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すぱろぐ大戦BBS・SS投下スレ

1名無しのも私だ:2007/03/22(木) 19:48:03 ID:DIl2PENc
★長編を直接本スレに投下するのがどうも躊躇う。
★原作の設定を改変してみた為、人によって好みが別れそう。
★本スレとは別にこっそりSSを投下してみたい。

そんな時の為のSS投下スレです。

本スレ以外の投下場所として
シャドーミラー システムXN実験所アップローダー
http://www3.uploader.jp/home/kagekagami/
と合わせてご利用ください。

(18禁に抵触しない程度の)直球なエロや暴力表現が含まれる場合は
アップローダーにテキスト形式でUpすると
作品単位で閲覧が出来るので、よりベターかもしれません。
また数レスに跨がる作品も、携帯の皆さんにはロダからの方が
読みやすいようです。

また、本スレにリンクを報告する際は内容及びレス番等も付け加えると親切です。

  例→SS投下スレの100-200にこうへーとエキドナの大恋愛長編を投下してみた。
    http://(略

感想を書き込む事に制限はありませんが、感想の枠を越えて雑談にならない様程々でどうぞ。


注1)いかなるSSも、ここへの投下を強制するモノではありません。
注2)18禁(エロ・グロ)の投下のみ、禁止となります。

96毛布:2008/01/22(火) 14:24:18 ID:1/HkAYz6
ひっそりと失礼します。冬コミでこうへーさんにお会いした記念に
久々何か書こうと思っていてこんな時期になってしまいました。

97名無しのも私だ:2008/01/22(火) 19:29:28 ID:zpGL7Dso
ああ、このシリーズいいわぁ。
どんぶり3杯はいけるぜ。

98名無しのも私だ:2008/01/22(火) 23:09:00 ID:mlH87fEY
お、毛布さんverの第5弾だ。
保存保存と……

99名無しのも私だ:2008/01/28(月) 04:49:07 ID:305O5sxk
スーパーロボット大戦OGで萌えるスレ その210
の223を見ていたら

じっちゃん = タスクの祖父
に見えてきた(>>223の意図は違うだろうが)

しかし、このスレ的には、タスクの祖父:大金持ち だ

父方の祖父:大金持ち
母方の祖父:整備
なんだと思う

こんな感じ?

祖父「しかし、お前もマメだな。休みのたびにうちに来てるじゃねえか」
タスク「ここに来るといろいろ楽しいからな」
祖父「お前の母親とは大違えだ。玉の輿だと思ったら、とうとう一度も帰って気やがらねえ」
タスク「・・・死んだ人をそういう風に言うのはよそうぜ。それに、じいちゃんの娘だろ?」
祖父「だな、悪かった」

祖父「ところで、お前の方はどうなった?」
タスク「俺の方って?」
祖父「とぼけんな、美人のジョノカが居るんだろ?」
タスク「”ジョノカ”っていつの言葉だよ?」
祖父「俺の若えころ」

タスク「・・・まあいいや。どこで聞いたんだ?まだ話してないだろ?」
祖父「彼女から直に聞いた」
タスク「へ!?」
祖父「ほれ」 っ 『じいちゃんとレオナの写真』

タスク「な!?いつ撮ったんだ!?」
祖父「合成だ」
タスク「はぁ?」
祖父「暮れに小隊の集合写真を送ってきたろ、あれだ」
タスク「・・・相変わらず、いい歳して何やってんだよ」
祖父「俺は永遠の18歳だからな。だが、これでこの娘がお前の嫁候補であることは確実になった」

タスク「でも何でレオナちゃんが俺の彼女だって分かったんだ?」
祖父「この稼業をやってると聞こえて来るんだよ」
タスク「じゃあ、レオナちゃんのこと言ってみろよ」

祖父「レオナ・ガーシュタイン
   誕生日:11月30日、血液型:A型、オクト小隊所属
   名門ガーシュタイン家の娘で、ブランシュタイン兄妹の従妹
   沈着冷静で頭脳明晰プライドが高く、ツンデレ
   でも、何でもこなすように見えるが音痴で料理下手
   つまり、タスク・シングウジの好みど真ん中」

タスク「まあ、基本情報だな」

祖父「元コロニー軍トロイエ隊・・・だったが、DC戦争の後、
   お前に撃墜されて連邦軍に寝返った
   ちなみに、彼女がいまだにヒリュウ改に居残ってるのは、
   お前が引き止めたのと、隊長さんが勝手に登録しちまったから」

タスク「ふ、ふうん、よく調べてるじゃねえか」

祖父「ちなみに引き止めた時の台詞は『俺にみそ汁とか作ってくれつつ・・・』
   念願かなって、レオナちゃんの味噌汁を飲んだタスク君
   が、彼女は料理ベタの才能を遺憾なく発揮し、お前は失神
   しかも1回のみならず少なくとも13回は
   しかし、同僚のお姐さんのアドバイスの甲斐あり
   今ではおかゆだけは作れるようになったとさ」

タスク「・・・ちょっと待てよ。どうしてそんな細かいことまで知ってるんだ?」
祖父「ふふふ、俺の情報網をナメるなよ?」
タスク「あんた本当にただの整備員か?」
祖父「もち」

100名無しのも私だ:2008/01/28(月) 05:23:53 ID:s0Hzm5Ps
ブランシュタイン兄妹?
兄妹?
ああ、たぶんさらに妹がいるんだろうな、うん

101名無しのも私だ:2008/01/28(月) 12:54:16 ID:8d0pWAYw
お久し振りの。
続々々々々々・イングラム先生のお悩み相談室。

ゼンガー=ゾンボルト。男の魅せ所。

102差無来!!:2008/01/28(月) 12:57:43 ID:8d0pWAYw
――極東伊豆基地 ハンガー裏手
 多くの人間が働き、また広大な敷地面積を誇る伊豆基地。華々しい日々の喧騒から切り離され、半ば人々の記憶から忘れ去れた様な場所が其処にはある。
 元は保養目的の為に作られたのだろうが、訪れる者も無く、雑草だらけで荒れ放題になっている緑地の様なその空間。朽ち果てた一脚のベンチに腰掛けている青年の姿があった。
「・・・」
 その人物の名はイングラム=プリスケン。長身痩躯の青ワカメ的な好青年で、似非カウンセラーとして活躍している皆の先生である。
 その先生はと言うと、別段何をする様子も無く、じっとベンチに座ったまま白痴の如く天を仰いでいた。
 今の彼は照り付ける陽の光を受けて光合成する植物の様だった。……否、ワカメも褐藻類である以上、光合成くらいはやってのけるのかもしれない。
 
 陽が南中してから数時間、微動だにせず光合成を続ける先生。冷気の含んだ風が時折吹き付けてその蒼い髪を揺らすが、やっぱり先生は動かない。まるで悟りを開いたかの様に。
「……?」
 そうして陽が少し傾いて来た時、先生は何者かの気配を感じ取り、その人物が居るであろう方向に視線をずらした。
――ザッザッ……
 草を掻き分ける音と共に、誰かの姿が見えてきた。

「む……?」
 現れた人物はベンチに座るイングラムの姿を見つけて少しだけ驚いた様だった。
「・・・」
 だが、当のイングラムはその人間に興味を持つ事は無く、目を閉じると再びお日様の光を吸収し始めた。
「イングラム=プリスケン……」
 その人物は若干、慎重な足取りで先生に近付く。そうして、暫く先生を眺めた後で口を開いた。
「お前は、何をしているのだ?」
「見ての通りだが?」
 非常に渋い男を感じさせる美声の持ち主だった。先生並の高身長を誇り、厳ついガタイと険しい瞳。そして凛々しい顔と銀髪を持った侍。
 その人物の名はゼンガー=ゾンボルトと言った。

103差無来!!:2008/01/28(月) 12:58:48 ID:8d0pWAYw
「いや、さっぱり判らんのだが」
「だから日向ぼっこだ。それ以外の何かに見えるのか?」
「一瞬、瞑想の類かと思ったが」
「フッ……そんな大層なモノではない」
 イングラム先生は自分より1cmだけ背の高い男の顔を見上げていった。先生とゼンガーは仕事上の付き合い以外に殆ど接点が無い。
「それで、何時から此処に」
「正午少し前位からか。それがどうかしたのか?」
「いや……お前はそんなに暇なのか?」
「今日は公休日だ。俺の様に何もせず過ごす人間が居ても良かろう。それに此処は人が寄り付かんからな」
「緑の匂いに誘われたか?」
「ああ、それもある。……と言うか、良く知っているな。」
 普段から口数多い方ではないゼンガーも先生の前では饒舌にならざるを得ないらしい。元々自然散策が好きな先生はこう言った人気の無い緑が豊富な場所に居る事を好む。
 だが、先生と接点が殆ど無いゼンガーがどうして彼の趣味を知っているかは不明だった。
「お前は何故此処に?」
「ああ。剣を振ろうと思ってな」
 ゼンガーの言葉に先生は視線を彼の身体に向ける。その手には確かに鞘に納まった真剣が握られていた。
「……邪魔なら消えるが」
「否。その必要は無い。寧ろ、それはどうでも良くなった」
 人気のない場所だからこそ、剣の修行の場にゼンガーは此処を選んだのだろう。それなのに自分が居ては邪魔になると踏んだ先生は、ゼンガーにこの場を譲る旨を告げたがそれは断れた。
「何?」
「イングラム=プリスケン……これも何かの縁なのだろうな」
 最早、剣を振る気が失せたゼンガーはイングラムの目をじっと見つめた。イングラムと言う人間の心を図るかの様にだ。
「な、何だ?」
 他人の心を見透かすのが上手い先生も逆の立場になれば弱い場合も多々ある。今の場合がそうだ。先生は何とか体裁を保ち、邪気が無い心の内を瞳に映し出した。
「風の噂に聞いたが……お前は駆け込み寺を営んでいるらしいな。……本当か?」
「う、お前の耳にも入っていたのか。……まあ、成り行きで、な」
「そうか……」
 気を持ち直した先生にはゼンガーがしたい事が見えてきた。だが、それよりも自分が有名になってしまったと言う事実に吐き気を催しそうになった先生。
 ……普段はクロガネの直援として色んな場所を飛び回っているこの男にも自分の副業(?)が耳に入っていると言う事。
 もう手遅れなのかも知れないと先生は諦めた。
「為らば、俺の悩みも聞いて貰えるのだろうかな」
「何だと?」
「意外、か?」
「いや、失敬」
 ゼンガーはイングラムが信頼できる人間だと確信出来たらしい。嘗ての洗脳状態の時とは違い、先生の瞳には黒い部分が全く無かったからだ。
 だからこそ、ゼンガーはイングラムに悩みを打ち明ける。剣の鬼であるゼンガーも人の子である以上は悩みとは無縁では居られないらしかった。
「ああ。そちらが語ると言うのであれば、俺も聞くし、助言の一つもしてやれるかもしれないな」
「なら、聞いてくれ。今は……藁にもワカメにでも縋りたいのだ」
「……座ったらどうだ?」
「うむ」
 ワカメ呼ばわりするな。そう先生は叫びたかったが、話が進まないのでそれは自重した。

104差無来!!:2008/01/28(月) 13:00:22 ID:8d0pWAYw
――数時間後 イングラム私室
 伊豆基地の兵舎の中でも辺境と言える程の外れにあるイングラムの部屋。彼の執務室と併設されているこの場所は移動の面では非常に都合が悪い。まるで隔離、若しくは島流し的な扱いの悪さだ。
 だが、その移動の利便性を犠牲にする事で彼の部屋は上級士官用としては破格の広さを誇っている。元々は空倉庫を改修しただけあって、それこそマンションの一部屋に相当する快適性を誇っていた。
「今帰った」
 自動ドアを開け、自室の中に足を踏み入れる先生は中に居る人間に帰りを告げた。
「お帰りなさいっス」「お疲れ様少佐〜〜」
 当然、そんな居心地の良い空間に引き寄せられる人間は出てくる。中からの返事は二つ。聞き慣れた少年の声と聞き飽きた間延びした女の声だ。
 アラド=バランガとセレーナ=レシタール。最初は匿う形……そして今は半居候と化した大食ぷに少年と何時からか懐かれてしまったおっぱい忍者の両名だった。 
「・・・」
 先生は言葉を発せなかった。アラドに関しては良い。自分で納得した上で引き入れた人間なのだから部屋に居てもおかしくはない。事実、部屋を出る時にもアラドは自分を見送ってくれたのだ。
 問題はセレーナの方だった。別に苦手意識は無いし、出入り禁止にしている訳では無い。偶に寝込みを襲われる事はあるが、それは問題ではない。
 今、彼女に持ち上がっている問題……それは彼女の格好についてだ。
 セレーナは何故か下着姿だった。風呂にでも入っていたのかも知れない。
「随分遅かったっスね。日が暮れるまで何してたんスか?」
「少佐ぁ……お疲れなら、私が誠意を以って癒しましょうかぁ?」
「ああ。ちと、長話が過ぎた」
 長話と言うか、また相談事を受けたのだが、説明が面倒なので此処は省く事にしたイングラム。
 加えて、セレーナの言葉はガン無視する事を決め込んだ。彼女の言葉の韻が卑猥なのは故意である事は間違いなかった。
「む……ちょっと少佐!何か私に言う事無いんですか!」
「あ?」
 セレーナは少し頬を膨らませている。どうやら無視した事を怒っているらしい。だが、イングラムはこの女に関わりたくなかった。
「お前の格好について、か?」
「そうそう!若い女が肌を見せてるんですよぉ?目のやり場に困る〜〜、とか勃起する〜〜とか無いんですか?」
 身体を張ったギャグなのか、それとも頭の螺子が跳んでしまったのかどちらかしか考えられないイングラム。当然、後者であると勝手に決めたイングラムは舎弟に任せる事にした。
「アラド、何か言ってやれ」
「俺?い、嫌っスよぉ!同レベルに落ちたくないっスもん!」
 当然、アラドはそれを拒絶した。見て見ぬ振りを続けたいらしい。だが、それは無理だった。
「ア・ラ・ド・君?どの口がそんな失礼な事言うのかなぁ」
「いっ!?いひゃいいひゃい!!」
 頭に青筋の十字路を浮かべたセレーナがアラドの魔性のほっぺを抓り上げた。
「はあ……やれやれ」
 自分の舎弟、と言うか弟子、または弟分が泣かされるのを黙って見ていられない先生はセレーナを黙らせる事にした。これ以上、寸劇に付き合う気は無かったのだ。
「セレーナ」
「は、はい!」
 たゆん、と自慢のお胸を揺らしたセレーナが姿勢を正す。何か彼女は自分にとって好ましい……例えば容姿を褒める類の言葉を先生が発するとでも思ったのだろうか?
 ……答えはNoだ。それとは真逆の言葉がセレーナに浴びせ掛けられた。

「お前の身体は見飽きた。それ以前に目が腐る。何か着ろ」

 決着。セレーナのライフはゼロになった。
「……ぐすっ」
「す、凄え!俺には絶対に言えない台詞だ……!」
 半泣きのセレーナはグスグス鼻を啜りながら自分の服を着る。アラドは自分の師の偉大さを殊更見せ付けられた様に感動していた。

105差無来!!:2008/01/28(月) 13:02:16 ID:8d0pWAYw
「何の話してたか忘れたけど……それより、今日のご飯は何スか少佐?」
「む……いかん。忘れてた」
 余計な事に精神を消耗させられたアラドはイングラムの言った長話には興味がないらしい。今の彼にとって重要なのは晩飯だった。
 そんなアラドの言葉に先生はハッとさせられた。今日の飯炊きは自分だと言う事をすっかり忘れていたのだ。
「いいっ!?そんなあ!」
「献立は冷蔵庫の中身次第だな。何も無いなら今日は外食だ」
「ええ?……少佐の作るご飯が食べたいんスけど」
「そう言われても、な」
 あからさまに肩を落としたアラドは先生の手料理を心待ちにしていたらしい。味云々ではなく、心の篭った大量の料理を食べたい年頃なのかも知れなかった。
 イングラムはアラドには悪いが冷蔵庫の食材で全てを決めようとした。何かあれば何とかなる。何も無くても何とかなる。
 そうして先生は冷蔵庫の扉を開けた。
「む?これ、は」
 中を覗いた先生は首を傾げる。中には大量の野菜類、魚類がゴロゴロしていた。
 ……こんなに沢山買ったかしらん?記憶の糸を手繰り寄せても、買った覚えが無い食材がそこにはあった。
「あ、さっき補充しときましたよ。田舎から送ってきて食べきれないから」
 復活を果たしたおっぱい忍者が手をヒラヒラさせていた。
「お前かセレーナ」
「あ、そう言えばそうだった。ぐっじょぶっス!セレーナさん」
 犯人はセレーナだった。彼女は手ぶらで飯を集りに来る事があれば、こうして頼んでもいないのに食材を補充する事がある。
 ……そして毎回気になる事だが、この女の故郷は何処なのだろうか?スペイン辺りだと踏んでいる先生にもいよいよ判らなくなってきた。
 どこからどうみても日本の食材としか見えないものが其処には含まれているのだ。
「大した事無いわよ。と、そう言う訳で少佐?愛の篭った男の手料理を一丁お願いします♪」
「……お前への愛なぞ無い」
「少佐、なるべく早くお願いするっス!」
「直ぐには出来ん。酒か煙草でもやって待っていろ」
 ギャラリーとの会話をそこそこに、先生は煙草に火をつけ、煙をふかしながらキッチンへと向かう。
 先生はキッチンドランカーでは無いが、キッチンスモーカーではある。……やっぱり先生は不良だった。

106差無来!!:2008/01/28(月) 13:03:48 ID:8d0pWAYw
 ……で、数十分後。
「では、頂き、ます」
「頂きますっス!」「頂きま〜〜す」
 テーブルに乗った夕餉に仰々しく手を合わせたイングラム。アラドとセレーナも先生に続き手を合わせた。
 本日のプリスケン宅の夕食献立……石狩鍋、常呂産帆立バター焼き(殻付き)、サロマ産牡蠣フライ、富良野牛のカルパッチョ、(消費期限間近の)釧路産牡丹海老の塩焼きetc
 ……見事なまでの北海道フェアだった。これだけの量を僅か数十分で作る先生は只者ではない。
「こりゃあ、うんめえぇ!レーツェルさんにゃ出せない男の味っスわ」
「シェフとして生計を立てられる男と比べられても困るが……まあ、喜んでくれたのなら幸いだ」
「大満足っスよ!……あ、ご飯おかわり」
「自分でよそえ」
 早速、ご馳走の群れにがっついたアラドはどんぶり飯をあっと言う間に平らげた。見ていて気持ち良くなる食べっぷりだった。
「この味の虜になりつつある自分が怖いです。本当に、毎日食べたいくらい」
「作るのは構わんのだが、後片付けが面倒でな。毎日は気合を入れて作りたくない」
「またまた。少佐はきっと良いお婿さんになれますよ。料理上手の男の人って貴重ですから」
「俺が娶られるのか?まあ、それでも良いが……相手が居ない裡は転んだって無理だな」
 セレーナも先生の料理に舌鼓を打ちながら、その味を褒めていた。こうやって数人集まって飯を掻き込む時は先生だって口数が多くなる。団欒の力は中々に侮れない。
「では、俺は一杯やらせて貰うか」
 自分で作った飯を喰う事はそこそこに、先生はテーブルの下から男山の原酒を取り出し、自分のコップに注ぎだした。度数の高そうな米の甘い香りが広がった。
「お前もやるか?アラド」
「え?……今日は止めときます。昨日、やりすぎたんで」
「そっか。セレーナ、お前は?」
「勿論頂きまっす!」
「では、コップを出せ」
 酒の相手を求めた先生はアラドには振られたが、セレーナを誘う事には成功した。出されたコップになみなみと酒を注いでやると、セレーナはそれを飲む。
「こりゃまた、美味しそうなお酒。味の方は……(ゴキュ)かああああ〜〜!堪んねえなこりゃ!」
「親父臭い女だ。嫁の貰い手、果たして居るのかどうかが疑問だな」
 親父臭いと言うよりは、泥付きの田舎娘臭いと言うのが正しい表現かも知れない。こんなのとコンビを組まされているエルマが可愛そうに思えてきた先生だった。
 その後凡そ一時間、他愛も無い話に盛り上がりながら夕食の時間は過ぎて行った。

「……むう」
 恙無く終了した団欒の後、先生は酒をちびちび呷りながら考え事をしていた。それは先程会ったゼンガーとの一件についてだ。むっつり黙りこくり、眉間に皺を寄せて思案するその姿は周囲に少なからず威圧感を与える。
「・・・」
 セレーナはアラドが立てる食器を洗う音には耳を貸さず、ただじっとイングラムを見ていた。

107差無来!!:2008/01/28(月) 13:05:37 ID:8d0pWAYw
「……座ったらどうだ?」
「うむ」
 ごつい男が隣に座ると朽ち掛けたベンチはギシッ、と嫌な音を立てた。
「それで、お前の心を悩ませているモノとは一体……」
「・・・」
 チラ、と先生はゼンガーを横目で盗み見た。ゼンガーは顔を俯かせ、少しばかり戸惑っているかの様に足の間で両手を組んだ。
 そうして、五秒ほど待つと、ゼンガーは覚悟が入ったかの様に呟いた。
「……ソフィア=ネート」
「む」
「彼女の事で、な」
「ソフィア=ネート……と言えば」
 御存知、プロジェクトアークの責任者であり、アースクレイドルの主。メイガスの開発者でもあり、何処かの世界ではアストラナガンをアウルゲルミルで喰った女性だ。
 加えて、彼女は何故かゼンガーとは親しく、何処かの誰かには心の伴侶とまで呼ばれている女性。ゼンガーの悩みの種は彼女についての事らしい。
 ……因みに、ソフィアは先生とは面識が無い人ではあるが、その容姿や立ち振る舞いは実に先生好みのだったりするのは秘密だ。
「で、その彼女がどうかしたのか?」
「うむ。近頃、彼女が素っ気無くてな。正直、持て余しているのだ」
「素っ気無い、か。具体的には?」
「軽く挨拶しようと思えば、無視される。廊下などで擦れ違えば、目を伏せられる。気が付けば、遠くから睨み付けられている……こんな処だ」
 ゼンガーの言葉を聞き、ソフィアのその時の姿を想像して先生は目を細める。確かに近寄り難い雰囲気と美貌を持つソフィアだが、他人相手にそんな態度を取るとは考えられなかった。
 若し、そんな態度を取るとするならば、理由は一つだけだろう。
「それは……素っ気無いのでは無く、怒っているのではないか?」
「……やはり、そうなのか」
「聞く限りではそうとしか思えんが。……と、言うかお前は何をやらかしたと言うのだ?ネート女史の怒りを買うとは」
「む……」
 ゼンガーも心の中ではそう思っていたらしい。だが、ソフィアに限ってそれは無いだろうとゼンガーは踏んでいたのだろう。先生から改めてそう告げられてゼンガーは言葉に詰まった。
「……彼女が怒っているとして、だ」
「ああ」
「俺にはその理由がさっぱり判らんのだ」
「・・・」
 ゼンガー本人にもソフィアを怒らす原因は判らないと言う。そう言われては先生とて何も言葉は掛けれなかった。
「俺は、どうするべきなのだろうかな」
「いや、それだけでは流石にどうしようもない」
「……そうか」
「お前としてはどうしたいんだ?聞いて欲しかっただけか?仲裁に入って欲しいのか?それとも、ただ怒りを冷ましたいだけなのか?」
 どうやら、ゼンガーは内心で相当焦っている様だ。明確な指針が自分の中で確立していない。何をしたいのか?何をして欲しいのか?ゼンガーの中にそれが無い以上、先生は行動出来ないのだ。
「お、俺は……」
「悩む場面か?支援して欲しいのなら、そう言ってくれ。俺はお前の力になるぞ?」
「イングラム……」
「過去には色々あったが、今はどうでも良い事柄だ。俺を信じてくれるなら、お前の望む形に落ち着く様、尽力しよう」
 イングラムは熱い台詞を吐き、ゼンガーの心を揺るがした。真面目で実直なこの男が迷いを抱える今、それを取り除けるのは自分だけだと言う事を理解した上での言葉だった。
 先生の言葉に、最後まで手放せなかった警戒心を捨て去ったゼンガーはとうとう頭を垂れた。

「ならば、力を貸してくれイングラム」

「それで、良いんだな?」
「ああ。お前を信じる。彼女の怒りを冷まし、原因を見つけた上で、元の鞘に俺は戻りたいんだ」
「了解した。ゼンガー」
 差し出されたゼンガーの右手を取ったイングラムは優しくそれを握った。剣ダコの目立つ、ゴツゴツしたその掌は冷たかった。

108差無来!!:2008/01/28(月) 13:07:01 ID:8d0pWAYw
「……とは言ったものの、情報が少な過ぎるな。此処はやはり、本人と話した方が一番良いのだろうな」
「何?」
「ゼンガー、お前に彼女を連れてきて欲しい。話を聞ければ、後は俺の領分だ。幾らでも良い方向に持っていけるだろう」
「ソフィアをお前の前に連れて行けと言うのか!?」
 協力関係に入ったゼンガーには是非やって貰わなければならない事がある。今言った事がそうだ。当然、ゼンガーは声を荒げた。
「ああ。彼女と面識の無い俺が呼べば不自然だろう?お前にしか出来ない事だ」
「む……ぬ」
「逃げる場面じゃない。それ位はやって貰う。……判っているだろうが、お前の為だ」
「承、知」
 渋々……否、半ば嫌々ゼンガーは頷いた。気拙い雰囲気のソフィアを誘う事はかなりの重労働になる事が判りきっているからだ。
「うむ。では明日……否、二日後にヒリュウで落ち合おう。それだけ時間があれば平気だな?」
「ああ、こちらで何とかしてみる……って、待て。ヒリュウとは、酒場の?」
「そうだ。場所は知っているだろう?夜九時以降なら俺は居る。……お前に飲めとは言わんさ」
「・・・」
 ゼンガーは先生が何をする気なのかが全く読めなかった。
 先生は相手を酒に酔わせ、思考力を奪った上でイカサマトークを炸裂させる気だった。それこそが先生の常套手段であるのだが、酒がほぼ一滴も飲めないゼンガーには酒の臭いが充満する酒場に居る事はそれだけで辛い。
 案外、ゼンガーとイングラムは相性が悪いのかも知れなかった。

「最後に一つ聞くが」
「何だ?」
 陽が暮れてきて、寒さが厳しくなってきたので二人はこの場での話をお開きにする気だった。立ち上がり、背中を見せたゼンガーに先生は声を掛ける。
「お前は普段、クロガネの乗員として彼方此方飛び回っているが……帰ってきたのは先日だな。連絡は取り合っていたのか?ネート女史と」
「ああ。頻繁に便りは来たがな。……此処最近は忙しくてまともに返事を返せてはいなかった」
「……筆不精なのか?お前は」
「そう言う訳では無いがな」
 ゼンガーの言葉がどうしてか先生の心に引っかかった。忙しいから、と言うのは理由にならない気がするが、何かそれこそがソフィアの怒りの根幹にある気がした先生だった。
「では、お前の娘はどうなんだ?ネート女史の様に風当たりが?」
「イルイの事か?……いや。変わらず俺に懐いているが」
「ふむ。お前が留守の間、誰がイルイの面倒を?」
「ソフィアだが」
 先生の心に何かが閃く。これはまさか。……だが、憶測で物を語りたくない先生はその考えを頭の隅に追いやった。

109差無来!!:2008/01/28(月) 13:07:50 ID:8d0pWAYw
「どうしたものかな、これは」
 何となくだが、ソフィアの不機嫌の察しが付いた先生は自体をどう収集すべきか思索を巡らせる。最悪、ゼンガーにはキツイ事を言わねばならなくなるからだ。
「何が、なんです?」
「む?」
 セレーナの声に現状を再認識させられる先生。気が付けば、かなりの時間が経過していた。
 アラドは食器洗いを終え、自分の横に何時の間にか座っているし、一升瓶に入った酒の量も半分に減っていた。
「ひょっとして、また相談事の類ですか?」
「いや、それは」
「あ、言いたくないなら構わないんですけど」
「む」
 口ではそう言いながらセレーナはじっとこちらの瞳を射抜いている。アラドも同様の視線を向けて来ていた。
 ……全てはこの女が始まりだった。その所為で自分の噂が様々な人間に飛んでしまったのだ。だが、その御蔭で様々な人間とのパイプは出来たし、アラドとだって仲良くなれた。
 最初は忌々しかったが、今はそれを素直に感謝出来る。
「実はな……」
 先生は口を開き、掻い摘んだ説明を始めた。

「ぜ、ゼンガー少佐って……また、大物が出て来ましたね」
「ああ。それだけ、ネームバリューが付いて来たと言う事の証かも知れんな」
「マジっスか?あのミスター武士道に悩みなんて」
「あの男とて、木の股から生まれた訳ではない。そう言う事だ」
 やはり、ゼンガー=ゾンボルトの名前は大きかったらしい。セレーナもアラドも揃って同じ様な顔を晒していた。
「それで、次に会うのは?」
「二日後だ」
「勝算は、まあ師匠の事だから当然あるっスよね」
「何となくは、だな。自信は無いが」
 勝算……と言うか、悩みを解決し、ゼンガーの望む結末に導いてやれるかどうかなのだが、今回はそれがちょっと怪しい。
 だが、鍵らしきものを既に見つけている先生は恐らく、勝つのだろう。アラドにはそれが判っている。
「私、何も出来ないですけど応援してますね」
「俺も師匠の勝ちを祈るっス。……結果は教えて欲しいっスけど」
「ありがとう、二人共。何より、励みになる言葉だ」
 仲間からの声援を受けた先生は、柔らかな笑みを湛え、その内に静かな闘志を燃やす。それは昔のイングラムには考えられない事だった。

