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ダンゲロス流血少女MM:生徒会応援スレ
1
:
流血少女GK
:2015/08/01(土) 23:45:07
生徒会用
45
:
雨月星座
:2015/08/11(火) 01:07:37
4.5T目後星座SS 星を継ぐもの
★
ここは「メロウズホテル」のオンテーブル・ビュッフェ。
潮風が香り、灼熱の太陽も地平を暖めるには足りないそんな時刻頃、幾人かの少女たちがくるくるり、会話の喧騒の方が料理を回すより気になるそうで。
そんな中、親しげな表情で誰ぞやに語りかける一人の女性がいた。
(でねー、ハリガネムシくん。川にはカマキリが飛び込んで――)
((おいおーい、季紗季ちゃん。さっきの話は僕も聞いたよ?))
一人と言っても独り言でない二人言。だけど、漏れ聞こえはしない。気心の知れたプラトニックな友人たちはひそやかな会話を楽しんでいる。
平和な一幕――。
この女学生を少し前に通り過ぎた可愛らしい人の介在についてはご想像にお任せしますが、学生側貸切のはずのこの施設の利用が認められたことにこれから紹介する誰かが関わっているとしてもいい。
けれど、替えの効かない人間は確かにいるんだ。僕はそう信じている。
「流水に身を投げ、生態系の輪に乗るとは殊勝な心掛けだね」
「いや、別に……。それより委員長、百年前の人にしては詳しいんですね?」
サイドテールにした茶髪が揺れる。悪いけど私について特筆すべき点はないんだ、ごめん。
妙にキラキラした女の子がいた。どこで売っているのか甚だ疑問な真っ青なセーラー服の上に闇を象ったような黒い外套の組み合わせはまるで宇宙空間に抱かれた青い星のように見えた。
この人に比べると、見た目少々控えめな私が言えるポイントなんて特になくなってしまうんだ。
私の名前は倉谷風(くらやふう)。死後、自分の存在を抹消するなんてよくわからない能力を持ってしまった魔人だ。
……、臨海学校の前の日、眠れない眠れないと思いながらも、疲れているとそんな条件付けさえ忘れてしまうのかもしれない。なぜかいた羊頭の変質者とか羊の皮を被った執事さんとか、珍しい人を見たからかもしれないけどさ。ひつじがにひー、き。
「"星座"観測が好きと聞いて、なんて殊勝な子がいるんだと思ったよ」
この先輩「雨月星座(うげつ・せいざ)」は天文委員長。天文委員? って思ったその疑問は大体当たってる。天文部は去年までは、確かにこの学園に存在していた。
「この星座を見るといいよ。きみの知らない星はすべてこの星座の物だ」
……こんな調子だ。この自称百年前から来た先輩は流れ星のような手際の良さで天文部を乗っ取って、学園の認可の下に自分を崇め奉るような、そんなバカげた活動に変えてしまった。
もうこの世に存在しない星を、ここに来れば見つけることは確かだけど。
「なら委員長、あなたをお星さまにしたらどうなるんでしょー?」
十星迦南(じっせい・かなん)さんだ。天体観測とか言って、一部では土星先輩をウォッチングしている噂もあるんだ。意味が違うと思うんだけど、最近は雨がよく降るからその替わりと言ったところかもしれない。
「星座をバラバラにすると? ふふふ、面白いことを言う。あの夜空で隣り合っているなんて人間の錯覚に過ぎないよ。光年を隔て、者によっては塵と月ほどに大きさが隔たっているかもしれないのに?
