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ダンゲロス流血少女:01事前応援スレ

1流血少女GK:2015/07/25(土) 00:33:26
事前応援スレです。

54雨月星座:2015/07/30(木) 21:59:44
カランドリエ 〜隣り合う月〜



 フランスベッドは清潔なシーツを巻き取られ、寝床を取り上げられている。
 給湯器付きの電話ボックスはティータイムを開くには申し分ない。
 そして、不似合いなワイングラスを手に持たされた当世具足――。
 天井はくり抜かれており、雨露を遮るものなどないだろう。立て掛けられたカンバスはいつかの星座を描いていたその絵を支えていた。
 
 部屋の三隅を埋めるようにして置かれ、残された一角は一応の出入り口として残されている。
 カランドリエの部室は酷く殺風景だ。物がないと言うわけではないのだが空間を埋めてやろうと言う意志がまるで希薄な上、統一性が存在しなかった。
 部員の個性に由来したか様々なガラクタが辺りに散らばっているが、それにしたって足の踏み場を埋めるほどではない。

 私は芽月(ジェルミナル)リュドミラ。絵画の魔人。
 一応、カランドリエの中心メンバーとして頑張っているつもりだ。

 「芽月(めつき)ィ。俺が出向いてやったんだからよォ。新人ちゃんに顔見せさすんのがスジってもんじゃねェのかァ?」
 べらんめえ口調のドスの効いた声が部室に響いた。
 「花月(フロレアル)、来ていたのか。姿を見せてくれない?」
 私に知った口を利くのはアマリー、サビーネ、その新人ちゃんこと星座、もちろん部長――、知った中で候補は片手の指に足りる。槭 (かえで)に消えてもらったのはいつだったか。

 足元に勝手に生やされたサボテンを躱して走り、続きを言わせる前に面頬を取り上げる。そこに太歳はいなかった。
 「勝手に取ンのやめてくれる?」
 ワイン色のスライムのようなものがつるりと滑り落ちて、ワイングラスにすぽりと嵌まると刹那。
 「それと、何? そのファンシーな呼び方、普通にはなつきって呼べよな」
 少々の苦笑い。確かに我々に与えられたこの姓の読みは自由だが。
 それにしても一字の違いを物臭がるとは困った人だ。ちなみに我らの革命暦は月の並びに法則はなく月の定めに身の丈を合わせる必要もない。
 
 「油臭い手で触ンじゃねェ」
 何かの精霊か、今流行りのマスコットとでも言うべきか、ミニサイズの女の子がぴょこりと顔を出す。
 「水彩絵の具が何を言うのかな?」
 ゼリーのような弾力を持っているけれど、内側から赤く滲むような生々しさは血腥さを想起させるには十分だ。けれど、今はそれも愛しい赤い水だ。思わず、ひと呑みにしたいと妖として思うほどだ。 
 まぁ、それは戯言だが。

 「はいはい、随分かわいらしいけど、少しは話を聞いてくれるってことでいいんだね?」
 「少なくとも百分の一くらいはねェ。あの星座とか言う転校生について吐いてもらうぜ」
 どっちなんだか、拗ねた様子を可愛らしいと見るのは私だけでいいだろう。
 とは言え、私も十二ある月のひとつに過ぎない。この風来坊に教えてやれることなどさしてないということをわかってほしい。

 「やれやれ、説明しようにも今回探偵連中を動かしたアマリ―は不在。仮にも転校生を引っ張ってくるなんて無理した建前、しばらくは帰って来れそうにないんだよ。
 仮にも連中のスポンサーでゴタゴタを起こしてしまったのは確かだからね。
 それより口舌院家の鬼札が動いたよ、言語さんの身辺に異常はない?」

 「冗談はよしこさんだねェ。それよか知ってるぜ。善良な口舌院たァ、それだけでレアだからなァ」
 呆れながらもぷるりと揺れる細やかな音の響きが何とも愛おしい。でも、今は我慢だ、我慢。
 「そう言うこと、わざわざ言語さんが選んでよこしたってことはこっちとしても絶対に傷を付けて返すわけにはいかない。人質に妹をよこすなんて……本当に策士だよ、我らにとっても副部長は」
 恐らく口舌院通訳には一切の裏が存在しない。こちらの切り札である雉鵠(じかん)がいつ帰って来るかわからない以上、弱味を見せたら指揮権を一気に持っていかれることは必定。
 
 「で、霜月(サビーネ)のバカもいつの間にかあっちに持ってイカれてたと。ケッ。
 いいのかい? 口止めしとかねェと俺は言語のヤツに洗いざらい話すかもしれないぜ」
 「だからこそ中立で、部長――あの方にも忠誠を誓っていないあなたを話し相手に選んだんだよ」
 
 これでも信用してるんだけどね、ほら気がつけば目が潤んできたよ。どうかな、何か話してくれる気になった?
 ……じっと見る。
 「嘘泣きは止めろって話だ。
 ハイハイ、わかったよ。俺は今回の一件はノータッチで済ーまーすッ! はいっ、これいいだろォ?」



55雨月星座:2015/07/30(木) 22:00:16
 
 常に濡れてる私だけど、誠意ってものは案外通じる物だね。
 日和見を決め込んでいる部員が多いのは困りものだけど、絶対に敵に回らないと確認が取れたのは大きい。状況を整理してみましょう――。

