」
 と、トウマはそう言ってバイツ達でもなく燃えている建物でもなくあさっての方向の野次馬を見ていた。
「何か見つけたのね?トウマ。」
「ネズミがいましてね。」
「捕まえていらっしゃい。勿論・・・」

697名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:45:37 ID:sv0NcSn2
「逃がしはしませんしすぐに自供できる状態にしますよ。」
 トウマが文字通り消える。
 キョウカとトウマのやり取りを全く聞いていなかったバイツはガーディを地面に降ろす。
「一回であそこまで跳べるか・・・?いや高度が足りなくても壁を蹴って・・・」
 バイツが跳ぼうと構えた時、デオキシスがスピードフォルムにチェンジした。
「俺が行きます!」
 瞬時に炎が照らす夜空に飛び上がり、女の子とルリリがいる最上階のベランダへ。
「お嬢さん!俺に掴まってて!そのちっちゃいのを離さないで!」
 デオキシスが細い触手の様な腕を女の子の体に巻きつける。女の子もルリリを強く抱きしめる。
 地上に戻ろうとデオキシスが部屋に背を向けた瞬間室内が爆発。吹っ飛ばされたデオキシス。女の子とルリリはデオキシスが盾になったお陰で爆発による衝撃の怪我は無かったが宙に投げ出される。
「チィ・・・ッ!」
 デオキシスは軋む体に活を入れ投げ出され落ちていく二人を追う。
 猛スピードで追い付くと二人を抱きかかえディフェンスフォルムへチェンジ。そして二人のクッション代わりになるかのように地面を背に落ちていく。
「この子達はいいけど・・・助かるかなー・・・俺・・・」
 デオキシスはそう呟いた。
 先程の爆発によるダメージは予想よりも大きくもう飛ぶ力は残っていなかった。そして待っているのはコンクリートの地面。ただでは済まない。
 だがそれでもこの子達を命を賭して護ると決めた。
 それを曲げたくなかった。
 その時影が落ちていく三人を覆った。
「え・・・?」
 デオキシスはその影を作った人物を見て言葉を失った。
「離れないでくれよ?」
 バイツが大きな黒い翼を背中に羽ばたかせ飛んでいた。
「人目につく場所は嫌だから少し離れた場所に降りる。」
 十分人目につきながらバイツがそう言う。
 降りた先は近くの公園の草地。
 三人を優しく降ろすと、バイツは背中の翼を消した。
「助かりました・・・しかし、一体・・・その翼は・・・?」
「色々あってな・・・だが、翼を生やして空を飛んだのはこれが初めてだ・・・」
 翼はバイツの体の大半を覆っている黒の部分、すなわちワルイーノの力でできた翼だった。
 バイツは背中をデオキシスに見せる。翼は完全に消えておりどういう原理かは知らないが服にも穴は空いていない。
「さて・・・ポケモンセンターに寄っていくか。デオキシスの傷を診てもらわなきゃな。」
 ノーマルフォルムに戻ったデオキシス。
「じゃあ俺達は行くよ、お二人さん。道中気を付けて。」
 バイツはそう言った。人が来るので早くこの場から消えようと思っていた。
 女の子とルリリに背を向け去ろうとするバイツとデオキシス。
「待って!」
 女の子が二人を呼び止めた。
「ありがとう・・・ポケモンさん・・・天使さん。」
 バイツは返事代わりに右手を軽く上げる。
 二人から離れながらバイツとデオキシスは軽口を交わしていた。
「天使だそうですよ旦那?髪染めて白い布纏ってラッパでも吹きますか?」

698名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:46:12 ID:sv0NcSn2
「止せよ。俺はどちらかと言えば悪魔さ、それに天使は俺にあるものを寄越してくる。」
「何ですソレ?」
「不幸と試練さ。」
 公園を出ようとした時街灯の下に誰かが何かを担いで立っていた。
「トウマさん。どうしたんだ?」
「こそこそしている怪しいこの方を追っていましてね。」
 トウマが担いでいたものは小柄の中年男性だった。意識はあるようだが手足は動かせない様だ。よく見ると手足にはいつものあの針が数本刺さっていた。
「爪二枚剥がしたら白状してくれましたよ。「自分が放火した」と・・・ね。」
「これで万々歳じゃないっすか。そいつを差し出せば終わり。いやー良かった良かった。」
「良くないですよデオキシス君。さてバイツ君あの黒い翼は一体何ですか?」
「キョウカさんとガーディとモウキさんと合流したら話すよ。」
 それからすぐに合流した一行。
 バイツは五人に軽く体と翼の説明をした。その後にまた離れる事になった。バイツとデオキシスはポケモンセンターへ。キョウカ、ガーディ、トウマ、モウキは犯人を引き渡す為に警察署へ。
 ポケモンセンターに着いたバイツはデオキシスを預ける。までは良かったのだが何故かジョーイと話す事になった。
「聞きましたか?火事のお話。」
 待合室の長椅子に座ってデオキシスの回復を待っている時にジョーイの方から話しかけてきた。ポケモンセンターにしては珍しい事にバイツ以外に客は居なかった。
「ええ、聞きましたよ。何でも建物全体が燃えたとか。」
「その火事で逃げ遅れた女の子とポケモンがいたらしいのですが・・・」
「助かったんですか?」
 白々しくすっとぼけるバイツ。助けた本人なので結果は知っている。
「それが・・・不思議な事があったらしくて・・・」
「と、言いますと?」
「何でも見た事の無いポケモンが「二体」現れて女の子とポケモンを救ったそうです。」
 ポケモン扱いされているバイツ。取り敢えず顔は見られていなかった様でホッとした。
「まあ、色々とまだ見た事の無い不思議な事がありますから。」
 それからデオキシスの回復も終わりポケモンセンターを出たところでキョウカから連絡が入った。
 内容は暇そうなデオキシスを作戦に組み込むというバイツにとってはあまり気乗りしないものだった。
 デオキシスに訊いたところそれを快く承諾した。
 いざとなれば先程みたいに護ればいい。バイツは少し考えた後にその結論に至った。
 ちなみにデオキシスはバイツの泊まっている部屋で寝泊まりする事になった。



 ある一つの建物があった。
 街外れに建っていてあまり人目につかない建物。
 その建物の一室に檻があった。その檻の中には進化する前の小さなポケモン達が閉じ込められていた。
 その檻の外では男達が何やら話し合っていた。
「しかしまあこれだけのポケモンを集めて来たもんだ。何かあるのか?」
「こいつ等「撮影」に使うらしい。今回は使い捨てみたいにな。」
「今まで使い捨てみたいなもんだったじゃねえか。」
「ハハ、違いねえ。」
 男が一人檻に近付く。小さなポケモン達は男を怯えた目で見ていた。

699名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:46:46 ID:sv0NcSn2
「おーい、聞こえてるか?これから楽しいコトが待ってるからなー?途中で意識飛ばさないで最後まで楽しんでくれよ?」
 そして男が振り返る。
 視界に飛び込んできたのは部屋中を所々染めている紅だった。そして、先程まで話していた男が一人の少年に片手で首を持ち上げられ力無く手足を揺らしていた。
 その傍には見た事の無い橙色をしたポケモン。
 突然その二人の姿が消えた。
 男は知らなかったがその二人は背後に立っていた。
「何発叩き込んだ?」
 少年がポケモンに訊いた。
「十八発ってとこでしょうね。旦那は?」
「俺も十八発。」
 そして二人は示し合わせたかのように同じ言葉を口にした。
「三十六・・・普通だな!」
 非常にゲスい台詞を言い終わると同時に男は崩れ落ちた。
 少年が檻の開閉部に手を掛けて易々と引き剥がす。
 その瞬間ポケモン達が少年に向かって突進し始めた。



「バイツと連絡が取れない!?」
 建物の外でモウキが警官達を待機させながらそう口にした。
「そうなのよ刑事さん・・・まさかとは思うけど・・・」
 キョウカが深刻そうな表情を浮かべる。
 モウキは奥歯を噛み締める。そして指示を出す。
「全隊俺の後に続いて突入しろ!」
 建物内にモウキを筆頭に警官がなだれ込む。
 そこで見たものは力無く倒れている男達。
「確保しろ!手の空いているヤツは俺に続け!」
 モウキは足を止める事無く進み続ける。
 そして、とある一室に辿り着いたモウキ達はあるものを目にする。
「遊んでー!遊んでー!」
 と、ポケモン達にトランポリン代わりにされて力無く倒れているバイツとデオキシス。
「ああイッタイ、イッタイ、痛いいいぃぃぃぃぃ!ねぇ痛いちょっともう・・・痛いなもう・・・痛いよもおォォォォォう!痛いんだよもう!ねぇもう嫌だもう!ねぇ痛いぃぃぃもう!痛いよ!やーだ!やめてタタカナイデ!タタカナイデヨ!」
 デオキシスはそう叫びながら倒れていたがバイツは無言。
 モウキはそんな二人に近付く。
「あー・・・バイツ、お前さんそういう弱点あるんだよな。忘れてたよ。」
「助けて・・・」
 バイツはモウキにそれだけ返してまた無言になった。
「お嬢?バイツとデオキシスとポケモン達を見つけた・・・その・・・まあ、二人は玩具みたいだ。」
 無線でそうキョウカに伝えたモウキ。
『あ、そうなの・・・』
 何処か気が抜けた返事の後、モウキは警官隊にポケモン達を保護する様に指示を出す。

