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FFDQかっこいい男コンテスト 〜ドラゴンクエスト4部門〜

1名無しの勇者:2002/10/18(金) 20:17
DQ4の小説専用スレです。
書き手も読み手もマターリと楽しくいきましょう。

*煽り荒らしは完全放置。レスするあなたも厨房です*

119ツワモノ 5/5:2008/07/28(月) 00:30:57
 前方を肩を落として歩く若い神官を眺めながら、さすがにやり過ぎたか、と私は昨夜の事を思い出していた。


 ホイミスライムが何度目かの回復呪文を唱えようとしたのを止めて、私はぐったりとホイミスライムに身を預けているクリフトに近づいた。私は触手の拘束を緩めさせ、クリフトを眺めた。
この男は今、自分がどれだけ淫らで卑猥で悩ましい姿をしているのか分かっているのだろうか。口腔内から触手が抜けた途端、苦しげに顔をしかめ、激しく咳き込み始める。
 私が上位の回復呪文を唱えると、短めの睫毛を震わせ、クリフトは薄く目を開けた。再びホイミスライムたちが次々と彼の顔を覗き込む。クリフトの目の焦点が合った。

「うわあああぁぁぁぁ!!!!」

 恐怖で顔を歪め、拘束が緩んでいることでクリフトは触手の束から抜け出した。クリフトは立ち上がろうとして床を濡らす粘液に足を滑らせ倒れたが、私の存在に気が付くと泣きそうな顔で必死にこちらに向かってきた。
殴りかかるのか、と思いきや、クリフトは私の背後に周り、左足にすがりつくと、「助けてください…!」と小さく呟いた。血の気が引いた顔で、体をガクガクと震わせている。
 ホイミスライムたちはまた、顔を見合わせ、ズズッとこちらに近づいてきた。「ひぃッ!」とクリフトは喉を鳴らし、ギュッとこちらの衣服を震える手で強く握り締めた。
 私は涙で目を濡らしたクリフトをしばし見下ろしていたが、指を鳴らし、別の空間へホイミスライムたちを飛ばした。クリフトはしばらく体を強張らせ、やがて脱力して私の足から手を離した。
「もう…モンスターは呼ばないで下さい…。」
「……。」
 沈黙で返した私に、クリフトはやや強めの口調で同じ事を繰り返した。私は肩をすくめ、「分かった分かった。もうホイミスライムは呼ばん。」と約束する。

「ホイミスライムだけじゃありません!」
「今日初めてお前を愛しく思った。神官という職種は皆、そんなに愛らしいものなのか?」
「え?」
 クリフトは面食らった顔をして、「きょ…今日の私のどこにそんな要素を見出したのか…私には解りかねます…。」と眉根を寄せ、怯えたように顔を逸らせた。
身の危険を感じたのか、立ち上がろうとしてまたバランスを崩す。
どうやら腰が抜けているらしい。シャワールームに向かおうとしているようだったので、私はひょいとクリフトを担ぎ上げた。クリフトは体を強張らせた。

「ひ、1人で大丈夫です。降ろしてくださ…」
「おとなしくせねば腕をへし折る。」

 クリフトはギョッと私の顔を見上げ、やがて諦めたように私に身を任せたのだった。


「ちょ…!なんでこんな場所にホイミスライムが居るんだよ!?」

 勇者の言葉で我に返った私の視界に、ダンジョンの天井からボトボトッとホイミスライムが3匹落ちてきたのが映った。
「こやつら、異様にレベルが高いようですぞ!?」
 勇者とピンクの戦士の会話で、これらが昨日、どこかへ飛ばしたLV60のホイミスライムたちだ、と思い至る。こいつはやっかいだな、とクリフトを振り返った。

「ザラキ!」

 容赦の無い死の呪文を喰らい、ホイミスライムたちはもんどり打って倒れていく。
 クリフトはつかつかとホイミスライムに歩み寄り、剣を抜くと、躊躇する事無く3匹に次々と剣を突き立て、足で転がし生死を確認した。

「…絶命しました。行きましょう。」

 呆気に取られている2人に声を掛け、クリフトは馬車の横の定位置に戻る。剣を戻そうとして、粘液に汚れているのに気が付くと、ピクッと動きが止まったが、イラついたようにブンッと剣を振るって鞘に戻した。
私は笑いを堪え、先頭に立って馬車を出発させた。

 人間というのは実に興味深い生き物だ。滅ぼすには惜しい存在なのかも知れないな。

120名無しの勇者:2008/07/28(月) 00:32:16
以上です。相変わらず長々とすみません。

121名無しの勇者:2008/07/28(月) 00:53:41
リクエストした者です。こんなに早く読めると思ってなかったので驚きです!
ああぁ、やっぱりクリフト可愛い(*´Д`)ハァハァ
もう連れてこないでって言ってるのに、この次はよるのていおうなんですね。
しかしピサロがモンスター呼ぶ気持ちもワカル…。

122121:2008/07/28(月) 18:10:48
お礼を言うのを忘れていました。
リクエスト答えてくださってありがとうございました(*´∀`)ノ

123119:2008/07/28(月) 22:49:06
いえいえ、こちらこそ、読んでもらってるんだな、と嬉しかったですよ。
ありがとうございます。

124名無しの勇者:2008/11/02(日) 11:20:38
ライ×ホイです。
※最後に僅かに性描写あるのでイメージ崩れるのが嫌な人は避けてください。
※ホイミン誘い受け
※ホイミン転生説があるそうで、それをベースにしています。
 だから一度ホイミン死んじゃいます。ごめんなさい。

125さよなら ライアンさん 1/6:2008/11/02(日) 11:27:34

 僕 ホイミン。今は ホイミスライムなの。
 でも 人間になるのが 夢なんだ。
 ねえ 人間の仲間になったら 人間になれるかなあ……?


 今まで自分の酒の強さにこれほどうんざりした事は無く、酒場の席を立つ事にした。
強い酒をいくら飲んでも、ヤツを忘れる事など出来やしない。そんなことは分かっているつもりだが、それでも止められなかった。

「ダンナ、さすが戦士さまだわねぇ!こんなに飲んでも顔色ひとつ変りやしない!」
 酒場女がウットリした顔で声を掛けてきた。「ねぇ、部屋で一緒に飲みましょうよ。」
 女でも抱けば、ヤツを忘れられるか、と思ったが、なんだかそんな気持ちにもなれず、首を横に振った。
「いや、残念だが、明日に大仕事が待っているんでな。」
 私は酒代を女に渡した。「生きて帰ってきたら付き合ってくれ。」
「アンタも死にたがりなの?」
 女は肩をすくめ、あっさり引き下がる。
「昨夜も旅の吟遊詩人がモンスターに殺されにいったのよ。」
 足を止めた私に、女は自分の話に興味を持った、と思ったらしい。
「恋人がモンスターに捕まって殺されたらしいわ。後を追って死のうと思ったのか、何の装備もせずに街の外へ出て行ったのよ。バカよね。」
「知っている。」
 私は足早に酒場を出た。そのバカにホイミンは犠牲になったのだ。


 ホイミンは勇者を探す途中で仲間になったホイミスライムだ。モンスターのくせして言葉を操り、人間になるのが夢だ、と言っていた。
魔力が無く回復手段を持たぬ自分にとって、人間になる方法を探す為に旅に出たい、というホイミンは渡りに船だった。
内心、モンスターが人間になどなれるはずが無い、と思っていた。

「ライアンさん、ライアンさん!
 今日はとってもいい天気だからひなたぼっこでもしようよ。」

 子供のように無邪気に私の名を呼び、自分の感じた事を素直に口にする。旅が長引くにつれ、正直、ホイミンをかばって戦い続けるのは辛い、と感じることもあったが、険しい旅の間、気持ちを和ませてくれたのはホイミンの温かく柔らかい言葉の数々だ。
長い間、共に旅をするうちに、ホイミンがこれからも自分のそばに居続けてくれれば良い、と望むようになった。もし、本当に人間になれたなら、私の養子になれば良い。
 ホイミン自身の考えは聞いたことが無かった。だからあの日、この町に来る途中でふと気になって聞いてみたのだ。青く晴れ渡った、静かな日だった。

126さよなら ライアンさん 2/6:2008/11/02(日) 11:30:31
「もし、人間になれたら…?」
 ホイミンは首を傾げ、私を見上げて、顔を逸らした。「秘密!」
「ホイミン、何かやりたいことがあるのか?」私は内心、慌てて聞いてみた。
「うん。でもライアンさんには内緒だよ。」
 えへへ、とホイミンは笑ったが、私は逆に不安感に襲われる。
「…ホイミンさえ良ければ私の元に来ればいい、と思っていたのだ。」
「ライアンさん…!?」
 ホイミンは立ち止まった。
「ホイミン…もし、ホイミンさえ良ければ…私の子として…。いや、人間になってからじゃなくてもいいのだ。」
 ホイミンは立ち尽くしている。沈黙が怖くて私は喋り続けた。
「母親が必要なら、城で私のことを慕って帰りを待ってくれている女もいる。寂しい思いをさせたりはしな…!」
 私は言葉を切った。ホイミンが私の足にしがみ付いてきたからだ。綺麗に澄んだ目を涙でにじませて私を見上げてきた。
「ありがとうライアンさん…。僕、本当に嬉しい。でも、僕…!」

 甲高い魔物の鳴き声が聴こえたのはその時だった。声のした方を見ると、丘の上で誰かがライオンのような魔物に襲われていた。吟遊詩人のようで、どうやら得物を持っていないようだ。
私は舌打ちをした。バカめ!殺されたいのか!!丘を目指して走ろうとした時に、別の魔物が私の前に立ちはだかった。私はホイミンをかばうように立ち、剣を抜く。

 男の悲鳴が聴こえた。振り向くと吟遊詩人が崩れるように倒れる姿が見える。
「いけない!」ホイミンが私の脇をすり抜けた。

「ダメだ!ホイミン、戻れ!!」
「でも、あの人、動かないよ!早く手当てをしないと、僕、蘇生魔法が使えないんだから!!」

 ホイミンはよくその足で、と感心するほど素早く丘へと向かっていく。私はホイミンを心配しながらも目の前の魔物に意識を集中させた。一太刀を相手に浴びせ、さっと身を引く。
ホイミンの詠唱が聴こえてきて…途切れた。

 魔物を倒し、丘へと駆けつけた私は、ホイミンが物言わぬ屍になっているのを見つけた。魔物は姿を消していた。
 何度もホイミンの名を呼んだが、声も鼓動も聴こえず、私はうろたえ、ホイミンを抱き寄せた。

「ホイミン…私の家族になってくれ…」

 ホイミンの体がくたりと何の抵抗も無く私の腕の中に納まっている。「嘘だ…ホイミン、嘘だろう?」
 返事が無い。その代わり、足元で呻き声が聴こえた。吟遊詩人の男だ。まだ息がある。ホイミンが助けようとした男だ。なんとか救わねば。
 この時ほど、自分が回復呪文が使えないのを苦しく思った事は無い。私はホイミンを左肩に、男を右肩に担ぎ上げると、もう目の前に見えていた町へと大急ぎで走っていった。

127さよなら ライアンさん 3/6:2008/11/02(日) 11:33:02
 結果を言えば、担ぎ込んだ教会で結局男は息を引き取った。男は生きる気力が皆無だったから、ホイミンは遺体の損傷がひどかったから蘇生は不可能とのことで、神父がひどく気の毒がってくれた。
男はキングレオ城の王、キングレオに恋人を殺され、自暴自棄になっていたそうだ。何でも「進化の秘法」とかいう術の実験体として彼女が犠牲になったらしい。
 明日、2人の埋葬をさせてもらう、と神父は言い、寄付金を払おうとした私をやんわりと断った。その金があるなら酒でも飲んで来い、と神父は痛ましそうに私を見た。

 結局、酒にも酔えず、私は宿屋の自室に戻ってきた。鎧を脱ごうとして手が震えている事に気が付く。平気だ。一人に戻っただけではないか。違う。ここ数年はずっとホイミンと共に居た。
モンスターなどではない。ヤツはもう、私にとって大切な家族だった。急速に目の前が歪み、床がぽたぽたと音を立て、それが自分の涙だと分かった時には号泣していた。
志半ばで果てた無念はどれほどだったろう。ヤツに家族は居たのだろうか。私はどうすればいい。どれだけの時間があればヤツを忘れられる?

 トントン!と扉がノックされ、私はハッと我に返った。大の男が大声で泣いているのだ。宿の者が驚いて飛んできたのやも知れぬ。私はグッと涙を堪え、顔を袖で拭った。
「すまない、うるさかったか。」
『ライアンさん、ライアンさん、僕だよ!!』

 私は次の瞬間、扉を全開に開け放っていた。見知らぬ青年が目の前に立ち尽くしている。違う、ホイミンではない。私は急速に心が沈み込んだ。
「…旅の連れが亡くなってな…うるさくしてすまなかった…。」
「ライアンさん、僕だよ。ホイミンだよ。」

 カッと頭に血が上り、私は男をにらみつけた。「お…お前は、よく見れば昼間の吟遊詩人だなっ!!仲間が亡くなって苦しんでいる私を笑いに来たのか!!?」
「違う!昼間の吟遊詩人の人は死んじゃったんだよ。覚えてないの!?」
「何をっ!…そうだ…蘇生してもらえたのか…?」
「僕、ホイミンなんだって!バトランドの古井戸の下で僕を旅に連れ出してくれたでしょ!?空飛ぶ靴でお空も一緒に飛んだじゃないか!!」
「お空って…」

 私は絶句した。頭が混乱して状況についていけなかった。「な…何故それを…?」
「だから、僕はホイミンだって言ってるじゃない!」
「でも…私のホイミンは…ホイミスライムだった…あ、あんたは人間で…。」
「僕、人間になれたんだよ。ずっと夢に見てた、人間にようやくなれたんだよ。」
 青年は嬉しそうに私を見つめる。

「心の中に神様が現れて、この男が恋人の元に行きたがっているし、僕に対してすごく申し訳なく思っているって。
 だから、この体を使ってもいいんだって、そう言ってくれたんだ。」

 この時の衝撃をどう言い表せばいいのだろう。私は頭が真っ白になり、気が付けば男を…いや、ホイミンを抱きしめていた。

128さよなら ライアンさん 4/6:2008/11/02(日) 11:36:18
「わっはははは!こんな…青年として人間になるとは思っていなかったぞ!子供として引き取ろうと思っていたのに、どうしてくれるんだ。」

 落ち着いてから私とホイミンは自室で向かい合って乾杯をした。人間になったホイミンは神父に今までのことを話したらしい。
神父は全て了解し、ホイミンの亡骸だけ、手厚く埋葬しておく、と約束してくれたそうだ。明日は私も埋葬に立ち会おうと思う。

「でも、考えてみればもう何年も一緒に旅してきたのだからな。ホイミンももう子供ではなくなっていたんだなぁ。」
 寂しさも感じたが、今は喜びの方が勝っていた。人間になったことよりも、生きていてくれた、それだけでこんなに嬉しいとは。

「私の子に、と思っていたが、これでは親子は無理だな。家族に、と言われてお前が困っていたのもよく分かる。」
 興奮しているせいか、もしくは酒のせいか体が熱かった。風呂に入りたかったが、ホイミンから目を離した途端、どこかへ消えてしまいそうで怖かった。
「家族になることが嫌だったわけじゃないよ。」
 ホイミンは真顔で私を見つめてきた。私は沈みかけた気持ちがその一言で簡単に急浮上したのを感じた。「そ、そうか。そうか。」
「僕は…ライアンさんのパートナーになりたかったんだ。」
「パートナー…?ああ、相棒のことか。ずっと一緒に旅してきたからな。」
 私はさっとホイミンの体を一瞥した。元々は吟遊詩人だった体だ。顔は穏やかそうで、色が白い。ひょろりとした体型をしているし、魔法を唱えられるかどうかは知らないが、武器を持って一緒に旅ができるようには見えなかった。きっと、ホイミン以上に戦闘能力が低いに違いない。
 ホイミンを二度と危険な目に遭わせたくは無かった。しかし、どう言えば傷付けずに言えるだろう。私は視線を机の上のグラスに落とした。

「バトランドで…待っててくれないか。私が勇者殿を見つけて、彼を守り、世界を救える手助けができるまで。
 何年掛かるか分からない。だけど、私はお前をもう喪いたくは無いんだ。」
 ホイミンは目を見開き、しばらく固まっていたが、やがて柔らかく微笑んだ。「それって、プロポーズみたいだけど、そういう意味じゃ…ないんでしょ?」
「あっはっは!そうだな、確かに求婚のようだった。だけどお前を大切に思っているのは違いな…んんん!!!」

 私の唇がホイミンのそれに当たっていた。机を乗り越え、彼は私の唇を吸い続けようとする。私は席を立ち、ホイミンの両肩を掴んで身体を離した。
「酔っ払ったか?ホイミン?」
「…愛しています。」
 ホイミンが搾り出すように言う。「子供としてじゃなく、あなたが好きなんです。人間になればなんとかなるかと思ってた…!」
 私はホイミンを見つめた。うなだれて涙を落とす彼は、冗談を言っているようには見えなかった。

「な、泣くな、ホイミン。驚いただけだ。お前を嫌いなわけじゃない。」
「僕、子供としてなんて耐えられない。バトランドであなたの奥さんと一緒に暮らす、なんてできないよ。
 女の人に生まれ変われば良かった?それなら僕を抱いてくれた?」
「抱いて、って…」
 私は放心して椅子に座り直した。酔っ払って幻聴を聴いているわけではあるまい。ホイミンが私に恋愛感情を抱いているとは気付かなかった。
女性ならば望まれれば素直に抱いていたか、と言われると自信は無い。ホイミンに対し、今朝まで自分の子供か幼い弟のような気持ちで居たのだ。
急に恋愛対象として見ろ、と言われても気持ちの切り替えなどできぬではないか。しかし、ホイミンの想いを拒否して彼を喪うのが一番怖かった。
 汗が額から頬へと流れたのに気が付いた。酒のせいか、それとも冷や汗か?元々物事をあれこれ思い悩むのは苦手な性質だ。ホイミンが涙を手で拭いながら私を見つめている。

「ふ…風呂に入らせてくれ…。」

 何かを考え、結論を出して言った言葉ではなかった。ただ、問題を先延ばしにしたくて、今やりたい事を口にしただけだった。
 しかし、自分が発した言葉の持つ意味に気付いた時には、すでにホイミンが私を抱きしめていた。

129さよなら ライアンさん 5/6:2008/11/02(日) 11:39:19
 入浴中も結局逃れる上手い言い訳が思いつかなかった。風呂から上がって体を拭き、裸のままベッドに座った。ホイミンは軽く汗を流し、また裸のままでベッドのそばに立った。

「…泣きそうな顔してるよ、ライアンさん。」
「ホイミン…私はお前を抱けるか自信が無い。」
「僕はライアンさんを抱けるよ。」

 私はビクリと体を震わせてしまった。
「…さすがにそこまでの覚悟はしてなかった?」ホイミンはふわりと笑う。
「僕も、ライアンさんを泣かせたくなんかない。ライアンさんは何もしなくていいよ。僕はそれでも十分幸せだから。」

 ホイミンはベッドに座る私にキスをし、そのまま跪いて私の足の間にあるものを綺麗な手で愛撫し始めた。私は思わずホイミンを離そうとしたが、首を横に振って拒否し、一心不乱に愛撫を続けた。拙い手技でも久々の行為だけあって徐々に立ち上がってくる。ホイミンは左手を添えるとそれにキスを落とした。

 ホイミンの表情が見えず、私はあまりのことに混乱し始めていた。不安感がずっと漂っている。我が子だと思っていた子にこんなことをさせて良いものか。バトランド国の兵士らの中には男色を好む者も居て誘われそうになったこともあったが、自分は女性以外をそんな対象に見た事は無かった。
 こんな行為をするなんて、この男は本当にホイミンなのか。むしろ別人であって欲しくて、私は発作的にホイミンの肩を押した。

 ホイミンは綺麗に澄んだ目を涙でにじませて私を見上げてきた。

「お願い…お願い、ライアンさん。僕を嫌いにならないで。」

 ホイミンがホイミスライムだった頃と何も変らぬ目で、彼はぽとりと涙を落とした。体を震わせ、ごめんなさい、ごめんなさい、と私の物をつかんだままで泣き続ける。ホイミンの右手は、自分の後ろを解そうとしていた。
 私が困惑して何もしようとしないから、ホイミンが全てを自分だけで処理しようとしていた。
 私は彼の右手をつかんだ。ホイミンは息を飲んで身を小さくさせた。

「自分が入るところだ。自分で解す。お前は何もしなくていい。」

 ホイミンは目をみひらき、また身を震わせて泣いた。

130さよなら ライアンさん 6/6:2008/11/02(日) 11:41:09
 ライアンさんがキングレオ城から嬉しそうに走って行くのが見え、僕は安堵した。
 もう、このままライアンさんに会わず、僕も旅に出た方がいいだろう。バトランド城へ行って待っているように言われたけれど、バトランドへ送ってもらうのも申し話無いし、何年掛かるか分からないライアンさんたちの魔王退治を大人しく待ち続ける気もサラサラ無かった。
いつの日か、僕がライアンさんと一緒に戦えるようになるように、僕も修行の旅に出よう。

 城から勇者さん達が出てくるのが見えて、僕は彼らにライアンさんへの言伝を頼んだ。無事で旅を続けて欲しいこと、僕が感謝していること。
ライアンさんよりも遥かに若そうに見える少年のような勇者さんだったが、僕を安心させるようにしっかりとうなづき、必ず伝えると約束してくれた。
 遠ざかる彼らの背を見送りながら僕はこれまでのこと、そして昨夜のことを思い返していた。城の前に停めてあった馬車が動き出す。僕も出発する事にしよう。

 さよならライアンさん。
 あなたは本当に 優しかった。

131名無しの勇者:2008/11/02(日) 11:42:03
以上です。ありがとうございました。

132名無しの勇者:2008/11/06(木) 16:42:56
ホイミン可愛いよホイミン
いいものを見せてもらいました

133名無しの勇者:2008/11/11(火) 18:52:41
ライホイきてたー!乙です

134名無しの勇者:2008/11/17(月) 17:22:51
泣けました!心の底から乙です
ホイミンかわいいよホイミン
ライアンさん無骨で優しいよライアンさん

135名無しの勇者:2009/02/02(月) 21:46:35
ピサロザ前提のピサクリです。
6章を思いっきりネタバレしています。
暴力描写あり。苦手な人は避けてください。

136籠の小鳥は3度鳴く 1/7:2009/02/02(月) 21:52:27
 ロザリーをも殺した愚かな人間どもを滅ぼす為、ピサロ自身が進化の秘法で究極の力を手に入れることを決めた夜、彼は急にデスキャッスルから出て、外の世界を見たくなった。
 進化の秘法を試して、自分が正気を保っていられるか、一抹の不安を覚えていたのかも知れない。ロザリー亡き今、狂気に走ったところでピサロに惜しいものなど何も無かったが、ロザリー自身を忘れ去るのは忍び難がった。
しかし、ロザリーヒルへ赴くには彼女との想い出が強すぎる。ピサロは夜空に浮かびながら、ふと、岩山に囲まれた砂漠地帯に目が向いた。ロザリーが生まれ育ったというエルフの里がそこにある。
 ロザリーの故郷のその里は世界樹という不思議な巨木がそびえ立っており、ロザリーが昔語りをするときにはよくその大樹のことを愛しそうに口にしていたものだった。実際、人目につかないよう2人で出掛ける時は夜が多かったが、夜間でも柔らかく光る世界樹にはピサロ自身も何度か足を運んだことがあった。
 最後に彼女が愛した世界樹を愛でるのも悪くは無いだろう、とピサロはエルフの里へと滑空した。

 エルフの里に人間が近付く事は少ないが、ピサロは念のためモンスターを内部に入れて見張らせてある。実際、忌々しい勇者達が足を踏み入れた事もあったらしいから腹立たしい。
 ピサロは入口に立ち、過去、ロザリーとここで過ごした時間を思い出す。そう言えば、世界樹の中は迷宮のようになっていたので、「かくれんぼ」をしないか、とロザリーがいつになくはしゃいで言い出したことがあった。

