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すぱろぐ大戦BBS・SS投下スレ

36DoLL:2007/05/10(木) 22:56:22 ID:FePUrKcA
――一ヶ月後 アフリカ アースクレイドル
「あの……た、アクセル隊長」
「ん?ああ、エキドナ。どうかしたか?」
「コーヒーを淹れたのですが……宜しければ、隊長に」
「俺に?……ああ。有り難く貰おう」
「は、はい!暫しお待ちを」

「上手くやれている様だな。しかしあの女、あんな顔も出来るのか」
 余りまくっている有給を消費し、この世界でのシャドーミラーの活動拠点にやってきた先生。その目的は一月前に世話を焼いたアクセルの仕事現場を見学する事だった。
 そうして、物陰から覗いた光景はそこそこに満足のいく成果を示していた。アクセルには刺々しい部分は見えない。エキドナも多少ぎこちない部分が残っているが、上手く歩み寄れている。
「イングラム=プリスケン。貴方に会ってから、あの娘は変わったわ。一体、どんな魔法を使ったのかしら?」
「ここ最近、隊長がエキドナに付きっ切りで寂しいですたい。何をしたのか白状して欲しいですのぉ」
 先生と同じくその光景を盗み見ていたレモンとラミアが少し怖い表情をしながら、問い詰めて来る。
「俺が何をしたと言うのだ?……出来る訳が無いだろう」
「「・・・」」
 取り合うのも馬鹿らしいのでイングラムはすっ呆け様とした。だが、そんな事で女二人の追撃をかわす事は出来なかった。
「そんな顔で睨まないでくれ。ただ、何時もの様に得意のイカサマトークを炸裂させただけだ」
 どんより濁った鈍色の視線に冷や汗をかきつつ、先生はそれだけ言って再び視線をアクセル達へと向けた。

「少し薄めだけど、良い香りなんだな、これが」
「あ、有り難う御座います」
「礼を言うのはこっちだ。俺の為にありがとうな」
「あっ……隊長//////」

「ほう。あそこで頭を撫でるとはやるな」
 ……あんな光景を見れるとは、アフリカくんだりを決行したのも無駄ではなかったのかも知れないと先生は思った。
 爽やかな笑みと共にアクセルがエキドナのおかっぱ頭を撫でている。その優しげな手付きにエキドナは顔を紅潮させて身を捩っていた。
 とてつもなく嬉しそうなエキドナの変貌振りには驚かされる。少なくとも、過去のエキドナには絶対出来ない反応だった。
「アクセルは女の扱いは得手、なのか?」
「さあ?どうだったかしら」
 その旨をレモンに聞いてみると、彼女は面白く無さそうに呟いた。
「どうした、レモン=ブロウニング。眉間に皺が寄ってるぞ」
「複雑なのよ。あの娘が自分の意志を持ってくれたのは嬉しいけど……ね」
 成る程、とイングラムは納得した。成り行きの関係だと言っても、アクセルとレモンが付き合っているのは事実だ。
 それなのに自分の娘と言っても過言ではないエキドナと懇ろに成りつつあるアクセルに色々と想う所があるのは間違い無い。
 ひょっとしたら、裏でアクセルはエキドナを仕込んでいるのかも知れない。
「くやしい……!でも……エキドナに嫉妬しちゃう!」(ビクッビクッ)
「ラミア=ラヴレス。お前は再調整を受けろ」
 ……どれだけ、根拠の無い仮定を頭に浮かべても、真実を知るには今の距離では無理だった。
 取り合えず確かなのは、ラミアがおかしいのは言語機能だけでは無いと言う事だ。

「お前達……仕事をしろ」
 シャドーミラーの責任者であるヴィンデルは不機嫌そうに言葉を放ったが、レモンもラミアも全く聞いてはいなかった。
「ま、良いんじゃないのか?」
 何とも平和な会話で涙が出て来る。これが闘争の永続を願う軍隊の中身だと言うのだから、大層悪い冗談の様な気がしてくる先生はヴィンデルの肩にポンッ、と手を置いた。
「良くないわっ!この青ワカメ!」
 誰からも相手にされない緑ワカメを慰める青ワカメ。……どうやら、ワカメ同士の友情を育むのは難しいらしかった。

37名無しのも私だ:2007/05/10(木) 22:59:18 ID:FePUrKcA
投下終了。駄文失礼。
潤いのある生活を…潤いのある生活をこうへー様に!

今回のssは我らが神、こうへー様への供物であります!
出過ぎた真似をしてしまって申し訳ありませんでした!

38こうへー ◆TGSuPaUPbs:2007/05/12(土) 23:34:48 ID:KD/SUTlY
萌えスレで紹介されてたので駆けつけたらフォォォォ!!!
イングラム先生!!エッキドナ!!エッキドナ!!

くやしい……!でも萌えちゃう!(ベルグバウッ)

ただ1つ指摘させていただくのは神という言葉はID:FePUrKcA氏のように
新しいモノを作る人のことを指しているのだと思いますよ。

このSSを是非すぱろぐで紹介させてください!お願いします

39FePUrKc改め音ゲーマー:2007/05/13(日) 02:44:50 ID:MBvj55dM
こうへー様直々の返信、恐悦至極です!
しかし、私が思うにこうへー様こそが神であられると思います。
一年以上すぱろぐを存続し、守ってこられた御身の偉業は私に出来る事ではない故に。

すぱろぐで取り上げるとのお話ですが、是非お願い致します。
少なくとも13作までは作り続ける所存ですので、これからも宜しくお願い致します。

……本当はエロを書きたいんですけどね。需要があって、気が向けば。
それでは失礼します。

40こっちみんな係A:2007/05/21(月) 00:10:35 ID:ZWwwg/9s
長ったらしいのを書いてみた。三点リーダの多さはご愛嬌。
早朝から電波受信して推敲して
昼から仕事挟んでここまでかかってしまった。俺乙。

カズマとお色気担当2名の絡みです。
システム起動するかしないかのエロさのはず。いや、俺だけか。
影鏡にうpしときます

ttp://www3.uploader.jp/dl/kagekagami/kagekagami_uljp00118.doc.html

疲れた。

41こっちみんな係A:2007/05/22(火) 21:13:14 ID:ZWwwg/9s
なんか自分の付けたのより的確かつ(・∀・)イイ!!なタイトルがついてた罠。
こうへーさン、ありが㌧乙です

42再会:2007/05/25(金) 20:42:22 ID:Eci6/8U6
「いや〜アポ無しで悪いね。こっちも急に頼まれたからさ」
「このぐらい問題ないわ」
此処アシュアリー・クロイツェル社の一室で、一組の男女が会話している。
女性の方はカルヴィナ・クーランジュ、男性の方はアクセル・アルマー
アシュアリー・クロイツェル社はアル=ヴァン・ランクスとカルヴィナ・クーランジュが戦後に立ち上げた会社だ。
当時は風当たりが強かったが、最近になって落ち着いてきた。今、新機体のトライアル直前で他の会社に負けじと、出展機体を開発している。
開発している機体はフューリーの機体をベースにしているので、ウケは良くない。しかし、他の機体では出来ない柔軟な動きが、一部で評価されているのもまた事実。
アクセルはレモン・ブロウニング、ラミア・ラブレス等と共にジャンク屋を始めた。
しかし、Wナンバーを護衛役として派遣したり、運送業も行うなど、何でも屋みたいな状況になっている。アクセルが此処に来たのも、カルヴィナが注文した品を届けに来たからである。
「それで注文した品は?」
「それなら、格納庫に持って行かしたぜ。そろそろ連絡が来ると思うんだが…」
  プルルルルルルッ
タイミング良く鳴った電話を、カルヴィナが素早くを取った。
「ハイ、こちら副社長室…ええ、分かったわ。ところで、時間空いてる?空いてるなら、部屋まで来てちょうだい。見せたい物があるの…じゃあ、後で」
「しっかり届いてただろ」
仕事はちゃんとやってるんだぜ、と言いたげな表情してふんぞり返るアクセル。大人なのに子供っぽい仕草をする姿を見て苦笑する。
「…ところでさっきの奴、誰だ?随分親しげだったが…」
「それは………内緒」
肩透かしを食らった気分だ。最初はあんまり気にはしていないのだが、内緒と言われたら余計気になってしまう。
「教えてくれたっていいだろ。俺達の仲じゃないか」
「ふふふっ、少しは待つ事を覚えなさい。そう時間は掛からないから。それより商品の説明をお願いしたいわね」
「…釈然とはしないが、いいだろう」
アクセルは呼ばれた者が来るまで、商品の内容について話した。

43再会:2007/05/25(金) 20:43:41 ID:Eci6/8U6
20分は過ぎた頃だろうか。
コンコン
ノックの音が聞こえる。
「開いているわ」
簡素な応答をし、来客を向かい入れる。
「スイマセン、ミーティングが長引いてしまいまし……」
来客は詫びを入れながら、入室してきた所で口を開けたまま硬直した。
アクセルも随分待たした来客に、文句の一つでも言ってやろうとドアの方に目を向け口を開いたまま、固まった。
「アクセル!?」「ジョシュア!?」
同時に相手の名前を言いながら、再開の握手を交わす。
「アクセル何で此処に来ているんだ?」
「それはこっちの台詞だぜ、ジョシュア。南極に戻ったんじゃなかったのか」
「それは……」
「私が説明しましょう」
カルヴィナが某Iさんの真似をしながら、2人の仲裁した。
「何です、その言い回しは?」
冷静に突っ込む、ジョシュア
「何か見た事あるんだな、コレが?」
頭を捻って考える、アクセル
2人のリアクションを無視して、説明を始める。
「簡単に説明するわ。先ずはジョシュアの方から説明するわ。私たちが会社を立ち上げた後、アクセルも知っての通り人手不足で悩んだの。
 そこで、ジョシュアが自分で機体整備してた事を思い出して、雇ったって訳」
「本当、簡単に説明してくれるのだな。もう少し掘り下げていこうぜ、経緯とか」
「そんなの必要ないわ。結果が分かればいいでしょ?で、アクセルは……」
アクセルの言葉をスルーし、説明を続ける
「レモン・ブロウニングとラミア・ラブレス等と共にジャンク屋をやっているの。時折商品を頼んだり、OS作製を手伝ってもらっているの。ジョッシュにもいくつか渡したでしょ?あれらもアクセルに頼んだ物よ」
ジョシュアは、ふと疑問に思った事を聞いてみる。
「なら、何で教えてくれなかったんです。アクセルがジャンク屋をやっていた事」
「すぐ教えてあげても良かったんだけど…」
「俺が口止めしといたんだ。敵さんだった奴らと手を組んでるって知られたら、連邦に何言われるか分からん状況だしな。
 それに、ジョシュアの事は俺も知らなかったし、クーランジュは教えもくれんかった」
「聞かれなかったから、言わなかったのよ」
カルヴィナの対応に肩を竦めるアクセル。
「まぁ、今日会えたんだから、別にいいんだがな」
それもそうだ、とジョシュアも頷いた。


その後3人は時の許す限り談笑を続けた。

44再会:2007/05/25(金) 20:45:31 ID:Eci6/8U6
以上です。

何度か構成を練ってみたが、これ以上の発展が見込めず放置していたもんです。
オチも弱く、駄文となってしまいました。無念orz

45こっちみんn(ry:2007/05/28(月) 21:52:46 ID:ZWwwg/9s
懲りずにまた書いてしまった。
今日のはエロス分0です。
さて、日付変わったら仕事だよ…と

寝よう。

46こっちm(ry:2007/05/28(月) 21:56:00 ID:ZWwwg/9s
しまった コレ忘れてた

ttp://www3.uploader.jp/dl/kagekagami/kagekagami_uljp00126.txt.html

連投ゴメン だが謝らな(ぇ

47こっt(ry:2007/05/29(火) 22:24:37 ID:ZWwwg/9s
続き書いた。疲れたので短いです。

ttp://www3.uploader.jp/dl/kagekagami/kagekagami_uljp00128.txt.html

48こうへー ◆TGSuPaUPbs:2007/06/03(日) 21:39:17 ID:KD/SUTlY
>>45-47
返事遅れましたが、早速記事に反映しました。珍しいタイプの作品ありがとうございます

49名無しのも私だ:2007/07/16(月) 20:59:45 ID:mlH87fEY
ttp://www3.uploader.jp/dl/kagekagami/kagekagami_uljp00161.txt.html

OG2の頃から、お金にならない事はしないというミツコさんの言葉が引っかかっていました。
もしかしたらOGsの方でこれをぶっつぶすような設定があるかも知れないので、こんな妄想が出来るのもイマノウチ……

50名無しのも私だ:2007/07/28(土) 01:54:16 ID:10bj4Bo.
http://www3.uploader.jp/dl/kagekagami/kagekagami_uljp00168.txt.html

本スレで中断したキャラ解説です。
本スレに書いた方のはまとめにいれなくて結構ですのでよろしくお願いします。

51名無しのも私だ:2007/08/05(日) 01:42:45 ID:mlH87fEY
――新西暦179年
 久方ぶりに帰ってきた実家。
 自室に仕舞い込んだ宝物を取り出してくる。
 彼の名はカーク・ハミル。月面の作業用重機メーカーに所属するロボット工学者だ。今日は久しぶりの休暇に、生家へと戻っていた。
 居間で入れてきたコーヒーを片手に、その宝物――ロボットの図面を眺める。
 彼が幼少の頃、父は大勢の科学者を集めこのロボットの開発を行わせていた。
 年の離れた彼の兄は、父の唯一の汚点であり、資産の浪費だったと嘆いているが、そうではあるまいとカークは思っている。
 中世のルネッサンスにおいても、メディチ家のようなパトロンの存在があったからこそ、美術と科学の高度な発展が臨めたのだ。父がやりたかったのはそう言う事の筈だ。資金を投じる事でロボット工学の発展を促そうとしたのだろう。
 が、そんなカーク自身、幼い頃にその科学者達に接した結果として、今の道を歩んでいるので、余り中立的な立場とは言えまい。
「まぁ、カーク叔父様」
「こんな所でお勉強ですの?」
 たたたっと二人の愛らしい少女が走ってきた。それぞれに栗色と金色の髪が印象的だ。
栗色の髪の少女はマナミ・ハミル7歳で、もう一人はアイシャ・リッジモンド8歳だ。二人ともカークの姪であり、マナミが兄のハミル泊、アイシャが妹のリッジモンド子爵夫人の娘だ。
「まぁ、綺麗な絵。まるでお花みたいですわ」
 アイシャが最外部の、つまり外観の図面を見つつ言った。
「あら、違うわ。これは絵じゃなくて“せっけいず”って言うのよ」
「絵とせっけいず、何が違いますの?」
「え?それは……」
 アイシャの切り返しに困っているマナミ。頼るような視線に負けて、助け船を出してやる。
「設計図というモノは機械の内側を説明したものだ。例えばテレビの外側だけを作っても、そのテレビは映らない」
 居間に置かれたテレビをスッと指さす。
「その内側を知るためのものが、設計図だ」

52名無しのも私だ:2007/08/05(日) 01:43:15 ID:mlH87fEY
 ふーん、と軽く頷くアイシャ。
「でも、綺麗な機械ですわね。伯父様、これはどこにありますの?」
「これはまだ、作られては居ない機械だ。だからどこにも存在しない」
「そうなのですか……実物も見てみたかったのですけど……」
 しゅんと落ち込むアイシャ。
「大丈夫よ、アイシャ!」
 ぽんとマナミがアイシャの肩に手を置く。
「まだ無いのなら、作ればいいだけよ。作る為の設計図はここにあるわ!」
「でも、お金もかかるのでしょう?」
 伯爵家と子爵家の令嬢とは言っても、幼い二人に好きに出来る金額は限られている。というか本当に自由になるという点ではそこいらの子供にも劣っている。
「諦めたらいけないわ。私たちがお父様達のお仕事を手伝えるようになれば、きっと作れるだけのお金が貯まるわ。そうでしょう、叔父様」
 目を輝かせている姪に、端的な事実のみを告げる。
「そうだな。君たちが優秀で、兄さん達を助けられるほど頭が良くなれば、君たちの自由になる金額も比例して増えていくだろう」
 それには相当な時間が掛かるはずだとはあえて口には出さないで置く。
「ほら、カーク叔父様もこう言っているわ。だからこの機械……えーと、この機械の名前は?」
「スィームルグ、だ」
「スィームルグを作る為に、一所懸命お勉強しましょう!」
 アイシャの手を引いて、駆けだしていくマナミ。全く元気の良い事だ。
 姪二人の後ろ姿を見送り、カークは再びスィームルグの図面に目を移した。
 元々二人乗りの機体である事だし、あの二人には調度良いかも知れない。戦闘用の機体だが、今後の地球圏の情勢を考えれば、むしろあのマナミの気質ならば積極的に活用しようとする事だろう。
 今回、彼が帰宅したのはこれを手に入れる為だった。EOT利用を良しとしない駆動系開発主任の後押しをする為に、純地球産であるスィームルグの図面を見せようと言うのだ。
 さて、彼女はこれを気に入ってくれるだろうか……?
 心なしか、そんなカークの顔は先程の可愛らしい少女二人を相手にしているときよりも優しく見えた。

53名無しのも私だ:2007/08/05(日) 01:46:43 ID:mlH87fEY
カークが少し優しいのは仕様です。
この後マリオンさんとくっついたり離れたりしながら、ガリガリ削れていきます。
あと、マナミとアイシャが従姉妹なのは公式ですが、二人ともがカークの姪であるかは判りません。
というかマナミと血縁関係があるかすら判りませんが。
とりあえずレズ従姉妹萌え

54名無しのも私だ:2007/08/20(月) 06:25:41 ID:SeEomBmw
>>アラド等の年齢をはじめ、大分勘違いやスレネタを公式であるかのように
書いてあります。
あまり新規の方には見られないようにしてください。

55名無しのも私だ:2007/08/20(月) 06:26:38 ID:SeEomBmw
>>50へのレスです

56DMマイスター:2007/08/25(土) 21:13:16 ID:4gEHweLk
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■■■■ 流出アドレス入荷情報 ■■■■
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販売対象は到達確認とれたアドレスのみです

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57こっちみんな係A:2007/08/26(日) 15:02:14 ID:A9xqMdYw
久々にデムパが来たので書き上げてみました。
仕事で徹夜明けの頭で書いたので色々見苦しい点もあるかも。ご容赦ください。



「総員、第一種戦闘体制へ移行。戦闘員は速やかに配置について下さい。繰り返します、総員…」
急かしいサイレンと共にアナウンスが響き渡る。瞬く赤色灯が少し煩わしい。
慌ただしい気配が扉の向こうから伝わってくる。自分も急がねば。そう思いユウは一口分程残ったカップの中身を飲み干し、走り出す。

この艦…『クロガネ』はかの大乱の後、艦長、レーツェル・ファインシュメッカーの意向により、世界に未だ残る種々の陰謀の芽を刈り取るという、新たな戦いを始めていた。
そう、世は平和を謳歌しているようではあったが、その実それこそ薄氷の様に危ういものだと、この任に就いて改めて実感した。

大規模な政変に端を発した権力闘争。
その裏であいも変わらず不透明な資金、物資を地下で行き交すイスルギ重工。
そして未だその妄執を捨てきれず抵抗を続けるDC、NDC残党。

その関わる全てが如実に告げていた。
この仮の平和は、直に終わるのだと。
「ユウ!」
「む」

カーラに声をかけられ、しかめられた眉が幾分緩む。「ずいぶん不機嫌だね。どったの?」
この顔はいつもの『愚痴りたい顔』だ。心の中でにやけながらいつもの様に聞く事にする。
「…とっておきが一杯目で台なしにされたら、誰でもこうなる」
「あっはははは!それってきっとユウだけだよ!」
「…ふん」

あれから行動を共にして気付いたことがいくつか有る。
一つは以前より見せる表情が増えた…と言うより理解できるようになった事。
一つは、以外にもユウは自分の軽口を嫌っていない事だった。

「…そういうお前は何をしていたんだ」
「ダンスに使う曲選びと〜、後はこないだのレクチャーの復習かな?」
「ほう。…少しは飲めるようになっていると良いが」
「何よそれ…ふんだ、帰ったら見てなさいよ。びっくりするような美味しいのを煎れてやるんだから!」
「解ってると思うが、俺の採点は厳しいぞ」


「うん…だから―」
この艦で時間を共有していくうちに、二つ、気付いたことが有った。
一つは、カーラは以前思っていたよりもずっと繊細な心持ちをしていること。
「―終わったらさ、次のレクチャーしてよ。頑張るからさ」
声色も変わらず、表情も笑顔のまま。前を向いてそっと。
しかしその裏にある想いをユウは感じ取れるようになっていた。

―彼が死ぬかもしれない―
―自分が死ぬかもしれない―
―嫌だ嫌だ嫌だ、そんなの嫌だ!―

ともすれば噴き出しそうな、そんな負の感情を抑え、持ち前の陽気さで覆い隠して、彼女はそう言うのだ。
俺がしてやる事何だ?同情?そんなものなんかじゃない。
慰める?…駄目だ、それこそれこそ愚の骨頂だ。自分に出来るわけが無い、そもそもこいつが喜ぶはずも無かろう。
抱きしめる?……………………俺としたことが、何を非論理的な…。
そんなものでは無い、もっと簡単で、解りやすい―

「約束だよ、戻ったら必ず!」

―あぁ、そうだ、だから―

「…あぁ、良いだろう、その気があるなら付き合ってやる。ただし前回までの復習は済ませておけ。
二時間みっちりと鍛え上げてやる。」
「げっ…も、もうちょっと負かんない?」
「断る。これに関しては妥協するつもりは無い。」
「あっちゃ〜…薮蛇だったかぁ…」

―俺はこんな約束を交わすのだ―

以前ならただの口約束として流してしまっていたかもしれない。だが今は違う。気付いてしまったから。
あぁ、それこそが二つ目だ。俺は、こいつを―

58こっちみんな係A:2007/08/26(日) 15:04:30 ID:A9xqMdYw
続き


ふと気付くとカーラは後ろで立ち止まっていた。
「…どうした」
「約束ついでにさ、お願いがあるんだけど」
「何だ…言ってみろ」
言うなりニヤリと笑い―
「お守り代わりにさ、キス、ちょーだい」
「………………………は?」
「だから、キス。ちゅー。マウスツーマウス。」
「…付き合っていられん。先に行―」
「ダメ。行ったら泣くから」
「ぐっ…」
「さぁ、観念したした!」「…くっ…」(くそっキスだと?出撃前だというのにそんな事…そもそもお守りになるようなものなのか?非論理的な!
いやしかし待てここでしなければこいつの事だ俺は延々出撃も出来ずここに足止めされるに違いないそうだそのリスクを考えればキス等なんとたやすい事か!

そうだ挨拶みたいなものじゃないか簡単だ何より俺はこいつの事がいやいやそれはともかく一刻も早くハンガーに行かなければならないからするんだ!勘違いするな!)


(…みたいな事考えてんだろうな〜…誘いに乗りそうなのは予想外だったけど)
元々先のヘヴィな約束事の先返しの意趣も込めて言った冗談のつもりだったが。
(まぁそれならそれでっ…!)
「い、行くぞ…………んむむぅ…………〜〜〜〜ッ!」
正に唇が触れようとした刹那、いきなり組み付いてのフレンチキス!
これはかなりの予想外だったらしく目を白黒させてじたばたもがいてる。
がっちりホールドしてるから手遅れだけど。あはは、可愛い。
「〜〜〜〜〜〜〜〜ぷはっ。にひひ〜ご馳走様〜♪…ユウ?おーい。ユウキさーん」
「…」
「あらら…ちょっとやりすぎたかな…まぁ良いや。先行ってるね!」

(お守りも貰った、これで大丈夫、あたしは絶対負けない…!)