700名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:47:27 ID:sv0NcSn2
 バイツとデオキシスはこの時知る由も無かったがそんな事が三日連続で助けに行った先々で続いた。



 バイツとデオキシスがトランポリン代わりになって三日目。そこから離れた地方のとある街。晴れた街中をサーナイトとルルとテスラの三人が歩いていた。三人共大きな手提げ紙袋を両手で持っている。
「服買いすぎちゃった。たまにしか買い物しないからついついハメを外しちゃうんだよね。」
 と、ルルが楽しそうに言う。
 今日はフラワーショップの花がいつもより早く完売したので早めに店を閉めて三人で買い物に出かけていた。
「そうだ、ルル。今度お花を多く仕入れて。私、コジョンドに花飾り作るって約束したの。」
「いいよ、でもあのコジョンドがねー・・・うーん・・・よし!コジョンドだけじゃない皆の分の花飾りを作ろう。」
 サーナイトは二人の会話を聞きながら微笑んでいた。まるで血の繋がった姉妹の様に楽しそうにしている。
 ふと、路地裏から声が聞こえてきた。
 何やら言い争っている複数の声。
 三人は声のする路地裏の方へと足を進めた。



「そこ退いて!ニンゲン!」
 イーブイが仲間達の先頭に立ち叫ぶ。
 しかし、周りを囲んでいるガラの悪い人間達は笑みを浮かべながらその言葉を聞き流していた。
「雌のイーブイシリーズに見た事の無い珍しいポケモン・・・」
 品定めをするような視線を向けられたラランテスは涙目になりながらも構える。
「こいつ等高く売れそうだなぁ!」
 男は高笑いした。
「何をしているの!?」
 少女の声が男の高笑いを止めた。
 イーブイ達と人間達が声のした方を向いた。
 そこに立っていたのはサーナイト、ルル、テスラ。
「一体何をしているの・・・?その子達・・・怯えてる。」
 ルルが一歩前に立ち人間達を止めようとする。
「折角の金儲けの機会を邪魔すんなよ。お前等もそういう所に売っぱらっちまうぞ?それとも冒険したいお年頃かな?」
 ポケモンを金儲けの道具にとしか思っていないこの連中に話は通じないと直感した三人。
「ルル、これ持ってて。」
「ルル様荷物をお願いできますか?」
 テスラとサーナイトがルルに紙袋を持たせ一歩進み出る。
「サーナイト、合わせて。」
「分かりました。」
 二人は掌を人間達に向ける。
 青白い雷光と黄色い雷光が走り、人間達の間をすり抜け何も無い所に直撃する。
 連中はどよめき始める。
「今度は当てるよ。」
 青白い電気エネルギーを手に纏わせてテスラが言った。サーナイトも黄色い電気エネルギーを手に纏って構えている。
 そこで連中は珍しいものを見つけたから捕まえようという位の根性を見せればよかったのだがテスラの警告に怯えて一目散に逃げてしまった。
 テスラとサーナイトはイーブイ達に近付く。
「怪我は無い?大丈夫?」

701名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:48:25 ID:sv0NcSn2
 テスラが屈んでなるべくイーブイ達と視線の高さを合わせる。
 ルルも紙袋を汚れない所に置き近付く。
「ありがとよ、でも助けを呼んだ覚えは無え。」
 そう言い放つブースター。
 テスラは人馴れしていないだけだと思い、警戒させない為に笑顔を向ける。
「行くわよ。旦那様を待つ為に身を潜める場所を探さなきゃ。」
 シャワーズが歩き出そうとするのでルルが声を掛けて引き留める。
「誰か捜しているの?力になるよ?」
「結構ですわ。「ニンゲン」さん?」
 エーフィは歩き出す。
「あのー・・・皆さん?この人達助けてくれたみたいですし一応話だけでもしてみませんか?」
 ラランテスはそこそこ好意的な態度を取る。
「ごめんなさい。私達ここに来る前に少し人間と一悶着あったので・・・」
 サーナイトは微笑みラランテスに言葉を返す。
「大丈夫です。それで誰かを捜しているみたいですけれど?」
「はい、正確にはこの街に戻ってくる予定の人ですけど・・・バイツさんという方を知っていますか?その人に助けてもらったので恩返しをしようかと・・・」
 サーナイト、ルル、テスラの表情が瞬時に変わった。
 その名前を聞き違える筈は無かった。
「その方は・・・黒い・・・長い髪をした方ですよね・・・腕が・・・少し普通の人とは違う・・・でも優しい目をした・・・」
 サーナイトは泣きそうになるのを堪えながら言葉を口にする。
 その言葉にラランテスもイーブイ達も驚いて三人を見る。あまりにも的確に特徴を捉えている。口走った覚えは無い。
 ルルとテスラは涙を流し始める。
 そしてラランテスは察した。バイツがここに帰りたがっていた理由を。
「・・・いつ・・・お会いしたのですか・・・?」
「三日程前に・・・」
 サーナイトも我慢が出来ずに口元を両手で押さえて涙を流し始めた。
「帰って来てくださったのですね・・・マスター・・・!」
 互いの情報を交換する必要があったがサーナイトもルルもテスラもバイツがこの世界に居るという事が分かっただけでも大きな報せだった。



 それからイーブイ達は、今はフラワーショップとなっているバイツの家に通されていた。
 バイツがこの世界に戻ってきているというその報に全員が飛び付き、居間で話を聞く事に。
 前もって話を聞いた三人以外は最初半信半疑だったが話を聞いていく内に行動内容からそれがバイツだという事を確信する。バイツの体を弄んだ事も話に出たが抵抗しないというのがバイツらしいという謎の結論に至った。
 その時イーブイ達以外が初めて知ったのは漆黒の体の「進行具合」についてだった。
「そう・・・なんだ・・・」
 ルルが若干手を震わせながら話を聞く。
「あの体は・・・生まれた時からのものじゃないですよね。その事について話してくれませんか?」
 ニンフィアの質問。それに答えたのはサーナイトだった。
「マスターの右腕は・・・マスターのお命を救う為にご両親が遺したものです・・・」
 以前バイツと共に聞いた話を思い返しながらサーナイトはイーブイ達に右腕の事を聞かせる。
 知っている限りの事を話すとサーナイトはまた涙を流した。想い人が居ない訳ではないというのが嬉しかった。

702名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:48:59 ID:sv0NcSn2
「でも・・・それは右腕の話だ・・・今度は体の事が聞きたい・・・」
 ブラッキーが感情を抑えてそう言う。バイツの事を聞けて若干嬉しそうだった。
「私が話す・・・」
 ルルが震える声でそう言った。
 半年前の出来事を話していくルル。自分が何であって何と戦ってきたのかを泣きそうになりながら話す。
 いかに自分が弱く甘く、バイツの強さと優しさに頼り切っていたかを。そしてその挙句に愛しい人に背負わせてしまった業を。
「キャハハハ!じゃあセイギの味方気取ってた割には何も出来なかったの?」
 サンダースの言葉がルルの心を抉る。
「そしてあなたは「ニンゲンの世界」を救ったのですねぇ・・・悪い人達ごと。」
 冷たくグレイシアはそう言い放つ。
 誰かがその言葉に反論してもよかったがイーブイ達のされてきた事を聞いているから何も言えなかった。
「どうして、旦那様じゃなきゃいけなかったの・・・どうして旦那様みたいな優しい人が全てを背負わなきゃいけなかったの・・・?」
 リーフィアの声も震えだす。その言葉は誰もが知りたかった問い。
 誰もその答えを持ち合わせてはいなかった。
 ふと、ルルが立ち上がる。今にも泣き出しそうな笑みを浮かべて。
「ごめん・・・少し頭の中を整理したいから外の空気吸って来るね?あと、あなた達が良ければずっとここに居ていいから・・・一緒にバイツさんの事待とう?」
 そうルルは言い、居間を出て行く。
 何かを思ったラランテスがルルの後を追い掛ける。
 サーナイトが取り敢えず長旅で疲れているイーブイ達を寝室に案内しようと立ち上がった。
「分かってる・・・責めたって何にもならない事ぐらい・・・」
 イーブイがポツリと言った。
「でもどうすればいいか分からない・・・!」
 大粒の涙がこぼれ始める。
 そんなイーブイを抱き上げて深く抱きしめるサーナイト。
「・・・一緒に考えるというのはいかがですか?」
「え・・・?」
「私も物事にどう対処すればいいのか分からない時がありました。その時はマスターや皆様が傍に居てくださって・・・一緒に悩んで・・・そうしてようやくそれに対する答えが見つかるのです。」
 サーナイトの言葉と体からバイツとよく似た温もりを感じたイーブイ。
「悩みに潰されてしまう前に・・・一緒に考えさせてもらっても構わないでしょうか?」
 多くを信じられずに拒もうとするイーブイ。しかし、それを否定せずにそのまま受け入れようとするサーナイト。
 イーブイは声を上げて泣き始めた。
 ようやく自分達が頼ってもいい心の拠り所が出来たのが嬉しかった。



