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隔離部屋〜眠れぬ夜の姉ちゃんの為に〜

532第5話<15>:2004/09/23(木) 20:41
「ねー、かずくーん、あさごはんたべなよー」
炬燵の上に顎を乗せ、ぼんやりと沈んだ顔をしているカズナリに、
さっきからピカドンが、しきりに声をかけていた。
「なっとうとのりのつくだに、おいしいよ。ごはんたきたてだし」
心配そうにカズナリの顔を覗き込むピカドンの隣りでは、
卓上にあぐらをかいたベソとリスが、競争で白飯をかきこんでいた。

「あー……ん……ごめん、食欲ないや。お茶ちょうだい」
「んもう、しょうがないなあ」
ピカドンは、よいしょ、と台によじのぼる。
ヒト用の大きな急須を傾けやすいように、わらしたちがわざわざ作った台だ。
ポットからお湯を入れるのは、わらしたちでもさすがに危ないので、
そこだけはカズナリの役目だったが、ピカドンは慣れた調子で、
あっという間に、台の下に置かれた湯呑みにお茶を満たしていった。
「そんなことまでしなくても、お茶ぐらい俺が淹れるよ」
以前、カズナリは言ったことがある。
「でも、おちゃはさ、ひとからいれてもらったほうがおいしいんだよね」
ピカドンは笑って言った。……以来、お茶汲みは彼の仕事になっていた。


目の前に置かれた湯呑みからゆらゆらと立ち上る白い湯気を、
カズナリはぼっとしたまま見つめていた。
登校時間は迫っているのに、腰を上げる気にはなれない。

ひなたのいない場所に、わざわざ出かけていく意味なんてない。
心がそう呟くのを、理性の力を総動員させ、無理やりに黙らせる。

いい加減、出かける支度を始めなければならない。
カズナリは身体を起こそうとし、ピカドンと目が合った。
ピカドンは顔を曇らせ、じっとカズナリを見ている。

「わかったよ。ちゃんとお茶もらうから、そんな顔すんなよ」
「……かずくん、だいじょうぶ?おなかいたくない?」
「どこも痛くない、大丈夫だよ。寝不足気味なだけだよ」
カズナリは、湯呑みになみなみと注がれた熱いお茶を啜る。
起きぬけの乾いた喉に、ほのかに渋くて甘い緑茶が爽やかだった。
「あー、お前の淹れるお茶は旨いなあ」
「ほんと?よかったぁ」
ピカドンは、愛くるしい顔をくしゃりとほころばせた。

ようやく、カズナリは立ち上がった。
ほんの少しだが、救われたような気がした。


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