カーラが去ってから数秒、固まっていたユウはやおら顔を真っ赤にすると激しく頭を掻きむしって
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」と声にならない悲鳴を上げた。
(…くそ、くそっ!これで、"負けられない理由が出来てしまった"ではないか!)
暴れたい気持ちを抑えて深呼吸。忘れそうだったが、今は戦闘体制に入らなければならない。
『いつもの自分が』目覚める。…大丈夫だ、いける。
意を決してハンガーへ向かう。

「すまない!遅くなった!俺のラーズで出る。火は?」
「入れてあります。チェックはコクピット側を残すのみです」
「助かる…ラウル!出れるのか?」
「あぁ。フライヤーで出撃する。上は任せろ」
「あなたのレイヴンユニットは先の戦闘での損傷て残念ながら修理中ですが、一部関装可能な武装とパーツは入れ替えてあります。
以前のラーズより出力と運動性は上がっています。そのつもりで」
「ありがとう。…艦長!」
「待っていたぞ。目標は先の情報通りの擬装された打ち上げ基地。ただし、察知されたのか部隊が展開中だ」
「規模は?」
「AMリオン十数機、ランドタイプ不明、バレリオン10機、ガーリオン6機に…」
「…多いということですね」
「ああ。我々の目標はこれらに守られた打ち上げ準備中の輸送機の拿捕、もしくは破壊だ」
「骨の折れそうな任務ですね」
「…君とリルカーラ君で地上を掃射しつつルートの確保を。ラウル君は艦と共に航空戦力の排除。…友よ、君は直衛に回ってくれ。何か隠し玉があるやも知れん」
「了解」
「任せてよっ」
「わかりました」
「委細承知」
「目標地点は…ここだ。クロガネ到達後敵戦力を掃討もしくは無力化、輸送機を抑えて作戦終了とする…では各機、出撃を開始してくれ」
『了解』


「ねえ、ユウ…」
「…出撃前だ、手短にな」「…怒ってる?」
「…怒らなければならない理由が無い」
「え…」
「…」
「…そ、それって…」
「出るぞ」
「ちょ、ちょっと待ってよ!待てってば!こら〜」



―知らないことも沢山あるけど―

「ラーズアングリフ、カタパルト接続完了。…圧力上昇中。投下地点確認せよ」
―越えられないラインもまだまだ有るけど―

「ジェグナン機了解…確認した。コンディションオールグリーン。カウントダウン省略を要請」

―絆は確かに、そこに在った―
「カウントダウン省略許可。ユーハブコントロール。グッドラック」

―そう、俺達は、きっと―

「アイハブコントロール。ありがとう。…ユウキ・ジェグナン、ラーズアングリフ、出撃する!」

―恋を、している―


おわり

59こっちみんな係A:2007/08/26(日) 15:14:37 ID:A9xqMdYw
以上。
ホントは戦闘シーンも含めて書くはずでしたが
端末が携帯のみのため思ったより時間か
かってさまったためやむなくだんねん
ああねむい
もうだめ
しぬー


そのうち書くかも…

60<削除>:<削除>
<削除>

61名無しのも私だ:2007/09/04(火) 23:22:25 ID:ZB6I3qCM
ヴィンデル「ぬぅぅ、貴様らのような奴に…」
ギリアム「これが結果だ。覚悟しろ」
ヴィンデル「フ、フフフ、戦争に負けた者には死を…その運命に抗うつもりは無い」
ラミア「ヴィンデル様…我々には他の選択はなかったのでしょうか」
ヴィンデル「無い、これが全てだ。貴様は我々兵士から戦争を取ったら何が残ると思う」
ラミア「人間が残ります。この部隊の者がそう教えてくれました」
ブリット「ラミアさん…」
ヴィンデル「人間?…フフ、フフフ、フハハハハハハハハハハハ」
マサキ「何がおかしい!?」
ヴィンデル「人間が残るだと?ならば人間を捨てたもの、人間でさえ無い者はどうなのだ?」
マサキ「何!?」
ヴィンデル「我々はこの世界に身を墜とした時に人間を捨てたのだ。その我等から戦いを取ったところで悪鬼か修羅しか残らん」
アイビス「そんな簡単に人間を捨てれるものか!」
ヴィンデル「真の闘争を知らない者が何を言う!!貴様らは見たことがあるか!手足がもげ、死にそうな傷で死にきれず、呪詛と怨念を唱えながら死んでいく…それを何千何万とだ!そんな世界で人間を保てば死んでしまうのだ!」
アイビス「それは…」
ゼンガー「だが貴様らの存在がそのような存在を増やしているのも事実」
ヴィンデル「それは既に承知している。わかっていてもその世界を作らずにはいかんのだ」
ユウ「何故だ」
ヴィンデル「戦争が終わって上の連中は何をしたと思う?必要が無くなった我々を切り捨てたのだ!既に人でない我等に居場所はない、ならば作るしかない。闘争という世界を」
キョウスケ「貴様の行為は矛盾しているな。お前は何がしたい。兵を救おうとすればその存在は増えるのだぞ」
ヴィンデル「それも既に承知。しかし他に道はない…」
エクセレン(悲しい人生ね…。)
ヴィンデル「…グフ……そろそろ限界か。アクセル…レモン…そして兵たちよ、今私もそちらへ逝く。そして今度こそ成し遂げようぞ、我等の住まう闘争の世界を!!フハハハハハハ……」
ドッッッカァァァァン!!!!!
ギリアム(ヴィンデル…お前は……)

62名無しのも私だ:2007/10/02(火) 00:29:54 ID:inze9nt.
こちらお借りします
過ぎてしまいましたがカーラの誕生日記念SSです



アラド「カーラさん〜まだつかないんですか?」
カーラ「もう少しの辛抱だから」
テニア「お腹すいたー」
イング「腹減った〜」
ゼンガー「渇!!!!」

スパパパパーン

レーツェル「お前達、約束事を忘れたのか?」
アラド「少佐ぁ、痛いっす」
テニア「あーんと〜や〜助けて〜」
イング「痛い・・・」

カーラ、アラド、テニア、イング、ゼンガー、レーツェルそしてユウキを乗せた輸送機は或る場所に向かっていた。
戦いが収まったとはいえ、その傷跡がすぐに癒える訳でもない。身内が亡くなった者、帰る家が無くなってしまった者もいる。
もちろん、政府も全く無能というわけでもない、戦災にあった人々を救済するために、日夜活動を続けている。

レーツェル「再確認のために言っておこう・・・お前達は食べ過ぎた、統夜やゼオラが絶望するくらいにな」
アラド「あはは・・・それほどでも・・・」
レーツェル「褒めてはいない」
アラド「う・・・・」
レーツェル「そしてその代償は大きい、統夜は家を差し押さえられ、その身をシャナ姫に売り(嘘)」
テニア「ぎゃふん!」
レーツェル「ゼオラは卑猥な店へと身を売り(大嘘)」
アラド「うわぁぁぁぁぁぁゼオラァァァァ!!!!!!!」
イング「落ち着けオリジナル!!!ここは高度1万だぞ!!!パラシュートなしで飛び降りたら死ぬって!!」
レーツェル「もちろん嘘ではあるが、お前達に反省と今後の教訓のため・・・カーラの手伝いをしてもらう」
イング「て・・手伝い?」
カーラ「そう、手伝い・・・ああ、そろそろ着くよ・・」


戦災孤児を救いたい・・それは戦争で弟を失ったカーラの願いであった。
子供達に辛い思いをして欲しくない、弟のようになって欲しくない・・
その願いをレーツェルは聞き入れ、食料と輸送機の手配までしてくれた。
そして人手のほうも・・・強引ではあるが何とかなった。
輸送機はやがて、目的地へと高度を落としてゆく。


レーツェル「駆けよトロンベ達!!」
アラド「ひぃぃ!!!」
テニア「あぁん〜」
イング「うう・・・玉ねぎが目にしみる」

調理場で馬車馬のように働く大食い3人組。
カーラたちがやってきたのは戦災孤児保護センター。
かつての戦争で親や帰る家を失った子供達が集められている施設である。

アラド「それにしても・・すごい量・・・ジュル・」
ゼンガー「渇!!!!」

スパーン

アラド「イタイイタイ!!」
イング「オリジナル・・つまみ食いなんて考えないほうがいいみたい・・」
テニア「お腹すいたー・・生殺しだー!!」

3人組が大量の食材と食欲と戦っているころ・・・カーラとユウキは広場で子供達にダンスを教えていた。
子供たちも踊れるような軽いステップ、カーラのステップをまねて子供達もステップを踏み始める。

カーラ「そうそう、お上手よ〜ほらユウも頑張って」
子供「ユウキ先生がんばれ〜」
ユウキ「く・・こ・・こうか?」

子供達の声援を受けて必死にステップを踏むユウキ。やがて慣れてきたのか、ステップにリズムが生まれてきた。
リズムに合わせてステップを踏むユウキ、カーラも一緒に踊りだす。
やがて力尽きたのか、へなへなと座り込んでしまう。

カーラ「やるじゃないユウ!」
ユウキ「・・ふん・・くだらん」

不機嫌そうにそっぽ向くユウキ、そんなユウキの顔を覗き込む子供達。

子供「ユウキ先生怒ってるの?」
ユウキ「お・・怒ってなど・・いない・・」
子供「じゃあ一緒に踊ろう〜!」

子供達にせがまれ、ユウキは渋々立ち上がり。子供達の輪の中へ入ってゆく。
そしてBGMが流れ出す、陽気で楽しく、心が弾む音楽。
何時しか時を忘れ、カーラたちは楽しいひと時を送っていた。

63名無しのも私だ:2007/10/02(火) 00:31:27 ID:inze9nt.
続き







カーラ「ふう・・疲れた・・」
ユウキ「大丈夫か?」
カーラ「うん・・・でも、みんな嬉しそう」

子供達はレーツェルたちの作った料理を食べ、とても幸せな顔をしている。
その顔を見ていたカーラの顔は、まるで母親のような暖かさがあった。

カーラ「きてよかった・・」
ユウキ「お前らしいな・・」
カーラ「そう?」

食欲旺盛な子供達は次々とお変わりをする、その対応をするのは勿論大食い3人組。

子供「お兄ちゃんお代わり!!!」
子供「私も!!!」
子供「僕も!!」
??「オロカナヤツメー!!」

アラド「ああ〜どんどん無くなっていくー俺達のめしがー!」
イング「我慢するんだオリジナル・・・ジュル・・」
テニア「も・・もう力尽きそう・・」
ゼンガー「渇!!!」

すぱーん!!



そして食事が終わり・・別れの時間。
輸送機の周りに子供達が集まり、カーラやアラドたちにお礼を言う。

子供「またきてねー」
子供「練習一杯して待ってるから!」
子供「美味しいご飯をありがとう〜」

輸送機が離陸しても、子供達は手を振り続けていた。


ユウキ「疲れた・・・」
カーラ「どうだった?こういうのも悪くないでしょ」
ユウキ「・・・悪くは無いな・・」
カーラ「ユウったら、子供達に人気あったね」
ユウキ「ふん、お陰で茶の時間をすごせなかった・・・」
カーラ「いいじゃない・・・ありがとうユウ・・付き合って・・・ん?」

いつの間にかカーラに寄りかかりすやすやと寝息を立てているユウキ。
カーラは・・・そっとユウキの頬に口付けをする。

カーラ「本当にありがとう・・・ユウ」

64よっちゃん:2007/10/09(火) 00:07:23 ID:5oydu3fA
ちょっと関係ないかもしれませんが

クチコミだけで70万個以上売れた

超微粒子コラーゲンジェルの秘密だそうです。

私も使ってみましたが、かなり良かったです!!

65冷蔵庫で二人:2007/10/19(金) 01:06:05 ID:mlH87fEY
 薄暗闇の中、ユウキ・ジェグナンとリルカーラ・ボーグナインは肩を寄せ合っていた。
 恋人同士である二人で、二人きりなのにその表情はえらくけわしい。
「寒いね……」
「冷蔵庫だからな」
 ここはクロガネの冷蔵庫。
「今、何時?」
「……2時だ」
 二人は閉じこめられていた。

 クロガネは人員が少ない。
 元々、アイドネウス島での防衛戦に出撃したまま、総帥のビアン・ゾルダークは戦死。残党に合流する事もなく地球圏を彷徨い続け、時たまユウとカーラのような乗りかかった船の連中も加えたモノの、去る者は追わないエルザムの考えにより、L5戦役後に家族のある者は三々五々に散っていっていた。
 特に非戦闘員の定数割れは甚だしい。元々長期の航海のために集められた人員ではなかったのだから仕方ないが、今現在シェフは一人。しかも彼はユウやカーラと同じく途中参入組。彼が加入するまでは厨房はエルザムが主で、それ以外は非番の乗組員の持ち回りとなっていた。まぁ、現在でもそれは大して変わっておらず、シェフ以外の助手(要するに芋の皮むきだとか野菜を洗うだとか)はパイロットとかがやっていたりする。ちなみに悪を断つ剣ゼンガー・ゾンボルトもその例外ではない。
 ともかくそんな状況にあっては、艦内時間が夜の間厨房に来るのはほとんどいない。夜食を求める者も事前にシェフにサンドイッチやおにぎりなどの軽食系を頼んでいる。何せ来たとしても結局自分で作らなければならなくなるのだから。
 そんなわけで、こんな空っぽの厨房に来るのはわざわざ自分で鍋を持とうという酔狂な者達のみというわけだ。
 この日ユウは非番だった。
 茶菓子がつきかけていたのを思い出し、それを作ろうと厨房に行く途中カーラに会い、手伝ってくれるというので特に否も告げずにそのまま厨房へ。
 卵と牛乳を取りに冷蔵庫に入る際に入り口の押さえをカーラに任せていたのだが、蹴躓いて野菜の入った籠を転がしてしまい、その時に上がった声にカーラが反応して慌てて駆けつけて……
 気付いた時にはもう遅く、冷蔵庫はぴっちりと閉まっていた。
「……済まん」
 額に手を当てつつ呻くユウ。
「いや、ちゃんと支えを入れてなかったアタシにも問題有るし、大丈夫だって!5時には朝ご飯のために料理長さん来るだろうし!」
 かなり凹んでいるらしいユウに必死で慰めるカーラ。なんていう結構珍しいものが見れたりする。
 ちらり、と隣に座るカーラを見やると、小刻みに震えていた。その格好ではまぁ仕方有るまい。
「リルカ」
「え?」
 名前を呼ばれ、唐突にユウが近い。それに反応する間もなく、抱え上げられたカーラは引き寄せられ、あぐらをかいたユウの足の上に乗っていた。
「ひゃ……」
「こうすれば、寒さも少しはマシだろう」
 少しぶっきらぼうに言いつつ、ユウが後ろから抱きしめる。
「う……うん……」
 抱きしめてみて驚いた。ここまで冷たくなっているとは。もう少しはやくこうするべきだったかも知れない。
「ユウ、あったかいね」
「一般的に男性の方が体格も筋肉量も上だからな。熱量はある」
「ん……なんかアタシ火傷しちゃいそう……」
 結局、ユウを捜していたエルザムが中途半端に用意されていた厨房の様子から推測して発見するまでの1時間。二人はたっぷりと密着していた。

66名無しのも私だ:2007/10/19(金) 01:09:16 ID:mlH87fEY
暗闇で密着させてみました。気に入って頂けると幸いです。

67名無しのも私だ:2007/12/02(日) 22:18:15 ID:UTzOnnpw
リュウセイの実家が伊豆基地のすぐ近くで
ユキコママンが退院して働き出したって設定で一つ


リュウのおかげで体はすっかり良くなった。
退院して暫くは家の片付けなんかもしたけれど、
一人で家の中で過ごすのは退屈すぎて、
久しぶりにパートをしてみようと思った。
リュウは「オフクロ退院したてだろ!無茶するなよ!」
と、心配してくれたのだけど、
「家の中で一人で過ごすのは寂しいの。
 それに、体を壊す前はリュウを女手一つで育ててきたのよ?
 まだまだリュウには負けられないわ。」
と、説得したらしぶしぶ承諾してくれた。


新しい職場は伊豆基地近くの小高い丘の上。
年配のご夫婦が営むパン屋さん。
下っていく坂道の向こうには、リュウのいる伊豆基地と、きらきら輝く海が見える。
海から昇ってくる潮風がとても気持ちがいい。
仕事は主にレジうちなので、毎日綺麗な海を見れるのが嬉しい。
店主のご夫婦も良い人で、常連さんとも馴染みになった。
やっぱり、家の中で一人で過ごしているよりも
働いていたほうがずっと楽しいわ。


勤めだしてから暫くして、
リュウの御同僚のライディースさんがお昼を買いに来るようになった。
毎日、お昼に坂道を歩いてきてお昼にパンとパックのコーヒーを買っていく。
会計の度に二言三言言葉を交わす。
一度、「歩いてこれる距離なのに、リュウは顔を見せてくれないんですよ。」
と、愚痴をこぼしたら、
「母親の勤め先に顔を出すのが照れくさいんですよ。」
と言われ、そうかもしれないと思い、
「あの子もまだまだ子供ね。」と二人で笑った。
今日もそんな風に一日を過ごしていくと思ったのだけれど・・・



今日もお昼にライディースさんがお店に来た。
最近は、坂道を歩いて上ってくるのをつい目で追ってしまう。
いつものように彼が選んだパンを袋詰めして渡し、
「毎日うちのお昼じゃ飽きちゃうでしょう?」と聞いたら、
いつもは穏やかな笑みを絶やさない彼が、急に真面目な顔になって、

「弁当だけじゃないですから。」

とだけ言って、お金を払って出て行った。
私は、ぼぅっとしてしまって、坂道を下っていく後姿を見送ることしか出来なかった・・・



勤めからの帰り道で、今日のお昼のことを思い出す。
(あれはどういう意味だったのかしら?私の深読みのしすぎ?
 でもでもあんなに真剣な目でそんなことを言われたら・・・
 まってまって落ち着きなさいユキコ落ち着くのよ
 ライディースさんはリュウと一つしか違わないのよこんなオバさんなんかにそんなこと
 若くてあんなに御顔の整っていらっしゃるっていらっしゃる方だもの
 きっとお若い恋人の方がいらっしゃるわよそうよきっとそうよ!
 でもでもあの真剣な眼差しはetcetc・・・・・・・・・・・・・)

帰り道の間そんなことを考え続けて、頬が火照って仕方が無かった。
でも、あんなに若い方にもしそういう風に見られてるんだとしたら
ちょっとだけ、いやかなり、ううん、とっても・・・・・・

嬉しい。
私もまだまだ、女として捨てたものじゃないと思えたから

あんまり浮かれたので、思わずスキップなんてしてしまった。
誰も周りにいなかったけど、誰かに見られてたらと思うと恥ずかしい///
ライディースさんも困った方だわ。
年上の女の人を、立った一言でこんなにやきもきさせるなんて。
これは、明日のお昼にちょっぴり悪戯でお返しをしなくちゃ気が納まらないわ!
どんな悪戯をしようか考えると、とっても楽しい。
明日は大人の女の人の余裕をたっぷり見せてあげるんだから!

68名無しのも私だ:2007/12/02(日) 22:19:36 ID:UTzOnnpw
本スレと別のところに投下したら空気嫁といわれたのでこっちに
お目汚しスマソ

69名無しのも私だ:2007/12/02(日) 22:31:22 ID:rNhPwB8.
別に空気嫁とは言われてないだろ。
ただカップリング注意してた矢先にあれだからな…

70名無しのも私だ:2007/12/03(月) 07:59:05 ID:mlH87fEY
投下したスレの方では問題だったのかも知れないが、俺は好きだぜ?こういうの

71名無しのも私だ:2007/12/04(火) 01:48:04 ID:inze9nt.
GJだっぜ!

72名無しのも私だ:2007/12/17(月) 18:41:25 ID:3weENixE
先に言っておく、俺はか・な・り・反省している。ごめんなさい

ラウル・フィオナ・ミズホはエクサランスの実験中に
どこか荒廃した世界にに飛ばされてしまう
ラウル達は、そこで一台の情報端末を発展する。
端末「新西暦1999記録 セプタギンの日」
 地面からセプタギンの出現世界中に攻撃、そして映像が途切れる。
ラウル「な…なんだこれは…」
フィオナ「ここが、私たちの世界の未来だって言うの…」
ミズホ「たしかに、時流エンジンは時間移動が可能と
    言われてますけど…」
―間―
フィオナ「ねえ、変えちゃおうよ!!この未来を!!
     ねっ、ラウル・ミズホ」
ラウル「そうだな!!俺たちの目的は、人助けだ。
    こんなことになるのを知って放って置くなんてできない!!」
ミズホ「そうですね!!やりましょう!!」
フィオナ「ラージがいたら、未来への干渉は…なんとか、
     って言いそうだけどね」
ラウル「未来が無くなったら技術の進歩も止まっちまう
     だから、あいつも文句は無いはずさ」
ミズホ「行きましょう!!まずは変える方法を探さないと」

星はいつか夢を見た―ラウルトリガー―

73名無しのも私だ:2007/12/23(日) 00:12:04 ID:e9.XsT9c
銀河を賭けた最終決戦を切り抜けたハガネ・ヒリュウ隊

戦いには勝った
だが、地球は遥か数万光年の彼方にある
まだ彼らの戦いは終わってはいないのだ

「リュウ、まだ寝ないのか?」
「おう、あとちょっとだ。マイは先に寝てろよ」
「そうか・・・お休み」
「ああ、お休み」

マイが自室に戻ってから数分、
リュウセイは、一心不乱に手帳に何かを書き込んでいる
普段はデスクワークに何の興味も示さない彼が、ガラにもない

一通り書き終わったのか、フウとため息をつく
その時、ドアが開いた
「アヤか?・・・艦長!?俺、何か報告書ミスりましたか!?」

珍しい
ここは若いパイロット達の談話室
ヴィレッタですら用が無ければ来ない
増してやのテツヤ・オノデラ艦長が来ることなど
皆無と言っていい

「いや、寄って見ただけだ。何を書いていたんだ?」
「ああ、これですか?給料の計算ですよ」
「ほう・・・?」
「船外活動手当、特別船外活動手当、危険活動手当、特務手当
 あと本給とボーナスで、源泉徴収抜きで出航から今日まで
 しめて3037万5千800円になります!」
「さすがパイロットは高給取りだな
 何か買う予定でもあるのか?」
「いえ・・・おふくろが体が弱くて今入院してるんですが
 昔、病気を押してまで働いて俺を養ってくれたんです
 だからこの金はおふくろの入院費に当てます
 それに、戦死すれば遺族年金が出て、生活費くらいは・・・」
「リュウセイ!?」
「ハハハ、冗談ですよ。おふくろを1人残して死ねませんて」
「驚かせるな。まあ良い息子を持ってお母さんも幸せだな」

74名無しのも私だ:2007/12/23(日) 00:15:08 ID:e9.XsT9c
「・・・艦長、気遣ってもらってありがたいんですけど
 俺もマイもアヤも覚悟も納得もできてます
 なんていうか、
 もうただの民間人じゃなくて、ハガネの乗組員なんです」
「そうか・・・いや、それを聞いて安心した
 まだまだバンプレイオスには働いてもらうことになる
 しっかり休んでくれ」
「はい。それじゃあ、失礼します」

自室へと歩く少年、いや青年の背中を見てテツヤは思う

(母親のため・・・ばかりでは無いだろう
 元民間人の中でも、もっとも危険で重要な任務をこなしてきた
 その一人がリュウセイだ
 戦いに明け暮れ、人間ではなく念動力者として
 扱われがちになっている
 普通の人間でなくなっていく自分を恐れているのだろう

 今は、給料どころか地球に帰れるかすら分からないのだ
 正常な自分を維持するために、あての無い金額を計算しているのか・・・)

(いや!!
 あのリュウセイがそんな高等な物の考え方をする男か!?
 