 ルルは外で流れ続ける涙を拭っていた。
 イーブイ達がされてきた事を聞いて悪人達が未だにそういう事をし続けているのだという事が悲しかった。
 以前はそれが変わると思って世界を護っていた自分。
 世界を護っていた筈なのに傷付いている小さな存在は護れていない。
「・・・どうしてかな・・・」
 震える声でそう呟く。

703名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:49:36 ID:sv0NcSn2
「あの・・・」
 声のした方をゆっくりと向くとそこにはラランテスが立っていた。
「どうかしたの?」
 泣き顔で無理矢理笑顔を作る。
「皆さんのさっきの態度を謝ろうと思って・・・ごめんなさい・・・」
「いいの、私は偉そうな事を言ってずっとバイツさんに頼っていたのは事実だし。」
「それでなんですけれど・・・皆さんの事嫌いにならないでくださいね?」
 ラランテスが不安そうな表情を浮かべて言う。
「少しの間皆さんと一緒に旅をしてきて分かったんですけれども・・・本当は誰かを信じたいって言うのが伝わって来て・・・」
 言葉が見つからないのか一旦切る。
 そこでルルは一つラランテスに質問をした。
「私達人間が・・・怖い?」
「まだ・・・怖いです。乱暴された時も人間を憎いと思いました。でも人間を憎み続けていたら人間より人間らしいバイツさんまで憎んでいるような気がして・・・」
 人間より人間らしい。バイツがここに居たのならばその言葉を否定していたのかもしれない。
 だが、ルルもテスラもサーナイト達もラランテスと同じで自分達の身をずっと護ってくれたバイツを人間より人間らしいと思っていた。
 そしてルルは気付いたら泣きながらラランテスを抱きしめていた。
「・・・今度は私があなた達を護る・・・憎まれてもいい・・・でもずっと護らせて・・・!」
「・・・はい。」
 ラランテスはバイツが護ってきた目の前の少女を信用しようと思った。



 それから三日が経った。
 フラワーショップの外ではテスラがトレーナーズスクールに行く所であった。
「じゃあ行こう。二人共。」
 テスラが足元に視線を向けて口を開く。
「キャハ!早くしないと遅れるかもよ?」
 楽しそうにサンダースがテスラの前に出て小さく跳ねる。彼女は遅れると言ったが時間に余裕がある。
「サンダースちゃんはしゃぎすぎです。怪我をしたらどうするのですか?」
 ニンフィアもそう言いながらも何処か楽しそうだった。自然にリボンの様な触角をテスラの腕に巻きつける。
 テスラとニンフィアが互いに笑顔を見せあう。
「行ってきまーす!」
 ルルが店の中から姿を現す。
「気を付けてねー!」
 ルルの声を背中に楽しそうに駆け出す三人。
 それを満足そうに見届けたルルは開店準備に取り掛かる事にした。



 鉢植えを持ってタブンネとドレディアが移動していた。何故か二人同時にバランスを崩して転びそうになるが寸前でサーナイトがドレディアを、ラランテスがタブンネをそれぞれ支える。
「無茶しないでくださいディアちゃん。お手伝いしますよ。」
「ごめんなさいサーナイトさん。」
 と、よく見かける組み合わせの二人。

704名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:50:17 ID:sv0NcSn2
「お手伝いします。二人でしましょう?タブンネちゃん。」
「ありがとう。じゃあ一緒にお願いできるかな。」
 一方、ラランテスとタブンネもいいコンビネーションを披露している。
 別の所ではクチートとミミロップとエルフーンが花に水をあげていた。
 楽しそうにしているが花の数が多い。
 するとそこにシャワーズが現れる。
「手伝うわ。」
 と、残りの花全てに綺麗に均等に水を掛ける。
 その動きにクチートとエルフーンは輝いた眼差しでシャワーズを見る。
 そんな二人より更に目を輝かせていたのはミミロップ。
「シャワシャワ!それあたしに教えて!」
「これは私にしかできない事、それと同じようにあなたにしかできない事があるわ。」
 シャワーズも楽しそうにそう言った。
 その横ではムウマージがエーフィと共にそれぞれの花の色が一段と映える様に花を置いていた。
「どこかで色の魅せ方を習ったのかしら?」
 エーフィが魅せる今までとは違う綺麗な色合いにムウマージが感心する。
「いいえ、これは生まれ持ってのセンスだと思っていますわ。」
 そう言ったエーフィは感心されて気を良くした様子。
「私も貴女みたいなセンスが欲しかったわ。」
 コジョンドも花を配置する。
「センスが無いのならばその分学べばいいのではありませんの?とは言っても私もまだまだ学ぶ事が多くて・・・」
 そうは言ってもムウマージもコジョンドもそのセンスが羨ましかったのかエーフィを見つめる。
 それが可笑しかったのかエーフィは笑い、ムウマージとコジョンドも笑った。
 その頃、家の中ではユキメノコとグレイシアが一仕事終えていた。
 二人の眼前ではアブソル、ゾロアーク、ブースター、ブラッキー、リーフィアがメイド服を着せられて恥ずかしそうにしていた。
「これはどういう事だい?納得のいく説明が欲しいねぇ・・・」
 ゾロアークが恥ずかしさで震える声を絞り出す。
 それに対して笑顔で答えるグレイシア。
「皆さんいいものを持っているのに性格に少々癖があるので視覚でお客を釣ろうという作戦ですぅ。ユキメノコさんと二人で頑張りましたぁー」
「でも・・・これはやり過ぎじゃないかな・・・ボクには似合わないと思う・・・」
 ブラッキーも声が震えだす。
「これ着て外に出たら何か別の店じゃねえか?」
 ブースターの意見は最もだった。
「頑張って作ってくれたのはありがたいが脱がせてもらおうか・・・」
「良く出来ているとは思うけど、別のベクトルに進み始めてるよね二人共。」
 と、メイド服を脱ごうとするアブソルとリーフィア。
「マスターの趣味に合わせたんやけど・・・」
 ユキメノコの一言が五人の動きを止めた。
 そして、納得したような表情になる。
 それを見たユキメノコとグレイシアが声を潜めて話し合う。

705名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:51:16 ID:sv0NcSn2
「本当に旦那様の趣味なんですかぁ・・・?」
「服着てもらう為の嘘です。でもマスターはウチ等がどんな格好してても愛してくれます・・・」
 色々と口々に言い合う二人だった。



 一通りその光景を見ていたルルは若干顔を引き攣らせて笑う。
「馴染み過ぎでしょ・・・皆。」
 しかし、否定され続けるよりは大分マシだった。
「どうしたの?何か顔が引き攣ってるよ?」
 イーブイがルルを見上げる。
「ん?皆楽しそうで良かったなーって。」
「うん、結構楽しい。」
 イーブイが言い切る。
「ほんの少し一緒に居ただけなのに妙に安心できるみたい・・・旦那様があんた達を護り続けた理由が分かった気がする。」
 そして彼女は微笑みを見せる。
「だから皆と話して護るって決めたの。あんた達も・・・帰って来る旦那様も。」
 それはヒトが捻じ曲げてしまったイーブイの本来の性格。
 それを察したルルは少し悲しげな表情を浮かべたが元の明るい表情に戻る。
「頑張らなくていいの、私が護るんだから。」
 何があっても変わらないその台詞をルルが言うと、サーナイトが近づいて来る。
「ルル様、ブイちゃん。お店の開店準備整いました。」
「うん、分かった。」
 ルルの表情が一層明るくなる。
「ねえねえサーナイト、お店が終わったら旦那様のお話ししてよ。」
「いいですよ。」
 そして、彼女達の一日が始まる。
 笑顔と希望に満ちた明るい一日が。



 液体の落下音にもよく似た音を立てて男が倒れた。
 倒れた男からは赤黒い液体が流れ出す。
 命が消えた目安であるかのように。
 その物言わぬ肉塊を見下ろしているバイツ。
 まるでその目は元々それを生物とは認識していなかったかの様。
 彼が今居る建物内に敵は居なかった。
 居なくなったと言った方がこの場合は正しかった。
「連中には今までの事を清算してもらおう。いないとは思うがこの戦いから降りたい奴は?」
 バイツはそう言って口元に笑みを浮かべて彼の中では最凶の味方である四人の少年に視線を向けた。
 その四人の少年も度合いが違うが笑みを浮かべた。
 降りる意思など無い事を表すかのように。
 そして五人の少年による狂気に満ちた一方的な潰し合いが始まろうとしていた。
 それを少し離れた場所から眺めるデオキシス。
「面白い本書けそう。」
 惨劇を目の前にして口にしたのがその一言だった。

706名無しのトレーナー:2017/10/11(水) 20:52:37 ID:sv0NcSn2
はい、これで何かバイツが帰還したらとかいう話の前編終わり。
長かった?ごめんなさい。
酷い表現があった?本当にごめんなさい。
後編?いつ書き上がるんだろう。
エイドロンの草原?さっさと実装して。