『3回、私を捕まえたらピサロ様の勝ち、ということにしましょう。
 私はここの構造を知り尽くしていますから手強いですよ?』

 嬉しそうに身を隠す為に奥へと走っていくロザリーを、ピサロは気配を辿って瞬く間に3度見つけてしまい、ロザリーの口を尖らせてしまったのだが。

 世界樹の中に入った途端、ピサロの顔が険しくなる。人間が内部に侵入している気配があった。小さく舌打ちし、意識を集中させる。居る。もう少し上層に気配がある。1人だけのようだ。

「ピサロ様。」

 ふいに声が掛けられ、振り返ると世界樹の入口に部下のエビルプリーストが陰気な顔で立っていた。
「この大切な時に何故、このような場所へ。デスキャッスルに戻りましょう。」
「少し外の空気が吸いたくなっただけだ。夜明けには戻る。」
「それならば良いのですが…。」
 疑わしそうな目でピサロを見上げていたが、やがて顔を上部へ向ける。
「おや、人間が1匹潜んでいますな。」
 エビルプリーストはどこから持ってきたのかボウガンを構えた。
「おおかた、世界樹の葉を狙ってきたのでしょう。私めが仕留めて参ります。」
「待て。…そいつは私の獲物だ。邪魔をするな。」
「そうでしたか。」あっさりとエビルプリーストは引き下がる。
「では、私は先に戻っておりますので。ピサロ様もお早く願います。」

 エビルプリーストの姿が消えるのを待ってから、ピサロは奥へと進み、その人間を見つけた。20歳過ぎの青年のようで、顔や神官姿に見覚えがある。
勇者の一味の1人に違いない。どうやら世界樹の葉を探しに来たようだが、他に人間の気配を感じないところを見ると、自分の強さを過信してのこのこ単身で乗り込んできたのだろう。好都合だ、とピサロは長剣を抜いた。
ヤツは勇者らの中で唯一完璧な蘇生魔法が唱えられるという。ここで息の根を止めてしまえば、ヤツらの戦力を削ることができる。
 ピサロは神官に飛び掛ろうとして、ふと奇妙なことに気が付いた。この男はすでに葉を入手しているようだが、まだ何か周りを見回して探し物をしているようだ。
しかも、枝先を見たがっているようだが、なかなか幹から枝へと身を移せないで居る。世界樹の放つ光に神官の白い顔が浮かび上がった。優しげな顔をしてとても屈強なモンスターを倒してきたようには見えない。
その顔も何故か今は血の気が引き、不安げな表情を浮かべていた。ロザリーヒルの塔の中で佇んでいたロザリーと同じような…
 ピサロは舌打ちし、自分の中に浮かんだ思いを打ち消した。神官がそれに気が付いたのかハッと振り返る。ピサロはすかさず神官に向かって一瞬で距離を詰め、相手を袈裟懸けに斬り付けた。

137籠の小鳥は3度鳴く 2/7:2009/02/02(月) 21:56:53
 クリフトは一瞬で自分の懐近くまで攻め寄ってきた相手から間合いを取るため後ろへと飛んだ、が、左肩から右腹部に掛けて相手の長剣が浅く自分の身を裂くのを感じる。
仲間の疲労具合から、高所の恐ろしさを必死で抑えて世界樹まで1人で来てしまったことを、その一瞬で後悔した。
そして、10歩と離れていない所に追い続けてきた魔王・ピサロが感情の無い目で自分を見つめている事に気が付き驚愕する。

「デ…デスピサロ…!?」
「忌々しい人間風情が単身、エルフの里にのこのこと現れるとはな。
 人間など根絶やしにしてもまだ足りぬ。貴様、覚悟はできているのか。」
 クリフトは息を飲む。
「ま…待ってください!私達は長年、あなたに遭う為に旅を続けてきたのです。
 最初はあなたを倒す為でしたが、今は違うのです!」
「何が違う?変わらぬ。お前も、他の人間も自分以外の存在を許す事ができない愚かな生き物なのだ。」
「それはあなたも同じでしょう!あなたが滅ぼそうとしている人間も、
 モンスターやエルフと同じ生きとし生ける者なのです!」

 ピサロの眉間に皺が寄る。要らぬ事を言ってしまったか、とクリフトはまた激しく後悔したが、どうせ殺されるなら、と言葉を続けた。
「確かに、人間は愚かで欲深い生き物です。でも…滅ぼす前にチャンスをください。
 これから少しずつでも歩み寄れるかも…」
「無駄だ。」
 ぴしゃりと言われ、クリフトは口をつぐんでうな垂れた。身にまとっていたマントや上着が剣で裂かれ、胸部から血が流れているのが目に入った。
志半ばで、仲間に知られずこんなところで死ぬなんて。せめて自分の命が何かの役に立たないだろうか。
「あ、あの、私を殺す事によって、人間を滅ぼす気持ちが晴れますか。」
 ピサロに睨まれ、クリフトは三度自分の言動を後悔したが、次の瞬間、我が目を疑った。ピサロが微かに笑ったのだ。

「分かった、神官。お前にチャンスをやろう。」
「え…?」
「3回、私が夜明けまでにお前を捕まえたら私の勝ち。お前が逃げどおせたらお前の勝ちだ。
 何処へなりとも行けば良い。しかし、私が勝てば、お前を嬲り殺すからな。」

 ピサロは楽しげに微笑んだ。「さぁ、逃げろ、人間。3分待ってやる。」

 クリフトは咄嗟に駆け出した。ピサロの脇をすり抜ける時に、ピサロが素早く何かを詠唱した。それが魔封じの術だと分かった時にはすでに1階へと駆け下りていた。
出口を目指して走ったが、出口はモンスターたちが集結していて近寄るのは無謀な行為と思われた。他のメンバーが居る時ならともかく、自分ひとりであれだけの数を倒すのは困難だろう。クリフトは絶望して逆戻りした。
 胸の傷が痛むが、魔力を封じられ、傷を癒すこともできない。夜明けまではまだ数時間ある。自分がそこまで魔王相手に逃げとおすことができるか。答えは限りなくゼロに近い。やはり、一刻も早くここから逃げ出さなければ…。
 クリフトは塞ぎこみそうになる気持ちをなんとか奮い立たせた。考えなければ。考えなければ、待つのは「死」だ。
 下からの脱出が不可能なら、上から飛び降りなければならない。しかし、それはクリフトにとっては究極の選択だった。上へ戻って身を隠そう。
 そう思って顔を上げた時、目の前にピサロが立っていた。

138籠の小鳥は3度鳴く 3/7:2009/02/02(月) 22:01:50
 左頬を裏拳で殴られ、クリフトはよろめいた。そのまま腹部にピサロの右足が入り、仰向けに蹴り倒される。立ち上がろうと横向きになったところへ、脇腹にピサロの爪先がめりこんだ。
息が止まって、クリフトはうずくまった。あまりのことに涙がにじんでくる。咳き込んだクリフトの後頭部をピサロが鷲づかみにして無理矢理顔を上げさせた。
目線を上げると、ピサロの燃え上がるような深紅の目がこちらを覗きこんでいた。殺される、とクリフトはギュッと目を閉じた次の瞬間、クリフトはピサロに唇を奪われていた。
口の中に、鉄の味がしたが、それを舐め取るように長い舌がクリフトの口内を万遍なく侵していく。舌が絡み、逃げてもすぐに捕まえられる。
息が上がり、何とかピサロから体を逃れようとして、強い力で押さえつけられた。あまりに長い行為に膝立ち状態の足が振るえ、押し返そうとする手さえもただ、ピサロの着衣に必死にしがみ付いているだけだった。
 ようやくピサロの唇が離れた時、クリフトは大きく息を吸い込み、そのまま前へと倒れそうになった。が、ピサロに再び裂かれた襟元を両手で掴まれて左右に引っ張られた。かろうじて付いていた服のボタンが弾け飛び、ピサロの舌が胸の傷をなぞっていく。クリフトは恐怖で錯乱しそうだったが、ピサロの目を見て、我に返った。
「や…やめて…やめてください…」
 震える声でなんとか言葉を発すると、ピタリとピサロの動きが止まった。クリフトを抑えていた手を離し、スッと立ち上がると、1歩後ろへ下がった。

「3分待ってやる。」

 クリフトは目をみはった。どこまで本気か想像が付かないが、これは彼の中でゲームなんだ。クリフトは立ち上がろうとして足がふらつき転倒した。
どうやら今の長時間のキスか恐怖のどちらかが足と腰から力を奪ったらしい。力が抜けそうな足をなんとか動かし、クリフトはピサロのそばから離れた。

 ピサロから逃げるには、やはり世界樹の上から地上へと飛び降りるしかないだろう。不思議とアリーナ姫と旅に出てから、高所から飛び降りても傷を負わなくなった。仲間の占い師・ミネアは「それは私達が『選ばれし者』だからじゃないでしょうか」と言った。何か、神のような存在が「死」から守ってくれている、と。
だから、今回も世界樹の上から飛び降りたって、無傷で居られるだろう。だが、クリフトは極度の高所恐怖症だった。今は3階だが、外の景色が見えていなくても、ここが地上から離れた位置にある、と考えるだけで足がすくんでしまうのだ。飛び降りるなど、その場所に行き着くまでに気を失うかもしれない。
 クリフトは痛みを堪えて息を整えた。気配を絶たなくては、相手はすぐにここへやって来るだろう。しかし、凄まじいまでの憎悪を叩きつけられた。クリフトは思い返すだけで震え上がる。
 しかし、クリフトの血を口腔内や胸元から舐め取っていた時、彼の目からは憎悪ではなく、むしろ慈愛さえ感じられた。憎悪は自分にぶつけられたもので、あの慈しむ心はきっと亡きロザリーに向けられたものだ。
これ以上何をされるか分からない恐ろしさと彼の傷つきように芽生えた切なさが心の中で膨れ上がり、思わず中止を請うたが、あのままそれを受け止めれば彼の哀しみは癒えただろうか。
 一介の神官ごときが魔王を癒すなどおこがましいにも程があるだろう。クリフトはため息をつく。それに、今、ここで彼を受け止める事はそのまま死を意味しているに等しい。
今は、生きてここを出なければ。そしていずれ仲間と共に、彼に会いに行こう。
 何が何でもここから脱出する。だが、もし彼に捕まった時は、全身全霊で彼を受け止めよう。

139籠の小鳥は3度鳴く 4/7:2009/02/02(月) 22:06:09
 どれだけの時間が過ぎただろう。ピサロの姿を見かけては慌てて姿を隠し続けていたが、体力的に限界を感じ始めていた。途中、都合良くキメラの翼を拾ったが、ダンジョンを脱出しなければ使っても意味が無い。
やはり、枝から下へ飛び降りようか。クリフトは重くなる足をなんとか前へ進め、逸らしたくなる目線をなんとか外へと向けた。世界樹の枝葉が優しく光るその向こうに夜の闇が広がっていた。
 これが昼間ならば下の世界が見えて、ますます足が竦んだだろう。飛び降りよう。クリフトは決意した、と、その時、フッとクリフトは体が少し軽くなったのに気が付いた。
 魔封じの術が解けた。どうしよう…今、回復呪文を唱えるのか。それとも脱出してから?

 瞬時迷ってから、クリフトは回復呪文を先に唱える事にした。高所から飛び降りる、という恐怖を心のどこかで先延ばしにしたかったのかも知れない。
目を閉じ、小声で詠唱をして、目を開けた瞬間、ピサロが素早く詠唱しながらこちらに向かってくる姿が目に飛び込んできた。思わず魔法を唱えるのを一瞬忘れる。途端に魔封じの術が掛けられた。
 クリフトは素早くピサロから距離を取った。背後に世界樹の枝が広がる。クリフトはちらっと背後を見て眼下に広がる光景に息を飲んだ。た…高い…。

「何故、飛び降りないのか様子を伺っていたが、お前は高い所が苦手のようだな。」
 ピサロが近付いてくるに従い、クリフトは後ずさりした。枝がギシッと音をたて、寒気が走る。
「勇者の一行は高所から飛び降りても怪我を負わずにいられる、と報告を受けている。」
 ピサロは愉快そうに言った。
「だが、お前もそうなのか?」
「…近付かないで下さい。」
「『選ばれし者』なのは、お前の姫だけであって、
 配下のお前はただ、そばに居たから無事だっただけではないか?」
 クリフトは弾かれたようにピサロを見つめた。
「違います!私だって…」
「なら、飛び降りてみろ。私から逃げたいのだろう?」
 クリフトはピサロに背中を向け、枝先へと足を進めた。足元が揺れ、枝葉から透けて遠く下に地面が見える。地面に叩きつけられるイメージが浮かび、その恐怖が足元から全身へと瞬く間に広がる。
 我に返ったときにはもう、目前に立っていたピサロが剣を抜いていた。そのまま左足の甲に長剣が勢い良く突き立てられる。激痛に絶叫し、思わず腰の剣を抜こうとしたが、血の滴る剣が先にクリフトの喉元直前にまで詰め寄った。
「武器を捨てろ。」
 クリフトは震える手で腰にぶら下げていた剣を放り投げた。目線で促され、クリフトは世界樹の幹の方へと戻る。ズキズキと足が痛み、血が溢れているのが分かる。骨が折れたかも知れないな、とクリフトは恐怖の中、どこか他人事のようにぼんやりと考えた。
 襟首を掴まれ、乱暴に上着を脱がされる。前は全て裂かれていたから、あっさりと上半身を裸にされた。夜の外気がひやりとクリフトを震わせる。
「両手を壁に付けろ。」
 言われたとおりにすると、「そこから指1本離すな。」と言って、ピサロはクリフトを後ろから覆うように抱きしめた。ピサロの冷たい手がクリフトの胸元や脇、背中に這い回り、時折、クリフトの体を震わせた。声が漏れそうだったが、1度目に自分の声でピサロが我に返ったのを思い出し、クリフトは必死に声を出すまいと歯を食いしばった。
口付けをされ、また足から力が抜けそうになっても、クリフトは子供が親の言いつけを守るように頑なまでに幹から手を離さなかった。
 だが、ピサロの手がズボンの中にまで届いた時はさすがに驚いて身をよじって逃げようとした。

140籠の小鳥は3度鳴く 5/7:2009/02/02(月) 22:10:08
「動くな。」
 ピサロの一声にクリフトは息を飲んだ。本当は、怖くてたまらなかった。ピサロの指が自分のものに絡まった途端、「やッ…」と声が漏れてしまい、クリフトは咄嗟に唇を噛む。
「何故、声を堪えている。ちっぽけなプライドでも守っているつもりか?」
 手を止めずに耳元でピサロが不機嫌そうな声で問い掛けた。頭に靄が掛かりそうになりながらも、クリフトは慌てて首を振った。
「わ…私は…男ですから…声など出せば…きょ…興醒めされるかと…」
「心配しなくともお前がロザリーの代わりになるとは思わん。
 おのれの命さえ風前の灯だというのに、私への同情か?」

 心の中を見透かされたような気がしてクリフトは恥ずかしさのあまり、体温が一気に上がるのを自覚した。
「同情などでは……!やっ、ちょ…お願いです、あの、本当を言うと、わ、私は、こういうことが不慣れで…。」
 クリフトは動揺し過ぎてすでにピサロを癒すどころでは無くなった。ピサロの指の動きが早まったせいで、息が上がって足がガクガクと震えている。手が幹から外れそうになるのを泣きそうな思いで耐えていた。
「も、もうダメです、手を、手を離して…んッ!ああ…ッ!」
 ピサロの指の中で精を出し、クリフトは大きく息をした。
「す…みませ…。手を汚してしまいました…。」
 もう、手を離してもいいだろうか。これ以上されると3回目がスタートしても明け方まで体力が持ちそうも無い。そう思った時、ピサロの手がクリフトのズボンを下着ごと膝まで一気に下ろした。
「もう止めて…!」思わず自分の手でピサロを止めそうになり、慌てて自制する。
「今、指が離れたな?」
 ピサロの声が背後で放たれた。「いえ、私は…。」クリフトは必死に首を振る。
「何本、指を離した?」
「す、すみません、許してください…!」
「何本、指を離した?」
 同じ質問を繰り返すピサロにクリフトは心が凍てつく思いがした。
「ご、ごめんなさい…、3本くらいだったと…思います。」
「3本か。まぁ、無難なところだな。」
「い…痛い…ッ!!」
 そのままピサロはクリフトの最奥へと無理矢理指を突き入れてきた。しばらくデタラメに動かしたあと、続けて2本目が入る。
クリフトはあまりの展開に思考が付いていかず、幹にこめかみを当てるようにして痛みを耐えた。指がどこかを掠め、途端にクリフトがビクリと跳ねた。ピサロが笑ったような気配がして、振り向こうとした瞬間、3本目が入った。
息が詰まりそうになり、大きく息を吸った瞬間、また急激な波に飲まれそうになる。思わず「うぁぁっ!」と喘いでしまい、クリフトはまた恥ずかしさの余り体温が上がるのを感じた。
いや、もう、この体温の上昇は恥ずかしさの為だけではないだろう。クリフトが内心パニックに陥っていることを知ってか知らずか、ピサロの指はクリフトを追いたて、耐えようと空しい努力をしているクリフトの口から何度も喘ぎ声をこぼれさせた。

 2度目に精を放った時、自分がまだ幹から手を離していないのがクリフトは我ながら不思議に思えた。そのまま、ずるずるとその場に座り込む。ピサロが覗き込んできたので、クリフトは肩で息をしながら、
「もう…手を離してもいいですか…?」と恐る恐る尋ねてみた。
「勝手にしろ。」
 クリフトは安堵の息を吐き、手を幹から剥がした。両手共に血の気が引いている。クリフトは痺れた両手をすり合わせ、なんとか動くようになるともたもたとズボンを履き直し始めた。
「お前がここで降参するなら、お前を生かしておいてやっても構わんぞ。」
 ピサロの声にクリフトは驚いて顔を上げた。「え、本当ですか。」

「ああ、次の3回目でお前を殺すのは少し惜しいからな。
 ただし、お前にはロザリーヒルの塔へと入ってもらう。
 人間を滅ぼせば、モンスターどもに最後の人間として狙われるようになるやも知れんからな。
 一生塔の中で可愛がってやろう。お前はロザリーの代わりになってくれるのだろう?」

141籠の小鳥は3度鳴く 6/7:2009/02/02(月) 22:14:13
 全身をピンク色に上気させて息を切らしていた神官は、ピサロの言葉に悲しげに眉をひそめた。
「そんなもの…何の解決にもなりません。」
 そのまま無言で傷ついた足をかばう様にして武器を拾いに行く。
「私などが…あなたを癒そうとするなど、おこがましいことでした。やはり…ロザリーさん自身でないと…」
 ピサロは思わず詠唱し、手の平の上に火の球を素早く作ると、裂かれた上着をどうしようか躊躇しているクリフト目掛けて放っていた。火弾は上着に直撃し、クリフトが衝撃で倒れている間に燃え上がる。
クリフトはようやく上着を諦め、「3分、お願いします。」と言って肩を落として部屋を出て行った。
 今の提案が気にいらなかったのか?命を捨ててまで何を解決させようというのだ。ピサロは燃え続ける衣類を見つめていたが、身を翻してクリフトを追う事にした。夜明けまでさほど時間は無い。
 瞬殺してやろうか、とも思っていたのに、意外とこのゲームを楽しんでいた自分に驚く。あの男はロザリーの代わりにはならない。しかし、あの男が言った言葉は、ロザリーがよく口にしていた言葉と同じだった。

“人間も、モンスターやエルフと同じ生きとし生ける者なのです!”

 あの男はキメラの翼を持っていた。ダンジョン内部で翼が使える場所と言えば世界樹の天辺しかない。
極度の高所恐怖症のあの男が青い顔をして向かっているだろう、と思うと何故だか妙に面白かった。あの男は気配を消すのは上手いが、思考は読みやすい。

 ピサロがのんびりと時間を掛けて最上階へと向かうと、案の定、クリフトはそこでうずくまっていた。何かを隠すように必死に枝や葉を集めている。
世界樹の枝葉はまるで自分の意思があるかのように、普通は別の力によって折れたり千切れる事は無い。しかし、何故かクリフトの手に従うように枝や葉が千切れてはクリフトのそばへと集められていく。

「クリフト、ここまでだ。」
 ピサロが声を掛けるまで気が付かなかったらしい。顔を上げて見えたその表情は涙に濡れながら、しかし、微笑んでいた。
「これで3度目なのは分かっているな?
 屋上まで来ていながら、何故キメラの翼で脱出しない?」
「え?あ、キメラの翼って、屋上でなら使えるんでしたね。
 うっかりしていました。」

 クリフトは左足をかばうようにして立ち上がる。そしてキメラの翼を取り出した。周囲の空がやや明るくなりだした。夜明けが近い。

「あなたに言わなければならないことがあります。
 いくら人間の私が言ったところで信じてはくれないかも知れませんが…。」
「何だ?」
「ロザリーさんをあんな目に遭わせたのは、人間だけでは無いのです。
 本当は彼らを操った者が…」

 ひゅ、という風を切る音の後に、ドン、という鈍い音がした。クリフトの腹部に長い矢が深く突き刺さっていた。クリフトの目が険しくなり、ピサロの背後に向けて怒りの目を向けた。
 エビルプリーストがボウガンを構えて立っていた。もう1本発射しようとしているのを、ピサロは「止めろ!!」と一喝し、ボウガンを叩き落した。
「あのような馬鹿馬鹿しい話を信じる気じゃありますまいな、ピサロ様!?」
 エビルプリーストはボウガンを拾い上げる。
「人間を生きて帰すなど正気の沙汰とは思えん。この世界樹も早く焼き払っていれば良かったのだ!」
「ヤツはこのまま帰す。」
「何故!?」
「夜明けだ。約束だからな。」

142籠の小鳥は3度鳴く 7/7:2009/02/02(月) 22:16:34
 キメラの翼を構えるクリフトの背後から、朝日が昇り始めていた。クリフトの姿がキメラの翼に覆われ、光の中へと消える。エビルプリーストは舌打ちしたが、ニヤリと笑ってピサロに1本の腕輪を手渡した。黄金の腕輪だった。
「さぁ、ピサロ様。進化の秘法をお試しになるときです。」
 ピサロはクリフトが何を隠そうとしていたのか気になったが、何故かこのことをエビルプリーストに知られるのはまずいような気がして、言われるままに腕輪を手にはめた。やがて、急激に自分の力が上昇するのが感じ、反比例するように意識が曖昧になっていく。
 エビルプリーストに導かれるままデスキャッスルに戻った時には、世界樹で出会った神官の事やロザリーのことなど、忘却の彼方へと流してしまっていた。


 実際にあの時の神官が屋上で何をしていたのかは、蘇ったロザリーが目の前に現れた時に分かった。ロザリーの言葉で全てを思い出し、そして全ての元凶を知ったピサロは彼女から数歩下がった所で涙を必死で堪えている神官を目の端で捕らえた。

「お前は花を探していたのか…。」

 ピサロがロザリーを抱きしめながらクリフトに問うと、クリフトはビクリと体を震わせた。
「まだ蕾の段階で摘んで帰れませんでしたので…。お待たせしてしまってすみません。
 あの節はご迷惑をお掛けして…」
とやや見当違いの返答をする。
 マーニャという踊り子が「とりあえず、馬車に戻りましょうよ!積もる話はたんとあるでしょ。」とピサロとロザリーの肩を気安くたたく。
「そうだな。」とピサロは微笑んだ。落ち着いた時に、クリフトには礼をせねばならない。ピサロは馬車に乗り込んだ途端、ポツリと思いついたことを口にした。
 誰にも聴こえないように言ったつもりだが、横に座ろうとしていたロザリーのとんがり耳には伝わったらしい。無邪気な声でロザリーは尋ねてきた。

「ピサロ様、『3度目が途中』って何のことですの?」

 馬車に乗り込もうとしたクリフトが足を踏み外して落ちていくのが見えた。彼の仲間が不思議そうにクリフトを見ていたが、ピサロは気にせずデスキャッスルを後にした。

143名無しの勇者:2009/02/02(月) 22:20:15
以上です。
世界樹の構造がうろ覚えの上、本当に天井が無ければキメラの翼が使えたのかも曖昧です。
違ってたらごめんなさい。

144名無しの勇者:2009/02/12(木) 00:01:50
久し振りのピサクリありがとうございました!
ドキドキしながら楽しませていただきました。
次回作もお待ちしております。

145名無しの勇者:2009/02/21(土) 00:28:39
ピサクリ来てたー!
クリフトの一挙手一投足に激しく悶えました!
途中のままの3度目成就祈願ww!