110差無来!!:2008/01/28(月) 13:09:19 ID:8d0pWAYw
――あっと言う間に二日後 BARヒリュウ
「今日は随分と控えめに飲みますなあ、少佐」
「ああ。後で客が来る予定になっている。飛ばして飲む訳にはいかんのだ」
 最早、先生にとってのホームグラウンドとなったヒリュウ。そのカウンター壁際の定位置でショーン=ウェブリー少佐と談笑を交わす先生。
 その光景はヒリュウでは最早御馴染みの光景だし、逆にそれが無い日はヒリュウは火が消えた様に寂れるのだ。
 ヒリュウの主となって久しい先生は約束の時刻の一時間前から彼等が現れるのを待っていた。
「少佐を尋ねる客が居る、と?」
「ああ。多分、副長にとっても珍しい客だと思う」
「ほう……それは興味深い。楽しみにさせて貰いますかな」
「きっと驚くと思う。……温燗、もう一本」
 ショーンの驚く顔が目に浮かぶイングラムは含み笑いを浮かべて、空の銚子をショーンに渡した。
 ……そうして、約束の時刻から三十分後
「どうやら、来たようだな」
 来客を伝える様にドアベルが鳴った。今日の生贄……否、主役達が漸く登場した。
「いらっしゃ……!」
 ショーンの言葉は途中で止まった。予想通り驚いてくれたマスターに先生は笑いそうになった。
「こっちだ。二人共」
 先生が大きく手招きすると、ゼンガーはカウンター席までやって来た。その後ろにはソフィア=ネートがぴったりと付いて来ていた。
「約束通り、連れてきたぞイングラム」
「ご苦労様。……やはり、骨は折れたか?ゼンガー」
「いや、実はそうでもなかった」
 ゼンガーの表情を見る限り、その言葉に偽りは無さそうだった。そうして、軽めの挨拶に談笑を混ざらせていると、ソフィアが一歩前に出た。
「貴方だったのですね。ゼンガーが私に会わせたい人と言うのは」
 確かに美しい女性だった。強い意志が感じられる藍の瞳、と柔和さを感じさせる優しい微笑みを湛えた顔。
 後ろで纏められた色素の抜けた空色の長い髪の毛を引っ提げ、肌の色は雪の様に真っ白だ。知性を感じさせる広めのおでこはきっとチャームポイントなのだろう。
「そう言う事、ですな。ネート女史。……お初にお目にかかる。イングラム=プリスケンだ」
「ソフィア=ネートです。……直接、お会いするのは初めてですね」
 お互いに深々と頭を下げた先生とソフィア。些か仰々し過ぎる気がするがお互いに初対面なのでこれ位で丁度良かった。
「まあ、立ち話もあれでしょう?お二人とも、お掛けになっては如何ですかな」
 マスターがそう言葉を投げるとゼンガーとソフィアは同じタイミングで椅子に腰掛けた。ゼンガーの座った三本足の木製スツールがギシッ、と音を立てた。
「大物を連れてきましたな、少佐。一体、どう言う経緯で……」
「説明は面倒だから省く。だが、十分驚いただろう?」
「ええ、そりゃあもう」
 ひそひそと先生に耳打ちするショーンは最早、驚きを通り越して半分混乱している風にも見て取れた。これでまた一つ、ショーン副長は先生に対し謎を増やした。

「取り合えずは注文を。マスター?ゼンガーにウーロン酎を……」
「待たんか貴様。……殺す気か」
「冗談だ。彼にはウーロン茶を。で、ネート女史は……?」
「あ、私は熱燗を頂きたいのですけど」
「日本酒?……なら、丁度良い。俺の酒を出してやって欲しい」
「ウーロン茶と銀嶺月山の燗ですな?暫しお待ちを……」
 注文を聞いたマスターは奥に引っ込んだ。ソフィアは少し申し訳無さそうに呟いた。
「宜しいんですか?少佐のお酒を」
「構いませんよ。無理言って来て貰ったのはこちらです。飲み代位は負担します」
「し、しかしイングラム……良いのか?」
「ああ。まあ、任せてくれ」
 やっぱり含みのある笑みを浮かべイングラムは頷く。ゼンガーもソフィアもその言葉を頂戴する事しか出来なかった。
 そうして暫く待っていると、二人の注文が運ばれて来る。ソフィアはお猪口に燗酒を注ぎ、それを少し啜った。
「あら……おいしい」
「冷やして飲んだ方が上手い酒だが、敢えて燗で飲むのも贅沢ですな。遠慮せずにいって下さい」
「え、ええ」
「酒、か。俺には解からん世界だな」
「それだけ剣の腕がありながら、酒の味を解さないとは……不幸な事だな」
「そうかも知れないな……」
 美味い酒に感嘆の声を漏らすソフィアを尻目に、ウーロン茶をちびちび啜るゼンガーは決まりが悪そうだ。何処か残念がっているのはきっと気のせいではなかった。

111差無来!!:2008/01/28(月) 13:10:44 ID:8d0pWAYw
それから暫くの間は平和な時間が続いた。お互いの仕事の話やら取り留めない馬鹿な話に笑みを漏らしひたすらに酒とウーロン茶を消費し続けた。
 そして、時計の長針が一周した辺りで先生は仕事に切り出した。
「そろそろ、頃合か」
「え?」「……!」
――来た。ゼンガーはその時が訪れた事を悟り、顔を険しくさせた。だが、ソフィアは何の事なのか全く判らなかった。
 イングラムはじっとソフィアの顔を見つめた。ゼンガーの話では相当に怒っていた様だが、今の彼女の顔からはそう言った感情が一切見られない。
 つまり、それは彼女が怒りを手放していると言う事に他ならない。ゼンガーが彼女を誘う事に苦労しなかった点から考えても、自分の考えが間違いでない事は明らかだ。
 後は……その原因を暴き、両者の間で明らかにするだけだった。
「俺が今回、ご両人に会いたかったのは……他でもない。少し前に貴女が煩っていた不機嫌の原因究明とその対処についてだ」
「っ」
 告げられた真実にソフィアの顔が驚愕に歪む。何かあるとは踏んでいたソフィアだったが、何が待ち受けているのか迄は見抜けなかったのだ。
「まあ、俺には機巧が見えたが、その男は相変わらず何も判っていない様だ。だから、それをはっきり此処で知って貰う」
「ゼンガー……貴方は」
「済まん、ソフィア。俺が頼んだ事だ」
 少しだけ責める様なソフィアの視線がゼンガーに飛んだ。ゼンガーは落ち着きの無い様子で頭を下げる。その顔色はとんでもなく悪かった。

「私は、怒ってなどいませんよ?」
「今はそうでしょうな。だが、以前はそうだった筈だ。今、怒っているか否かは問題ではない。その原因だ。知らなければ、その男はまた繰り返すだろうからな」
 確かに彼女は怒ってはいない。だが、今明かさねばならないのはその原因についてだ。ゼンガーはそれを知らなければいけないのだ。
「・・・」
「ゼンガー……」
 無言で何かに耐える様にゼンガーは瞳を閉じていた。ソフィアはその佇まいが危うく見えたのか、自分が言いたい事が喉の奥に引っ込んでしまった。 
「俺の口から、言うか?」
「それは」
 当然そうなるのは目に見えていたので、ソフィアの代わりに第三者の視点からゼンガーに真実を語ろうとするイングラム。だが、ソフィアはそれを止めようとした。
「いや、いい。頼む、イングラム」
「ああ、では」
 だが、ゼンガーはそれを受け入れた。今は後腐れが無い様にきっぱり、すっぱりと自分に言葉をぶつけて欲しかったのだ。先生は頷いた。

112差無来!!:2008/01/28(月) 13:12:59 ID:8d0pWAYw
「どうして彼女がお前の誘いに乗ったか、解かるか?」
「偶々、機嫌が良かった……のでは?」
 イングラムの問いに手探り状態でゼンガーは答えた。声が若干、上擦っているのは何の感情の所為なのかは判らない。
「違う。嬉しかったのさ。お前に誘われた事がな」
「だから、容易く怒りは手放せた。……そうでしょう?ネート女史」
「・・・」
 案の定、正解を外したゼンガーにそう語るイングラム。怒ってはいても、好いた相手の誘いだからこそ、喜んで受けた。
 それが正しい事を示す様にソフィアは静かに首を縦に振る。
「では、もう一つ。何故、彼女が怒っていたのか?その理由は?」
「むっ……それが解からんから、俺は」
「フッ、そうか」
 そうして、更に設問が追加された。そもそも、ゼンガーはその答えを得る為にイングラムの協力を仰いだのだ。答えられないのも仕方ない事だった。
 イングラムはそんなゼンガーの解に少しだけ微笑を浮かべ……
「呆れた奴だな、お前」
 そうして、心底絶望したと言った表情を見せた。実は答え気付いていないのではなく、故意に茶を濁しているのでは?……と、先生は邪推してしまった。
「何……?」
 だが、そうではなかった。そんな先生の言葉と表情にムキになったのか、ゼンガーは少しだけ怖い表情をした。
 先生は渋々正解を語ってやった。
「それは彼女が寂しかったからさ。お前の身を案じ、何度も何度もお前に便りを出していたんだぞ?彼女は」
「う、っ」
 淡々と正解を語るイングラムにゼンガーは戦意を奪われた様に顔に脂汗を浮かばせる。ゼンガー自身もそれは気にしていた事だった。
「だが、お前は何だかんだと理由を付けて、返事を寄越さなかった。だから、キレちまったのさ」
 ゼンガーはまさかそれが原因だとは思いたくなかったらしい。彼らしからぬ楽観が全てに根差していた。
「お、俺も忙しかった。悪いとは思っていたが」
「理由にならん。お前がそうであった様に彼女もそうだった。否……その度合いでは彼女の方が上だった筈だぞ?
テスラ研と極東を行ったり来たりしながら、慣れない子育てに悪戦苦闘しつつ、それでもお前の事を考え、その帰りを待っていた。それを無視するとは良い度胸じゃないか?」
「……!」
 何とか体裁を取り繕おうと思ったゼンガーは誰から見ても苦しい言い訳をした。だが、当然それは先生の発する真実と言う名の槍の前には無力だった。ゼンガーはその重たい言葉に貫かれた。

113差無来!!:2008/01/28(月) 13:14:38 ID:8d0pWAYw

「しょ、少佐……あの」
「ネート女史、此処はきっちり言わせて貰うぞ」
 打ちひしがれた様に動けないゼンガーを心配したソフィアはゼンガーを助けようとするのだが、それを先生は許さない。今は情を掛ける場面ではなく、寧ろ相手に気付かせる事が重要な局面だからだ。
「夫婦間の事なら俺が口を挟む事じゃない。だが、お前達は未だそれ以前だろう?ゼンガー……お前はどれだけこの女に甘えていたか、理解しているのか?」
「それは」
 それが夫婦間の事ならば、それが家庭の事情だと言う事で話はお仕舞だ。だが、ゼンガーとソフィアは仲は良いのだろうがそんな関係では未だない。
 だからこそ、先生は口を挟まざるを得ない。それはゼンガーが望んだ事だからだ。
「そもそも、どれだけ釣った魚に餌を与えていないのかと言う話だ。それでは、女を繋ぎ止める事は出来んぞ」
「ソ、ソフィア?」
「・・・」
 決定的な一言が紡がれた。ソフィアが言おうと思っても言えなかった事を代弁した先生に彼女はうんうんと何度も頷いた。
 ……気のせいか、その瞳には涙が溜まっている様にも見える。ゼンガーは漸く己の浅慮に気付いた様だった。
「つまり、原因はお前の振る舞いにあった訳だ。……半ば、内縁に近い絆の深さなのだろう?為らば、お前はそれを明確な形にして示す冪だった」
「内え……!い、いや待て。俺とソフィアはそんな」
「そう思っているのはお前だけだ。気付けない事もまた罪だと知れ」
「お、俺とソフィアが……」
 此処に居たって何を馬鹿な事を、と先生は思ったが、流石にそれは言わなかった。思っていた以上にゼンガーは女心に疎く、また晩熟の様だ。そうでなくてはこうはならないだろう。
 そして、それを示せなかった事に罪があるというならば、それを購う方法はたった一つだけだ。
「ゼンガー……私」
「ソフィア……」
 ソフィアの瞳が心の全てを語っている様だった。それを認めたゼンガーは自分の矮小さを恥じ、穴があったら入りたくなった。
「気持ちを胸に飼うだけでは何も現実は動かない。以心伝心なんて普通では有り得ない。念動力等の不思議パワーも別にしてな。……それなら、お前はどうする?」
「むう……!」
「為らば、声に出して言うしかない。お前も、何れ言わねばならないと思っているんだろう?」
「あ、ああ」
 それこそが贖罪の方法であり、また罰だ。言う方としては火が出るほど恥ずかしいが、その程度は背負って貰わねば立ち行かない。凌ぐよりは乗り越えてナンボの世界だ。
「今がその時だと言う事だ。いや、遅過ぎる位だな。……好い加減、素直になれよ。それもまた、男の責任でもあるんだぞ?」
 ゼンガーの闘志に火を点けるべく、声援にも似た言葉を先生は送った。そして、それは確かにゼンガーの心に届いた。
「そう、か。そう言う事か」
 先生の粋な男気に心を打たれたゼンガーは、やっと自分がすべき事が見えた様だ。その手の台詞を女から求めるの事は間違っている。だが、それが欲しいからこそ女は待ち続ける。
 ソフィアが待っているのはゼンガーからのたった一言なのだ。ゼンガーはやっとそれを言う決心が付いた様だった。

114差無来!!:2008/01/28(月) 13:15:33 ID:8d0pWAYw
「イングラム、それならば見届けてくれ」
「む?」
 そうして、ゼンガーは立ち上がった。気迫でも使ったかの様に青い炎がゼンガーの背中で揺れている気がした。そして、次の瞬間……
「一意、専心!!」
「なっ!?」「ゼンガー!?」
 ゼンガーはイングラムの銚子を神速の動きで引っ手繰り、その中身を一気に呷った。
 ……嘗て、アラドも同じ事をしたのを先生は覚えていたが、問題なのはそれを今回はゼンガーがやったと言う事だ。酒に壊滅的弱い彼がこんな事をして無事で済むはずが無い。
「ぐっ……ぅ、ぐ……き、聞いてくれ……ソフィア」
「は、はい!」
 マッハを越える速度で酒は全身に回り、理性を、その他諸々の余計な感情を消し去っていく。
 真っ赤に染まりながらソフィアの前に仁王立ちするゼンガーは鬼気迫っていた。ソフィアはゼンガーの言葉を待った。

「俺は、貴方を……あ、愛してい……」

――ドサ
 『る』の一言は紡げなかったが、確かにゼンガーはソフィアに対し、自分の持つ素直な気持ちをぶつける事が出来た。
 そして、ゼンガーはその代償に床へと崩れ落ちた。
「ゼンガー……」
 漸く聞く事が出来た愛している男の言葉。ソフィアは女の幸せを噛み締めていた。
「確かに、見届けさせて貰ったぞ。お前の漢を、な」
 始終を見届けたイングラムは静かに頷くと、倒れたゼンガーの身体を起し、椅子に座らせてやった。
「私も貴方を……愛していますよ」
 カウンターに突っ伏したゼンガーにソフィアは顔を寄せた。そして、その頬に唇を押し付けた。
――ちゅっ
 ゼンガーの頬にはソフィアの唇の形をしたルージュの痕が綺麗に残った。

115差無来!!:2008/01/28(月) 13:16:09 ID:8d0pWAYw
「済まなかった、ネート女史。些か、急ぎ過ぎたのかも知れない」
「いいえ?寧ろ、お礼を言わせて下さい。私が一番欲しかった言葉を、彼の口から聞けた」
 今日の相談室はこれでお開きだ。先生はソフィアに対し謝罪していた。ゼンガーの、そしてソフィアの望む結末を引き入れたとは言え、ゼンガーを煽り過ぎた事は少しだけ後悔していたのだ。
 だが、ソフィアはそれを責める事は無かった。寧ろ、礼を言われてしまった先生はこっ恥ずかしくなってしまった。
「まあ、奴が酒に頼ったのは締まらない結末だったが……次は素面で言ってくれる事を期待しましょう」
「ええ。そうですね」
「為らば、今日は此処までですな。潰れたゼンガーを放置するのは気が引ける。……ネート女史は帰り支度を。俺は勘定を済ませる」
 これ以上、何かをする事は不可能なので先生は勘定の為に席を立った。出来る事ならば、この次は酒に頼らずに男らしく堂々と今日の台詞を言って欲しいと思う先生だった。
「ソ、フィア……俺は」
「帰りましょう、ゼンガー」
 ……だが、そんな日が果たして来るのかどうか。それは誰にも判らなかった。

「ぬう、お、重い」
「あの、平気ですか?」
「な、何とか……ぐっ」
 アフターケアは万全に。ゼンガーの部屋までその部屋の主を背負って帰り道を急ぐ先生は貧乏籤を引いていた。
 ヒリュウから兵舎までは結構な距離があるので実はあんまり大丈夫ではなかったりする。だが、此処まで来て無様を晒すのは先生のプライドが許さないので空元気で何とか答えた。
「……済まん。イングラム」
「お前は寝ていろ。無事に送り届けてやる」
 誰の所為でこんな苦労をしているんだ。イングラムは声高らかに叫びたがったが、やっぱり止めた。安請け合いした自分の落ち度だからだ。
「承知……zzz」
「ね、寝付きの良い奴だな」
「くすくす……大きな子供みたい」
 その台詞に安心したのか、ゼンガーは夢の世界に旅立った。イングラムはその余りの寝付きの良さに盛大に呆れ、ソフィアは楽しそうに微笑んでいた。
「全くです。……でも、好きなんでしょう?この朴念仁が」
「ええ。そうです」
 にっこり微笑んだソフィアの顔は全てを締め括る感嘆符の様だった。ゼンガーが少しだけ羨ましいイングラムだった。


そして……

116差無来!!:2008/01/28(月) 13:17:35 ID:8d0pWAYw
――数日後 再びBARヒリュウ
「あれから進展はあったのか?」
「地道に点数を稼いでいる。目指せマイホームパパ……と言う奴だ」
 醜態を晒したあの夜から数日後。野郎二人は再び因縁の酒場に集まっていた。
「その前に指輪の一つでも買ってやれ。愚図愚図していると後悔するぞ?」
「ああ。肝に銘じる」
「注文は決まりましたかな?」
 流石に前回の二の轍を踏みたくないゼンガーはアルコールに対する備えが万全だった。だが、今の彼は決して茶やミネラルウォーターに逃げたりはしない。
 ショーンの注文に二人は答えた。
「バーボンをくれ。ストレートで」
「ホッピー。ロックでな」
「「!?」」
 先生とマスターの顔がモノクロ表示で驚愕に染まった。
「か、畏まりました……!」
「くっ、くくくく……!」
 盛大に噴出す前にマスターは退散、イングラムは俯いて笑いを堪えようとしたがどうしても口の端からそれは漏れてしまった。
「何を笑っている?」
「いや……安上がりな男と思ってな。奥方の前では止めておけよ?」
「もう手遅れだ」
「そうか」
 別にイングラムは適当に言ったつもりはない。こちらは一本数万円はする酒を空けても満足に酔えない事がある。それなのに酒ですらない飲料で気持ち良く酔えると言うのは酒飲みには経済的に羨ましかったするのだ。
 ……だが、それ以上に絵としては非常に格好悪い。世界中探してみても恐らく、ゼンガーの様な人間は稀だろう。ある意味、天然記念物かも知れない。
「酒を飲むのが、こうも面白いモノとはな」
「良いモノだろう?雰囲気を味わうのも酒の醍醐味だ」
 どうやらゼンガーは酒の味ではなく、酒を飲む雰囲気を理解するに至った様だ。それは先生との出会いがなければ、恐らく得られる事が無かったであろうモノだった。
「そう考えると、俺は大分損をしていたのだな。お前には感謝しなくてはなるまい。……友よ」
「と、友?」
 ……何か聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。先生はゼンガーを見て聞き返した。聞き間違いと思いたかったのだ。
「そうだ。俺が杯を固めたの男はお前だけだからな。……不満か?」
「いや、光栄だ……と、言っておこう」
 残念ながらそうではなかった。……どうやら、この身はイロモノに気に入られてしまったらしい。
 ……否、自分自身がイロモノを通り越したキワモノなのでそれはどうでも良いのだが、先生はどうしてもそれが嬉しくなかった。
「この借りは何れ、な」
「借りに感じる必要は無い。それでも借りだと思うなら、俺の飲み友達になってくれ」
「ああ!」
 力強く頷いたゼンガーはとても嬉しそうだった。だが、先生のテンションはどん底だった。

117差無来!!:2008/01/28(月) 13:18:56 ID:8d0pWAYw
 おまけ

――イングラム私室
「……と、まあそう言う事があった」
 自分の炊事当番をこなしつつ、鍋を煮立たせるイングラムはアラドとセレーナに事の仔細を語っていた。
「あのゼンガー少佐が……ネート博士も少し気の毒かも」
「でも、これからきっとマシになってくっスよ。そうなんスよね?」
「そう思わなければ始まらんだろうな。……むう、甘過ぎるか?」
 あの二人がどうなるのかはお天道様だって判らない事だ。だが、自分が走り回った事に価値があるのならば、せめて丸く収まる事を期待したい。先生はお玉で煮汁を掬い、味を確かめた。
「で、少佐は今日は何を作って?」
「ああ。肉じゃがだが」
 今日は素朴にお袋ならぬ親父の味を追求するイングラム。ただでさえ冷蔵庫にはセレーナが持ち寄った食材が消費される時を待っている。その処分も兼ねてだった。
「げっ!?少佐!その言葉は禁句……」
 だが、その肉じゃがと言う言葉に目を丸くしたアラドは叫んだ。肉じゃがに並々ならぬ執着を見せる人物が居る事を知っているからだ。
――バンッ!
 そうして、その人物は現れた。自動ドアの開閉を無視して無理矢理扉を開いて、イングラムの部屋に突撃してきた人物とは……

「肉じゃがと聞いて飛んで来たわ」

 先生の妹だった。愛しの兄貴が作る大好物はヴィレッタにとっては是非とも食べたい一品だったのだ。
「お邪魔します、少佐」
 そしてオマケがもう一人。ヴィレッタに遅れて入ってきたのはアヤだった。
「うわ、変なのが召喚された」
「うう……俺の取り分無くなっちまうよ」
 呼んでもいないのに現れる事を推参と言うが、ヴィレッタとアヤの行動はそれにばっちり当て嵌まった。
 アラドは頭数が増えてしまった事に悲しくなった。自分に割り当てられる肉じゃがが減ってしまう事は彼にとっては死活問題なのだ。
「お前等……そんなに暇なのか?」
 否、間違いなく暇なのだろう。態々、自分の兄貴(元彼)の下に訪れ、飯を集っているのだからそう考えざるを得ない。
「それはそうと聞いたわ、イングラム。ゼンガー少佐と一悶着あったんですって?」
「何でも、無理矢理お酒飲ませて潰したとか。ショーン副長が言ってました」
 ゼンガーとソフィアとの一件は二人の耳にも入っていた。まあ、彼女達もヒリュウを頻繁に利用するのだから知っていて当然と言えば当然だった。
「何か、歪んで伝わってる?」
「もう一度、説明した方が良いんじゃないスかね」
 だが、聞く限りではどうもその情報は正しい形で伝わっていない様だった。
「面倒臭いな……」
 確かに面倒臭い。だが、ゼンガーとソフィアの名誉の為には説明を省くわけにはいかない。先生は鍋を掻き混ぜつつ、もう一度掻い摘んでその話をしてやった。

「……以上だ」
「へえ」
「そんな事が」
「何も言わなくて良いぞ。感想は聞きたくない」
 肉じゃがの盛り付けを終え、皿を並べた所で先生の話は終わった。情報の歪みが修正された二人は興味深そうに呟く。だが、先生はこれ以上その話を蒸し返して欲しくなかった。
「頂きますっス!」
「あ、こら!遠慮なさいアラド!」
 待ってましたとばかりに自分の皿にアラドは齧り付く。堪らずヴィレッタは叫んだ。多めに肉じゃがを食べたい彼女は大食いのアラドにそれを大量を食べられる事を恐れたのだ。

118差無来!!:2008/01/28(月) 13:19:52 ID:8d0pWAYw
「ちょっと聞いて置きたいんだが」 
「「「「?」」」」
 箸の奏でる音をバックに先生は口を開いた。皆が一様に先生に視線を集中させる。
 先生が言ったのは今回の一件を通過した事で心に湧いた一抹の単語だった。
「お前達、結婚についてどう思う?」
「えっ、け、結婚!?」「しょ、少佐ってば何て事//////」
 その言葉が意外だったのか、セレーナはちょっとだけ噎せ、アヤは顔を真っ赤にした。
「うーん……俺は未だヴィジョンが浮かばないっスねえ(もぐもぐ)」
 最初に答えてくれたのはアラドだった。飯粒を咀嚼しながら言葉を零す彼はあっけらかんとしていたが、些か行儀が悪い。
「だが、もう二年もすれば最悪、お前には伴侶が居るかも知れない。考えて置いて損は無いぞ」
「そ、そうっスね」
 イングラムは冷静に正論と言う名の突っ込みを返した。それに少し戸惑うアラド。……どうやら、心当たりが沢山ある様だ。
「その前に誰かを孕ませる事もあるか。相当、お前は種を蒔いている様だからな」
「いや!それは蒔いてるんじゃなくて、無理矢理搾られてるんスよ!」
 確かにそう言う暗黒時代がアラドにはあった。アイビスを筆頭にオウカとゼオラにも相当搾取されていた事は彼にとっては忘れ去りたい過去だ。
「今は違うだろ?」
「う」
 だが、今のアラドは違う。恐らく、同年代の男と比べ、アラドは女の扱いをかなり心得る。先生の下で修行を積んだ彼は若い太陽になろうとしているのだ。
 先生の言葉が現実になる日が来るかも知れない。……いや、きっと来るのだろう。
「わ、私は……少佐がその気なら、何時でも//////」
「くぉら!セレーナ!よくも私の台詞を!親友とて容赦はしないわよ!!?」
「こう言うのは言ったもん勝ちでしょうが!へへん」
「ぐぬぬぬぬ……」
 で、アラドの後に続いたのはセレーナだった。出鼻を挫かれたアヤはセレーナに噛み付くが、結局ダメージを与える事が出来ずに悔しげに歯噛みするだけだった。
 ……何と言うか、女の必死さが伝わってくる情景だ。婚期の真っ只中にある彼女達にとって、その相手をゲットしようとする様は男には判らない哀愁に満ちている。
 先生はそんな女達の考えを理解する事は無く、のんびり煙草を咥えて先端に火を渡らせる。そんな女二人にアラドはホロリとさせられた。
「そうね。結局は貴方次第でしょ」
「選択権は俺に委ねられるって?」
 最後はヴィレッタだ。彼女もまた婚期の只中に居る以上は必死になりそうなものだが、セレーナ達とは違い彼女は落ち着いていた。
「そうでしょう?……違うとでも言うの?」
「・・・」
「違うなら、言ってあげましょうか?私と結婚してって♪」
 沈黙し、煙草をふかす兄に妹はここぞとばかりに駄目押しを喰らわせる。或る意味、とても男前だった。

「「なぬぅっ!!?」」

 それに黙ってられない女達が異議を申し立てた。
「そりゃ無いでしょ大尉!って言うか、兄妹で何て無理でしょ!」
「籍は別々よ?ほら、苗字だって違うし。何も問題は無いけど」
「そんな屁理屈!」
 ……どうやら、この手の話題は波紋を呼ぶらしい。ぎゃーーぎゃーー喧しい女三匹の寸劇を横目で見つつ、先生は紫煙を燻らせていた。

119差無来!!:2008/01/28(月) 13:20:55 ID:8d0pWAYw
「で、結局、師匠はどう考えるんスか?」
 まあ、どれだけ論争を交わそうが、それを言った本人がどう考えているかを知らなければ話の飛躍は無い。アラドはそれを先生に聞いた。
「……相手に任せたいと言うのが正直な処か。だが、そもそも俺の背負っているモノを考えれば、結婚なぞ出来ないのだがな」
「あ……」
「「「!」」」
 一瞬、場が静まり返った。馬鹿話と思ったが、そんな重たい事が出てくるとは皆が予想出来ない事だった。
 ……因果律の番人としての使命。それに特定の誰かを巻き込む事は相手に人間としての生を放棄させると言う事に他ならない。
 愛等と言う曖昧な感情で相手にその道を選択させる事はイングラムとっては罪悪以外の何物でも無い。彼が結婚を考えない……否、結婚しようとしないのはそう言う事情があるからだ。
「だが」
 先生の言葉には続きがあった。否定接続詞がそれを語っている。
「それでも尚それに踏み切る事があるとすれば……相手が孕んだ時か」
「え?こ、子供が出来たら!?」
「おかしいか?使命を捨てるには十分な理由だと思うが」
 それが今の所の先生の考えだった。優先順位の違いと言う奴だろう。使命は重要だが、最優先事項は他にあると言う事の確かな告白だ。
 子供が出来た場合、伴侶とともに子育てに没頭する。それはイングラムにとっては使命を捨ててでも遂げたい事だった。

「しょ、少佐!何で言ってくれないんですか!子供の一人や二人、この私が直ぐにこさえて……!」
 どうやら、セレーナにはその覚悟が既にあるらしい。何と言うか、見ていて痛々しかった。
「「((がくがくぶるぶる))」」
 此処で何か異議の申し立てをしそうなヴィレッタとアヤは何故かガクガクブルしていた。
「って、どうしたんですか?大尉もアヤも」
 それに異常なモノを感じたセレーナは問いかけてみた。答えは以下。