707名無しのトレーナー:2018/03/09(金) 02:20:38 ID:sv0NcSn2
ごべんなざいいぃぃぃ!(号泣)
本当はおととい投稿する予定だったんですけど睡魔には勝てなかったよ・・・
っていうか本編進めるの一年ぶりかな?
誤字や脱字?いつもの事さ、察してくれ。

708名無しのトレーナー:2018/03/09(金) 02:21:55 ID:sv0NcSn2
 スーツを着た初老の男性が溜め息を吐きながら机の上で両手を組んだ。
 その机を挟んだ先には一人の女性が立っていた。
 若干外にはね気味の黒く長い髪は整った顔立ちを艶やかに見せるのに一役買っていた。豊満な胸を強調するかのように白いワイシャツの胸のボタンが外されており、黒いスラックスを穿いていても分かる尻から太ももにかけての美しいラインも異性の目を引く。
 しかし、彼女はそういう事を狙ってこういう服装にしたわけではなくワイシャツの胸のボタンを外している理由はただ胸が苦しいからで今穿いているスラックスは機能性に優れているからそれを穿いているだけであった。単に服を選ぶのが面倒という理由もあったが。
「ミコ君の任務の事は知っているね?レイリン君?」
「ええ、知っています。しかし何故それを?」
「ミコ君からの定時連絡の内容が余りにも不透明すぎる。」
 男性がそう言うとレイリンは表情を変えずに小さく溜息を吐いた。
「ターゲット達の中に上手く溶け込んでいるのかどうか分からない。情報が不透明な理由は潜入に気付かれて嘘の情報を流せと脅されていると考えねばならない。」
「私の呼ばれた理由は潜入の手助けでしょうか?」
「・・・かもしれん。ミコ君が先々で関わっている事件で現場の警官達が時たま見ているのだ、ターゲットの内の一人とかなり打ち解けていると。」
 深く入り込んでいるのに不透明な情報。それが男性の思考を錯綜させる。
「ミコ君の情報で現在ターゲット達が潜伏している街は分かっている。大至急その街に飛んでミコ君と合流してもらいたい。そして・・・」
「分かっています。任務の手助けですね。」
 レイリンの言葉に男性は頷いた。



「全く・・・ミコったら、世話が焼けるわね。」
 外に出たレイリンは溜め息混じりにそう言った。
 しかし、「親友」に会えそうなので彼女は若干明るい笑みを浮かべた。
 そんなレイリンを追う一つの影があった。
 四本の脚で駆け白銀の毛をなびかせてレイリンに接近し、傍に寄り歩調を合わせる。
「やっほー」
 そのポケモン、アブソルは呑気にレイリンに声を掛けた。
「アブソル・・・あなた何処に居たの?」
「ん?あっちの木の上で寝てた。だってお話しつまらなそうだったもん。」
「探し回ったわよ?ほんの数分だけど。」
「ごめーん。」
 軽く返すアブソルの左前脚にはメガバングルが填められていた。
「で?部長さんのお話しは何だったの?」
 アブソルのその言葉にレイリンは笑ってみせた。
「ミコに合流するわよ。一緒にお仕事。」
「ミコちゃんとバシャーモに会えるの!?」
「そう、急いで向かうわよ。」
 二人の足取りは軽かった。まるで何度も同じ事を経験したかの様に。



 ハーヴァルは目の前の機械を弄っていた。
 人が入れそうな透明のカプセル。その中には緑色の液体が充満していた。そのカプセルを立てて固定するかのように下部分は様々な機械でごった返していた。
 無表情でモニターの数値に目を通しながら機械を弄るハーヴァル。
「で?様子はどうだ?」
 ハーヴァルに声を掛けたのはヴォルツだった。暫くハーヴァルの行動を背後から椅子に座って眺めていた。
「酷いものじゃ。胸の傷は大した事無いんじゃが問題は他のダメージでの、リンクしていたナイダスを破壊されて更に人間ならば原型を保つ事が出来ぬほどの力での攻撃。回復には少し時間が掛かる。」
 ハーヴァルがボタンを押すとカプセル内の緑色の液体が若干透明になった。
 その中に居たのはトーヴだった。
 今は眠っている様で何の反応も示さない。
 ヴォルツは強く拳を握った。
「・・・自分を責めるか?」
 ハーヴァルの言葉に動じずにヴォルツは言葉を返した。
「多少な。」
「お前さんの責ではない。「化物」の方が強かった。そういう結果だった訳じゃ。」
「・・・」
 変な慰め方にヴォルツは押し黙る。

709名無しのトレーナー:2018/03/09(金) 02:23:04 ID:sv0NcSn2
 間を置かずにヴァルドとドルヴが姿を現した。
 ドルヴがカプセルに視線を移す。
「んで?トーヴちゃんの調子はどうよ。」
 ハーヴァルが先程ヴォルツにした説明をドルヴに言うとドルヴは軽く笑い、そして真面目な表情を浮かべて奥歯を噛み締めた。ここまで仲間を痛めつけた「化物」に対しての恨みを込めて。
「無様ですね。」
 ヴァルドは冷たくそう言い放った。
 全員の視線がヴァルドに集まる。
「ナイダスを使ってこの様ですか・・・もう少し分をわきまえて欲しいものです。」
「ヴァルド!」
 ヴォルツがヴァルドに接近し胸倉を掴む。
 それでもヴァルドは冷たい表情を崩さない。
「放してください。暑苦しい。」
 ヴァルドは胸倉を掴んでいるヴォルツの手を払う。
「次は私が出ますよ。大人しくしていてください。」
 そしてヴァルドは闇の向こうへと歩いていった。
 ハーヴァルは再度機械を弄り始め、ヴォルツとドルヴがヴァルドの歩いていった方向を見ながら会話を始めた。
「かなりプッツンしてたな、ヴァルドちゃん。」
「あそこまでキレた奴を見たのは久しぶりだ。」
「冷静に見えて冷静じゃねえからな・・・後でサポートに回らなきゃなんねえかも。」
「その時は俺も出よう。」
「頼むわ、出会い頭に「化物」と会わなきゃいいんだけどな。」
 単純だが最悪のパターンをドルヴは口にした。



 その「化物」と呼ばれている少年、バイツはホテルの部屋のベッドで眠っていた。
 彼にしては珍しく警戒心無く寝息を立てている。
「バイツくーん。居るー?」
 と、部屋に入ってきたのは刑事であるミコだった。ロックが掛かっていた部屋のドアは警察の権限で従業員に開けさせた。
 ミコはすぐに眠っているバイツを見つける。
「寝てるの?折角皆で散歩しようと思ったのに・・・」
 そう言いつつバイツを誘うのを止めようとしないミコはバイツが眠っているベッドの上に両手と両膝をついてゆっくりと忍び寄る。
 まじまじとバイツの寝顔を覗き込むミコ。
 以前サーナイトが言っていた普段のバイツとのギャップがあるという言葉をミコはもう一度理解する。
 仲間を護る為ならば人殺しも躊躇わずに行い、心配を掛けさせない様に気丈にそして冷静に振る舞う。
 しかし、今はまるで子供の様に無防備に眠っている。
「普段は髪で隠れてて分からないけどバイツ君ってイケメンだよね・・・」
 ミコはバイツの顔の全体を見てそう言った。
 そして、バイツの顔にミコは顔を近付けた。
「バイツ君起きて、散歩に行こ?早く起きないと―――」
 どうせすぐに起きるだろうと思ったミコは顔をゆっくりと近付けつつ次の言葉を口にした。
「―――キスしちゃうぞ?」
 全然起きないバイツ。
 ミコはゆっくりゆっくりと顔を近付ける。止まればいいのだが何故かその考えに至らないミコ。
 止まらない彼女の唇に柔らかいものが触れた。
 その瞬間、顔を紅くして目を見開きバイツから顔を離す。
 今更の様に胸が高鳴り始めた。
 自らの唇に触れて先程の感触を思い出す。
 温かくて柔らかいバイツの唇。
 今までに体験した事の無い感覚が体中を駆け巡る。
 今は二人きり。
 もう一度キスをしようとした時、部屋の外からバシャーモの声が聞こえた。
「ミコー!そろそろ行こう!」
 そこで我に返ったミコはベッドの上から降りる。
「・・・ごめんね・・・バイツ君。」
 当初はその気が無かったとはいえ寝込みを襲ってキスをしたのでその事について謝ったミコは部屋を後にした。



 バイツが目を覚ましたのはそれから二十分後の事だった。
 部屋に誰も居なかったので取り敢えずライキとヒートとイルとシコウの部屋に行く事にした。
 あの四人が同じ部屋というのは珍しかった。
 バイツは部屋のドアをノックする。
 ドアを開けたのはイルで片手にはドーナツを持っていた。

