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FFDQかっこいい男コンテスト 〜ドラゴンクエスト1部門〜

1名無しの勇者:2002/10/18(金) 20:15
DQ1の小説専用スレです。
書き手も読み手もマターリと楽しくいきましょう。

*煽り荒らしは完全放置。レスするあなたも厨房です*

2崩壊の序曲1:2003/05/07(水) 23:22
 力任せに横薙ぎに払った剣に、魔物の体が真っ二つに裂ける。
 絶叫と共に転がった魔物の、それでもまだ生きて蠢く様子に驚きながら、勇者は地面を転がる魔物の頭部に剣を突き立てた。
 脳漿が飛び散り、勇者の頬にかかる。最後の一匹であるはずの魔物の絶命を確認し、それでも緊張した面持ちで周囲の気配を探った勇者は、あれほど集まっていた魔物の気配がそこから消えている事実を確認して、ようやく肩から力を抜いた。
「やっと終わった……」
 魔物にも自分のテリトリーというモノがあるのか、滅多なことで団体では襲ってこない。それでも、旅を始めてから数度、今日のように魔物の群れに襲われることがあった。
 まだ旅慣れなかった、力と魔力の配分を知らなかった頃は、魔物の群れと遭遇することが勇者にとって『死』を意味することだった。多くの魔物の気配に気付いて、慌ててその場を逃げ出すこともあった。
 もちろん、今とて余裕というわけではない。あまりに多ければ死ぬこともあるし、死ななくても瀕死の重傷を負うことはある。それでもその回数は、戦いを重ねるごとに減っていくのだ。
 そして何より。
 どれほど死んでも『蘇る』という事実に、感覚が麻痺しているのも事実。
「……これなら薬草の方がいいか」
 魔法は最後の手段として残しておく。旅の中でまず憶えたそれを遵守して、勇者は先ほどの戦闘で放り投げてしまった荷物袋へと近付いた。
 そして。
「あー……」
 先ほど自分が斬り殺した魔物の、下半身から溢れ出た体液と汚物で汚れた荷物袋を発見して、勇者はなんとも形容しがたい声を上げてしまった。
 いくら荷物袋は耐水仕様だからと言っても、こんな汚いモノを担いで旅はしたくない。自分の今の格好を考えれば、何を今更だと言われそうだったが、体液だけと汚物を含む、では明らかに対象が違いすぎるし、何よりそんなことを突っ込むような人間など、一人もいるはずがない。
 それでも、他人が見ているわけがないのにそれを触ることに躊躇して、汚れてない部分をようよう持って、勇者は深々とため息をついた。
「確かこのあたりに、泉があったような……」
 これだけ仲間――魔物に仲間意識というモノがあるのならば、だが――が殺されているのだ。今日はもう襲ってはこないだろう。
 そんな薄っぺらい期待をしながら、勇者は荷物袋から出した地図を広げてもう一度ため息をついた。
「毒の沼地にだけはなってないといいな……」

3崩壊の序曲2:2003/05/12(月) 21:53
 月の光を反射し、水面が輝いている。
「う……わ、すご……」
 魔物が多く潜む森でありながら澄んだ水を湛える泉に、勇者は思わず感嘆の声を上げていた。
 ここが魔物の徘徊する森であることを思えば、もはやこれは奇跡に近い。だからこそ罠である可能性を捨てきれず、一転して表情を険しくした勇者は、剣の柄に手をかけたまま泉へと近付いた。
「…………」
 待てども待てども魔物の気配など無く、時折吹く風に月光を照らす湖面がさざめくばかり。慎重に慎重を重ねて周辺の気を探っていた勇者だったが、やがて安堵の息と共に肩から力を抜いた。
「……。こっちもすごいな……」
 剣から手を離して水面を覗き込む。そこに映った自分の姿に、勇者は思わず苦笑を漏らした。
 魔物の体液に汚れた全身。滅多に街の外に出ることのない人々が見たら、間違いなく魔物と間違われるだろう、その姿。
 それが、この森に入ってから続いた戦闘が原因であることは分かっているが、もしここに泉がなかったらどうなっていたのだろうか、とある意味くだらないことを考えて身震いする。
 魔物よりも魔物に見える、返り血に染まった鎧に身を包んだ者を、誰が街に入れたいと思うだろうか。
 門番などが理解力のある人間ならば良いのだが、時々居る『勘違い人間』に剣を向けられたことは、実は一度や二度ではない。
 目の前に街があるのに野宿を余儀なくされた瞬間を思い出し、勇者は勢いよく兜を脱いだ。
「決めた!」 
 こんなところで鎧を脱ぐことがどれほど危険なことかぐらい、誰に言われずとも自身が一番よく知っている。
 それでも、この格好で知らない街に辿り着いたとき、その街の門番が『馬鹿』で無い保証は無いのだ。
「確か、荷物の中に……」
 異臭を放つ荷物袋を開けて、中から小瓶を取り出す。それを自分の周辺に振りかけ、ついでに湖に流せば、瞬間的に彼の周辺は光に包まれた。
「これでよし、と」
 聖水による、簡易結界。魔物の襲来を押さえてくれるアイテムは、ある程度力に差が出てきた場所では特に使用頻度が高い。
 もう少し経てばこれと同じ力を持つ魔法を憶えられるだろう、と教会で告げられたことを思い出して、勇者は空になった小瓶を指先で振った。
「あと少しだけ力を借りるよ」
 警戒に警戒を重ねての行為にようやく満足して、今度こそ鎧を脱ぐ。鎧の下に来ていた布の服も脱ごうと手をかけ、そのままじっと布の服を見下ろした。
「……ついでだし。このまま洗うか」
 火打ち石と焚き付け用の脂を取り出し、先に火を熾しておく。そう簡単に消えそうもないことを確認して、勇者は泉に飛び込んだ。
「っ!」
 冷たい水が、全身を包み込む。体の心まで染み渡るその冷たさに体を震わせたのは一瞬で、久しぶりの水浴びに勇者は自然と顔を綻ばせたのだった。