星座は人の体、一所(ひとところ)に平等に集いし極小にして濃密なる一つきりの星座。一人きりの星座である!」
長大な黒髪をなびかせながら、そんなわけのわからないことを言い出しても損をしないのだから度を越した美人と言うのはイカれている。
「ブラックホールの間違いじゃあ?」
そして、それに言い返せる迦南さんもなかなか肝が据わっていた。一本調子で呑気な中に明らかに敵を混ぜていた。美人が睨み合う光景と言うのは中々に恐ろしく、二人を挟んだ位置にいる私はもっと恐ろしい。
★
46
:
雨月星座
:2015/08/11(火) 01:08:25
「ハリーのやつの尾っぽを捕まえるのは中々大変だったよ。これでも小さな頃は地球が滅ぶかもしれないと必死だったから、毎日毎日見つめたものさ」
ばさりと振り回した外套をさっと通り過ぎるようにして光が走った。
眼鏡の魔法使いでなく、七十六年に一度地球を訪れる彗星は今は地球人の慰み者となっていた。代用魚でないシシャモを頭から齧りながら綺羅星を引き連れた彼女は武勇談を語る。少々悲しそうな声で。
……言うまでもなく、雨月星座は、星を見るものすべてにとっての敵でした。
だけど、それを見たいと思うものにとって、この女は星になってしまう。幾千の星を己を着飾り立てるための道具にしてしまって。許せるものではなかったんだ。
「百年前に宇宙条約は発効されていないから。星座の星座はそのすべてが星座のものなのですね。残念でした」
盗んだ星座の数は二十から増えていない。けれど、それは絶対ではない。
法の及ばない今の内にと思って挑んだ私は星座に敗れた。日を嫌がった真っ白い肌も細い腕も、全てが侮らせるには十分だった。私と同じ、転校生に準じる実力者だと言うことを忘れさせるほどに。
……念を入れてちょっと大人しくしていたのが悪かったみたいで、久しぶりに見た委員長は酷く人間離れしていた。むしろ最初から人間だったのか怪しいくらいで……魔人を越えたなにかということを……。
たくさんの死体を引き連れてやってきた星座は、文字通り滅茶苦茶だった。
私の十字架は人を殺すには十分な破壊力を持っていたと思う。
完全に殺すつもりで放った必殺技を耐えきったと言っていいの……? あれは盾?
だめだー、トラウマがちょっと残ってるよ……。血だらけになっても笑ってたし……。
十星迦南に謎は多い。
荒事に慣れていたとしてもおかしくはないし、仰々しい二つ名を持った一般人と考えてもおかしくはない。ただ、少しばかり場数が足りなかった、それだけの話だろう。彼女に素質はある。
結果を見ると、雨月星座は能力の強力さと引き換えに酷く使いづらい。所属組織の長を崇拝し、星によって飾られた自分自身でさえもそのリーダーの装飾品へと貶めようとする姿勢は常軌を逸している。
力はあっても、全く戦力として計上できないのだ。
それに引き換え、同じく謎だけで出来ている人種であっても十星迦南は使いやすいと言えるだろう。
表が。たとえそれが表に見える何かであっても、普通の顔があるのだから。
★
47
:
雨月星座
:2015/08/11(火) 01:09:15
「このムツはメロだね。このホテルも完全無欠とはいかなかったと見えるね」
知った口を聞いているが、つい一年前まで幽閉されていた身だ。味なんて知ったこっちゃない。
幼子の頃から習い親しんできたバリツも錆びついて久しい。ようやく体が暖まって来たが、狂人の真似事をしてようやく戦闘者に届く。殺人者である鮫氷しゃちや矢達メアには掠ることもなかったけれど。
ふふっ、何をバカげたことを考えているのだろうね、僕は。
そもそも怪盗の真似事をしている僕に探偵を名乗る資格などないじゃないか。
「委員長……、これから何が起こるんでしょうか?」
倉谷風、可愛い子だ。これは僕に男としての情欲が残っていることを意味するわけではなく。
けれども、求められれば応えたいと思っている。……、体を重ね合うなどと下賤な妄想に浸るな、下郎!
おっと、三毛猫ちゃんが男の子になったらそんな風に口を聞いてあげないなんてことが出来たのですが。僕も少々桃色遊戯に興味を持っていたようです、失敬失敬。
倉谷風、彼女はその時が来れば僕を殺せる魔人です。
少なくとも殺そうと挑みかかることが出来る人種なのだからこれを称揚しないでなんとしますか?