 彼は、本気で地球に帰れると思っている
 本気で母親の入院費を支払おうとしているんだ
 ふふふ、だからあの時、
 ただ一人絶望せずに戦えたのかも知れないな)



元は単なる当てはめ(「ジパング」(かわぐちかいじ)の13巻)

しかし、書いていて
全然萌えない&キャラも本編と違う&元ネタとも違うのに気付き
わけが分からなくなってきました

お目汚し失礼しました
でも、「ジパング」はいい作品です(スパロボと全く違う意味で)

75こうへー ◆TGSuPaUPbs:2007/12/26(水) 01:22:37 ID:d0M1O4Bw
ネタバレスレを最下層に下げる為に一度ageます

76名無しのも私だ:2008/01/05(土) 23:03:08 ID:VzhS.X2g
◆あらすじ◆
アイビスが元気がない
それについてイルムが発言する
イルムの発言に対する、周囲の反応(制裁)

多種多様な発言が、次々と流れるように発せられる光景をご想像ください

イルム「ま、アイビスが男だったら簡単なんだがな」
イルイ「男だったらどうするの?」

イルム「簡単さ・・・」
リン「子供にそんな事を教えるな!」
イルムの脳天に、鋭い手刀が直撃する

同時に追撃が加えられる

「蹴り砕いてやる!」
「そ、そんな事言うなー!」
「チェストォー!」
「T-Linkナッコゥ!」
「音速を超えて切り込む」
「でぃぃぃぃぃぃや!」
「打ち抜く!」
「リュウセイ君直伝、ナックルパーンチ!」
「さくさく、さくさく・・・・・・」
「きゅうきょくぅ!」
「ぶれーどとんふぁー」
(以下 略)

イルムの体が見えない。包囲され、全身に打撃が加えられているからである。
全員の打撃部位が全く重複しないことは驚嘆するべきである

77名無しのも私だ:2008/01/05(土) 23:03:38 ID:VzhS.X2g
「イルイ、見ちゃダメよ」
「ミヒロちゃんもまだ早いからね」
「プレシア、お前もだ」

「・・・・・・最っ低ね」
「下品だ」
「良識ある人間の発言とは思えん」

「ひどい・・・」
「乙女心を何だと思ってるんですか!」

「気持ち悪い」
「地獄へ落ちろ」

「ゼオラ、イルムは何を言おうとしていたんだ?」
「し、知らないわよ」

「ショウコ・・・」
「知らない!」
「てめえ、人の妹にになんて事を聞きやがる!」

「ジョシュア」
「・・・あとでね」

「みんな若いわね」
「フ・・・」

その時、無数の鉄拳の内部からうめき声が
イルム「お、俺はまだ何も言って・・・」
リン「言わなくても分かる」

「おまえたち、任務に支障がない程度にしておけよ」

リン「さあ、帰るぞ」

皆で見送った、引きずられていくイルムを

78名無しのも私だ:2008/01/06(日) 23:23:10 ID:buqT2rFk
これは、J世界のifについて書いたものであり
実際の展開とは異なる場面もあります。むしろ、うろおぼえ。
誰か同じようなことをやっていたら二番煎じでごめん。

―統夜が三人娘と出会う1日前
シャナ「皆さん始めまして、シャナ=ミアです。」
その子は、今日このクラスに転校してきた
統夜「…!!」
転校生に対してあまり興味が無かったが、一目見て驚いた。
なぜなら、統夜はその子を知っていた。いや、実際の記憶にはない
統夜が最近見る不思議な夢に出てくる少女にそっくりなのだ。
統夜「…いや、そんなはずはない。」
統夜はその思いを打ち消すともう一度少女を見た…と、そのとき
目が合った。
シャナ「クスッ」
そして、彼女は笑いかけてきた。明らかに統夜に向けて、
統夜は、そのまま目をそらすことができなかった。
その後何事も無く放課後になり、帰宅中の統夜に
シャナ「あの…統夜さん…」
統夜「君は、ミアさん?だったかな、ところで何で俺の名前を??」
シャナ「シャナでいいです。覚えていませんか?私は、子供のころ…」
そう言われて思い返す、両親がまだ生きていた頃を、
ずいぶんと長く忘れていた…父はアーシェリークロイツ社に勤めていて
そこで、フランツおじさんにかわいがってもらった。
そのころ、父の知り合いの子供が…
シャナ「統夜さん??」
そう呼ばれて意識を現実に戻す。
統夜「えっ!!ああごめん、よく覚えてないみたいなんだ。」
シャナ「そうですか…」
とっさにそう答えてしまい、シャナは残念そうな顔をする。
統夜「あ…ごめん!!もしかしたら思い出せるかもしれないから
   一晩よく考えてみるよ、じゃあねシャナ!!」
シャナ「あっ…統夜…ご機嫌…よう」
何かを伝えたげなシャナから、逃げるように帰宅した

統夜「何かを思い出せそうなんだ…何かを」

79名無しのも私だ:2008/01/06(日) 23:24:06 ID:buqT2rFk
―翌日
シャナ「はぁ…」
シャナはため息をついた幼馴染である彼は自分のことを忘れていたからではない
彼女がここに来た目的は、統夜を保護するためだ。
シャナ「何とかして、彼と話をしないと…」
シャナは、ここに来るまでのことを思い出した。
グ=ランドン「姫!!地球人達と接触なさるというのですか!?」
シャナ「その通りです。グ=ランドン・ゴーツ総代騎士」
グ=ランドン「危険です!!奴らは争いを望む野蛮な種ですぞ!!姫の身に何か…」
シャナ「わかっています。ですが、騎士団の方向性が人類を排除することである
    ならば、フューリーの女王として実際に視察して真相をこの目で
確かめておく義務があります。」
グ=ランドン「…ならば騎士団から人員をお貸ししましょう。」
シャナ「お心づかいは感謝しますが、今回視察するのは、比較的治安のいい
日本という都市の学校です、近衛のものだけでも十分でしょう。
    それに…私に何かあったほうがそちらとしても都合がいいのでは?」
グ=ランドン「姫様!!!冗談が過ぎますぞ!!!
…分かりました、お気をつけて…。」
こうして、父の代より王家に尽くしてきたものだけを連れ地球に下りてきた
彼らが、統夜の存在を知ればきっと排除するだろう。未来の障害として、
そしてフューリーへの裏切りとして、
シャナ「だから…私は!!」
自分の声に気づき、シャナは考えるのをやめる。
統夜「おはよう、シャナ。何か考え事?」
背後から声をかけられ振り向くとそこに笑顔の統夜がいた。
シャナ「統夜さん、おはようございます。」
統夜「俺のことも統夜でいいよ。それよりさ、思い出せたんだ、君のこと。」
シャナ「本当ですか!?」
統夜「君たしか父さんがいた会社の重役の子供だろ?二人でよく遊んだよな。」
そうだった…私は、あの時そういう立場で彼と会ったのだ。
シャナ「ええ、そうです。思い出してくれてよかった。」
ほっと胸をなでおろす、だが本当に知ってもらわねばならないのは…
統夜「うん、俺も思い出せてよかったよ。あの時はさ…」
統夜の思い出話が始まる。今は話すのはよそう、もっと時間のあるときに、
彼がすべてを受け入れることができるように…
そう思い、シャナは統夜の話に耳を傾ける。

80名無しのも私だ:2008/01/06(日) 23:25:16 ID:buqT2rFk
―校門近く
甲児「やベー遅刻しちまうぜ!!」
ボス「まてよ〜甲児ぃ」
統夜の目の前をバイクが通り過ぎる。それに驚いたシャナがよろめく。
シャナ「きゃあ!!」
統夜「あ、危ないシャナ!!」
とっさに、シャナを抱きとめる。
シャナ「ありがとう統夜、助かりました…」
顔が近い…変な雰囲気をごまかすため統夜は詳細を口走る。
統夜「危ないなぁ、あいつらは近くの光子力研究所の兜甲児って言って
   最近出没する機械獣とマジンガーZで戦ってるやばい奴なんだ。」
シャナ「そうですか、まだ若いのに大変ですね。」
シャナのピントのずれた発言に少しあきれながら思い直す、この子の親は
起動兵器の生産プラントにいた、だからそういう考えに至ったんだろう。
だけど聞くところによるとあの会社は…もう存在しない、木星蜥蜴の
襲撃を受けたと言う、あの会社に関する話をするのはやめよう。
統夜「さあ、シャナ教室に行こうか」
シャナ「ええ、統夜」
そのとき、変な音が鳴り出した。バイクじゃない、音は空から来ている。
統夜「あれは…ロボット?軍の機動兵器か!?何でこんなところに?」
シャナ「…」
シャナが無言でそれを見つめている。きっと驚いているのだろう
そして、その直後その近くに別のロボットが出現する。
戦闘になれば、いずれ木星蜥蜴の集団が集まってくる。
統夜「くそっ、こんなところで戦闘かよ!!非難しようシャナ!!」
だが、シャナは動かないでじっとそれを見つめたままだ
そうこうしているうちに木星蜥蜴が集まってきた。
すると後から来たロボット達は、その場から撤退していった。
だがこうなってしまった以上、木星蜥蜴はこの町を攻撃するだろう。
統夜「兜の奴に期待するしかないのか…」
その兜は今学校を出たばかり…やっぱり危険だ、シャナを非難させよう。
そう考えシャナの方に手をさしのべようとすると、
シャナ「来ます!!」
そういうとそれは、こちらに向かってきて着地しようとする。
だがその前に、木星蜥蜴の攻撃を受けて転倒する。
統夜「はっ!!先生!!!」
その、転倒に巻き込まれそうになった教員を発見し間一髪で助けると、
ちょうどそれの中から人が出てくる。
統夜「女の子?」
カティア「お願いします!!あの機体に乗ってください!!」

81名無しのも私だ:2008/01/06(日) 23:26:14 ID:buqT2rFk
―そのころシャナサイド
私はそれを知っている…むしろそれを作り出した側に居る。
だけど、なぜそれがここに?後に出現した機体は、准騎士機とその配下
すぐに撤退したことを考えると私が狙いではないのだろう。
ならば、それに乗っているのは?
シャナ「統夜?」
ふと、統夜が居ないことに気付き辺りを見回すと、それの乗員であろう
者達が、統夜に何かを言っていた。シャナはある覚悟を決めそこに向かう。
テニア「おねがいだよ!!あんたが乗ってくれないと…」
統夜「だから、いやだって言ってるだろ!!俺はただの高校生だぞ!!」
メルア「お願いします!!あなたならできるんです!!」
統夜に話しかけている相手、面識はないが彼女たちを知っている
あの実験に利用された子達だ。おそらく、エ=セルダ様が…
シャナ「その役目、私に任せてもらえないでしょうか?」
私は、突然そう告げた。
統夜「助かったよシャナって、えぇっ!!何を言い出すんだ!!」
テニア「あんたは、黙ってて!!これが何か分かってんの?」
シャナ「存じております、これの事も、あなた方の事も」
三人の表情が一変する。
メルア「そんな…わたしたち、逃げられないの?」
シャナ「私は、あなた方の敵ではありません。メルアさん
エ=セルダ様の側の者です」
カティア「その言葉を、信じろと…?」
シャナ「信用できないならサイトロンに聞いてください。カティァさん」
そして、三人はそれに戻っていった。私が信用できないのも無理はない
彼女たちはそれだけの目にあったのだから…。
統夜「シャナ、どういうことなんだ!!父さんの側の人間って??」
シャナは手短に全体像を話した。自分のこと,自分たち種族のこと,
彼女たちのこと,そして、統夜のことを…
テニア「分かったよ、信じる。さあ行って、カティアちゃんが待ってる。」
シャナ「ありがとう、テニアさん…私にはこうするべき責任があります
だから、その子達をたのみますね…統夜さん。」
そして、シャナはそれに向かって歩いていった。
シャナ「命を賭してでも、これが私の償いだから…」

82名無しのも私だ:2008/01/06(日) 23:27:20 ID:buqT2rFk
―統夜サイド
統夜「いったい何なんだ。」
父さんが生きていて異星人で地球の生命を創り出した奴らの幹部で、
今回のことは父さんがあの子達を助けるために組織を裏切り、
シャナがその女王で俺を守るためにここに来た。
統夜「まるで、面白みの無い漫画じゃないか!?」
テニア「残念だけど、これが現実だよ。」
そう言われてその子たちのほうに向き直る。
メルア「巻き込んでしまってごめんなさい…でもわたしたちにはこうするしか。」
おそらく、彼女たちはこの事態のことを言っているのだろう。だが、確かに
どちらも現実である。シャナが戦おうとしていて、俺には戦う力がある。
統夜「ちょっと、ここで待ってて。」
俺は、急いでシャナのほうに走っていった。
統夜「シャナ!!ちょっと待ってくれ!!」
シャナ「統夜、心配しないでください。あなたはあの子たちと避難を…」
統夜「違うよ、シャナ、君の役目を俺に任せてくれ。」
シャナ「でも…たとえ父親が騎士であっても戦う必要はないのですよ!?」
統夜「俺は今まで何も知らなかった。だから、少しでも君の役にたちたい。
それに、変な意味じゃなくて…君が俺の大切な人だから守りたいんだ。」
シャナ「えっ…と、統夜!?いや、そうですよね?変な意味ではなくですよね。」
シャナの反応に、変な空気が漂い始める。そのとき、
カティア「あの…提案ですが、お二人で操縦してはいかがでしょうか?」
突然、二人に声がかけられる。
シャナ「えっと、どうします統夜?」
統夜「やれって言うなら、やってやるさ。君と共にならなおさらね。」
俺の決意は揺るがない。きっと、こうするべきだと思うから。
カティア「それでは、邪魔者は退散しますね。」
カティアは、そそくさと二人の下に行った。実は顔を真っ赤にして…
統夜「よし!!行こう、シャナ!!」
シャナ「ええ、サポートは任せてください。」
統夜「そうだ!?シャナこの機体はなんていうんだ?」
シャナ「たしか、この機体の名は…」



83ラドクリフ教授の日記帳 ◆2OPVuXHphE:2008/01/09(水) 23:00:23 ID:mlH87fEY
宇宙歴95年7月25日
遺跡内部で同一のマシン2基が発見された。動力機関であることが推測されるが、動作方法は不明。
レース・アルカーナと名付ける。
 
宇宙歴96年1月7日
遺跡にてマシンが発見された。
用途、作動方法等は一切不明。とりあえずシュンパティアと名付けておく
 
2月19日
発掘機器の保管庫に忍び込んでいたジョッシュが、興味深いことを言っていた。
レース・アルカーナとシュンパティアのそれぞれ一面が似通っていると言うのだ。
指し示された部分は、一見しただけでは似ても似つかない。
しかし、接続端子と思われる部分は鏡写しで、つまり直接つなぎ合わせることが前提とされているかのようだった。
とりあえず今日中に準備を行い、明日には実験を行う。
 
2月20日
やった、成功した。
ほんの僅かだが、確かにレース・アルカーナでエネルギーが発生したのだ。
シュンパティアがレース・アルカーナの機動キーであることが実証された。
あとはいかにして、シュンパティアを制御するかがわかればいいだけだ。
 
2月28日
二度もジョッシュに救われた。
シュンパティアを動かす鍵を求めて1週間。
完全に行き詰まっていた私達の目の前で、レース・アルカーナが突如として膨大なエネルギーを吐き出し始めたのだ。
切っ掛けはジョッシュだった。
あの子によると、実験終了後の片づけの最中、いつまでたっても動かないシュンパティアとレース・アルカーナに困っていた私達のために『お願い』をしたのだという。
もしやと思い、もう一度ジョッシュに『お願い』をしてもらったところ、確かにシュンパティアが作動し、それに反応してレース・アルカーナも起動していた。
信じられないことだが、シュンパティアは人の意思に反応するらしい。
レース・アルカーナとの接続時に発生した微弱なエネルギーは、おそらくはあの場にいた人間の意思に反応しての事だったのだろう。
接続した時以降、起動時に何が起こるか判らずに危険だからと基本的に隔離されていた箇所でアームによる遠隔操作を行っていたため、ほとんど人は触れていなかった。
だが、そもそもの接続時にはかなりの人間が直に接触していたにも関わらず、起動しなかったのはどういう訳か。
まだ研究の予知は大きい。
 
3月11日
リ・テクの全職員を対象に、再度シュンパティア、レース・アルカーナの起動実験を行ってみたところ、シュンパティアに適合する人間としない人間が居ることがわかった。
その内の何名かは、最初の接続実験にも立ち会っていた。おそらくは彼らが起動の引き金となっていたのだろう。
だが、結局は誰もジョッシュほどの出力を出すことは出来ていなかった。
何が理由かは判らないが、ジョッシュはシュンパティアに対しての適性が有るらしい。
実に興味深い。
 
他の研究員の薦めで、ジョッシュに手助けをしたご褒美に何が欲しいか尋ねてはどうかと提案され、聞いてみたところ、弟か妹が欲しい、と言われた。
 
ジョアンナにも長い間会っていない。
ジョッシュも、子供一人では寂しいのだろうか。

84ラドクリフ教授の日記帳 ◆2OPVuXHphE:2008/01/09(水) 23:01:03 ID:mlH87fEY
3月12日
ジョッシュとの会話を聞いていた女性職員に、アドバイスをもらった。
早速ジョッシュの弟、あるいは妹となる養子を探すために、今度の定期便にて南極を出ることにする。
 
4月29日
ジオンと統合軍の戦争から僅かな時間しか流れていなかったというのも理由の一つだろう。
どこの孤児院も子供で溢れていた。
その中で私が選び出したのは、双子の女の子だった。
ジョッシュの一つ年下で一卵性の双生児だという二人は、なるほどそっくりだったが、クリスという大人しい子に、リアナという活発な子と、性格は好対照であった。
早速ジョッシュに引き合わせてみたところ、ジョッシュも二人を気に入ったらしい。
久しぶりに父親らしいことをしてやれた。
 
私が居ない間に、シュンパティアの別の基が発見されたとのことだ。
明日からさっそく、もう一基のレース・アルカーナとの接続実験に入る。
 
4月30日
今日は二つの発見があった。
一つは、シュンパティアは必ずしもジョッシュに適合するわけではないということだ。
先日発見されたシュンパティアと組み合わせたレース・アルカーナは、ジョッシュに頼んでみても全く動かなかったのだ。
もしやと思い、慌てて先のシュンパティアを試させてみたところ、こちらは何の問題もなく動いてくれた。
では、このもう一基のシュンパティアはまた適合者から探さなければならないのかと、少々憂鬱になっていた私の前で、今度はクリスとリアナによって、レース・アルカーナが動き出していた。
なんという偶然か、或いは必然なのか。
しかも、二人で動かすことによる物か、その出力はジョッシュの動かすシュンパティアとレース・アルカーナよりも遙かに勝っていた。
明日は、レース・アルカーナの最高出力を調べてみよう。
 
5月4日
ここ数日、日記を書ける状況ではなかった。
1日の実験が原因だ。
クリスとリアナによって、膨大なエネルギーを放出したレース・アルカーナはそのまま暴走。
リアナはその身を挺してクリスを庇い即死。
クリスも先程まで昏睡状態が続いていた。
他の研究員も死者こそ出なかったものの、大半が怪我を負って、私も軽傷だ。
しかし、何の因果なのか、爆発四散したレース・アルカーナはともかくシュンパティアは僅かに伝送系に負荷が掛かっただけで無事であった。
 
シュンパティア、レース・アルカーナは封印処分として、二度とジョッシュ達に触れることが無いようにしなければならない。
 
10月20日
おかしな事になっている。
最近ようやく起きあがれるようになったクリスだが、あれは本当にクリスなのか?
時たま、まるでリアナのような言動をとる。
 
11月1日
今日、はっきりとクリスが告げた。
自分の中にはリアナが居るのだと。
シュンパティアが、精神に作用する物だとする仮説が正しいのならば、崩壊するリアナの肉体からクリスの体にその精神だけが移ったとは考えられまいか?
 
11月2日
クリスを改名することにした。
リアナの名前と掛け合わせ、クリアーナという名前にしようと思う。
あの体に二人の精神が同居しているのなら、こうするのがより自然だ。
呼び名も、名字であるリムスカヤから取ってリムと改めるようにジョッシュにも言い含めるつもりだ。
そちらの方がより平等といえるだろう。

85ラドクリフ教授の日記帳 ◆2OPVuXHphE:2008/01/09(水) 23:01:34 ID:mlH87fEY
宇宙歴101年12月16日
面白い新人が入ってきた。
名前はクリフォード・ガイギャクス。
北欧の大学を出た、リ・テクとしては珍しいロボット工学が専門分野の青年だ。
 
宇宙歴102年6月23日
クリフがシュンパティアとレース・アルカーナの封印の解除を求めてきた。
あの二つを操作系と動力系に組み込んだロボットを開発して、遺跡の探査、及びインベーダーからの防衛に充てたいという事だった。
 
宇宙歴105年10月18日
迂闊だった。
シュンパティアとレース・アルカーナを動かせる者などここには僅か二人しかいなかったというのに、何故それが判らなかったのか。
クリフは、開発した機体のパイロットを、ジョッシュにしていたのだ。
リムのような事故がいつ再び起こるとも判らないと私は反対したが、ジョッシュ自身が遺跡と我々研究者を守るのだとやる気になっていることや、私自身が、既にしてリムの件を引き起こしていたことについて追求され、結局見過ごすこととなってしまった。
もう、あの子達にはシュンパティアもレース・アルカーナも過去の物としなければならないのに。
 
宇宙歴108年12月3日
とうとう、この遺跡の最深部と思われる場所にたどり着いた。
そこにあったのはいくつものプラントと、門だった。
これをファブラ・フォレースと名付ける。
プラントの方は、あの、忌まわしいレース・アルカーナを作るためのラインのようだ。
 
宇宙歴109年1月25日
探査のための前線宿舎にジョッシュが凄まじい剣幕で下りてきた。
クリフが、リムの件を話したらしい。
二つの人格が共存する状況になった原因は私にあるのかと尋ねてきた。
事実だ。
隠しても仕方のないことだ。
だが、認めた私の前からジョッシュはそのまま姿を消し、先程聞いたクリフの話によると、そのままレース・アルカーナ搭載機に乗って、リムと共に出て行ったらしい。
愛想を尽かされたか。
仕方有るまい。到底、私はいい親では無かっただろう。

86ラドクリフ教授の日記帳 ◆2OPVuXHphE:2008/01/09(水) 23:02:05 ID:mlH87fEY
 2月21日。
 自らの付けていた日記帳を読み返しながら、フェリオ・ラドクリフは嘆息した。
 今でも覚えている。13年前の5月の事故。
 あの後、クリアーナを改名したのは、今から思えば浅ましい欺瞞だったのやも知れぬ。
 幼かったジョッシュもリムも、クリスとリアナが元々二人だった時のことなどすっかり忘れているようだ。
 ジョッシュが二人として接していたのは僅かな時間で、無理もない。
 リムにしても、幼い頃からずっと一緒にいたために、かえって一人になってからの記憶と混同しているフシがある。
 だが、だからこそ、改めて謝罪しなければならないのではないか。
 自問自答し、日記帳を閉じる。
「クリフ」
『はい?ああ、教授。やはりレース・アルカーナの動力部と規格が合一です。出力次第ですが、ファブラ・フォレースを開けることも出来るでしょう』
 通信機越しに、報告をするクリフォード・ガイギャクス。
「それは、場合によってはジョッシュの手も借りねばならんかな」
『レース・アルカーナ、シュンパティア共々相当数が揃えられましたから、研究チーム内のC級適合者でも数さえ揃えれば問題ないでしょう』
 これは、都合が良いかも知れない。
「そうか……出来れば、ジョッシュも立ち会って欲しいな。我々リ・テクノロジストの一応の到達点だ」
『教授の言葉では動かんでしょう』
 平然と痛いところを突いてくれる。まぁ、だからこそ信頼も出来るのだが。
「そうだろうな。君は何か、良い案が有るのかな?クリフ」
『私の方でもリムに用事がありますから、それを名目に呼びましょう』
「用事?」
『ええ、レース・アルカーナ搭載機の二号機が完成したので』
「…………」
『教授が気に入らないのは知っていますが、リムとの約束でしてね』
「リム、か……」
 レポートとしては残していないから、クリフもあの事件の詳細までは知っていないだろうが……
『実験当時居なかった若造に、好き勝手やられて腹に据えかねるのも判りますが、第三者だからこそ見えてくる物もあります。教授、別にリムは貴方のことを怨んでやいませんよ』
「君に慰められるとはな」
『……別段、慰めたつもりはないのですがね。客観的な認識を口にしただけですよ』
 これで照れているのだから、始末に負えない。
 への字に曲げたその口元を、少しでも笑わせれば良い物を。
『ともかく了解しました。ジョッシュ達が帰るまで、ファブラ・フォレースは現状維持ですか』
「待つ必要がないのなら進めて構わん。ジョッシュが先に帰ってくればそれで良し、先に門が開いても結果さえ教えられればいい」
 通信を切って、素直ではないのは自分もかと自嘲する。
 自分はただ、会って、謝罪したいのだろう。ジョッシュとリム、クリスとリアナに。
(それでどうなるとも思えんが)
 リムを元に戻す方法などない。
 有ったとしても自分の知らぬこと。無責任ここに極まれり、だが……
(私は謝ることしか出来ない)
 まだ幼かった少女を、その危険性も理解せず実験の材料とした事と、その出来事をすら、幼い頃のあやふやな記憶を利用して隠蔽しようとした事を。

87 ◆2OPVuXHphE:2008/01/19(土) 06:12:05 ID:mlH87fEY
うはwwwwやべぇwwwwwwwww

プレイし直したら、教授に頼まれてリム用に調整したってドクトル言ってるwwwwwwwwwwwwww

88名無しのも私だ:2008/01/19(土) 12:11:56 ID:6Qqra6kc
何を言いますか?
設定とSSが食い違うなんて日常茶飯事だぞ?
昨今の創作物を見てみなさい。

作者本人さえ設定を把握してないのが大半なんだぞ!