4崩壊の序曲3:2003/09/21(日) 23:11
 小一時間たった頃、勇者は泉から地面へ上がった。
冷えないように、先ほど灯した火の傍により、服を乾かすため布の服に手をかけた。
 泉に入る前に撒いた聖水の効果は未だに続いている。
 大丈夫だ、襲われる事はない。そう自分に言い聞かすと、上着を脱いで下着を下ろした。
 だいぶ旅を続けてきた成果であろう、胸の筋肉は引き締まり、足の筋肉は逞しく膨らんでいる。
「もう少し欲しいよな。」
 そうつぶやいて、着ていた服を火の傍に置いた。
 荷物袋を泉に入れて洗い、魔物の体液を落とす。本来こんな事はしたくないのだが、汚いまま冒険するのは勇者の良心を痛めた。
 荷物袋を火の傍において、服とともに乾かす。
 聖水の効果が切れる前に乾くだろうか、勇者は少し焦ったが、まだ荷物袋には聖水が入っている。切れそうになったら、新しい聖水を撒けばよいのだ。
「あとは、食い物だな。」
 荷物袋が体液で汚れてしまったため、中の食べ物が駄目になってしまったのだ。
 聖水の効果が切れていないのを確認し、たいまつに火を灯すと森の中に入っていった。
「お、これも食える。こっちのもそうだ。」
 裸で食料を集める姿も恥ずかしいものであったが、ここは森である。誰も来る事がない。
 意外にも森の中には食べられる物が多かったようだ。勇者は嬉々として食べ物を集めた。
「よし、これくらいでいいか。」
 手にいっぱいの食料を抱えて、ふと自分の周囲を見渡す。
 荷物袋のおいてあるところの火は随分遠いところにあるのが分かった。
「よし、あそこか。えっと聖水の効力は……。」
 足元を見ると、聖水の光が急速にしぼんでいった。
「うわっ!急がなきゃ。」
 勇者は急いで荷物袋のもとへ駆けた。
 しかし、あと少しで荷物袋というところで聖水の光が消えてしまった。
「あ、聖水を!」
 食料を置いて、勇者は荷物袋に飛びつき、中から聖水を取り出そうとした。
 しかし、真後ろに出現した謎のゲートより伸びてきた腕によって勇者は後ろに引っ張られた。
「うわっ!何だおまえ!?」
 後ろに引っ張られたおかげで、聖水を落としてしまったのだ。
 急いで手を伸ばし聖水をとろうとするが、ゲートの腕によりふさがれた。
『ケッケッケ、させないよぉ。そんなことをされると、オイラ消えちゃうからね。』
 ゲートより声がする。ゲートの主は勇者を仰向けに倒すと、呪文を唱えた。
 頭の上で組んだ手首に枷をはめた。
「ほ、ほどけっ!」
『駄目だね〜。オイラ、今日はお前で遊ぶって決めたんだから。』
 ゲートの主は陽気な声で答えた。
 勇者の顔が恐怖により引きつった。