「自分が無と消えることを生きているうちに知るのなら、それはきっと己が掛け替えのない存在であるとを自身が揺るぎなく信じているのだ」
…………。
「どういう意味ですか?」
後輩の疑問に対し、愛いヤツだ、と、今はもう奪われた、男としての僕、その残滓が囁く。
あの日、父様に――を奪われた日から僕は一生男を愛することは無いのだろうと知った。あれからずっと、女の影を追っていて――。毎日、姿見で日を置くごとに女に変わりゆく輪郭を見ていた。
直線より曲線を、丸みに抵抗するように、あまり食事をとらなくなった。
毎日置き捨てた昨日の死体は家人に持ち去られ続け、行方は知らない。あの日の夢を見続け、眠ることをやめた。星ばかり見ていた。金星が人の姿を取るのを見てしまった。
それからは星を見つめ続けている。誰でも夜を徹して見つめていれば僕の者になる。
そうしていると、目を塞がれた。その頃には女の身に自惚れるようになっていたから当然かもしれない。
探偵の家に縛られ続けたけれど、探偵であることに特別な思いを感じたことは一度もない。
痛みを与えられたことも純潔前の何かを奪われたことも、探偵とは何ら関係ないと思っているから。
探偵に救われ、感謝はしている。あの方に出会えたことにも。
与えられた自由を自分から投げ捨てる悦楽を知った。それを含めての自由なのだと知った!
だから、自分の手で一つの可能性を閉ざした彼女のことを僕は好ましく思う。あなたの見る世界はあなただけの物、他の誰かから見られたあなたがいらないと思ったその選択を羨ましく思ったかもしれない。
嗚呼、答えずもせずに、他の女を見る女を許しておくれ風よ。
そうして、思い悩む君の顔も酷く魅力的だから。少しイジワルをしたくなる。
「迦南さんのことも、僕は愛しているよ」
少し、嫌な顔をされても構わない。
色んな物をつまみ食いするその姿勢は嫌いじゃない。二人ともそう長い間じゃないけど、見せてもらったよ。特にきみの瞳の色が好きだったよ。星の色。
天狼星よりなお青い星――地球は青い。百年前では到底知り得ることのできなかった宇宙から見た明瞭な地球のカラー写真、それを見て僕は泣いたよ。
だけど、曇りのない大気などありはしなかった。泣き顔を見せないきみが少し、憎かったよ。
★
48
:
雨月星座
:2015/08/11(火) 01:09:52
――さぁ、この前哨戦もそろそろ大詰めか。
天下が取れないならせめて天上を奪ってしまえばいいと思ったけれど、案外地に足を着けた方が強かったのか、勝ち星は多くなかったんだ。
流し目を送っていれば、お星様になってくれるなんて甘い考えだったみたいだね。
「明治生まれを舐めるな、矢達メア」
貴様が何を考えているかはさっぱりわからない。けど、死人が蘇ってくるなんて愉快を許すつもりはないさ。魂はこの星の座(くら)がすべて載せていくから。
あの方の回す羅針盤に一切の間違いはなく、革命暦(カランドリエ)は命を革(あらた)める!
そうして、誓いもそこそこに一通り食事を終えた雨月星座は席を立った。
何だかんだで美味しい食べ物に夢中に見えたこの麗人である。紡いだ幾つかの言葉から彼女の何を知ることができたのかはわからない。ただ、尋常ならざることは確かであった。
夏の日は続き、降り注ぐ雨と言えば流星ばかり。
雨月星座の纏う外套の名は「墨雨」と言い、雨竜院家の有する「蕗の葉」なる商標(ブランド)に属する雨具だと言う。
節約家の彼女は、丈夫な品を好んだ。この雨具なら流星雨くらい跳ね返すだろうと思って値を見ずに選んだ。その判断は間違っていない。
文明開化の折りに在野から突如として現れた近代書道の立役者「門司秀次(もじしゅうじ)」の協力によって完成したその品は、墨子の守りに倣ったか百年を耐えるほどに堅牢で撥水性にも優れると言う。
――必ずしも過去とは未来の礎で留まるとは限らない。
未来が逆流して過去を侵すこともあり得るのだと教えてくれた。
たとえ倉谷風の未来に死が待っているのだとしても、時の流れは過去から未来へ流れていくことを祈るばかりである。
過去から未来へと脈々と流れる血、人類の歴史の中で受け継がれる血脈、流血少女。
数多の少女が血を流すけれど、その血はどうかあなただけの物ではないと知ってほしい……。
ぽつり、ぽつり……。潮騒に魅かれてやって来た十星迦南が戻って来る。
誰かの願いは雨音に紛れて消えていく。血の跡を洗い流すのもきっと雨なのだろう――。
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