89名無しのも私だ:2008/01/19(土) 19:46:15 ID:MONOMAyI
グランゾンの戦闘シーンをガチで書くために設定調べて、あまりのいい加減さにぶち切れた俺が通りますよ。

90 ◆2OPVuXHphE:2008/01/19(土) 20:29:02 ID:mlH87fEY
>>88
現実そうかも知れんけどさ、だからこそ、スマートに決めたら粋じゃね?
だからって、わざわざDの捏造クロスオーバー作るために中古のPSとはいえゲーム買ってきた俺も俺だが

>>89
ま、そもそもの最初期が2次スパですからな。
あの頃はまさかこんなに映像技術が進歩するとは思っても居なかったから、自然とそこら辺の設定はおざなりでしょう。

91名無しのも私だ:2008/01/21(月) 20:35:50 ID:plF7QxlQ
>>90
不粋ですが、一つだけつっこみを。
実はクリアーナの愛称がリムなのです。キャサリンをキャシーと呼ぶようなものです。

92 ◆2OPVuXHphE:2008/01/21(月) 21:59:06 ID:mlH87fEY
ああ、その点は大丈夫。
二人の人格統合前にはそれぞれをクリスとリアナってちゃんと呼ばせてあるから。
名前を変えることにしたって言う後からでしょ。リムって呼ぶようになったのは。

93ある正月の五人:2008/01/22(火) 14:20:35 ID:1/HkAYz6


「よーっす」
「おう」
「明けましておめでとー」
「今年もよろしくお願いします」
「いやいやいや。今年もよろしくっと」
「松の内にみんな集まれるとは思わなかったねえ」
「正月くらいは休まないとな。クスハ達は?」
「女だけで話すって、あっちで。こたつのある大部屋を取られた」
「そんなものまであるのか、ここ」

「うー、中はあったかい」
「ユウキ、お茶入れるか?」
「ああ、ポットを貸してくれ。伊豆基地にちゃんと入ったのは初めてだが、綺麗な所だな」
「いつまでいられるんだ?」
「明日の夕方に帰艦することになってる。それまでは自由時間だ」
「相変わらず忙しいんだなー。リョウトもだろ」
「僕はもうちょっと早いよ。明日の昼には東京に行ってないと」
「それで、また月か。大変だよな、会社と軍掛け持ちなんて」
「もう慣れたよ、充実してるし。でも、年末にちょっとショックなことがあってさー。
久しぶりに実家に帰って」
「うん?」
「たまたま家計簿を見たら、うちより僕の方が収入が多かった」
「うわっ。自慢してやがるこいつ」
「違うって!」

94ある正月の五人:2008/01/22(火) 14:21:20 ID:1/HkAYz6
「リョウトん家って、道場つったっけ? ちゃんとしたとこだろ?」
「うん、今でも結構門下生いるし、別に貧乏してるわけじゃないんだけど」
「なら、いいじゃん。お前が稼いでるってことだろ」
「それが重いんだってば。同級生で大学行ってて、まだ親にお年玉貰ってるような奴だって
いるんだよ? なんだかこう、居心地悪いというか」
「威張ってりゃいいじゃねえか。親御さんに何か言われるとか?」
「みんな喜んでくれたよ。でも父さんがちょっと複雑みたいで……僕に道場継がせる気
だったんだけど、言い出しづらくなったろうし」
「それだけの働きをしてるなら、堂々としていればいいだろうが。何をうじうじと」
「そう割り切れるものでもないさ。俺もくにが田舎だから、たまに帰ると金銭感覚がちょっと
違って戸惑うことがある」
「まあリョウトの場合、ゲームやってたらいきなり軍に入って、その後マオ社だかんな。
給料取りになったのが急すぎるってのもあるっしょ」
「そうなんだよー。リュウセイはそういうの、ない?」
「俺、バーニングPTで賞金稼いでたからな。あ、でもおふくろの入院費の明細とか見て、
最近わりと余裕で払える額でびっくりしたことはある」
「何にせよ、贅沢な悩みだぞお前ら。俺なんか整備兵と兼業がせいぜいだ」
「ひがむなよ。まあ、リョウトもそうだが俺達はかなりの高給取りなんだ。自覚しないとな、
責任も含めて」
「俺は自覚してるよ。だけど、R-1の頭一個だけで学校が建つんだぜ。ある程度は麻痺しなきゃ
やってられねえよ」
「あーまあ、お前んとこは特にな」

95ある正月の五人:2008/01/22(火) 14:22:39 ID:1/HkAYz6
「でも、お金使う趣味があると、その辺わりと健全でいられる気がするよ。映像ディスクとか
おもちゃとか買ってると、ものの値段がわかるでしょ」
「クスハがしっかりしてるのもそのせいか……」
「給料といや、クロガネってその辺はどうなってるんだ?」
「月給を貰ってるわけじゃないが、活動費として定期的に渡される。出所はよくわからん」
「それはそれで不安だな」
「そもそも、あの艦の活動資金ってどこから出てるんだろう」
「新春から生臭い話はその辺でいいだろう。みかんがもうないぞ」
「廊下を左に行くとでかい箱がある、その中にいくらでもあるぜ。土地柄」
「誰が行く? 廊下は寒いぞ」
「「「「「じゃーんけーん」」」」」
「……ちっ」
「おいしいね、このみかん」
「敷地の中に果樹園みたいなとこがあるんだよ。ケネス司令が来て潰されるかと思ったら、
あの人がみかん好きでさ」
「へー。グレープフルーツみたいな頭してるくせに」
「やめてよ、僕グレープフルーツ好きなんだから」
「……あ、ここにいた。あのね、お餅を焼いたんだけど、みんなで食べませんか?」
「おっ、いいねえ! 海苔ある?」
「もちろんです。あんこと納豆もありますよ」
「ようし、行こう行こう。おーい、ユウー!」


End

96毛布:2008/01/22(火) 14:24:18 ID:1/HkAYz6
ひっそりと失礼します。冬コミでこうへーさんにお会いした記念に
久々何か書こうと思っていてこんな時期になってしまいました。

97名無しのも私だ:2008/01/22(火) 19:29:28 ID:zpGL7Dso
ああ、このシリーズいいわぁ。
どんぶり3杯はいけるぜ。

98名無しのも私だ:2008/01/22(火) 23:09:00 ID:mlH87fEY
お、毛布さんverの第5弾だ。
保存保存と……

99名無しのも私だ:2008/01/28(月) 04:49:07 ID:305O5sxk
スーパーロボット大戦OGで萌えるスレ その210
の223を見ていたら

じっちゃん = タスクの祖父
に見えてきた(>>223の意図は違うだろうが)

しかし、このスレ的には、タスクの祖父:大金持ち だ

父方の祖父:大金持ち
母方の祖父:整備
なんだと思う

こんな感じ?

祖父「しかし、お前もマメだな。休みのたびにうちに来てるじゃねえか」
タスク「ここに来るといろいろ楽しいからな」
祖父「お前の母親とは大違えだ。玉の輿だと思ったら、とうとう一度も帰って気やがらねえ」
タスク「・・・死んだ人をそういう風に言うのはよそうぜ。それに、じいちゃんの娘だろ?」
祖父「だな、悪かった」

祖父「ところで、お前の方はどうなった?」
タスク「俺の方って?」
祖父「とぼけんな、美人のジョノカが居るんだろ?」
タスク「”ジョノカ”っていつの言葉だよ?」
祖父「俺の若えころ」

タスク「・・・まあいいや。どこで聞いたんだ?まだ話してないだろ?」
祖父「彼女から直に聞いた」
タスク「へ!?」
祖父「ほれ」 っ 『じいちゃんとレオナの写真』

タスク「な!?いつ撮ったんだ!?」
祖父「合成だ」
タスク「はぁ?」
祖父「暮れに小隊の集合写真を送ってきたろ、あれだ」
タスク「・・・相変わらず、いい歳して何やってんだよ」
祖父「俺は永遠の18歳だからな。だが、これでこの娘がお前の嫁候補であることは確実になった」

タスク「でも何でレオナちゃんが俺の彼女だって分かったんだ?」
祖父「この稼業をやってると聞こえて来るんだよ」
タスク「じゃあ、レオナちゃんのこと言ってみろよ」

祖父「レオナ・ガーシュタイン
   誕生日:11月30日、血液型:A型、オクト小隊所属
   名門ガーシュタイン家の娘で、ブランシュタイン兄妹の従妹
   沈着冷静で頭脳明晰プライドが高く、ツンデレ
   でも、何でもこなすように見えるが音痴で料理下手
   つまり、タスク・シングウジの好みど真ん中」

タスク「まあ、基本情報だな」

祖父「元コロニー軍トロイエ隊・・・だったが、DC戦争の後、
   お前に撃墜されて連邦軍に寝返った
   ちなみに、彼女がいまだにヒリュウ改に居残ってるのは、
   お前が引き止めたのと、隊長さんが勝手に登録しちまったから」

タスク「ふ、ふうん、よく調べてるじゃねえか」

祖父「ちなみに引き止めた時の台詞は『俺にみそ汁とか作ってくれつつ・・・』
   念願かなって、レオナちゃんの味噌汁を飲んだタスク君
   が、彼女は料理ベタの才能を遺憾なく発揮し、お前は失神
   しかも1回のみならず少なくとも13回は
   しかし、同僚のお姐さんのアドバイスの甲斐あり
   今ではおかゆだけは作れるようになったとさ」

タスク「・・・ちょっと待てよ。どうしてそんな細かいことまで知ってるんだ?」
祖父「ふふふ、俺の情報網をナメるなよ?」
タスク「あんた本当にただの整備員か?」
祖父「もち」

100名無しのも私だ:2008/01/28(月) 05:23:53 ID:s0Hzm5Ps
ブランシュタイン兄妹?
兄妹?
ああ、たぶんさらに妹がいるんだろうな、うん

101名無しのも私だ:2008/01/28(月) 12:54:16 ID:8d0pWAYw
お久し振りの。
続々々々々々・イングラム先生のお悩み相談室。

ゼンガー=ゾンボルト。男の魅せ所。

102差無来!!:2008/01/28(月) 12:57:43 ID:8d0pWAYw
――極東伊豆基地 ハンガー裏手
 多くの人間が働き、また広大な敷地面積を誇る伊豆基地。華々しい日々の喧騒から切り離され、半ば人々の記憶から忘れ去れた様な場所が其処にはある。
 元は保養目的の為に作られたのだろうが、訪れる者も無く、雑草だらけで荒れ放題になっている緑地の様なその空間。朽ち果てた一脚のベンチに腰掛けている青年の姿があった。
「・・・」
 その人物の名はイングラム=プリスケン。長身痩躯の青ワカメ的な好青年で、似非カウンセラーとして活躍している皆の先生である。
 その先生はと言うと、別段何をする様子も無く、じっとベンチに座ったまま白痴の如く天を仰いでいた。
 今の彼は照り付ける陽の光を受けて光合成する植物の様だった。……否、ワカメも褐藻類である以上、光合成くらいはやってのけるのかもしれない。
 
 陽が南中してから数時間、微動だにせず光合成を続ける先生。冷気の含んだ風が時折吹き付けてその蒼い髪を揺らすが、やっぱり先生は動かない。まるで悟りを開いたかの様に。
「……?」
 そうして陽が少し傾いて来た時、先生は何者かの気配を感じ取り、その人物が居るであろう方向に視線をずらした。
――ザッザッ……
 草を掻き分ける音と共に、誰かの姿が見えてきた。

「む……?」
 現れた人物はベンチに座るイングラムの姿を見つけて少しだけ驚いた様だった。
「・・・」
 だが、当のイングラムはその人間に興味を持つ事は無く、目を閉じると再びお日様の光を吸収し始めた。
「イングラム=プリスケン……」
 その人物は若干、慎重な足取りで先生に近付く。そうして、暫く先生を眺めた後で口を開いた。
「お前は、何をしているのだ?」
「見ての通りだが?」
 非常に渋い男を感じさせる美声の持ち主だった。先生並の高身長を誇り、厳ついガタイと険しい瞳。そして凛々しい顔と銀髪を持った侍。
 その人物の名はゼンガー=ゾンボルトと言った。

103差無来!!:2008/01/28(月) 12:58:48 ID:8d0pWAYw
「いや、さっぱり判らんのだが」
「だから日向ぼっこだ。それ以外の何かに見えるのか?」
「一瞬、瞑想の類かと思ったが」
「フッ……そんな大層なモノではない」
 イングラム先生は自分より1cmだけ背の高い男の顔を見上げていった。先生とゼンガーは仕事上の付き合い以外に殆ど接点が無い。
「それで、何時から此処に」
「正午少し前位からか。それがどうかしたのか?」
「いや……お前はそんなに暇なのか?」
「今日は公休日だ。俺の様に何もせず過ごす人間が居ても良かろう。それに此処は人が寄り付かんからな」
「緑の匂いに誘われたか?」
「ああ、それもある。……と言うか、良く知っているな。」
 普段から口数多い方ではないゼンガーも先生の前では饒舌にならざるを得ないらしい。元々自然散策が好きな先生はこう言った人気の無い緑が豊富な場所に居る事を好む。
 だが、先生と接点が殆ど無いゼンガーがどうして彼の趣味を知っているかは不明だった。
「お前は何故此処に?」
「ああ。剣を振ろうと思ってな」
 ゼンガーの言葉に先生は視線を彼の身体に向ける。その手には確かに鞘に納まった真剣が握られていた。
「……邪魔なら消えるが」
「否。その必要は無い。寧ろ、それはどうでも良くなった」
 人気のない場所だからこそ、剣の修行の場にゼンガーは此処を選んだのだろう。それなのに自分が居ては邪魔になると踏んだ先生は、ゼンガーにこの場を譲る旨を告げたがそれは断れた。
「何?」
「イングラム=プリスケン……これも何かの縁なのだろうな」
 最早、剣を振る気が失せたゼンガーはイングラムの目をじっと見つめた。イングラムと言う人間の心を図るかの様にだ。
「な、何だ?」
 他人の心を見透かすのが上手い先生も逆の立場になれば弱い場合も多々ある。今の場合がそうだ。先生は何とか体裁を保ち、邪気が無い心の内を瞳に映し出した。
「風の噂に聞いたが……お前は駆け込み寺を営んでいるらしいな。……本当か?」
「う、お前の耳にも入っていたのか。……まあ、成り行きで、な」
「そうか……」
 気を持ち直した先生にはゼンガーがしたい事が見えてきた。だが、それよりも自分が有名になってしまったと言う事実に吐き気を催しそうになった先生。
 ……普段はクロガネの直援として色んな場所を飛び回っているこの男にも自分の副業(?)が耳に入っていると言う事。
 もう手遅れなのかも知れないと先生は諦めた。
「為らば、俺の悩みも聞いて貰えるのだろうかな」
「何だと?」
「意外、か?」
「いや、失敬」
 ゼンガーはイングラムが信頼できる人間だと確信出来たらしい。嘗ての洗脳状態の時とは違い、先生の瞳には黒い部分が全く無かったからだ。
 だからこそ、ゼンガーはイングラムに悩みを打ち明ける。剣の鬼であるゼンガーも人の子である以上は悩みとは無縁では居られないらしかった。
「ああ。そちらが語ると言うのであれば、俺も聞くし、助言の一つもしてやれるかもしれないな」
「なら、聞いてくれ。今は……藁にもワカメにでも縋りたいのだ」
「……座ったらどうだ?」
「うむ」
 ワカメ呼ばわりするな。そう先生は叫びたかったが、話が進まないのでそれは自重した。

104差無来!!:2008/01/28(月) 13:00:22 ID:8d0pWAYw
――数時間後 イングラム私室
 伊豆基地の兵舎の中でも辺境と言える程の外れにあるイングラムの部屋。彼の執務室と併設されているこの場所は移動の面では非常に都合が悪い。まるで隔離、若しくは島流し的な扱いの悪さだ。
 だが、その移動の利便性を犠牲にする事で彼の部屋は上級士官用としては破格の広さを誇っている。元々は空倉庫を改修しただけあって、それこそマンションの一部屋に相当する快適性を誇っていた。
「今帰った」
 自動ドアを開け、自室の中に足を踏み入れる先生は中に居る人間に帰りを告げた。
「お帰りなさいっス」「お疲れ様少佐〜〜」
 当然、そんな居心地の良い空間に引き寄せられる人間は出てくる。中からの返事は二つ。聞き慣れた少年の声と聞き飽きた間延びした女の声だ。
 アラド=バランガとセレーナ=レシタール。最初は匿う形……そして今は半居候と化した大食ぷに少年と何時からか懐かれてしまったおっぱい忍者の両名だった。 
「・・・」
 先生は言葉を発せなかった。アラドに関しては良い。自分で納得した上で引き入れた人間なのだから部屋に居てもおかしくはない。事実、部屋を出る時にもアラドは自分を見送ってくれたのだ。
 問題はセレーナの方だった。別に苦手意識は無いし、出入り禁止にしている訳では無い。偶に寝込みを襲われる事はあるが、それは問題ではない。
 今、彼女に持ち上がっている問題……それは彼女の格好についてだ。
 セレーナは何故か下着姿だった。風呂にでも入っていたのかも知れない。
「随分遅かったっスね。日が暮れるまで何してたんスか?」
「少佐ぁ……お疲れなら、私が誠意を以って癒しましょうかぁ?」
「ああ。ちと、長話が過ぎた」
 長話と言うか、また相談事を受けたのだが、説明が面倒なので此処は省く事にしたイングラム。
 加えて、セレーナの言葉はガン無視する事を決め込んだ。彼女の言葉の韻が卑猥なのは故意である事は間違いなかった。
「む……ちょっと少佐!何か私に言う事無いんですか!」
「あ?」
 セレーナは少し頬を膨らませている。どうやら無視した事を怒っているらしい。だが、イングラムはこの女に関わりたくなかった。
「お前の格好について、か?」
「そうそう!若い女が肌を見せてるんですよぉ?目のやり場に困る〜〜、とか勃起する〜〜とか無いんですか?」
 身体を張ったギャグなのか、それとも頭の螺子が跳んでしまったのかどちらかしか考えられないイングラム。当然、後者であると勝手に決めたイングラムは舎弟に任せる事にした。
「アラド、何か言ってやれ」
「俺?い、嫌っスよぉ!同レベルに落ちたくないっスもん!」
 当然、アラドはそれを拒絶した。見て見ぬ振りを続けたいらしい。だが、それは無理だった。
「ア・ラ・ド・君?どの口がそんな失礼な事言うのかなぁ」
「いっ!?いひゃいいひゃい!!」
 頭に青筋の十字路を浮かべたセレーナがアラドの魔性のほっぺを抓り上げた。
「はあ……やれやれ」
 自分の舎弟、と言うか弟子、または弟分が泣かされるのを黙って見ていられない先生はセレーナを黙らせる事にした。これ以上、寸劇に付き合う気は無かったのだ。
「セレーナ」
「は、はい!」
 たゆん、と自慢のお胸を揺らしたセレーナが姿勢を正す。何か彼女は自分にとって好ましい……例えば容姿を褒める類の言葉を先生が発するとでも思ったのだろうか?
 ……答えはNoだ。それとは真逆の言葉がセレーナに浴びせ掛けられた。

「お前の身体は見飽きた。それ以前に目が腐る。何か着ろ」

 決着。セレーナのライフはゼロになった。
「……ぐすっ」
「す、凄え!俺には絶対に言えない台詞だ……!」
 半泣きのセレーナはグスグス鼻を啜りながら自分の服を着る。アラドは自分の師の偉大さを殊更見せ付けられた様に感動していた。