5崩壊の序曲4:2003/09/22(月) 00:18
『さ〜て、どこから行こうかなぁ〜。』
 足にも枷をはめ、身動きの取れなくなった勇者を見て魔物は嬉しそうに言う。
『ここどうかなぁ〜。』
 そういうと、勇者の胸の乳首にふれた。
「あっ……ふぁっ……!」
『お、なかなかいい反応。』
 乳首を親指で揉んだ。
「あん……やぁっ!」
 柔らかい快感が勇者のからだを襲う。
『へ〜、こんなに感じちゃってるよ。意外にも淫らなんだな〜。』
「感じてなんか……あんっ!……ああ……。」
『ウソばっかし、ここなんかこんなに起ってる。』
 魔物は手を伸ばし、既に勃起している勇者のペニスを握った。
「触らない……で、やだぁ……。」
『勇者のくせに皮被ってるなんて、たいした事ないな〜。可愛い♪』
 勇者のペニスは勃起していても10㎝に満たなかったのだ。
「うるさい…………だま……れ。」
『いいのかな〜?反抗しても。』
 そういうと魔物は、勇者のペニスを覆っている皮を下に向って少し下ろした。
「ぎゃあああ!」
『反抗するとこうなるよ?真性包茎勇者君?』
「ご、ごめんなさ…い。おとなしくします……。」
『そう、抵抗しないほうが吉だよ。』
 魔物は勇者の皮を戻した。
『乳首触るだけで勃起しちゃうし、ペニスは大きくないし、真性包茎だし。君ってH初めてでしょ?』
「………………。」
 勇者は頬を赤らめるだけで返事をしようとしない。魔物はそんな勇者に怒りを覚え、皮をいっそう下に下げた。
「わあぁぁぁあ!んっぐぁ!!ぁぁぁぁああぁあぁぁぁぁあああ!!!」
『話さないなら、無理矢理話させるまでさ!』
 魔物は呪文を唱えると、勇者の額に指を当てた。
「僕……はH……は初めてです……。いままで……オ……ナニーした……事もありま……せん……。」
 勝手に口がしゃべりだした。
『ふぅん、初めからそういえばよかったんだ。にしても、オナニーすらしていないなんてね。』
 すると、魔物は勇者のペニスを擦り上げた。
「ひ!?ひゃああぁぁう!」
『これがオナニーだよ。わかる?すぐに気持ちよくしてあげるよ。』
 ペニスに絡みついた指は時に激しく、時にゆっくりと勇者を弄ぶ。
「うっやっだ……ぁぁあぁん……ふっぅっぇ……もっあっぁぁっぁあああん!!」
『ドクン!!ドクン!!』
 勇者のペニスから大量の精液が放出され、下に落ちる。
 うっぁ……っやっぁぁぁ……」
 少しだけ指の動きが遅くなる。
 しかし勇者は射精の余韻に浸る間もなく、
 指は勇者のペニスをうごき快感を与える。
「!!もっやっ……むっぁ……いっゆあぁ……いやぁ……ふっぅ」
 ペニスは放出された精液と、指でさらなる快感を勇者に与える。
「うっや……もっぅ……だ……めっぁっふ……」
 だんだんと勇者の身体から力が抜けてしまう。
『ふふ、初めてにしてはなかなかいい反応じゃないか。』
 魔物は呪文を唱え、勇者のアナルに指を当てた。
「!!んっぁあああああああぁあっぁあん!」
『その触手は朝になるまで消えないから。楽しかったよ、じゃあね〜♪』
 そういい残すと魔物は姿を消した。
「やぁぁっぁっぁ!!っふっぁ!!あっ!!っやだっあ……うっぁっぁ!!」
 触手はアナルの中で動き回りつづけ、液体を放出させる。
「あっっふっぁ!!ぁぁぁぁああぁあぁぁぁぁあああ!!っくああん!!」
 勇者は全身を引くつかせながら喘ぎ声を上げつづける。
 再び射精感が勇者の全身に走った時、
 別の触手が勇者のペニスにまとわりつき、強く縛りつける。
 勇者は全身をひくつかせ、時に口の近くにくる触手を愛撫するように舐ていた。
 アナルには触手が入り動きを止めようとせず、ひたすら液を放出しつづける。
「あっんっぁ!!っふっぅえ!!もっぁ……ぅっっぁっやっぁぁん!!ふっぁぁっぁぁっぁああぁあっぁあっぁあぁっぁぁぁぁあ!!!!」
 ペニスについた触手が離れ、一気に勇者のペニスから精液が放出される。
『ドクッ!!ドクッ!!!!』
 その瞬間に別の触手が勇者のペニスを包み込み、一気に吸い上げる。
「!!っやぁっぁあぁぁあぁぁぁっぁぁあぁぁぁっぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁああぁ!!!!」
 溜められた精液がドンドン吸い上げられていく。
 勇者は射精感を促進され、
 今までに感じたことのない快感にただただ大きな声で喘ぎ声をあげる。
「うっぁぁあ……うっぁ……」
 射精が終わってもなお触手は勇者のペニスを吸い続けた。
 身体はひたすら引くつき続け、口からは喘ぎ声と涎を出し続ける。
「うああ……んっぁ……ふああぁぁぁ……うっぁん……くっふん……」
 触手もまた勇者のペニスに残っている全ての精液を吸い出すかのように……。