146143:2009/02/27(金) 00:49:10
ありがとうございます。なんとなく痛々しい話になっちゃったのに
読んでもらえて嬉しいです。
ぼんやり続編も思いついたので書けたらまた来ます。

147名無しの勇者:2009/03/08(日) 01:24:24
と、言う訳で書いてきました。
142の続きです。ピサクリ。

148無題 1/5:2009/03/08(日) 01:30:00
 クリフトはぼんやりと窓の外を眺めていた。もう、ここへ連れて来られて何日になるだろう。ロザリーヒルの隠された塔の一室で、クリフトは遠くに立ち上る黒煙を見つけて、また何度目か分からぬほどの絶望的な思いに駆られる。
 あの若き魔王がまたどこかの国を襲ったのだろうか。勇者の郷のように。我らがサントハイムのように。
 いずれまた、ここへやって来ては、嫌がる私を押さえつけ、今日、どのように町を焼いたか、どのように命乞いを受けたか、耳元で囁くのだろう。クリフトは震える己の手を見つめる。武器を奪われ、部屋にある果物ナイフでピサロを殺そうとしたときもあった。死の呪文を唱えて殺そうとした時もあった。ナイフなどではピサロは死なない。ましてやザラキなどでは言わずもがなだ。
 絶望感に打ちひしがれ、何度か自害しようか、とも思った。神は自害を禁じているが、耐えられずに自分に対して死の呪文を唱えた事も幾度と無くあった。1度成功した事もあったが、すぐにピサロに蘇生呪文を使われ、最近はザラキの効きさえ悪くなって、自分がいかに飼い慣らされて神官として使い物にならなくなっているか、を思い知る。
 クリフトは鉄格子のはまった窓を恨めしげに見る。何故、ここに居るのか過去の記憶さえ曖昧になってきていた。自分は壊れてきているのかも知れない。いっそ、狂ってしまえるのなら、その方が楽なのだろうか。

 前触れも無く鍵を開ける音がして扉が開き、クリフトは息を飲んで振り返った。鎧に返り血を浴びたままの姿で魔王が立っている。部屋に一瞬で溢れる生臭い匂いにクリフトは気分が悪くなった。昔、旅をしていた頃はこんな匂いで怯むことなど無かったのに、と、再び自己嫌悪に陥る。
 ピサロはクリフトの心中を知ってか知らずか、ズカズカ中へ入ってくると嫌がるクリフトの顎を強引に掴み、口づけた。離れようともがくが、すぐに体から力が抜けて、血で汚れた魔王の体に
倒れこむ事になる。自分の体に付く紅い汚れに、クリフトは泣きそうになった。彼に浴びせられた返り血は、間違いなくどこか誰かの人間から流れたものだからだ。

「お前の体を汚した血が、誰のものか教えてやろうか?」

 抵抗するクリフトの汚れた服のボタンを難なく外しながら、ピサロは楽しげに言う。

「もう…止めてください。人間を滅びしたって、世界は変わりません…。」
「この血は、お前の大切な姫様のものだ。」

 クリフトは全身の血液が死の呪文に遭遇したかの如く凝固するのを感じた。一気に体が震え、耳鳴りがし始める。
 ピサロは獣のように咆哮を上げて激しく抵抗するクリフトを、しかし易々と抑え込んでベッドに放り投げた。神官だった男の上に乗り、嬉々として耳元に囁き続ける。

「お前の名を呼びながら死んでいったよ。お付のジイさんもな。」
「嘘だ、嘘だ、嘘だっ!!!」
「明日は勇者を探し出して血祭りに上げてやる。」

 裸に剥かれながら、クリフトは暴れ、抵抗が敵わないとなると自分を殺すように叫んだが、ピサロは「ああ、死ぬような思いをさせてやるさ。」と笑って抱きしめ、組み敷かれて力尽きた彼を、一気に貫き悲鳴を上げさせた。

149無題 2/5:2009/03/08(日) 01:33:17
「うわぁぁぁ!!!」


 見覚えの無い天井が見え、クリフトは一瞬、自分の所在が分からなくなった。浅い息を繰り返していると、一気に記憶が戻ってくる。ここは温泉町アネイルだ。
 今日は朝からずっとゴットサイドに隠されたダンジョンを探索していた。モンスターのレベルが高くて回復役の自分とミネアが疲労困憊してきたから、途中で切り上げ、疲れを癒そうと今日の宿をアネイルにしたのだ(ちなみにここは安い方の宿だ)。
 現在の状況把握ができた瞬間、クリフトは吐き気に襲われてベッドから飛び降り、ふらつく足で洗面所に駆け寄った。昼から何も食べてないから胃液しか出ない。
体調が悪い、というより夢の内容を体が拒否した、というのが正しいだろう。クリフトは吐瀉物を水で流し、タオルで口を拭った。窓の外を見るとすでに暗い。部屋には自分以外に誰も居なかった。テーブルにメモが残されていたので、部屋のランプを点けて手に取ると、勇者の字で

『よく寝ているようなので先に温泉に行ってくる。もし起きられて何か食べられそうなら、今日はここの宿屋で飲む、とマーニャさんが言ってたし、多少遅くなっても食堂で
 騒いでると思うから、後から来ても大丈夫だよ。』
と走り書きがしてあった。少し安心したが、夢だと分かっていても仲間の無事を確認をしなくては落ち着かない。クリフトは部屋の扉を開けてにぎやかな声がする階下へ向かった。
 ここのところ、毎晩のようにロザリーヒルに幽閉された夢を見る。よほど、世界樹でピサロに言われたことがショックだったのか、とも思ったが、ピサロが仲間になる前にはこんな夢はみていなかった。仲間になったというのに、恐怖感からこんな夢をみるのだろうか。おかげで最近、うなされることが多く、疲れが取れない夜もあった。
夢の内容が内容なので誰にも相談できないし、ピサロにもなんだか申し訳が無い。敵が強くなっているし、疲労が溜まっているのだろうか。1時間ほど寝ただろうが、MPがほとんど回復されていないようだ。食欲も沸かないし、仲間の無事を確認したら、自分も温泉に浸かって、マーニャさんに捕まらないうちにとっとと寝てしまおう。

 そっと食堂を覗くと、仲間の全員が揃ってワイワイ食事をしていた。湯上りの者もちらほら居るようだ。アリーナ姫も凄まじい勢いでスープを飲んでいるし、ブライも麦酒を美味そうに飲んでいた。ピサロも無表情でミネアの隣りで葡萄酒を飲んでいる。良かった。これ以上無い、というくらい姫もブライ様も元気そうだ。
 クリフトはホッとして部屋に戻ろうとしたが、「起きたのか?」と、気付かれていないと思っていたピサロに声を掛けられた事で仲間全員の注目を浴びてしまった。
「ああ、クリフト復活した?部屋に入るなりバタンキューしたから心配したよ!」
 勇者が明るく言ったが、すぐに眉をひそめる。「なんか、まだ顔色悪くない?」
「大丈夫です。ご心配をお掛けしてすみません。私も温泉に浸かってきますから。」
 慌てて逃げようとしたが、ピサロが続けて「吐いたのか?」と言ったから息を飲んだ。
「何故それを…」
「吐いた!?」「吐いたってどういうことよ!?」
 仲間全員に詰め寄られ、クリフトは絶句する。「あ、あの、本当に大丈夫で…」
「大丈夫、大丈夫ってミントスのときもそうだったじゃないの!」
 アリーナが間髪入れずに突っ込む。「夢見が悪かったんです。」「夢見たくらいで吐いてたらベッドが凄まじいことになるわよ。」とマーニャが言う。
 それは自分もそう思ったが、なんせ、夢がリアルだったから仕方が無い。そう…リアルなのだ。恐ろしいくらいに。

「もう少し、ベッドで横になってらした方がいいんじゃありませんか?
 私もまだ疲れが取れてないのでもうすぐ部屋に戻ろうと思っていたんです。」
 ミネアが言ったが、夢の続きを見そうな気がしてクリフトは首を横に振った。

150無題 3/5:2009/03/08(日) 01:36:29
 仲間の追及をなんとか振り切り、着替えを持って1人温泉に向かった。ピサロを除く男性陣が「誰か一緒に行こうか?」と聞いてきたが、食事中なのが申し訳無く、必死にそれを断った。
最後はアリーナまでもが「じゃあ、私が一緒に行く」と言い出し、逃げ出すように宿を出たのだが。

 英雄リバストの像の前でなんとなく一礼してから温泉に向かっていると、「おい。」とふいに声を掛けられた。一瞬、リバストの幽霊が現れたか、と身構えたが、振り返るとピサロが自分を追いかけてくるのが見えた。
 クリフトは戸惑い、「あの、どうかされましたか?」とそばに立ったピサロを見上げた。

「あの後、やっぱり誰かお前についていけ、という話になってな。」
「え、それでピサロさんが!?」
「お前には借りがあるからな。」

 ピサロはそのまま温泉の入口に入っていく。ピサロとふたりっきりになるのは世界樹以来だったのでにわかにクリフトは緊張した。ピサロの好意を無にするのは悪いし、まさかここで引き返しては仲間に不審がられるだろう。温泉内に誰か居るかも知れないし、彼はそんなに怖い人間ではない…と言うか、人間ではなく魔王なんだけど…。
「何をしている?」
 温泉の入口からピサロが不機嫌そうに顔を出す。「いくら私でもこんなところでお前にどうこうするつもりは無い。」
「いえ!そんなつもりでは…。」
 クリフトは慌てて中に入った。じゃあ、どこで何を私にするつもりなんだろう、と一瞬、疑問が心に過ぎる。
 脱衣所に入り、籠に荷物を放り込んで、ふと振り返るとピサロは何もせずに壁にもたれてジッとクリフトを眺めていた。
「ピサロさんは入られないのですか。」
「お前が寝ている間に入った。…まさか吐くとは思わなかった。今日のはきつかったか?」
 一瞬、赤い鮮血が脳裏に過ぎり、クリフトは顔が強張ったが、きっと今日のダンジョン攻略のことを言っているのだろう、と思い直し、服を脱ぎながら「そうですね。」と苦笑した。
「だけど、今日でレベルアップできましたし、次にあのダンジョンに入るときはもう少し頑張れそうですから。」
「…まぁいい。今日で仕上げに入ってやる。」
 ピサロの言っている事が良く分からず、「それはどういう意味ですか?」とクリフトは首を傾げて話の続きを待ってみたが、何も言ってもらえず諦めて服を脱ぎ続けた。

 湯船にはクリフト以外に誰も入浴しておらず、洗身を終えたクリフトは湯の中でとろけそうになりながら「うーん!」と伸びをした。頭上に星が広がり、クリフトはささやかな贅沢を噛み締めた。
もうしばらく浸かっておきたい所だったが、脱衣所でピサロが待っている、と思うと気持ちが急いてしまう。クリフトは体が温まったところで湯船から出た。
 脱衣所に入った途端、突然頭から大きなタオルを被せられた。視界が奪われつつも、クリフトは「ありがとうございます」と言いながら頭を拭き始めた。

「お前にチャンスをやろう。クリフト。」

 頭上からピサロの声が降りてくる。クリフトは動きを止めた。
「お前が服を着る前に、私が裸のお前を捕えることができたら私の勝ち。先に服を着られたらお前の勝ちだ。」
 ポタ、と頭から雫が堕ちた。
「3分待ってやる。」
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
 タオルから顔を出した時にはピサロの姿は無かった。幻聴じゃない、はっきりとこの耳で聴いた。あの世界樹の口調と同じだ。クリフトは血の気が引き、慌てて脱衣籠に手を伸ばす。

 脱衣籠は忽然と姿を消していた。

「えええぇぇぇぇェェェェ?」
 世にも情けない声を吐き出し、クリフトは頭をタオルごと抱えてうずくまった。と、足元にキメラの翼が落ちている。

151無題 4/5:2009/03/08(日) 01:40:39
「ずるいですよ…。キメラの翼で町の入口に飛んでも人目につかなくて、
 私の服が置いてあるところなんて、ここしか無いでしょう…?」

 サントハイム城内の自室の扉のノブを掴んだまま、クリフトは泣きそうになりながら目前に立つピサロに訴えた。
「世界樹でのゲームが途中のまま邪魔が入ったからな。続きをしたくていい場所を探していたんだ。」
「あれは私が脱出してゲームは終了じゃないんですか。」
「ヤツが来なければ、お前を捕まえていたさ。それに最後までやらなかっただろう。」

 何を持って最後とするのか良く分からなかったが、考えるのも怖くてクリフトは小さな声で「私の服を返してください。」とつぶやいた。タオル1枚を羽織ったままだ。
「どうせすぐ脱がす事になるんだ。別に着なくて構わないだろう。」
「……ですよね。」
 クリフトは絶望的な思いで周りを見回した。サントハイム城内はピサロに住人を別空間に閉じ込められたせいで、全くの無人となっている。世界樹と同じ条件なのだ。
一瞬、逃亡しようか、とも考えたが裸の自分がどこまでピサロから逃げられるというのか。また、キメラの翼すらもう無くなっている状態でどうやって脱出すればいい。
 夢の中の出来事のように、これからピサロに抱かれるのだ、と考えると足が震えだした。抱かれて、それから私はどうなるのだ。まさか、塔での監禁生活も正夢になるのではあるまいか。恐怖感に襲われ、クリフトは急に不安感に襲われた。平静を装うとしたが、むしろ逆効果で涙が溢れそうになる。ピサロが訝しげに見つめているのが分かったが、どうしても震えを抑える事はできなかった。夢の中とはいえ、生き地獄とも言うべきあの世界。
 クリフトは搾り出すように「あの…終わったら…私はどうなるんでしょう…?皆の元へ返していただけますよね?」と震える声で尋ねた。ピサロは驚いたように目をみはった。
「や…約束してください。お願いします。」
 訪れた沈黙が恐ろしく、クリフトは言葉を続けた。
「お前が大人しく私に抱かれるのならば、お前をちゃんと仲間の元へ返してやるさ。」
 ピサロは優しく微笑む。整った顔が神々しささえ感じ、クリフトは思わずコクコクと何度もうなずき、鼻先を赤くして涙をこぼした。
「い…一度だけなら。」
「ふーん…。まぁ、行こうか。」
 ピサロはクリフトを促して部屋の外に出る。「私の部屋では…ダメなんですか?」
「もっと広い場所を見つけてある。」
 ピサロはどんどん奥へと進んでいく。クリフトは涙を手の甲で拭い、裸足のままピサロについていった。
 以前なら城内はとても賑やかで、衛兵達が幼い頃から顔馴染みのクリフトによく声を掛けてくれた。今は悲しいほど静かで、ピサロの靴の音だけが響き渡っている。本来なら兵士が止めるはずの謁見の間までピサロはずんずんと入って行き、クリフトは嫌な予感がして足が重くなる。案の定、ピサロは玉座の前で止まるとクリフトの方へ振り返った。
「玉座の上と王の寝室、どちらがいい?」
 美しく微笑むピサロの言葉に、クリフトは凍りついた。
「じょ…冗談は止めてください。臣下の私が使うなど、許されるはずがありません。」
「選ばないなら玉座だ。憧れの場所だろう。」
 腕を引っ張られ、クリフトは足を踏ん張りながら叫ぶように「止めてください!!寝室!寝室でお願いします!!」と訴えた。ピサロは小さく舌打ちし、クリフトの手をつかんだまま奥へと進んだ。

152無題 5/5:2009/03/08(日) 01:42:50
 城内は人が居ない時間が長いのに不思議と埃が積もっていなかった。王の寝室の大きなベッドもつい先刻、ベッドメイキングされたかのごとく、美しく整えられていた。
王の部屋に入った途端、クリフトは萎縮して固まってしまったが、その顎をピサロに指ですくわれ、拒否する間も無く口付けをされた。2度ほど軽いキスの後、深々と口腔内に侵入される。
ピサロの口付けは唇から離れた後、そのままうなじへと進み、首筋、鎖骨へと進んでいく。いつの間にかベッドに寝かされたクリフトは、ピサロの愛撫を受けながら、自分がこうしてピサロに抱かれている事に抵抗感が余り無い事に我ながら驚き、ショックを受けていた。
息が徐々に上がり、自分の体が嬉々として快楽を得ようとしているのが分かる。声が漏れそうになって、必死で堪える。自分の体はどうなってしまったんだろう。クリフトの瞳が不安でキョトキョト揺れ動き、ピサロが目を閉じさせて瞼の上に唇を落としても、なお、不安で涙がこぼれた。
クリフトはすでにピサロの行為よりも自分の体に戸惑い、恐怖を感じていた。夢と現実の狭間に落ち込んだようで、何度もここがロザリーヒルのあの塔の中ではないか、と部屋の中を確認した。そうする間もピサロに快楽を引きずり出され、何度も声を上げては自己嫌悪に陥る。

「あ…あの、もう…止めてもらうわけには…」
 ピサロの体が一時離れた時、クリフトは体を起こそうと横向きになって訴えた。が、ピサロは再び、彼を背後から抱きしめ、耳を甘噛みしてクリフトを震わせると、
「なんだ、今日は後ろからか?」と呟いた。クリフトは弾かれたように振り返る。
「『今日は』…?」
 ピサロは何も答えず、クリフトの肩甲骨あたりを口付け、クリフトの体を跳ねさせた後、もの言いたげなクリフトの唇に背後からもう一度口付けた。

 前を愛撫され、自分の後ろにピサロのものが当たった時、クリフトは力を抜こうと自然と息を吐いた。途端、驚きで体が凍りつく。熱で浮かされそうだった頭が、ピサロが侵入した痛みで一瞬冴える。
やっぱり自分は、こういう行為に慣らされている。夢で何度も体験してきたからだ。夢の中で、抵抗しても逃げる事も叶わず、何度も何度もピサロに抱かれてきた。痛みから逃れる為に、自然と色んなことを体が覚えてきたのだ。ピサロに揺さぶられながら、クリフトは必死で霧散しそうになる考えをまとめていく。あれは自分で勝手に見た夢の中の出来事だったじゃないか。にも関わらず、体が慣らされているなんて。

「ピ…ピサロ…さ…。き、聞きたいことが…」
 接合部で鳴る水音がクリフトの耳を打ち、赤面しながら、それでも言葉をなんとか紡いでいく。ピサロは動きを止めてくれない。
「わ、私の体…おかしいんです…は、初めてのはずなのに…こんな…」

「『不慣れ』でこんな行為はやめて欲しい、と世界樹で言ってただろう?」

 後ろから耳元でピサロが囁き、途端に大きく突いてきた。クリフトは自分の体が支えられなくなってシーツに突っ伏す。

「だから学習させたんだ。最初は夜に頭の中でシミュレーションさせてたんだ。
 宿のベッドで喘ぐお前が可愛くて何度か本当に抱いた事もあったがな。なんだ、覚えていないのか?」

 クリフトは頭が真っ白になって、パタパタとシーツに自分の精が放たれた音がしたのを最後に意識を手放した。

153名無しの勇者:2009/03/08(日) 01:45:08
以上です。実は、塔の方を現実にしようか、とも思ってたんですが、
あまりにもクリフトが気の毒かと思って止めときました。

154名無しの勇者:2009/04/01(水) 17:23:05
>>153
遅ればせながら、GJです!
監禁が現実で、和みシーンは夢?!と途中ハラハラでした。
楽しそうなピサロ様に禿萌え。クリフト可愛いよクリフト。
次回作も期待しています。

155名無しの勇者:2009/04/02(木) 14:03:55
>153
勇ピサ派だったんですが攻ピサロも萌えます…!
クリフトも可愛いです

156名無しの勇者:2009/04/24(金) 00:53:37
ピサクリ来てたー!
クリフトかわいいよクリフト

157名無しの勇者:2009/05/17(日) 23:19:02
勇クリです。勇者がかなり極悪人になってしまいました。
注意:若干、DQ6が混ざってます。

158月の戯れ 1/6:2009/05/17(日) 23:22:46
「んんー、その人数じゃ、一組ダブルベッドになってしまうようですが、構いませんか?」

 夕刻、移民の町の宿屋でのことだ。宿屋との間に入って宿泊手続きをやってくれたホフマンさんは申し訳無さそうに僕に頭を下げた。

「ダブルベッド…。」ピクリと反応した僕に、慌てたのかホフマンさんは早口でアピールタイムに入った。
「かなり年代物なんですが、可愛らしいベッドなんで、女性のお客さんには人気がありまして。
 カップルの方だと特に喜ばれているようですよ。」
 僕はさっと後ろを振り返る。みんな成長した町が物珍しいのか、宿屋の予約は僕に任せて散ってしまったので誰も居ない。僕はまたホフマンさんに向き直る。
「仕方ありません。それでお願いします。」
「かしこまりました。じゃあ、その部屋はマーニャさんたちが泊まられる、ということでよろしいですか?」
「いや!あの、部屋割りは後で決めますから。他のメンバーにはダブルベッドのこと、黙ってていただけますか?」
「…分かりました。」
 ホフマンさんはニヤリと笑ったが、僕は何も気付かないフリをして渡された宿帳にサインをした。

 ひとまず案内された部屋に入ると、なるほどアンティークなベッドが大きなバルコニーが見える位置に置いてあった。窓も大きく、夕日に照らされた海が見える。
夜は星空がさぞ美しいだろう。カップルに人気が高い訳が分かる気がした。しかし、このベッドは可愛い、というか、むしろ子供向けのような気がする。

「ほう、珍しいものがあるな。噂には聞いていたが、本物を見るのは初めてだ。」

 声に驚いて振り返るといつの間に戻ってきたのか、ピサロが物珍しげに部屋に入ってきた。
「今夜はこの部屋も取ってるのか。」
「そうだけど…このベッド、そんなに有名なのか?」
「ほう、知らないのか。まぁ、マスタードラゴンが生まれる前のシロモノだからな。
 まだ残っていた事が奇跡に近い。」
「えぇ!?そんなに古いの!?」
「ここの店主は知らずに買ったんだろう。でなければ普通に客を寝かせたりはしない。
 ベッドが持つ力も薄れてきているようだ。」
 ピサロはベッドのそばに片膝を突いて座り、ベッドに視線を走らせたあと、薄く笑った。

「この部屋はお前と神官で使う気だったのか?」
「え!?いや、あの…。」
 言葉に詰まった僕を見て、ピサロは楽しげに笑った。
「よし、このベッドの力を戻してやる。その代わり今から言う条件を飲むと約束するならば、だ。」

159月の戯れ 2/6:2009/05/17(日) 23:26:01
 皆とワイワイ夕食を済ませたあと、クリフトを宿屋の一番上の階にある例の部屋に案内する。
 高所恐怖症であるクリフトは上の階の部屋というだけで遠慮したかったようだが、ベッドが宿屋中で一番古いから僕らの部屋にした、と言うと納得したようにうなづいた。
 が、部屋に入ってベッドを目にした途端、硬直されてしまった。

「こ、これ、ベッド、ひとつしか無いんですか。」
「うん、この部屋だけダブルベッドなんだ。ごめんね。」

 窓からも近く、外の景色が丸見えで満月が見える。海も見下ろせる絶景ポイントだ。この部屋の高さが十分身に染みるほどに。クリフトは元来白い顔を益々青褪めさせてクルリと窓から背を向けた。

「私、今からライアンさんと部屋を交換してもらってきます。」
「な!?ダメだよ!みんなもう休んじゃってるって。疲れてるのに迷惑だよ。」

 慌てて通せんぼすると、クリフトは僕の言葉にグッと詰まった。かなり正論を行ったつもりだが、過去、何度か僕に一方的に抱かれてしまった身としては、このままこのベッドを使って無事に朝を迎えられるとは到底思えなかったのだろう。
ベッドを背に向けたまま固まってしまったクリフトに、僕はわざとらしくため息をついた。

「分かった分かった。クリフトさんが抱きついてこない限りは手は出さないよ。」
「…本当ですか?」
「約束する。」

 僕は今まで約束を違えたことはない。クリフトはやっと肩の力を抜いて笑顔を見せた。寝相には自信があるのだろう。確かに彼は死んだように静かに眠る。が、今夜は悪いがゆっくり寝てる暇は無いぞ、神官。