105差無来!!:2008/01/28(月) 13:02:16 ID:8d0pWAYw
「何の話してたか忘れたけど……それより、今日のご飯は何スか少佐?」
「む……いかん。忘れてた」
 余計な事に精神を消耗させられたアラドはイングラムの言った長話には興味がないらしい。今の彼にとって重要なのは晩飯だった。
 そんなアラドの言葉に先生はハッとさせられた。今日の飯炊きは自分だと言う事をすっかり忘れていたのだ。
「いいっ!?そんなあ!」
「献立は冷蔵庫の中身次第だな。何も無いなら今日は外食だ」
「ええ?……少佐の作るご飯が食べたいんスけど」
「そう言われても、な」
 あからさまに肩を落としたアラドは先生の手料理を心待ちにしていたらしい。味云々ではなく、心の篭った大量の料理を食べたい年頃なのかも知れなかった。
 イングラムはアラドには悪いが冷蔵庫の食材で全てを決めようとした。何かあれば何とかなる。何も無くても何とかなる。
 そうして先生は冷蔵庫の扉を開けた。
「む?これ、は」
 中を覗いた先生は首を傾げる。中には大量の野菜類、魚類がゴロゴロしていた。
 ……こんなに沢山買ったかしらん?記憶の糸を手繰り寄せても、買った覚えが無い食材がそこにはあった。
「あ、さっき補充しときましたよ。田舎から送ってきて食べきれないから」
 復活を果たしたおっぱい忍者が手をヒラヒラさせていた。
「お前かセレーナ」
「あ、そう言えばそうだった。ぐっじょぶっス!セレーナさん」
 犯人はセレーナだった。彼女は手ぶらで飯を集りに来る事があれば、こうして頼んでもいないのに食材を補充する事がある。
 ……そして毎回気になる事だが、この女の故郷は何処なのだろうか?スペイン辺りだと踏んでいる先生にもいよいよ判らなくなってきた。
 どこからどうみても日本の食材としか見えないものが其処には含まれているのだ。
「大した事無いわよ。と、そう言う訳で少佐?愛の篭った男の手料理を一丁お願いします♪」
「……お前への愛なぞ無い」
「少佐、なるべく早くお願いするっス!」
「直ぐには出来ん。酒か煙草でもやって待っていろ」
 ギャラリーとの会話をそこそこに、先生は煙草に火をつけ、煙をふかしながらキッチンへと向かう。
 先生はキッチンドランカーでは無いが、キッチンスモーカーではある。……やっぱり先生は不良だった。

106差無来!!:2008/01/28(月) 13:03:48 ID:8d0pWAYw
 ……で、数十分後。
「では、頂き、ます」
「頂きますっス!」「頂きま〜〜す」
 テーブルに乗った夕餉に仰々しく手を合わせたイングラム。アラドとセレーナも先生に続き手を合わせた。
 本日のプリスケン宅の夕食献立……石狩鍋、常呂産帆立バター焼き(殻付き)、サロマ産牡蠣フライ、富良野牛のカルパッチョ、(消費期限間近の)釧路産牡丹海老の塩焼きetc
 ……見事なまでの北海道フェアだった。これだけの量を僅か数十分で作る先生は只者ではない。
「こりゃあ、うんめえぇ!レーツェルさんにゃ出せない男の味っスわ」
「シェフとして生計を立てられる男と比べられても困るが……まあ、喜んでくれたのなら幸いだ」
「大満足っスよ!……あ、ご飯おかわり」
「自分でよそえ」
 早速、ご馳走の群れにがっついたアラドはどんぶり飯をあっと言う間に平らげた。見ていて気持ち良くなる食べっぷりだった。
「この味の虜になりつつある自分が怖いです。本当に、毎日食べたいくらい」
「作るのは構わんのだが、後片付けが面倒でな。毎日は気合を入れて作りたくない」
「またまた。少佐はきっと良いお婿さんになれますよ。料理上手の男の人って貴重ですから」
「俺が娶られるのか?まあ、それでも良いが……相手が居ない裡は転んだって無理だな」
 セレーナも先生の料理に舌鼓を打ちながら、その味を褒めていた。こうやって数人集まって飯を掻き込む時は先生だって口数が多くなる。団欒の力は中々に侮れない。
「では、俺は一杯やらせて貰うか」
 自分で作った飯を喰う事はそこそこに、先生はテーブルの下から男山の原酒を取り出し、自分のコップに注ぎだした。度数の高そうな米の甘い香りが広がった。
「お前もやるか?アラド」
「え?……今日は止めときます。昨日、やりすぎたんで」
「そっか。セレーナ、お前は?」
「勿論頂きまっす!」
「では、コップを出せ」
 酒の相手を求めた先生はアラドには振られたが、セレーナを誘う事には成功した。出されたコップになみなみと酒を注いでやると、セレーナはそれを飲む。
「こりゃまた、美味しそうなお酒。味の方は……(ゴキュ)かああああ〜〜!堪んねえなこりゃ!」
「親父臭い女だ。嫁の貰い手、果たして居るのかどうかが疑問だな」
 親父臭いと言うよりは、泥付きの田舎娘臭いと言うのが正しい表現かも知れない。こんなのとコンビを組まされているエルマが可愛そうに思えてきた先生だった。
 その後凡そ一時間、他愛も無い話に盛り上がりながら夕食の時間は過ぎて行った。

「……むう」
 恙無く終了した団欒の後、先生は酒をちびちび呷りながら考え事をしていた。それは先程会ったゼンガーとの一件についてだ。むっつり黙りこくり、眉間に皺を寄せて思案するその姿は周囲に少なからず威圧感を与える。
「・・・」
 セレーナはアラドが立てる食器を洗う音には耳を貸さず、ただじっとイングラムを見ていた。

107差無来!!:2008/01/28(月) 13:05:37 ID:8d0pWAYw
「……座ったらどうだ?」
「うむ」
 ごつい男が隣に座ると朽ち掛けたベンチはギシッ、と嫌な音を立てた。
「それで、お前の心を悩ませているモノとは一体……」
「・・・」
 チラ、と先生はゼンガーを横目で盗み見た。ゼンガーは顔を俯かせ、少しばかり戸惑っているかの様に足の間で両手を組んだ。
 そうして、五秒ほど待つと、ゼンガーは覚悟が入ったかの様に呟いた。
「……ソフィア=ネート」
「む」
「彼女の事で、な」
「ソフィア=ネート……と言えば」
 御存知、プロジェクトアークの責任者であり、アースクレイドルの主。メイガスの開発者でもあり、何処かの世界ではアストラナガンをアウルゲルミルで喰った女性だ。
 加えて、彼女は何故かゼンガーとは親しく、何処かの誰かには心の伴侶とまで呼ばれている女性。ゼンガーの悩みの種は彼女についての事らしい。
 ……因みに、ソフィアは先生とは面識が無い人ではあるが、その容姿や立ち振る舞いは実に先生好みのだったりするのは秘密だ。
「で、その彼女がどうかしたのか?」
「うむ。近頃、彼女が素っ気無くてな。正直、持て余しているのだ」
「素っ気無い、か。具体的には?」
「軽く挨拶しようと思えば、無視される。廊下などで擦れ違えば、目を伏せられる。気が付けば、遠くから睨み付けられている……こんな処だ」
 ゼンガーの言葉を聞き、ソフィアのその時の姿を想像して先生は目を細める。確かに近寄り難い雰囲気と美貌を持つソフィアだが、他人相手にそんな態度を取るとは考えられなかった。
 若し、そんな態度を取るとするならば、理由は一つだけだろう。
「それは……素っ気無いのでは無く、怒っているのではないか?」
「……やはり、そうなのか」
「聞く限りではそうとしか思えんが。……と、言うかお前は何をやらかしたと言うのだ?ネート女史の怒りを買うとは」
「む……」
 ゼンガーも心の中ではそう思っていたらしい。だが、ソフィアに限ってそれは無いだろうとゼンガーは踏んでいたのだろう。先生から改めてそう告げられてゼンガーは言葉に詰まった。
「……彼女が怒っているとして、だ」
「ああ」
「俺にはその理由がさっぱり判らんのだ」
「・・・」
 ゼンガー本人にもソフィアを怒らす原因は判らないと言う。そう言われては先生とて何も言葉は掛けれなかった。
「俺は、どうするべきなのだろうかな」
「いや、それだけでは流石にどうしようもない」
「……そうか」
「お前としてはどうしたいんだ?聞いて欲しかっただけか?仲裁に入って欲しいのか?それとも、ただ怒りを冷ましたいだけなのか?」
 どうやら、ゼンガーは内心で相当焦っている様だ。明確な指針が自分の中で確立していない。何をしたいのか?何をして欲しいのか?ゼンガーの中にそれが無い以上、先生は行動出来ないのだ。
「お、俺は……」
「悩む場面か?支援して欲しいのなら、そう言ってくれ。俺はお前の力になるぞ?」
「イングラム……」
「過去には色々あったが、今はどうでも良い事柄だ。俺を信じてくれるなら、お前の望む形に落ち着く様、尽力しよう」
 イングラムは熱い台詞を吐き、ゼンガーの心を揺るがした。真面目で実直なこの男が迷いを抱える今、それを取り除けるのは自分だけだと言う事を理解した上での言葉だった。
 先生の言葉に、最後まで手放せなかった警戒心を捨て去ったゼンガーはとうとう頭を垂れた。

「ならば、力を貸してくれイングラム」

「それで、良いんだな?」
「ああ。お前を信じる。彼女の怒りを冷まし、原因を見つけた上で、元の鞘に俺は戻りたいんだ」
「了解した。ゼンガー」
 差し出されたゼンガーの右手を取ったイングラムは優しくそれを握った。剣ダコの目立つ、ゴツゴツしたその掌は冷たかった。

108差無来!!:2008/01/28(月) 13:07:01 ID:8d0pWAYw
「……とは言ったものの、情報が少な過ぎるな。此処はやはり、本人と話した方が一番良いのだろうな」
「何?」
「ゼンガー、お前に彼女を連れてきて欲しい。話を聞ければ、後は俺の領分だ。幾らでも良い方向に持っていけるだろう」
「ソフィアをお前の前に連れて行けと言うのか!?」
 協力関係に入ったゼンガーには是非やって貰わなければならない事がある。今言った事がそうだ。当然、ゼンガーは声を荒げた。
「ああ。彼女と面識の無い俺が呼べば不自然だろう?お前にしか出来ない事だ」
「む……ぬ」
「逃げる場面じゃない。それ位はやって貰う。……判っているだろうが、お前の為だ」
「承、知」
 渋々……否、半ば嫌々ゼンガーは頷いた。気拙い雰囲気のソフィアを誘う事はかなりの重労働になる事が判りきっているからだ。
「うむ。では明日……否、二日後にヒリュウで落ち合おう。それだけ時間があれば平気だな?」
「ああ、こちらで何とかしてみる……って、待て。ヒリュウとは、酒場の?」
「そうだ。場所は知っているだろう?夜九時以降なら俺は居る。……お前に飲めとは言わんさ」
「・・・」
 ゼンガーは先生が何をする気なのかが全く読めなかった。
 先生は相手を酒に酔わせ、思考力を奪った上でイカサマトークを炸裂させる気だった。それこそが先生の常套手段であるのだが、酒がほぼ一滴も飲めないゼンガーには酒の臭いが充満する酒場に居る事はそれだけで辛い。
 案外、ゼンガーとイングラムは相性が悪いのかも知れなかった。

「最後に一つ聞くが」
「何だ?」
 陽が暮れてきて、寒さが厳しくなってきたので二人はこの場での話をお開きにする気だった。立ち上がり、背中を見せたゼンガーに先生は声を掛ける。
「お前は普段、クロガネの乗員として彼方此方飛び回っているが……帰ってきたのは先日だな。連絡は取り合っていたのか?ネート女史と」
「ああ。頻繁に便りは来たがな。……此処最近は忙しくてまともに返事を返せてはいなかった」
「……筆不精なのか?お前は」
「そう言う訳では無いがな」
 ゼンガーの言葉がどうしてか先生の心に引っかかった。忙しいから、と言うのは理由にならない気がするが、何かそれこそがソフィアの怒りの根幹にある気がした先生だった。
「では、お前の娘はどうなんだ?ネート女史の様に風当たりが?」
「イルイの事か?……いや。変わらず俺に懐いているが」
「ふむ。お前が留守の間、誰がイルイの面倒を?」
「ソフィアだが」
 先生の心に何かが閃く。これはまさか。……だが、憶測で物を語りたくない先生はその考えを頭の隅に追いやった。

109差無来!!:2008/01/28(月) 13:07:50 ID:8d0pWAYw
「どうしたものかな、これは」
 何となくだが、ソフィアの不機嫌の察しが付いた先生は自体をどう収集すべきか思索を巡らせる。最悪、ゼンガーにはキツイ事を言わねばならなくなるからだ。
「何が、なんです?」
「む?」
 セレーナの声に現状を再認識させられる先生。気が付けば、かなりの時間が経過していた。
 アラドは食器洗いを終え、自分の横に何時の間にか座っているし、一升瓶に入った酒の量も半分に減っていた。
「ひょっとして、また相談事の類ですか?」
「いや、それは」
「あ、言いたくないなら構わないんですけど」
「む」
 口ではそう言いながらセレーナはじっとこちらの瞳を射抜いている。アラドも同様の視線を向けて来ていた。
 ……全てはこの女が始まりだった。その所為で自分の噂が様々な人間に飛んでしまったのだ。だが、その御蔭で様々な人間とのパイプは出来たし、アラドとだって仲良くなれた。
 最初は忌々しかったが、今はそれを素直に感謝出来る。
「実はな……」
 先生は口を開き、掻い摘んだ説明を始めた。

「ぜ、ゼンガー少佐って……また、大物が出て来ましたね」
「ああ。それだけ、ネームバリューが付いて来たと言う事の証かも知れんな」
「マジっスか?あのミスター武士道に悩みなんて」
「あの男とて、木の股から生まれた訳ではない。そう言う事だ」
 やはり、ゼンガー=ゾンボルトの名前は大きかったらしい。セレーナもアラドも揃って同じ様な顔を晒していた。
「それで、次に会うのは?」
「二日後だ」
「勝算は、まあ師匠の事だから当然あるっスよね」
「何となくは、だな。自信は無いが」
 勝算……と言うか、悩みを解決し、ゼンガーの望む結末に導いてやれるかどうかなのだが、今回はそれがちょっと怪しい。
 だが、鍵らしきものを既に見つけている先生は恐らく、勝つのだろう。アラドにはそれが判っている。
「私、何も出来ないですけど応援してますね」
「俺も師匠の勝ちを祈るっス。……結果は教えて欲しいっスけど」
「ありがとう、二人共。何より、励みになる言葉だ」
 仲間からの声援を受けた先生は、柔らかな笑みを湛え、その内に静かな闘志を燃やす。それは昔のイングラムには考えられない事だった。

110差無来!!:2008/01/28(月) 13:09:19 ID:8d0pWAYw
――あっと言う間に二日後 BARヒリュウ
「今日は随分と控えめに飲みますなあ、少佐」
「ああ。後で客が来る予定になっている。飛ばして飲む訳にはいかんのだ」
 最早、先生にとってのホームグラウンドとなったヒリュウ。そのカウンター壁際の定位置でショーン=ウェブリー少佐と談笑を交わす先生。
 その光景はヒリュウでは最早御馴染みの光景だし、逆にそれが無い日はヒリュウは火が消えた様に寂れるのだ。
 ヒリュウの主となって久しい先生は約束の時刻の一時間前から彼等が現れるのを待っていた。
「少佐を尋ねる客が居る、と?」
「ああ。多分、副長にとっても珍しい客だと思う」
「ほう……それは興味深い。楽しみにさせて貰いますかな」
「きっと驚くと思う。……温燗、もう一本」
 ショーンの驚く顔が目に浮かぶイングラムは含み笑いを浮かべて、空の銚子をショーンに渡した。
 ……そうして、約束の時刻から三十分後
「どうやら、来たようだな」
 来客を伝える様にドアベルが鳴った。今日の生贄……否、主役達が漸く登場した。
「いらっしゃ……!」
 ショーンの言葉は途中で止まった。予想通り驚いてくれたマスターに先生は笑いそうになった。
「こっちだ。二人共」
 先生が大きく手招きすると、ゼンガーはカウンター席までやって来た。その後ろにはソフィア=ネートがぴったりと付いて来ていた。
「約束通り、連れてきたぞイングラム」
「ご苦労様。……やはり、骨は折れたか?ゼンガー」
「いや、実はそうでもなかった」
 ゼンガーの表情を見る限り、その言葉に偽りは無さそうだった。そうして、軽めの挨拶に談笑を混ざらせていると、ソフィアが一歩前に出た。
「貴方だったのですね。ゼンガーが私に会わせたい人と言うのは」
 確かに美しい女性だった。強い意志が感じられる藍の瞳、と柔和さを感じさせる優しい微笑みを湛えた顔。
 後ろで纏められた色素の抜けた空色の長い髪の毛を引っ提げ、肌の色は雪の様に真っ白だ。知性を感じさせる広めのおでこはきっとチャームポイントなのだろう。
「そう言う事、ですな。ネート女史。……お初にお目にかかる。イングラム=プリスケンだ」
「ソフィア=ネートです。……直接、お会いするのは初めてですね」
 お互いに深々と頭を下げた先生とソフィア。些か仰々し過ぎる気がするがお互いに初対面なのでこれ位で丁度良かった。
「まあ、立ち話もあれでしょう?お二人とも、お掛けになっては如何ですかな」
 マスターがそう言葉を投げるとゼンガーとソフィアは同じタイミングで椅子に腰掛けた。ゼンガーの座った三本足の木製スツールがギシッ、と音を立てた。
「大物を連れてきましたな、少佐。一体、どう言う経緯で……」
「説明は面倒だから省く。だが、十分驚いただろう?」
「ええ、そりゃあもう」
 ひそひそと先生に耳打ちするショーンは最早、驚きを通り越して半分混乱している風にも見て取れた。これでまた一つ、ショーン副長は先生に対し謎を増やした。

「取り合えずは注文を。マスター?ゼンガーにウーロン酎を……」
「待たんか貴様。……殺す気か」
「冗談だ。彼にはウーロン茶を。で、ネート女史は……?」
「あ、私は熱燗を頂きたいのですけど」
「日本酒?……なら、丁度良い。俺の酒を出してやって欲しい」
「ウーロン茶と銀嶺月山の燗ですな?暫しお待ちを……」
 注文を聞いたマスターは奥に引っ込んだ。ソフィアは少し申し訳無さそうに呟いた。
「宜しいんですか?少佐のお酒を」
「構いませんよ。無理言って来て貰ったのはこちらです。飲み代位は負担します」
「し、しかしイングラム……良いのか?」
「ああ。まあ、任せてくれ」
 やっぱり含みのある笑みを浮かべイングラムは頷く。ゼンガーもソフィアもその言葉を頂戴する事しか出来なかった。
 そうして暫く待っていると、二人の注文が運ばれて来る。ソフィアはお猪口に燗酒を注ぎ、それを少し啜った。
「あら……おいしい」
「冷やして飲んだ方が上手い酒だが、敢えて燗で飲むのも贅沢ですな。遠慮せずにいって下さい」
「え、ええ」
「酒、か。俺には解からん世界だな」
「それだけ剣の腕がありながら、酒の味を解さないとは……不幸な事だな」
「そうかも知れないな……」
 美味い酒に感嘆の声を漏らすソフィアを尻目に、ウーロン茶をちびちび啜るゼンガーは決まりが悪そうだ。何処か残念がっているのはきっと気のせいではなかった。

111差無来!!:2008/01/28(月) 13:10:44 ID:8d0pWAYw
それから暫くの間は平和な時間が続いた。お互いの仕事の話やら取り留めない馬鹿な話に笑みを漏らしひたすらに酒とウーロン茶を消費し続けた。
 そして、時計の長針が一周した辺りで先生は仕事に切り出した。
「そろそろ、頃合か」
「え?」「……!」
――来た。ゼンガーはその時が訪れた事を悟り、顔を険しくさせた。だが、ソフィアは何の事なのか全く判らなかった。
 イングラムはじっとソフィアの顔を見つめた。ゼンガーの話では相当に怒っていた様だが、今の彼女の顔からはそう言った感情が一切見られない。
 つまり、それは彼女が怒りを手放していると言う事に他ならない。ゼンガーが彼女を誘う事に苦労しなかった点から考えても、自分の考えが間違いでない事は明らかだ。
 後は……その原因を暴き、両者の間で明らかにするだけだった。
「俺が今回、ご両人に会いたかったのは……他でもない。少し前に貴女が煩っていた不機嫌の原因究明とその対処についてだ」
「っ」
 告げられた真実にソフィアの顔が驚愕に歪む。何かあるとは踏んでいたソフィアだったが、何が待ち受けているのか迄は見抜けなかったのだ。
「まあ、俺には機巧が見えたが、その男は相変わらず何も判っていない様だ。だから、それをはっきり此処で知って貰う」
「ゼンガー……貴方は」
「済まん、ソフィア。俺が頼んだ事だ」
 少しだけ責める様なソフィアの視線がゼンガーに飛んだ。ゼンガーは落ち着きの無い様子で頭を下げる。その顔色はとんでもなく悪かった。

「私は、怒ってなどいませんよ?」
「今はそうでしょうな。だが、以前はそうだった筈だ。今、怒っているか否かは問題ではない。その原因だ。知らなければ、その男はまた繰り返すだろうからな」
 確かに彼女は怒ってはいない。だが、今明かさねばならないのはその原因についてだ。ゼンガーはそれを知らなければいけないのだ。
「・・・」
「ゼンガー……」
 無言で何かに耐える様にゼンガーは瞳を閉じていた。ソフィアはその佇まいが危うく見えたのか、自分が言いたい事が喉の奥に引っ込んでしまった。 
「俺の口から、言うか?」
「それは」
 当然そうなるのは目に見えていたので、ソフィアの代わりに第三者の視点からゼンガーに真実を語ろうとするイングラム。だが、ソフィアはそれを止めようとした。
「いや、いい。頼む、イングラム」
「ああ、では」
 だが、ゼンガーはそれを受け入れた。今は後腐れが無い様にきっぱり、すっぱりと自分に言葉をぶつけて欲しかったのだ。先生は頷いた。

112差無来!!:2008/01/28(月) 13:12:59 ID:8d0pWAYw
「どうして彼女がお前の誘いに乗ったか、解かるか?」
「偶々、機嫌が良かった……のでは?」
 イングラムの問いに手探り状態でゼンガーは答えた。声が若干、上擦っているのは何の感情の所為なのかは判らない。
「違う。嬉しかったのさ。お前に誘われた事がな」
「だから、容易く怒りは手放せた。……そうでしょう?ネート女史」
「・・・」
 案の定、正解を外したゼンガーにそう語るイングラム。怒ってはいても、好いた相手の誘いだからこそ、喜んで受けた。
 それが正しい事を示す様にソフィアは静かに首を縦に振る。
「では、もう一つ。何故、彼女が怒っていたのか?その理由は?」
「むっ……それが解からんから、俺は」
「フッ、そうか」
 そうして、更に設問が追加された。そもそも、ゼンガーはその答えを得る為にイングラムの協力を仰いだのだ。答えられないのも仕方ない事だった。
 イングラムはそんなゼンガーの解に少しだけ微笑を浮かべ……
「呆れた奴だな、お前」
 そうして、心底絶望したと言った表情を見せた。実は答え気付いていないのではなく、故意に茶を濁しているのでは?……と、先生は邪推してしまった。
「何……?」
 だが、そうではなかった。そんな先生の言葉と表情にムキになったのか、ゼンガーは少しだけ怖い表情をした。
 先生は渋々正解を語ってやった。
「それは彼女が寂しかったからさ。お前の身を案じ、何度も何度もお前に便りを出していたんだぞ?彼女は」
「う、っ」
 淡々と正解を語るイングラムにゼンガーは戦意を奪われた様に顔に脂汗を浮かばせる。ゼンガー自身もそれは気にしていた事だった。
「だが、お前は何だかんだと理由を付けて、返事を寄越さなかった。だから、キレちまったのさ」
 ゼンガーはまさかそれが原因だとは思いたくなかったらしい。彼らしからぬ楽観が全てに根差していた。
「お、俺も忙しかった。悪いとは思っていたが」
「理由にならん。お前がそうであった様に彼女もそうだった。否……その度合いでは彼女の方が上だった筈だぞ?
テスラ研と極東を行ったり来たりしながら、慣れない子育てに悪戦苦闘しつつ、それでもお前の事を考え、その帰りを待っていた。それを無視するとは良い度胸じゃないか?」
「……!」
 何とか体裁を取り繕おうと思ったゼンガーは誰から見ても苦しい言い訳をした。だが、当然それは先生の発する真実と言う名の槍の前には無力だった。ゼンガーはその重たい言葉に貫かれた。