6名無しの勇者:2004/09/18(土) 03:48
すみません、何の脈絡もありませんが竜王×勇者カプ小説を投下します。
何だか色々と設定を無視したお話ですので、苦手な方はスルー願います。
ちなみに勇者は普段から旅に慣れているという設定で、
レベルは旅立ちの時点で既に20を超えてます(ベギラマ習得後)

一応DQ2スレの>>107-118に投下した話と連動していますので
もし興味を持って頂けたら、そちらにも目を通して頂けると嬉しいです。


では、以下7レスほど使用します↓↓↓↓↓↓↓

7竜王×勇者【1】:2004/09/18(土) 03:49
 その視線は、いつしか自分にまとわりついていた。

 はじめはラダトームによる監視の<目>だと思っていた。幾ら自分が、何百年も前に
ここアレフガルドの地に朝をもたらした伝説の勇者ロトの子孫だとはいえ、それを証明
するものは自宅の蔵にしまってある家系図と古びた兜が一つだけだ。大体その兜だって
ロトが旅先で立ち寄った村の子供達から「父親の形見だ」と言って渡された程度の代物
であって、(ロトにしてみれば感慨深いものであったに違いないが)自分には何の関係
もない。しかしラダトームの国王ラルス十六世は、城の謁見の間に飾られているロトの
肖像画を見て、その兜が彼の子孫に代々受け継がれたものであるということを承知して
いた。でなければ、自分のような名もなき者に『竜王を倒す』などという無謀な使命を
与えることはなかっただろう。だが、王が承知しても周りが信用するかといったらそう
ではない。
 ラダトームを発った後、ひとまずガライの町を目指して五日間歩き続けたが、その間
ずっと追跡されていることは知っていた。信用されていないのは別に構わないのだが、
旅慣れている自分とは違い、追ってくる側は城の警備以外では素人も同然だ。休憩した
後で彼らは痕跡──焚き火の跡や食べ物の滓──をしっかり残していく。それでは魔物
どもに自分達の居場所を懇切丁寧に教えてやっているようなものだ。案の定、魔の気配
は段々と追われる自分にも近づいて来るようだった。
 そして、町の手前の山岳地帯で魔法使いの集団に襲われた。ラダトーム派遣の追っ手
の迂闊さにはいい加減腹が立っていたので、使うまでもないベギラマを魔物にお見舞い
してやった。灼け焦げた魔法使いの死骸の向こうに兵士たちが青ざめた顔で立ち尽くし
ていたが、気にすることはない。兵士らを無視してさっさと山を降りた。追っ手はもう
付いて来なかった。
 だが、<視線>はその後も付いて来た。マイラ地方を旅している時も、沼地の洞窟を
抜けてリムルダール方面に出た時も、その<目>は何かを通して、自分のことをずっと
視ていた。人のものによる力ではない……自分も呪文を扱う側なのでそういうことには
敏感だ。リムルダール北西の湖の脇で一晩休憩した時にはもっとも強い視線を感じた。
何をするでもない、ただこちらを<視て>いるだけ。あまりの気味の悪さに、その夜は
少しも寝付けなかった。太い木の幹に背を預けて遠くを見やる。そびえる岩山の向こう
に城の尖塔が見えた。視線はそこからだ、と直感が告げていた。

8竜王×勇者【2】:2004/09/18(土) 03:50
 リムルダールで太陽の石の噂を聞き、確認がてら御上に旅の経過の報告をするために
ラダトームへと一旦戻った。王に口上を述べる傍ら、謁見の間の隅にさっと目を遣ると
あの時の兵士の姿があった。退席する際に目が合ったので取り敢えず笑顔で会釈したら
思いきり視線を外されてしまった。あのベギラマの閃光で、少々脅かし過ぎてしまった
らしい。内心苦笑しながら太陽の石の話を聞くとぶっきらぼうな返事と共に城の地下室
へと案内してくれた。そこで老人と話をして、太陽の石を授かった。あとはガライの町
の奥、ガライの墓で手に入れた銀の竪琴を雨雲の杖と交換して、メルキド地方にあると
いうロトの印(兜なんかよりもこういうものを家に伝えて欲しかった)を手に入れたら
竜王の棲まう島へと渡ることができるらしい。ようやく旅が前進した気がした。しかし
果たして、自分に竜王など倒すことが出来るのだろうか。対岸にそそり立つ大きな城を
ぼんやりと眺めて考えたが、こればかりはやってみないと判らない。