「可愛らしいベッドですよね。次回はアリーナ様達に譲ってあげてくださいね。」
 寝巻きに着替えてベッドの左側に潜り込んできたクリフトはそう言うと小さく欠伸をして目を閉じた。なんとなくその顔を眺めていると、疲れていたのか早々に小さな寝息が聞こえ始め、窓から入ってきた月光がクリフトを白く浮かび上がらせた。もういい頃合かな。そう思った途端、すっと音も無く部屋の窓が開いて、冷たい夜気が入り込んだ。

 そしてベッドが、音も無くふわりと浮かび上がった。

160月の戯れ 3/6:2009/05/17(日) 23:29:09
 気付かずに眠り続けるクリフトが愛しく感じられ、引き寄せられるように彼の頬に触れる。
「ん…」と小さく息を吐いた彼の髪をなでようとした時、クリフトの目がゆっくり開いた。

「何…?」
 ベッドは少し揺れて、部屋の窓からバルコニーに出た。クリフトは首をひねって状況を把握する。僕が彼の口を押さえるのと、彼が絶叫したのはほぼ同時だった。
危ない危ない。クリフトは僕の腕にしがみつき、息が続かなくなったのか叫ぶのを止めた。気の毒に、手が震えだしている。ベッドはそのままバルコニーの柵を追い越し、その高さのまま、町の屋根のそばを飛翔する。

「な、な、な……何ですか、これ!?」
「うん、何だか、急に飛び出したんだよね。勝手に動いてるから戻し方が分からなくって。」
 嘘だ。実は自分の意思で操る事ができる。このベッドはマスタードラゴンが生まれる少し前に病気だった子供の夢から生まれた魔法のベッドなんだそうだ。こんな事に使ってごめんね、と見知らぬ子供に対して内心こっそり謝っておく。
僕は震えが止まらなくなっているクリフトをそっと抱き寄せた。

「まぁ、しばらくしたら元の部屋に戻ってくれると思うし、大丈夫だよ。」
「そんな!?しばらくっていつまでですか!?」

 クリフトは泣きそうな顔で今までに無いくらい自分から僕に密着してくれる。僕はクリフトの目から一粒だけ流れた涙に唇を寄せたあと、そのままその唇に口付けた。
ビクリとクリフトの体が震え、離れようとしたが、そのまま押さえ込み、思う存分クリフトの口腔内を味わった。顔を離した途端、クリフトは肩で息をしながら真っ赤な顔で
「ちょ、ちょっと待って…。」と弱々しく僕の肩を押したが、僕は無視してクリフトの寝巻きのボタンを外し始めることにした。クリフトは僕の手を掴んで、
「やめてください!約束が違うじゃないですか!何やってるんですか、こんな状況で!」と僕に抗議した。

「約束?約束って、クリフトさんが抱きついてこない限りは手は出さない、ってやつだろ?抱きついてきたじゃない。」
「え!?」
 クリフトはギョッとして体を勢い良く僕から離したが、手を突いた先がベッドの端だったようで「うわぁぁぁッ!」と再び僕にしがみついた。なんとか息を整えるのをしばらく待ってあげる。

「だ…だってこれは…。条件が違うでしょう。」
「条件って何の?抱かれるのが嫌なら僕から離れればいいじゃないか。」
「そんな、だって、これは非常事態で…」

 僕は痺れを切らしてベッドを大きく揺らしてやった。クリフトは「ひやぁぁ!」と叫んで僕に正面からしがみつき、体を震わせる。僕がそのまま無言で寝巻きのボタンを外し続けるのを見て(本人が貼り付いてきてるからやり辛かったけど)、クリフトは「ひどい…」と小さく文句を言った。無理に抵抗してベッドが揺れるのが怖いらしい。
下手すればベッドから落ちるかも知れないし、残念ながらクリフトに逃げ場は無かった。

161月の戯れ 4/6:2009/05/17(日) 23:36:05
 クリフトは緊張からか体は震え、落ち着こうとして深呼吸を繰り返している。体を押すと、あっさりとベッドに倒れ、そのまま自分を愛撫する手を不安げに見続けていた。
震える手は必ず僕の体をすがるように触れ、どんなことをしても逃げる事は無く、ただ、「やめてください…」「嫌です…」とこちらを逆に高揚させる拒否の言葉を震えた声でつぶやいた。
これが高所でなければ、これほどクリフトに必要とされている事に感激しただろう。彼は身を離そうとした僕に「放さないでください!」とまで言った。いつもこうならいいのに…と呟く僕を涙目で睨みつけてくれたけど。

 クリフトはなかなか行為自体には集中できないようで、熱が体にこもったまま、苦しげに息を吐き出していた。クリフトのものを握っても、大きく震えはしたが、精を吐き出すまでには至らない。クリフト自身も自分が達するのは難しい、と早々に理解したらしく、
「も、もう…私は結構ですから…」と涙目で訴えてきた。
 しかしながらこれも僕には逆効果で、このままだとクリフトが可哀想だし、一度無理にでも絶頂を迎えさせておこうか、と思ってクリフトの前を指で弄ってみた。
クリフトは悲鳴を上げ首を何度も横に振る。なかなか思うようにイかせてやれず、段々、この後も長くクリフトを持たせるにはそのままにしておいた方がいいか、と考えを改め、僕はクリフトから手を離した。クリフトが驚いたように僕を見たので、間髪居れずにクリフトの奥の方へ手を伸ばした。
 クリフトは緊張のために体に力が入ったままで、指すら入らなかった。力を抜くように頼んでも「もう、許してください…」と泣くばかり。
僕は後ろをほぐす行為に夢中になって、ベッドが降下し始めている事に気が付かなかった。

「勇者さんっ!」
 クリフトが悲痛な叫び声を上げるので顔を上げると、いつの間にかベッドは海上まで進んでいてて、その海へと急降下していた。クリフトが絶叫する中、なんとかベッドを再浮上させる。ベッドが安定し、一息ついてクリフトを見ると、彼は気を失っていた。

 一瞬、もう諦めて帰ろうか、とも思ったが、先ほどとは一転して脱力しきっている彼の体に気が付き、そのまま行為を続行させることにした。指を入れて慣らし、彼の中に入って中を味わっていると、やがて彼が目を覚まし、僕を締め付けてきた。
クリフトは状況に気が付き慌てて起き上がろうとしたが、それで益々僕との結びつきが深くなり、「ひっ!」と体を強張らせてシーツに倒れた。
きつい締め付けの中、僕がゆっくり動き出すとクリフトは切なげに悲鳴を上げ、ギュッと目を閉じた。僕の動きは知らず激しいものとなって思わず彼の中で達してしまったが、それでも彼は一度も達せず仕舞いだった。
 クリフトは苦しそうに「もう…私は大丈夫ですから…帰りましょう…」と涙目で僕を見上げたが、逆にそれが追い風となり、抜かないまま再び立ち上がったモノで、そのまま彼を揺さぶった。
今の発言は、まるで僕がベッドを動かしている事を気付いているみたいじゃなかった?僕はその考えを消すように、無言で彼を攻め立てた。

 しばらくクリフトは行為の終了を懇願していたが、やがて何か吹っ切れたように自分から腰を急かすように動かし始めた。
「あっああっ…早くっ…お願いです…」
 喘ぎ声も箍が外れたようにこぼれ出し、僕はそれに興奮して2度目の精を彼の腹部へ吐き出した。クリフトもようやく長い苦しさから解放されて、満月の明かりに白い裸を仰け反らせ、長く精を吐き出すと再び意識を失った。僕は青白いクリフトの頬にキスをすると、宿屋に向かってベッドを動かした。

162月の戯れ 5/6:2009/05/17(日) 23:43:23
 とにかく、早く宿屋のあの部屋に帰りたかった。私は高所の恐怖に耐えながら勇者の執拗な愛撫に身を晒していた。自分が今居る場所が、屋外でしかも高所であることを夜気と満天の星空が教えてくれる。おかげで行為に集中できず、恐怖が私の体を占領していた。
 それでも全身をくまなく弄られれば、否応無く体が熱を持つ。普段の私はどうもこういう悦楽に弱いのか、すぐにも精を吐き出し彼に笑われる羽目になるのだが、今回ばかりはなかなか達する事ができず、どんどん体が熱を持って苦しくなってきた。
 しかし、もしここから堕ちたら、いや、ベッド自体が落下したら、という恐ろしい想像に囚われている限り、このベッド上で私自身が達する事は無いだろう、と予想がつく。
もう私のことはいいから、自分だけ楽しんで早く終わらせて欲しい、と心底願い、実際口にもしたが、逆効果だったらしい。彼が私の前を触ってくれた時には突然の事で体が強い衝撃に大きく震えた。だが、ようやくこの苦しみから楽になれるかも、と淡い希望を抱きそうになったが、無情にも彼はすぐさま私から手を離したどころかベッドを落下させ、私を更なる絶望へと叩き落した。

 急降下したベッドが再度浮上したことを知ったとき、私はこのベッドが勇者によって操作されていることを確信した。なんて人だ…!私は彼を非難しようと口を開いたが、口からこぼれ出たのは細い悲鳴のみ。情けなさに涙が溢れ、やっと私は彼から目を逸らせた。今まで存在を忘れていた大きな満月が目に飛び込んで、その美しさに私は一瞬、心を奪われ、今の状況を忘れそうになった。
この月の美しさは海上に居るからこそ映えたのだろう。この神々しい景色がが見られた事は彼に感謝してもいいかも知れない、と目を固く閉じた途端、勇者が私を激しく攻め立てはじめた。
 ベッドが揺れ、再び恐怖に包まれた私は今度も達する事ができなかった。とにかく、苦しい。もう早く部屋に帰して欲しい。彼にその思いを伝えても、無視されて再び体を揺さぶられた。
 苦しい。ベッドが再び揺れ、泣きそうな思いで勇者に行為を終えてくれるよう頼んだが、聞く耳さえ持ってもらえない。熱に浮かされた頭で、どうすれば彼が行為を止めるか必死で考えた。

 そうか…とにかく彼が満足すれば良いのだ。

 私は自ら体を揺らし、彼から精を搾り取る事にした。早くイけ!このガキッ!!頼む、イってくれ!!
 うっとりするように私を見る勇者に、破れかぶれになった私は喘ぎ声を我慢する事無く聴かせてやった。彼が2度目にイったとき、ようやく私も精を吐き出すことができた。
月をぼんやりと見つめているうちに私は意識を失った。

163月の戯れ 6/6:2009/05/17(日) 23:47:09
 ふと気が付くと、ベッドはゆっくりとバルコニーから宿屋の元の部屋に戻るところだった。
 やっと終わった…私はどっと緊張感から解放され、手の震えを抑えようと両手をぎゅっと組み合わせた。
 怖かった。怖かった。とてつもなく怖かった…!!!私はシーツを被り、握り締めた手を解き、涙を拭い、必死に嗚咽を耐えた。

 ベッドが元の位置に戻ると、勇者は2度も達したとは思えない身の軽さでベッドから降りた。やがて戻ってくると、私からシーツを突如奪い去った。
 泣き腫らした私の顔を見て、勇者は驚いたらしい。「…ごめん、そんなに怖かったのか。」と私に謝ると、どこからか持ってきたタオルで私の体を丁寧に拭き清め始めた。その心地良さとようやく訪れた安堵感から睡魔が戻ってきて、意識が朦朧としてくる。
反省しているのか、私を大切に扱ってくれる事が嬉しく、勇者が私にした悪魔のような所業を忘れてしまいそうになる。
 彼に礼を言わなければ、となんとか気力をフル動員させて
「あ…ありが…と…ございま…す」と口を動かした。

 勇者はピタ、と動きを止め、「眠ってなかったの?」と尋ねてくる。
「気が…遠のきそう…ですが…。」
 勇者はふぅ、と何故かため息をついた。そのまま私の下腹部まで拭き終わると、また私から離れていき、戻ってきた時に、長い布でさっと私の両手を拘束した。
「な…何を…ふぐぅっ!!」
 今度は別の布で猿轡される。驚きではっきりと覚醒した時には目隠しまでされていた。

「ごめんね。暴れて堕ちたら危ないから。」

 勇者が私から離れるのを感じ、何をするつもりなのか不安になってベッドから起き上がろうとした途端、隣りに誰かが座る気配がした。ベッドがかすかに軋み、私は新たな恐怖に思わず身を強張らせた。

「約束しちゃったし。あともう少し頑張ってよ。」

 勇者の声が前方から聴こえ、ぐらりとベッドが傾いた。再び浮上したことを認識し、私は見えないままベッドから飛び降りようとしたが、隣りの人物に抱き止められてしまった。
暴れてもビクともせず、私の頬を再び夜風が当たったのを感じて、私はピタリと動きを止めた。猿轡越しに叫び声を上げたが、くぐもった呻き声にしかならなかった。

 ふいに目隠しが外され、眼下に広がる町の灯にまたもや恐怖感に包まれる。目を逸らした私の目に飛び込んできたのは、月光に光る長い銀髪だった。
「あの小僧の後というのが気に食わんが、たっぷりと可愛がってやるからな。」
 ピサロは薄く笑って、動きが凝固した私の口から猿轡を取り去る。その口から飛び出した悲鳴は、満月と魔王が呑みこんでしまった。

164名無しの勇者:2009/05/17(日) 23:48:24
以上です。ありがとうございました。

165名無しの勇者:2009/05/20(水) 00:45:48
>>164
投下きてた!乙です〜
虐げられてるクリフトがツボすぎる

166名無しの勇者:2009/05/25(月) 01:09:15
久々に来たら勇クリが。
高所恐怖症のクリフト可愛すぎる、もゆりました・・・・!
ぜ、ぜひピサロ様のバージョンもお願いいたしまゲフゥ

167名無しの勇者:2009/05/25(月) 04:23:55
このクリフトかわいそうすぎ
最後はアリーナと幸せになってほしい

168164:2009/07/05(日) 15:43:57
ピサロバージョンを考えている内に、別の話を思いついてしまいました。
2章とエンディング後の話でピサクリ。
エロ描写&無理矢理。苦手な人は避けてください。

169無題 1/6:2009/07/05(日) 15:46:08
 大工が金槌を打ち鳴らす音が響いてきて、サントハイム城の若き神官、クリフトは自然と微笑を浮かべた。2度も壁を打ち破った本人も、きっと嬉しそうにその様子を眺めているに違いない。それを邪魔するのは悪い気がして、クリフトは階段で方向転換すると、こちらを見上げている人物と目が合った。

「王様…!姫様の部屋にいらっしゃると思っていました。」
「クリフト…よくぞ無事に我が城へ平和を戻してくれた。」

 クリフトは息を飲み、慌てて王の居る階下へと駆け下りると、自分の位置を王よりも低くして頭を下げた。
「もったいないお言葉です!私はアリーナ姫や勇者さんのお手伝いをさせていただいただけで…。」
「謙遜をするな。お前も選ばれし者だったのだろう?辛い思いをさせたな。」

 クリフトは目頭が急激に熱くなり、頭を下げたまま、黙って首を振った。何かを言えばそのまま泣き崩れてしまいそうだった。

「あの日、お前に全ての責任を負わせてしまったような気がしてな。別空間に飛ばされてからも後悔したものだ。」

 王の言葉にクリフトは驚いて顔を上げる。途端に相手の目が赤くなっているのが知れたのか、「本当によく泣くヤツだ。」とおどけた様に王は両眉を持ち上げると、そのままクリフトに背を向け、先に階段を降り始めた。
杖を突きながら、接見の間を通り抜け、自室へと戻っていく王の背中に誘われるように、クリフトは後へと従った。


 あの日…デスピサロが、この城を襲った日、サントハイム王は玉座から立ち上がり、目の前に現れた長身の男を睨み付けていた。

 サントハイムの繁栄を願い知恵を絞ってくれていた大臣達も、不穏な空気を感じ取り、日夜城内外を見張ってくれていた兵士達も、彼らを元気付けようとせっせとまかないを続けてくれていたメイド達も……皆、目の前に居る男とその家来の魔物が消滅させてしまったのだ。

170無題 2/6:2009/07/05(日) 15:49:19
「何が望みなのだ、お前らは!私が邪魔なら、私だけを消せばいいだろう!」

 信じ難い現状に、王は怒りと恐怖で声を震わせながら男に怒鳴った。銀髪の男は涼しい顔をして答えた。

「現・サントハイム王は未来を読むというからな。
 王という立場上、その部下にも様々なことを命令している可能性がある。
 実際、あなたは急遽兵士らを鍛え直している。どこかへ派遣しようとしていたんだろ?」

 男の顔には見覚えがあった。夢の中で、どこかの村を滅ぼしている深紅の目をした男が居た。それが未来の話ならば、この男は、魔族を束ねるリーダーで…後々魔王となる男だ。
名は…そう、デスピサロと呼ばれていた。

「残念ながら、私は悠長に貴様らの兵士が育っていって、どこかに派遣されるのを待っていられん。
 サントハイム王、あんたには結局消えてもらうこととなるが、最後に、勇者が何処に居るのか、教えてもらおうと思ってね。」

「知らん!知っていたとてお前などに教えるものか…!!」
「王よ、我々が消したあんたの家臣は別に死なせた訳じゃない。
 別の場所に封印させてもらっただけだ。
 あんたがそれを教えてくれないなら、一人ずつ殺したって構わないんだがな。」

 王はグッと詰まった。「家臣が生きている証拠など無いではないか。」

「…それもそうだ。しかし、彼らをまた再び目の前に出すのも面倒だしな。…おい。」

 ピサロは背後に控えていた甲冑の男を振り返る。甲冑の男はうなづき、王の間を出ると、すぐに大きな袋を背負って戻ってきた。

「勇者が出ているか、と思ってエンドール国で行なわれた武道大会に出てみたのだ。
 すると、お前の娘が出場するという。
 娘にも未来を読む力があるのか、と思って、部下に命じて捉えてもらった。」

 ドサッと目の前に袋が投げ出される。娘のアリーナが捉えられたのか、と王は背筋が寒くなったが、袋から覗いていたのは男と思わしき腕だった。床に投げられた衝撃で目が覚めたのか、かすかなうめき声が聴こえる。果たして袋から出てきたのは、血と泥で汚されてはいたが、サントハイムの神官の制服を着た若者だった。

「クリフト…!!」

 娘の護衛で旅に付いていった神官だった。王はクリフトに駆け寄り、両肩を掴んだ。ピサロたちは離れたところで無表情でそれを眺めている。王はピサロを再度にらみ、
「クリフト、大丈夫か!?アリーナは無事か。ブライはどうしたのだ?」
とクリフトに矢継ぎ早に話しかけた。クリフトはかすれた声で何事かを訴える。
 王はクリフトの目を覗き込み、「すまない…」とつぶやいた。クリフトは無反応だ。王がクリフトを抱きしめると、ビクリと驚いたように体を硬直させる。

 王はいくつかクリフトの耳元で話しかけてみたが、クリフトがくすぐったげに首を振るだけなのを見て取ると、座り込んでいるクリフトを置いて立ち上がった。

「目も見えていないし、耳も聴こえていない…。ここまで痛めつける必要があったのか?」

171無題 3/6:2009/07/05(日) 15:51:39
「おや…?そこまで乱暴するようには言ってなかったがな。
 まぁ、お宅の娘は腕っ節が強いだけで未来を読む力は無いらしい、との報告をもらっている。
 そこで神官を殺してしまっても良かったんだが。
 あんたもこの神官が可愛いだろう、と思ってな。」

 ピサロは腰の剣を抜くと、クリフトの喉元に当てた。クリフトは剣の冷たさに一瞬体を震わせる。

「やめろっ!」

 王は息を飲み、力無くうなだれた。
「分かった…。話す。だから、その子はアリーナの元へ返してやってくれ。」
「了解した。さぁ、話せ。勇者の居場所を。」

 王は苦しげに言葉を紡いだ。「…山奥の…ブランカ国をまだ北上したあたりの村だ…。」

「そうか。名前は?」
「名前など分からぬ。」
「まぁ、いい。その村を全滅させてみればどれかは勇者の死体だろう。
 もうお前に用は無い。」

 ピサロは微笑を浮かべ、王に向かって手をかざした。王はクリフトを見下ろす。

「クリフト…アリーナを頼んだぞ。」

 王の姿が消された。ピサロは身を翻し、「ブランカへ向かうぞ。」と甲冑の男に告げる。
「ピサロ様、神官の男はどうします?始末しておきますか。」

 ピサロは今、思い出した、というように振り返った。神官はここがどこか分かっているのか、玉座の方に向いたまま、微動だにしていない。
 これで恐怖に怯えた顔をしていれば、ピサロは同じく消すか、殺すかしただろう。しかし、やや青褪めた白い顔は、何かの決意を固めたような、逆に何かを諦観したような、不思議な表情だった。

「…あの神官は実は目も耳も正常なのではないか?」

 ピサロが甲冑の男に尋ねると、男は「確かめてみます。」と、そばにあった花瓶を持ち上げ、クリフトに足音高く近付いていった。微動だにしないクリフトの顔面に向け、男は花瓶の水を花ごと浴びせかけた。

「ひあぁっ!」

172無題 4/6:2009/07/05(日) 15:55:04
 目に花が当たったのか、クリフトは目を覆い、うずくまった。
 近付くピサロに男は「少なくとも目は見えていないと思いますが。」と逃げようとしているクリフトの腕を背後から捩じ上げた。

「殺しますか?」
「いや、何か知っているかも知れんからな。」
 ピサロはクリフトの顎をつかんで顔を上げさせた。痛そうに瞬きを繰り返す、その目の焦点は合わず、ただ不安げに揺れ動いている。
 どうやら目には呪いが掛けられていて、本当に闇に覆われているらしい。ここまでやれ、とは命じた覚えが無いがな、とピサロは苦笑した。耳からは血が流れている。怪我のせいで聴こえていないのか?