113差無来!!:2008/01/28(月) 13:14:38 ID:8d0pWAYw

「しょ、少佐……あの」
「ネート女史、此処はきっちり言わせて貰うぞ」
 打ちひしがれた様に動けないゼンガーを心配したソフィアはゼンガーを助けようとするのだが、それを先生は許さない。今は情を掛ける場面ではなく、寧ろ相手に気付かせる事が重要な局面だからだ。
「夫婦間の事なら俺が口を挟む事じゃない。だが、お前達は未だそれ以前だろう?ゼンガー……お前はどれだけこの女に甘えていたか、理解しているのか?」
「それは」
 それが夫婦間の事ならば、それが家庭の事情だと言う事で話はお仕舞だ。だが、ゼンガーとソフィアは仲は良いのだろうがそんな関係では未だない。
 だからこそ、先生は口を挟まざるを得ない。それはゼンガーが望んだ事だからだ。
「そもそも、どれだけ釣った魚に餌を与えていないのかと言う話だ。それでは、女を繋ぎ止める事は出来んぞ」
「ソ、ソフィア?」
「・・・」
 決定的な一言が紡がれた。ソフィアが言おうと思っても言えなかった事を代弁した先生に彼女はうんうんと何度も頷いた。
 ……気のせいか、その瞳には涙が溜まっている様にも見える。ゼンガーは漸く己の浅慮に気付いた様だった。
「つまり、原因はお前の振る舞いにあった訳だ。……半ば、内縁に近い絆の深さなのだろう?為らば、お前はそれを明確な形にして示す冪だった」
「内え……!い、いや待て。俺とソフィアはそんな」
「そう思っているのはお前だけだ。気付けない事もまた罪だと知れ」
「お、俺とソフィアが……」
 此処に居たって何を馬鹿な事を、と先生は思ったが、流石にそれは言わなかった。思っていた以上にゼンガーは女心に疎く、また晩熟の様だ。そうでなくてはこうはならないだろう。
 そして、それを示せなかった事に罪があるというならば、それを購う方法はたった一つだけだ。
「ゼンガー……私」
「ソフィア……」
 ソフィアの瞳が心の全てを語っている様だった。それを認めたゼンガーは自分の矮小さを恥じ、穴があったら入りたくなった。
「気持ちを胸に飼うだけでは何も現実は動かない。以心伝心なんて普通では有り得ない。念動力等の不思議パワーも別にしてな。……それなら、お前はどうする?」
「むう……!」
「為らば、声に出して言うしかない。お前も、何れ言わねばならないと思っているんだろう?」
「あ、ああ」
 それこそが贖罪の方法であり、また罰だ。言う方としては火が出るほど恥ずかしいが、その程度は背負って貰わねば立ち行かない。凌ぐよりは乗り越えてナンボの世界だ。
「今がその時だと言う事だ。いや、遅過ぎる位だな。……好い加減、素直になれよ。それもまた、男の責任でもあるんだぞ?」
 ゼンガーの闘志に火を点けるべく、声援にも似た言葉を先生は送った。そして、それは確かにゼンガーの心に届いた。
「そう、か。そう言う事か」
 先生の粋な男気に心を打たれたゼンガーは、やっと自分がすべき事が見えた様だ。その手の台詞を女から求めるの事は間違っている。だが、それが欲しいからこそ女は待ち続ける。
 ソフィアが待っているのはゼンガーからのたった一言なのだ。ゼンガーはやっとそれを言う決心が付いた様だった。

114差無来!!:2008/01/28(月) 13:15:33 ID:8d0pWAYw
「イングラム、それならば見届けてくれ」
「む?」
 そうして、ゼンガーは立ち上がった。気迫でも使ったかの様に青い炎がゼンガーの背中で揺れている気がした。そして、次の瞬間……
「一意、専心!!」
「なっ!?」「ゼンガー!?」
 ゼンガーはイングラムの銚子を神速の動きで引っ手繰り、その中身を一気に呷った。
 ……嘗て、アラドも同じ事をしたのを先生は覚えていたが、問題なのはそれを今回はゼンガーがやったと言う事だ。酒に壊滅的弱い彼がこんな事をして無事で済むはずが無い。
「ぐっ……ぅ、ぐ……き、聞いてくれ……ソフィア」
「は、はい!」
 マッハを越える速度で酒は全身に回り、理性を、その他諸々の余計な感情を消し去っていく。
 真っ赤に染まりながらソフィアの前に仁王立ちするゼンガーは鬼気迫っていた。ソフィアはゼンガーの言葉を待った。

「俺は、貴方を……あ、愛してい……」

――ドサ
 『る』の一言は紡げなかったが、確かにゼンガーはソフィアに対し、自分の持つ素直な気持ちをぶつける事が出来た。
 そして、ゼンガーはその代償に床へと崩れ落ちた。
「ゼンガー……」
 漸く聞く事が出来た愛している男の言葉。ソフィアは女の幸せを噛み締めていた。
「確かに、見届けさせて貰ったぞ。お前の漢を、な」
 始終を見届けたイングラムは静かに頷くと、倒れたゼンガーの身体を起し、椅子に座らせてやった。
「私も貴方を……愛していますよ」
 カウンターに突っ伏したゼンガーにソフィアは顔を寄せた。そして、その頬に唇を押し付けた。
――ちゅっ
 ゼンガーの頬にはソフィアの唇の形をしたルージュの痕が綺麗に残った。

115差無来!!:2008/01/28(月) 13:16:09 ID:8d0pWAYw
「済まなかった、ネート女史。些か、急ぎ過ぎたのかも知れない」
「いいえ?寧ろ、お礼を言わせて下さい。私が一番欲しかった言葉を、彼の口から聞けた」
 今日の相談室はこれでお開きだ。先生はソフィアに対し謝罪していた。ゼンガーの、そしてソフィアの望む結末を引き入れたとは言え、ゼンガーを煽り過ぎた事は少しだけ後悔していたのだ。
 だが、ソフィアはそれを責める事は無かった。寧ろ、礼を言われてしまった先生はこっ恥ずかしくなってしまった。
「まあ、奴が酒に頼ったのは締まらない結末だったが……次は素面で言ってくれる事を期待しましょう」
「ええ。そうですね」
「為らば、今日は此処までですな。潰れたゼンガーを放置するのは気が引ける。……ネート女史は帰り支度を。俺は勘定を済ませる」
 これ以上、何かをする事は不可能なので先生は勘定の為に席を立った。出来る事ならば、この次は酒に頼らずに男らしく堂々と今日の台詞を言って欲しいと思う先生だった。
「ソ、フィア……俺は」
「帰りましょう、ゼンガー」
 ……だが、そんな日が果たして来るのかどうか。それは誰にも判らなかった。

「ぬう、お、重い」
「あの、平気ですか?」
「な、何とか……ぐっ」
 アフターケアは万全に。ゼンガーの部屋までその部屋の主を背負って帰り道を急ぐ先生は貧乏籤を引いていた。
 ヒリュウから兵舎までは結構な距離があるので実はあんまり大丈夫ではなかったりする。だが、此処まで来て無様を晒すのは先生のプライドが許さないので空元気で何とか答えた。
「……済まん。イングラム」
「お前は寝ていろ。無事に送り届けてやる」
 誰の所為でこんな苦労をしているんだ。イングラムは声高らかに叫びたがったが、やっぱり止めた。安請け合いした自分の落ち度だからだ。
「承知……zzz」
「ね、寝付きの良い奴だな」
「くすくす……大きな子供みたい」
 その台詞に安心したのか、ゼンガーは夢の世界に旅立った。イングラムはその余りの寝付きの良さに盛大に呆れ、ソフィアは楽しそうに微笑んでいた。
「全くです。……でも、好きなんでしょう?この朴念仁が」
「ええ。そうです」
 にっこり微笑んだソフィアの顔は全てを締め括る感嘆符の様だった。ゼンガーが少しだけ羨ましいイングラムだった。


そして……

116差無来!!:2008/01/28(月) 13:17:35 ID:8d0pWAYw
――数日後 再びBARヒリュウ
「あれから進展はあったのか?」
「地道に点数を稼いでいる。目指せマイホームパパ……と言う奴だ」
 醜態を晒したあの夜から数日後。野郎二人は再び因縁の酒場に集まっていた。
「その前に指輪の一つでも買ってやれ。愚図愚図していると後悔するぞ?」
「ああ。肝に銘じる」
「注文は決まりましたかな?」
 流石に前回の二の轍を踏みたくないゼンガーはアルコールに対する備えが万全だった。だが、今の彼は決して茶やミネラルウォーターに逃げたりはしない。
 ショーンの注文に二人は答えた。
「バーボンをくれ。ストレートで」
「ホッピー。ロックでな」
「「!?」」
 先生とマスターの顔がモノクロ表示で驚愕に染まった。
「か、畏まりました……!」
「くっ、くくくく……!」
 盛大に噴出す前にマスターは退散、イングラムは俯いて笑いを堪えようとしたがどうしても口の端からそれは漏れてしまった。
「何を笑っている?」
「いや……安上がりな男と思ってな。奥方の前では止めておけよ?」
「もう手遅れだ」
「そうか」
 別にイングラムは適当に言ったつもりはない。こちらは一本数万円はする酒を空けても満足に酔えない事がある。それなのに酒ですらない飲料で気持ち良く酔えると言うのは酒飲みには経済的に羨ましかったするのだ。
 ……だが、それ以上に絵としては非常に格好悪い。世界中探してみても恐らく、ゼンガーの様な人間は稀だろう。ある意味、天然記念物かも知れない。
「酒を飲むのが、こうも面白いモノとはな」
「良いモノだろう?雰囲気を味わうのも酒の醍醐味だ」
 どうやらゼンガーは酒の味ではなく、酒を飲む雰囲気を理解するに至った様だ。それは先生との出会いがなければ、恐らく得られる事が無かったであろうモノだった。
「そう考えると、俺は大分損をしていたのだな。お前には感謝しなくてはなるまい。……友よ」
「と、友?」
 ……何か聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。先生はゼンガーを見て聞き返した。聞き間違いと思いたかったのだ。
「そうだ。俺が杯を固めたの男はお前だけだからな。……不満か?」
「いや、光栄だ……と、言っておこう」
 残念ながらそうではなかった。……どうやら、この身はイロモノに気に入られてしまったらしい。
 ……否、自分自身がイロモノを通り越したキワモノなのでそれはどうでも良いのだが、先生はどうしてもそれが嬉しくなかった。
「この借りは何れ、な」
「借りに感じる必要は無い。それでも借りだと思うなら、俺の飲み友達になってくれ」
「ああ!」
 力強く頷いたゼンガーはとても嬉しそうだった。だが、先生のテンションはどん底だった。

117差無来!!:2008/01/28(月) 13:18:56 ID:8d0pWAYw
 おまけ

――イングラム私室
「……と、まあそう言う事があった」
 自分の炊事当番をこなしつつ、鍋を煮立たせるイングラムはアラドとセレーナに事の仔細を語っていた。
「あのゼンガー少佐が……ネート博士も少し気の毒かも」
「でも、これからきっとマシになってくっスよ。そうなんスよね?」
「そう思わなければ始まらんだろうな。……むう、甘過ぎるか?」
 あの二人がどうなるのかはお天道様だって判らない事だ。だが、自分が走り回った事に価値があるのならば、せめて丸く収まる事を期待したい。先生はお玉で煮汁を掬い、味を確かめた。
「で、少佐は今日は何を作って?」
「ああ。肉じゃがだが」
 今日は素朴にお袋ならぬ親父の味を追求するイングラム。ただでさえ冷蔵庫にはセレーナが持ち寄った食材が消費される時を待っている。その処分も兼ねてだった。
「げっ!?少佐!その言葉は禁句……」
 だが、その肉じゃがと言う言葉に目を丸くしたアラドは叫んだ。肉じゃがに並々ならぬ執着を見せる人物が居る事を知っているからだ。
――バンッ!
 そうして、その人物は現れた。自動ドアの開閉を無視して無理矢理扉を開いて、イングラムの部屋に突撃してきた人物とは……

「肉じゃがと聞いて飛んで来たわ」

 先生の妹だった。愛しの兄貴が作る大好物はヴィレッタにとっては是非とも食べたい一品だったのだ。
「お邪魔します、少佐」
 そしてオマケがもう一人。ヴィレッタに遅れて入ってきたのはアヤだった。
「うわ、変なのが召喚された」
「うう……俺の取り分無くなっちまうよ」
 呼んでもいないのに現れる事を推参と言うが、ヴィレッタとアヤの行動はそれにばっちり当て嵌まった。
 アラドは頭数が増えてしまった事に悲しくなった。自分に割り当てられる肉じゃがが減ってしまう事は彼にとっては死活問題なのだ。
「お前等……そんなに暇なのか?」
 否、間違いなく暇なのだろう。態々、自分の兄貴(元彼)の下に訪れ、飯を集っているのだからそう考えざるを得ない。
「それはそうと聞いたわ、イングラム。ゼンガー少佐と一悶着あったんですって?」
「何でも、無理矢理お酒飲ませて潰したとか。ショーン副長が言ってました」
 ゼンガーとソフィアとの一件は二人の耳にも入っていた。まあ、彼女達もヒリュウを頻繁に利用するのだから知っていて当然と言えば当然だった。
「何か、歪んで伝わってる?」
「もう一度、説明した方が良いんじゃないスかね」
 だが、聞く限りではどうもその情報は正しい形で伝わっていない様だった。
「面倒臭いな……」
 確かに面倒臭い。だが、ゼンガーとソフィアの名誉の為には説明を省くわけにはいかない。先生は鍋を掻き混ぜつつ、もう一度掻い摘んでその話をしてやった。

「……以上だ」
「へえ」
「そんな事が」
「何も言わなくて良いぞ。感想は聞きたくない」
 肉じゃがの盛り付けを終え、皿を並べた所で先生の話は終わった。情報の歪みが修正された二人は興味深そうに呟く。だが、先生はこれ以上その話を蒸し返して欲しくなかった。
「頂きますっス!」
「あ、こら!遠慮なさいアラド!」
 待ってましたとばかりに自分の皿にアラドは齧り付く。堪らずヴィレッタは叫んだ。多めに肉じゃがを食べたい彼女は大食いのアラドにそれを大量を食べられる事を恐れたのだ。

118差無来!!:2008/01/28(月) 13:19:52 ID:8d0pWAYw
「ちょっと聞いて置きたいんだが」 
「「「「?」」」」
 箸の奏でる音をバックに先生は口を開いた。皆が一様に先生に視線を集中させる。
 先生が言ったのは今回の一件を通過した事で心に湧いた一抹の単語だった。
「お前達、結婚についてどう思う?」
「えっ、け、結婚!?」「しょ、少佐ってば何て事//////」
 その言葉が意外だったのか、セレーナはちょっとだけ噎せ、アヤは顔を真っ赤にした。
「うーん……俺は未だヴィジョンが浮かばないっスねえ(もぐもぐ)」
 最初に答えてくれたのはアラドだった。飯粒を咀嚼しながら言葉を零す彼はあっけらかんとしていたが、些か行儀が悪い。
「だが、もう二年もすれば最悪、お前には伴侶が居るかも知れない。考えて置いて損は無いぞ」
「そ、そうっスね」
 イングラムは冷静に正論と言う名の突っ込みを返した。それに少し戸惑うアラド。……どうやら、心当たりが沢山ある様だ。
「その前に誰かを孕ませる事もあるか。相当、お前は種を蒔いている様だからな」
「いや!それは蒔いてるんじゃなくて、無理矢理搾られてるんスよ!」
 確かにそう言う暗黒時代がアラドにはあった。アイビスを筆頭にオウカとゼオラにも相当搾取されていた事は彼にとっては忘れ去りたい過去だ。
「今は違うだろ?」
「う」
 だが、今のアラドは違う。恐らく、同年代の男と比べ、アラドは女の扱いをかなり心得る。先生の下で修行を積んだ彼は若い太陽になろうとしているのだ。
 先生の言葉が現実になる日が来るかも知れない。……いや、きっと来るのだろう。
「わ、私は……少佐がその気なら、何時でも//////」
「くぉら!セレーナ!よくも私の台詞を!親友とて容赦はしないわよ!!?」
「こう言うのは言ったもん勝ちでしょうが!へへん」
「ぐぬぬぬぬ……」
 で、アラドの後に続いたのはセレーナだった。出鼻を挫かれたアヤはセレーナに噛み付くが、結局ダメージを与える事が出来ずに悔しげに歯噛みするだけだった。
 ……何と言うか、女の必死さが伝わってくる情景だ。婚期の真っ只中にある彼女達にとって、その相手をゲットしようとする様は男には判らない哀愁に満ちている。
 先生はそんな女達の考えを理解する事は無く、のんびり煙草を咥えて先端に火を渡らせる。そんな女二人にアラドはホロリとさせられた。
「そうね。結局は貴方次第でしょ」
「選択権は俺に委ねられるって?」
 最後はヴィレッタだ。彼女もまた婚期の只中に居る以上は必死になりそうなものだが、セレーナ達とは違い彼女は落ち着いていた。
「そうでしょう?……違うとでも言うの?」
「・・・」
「違うなら、言ってあげましょうか?私と結婚してって♪」
 沈黙し、煙草をふかす兄に妹はここぞとばかりに駄目押しを喰らわせる。或る意味、とても男前だった。

「「なぬぅっ!!?」」

 それに黙ってられない女達が異議を申し立てた。
「そりゃ無いでしょ大尉!って言うか、兄妹で何て無理でしょ!」
「籍は別々よ?ほら、苗字だって違うし。何も問題は無いけど」
「そんな屁理屈!」
 ……どうやら、この手の話題は波紋を呼ぶらしい。ぎゃーーぎゃーー喧しい女三匹の寸劇を横目で見つつ、先生は紫煙を燻らせていた。

119差無来!!:2008/01/28(月) 13:20:55 ID:8d0pWAYw
「で、結局、師匠はどう考えるんスか?」
 まあ、どれだけ論争を交わそうが、それを言った本人がどう考えているかを知らなければ話の飛躍は無い。アラドはそれを先生に聞いた。
「……相手に任せたいと言うのが正直な処か。だが、そもそも俺の背負っているモノを考えれば、結婚なぞ出来ないのだがな」
「あ……」
「「「!」」」
 一瞬、場が静まり返った。馬鹿話と思ったが、そんな重たい事が出てくるとは皆が予想出来ない事だった。
 ……因果律の番人としての使命。それに特定の誰かを巻き込む事は相手に人間としての生を放棄させると言う事に他ならない。
 愛等と言う曖昧な感情で相手にその道を選択させる事はイングラムとっては罪悪以外の何物でも無い。彼が結婚を考えない……否、結婚しようとしないのはそう言う事情があるからだ。
「だが」
 先生の言葉には続きがあった。否定接続詞がそれを語っている。
「それでも尚それに踏み切る事があるとすれば……相手が孕んだ時か」
「え?こ、子供が出来たら!?」
「おかしいか?使命を捨てるには十分な理由だと思うが」
 それが今の所の先生の考えだった。優先順位の違いと言う奴だろう。使命は重要だが、最優先事項は他にあると言う事の確かな告白だ。
 子供が出来た場合、伴侶とともに子育てに没頭する。それはイングラムにとっては使命を捨ててでも遂げたい事だった。

「しょ、少佐!何で言ってくれないんですか!子供の一人や二人、この私が直ぐにこさえて……!」
 どうやら、セレーナにはその覚悟が既にあるらしい。何と言うか、見ていて痛々しかった。
「「((がくがくぶるぶる))」」
 此処で何か異議の申し立てをしそうなヴィレッタとアヤは何故かガクガクブルしていた。
「って、どうしたんですか?大尉もアヤも」
 それに異常なモノを感じたセレーナは問いかけてみた。答えは以下。

「無理……絶対、無理!子供が出来る前にこっちが擦り切れちゃうわよ……!」
「壊れちゃう……いえ、壊されちゃう!身体の前に心が……!」

 それがどう言う事かは……まあ、推して知るべし。此処で語る様な内容ではない。
「そ、そんなに、凄いんだ。少佐はベッドで」
「ええ。ヤバイっスよ」
「!?」
 アラドは爆弾を吐いた。セレーナは一歩後ずさった。男であるアラドがどうしてイングラムのそんな事を知っているのだろうかと、悪い意味で怖い考えが浮かんだのだ。
「結果的に女を壊す事に特化してるって言うか……興味本位で手を出したら、火傷を通り越して焼死するっス」
 その理由は至極単純だ。アラドは先生の弟子として、様々な知識や技を受け継いでいる最中だ。その模範演技も当然見たのだ。
「そして、それこそが俺が目指している領域っスよ」
 目標は遥か遠く。至ろうと思って至れる次元ではない。だが、例えそうだとしてもそれを目指す事は無意味ではない。途中で止まってしまったとしても、アラドはそれで良かった。

「……ふゆうう。……やっぱ、年上って良いなあ」
「「「え」」」
 紫煙交じりの先生の一言で再び場が沸く。先生はソフィアに何かしら感じ入る所があったらしい。惜しむらくは、その女が売約済みであると言う事か。
 まあ、ソフィアが先生より年上か否かはこの際置いておくとして、どうやら先生は年上属性らしかった。
 ……そして、女三人には難儀な事実が露呈してしまったのだった。

120名無しのも私だ:2008/01/28(月) 13:35:21 ID:8d0pWAYw
ようこそモイスチャールームへ。
ここはしっとりとした空気が保たれた居心地の良い空間。
イングラム先生が誰かの悩みをしっとり優しく包み込みます。

いままで大分ブランクがあったので次弾投下。

続々々々々々々・イングラム先生のお悩み相談室。

泣いたフーさん。

※読むに当たっての注意
1、少し毛色が違う作品に仕上げました。自己解釈が少しあります。嫌悪感がある方は最初からスルーして下さい。
2、フー姐さんとイングラムの絡みを助長するものではありません。ギャグとして割り切って下さい。

以上を守らずに読んで頭痛や吐き気を催しても作者は一切責任を取れません。不悪。

121Your Body:2008/01/28(月) 13:36:36 ID:8d0pWAYw
 伊豆基地近郊の商店街を先生は歩いていた。この界隈は夜になるとヒリュウやハガネに代表される飲み屋が暖簾を出し、酒を求める人でごった返す。
 だが、昼間である今の時間帯は打って変わって静かなものだ。先生もこの時間から酒を飲むつもりは毛頭無かった。
 それなのに先生がこの場所を歩いているのは、それら酒場とは別の場所を目指す為だった。
 兵舎を離れてから凡そ10分後。奥まった場所にひっそりと佇むその店を見つけた先生は、少しだけ戸惑った様に店のドアに手を掛けた。
「本当は、来たくなかったが……儘よ」
 弱気な心を気合で捻じ伏せ、煙草を咥えると、先生は素早く店の中に入った。
 その店の名は喫茶TIME DIVER。先生の弟分(?)が経営する流行らない喫茶店だった。