「無理……絶対、無理!子供が出来る前にこっちが擦り切れちゃうわよ……!」
「壊れちゃう……いえ、壊されちゃう!身体の前に心が……!」

 それがどう言う事かは……まあ、推して知るべし。此処で語る様な内容ではない。
「そ、そんなに、凄いんだ。少佐はベッドで」
「ええ。ヤバイっスよ」
「!?」
 アラドは爆弾を吐いた。セレーナは一歩後ずさった。男であるアラドがどうしてイングラムのそんな事を知っているのだろうかと、悪い意味で怖い考えが浮かんだのだ。
「結果的に女を壊す事に特化してるって言うか……興味本位で手を出したら、火傷を通り越して焼死するっス」
 その理由は至極単純だ。アラドは先生の弟子として、様々な知識や技を受け継いでいる最中だ。その模範演技も当然見たのだ。
「そして、それこそが俺が目指している領域っスよ」
 目標は遥か遠く。至ろうと思って至れる次元ではない。だが、例えそうだとしてもそれを目指す事は無意味ではない。途中で止まってしまったとしても、アラドはそれで良かった。

「……ふゆうう。……やっぱ、年上って良いなあ」
「「「え」」」
 紫煙交じりの先生の一言で再び場が沸く。先生はソフィアに何かしら感じ入る所があったらしい。惜しむらくは、その女が売約済みであると言う事か。
 まあ、ソフィアが先生より年上か否かはこの際置いておくとして、どうやら先生は年上属性らしかった。
 ……そして、女三人には難儀な事実が露呈してしまったのだった。

120名無しのも私だ:2008/01/28(月) 13:35:21 ID:8d0pWAYw
ようこそモイスチャールームへ。
ここはしっとりとした空気が保たれた居心地の良い空間。
イングラム先生が誰かの悩みをしっとり優しく包み込みます。

いままで大分ブランクがあったので次弾投下。

続々々々々々々・イングラム先生のお悩み相談室。

泣いたフーさん。

※読むに当たっての注意
1、少し毛色が違う作品に仕上げました。自己解釈が少しあります。嫌悪感がある方は最初からスルーして下さい。
2、フー姐さんとイングラムの絡みを助長するものではありません。ギャグとして割り切って下さい。

以上を守らずに読んで頭痛や吐き気を催しても作者は一切責任を取れません。不悪。

121Your Body:2008/01/28(月) 13:36:36 ID:8d0pWAYw
 伊豆基地近郊の商店街を先生は歩いていた。この界隈は夜になるとヒリュウやハガネに代表される飲み屋が暖簾を出し、酒を求める人でごった返す。
 だが、昼間である今の時間帯は打って変わって静かなものだ。先生もこの時間から酒を飲むつもりは毛頭無かった。
 それなのに先生がこの場所を歩いているのは、それら酒場とは別の場所を目指す為だった。
 兵舎を離れてから凡そ10分後。奥まった場所にひっそりと佇むその店を見つけた先生は、少しだけ戸惑った様に店のドアに手を掛けた。
「本当は、来たくなかったが……儘よ」
 弱気な心を気合で捻じ伏せ、煙草を咥えると、先生は素早く店の中に入った。
 その店の名は喫茶TIME DIVER。先生の弟分(?)が経営する流行らない喫茶店だった。

――カランカラン♪
 来客を告げるドアベルが鳴る。店員は直ぐには出て来なかった。
 こじんまりとした小さな店だ。木製の家具がレトロでシックな雰囲気を醸し出す。何処か、ヒリュウの空気に通じるものがこの店にはあった。
 壁掛け時計がカチコチ音を鳴らし、年代物の蓄音機が我が者顔でスペースを取っている。そして、壁際にあるガラス張りの大きなドレッサーには何故か特撮ヒーローモノのグッズが飾られていた。
――パタパタパタ…… 
 漸く来客に気付いたのだろう。店の奥から店員が奏でるスリッパの足音が聞こえて来た。
 出迎えてくれた店員は先生の知った顔だった。
「いらっしゃいませ〜〜」
 メイドっぽい制服に身を包んだバイトのアイビス=ダグラスだった。
「よっ」
 しゅた。片手を上げた先生を見てアイビスは顔を引き攣らせた。
「げっ」
「……客に対して良い度胸だな」
 開口一番、汚物を見る様に呟くのは如何なものか?どうやら、この店は店員に対する教育が行き届いていないらしい。
「う、ごめんなさい。……よ、ようこそいらっしゃいました少佐」
「今更、取り繕ったって遅い」
 営業スマイルを張り付かせたアイビス。だが、その顔はスマイルを作る事は無く、逆に引き攣ってしまった。
「そ、それにしても珍しいですね。少佐がうちに来るなんて。店長に用事ですか?」
「いや、目当てはクォヴレーじゃない。別のな」
 実際、先生がこの店を訪れたのは初めての事だ。それが珍しかったアイビスはてっきり先生が彼の弟である店長に用があると踏んだのだろうが、それは間違いだった。
「喫煙席……なるべく端っこが良いが、頼めるか?」
「あ、はい。こちらへ」
 アイビスに誘導され、狭い店内を移動する先生。アイビスの手付きは結構手馴れていた。

122Your Body:2008/01/28(月) 13:38:07 ID:8d0pWAYw
「少し、待ってて下さい。メニューをお持ちしますので」
「いや、注文は決まっている。アイスコーヒーだ」
 先生が通された席は窓に近い小さなテーブル席だった。何処か隔離された様なその場所はトイレの直ぐ前にあった。
 メニューを持ってくるために奥に引っ込もうとしたアイビスに先生は早速注文を申し付けた。
「え、あ、アイスコーヒーですね。……えと、ミルクとシロップは」
「一切無し。無糖で頼む」
 この注文は元々決まっていたものだ。ある人物を引っ張ってくる為に必要なファクター。まあ、そうでなくても先生はコーヒーを頼もうとしていたのだが。
「かしこまりました」
「待て」
「え?」
 注文を聞いたアイビスは今度こそ奥に引っ込もうとするが、今度は先生がそれを止めた。アイビスは慌てて振り返る。
「アラドとはどうだ?最近」
「!?」
 からかい序に先生はアイビスのその後の経過について聞いてみた。アイビスは予想外な言葉に慌てた。
「上手く行ってないのか?」
「あ……」
 少しだけ表情を曇らせたアイビス。何故かその仕草は犬チックだった。
「ぜ、全然逢えなくて……寂しいです。あたし、嫌われちゃったのかな」
「以前の様に気軽に会えない、か。ま、当然だな」
 前は頻繁にアイビスはアラドに会えていた。一緒に訓練をしたり、街に遊びに出たりと言う事が沢山あった。だが、あの一件の後、二人の間は少し気拙い。
「俺が会わない様に釘を刺しているからな」
「あんたの仕業ですか!」
 だが、原因はそれだけではない。先生は自分の下に転がり込んだアラドにそれを徹底させていたのだった。
「もう好い加減にアラド、返して下さいよお。禁断症状が出そうですよお」
「フッ……そう思うなら、以前の様に無理矢理誘惑してみれば良いのではないか?年上の持つミリキと言う奴でな」
 本気で瞳に涙を溜めたアイビスは子犬と言う表現が良く似合う。先生はつい苛めたくなって、煽る様な台詞を吐き掛けた。
「ふえぇ!?」
「だが、今のアラドを以前と同じと思うな?嘗ての三倍増しの性能だ。……今のアラドは強いぞ?」
「……//////」
「返り討ちを辞さないならそれは認めよう。だが、もう少し待ってくれるなら、アラドはきっと野に放つ。……好きな方を選べ」
 真っ赤に染まるアイビスは嘗て、自分がどれだけはっちゃけていたのかを思い出し、その光景に酔っている様だった。
 彼女がまた同じ過ちに出るのかは知らないが、先生監修で強化されたアラドはメカギルギルガン並の強さを誇り、わんこには敵わない相手にまで成長している。
 そして、先生は最終的な決断をアイビスに任せた。後もう少しで仕込みの一部は終了する。そうなった時には、再びアラドを彼女達に引き渡そうとイングラムは決めていたのだ。
「少佐の意地悪」
 ぐすん。涙を呑んだアイビスは捨て台詞を吐いて退散した。アイビスは待つ方を選択した。
「賢い選択だ」
 わんこを退けた先生は不敵に笑う。彼女に胸の事を相談されたのが随分昔の事の様に感じる先生だった。

123Your Body:2008/01/28(月) 13:39:58 ID:8d0pWAYw
「ふゆうう……」
 新しい煙草を咥えた先生は脚を大きく投げ出して煙を天井に吹き掛けた。……知った人間が居る店ではこう言う雑談が可能になる。中々それも面白いと先生は思ってしまった。
 TIME DIVERがどれだけ儲かっているかは知らないが、この店は結構従業員を雇っている。その先生が知る人間も少しだが居る。
 今のアイビスに、店長のクォヴレー。自分が追いかけてきた人物。
「それだけ、か。……いや、後はアイツか」
 その三人で全部と思った先生はもう一人だけ知る人間が居る事を思い出した。
「……む?」
 その人間の顔が頭を通過しそうになった時、店の奥からその人物が丁度現れた。
「……?」
 その人物は奥の席に座る先生が最初誰だか判らなかった。
「!……お前は、イングラム?」
 だが、それも一瞬で、その特徴的な青ワカメを思い出した様に大きな声を出した。
「久しいな。フォルカ=アルバーグ」
 赤い髪の世紀末救世主。某一子相伝のイカサマ拳を会得してそうな修羅ノリスケが先生の知るもう一人だ。
 嘗て、彼は兄の事で相談してきた事があった。
「あ、ああ。久し振りだな。……お前が此処に茶を啜りに来るとは、クォヴレーに用なのか?」
「違う。用事は別の奴に、な」
 フォルカにまで同じ事を言われてしまった。どうやら、ここに自分が居る事はクォヴレー繋がりだと誰もがそう思ってしまうらしかった。
「そうなのか?まあ、俺にはどうでも良い事だが」
「そうとも言うな。で、お前は今日は上がりなのか」
 まあ、確かに先生が誰と会おうがフォルカには関係の無い話だった。
 だが、そんな事よりも先生はフォルカの服装が気になった。この店の制服ではなく、彼本来の私服を見に纏っていたのだ。
「ああ。今日は兄さんと出かける用があってな。少し早いが上がりにさせて貰った」
「アルティスとな。……そう言えば、閃光と氷槍のその後はどうなのだ?全く情報が入ってこないのだが」
「兄さんとメイシス?……ああ、以前に増して仲は一層良い。あの時、拗れたのが嘘の様だ」
「上手く行っている、か。それは善哉だな」
 一時期、不協和音が鳴っていたアルティスとメイシスの仲をフォルカ経由で取り持った事がフォルカとの馴れ初めだ。
 あの後全く音沙汰が無かった事象だけに、先生は心配はしていたが何時の間にか忘れ去っていた。その予後を良い形で時を越えて聞けた先生は微笑んだ。
「お前の御蔭だと俺は思っている。あの時のお前の言葉……今では理解出来る様になった」
「それは結構な事だ」
 フォルカも様々な出会いを経験し、修羅としてではなく、人間として成長した様だ。拳で全てを解決しようとしていた嘗ての暴れん坊はもう居なかった。
「まあ、ゆっくりしていくと良い。俺はこれで」
「ああ。また、な」
 急いでいるのかは知らないが、フォルカは踵を返して店を出て行く。先生はその背中を見送った。
――カランカラン……バタン

「……次期修羅王候補がこんな場所で給仕の仕事か。世紀末ではないが、世が末っぽいな」
 あんなのだが、フォルカの修羅としての実力は折り紙付きだ。アルカイドにも迫ると言われる修羅界のビッグネームがこんな所でのらりくらりしているのは何か間違っていると先生は思った。
――カランカラン
「ぬう?」
 ……と、そんな事を思っているとドアベルが鳴る。それにハッとすると出て行ったはずのフォルカが何故か戻ってきた。出て行ってから30秒と経ってなかった。
「済まん、言い忘れた事があった」
 アルティスとどうのこうの言っていたが、実はあんまり急いでいないのか、フォルカは実にマイペースだった。
「あ、ああ」
「アリオンに見かけたら言っておけと言伝を預かっている。『偶には飲みに誘え!』……以上だ」
「了解した。……それを態々言いに戻ったのか?」
「そうだが」
 良い人だ。加えて、律儀だ。そのフォルカの心意気に頭が下がりそうに先生はなった。
「解かった。まあ、そうなったらアリオンの他にお前も誘おう。プロテインに逃げる事は許さんから、覚悟しておけよ?」
「楽しみにしている」
 今度こそフォルカは帰る気の様だ。飲みの約束を取り付けた先生は今度は無言でフォルカを見送った。
――カランカラン……バタン
「忙しい奴だ。全く」
 忙しい、と言うか落ち着きが無いと言うのが正しい表現かも知れない。
 その落ち着きの無さは雲の人っぽい……そして格好良過ぎる人っぽいアリオンにも負けていない。
 まあ、彼等と飲む事があるなら上等な酒を振舞おうと心に決めた先生だった。

124Your Body:2008/01/28(月) 13:41:43 ID:8d0pWAYw
「しかし、中々来ないな」
 フォルカが出て行ってから五分は経過していた。アイビスに注文してから数えると10分はゆうに経っている。
 アイスコーヒー一杯に何を手間取っているのか判らないが、些か時間が掛かり過ぎの様に思える先生。
「・・・」
 まあ、しかし、今は先生にはそっちの方が都合が良い。目当ての人間が現れた時、どう声を掛けるか先生は決めていなかったのだ。
 その人物との馴れ初めは丁度二日前の夜。お世辞にも艶っぽい出会いとは言えないモノだった。先生はその時の事を思い出していた。

――二日前 BARヒリュウ
 その日は生憎の雨模様だった。仕事が長引き、閉店時間の少し前にヒリュウへ駆け込んだ先生は自分の定位置に向かい、歩を進めた。
「む」
「ああ、少佐。いらっしゃい」
 マスターであるショーン副長がそう声を掛けてきた。だが、先生はマスターの言葉は耳に入らなかった。それもその筈だ。
「……ひっく」 
 自分の席……ヒリュウの主専用と暗黙了解があるその席には既に先客が居たのだ。そして、その人物は相当に酒に酔っている様だった。
「ああ……残念ですな。少佐の席は今日は塞がっています」
 何となく不機嫌な先生の空気を察知したマスターが慰めの言葉を掛ける。
「まあ、仕方が無い。俺専用ではないからな。……その隣を頂こう」
 目当ての席は得られなくとも、出来るだけそこに近い席へ。先生は普段は自分の席である場所の隣にどっかり腰を下ろした。
「ん……?」
「・・・」
 当然、先生はその人物とばったり目が合ってしまった。
「あら……良い男が座ってきましたわ」
「お前は……」
 その人物は酒に酔ったと思われる胡乱な表情と共に口を開く。先生の耳に聞こえて来たのは女の声だった。
 一瞬、男と見紛う麗人。先生の友であるアル=ヴァンと同様のペイント(タトゥー?)を顔に施し、老竹色の髪を後ろで束ねた女だ。
 髪色と同じ瞳を焦点が合わないかの様に彷徨わせる、フューリア聖騎士団の一番隊長。その名は……
「フー=ルー=ムールー、か」
 先生はその人物がフー=ルーであると一発で分かった。直接の面識は無かったが、彼女はフューリー関連の兵器のオブザーバーとして頻繁に極東基地を訪れて居る。
 また、偶にではあるがアグレッサーとして連邦軍の模擬戦に参加する事もあるホーリーオーダーの古参だった。
「私を御存知?ええっと、貴方は、確か……誰だったかしら。顔は覚えているのに」
「イングラム=プリスケンだ」
 どうやら、フー=ルーは先生の事を知りつつも思い出せないらしい。様々な方面で活躍中の先生を知らない者は最早居ないのかも知れなかった。
「イングラム……ああ。あのビトレイヤーの」
「……!」
 で、名前を聞いて思い出したフー=ルーはあろう事か先生に禁句である言葉を吐いた。『裏切り者』と。マスターはカウンター越しにそれを聞いて、冷や汗を顔に張り付かせた。
「そうだ。だが、それは昔の話だ。今はすっかり改心した」
「ふぅん」
「……ほっ」
 だが、先生はそんな言葉には動じない。そして、怒る事も無かった。それを飲み込んで今の自分の実情を語る。
 ショーンは安堵の溜息を吐くと、そそくさと先生の酒を準備し奥に引っ込む用意をした。……心臓に悪くて見ていられなかったからだ。

125Your Body:2008/01/28(月) 13:43:43 ID:8d0pWAYw
「それで、どうして私の隣に?」
「お前の席は普段俺が座っている席でな。その近くに座りたかっただけだ」
 酒を手渡し、逃げる様に奥に引っ込んだマスターが少し気になった先生だったが、直ぐにそれは別の思考に上塗りされた。フー=ルーが絡んで来たからだ。
 先生は正直な所を口にする。
「あら、残念。てっきり口説きに来たとばかり思ったのに」
「ハッ、お前を口説いてどうする。下半身で繋がるのか?それとも、どちらかが死ぬまで斬り合うのか?」
「く、ふ、フフフ……!」
 フー=ルーは酒によってハイになっているらしい。妙に怪しい台詞を口走った。無論、それが判っている先生は逆に挑発する様な台詞を以って返す。酔っ払いの相手なぞしたくない気分だった。
 だが、それは逆効果で、フー=ルーに火を点ける結果と相成った。危険な笑みが彼女の口から零れ、瞳が不気味に揺れた。

「ふっ、ふふ。良く御存知の様ね、私を」
「噂位は聞いているさ」
「私も貴方のお噂はかねがねと。実に……私好みの男性ですわ」
 彼女の事に付いてはアル=ヴァンから聞いていた先生。曰く、死に場所を求め戦場を駆ける女修羅。慕う者は多いが、それ以上に畏怖される事の方が多い聖騎士団の或る意味、顔だった。
 そして、それはフー=ルーも同じだった。イングラム=プリスケンに纏わる噂。先生としての華々しい成果の裏に見え隠れするどす黒い噂だ。
 曰く、イングラム=プリスケンは汚い仕事に手を染めている。夜な夜な街に繰り出しては犠牲者を出し続けている。血の雨を降らせ、人体を壊体する事を無上の喜びとしている……等だ。
 その殆どは根も葉もない噂だが、一部では信憑性のある興味深い証言が寄せられていた。
「御託は良い。と言うか、お前が俺を口説いてどうする」
 だが、先生はそんな与太話を聞くつもりは毛頭無い。フー=ルーの瞳の色に気付いている先生は、面倒だがさっさとそれを済ませたかった。
「それ為らば、話が早いですわ。私が選ぶのは……」
 にっこりと微笑んだフー=ルーは椅子から立ち上がった。

「後者でしてよ」

 そして、彼女は次の瞬間にはイングラムの咽喉下に刃を突付けていた。刀身にBARの薄暗い照明が当たり、光を鈍く照り返す。
 若干長めの、細身の剣。どこから取り出したか判らないそれはレイピアと呼ばれる類の刺突用の剣だった。

126Your Body:2008/01/28(月) 13:46:26 ID:8d0pWAYw
「・・・」
 完全に取った。フー=ルーはそう確信していた。だが、彼女を以ってしても目の前の男は相手が悪かったと言わざるを得ない。
「……くっ」
 それは間違いだったとフー=ルーは思い知らされた。
――ゴリッ
 硬く冷たい鉄の感触が額から伝わってくる。それもその筈だ。咽喉下に刃を突付けるより一瞬早く、イングラムはフー=ルーの頭に銃を突付けていたのだ。
「フッ……だと思ったぜ。狂犬が」
 マッドなマックスが使っていそうな銃身を切り詰めた水平二連ショットガンがイングラムの手には握られていた。……これもまた、どこから出したのかは不明だった。
「噂は……事実の様ね。その噎せ返る様な血の匂い……年甲斐も無く、身体が熱くなりますわ」
 先に動いた自分より早く、銃を構えたイングラム。それはつまり、反応速度の上をいかれたと言う事だ。先の後を取られたフー=ルーに勝ち目は無いのは明白だった。
「危ない真似は止めておけ。こちらに安全装置は付いていない。この距離ならば、俺が引き金を引く方が早いぞ?」
 この至近距離では近代火器には勝てないとイングラムは言いたい。こんな零距離で散弾を浴びれば、フー=ルーの頭は柘榴の様に吹っ飛ぶのだ。
「……その様ですわね」
 そうしてフー=ルーは格の違いを見せ付けられ、敗北を認めるかの様に静かに剣を下ろす。
「フッ」
 その一連の動作の最中、イングラムは感情が全く見当たらない笑みを張り付かせる。 
「なっ!?」
 そして、それと同時に引鉄に掛けられた指に力を込めた。
 フー=ルーはそれに気付き叫んだが、全ては遅かった。
――カチリ
 引鉄が引かれ、ハンマーが落ちる。……だが、その衝撃が雷管を撃発させる事は無かった。マズルファイアも、銃声だって無かった。
「!!…………?」
 フー=ルーは身を縮め、ギュッと目を瞑っていた。だが、何時になっても真の死が訪れない事を不審に思った彼女はそっと目を開ける。
「BANG!これで一度死んだぞ?フー=ルー=ムールー」
 目の前に銃なんてとっくの昔に無かった。片手を銃の形にしたイングラムがからかう様な声を飛ばしていた。
 ……そう。最初から弾など込められて居なかったのだ。それにやっと思い至ったフー=ルーは自分が呼吸する事すら忘れていた事を思い出した。
「はっ、はぁ……は……はあ」
 急いで酸素を取り込むと、味わった恐怖を体現するかの様に大量の汗が全身から噴出す。全身に回っていたフー=ルーの酒が一気に飛んだ。
――カラン
 フー=ルーは戦意を喪失し、その得物を床に取り落とす。だが、今はもうそんな事はどうでも良かった。

127Your Body:2008/01/28(月) 13:47:59 ID:8d0pWAYw
「……私の事はフーで結構ですわ、イングラム=プリスケン」
「なら、お前も好きに呼べば良いさ」
「では、少佐と」
 ニアデス半歩手前の状況から生還し、何とか落ち着きを取り戻したフー=ルーは椅子に座り直してそんな事を言っていた。この男には勝てないと言う事が魂に刻まれたらしい。 
 フューリー縁の者は自分に噛み付く習性があるらしい。そんな事を思いながら、自分の酒(アイリッシュ)を舐めた先生。
 ……酒を飲みに来たのにこんな物騒な思いをさせられるのは懲り懲りだとも思った。
 そして、副長が奥に引っ込んでいてくれた事は幸いだった。そうでなくては出入り禁止を喰らっている所だったのだ。
「掴み処の無い方。殺気も何も無く引き金を引くなんて……」
「無駄を削ぎ落とした結果だ。これでも、何度も生と死の狭間を越えてきたのでな。戦いの遍歴は魂に刻まれているんだ」
「……?」
「言った処でお前は理解出来んよ。まあ、俺は真っ当な死に方が出来なくなってから随分経つって事だ」
 フー=ルーは何処か羨望が、そして一抹の恐怖が混じった視線で先生を見た。
 引鉄を引くというのは相手を害する、若しくは命を奪う行為だ。実弾装填か否かは関係無い。それを成すに当たっては確実に感情の起伏や揺らぎが生じるものだ。
 だが、先生にはそう言ったものが一切感じられなかったのだ。その行為は一瞬だったが、間違いは無い。フー=ルーにはそれが気になったのだ。
 しかし、先生はそう言っただけで詳しい説明をしなかった。したくもなかった。

「まあ、俺の事は良い。それにしてもお前は……もう少しマトモな女と思ったのだがな」
「女は秘密を持つ生き物ですのよ?幻想を抱けば、大火傷を負いますわ」
「知っているさ、そんな事は」
 やっとペースが戻ってきた先生は相談事を受ける時の様に煙草を取り出して吸い出した。
 ……フー=ルーが暴力に訴える女だと言う事は知っていたが、こうも短絡的な行動を取るとは先生も思わなかったのだ。
 そして彼女は薄く笑って正論を述べた。だが、先生はそんな当たり前な事は判りきっているのだ。
 相手が自分と同じ人間である限り、幻想を持つのは間違いである。相手は自分の脳内に都合良く描いた偶像と同じ動きはしてくれないからだ。
 それなのに自分に都合の良いヴィジョンを求めれば齟齬が生じる。だからこそ、先生は他人に一切の幻想は抱かない。ただ、あるがままを受け入れるだけだ。
「だが、誰彼構わず噛み付くのは考え物だな。若し、俺が修羅王様だったら無事では済んでいないぞ?」
 修羅王アルカイドと言うのは些か極端かも知れないが、これで相手が修羅の将軍クラス……若しくはリシュウクラスの人間だったとしたらフー=ルーは危ないだろう。
 機動兵器の扱いには長けても、生身同士のぶつかり合いに於いてはフー=ルーは余り長けてはいない印象を先生は受けた。……ゼンガーやムラタクラスならば良い勝負かも知れないが。
「闘う相手位は選びますわ。そうしなければ無駄に命を散らしてしまいますもの」
「では何故俺に?……未だ酔っ払っているのなら、これ以上呷るのは止めておけ」
 一瞬、阿呆か貴様は……と先生は思った。こんな場末の酒場での安い斬り合いで命を散らすのが本望だったのか、と先生は本気で説教をしたかった。
 事実、先生が本気ならばフー=ルーは今頃、物言わぬ蛋白質の塊として病院に搬送されているのだ。
「そうかも知れませんわね。若しくは……貴方の血の匂いに狂わされたのかも」
「・・・」
 フェロモン香水かよ、と心で毒づく先生。拭おうと思っても拭える類のモノではないので半ば先生は諦めているが、その臭いが時折誘蛾灯の役割を果たすのは困りモノだ。
 掛かる火の粉を払えている裡は良いが、そうできなくった時はこの身が血に染まる番なのだ。……まあ、そんな心配は先生はしていないのだが。

128Your Body:2008/01/28(月) 13:49:00 ID:8d0pWAYw
「どちらにせよ、闘うに相応しい相手に命懸けの戦いを挑み、燃え尽きるのが私の望み。勝ち負け、生死の結果は私にはどうでも良い事ですのよ」
 酒をタンブラーに注ぎながら、フー=ルーは自分の心根を語った。それは自分の生き様、望みと渇望が入り混じる濁り切った誇りだった。
「俺がそうだった、と?」
「そう思いましたわ。でも、それは間違いだった。私では手に負えない。アル=ヴァン殿が警戒するのも納得ですわ」
 そして、その相手に選ばれた……フー=ルーの眼鏡に適った先生は只管に運が悪かった。命懸けの戦いを渇望するなら、せめて自分の見えない所でやってくれと先生は切に思った。
「ああ、前はそうだったな。今はそんなに警戒されてはいないが」
「あら、お知り合いだったんですの?」
「飲み友達だ。カルヴィナも含めて。昔、ちょっとあってな」
「意外ですわね」
 それもまた古い話だが、確かにこの酒場でアル=ヴァンとカルヴィナに出会った時、彼にはそう思われていた事を先生は覚えていた。
 だが、今はもうアル=ヴァンは先生の友人として敵意やら何やらは手放して久しい。フー=ルーはそれが信じられない様だった。

「しかし、勿体無い事だな」
「何が、ですの?」
「お前の事だよ、フー。その美しさを持ちながら、闘う事以外に悦を見出せないとは」
 そして、先生は何時もの洗脳トークに持っていく。別にフー=ルーがそれを望んだ訳では無いが、今回はのそれは先生の独断だった。
 確かに、フー=ルーは男前だ。だが、それ以上に美しい。生き様やら在り方やらそう言うモノを含めた先生の評価だが、先生は彼女のその在り方が間違っている様に感じた。
「憐れだ……そう仰りたいの?」
「ああ、是非そう言いたいね。お前の生き方を否定するつもりは無い……と、言いたいが、俺はその結末を知っているからな。言わざるを得ん」
「それは、何ですの?」
「何も無いぞ?無明……否、ヴォーダの闇と言った方が解かり易いか。若し、何かそれ以外にあるとするなら、それは痛みと苦しみだけだ」
「・・・」
 まるで、実際に見てきたかの様に先生は語った。その一言一句にはリアリティがあり、フールーはそれに聞き入る。
「修羅道の行き着く果てはそんなモノだ。自分の骸を抱いて価値の無い人生を振り返る。俺には、お前のそんな終焉が見える」
「何故、そう言い切れますの?」
「俺もまた、修羅の巷に居た。別の世界でな」
「え?……それでどう、なりましたの?」
「今言った通りだ。死体になってお仕舞。気が付いたら、その記憶を継いで別の場所で目を覚ましたんだがな」
「少佐、貴方は……」
 ほんの少しだけ、タイムダイバーとしてのこれまでの自分の生き方とその末路を先生は語った。
 フー=ルーは親近感とともに底知れない何かを先生に感じ取った。
「その生き方に誇りを持ってはいた。殺し屋の名誉。死すべきは我らなり、と。……手元に残ったのは、研ぎ澄まされた人殺しの術だけだったが」
 実際にこの身に起こり、そして降りかかった人殺しの連鎖。そう自分がならなくては続けていく事など叶わなかった長く終わりの無い、旅路。
 そして、今も先生は因果律の番人として平行世界と言う名の裏街道を流離っているのだ。終わりが無い事が終焉と言うならば、先生にとっては生そのものが牢獄と言っても過言ではない。
「闘うのは楽しかった。誰かを殺めるのも楽しかった。……そうならなくては、その生き方を続けては居られなかった。だが、今の俺はそれに何も感じない。飽きちまったのさ」
「・・・」
 だからこそ、先生は闘う事に快楽を求めた。そして、その時は確かに楽しかったのだ。だが、それも何度と無く繰り返す裡に飽きてしまったのだ。
 嘗ては、その生き方に身を染めつつも、今となっては勝ちも意味も見出せない生き方。そして、フー=ルーはそんな不毛の道の入り口に立っているに過ぎないのだ。 