 ガライの町でドムドーラに関する不吉な噂を耳にしたことを思い出し、確かめに行く
ことにした。ラダトームからドムドーラへと行くには幾重にも連なる山々を大きく迂回
しなければならない。途中、岩山の洞窟で戦士の指輪とやらを拾ったので剣を握るのに
邪魔にならない左の人差し指に嵌めてみた。何の効果もないようだった。町に着いたら
売ってしまおう……指輪には大した値打ちもなさそうだったが、少しでも路銀の足しに
なればいい。
 何やら特別な『門番』が居るという噂がある城塞都市メルキドと違って、ドムドーラ
はのどかな町だと聞いた。牧畜が盛んで、付近から生産品を買いに来る客も多く、それ
なりに栄えた町であるという話だ。だが近年は魔の影に脅かされていたらしい。竜王を
恐れるあまり、自分が住んでいる村や町を離れてわざわざ他の集落を視察しに行く者が
居るはずもなく、ドムドーラのそれも単なる噂でしかなかったが……しかし、こういう
時代に小さな町が無事に残っている可能性は低いように思われた。
 砂漠を越えてようやくドムドーラの町に辿り着いた。
 正確には、町『だった』場所に着いた。……やはりドムドーラの町は跡形もなく破壊
され尽くしていた。町をぐるりと囲うように建てられた壁面は内からも外からも炎で焼
かれた形跡があり、既に黄砂に吹き晒され朽ち果てていた。町の中に足を踏み入れると
うっすらと残る死臭のようなものが鼻についた。町が何年前に襲われたのか知らないが
亡くなった町の人々を弔う者もおらず、土に埋められることのなかった遺体は時間と共
に風化してしまったようだった。精霊神ルビスの御名において、どうか人々の魂に救済
がありますように──。目を閉じて儀礼どおり片手を胸に当てて祈りを捧げた。
「!!」
 その時、誰かに見られているような気がしてはっと周りを見回した。人影は見当たら
なかったが、用心するに越したことはない。剣を握る手に力を込める。町の様子をもう
少し詳しく知るためにも中を歩いてみることにした。

9竜王×勇者【3】:2004/09/18(土) 03:51
 町は殆どが原形を留めないほどに破壊されていた。真っ黒に焦げた盾や鎧が散乱して
いる場所……ここは防具を売る店だったのだろう。その隣の建物には、朽ちたベッドの
残骸。疲れた旅人が立ち寄り、体と心を休める宿屋だった場所だ。
 町の中心から東へ行ったところで突如、悪魔の騎士が襲いかかってきた。視線の主は
こいつだったか。思わず舌打ちをした。ラリホーで眠らされて厄介なことになる前に、
素早くマホトーンを唱えて相手の呪文を封じる。あとは、打撃を避けながら着実に体力
を奪えばいい。力任せに斧を振り下ろしてくる魔物の攻撃に耐えながら懸命に戦った。
そして、時間は掛かったがとうとう相手の息の根を止めた。こちらも流石に無傷とまで
は行かず、それなりの痛手を被ったので、傷を回復させようと側にあった大樹の許に腰
を下ろした。
 ベホイミを唱えて傷が癒えていくのを待つ間、視界の端にぼんやりと光る鎧を見付け
たので、手を伸ばして触ってみた。何か特別な魔力を帯びているような感じがするが、
呪詛の類は感じられない。
 どこかで見たことがあると思ったら、大昔にロトが身に付けていたと言われている鎧
ではないか。先日、ラダトーム城の謁見の間で目にしたばかりの勇者の肖像画を思い出
して、何て自分はロトと因縁が深いのだろうと思った。この分だとロトの剣はこれより
もっと入手が困難な場所に置いてあるに違いない。面倒なことになったな、と呟きなが
らもこのまま置いていくのも忍びないので、今まで着ていた鎧を脱いでロトの鎧を身に
付けてみた。不思議なことに鎧は誂えたかのように自分の体に合った大きさで、着心地
も見た目からは到底考えられないほど快適なものだった。そこで立ち上がって、腕を挙
げてみたり上半身を捻ってみたりと色々試してみたが、これはかなり動きやすい範疇に
入る。世の中には凄腕の鍛冶職人が居たものだ。
 日が暮れてきたので今日はこの廃墟の町で一夜を明かすことを決めた。明日の朝早く
に発てば、うまく行けば一週間後にはメルキドに入れる。夜露を凌げる場所があるかと
町の中をうろうろと徘徊し──その時に形ばかりではあるが、魔除けと死者への弔いの
意味も込めてトヘロスの呪文を各家に掛けて廻った──結局、元『宿屋』だった場所に
腰を落ち着けた。そこで携帯用の干肉と薬湯で僅かばかりの食事を摂り、体が温まった
ところでその日は早目に床に就いた。