――カランカラン♪
 来客を告げるドアベルが鳴る。店員は直ぐには出て来なかった。
 こじんまりとした小さな店だ。木製の家具がレトロでシックな雰囲気を醸し出す。何処か、ヒリュウの空気に通じるものがこの店にはあった。
 壁掛け時計がカチコチ音を鳴らし、年代物の蓄音機が我が者顔でスペースを取っている。そして、壁際にあるガラス張りの大きなドレッサーには何故か特撮ヒーローモノのグッズが飾られていた。
――パタパタパタ…… 
 漸く来客に気付いたのだろう。店の奥から店員が奏でるスリッパの足音が聞こえて来た。
 出迎えてくれた店員は先生の知った顔だった。
「いらっしゃいませ〜〜」
 メイドっぽい制服に身を包んだバイトのアイビス=ダグラスだった。
「よっ」
 しゅた。片手を上げた先生を見てアイビスは顔を引き攣らせた。
「げっ」
「……客に対して良い度胸だな」
 開口一番、汚物を見る様に呟くのは如何なものか?どうやら、この店は店員に対する教育が行き届いていないらしい。
「う、ごめんなさい。……よ、ようこそいらっしゃいました少佐」
「今更、取り繕ったって遅い」
 営業スマイルを張り付かせたアイビス。だが、その顔はスマイルを作る事は無く、逆に引き攣ってしまった。
「そ、それにしても珍しいですね。少佐がうちに来るなんて。店長に用事ですか?」
「いや、目当てはクォヴレーじゃない。別のな」
 実際、先生がこの店を訪れたのは初めての事だ。それが珍しかったアイビスはてっきり先生が彼の弟である店長に用があると踏んだのだろうが、それは間違いだった。
「喫煙席……なるべく端っこが良いが、頼めるか?」
「あ、はい。こちらへ」
 アイビスに誘導され、狭い店内を移動する先生。アイビスの手付きは結構手馴れていた。

122Your Body:2008/01/28(月) 13:38:07 ID:8d0pWAYw
「少し、待ってて下さい。メニューをお持ちしますので」
「いや、注文は決まっている。アイスコーヒーだ」
 先生が通された席は窓に近い小さなテーブル席だった。何処か隔離された様なその場所はトイレの直ぐ前にあった。
 メニューを持ってくるために奥に引っ込もうとしたアイビスに先生は早速注文を申し付けた。
「え、あ、アイスコーヒーですね。……えと、ミルクとシロップは」
「一切無し。無糖で頼む」
 この注文は元々決まっていたものだ。ある人物を引っ張ってくる為に必要なファクター。まあ、そうでなくても先生はコーヒーを頼もうとしていたのだが。
「かしこまりました」
「待て」
「え?」
 注文を聞いたアイビスは今度こそ奥に引っ込もうとするが、今度は先生がそれを止めた。アイビスは慌てて振り返る。
「アラドとはどうだ?最近」
「!?」
 からかい序に先生はアイビスのその後の経過について聞いてみた。アイビスは予想外な言葉に慌てた。
「上手く行ってないのか?」
「あ……」
 少しだけ表情を曇らせたアイビス。何故かその仕草は犬チックだった。
「ぜ、全然逢えなくて……寂しいです。あたし、嫌われちゃったのかな」
「以前の様に気軽に会えない、か。ま、当然だな」
 前は頻繁にアイビスはアラドに会えていた。一緒に訓練をしたり、街に遊びに出たりと言う事が沢山あった。だが、あの一件の後、二人の間は少し気拙い。
「俺が会わない様に釘を刺しているからな」
「あんたの仕業ですか!」
 だが、原因はそれだけではない。先生は自分の下に転がり込んだアラドにそれを徹底させていたのだった。
「もう好い加減にアラド、返して下さいよお。禁断症状が出そうですよお」
「フッ……そう思うなら、以前の様に無理矢理誘惑してみれば良いのではないか?年上の持つミリキと言う奴でな」
 本気で瞳に涙を溜めたアイビスは子犬と言う表現が良く似合う。先生はつい苛めたくなって、煽る様な台詞を吐き掛けた。
「ふえぇ!?」
「だが、今のアラドを以前と同じと思うな?嘗ての三倍増しの性能だ。……今のアラドは強いぞ?」
「……//////」
「返り討ちを辞さないならそれは認めよう。だが、もう少し待ってくれるなら、アラドはきっと野に放つ。……好きな方を選べ」
 真っ赤に染まるアイビスは嘗て、自分がどれだけはっちゃけていたのかを思い出し、その光景に酔っている様だった。
 彼女がまた同じ過ちに出るのかは知らないが、先生監修で強化されたアラドはメカギルギルガン並の強さを誇り、わんこには敵わない相手にまで成長している。
 そして、先生は最終的な決断をアイビスに任せた。後もう少しで仕込みの一部は終了する。そうなった時には、再びアラドを彼女達に引き渡そうとイングラムは決めていたのだ。
「少佐の意地悪」
 ぐすん。涙を呑んだアイビスは捨て台詞を吐いて退散した。アイビスは待つ方を選択した。
「賢い選択だ」
 わんこを退けた先生は不敵に笑う。彼女に胸の事を相談されたのが随分昔の事の様に感じる先生だった。

123Your Body:2008/01/28(月) 13:39:58 ID:8d0pWAYw
「ふゆうう……」
 新しい煙草を咥えた先生は脚を大きく投げ出して煙を天井に吹き掛けた。……知った人間が居る店ではこう言う雑談が可能になる。中々それも面白いと先生は思ってしまった。
 TIME DIVERがどれだけ儲かっているかは知らないが、この店は結構従業員を雇っている。その先生が知る人間も少しだが居る。
 今のアイビスに、店長のクォヴレー。自分が追いかけてきた人物。
「それだけ、か。……いや、後はアイツか」
 その三人で全部と思った先生はもう一人だけ知る人間が居る事を思い出した。
「……む?」
 その人間の顔が頭を通過しそうになった時、店の奥からその人物が丁度現れた。
「……?」
 その人物は奥の席に座る先生が最初誰だか判らなかった。
「!……お前は、イングラム?」
 だが、それも一瞬で、その特徴的な青ワカメを思い出した様に大きな声を出した。
「久しいな。フォルカ=アルバーグ」
 赤い髪の世紀末救世主。某一子相伝のイカサマ拳を会得してそうな修羅ノリスケが先生の知るもう一人だ。
 嘗て、彼は兄の事で相談してきた事があった。
「あ、ああ。久し振りだな。……お前が此処に茶を啜りに来るとは、クォヴレーに用なのか?」
「違う。用事は別の奴に、な」
 フォルカにまで同じ事を言われてしまった。どうやら、ここに自分が居る事はクォヴレー繋がりだと誰もがそう思ってしまうらしかった。
「そうなのか?まあ、俺にはどうでも良い事だが」
「そうとも言うな。で、お前は今日は上がりなのか」
 まあ、確かに先生が誰と会おうがフォルカには関係の無い話だった。
 だが、そんな事よりも先生はフォルカの服装が気になった。この店の制服ではなく、彼本来の私服を見に纏っていたのだ。
「ああ。今日は兄さんと出かける用があってな。少し早いが上がりにさせて貰った」
「アルティスとな。……そう言えば、閃光と氷槍のその後はどうなのだ?全く情報が入ってこないのだが」
「兄さんとメイシス?……ああ、以前に増して仲は一層良い。あの時、拗れたのが嘘の様だ」
「上手く行っている、か。それは善哉だな」
 一時期、不協和音が鳴っていたアルティスとメイシスの仲をフォルカ経由で取り持った事がフォルカとの馴れ初めだ。
 あの後全く音沙汰が無かった事象だけに、先生は心配はしていたが何時の間にか忘れ去っていた。その予後を良い形で時を越えて聞けた先生は微笑んだ。
「お前の御蔭だと俺は思っている。あの時のお前の言葉……今では理解出来る様になった」
「それは結構な事だ」
 フォルカも様々な出会いを経験し、修羅としてではなく、人間として成長した様だ。拳で全てを解決しようとしていた嘗ての暴れん坊はもう居なかった。
「まあ、ゆっくりしていくと良い。俺はこれで」
「ああ。また、な」
 急いでいるのかは知らないが、フォルカは踵を返して店を出て行く。先生はその背中を見送った。
――カランカラン……バタン

「……次期修羅王候補がこんな場所で給仕の仕事か。世紀末ではないが、世が末っぽいな」
 あんなのだが、フォルカの修羅としての実力は折り紙付きだ。アルカイドにも迫ると言われる修羅界のビッグネームがこんな所でのらりくらりしているのは何か間違っていると先生は思った。
――カランカラン
「ぬう?」
 ……と、そんな事を思っているとドアベルが鳴る。それにハッとすると出て行ったはずのフォルカが何故か戻ってきた。出て行ってから30秒と経ってなかった。
「済まん、言い忘れた事があった」
 アルティスとどうのこうの言っていたが、実はあんまり急いでいないのか、フォルカは実にマイペースだった。
「あ、ああ」
「アリオンに見かけたら言っておけと言伝を預かっている。『偶には飲みに誘え!』……以上だ」
「了解した。……それを態々言いに戻ったのか?」
「そうだが」
 良い人だ。加えて、律儀だ。そのフォルカの心意気に頭が下がりそうに先生はなった。
「解かった。まあ、そうなったらアリオンの他にお前も誘おう。プロテインに逃げる事は許さんから、覚悟しておけよ?」
「楽しみにしている」
 今度こそフォルカは帰る気の様だ。飲みの約束を取り付けた先生は今度は無言でフォルカを見送った。
――カランカラン……バタン
「忙しい奴だ。全く」
 忙しい、と言うか落ち着きが無いと言うのが正しい表現かも知れない。
 その落ち着きの無さは雲の人っぽい……そして格好良過ぎる人っぽいアリオンにも負けていない。
 まあ、彼等と飲む事があるなら上等な酒を振舞おうと心に決めた先生だった。

124Your Body:2008/01/28(月) 13:41:43 ID:8d0pWAYw
「しかし、中々来ないな」
 フォルカが出て行ってから五分は経過していた。アイビスに注文してから数えると10分はゆうに経っている。
 アイスコーヒー一杯に何を手間取っているのか判らないが、些か時間が掛かり過ぎの様に思える先生。
「・・・」
 まあ、しかし、今は先生にはそっちの方が都合が良い。目当ての人間が現れた時、どう声を掛けるか先生は決めていなかったのだ。
 その人物との馴れ初めは丁度二日前の夜。お世辞にも艶っぽい出会いとは言えないモノだった。先生はその時の事を思い出していた。

――二日前 BARヒリュウ
 その日は生憎の雨模様だった。仕事が長引き、閉店時間の少し前にヒリュウへ駆け込んだ先生は自分の定位置に向かい、歩を進めた。
「む」
「ああ、少佐。いらっしゃい」
 マスターであるショーン副長がそう声を掛けてきた。だが、先生はマスターの言葉は耳に入らなかった。それもその筈だ。
「……ひっく」 
 自分の席……ヒリュウの主専用と暗黙了解があるその席には既に先客が居たのだ。そして、その人物は相当に酒に酔っている様だった。
「ああ……残念ですな。少佐の席は今日は塞がっています」
 何となく不機嫌な先生の空気を察知したマスターが慰めの言葉を掛ける。
「まあ、仕方が無い。俺専用ではないからな。……その隣を頂こう」
 目当ての席は得られなくとも、出来るだけそこに近い席へ。先生は普段は自分の席である場所の隣にどっかり腰を下ろした。
「ん……?」
「・・・」
 当然、先生はその人物とばったり目が合ってしまった。
「あら……良い男が座ってきましたわ」
「お前は……」
 その人物は酒に酔ったと思われる胡乱な表情と共に口を開く。先生の耳に聞こえて来たのは女の声だった。
 一瞬、男と見紛う麗人。先生の友であるアル=ヴァンと同様のペイント(タトゥー?)を顔に施し、老竹色の髪を後ろで束ねた女だ。
 髪色と同じ瞳を焦点が合わないかの様に彷徨わせる、フューリア聖騎士団の一番隊長。その名は……
「フー=ルー=ムールー、か」
 先生はその人物がフー=ルーであると一発で分かった。直接の面識は無かったが、彼女はフューリー関連の兵器のオブザーバーとして頻繁に極東基地を訪れて居る。
 また、偶にではあるがアグレッサーとして連邦軍の模擬戦に参加する事もあるホーリーオーダーの古参だった。
「私を御存知?ええっと、貴方は、確か……誰だったかしら。顔は覚えているのに」
「イングラム=プリスケンだ」
 どうやら、フー=ルーは先生の事を知りつつも思い出せないらしい。様々な方面で活躍中の先生を知らない者は最早居ないのかも知れなかった。
「イングラム……ああ。あのビトレイヤーの」
「……!」
 で、名前を聞いて思い出したフー=ルーはあろう事か先生に禁句である言葉を吐いた。『裏切り者』と。マスターはカウンター越しにそれを聞いて、冷や汗を顔に張り付かせた。
「そうだ。だが、それは昔の話だ。今はすっかり改心した」
「ふぅん」
「……ほっ」
 だが、先生はそんな言葉には動じない。そして、怒る事も無かった。それを飲み込んで今の自分の実情を語る。
 ショーンは安堵の溜息を吐くと、そそくさと先生の酒を準備し奥に引っ込む用意をした。……心臓に悪くて見ていられなかったからだ。

125Your Body:2008/01/28(月) 13:43:43 ID:8d0pWAYw
「それで、どうして私の隣に?」
「お前の席は普段俺が座っている席でな。その近くに座りたかっただけだ」
 酒を手渡し、逃げる様に奥に引っ込んだマスターが少し気になった先生だったが、直ぐにそれは別の思考に上塗りされた。フー=ルーが絡んで来たからだ。
 先生は正直な所を口にする。
「あら、残念。てっきり口説きに来たとばかり思ったのに」
「ハッ、お前を口説いてどうする。下半身で繋がるのか?それとも、どちらかが死ぬまで斬り合うのか?」
「く、ふ、フフフ……!」
 フー=ルーは酒によってハイになっているらしい。妙に怪しい台詞を口走った。無論、それが判っている先生は逆に挑発する様な台詞を以って返す。酔っ払いの相手なぞしたくない気分だった。
 だが、それは逆効果で、フー=ルーに火を点ける結果と相成った。危険な笑みが彼女の口から零れ、瞳が不気味に揺れた。

「ふっ、ふふ。良く御存知の様ね、私を」
「噂位は聞いているさ」
「私も貴方のお噂はかねがねと。実に……私好みの男性ですわ」
 彼女の事に付いてはアル=ヴァンから聞いていた先生。曰く、死に場所を求め戦場を駆ける女修羅。慕う者は多いが、それ以上に畏怖される事の方が多い聖騎士団の或る意味、顔だった。
 そして、それはフー=ルーも同じだった。イングラム=プリスケンに纏わる噂。先生としての華々しい成果の裏に見え隠れするどす黒い噂だ。
 曰く、イングラム=プリスケンは汚い仕事に手を染めている。夜な夜な街に繰り出しては犠牲者を出し続けている。血の雨を降らせ、人体を壊体する事を無上の喜びとしている……等だ。
 その殆どは根も葉もない噂だが、一部では信憑性のある興味深い証言が寄せられていた。
「御託は良い。と言うか、お前が俺を口説いてどうする」
 だが、先生はそんな与太話を聞くつもりは毛頭無い。フー=ルーの瞳の色に気付いている先生は、面倒だがさっさとそれを済ませたかった。
「それ為らば、話が早いですわ。私が選ぶのは……」
 にっこりと微笑んだフー=ルーは椅子から立ち上がった。

「後者でしてよ」

 そして、彼女は次の瞬間にはイングラムの咽喉下に刃を突付けていた。刀身にBARの薄暗い照明が当たり、光を鈍く照り返す。
 若干長めの、細身の剣。どこから取り出したか判らないそれはレイピアと呼ばれる類の刺突用の剣だった。

126Your Body:2008/01/28(月) 13:46:26 ID:8d0pWAYw
「・・・」
 完全に取った。フー=ルーはそう確信していた。だが、彼女を以ってしても目の前の男は相手が悪かったと言わざるを得ない。
「……くっ」
 それは間違いだったとフー=ルーは思い知らされた。
――ゴリッ
 硬く冷たい鉄の感触が額から伝わってくる。それもその筈だ。咽喉下に刃を突付けるより一瞬早く、イングラムはフー=ルーの頭に銃を突付けていたのだ。
「フッ……だと思ったぜ。狂犬が」
 マッドなマックスが使っていそうな銃身を切り詰めた水平二連ショットガンがイングラムの手には握られていた。……これもまた、どこから出したのかは不明だった。
「噂は……事実の様ね。その噎せ返る様な血の匂い……年甲斐も無く、身体が熱くなりますわ」
 先に動いた自分より早く、銃を構えたイングラム。それはつまり、反応速度の上をいかれたと言う事だ。先の後を取られたフー=ルーに勝ち目は無いのは明白だった。
「危ない真似は止めておけ。こちらに安全装置は付いていない。この距離ならば、俺が引き金を引く方が早いぞ?」
 この至近距離では近代火器には勝てないとイングラムは言いたい。こんな零距離で散弾を浴びれば、フー=ルーの頭は柘榴の様に吹っ飛ぶのだ。
「……その様ですわね」
 そうしてフー=ルーは格の違いを見せ付けられ、敗北を認めるかの様に静かに剣を下ろす。
「フッ」
 その一連の動作の最中、イングラムは感情が全く見当たらない笑みを張り付かせる。 
「なっ!?」
 そして、それと同時に引鉄に掛けられた指に力を込めた。
 フー=ルーはそれに気付き叫んだが、全ては遅かった。
――カチリ
 引鉄が引かれ、ハンマーが落ちる。……だが、その衝撃が雷管を撃発させる事は無かった。マズルファイアも、銃声だって無かった。
「!!…………?」
 フー=ルーは身を縮め、ギュッと目を瞑っていた。だが、何時になっても真の死が訪れない事を不審に思った彼女はそっと目を開ける。
「BANG!これで一度死んだぞ?フー=ルー=ムールー」
 目の前に銃なんてとっくの昔に無かった。片手を銃の形にしたイングラムがからかう様な声を飛ばしていた。
 ……そう。最初から弾など込められて居なかったのだ。それにやっと思い至ったフー=ルーは自分が呼吸する事すら忘れていた事を思い出した。
「はっ、はぁ……は……はあ」
 急いで酸素を取り込むと、味わった恐怖を体現するかの様に大量の汗が全身から噴出す。全身に回っていたフー=ルーの酒が一気に飛んだ。
――カラン
 フー=ルーは戦意を喪失し、その得物を床に取り落とす。だが、今はもうそんな事はどうでも良かった。

127Your Body:2008/01/28(月) 13:47:59 ID:8d0pWAYw
「……私の事はフーで結構ですわ、イングラム=プリスケン」
「なら、お前も好きに呼べば良いさ」
「では、少佐と」
 ニアデス半歩手前の状況から生還し、何とか落ち着きを取り戻したフー=ルーは椅子に座り直してそんな事を言っていた。この男には勝てないと言う事が魂に刻まれたらしい。 
 フューリー縁の者は自分に噛み付く習性があるらしい。そんな事を思いながら、自分の酒(アイリッシュ)を舐めた先生。
 ……酒を飲みに来たのにこんな物騒な思いをさせられるのは懲り懲りだとも思った。
 そして、副長が奥に引っ込んでいてくれた事は幸いだった。そうでなくては出入り禁止を喰らっている所だったのだ。
「掴み処の無い方。殺気も何も無く引き金を引くなんて……」
「無駄を削ぎ落とした結果だ。これでも、何度も生と死の狭間を越えてきたのでな。戦いの遍歴は魂に刻まれているんだ」
「……?」
「言った処でお前は理解出来んよ。まあ、俺は真っ当な死に方が出来なくなってから随分経つって事だ」
 フー=ルーは何処か羨望が、そして一抹の恐怖が混じった視線で先生を見た。
 引鉄を引くというのは相手を害する、若しくは命を奪う行為だ。実弾装填か否かは関係無い。それを成すに当たっては確実に感情の起伏や揺らぎが生じるものだ。
 だが、先生にはそう言ったものが一切感じられなかったのだ。その行為は一瞬だったが、間違いは無い。フー=ルーにはそれが気になったのだ。
 しかし、先生はそう言っただけで詳しい説明をしなかった。したくもなかった。

「まあ、俺の事は良い。それにしてもお前は……もう少しマトモな女と思ったのだがな」
「女は秘密を持つ生き物ですのよ?幻想を抱けば、大火傷を負いますわ」
「知っているさ、そんな事は」
 やっとペースが戻ってきた先生は相談事を受ける時の様に煙草を取り出して吸い出した。
 ……フー=ルーが暴力に訴える女だと言う事は知っていたが、こうも短絡的な行動を取るとは先生も思わなかったのだ。
 そして彼女は薄く笑って正論を述べた。だが、先生はそんな当たり前な事は判りきっているのだ。
 相手が自分と同じ人間である限り、幻想を持つのは間違いである。相手は自分の脳内に都合良く描いた偶像と同じ動きはしてくれないからだ。
 それなのに自分に都合の良いヴィジョンを求めれば齟齬が生じる。だからこそ、先生は他人に一切の幻想は抱かない。ただ、あるがままを受け入れるだけだ。
「だが、誰彼構わず噛み付くのは考え物だな。若し、俺が修羅王様だったら無事では済んでいないぞ?」
 修羅王アルカイドと言うのは些か極端かも知れないが、これで相手が修羅の将軍クラス……若しくはリシュウクラスの人間だったとしたらフー=ルーは危ないだろう。
 機動兵器の扱いには長けても、生身同士のぶつかり合いに於いてはフー=ルーは余り長けてはいない印象を先生は受けた。……ゼンガーやムラタクラスならば良い勝負かも知れないが。
「闘う相手位は選びますわ。そうしなければ無駄に命を散らしてしまいますもの」
「では何故俺に?……未だ酔っ払っているのなら、これ以上呷るのは止めておけ」
 一瞬、阿呆か貴様は……と先生は思った。こんな場末の酒場での安い斬り合いで命を散らすのが本望だったのか、と先生は本気で説教をしたかった。
 事実、先生が本気ならばフー=ルーは今頃、物言わぬ蛋白質の塊として病院に搬送されているのだ。
「そうかも知れませんわね。若しくは……貴方の血の匂いに狂わされたのかも」
「・・・」
 フェロモン香水かよ、と心で毒づく先生。拭おうと思っても拭える類のモノではないので半ば先生は諦めているが、その臭いが時折誘蛾灯の役割を果たすのは困りモノだ。
 掛かる火の粉を払えている裡は良いが、そうできなくった時はこの身が血に染まる番なのだ。……まあ、そんな心配は先生はしていないのだが。

128Your Body:2008/01/28(月) 13:49:00 ID:8d0pWAYw
「どちらにせよ、闘うに相応しい相手に命懸けの戦いを挑み、燃え尽きるのが私の望み。勝ち負け、生死の結果は私にはどうでも良い事ですのよ」
 酒をタンブラーに注ぎながら、フー=ルーは自分の心根を語った。それは自分の生き様、望みと渇望が入り混じる濁り切った誇りだった。
「俺がそうだった、と?」
「そう思いましたわ。でも、それは間違いだった。私では手に負えない。アル=ヴァン殿が警戒するのも納得ですわ」
 そして、その相手に選ばれた……フー=ルーの眼鏡に適った先生は只管に運が悪かった。命懸けの戦いを渇望するなら、せめて自分の見えない所でやってくれと先生は切に思った。
「ああ、前はそうだったな。今はそんなに警戒されてはいないが」
「あら、お知り合いだったんですの?」
「飲み友達だ。カルヴィナも含めて。昔、ちょっとあってな」
「意外ですわね」
 それもまた古い話だが、確かにこの酒場でアル=ヴァンとカルヴィナに出会った時、彼にはそう思われていた事を先生は覚えていた。
 だが、今はもうアル=ヴァンは先生の友人として敵意やら何やらは手放して久しい。フー=ルーはそれが信じられない様だった。