710名無しのトレーナー:2018/03/09(金) 02:23:50 ID:sv0NcSn2
「寝起きです、って顔してる。」
 寧ろイルが見ていたのは顔ではなく若干乱れた黒髪だった。
「まあ、寝てたからな。何してるんだ?」
「カードゲームを色々と。ライキとヒートとシコウとキルリアで。」
「・・・キルリアと?」
「まあ、面白い事になってるよ。入って。」
 部屋の中に入ったバイツは思いがけないものを見る。
 キルリアは悪意のある笑みを浮かべてポーカーチップを重ねて塔を作っている。
「ねー、次のゲームしようよ。」
 その言葉に反応できていないライキとヒートとシコウ。三人は机の上に額を乗せて項垂れていた。
「・・・何で勝てないの?・・・リアルマネー賭けてたら自殺してた・・・」
「・・・あり得ねえ・・・ケツの毛までむしり取られるってのはこういう事か・・・」
「・・・忍者の・・・感情を読み取るか・・・」
 その呟きの後にキルリアはバイツに気付く。
「あ!バイツお兄ちゃん!」
「遊んでもらってたのか?」
「まあね、本気でしていいって言われたから感情を読み取ってポーカーしてた。でも勝ちすぎて途中から退屈になってきたからサイコパワー封印して表情筋や呼吸音から感情を読み取る練習してた。」
「練習の結果は・・・見れば分かるよ。」
 人間兵器三人を黙らせるという成長を見せるキルリア。
 そこでイルが口を開いた。
「外で何か食べない?籠りっきりじゃタイクツだよ。」
「一理あるな。行こうキルリア。」
「うん!でも・・・」
 キルリアは散々打ち負かした三人に視線を向ける。
「暫く使い物にならないだけだ、気にするな。」
 そしてバイツはキルリアと手を繋ぐと部屋を出て行こうとするイルの後を追った。



「ミコ様、いかがなさいました?」
 散歩の途中、広場のベンチに座って休憩しているミコの夢見心地な表情を見て隣に座っていたサーナイトがその理由を訊いた。
「んー・・・バイツ君にキスしちゃった。」
 包み隠さない簡単な一言はその場の空気を止めた。
 クチートが静寂を破る。
「チューしたの?」
「うん。寝てるところに。」
 犯行内容をさらりと語るミコにミミロップが確認をする。
「嘘だよね・・・?」
「本当・・・柔らかかった。」
 唇と唇が触れた瞬間を思い出すミコは顔を紅くする。
 その様子を見たバシャーモは口を開く。
「皆、聞いておくれ。ミコは顔に出やすいタイプでね・・・」
 怒りをはらんだ笑みを浮かべてミコを見る。
「嘘は隠せないけど本当の事はもっと隠せないんだよ。今がその表情。」
 ルカリオも溜息を吐きながら鋭い視線をミコに向ける。
「今ほど波導を感じる事が出来るのを恨めしく思った事は無いな・・・嘘はついていない。」
 付き合いによる経験と波導がそれを事実だと証明した。
 そしてその一同が騒がしくなる。
「どうして寝込みを襲ったの!?マスターがかっこいいから!?」
 と、よくバイツの寝込みを襲うミミロップが叫ぶ。
「だって可愛いからしょうがないじゃない!いつもはクールでかっこいいんだけど時たま見せる女の子みたいな顔が可愛くてでもそれが男の子だって言い聞かせると変な感情が生まれちゃって今回だって無防備で小さな寝息を立てて寝てるんだよ!?もうこれ襲ってくださいって言ってるようなものじゃない!服はだけてたら一線越えてた!」
「・・・女の子の様なお顔をしたマスター・・・無理矢理襲った私を涙目で見ながら・・・それでも両手の縄を解けるのに解かないで・・・」
 ミコの謎の熱弁を聞いたサーナイトはその言葉の所為で更に妙な妄想をし、鼻血を出しながら自分の世界へと入っていった。
「サナお姉ちゃん。鼻血出てるよ。」
 クチートの声は届いていない。
 実のところそういう妄想に至らなかったのは一番幼いクチートだけであった。他の面々はサーナイトを筆頭にそんなバイツを想像し悶々とし始める。

711名無しのトレーナー:2018/03/09(金) 02:24:54 ID:sv0NcSn2
 ルカリオが踵を返す。
「よし、その可愛い顔が事実かどうかを確かめる為に私はホテルに戻る。」
 彼女は冷静に見えて冷静ではない。
 そんなルカリオの肩を掴むバシャーモ。
「今のあんたの考えている事が読めるよルカリオ・・・だから行かせられないねぇ・・・あたいが行く。」
 その騒ぎはかなり目立っている事を知らない。
 そして「彼女」はすぐに一行を見つける事が出来た。
「随分と仲が良いのね。ミコ?」
 その声はミコの耳にすぐに入り、ミコはその方向を振り向いた。
 そこに居たのは長い黒髪の女性。
「ハーイ。元気?」
「レイリン!」
 ミコはレイリンに近寄ってハイタッチした。
 子供の様に無邪気に再会を喜ぶミコを見てレイリンは笑った。
「変わって無くて安心した。」



 近くのオープンカフェで話しをする事にしたミコとレイリン。当然サーナイト達もついていく。
「ふーん、じゃあその子達とは結構仲良くしてるの。」
「うん、そうなの。」
 メロンソーダを飲みながらミコは楽しそうにレイリンとの話しを進める。
「私はてっきり毎日のように輪姦されてて肉便器状態。与えられる食事は精液だけとかいう状態も想像していたんだけど?」
 声を潜めようともしない物凄い発言。周囲の客の動きが止まる。
「レイリン?その・・・今このカフェでモーモーミルクフェアやってるの知ってる?」
「だから?」
 今居る場所の事などお構いなしのその言葉にサーナイト達もただただ驚くばかり。
「でも・・・バイツ君にならそういう扱いされてもいいなー・・・」
 ミコもおかしな発言をし始める。
 しかし、サーナイト達は理解していた。バイツ達が自分達やミコに対してそういう扱いをしない事を。それをしなければならない状態になったのならば彼等は永遠とも取れる自らの命を終わらせる方法を探し出して即座にそれを実行する事を。
 ふとサーナイトは妄想を始めたミコを無視し始めたレイリンが自分を見ている事に気付いた。
「・・・?」
「自分からこの旅についてきた・・・強制される事も無く・・・ってところかしら?」
 サーナイトは驚いた。その事について話した記憶は無い。
「ど・・・どうしてそれを・・・?」
「んー・・・勘に近いものかしら。何となくそういう表情をしているから。」
 レイリンの鋭い洞察力にサーナイトは驚かされる。
 その時怒鳴り声が聞こえた。
「さっさとみかじめ料払えや!そうすりゃこの店を護ってやんよ!」
 複数の男が店長らしき人物を取り囲み、「交渉」を行っていた。
 自己紹介をされなくても雰囲気や外見そして今の行動でどういう連中かは分かる。
 周囲の客が逃げたりする中サーナイト達は現実世界に戻ってきたミコとそんな親友を眺めながらストローでジュースを飲むレイリンに視線を向ける。
 二人は至って冷静で普通にまた会話を始めた。まるで男の怒鳴り声など埒外にあるかのように。
 そんな彼女達に男達は気が付いた。
 怒鳴っていた男が近づいて来る。
「別嬪さん揃いじゃねえか、どうよ?ここの馬鹿共の説得が終わったら・・・」
 荒すぎる口説きにレイリンは冷たい視線で答える。
「冷たい視線だな姉ちゃんよぉ・・・決めた!この場で調教してやる!」
 勝手に話を進めていく短気な男はレイリンに向けて拳を振り上げた。
 そして一秒後には振り下ろした腕を取られて捻じり上げられて地面に組み伏せられていた。
「あら残念。」
 余裕のレイリンが煽るような形でそう口にした。
 男達は仲間がやられたと分かるとサーナイト達を取り囲み武器を取り出す。
 ところが全員が武器を出しきって一秒もしない内に、華麗に立ち上がったサーナイトが踊る様にくるりと一回転すると念波で綺麗に全員の武器だけを吹っ飛ばした。
「ナイス!サーナイト!」
 そう叫んで近くにいた男に蹴撃を食らわせるミコを皮切りにミミロップ、クチート、ルカリオ、バシャーモが男達を自らが得意とする戦闘スタイルで倒していく。

712名無しのトレーナー:2018/03/09(金) 02:26:12 ID:sv0NcSn2
 十秒後、打ち倒された連中は全員が信じられないと言った顔で倒れていた。
「クソッ・・・テメェ等何モンだ・・・!」
 腕を捻じり上げられている男がそう言うとレイリンが男の眼前に警察手帳をぶらつかせ、中を開いて見せる。
「こういう者よ。」
 レイリンの正体を知った男の顔色が怒りの紅から恐怖の青に変わるのに時間は掛からなかった。