10竜王×勇者【4】:2004/09/18(土) 03:52
 ところが、夜中に人の気配を感じて目が覚めた。
 食事の際におこした火は消してあり、明かりといえば天上で煌々と輝いている上弦の
月の光だけだ。それゆえはっきりと姿は捉えられないが、確かに自分以外の誰かがこの
町の中に居る。まさか昼間戦った悪魔の騎士が蘇ったんじゃないだろうな、と嫌な想像
をしたがそれにしては甲冑の擦れ合う音が聞こえない。壁に立て掛けておいた剣を手元
にそっと引き寄せ、外套にくるまったまま息を潜めて相手の出方を待った。相手はもし
かすると敵ではないかもしれないし、或いは──やはり敵かもしれない。そんなことを
思っていたら、大きく開いた壁の隙間にさっと影が差した。
 それは、頭の上から外套を目深に被った男だった。男? 何故顔も見えないのに相手
の性別が判るのだ? 種を明かせば、外套の奥で金色の目が光ったからだ。闇夜に光る
金の目。こんな物騒な目をしているのは竜族以外の何者でもない。実際に見たことは今
まで一度もないが、文献で読んで知っている。竜族はその殆どが雄体で、ほんの一握り
しか存在しない雌は巣の中で子育てをして、その一生を終えるという。だからこうして
外を出歩くのは、竜族の男以外には居ないという訳だ。そして、竜と人とが忠誠で結ば
れていた時代ではない今、竜族といえば竜王の配下に間違いなかった。
 男はこちらの存在に気付いているのかいないのか、宿屋の中をぐるっと見回すと建物
内部に足を踏み入れてきた。
(まずい)
 寝る時に邪魔だからとロトの鎧を脱いで足元に置いておき、上から布を掛けておいた
のだがいつの間にか布がずれ、鎧の肩当て部分がほんの少し顔を出している。だからと
いって、直そうにも身動きが取れないのでそのまま固唾を飲んで見守っていたら、男が
静かに歩み寄って来た。
「お前が悪魔の騎士を倒したのだな」
 いきなり話しかけられて一瞬、間が空いた。だがそこに居ることがばれている以上、
だんまりを決め込む訳にもいかず、仕方なく返事を返した。
「…………そうだ」
「奴は手強かったか?」
 まぁそれなりに、と答えると男は笑ったようだった。そして自分の足元に目を向ける
とロトの鎧に手を伸ばしてそれに触れようとしたので、外套から顔を出して、
「触るな」
 と強い語調で言った。男が手を止めてこちらを見た。金色と目が合った。
「これはお前の物か?」
「厳密に言えば俺の物ではないが、拾った以上は俺の物だ」
 何だか子供の言い分みたいだったが所有権は一応、主張してみてもいいだろう。例え
男が自分を殺して鎧を奪い取る気だとしでも、このまま易々と奪われるつもりはない。
「そうか」
 男が息を吐くように呟いた。「お前が……ロトの子孫」

