したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

Fate/stay night〜重夜〜

275あなたを、名無しさんです。:2021/07/12(月) 21:19:31
彼女はただ偶像として容認されただけだった。
多くの騎士たちは少年の姿であるアルトリアを卑下し、おのが剣を預けるのをよしとしなかった。
だが自分に抜けなかった聖剣を抜いた以上、形の上だけでも従わなくてはならない。彼らはその屈辱を、一時のことだろうと受け入れたにすぎない。
聖剣を抜いたとはいえ、所詮は子供。魔術師(マーリン)の補佐があるとは言っても、すぐに失態を晒すに違いない。
そうなれば聖剣を取り上げ、もう一度王の選定を行えばいい──それが多くの騎士たちの思惑だった。
だが結果は違った。成人したばかりの騎士は、非の打ちどころのない王だった。争い合っていた領主たちをまとめ上げ、即座に侵攻してくる異民族を撃退した。
無論、それは聖剣の力によるものではない。聖剣は王を守る為だけのもの。国を守るのは、あくまで王の力に依るものだ。

そうして、彼女は常に結果で騎士たちを抑えつけてきた。
聖剣の守りは敵の剣に対してのみ。人の心を治める助けにはならない。彼女は文字通り身を粉にして、だれもが理想とする王であり続けた。
そうなっては騎士たちも従うしかない。彼らは少年のままの王への不満を、完璧であるならばと抑えこんだ。
彼女が目指したのは理想の王。彼らが支持する条件も理想の王。──そこに、人間としてのアルトリアなどいなかった。
王として定められた少女。聖剣を抜き、その時から歳を取らず、十二の大戦を勝ち抜いた偉大な騎士。
完璧であればあるほど敬遠され。長く続ければ続けるほど孤立するしかなかった王。──それが、彼女の正体だった。

それでも彼女はよくやった。否、よくやりすぎた。
効率よく敵を殲し、戦の犠牲となる民は最小限に抑えた。どのような戦であれ、それが戦いであるなら犠牲は出る。ならば前もって犠牲を払い軍備を整え、無駄なく敵を討つべきだと考えたのだ。
戦いの前にひとつの村を枯れさせ、軍備を整え、異民族に領土が荒らされる前にこれを討ち、十の村を守る。それが王として彼女が出した結論であり、事実、当時においてそれは最善だった。
だが騎士たちには不満だったのだろう。彼らにとって死んでいいのは異民族だけであり、戦いになれば犠牲など出さずに勝利するのが常道だ。
戦いの前から己が領土を手放す必要などない。自分たちは勝利するのだから犠牲など出ない。犠牲など出ないのだから王の行為はただの徒労だと考えた。
もちろんそれは彼らの夢物語である。いざ戦いになれば、騎士たちは小さな村のことなど考えない。それらは蹂躙されて当然のものであり、彼らが守るべき対象に入ってはいないのだから。
騎士たちは敵に滅ぼされるのは当然だと言い、自分たちで干上がらせるのは大罪だと言う。無論、そんなことは彼女にもわかっていた。だが王にそのような私情は挟めない。
彼女は私情を殺して決断を下し、彼らは私情を圧して従う。そうして犠牲を払い、連勝を続けていく内に国は安定していった。

その代償は王への反感だった。
″アーサー王は、人の気持ちがわからない″と。ある騎士はそう残し、王城から去っていった。
……おかしな話だ。誰も人としてなど望まなかったというのに、人としての感情がなければ反感を持ったのだから。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板