「警察だ!」
 通報を受けて警官が現場に駆け付ける。
 既に抵抗しない男を押さえつける。
「すいません・・・!」
 苦しそうに男は謝る。
「何が目的だ!」
「すいません・・・!」
「物か!お金か!」
「違います・・・!」
「特に部屋に異常は今のところありませんか!?」
 店長に警官が訊く。
「特に異常はないですけどこいつ布団の上で枕を抱えて・・・」
「布団の上で枕を・・・?!抱えて・・・?」
 それがこの件の最重要事項とでも言わんばかりに警官の声に熱が入る。
「多分変態だと思うんですけど。」
 店長の名推理。しかし困った事にサーナイト達が今経験してきた事と証言がとてつもなく大きく食い違っている。寧ろ別の事件。
「ここはお部屋では無くてお店では・・・?それに布団の上で枕とは一体・・・?」
 その様子を見ていたサーナイトが不思議そうにそう言った。
「突っ込まない方がいいよサナサナ。時空の壁を越えてやって来た警察官だと思うから。」
 ミミロップはその言葉を口にして自分とサーナイトを納得させた。
「あなた達やるじゃない。助かった。」
 レイリンがサーナイトとミミロップとクチートとルカリオを見比べながら笑みを浮かべてそう言った。
「武器を落として怯んだ一瞬の隙を突く。相当連携が取れていないとできない事よ。」
「お役に立てたのでしたら幸いです。」
 サーナイトも微笑む。
「ミコなんかよりも断然強い。何か特訓でもしてるのかしら?」
 ミミロップはレイリンに軽く見られ一人で怒り始めたミコを尻目に口を開いた。
「マスターを護りたい、マスターの力になりたい、って気持ちが強いだけかなー」
「それはその「マスター」に言われてやっている事じゃないのね?」
 クチートが真面目な表情を浮かべて答えを返す。
「あたし達が決めたの。マスターに護ってもらうだけじゃ駄目だって。」
 レイリンがその時感じた事はその言葉を言う様に叩き込まれた訳ではなく、本当の彼女達の心の底からの想い。
「それにマスターならばあの程度の連中、私達が動く前に片付けている。情けない話だが動きが見えない。」
「ふーん・・・」
 ルカリオの話を半信半疑で聞いたレイリンはミコとバシャーモに視線を送った。二人は本当であるという意味を込めて頷く。
「でも自分からそうしたいって想いは立派ね。アブソルにも見習ってほしいわ。」
 そこでミコがハッとしてレイリンに一つ質問をした。
「アブソルは・・・どこ?姿が見えないけど・・・」
「迷子。何処かで何かしらしてなきゃいいけど。」
 軽く言い放ったレイリン。彼女はこれでも心配している方であった。



 その迷子になっているアブソルは公園で殺気立っている男達の前に立っていた。
 彼女の後ろには少女とフォッコが怯えながら男達を見ていた。
「この子がちょっとぶつかっただけじゃない。そんなにカッカしないでよ。」
 相手を馬鹿にするような笑みを浮かべながらアブソルがそう言った。
「うるせえ!そのガキがぶつかって俺の服が汚れたから怒ってんだよ!クリーニング代請求するから親の所に連れてけってんだよ!」
 何があったかは男の発言で大体分かったがそれでも周囲の人間は誰も助けようとしなかった。
「もういい!袋叩きにしてやる!」
 勝手にキレた男。
「取り囲め!」
 男達が広がりながら塊から輪を作る様な形で取り囲む。完全な円にはなっていないが。
「んー・・・やるの?」

713名無しのトレーナー:2018/03/09(金) 02:27:11 ID:sv0NcSn2
 呑気にそう言ったアブソルの言葉は更に男達を怒らせる。
 ふと、アブソルは背後に三つの気配を感じた。
 急に現れたその気配。男達に後ろを取られたのかと思い後ろを見る。
 その三人は後ろにあった街の案内を見ているだけだった。
「さて、何を食べに行く?どこもかしこもモーモーミルクフェアってやつをやっているみたいだが?」
「僕甘酸っぱいのがいいなー、イルお兄ちゃんはどんなのが食べたいの?」
「ボクも今は甘酸っぱいのが食べたいなー、ねえねえバイツ、キルリア、このお店行ってみようよ。」
 何事も無い様に会話をする三人。黒い髪と金色の髪の少年、そして緑色の髪のポケモン。アブソルはその三人を見て不思議な感じがした。
「何よそ見してんだボケェ!」
 先程からよく喋っている男がアブソルに向かって突進し手を伸ばしてきた。
 アブソルはこの程度ならば見なくても察知してかわす事が出来た。
 しかし今回はそれをしなかった。
 包帯が巻かれた右手によって男の手が止められていたので動く必要が無かった。
 その包帯が巻かれた右手の主であるバイツは呆れた様な目で男を見ていた。
 表情を変えないまま枯れた細い小枝を折るかのように曲げてはいけない方向に男の腕を捻じ曲げた。
 骨が折れる音が数回鳴ったかと思いきや次はその激痛で男が悲鳴を上げた。
 幾つも関節が増えた腕を見ながら地面に倒れ、泡を吹き白目をむく。
 男達もアブソルも少女もフォッコもその光景を見て思考を停止させた。
「キルリア、あのオジサン達脅せば逃げると思う?」
「無理だねイルお兄ちゃん。今は現実が見えてない状態だもん。」
 素早く男達の感情を読み取るキルリア。イルはそれを聞いて殺気をはらんだ笑みを浮かべた。
「じゃあ殺そう。」
 男達はイルの殺気に気付き思考を戻す。そして一番効果的な行動に出た。
「にっ・・・逃げろー!」
 誰かが叫んだ。
 男達は背を向けて駆け出した。
 最後尾を走っていた男の背中に何かがぶつかりその男も転倒し気絶する。
 それもその筈投げつけられたのは腕を折られた男だった。
「ゴミは各自でお持ち帰り下さい。」
 男を投げたバイツは逃げていく男達に向かってそう言い、手を振った。
 バイツはアブソルと少女とフォッコの方を振り向いた。
 少女とフォッコはバイツのその戦い方に恐怖を覚えたが自分達に向けられた心配そうなそして優しい表情を見て安堵感が勝ったのか泣き出した。
 その二人のハンカチ代わりになる為にバイツはしゃがんで二人を抱き寄せた。それを見ていたアブソルは目を輝かせた。
「すごーい!」
 颯爽と現れて目の前の脅威を排除し、心のケアも欠かさない。それだけでアブソルはバイツに心惹かれ始めた。
 バイツとアブソルの視線がぶつかる。
「大丈夫?」
 バイツのその微笑みはアブソルを恋する少女へと変えた。
 先程とは違う目の輝きを向けられたバイツは一瞬左前脚のメガバングルに視線を移したがすぐにアブソルの顔に視線を戻した。
 軽い足取りでバイツに近付くアブソルは両前足をバイツの体に掛けて頬を舐め始めた。
 それを見ていたイルが某漫画家に似ているウリ専の調教師の様な言葉を呟いた。
「落ちたな・・・」
 更にそれを聞いたキルリアも一言。
「縛らなきゃ・・・」
 暇な二人はネタに逃げようとしていた。



 少女とフォッコを無事に親元に送り届けたバイツ達は公園から離れたファミリーレストランで当初の目的である「甘いもの」を食べようとしていた。
 アブソルは座っているバイツの膝の上に背を伸ばして座ってあれこれと聞き出そうとしている。
 別にバイツは隠す事も嘘をつく事も無く色々と話した。
 会話の中で分かったのは平均より小柄なアブソルは幼い少女だという事。年齢的にはキルリアとクチートよりも少し上といったところ。

714名無しのトレーナー:2018/03/09(金) 02:28:17 ID:sv0NcSn2
「ねえねえバイツ君。パンケーキにかかってるホイップクリーム食べてみたい!いちごソースも付けて!」
 バイツを「君」呼ばわりするが子供っぽさを隠そうともしない。
 それでもバイツはそこに触れずにスプーンでパンケーキの上にかかっているホイップクリームに苺の果肉付きソースを付けてアブソルに差し出した。
 口にそれを入れて満足そうな笑顔を浮かべるアブソル。
 そのスプーンでバイツも少しソースを掬って口に運ぶ。
「あ・・・」
 それを見たアブソルは驚きのあまり咄嗟の言葉が見つからなかった。
 アブソルの視線に気付いたバイツ。
「ゴメン・・・嫌だったか?」
 謝るバイツに対しアブソルの浮かべた表情は喜びそのものだった。
「間接キスしたって事はあたしに気があるって事だよね、そうだよね!」
 また目を輝かせてアブソルはバイツを見た。
 そんなバイツにイルが悪意丸出しの笑みを浮かべ視線を向ける。
「ねーバイツ、ミントあげるからさパンケーキ一枚頂戴?」
 と、イルがストロベリーパフェの上に乗っていたミントを差し出そうとする。どう見ても公平じゃない取引。
「この馬鹿殺したい・・・」
 とても残念そうにバイツはそう言った。
 キルリアはストロベリーシェイクを若干太めのストローで吸いながらバイツとアブソルを見た。
「まあ考えてもしょうがないか、モテるのは分かる気がする。だってバイツお兄ちゃんだしね。」
「俺がモテるって?そんな・・・こ・・・と・・・」
 正直、異性には好意を持たれる行動を取り続けている。大抵がトラブル絡みだが。
「あ、いい事思い付いた。バイツお兄ちゃん今度何処かの街で髪型を弄って顔を見せた状態で女の人ナンパしてみてよ。百人中何人成功するか知りたくなってきた。」
「じゃあ、百通りのシチュエーションと百通りの口説き文句と百通りの別れ方を一緒に考えてくれよ?」
「ゴメン、無理。やっぱりこの話忘れて。」
 ふとアブソルが不思議そうな顔をしてバイツとキルリアを交互に見た。
「髪型を弄るって?どういう事?」
「何だか俺は見た目を少し変えるだけで雰囲気が著しく変わるらしくてさ。」
 バイツは顔全体が見える様に髪を掻き上げる。
 それを見たアブソルはバイツがサディスティックな笑みを浮かべるこの世のものとは思えない美形の俺様系王子に見えた。
「ポケモンから見てもイケメン・・・」
 見惚れるアブソル。
 すぐに髪を普段通りの無造作に伸ばした形に戻すバイツ。
 瞬時に四人は店の入り口に視線を向けた。
「アブソルが言った通り連中俺達を見つけたな。」
「でしょ?災いを察知できるっていうのは結構便利なんだよ?」
 得意気にアブソルがバイツに言う。
「それ言われたのあの二人を送る途中だよね。結構前に察知できるんだ、凄いね。」
 イルなりにアブソルを褒める。
「ここに居ても感情が読み取れる・・・怒りと余裕が入り交じってる。」
 キルリアがそう言い終えた時店の中に大人数のガラの悪い男が入って来る。
 一人がバイツ達を指差した後、ぞろぞろと向かって来る。
「テメェ等か、公園で俺の仲間を痛めつけてくれたのは。」
 一人の男がガラの悪そうな声を出して四人を威圧しようとした。
「傘下の店を増やそうとした仲間もパクられたから苛ついてんだ。タダじゃ済まさねえぞクソが!まずはあいつの折られた腕の恨みから晴らしてやる!」
 声を荒げる男に対し、バイツとイルは薄ら笑いを浮かべた。
「仲間だって?いや失礼、「恋人」を傷物にされたから苛ついているとばかり。」
 かなり卑劣なバイツの煽り。
「あの折られ方じゃ暫く「シゴいて」もらえないね。あーあ、歯を全部叩き折ってやればよかったかも、そうすれば「具合がいい口」になるかもよ?」
 イルに至っては卑劣というより下品な言葉。