 その瞬間、外套を纏った男から見えない力が放たれたような気がした。

11竜王×勇者【5】:2004/09/18(土) 03:52
 男の放った<気>に正直、戦慄を覚えた。
 殺意だとか、そんな可愛い代物ではない。圧倒的に勝る力。自分などはこの男の手に
掛かれば一溜まりもないだろう。まともに戦って勝利できる相手ではない。旅に出ては
じめて恐怖に身が震えた。大の男が恥ずかしいなどと考える余裕もなかった。
「震えているのか」
 喉を鳴らして男は笑った。そして外套を頭から退けると月光の下でその姿を晒した。
角のようにも見える頭の形が、やはり男を人外の者だと伝えていた。
「お前をずっと見ていたんだ」
 男の言葉が夢の中の出来事のようにふわふわと聞こえた。
「何日も、何日も」
 囁くような声。
 男がまた笑った。気が付くと男は自分の横に座ってこちらを見下ろしていた。
「あんたの……仕業だったのか」
 男の言葉に思い当たる節があった。例の<視線>のことだ。掠れた声で呟くと、男が
ほうと言って口の端を上げた。
「気が付いていたのか。流石だと言うべきか?」
「いつも、見られてて……かなり気分悪かったんだけど」
 一旦、口を開いたら多少楽になったのでついでに本音をぶちまけた。そうしたら男が
ぐいと身を乗り出して来たので、やっぱり言うんじゃなかったと後悔した。
「お前の心を覗いていたからな。決して気分のよいものではないと思うが」
 だがもう慣れただろう?
 そう言って男は、横たわる自分の脇に両手を付いてこちらの目を覗き込んできた。
「あんた……何やってんの」
「お前を見ている」
「それは判ってる。……もしかして、人間が珍しい?」
「珍しくはないが、我を目前にして逃げ出さない人間をはじめて見た」
「……。この状態から逃げ出せる奴が居たら見てみたいよ」
 呆れた口調で言うと、男はそれもそうだなと納得した様子で呟いた。
「わざわざ俺を殺しに来たのか?」
「この町を任せていた悪魔の騎士の気配がぶつりと途切れたので様子を見に来た。そう
したらお前が居た」
 男の言葉に思わず溜息が出た。こんなことならいっそ、時間は余計に食ってしまうが
一度ラダトームに帰っておけば良かった。そうしたら命は助かったかもしれない。だが
今更ルーラを唱える訳にもいかないし、既にもう事態は自分ではどうしようもない状況
に陥ってしまっているのだ。
 自分が死んだら、この世界はどうなってしまうんだろうか。
 そんなことを考えながら目を閉じた。男に抵抗する気は、今や無いに等しかった。

12竜王×勇者【5】:2004/09/18(土) 03:53
 静かな時が過ぎた。
 せめて自尊心だけは最期まで守ろうと思い、どんな痛みが自らを襲おうとも声だけは
絶対に出してくれるなと歯を食いしばっていたところに、何ともいえない柔らかい感触
のものがそっと触れた。最初は訳が分からずぼんやりとしていた。だからそれが男の唇
だと気付くまでに随分な時間を要した。
「!」
 驚いて目を開くと、金の目が間近にあった。反射的に体を突っ跳ねようとするが、逆
に手首を押さえ込まれて簡単に動きを封じられてしまう。顔を背けようにも男は執拗に
唇を追ってくる。そして角度を変えて深く接吻(くちづ)けられている内に、すっかり
全身からは力が抜けてしまった。
 長い接吻けの後でようやく唇が解放されると切れ切れの息の下で、取り敢えず疑問に
思ったことを尋ねてみた。
「……何してんだよ」
「お前が目を閉じ、目前に唇があったので接吻けをした」
「竜族は、人間の男女の区別も付かないのか」
「お前は男だろう。それが何だと言うのだ」
「男は、男に接吻けをしないんだ!」
「ではこれからすればいい」
 そう言ってまた唇を合わせてきたので、今度は本気で暴れて抵抗した。そうして男と
揉み合っている隙に、男の背後から第三者の声が響いた。
「陛下、そろそろ城にお戻り下さいませ。直に夜が明けます」
 自分達の他にも誰かが居るとは気が付きもしなかった。思わずびくりと体を揺らして
しまったら、鼻先で笑われた。まったく腹の立つ男だ。
 ……今、男のことを<陛下>と呼ばなかったか?
 先程までの執拗さが嘘のように素早く身を引いた男を、驚きの眼差しで見つめる。男
はこちらの考えを読んだかのように、ニヤリと嫌味な笑いをその口元に浮かべた。

13竜王×勇者【7】:2004/09/18(土) 03:55
※あわわ、番号ふり間違えました。↑は【6】です。



「ではまたな、ロトの子孫よ。次に会う時はどちらかが死ぬ時だ」
 それまで無事に生き延びるようにな、と楽しげに言った男の手には自分の人差し指に
嵌っていたはずの戦士の指輪が握られていた。いつの間に抜き取ったのだ。
「……指輪」
 返せよと言う前に言葉を遮られた。
「城まで取りに来い」
 そう言って、男は外套をまた頭から被り直すと建物の外へ消えた。外では「お戯れも
程々に」などという男の行動を咎めるような声が聞こえていたが、あの圧倒的な気配が
消えると共に声の方もふつりと消えた。
 何だったんだ、一体。
 狐につままれたような面持ちで、男が出ていった壁の隙間を見つめた。
 あれが──あの男が、このアレフガルドを恐怖に陥れている<竜王>だと言うのか?
そう思ったら一気に全身を脱力感が襲った。
(……からかわれた)
 力の弱い人間だと思って、思いきり馬鹿にされた。なんて奴だ。元より売ろうと考え
ていた指輪のことなどどうでもいいが、あの男の首は刎ねてやらないと気が済まない。
すっかり覚めてしまった眠気と共に外套をはね除け、身支度を整えると町の外へ出た。
山に囲まれた砂漠から空を見上げると白々と夜が明け始めていた。取り敢えずは南下し
て、城塞都市メルキドを目指そう。そこで旅の手がかりが掴めるかもしれない。