「お前も、そうなんじゃないのか?」

129Your Body:2008/01/28(月) 13:50:47 ID:8d0pWAYw
「あ……」
 心を全て見透かす様な蒼い瞳をフー=ルーは直視出来なかった。
 ……初めは、家名やら騎士の名誉の為、我武者羅に剣を振るっていた気がする。
 だが、何時の間にか闘う事それ自体に意味を求める様になった。果たして、それはどうしてだったのか?フー=ルーは耳を塞ぎたくなった。
「闘いに殺し合いに何らかの意味を求めている。だが、闘いも殺し合いも傷付け、殺し合う以上の意味なぞ無い。それ以外の何かを期待する時点で間違いだ」
 戦いも殺し合いも本質は同じものだ。相容れない他者同士の思考のぶつかり合いが武力衝突した時にそれは起こる。その大小や大儀の有無に関係なく、どんな些細なそれでも勝者は何かを得、敗者には何か失うものがある。命と言うモノがその最たる例だろう。
 だが、戦う事と命は別の物差しだ。そして、それは何も命に限った話ではない。フー=ルーが得ようとしているモノだって戦いとは別の価値を持つモノだ。例え、戦いの中でそれを得ようとして、借りに得られたとしても所詮それは虚妄に過ぎないのだ。
 そして、先生はそれを良く知っている。残念な事に、残酷な事にそれは真理だ。
「!」
 フー=ルーにとって最も聞きたくない台詞が紡がれる。己の生き方を全否定するその言葉。だが、それを跳ね除ける事は出来なかった。
 ……闘う事に苦痛を感じたから、無理を感じたから、そう思う事で逃げようとしていたのではないのか?
 それこそが、この歪な在り方の始まりだった……フー=ルーは自分でも気付こうとしなかったその発端を強制的に理解させられた。
「なら、そんな無理な生き方は止める事だ。……生きて咲いて枯れてこその人生。命を燃やしたいのなら、何か別のモノに賭ける冪だな」
 それが止めの台詞だった。フー=ルーの中で今まで築いてきた自分の価値観や世界観がガラガラと音を立てて崩れていった。

「私は、それ以外の、生き方なんて……」
「逃げるな、フー。月並みだが、生きる事もまた戦いだぞ?一見、平穏そうに見えてそうではない。それを自分の望む形に彩るのは死地から生還するより難しい事だ」
 フー=ルーは打ちひしがれていた。只管に女々しく弱々しい、親からはぐれた子供の様な頼りなさがひしひしと伝わってくる。
 先生はそんなフー=ルーに慰めの言葉は掛けず、更にその尻を叩く様な発言をした。
「緩やかに、それに埋没していくのも良いじゃないか。……なに、お前なら直ぐに順応出来るさ。器量は良さそうだからな」
「そんな……」
 派手さは無くとも、穏やかに平和な暮らしを満喫するのも一つの選択だと先生は優しい口調で言ってやる。
 そこはかとなく褒められたフー=ルーは戸惑いがちに視線を泳がせた。……どうやら、彼女は本格的に口説かれたのは初めてだった様だ。
「どうせなら、今迄見ようとしなかったモノに手を出してみるのはどうだ?例えば、女の幸せについて……とかな」
「わ、私を……口説いてらっしゃる?」
 何処からどう見ても先生はその様にしか映らない。女心を理解しようとしない先生だが、どうしてか女そのものの扱いには長けるのはこれ如何に?
「そう聞こえるのか?お前は」
「え、えーと//////」
 ズイッ、と先生が顔を寄せるとフー=ルーの顔は真っ赤に染まった。実に判りやすかった。
「そんな訳無いだろう。第一、面倒臭そうだ。俺に出来るのは……イカサマトークだけだ」
 だが、先生にその気はなかった。此処まで引っ張って置いてそりゃないだろと言いたいが、面倒臭がりの虫が此処に至って発動してしまった。
「ふふ……面白い方ですのね、イングラム少佐」
「皮肉として、受け取って置こう」
 相変わらず赤い顔のまま微笑むフー=ルーに先生は素直じゃない言葉を吐いた。だが、先生のその顔は何処か優しげだった。

130Your Body:2008/01/28(月) 13:52:10 ID:8d0pWAYw
 先生が愚痴序に開いた強制的な相談室は此処で閉幕……とはならなかった。

――二時間後
「糞……何でこうなる!」
「くーー……くーー……」
 酔い潰れたフー=ルーをおんぶした先生は小雨のぱらつくBARの外に放り出されていた。
 看板の時間が来てしまったので、中には留まれないので先生は有り難くない事に、フー=ルーの面倒を押し付けられてしまったのだ。
「仕方がないな、これは……えーと」
 このままこの女を路地裏に捨てて帰るのも吝かでは無いと先生は思ったが、それは可哀想なので止めてあげた。
 取りあえず、自分の部屋に連れて帰ろうかとも思ったが、それも憚られた。今日、先生の部屋にはアラドが居るのだ。弟子に誤解されるのは勘弁だった。
 先生はフー=ルーを彼女の部屋まで連れて行く選択しか出来ない。だが、彼女の部屋の場所を知らない先生は切り札を持ち出した。ピッピッピッ……Dコンのキーを弄り、とある場所に電話を掛ける先生。
「もしもし?……ああ、俺だ。こんな時間に済まんなアル。実はな……」
 その場所とは先生の飲み友達であり、フー=ルーと職場を同じくするランクス夫妻宅だった。
「……ふう。今日は部屋で大人しくしている冪だったのかも知れんな」
「むにゃ……」
 掻い摘んだ説明をして、何とか場所の特定は完了した。後はこの馬鹿女を塒にお届けするだけなのだが、もう先生はそれすら面倒になっていた。そして、今更そんな事を言っても後の祭りだった。


「思い出すだけで忌々しいな。何で俺があそこまで」
 二日前の出来事を頭に思い浮かべ、その理不尽さに頭が沸騰しそうになった先生だったが、煙草を一吸いして何とか落ち着いた。
「だが……いや、止めて置こう」
 言った所でどうしようもない事が次々と頭に過ぎる。しかし、落ち着いた先生はそんな事に心は割かなかった。

131Your Body:2008/01/28(月) 13:53:08 ID:8d0pWAYw
 ……そうしていると、漸く注文がやってきた。
 パタパタと足音を響かせながらやって来るフー=ルーの手にはアイスコーヒーの乗ったトレイが乗っていた。
「お待たせ致しまし……あ、あら?」
「やっと来たか。……よう、フー」
 先生の顔を見たフー=ルーが吃驚した表情を晒す。来るのが遅いよ、と先生は言いかけたが途中で口を噤んだ。
「しょ、少佐!?ひょっとして、私を訪ねてくれたんですの?」
「ああ。あの後どうなったかが気になってな。思わず、仕事場に押しかけてしまった」
「態々、私を心配して……」
 トレイをテーブルに置いたフー=ルー。アイビスの様なメイドっぽい格好ではなく、若干スカート丈が短い普通のウェイトレスの格好をフー=ルーはしていた。
 先生はフー=ルーの問いに正直に答えてやる。すると何故か、フー=ルーは嬉しそうな顔をした。 
「いや、アフターケアは万全にと言う奴だ」
「はあ、そうですの……。取り合えず、昨日一日は死んでましたわ。お酒が残ってしまって」
「やっぱりな。お前、余り酒には強くないぞ?もう少し飲み方を心得る冪だな」
 何だか良く判らない取って付けた様な先生の言葉に一瞬、怪訝な表情をしたフー=ルー。
 先生は次は無いぞ、とでも言いたげにフー=ルーを窘めた。
「ええ。気を付けます。……ええと、少佐?」
「うん?」
「有難う御座いました。送って頂いて」
「ああ……」
 そして、フー=ルーは二日前には言えなかった言葉を先生に呟く。それを受けると先生は少し恥ずかしそうに視線をずらし、頬を掻いた。

「むう」
 先生は運ばれてきたアイスコーヒーに口を付ける。ストローは使わずに直飲みするのが漢スタイルなのか、グラスを傾けその黒い液体を口腔に少し満たした。
「如何ですか?当店、そして私の自信作ですのよ」
「……む、むう」
 自信あり気にフー=ルーは口上を垂れる。先生もまたTIME DIVERのコーヒーの味については聞いていた。曰く、それは絶品であり、フー=ルーが淹れたそれは既存のコーヒーの味を崩すものだと。
 事実、先生はそのコーヒーを楽しみにしていたのだ。……だが、その先生の表情は険しかった。
「豆は、何を?」
「コナとキリマンジャロ、マンデリンのオリジナルブレンドですのよ」
「・・・」
 えもいわれぬ味がした。確かにこれはコーヒーだ。だが、明らかに混じってはいけないモノの味と香りがするのだ。
 具体的に言えば……オイル?先生はすぐさまそれを吐き出したかったが、フー=ルーに悪いので何とか口に入れた分を嚥下した。

132Your Body:2008/01/28(月) 13:55:57 ID:8d0pWAYw
「ふう……うん?」
 何とか飲み込む事が出来たが、全身にさぶいぼが吹き出た様な気がする。事実、先生の顔には厭な汗が浮いていた。
 それを拭う為に先生はおしぼりの類いを探して視線をテーブルに向けた。すると、見慣れないモノがテーブルに乗っている事に気付かされる。
「これは、何だ?」
 それは小さく四角に畳まれた薄ピンク色した布だった。一瞬、布巾の類いと思ったが、それは違うと先生は心の中で否定する。紙ナプキンは最初からテーブルの上にあるし、おしぼりだって自分の手前にあるのだ。
 最初は明らかに無かったもの。つまり、これはフー=ルーがアイスコーヒーと共に持ってきたものだ。
 料理を頼んでいない以上、エプロンと言う事も有り得ない。
 ……ではこれは何なのか?先生はその謎を解く為、それを手に取る。その布には何故か人肌の温もりがあった。
「なっ!」
 それを広げて先生は絶句する。そして、次の瞬間にはフー=ルーの方を見ていた。
 その正体は女物の下着(紐パン)だった。
「?……少佐?」
 きょとん、としているフー=ルーは何故かとんでもなく可愛く先生の目に映ってしまった。
「・・・」
 目を閉じて先生は思案する。これが生暖かったと言う事は、つまりそれは直前まで誰かが穿いていたと言う事だ。
 そして、それを持ってきたのがフー=ルーである以上は、恐らく今の彼女は……
「(ごきゅごきゅ……)げぷっ。……よし」
 先生は内に燃え盛る何かを鎮火する為、不味いコーヒーを一気飲みした。だが、その程度で沸いた何かを冷ます事は出来ない。
 ……先生は決断した。
「フー」
「はい?」
 可愛らしく小首を傾げるフー=ルーに先生は真剣な眼差しを向けた。そして……
「改めさせて貰うぞ」
「あっ」
 先生はフー=ルーのスカートの裾を取って、一気に捲り上げた。小さく悲鳴を上げるフー=ルーだったが、それが何かを成す事は無かった。

「これは……」
 先生の前に展開していた光景は……まあ、予想通りのモノだった。
 髪色と同じ産『自主規制』
「・・・」
 先生はその光景に何故か感じ入るモノは無かった。滾る事も血が巡る事も。ただじっとスカートの中身を刺す様に眺める先生はスケベだった。
「フー……?こ、これ、は」
 あんまり眺めるのも可哀想なので先生は検分を切り上げ、フー=ルーの顔を見上げる。

「ぅ……っく、ひっく……ひっく、ぐすっ……」

 其処には、咽び泣く女の子が一人居た。ギュッと唇を結び、真っ赤になって涙の玉を零すフー=ルーは年齢や外見を超越して幼く見えた。
「Oh,mammy」
 ……やっちまった。後悔やら自責の念が先生の中に湧いて来るが、今の段階ではどうしようもなかった。
「きょ、今日はこれで失礼する!さらばだ、フー!」
 そうして、先生は戦略的撤退に移行した。
 出しっ放しにしていた煙草とライターを攫ってポケットに押し込み、高額紙幣を一枚テーブルに置くと、そのままマッハの速度でTIME DIVERを後にした。

133Your Body:2008/01/28(月) 13:56:27 ID:8d0pWAYw
「参った。俺とした事が、ぬかった」
 西日差す夕刻の帰り道、先生は頭を抱えていた。
 ……何だってあんな真似をしてしまったのか?今となっては理由すら定かではない。きっと、魔が差すと言うのはああ言う事を言うのだろう。
 だが、どちらにせよ起こってしまった事はどうしようもない。因果律を操作したって時計は逆には動かないのだ。
 それよりも問題なのはフー=ルーを泣かしてそのまま放置してしまった事だった。女を泣かすのはベッドの上だけと固く決めている先生にとって、今日の出来事は心に影を落としてしまったのだ。
「しかし、何なんだあの店は。クォヴレーの奴……訳が判らんマニュアルをこさえおって」
 コーヒーを頼むと店員が脱ぐ店など、古今まるで知らない。そして、そんな教育を店員に施すのは店長以外に考えられない。先生は弟を殴りたくなった。
「ふう……うん?」
 兎に角、このままではいけない。明日には何としてもフー=ルーに謝罪しなくては変態と極悪人と言う不名誉なレッテルをダブルで張られてしまう事になる。
 それは避けたい先生は、次の行動が見えた。そうして、改めて気合を入れる為に煙草でも吸おうとポケットを弄ると、例のモノの感触が指に伝わってきた。
「しまった。持って来てしまったか」
 フーさんのぱんつだった。どさくさで紛れ込んでしまったらしい。先生はフーさん使用済みのそれを手に持ったまま何か考えていた。
「・・・」
 被るのか、喰うのか、それとも部屋に飾るのか。この場で取るべき行動が頭を過ぎる。
 ……30秒後、先生は取るべき行動を決断した。
「焼く、か」
 決定。焼却処分の刑。
 先生は路地裏に移動するとオイルライターでその布切れに火を点けた。
 忌わしきぱんつは灰燼に帰すべし。
 だが、布製のそれには中々火が行き渡らず、完全に焼却を終えた頃には、陽は完全に没していた。

134Your Body:2008/01/28(月) 13:57:19 ID:8d0pWAYw
――次の日 再び喫茶TIME DIVER
「いらっしゃ……ああ、お前か。イングラム」
「クォヴレーか。……店長が店番か?」
カラン♪、とドアを開くとレジには店長である先生の弟が暇そうに店番をしていた。
「今日は人が居ない。俺とフー=ルーだけだ」
「そうか。……喫煙席、窓際の端っこを頼む」
 そいつは好都合だ。そう思うと自然に頬が綻ぶ先生。目指すは昨日と同じ場所だった。
「?……付いて来い」
 何故か笑みを湛えるワカメ的な兄貴に不信感を持ちつつ、クォヴレーはイングラムを席に案内してやった。

「昨日も来ていたそうだな」
「ああ。どうでも良いが、クォヴレー」
「?」
「昨日頼んだアイスコーヒー、オイルの味がして酷いものだった。まだ、冷蔵庫にあるなら、至急作り直せ」
「何だと?……本当か?」
「客が俺じゃなかったらもっと酷いクレームが付いていた。恐らく、ドリッパーか豆自体に問題がある。お前が自分で検めろ」
「貴重な情報だな。直ぐに改善しよう」
「そうしてくれ」
 席に付くとクォヴレーがそう言ってきた。流石は店長。表に出なくとも、情報は店員から入るらしい。
 だが、そんな事はどうでも良い先生は早速昨日のコーヒーについて店長にクレームを入れた。品質管理に問題があった事に目を丸くしたクォヴレーはその事を教えてくれた兄貴に感謝の言葉を述べていた。
「それはそうと、イングラム」
「何だ?」
 で、その話が終わるとクォヴレーは再び話を切り出した。真剣な弟の表情に、先生は同じくキリッ、とした表情で聞いてやった。
「いや、見ての通り、店はこの有様でな。お前さえ良ければ、立て直しに力を貸して欲しいのだが。空いた時間だけでも良いんだ」
 クォヴレーは兄貴に頭を下げた。店の経営立て直しの為の協力要請。……嘗てはこの店も流行っていた。だが、オープンから時が経つにつれ、客足は途絶えてしまっていた。
「お断りだ。リヴァーレで俺は懲りたのさ」
 だが、先生は断った。先生もまた喫茶店を道楽でやっていた事がある。だが、先生は諸々の理由で流行りながらも周囲に惜しまれつつその店を閉めたのだ。
「流行っていたのだろう?それを何故……」
「色々な。……ま、お前の誘いは今は断らせて貰う。どうしても、俺の手が必要だと言うのなら、その時は考えるが」
「今は自力で暗中模索せよ、と?」
「そうだ。他力本願は仏道の基本だが、多用して良いものではない。精一杯やってみろ」
「……そうだな」
 兎に角、先生は今の段階ではクォヴレーに手を貸すつもりは無い。火急的危機ではないし、まだまだ一人で頑張れる部分が多くある事を先生は見抜いたのだ。
 だが、どうしようもなくなったらその時は考えると先生は言った。クォヴレーはその通りだ、と頷いたのだった。
「エスプレッソを頼む。ドッピオでな」
「判った」
 一番重要なオーダーはやっぱり先生の中では決まっている。高い気圧で抽出した健康に良い苦いコーヒーが今日の注文だ。クォヴレーは伝票にペンを入れると奥に引っ込んだ。
「さて……腹を括るか」
 後はあの女が出てくるのを待つだけだ。そして、先生の中では行動は既に決まっている。それを実践するだけだった。

135Your Body:2008/01/28(月) 13:59:00 ID:8d0pWAYw
――数分後
「お待たせ致し……あ」
「フー」
 フー=ルーが先生の姿を認めると、彼女は一瞬だが身体をビクッ、とさせた。……どうやら、怖がっているらしい。だがそれでも、職務はこなさねばならないので、フー=ルーは重い足取りながらも、注文の品を先生のテーブルに届けた。
「少、佐」
 そうして、彼女が少し震えた声を発して先生を見ると、彼は動いた。
「先ずは謝罪させてくれ。……昨日は済まなかった」
――ガンッ! ビシッ
「!?」
 先生は大きく頭を振って、頭を下げる。打ち付けられた衝撃に樫製のテーブルが罅割れた気がした。
 そんな先生の大仰な謝罪にフー=ルーは吃驚し、また呆気に取られた。
「俺も昨日はどうかしていた。許しを請うつもりは無いが、悔いているのは本当だ。それを聞いて欲しくてな」
 ボタボタ額から血を流しつつ、先生は謝罪の言葉を続ける。それは先生の嘘偽りない心だった。
「そうでしたの……」
「ああ」
 怒っているのか、それとも許してくれたのか良く判らない表情をフー=ルーはしている。だが、戸惑っているのは間違い無い様だった。

「あの少佐?」
「な、何だ?」
 そうして、沈黙の数分が経過すると今度はフー=ルーが動いた。
「スカートの端、持って頂けます?」
「な、何?」
 何とも奇妙なお願いをされた。そして、それの意味が先生には何となく判った。きっとこれもコーヒーを頼んだ客にする儀式の一環なのだろう。
 だからこそ、先生は乗り気では無かった。
「いいから!」
「む……こうか?」
 だが、有無を言わさぬフー=ルーの声と剣幕に先生は押し切られた。釈然としないまでも先生はフー=ルーの制服のスカートの端を持ってやった。
「ええ。……よいしょ」
 それを確認するとフー=ルーは手を自分のスカートに突っ込んだ。
「って、お前は何をしようとしている!脱ぐな晒すな普通にしていろ!」
 当然、先生は物凄い剣幕でそれを止めた。昨日の二の舞にはしたくなかった。
「え?よ、宜しいんですの?」
 フー=ルーはそんな先生の言葉に何故か吃驚している様だった。
「はあ……」
 これでこの店に客が寄り付かない理由が判った気がした。女であるフー=ルーがこうしただけで空気が気拙くなるのに、これがフォルカやクォヴレーだったら下手をしたら警察が飛んで来る事になる。
 こんな変態の巣窟に足を踏み入れたい客はよっぽどの物好きか馬鹿だ。
「それでは少佐、ごゆっくり」
「・・・」
 注文を届けたフー=ルーは何故か嬉しそうに奥に戻っていった。
 ゆっくりしたくないよ馬鹿。先生は糞苦いエスプレッソを一息で飲み干すと、額から流れ落ちる血をそのままに逃げる様にレジへと向かったのだった。

「素敵な方……//////」
 店員用のロッカー室で胸を押さえながらフーは熱い溜息を吐く。フーはどうしてか、青ワカメの事が気に入ってしまったらしかった。


 そして……

136Your Body:2008/01/28(月) 13:59:50 ID:8d0pWAYw
――夜 BARヒリュウ
「成る程。あの夜の電話はそう言う訳が……」
「ああ。正直、済まなかった。お前位しか頼れる相手が思いつかなくてな」
「いえ、まあ……それはどうも」
「ふふ、光栄じゃないアルったら」
 その日の夜、先生は何時もの場所の何時もの席でランクス夫妻と酒を飲んでいた。別にどちらかが飲みに誘った訳ではなく、偶然一緒になったのだ。
「でも少佐も凄いですよね。フー=ルーを潰すなんて。って言うか、何時の間にそんな仲良くなったんですか?」
「いや、出会ったのは三日前のその時だ。それに俺が潰した訳じゃない。あの女が勝手に飛ばして自爆しただけだ」
「それでその後始末を少佐が引き受けたんですね?」
「ああ。参ったよ」
「それはお気の毒に」
 話の内容は三日前の夜の電話について。仔細を語る先生にアル=ヴァンもカルヴィナもその時の光景が目に浮かぶ様だった。

「それで、あの……少佐?」
「む?」
 ……で、本題は此処からだった。アル=ヴァンは少し遠慮がちに切り出した。
「あの噂は本当なんですか?」
「噂だと?」
 アル=ヴァンの言う噂とやらが何を指すのかが判らない先生は首をかしげた。何か、噂を立てられる様な事をした覚えは……残念ながらあった。
「ああ、私も聞いたわね。……何でも少佐がフー=ルーをバイト先で泣かしたとか」
「な……」
 やっぱり、昨日の話についてだった。だが、先生はどうにも腑に落ちなかった。昨日の出来事が広まるのが早過ぎる気がしたのだ。
 つまりそれは、その話を流布した輩が居ると言う事だ。では、広めたのは誰だ?あの時居なかったムジカ=ファーエデンか?厨房のトウマ=カノウか?
 ……否、冷静に考えればきっとアイビスの仕業に違いない。アラドを返さない事に対するせめてもの仕返しと考えると辻褄が合った。
「いや、一部でそう言う話が出ているんですよ。私は信じたく……否、有り得ないと考えているのですが」
「あのバトルマニアが泣くって言うのはちょっと考らえれないんですよね。……で、どうなんですか少佐?」
「いや、それは事実だ」
 嘘を吐く場面ではないので先生は正直に言った。茶を濁して良い事は無いからだ。
「「なっ」」
 案の定、ランクス夫妻は揃って驚きの声を上げた。
「本当の事だったのですか。い、一体何をやらかしたんです?」
「う……」
 セクハラ紛い……否、性犯罪紛いの事をやって泣かしました。
 ……幾ら先生でもそんな事をアル=ヴァンに語る事は出来なかった。
「そいつは聞かないでくれ。俺の名誉の為にな」
「は、はあ」「……?」
 人前で言えない事なので、これ以上はノータッチでお願いします。その旨を伝えると二人は訝しげな顔をした。
「で、その後は?」
「今日の昼間、謝ってきたよ。大人気無かったってな」
「へえ。じゃあ、おでこの絆創膏はその時の名誉の傷ですか?」
「そうとも言える。気合入れて頭を下げたらテーブルに打ち付けた」
「ぷっ……い、いや失敬」「あはは!じゃあ、フー=ルーに付けられた傷じゃないんですね」
 打ち付けたと言うか、テーブルをそのまま割りかねない素晴らしいヘッドバットだったのだが、その場面を見ていない夫妻は笑う事しか出来なかった。
 絆創膏程度の怪我で済んだのは、あの流血を考えれば有り得ないのだが、その辺は先生だ。ライフチャージでも使って無理矢理治したんだろう。

137Your Body:2008/01/28(月) 14:00:46 ID:8d0pWAYw
「……ふう。まあ、そんな事は良いとして、俺は今回の件で確信したよ」
「「はあ?」」
 煙草の煙を吐きながら、若干遠い目で先生はごちる。今回のフー=ルーとの一件で得たモノ。先生はそれを語ろうとしていた。

「いや、どうも俺はイロモノと呼ばれる類の女に懐かれる体質らしい」

「い、イロモノ!?」
 カルヴィナが驚く。イロモノとは中心から外れ、重要とは考えられない分野を専門とする人達の事を指す。
 俗に言うお笑い野郎とか芸人とも取られるその言葉はあんまり好意的ではない。しかも、更にそれが悪くなるとヨゴレとさえ呼ばれるのだ。
 そんな人間に先生は好かれていると言うのだ。
「まあ、女に限って話ではなく、男に対してもそうだがな。ただ女の中では、色目を遣う者さえ現れる。
……俺の周りを見ろ。そんなのばっかりだぞ。案外、蛾や蟻んこの様にフェロモンでも出しているのかもな俺は」
 恐らく、先生の言葉は正しい。或る意味、アラドのそれの改悪版だ。アラドもどうしてか年上に可愛がられ、お姉さんばかりにもてる。
 だが、先生の持つそれはアラドのそれに輪を掛けて性質が悪いものだ。その効果は老若男女、種族や生まれた星の違い、世界の枠すら問わないのだ。
「イロモノ……うーーむ、成る程」
「何で私を見るのよアル!」
 その先生の言葉に感じ入った様にアル=ヴァンは自分の内縁の妻を見た。……彼女こそイロモノの典型だと言いたげに。当然、カルヴィナは否定的に叫んだ。
「……む?では私もイロモノの一員だと!?」
「いや、お前は苦労人の常識人だ」
「……ほっ」
 そして、アル=ヴァンが次にはそう思い至っていた。私は違うぞ、とそんな表情もしていた。だが、先生がアル=ヴァンの望む言葉を掛けると彼は安堵した顔で溜息を吐いた。
「だが、カルヴィナと一緒だとイロモノに見られるだろうがな」
「・・・」
「だから何でそんな目で見るのよ!?止めてよちょっと!」
 再び、アル=ヴァンの視線がカルヴィナを捉える。先程とは打って変わり、汚物を見る様な目と顔だった。

「まあ、俺が健常人だと言いたいのではないさ。俺は寧ろ、イロモノを越えたキワモノで……更におげちゃだからな」
 先生は言葉を紡ぎ続ける。その言葉の全てからはゲロ以下の自虐の臭いがぷんぷんしていた。
「「おげちゃ!?」」
 この男は何を言うのか?……そんな顔を二人はしていた。若し、先生がおげちゃならば、この世界の人口の半分はそれ以下と言う事になるからだ。
「そんな存在の価値すらない塵芥と同列の人間に引っ掛かる輩が居るとは、見る目が無いのか自暴自棄になっているだけか……兎に角悲しい事だ。
俺に感ける暇があるなら、真っ当な人生を歩んで欲しいものだがな」
「「……(泣)」」
 ……この男は何処まで自分を貶める台詞を吐くのだろう。しかも、それには全く躊躇が無い。アル=ヴァンもカルヴィナもホロリとさせられ、先生のその肩に揃って手を置いた。
「ちょ、こら!肩に手を置くな!同情する様な目で見るな!」
 だが、何故自分が憐みを受けているのか判らない先生は口を尖らせた。

「少佐……貴方はキワモノでもおげちゃでもありません。益荒男です。漢です。ワカメですが美形です。ミスター先生です。
……ちょっと変態ってだけで(涙)」
 カウンターでその話を聞いていたショーン副長はハンカチで流れる涙を拭った。恐らく、彼のその台詞が他の何よりも正しいのは間違い無いだろう。

138Your Body:2008/01/28(月) 14:02:05 ID:8d0pWAYw
――カランカラン
 来客を告げるドアベルが鳴る。先生とランクス夫妻は揃って視線をドアに向けた。
「あら」
「な、に?」
 先生はその来客に顔を歪める。それもその筈だ。現れたの昼間に会ったばかりのフーさんだったからだ。
「此処に来れば必ず逢えると……そう信じていましたわ、少佐」
 今回のフー=ルーは私服だった。ブーツにデニムスカート。渋めの配色のタートルネックにジャケットと言ったシンプルなコーディネートだ。
「御機嫌よう、アル=ヴァン殿、それにカルヴィナ。お二人も少佐と一緒だったのね」
「ああ。偶々、な」「そうそう。って、何か機嫌が良さそうね」
 カウンター席に近付いたフー=ルーは職場の同僚に軽く会釈した。先日、この場所で先生が言った言葉が真実だった事が確認された瞬間だった。
「あら、解かります?……申し訳ないけど、アル=ヴァン殿?少佐の隣の席、譲って下さるかしら」
「そ、それは……ああ。構わない。私はカルヴィナの隣に居れれば良いのだからな」
 フー=ルーが機嫌が良いのは先生がこの店に居たと言う事に起因する。彼女は微笑を湛えながらも笑っていない視線でアル=ヴァンを射抜き、柔らかく言った。
 邪魔だから退け。……直訳すればこうだろう。アル=ヴァンはその言葉に逆らう気が全く起きなかった。そして、彼はフー=ルーに先生を売った。
「な!?アル、お前!」
 申し訳無い。アル=ヴァンは咆哮する先生に両手を合わせて謝る。今、フー=ルーに逆らうのは得策ではないと考えた我が身可愛さ故だった。
「うわっちゃあ……ねえ、あれで良いの?アル」
「良いんだ。火中の栗は拾わない。……拾いたくない」
 アル=ヴァンは若干責める様な女房の台詞にも靡かない。実に格好悪かった。

「また、お会い出来ましたわね少佐」
「・・・」
 絡み付く視線が危険に見えた。だから先生は若干ビクビクしながら視線を合わそうとしなかった。
「私も、今回は気合を入れてきましたのよ?どうも少佐は、こう言うのがお好きな様ですから」
「な、何?」
 気になる台詞をフー=ルーは呟く。それに振り返った先生は彼女の顔を見る。紅潮し、何故か恥ずかしそうなフー=ルー。
 そうして、視線を下に落とすと、其処には限界まで捲り上げられた彼女のスカートがあった。
「お気に召しまして?」
 桜色した彼女の太腿の間からから覗くのは昨日、TIME DIVERで見たものだった。使い込まれていない綺麗な割『以下、検閲削除』
「…………ふゆうぅぅ、っ、げほっげほ!」
 気を平静に保つ為に、と無理に煙草の煙を吸い込んだ先生は盛大に噎せた。
 一体誰が彼女にこんな歪んだ知識を仕込んだろう。クォヴレーか?その内にある我が魂の一抹か?
 ……だとしたら、もうそれは別の存在だ。起源を同じくするだけの別の存在。御祓いを頼んだ方が良いのかも知れない状況だ。
『……ヒソヒソ』
 アル=ヴァンとカルヴィナは恐らく陰口の類を叩いているのだろうが、先生には全く興味が無い。
「これは……俺が出張る必要があるのかも知れないな」
 残念ながら、先生はフー=ルーに何かする気は毛頭無かった。血生臭くとも純な心を持つ女を弄びたくないのだ。
 そんな彼女をこうも変えてしまった原因はTIME DIVERにある。先生はあの変態の巣窟の内部改革を真剣に検討し始めたのだった。

139名無しのも私だ:2008/01/28(月) 14:09:03 ID:8d0pWAYw
潤いのある生活を貴方に。
先生は一般常識から三歩ずれた危ない奴だと個人的に思っております。いかがでしょうか?