 後から思い返せば、クリフトの不幸は(もしくは幸運は)ピサロが上機嫌だったことだろう。
 ピサロはこの場でこの若き神官を殺さず、いたぶる事を決めた。

 クリフトの上着を引き裂くように脱がし、その布で濡れた顔を拭いてやると、血で汚れていた顔が綺麗になる。耳元の血も拭い取ってやると、痛みからか、体を震わせた。

「王はお前を可愛がっていたようだが、体も可愛がってもらっていたのか?」

 クリフトは甲冑の男に羽交い絞めにされており、しきりに逃れようともがいているだけだ。本当に聴こえていないのか、と少し残念に思いながら、ピサロはクリフトに口付けた。クリフトの悲鳴が漏れ聴こえ、ピサロは体を離す。

「な…何をする気ですか…」

 初めて言葉を発したクリフトに、ピサロは笑い、クリフトの細身の体を撫で上げた。筋肉が付いてはいるが、まだまだ鍛え足りていない。これでは大事な姫に逆に守られる立場だろう。
「やめてください…嫌です…!」
 訴える声は怒りを含んだ声だったが、ベルトを外してやると驚いたような声をあげ、やがて怯えたような哀願に変わった。
 萎縮したモノをそのままに、ピサロは奥へと指を進めた。堅く閉じられたそこに無理矢理指を突き入れると、クリフトは痛みに悲鳴を上げた。どうやら王に可愛がられていた訳ではないらしい。指で中を掻き回すと、神官の体が時折、大きくのけっぞった。
 散々暴れて力尽きたのか、それともすでに受けていた拷問で元々体力が残っていなかったのか、指を増やした頃にはクリフトは苦しげに浅い呼吸を繰り返すようになった。
無抵抗となったのを見て取ったのか、いつの間にか甲冑の男もクリフトの胸の飾りを黙々とこね回してはかすかな悲鳴を上げさせている。周りが見えていない分、体が敏感になっているのか、初めての割には、声が濡れ始めるのも早い。
ピサロはクリフトの耳元でそれを揶揄する言葉を吐いてみたが、クリフトはピサロから逃れようと顔を背けようとし、それが叶わないとなると困ったように眉を寄せただけだった。

 ピサロが自身のモノをクリフトを貫いた時、彼の絶叫が接見の間に響き渡った。クリフトの中は狭く、強引に体を進めたが、半分も入らない。
 人間というものはなんと不便なのだ、とピサロは肩をすくめ、歯を食いしばって耐えているクリフトの耳元へ再度、囁きかけた。

「全て入るようになるまで、お前を飼っておく事にするよ。」

 その瞬間、クリフトは目を見開き、泣きそうな目で虚空を見上げた。ピサロは満足そうに笑った。



「 聴 こ え て い る な ? 」

173無題 5/6:2009/07/05(日) 15:58:01
 クリフトはピサロの言葉に硬直した。目が見えていないのは事実だが、耳は袋から出される前から聴こえている。
 王が自分の目に呪いを掛け、耳が聴こえていないフリをするように命じたのも、クリフトが生き残り、彼が素早く言い残した『命令』を遂行させるためだった。何も見えず、何も聴いていないのなら、ピサロがクリフトを放置していく可能性がある、と王は判断したのだろう。王の決死の『予言』の為にも、クリフトは必死に聴こえていない演技をするしかなかった。
 王の言葉が正しいのなら、自分はここで死ぬわけにはいかない。

 ピサロはクリフトの耳に触れてきた。不意打ちにクリフトはビクンとのけぞる。その途端、自分でも呆れるような言い訳を思いついた。その言葉がどんな結果を導くか、考える余裕すら無く、クリフトは素早く呟いた。


「耳…やめてください。弱いんです…。」


 ピタリ、と相手の動きが止んだ。恐ろしいほどの静寂が訪れ、クリフトは恐怖で涙が溢れた。今まで必死に堪えてきたが、涙腺が決壊したようにみるみるうちに涙がこぼれ落ちる。
 実際、ピサロから幾度か耳元で囁かれる度、背筋がゾクゾクと震え上がった。それは聴こえていることがバレるかも知れないという恐怖と、耳元で息を吹きつけられる、という行為のせいだ。
ちなみに、何か卑猥な言葉を何度か言われたような気がするが、言葉の意味の大半を、クリフトは理解していなかった。

 笑い声が響き渡る。クリフトは心臓が縮む心地だったが、何とか耐え抜いた。
「そうか…なるほどな。お前に囁く度、身体が震わせていた理由がそれか。」
 またいきなり耳に触れられてクリフトは細い悲鳴を上げた。今度は頭上の男が弄っているようだ。しつこい…。クリフトは顔を背けたが、指が離れない。身体がガクガクと震えてきた。
「止めてくださ…。あ…!痛いッ!!ひぁっ…!」
 ピサロの動きが再開する。力が抜けたのか、自分の中を圧迫しているものが前進した。耳の中に生温かいものがぬるりと入ってきた。身体が急激に熱くなっていく。息が続かず、苦しさにまた目頭が熱くなった。今、耳に舌が這い回っているのだ、と分かった時には目の前の闇が一瞬白く弾け飛ぶ。
 クリフトの精が吐き出されても、ピサロと男の動きが一向に止む気配が無い。再び身体が熱を帯びていくのを感じ、クリフトは弱々しげに行為の中止を懇願したが、笑い飛ばされただけだった。


 クリフトから反応が無くなり、ただ突き上げるたびに喉から空気が漏れるような悲鳴が上がるだけになった時、ピサロは自分の精をクリフトに叩きつけて立ち上がった。

「連れて行くのですか?」
 甲冑の男は足元で死んだように横たわる神官を見下ろした。

「止めておこう。ロザリーが怒る。」
「仲間が増えて喜ばれるかも知れませんよ。」
 男の言葉にピサロが気を失っているクリフトを見下ろした。

「まぁ、探している者が同じならば、いずれ出会うことになるだろう。」
 ピサロはマントを翻し、甲冑の男を連れて城から出て行った。

174無題 6/6:2009/07/05(日) 16:01:12
「しかし、よく無事で居られたな。デスピサロの気まぐれだけに賭けたのだが。」

 自室に戻った王は、寝室でベッドに腰を掛けると感心したようにクリフトを見た。その言葉にクリフトは青ざめる。
「やっぱり…。何の確証も無く呪いを掛けたのですね。」
「ピサロはお前を放置していったのか?」
「…まぁ、結果的にはそうなります。」
 クリフトは一瞬顔を歪ませたが、「生き残れたのは、王のお蔭かも知れません。」と付け加えた。

「勇者と出会えたのも、私の『予言』どおりだったのだろう?」
「ええ…。あの日に教えていただいた、
 『勇者は病に倒れた瀕死のクリフトの病床に現れる』という予言どおりでした。」

 あれも辛かった。その予言を現実化するためにも、あの日、サントハイム城内でピサロに殺されるわけにはいかなかったのだ。
 無事に脱出し、姫様と合流できても、素知らぬ顔をしているのは辛かったし、どれだけ疲労が溜まっても医者にかからず、手の施しようが無い末期の状態にまで、自分を追いやらねばならなかったのも辛かった。
 クリフトの身体を心配し、医者を呼びに行こうとした宮廷魔術師のブライに王の予言を話さざるを得なかった。ブライは勇者が現れた時、喜んでパデギアを探しに行くのを手伝ってくれたという。

「しかし、そのデスピサロが勇者と共に戦ってくれた、というのが信じ難いな。」

 王の言葉に、クリフトはうなづく。それも大変だった…。相手とは初対面である、というフリを必死で演じなければならなかった。ピサロは不敵な笑みを浮かべてクリフトを見てきたが、結局は真の敵との戦いに集中してくれた。
 まぁ、時々耳を触られて悲鳴を上げさせられる、というセクハラはあったが。

「でも、全て終わった事だ。これから、サントハイムと、そして勇者の村の再建に力を注ぐ事にする。
 彼の村を滅ぼしたのは、私の責任でもあるからな。」
「王様、それは…!」
 慌てるクリフトに、王は首を振った。手に持っている杖を弄りながら、王は穏やかな声で言った。
「何も言うな。…ついては、クリフト。勇者の村の再建、お前を我が国のリーダーとして派遣させることにしたが、構わないか?」
「……!!ええ、それはもちろん、喜んで。」
 クリフトは晴れがましい気持ちで頭を下げた。ふと、王の手にある杖が目に入る。これは…何の杖だ…?

「お前を派遣する前に、伝えておきたい事があるのだ、クリフト。」
 王はクリフトへ手を差し伸べた。反射的に腕を伸ばしたクリフトの手首を掴むと、王は年配者とは思えない力でクリフトを引っ張りこんだ。
 ベッドへと投げ出されたクリフトは息を詰めて、王を見上げた。手にしている杖は…変化の杖だ。王の目の色が深紅に変わり、嬉しそうに笑みを浮かべた。


「貴様の嘘など、この私が見抜いていないと思っていたのか?」

175名無しの勇者:2009/07/05(日) 16:03:39
以上です。クリフトにカッコいい(?)言い逃れをさせてあげよう、と
散々悩んだのですが、結局こんなオチになりました。すみません。

176名無しの勇者:2009/07/13(月) 00:35:02
クリフトの忠臣ぷりがイイですね

177名無しの勇者:2009/07/18(土) 20:02:16
遅ばせながら。
いいですねピサクリ。
耳が弱いと聞いたピサロの心情はもう推して知るべしでしたw
掌でコロコロ転がるクリフトが可愛くてしょうがない。

178名無しの勇者:2009/07/26(日) 00:06:43
>>175
乙です!
鬼畜魔王×清廉無垢な神官(・∀・)イイ!

179パペット 1/6:2009/10/11(日) 23:24:00
ピサクリ+諸々。エロあり。
クリフトがあまり救われません。すみません。



 まだ夜も明けきらぬ薄暗い早朝、クリフトはそぉっと宿屋の扉を開けて人が居ないのを確かめると静かに外へ出た。疲労した身体に朝特有の冷えた風が堪えて首をすくめる。
入口のそばで眠っていた茶色い毛の仔犬が目を覚まし、背後から甲高い声で一声鳴いてクリフトを飛び上がらせた。手にしていた聖水が大きな水音を立てる。
クリフトは足元で朝からテンション高くじゃれつく仔犬を見下ろし、小声で
「お前に罪は無いのは分かっているけど、昨日の今日でどうしても遊んでやる気にはなれないんだ。
 眠っていてくれないか。」
と声を掛けた。仔犬は首を傾げ、それでもクリフトの周囲を走り回り、自分の小屋に戻る気配は皆無だ。クリフトは困ったように眉を顰めたが、やがて諦めて目指す場所へと歩き出した。

 目的の場所は宿屋の裏手にあるゴミ箱で、クリフトは再び周囲を見回し、その前に立つと静かに蓋を持ち上げた。ゴミの一番上に、ぼろきれのような人形が乗っている。
布と綿とで作られた簡単な人形だ。赤ん坊位の大きさのその人形は薄汚れ、右腕は千切れかけ、胴は裂かれて綿がわずかにのぞている。
クリフトの顔は泣きそうに歪み、足元で千切れんばかりに尻尾を振る仔犬を再び見下ろした。

「お前ねぇ…ちょっとひどすぎるだろ?加減をしなさい、加減を。」

 やはり理解した様子の無い仔犬を見て、ため息をつきながらゴミ箱の蓋を地面に置くと、クリフトはブツブツと小声で悪魔祓いの言葉を呟いた。
手にしていた聖水を人形に振り掛ける。途端、人形からシュゥッ!と黒い煙が噴出し、霧散した。
次の瞬間、クリフトは全身の力が抜け、その場に崩れるように倒れた。仔犬が驚いて犬小屋へと逃げていく。

「本当にひどいヤツだな…。」

 走り去る仔犬を見送りながら起き上がろうとしたが、ひどい眠気に襲われ、クリフトはそのまま地面に突っ伏した。

 そういえば、昨夜はほとんど眠れなかったんだっけ…。
 昨日、人形を手放さなければこんな事にはならなかったのに…。


 その人形を拾ったのは戦闘終了後の事で、逃げていくモンスターが、草むらの中へと落としていった品々の中に入っていた。
簡単な作りの人形はまるでパペットマンのミニチュアのようで、仲間たちは気味悪がって拾おうとしなかった。クリフトもそれがただの人形ならば拾わずに立ち去っただろう。
しかし、それにはわずかに邪念が込められていて、このまま放っておけば、この人形もモンスター化するのではないか、とクリフトを振り向かせるには十分な代物だった。
だから、せめて清めてから処分しようと、クリフトは大事に抱えて荷物袋の中に入れたのだ。
 まさかその呪詛が、自分に降りかかるとは思わずに。

 その日泊まった街はカジノがあり、勇者たちは宿屋の宿泊手続きもそこそこにさっさと夜の街へと繰り出してしまった。
クリフトも誘われたが人形を教会でお払いをしてもらおうと思っていたので、丁重に辞退し、仲間らの荷物を引き受けて一旦宿の2階の部屋に入ることにする。
宿屋の入口に可愛らしい仔犬が構って欲しそうに尻尾を振っていた。

180パペット 2/6:2009/10/11(日) 23:27:51
「お前はカジノに行かなかったのか。」

 部屋で人形を取り出したとき、ふいに後ろから声を掛けられて振り返ると最近仲間になった魔王・ピサロが部屋の入口に立っていた。

「賭け事や飲酒は教会で禁じられていますから。」

 やばいな、とクリフトはピサロから目をそらす。以前にピサロと身体の関係を持ってから(無理矢理だったけど)、2人っきりになるのをずっと避けてきたのに。

「私は今から教会へ行ってきます。」

 人形を手にピサロの脇を通り抜けようとしたが、あっさりと腕をつかまれ行く手を阻まれて、思わず人形を床へと落としてしまった。

「何を怯えている。」
「怯えてませんっ!」

 ムッとして言い返すと、ピサロは笑いを浮かべて腕から手を離し、人形を拾い上げた。

「これは昼間の人形か。放っておけば良いモンスターになるものを。」
「それではこの人形も浮かばれません。意思を持ち始める前に払ってあげないと。」
「お前は神官だろう。何故、自分でやらない。」
「そ、それはそうなんですけど…。こういうのは疲れるんですよ。
今日の戦いで魔力も尽きてしまっているので。」

 人形に視線を落とす。この人形の持つ邪念は残念ながら人間の誰かが吹き込んだものだ。
どんな使われ方をしたのか分からないが、早くお払いしてあげないと人形が可哀想に思えた。

 突然、ピサロの手がクリフトの長めの前髪をかき上げた。驚いて顔を上げると、予想以上にピサロの端整な顔が近くにあって「ひっ!」と思わず顔が後ろに仰け反った。
次の瞬間、ピサロの顔が恐ろしく険しくなり、クリフトの肝を心底冷やした。

「この人形は私が預かる。」
「え!?駄目です!お払いをしなければ…」
「私が教会へ持っていく。文句は無いだろう。疲れているんならお前は寝ておけば良い。」

 ピサロは後ろ手で扉を閉めて出て行った。怒ったのだろうか。いや、だって、今、キスされそうになったじゃないか。
…また顔が怯えていたかも知れない。失礼だったかな。

 クリフトはおろおろと部屋の中を右往左往していたが、ふと、ピサロは神の力が強い場所は苦手だったことを思い出した。
教会など行く気はさらさら無いだろう。

181パペット 3/6:2009/10/11(日) 23:31:31
 慌てて外へ出ようと扉のノブへと手を伸ばしたとき、全身が急に重たくなってペタンと床へしりもちをついた。きょとんとして周囲を見回したが誰も居ない。
身体は重いが、何とか立ち上がれそうだ。クリフトが床に両手をついた途端、下腹部から足に掛けて湿った何かを押し当てられた感触がしてゾクッと体が震えた。

「ひあぁっ!」

 思わず悲鳴を上げると、続けて原因を追究する間も無く何度も何度も全身をくまなく撫で上げられて、クリフトは床の上で慌てて悲鳴を押し殺した。
見えない魔物が部屋に居るのかと自分の着ている服の中を覗いてみても何も見つからない。
気配を必死に集中させたが、部屋の中に何も邪悪な気配は感じられなかった。あえて言うなら、呪いの気配を自分自身に感じる。

 呪い…あの人形か!

 クリフトは目を見開いた。ピサロが何か仕掛けたのだろうか。例えば彼はクリフトの髪をかきあげた。あの時に髪の毛が1本でも彼の指に絡まったのかも知れない。
その髪をあの人形に植え込んだとしたら?

 思考を巡らせている間にも全身を弄られているような感覚は消えない。必死に声を堪えるが、身体が熱を持っていくのは抑えられず、鼓動や呼吸が早くなるのを感じた。
目を瞑って耐えていると、まるで大きな魔物に何度も全身を舐められているようで、益々恐怖が募ってくる。
「んんっ…!やッ…。」
 遂に声が漏れて思わず扉を見上げる。扉に鍵は掛けていない。
正直、全身を弄られ続けて早く精を吐き出してしまいたかったが、自分で慰めるなど神官にあるまじき行為だし、正体不明の魔物にここまで身体がいいように弄ばれていることに自分自身が不甲斐無く思えて身体の欲求を認めたくなかった。
とにかく、この嵐のような出来事が早く終了する事を祈るほか無く、クリフトは床からベッドに掛かったシーツをギュッと握り締めて高められていく身体の熱を必死に耐えていた。

 クリフトは荷物袋から覗く聖水が目に入り、ようやく暗闇に光明を見た心持ちで荷袋に近付いた。
呪いが自分自身に掛けられているのなら、自分に対してお払いをすればいいのではないか。
息をしようとする度、漏れる自分の濡れた声に嫌悪感を抱きながら、クリフトは這うように荷物を置いてある部屋の奥へと必死に移動した。

 しかし、聖水を取り出して自分自身に振り掛けようとしたとき、急に右肩から鈍い音がして激痛が走る。聖水の瓶が床へと転がり、続けて胸部から腹部に掛けて強い衝撃を受けた。服が裂かれ、ジワリと血がにじんでいく。

 殺される?

 全身の血の気が引き、とにかく早く呪いを解かなければと聖水に右腕を伸ばそうとして痛みに悲鳴を上げた。肩の関節が外れていたのだ。
どこまでエスカレートするか分からない事態に、クリフトは遠くなってしまった扉を振り返った。

 どうしよう…人に見せられた姿ではないが、助けを求めた方がいいんじゃないか、これは。

 仔犬の不満げな鳴き声が窓の外から聴こえ、ピタッと見えない何かからの攻撃(?)が止まった。外の様子を見ようとクリフトは右肩を押さえて立ち上がろうとして、バランスを崩した。
続けて再び全身を舐められるような感覚が始まる。

「だ…誰か…助けてくださ…」

 扉に向けて叫ぼうとしたが、声が掠れて上手く助けを求められない。
肩を脱臼し、服を裂かれて血まで流しているのに、再び熱を持とうとしている自分の身体が浅ましく思えてクリフトは絶望感に目を閉じた。

182パペット 4/6:2009/10/11(日) 23:34:31
「いい格好だな。」

 ふいに声を掛けられ弾かれたように顔を上げるとピサロが涼しい顔をして立っている。
ピサロに文句をぶつけたい気持ちはあったが、言われた言葉でクリフトは自分の姿を、壁に立て掛けられていた全身鏡で改めた。
確かに、ひどい。裂かれた服や血がにじむ胸部もそうだが、顔が上気して赤くなっている。目にも涙の跡が残り、とてもじゃないが勇者と共に選ばれた者とは思えない。
未だに続く身体への見えない愛撫に声を震わせながら、後ろ手で扉を閉めて自分に近付いてくるピサロにクリフトは「あの外の…仔犬…ですか…?」と質問をぶつけた。

「人形に、私の髪を入れて、あの仔犬に渡したんですね。」
「察しがいいな。あの犬のミルクが入ったボールに放り込んでやったんだ。
 一応、無茶しないかそばで様子は見ていてやったんだぞ。」

「…腹を裂いて、腕を噛み千切ったでしょう。」
「取り上げてみたんだが、まぁ死ぬほどじゃなさそうだったんでな。
 もう噛むなよ、と元へ戻してやったんだ。」

 自分を愛撫していたのがあの仔犬だという事実にクリフトは羞恥で益々赤面するのを感じた。取り戻そうとふらつく足で立ち上がりかけ、ピサロに抱き止められる。


「はっ…離してください!早く人形をお払いしないと…んんっ!
 こ、今度は頭を噛み千切るかも知れません!」
「安心しろ。今度は暗示を掛けておいた。自分より上位にある人間から声を掛けられるまで人形を舐め続けろ、とな。
 あの犬にとっちゃ、上位はここの宿屋の主人だろう。今は晩飯の準備で忙しいだろうが、
 あと1、2時間後には犬の異常に気が付いて声を掛けるだろう。」
「もうこれ以上耐えられません!!い、今すぐ、呪いをっ…あああッ。」

 涙目で訴えるクリフトのそばに屈みこみ、ピサロはクリフトの顔を覗き込んだ。
「明日になったら人形を回収してやろう。」
「そんな!」

 元凶の人形を取り戻さなくては、身体が持たない上に自分の命に関わる。ゴミとして宿屋の主に燃やされる可能性だってあるのに。

 ピサロに抱き寄せられて、クリフトは右肩の痛みに顔をしかめた。脱臼した肩が異様に鋭角に変形している。
「離して…自分で回収に行きますから…お願いです…もう私は魔力が残って無くて肩も胸も治せないんです。肩を…。」
 クリフトは必死に言葉を紡ぎだす。


「い、入れてください。自分ではできないんです…」


 ピサロの動きが止まった。何故だか驚かれているような気がしてクリフトは首を傾げた。何か、変な事を言っただろうか。
「入れて欲しいのか。」
「はい、お願いします…んっ…あ…!早く入れてください…っ」
「本当にお前は自分の状況が分かってないな。どれだけ自分が相手を煽る発言をしているかちょっとは考えろ。」

 ピサロは愉快そうに笑い、クリフトを軽々と抱え上げるとベッドに放り投げた。驚くクリフトにピサロはタオルを渡した。

「ご希望通り入れてやる。」

183パペット 5/6:2009/10/11(日) 23:36:43
 その時点でもクリフトは自分の腕を治す為にベッドに寝かせてくれたのだ、と信じて疑わず、怯えたようにうなづくとタオルを口に咥えて、右肩をピサロに向けた。
ピサロはクリフトの右腕を持ち上げると鈍い音を立てて一気に元の関節へと戻してやった。

「んんんんんんんーーーーーッ!!!!」

 クリフトがタオル越しにくぐもった悲鳴が上げ、痛みに涙を溢れさせながら自分に回復呪文を掛けてくれるピサロを見上げた。そっとタオルから口を離し、頭を下げる。

「ありがとう…ございます。じゃあ、今から着替えて…に、人形を…。」
「まだ終わっていないだろう。」

 ピサロはクリフトの髪をかき上げてきた。クリフトは一瞬怯んだが、そのままその口付けを受け止めた。仔犬に全身を撫で上げられながらだったため、ピサロが離れた時は呼吸が浅くなって一気に身体の熱が上昇していた。
肩で息を繰り返しているとピサロはクリフトの頭を撫でた。

「もう、拒むんじゃないぞ。」

 クリフトは驚いてピサロを見返した。「や…やっぱり、私に仕返しをするつもりで…んんんんッ!!」


 ピサロが手をクリフトの下腹部に伸ばしてきていた。

「や、止めてくださいっ!」
 慌てて止めようとするクリフトの腕をピサロはあっさりと掴んでベッドに縫いとめる。
「お前が頼んできたんだろう。自慰すら禁じられている神官が、いったいどうやって今夜一晩やり過ごすつもりだ。」
「私が…頼んだ?」

 状況が飲み込めないまま、ピサロがクリフトの服を剥ぎ取っていくのを満足に抵抗できずにさっさと全裸にされてしまう。
すでに立ち上がり震えている自分自身をピサロに見られ、クリフトは必死にシーツで隠そうとしたが叶わず、逆にピサロに握られて悲鳴を上げた。


「コラ!お前、どこからそんな人形拾ってきたんだ!」

 窓の外から宿屋の主の声が聴こえてきたのは、クリフトがピサロの愛撫に半分意識が飛び掛っているときだった。
ハッとクリフトは我に返り、息も絶え絶えの状態で自分を組み敷く魔王に掠れた声で訴えた。

「暗示が…解かれました…!早く人形を取りに行かないと…」
「心配するな。死にそうになったら助けてやるさ。」
「も…もうすでに死にそうです…!もう勘弁してください!」

 クリフトはなんとかピサロの下から抜け出そうとしたがあっさり押さえ込まれ、ピサロに取ってゼロに等しい自分の抵抗にクリフトは力で対抗することを諦めた。

「ピサロさん…お願いです…行かせてください…。」

 消えそうな声で訴えるクリフトに、ピサロは動きを止めた。
「行かせて…お願いします…。」
「…何度言わせるんだ、お前は。ねだっているとしか思えん。」

 ピサロは優しく微笑み、クリフトを一瞬だけ安心させると、そのままクリフトの奥を自分のモノで貫き、クリフトに悲鳴と精を吐き出させた。

184パペット 6/6:2009/10/11(日) 23:39:32
 クリフトの話を聞き終えた僕は呆気に取られてベッドの上で不安そうに僕の表情を窺ってくる彼を見つめてしまった。
宿屋の裏でクリフトが青い顔して倒れていたから自室へ連れて帰り、休ませた後、なんとか事実を隠そうとしたクリフトから話を半ば強引に吐き出させた結果がこれだった。

「お…お恥ずかしい話で面目ありません…。
 でも、勇者さんはどうして私がピサロさんに…えっと、あの…」

「クリフトがピサロに食われた、って何で分かったかってこと?」
「く…食われた…?ああ、なるほど、そういう表現もあるのですね。」

 赤面しながらも感心した様子のクリフトに内心ため息をつく。この世間知らずめ。

「気を失っている時にピサロの名前を呼びながら
 何度も『止めて』とか『入れて欲しい』とか『イかせてください』とか言ってうなされてたからだよ。」

 クリフトは首を傾げていたが、やがてやっと自分が発した言葉の意味が分かったのか、今度は顔だけじゃなく耳の先まで赤くなった。

「ちがっ…違います!私はそんな意味でピサロさんに訴えていたわけじゃありません!」
「ピサロも分かってたと思うけど、盛大に煽ってる言葉だよ、それ。」
「そんな…!」

 動揺して頭を抱えたクリフトを見ながら、クリフトが気を失っている間、ずっとそのうわ言で煽られていた僕の方はどうしてくれるんだ、という文句をなんとか飲み込んだ。
どうせ、例の人形も拾ってある。まだまだ旅は続くんだ。この隙だらけの神官を「食う」機会はたっぷりあるに違いない。
 僕は涙目で途方にくれるクリフトを眺めながら、今後の作戦をじっくりと練り始めた。まぁ、なんなら今すぐにでも?