 部長派、いや正確には私主導なのだけど明確に味方と言い切れるのは私と葡萄月(アマリー)だけ。
 雨月は部長のためなら動いてくれるでしょうけど、何しでかすかわからないし……、嵐とみた方がいいか。

 花月は今話した通り、必要以上に言語に便宜を図ることはないでしょう。
 熱月さえいてくれれば、いてくれるだけで何もしなくても睨みは効くんだけど……。
 風月は席としてまだ使えない。

 霜月もどう動くかわからないけど、少し脅し過ぎたか……。アレが離れることは考えづらい。
 雪月はあれで優しいお兄ちゃんに絆されてるから正攻法、それも短期間で攻略するのは骨が折れる。 
 霧月を引き込むのは問題外、その労力だけで計画が遂行できる。こんなことなら槭を殺さずにいればよかった……。

 他三人は私達に刃向うだけの我は無いけど、暦の方からアプローチを掛けられたらどうなびくかわからない。下手に裏を教えていないのが仇になったか――!
 この辺りなら別にいくらでも替えはいるけど、下手に動いて均衡が崩れるとあっち側に持っていかれる。ギリギリで過半数を回避できていたんだから、取り込むのも下策。 

 芽月、葡萄月、雨月:部長派
 花月:局外中立
 熱月:無関心
 風月:欠番
 霜月、雪月、霧月:副部長派
 牧草月、果実月、収穫月:日和見

 上の構図はカランドリエと暦、両方に通じる花月もよく知っているはず。
 別に副部長の率いる暦の傘下に入るのが嫌と言うわけではない。
 けれど、下手に使い潰されるのは御免と言う物だ。

 ……余程思いつめた顔をしていたのだろうか?
 ワイングラスから姿を消した代わりに、赤ら顔をした甲冑が動き出していた。
 私の肩をぽんぽんと叩く。

 「いや、もうさ。おめェの"令嬢"計画手放した方がいいんじゃね?
 てンでバラバラに動いているのが俺ら革命暦って連中なんだけどよ、まとめ役のお前さんまで好き勝手してどうするよ? 
 心配しなくても"探偵"連中とどっぷりな以上、あの腹黒だって必要以上にはどうにか出来ねェよ」
 「しかし……」

 いや、分かりきっていたことだ。カランドリエを暦に巻き込んだのも、同時に探偵を巻き込んでカウンターパートにしたのも朋友であるアマリーの功績だ。
 私のささやかな計画もつまらない嫉妬心から来る意趣返しに過ぎないと認めよう。 
 「あいわかった! 近日中に試作品をそっちによこすから手出しは無用と伝えて」
 「はいよッ。ただ霜月と雪月がどう動くかは気を付けろよ、アイツもそっちにまで手を回すつもりは毛頭ねェだろーからなァ」
 
 承知。
 だけど、それは同時に雨月がどう動くか手綱を取るわけではないということ。
 それを知ってか、ニヤリと獰猛な笑みを見せるのが太歳だ。この女とも伊達に長く付き合っているわけではない。互いの心中など手に取るようにわかる。
 
 「あ、そうそう。雨月だけど紅井と転校生同士の交戦に入ったらしいよ」
 「寅忍ねェ、結構前に滅んだって聞いてるけど?」
 「引き籠ってる割りには耳が早いのかもしれないね。ははっ」
 「へっ、百年の前もカビの生えた探偵に後れを取るようなマネはしねェよ」
 「華美の映えた探偵ね、まぁその通りだと思うよ。"令嬢"のモデルにいいんじゃないかな?」
 「知ってて垂れ流してンのざァ知らねェが、俺は賛成しないぜ?」
 
 なんだかんだで楽しいことが大好きな二人。
 結果を知ったところで、笑い方、その程度の変化で済まされるのかもしれない。



56雨月星座:2015/07/30(木) 22:05:24
【登場人物紹介】
【花月太歳(フロレアル・たいさい)】(初登場)
カランドリエ所属。飲める吸血鬼。吸精鬼の家系「蛭神」に属するが、彼女がどのようにして精を得ているかについて謎は多い。部長には個人的な恩義を持っているだけであり、部の活動方針については口を挟むことは無い。太陽光が苦手らしく、狭いところに潜むのが好き。能力名:『血に潜る千の目』効果:自身が血液であること
  
【芽月リュドミラ(ジェルミナル-)】
カランドリエ所属。水辺の妖画。百年ほど前に東欧の無名画家によって描かれた。部長と顔を合わせたことのあるメンバーの一人。常に全裸に近い格好で、しかも濡れているので嫌らしい想像を掻き立てるが、絶対に同性しか相手をしてくれない。能力名:『隠れ画(エルミタージュ)』効果:写真や絵を通じて平行世界や異世界へ移動する

【葡萄月アマリリス(ヴァンデミエール-)】
カランドリエ所属。捨て続けてきた一世紀。電話BOXとティータイムをこの上なく愛する。リュドミラの盟友であり、部長のために全存在を賭けている。探偵との間に強いコネクションを有しており、星座を連れてきたのは彼女の仕事。能力名:『ポケット・ビスカッセ』効果:万物を1:2の比率で分割する

【霧月槭(ブリュメール・かえで)】
カランドリエ所属。語られることのなかった物語。かなり無理をした擬古調の話し方をする文芸者。旧「雨月」が迷宮時計の犠牲になった一件で芽月に粛清される。彼女について語るべき事由は特に存在しないだろう。


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