次回はキョウセレンかオウカ姉さまかグレーデン兄妹を予定。その前に私はエロパロに去ります。
長駄文失礼。調子に乗って済みませんでした。

異世界からの来訪者、喫茶TIMEDIVERの作者様、無断でネタを転用して申し訳ありませんでした。

140名無しのも私だ:2008/01/28(月) 16:22:24 ID:VTwhzrpA
腹痛いです、面白杉。GJ!

141名無しのも私だ:2008/02/06(水) 21:55:44 ID:mlH87fEY
……誰もイナイ……微妙なSSを投下するならイマノウチ……

142名無しのも私だ:2008/02/06(水) 21:56:56 ID:mlH87fEY
「ジョッシュ、正気か!?」
 その身に炎の戦士を身に宿す少年コウタ・アズマが、食って掛かる。
「そいつは、敵なんだぞ!お前だって、そいつと戦ったはずだろ!大勢の人間が、そいつに殺されてんだ!」
「……わかってる。だけど、オレはあいつのおかげで、ここにいるんだ。動けないオレを助けてくれたのは、彼女だった」
 ジョシュア・ラドクリフとて、こうなることは承知の上だった。アラドやゼオラ、リョウトやレオナなど、この部隊には元々が敵だった連中も多くいる。
 しかし彼らは、敵だったとはいえ大半が手法の違いで対立をしていたもので、地球の防衛という志では一致していた。
 グラキエースやウェントスとは根本的に立ち位置が異なる。
 幾たびもこういった事態に面してきたキョウスケ・ナンブも難色を示す。
「しかしな、ジョッシュ……」
「ウェントスは、いい……俺から見てもあいつがメリオルとかって連中から疎まれてるのはわかる。けどな、そいつは違う!」
 クリアーナ・リムスカヤの後ろに立つウェントスへ一度視線を向け、再びグラキエースを睨み付けた。
「爺ちゃんを殺したのは、そいつの仲間なんだ!俺は、絶対に許さないぜ、ジョッシュ。そいつは殺すべきだ!」
「待てって、コウタ」
 掴み掛からんばかりのコウタの肩に、マサキ・アンドーが手を置く。
「……わたしを殺したいのなら、そうしても、わたしは構わない。もともと、わたしは消えるはずだったのだ」
「それ、変だと思うわ。だったらなぜ、ジョシュア君を助けたりするの?放っておくこともできたはずよ。殺されるため?」
 リオ・メイロンが、問いかけた。
「……わからない。わたしは人ではないから」
 その言葉に、しばし考えた末にグラキエースは首を振って答えた。
「どうも、調子が狂うな。ジョッシュ、本当にこの女は……」
「ルイーナ……メリオルエッセだ。それは間違いない。だけど、オレは、人間だと思ってる」
 ライディース・F・ブランシュタインの言葉に、応じる。
「共感の話はしたと思う。オレの中に彼女がいるように、彼女の中にも、オレがいる。オレの心、人の心の欠片が、いまはグラキエースの中にもあるんだ」
「……バーナウ・レッジー・バトー……!」
「お、おいまてコウタ!こんなところで、変身するんじゃない!」
「ファイター・ロア!」
 ファイター・ロアとなったコウタの拳が、握りしめられる。辺りの空気が凍り付く。
「お兄ちゃん!待って!やめてよ!」
 妹の制止は聞かず、一歩一歩、グラキエースへ近づいていく。
「コウタ……本気か」
 無言のまま、その赤い拳が振り上げられ、
「……何故当てない」
 目の焦点を眼前に迫った拳から、コウタの方へ移す。
「てめぇ……何で受けようとも避けようともしねぇんだ」
「?……言ったはずだ。わたしを殺したいのなら殺して構わない、と」
 何を言っているのか判らないという顔でグラキエースが言った。
「どうした、赤の戦士。お前の力は知っている。スカルプルムを素手で屠れるお前ならば、わたし一人、造作もあるまい」
「ぐっ……」
「……どうやら、本気で死んでもいいと思っているらしいな」
 ギリアム・イェーガーの言葉に、ようやく極度に緊張した雰囲気は解消された。
「くそっ!無抵抗の女を殴れるかよ!」
 鎧を解いたコウタは、バツが悪そうに脇目もふらずにその場を立ち去った。ショウコ・アズマは、しばし兄とグラキエースとを見比べた後で兄の方に向かって走っていった。
 それを見送って、テツヤ・オノデラは深いため息を付いた。
「まいったな……」

143名無しのも私だ:2008/02/07(木) 14:15:24 ID:wjHwJzKQ
じいちゃん…いつの間に…

144名無しのも私だ:2008/02/09(土) 10:35:24 ID:GJh2q5g.
悪いが妄想を投下させてもらう

ある日、シャナは一冊の本を持って統夜のもとを訪れた
統夜「シャナじゃないか、ひさしぶり」
シャナ「ええ、おひさしぶりです統夜、お元気でしたか」
統夜「うん、まあね、ところでそれは?」
シャナ「これですか?なつかしの品を見つけたのでお持ちしました」
統夜「これはアルバム…なんか…どこかで…、…!!」
統夜「ちょっと悪いんだけど、あがって待ってて!!」
シャナ「え?ええ、わかりました…お邪魔します」
そう言うと統夜はドタドタと家の奥のほうへ走っていった
シャナは従者を外に待たせ、玄関から少し奥にあった椅子に腰掛けて待つ
すると、少し経った時、統夜が、何かを持ってやってきた
統夜「これこれ!!そのアルバム、どこかで見たと思ったんだよ、ほら」
と、そういいながら保存状態が悪く多少古くなっているもののシャナのものと
まったく同じデザインのアルバムを持ってきた
統夜「なあ、こんなところじゃなんだし、むこうに行こうか?」
シャナ「ええ、よろこんで」
統夜に連れられシャナは少し奥に行ったところにある部屋で互いのアルバムを見せ合った
そのアルバムは、外見こそ同じものであったが、決定的に違うものがあった
統夜「シャナが…いない…」 シャナ「…」
なぜか統夜のアルバムからはシャナに関する写真(ついでにアルも)が消えていたのだった
何枚か、写っているものはあるものの、ほとんど人物を特定できない
統夜「なんで!?いったいどうして…?」
シャナ「おそらく、エ=セルダ様のお心遣いでしょう」
統夜「何で父さんが?」
シャナ「きっとあなたにフューリーとかかわらずに、地球人として平穏に生きて欲しい、
私達の問題で迷惑をかけたくないと、おそらくは、命を賭して問題を解決する。その覚悟の現れでしょう」
統夜「父さん…」
シャナ「(エ=セルダ様…あなたの死後、騎士団は地球人と敵対をいっそう強めてしまい…
その結果、私たちには、表立ってはいないものの各方面からの圧力がかけられています
私はそれをとめることができませんでした…だめな女王ですね…私は…
いっそこの写真達のように、フューリーは隠されているべきだったのかも知れません…
あなたや従兄様のように、自然に地球人と同化して行く方向性があったとおもいます
そうすれば、あなたの願いどおり、統夜も私達の戦いに巻き込まれずにすんだでしょう…
それを、皆に示すことができなかった私を、どうか許してください…)」
統夜「それは違うよ、シャナ!!何も君一人で抱え込まなくてもいいんだ!!
俺はずっと君をそばで支えてやることはできないけど、でも、困ったときは俺達を頼って欲しい、
相良達やフリーマンさんのようには無理だけど、ちょっとした相談ぐらいなら
俺も力になれるから、だから…俺の前ではもうすこし弱くてもいいんだ…」
シャナ「ありがとうございます…統夜…でも、なぜ私の考えていることが?」
統夜「わからないけど…君は思い悩んでいるとき本当は身近な人に助けを求めてるんじゃないかな?
サイトロンの影響でか、前にもよく君が夢の中に出てきたし…」
シャナ「以後、気をつけます…」
統夜「いや、謝らなくてもいいよ。俺達が力になって君の負担が少しでも減らせれば、
きっと解決する問題だと思うし、それに…」
シャナ「それに?」
統夜「いや…臭い台詞で悪いけど、このアルバムの空いた部分には、そんなシャナ達との
これからの思い出を詰めていけばいいんじゃないかな?」
シャナ「ふふふ…ステキな言葉ですね。それなら、一つお願いをしてもいいですか?」
統夜「ああ、おれにできることならいいよ」
シャナは、統夜の持っていたアルバムと自分の持ってきたアルバムを交換してもらった
失われてしまった記録の代わりにこれからその中に、自分と大切な人たちとの思い出を残すために



145名無しのも私だ:2008/02/10(日) 05:26:13 ID:RTkOEadA
エクセレン「(う〜・・・だるい。頭が痛い・・・)」
クスハ「エクセレン少尉?大丈夫ですか?顔色悪いですよ?」
エクセレン「クスハちゃん・・・・・・ドリンクはノーサンキューね」
ブリット「本当に大丈夫ですか?部屋で休んだほうが良いんじゃ?」
エクセレン「・・・・・・・・・」

 意識が遠のき、床に倒れた

ブリット「少尉?・・・少尉!?少尉!!」
クスハ「早く医務室へ!」
 ・
 ・
 ・
 カーテンから漏れる声で、エクセレンは眠りから覚めた

???「・・・・・・・・・・・・」
キョウスケ「・・・・・・・・・・・・!」
???「・・・・・・・・・・・・」
キョウスケ「・・・セレンに・・・・・・!・・・・・・!?」

エクセレン「(キョウスケ?何?何おどろいてるの?)」

医師「・・・・・・あと6ヶ月前後でしょう」
キョウスケ「それは、間違いないのですね?」
医師「個人差はあります、場合によっては7ヶ月の事も・・・」
エクセレン「(・・・・・・ッ!?)」

 見える
 長年、PTに乗ってきたが見えることが無かった”もの”
 あのシャトルで見えた”もの”が、
 目の前に・・・見える

エクセレン「・・・まさか!私あと半年で!?そんな!ウソ!」

 カーテンが開き、見慣れた顔が現れる

キョウスケ「エクセレン?起きていたのか」
エクセレン「キョウスケ・・・!」
キョウスケ「話がある。お前には伊豆でヒリュウを降りてもらう」
エクセレン「え!?」
キョウスケ「そうだ。もうヴァイスには乗せられん」
エクセレン「で、でも!」
キョウスケ「でもじゃない!その体でPTに乗るつもりか!!」
エクセレン「・・・ッ!?」

 ベッドから跳ね起き医務室から走り去る

キョウスケ「待て!どこへ行く!安静にしていろ!!」

エクセレン「(パイロットを辞めて・・・離れ離れになって・・・
        それで半年が7ヶ月になったからって何の意味があるのよ!?)」

 格納庫への通路を走る間、何度か人とすれ違い、ぶつかり倒れた
 顔が涙と鼻水で汚れた
 だが、今のエクセレンにとっては何の意味も無い

146名無しのも私だ:2008/02/10(日) 05:27:43 ID:RTkOEadA
 格納庫に着いた
 いつもの位置に、エクセレンの半身―かつては白銀だった純白の騎士―が直立している
 その有機・無機が交じり合った入り口を開く
 席に着き、左右の操縦桿を握る

エクセレン「足元どけ!踏まれるわよ!?ハッチ開けなさい!!」
レフィーナ『少尉!何をしているんです!?』
カチーナ『エクセレン!こいつは何の騒ぎだ!?』

エクセレン「ハッチを開けろ!さもないと破壊してでも開ける!!」

 半身にライフルを構えさせる
 狭い
 壁に先端がこすれる

レオナ『エクセレン少尉!やめなさい!』
タスク『艦の周りにはEフィールドが張ってあるんす!この狭い空間で撃ったら』

エクセレン「うるさいうるさいうるさい!そんなのどうでもいい!どうせ私は・・・」

????「 エ ク セ レ ン ! ! 」
エクセレン「!!」

 通信機ごしではない
 格納庫の低い気圧、その上騎士の装甲板
 それを物ともせず、耳に届く大声だ

????「俺だ、キョウスケだ!エクセレン、聞こえないのか!?」
エクセレン「キョウスケ・・・」
キョウスケ「そうだキョウスケだ!馬鹿な真似はやめろ!死ぬ気か!?」

エクセレン「死ぬ気・・・?ええ、死ぬ気よ!
      あなたは分かってなかった・・・
      私はね!PTを降ろされて、ベッドの上でお祈りを聞きながら・・・なんてまっぴらごめんよ!」
キョウスケ「お祈り・・・?何を言っているんだ!?」

エクセレン「とぼけないで!あと半年なんでしょ!」
キョウスケ「そうだ、あと半年で幸せが来る」
エクセレン「天国にでも行けるっての?あなた何時からそんな信心深くなった!?」
キョウスケ「今の医療技術なら、めったに死んだりせん!」
エクセレン「今の医療技術で無理だからあと半年なんでしょ!?」
キョウスケ「何をわけの分からない事を!」
エクセレン「馬鹿にしないで!分からないはずないでしょ!?」

147名無しのも私だ:2008/02/10(日) 05:28:50 ID:RTkOEadA
 2人とも必死に叫びあった
 息が切れ・・・言葉が途切れた

キョウスケ「・・・・・・・・・エクセレン」
エクセレン「ハアハア・・・・・・何よ?」
キョウスケ「よく分からんが、お前は不安だったんだな」
エクセレン「・・・・・・・・・」
キョウスケ「俺は分かってやれなかった。すまない」
エクセレン「・・・・・・・・・」

キョウスケ「だが、何故死ななければならないんだ!俺達の子だろう!?」
エクセレン「・・・・・・・・・・・・へ?」

キョウスケ「お前には肉親が少なくて不安なのは分かる
      軍人として何人も殺した俺達が・・・と言うのも分かる!
      だが、生まれてくる子供には・・・」

エクセレン「ちょちょちょちょちょちょちょ、ちょっと待った!
      俺達の子?生まれてくる子供!?・・・って、まさか?」
キョウスケ「は?」

エクセレン「私のお腹に・・・ってこと?」



一同「「「「 気 付 い て な か っ た の ! ? 」」」」

エクセレン「うん・・・体質的にちょっと不規則でアレなんで」

レオナ『あきれた・・・』
カチーナ『馬鹿馬鹿しい』
ラッセル『後始末する身にもなってくださいよ』
レフィーナ『エクセレン少尉は機体を元に戻したあと、キョウスケ中尉と艦長室へ来てください』
エクセレン「はい、お騒がせしました・・・」

エクセレン「ねえ、キョウスケ」
キョウスケ「何だ?」
エクセレン「艦から降りるって事だけど・・・」
キョウスケ「心配するな。これだけ暴れればスムーズに降りられる・・・嫌でもな」
エクセレン「やっぱし?」

148名無しのも私だ:2008/02/10(日) 05:30:45 ID:RTkOEadA
なんとなく受信した電波でした
エクセレンの行動がムチャクチャな気がしますが、気にしないでください

149ジュア=ムの一日:2008/02/14(木) 16:49:29 ID:5SKS9mnk
今日はバレンタインデーだ。本来は聖人が死んだ日で、それに乗じたお菓子会社がチョコを
女性達に売りつける日である。といっても、これは地球の、それも日本限定の行事で、最近
では男性に送る事自体が減りつつあるのだが。
だがそれでも現在進行形で恋をしているフューリーのお姫様には関係のないことである。
「では、いってきます!」
「いってらっしゃいですのシャナ。頑張って愛しの殿方にチョコをお渡しするですの」
「はい!」
サムズアップするアルフィミィに大きく首を縦に振って答えシャナは思い人の元へと急ぐ。
そして、
「んじゃ、俺は姫様をお守りしてくるからよ。まあ、なんだ。昨日は助かった」
「気にすんな。またシャナシャナともども何かあったら頼れ少年」
「シャナシャナとか変な名前で姫様を呼ぶんじゃねえ!」
「まあまあ怒るなって。ほれ、早くしねえと大事な姫さんが行っちゃうぞ?」
「くそっ! 赤髪野郎、次に姫様を変な呼び方したらぶっ飛ばすからな!」
「おっけおっけ。それじゃな、ジュ=アム」
「俺の名前は『ジュア=ム』だ! 名前間違えるんじゃねえ!!」
アクセルにからかわれながらジュア=ムも彼女を見守るためシャドウミラー基地より出撃する。


「ちっ、何やってんすか姫様……」
シャナ=ミア姫後方20メートル、ジュア=ムは一人呟く。電柱の後ろから姫をちらちら
見てるせいで周りの地球人がこっちを怪しそうに見ているが知ったことではない。
それよりも大事なのは今現在の姫の様子だ。
シャナ姫の前方にはあの、姫の心を奪った怒り余って憎悪百倍なアイツがいた。しかし奴は
いつもの女子三人に囲まれてヘラヘラしているではないか。ああ、憎悪1千倍。
姫がいったいどれだけ貴様のことを想っているのか分かった上での所業か、それは?
出ようにも出て行けずオロオロとしている姫の姿に奥歯をギリリと噛み締めジュア=ムは
怒りに震える。
いっそ飛び出してあの男をぶん殴った上で姫の前に突き出してやってもいいのだが昨日
姫が丹精込めてチョコを作っている姿を見ているのでそれはできない。
ここで耐えねば姫を守る人間として失格である、故に電柱を思い切り殴りつけるだけに
留めておく。
ちょっとは怒りが収まったので再びジュア=ムは姫の観察を始める。
「あん? あの女ったらし、何処に行くつもりだ?」
あの三人と別れを告げ、ジュア=ム曰く女ったらしのレッテルを張られた統夜が何処かへと
向かっていく。
「確か奴はバイトとかをやってんだったか」
渡すタイミングを見計らい損ねたシャナが統夜を追いかけていくのを、その更に後ろから
追いかけつつジュア=ムは思い出す。

150ジュア=ムの一日:2008/02/14(木) 16:50:03 ID:5SKS9mnk
>>150
「コンビニエンスストアか、ここは?」
統夜がレジ打ちをしているのを道路を挟んだ迎い側で観察するジュア=ム。
店の前では統夜に見つからないようにしながらもどうしようかどうしようかとオロオロする
姫にじれったいものを感じつつもそれを見守ることにする。
「さっさと店の中に入って渡しちまえば良いのに何やってんすか姫様……」
何度か店の中で統夜にチョコを渡す女子を見かけ、そのたびに落胆したように肩を落とす
シャナを見てジュア=ムもまた呟く。
かれこれ3時間ほどだろうか、既に日が傾き始め空が橙色に変わりつつある。その間シャナは
この地球で言うところのコートに身を包んで寒さに震えている。
にも関わらずあの男はそれにも気づかず同僚かと想われる男と談笑しているではないか。
ああ、憎悪1万倍、このままぶっ殺してしまおうか、アレ。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁああああ……殴りてぇ……ぶっ飛ばしてえぇぇぇぇ………!!!」
元より気の短いジュア=ム、シャナ姫の手前我慢はしていたがさすがにもうそろそろ
限界が近い。
いっそのことラフトクランズでコンビニ爆破してしまおうか、あれ。
と、危険な事を考えた矢先だった。
「シャナ?」
「ひゃう!?」
持っていた集音機にあの男と姫の声が届いた。さっと顔をそちらに向けてみればこの店の
ものだとエプロンを身に着けた統夜=セルダ・シューンとシャナ姫がばったり出くわした
場面が目に入る。
状況を見るにどうやらゴミを片付けに外に出たところでシャナ姫を見つけたようだった。
「あれ? シャナ、こっちに来てたのか?」
「え……あ……は、はい。フューリーの仕事が少し片付いたので……」
「そっか。でも、また何でこんなとこにいるの?」
「え、え、え……ええっと、その、きょ、今日が……ですね! ヴァヴァ、ヴァレンタイン
 なるものと聞いたので、そのですね!? 統夜に……こりぇを、ですね!」
何を慌てふためいているのか、まったく呂律が回ってない。おまけに顔は真っ赤で青い髪も
相まってもう赤一色にしか見えない。
だが、言いたい事はその必死さと手に持った可愛らしい包みから読み取れる。
気づいてか統夜はああ、と頷く。
「チョコ持って来てくれたんだ」
「えあ!? あ、あ、あ、ああ、はい! チョコです、統夜にあげます!」
「ありがとう。また、3月14日にお返しするよ」
「ははは、は、はい! え、えっとですね、統夜……」
「なんだい?」
「えっとですね――」
そこでジュア=ムは集音機のスイッチを切った。これ以上聞くのは流石に野暮である。
寒空の下で向かい合う男女の姿を見て、胸に寒さではなくちょっとした寂しさが吹いた。
何だか、娘を嫁がせる父親の気分が分かった気がした。

151名無しのも私だ:2008/02/14(木) 23:17:26 ID:J3MY4Mc.
2月14日もあと45分をきってしまった。
今更だが、バレンタインデーネタを投稿させていただく。

152名無しのも私だ:2008/02/14(木) 23:18:48 ID:J3MY4Mc.
「今年も!!この日がやってきたぁ!!」
ヒステリックじみた大声が、伊豆基地の小会議室から廊下に響き渡る。
扉が開け放しになっているとはいえ、日常ではそう耳に入る類のものではないその奇声に
時たま通りがかる人々は皆ギョッとしたように足を止めるが、部屋の中を一瞥すると
すぐに事情を理解したのか、興味を無くして足早に立ち去ってゆく。
今、会議室の中で声をあげているのは、誰であろう万能戦艦ハガネのオペレーター、エイタ・ナダカ。
その頭上に高らかに掲げられた垂れ幕には、怨念すら漂わせんばかりに力強い筆書きで、こう書かれていた。

『第○○回 呪!!バレンタインデー直前 しっと団総決起集会 ポロリもあるよ
                                エイタ・ナダカ』

その日は2月13日。
翌日にバレンタインデーを控え、しっと団が熱く燃え上がる日だった。


「諸君!!いよいよ明日は2月14日である!!」
だん、と目の前の教卓に手をつき、某コロニー国家の総帥もかくやと言わんばかりの勢いでまくし立てるのは、言わずと知

れたしっと団団長、エイタ・ナダカその人である。
その斜め後ろで、『副団長』とプリントされた腕章を装着し、手を後ろに組んで仁王立ちしているのは、アーディガン一家

長男にして僕らの邪気眼王、カズマ・アーディガン。
さらに二人の向かいには、『団員』の腕章を装着したクォヴレー・ゴートンとフォルカ・アルバークが、いまいち状況を理

解できていない表情で、体育座りでエイタの演説を聴いている。
しっと団総員4名。
SOS団もビックリの超貧弱組織である。
しかしそんな人数の不足など気にもとめず、エイタは更に声を張り上げた。
「2月14日!!バレンタインデー!!
 数十億の人間が菓子屋の甘言に踊らされ、盛りのついたカップル共がカカオ臭の瘴気を撒き散らす悪魔の日!!
 この日と12月24日を置いて、我らしっと団が立ち上がる日がいつあるだろうか!!」
と、上記の台詞を一息で言い終えた間を縫うようにして、すっと手が上がった。
「エイタ、質問があるのだが」
「何かな!!ルーキーフォルカ団員!!」
「さっきから出てきている『ばれんたいんでい』とやらは一体何なのだ?」
手の主は、たまたま伊豆基地に来ていたところをエイタに発見され、そのまま勢いに流されてここにいるフォルカ・アルバ

ーク(前職:修羅)。
機神拳は強いがこっちの世界の常識には滅法弱いフォルカさん、どうやら修羅にバレンタインデーという風習は無かったら

しい。
もっともあの北斗で拳な連中の『はい、チョコレート♪』『ひゃっほぅ!!血祭りにしてやるぜぇ!!』などというやりと

りなど見たくも無いが。
エイタもその辺の事情は理解しているのか、大きくうなずくと、勢いよく背後のカズマに振り返った。
「副団長!!ルーキーに説明してくれたまえ!!バレンタインデーの何たるかを!!」
「イエッサー!!」
団長の要請にお手本のように見事な敬礼を返した副団長ことカズマ。
懐から取り出した紙を広げると、その紙面に書かれた内容を朗々と読み始めた。

153名無しのも私だ:2008/02/14(木) 23:20:18 ID:J3MY4Mc.
「バレンタインデーとは、2月14日に祝われ、世界各地で男女の愛の誓いの日とされる!!
 もともと、269年にローマ皇帝の迫害下で殉教した聖ウァレンティヌスに由来する記念日であるとされている!!
 2月14日は家庭と結婚の神、女神ユノの祝日であり、
 ローマ帝国皇帝クラウディウス2世に、婚姻を禁じられていた兵士を密かに結婚させたキリスト司祭ウァレンティヌスが
 豊年を祈願し、男女が結ばれるルペルカリア祭に捧げる生贄として処刑されたことから
 この日は祭日となり、恋人たちの日となったと伝えられている!!
 詳しくはwikipedia等で各自調べるべし!!以上!!」

「ご苦労!!・・・という訳である。理解できたかなルーキーフォルカ団員」
「まだよく分からないのだが・・・男女の愛情を称える日、といった解釈で良いのか?」
「男女の、というあたりがまことに遺憾であるが、まぁおおむねそのような解釈でよろしい」
と、それまでのやりとりを黙って聞いていたクォヴレーが、さきほどのフォルカと同じように挙手をした。
「団長。俺からも質問があるのだが」
「何かね?団員クォヴレー」
「今の説明を聞くに、団長はバレンタインデーが男女が愛情を交わす日であると理解しているようだが?」
「本当は否定したいところであるが、こればかりは歴史が証明しているのでな。
 いくらしっと団と言えど、『バレンタインデー=愛』という方程式が歴史に裏打ちされた事実である以上、認めざるを得

ん」
驚くべきことであるが、バレンタインデーが男女の愛情に関係する日であるという点については、納得しているらしい。
「ならば別にしっと団が活動する必要も無いのでは?」
「ノゥ!!だからこそである!!」
鉄も砕けよとばかりに教卓に両手を叩きつけたエイタ、激昂した口調で以下の台詞を間を置かずに一気に吐き出した。
「かつてバレンタインデーとは高尚なものであった!!
 許されぬ愛を救うため、命を投げ出した一人の司祭を称え、愛の尊さを再確認する日でもあった!!
 しかし今はどうだ!!
 はびこる商業主義!!愛の欠片も持たぬまま氾濫する商品群!!
 盛りのついたカップル共は愛の尊さを忘れ物欲と自尊心を満たすばかりなり!!
 現代においてバレンタインデーは、かの呪われしクリスマスと同じ腐敗の道を辿っているのである!!
 今こそ我等しっと団は立ち上がり、驕るカップル共に血の制裁を下し、聖ウァレンティヌスの誇りにかけて、真のバレン

タインデーの意味を再び世界に知らしめなければならないのである!!」
ゼーゼーと肩で息をつくエイタ。それを眺めながらクォヴレーはぽつりと呟いた。
「で、本音は?」
「カップルは死ね。氏ねじゃなくて死ね」
結局はそこに集約されるらしい。
「とにかくである!!我々は立ち上がらなければならない!!
 そのためには、諸君らの協力が必要不可欠なのである!!
 誰でも良い!!家族、友人、知り合い、その他諸々!!誰でも良いのだ!!
 彼等に聖ウァレンティヌスの守ろうとしたものを伝え、一人でも多くの人間に2月14日の尊さと輝きを思い出させて欲しい