185名無しの勇者:2009/10/11(日) 23:40:26
以上です。ありがとうございました。

186名無しの勇者:2009/10/18(日) 18:32:57
>185
乙です!!
久々新作ーーーー!
世間知らずで信仰心強そうな神官に禿萌えました!!
勇者と共に喰らい尽くしたいwww

187名無しの勇者:2009/11/01(日) 18:03:34
新作きてたー!
MPのないクリフト…いい
勇クリ?にも期待w

188無題 1/7:2010/03/22(月) 00:45:45
ピサクリです。無理矢理。クリフトが理不尽な目に遭います。
すみません。


 デスマウンテンの玉座でピサロは座り込み、苛立ちを押さえきれずにいた。すでにピサロは“ヤツ”の裏切りを知り、勇者らと仲間になっている。なのに、再びここへ舞い戻ってじっと玉座で考え事をしているには訳がある。
 今日、“ヤツ”と戦い、惨めにも逃げ帰ったからだ。

 デスパレスでのその戦いは、戦い始めた時から相手との強さの違いが歴然としていた。勇者から真実を聞き、“ヤツ”への怒りの余りに勇者らの力を借りてその足でデスパレスまで来た。
このままの勢いでヤツにも勝てるんじゃないか、と思っていた。しかし、明らかに相手の攻撃力が圧倒的にこちらを凌いでおり、ピサロは冷水を浴びたかの如く衝撃を受けた。
この世界で自分よりも優れた力を持つ者は居ないと思っていた。なのに、この差は何だ。一方的と言えるほどの攻撃を受け、回復や防御に回るばかりで相手へ全く攻撃できない。
ピサロは苛立ち、自分への回復を半ばで中断した。全快には程遠いが、これ位の痛みは耐えられる。念の為、他のメンバーへと目を向けると、勇者も踊り子の娘も神官も、無傷の
者は誰も居ないが、神官・クリフトが必死に回復に専念しているせいで、なんとか戦闘不能者を出さずに居るようだった。

 しかし、前衛に居るピサロに分かる、ということは、ヤツにもその様子が見える、ということだ。案の定、“ヤツ”は後衛をも巻き込むほどの灼熱の炎を吐き出した。勇者が全回復の呪文を唱えようとしたが、魔力が残っていない。
勇者の動揺した目を見て、ピサロはとっさにクリフトを見た。一番負傷しているのは最悪な事にクリフトだったが、クリフトはしっかりとピサロの目を見てうなづき、再び回復呪文の詠唱を始めた。自分の回復くらい自分でできるだろう。とにかく、なんとか攻撃の隙を見つけなければ。

 ピサロは自分に対し鋭いツメを振り降ろそうとしている“ヤツ”に視線を戻す。舌打ちして避けようとしたが、間に合わなかった。
ツメがピサロの胸に突き刺さった瞬間、背後から暖かい光がピサロを包んだ。裂かれた胸元の傷が、たちまち消えていく。“ヤツ”が舌打ちして身体を翻す。

“ヤツ”は1ターンのうち、2度も3度も行動できる素早さを持っている、とピサロが気付いた時には、鋭い爪で胸を裂かれて崩れるように倒れていくクリフトの姿があった。

 ピサロは忌々しげに舌打ちをする。回復役の神官が戦闘不能になってしまえば、負けは決定したも同然だった。“ヤツ”は次々と勇者と踊り子・マーニャを戦闘不能にし、ピサロの喉笛寸前に冷たく光るツメを迫らせ、
「こんな者たちを仲間にして何をする気だったんですか、ピサロ様?」
とせせら笑った。

「連れて帰ってください。今度『私の城』に来る時は、もっとマシなのを連れてきてくださいよ。」

 屈辱で目の前が赤く染まりそうだった。城の外に命からがら脱出し、占い師の女に3人の介抱を任せると腹立ち紛れにここまで飛んできた。すでに配下の者ではなくなった魔物たちが次々とピサロに襲い掛かったが、全て血祭りに上げてやった。
少しは気が紛れたが、この玉座に座っていると、ここから始まった自分の行動が正しかったのか、根本的なことから分からなくなってしまっていた。人間を仲間にするなど、意味のあることだったのか。


「やっぱりここに居たんですか。探しましたよ。」

 ふいに声を掛けられ、顔を上げるとデスマウンテンの入口に神官の姿があった。笑顔で近付き、剣を鞘に戻しながら玉座の前に立ったクリフトの全身に、ピサロは視線を走らせた。
蘇生されてはいるが、全回復まではいかなかったようだ。しかも1人でここまでやって来るとは、先刻まで瀕死状態だった者のする事ではないだろう。やはりこいつはバカだ。

「あの、モンスターはほとんどピサロさんが倒してくれていたので、あまり戦闘はしていませんよ?」

 心を読んだかのようにクリフトが言い、続けて、「帰りましょう。みんな気落ちしていますけど、これからの事を話し合わないといけませんから。」と言った。

「これから?」
「はい。私は先刻までゴットサイドで情報を集めていました。」

 じっとこちらの目を見つめてゆっくりとした口調で言う。「やはり、準備不足だったんです。だから今度は…。」

 ゴットサイドだと?準備不足だと?蘇生されたての人間がそんな場所で何をしている。

189無題 2/7:2010/03/22(月) 00:50:40
「バカな男だ。何を話せと言う。
 4人掛かりで“ヤツ”をほとんど傷付けられなかったのだ!
 人間などに頼った私が愚かだったのだ!!」

 ピサロは一気に怒鳴ったあと、息を吐いた。このまま目の前に居る神官を殴りつけそうになる衝動に駆られ、それをなんとか押さえる。
「…戻る気など、無い。」

 クリフトは目をみはった。視線をピサロの震えている右こぶしに走らせ、続けて泳ぐようにあたりに視線を走らせる。
ピサロは怯えて逃げるかと思って見ていたが、クリフトは両手をギュッと握り締めた。

「私が悪かったんです。殴ってください。」

 今度はピサロが目をみはる番だった。

「私が、あの時、自分ではなくピサロさんを回復したから、一気に崩れるように負けてしまったのです。
 私のせいです。」

 ピサロは一瞬呆気に取られた。
 負けたのはこの神官1人のせいではない。敗因のひとつではあったが、例え、クリフトが自分を回復していたとしても、遅かれ早かれ同じ結果となっていたに違いない。
 ただ……誰かのせいにしてしまうのは気が楽だった。

「私のせいです。どうぞ、気が済むまで殴ってください。
 痛みを耐える事には慣れてますから。」
 クリフトが両目を堅く閉じる。

「私が本気で殴ったら、お前の頭が吹っ飛ぶぞ。」

 クリフトの両肩がビクッと跳ねる。
「あ、あの、その時は蘇生呪文を唱えてくださいね。」

 ピサロは立ち上がり、クリフトの胸倉を掴んだ。クリフトは怯えて身体を固くする。
 1日に2度も戦闘不能になる気なのか、この男は。ピサロは青ざめた神官の顔をまじまじと眺めた。

 ならば、お言葉に甘えて、気が済むまで傷付けてやろうか。

 ピサロはそのまま、噛み付くようにクリフトの唇を奪った。クリフトは驚いて両目を開けて顔を離そうとしたが、ピサロはそのままクリフトの口腔内を侵し続けた。
 何度もくぐもった悲鳴が上がったが、やがて静かになり、ピサロがクリフトを解放した時には、クリフトはピサロの足元にずるずると座り込んだ。

 色白の神官の鼻先と耳がピンクに染まり、涙目で苦しそうに息をする姿にピサロはふん、と鼻を鳴らした。

190無題 3/7:2010/03/22(月) 00:53:59
「お前の大事な仲間の元で慰めてもらえ。……出て行け。」

 クリフトは肩で息をしながら地面を見つめていたが、すぐに頭を横に振った。

「あなたも、仲間です。一緒に戻りましょう。」
「そのままお前を襲う。お前が泣き叫んでも止めない。それでいいんだな?」

 クリフトは息を飲んだが、小さくうなづいた。ピサロはひざまずき、クリフトの顎を指先ですくった。
「本気か?」
 クリフトは視線を逸らし、「はい」と消え入りそうな声で返事をすると、そのまま自分の上着を脱ぎ始めた。

 ピサロはその後、文字通り気が済むまでクリフトを責めた。
 クリフトから服を脱いだのは引き裂かれるのを恐れていたからのようだが、そのままその破壊欲はクリフトの身体に向く事までは気が回らなかったようだ。
 しかし、痛みや恐れから体が思わず逃げる事はあっても、クリフトは拒否する言葉を一切吐かなかった。
 にも関わらずピサロはクリフトはアザだらけし、ろくに慣らしもせずに身体を貫き、回りで誰かが聴いていれば胸を痛めるような悲鳴を上げさせた。
 ピサロは自分から進んで身を捧げたクリフトは、誰かに抱かれる事に慣れているのだ、とばかり思っていたが、行為の最中にどうやら自分が最初らしい、と気が付いた。何故だ、とピサロは眉根を寄せて耐えるクリフトを自身で揺さぶりながら考えた。
 必死で目を瞑り、嵐が過ぎ去るのをひたすら待つような行為に快楽など有りはしないだろうに。

 ピサロが精を放つ頃、クリフトの意識はほとんど飛び掛っていた。色々と聞きたい事はあったが、これから問いただしたところで、意味のある言葉を吐くとは思えない。
 ピサロはクリフトの耳元に唇を寄せ、何事かを呟いた。ピクン、とクリフトは軽く震えてぼんやりとピサロを見上げた。

「戻れ、と言うからには策はあるんだろうな?」

 ピサロが言うと、クリフトはその瞬間に覚醒し、「…は、はいっ!」とかすれた声で跳ね起きるとゴホゴホッと咳払いした。

「策は、あります。ゴットサイドから入れるダンジョンの奥に凄まじい威力を持つ武具がある、と聞きました。
 あなたの能力を最大限引き出してくれるはずです。」
 咳払いしても声はかすれたままだ。しかし、青ざめた顔でも嬉しそうに話すクリフトの姿にピサロは遂に折れた。

「今回はお前に免じて戻ってやる。その情報が間違っていた時は、命は無いものと思え。」
「はいっ!ありがとうございます!!」

 礼まで言うクリフトを奇異なものでも見るような目で眺めていたピサロだが、急にすっと手を上げた。クリフトは怯えて一瞬堅くなったが、次の瞬間、回復魔法を掛けられた事に慌てて、
「すみません、助かります。」
と再び頭を下げた。

191無題 4/7:2010/03/22(月) 00:58:37
 ピサロが再加入して1ヶ月程が過ぎたある晩、クリフトは安堵の息をついた。
 あの日、一晩掛けて仲間全員で話し合った結果、クリフトが集めてきた情報を頼りにゴットサイドでピサロが装備できる優れた武具を集め、その過程で仲間全員がスキルアップを目指すことになった。結果、武具は少しずつではあるが集まり始め、一人一人の能力も確実に上がっていった。
 ようやくはっきりと光が見え始めたな、どうやらピサロさんに殺されずに済みそうだ、と考え、クリフトはふっと苦笑する。今日は、デスマウンテン以降、初めて2人部屋でピサロと同室になった。
 クリフトは手中の剣の猛々しさを改めて眺めてから、扉をノックして中へ入る。ピサロがベッドに腰掛けていた。

「これ、手入れが済んだそうです。トルネコさんから預かってきました。」

「そうか。」

 ピサロが手を伸ばす。クリフトは「本当に何度見ても素晴らしい剣ですよね。トルネコさんも感動していましたよ。」と話しながら、ピサロに近付いて、剣を渡そうとした。
 その時、突然腕を引っ張られ、バランスを崩したクリフトはピサロの胸の中に倒れこむ。
「な、何を…」
 顔を上げるとすぐに唇を奪われた。必死で抵抗しようとするが、力では正直、魔術師ブライやマーニャの次に弱いのだ。押さえ込まれ、相手の舌で口の中をなぞられた。
 萎縮する自分の舌にピサロの舌が絡みつく。ぞくぞくと身体に震えが走って魔王の剣が床へ落ちてしまい、クリフトはトルネコに心の中で詫びた。
 口が解放された時には、クリフトの身体はピサロの下で易々と押さえ込まれていた。クリフトは突然降りかかった我が身の災いに信じ難い思いになりつつ、心細い気持ちで自分に跨っているピサロを見上げた。
 ピサロの鮮血のように紅い目としっかり見合った、その途端、クリフトは体が動かなくなった。目をそらすこともできず、クリフトは自分の上に居る男が魔王であることを今更のように思い出す。思わず生唾を飲み込んだところで、口は自由に動く事に気が付いた。
 クリフトが恐る恐るピサロに理由を問いかけようとした時、ピサロはクリフトを見下ろし、静かに問い掛けた。

「何故、1ヶ月前のあの日、私がデスマウンテンに居ると分かったのだ?」

 偶然です、と口を開こうとしたが、クリフトの口から出てきた言の葉は違うものだった。

「ピサロさんは私達の居ないところで1人になって何かにヤツ当たりしたいだろうな、と思ったんです。
 ロザリーさんを傷付けたくは無いだろうし、暴れられる居場所としたらデスマウンテンしか無いだろう、と思いました。」

 自分の言葉にクリフトは愕然とする。ピサロは「ほぉーぅ?」と薄笑いを浮かべ、クリフトが着ていたシャツの下から右脇に手を入れた。その感触にクリフトが小さく悲鳴を上げたが、手はそのままシャツをまくり上げ、脇を撫で上げ、クリフトの身体を震えさせた。

「何故、私を追ってデスマウンテンまで1人で来たんだ?」

「み…皆さん、気持ちを整理したり、傷を癒したりするので手がいっぱいで、
 あなたが居なくなっていることに気が付いても、どこへ行ったのかは気が付いていませんでした。
 ピサロさんはプライドが高そうだから、いじけている姿は見られたくないだろう、と思って。」

 クリフトはもう、恐ろしさで気を失うかと思った。さっきから無難な言い訳をする為に考えをまとめる前から本音の部分を言葉に紡いでしまう。

「あの…、私に何かしたんですか?」
「あの日、暗示を掛けておいたのだ。」

 シャツはすでに脱がされて、ピサロの手がクリフトの上半身を這い回っている。
「お前が舌を絡めるほどの口付けをした時、相手の質問に嘘、偽り無く正直に答えるようになれ、とな。
 お前は穏便に話を進めるためには、小さな嘘をつき続けても平気なんだろう?」

192無題 5/7:2010/03/22(月) 01:02:15
 クリフトは息を飲んだ。「私は……!」
 嘘なんて、と続けようとしたが、言葉が喉に引っかかり、外へ出て行かない。心まで裸に剥かれたようで、恐ろしさの余りクリフトは咄嗟に目を閉じた。
「ゆ、許してください。良かれと思ってやった事です。
 あなたの怒りを買ってるとは気が付かなくて…!!」
「怒ってなどいない。ただ、お前に興味を持っただけだ。
 お前は私がいじけている、と思ったのだな?それは何故だ。」
「きっと…今回の事が初の挫折なんじゃないか、と思ったんです。」

 声が自然と震える。これは恐怖からか、それとも今も胸を指でなぞられているからか。

「我が国、サントハイムはあなたのせいで城の人間全てを消されてしまった。
 勇者さんはあなたに村を滅ぼされ、モンバーバラの姉妹は父親の敵のキングレオに大敗したことがあります。
 ライアンさんとトルネコさんはそれほど大きな挫折はあまり無いでしょうが、少なくとも、あなたよりは心が打たれ強いだろう、と思って…ひぃッ!」

 胸を捻られ、クリフトは痛みだけでは無い感覚に目を泳がせた。これから何をされるのか、想像したくないのにあの日の記憶が蘇る。

「続けろ。」
「あなたが…心配だったんです。きっと、自分自身を許す事ができなくて、途方に暮れているんだろうと…。
 だから、先にあなたを安心させる為、ゴットサイドで情報を探してからあなたを追いました。」

 ピサロの手がクリフトのズボンへ伸び、クリフトはイヤイヤをするように首を小さく横へ振った。

「やめてください…!」
「お前は何故、私に抱かれたのだ?」

 ズボンの中へピサロの手が伸びる。すでに反応し始めている部分を握りこまれ、クリフトは息を飲んだ。

「あんな場所に…延々自分を傷つけ続けているあなたを1人残していくわけにはいきません。
 殺風景で、花も無い…悪い考えしか出てきませんから……んんッ!」

 クリフトの目尻から涙がこぼれた。怖い。またデスマウンテンでされた行為と同じ事をされるのか、と思うと背筋が凍りそうだった。

「それくらいなら、私に怒りをぶつけた方が、立ち直りも早いと思って…。
 実は、何をされるのかは良く分かってなかったんです。
 殴られるのではなく、その…そっち方面になるとは…裸になる方がいいだろう、くらいは分かってましたけど…
 や、やめて……。」

 前を弄られ、握りつぶされるかも知れないとクリフトは恐怖で体が震え始めた。
「許してくださいッ!私が浅はかでした!もうこれ位で…」

「何を勘違いしている。私はむしろ感謝しているんだ。」
 ピサロの言葉にクリフトが目を剥く。これで!?

「お前が言った言葉はイチイチ的を得ている。少し腹立たしいが仕方ない。
 私は誰かに敗北する事が初めてだったし、その屈辱を跳ね返す方法も分からなかった。
 あの時、お前が来てくれなかったら、私はヤツの下僕にされていたかも知れない。」

 萎縮してしまったそれを弄びながら、ピサロは首を傾げた。

「お前を悦ばせてやろう、と思ったんだが。
 お前、あの日に痛みしか感じていなかったのなら申し訳ない、と思ってな。
 どうだ?あの日、お前は私に抱かれて、1度でもイったのか?楽しんでくれていたのなら、もう解放してやるが。」

 クリフトは目をみはった。楽しんでいた、もう十分だ、と答えようとしたが、口から出たのはやはり別の言葉だった。

「イく、というのが射精する、という意味なら、あの日、私は一度も射精しませんでした…。」

 絶望感に打ちひしがれるクリフトを見下ろし、ピサロはそうか、と眉根を寄せてうなづいた。
「ならば、今夜は寝られると思うな。」

193無題 6/7:2010/03/22(月) 01:07:27
 正直、クリフトはこういう行為は気持ちいいのは相手だけで、受ける立場の人間は苦痛を我慢しなければならない、と思っていた。
 事実、ピサロから受けた行為がそうだったし、女性と言うのは無条件で辛い立場に居るんだな、と身を持って知ったつもりだったのだ。だが。

「も…もう許してくださ…」
 全身を隅々まで触れられ、噛まれ、舐められ、射精を迎えて「見たでしょう!私はイきました。もう満足ですっ!」と必死に訴えても一向に許されず、2度3度と射精させられ、しかもまだピサロは自分の中にさえ入っていない。
 先日はじっと耐えていたが、今回は「お礼」という名目である為、クリフトは必死に逃げようともがき、ピサロを押し返そうと腕で突っぱねようとしたが、相手はびくともしない。遂には自分を守る為に守備力を上昇させる呪文の詠唱さえを始めたクリフトだったが、「怪我をさせたくない」という理由で魔法を封じられた挙句、両腕を頭上で拘束させられてしまった。
 震える声で何度も制止を訴えても、それらを一切無視したピサロは微笑を浮かべ
「今まででどこが一番強く感じた?どこをどうしたら気持ち良かった?」
などと聞いてくる。答えたくなくても、クリフトの口は主人を裏切り、(クリフトにとっては)卑猥な言葉を口走り、その都度、クリフトは羞恥と今からされる行為の恐怖に耳の先まで赤面したり、肌が透けるかと思うほど青ざめたりしては、ポロポロと涙をこぼした。
 ピサロはクリフトの目尻に口付け、涙を舐め取り優しく微笑むと、許してくれるのか、と釣られて微笑むクリフトの身体を易々と押さえつけてリクエストに応えてやっていた。


 ピサロの指がクリフトの中に何本も沈められている時、ふいに扉がノックされ、意識が薄れかかっていたクリフトを一気に正気にさせた。

『クリフトー?』

 クリフトが護衛している姫の声だった。

「ピサロさん、私の暗示はあなた以外にも有効なのですか!?」

 クリフトは疲労困憊した身体でピサロにすがりつく。指を抜き、「ああ。」とうなづくピサロの答えにクリフトは一瞬目を泳がせると
「腕を解いてくださいっ!」
と小声で訴えた。一向に動こうとしないピサロにクリフトは再度小声で訴える。
「口を押さえますから!お願いしますっ!」

『クリフトー?もう寝ちゃったのー?起きてるのー?』

 クリフトは自分からピサロに口づけた。“寝ていません”とピサロの口の中にくぐもったクリフトの声が漏れる。

 ピサロは一瞬驚いた顔をしたが愉快そうに目で笑うと、今まで指を入れていたところに、そのまま自身を一気に挿入させた。悲鳴を堪えて仰け反ったクリフトが、また慌てて自分からピサロの口でを自分のそれで塞ぐ。


『ねぇ、今何してるのー?』

 クリフトは、泣きながらその日一番、卑猥な言葉を口にした。

194無題 7/7:2010/03/22(月) 01:10:03
『クリフトってばー』
「アリーナ、すまない。クリフトはすでに疲れきって寝てしまったようだ。
 明日にしてやってくれないか。」
『え、ごめん、あなたも今ので起きちゃった?ごめんなさいね。
 分かった、明日にするわ。おやすみなさい。』

 パタパタと立ち去る足音が消えると、クリフトは泣きじゃくりながら唇を離した。

「さすがに嘘をつくのが上手いな。姫様相手だと嘘の出来も違うようだな?」

「…大切な人相手だと、嘘の出来が…違いますから…」
 ひっ、ひっ、と泣きながらも、口は勝手に答えているため、息苦しくなってクリフトは落ち着こうと目を閉じた。

「ふん、見事だな。まぁ、いい。お前が意識を失えば暗示も解けるだろう。それまで耐えろよ。」

 ピサロがクリフトの身体を揺さぶり始め、クリフトは空気を求めて天を仰ぐ。
 そうだ、もう少しの辛抱だ。クリフトは必死に意識を手放そうとするが、逆にそれが薄れ行く意識を繋ぎとめる。


 しかし、良かった、とクリフトは心の中で安堵する。ピサロ自身に絶対に知られたくないことは質問してこなかった。あと、もう少し耐えたら、きっと隠し通せる。


 実はあなたが好きなのだ、ということを。


 あの日の戦闘であなたが勇者と同じようにすがるような目で私を見たことが、実はとても嬉しかったのだ、ということを。

 きっと、“ヤツ”も同じ想いを抱いている、と分かったのも、そのせいだ。
“ヤツ”はあなたを殺さず、逃がすのではないか、と思ったから、あなたが最後まで生き残っているように回復呪文を掛けたのだ。

 あなたにこんな事を知られては、次にどんな目に遭うか分からない。
 こんなに長い時間を掛けて私を抱いたのだ。ここまで強く苦しい快楽に私を突き落としたのだ。十分、満足してくれているだろう。
 もう、私があなたに抱かれる事は無い。
 私にとってはそばにいることが出来るだけで十分幸せなのだから。報われないままで構わない。


 私は嘘が上手い。大切な人相手には嘘の出来が違うのだ。

195名無しの勇者:2010/03/22(月) 01:11:46
以上です。
初っ端、説明が長くなっちゃって読みにくくなってすみません。

196名無しの勇者:2010/03/31(水) 10:32:14
このクリフト、なんという萌…!
ありがたや〜(´ヮ`)

197名無しの勇者:2010/06/08(火) 11:29:35
声を殺すとこが最高に萌えた。ありがたいありがたい

198無題 1/7:2010/08/19(木) 23:36:51
※ピサ←クリ前提の勇クリ+ピサクリ。
※媚薬・無理矢理・ラストが暗い
※一応188〜194の続きです。


 神官の見習いの頃、出入りさせてもらっていた城下町の教会で神父様と相談に来ている人と話をうっかり聞いてしまった事がある。
 その若く綺麗な女の人は、教会の隅で子どもだった私が教会に寄付された絵本を読んでいる事に気が付かず、泣きながら、今の恋人の話を始めてしまった。
夜に拒否しても無理矢理どうとか、殴られる事もあるとか。まだ幼かった私は上手く話が飲み込めなかったが、この女性が恋人にひどい目に遭わされながら、それでも彼が自分を愛してくれていると思うと離れられない、と悩んでいる事はなんとなく理解できた。
 神父様は静かに話を聞いていたが、「私の考えを言っても構わないですか?」と彼女に尋ね、相手がしっかりとうなづくのを待ってから口を開いた。