「しかし、勿体無い事だな」
「何が、ですの?」
「お前の事だよ、フー。その美しさを持ちながら、闘う事以外に悦を見出せないとは」
 そして、先生は何時もの洗脳トークに持っていく。別にフー=ルーがそれを望んだ訳では無いが、今回はのそれは先生の独断だった。
 確かに、フー=ルーは男前だ。だが、それ以上に美しい。生き様やら在り方やらそう言うモノを含めた先生の評価だが、先生は彼女のその在り方が間違っている様に感じた。
「憐れだ……そう仰りたいの?」
「ああ、是非そう言いたいね。お前の生き方を否定するつもりは無い……と、言いたいが、俺はその結末を知っているからな。言わざるを得ん」
「それは、何ですの?」
「何も無いぞ?無明……否、ヴォーダの闇と言った方が解かり易いか。若し、何かそれ以外にあるとするなら、それは痛みと苦しみだけだ」
「・・・」
 まるで、実際に見てきたかの様に先生は語った。その一言一句にはリアリティがあり、フールーはそれに聞き入る。
「修羅道の行き着く果てはそんなモノだ。自分の骸を抱いて価値の無い人生を振り返る。俺には、お前のそんな終焉が見える」
「何故、そう言い切れますの?」
「俺もまた、修羅の巷に居た。別の世界でな」
「え?……それでどう、なりましたの?」
「今言った通りだ。死体になってお仕舞。気が付いたら、その記憶を継いで別の場所で目を覚ましたんだがな」
「少佐、貴方は……」
 ほんの少しだけ、タイムダイバーとしてのこれまでの自分の生き方とその末路を先生は語った。
 フー=ルーは親近感とともに底知れない何かを先生に感じ取った。
「その生き方に誇りを持ってはいた。殺し屋の名誉。死すべきは我らなり、と。……手元に残ったのは、研ぎ澄まされた人殺しの術だけだったが」
 実際にこの身に起こり、そして降りかかった人殺しの連鎖。そう自分がならなくては続けていく事など叶わなかった長く終わりの無い、旅路。
 そして、今も先生は因果律の番人として平行世界と言う名の裏街道を流離っているのだ。終わりが無い事が終焉と言うならば、先生にとっては生そのものが牢獄と言っても過言ではない。
「闘うのは楽しかった。誰かを殺めるのも楽しかった。……そうならなくては、その生き方を続けては居られなかった。だが、今の俺はそれに何も感じない。飽きちまったのさ」
「・・・」
 だからこそ、先生は闘う事に快楽を求めた。そして、その時は確かに楽しかったのだ。だが、それも何度と無く繰り返す裡に飽きてしまったのだ。
 嘗ては、その生き方に身を染めつつも、今となっては勝ちも意味も見出せない生き方。そして、フー=ルーはそんな不毛の道の入り口に立っているに過ぎないのだ。 

「お前も、そうなんじゃないのか?」

129Your Body:2008/01/28(月) 13:50:47 ID:8d0pWAYw
「あ……」
 心を全て見透かす様な蒼い瞳をフー=ルーは直視出来なかった。
 ……初めは、家名やら騎士の名誉の為、我武者羅に剣を振るっていた気がする。
 だが、何時の間にか闘う事それ自体に意味を求める様になった。果たして、それはどうしてだったのか?フー=ルーは耳を塞ぎたくなった。
「闘いに殺し合いに何らかの意味を求めている。だが、闘いも殺し合いも傷付け、殺し合う以上の意味なぞ無い。それ以外の何かを期待する時点で間違いだ」
 戦いも殺し合いも本質は同じものだ。相容れない他者同士の思考のぶつかり合いが武力衝突した時にそれは起こる。その大小や大儀の有無に関係なく、どんな些細なそれでも勝者は何かを得、敗者には何か失うものがある。命と言うモノがその最たる例だろう。
 だが、戦う事と命は別の物差しだ。そして、それは何も命に限った話ではない。フー=ルーが得ようとしているモノだって戦いとは別の価値を持つモノだ。例え、戦いの中でそれを得ようとして、借りに得られたとしても所詮それは虚妄に過ぎないのだ。
 そして、先生はそれを良く知っている。残念な事に、残酷な事にそれは真理だ。
「!」
 フー=ルーにとって最も聞きたくない台詞が紡がれる。己の生き方を全否定するその言葉。だが、それを跳ね除ける事は出来なかった。
 ……闘う事に苦痛を感じたから、無理を感じたから、そう思う事で逃げようとしていたのではないのか?
 それこそが、この歪な在り方の始まりだった……フー=ルーは自分でも気付こうとしなかったその発端を強制的に理解させられた。
「なら、そんな無理な生き方は止める事だ。……生きて咲いて枯れてこその人生。命を燃やしたいのなら、何か別のモノに賭ける冪だな」
 それが止めの台詞だった。フー=ルーの中で今まで築いてきた自分の価値観や世界観がガラガラと音を立てて崩れていった。

「私は、それ以外の、生き方なんて……」
「逃げるな、フー。月並みだが、生きる事もまた戦いだぞ?一見、平穏そうに見えてそうではない。それを自分の望む形に彩るのは死地から生還するより難しい事だ」
 フー=ルーは打ちひしがれていた。只管に女々しく弱々しい、親からはぐれた子供の様な頼りなさがひしひしと伝わってくる。
 先生はそんなフー=ルーに慰めの言葉は掛けず、更にその尻を叩く様な発言をした。
「緩やかに、それに埋没していくのも良いじゃないか。……なに、お前なら直ぐに順応出来るさ。器量は良さそうだからな」
「そんな……」
 派手さは無くとも、穏やかに平和な暮らしを満喫するのも一つの選択だと先生は優しい口調で言ってやる。
 そこはかとなく褒められたフー=ルーは戸惑いがちに視線を泳がせた。……どうやら、彼女は本格的に口説かれたのは初めてだった様だ。
「どうせなら、今迄見ようとしなかったモノに手を出してみるのはどうだ?例えば、女の幸せについて……とかな」
「わ、私を……口説いてらっしゃる?」
 何処からどう見ても先生はその様にしか映らない。女心を理解しようとしない先生だが、どうしてか女そのものの扱いには長けるのはこれ如何に?
「そう聞こえるのか?お前は」
「え、えーと//////」
 ズイッ、と先生が顔を寄せるとフー=ルーの顔は真っ赤に染まった。実に判りやすかった。
「そんな訳無いだろう。第一、面倒臭そうだ。俺に出来るのは……イカサマトークだけだ」
 だが、先生にその気はなかった。此処まで引っ張って置いてそりゃないだろと言いたいが、面倒臭がりの虫が此処に至って発動してしまった。
「ふふ……面白い方ですのね、イングラム少佐」
「皮肉として、受け取って置こう」
 相変わらず赤い顔のまま微笑むフー=ルーに先生は素直じゃない言葉を吐いた。だが、先生のその顔は何処か優しげだった。

130Your Body:2008/01/28(月) 13:52:10 ID:8d0pWAYw
 先生が愚痴序に開いた強制的な相談室は此処で閉幕……とはならなかった。

――二時間後
「糞……何でこうなる!」
「くーー……くーー……」
 酔い潰れたフー=ルーをおんぶした先生は小雨のぱらつくBARの外に放り出されていた。
 看板の時間が来てしまったので、中には留まれないので先生は有り難くない事に、フー=ルーの面倒を押し付けられてしまったのだ。
「仕方がないな、これは……えーと」
 このままこの女を路地裏に捨てて帰るのも吝かでは無いと先生は思ったが、それは可哀想なので止めてあげた。
 取りあえず、自分の部屋に連れて帰ろうかとも思ったが、それも憚られた。今日、先生の部屋にはアラドが居るのだ。弟子に誤解されるのは勘弁だった。
 先生はフー=ルーを彼女の部屋まで連れて行く選択しか出来ない。だが、彼女の部屋の場所を知らない先生は切り札を持ち出した。ピッピッピッ……Dコンのキーを弄り、とある場所に電話を掛ける先生。
「もしもし?……ああ、俺だ。こんな時間に済まんなアル。実はな……」
 その場所とは先生の飲み友達であり、フー=ルーと職場を同じくするランクス夫妻宅だった。
「……ふう。今日は部屋で大人しくしている冪だったのかも知れんな」
「むにゃ……」
 掻い摘んだ説明をして、何とか場所の特定は完了した。後はこの馬鹿女を塒にお届けするだけなのだが、もう先生はそれすら面倒になっていた。そして、今更そんな事を言っても後の祭りだった。


「思い出すだけで忌々しいな。何で俺があそこまで」
 二日前の出来事を頭に思い浮かべ、その理不尽さに頭が沸騰しそうになった先生だったが、煙草を一吸いして何とか落ち着いた。
「だが……いや、止めて置こう」
 言った所でどうしようもない事が次々と頭に過ぎる。しかし、落ち着いた先生はそんな事に心は割かなかった。

131Your Body:2008/01/28(月) 13:53:08 ID:8d0pWAYw
 ……そうしていると、漸く注文がやってきた。
 パタパタと足音を響かせながらやって来るフー=ルーの手にはアイスコーヒーの乗ったトレイが乗っていた。
「お待たせ致しまし……あ、あら?」
「やっと来たか。……よう、フー」
 先生の顔を見たフー=ルーが吃驚した表情を晒す。来るのが遅いよ、と先生は言いかけたが途中で口を噤んだ。
「しょ、少佐!?ひょっとして、私を訪ねてくれたんですの?」
「ああ。あの後どうなったかが気になってな。思わず、仕事場に押しかけてしまった」
「態々、私を心配して……」
 トレイをテーブルに置いたフー=ルー。アイビスの様なメイドっぽい格好ではなく、若干スカート丈が短い普通のウェイトレスの格好をフー=ルーはしていた。
 先生はフー=ルーの問いに正直に答えてやる。すると何故か、フー=ルーは嬉しそうな顔をした。 
「いや、アフターケアは万全にと言う奴だ」
「はあ、そうですの……。取り合えず、昨日一日は死んでましたわ。お酒が残ってしまって」
「やっぱりな。お前、余り酒には強くないぞ?もう少し飲み方を心得る冪だな」
 何だか良く判らない取って付けた様な先生の言葉に一瞬、怪訝な表情をしたフー=ルー。
 先生は次は無いぞ、とでも言いたげにフー=ルーを窘めた。
「ええ。気を付けます。……ええと、少佐?」
「うん?」
「有難う御座いました。送って頂いて」
「ああ……」
 そして、フー=ルーは二日前には言えなかった言葉を先生に呟く。それを受けると先生は少し恥ずかしそうに視線をずらし、頬を掻いた。

「むう」
 先生は運ばれてきたアイスコーヒーに口を付ける。ストローは使わずに直飲みするのが漢スタイルなのか、グラスを傾けその黒い液体を口腔に少し満たした。
「如何ですか?当店、そして私の自信作ですのよ」
「……む、むう」
 自信あり気にフー=ルーは口上を垂れる。先生もまたTIME DIVERのコーヒーの味については聞いていた。曰く、それは絶品であり、フー=ルーが淹れたそれは既存のコーヒーの味を崩すものだと。
 事実、先生はそのコーヒーを楽しみにしていたのだ。……だが、その先生の表情は険しかった。
「豆は、何を?」
「コナとキリマンジャロ、マンデリンのオリジナルブレンドですのよ」
「・・・」
 えもいわれぬ味がした。確かにこれはコーヒーだ。だが、明らかに混じってはいけないモノの味と香りがするのだ。
 具体的に言えば……オイル?先生はすぐさまそれを吐き出したかったが、フー=ルーに悪いので何とか口に入れた分を嚥下した。

132Your Body:2008/01/28(月) 13:55:57 ID:8d0pWAYw
「ふう……うん?」
 何とか飲み込む事が出来たが、全身にさぶいぼが吹き出た様な気がする。事実、先生の顔には厭な汗が浮いていた。
 それを拭う為に先生はおしぼりの類いを探して視線をテーブルに向けた。すると、見慣れないモノがテーブルに乗っている事に気付かされる。
「これは、何だ?」
 それは小さく四角に畳まれた薄ピンク色した布だった。一瞬、布巾の類いと思ったが、それは違うと先生は心の中で否定する。紙ナプキンは最初からテーブルの上にあるし、おしぼりだって自分の手前にあるのだ。
 最初は明らかに無かったもの。つまり、これはフー=ルーがアイスコーヒーと共に持ってきたものだ。
 料理を頼んでいない以上、エプロンと言う事も有り得ない。
 ……ではこれは何なのか?先生はその謎を解く為、それを手に取る。その布には何故か人肌の温もりがあった。
「なっ!」
 それを広げて先生は絶句する。そして、次の瞬間にはフー=ルーの方を見ていた。
 その正体は女物の下着(紐パン)だった。
「?……少佐?」
 きょとん、としているフー=ルーは何故かとんでもなく可愛く先生の目に映ってしまった。
「・・・」
 目を閉じて先生は思案する。これが生暖かったと言う事は、つまりそれは直前まで誰かが穿いていたと言う事だ。
 そして、それを持ってきたのがフー=ルーである以上は、恐らく今の彼女は……
「(ごきゅごきゅ……)げぷっ。……よし」
 先生は内に燃え盛る何かを鎮火する為、不味いコーヒーを一気飲みした。だが、その程度で沸いた何かを冷ます事は出来ない。
 ……先生は決断した。
「フー」
「はい?」
 可愛らしく小首を傾げるフー=ルーに先生は真剣な眼差しを向けた。そして……
「改めさせて貰うぞ」
「あっ」
 先生はフー=ルーのスカートの裾を取って、一気に捲り上げた。小さく悲鳴を上げるフー=ルーだったが、それが何かを成す事は無かった。

「これは……」
 先生の前に展開していた光景は……まあ、予想通りのモノだった。
 髪色と同じ産『自主規制』
「・・・」
 先生はその光景に何故か感じ入るモノは無かった。滾る事も血が巡る事も。ただじっとスカートの中身を刺す様に眺める先生はスケベだった。
「フー……?こ、これ、は」
 あんまり眺めるのも可哀想なので先生は検分を切り上げ、フー=ルーの顔を見上げる。

「ぅ……っく、ひっく……ひっく、ぐすっ……」

 其処には、咽び泣く女の子が一人居た。ギュッと唇を結び、真っ赤になって涙の玉を零すフー=ルーは年齢や外見を超越して幼く見えた。
「Oh,mammy」
 ……やっちまった。後悔やら自責の念が先生の中に湧いて来るが、今の段階ではどうしようもなかった。
「きょ、今日はこれで失礼する!さらばだ、フー!」
 そうして、先生は戦略的撤退に移行した。
 出しっ放しにしていた煙草とライターを攫ってポケットに押し込み、高額紙幣を一枚テーブルに置くと、そのままマッハの速度でTIME DIVERを後にした。

133Your Body:2008/01/28(月) 13:56:27 ID:8d0pWAYw
「参った。俺とした事が、ぬかった」
 西日差す夕刻の帰り道、先生は頭を抱えていた。
 ……何だってあんな真似をしてしまったのか?今となっては理由すら定かではない。きっと、魔が差すと言うのはああ言う事を言うのだろう。
 だが、どちらにせよ起こってしまった事はどうしようもない。因果律を操作したって時計は逆には動かないのだ。
 それよりも問題なのはフー=ルーを泣かしてそのまま放置してしまった事だった。女を泣かすのはベッドの上だけと固く決めている先生にとって、今日の出来事は心に影を落としてしまったのだ。
「しかし、何なんだあの店は。クォヴレーの奴……訳が判らんマニュアルをこさえおって」
 コーヒーを頼むと店員が脱ぐ店など、古今まるで知らない。そして、そんな教育を店員に施すのは店長以外に考えられない。先生は弟を殴りたくなった。
「ふう……うん?」
 兎に角、このままではいけない。明日には何としてもフー=ルーに謝罪しなくては変態と極悪人と言う不名誉なレッテルをダブルで張られてしまう事になる。
 それは避けたい先生は、次の行動が見えた。そうして、改めて気合を入れる為に煙草でも吸おうとポケットを弄ると、例のモノの感触が指に伝わってきた。
「しまった。持って来てしまったか」
 フーさんのぱんつだった。どさくさで紛れ込んでしまったらしい。先生はフーさん使用済みのそれを手に持ったまま何か考えていた。
「・・・」
 被るのか、喰うのか、それとも部屋に飾るのか。この場で取るべき行動が頭を過ぎる。
 ……30秒後、先生は取るべき行動を決断した。
「焼く、か」
 決定。焼却処分の刑。
 先生は路地裏に移動するとオイルライターでその布切れに火を点けた。
 忌わしきぱんつは灰燼に帰すべし。
 だが、布製のそれには中々火が行き渡らず、完全に焼却を終えた頃には、陽は完全に没していた。

134Your Body:2008/01/28(月) 13:57:19 ID:8d0pWAYw
――次の日 再び喫茶TIME DIVER
「いらっしゃ……ああ、お前か。イングラム」
「クォヴレーか。……店長が店番か?」
カラン♪、とドアを開くとレジには店長である先生の弟が暇そうに店番をしていた。
「今日は人が居ない。俺とフー=ルーだけだ」
「そうか。……喫煙席、窓際の端っこを頼む」
 そいつは好都合だ。そう思うと自然に頬が綻ぶ先生。目指すは昨日と同じ場所だった。
「?……付いて来い」
 何故か笑みを湛えるワカメ的な兄貴に不信感を持ちつつ、クォヴレーはイングラムを席に案内してやった。

「昨日も来ていたそうだな」
「ああ。どうでも良いが、クォヴレー」
「?」
「昨日頼んだアイスコーヒー、オイルの味がして酷いものだった。まだ、冷蔵庫にあるなら、至急作り直せ」
「何だと?……本当か?」
「客が俺じゃなかったらもっと酷いクレームが付いていた。恐らく、ドリッパーか豆自体に問題がある。お前が自分で検めろ」
「貴重な情報だな。直ぐに改善しよう」
「そうしてくれ」
 席に付くとクォヴレーがそう言ってきた。流石は店長。表に出なくとも、情報は店員から入るらしい。
 だが、そんな事はどうでも良い先生は早速昨日のコーヒーについて店長にクレームを入れた。品質管理に問題があった事に目を丸くしたクォヴレーはその事を教えてくれた兄貴に感謝の言葉を述べていた。
「それはそうと、イングラム」
「何だ?」
 で、その話が終わるとクォヴレーは再び話を切り出した。真剣な弟の表情に、先生は同じくキリッ、とした表情で聞いてやった。
「いや、見ての通り、店はこの有様でな。お前さえ良ければ、立て直しに力を貸して欲しいのだが。空いた時間だけでも良いんだ」
 クォヴレーは兄貴に頭を下げた。店の経営立て直しの為の協力要請。……嘗てはこの店も流行っていた。だが、オープンから時が経つにつれ、客足は途絶えてしまっていた。
「お断りだ。リヴァーレで俺は懲りたのさ」
 だが、先生は断った。先生もまた喫茶店を道楽でやっていた事がある。だが、先生は諸々の理由で流行りながらも周囲に惜しまれつつその店を閉めたのだ。
「流行っていたのだろう?それを何故……」
「色々な。……ま、お前の誘いは今は断らせて貰う。どうしても、俺の手が必要だと言うのなら、その時は考えるが」
「今は自力で暗中模索せよ、と?」
「そうだ。他力本願は仏道の基本だが、多用して良いものではない。精一杯やってみろ」
「……そうだな」
 兎に角、先生は今の段階ではクォヴレーに手を貸すつもりは無い。火急的危機ではないし、まだまだ一人で頑張れる部分が多くある事を先生は見抜いたのだ。
 だが、どうしようもなくなったらその時は考えると先生は言った。クォヴレーはその通りだ、と頷いたのだった。
「エスプレッソを頼む。ドッピオでな」
「判った」
 一番重要なオーダーはやっぱり先生の中では決まっている。高い気圧で抽出した健康に良い苦いコーヒーが今日の注文だ。クォヴレーは伝票にペンを入れると奥に引っ込んだ。
「さて……腹を括るか」
 後はあの女が出てくるのを待つだけだ。そして、先生の中では行動は既に決まっている。それを実践するだけだった。

135Your Body:2008/01/28(月) 13:59:00 ID:8d0pWAYw
――数分後
「お待たせ致し……あ」
「フー」
 フー=ルーが先生の姿を認めると、彼女は一瞬だが身体をビクッ、とさせた。……どうやら、怖がっているらしい。だがそれでも、職務はこなさねばならないので、フー=ルーは重い足取りながらも、注文の品を先生のテーブルに届けた。
「少、佐」
 そうして、彼女が少し震えた声を発して先生を見ると、彼は動いた。
「先ずは謝罪させてくれ。……昨日は済まなかった」
――ガンッ! ビシッ
「!?」
 先生は大きく頭を振って、頭を下げる。打ち付けられた衝撃に樫製のテーブルが罅割れた気がした。
 そんな先生の大仰な謝罪にフー=ルーは吃驚し、また呆気に取られた。
「俺も昨日はどうかしていた。許しを請うつもりは無いが、悔いているのは本当だ。それを聞いて欲しくてな」
 ボタボタ額から血を流しつつ、先生は謝罪の言葉を続ける。それは先生の嘘偽りない心だった。
「そうでしたの……」
「ああ」
 怒っているのか、それとも許してくれたのか良く判らない表情をフー=ルーはしている。だが、戸惑っているのは間違い無い様だった。

「あの少佐?」
「な、何だ?」
 そうして、沈黙の数分が経過すると今度はフー=ルーが動いた。
「スカートの端、持って頂けます?」
「な、何?」
 何とも奇妙なお願いをされた。そして、それの意味が先生には何となく判った。きっとこれもコーヒーを頼んだ客にする儀式の一環なのだろう。
 だからこそ、先生は乗り気では無かった。
「いいから!」
「む……こうか?」
 だが、有無を言わさぬフー=ルーの声と剣幕に先生は押し切られた。釈然としないまでも先生はフー=ルーの制服のスカートの端を持ってやった。
「ええ。……よいしょ」
 それを確認するとフー=ルーは手を自分のスカートに突っ込んだ。
「って、お前は何をしようとしている!脱ぐな晒すな普通にしていろ!」
 当然、先生は物凄い剣幕でそれを止めた。昨日の二の舞にはしたくなかった。
「え?よ、宜しいんですの?」
 フー=ルーはそんな先生の言葉に何故か吃驚している様だった。
「はあ……」
 これでこの店に客が寄り付かない理由が判った気がした。女であるフー=ルーがこうしただけで空気が気拙くなるのに、これがフォルカやクォヴレーだったら下手をしたら警察が飛んで来る事になる。
 こんな変態の巣窟に足を踏み入れたい客はよっぽどの物好きか馬鹿だ。
「それでは少佐、ごゆっくり」
「・・・」
 注文を届けたフー=ルーは何故か嬉しそうに奥に戻っていった。
 ゆっくりしたくないよ馬鹿。先生は糞苦いエスプレッソを一息で飲み干すと、額から流れ落ちる血をそのままに逃げる様にレジへと向かったのだった。

「素敵な方……//////」
 店員用のロッカー室で胸を押さえながらフーは熱い溜息を吐く。フーはどうしてか、青ワカメの事が気に入ってしまったらしかった。


 そして……


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