!!
 そして言うまでもないことだが!!それを聞いてなお、菓子屋の陰謀に踊らされるような愚者には、容赦なく血の制裁を

下して欲しい!!
 立て、しっと団!!戦いの時は来た!!今こそ我等のジハードである!!」
両手を高く上げ、地球の裏まで響けとばかりに声を張り上げるエイタ。その後ろではカズマがブラボー、ハラショーと叫び

ながら両手を叩き、その迫力に押されたクォヴレーとフォルカも、訳がわからぬまま拍手をする。
「ありがとう、ありがとう!!同士諸君、英雄諸君!!
 諸君らへの感謝の印として、団長特製しっとマスク・ゴールデンスペシャルをプレゼントしよう!!
 このマスクを被り、是非とも明日は我等の本懐を遂げるべく死力を尽くして欲しい!!
 諸君らの活躍に期待するところ大である!! 以上!!解散!!」
こうして狂気と熱気に包まれ、総決起集会は幕を閉じた。

154名無しのも私だ:2008/02/14(木) 23:21:03 ID:J3MY4Mc.
「はぁ・・・」
団員達が立ち去り、一人になった小会議室で、エイタはため息をついた。
フォルカにはショウコがいる。クォヴレーには、アルマナが想いを寄せている。
一番立場が近いであろうカズマだって、あの長女や三女から愛情の詰まったチョコレートを受け取るのだろう。
しっと団を立ち上げてみたところで、団員達にはそれぞれ愛する人がいるのであり、結局のところ、独り身なのは自分だけなのである。
その空しさ、孤独感が、エイタの胸に重くのしかかっていた。
「フッ・・・良いのだ。
 しっとの道は修羅の道。最後は一人路傍にて朽ちるだけよ・・・。
 せめて明日、独りでも多くのカップルにしっとの制裁を・・・」
訳の分からないことをブツブツとつぶやきながら、エイタはひとり会議室を後にした。



そして翌日。2月14日。

155名無しのも私だ:2008/02/14(木) 23:21:36 ID:J3MY4Mc.
AM8:00 アズマ家 居間
「ショウコ、ちょっと良いか」
「ん?どしたの、フォルカ」
「ショウコにこれを受け取って欲しいのだ」
つ 花束
「え・・・?」
「今日は『ばれんたいんでい』だからな。
 贈り物など今までしたことがなかったから
 気に入ってはもらえんかもしれんが・・・」
「・・・」
「ショウコ?」
「・・・ぐす・・・」
「・・・っ!!済まない・・・、まさか泣くほど嫌だったとは・・・」
「ちがっ・・・!ちがうの!
 フォルカから貰えるなんて思ってなかったから、嬉しくって、つい・・・」
「それは・・・喜んでもらえた、ということなのか?」
「もちろんだよ! ありがとう、フォルカ。
 えへへ・・・でもフォルカがバレンタインデーを知ってたなんて意外だね。
 あたしがあげようと思っていたのに、先越されちゃった」
「うむ。昨日エイタが教えてくれたのだ」
「へぇ・・・エイタさんが・・・」
「フォルカァーー!!てめぇショウコ泣かせて何やっていくぁwせdrftgひゅじこlp」
「フォルカ!!朝ごはん勝負だ!!今日こそ決着をつけてやる!!」
 ギャーギャーワイワイ

AM11:00 トオミネラボ
「アルマナ、これを」
「こ・・・ここここれってちちちちよこれいとじゃないですか!?」
「あぁ。今日はバレンタインデーだからな」
「そそそそれってつまりつまるからしてつまれば」
「ルリアにはこれを」
「まぁ、ありがとうございます」
「・・・アレ?」
「セレーナ、エルマ、これを」
「あら、嬉しいことしてくれるじゃない」
「わあ〜。僕にもくれるんですか?ありがとうございます」
「それとトウマにもこれを」
「ゑ!?俺にもあるのかよ!!バレンタインデーなのに!?」
「あぁ。みんな俺の大切な仲間だからな」
「なるほど。クォヴレーらしいわね」
「まさか男から貰うとは思わなかったぜ。
 ありがとな、クォヴレー」
「あぁ。これからもよろしく頼む」
「・・・ま、いっか」
 HAHAHAHAHA

PM3:00 ヴァルストーク キッチン
「あら?何だかいい匂いがするわね」
「先ほどカズマがキッチンに入っていきましたよ」
「カズマの奴、何か作ってるのかしら」
「お兄ちゃーん、何してんのー?」
「みんなタイミング良いな。ちょうど出来上がったところだぜ」
「あら。これって・・・」
「チョコレートケーキだーっ!!」
「フッ・・・カズマ・アーディガン特製チョコレートケーキ、名付けてシェルブリットだぜ!」
「ネーミングセンスを除けば素晴らしい一品ですね。しかし何故また唐突に?」
「今日はバレンタインデーだからな。ちょっと張り切ってみたのさ」
「意外ねぇ。あんたのことだからてっきり変なマスクかぶってカップルに喧嘩でも売るのかと思っていたのに」
「フッ・・・今までの俺だったらそうしただろうな。
 だが俺はある人に教わったのさ。
 『バレンタインデーに家族愛を祝福しても良い。自由とはそういうものだ』とな」
「はぁ?」
「何でもないよ。それより早く食べようぜ」
「じゃあ私はお茶をいれてくるわね」
「あぁ。頼むよシホミ姉さん」
「わ〜い!おっにいっちゃんっのちょっこれっいと〜♪」
「おいおいミヒロ。そんなにはしゃぐと転ぶぞ」

「ねぇホリス。ある人ってもしかして・・・」
「まぁ十中八九ハガネの彼でしょうねぇ」
「だよねぇ。あのメガネ君もたまにはいいこと言うじゃん」
「多分本人は意図して言ったわけではないのでしょうけど」

156名無しのも私だ:2008/02/14(木) 23:23:54 ID:J3MY4Mc.
PM11:00 伊豆基地 廊下
「なんということだ・・・」
明かりの落ちた廊下を独りトボトボと歩きながら、エイタは失意に肩を落としていた。
本来なら、今日は定時になった瞬間にすばやく業務を終了し、この日の為にあつらえたスペシャルゴールデンカスタムのマスクを被って、愚かなカップル共を粛清しながら、トロンベの如く駆け抜ける予定だったのだ。
それがこともあろうに、ケネスのタコ親父が予定外の雑務をたんまりと寄越してきたおかげでその処理に追われ、ようやく片付いた頃にはすでに2月14日も残すところあと1時間のみ。
これでは粛清はおろか、マスクを被る時間すらない。
「この日の為だけに俺はつらい日々に耐えてきたというのに、神は俺に職務を全うすることすら許さないというのか。
 絶望した・・・しっと団の本懐を果たせぬ2月14日に絶望したぁぁぁぁぁぁぁ!!・・・風呂入って寝よ」
と、そんな訳で、もうすっかりどうでも良くなってしまったエイタが、自室の前にたどり着いた時だった。
「んぁ?何だこりゃ」
扉の取っ手にかけられた、見慣れぬ紙袋。朝部屋を出る時には、こんなものは無かったはずだ。
「届け物かな?中には謎の包みと・・・何だコレ?手紙?」
中には、きれいな青い包装紙に包まれた手包みと思われる箱と、可愛らしいピンクの便箋。
覚えのない荷物をいぶかしがりながらも、手紙を開くエイタ。そこには女の子特有の丸っこい文字で、こう書かれていた。

『お久しぶりです。アーディガン家三女、ミヒロ・アーディガンです。
 突然のお手紙で申し訳ありません。でもどうしても伝えたいことがあったので筆を取りました。
 今日、お兄ちゃんがバレンタインデーだと言って、チョコレートケーキを焼いてくれました。
 信じられますか?いつも『バレンタインデーなんて死ねばいいのに』と言っているお兄ちゃんがです。
 私達はびっくりして、お兄ちゃんに何があったのか聞いてみたんです。
 そしたらお兄ちゃんは言いました。『バレンタインデーの愛の気高さをある人に教わった』って。
 誰とは言っていなかったけれども、先日お兄ちゃんがエイタさんのところに行っていたのは知っているので、そのある人がエイタさんだとすぐに確信しました。
 エイタさんがお兄ちゃんにアドバイスしてくれたおかげで、私達は楽しく過ごすことができました。
 この手紙と一緒に入っている包みは、その時お兄ちゃんが焼いたケーキと、私達が作ったチョコレートです。
 大したものではありませんが、私達に素敵なバレンタインデーをくれたお礼に、ぜひ受け取ってください。
 最後になりましたが、本当にありがとうございました。これからも兄と仲良くしてください。

 アーディガン家を代表して ミヒロ・アーディガンより』

「エイタ」
「のぅあ!?」
突然背後から声をかけられ、思わず飛び上がるエイタ。
心臓をバクバクさせながら振り返ると、そこにはクォヴレーがいつの間にか立っていた。
「どうしたのだ?ドアの前に立ち尽くして。おや?それは・・・」
「あぁあぁああぁぁあ何でもない何でもないんだ気にするな!!それよりどうしたんだ?こんな時間に」
「あぁ。お前に渡したいものがあってな。ずっと探していたんだが、やっと見つかった」
そう言うと、クォヴレーは手に持っていたこれまた紙袋を、エイタに差し出した。
「ひとつはショウコ、ひとつは俺からだ。どちらもバレンタインデーのプレゼントだ」
「・・・へ?」
「ショウコからは、昨日フォルカが世話になった礼だそうだ。ありがとう、と言っていたぞ。
 それと俺からも、今までの礼を言っておきたくてな。
 エイタには、戦闘中は的確なオペレーティングで助けてもらっているし、しっと団での活動は中々珍しい体験ばかりで、俺にとってとても面白い。
 俺は、お前のおかげで忘れ難いいくつかの『思い出』というやつを作れたと思っている。
 これは、それに対する俺からの感謝の気持ちだ。受け取ってくれ」
「あ・・・あぁ」
そう言って渡された紙袋を、半ば呆然としたまま受け取るエイタ。
「ありがとう。そして、これからもよろしく頼む」
最初から最後まで、表情ひとつ変えずに言い終えると、クォヴレーはエイタを置いたまま帰っていった。

157名無しのも私だ:2008/02/14(木) 23:24:25 ID:J3MY4Mc.
部屋に入り、今しがたもらったものを机の上に並べるエイタ。
アーディガン家から贈られてきた、チョコレートケーキとトッピングが施されたチョコレート。
ショウコ・アズマから贈られてきた、手作りのクッキー。
そしてクォヴレーから手渡しされた、何故かコーヒー豆。
「・・・」
それらのプレゼントを前にして、エイタは考える。
初めて貰ったバレンタインのプレゼント。
これらは『本命』ではない。昨今のバレンタインデーの風習に習うなら、いわゆる『義理』というものである。
しかし、そのような陳腐な言葉で分類するには、それらはあまりにも暖かく、優しいすぎるものだった。
「・・・モグ」
チョコレートケーキを一口食べる。甘い。
トッピングチョコをかじる。美味い。
クッキーをほお張る。優しい。
コーヒーを淹れて飲んでみる。暖かい。
ひとくち食べるごとに、胸にじんわりとした何かが染み込んでくる。カップル憎しでささくれだった心が、ゆっくりと溶かされていく。
「フン・・・今年はマスクを封印してやらんでもない・・・」
自分でも気づかないうちにそう口に出しながら、エイタは朝までかけて、ゆっくりと、しかしじっくりと、贈り物を味わっていた。

1ヶ月後、スペシャルゴールデンマスクを被った変人が、ヴァルストークやアズマ家、トオミネラボに出没し、とあるオペレ

ーターの代理と名乗ってプレゼントを配布してまわる姿が見られたが、それは別の話。

158名無しのも私だ:2008/02/19(火) 01:08:30 ID:0wihl3Bs
最近、ラウル×フィオナを見ていたとき、それは、フィオナがラージの気を引くための
ラウルの考案した策だったのでは?という電波を受け作成した、他意はない…はず…
俺は真っ向勝負ができないヘタレなので、こちらに静かに投下…

「しばらく旅に出てみたくなったので行ってきます、心配しないでください」
そう書き残した紙を置いて、ラージは数日前から消息を絶っていた。
フィオナ「ラージ…いったいどこに行ったのよ…」
ラウル「すまん…俺の作戦が、どうやら裏目に出たみたいだ…」
ラージの突然の失踪という事態にただならぬ気配を感じたフィオナは、数日前から自分を責め続けていた。
フィオナ「昔から一緒だったのに…なんであいつの変化に気が付けなかったの…」
ラウル「悔やむのは後だ!!とりあえず今はラージを見つけないと」
するとそこに、駆け込んで来る人影
ミズホ「ラウルさん!!フィオナさん!!ラージさんを目撃した人がいました!!」
フィオナ「どこ!!誰!?」
その知らせに、思わず大声を出してしまうミズホは一拍置いて話し始める
ミズホ「タクシーの運転手の人で、もうすぐ、こっちに向かってきてくれるみたいです
玄関で、デスピニスちゃんが待っていてくれています」
フィオナ「ラージ…。ねえ、ラウル…あたし…」
ラウル「行ってこい…!!俺達が付いて行けば邪魔になる」
フィオナ「わかった、ありがとう!!」
デスピニス「皆さん!!タクシーの人がきました!!」
フィオナ「それじゃ!!ラージのとこ、行ってくる!!」
フィオナは、荷物も持たずに、外に駆け出していった。
デスピニス「あっ!!フィオナさん、財布!!」
デスピニスが、フィオナに財布を届けるために追いかける。
そんな様子を見て、
ラウル「(がんばれよ、フィオナ!!俺は応援しているぞ!!…さてと…)」
ミズホ「ラウルさん?一緒に行かなくていいんですか?」
ラウル「いや…今回ばかりは、フィオナに任せた方が良い。それに、
俺、ミズホに謝らなくちゃいけないことがあるんだ…聞いてくれるかい?」

タクシーのバイトの青年「ああ、眼鏡の人ならたしかにここからかなり遠くの○○まで乗せたぞ。
理由は分からないけど、重大な問題みたいだな…いいぞ、安くしとく、いいや、タダでいい!!乗っていけ!!」
フィオナ「ありがとう、運ちゃん!!それじゃ、留守は任せたよ。」
デスピニス「はい、フィオナさんもお気をつけて…」
青年「タクシーよ!!俺の腕よ!!限界を超えろ!!いくぜええええ!!
男には成さねばならない時がある!!そうだろ!!あんちゃん!?」
フィオナ「あたしは、女だああああああああ!!」
絶叫を残しつつ、フィオナはラージの元に向かうのであった。

159名無しのも私だ:2008/02/19(火) 01:09:10 ID:0wihl3Bs
―十数時間後―
ラージ「…」
ラージは一人で、ただ何も考えずに湖を見ていた。いや、何も考えていないわけではない
何も考えないようにしているのだ。彼は、ここ数日この場所を訪れ、ずっと考え通しだった。
ラウルとフィオナ、双子の兄弟である二人と自分の関係を…
考えては止め、思い返したように考えては止め、ひたすら考えることを続け、もはや考えることをやめた。
二人の関係をどうにかしたかったわけではない、ただ自分の中に渦巻く…
フィオナ「ラージ!!」
ラージ「フィ…オ…ナ…?」
たとえ停止した思考の中であっても、反応してしまうその声を聞き、ラージは振り返る。
そこにフィオナはいた。ラージはしばらく唖然とした表情をしていたが、
それが実態であると認識すると、いつものラージ…の、表情に戻した。
ラージ「フィオナ?なぜここに?」
フィオナ「(いつもの、何からも少し距離を置いたようなしゃべり方…でも…チガウ!!)」
フィオナ「あんたを探しにきたんでしょうが!?」
ラージ「必要ありませんよ?書置きにあったように数日後には…」
フィオナ「数日っていつよ!?」
ラージ「…わかりません。でもあと数日はここにいないとだめなのです。」
フィオナ「(チガウ!!あたしが知ってるあんたは、もっと論理ばかりはいて相手を呆れさせる奴だ!!)」
フィオナ「なんでだめなのよ!!答えなさい、ラージ!!」
思わず感情的になってしまう
ラージ「少し…考え事がしたかった…ただ、それだけですよ?」
フィオナ「考え事って、あたしとラウルのこと!?だったら直接言えば良いじゃない!!」
ラージ「いいえ、そのことではありませんよ、それについては気にしていません
…それが…フィオナの幸せなら…」
フィオナ「じゃあ何よ!!」
ラージ「…僕自身のことについてです…」
フィオナ「…?」
ラージ「先ほども言ったように、僕はあなたが幸せなら、たとえラウルと一緒になったっていい…
そう思っています。でも…もう一人…そうは思わない自分がいるのです…
あなたがラウルといると思うたびに、あなたが欲しい!!力ずくでも手に入れたい!!
そんなことを思う自分がどんどん増大していきました…僕の思いを塗りつぶしていくほどに…
僕は、あなたを守りたい!!あなたの幸せを守りたい!!でも…それを壊すことも望んでしまう!!
だから僕は…!!
…この感情が僕をラージでなくしてしまう前に…あなたから…少し離れることにしたのです…」

160名無しのも私だ:2008/02/19(火) 01:10:56 ID:0wihl3Bs
普段は見せない感情の発露、彼は周りに対して常にそれを封じていたのだろう…
普段から自分がラージであるために
フィオナ「(あんたのいいたいことは分かる!!でも…!!)」
フィオナ「そんなに思ってくれてるなら…!!そんなにあたしが好きなのなら…!!
なんで、あたしの本当の気持ちが分からないのよ!!馬鹿!!」
さまざまな思いをぶつけるようにフィオナは叫ぶ
ラージ「本当の…気持ち…」
ラージは呆然としながらも、わけが分からないという表情をする
そんな行動が、さらにフィオナの怒りに触れ、さらに言葉を続けさせる
フィオナ「この鈍感!!馬鹿眼鏡!!もういい!!言ってやる!!あたしは…
ラージが好きだあああああああああああああああああああああ!!
もう、襲いたければいつでも来い!!相手になってやる!!」
あたりに響き渡る問題発言な騒音、幸いにもあたりに人の姿はない
ラージ「…!!」
フィオナ「…はぁ…はぁ…私は言ったわよ…あんたはどうなのよ…?」
しばらく思案に暮れていたラージだったが、おもむろにフィオナに近づいてゆくラージ
フィオナ「ちょ…ラージ!!こんなところで…いきなり」
先ほどの自分の発言を思い出し、あたふたとするフィオナ
そんな彼女にかまわずラージはフィオナを抱きしめる
フィオナ「やっぱりまずいって!!せめてどこか場所を…!!」
ラージ「何を感違いしてるんです?」
フィオナ「へっ…?」
ラージ「こうすれば、あなたは逃げられないし、手で耳をふさぐこともできない
なおかつ、どんな小さな声でも聞こえないわけがない、実に合理的な方法です」
フィオナ「(ラージ…いつものラージ…!!)」
彼の調子が戻ってきたことを感じ微笑むフィオナ
ラージ「それでは、言いますよ?僕はあなたと違って大声では言えないので、良く聞いてください」
フィオナ「うん…いいよ…」
ラージ「僕はあなたを愛しています。あなたと共にこれからも幸せになってゆきたい…だから…」

―翌日―
ラウル「んー、そうか、うん、わかった、じゃあ気をつけてな」
ミズホ「どうしたんですか?ラウルさん?」
ラウル「フィオナも二,三日泊まってくるってさ。お土産を期待しとけっていってたぞ。」
デスピニス「じゃあ…仲直り出来たんですね!?よかった…」
ラウル「さて…二人がいない間、三人でがんばるか!!」
ミズホ・デスピニス「はい、ラウルさん!!」


キャラが違うとかあったらごめん、それ以前の問題だったらもっとごめん…

161名無しのも私だ:2008/02/19(火) 04:06:01 ID:5ZWOW9OQ
またまた御冗談を。GJですよ。
ベストなカップリングは人それぞれですからね。
…と、最近兄妹物を書いた俺が言ってみる。

162薄荷飴:2008/03/09(日) 23:47:05 ID:zwNCZcVs
ホワイトデー前哨戦ということで、ゼンソフィ投下いたします。

ある花曇の日の午後、テスラ研の一室からカタカタカタ……、とキーボードが規則正しく
指で弾かれる音が響く。
「うー…、どうにも煮詰まっちゃったなぁ……。ゼンガー、そっちの進み具合はどう?」
柳眉の間にしわを寄せ、綺麗に結わいた髪を掻き毟りながらソフィアは背中合わせに座る人物に
話しかける。
「あまり良好とは言えんな…。どうも報告書と言う物は苦手でな…。」
部屋で作業をしている二人の男女はお互い画面とにらみ合いながら、進行状況を報告しあう。
片や最新技術の研究論文作成、片や事後処理報告書の作成であるが、二人とも自分の仕事が難航
しているという点では同じようである。
ん、と伸びをして振り向くと、モニターを凝視しキーボードを叩く彼の背中が見える。背中を
丸めてキーボードを叩く姿は、普段戦場で機神を駆り巨大な剣で敵を断つ彼からはとても想像し難い
もので、思わずククっと含み笑いをしてしまう。そんな彼女の笑い声に椅子を彼女の方に向け、
「なんだ?」
と彼女の顔を見て尋ねる。
「いえ、いつもの貴方と比べたら、なんだか可笑しくて…」
「む…。変か?」
「いえ、そういう意味じゃあなくて。貴方手が大きいから、キーボード打つ時大変じゃない?」
「こう見えても、上手くやっているよ。」
確かにそうだ。現に自分と会話しながらも打ち間違いなくキーボードを叩いている。しかも
モニターに流れる文書は一つも打ち損じが無い。彼の意外な器用さにソフィアは目を丸くして
感嘆の声を上げる。
「器用なのね。意外と」
「剣を振るうだけが能じゃあないさ。」
それもそうね、と思い、自分も論文作成に戻ろうとした時、彼のデスクの上にある小さな瓶を
見つけた。中身は不透明な白い飴玉。
「ねえ、それって薄荷飴?」
「ああ、喉を痛めていてな。のど飴代わりに舐めている」
そういえば、会話の端端でころころと飴を転がすような音を立てていた。音の元はそれだった。
「好きなのか?」
「ええ。ドロップってあるでしょ?缶に入ったやつね。小さい頃は薄荷だけ残して後で大切に
食べたの。なんだか、特別な感じがしてね。あのスーッとするのが大人みたいだな、って思ってたの」
と、目を輝かせながら薄荷飴の思い出を語る彼女が何だか少女のようで、思わず口元が緩む。
「良かったら、食べるか?」
「え、いいの?」
「ああ、」
好きなだけ食べろ、とデスクにある小瓶を取ろうとした時。
椅子に付いている車輪の乾いた音が耳に届くと同時に、ソフィアの顔が近づき、ゆっくりと細くしなやかな
腕がゼンガーの首に回され、彼の唇を自分の唇で覆うように彼女は口付けた。
「むぐっ…」
唇を割り入り彼女の舌が口内に進入する。口内の薄荷飴を舌ごと舐められる。スーっと薄荷特有の刺激が
口内から気道を通って鼻を抜ける。ころころと飴が二枚の舌に転がされる音と、お互いの唾液が絡み合う
音が漏れ響く。
「んは…」
口の中の飴が無くなると同時にソフィアが唇を離す。つ、と唇同士を繋ぐ糸を指を軽く振って断ち切り、
「してやったり」と言いたげな満面の笑顔でこちらを見つめる。やれやれ、と思いながらソフィアの体
を引き寄せ、すっぽりと覆いこむように抱きしめる。ソフィアはくすぐったそうにゼンガーの胸板に頬を
摺り寄せる。そんな彼女の仕草がまるで猫みたいだな、と思いクスリ、と小さく笑う。
「…ホワイトデーなんだが」
「ん?」
「温泉、行かないか?泊りがけで…」
「…予定、空けときますね…。」
胸板から顔を上げ、彼からの提案を承諾する。見つめあい、お互いクス、と小さく笑うと、再び口付けを
交し合った…。

Fin

163薄荷飴:2008/03/09(日) 23:53:04 ID:zwNCZcVs
最初に「微妙にODE」ってつけるの忘れてた…orz
エロス苦手な人、ごめんなさい。

164名無しのも私だ:2008/03/15(土) 00:01:02 ID:Jn8/8YfU
イングラム先生のお悩み相談室番外偏
恋愛調味料第三回
白い日の先生(とその弟子)

165人気者なんです:2008/03/15(土) 00:02:52 ID:Jn8/8YfU
 白い日である。先月のバレンタインデーのチョコレートに男がお返しをする日である。
 もてるもてないと言う表裏一体の男の証明が良くも悪くも男を切なくさせる日。
 ……中にはそれがあまりにも過ぎた為に泣きそうになっている人間達が居る訳だが。

――ホワイトデー早朝 極東基地 イングラム私室
 タイムダイバーの朝は不規則だ。だが、今日に限って先生の寝覚めは早かった。
「では、俺は先に出る。戸締りは頼んだ」
「了解っス」
 先生は一番弟子のアラドにそう言うと、大荷物を抱えて部屋を出て行く。彼の持っているのは当然、先月のお返しだった。
 背中と両肩、そして両手の荷物は三十名に上る義理のチョコレートへの返礼。その全ては中身の入った酒瓶だ。
「今日一日だけで配るの間に合うんスか?」
「間に合わせなけなければなるまい。休みは今日だけだからな」
 先生が先ず向かうのは各地に散っている人物へのお礼参り。月、アフリカ、南極、テスラ研と向かう場所は揃って僻地だ。
 格納庫の隅で埃を被っているアストラナガンを引っ張り出してまで行う強行軍。先生の背中は早くも煤けていた。
「俺も数は多いっスけど、配るのが極東基地だけで済んで本当に良かったっスわ」
「こう言う時、泣きたくなるのは俺自身の弱さかと反吐がでるが……いや、どうしようもないな」
 正直、無視したい。だが、それは義理人情に背く行為なので先生はそれを甘んじて受けたのだ。 
 アラドはそんな師の背中に苦笑しながら何とか言葉を掛けた。
「昼までには戻る。……義理以上の受け渡しには十分注意しろよ?」
「勿論っス。俺の力作甘味でその人達を唸らせるっス!」
 そろそろ出なければ間に合わない。先生はアラドにそう言うと今度こそ出て行く。
「では、な。そちらもしっかり」
「ええ。お気を付けて」
 アラドは先生に声援を送り、見送った。

――格納庫
「では、往くぞ。我が半身よ」
 大荷物を何とかコックピットに押し込むと、先生は愛機のエンジンに火を入れる。
「済まんな。こんな馬鹿な事に付き合わせて」
 究極の人型兵器が今では原チャと変わらない。だが、転移機能を持つアストラナガンでないと、一日では決して配り終えない。
 最初は郵送に頼ろうとした先生だったが、結局面倒臭がりの虫が現れて、それは行われなかった。
 だからこそ、彼は有休を消費してまで一心に苦労しているのだが。
「往くぞ……!」
 量子跳躍開始。最初の目的地は南極。遺跡に在住のクリアーナへのお返しだった。


 …………そして半日経過

166人気者なんです:2008/03/15(土) 00:05:55 ID:Jn8/8YfU
――夕刻 喫茶TIME DIVER
 西日が傾いて、空がほんのりと茜色に染まる時間帯。CLOSEの板が出ているTIME DIVERに訪れる客があった。
――カランカラン
「?」
 ドアベルが客の来訪を告げると、休憩中&まかないを食べている最中のトウマ=カノウがドアの方へ目をやる。
「失礼するぞ」
 入ってきた客は長身青ワカメのイングラムだった。
 その手には早朝にあった大荷物は既になく、代わりの大きなクーラーボックスを肩からぶら下げていた。
「いらっしゃ……と、言いたい処ですけど、今は看板ですよ? 少佐」
「ああ、知っている。今回は客として来た訳ではない」
 そんなトウマの台詞は先生は知っていた。
 普段は厨房に引っ込んでいる為に滅多に先生はこの店でトウマと会話する事はない。だが、今回は特別だったのだ。
「店長に用事ですか? だったら今、留守ですけど」
「クォヴレーに用は無い。……フーは居るか?」
「フー=ルー? どうして少佐が……って、どうでも良いですよね」
「いや、先月のお礼参りにな」
「そう、だったんですか。彼女も居ませんよ? 店長と一緒に足りなくなった食材を買いに行って貰ってますから」
「む……タイミングが悪かったか」
 こんな時間に現れたイングラムはコーヒーを啜りに来た訳ではないのは確かだ。
 だから、トウマはてっきりそうだろうと思ったがそれは違った。先生の目当てはフーだったのだ。
 それを聞いたトウマは少し吃驚した顔をしたが、深く詮索する事もしたくないので、彼女が留守だと言う事を告げる。
 先生はそれを告げられて少しだけ困った様な顔をした。
「仕方が無い。出直すか」
「え? 折角来たのにですか? 何なら、待っててくれても」
「営業時間外だろう? そこまでは甘えんよ」
「淡白ですねえ、少佐」
 先生の決断は早い。一度帰って出直す事をトウマに言うと、彼は先生を引き止めようとした。
 店の留守を預かるトウマは一人ぼっちが寂しいので話し相手が欲しかった。茶の一杯位なら奢る気だって満々だ。
 しかし、先生はそれに甘えない。変な所で微妙に格好良いイングラムに少しだけ皮肉混じりにトウマは零した。
「あーー、少佐?」
「む?」
 だが、このまま帰すのも惜しいトウマは先生に提案をする。
「若し、良かったら預かりましょうか? 俺が渡しときますんで」
「何? それは、願ったりだが……預かり物のサービスなど、この店はしていないだろう」
 帰ってくるの何時になるか知れないフー=ルーにトウマがその品を預かると言う提案だった。
 だが、イングラムはやっぱり渋い顔付きだった。
「はい。でも、それは俺からのサービスですよ。それなら問題ないでしょう?」
 流石は百戦錬磨のバイト青年だ。客との駆け引きが非常に上手い。その見事さは先生も見習いたくなった程だった。
「そうか。それならば、頼めるか?」
「ええ」
 この場は折れた方が得策と思ったのか、先生はクーラーボックスから小さめの四角い紙の箱を取り出し、トウマの座るテーブルに置いた。
「中身は、何です?」
「菓子だ。ナマモノだから冷蔵庫に入れて欲しいが、良いか?」
「お菓子がお返し? 少佐って、実は結構……」
「・・・」
 中身を告げられて、トウマは少しだけ目の前の強面ワカメが微笑ましくなった。そして思わず顔をにやけさせると、先生の顔は険しくなった。
「し、失礼しました!」
 その顔が無言の怒りを湛えている様に見えたトウマは恐ろしくなって頭を下げる。
 幾ら、努力と根性と熱血を以って霊帝は倒せても、それでも世の中には喧嘩を売ってはならない相手が居る事を彼は知っているからだ。
 目の前のタイムダイバーがそうだ。
「いや、俺もそう思っているさ。似合わないと。そして、それを受け取るフーも、な」
 だが、それに対し、先生は少し自嘲気味に笑った。自分のやっている事が似合わないとは知っている。
 そして、それを受け取り、食べるフー=ルーの姿だって男前な彼女には似合わない事もだ。
「は、はあ」
「だが、そのギャップもまた面白い……そうは思わないか?」
「え、あ……はい。そうかも知れないですね」
「だろう?」
 そう返されてはトウマとて気の無い返事をするしかない。
 だが、先生はそれも偶には許されると言いたかったのか、トウマに同意を求めると、それにトウマはたどたどしくだが頷く。
 先生はそのトウマの姿に微笑んだ。