 私は扉のノックの音で目が覚めた。宿屋の天井が見えて、私はすぐに今の状況を思い出す。疲労が溜まっていたのか、今日のダンジョン探索が終わってから微熱を出してしまったのだ。
 自己嫌悪に陥っている私を置いて、同室のピサロさんはさっさと夜の散歩に出掛けてしまった。
 再びノックの音がして、私は慌てて返事をした。私が護衛している姫がひょいと不安そうに顔を覗かせる。

「クリフト、ごめん、寝てた?具合はどう?」
「はい、だいぶと楽になりました。明日には体調も戻っていると思います。」
 私が笑顔で答えると、姫さまもホッとしたように笑ってくれた。倒れて生死をさ迷った前科があるだけに胸が痛み、私は言葉を重ねた。
「ご心配をお掛けしてすみません。本当にもう大丈夫です。」
「そっか。良かった。私ね、薬を買って来たんだけど、もう要らなかったかな。」
「薬?」
「うん、宿屋の裏に薬売りの人が居てね。元気が出るよ、って売ってくれたの。」
 アリーナ姫はポケットから小さな瓶を出した。赤い錠剤が詰まっている。そのきつい発色に私は一抹の不安を覚えた。
 姫が折角買ってくれたのに服用しないのは申し訳ないが、もし変な成分が入っていたら治りかけていた体調が悪化しかねない。

「効きが悪ければ1日3錠まで飲んでいいんだって。」
「だ、大丈夫なんでしょうか。」
 思わず顔が引きつる私に姫さまはニッコリと笑って「大丈夫よ、私、1錠飲んでみたもの。」と胸を張った。
「飲んだ!?」
「ええ、半時ほど前よ。だけど何ともないでしょ?」
「私の為にそんなことを…」
 涙腺にグッときて私は姫から目を逸らした。
「危ない事はお止めください。でも……ありがとうございます。
 クリフトはあなたにお仕え出来て本当に幸せです。」
「ああ、もう、いいからそんなことは。早く飲んじゃってよ。」
「はい。ありがたくいただきます。」

 姫が水差しでコップに水を入れてくれる。私は頭を下げてそれを受け取った。とりあえず2錠手のひらに置き、水と共に飲み込む。
「じゃあ、薬はここに置いとくから。夕飯どうする?」
 正直、食欲はあまり沸かなかったので、私は姫に不安を抱かせないよう笑顔のまま首を横に振った。
「いえ、今日はもうこのまま寝ておきます。」
「そう。ゆっくり休んでね。」
「はい、おやすみなさい。」
 姫が出て行くのを待って、再びベッドに横になる。半時ほど経った時、ふと体が熱くなるのを感じた。

199無題 2/7:2010/08/19(木) 23:40:54
(あ…あれ…?)
 胸の鼓動も少し早いような気がする。微熱だったのに、体温が上がってきたのだろうか。私は薬の瓶に手を伸ばし、追加で1錠口に入れて水で飲み込んだ。
コップをサイドテーブルに戻そうとして指から力が抜ける。テーブルから転がり落ちそうなコップに慌てて手を伸ばそうとして、そのまま脱力したように全身がベッドの下へと転落した。
コップは幸いにも割れずに目の前を転がっていく。身を起こそうとしてもがき続けたが、手足に力が入らず、私は床の上にシーツと共に倒れ伏した。
 まさか、以前ミントスで罹患した病が再発したのだろうか。私はゾッとしてなんとかベッドに戻ろうしたが、手が空しく空振りし、私の上に今度は薬瓶が降ってきた。
頭に瓶が当たった痛みをきっかけに私の目から涙がにじんだ。バカな、泣くなど。しかし、私はすっかり恐怖と心細さに襲われ、涙が止まらなくなっていた。

「クリフト!」

 突然扉が開き、旅の仲間である勇者さんが部屋に現れた。シーツに包まって床の上で震えていた私は、目の前に現れた彼が救世主のように思え、必死に彼の名前を呼んだ。
勇者さんは驚いたように私を見下ろしていたが、部屋の扉を閉め、私に駆け寄ってくれた。
「お願いします!パデキアを…私、病気が再発しちゃったみたいなんです。
 早く、早く薬を飲まないと、また…!!!」
 必死に泣きながら助けを求めるばかりの私を抱き起こした勇者さんは感心したように「ホント…すごい効果だよね。」と呟いた。
「え…何が?」
「ごめん、やっぱ我慢できない。」
 そう言うと勇者さんはいきなり私の唇を自分のそれで塞いだ。驚く私の口腔内に勇者さんの舌が侵入して私の舌を探り出し、私の体はそれにイチイチ反応してビクビクと跳ねた。
息が苦しく、力の入らない手でなんとか勇者さんを引き剥がそうとしたが全く効果がない。ようやく解放された私が息を吸うため大きくのけぞると、そのまま勇者さんに首筋に吸い付かれ、「ひあぁっ!」と弱々しい悲鳴を上げてしまった。
 おかしい。こうして人にいいようにされるのは恥ずかしながら初めてではない。だけど、こんなに容易く体が反応するなんて、今までに無かったことだった。やはり、私の体はおかしくなってしまったのだろうか。
しかし、何故勇者さんは体調が悪いと訴えている私の体を嬲り続けるのだろうか。

 なんとか逃れようとする私と、服を脱がせようとする勇者さんのタイミングが悪かったのか、シャツのボタンがいくつか弾け飛んだ。ボタンが転がり、床に落ちていた薬瓶にカチンと当たる。その音を聴いた途端、私は全てを悟った。

「く…薬のせい…!?」
 私の胸元に手を伸ばそうとしていた勇者さんの動きがピタリと止まる。勇者に上に乗っかられたまま、私は血の気が一気に引いた。

「姫さまッ!!姫さまが薬を飲んでしまわれました!!解毒をっ!勇者さん、姫さまに解毒を!!」
 なんてことだ、こんな発熱や麻痺が起こるなんて、毒薬だったのではないか。
「ああー、もう、やってきたから。アリーナは今、眠ってるよ。」
「姫さまは無事なんですね!?」
「うん。クリフトの部屋を出てすぐに倒れたから、ミネアがベッドに運んでくれたよ。そんで、毒消し飲ませて、全て自供させた。」
 勇者さんは肩をすくめ、「マーニャがそっち方面詳しくてさ。訳分からずに薬の名前だけで判断して媚薬買っちゃったんじゃないか、ってさ。」
「ビヤク?」
 勇者さんは薬瓶に手を伸ばし、説明書きが見える部分を「ほら」と私の目の前に差し出した。

『あなたの大切な人が元気になる薬』

『効用…発熱、動悸、手足の軽い麻痺、感度上昇、涙腺の弛緩、不安感増幅、依存傾向の上昇』

『あなたがこの薬を服薬することにより、あなたの大切な人が元気になるでしょう』

 私は2回、説明書きを読んだが、何故これらの症状が媚薬となり得るのか理解が及ばなかった。

200無題 3/7:2010/08/19(木) 23:43:49
「ああー、ホント鈍いなクリフトは。」
 勇者さんはベッドに薬を放り投げた。

「普段気になってる人が、赤面して荒い呼吸して手足の自由が利かなくなって涙目で不安そうに自分にすがり付いてきて、
 しかも触ってみたらやたら感度良かったら、普通、そのまま押し倒してやっちゃうでしょ。」
「…あなた、私のことそのまま押し倒してやっちゃう気だったんですか。」
「過去形じゃないよ。今もその気だけど。」
 勇者さんのひとことに、再び私の不安感が増幅される。いや、これは薬のせいだけじゃないだろうけど。

「普段、私のことなんて気にして無いでしょ…?」
「気になってるよ。クリフトがピサロに抱かれた時、僕、隣りの部屋に居たからさ。壁薄くて丸聴こえ。」
 全身が凍りつくほどの衝撃を受け、私の思考は一瞬にして麻痺してしまった。勇者さんは私の耳元に近付き、「クリフト、すんごくいやらしかった」と囁いた。
「ち…違っ…私は……!!」
「知ってる。なんか暗示かけられてたんだよね。クリフトが泣きながら普段言わないような言葉を吐くだもん。」
 勇者さんは私の胸をなぞった。「ひっ」と息を飲む私を見て、勇者さんは薄く笑って胸元に顔を寄せてきた。
「最初、止めに行った方がいいのか、と思ってたんだけどさ。どうも、ピサロはクリフトと親睦を深めようとしてたみたいだから。」
 胸元をきつく吸われ、私は「あぁっ!」と声を上げてしまい、また情けなさで涙がこぼれる。もう感情が反乱を起こしたとしか思えなかった。
「クリフト、いったい何錠飲んだの。アリーナもここまでじゃ無かったよ。」
 勇者さんが私の胸元を指でなぞり、脇を撫で上げる。また体に痺れが走り、私は大きくのけぞった。
「に…2錠…。お願いします、もう、止めて…。」
 答えてから、追加で飲んだ事を思い出す。私は息を飲んだ。大変だ。飲んでからどれだけの時間が過ぎたろう。
「…あぁっ!も、もう止めてください。こ、こういうこと、私、好きじゃないんです!!」
 これ以上感覚が鋭くなったら体がついていけない。予測が想像を絶し、私は遂にパニックを起こして涙が堰を切ったように溢れだした。
「落ち着いて、クリフト。あんまり可愛いと、もっとひどいことしたくなっちゃうじゃん。」
 勇者さんの言葉も理解不能だ。私はメダパニ状態の頭でなんとか解決方法を導き出そうと必死になった。そ、そうだ、解毒呪文を唱えればいいんじゃないか?
呪文の最初の言葉はなんだっけ…?
また胸元を吸われ、「ひあっ」と呼吸が詰まり、思考が拡散する。
「ちょ…ちょっと待って…。」
 こんなに頼んでいるのに勇者さんの手がズボンに掛かり、一気に脱がされる。その時、『ザッ』と耳元で血の流れる音がした。

「あ…。」

 肌に直接当たる空気さえもはっきりと分かるほど、一気に感覚が研ぎ澄まされる。体内に流れる脈動が全身から感じ取れた。
部屋の灯りさえも眩しく感じ、思わず目を閉じたその時、勇者さんの指が私のモノに絡んだ。電撃が一瞬で私の全身を貫いた。

201無題 4/7:2010/08/19(木) 23:45:41
「…大丈夫?」
 目が覚めると、勇者さんの顔が私をのぞきこんだ。私はぼんやりとその顔を眺めていたが、次の瞬間には全てを思い出して、目を見開いた。
しかし、五感の鋭さは先ほどよりも幾分和らいでいる。ベッドに寝かせてもらったようだ。
「毒消し飲ませたんだ。さすがに全身性感帯になられちゃ死ぬんじゃないかと思ってこっちが怖くなる。」
 勇者さんは肩をすくめ、「ごめん、ちょっとやり過ぎた。」と頭を下げた。
「いえ、元はと言えば、薬を無防備に服用した私が悪いんです。」
 私の言葉に勇者さんは苦笑する。
「人がいいよね、クリフトは。もっと怒っていいのに。
 ピサロにされたことだって、みんなに訴えていいのにさ。」
「そんなことできませんっ…。それに、ピサロさんは私にもうそれほどの興味はないですよ。
 もう、あんなことは起きません。」
 勇者さんは私の言葉に何故か驚いたようで、「ピサロ、クリフトを気に入ってると思うけど?」とベッドサイドに置かれた薬瓶を指差した。
「試してみたら?ピサロが自分にたいしてどんな感情を抱いているか。」

『普段気になってる人が、赤面して荒い呼吸して手足の自由が利かなくなって涙目で不安そうに自分にすがり付いてきて、
 しかも触ってみたらやたら感度良かったら、普通、そのまま押し倒してやっちゃうでしょ。』

 勇者さんの言葉を思い出し、私は吹き出した。
「まさか。私に対してそんな気は最初からありませんよ。」
「クリフトはピサロの事、好きなんじゃないの?薬、試してみなって。」
 今日は勇者さんに度々驚かされる日だ。絶句する私に「あ、やっぱり?」とニヤリと笑う。
「…報われる事はありません。想いを告げることもありません。それに、もうその薬を飲むのは真っ平ごめんです。」
 むくれた私の言葉に勇者さんは軽く笑い、「分かった分かった。んじゃ、おやすみ。」と私に背中を向けて出て行った。

 私ももう休もう、と部屋の灯りを消そうとしてシャツのボタンが千切れたままなのに気が付いた。一瞬迷ったが、疲労感が上回り、そのままで休む事にして灯りを消す。
目を閉じると、未だに体が熱く、五感が研ぎ澄まされているのが分かる。窓の外に何か近付いてくる気配を感じ、それがピサロさんである事を確信すると、数秒後に部屋の窓がきしみながら開き、夜気と共にピサロさんが部屋に入ってきた。

「クリフト、まだ起きてるか?」
 ピサロさんの言葉に私は目を開く。「おかえりなさい」とベッドの中から声を掛ける私に、ピサロさんは「体の具合はどうだ?」と尋ねてきた。
 私は胸が熱くなり、「もう大丈夫です。ありがとうございます。」と体を起こそうとした。
「いい。寝ていろ。薬を買ってきた。」
「く、薬!?」
 ギョッとする私をピサロさんは怪訝そうに見る。「パデキアの根だ。病ならなんでも効くそうだな。」
 私は声も出なかった。思わず体を起こし、ピサロさんが持つ根っこを見つめる。
「あ、ありがとうございます…。」
 声が思わず震える私に、しかし、返ってきた言葉は氷のように冷たかった。
「クリフト、その首の跡は誰にやられた?」

202無題 5/7:2010/08/19(木) 23:48:27
 私はビクッと硬直し、思わず首元に手をやる。「あ、あの、これは…。」
 ピサロさんがベッドに近付いてくる。部屋が暗い中、月明かりでピサロさんの顔が浮かび上がるが、そこから感情を読みとることはできなかった。
「そのシャツは誰に破られた?」
 私はぎこちなく首を横に振る。
「お前は求められれば誰にでも自分の体を与えるのか。」
「!!…違いますっ!」
 さすがにムッとして言い返すと、ピサロさんはふん、と軽く鼻を鳴らし、ベッドサイドに視線を走らせた。
置かれたままの薬瓶に気が付き、私は慌てて手を伸ばしたが、わずかの差でピサロさんに薬瓶を奪われる。彼は説明書きにさっと目を走らせると、
「知ってて飲んだのか?」
と私を見下ろした。私は恥ずかしさで顔に血が上るのを感じた。

「あ、あの、栄養剤か何かだと思って。」
「そいつに騙されたのか。」
「いえ…薬は姫さまがうっかり買ってしまわれたのです。説明も読まずに私が浮かれて飲んでしまって…。」
 声が消え入りそうに小さくなり、私はそれを吹っ切るように「で、でも!」と顔を上げた。
「もう、解毒してもらいましたから!」と早口で答え、「誰に?」という問いに再び言葉を詰まらせる。
「まぁ、いい。パデキアももういらぬようだな。私は寝る。」
 ピサロさんは突然話を切ってしまい、そのまま上着を脱ぐとベッドに潜ってしまった。私は分かってもらえたのかどうか不安になりつつ、気分が落ち込んだままベッドに横になった。
責められるのも辛いが、切り捨てられるのも辛い。折角、薬を買ってきてくださったのに、不愉快な思いをさせてしまったのだったら申し訳無いな、明日、改めてお礼を言おう…。
私はウトウトと眠りの淵へを落ちようとしていた。

 誰かが私の上で何か呪文を唱えているのを、夢の中で聴いたような気がする。上半身を誰かに抱き起こされて、ようやく覚醒し始めた私はそのまま口の中に小さな丸い物をいくつか入れられ、冷たい水が口腔内に続けて注がれて一気に目が覚めた。
唇の端から冷たい水が溢れ、首筋を通ってシャツを濡らす。続けて唇が塞がれ、私の口の中を散々探るように誰かの舌が動き回った。私がなんとか仰け反って顔を逃がすと、その舌の主の顔を離れて顔が認識できた。

「ピ…ピサロさん…?」
「この赤い錠剤はどれほどの時間で効果が出てくるんだ?」
「はぁ…おおよそ半時くらいか、と…。」

 何故、そんなことを聴くんだろう?
 私がピサロさんから視線を外ずと、自分の着ていたシャツがベッドの下に落ちているのが目に入ってきた。なんで、あんなところにあるんだろう、寝る前に着替えたんだっけ…。自分の手を伸ばし、胸元を触ると直に自分の肌に触れてしまった。「あれ…」と自身の体を改めて見る。
 何故、裸なんだろうなぁ…。

203無題 6/7:2010/08/19(木) 23:50:38
 やっと自分がされたことに思い当たり、私は次の瞬間ベッドから抜け出そうと身をよじった。しかし、すぐに捉えられ、ピサロさんは軽々と私をベッド戻してしまう。
 何故?何故?私の頭に疑問符がいくつも湧き上がる。ピサロさんはベッド側に置いてあった椅子に腰をかけ、完全に観察体勢に入ってしまった。
彼は私に興味が無いはずじゃないのか?

「な…何錠飲ませたんですか…?」
「4錠だ。」

 息を飲んだ。私はすぐさま解毒の呪文を唱えようとして、自分の魔法が封印されていることに気が付き、思わず呻いてしまった。夢の中の呪文はこれだったんだ…!
 ピサロさんを見上げても、そこから表情を読み取る事は出来ない。黙って私を見つめている。そのまま数分が経過した。私は沈黙に耐えられず、自分から言い訳を始めてしまう。

「あの、薬がきつくて、私が死ぬかも知れない、とその方も途中で止めてくれたんですよ。
 そ、その時は3錠でも本当に辛くて…4錠って…きっと、私、耐えられないと思うんです。」
 ピサロさんの表情は動かない。薄く笑っているようにも見え、私は体が震えだした。
「ご、ごめんなさい…許して…。本当にきついんです…。」
 何故、私が謝っているのか。自分でも分からなかったが、とにかくこの状況を脱出できるなら、鬼でも魔王にでもすがりたかった。
「お願いします、ピサロさ…」
 私はピサロさんに手を伸ばそうとして、遂に『ザッ』と耳元で血の流れる音を聴いた。私は力が抜けてベッドに倒れ伏す。全身が脈打ち、体温が上昇していくのが分かる。
呼吸も短くなっていき、なんとか起き上がろうとしてもがくと、ベッドのシーツが肌に当たるのさえ反応してしまって小さく悲鳴を上げてしまった。
恐る恐るピサロさんの方を向くと、興味深そうにこちらを眺めているのと目が合い、私は泣きそうになった。
ピサロさんが立ち上がり、逃げようとする私をまたあっさり押さえつけ、指で私の背中をなぞった。全身に電気が走った。

「うあぁぁぁっ!」

 体がビクンと跳ね、背後から笑い声が聴こえる。私は目に涙がにじんだ。
近付かれても自由が利かずに、背中から抱かれ、背後から胸元に与えられる刺激にビクビクと体を震わせ、押さえられないまま喘ぎ声を上げる。息が続かず、私は何度も首を横に振った。
「ダメです、ダメです、無理です。」果たして相手に聴こえたかどうかも分からない。
「もう…やめ…いや…あぁぁぁぁっ!!」
 胸元で立ち上がったものを指で潰され、私は目の前が真っ白になった。力が入らないまま半ば意識を失ったが、また脇を撫で上げあられ、意識が引き戻される。
「あぁ…も、もう…やめ……。」
 体を裏返され、ピサロさんが私の体を跨いで上に乗ってくる。そのまま、私の胸に残されていた勇者さんの痕の上に唇を落としてきた。
「ひっ……」
 ゾクゾク、と体に大きく震えが走る。次いで2つ目の痕も吸われる。
「許して…もう…許して…」

204無題 7/7:2010/08/19(木) 23:53:59
「この後、そいつは何をしたんだ?」
 ピサロさんの声が耳元で囁かれる。私はその吐息さえも辛くて
「何もされてません…お願いもう止めて…」と懇願してすすり泣いた。ピサロさんが小さく笑い、私の下腹部に手を伸ばす。
「やめ…ッ!」
 息が止まった。触れられただけで私のものが弾け、私の腹部やピサロさんの手に飛び散る。
「これはすごいな…。」
 嬉しそうにピサロさんが呟く。私は呼吸さえもままならなくなっていた。耐えられない。なんで、こんなことになったんだ、何故、何故…。
「待って…待って…」
 続けて前にピサロさんの指が絡まってきて、達したばかりの私は、泣く力も無く、なんとかピサロさんの手を押し返そうとした。

「なんで…なんでこんなこと…」
「お前を組み伏せられたんだ。どうせ、お前を抱いたのは勇者の小僧かそのあたりだろ?」

 ピサロさんの指が蠢く。私の体がまたゾクゾクと震えだした。

「他の男にお前の卑猥な姿を見せておいて、何故私にだけ見せられない?」
「やめて…」

 爪が先端に食い込み、私は悲鳴混じりの泣き声を上げた。ピサロさんの別の指が私の両大腿部を割り、最奥を突き、私の中へと入ってくる。
私はまた許しを乞おうとして、涙声のまま、ただ懇願を続けた。ピサロさんは優しく微笑み、私に口付けをした。

「もう、怒ってなどいない。」
 私は、すがりつく様に、必死にうなづいた。ピサロさんは私の中で指を動かしながら、もう片方の手で私の頭をなでた。

「何故、こんなことをするのか、だと?そんなことも分からないのか。」
 穏やかな表情で、今度は私の耳元に顔を寄せた。

「お前が乱れていやらしく泣き叫ぶ姿が見たいからだ。」
 

『ピサロ、クリフトを気に入ってると思うけど?』
 意識が朦朧とする中で勇者さんの言葉が蘇る。そして、走馬灯のように、幼き頃出入りしていた教会の神父さんの悲しそうな顔が浮かんできた。

 あの日、神父様は若い女性の恋愛相談に乗った後、『私の考えを言っても構わないですか?』と彼女に尋ね、相手がしっかりとうなづくのを待ってから遠慮がちにこう告げた。


『それは、もはや“愛”ではありません。きっと、“支配”と呼ぶのですよ。』

205名無しの勇者:2010/08/19(木) 23:54:48
以上です。どうもありがとうございました。

206名無しの勇者:2010/08/20(金) 11:52:15
投下乙です
片思いのクリフトが健気で可愛いよ
媚薬で乱れた上に勇者とピサロに無理強いされるクリフトがたまらん!
素晴らしいものをありがとうございます(*´Д`)
オチがそうきたかーって感じで、
この先のピサクリがどうなるのかすごく気になりました

207名無しの勇者:2010/10/06(水) 16:52:46
おぉ…なんという…
受けが片思いとか激萌える
私得でした

208夜の海 1/8:2010/11/23(火) 23:35:57
ピサクリです。
※204の続きで大団円にしましたが、やっぱりクリフトが理不尽な目に遭います。
※水中で溺れる描写が出てきます。苦手な人は避けてください。


 こんなご時世に夜の海辺でぼんやり考え事をするなんて、ブライ様に知られたら大目玉だな…。

 流木の上に腰を掛けたクリフトは聖水の入った瓶を弄びながら、ため息をついた。今夜はこの町に宿を取っている。明日もダンジョン攻略だから体を休めないといけないのは分かっている。
だけど、部屋は魔王・ピサロと同室だ。彼と同室になる度、身体を求め続けられる夜が続いている。抵抗しても、懇願しても、自分の意思に反して身体に強い悦楽を刻み込まれる事実を、クリフトは自分の中で消化できないでいた。
今夜も部屋に戻れば、会話する間も与えられずなし崩しに身体をいいようにされるだろう。それを思うとなかなか宿に戻れず、クリフトはぐずぐずと砂浜で聖水で撒きながら座り込んでいた。

「あーーー、どうしたらいんだ…!勇者さんのバカーーー」

 クリフトは寄せては返る海を眺めて1人、頭を抱え続ける。脳裏に昼間の勇者との会話が蘇ってきていた。


 それはダンジョンを馬車で探索していた時の事。馬車の後ろを歩いていたクリフトに、同じく馬車の横を歩いていた勇者が
「何か悩み事ですかお兄さん?」
と囁きかけてきた。
「え、どうしてですか。私は別に、何も…。」
「嘘だね。こないだから塞ぎこんでることが多いしさ。
 戦闘中も集中できてないよ。ザキ系の確率も益々低い。」
 クリフトはグッと詰まり「申し訳ありません、気をつけます。」と声のトーンが落ちた。
「あー。もう、いいからちゃっちゃと心のモヤモヤ吐き出しちゃってよ。」と勇者がバシッと肩を叩く。
 クリフトはしばらく迷ったが、何度も促され、ようやく重い口を開いた。

