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隔離部屋〜眠れぬ夜の姉ちゃんの為に〜

492<9>:2003/12/11(木) 21:22
街のはずれを、清流が横切っていく。
晴れの日が続き、水量の少ない川の流れは、まったりとのどかだ。
西の空が、濃い茜色に染まっていくにつれ、水面も同じ色の光を遠く近くで放ちだす。

ごつごつと石まみれで、足場の悪い川原を、2人で歩く。
ひなたが足を取られないよう、カズナリは手を取って支えながら、慎重に歩を運んだ。
間もなく、陽はすっかり山影に隠れるだろう。
周囲から人影は消え、誰かが焚いたらしい火の跡から、薄くて細い煙が立ち昇っていた。

ここを訪れるのは、相当に久しぶりのことだ。
高校時代、カズナリはよく、校舎に近いこの岸辺に一人で来ていた。
大抵、胸にもやもやが溜まったときに。
清冽な水の流れや、切り立った崖のあちこちに無造作に生えた木が紅葉するさま、
そして何より、ここから見る夕景は、溜息が漏れそうに美しくて、
ぼんやりとそれを眺めているだけで、カズナリは気が安らいだのだった。

「すごい、夕陽だねえ」
輪郭を滲ませながら、遠い山の稜線に身を潜めようとしている夕陽に手をかざし、
ひなたは目を細めて呟いた。
「ここ、N高の近くだよね?」
「うん。よく来てた」
「授業フケたり?」
「煙草吸ったり、後輩呼び出して殴ったり……ってコラ。俺はどこのヤンキーだって話だよ」
「あははぁ」

川岸の大きな石の上に、2人は腰を下ろした。
話題が途切れ、さらさらと優しげなせせらぎの音だけが、傍らを静かに流れていく。
夕刻の風は頬に冷たく、ひなたは上着の前をかき寄せながら、カズナリの肩にぴったりと寄り添う。
「寒い?」
「ちょっとだけね」

僅かな−−瞬きするほどの僅かな間をおいて、カズナリはひなたの背中に腕を回す。
距離を狭めた分、2人の隙間を吹く風をしのげるように。
ひなたの着衣越しに伝わる体温の暖かさに、カズナリは戸惑いを感じる。
まるで短距離走でもしているかのように、胸が激しく鼓動を打ち出す。

「なんかさ……今日、ごめんね」
「なんで?」
「俺、あんまり話とか上手くないし、店とか知らないし」
「いいよ、すごく楽しかったもん」
「……そっか……」

「あたしさ、一応、医学部志望じゃん」
「ん?」
「何を隠そう、将来は医者になりたいんだよね」
「うん……だろうな」
「ふふっ。……一応は、対人サービス業なわけじゃない?あれも」
「うん」
「だからさ、なるべくいろんな人間を見て、その人のいいところとか、ちゃんと受け入れようって…
勉強もするけど、それも大事かなって思ってるのね」
「ふうん…なんか、すげえな」
「すごくないって。……だからさ、その、何が言いたいかっていうと……
二宮くんが黙ってても、あたし、別にかまわないよ」
「え」
「余計なことしゃべんないけど、ちゃんといろんなこと考えてて、いい人だってわかってるもん」
「あ……」
「一緒にいるだけで楽しいんだ、あたし。だから、気にしないでね」


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