「兎に角、妙な事を押し付けて済まんな。機会があれば、酒でも奢る。俺の処に来てくれればな」
「はい! その時はご馳走になります!」
 これ以上、居座る気は無い先生は控えめな礼を述べると店から出て行く。トウマはその背中にお辞儀をした。

167人気者なんです:2008/03/15(土) 00:09:01 ID:Jn8/8YfU
――数時間後 居酒屋ハガネ
「取り合えず、今日はお疲れさんでしたっス」
「ああ」
 弟子と師匠が定位置で杯を酌み交わす。肴代わりの話題は白い日の成果についてだ。
「本当に今日一日で間に合わせたんスねえ。凄いと言うか、呆れると言うか」
「手広くやり過ぎた皺寄せだな。我ながら、性分が恨めしい」
 アラドは師の偉業(?)を自分は決して真似したくないと反面教師にしているらしい。
 だが、そんなアラドの胸中を知りつつも世界を駆け巡ってミッションをやり遂げた先生はやたらと良い顔をしていた。
「まあ、義理の返礼が一番大変だった訳だが、それ以外はどうだった? 上手く行ったのか?」
「ええ。大成功っス。師匠が忙しいレーツェルさんに代わって見てくれたお陰っスわ」
「あの男も忙しい。他の処で手一杯らしかったからな」
「でも、意外っスよねえ。師匠の事だから、お菓子作りは苦手だっててっきり」
「いや、苦手だ。甘い物は嫌いだから、自分で作る事も無い。だが、今回は喰ってくれそうな輩が居たからな」
 アラドが義理より上の相手に渡した物は先生が白い日故に方々から引っ張り蛸のレーツェルの代わりに監修してやった物だった
 話を聞く限りでは、受けは上々。それならば、見てやった甲斐があったと先生は杯を呷りながら、心で安堵した。

「本当の処、光の玉でもくれてやろうかと思ったが、それは去年の二番煎じだからな」

「光……何スか、それ?」
 だが、先生としては本当はそれで済ませたかったらしい。だが、それを敢えてしなかったのだ。
 聞こえて来た意味不明な言葉にアラドが怪訝な顔をする。
「戦闘不能を解除してくれるアイテムだ。まあ、命のストックだな」
「え! それ、凄いじゃないっスか!」
「だが、持ってるだけでは意味が無い。誰かに使って貰ってこそ真価を発揮する類のモノだ。掃いて捨てるだけあるが、結局お世話になった事は俺自身殆ど無いな」
「……な、何か知らないっスけど、使い難いんスね」
 昔居た世界では余りにも使わないモノだから換金したりもしたが、それでも大量に手に入るモノだからこちら側でもその使い道を持て余す。
 アラドはそんな先生の胸中が判らないので、ただ頷くしかなかった。

168人気者なんです:2008/03/15(土) 00:13:08 ID:Jn8/8YfU
――喫茶TIME DIVER 閉店後
 閉店時間になり、看板となった喫茶店で厨房の掃除から開放されたトウマは同じく、フロアの清掃をやり終えたフー=ルーを捕まえた。
「フー=ルー。さっき、イングラム少佐が来てお前に贈り物を置いていったぞ」
「少佐が? 何かしら」
「先月の礼だってさ。ちょっと待っててくれ。今、持って来る」
 それは先程、先生によって託されたものを渡す為だった。
「ああ、あの時の。……律儀ですのね、あの方は」
 先月のチョコビーンズの礼だと言う事が判ったフーは薄く笑う。
 別にお返しなど期待していなかったのに、それを態々持って来たワカメが微笑ましく、また少し嬉しかった。
「こいつだよ」
 トウマは厨房に戻り、冷蔵庫の中からそれを持ってくる。
 片手に白い、小さめの箱。もう片手には皿とデザート用のナイフとフォークが握られていた。

「拝見しますわ。……これは」
「どれどれ、へえ。ケーキだ」
 その箱を開き、フー=ルーはその美味そうな姿に唾を飲み込んだ。
 中に入っていた物。それは小さめのラウンドの黒々とした色をしたシフォンケーキだった。
「これは、市販……ではないわね」
「ああ、微妙に形が不揃いだ。きっと、少佐の手作りだよ」
 トウマは厨房担当としてその見てくれから、フー=ルーの疑問に答える。見た目は及第点だ。
 だが、これ以上は実際に食べてみてからの評価となる。
 絹の様な軽さと食感が売りのケーキは油とメレンゲのバランスがかなり難しいのだ。
「食べましょうか」
「俺ににも一切れくれないか? ちょっと少佐の腕に興味がある」
 フー=ルーは適当にナイフでラウンドを切り分けると、トウマの皿と自分の皿にケーキを置く。
「では」
「おう」
 そして、試食の瞬間。
「っ……はむ」 
 口元にケーキを運ぶフー=ルーは強いブランデーの香りを確かに感じる。だが、次の瞬間に来たのは黒胡麻のまったりとした香ばしい香り。
 微妙にミスマッチっぽいがその二つの香りが混ざると何とも言えない不思議な美味しさに変わった。
「……おいしいわね、これ」
 フー=ルーは嚥下した後にそう零した。騎士としてではないが、余り甘い物を食べないフー=ルーですら、それを美味いと言わしめた。
「ああ。大胆な材料の使い方だ。黒いのはココアの色だと思ったけど、違った。レーツェルさんの味とはまた違う美味さだよ、これ」
 トウマは嘗てレーツェルの作ったケーキを食べた事がある。それでも先生のそれにはレーツェルものとは違う美味さがあった。
「でも、これ甘さがちょっと控えめ過ぎるって言うか、アルコールが完全に飛んでないのか? 少し苦いけど」
「あら、私は好きでしてよ? この味。大人向けね、これは」
「少佐は酒好きらしいけど、あの人らしいっちゃあの人らしいかな」
 問題点があるとすれば、それは少しだけアルコールの苦味が残っている事だろうか。だが、フー=ルーはこの味が好きだった。
 そんな彼女の顔を見ていると、トウマは何となくフー=ルーと言う人間が自分の想像と違う事に気付いたらしい。
「何にせよ、有難く頂くわ。……私が、こんなモノにうつつを抜かす時が来るなんて、ね」
「・・・」
 嬉しそう、また少しだけ照れ臭そうなフー=ルーに声を掛けようとしたトウマだったが、それは止めた。
 ……そんな彼女も偶には良い。
 ギャップと言うモノが齎すモノが何かは知らないが、そんな女騎士様も別に良いんじゃないかと思うトウマ。
 そして、男前な彼女にそんな顔をさせるイングラムと言う男にも、トウマは些かの興味を持つに至ったのだった。

169人気者なんです:2008/03/15(土) 00:15:18 ID:Jn8/8YfU
――再び居酒屋ハガネ
「師匠の方はどうだったんスか?」
「知らん」
 アラドは先生の成果に興味があったのでそれを聞くが、先生は一言そう言っただけだった。
「は?」
「俺は渡しただけだ。反応までは一々見ない」
「ええ?」
「味見はして、喰った奴が腹を壊さない代物だと言う事は確認出来た。後はどう思おうが、本人次第だ」
 それにはアラドとてあんぐりと口を開けるしかない。だが、先生には先生なりの理論展開があるらしい。
 ぶっちゃけ、其処まで付き合う気がしなかっただけかも知れないが、アラドはそこは突っ込まなかった。
「そんなもんスかねえ」
「そうさ」
 話はそれで終わりだ。
 どうしても気になるなら、それは食べた人間達に聞けば良い。アラドには当然、そんな気は無かった。

「お待ちどう」

 そうして話が一区切りつくと、カウンターからダイテツの腕が伸びる。出てきたのは捌いたばかりの刺身の盛り合わせだった。
「え?」
「む? ……大将、俺達は未だ注文は」
 だが、それに怪訝な表情をする弟子と師匠。それは当然だ。彼等は未だ酒以外は頼んでいなかったのだ。
「なに、構わん。先月は少佐に酒を貰ったからな。そのお返しだ」
 その答えは、今日がホワイトデーだから。
 友チョコ代わりに送った酒がこう言う所で返って来るとは先生にも予想出来なかった。
「これもまた、返礼か。……遠慮無く」
「うむ」
 遠慮するのも変なので、先生はその好意を受ける事にする。実に美味そうな鯵やら帆立やらが食欲をそそってくる。
「俺も頂いて良いっスか?」
「ああ。独りでは喰いきれんからな」
「やったぜ!」
 先生は当然、喰い付いてきたアラドにそう言ってやった。
 食欲魔人と化したアラドの手に掛かれば、この盛り合わせも十分と保たない事は明白だ。
 だが、先生はそんな事は気にしない。美味い酒と肴、そして話し相手が居ればそれで十分だったのだ。

――BARヒリュウ
「長生きはするモノですね、アラドのケーキが食べられるなんて」
「チーズケーキは好きだけど、アラドのアレには嵌っちゃいそうだよ。で、何だっけ? あのチーズケーキ」
「ブランマージュ。……私にも持って来てくれたのは、素直に嬉しかった」
「そう。ま、あれを何処で習ったのか知らないけど、美味しかったわ。また……食べたいわね」
 中央付近のテーブルに座すアラドの直援部隊。
 オウカを筆頭にアイビス、ラトゥーニ、ゼオラがそれぞれ酒を呷りながら今日の事について談笑をしていた。
 何時もは今回は飛び入りのラトゥーニは除いていがみ合ってばかりの女三匹だが、今回は特に衝突する事はないらしい。
 アラドがホワイトデーに彼女等に送ったチーズケーキはかなり、好評だったのかリピーターが出そうな程だ。 
 かなりの何度を誇るそれを作りえたのは単に先生の監修があっての事が、彼女達はそんな事は知らなかった。

 で、もう一方。カウンターで雑談する女三匹が居た。こちらは先生に懐いているアダルツだ。
「今回は、良い意味で期待を裏切ってくれたわ。やれば出来るのね、イングラムも」
「あれは本当に美味しかったですよね、隊長。前みたいに変な物渡されたらどうしようかって少し警戒してましたけど、裏切ってくれて良かった」
「少佐はマメですね、その気になれば。でも、ホワイトデーなのに黒いケーキを渡すって、流石は少佐だとも思いましたけど」
 ヴィレッタは去年のアレの二の舞を相当警戒していたが、それが覆った事に安堵し、アヤもまたそれは同じだった。
 セレーナも少しはそう思いつつも、若干捻くれている先生のチョイスに微笑んでいた。
 まあ何にせよ、それが嬉しくもまた大満足だった三人は文句など言う気は無かったのだが。

 ……そして数時間経過

『アラドが来ない』

『来ないわね、イングラム(少佐)』

 野郎二人の登場をそれぞれの思惑で待っている女達。だが、彼女達の思惑通りに事は運ばない。
 何故ならば……


「そろそろ、帰るか」
「うっス。……大将! お愛想!」
 先生とアラドは別の店に居て、且つ梯子もせずに真っ直ぐ帰ろうとしていたのだから。


『『来ない……』』

 来る確証も無いのに確率に縋って待っていても、外れる事も多々あるのだと言う事を皆信じたくないらしい。
 だが、先生とアラドの行く先を知らない女達はそうするしかなかったのだ。
「そりゃ来ないでしょうな」
 苛々がマックスになりそうな女郎連中にマスターであるショーンはやれやれと言った感じに呟いた。

170名無しのも私だ:2008/03/15(土) 00:17:53 ID:Jn8/8YfU
こっそり投下。
でも間に合わなかったぜ……

171名無しのも私だ:2008/03/21(金) 02:29:17 ID:X1aBtnJo
萌えスレ224の>>91の続きを書いたのだが、もはや流れが変わっているのでこちらに投下
させてくれ

カズマ「寒いな統夜……」
統夜「ああ……」
カズマ「俺たちみんなにこんな事してたんだな……」
統夜「ああ……」
カズマ「ここ出たら姉さん達やみんなに謝らなきゃな……」
統夜「……そうだな」
ミヒロ「もういいよお兄ちゃん」
メルア「私たちも悪かったですし……」
カズマ「姉さん、ミヒロ……」
統夜「お前たちなんで……」
テニア「いや、営倉って寒いみたいだから差し入れを」
カティア「私たち特製の豚汁と」
シホミ「ヴィンデルさんが貸してくれた毛布」
カズマ「姉さん、ミヒロ……」
統夜「カティア、テニア、メルア……」
統夜・カズマ「ありがとう」
シホミ「今回はお互い様ってことで私たちも営倉に入っていいかしら?」
カズマ「え?」
カティア「駄目ですか?」
統夜「いや、自分で入りたいって言うんだったら止めないんだけどさ」
メルア「じゃあ決まりですね」
ミヒロ「みんなで豚汁パーティーだー!」


アクセル「やれやれ、騒がしいことだな」
ヴィンデル「ふん、これでしばらくは我がシャドウミラーが駆け込み寺になることもない
だろう」
アクセル「ニヤニヤ」
ヴィンデル「……なんだ」
アクセル「少し寂しそうだな、ヴィンデル」
ヴィンデル「バカを言え」

172名無しのも私だ:2008/03/26(水) 17:05:32 ID:E5JMwgeU
ある日のこと…
小さな子供「と〜や〜」
統夜「え?君、なんで俺の名前を?」
小さな子供「ねーねー、あそぼ〜よ〜(ニカッ)」
テニア「ねえ統夜?その子いったい誰?」
メルア「まさか…そんな小さな子にまで…」
統夜「そんなわけあるか!!アクセルさんじゃあるまいし!!」
アホセル「俺を呼んでくれたのかな?統夜君?」
統夜「あああ、アクセルさん…いらさいてたんですか?」
カティア「統夜落ち着いて!誤字ってるわよ!!」
アホセル「ひどいな〜統夜君、俺が好き好んで幼女をねらって手を出す人間だとでも言うのかい?」
統夜「ははは……(ミィちゃん連れてちゃ説得力に欠けるんだけどな…)」
小さな子供「アクセルのお兄ちゃんにアルフィミィだぁ〜、こんにちは(ニカッ)」
アホセル「ん…こいつは…」
小さな子供の特徴:青い髪,少し眠そうな表情,ロイヤルオーラ
アホセル「まるで…小さなシャナシャナなんだな…これが」
ミィ「もしかして、統夜との隠し子ですの?」
カ・テ・メ「「「!!?」」」
統夜「そんなわけあるかぁー!!まず年齢的におかしいだろが!!」
アホセル「いや分からんぞ…向こうには、時を操る技術が存在するんだな、これが」
統夜「いやいや、その前に普通に考えたら妹とか親戚の子とかでしょう、そこは」
ミィ「ムキになって否定するところが怪しいですの…」
カティア「…(絶句)」
テニア「う、嘘だよね?そんなこと無いよね??」
メルア「私は信じてます!統夜さんを信じてますから!!」
そんな軽く修羅場を迎えそうになった中、携帯の着信音が鳴り響く
統夜「はいもしもし、こちら紫雲です」
電話「あっ、統夜ですか!?変なことをお伺いしてすみませんがそちらに小さな私が来ていませんか?」
統夜「!!、来てるけど…いったいあの子はなんなんだ!?」
電話「え?今、いるんですね!?分かりました、それじゃあ…ピッ…ツーツー…」
統夜「え?あ?おい!?シャナ?もしもし??シャナさーん???」
アホセル「おや、今のはシャナシャナからの電話だったのか?」
ミィ「これは…ひょっとしたらひょっとしますの」
カ・テ・メ「「「………」」」

173名無しのも私だ:2008/03/26(水) 17:06:37 ID:E5JMwgeU
そのとき、小シャナの様子に変化が起った。
小シャナ「…!!………ふう、つながりましたね」
アクセル「おっ!?急にシャナシャナの声になったんだな、これが」
統夜「えっと…シャナなのか?」
小シャナ「はい、皆さんに状況をご説明するにはこの方がいいと判断いたしましたので…」
統夜「わかった、じゃあその子について話してくれ…頼む…」
小シャナ「では皆さん驚かないで聞いてください…実はこの子は…」
一同「ゴクリ…」
小シャナ「この子は、私なのです」
一同「???」
ミィ「つまり…どういうことですの?」
小シャナ「えっと…実はこちら側でちょっとした事故が起こってしまいまして…その結果、
私の潜在意識または人格の一部がオルゴンクラウドに干渉して指向性を持たせてしまい、
この子の体を構成してしまったわけなのです。そのため、この子はある意味で私なのです」
テニア「つまるところ、その子はオルゴン製のシャナなんだね?」
小シャナ「その通りですテニアさん、この子の体は、高密度のオルゴンで構成されているようです、
だから、なるべくオルゴンをこまめに補給してあげていただけないでしょうか?
もしこの子に何かあれば私自身にどのような影響があるのかはまったく分かりません。
こちらでも、もう一人を使って調査を行っていますが…まだ何かと手が離せない状況で…」
カティア「補給って…でもオルゴンの原義は…///」
小シャナ「それはご心配には及びませんよカティアさん。その方法に頼らなくとも、
この子をオルゴンクラウドの影響下にしばらく置いていただければ問題はありません
ですからくれぐれも、かの規制法にひっかからないようにしてくださいね?」
ミィ「なんとも複雑な大人の事情ですの…」
メルア「???」
統夜「ところでさ…もしかしてそれって暗に…俺たちにこの子を預かれって言ってるのかな?」
小シャナ「残念ながらそうです…こちらにはその余裕が…
あっ!すいません!!どうやらカルヴィナさんが防衛ラインを突破した模様です!!
私はこれから退避します!!落ち着いたら連絡いたしますのでそれではごきげんよう…」
統夜「え?おい!!シャナ!?いったい何がどうなって??」
小シャナ「…??(キョトン)」
アホセル「大変なことになってるようなんだな、これが」

だが…このときは誰も気付いてはいなかった。その事故の影響が地球圏全体に及んでいることに
はたして、記憶とは何なのか…自身の存在証明とは…人間とは…
次回「オルゴン創りの人間」
君は、その事実を目撃することが出来るのか?

174平屋?の花見:2008/03/30(日) 01:26:50 ID:HucuNJkg
花見と聞いたらやりたくなったネタ、下手だけど勇気を持って投下してみる



--ピンポーン
ショウコ「は〜い、どちら様でしょうか?」
アリエイル「突然すみません、私はアリエイル・オーグと言います。こちらは兄のドゥバン」
ドゥバン「フェルナンドという者に花見だと招待されて来たのだが」
フェルナンド「む、来たか、遅かったな」
アリエイル「少し伊豆の方に用事がありましたので」
ショウコ「フェルナンド、この人達と知り合いなの?」
フェルナンド「少し前に『ぎあなこうち』とか言う場所で修行をしていた時に知り合った」
ショウコ「へ〜、フェルナンドもちゃんとこの世界で私達以外の友達を作ってたんだね」
フェルナンド「別に友達じゃあ無い、少し修行を手伝ってもらっただけだ」
ショウコ「(素直じゃないんだからな〜もう)それじゃあ、お二人ともゆっくりしていって下さい」
アリエイル「それでは、お邪魔します」

175平屋?の花見・その2:2008/03/30(日) 01:36:33 ID:HucuNJkg
アリオン「おっ! 新顔かい? まあこの『タマゴヤキ』でも食べてみな、ポリポリとした食感がいけるぜ」
アリエイル「卵焼きなのにポリポリとした食感なのですか? 珍しいですね」
ドゥバン「いや、多分この黄色いものは沢あ」ショウコ「どうです? 美味しいでしょう、この『卵焼き』!!」
アリエイル「え、ええ、とても美味しい『卵焼き』ですね」
ドゥバン「………………」
コウタ「ショウコー、どうだお前も『酒』を一杯」
ショウコ「あ、お兄ちゃん、それじゃ貰おうかな」
アリエイル「あ、ショウコさん、未成年者はあまり飲酒は」
ショウコ「いえ、この『お酒』はもし子供が飲んだとしても大丈夫なんです」
アリエイル「そんなお酒があるのですか?」
ショウコ「あるんです」
コウタ「あ〜、美味い。やっぱり花見の席で飲む『酒』は格別だな」
ショウコ「でしょう、特にこれはこの間貰った『宇治産のやつ』を特別に開けたんだから! あっ、アリエイルさん達もどうです?」
アリエイル「そ、それではお言葉に甘えて」
ドゥバン「……なあアリエイル、この緑の飲み物はもしかして緑ち」コウタ「どうだ、良い『酒』だろう! 遠慮しないでどんどん飲んでくれ。おっ、そうだフォルカやフェルナンド達にも飲ましてこよう」
ショウコ「あっ、私も行く。それじゃお二人ともまた後で」
ドゥバン「美味いな、この緑……いや『酒』は」

176平屋?の花見・その3:2008/03/30(日) 01:43:38 ID:HucuNJkg
ドゥバン「…………どうも俺の知っている花見とは大分違う様な気がするのだが、そもそもこれは花見なのか?」
アリエイル「でも私には何だか分かる様な気がします」
ドゥバン「どういうことだ?」
アリエイル「例え花が無くても、豪華な食事やお酒が無くても、そこに居る人達と同じ時間を過ごすことを楽しむ。きっとそれが彼等にとっての花見なんですよ」
ヨーシヨッタヨッタ、ソレジャエンカイゲイイクゾー、バーナウファードラク ム、ナラバオレモ、イデヨソウハリュウ マケルカ、フォルカーイマコソシュギョウノセイカヲミセテヤルー モーオニイチャンタチッタラーコドモミタイナンダカラ トビイリデワザヲ、ヒロウスルノモオレノジユウダゼ フフフ、ワシモシュラノチガサワイデキタワ
ドゥバン「……確かにそうなのかも知れないな」
アリエイル「ええ、何だかここに居ると、まるであの人達と一緒に居るみたいです。私に生命の在り方を教えてくれた素晴らしいあの人達と一緒に、……それにドゥバン、今年は私達にもきっと良いことがありますよ」
ドゥバン「何故そう思うんだ?」
アリエイル「ほら見てください、私の茶碗の中に『酒柱』が立ってますから」
--そう言って茶碗を見せた彼女はとても嬉しそうに微笑んでいた。
--終--

177どこぞのアホ氏に:2008/04/01(火) 21:40:58 ID:nLFWknEw
「よっと」
 フライパンを軽やかに扱い、シンプルな卵と少々の調味料のみのプレーンなオムレツを返す。
 ほどよく形が整ってきたところで、ジョッシュはラキを呼ぶ。
「ラキ、朝食できたよ」
 トントンと二度三度手首を揺すり、形を整え、皿に移す。
 ほどなく、扉が開き、足音が聞こえてくる。
「そこで布巾でテーブルを拭いておいてくれないかな」
 両手を洗い、二つの皿を持って、ジョッシュは振り向く。
 しかし、そこにいたのはラキではなかった。
 
 ペンギンだった。
 南極に生息する海鳥。ペンギン科・アデリーペンギン属。体長は60cm程度。
 じっと椅子に座り、どことなく無機質を思わせる瞳で、ジョッシュを見つめていた。
「………」
「………」
 しばし、無言で一人と一匹は見つめあう。と、扉が開き、ラキが入ってくる。
「おはよう、ジョシュア……む、お前も起きていたのか」
 ラキは、ペンギンを抱えあげると、椅子から優しく降ろした。
「ほら、お前はこっちだ」
 そして、冷蔵庫からまるまる一尾の魚を取り出し、尻尾を掴みペンギンの前に吊るす。
 ぶらぶらと揺れる魚をじっと見つめ、首を左右に振っていたが、真ん中で止まったところで、
くちばしで獲物を食んだ。
 丸呑みして嚥下し、満足そうに羽をバタバタとやる――もっとも、目は相変わらず無機質な色で、ちっとも満足そうではないのだが――
パタパタと気の抜けた足音を立てて、どこかに歩いていった。
 ジョッシュは、なんとも形容しがたい表情で、その後姿を眺めていた。

178名無しのも私だ:2008/04/01(火) 21:41:39 ID:nLFWknEw
 *

 少し話を遡る。
 
 その日も、エール・シュヴァリアーとファービュラリスで、二人は巡回ルートを回っていた。
 結局のところ、ルイーナという組織は、『なかったこと』となった。
 異星人や異世界人という範疇を越えた、人知では計り知れない存在に対し、ノヴァンブル条約機構は、明言を避け、
ルイーナの部隊も、世間的には、異星人の残党、ということで片付けられることとなった。無論、そう簡単に済む話ではないことも事実だが。
 ルイーナをこの世界に呼んだものは、確かに南極の厚い氷層の下に消え、ルイーナという組織は消滅した。
 それがこの世界に存在していた、と確実に証明するものは、今では二機と二人しかいない。グラキエースとウェントス。
ファービュラリスとストゥディウムだけだ。
 しかし、念には念を、ということで、今でもこうやって、かつて遺跡が存在していた地域の調査は、定期的に行われている。
 その日の担当は、ジョッシュとラキだった。

「……あれから、結構な時間が経ったようにも思うけど、実際はあまり経ってないんだな」
「そうだな」
 機体から降り、いまは穏やかな天気の南極の氷の上で、ジョッシュは呟いた。
「……静かだな。ここで、この宇宙の破滅と生存を賭けた戦いがあったなんて、嘘みたいだな」
「破滅は、静寂から始まるものだ。そういう理なのだろう」
「そうなのかもな……」
 冷たく乾いた風が一陣、二人に吹き付ける。二人は、身を一度震わせる。
「そろそろ帰ろうか。定時報告、異状なし、でいいな」
「ああ、それでいいと思う。……む、な、なんだ?」
 ラキが、驚いたような声を上げる。
「どうした?」
「……ペンギンがいる」
 見ると、いつの間にやら、ラキの横に一匹のペンギンが立っていた。
 南極ではそれほど珍しくない、アデリーペンギン。鳴き声一つ上げず、じっとそこに直立不動に姿勢で立っていた。
「アデリーペンギンか……お前、群はどうしたんだ?」
 喉の辺りを撫でると、嬉しそうに声上げる、こともなく、やっぱり無表情に立ち尽くしていた。
「……ま、ただのペンギンだな。行こう」
「あ、ああ……」
 二人が機体に向かって歩き始める。すると、そのペンギンも二人について歩き始める。
「……懐かれたのかな。お前、早く群に帰るんだ。いいな」
 そう言って、ハンガーに手をかけ、機体に乗り込もうとすると、今度は、そのペンギンはラキの足にしがみついた。
「うわっ、な、なんだ?」
「ラキ!?」
 振り落とそうにも振り落とせず、助けようにも向かえず、そのまま、ラキはペンギンも一緒にコックピットに引き上げてしまった。
「な、なんなのだこれは……」
「……ラキ、こっそり魚を持ってたりしてないよな」
「そ、そんなことをするものか……む?」
 コックピットに居座るペンギンの瞳を、ラキは見据える。
「ん?」
 ペンギンも、じっとラキの瞳を見返す。
「どうしたんだい?」
 そのまま数分、ラキとペンギンは、ただ見詰め合っていた。
「……大変だジョシュア」
 ペンギンを抱きかかえ、ラキはジョシュアに言う。
「大変?」
「大変なことになったぞ、ジョシュア」
「何が?」
「ジョシュア、このペンギンは……私だ」
「はい?」
 ジョシュアに見えるよう、ラキは高くペンギンを持ち上げる。
「このペンギンは……メリオルエッセだ」