715名無しのトレーナー:2018/03/09(金) 02:29:00 ID:sv0NcSn2
 顔を歪ませて怒りの表情を浮かべる男。
 その表情を見たキルリアの顔を一滴の汗が伝った。
「ねえ皆、この怒りの感情は図星を突かれた感じのものだよ。」
 バイツとイルとアブソルが一瞬硬直する。
 カードゲームで叩きのめされて今もなおホテルの部屋で落ち込んでいる出番無しの忍者の感情すら読み取れるキルリアが間違える訳がない。しかし、イルとアブソルはともかくとしてあのバイツですら怒りの感情を読み間違えていてほしいと思っていた。
「俺と奴は来週挙式だったんだよ!もう許さねえ!マジでぶっこ―――」
 急に男が黙って倒れた。
 近くにいた仲間はその顔を覗き込んで絶句する。
 パンケーキを切る為のナイフが左目を貫いていた。柄尻以外見えない程深く刺さり男を絶命させるには十分な一撃だった。
 ナイフを投げたバイツは冷や汗を滝の様に流していた。
 イルは笑顔を引き攣らせて一言。
「気分悪くなってきた・・・」
 ふと、バイツが妙な事を口にする。
「俺とキルリアの組み合わせはナシ?」
「アリでいいんじゃない?二人共チョット表情変えれば女の子に見えるし。」
 「本物」を見てしまった為か変な方向に話しが進む二人。
 だが、男達に対する敵意と殺意を消した訳ではなかった。



 五分もしない内に四人は店から出てくる。
 バイツは気怠そうに首を鳴らし、イルは背伸びをする。
 キルリアとアブソルは店内を見るかのように振り返った。
 ほぼ一瞬とも取れる惨劇を誰もが信じられずに店内に彩られた「紅」と転がっている男達を凝視していた。
「簡単に連中根城の場所を吐いてくれたね。」
「暴力で解決を望んだ連中だ、暴力で終わらせてやろうじゃないか。」
 軽く話す二人の顔には笑みすら浮かんでいた。
「キルリアはアブソルのパートナーのレイリンっていう刑事さんを捜す手伝いをしてくれ。」
 更なる惨劇を見せない様に一旦別れようとする。
 キルリアは不満そうな表情を浮かべたが一言言うだけに止めておいた。
「街をふっ飛ばさないでね?」
「分かってるさ。」
 バイツはそう言うとイルと共に「何時ものゴミ掃除」に向かった。
 その背中を見てアブソルが口を開く。
「バイツ君とイル君って凄いなー・・・あんな事をしでかしても平然としてるんだから。」
「さっきバイツお兄ちゃんが話してたけど後三人いるよ。落ち込んでるけど。」
「いるって事だけは分かったけどどんな感じの人達?」
「ガンスリンガー、デモリッシャー、ニンジャ。」
「・・・バイツ君の方がカッコ良さそう。」
「んー・・・そだね。」
 今の状態の三人が聞いたらさらに落ち込みそうな台詞をさらっと吐く二人。
 キルリアとアブソルはバイツとイルが歩いていった方向とは逆に歩き始めた。



「何か慌ただしく動いてるわね。事件かしら。」
 と、レイリンが走っている警官を見ながら言った。
 一応迷子のアブソルを捜している一行。
 しかし、傍から見ればただの散歩の様。
「あー!いたいた!」
 アブソルがキルリアと共に一行を見つけた。
 人通りが少なくなった通りでばったりと出会えたレイリンとアブソル。
「今度は何処に居たの?木の上で寝ていた訳じゃないわよね。」
「んー・・・」
 アブソルは「王子様」に出会った事を言おうかと思ったが色々と話さなければならなくなるので話をはぐらかす事にした。
「ホモを見てた。」
「何言ってるの?」
 そんな二人を尻目にキルリアはサーナイトに近付いた。
「どの様な経緯で出会ったのですか?」
 若干端折った部分はあったがキルリアは一通り説明した。
「・・・マスター・・・」
 サーナイトは心配そうにそう呟いた。
 その時全員のメガバングルが反応を見せた。
『ダークナーの気配がします・・・何故急に・・・しかし、この反応は・・・?』
 サーナイト達は辺りを見回す。

716名無しのトレーナー:2018/03/09(金) 02:29:53 ID:sv0NcSn2
「私を捜しているのでしょうか?」
 空から金色の髪をした一人の男が降ってきた。
 人間では無い様にゆっくりとそして音も無く地面に降り立つ。
 黒を基調とした何処かの貴族の様な衣装を着た男はサーナイト達を睨み付けた。
「貴女方が我々に歯向かうポケモン達ですね?私の名はヴァルド。」
 ヴァルドは左手を腹部に添えて右手を後ろに回し頭を下げた。
 サーナイト達はその動作に恐怖を感じ咄嗟にメガシンカした。
「死ぬまでお見知りおきを。」
 冷たい視線がサーナイト達を捉えた。
「なーに気取ってるの?」
 軽い足取りでメガシンカしたアブソルが前に進み出た。
「悪いけどすぐに終わらせるよ?っていうかダークナーっぽいから斬ってもいいよねレイリン。」
「そうね、手加減するとヤバそうだし。それに見た感じ簡単には死ななそうだから本気で行っていいわよ。」
 その言葉を聞いたアブソルは口元に小さく笑みを浮かべると、ヴァルドに向かって突進していった。
 サーナイト達を驚かせたのはその速度。突進した後ろ姿を見たと思ったら既にヴァルドに跳びかかっていた。
「速度もそうだけどアブソルは自身の最高速度に達するまでがとてつもなく短いのさ。」
 アブソルと共に戦うのは初めてではないバシャーモがそう言った。
 鋭い一閃がヴァルドの体を斬り裂いた。
「ごめんねー?でも―――」
 斬り裂いたヴァルドに目を向けてまだ宙を跳んでいるアブソルは言葉を止めた。
 ヴァルドの体が大量のカードに変化して散っていく。
 それが何かしらの力で形成されたカードだと理解した瞬間に真横で声が聞こえた。
「遅いですよ。その程度の速さは見切れます。」
 二本の指で挟んだカードを振りかぶりアブソルを斬り裂こうとするヴァルド。
 そして、その手が振り下ろされた。
 だが次はヴァルドが絶句する番だった。
 空中で体勢を変えてその一撃をいなしたアブソル。綺麗に着地を決める。
「こういう事も出来るの。」
 笑みを浮かべそう口にしたアブソルの背後で小爆発が起こった。
 次々とアブソルを目掛けて何処からともなく襲って来るカード。それをサーナイトの念波が次々と撃ち落としていく。
 仕掛けたトラップを易々と破られ口元を歪めて歯ぎしりするヴァルドにルカリオが放った「はどうだん」が襲い掛かる。
 カードを投げ放ち相殺したつもりだったがその「はどうだん」の陰に隠れてエルレイドが接近し「サイコカッター」を振るう。寸前でそれを避けたヴァルドを追い立てるかのようにミミロップとバシャーモの蹴撃が放たれる。速度はあるが決め手に欠ける二人の連続攻撃にヴァルドは眉を顰めた。ミミロップとバシャーモもそれを分かっていて深追いしなかった。そして二人は急に互いの間を空けた。その空いたスペースからクチートがヴァルドに突撃し大顎を振り回すかのような一撃をヴァルドに叩き込んだ。
 クチートの非常に重い一撃を受けて吹っ飛んだものの地面に手をつき上手く着地するヴァルド。
「何かあんたヤバそうな奴だからタコ殴りにしちゃうからね?一対一じゃなかったから勝てなかったって言い訳は聞いちゃわないよー!」
 そう言いながら構えたミミロップと共にサーナイト達も構える。
 立ち上がるヴァルド。まだ勝負はついていない様であった。
「手加減をしていて申し訳ありませんでした。」
 憐みの視線をサーナイト達に向けてそうヴァルドは言った。
「まずは五パーセント程の力で様子を見ていました。調子に乗られると困るので五十パーセント程の力を出しますが・・・一分以上生きていたければその連携を崩さないで下さい。」