「あの、例えば、ですよ。勇者さんに好きな人が居たとしてですね、
 その人に想いを伝える前から…えっと、無理矢理に関係を持たされちゃったら…どうしますか?」
「超絶ラッキー。」
「いや、あの、自分はそんなこと望んで無いのにですよ。」
「なんで?好きなのに?」
 勇者は怪訝そうな声を出す。「好きな人と抱き合えるなんて最高だけどな。」
「抱き合うだけなら、いいんです。私だって、嬉しい。」
 クリフトの目が揺れ動く。
「だけど…怖いんです。何を考えているか分からないし、私に辛い想いをさせたいだけなんじゃ…。」
 クリフトはハッと我に返り、口を押さえた。恐る恐る勇者を見ると眉根を上げて驚いた顔をした後、ニヤーッと口角を上げている。
「へぇー。贅沢な悩みのように思うけど?相手に愛されててさ。」
「愛されてなんか…いません。」
 クリフトは自嘲気味に笑った。「散々痛めつけられてるから、むしろ嫌われているのか、とさえ思うときもあります。」
 勇者は笑みを引っ込めてクリフトを見つめた。

「ねぇ、好きな人が同じ宿のベッドに座ってたら、健全な男なら相手をどうすると思う?」
 クリフトは唐突な質問に戸惑いながら、とりあえず状況を想像してみた。
「えーと、お茶を用意して相手の方とお話をします。」

209夜の海 2/8:2010/11/23(火) 23:39:38
「それ、マジで言ってんの!?」
 勇者が恐ろしいものを見るような顔でクリフトを凝視した。
「マ、マジです…。勇者さんは違うんですか?」
「適当なこと言って押し倒して、若さに任せて相手の涙が枯れるまで攻め倒す。」
 今度はクリフトが驚愕して勇者を見つめた。
「そ、そんなひどいことできません!」
「何、クリフト、ピサロに『そんなひどいこと』されたんだ?」
「勇者さんっ!!!」
「へぇー。」
 勇者が先頭を歩くピサロにチラッと視線を投げかけた。
「そりゃピサロ相手だと泣かされるだろうね。向こうは魔王なんだから、ひどい事言うのもするのも商売なんじゃないの?
 『お前を蝋人形にしてやろうか』なんて言葉も日常的に出ちゃうよ。
 で?なんか落ち込むようなこと何か言われたの?」
「い…言えません、そんなの。蝋人形って何ですか。」
「じゃあ、本人に直接聞いてこようっと。」
「やめてくださいっ!」
 足を速める勇者を慌てて止めて、クリフトはすでに泣きそうになりながら、
「私が乱れて…いやらしく泣き叫ぶ姿が見たいそうです。」
と抑えた声で早口で呟いた。
「ごめん、聴こえなかった。もう1回言って。」
 勇者が身を乗り出して笑顔で言う。クリフトは恥ずかしさで一気に顔が熱くなって消えたくなったが、なんとか堪えて、もう一度同じ台詞を小声で呟いた。
「ごめん、もう1回…。」
「聴こえてるでしょ。」
 クリフトは手刀で勇者の頭を殴る。勇者は涼しい顔でクリフトへ向きなおった。
「ちゃんと、話し合ったこと無いんだろ。自分の想いも伝えてないなら、ピサロがクリフトのことどう思ってるかも訊いてみたこと無いんだろ。」
「そんなこと…」
「勝手に好きになって、勝手に傷ついてたら世話無いよ。」
 勇者はクリフトを見つめた。
「今日も同室にするからね。ちゃんと自分の言いたい事言えば?うじうじ悩むのはそれからにすればいい。」

 決意も固まらぬまま夜になり、ピサロが部屋に居ると思うと居たたまれなくなって窓から見えたこの海へと逃げてきてしまった。
自分自身がどうしたいか、すら分からなくなってきたのに、ピサロに自分のことを問うなんて想像もできなかった。

210夜の海 3/8:2010/11/23(火) 23:43:24
「何をしている。」

 頭上からふいに話しかけられ、見上げると、夜空にピサロがマントをわずかな夜風にはためかせて浮かんでいた。クリフトはたちまち萎縮してしまう。
「あの、ちょっと考え事を。」
「…そんなに私に抱かれるのが嫌なのか。」
 いきなりメインの問題に切り込んできたピサロにクリフトは絶句してしまう。でも、訊かなければ。自分のことをどう思っているのか。
「ピサロさん、あの…!」
「…もう、お前の身体に触れない。それならいいんだろ?」
 自分の言葉に重なるようにしてピサロが呆れた口調で言い放った。砂浜から立ち上がったクリフトは再び言葉に詰まる。
「先に帰る。夜風は身体に障るぞ。いい加減に切り上げて戻って来い。」
 ピサロはそのまま町のほうへと飛び去ってしまう。クリフトはピサロの言葉を心の中で転がし、それが冷たい一片の氷のように胸を急激に冷やしていくのを感じていた。
 もう、自分はピサロに抱かれることは無い。プライドを根こそぎ奪われ、思い出すだけで羞恥の極みの行為を強要されることが無くなり、感情の堰を崩壊させられる事が無くなる。
もう、こんなに思い悩む事は無くなるなんて、喜ばしいことじゃないか。

「うっ…。」

 涙が急に溢れてきた。胸の中に開いた大きな穴からは安堵よりも身を切られたような痛みしか感じられなかった。
私とあの魔王の関係は、身体だけの繋がりだった。それでも、私は抱かれている間は彼に必要とされている思っていたのに、ピサロにとっては簡単に切る事ができる関係だったのか。
今頃気が付くなんてどうかしている。

 もうしばらく1人で居たかったが、早く戻れ、というピサロの言葉が引っかかり、無理矢理に深呼吸を繰り返す。泣き止んで、何事も無かったような顔で戻らなくては。
結果がどうあれ、私を思い悩ます問題が今、消滅したことは間違いない。クリフトは涙を服の袖で強く拭き取ると、町の方に一歩足を踏み出した。

 かすかに魔力を感じ取ったのはその時だった。
 ビロードのように穏やかな夜の海の方から、魔法の力を持つ何かの気配がした。魔物ではない。何かのアイテムだろうか。

 クリフトは逡巡し、聖水がまだ効果を発している事を確認すると、意を決して上着を脱いだ。裸になるべきか迷ったが、暗闇の中で岩場で身体を切る可能性もあり、薄手のシャツとズボンを着たまま、真っ直ぐ海へと駆け寄った。
 想像以上に昼間の日光を浴びた海は温かく、服が水を吸って多少重たかったが、クリフトは潮の流れに合わせて泳ぎだした。何もかも忘れて身体を動かしたい気持ちもあり、魔法の気配を感じるポイントまで一気に泳ぎ着く。
今夜は新月で星の光だけでは海の中を照らすには不十分だったが、クリフトは覚悟を決めて息を深く吸って海中へと潜った。

 海中は海面近くに光る夜光虫以外は真っ暗だ。自分が上に向かっているのか下に向かっているのかさえ、分からなくなるくらい、海は闇に包まれていた。
胸が苦しくならないよう、静かに息を吐き続け、クリフトは魔力を感じるポイントを目指す。身体から空気が減れば、その分体は自然と下へ下へと沈んでいく。
やがて、息苦しさを感じ始めたとき、そのアイテムが淡い緑の光を帯びて海底に転がっているのが見えた。
綺麗だな…クリフトはアイテムに手を伸ばす。祈りの指輪だ…いいお土産ができた。

 指がそのリングに掛かった瞬間、ふいに自分の脇を強い力で掴み上げられた。次の瞬間にはものすごい速さで海上に向かって引っ張り上げられる。あまりの速さに身体がついていかず、海面に顔が出た瞬間、クリフトは激しくむせ返った。
脇を掴んでいた何かがスッと離れ、クリフトは体を海面に浮かせようとしたが、眩暈がしてもう一度身体が海に沈みこんだ。
今度はシャツの襟元を掴み上げられ、再び海面から顔を出したクリフトはようやくその手の正体を認識した。

「ピサロさん…!?」

 同じく着衣のままのピサロが不機嫌な顔で目の前に浮かんでいた。長い銀髪が水面に揺れている。

211夜の海 4/8:2010/11/23(火) 23:47:08
「何のつもりだ。」
 クリフトの襟元から手を離したピサロが低い声で問い掛けてくる。それはこちらの台詞のはずで、クリフトはパチクリと瞬きをする。

「私に抱かれたのが死ぬほど嫌だったのか。」

 その言葉でクリフトはようやくピサロが何を思って自分を海上へ急浮上させたか理解した。入水したと思われたんだ!
「違いますっ!私は…」
 クリフトはハッと両手の平を海面に上げた。いけない。指輪を落としてきてしまった。思わず海中に潜りかけ、またピサロから猫のように襟首を掴み上げられる。
クリフトは指輪を見失った焦りもあり、思わず「いい加減にしてくださいっ!」とピサロの手を振り払った。
 ピサロの目が益々剣呑なものになり、一瞬で後悔したクリフトが言葉を発する前に、その手はクリフトの後頭部の髪を鷲づかみにした。

「ら、乱暴は止めてください。」
「そんなに海の中がいいんなら、満喫させてやろうじゃないか。」

 噛み付くようにクリフトの唇を奪ったピサロは間髪いれずにクリフトの頭を抱きかかえたまま海中へと沈めた。クリフトの悲鳴がピサロの口腔内で響くが、ピサロは無視してその口付けを深いものにしていく。鼻で息継ぎする事もできず、クリフトは必死でもがいたが、魔王の身体はビクともしなかった。
ピサロの唇が離れても、その手がクリフトのシャツの中へと潜りこみ、クリフトはゾクリと身体を震わせた。

 まさか。もう抱かないと言ったじゃないか。

 思わず水を吸い込み、クリフトの胸は悲鳴を上げる。強い苦しさと恐怖を感じて逃れようとするが、ピサロの両腕がクリフトを抱え込み、シャツを捲し上げて愛撫を繰り返していた。
息を詰めると身体に与えられる感覚を逃がす事が難しい。しかし、喘ぐ事もできず、急速に体内の熱を上げられてしまう。クリフトは気が付けばか弱く悲鳴を漏らしていた。
 再び口付けされ、空気が送り込まれる。クリフトはむさぼるように空気を肺に送り込んだ。ピサロは自分と同じく一度も海上に浮上していないはずなのに。
目の前に居る者は人間ではない。クリフトの心は不安と恐怖で支配される。こちらの苦しさはちゃんと伝わっているのだろうか。
 身体の脇を撫で上げられるたび、クリフトは思わず声を上げ、大量に空気を吐き出してしまう。定期的に空気を与えられるが、身体が追い上げられ息も上がっていく状況で、それは拷問だった。
海中では言い訳も懇願もできない。

 どうしよう、このままの状態で達してしまったら、確実に溺れ死ぬじゃないか。
 暴れて身体を動かす方が酸素を大量に必要としてしまう事は分かっている。それでもクリフトは闇の海の中で必死に自分を愛撫するピサロの手を止めようと探した。しかし、手は何度も空しく水を掻く。暗闇の中、ピサロの身体はいつの間にか自分の背後に回って自分を拘束している。
ズボンも下着も脱がされて、暗い海の中で何処へ行ったか分からなくなってしまい、クリフトの恐怖が息切れと共にピークに達した。その時、予告も無く前を擦られ目の前が弾ける。

 精を放った瞬間、クリフトは悲鳴を上げて大量に海水を飲み込んだ。身体からピサロが手を離しても、クリフトは再び海中で上下が分からなくなる錯覚を感じた。空気を求めて、浮力が働く方へ浮上すれば良いのだろうが、身体から空気が大量に奪われているせいで身体が浮上し辛いのだ。

 パニックに陥ったクリフトを見兼ねてか、再びピサロに腕を掴まれて海面へ引っ張り上げられた。ようやく外の空気に触れたクリフトは激しく咳き込み、必死に水を吐き出した。
海中に潜って数分ほどしか経過していなかったが、永遠に等しいほどの苦しさだ。
 自分1人で浮き続けられなくて沈みがちなクリフトを置いて、ピサロは自分の全身を水面から浮上させた。そのまま放置されるような気がしてクリフトは慌てて「待ってください!」と呼び止める。

「私は死のうとしていたわけじゃありません!祈りの指輪が落ちてて…」

 声を張ったつもりだが、実際にはかすれて弱々しいものになっていた。

212夜の海 5/8:2010/11/23(火) 23:50:44
「私には…まだまだやらなければならないことがいっぱいあるんです。死ぬなんて私は…」
「何をしたいんだ。」

 頭上からのピサロの問いにクリフトは水上でもがきながら答える。

「元凶を倒します。それはあなたも同じでしょう?」
「それが終わったら?」
「サントハイムの皆さんが戻ってきたら、国内の復興をしなければなりません。」
 溺れそうになりながら、それでもクリフトは悩みもせずに即答した。
「それが終わったら?」
「王に許してもらえるならば、勇者さんの村の復興をお手伝いします。」
「…それが終わったら?」

 クリフトはそのまま海に沈んでしまい、尽きそうな体力を振り絞って水上へ顔を出す。ピサロは表情も変えずに同じ場所に浮かんでクリフトを見下ろしていた。

「それが…それが終わったら。」

 クリフトは震える声で続けた。

「人間も、エルフも、天空人も、魔族も一緒に暮らせる世界を作るにはどうすれば良いのか考えます。」

 ピサロは驚いた顔をしたが、次の瞬間ふっと笑みを浮かべた。
 
「……一生掛かるな。」
「かも知れません。」

 再び沈みそうになったクリフトの腕を再び水面へ降りてきたピサロが掴む。呼吸がままならなくて落ち着こうとクリフトが深呼吸をした途端、ピサロから肩を抱かれて一瞬息が止まった。
自力で身体を浮かせ続けるのも辛いので、クリフトは抵抗する気力も無くそのままピサロに身体を寄せ、おずおずと両腕をピサロの両肩に添えた。ピサロから唇を寄せられ、クリフトはまだ肩で息を続けていたが、大人しく唇を合わせた。
ますます息が上がっていく中、ピサロの指が自分の下肢に伸びていく事も分からない。気が付いた時は下の入口をピサロの指がこじ開けようとしていて、クリフトを再び恐怖に陥れた。
 クリフトはピサロの唇から逃れると「無理です…」と弱々しく首を横に振ったが、ピサロはクリフトの耳に唇を寄せ、「力を抜け」と囁き、耳を甘咬みしてきた。
再びピサロを怒らせたくなくて、クリフトは必死に深呼吸を繰り返すが、やがて指が中に入ってきて、クリフトは再び呼吸困難に陥った。指の数が増え、クリフトが海上で震えるたびに、それに反応して夜光虫の青の光が輝きを増すのだが、クリフトはそれに気付く余裕すら無い。

 やがて指が引き抜かれ、片足を抱えられ、すぐ後に熱いモノがあてがわれても、クリフトはチラリとピサロの顔を見ただけで抵抗する気力すら湧かなかった。
自分の中が貫かれていく間、クリフトはかすかに声を漏らしながら目を閉じた。全てが入ってクリフトがこれから自分の身に起こる事に覚悟を決めた時、そのまぶたの上に温かいものが数秒押し当てられた。それが唇だと気が付き、驚いて目を開くのと、再びピサロに海に引きずりこまれたのはほぼ同時だった。

 恐怖で萎縮するクリフトの背にピサロの手が回る。ピサロは抱き合ったままの体勢で闇の海を潜り続ける。ただ海中にゆっくりと漂うだけの行為は思いのほか心地良く、クリフトも落ち着きを取り戻してピサロの背に手を回した。
こうして、ただ単純に抱き合うのは初めてだった。私も簡単だな、とクリフトは苦笑を浮かべ、ピサロを抱く手にそっと力を込めた。あんなにひどい目に遭ったのに、こんなことが嬉しいなんて。

 やがて、息が尽き、暴力的な苦しさの中、それでもクリフトはピサロから離れようとはせず、徐々に意識を失った。

213夜の海 6/8:2010/11/23(火) 23:53:33
 ピサロは自分のマントを砂浜に敷くと、そこへクリフトをそっと寝かせた。落ちていた流木に火炎の呪文を唱えると、やがて小さく爆ぜながら赤々と周囲を照らす焚き火となる。
自分の服を脱いだ後は、気を失っているクリフトの服も脱がせて、興味本位で集まってきたドラキーたちに突き出した。ドラキーたちは嬉しそうに服を咥えて焚き火の熱気の上でパタパタと飛び交い始めた。ちなみにクリフトのズボンも祈りの指輪も拾い上げてある。

 本当に、こいつは無自覚だ。ピサロはクリフトに回復呪文を掛けながら心の中で呟く。

 体調を崩したクリフトの服が破られているのを見たとき、ロザリーが息絶えた日を思い出してしまったことなど、こいつは気付きもしないのだろう。
私がどれだけ衝撃を受けたか。相手にどれだけの怒りを感じたか。それなのに、何でも無いことのように振る舞い、ごまかそうとする態度に無性に腹が立った。
あの時感じた怒り、動揺を全てぶつけ、クリフトが何度も気を失い、遂にはピクリとも動かなくなってしまうまで責め立てた。
 そして今も、夜の海にアイテムが落ちているからと平気で潜っていく。

 ロザリーのように塔の中に閉じ込めて誰からも傷つけられることなく護る事ができるのならば、今すぐにでもクリフトを連れ去ってやるものを。
 しかし、ヤツを倒すまではこいつの力が必要だ。回復にかけて、この男の右に出る者は居ない。そして、ヤツを倒せたとしても、こいつは自分の国を始め、ピサロたちが滅ぼした村や町の再建に尽力すると言う。その次はこれらの原因を作った種族の垣根さえも一生掛けて壊すと言う。
 こいつを閉じ込めても、満足するのは私だけだ。

 ピサロはクリフトの左手薬指に祈りの指輪を通した。関節でつっかえたが無理に押し込むと指の付け根まで指輪が進んだ。痛みを感じたのかクリフトがかすかに呻いて目を開いた。
自分が真っ裸で居る事に気が付いて慌てて身を起こすと、すぐそばに同じく全裸のピサロが流木に座っていることに気が付き目を丸くする。

「あの…私の服は…?」
 恐る恐る声を掛けてくるクリフトに無言で空を指差してやると、焚き火の上のドラキーたちに気が付いたようだ。自分のズボンや下着も空にたなびいているのを確認して、ホッと胸をなでおろしている。そして、今度は自分が寝ている下のマントに気が付いた。
「ピサロさん、これは…あなたのマントでは!?」
 クリフトは慌てて飛びのき、眩暈がしたのかへなへなと座り込んだ。
「死に掛けたんだ、寝ていろ。」
「はい…すみません。」
 クリフトは大人しく横になる。

「ありがとうございます。あの、心配させてすみませんでした。」
「いや、私も悪かった。しかし、指輪を取りに行く事が目的だったにしても危険なことには違いない。もう夜の海に入るのはやめろ。」
「昼間の海の方が私には脅威です。」
 クリフトは軽く笑う。「綺麗な海だと海底が見えるでしょう?高さに震え上がって泳げなくなるんです。」
「なるほど。盲点だったな。」
 ピサロは肩をすくめる。
「次からは私に言え。海の魔物に頼んでやる。」
「あ、ありがとうございます。」

「私に抱かれるのが嫌なんだろう?」

214夜の海 7/8:2010/11/23(火) 23:55:01
 クリフトは息を飲んで、いきなり話題を変えたピサロを見つめた。
「なんでそんなこと…。」
「昼間の会話は私の耳にも届いていた。」
「ええっ!?あの声と距離で聴こえたんですか。」
 次の瞬間、クリフトは昼間と同じく顔が一気に熱くなった。

「いや、その、私は…っ!」
「もう2度とお前を抱かない、と誓えば気が済むのか?」
 その言葉に、クリフトはふるふると首を振った。
「答えろ、クリフト。」
「わ…私は…。」クリフトは両手で自分の顔を覆った。

「怖かったんです。あなたに抱かれるのが。」

 クリフトは、振り絞るように吐き出した。
「力だって敵わないし、自分で自分の体がコントロールできなくなるし…
 何より、あなたに言われなくとも、散々いやらしく泣き叫んでしまう。
 自分が自分で無くなるようで…神官だというのに、どんどん快楽に弱くなっていって、情けなくて…。」

「性欲は魔族でも人間でも動物でもある。何を当たり前のことを嘆く。」
「私にとっては堕落です!それに…。」
 クリフトはハッと顔から手を離した。
「指輪が…。」
「それに、何だ?」
「えっ!?い、いえ、いいんです、何でも無いです。」
「言わねば、この間の薬をまた寝ている間に飲ませるぞ。」
 クリフトはビクッと体を震わせた。
「私は…そんな情けない姿を…よりにもよって、あなたに見られてしまって、
 軽蔑されるんじゃないか、嫌われてしまうんじゃないか、と思って怖いんです。」

 ピサロさんは軽く眉を上げた。「私がそんな体にしたのに?」
「ずいぶん、好き勝手してくれましたよね。」
「大体、お前がいちいち言葉に反応するからだ。流せば良いものを、わざわざ真正面で受け止めて傷つく。面白い。」
 クリフトは思わず起き上がってピサロと向かい合った。
「なっ…私がどれだけ辛かったか分かっているんですか。」
「これからは少し手加減してやろう。まぁ、しばらくは手加減具合が分からんかも知れんが。」
「これからって…?」
 ピサロが自分の肩に手を乗せてきて、クリフトは目をむく。
「死に掛けたんだから寝ていろって言いましたよね!?」
「回復呪文は掛けてやった。もう少しは大丈夫だろ。」

215夜の海 8/8:2010/11/24(水) 00:00:52
 反論を待たずにピサロはクリフトに深く口づけた。海水を散々含んだ口腔内を長く味わい、体を離すと、クリフトは涙で濡れた目で戸惑ったようにピサロを見つめた。
 そのまま体を押し倒して、ピサロがクリフトを見下ろすと、そこでクリフトは我に返り、慌てふためいて、
「や、あの、人の話を聞いてましたか?
 ひあっ!わ、私はこういうことが辛い、と言ってるんですよ。」
とピサロが愛撫を開始しても必死で両腕で相手の胸を押し返しながら訴えた。

「少しは慣れろ。これも特訓だ。」
「特訓の成果が出たって…確認する人はあなたしか居ないじゃないですか!
 止めてくださいっ!ドラキーが見てますっ!」

 クリフトが必死に放った言葉は、逆にピサロの顔に再度薄い笑みを浮かばせた。
「その代わり、終わったら宿で一緒にお茶を飲んでやる。それでは不服か?」

 クリフトは抵抗を止め、驚いたようにピサロを見つめる。
「いえ……それで十分です。」
 クリフトの目は恥ずかしげに伏せられ、ピサロを押し返そうとしていた手をパタンと降ろした。
「あの、お手柔らかにお願いします。」
 ピサロは微笑み、心の中で誓いを立てる。

 お前を監禁できないのならば、見えない檻に入れてやろう。
 お前が目的に向かって走り続けるのを止めた時、私はお前を連れ去って本物の檻に入れてやる。

 そうしてピサロはクリフトの指に光る祈りの指輪にキスを落とした。

216名無しの勇者:2010/11/24(水) 00:02:21
以上です。ありがとうございました。

217名無しの勇者:2010/11/24(水) 00:38:43
投下乙です
相思相愛!
甘く優しいピサロと見せかけて「本物の檻に入れてやる」とか
しっかり魔王らしくて惚れます
相変わらず一途なクリフトに萌えました
いつも良い味を出してる勇者くんにもいつか良い思いをさせてやってください

218名無しの勇者:2010/11/24(水) 01:24:33
乙です!
実はそろそろ新作が来るのではと2日ほど前から張ってました!
前作のすれ違いっぷりが歯痒くもあり可愛くもありましたが、
大団円おめでとうございます!!
これからも適当に嫁にいたずらしてくださいねw、魔王様!
そして勇者くんに幸あれ〜


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