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隔離部屋〜眠れぬ夜の姉ちゃんの為に〜
510
:
第5話
:2004/09/17(金) 20:49
「冬の虹」(前)
<1>
休日、ピカドンは朝から張り切っていた。
うっすらとほこりが溜まった窓枠や座卓の上を、
雑巾できゅっきゅと音を立て水拭きする。
床には、カズナリが長々と寝そべり、10時を回っても目を覚まさないので、
ピカドンは、床掃除したいところをじっと我慢していたが、
もともと家財道具の少ない部屋の中は、みるみるこざっぱりとしていった。
すっきりと拭き清められ、つやりと光る座卓の上で、ピカドンは朝茶をたてると、
畳の上に毛布1枚で転がっているカズナリに、そっと声をかけた。
「かずくん、おちゃいれたからのみなよ」
「おー、朝茶だー」
煎茶のたてる香気に引き寄せられ、わらしたちも集まってきた。
「んしょ」
ベソが卓の上で、あの風呂敷をばさりと煽ると、小さな茶色の饅頭が、10個ばかり転げ出てきた。
「それ」
もう1度。今度はカズナリの好きな、硬くてしょっぱい煎餅が、
からからと乾いた音を立てて落ちてくる。
「んー……」
カズナリもようやく目覚め、目をしょぼしょぼさせたまま、円座に加わる。
「きょうは、ひなたちゃんあそびにこないの?」
カズナリが、たまり醤油のきいた煎餅をがりっとひと齧りしたとき、
ピカドンがお茶を啜りながらたずねた。
「そういえば、こないだのデート以来顔見てないなぁ」
もごもごと饅頭を頬張ったまま、リスも呟く。
「んぁー?……だって、仕方ないだろ、受験もそろそろ追い込みなんだから」
「そっかぁー……」
秋は深まり、季節は冬との境目にさしかかっている。
今年はどうやら暖冬らしく、東北の街はここ何日か小春日が続いていたが、
それでも夜更けと朝方は冷え込みがきつい。
カズナリは、いつ座卓を炬燵に切り替えようかと、様子をうかがっているところだった。
「お前ら、この時期の浪人生の必死さを知らないだろ。
予備校にでも行ってみな、みんな目の色変えて、休み時間も参考書から目ぇ離さないんだから」
「ふぅん。かずくんも、きのうおそくまでべんきょうしてたもんね」
「まあな。でも、ひなたの志望校は、俺よりはるかにレベル高いから……」
「もっと必死だよ」と言いかけて、カズナリはふと眉をひそめる。
ひなたは、噂どおり、東京の医科大学を志望していた。
もしひなたが合格すれば、カズナリとは離れ離れになる。
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