179名無しのも私だ:2008/04/01(火) 21:43:06 ID:nLFWknEw


 
 もともとそれに、明確な自我はなかった。ただ、人間でいうところの、神の意志、とか、UWTBというものはあった。
 破滅への定向意志。それは確かに存在していた。
 だが、それはあるきっかけにより、この宇宙へ解き放たれた。フェリオ・ラドクリフの身体を依代として。
 というような話は、おおよそラキから語られている。だが、この話には語られていない部分があった。
 その存在は、まず依代を欲しがった。そして、この宇宙にある知的生命体を、依代とすることにした。
 そこで、すんなりとホモ・サピエンスに決めた、というわけでもなかった。
 それが現出した一帯に存在していた生命体は、人間だけではなかった。空気中、その人間の体表・体内に多く存在する虫や微生物、
菌やウイルスなど、生命体は多数存在していた。その存在にしてみれば、全て生命体は滅ぼすべきもの、等価値に過ぎない。
 そこで、それは選定を行った。ある程度の知能を持ち、ある程度の行動能力を有し、ある程度のコミュニケーションを持つ生命体。
 ここで、微生物や菌に類する生命体が、即座に除外された。次に小さな虫なども、他の生命と比較して、除外された。
 最終的にこの選定に残ったのは、この時遺跡にいた知的生命体である人間と、もう一種、偶然そこに居合わせたある生き物。
 審査の後、人間がその存在の依代に選ばれた(もっとも、ここまで、人間の時間ではほんの瞬きの間の話であるが)。
 だが、試験的な意味合いで、それは生み出された。それが相応しい生き物であるかどうか調べる為に。
 つまりそれが――。


 *

「こいつなのか」
 不思議そうに、ペンギンは首を傾げる。
「ああ、そうだ。人間のメリオルエッセとして生み出されたのが私達ならば、彼女らはペンギンのメリオルエッセとして生み出された存在だ。
不適格として廃棄されたそうだったが、こうして生き延びていたらしい」
「……」
 彼女、ということはメスなのだろうか。正直どちらでもよいのだが。
「私とこれは、対応する存在として生み出された。これもまた、グラキエースということなのだ。
だから私は、これの心に触れることができる。いくらか、考えていることもわかる」
 考えているのだろうか? この無垢を越えた不思議な瞳は。
「ジョシュア、難しいことはわかっている。これを連れて帰ることはできないか?」
 ふと、もしかしてラキはこのただのペンギンに情が移り、そんな嘘を? と思ったが、ラキはそんな回りくどいことは言わないし、
第一、ラキの考えていることは大体わかる。そうすると、本当にこのペンギンはメリオルエッセということになる。
 しばし口に手を当てて考えた後、ジョッシュは言った。
「……わかった。そうしよう。連れて帰ろう」
「そうか。すまない、ジョシュア」
 ラキは、そのままペンギンをコックピットに連れ込み、一人と一匹で乗り込んだ。
 ジョッシュは、ただその姿を、変な気持ちで眺め、それから自機に乗り込むのだった。

180名無しのも私だ:2008/04/01(火) 21:43:48 ID:nLFWknEw



 それから二人と一匹の生活が始まった。
 彼女は、雪の妖精を意味する、ジャック・フロストから名前を取り、フロストと名づけられた。
 何故かガンダムパイロットから、何か呼びにくい名前だ、と言われ、ラキフロスト、などという愛称で呼ばれている。
 初めは、ペンギンを飼うということは大変なことだぞ、と覚悟していたジョッシュだが、ラキフロストは存外に物分りがよく、
トイレもきちんとするべき場所で行い、変な虫や臭いももってこないし、餌も、三食に魚を一匹放りこめば満足、と中々の吝嗇家だった。
(ただし、小さすぎる魚ばかり食べさせると、その黄色い足でジョッシュを蹴り飛ばす)
 それと、たまに毛繕いをしてやれば、尻尾を嬉しそうに振る。
 こんな言い方は少しあれだが、ラキに比べれば、ずっと手間のかからない同居人だった。
 だが、一つ気がかりなことがあった。
 ジョッシュは、ラキとシュンパティアで繋がっている。ラキは、先天的に双子がお互いを知るように、ラキフロストのことがわかるらしい。
 だが、ジョッシュはラキフロストの考えていることは、さっぱりわからない。
 それなりの意志表示を行うので、謎の存在、というほどのことではなかったが、あの吸い込まれそうな瞳を見ていると、
やっぱり、少しラキフロストのことが、わからなくなるのだった。

 
 
 その時も、ラキはラキフロストの顔を見て、何やら微笑み、ラキフロストもラキの顔を見て何やら尻尾を振り、
ジョッシュには理解し難いコミュニケーションが取られていた。
「……なぁ、ラキ?」
「ん、なんだ?」
 ふと、ジョッシュはラキに問いかけた。
「フロストはさ、一体どんなことを言っているんだい?」
「わからない」
 事も無げに、ラキは言い放った。
「え……でも、ラキ、そいつといつも……」
「大意はわかる。だが、意味はわからない。

 私はペンギンではないからな」
 なんとなく納得してしまった。

181名無しのも私だ:2008/04/01(火) 21:46:30 ID:nLFWknEw
 用を足しに、ラキが席を立った後、ちょこんと椅子に座ったラキフロストの顔を見つめながら、
ジョッシュは呟いた。
「……お前は何を考えているんだろうな」
 と、ラキフロストの嘴が、微かに開く。
「……クァ」
「ん?」
 初めは搾り出されるような音だったが、少しずつ、声に変化していく。
「……クェ……ジョ……ジョシュ……ア」
 ジョシュア。
 確かに今、そう言ったように思えた。
「……お前、喋れるのか?」
「クァ……クァ……カ……か……」
 そっとラキフロストの嘴に耳を寄せ、その声に耳を寄せる。
「何が言いたいんだ……? しっかり聞いてやるから、言ってみろ」
「か……か……かは……し……」
「かはし?」
 と、途切れ途切れだった言葉が、一本に繋がった。
「下半身♪」
「……」

 訳が分からなかった。



 *

 
 それからも、二人と一匹の生活は続いている。だが、やはりラキフロストが考えていることはよくわからない。
 そんなことを、ジョッシュはラキに話した。と、ラキから、こんな答えが返ってきた。
「あれもまた、ジョシュアの考えていることはわからない、と思っているのではないか?」
 そういうものなのかもしれない。
 ラキフロストが考えていることはわからない。ただ、せめて彼女が喜ぶような美味い魚は、いつも冷蔵庫に入れておいてやろうか、とは考えている。
 大体そういうことが、誰かとの繋がり、ってことなのかな、と思う。


 ところで、ジョッシュには二つ気がかりなことがある。
 一つは、いつも寝る前に、ラキの頬にキスを一つしてから、ラキフロストの頭を撫でてやる時に、
時に『家族』と言ったり、『ヒロイン』と言ったり、『更新』と言ったり、『歌か……』とわけわからないことばかり呟いていること。
 そして、もう一つは、ラキに対応する存在、ということは、対応ということは……。

       終             ?

182名無しのも私だ:2008/04/04(金) 05:07:48 ID:kUApvlC2
>>181
GJ!

さっき彼女の片割れに「厳しくなさそうなツヴァイ?」と言われました
(外れてるかもしれませんが)

183どこぞのアホ:2008/04/05(土) 15:12:35 ID:3g26Z3r6
こちらでも改めて御礼とGJをさせていただきます。

あとラキフロスト俺が呼びかけると「下半身♪」をすごい頻度で言ってくるん
ですけど仕様ですか?

184名無しのも私だ:2008/04/09(水) 01:29:56 ID:uHPlfbFg
KYなネタなのでひっそりと投下

連邦兵A「いい機体だな・・・流石英雄様、いい機体をまわしてもらって羨ましいぜ」
連邦兵B「ホントホント、俺たちなんか量産型やリオンだしな」
連邦兵C「アルトアイゼンリーゼ・・・古い鉄の巨人様ねぇ・・・」
キョウスケ「・・・なら、そっちの量産型ヒュッケバインと交換してもいい」
連邦兵A「あ?」
キョウスケ「リーゼにかかるGは並大抵の物じゃない・・それに耐えられるなら代わってもいい」
連邦兵B「おいおい英雄様よ、俺たちを馬鹿にしてるのか?」
キョウスケ「警告だ、下手をすればアバラが折れ、内臓破裂・・それを考えれば量産型のほうがいい」
連邦兵C「はったりだろ・・・お前がいいって言ったんだからな・・・撤回するんじゃねーぞ」
キョウスケ「ただ言っておくことがある、こういう酔狂な形や色をした機体だ、戦場では目立つ」
連邦兵A「はぁ?」
キョウスケ「しかも「英雄様」の機体だ・・・真っ先に狙われるだろうな、そして回避のたびにGがかかる・・」
連邦兵B「・・・・何が言いたい」
キョウスケ「この機体に乗るのならば命を掛けろ、運がよければ勲章と言う見返りがもらえるだろう・・だが・・・運が悪ければ・・」

ここまで

185名無しのも私だ:2008/04/09(水) 21:56:06 ID:i8X30pUI
>>184にインスパイアされて、こんな話を書いてみた。

「く、くそっ! 何でだよ! 何でこうなるんだよぉぉ!!」
 アラート音と赤い文字で埋め尽くされたコクピット内で、男は悲痛な叫びを上げていた。
「俺はただ、英雄になりたかっただけなのによぉぉぉ!!」


 事の始まりは、些細な妬みからだった。
 新聞などのマスコミに取り上げられる、華やかな英雄たち……SRXチームやATXチームを見て、仲間の一人がこう言ったのだ。

「英雄様は、本当に勝ち組だよなぁ」

 何気ない一言だった。
 だが、それがきっかけで、自分たちの心の中にあった黒い妬みがむくむくとわきあがっていたのだ。
「そうだよなぁ、機体はいつも最新鋭。パーツや資金も真っ先にあいつらに回される」
「それにあれだぜ。ボインなねーちゃんからロリまでそろった女たち」
「全員つば付だけどな」
「けっ、要はあれか? ねんどーりきとかあるだけで名誉も機体も女もゲットしましたってか?」
「くそ、俺たちなんて10年以上女日照りだってのによぉ」
「英雄様は羨ましいぜ。呆れるくらいにな」
「ああ、俺たちの事なんて見向きもしねーで、『俺たちが地球を救ったんだぜ!』って言ってるんだぜ」
「お気楽な身分だぜ」
「だよな。そういや知ってるか? あのATXチームのエクセレンって女……」
 妬みはやがて彼らの悪口へと変わり、上層部の無能さを罵り合っていた時には、既に彼らの中にあったのは「英雄様」への憎しみだった。
 和気藹々と「あのロリはあのプレイが」、「あのデカパイは縛り上げて」と陵辱方法を話し合う仲間たちの中で、その男だけは一枚の写真を睨んでいた。

 彼の手にあったもの。それは、アルトアイゼン・リーゼの写真だった。

186名無しのも私だ:2008/04/09(水) 21:56:37 ID:i8X30pUI
 そしてある日の事。
「何事だ!?」
「敵襲です! ノイエDCの残党かと!」
「直ちに迎撃しろ!」
 極東基地に、ノイエDCの残党が襲撃した。狙いはここで整備している最新鋭の機体か。
 今の司令であるケネスの指示により、すぐに迎撃部隊が出される。量産型ヒュッケバインMark−2を中心とした、ベテラン部隊だ。
 その中には、前に英雄たちを散々罵った男たちもいた。
「よっしゃ! 久々のカモが来たぜ!」
「おい、俺の手柄横取りするんじゃねーぞ」
「てめぇこそな!」
 取らぬ狸の皮算用と言うか。舌なめずりする男たちの中、一人がある事に気がついた。
「……なあ? あいつ何処に行ったんだ?」
「あいつ?」
「知らねーなあ」
「トイレじゃねーの? ま、その間に手柄は俺のものってことで」
 すぐに話題を目の前の敵に戻す彼らを遠巻きに見ながら、話題を吹っかけた男は首をかしげた。
「本当に何処に行ったんだ……?」

 一人いなかった男。彼は量産型ヒュッケバインMark−2に乗っていなかった。いや、それどころかまだ機体にすら乗っていなかったのだ。
「あの機体さえあれば、俺は……!」
 男の目に映っていたのは、写真ではない本物のリーゼ。ちょうど機体整備のために、この基地に預けられていたのだ。
 アルトアイゼン・リーゼ。ATXチーム隊長、キョウスケ・ナンブの愛機。――英雄の、愛機。

「あの機体さえあれば、俺だって英雄になれる!」

 男の目にあったのは、執念と歪んだ信念があった。


 ――いつからあんなのになったんだ。
 男は酒の席でいつも言っていた。
 軍が地球を守る。それはいい。だが、その守る奴らはなんだ。
 規則を鼻で笑うかのように破りまくる兵士たち、水商売のような格好をする女たち、漫画のような考えしかしないガキ。
 これが軍なのか。こんな馬鹿馬鹿しい奴らの集まりが、軍だと言うのか。
 華やかな英名を盾にしたかのような奴らのやりたい放題振りを見聞きする度に、男はいつも怒りを隠せずにいた。
 あのような冗談みたいな連中も許せないが、何よりも許せないのはそんな連中を見ない振りしている上層部と、「英雄」と褒め称える世間だった。
 本物はあんなのじゃない。あんなのを「英雄」呼ばわりするなど、許したくない。
 怒りは歪んだ「英雄」志望となったものの、自分の部隊はいつまでも前線に回ることなく、いい機体も回されることはなかった。

 だが、今チャンスを得た。
 俺には、こいつがある。
 これさえあれば、俺は英雄になれる。

 男はコクピットに乗り込み、アルトアイゼン・リーゼを起動させた。

187名無しのも私だ:2008/04/09(水) 21:57:18 ID:i8X30pUI
 見知らぬ兵士が勝手にアルトアイゼン・リーゼを起動し、出撃してしまったのは、すぐにハガネやヒリュウに伝わった。
「艦長すまない。俺が目を離した隙に……」
『謝るのは後です、中尉。今は空いてる機体に!』
 モニターの向こうのレフィーナは、明らかに頭を抱えそうな顔になっていた。まさか別部隊の者に悩まされるとは、全然思っていなかったのだろう。
 キョウスケは急ぎ空いているリオンに乗り込み、起動させる。始めて乗る機体だが、後方支援に回れば援護ぐらいは出来るだろう。
『キョウスケ、行けるか?』
 起動した瞬間に、カイが通信を入れてきた。かっこつける気もないので、正直な感想を述べる。
「解りません。初めて乗る機体ですので」
『そうか。まあ、今回はエクセレンたちに任せておいたほうがいいだろう』
 言われなくてもそうするつもりだ。それよりも、キョウスケは一番気になっていた事を口にした。
「ところで、俺のリーゼに乗っていった奴が誰だか解りましたか?」
『ああ、俺の元部下だ。昔から英雄願望が強い奴だったが……』
「英雄、ですか……」
 何度も地球を救ってきたので、最近はよくそう呼ばれる。だが、その言葉に妬みや皮肉が混じっていることに気づかないほど、キョウスケは愚かではない。
 果たして、乗っていった男はそれに気づいているかどうか。
「急ぎ、救援に回らないといけませんね」
『ほう、何故だ?』
「俺の愛機は、俺でないと扱えません」
 キョウスケはにやりと笑って、一つ付け加えた。
「他の奴じゃ、せいぜい出来のいい棺桶だ」


「うわあああああああああああああ!!」
 リボルビング・バンカーを選択した瞬間、とんでもないGが男を襲った。
「スペックじゃ、こんなにひどくねーはずなのに!」
 雑誌にあったアルトアイゼン・リーゼのスペック表。それにある限り、リボルビング・バンカー程度でこんなにきつい事になることはないはずだった。
 それなのに、現実は自分の指一つ動かせそうにない。実は声を出すのも精一杯なのだ。
 だが敵はこっちの現状を知らないので、問答無用で攻撃を仕掛けてくる。
 レールガンが、こっちを捕らえた。
「ひっ!」
 何とかレバーを引いて回避行動を取るが、そのせいでせっかく仕掛けようとした攻撃が止まり、バランスが崩れてしまった。
 自分の視界がひっくり返る。大揺れするコクピットの中で、男は胃の中にあったものを全て吐いてしまった。
「ぐへ……」
 無様に転んだんだ、と理解する前に、立ち上がれないアルトアイゼン・リーゼに向かって攻撃が降り注ぐ。その量は、いつもの倍以上だ。
「な、何でだよ!?」
 裁くことすら忘れるほどの攻撃の嵐に、男の思考が混乱する。何故、自分だけがこんなに攻撃されるのか。
(な、仲間はどうしたんだよ……)
 普段なら軽口を叩きながらも助けてくれる仲間たち。だが、今回に限って誰も救援に来ない。やられたのか、と思うより早く、自分の視界が赤一色になった。
「く、くそっ! 何でだよ! 何でこうなるんだよぉぉ!!」
 男は叫ぶ。
 こんなはずじゃなかった。
 自分の想像していたのは、この機体で鮮やかに敵を殲滅し、凱旋する姿だった。英雄以上の腕を持つパイロットとして認識される、その姿のはずだった。
 少なくとも、こんな無様な姿を晒すはずではなかった。
「俺はただ、英雄になりたかっただけなのによぉぉぉ!!」
 男が叫んだ瞬間、アルトアイゼン・リーゼの限界は来た。

188名無しのも私だ:2008/04/09(水) 21:57:49 ID:i8X30pUI
「なるほど、お前が言ったのはそういう意味か」
「そうです」
 半壊したアルトアイゼン・リーゼから救出されたパイロットを見ながら、キョウスケは言った。
「俺の機体は、アクセルやアルフィミィを倒すためだけに特化された機体です。間違っても、単機で敵殲滅出来るようには頼んでいません。
 エクセレンやブリット、クスハたちのフォローがあって、始めて大部隊とやりあえるんです。奴はそれを知らなかった」
「英雄の機体、というだけで、スペックなどが一人歩きしたというわけか」
「ええ」
 男は左足骨折、全身打撲の重体だった。コクピットの中を見るに、嘔吐物もあったらしい。相当アルトアイゼン・リーゼに苦しめられたのだろう。
 キョウスケはふう、とため息をついて、話を続けた。
「『ATXチーム隊長の機体』、『ベーオウルフ』……。さまざまな異名もついてるおかげで、リーゼはかなり有名になっています。
 それはつまり、最重要ターゲットになりやすいということでもあります」
「中のパイロットも、異名に負けないくらいの腕を持たなければ意味がないということだな」
 カイがしみじみとうなずいた。
「有名になる、ということは、それだけの実力を持つということだ。普通ならそれが解って当然なんだが……」
「あれじゃ、理解できないとは思いますね」
 キョウスケとカイは、そろって後ろの方を向いた。
 そこには、「大勝利よ〜ん! 喜びのおっぱいちぇーっく♪」などと称して、マイやクスハの胸を揉みしだくエクセレンの姿があった。
 他にも「さーあ、帰ってバーンブレイド見直さないとな!」と喜ぶリュウセイや、「腹減った〜」とぼやくアラドもいる。
 あれでは、一般兵が変な誤解を抱いても仕方がない。
「ま、あいつらを名実共に立派な『英雄』に仕立て上げるのも、隊長の仕事だと思え」
「……善処します」
 キョウスケはそう言って、暴走するエクセレンを止めに行くのだった。


 結局、あの男は傷が完治してすぐに軍を退役した。
 英雄を夢見た男は、その意味を理解することが出来ずに、その英雄に打ちのめされたのだった。

 もう、誰も英雄の機体に勝手に乗ろうとする者はいない。

189名無しのも私だ:2008/04/09(水) 21:58:51 ID:i8X30pUI
以上。
勢いで書いてみただけなんで、細かい所に突っ込みどころがあると思います。
お目汚し失礼しました。

190名無しのも私だ:2008/04/25(金) 02:46:39 ID:BpvUBChw
>>185
いや、GJだと思います。

以下、OG萌えスレその229の455から連想しました。
でも、萌えじゃないので、ここに書きます。


新西暦20X年。

地球ヨーロッパ北部、とある小さな村。

荒涼として人口が少なく、寂しい村である。

荒れ果てているのは、度重なる戦乱のせいもあるだろうが、
おそらく、元々特筆すべき産業もあるわけではなく、
消えゆく運命の村だったのだろう。


そんな村のさらにはずれ、平屋の質素な家の前に、
村人が30人ほど、猟銃や農具などの武器を手にして、集まっている。

家の前には、男性が1人立っていて、村人達は男性に向かい叫んでいる。
「おまえたちがいるせいで、戦争が起きたんだ!」
「この村にはメリオルエッセに売るものはねえ!」

村人達は興奮している。
いつ、その手に持った武器を”使用”するかも知れない。

男性は、淡々と答えた
「彼女も人間だし、俺も人間だ。
 それに彼女は病気だ。今は動けないし、治療も必要だ」

「だまれ!怪物どもに病気などあるのか!?」
「人類の敵、メリオルエッセは出て行け!」

とのとき、男性の背後で、玄関の扉が「ぎぃぃ・・・」と鳴った。
「まて・・・」


男性も村人達も、みな扉を見た。

女性が、扉をもたれかかるようにして開け、
ふらふらと、人々の前に現れた。

足取りが、おぼつかない。
倒れそうになるところを、男性がはしりよって支えた。辛うじて直立を保った。
青白い顔色、血色のない肌、力が抜けた四肢。精気が無い。

それでも女性は、肩で呼吸しながら、村人たちを睨んだ

その痛々しさに、詰め掛けていた村人達も思わず目を伏せた


「ダメだ寝ていなくちゃ!歩いていい状態じゃないんだぞ!」

だが、女性は、男性の制止を受け入れなかった
そして、、今、発しうる最大の声量で叫んだ
「聞け・・・!ジョシュアは人間だ・・・・・・メリオルエッセは、私だ・・・!」

191密室劇:2008/04/30(水) 03:59:07 ID:OBqEbZd.
久々にちょっと書いてみたので投下。

「ヒューゴ、手が空いてるならちょっと…あら」
二人の愛機のコクピット内、自席シートを軽く後ろに倒し、ヒューゴは安らかな寝息を立てていた。
「待機中だからって、流石にまずいでしょ? もう」
言いながらアクアは、自分も何とか席についてハッチを閉める。
煩い人間に見つかるよりは、こうしてやり過ごす方がマシだ。
そして、なるべく音を立てぬよう、アクアは自分の仕事に取り掛かった。
作業自体は、一人で行っても一時間程で終わる予定だ。
もし万が一、彼が目覚めそうに無ければ、自分が起こせば良い。
(昨晩の緊急出動で随分頑張ってたもの、たまには良いわよね)
昨夜の撃墜王(スパロボ的な意味で)となった相棒へ優しい眼差しを送ってから、アクアは作業に没頭していった。

彼女の見積もりに狂いは無く、一時間後には確認を含めて全作業が終了した。
声を殺して軽く伸びをしてから、さて相棒の様子を見てみれば。
(あらら、まだ寝てる)
先程と寸分違わぬ姿勢で、相棒はぐっすり眠っていた。

192密室劇:2008/04/30(水) 03:59:47 ID:OBqEbZd.
半ば呆れつつ、作業の片付けをしてから、アクアはヒューゴの傍らに屈みこむ。
決して広くない操縦席内、顔を含めた上半身同士も、密着とはいかないがそれなりに近づく。
接近による胸の動悸を無視し、ヒューゴの様子を確認すれば、深く深く眠っているようで、表情も寝息も静か且つ安らかだ。
(でも、流石にそろそろ起こさないと…ちょっと可哀想だけど)
遠慮がちに、そっと体を揺さぶってみたが、目覚める気配は無い。
「やっぱりだめ…か。――ヒューゴ、そろそろ起きて、ヒューゴってば」
始めはゆさゆさ、中盤はぐらぐら、そして終いにはがくがくと音がしそうなほど、アクアは眠る相棒の肩を揺さぶって呼び掛けた。
その合間に、軽くぺちぺちと頬を叩いたりもした。
しかし、懸命な努力を5分以上したにもかかわらず、覚醒する気配は全く無い。
(これだけしても起きないなんて……『眠り姫』じゃないんだから)
表情ひとつ変えずに睡眠し続ける相棒を間近で見ながら、有名なおとぎ話をアクアは思い出した。
魔女による呪いのせいで、100年も眠り続けたお姫様を目覚めさせたのは……。

確かそう、運命の王子様の『 キ ス 』。

そこまで思い出した瞬間に、ヒューゴの顔――特に口元――が目に入り、心臓がぽんと飛び跳ねた。
(な、ななな、何考えてるのよ! って、私以外いないじゃないの、もう……)
赤くなったり一人ノリ突込みをしたりしつつも、何故かヒューゴから、いや彼の唇から目が離せない。
相手が呪われている訳でもないのに、『キス』なぞしても彼が目を覚ますはずも無いのだが、一度意識してしまうと、どうにも気になって止まらない。

193密室劇:2008/04/30(水) 04:00:23 ID:OBqEbZd.
コンビを組んで以来、様々なことがあったけれど、ずっと彼の側にいた。
けれども、こんな吐息がかかりかねない近さから見つめたことは無かった。
何せ今の自分たちは、『良き相棒同士』以外の、何者でもないのだから。
しかしなぜか、その件は誇るべきもののはずであるのに。
少しだけ、いやほんのほんの少しだけ、アクアの胸のずっとずっと奥の部分が、ちくりと痛んだ気がした。
その痛みを誤魔化すかのように、目を閉じて軽く頭を振る。
そして再び目を開ければ、彼の精悍且つ整った容貌がすぐそばにあった。
眠っているせいで、少々無防備さが目出つのはご愛嬌。
(だってそんなことして、本当に起きちゃったら…私、どうしたらいいの…?)
ぐるぐると渦巻く気持ちを落ち着けるためか、それともその思いがしっかりと形になるのが怖いせいか。
無意識のうちに、そっと彼女はヒューゴの髪を撫でていた。
(結構、見た目よりも柔らかいのね。触ってて気持ちいい)
が、はたと気づいて慌てて手を引っ込める。
(こ、こんなことして起きちゃったらまずいじゃない! もう!)
彼を起こすのが目的だったはずなので、それはそれで問題ないはずなのだが、アクアはそのことに気づいていない。
そして、ここまでしてもまだ起きる気配が無い彼の様子に、彼女はやっと心を決めた。
(だって失敗したとしても、ぐっすり眠ってるヒューゴは覚えていないんですもの。うん、大丈夫大丈夫)
もはや手段が目的になっているのだが、色々といっぱいいっぱいな彼女は全く気づいていない。
――細心の注意を払いながら、瞳を閉じて、そっと唇を彼の頬に近づける。
少し迷ったのだが、例え途中で気づかれても、まだ平気だろうと思ったからだ。
何が、と今の彼女に突っ込むのは禁止である。
(もう少し、もう少し……)
ゆっくり、ゆっくりと高鳴る胸。そして近づく距離。
目を閉じていたことと、精神的に緊張してたこともあり、アクアは状況の変化…いや、ヒューゴの表情の変化に全く気がついていなかった。

194密室劇:2008/04/30(水) 04:01:13 ID:OBqEbZd.
キスがまであとわずかのところで、アクアの額に何かが突き当たり、それ以上顔が近づかなくなった。
(――――?)
そっと目を開けてみると、彼女を押しとどめていたのは、寝ているはずの目の前の人物の指だった。
「なんだ、口じゃなくていいのか?」
「ひ…ひひひ、ヒューゴ?!」
何をしても起きなかったはずの彼が、意地悪く笑いながらアクアに問いかけてくる。
慌てて壁まで後ずさったアクアの口から、最大の疑問が投げかけられる。
「な、なんで…寝てたんじゃなかったの?!」
「ああ、ゆっくり寝かせてもらった、ありがとな。まあお前の作業が終わったあたりで、目は覚めてたんだが」
軽く欠伸をしてから、ヒューゴは改めて彼女の方を向く。
「え、だ、だって、私が何しても起きなかったじゃ…」
「目は覚めたんだがまだ眠くてな。寝たふりしてれば、起こすのを諦めてくれるかと思ったんだ。…しかし、ああくるとは完全に予想外だった」
「ね、寝たふり、だったの……」
自分がやろうとしていたことを思い出してしまい、羞恥心が一瞬で限界を振り切った。
体に力が入らず、ずるずるとアクアは床に座りこみかける。
しかしヒューゴがすかさず立ち上がり、何とか体勢を立ち直らせる。
「おっと、狭いんだから気をつけろって。―ところで、さっきの質問には答えてくれないのか?」
「え。質問って…」
相変わらず壁にはりつく彼女に、ヒューゴが笑いながら近づく。
「だ・か・ら。キスする場所は、口じゃなくていいのか?」

195密室劇:2008/04/30(水) 04:01:52 ID:OBqEbZd.
「え、あ、う…そ、その…ごめんなさい、ヒューゴ」
――真っ赤になって本気でうろたえている、目の前の『良き相棒』が、可笑しくも可愛いのは何故だろうか。
そんな想いを悟られぬよう、ヒューゴはあえて軽口をたたいた。
「そんなにうろたえなくてもいいだろ? ああ、キスしてくれたら許してもいいぞ」
「か……からかわないでよ……もう」
更に顔を赤くして、アクアはヒューゴを見つめた。
からかわれているのは百も承知なのだが、どうにもこの気持ちは止まらない。
「仕方ないな、だったら五千歩譲って、コーヒー一杯おごってくれたら許してもいい」
「…譲歩に全力で感謝させてもらうわ」
アクアが嘆息しつつハッチを開けようとしたところで、耳をつんざくような警報が鳴り響く。
非常事態を告げるアナウンスが次々に流れ、格納庫が俄かに忙しさを取り戻す。
「―コーヒーは戦闘の後で、だな。忘れるなよ」
「ええ。このまま出撃するわよ」
そしてこの二人も、一瞬で意識を切り替え、出撃のためのシークエンスを次々にこなしてゆく。
「システム、エンジン共にオールグリーン! いつでも行けるわよ、ヒューゴ!」
「ああ! ヒューゴ・メディオ、出るぞ!」

そして今回、警報が鳴ってから信じられない素早さで出撃したこともあり、昨晩に続いてヒューゴは撃墜王(無論スパロボ的な意味で)に輝いたという。
ただし、「どうやったらあんな速さで出撃できるのか」という問い合わせに対しては、二人揃って―特にアクアは真っ赤になって―口を濁していたらしい。


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