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隔離部屋〜眠れぬ夜の姉ちゃんの為に〜

494<11>:2003/12/11(木) 21:27
カズナリとひなたが、肩を並べて歩くその歩調に合わせ、バッグはリズミカルに揺れる。
辺りはとっぷりと日が暮れ、バッグの中はしんと真っ暗だ。
深夜になっても中途半端に明るい都会の夜よりも、彼らにはむしろ真っ暗な闇が心安い。
生まれ育った山の夜、星だけがぎらぎらと全天に瞬く真っ暗闇を、
わらしたちはそれぞれ胸に思い描いている。

「ぐふ……」
底のほうで、苦しげな呻きが聞こえた。
一日中不安定に揺れ動くバッグの中で、酒をやっていたせいで、
珍しくベソが悪酔いしたのだ。
「べそくん、だいじょうぶ?」
ピカドンが、さっきからしきりに、手のひらを扇いでは風を送ってやっている。

「……やられちまったなあ」
硬いキャンバスの布地に背中を預け、リスが誰にともなく呟く。
「あんなに、上手いこと行くなんてなー」

いっとき肩から降ろされたバッグの隙間から、わらしたちが家主の挙動を一部始終目撃していたことに、
カズナリはまだ、気づいていない。

「結構大胆なんだな、あいつ」
家に着いたら、どんな言葉でからかってやろう……一人考えて、リスはほくそえむ。

「あいつら、このまま上手くやってけるといいな」
リスは、目の前でさっきから黙りこくっているオガミに、何気なく話しかけた。
オガミは、髪も目も黒い。闇の色に融けだしそうな漆黒だ。
リスは目を凝らし、その表情を伺う。
閉ざされた闇の中で、オガミの黒い瞳は、不思議に強く光っていた。

「さあな……どうだろ」

瞳に宿す黒い光を、中空のどこか一点に鋭く放ちながら、オガミは静かに答えた。
「何だよ、気取りやがって」
浮かれた気分に水を差されたようで、リスはふん、と鼻を鳴らす。

今はただ、懐かしい闇に沈む。明日は、誰にも見えない。
リスは黙り、疲れた目をゆっくり伏せた。
少し、落ち着いたのだろう。ベソの寝息が聞こえてきて、更に眠気を誘われる。

カズナリをからかう、どころではなかった。
家主の初デートに1日付き合い、疲れ果てたわらしたちは、
結局、バッグの中で眠り込んだまま、翌朝まで目覚めなかったからだ。

<第4話「君から吹く風」・おしまい>


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