717名無しのトレーナー:2018/03/09(金) 02:31:51 ID:sv0NcSn2
 言葉通りに更に力を引き出したヴァルドから放たれる周りの空間が歪んで見える程のオーラを感じたサーナイト達。
 最悪な事に身体が動かなかった。
 それはヴァルドの能力といった類のものでは無かった。
 本能が感じる恐怖による身体の硬直。呼吸すら止まってしまいそうだった。
 更に背後からも異常なまでの圧を感じた。
 全員が冷や汗を流しながら動かない身体を動かそうとする。
 そして目の前のヴァルドが苦い表情を作ってサーナイト達の背後に居る存在に視線を向けた。
 その背後に居た存在はサーナイト達に向けて圧を放っていた訳ではなかった。
 視線だけが動かせる状態でその人物を見る。
 ヴァルドに向かって歩いている人物はバイツだった。そしてその後ろにはイル。
 若干睨んでいるだけの様に見えてこの世の者とは思えない程の強い殺気を放っている。
 バイツが現れた安堵感からか若干身体を動かせるようになったサーナイト達。
 そしてサーナイト達を背にバイツは立った。
「・・・刻んであげますよ。大人しく死んでください。」
「なら、終わらせてみろ。前のお仲間みたいになるなよ?」
 静かに堪忍袋の緒が切れたヴァルドが攻撃しようとほんの少し動いた時にはバイツの右拳が腹部に音も無くめり込んでいた。
 その一瞬後に聞こえる鈍い打撃音。
 バイツがほんの一秒程前に居た場所付近からは高速で動いた事によって衝撃波が発生していた。
 大量に吐血しながら吹っ飛ぶヴァルド。今度は地面に倒れる。
「常に二パーセント程の力しか出していないんだが今は五パーセント程に引き上げさせてもらった。」
 その声を聞けるほどの余裕はヴァルドには無かった。
 バイツはヴァルドに向かって歩き始める。
「どうだ、臓器を潰された感想は。」
 返事代わりに大量の血を吐くヴァルド。
 後悔の時間を作ってやっているのかの様にゆっくりと接近するバイツ。
 すると音も無くバイツの眼前に黒い影が降り立ち素早く鋭い打撃をバイツに繰り出す。
 余裕といった表情で攻撃を次々とかわすバイツ。
 更にその黒い影の背後に何かが降ってきた。
 その降ってきた大男を確認した影の正体はドルヴで大男の正体はヴォルツだった。
「化物ちゃんよぉ、すり潰される覚悟はあるのか?」
「ドルヴ、その化物を片付けろ。俺は金髪の優男の方から狩る。」
「了解ヴォルツちゃん。ヴァルドちゃん、ちょいと難しいかもしんねえけど身体動かせるようになったら「門」を開けてくれや。」
 そう言ってドルヴはバイツに向かって行った。



 自分が何をされたのかドルヴは理解できなかった。
 彼の目の前には地面があった。そして身体は動かない上に感覚が無い。
「が・・・ぁ・・・!」
 声すらもまともに出せない。
 そんなドルヴを見下すバイツ。
 バイツにしてみればドルヴが一撃繰り出す間に三十六発程の右手による打撃を叩き込んだだけであった。
 横目でイルの方を見たバイツ。
 イルが笑みを浮かべ目の前で血塗れで倒れているヴォルツを見ている。
 無邪気な笑みではなく嘲笑っている笑みで口を開いた。
「ボク肉弾戦苦手なんだー・・・だから加減が聞かなくてごめんね?」
 その言葉が慰めになるとは到底思えなかった。
 刹那、「門」が開いた。
 そして、バイツとイルのそれぞれの周囲に二、三枚のカードが配置される。
 ヴァルドが仕掛けたそれを見た「この様でも一番被害の少ない」ヴォルツは起き上がった。
 それと同時にカードが二人を同時に襲う。
 二人は難なく右手でカードを払ったが煙が起こり、視界が利かなくなる。

718名無しのトレーナー:2018/03/09(金) 02:34:16 ID:sv0NcSn2
 その隙にヴォルツはヴァルドとドルヴを担ぎ「門」の中へと飛び込む。
 「門」が閉じた後で煙が晴れる。
 バイツが小さく溜息を吐いて、イルが呆れたような笑みを浮かべ肩を竦めた。
 メガシンカ状態を解除したサーナイト達にバイツは近付いた。
 先程の圧を放っていた同一人物とは思えない程の安心しきった笑顔を向ける。
「怪我は無いか?」
 サーナイト達も安心し笑顔をバイツに向ける。
「やっぱバイツ君強すぎでしょ・・・」
 ミコも安心した表情を浮かべたがレイリンは真面目な表情でバイツに向かって歩き始めた。
「レイリン?」
 ミコの声を無視しレイリンはバイツの右腕を掴む。
 幾ら組み伏せる技術に長けていてもそれは常人ではないバイツには通用しない事を理解している筈のレイリン。
「ごめんなさい。任務が優先なの、抵抗しないで大人しく来てちょうだい。「特別な取調室」で話を聞かせてもらうわ。」
 そう言ってレイリンはバイツの腕を引っ張ろうとする。
 バイツは当然動かない。引っ張っていこうとする先を見てしまったのだから。
「そっち・・・ホテル街・・・」
 明らかに警察署とは真逆の方向。
「早く一緒に取り調べし合いましょうよ。ね?」
 「女性として」楽しそうに笑うレイリンを見てミコが吼えた。
「レイリン落ちたー!ギャップが激しいバイツ君見て落ちたー!女を武器にした事ないレイリンがー!」
 何故かこの瞬間レイリンとアブソルが一向に加わる事が確定した。



 それからホテルに戻ってきたバイツ達。
 夕食後ミコとレイリンが先導し、サーナイトを除く女性陣がバイツの部屋のベッドを占拠し眠ってしまった。
「何で行く先々の俺の部屋のベッドはキングサイズなんだろう・・・」
 ソファーに腰掛けて素朴な疑問を口にするバイツ。その両隣にはサーナイトとキルリアが座っていた。
「マスターと一緒に寝る事が出来ますので私は別に構いません。」
「そうだね、バイツお兄ちゃんと寝られるのはいいけど今回みたいに占領される事が多くなるかもね。」
 唇をとがらせて不満気にそう言ったキルリア。しかし、すぐに表情を戻してソファーから降りた。
「お風呂入ろーっと。」
 キレのいい動きで浴室にすっ飛んでいく。
 浴室のドアが開いて閉まる音が聞こえた時にサーナイトは一つバイツに質問をした。
「マスター、ミコ様に寝ている所を襲われたのを本当にお気づきにならなかったのですか?」
「全然。っていうか本当に唇奪われたの?俺。」
 バイツが演技している様には見えないサーナイト。
「もしかしたら・・・お疲れですか?少し前のマスターは寝ている時も警戒していた様に見えたのですが・・・」
 ふと、バイツの顔に柔らかい笑みが浮かぶ。
「皆が居てくれるっていう理由じゃ駄目かな。」
「え・・・?」
「皆が居てくれるから安心できる。あの四馬鹿じゃ絶対に出来なくて皆に出来る事。」
 何度もサーナイト達に寝込みを襲われてもサーナイト達に信頼を寄せるバイツ。そんなバイツにサーナイトは顔を紅くして体重を掛けて寄り添った。
「では、このまま眠る事はできますか?私と一緒に・・・」
「出来るさ・・・サーナイトと一緒だから・・・」
 二人は軽く唇を重ねる。
 その少し後、入浴を終えて浴室から出て来たキルリアが見たのはソファーに座りながら寄り添って寝ているバイツとサーナイト。
 何を考えたのか二人の膝上に寝転がるキルリア。途端に顔を明るくし目を輝かせる。
「これだ・・・!」
 キルリアにとって極上のベッドになった二人の膝上。
 飛んだり跳ねたりは出来ないがこれはこれでいいと思ったキルリアもそのまま寝息を立てた。

719名無しのトレーナー:2018/03/09(金) 02:35:32 ID:sv0NcSn2
まあ、この話はこれで終わり。
っていうか疑問が一つあるのですがいいですか?
pixivの方で多少前にアブソルのエロ回書いたんですよ。
そしたら何かサーナイトのエロ回並みに人気が出ちゃって・・・
ただ、自分の恋心に悩むアブソルが色々あって媚薬打たれてそういう玩具にされかけた所をバイツが助けて一時的にツンデレがデレデレになって。みたいな話なのに。
ポケモナー界で何かあったの?教えてエロい人。


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