 足元で何かが蠢いた。と思ったその瞬間、死のサソリと呼ばれる巨大なサソリが砂の
中から飛び出してきた。
「…………」
 何だか急激に怒りがふつふつと沸いてきたので、その体を剣で力任せに切り裂いた。


                            〜終わり〜

14名無しの勇者:2004/09/18(土) 03:56
以上で、ひとまず第一部終了です。
一気に最後まで書けないウンコー!ヽ(・∀・)ノですみません…。
続きはまた後日うpさせて頂きます。

それでは失礼致しました。

15名無しの勇者:2004/09/19(日) 04:30
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
ストーカー竜王禿萌え。 (;´Д`)ハァハァ
ちゃっかりエンゲージリングをパクっていく竜王禿萌えでつた。
続き、頑張って下さい。楽しみにしていまつ。ヽ(゚∀゚)ノ

16名無しの勇者:2004/09/20(月) 05:34
>>7-13の続き、カプは竜王×勇者です。
竜王様がどんどん変態仮面になっていくのはどうかご容赦頂きたいです。
今回、エロとも言えない微妙な描写がありますので御注意ください。


では、以下5レスほど使用します↓↓↓↓↓↓↓

17竜王×勇者【8】:2004/09/20(月) 05:35
 ドムドーラでの『事件』から二月が経過した。
 あの日以来、視られているという感覚は消え失せたが、眠りに就くと決まって男が夢
の中に現れた。毎度、律儀に夢の内容を覚えている訳ではない。疲れた時には夢を見な
い日もある。それでも男の姿だけは、目が覚めた後も脳裏に焼き付いていた。
 メルキド南部でロトの印を手に入れたのちラダトームまで舞い戻り、そのままマイラ
地方の山間部にある雨の祠に向かった。そこで銀の竪琴と引き換えに雨雲の杖を受け取
ったら、その足でリムルダールへと渡る。なんて面倒な旅なのだろう。ルーラで自分の
望む場所へと瞬時に移動できたら楽なのだが、今の時代、移動魔法の受け入れ先──平
たく言えば着地の目標となる魔法陣のようなもの──を公開している施設はラダトーム
城しかない。その他の町や村へ行くには自分の足で距離を稼がなければならないのだ。
リムルダールの町で食糧や薬草などを調達して、宿屋の清潔なベッドの上で一晩くつろ
いだ後は南の島へ向けて出発する。そこからの旅はほぼ休み無しの強行軍だった。リム
ルダールの預言所で賜った言葉どおり、鬱蒼と生い茂る森を抜けて辿り着いた先の島で
小さな祠を見付けた。そこに住んでいるという世捨て人のような風貌の老人から、『虹
の雫』と呼ばれる玉を授かる頃には精根が尽きたといっても過言ではないくらいに疲れ
果てていた。
 だが、伝承の通り「雫が闇を照らす時」に虹の橋が竜王の島へ架かるというのなら、
それはもう決戦の時が迫っていることを意味するのだ。橋を渡った後では今以上に油断
も躊躇もならない。そして何より、失敗は許されない。
 竜王の島に一番近い町ということで(距離的にはラダトーム城の目と鼻の先だが海を
渡る術がない)、取り敢えずはリムルダールへ戻り態勢を整えてから出立するべきだろ
うと考えた。ここから先は誰の助言も得られない、たったひとりで挑む戦いだ。そこに
アレフガルド全体の命運が掛かっているというのだから、何とも不思議な気分になる。
勿論、自分の他にも竜王を滅絶せよとの命を受けた者達が居るはずだが、今までの経過
を見る限りでは自分があの島へ一番乗りということになるだろう。もし自分が使命を果
たせなければ、後続の者に遺志を託すしかない。誰かが果たしてくれるといいのだが。

 疲れた頭の中では自然とあの男のことを思い出していた。ドムドーラにて不遜な態度
で接してきた男。竜族の王、暗闇の支配者。
 アレフガルドの──延いては己の敵でもある。

18竜王×勇者【9】:2004/09/20(月) 05:36
 旅立ちの前日、リムルダールで最後の温かい食事を摂った。己を悲観視するつもりは
ないのだが、やはりこれが『最後』だと考えるのが普通だろうと思う。元より五体満足
で戻れるとは思っていない。このご時世に、豊富な食材を使った夕食を提供してくれる
宿屋の主人も西の島へと渡る者の運命を感じているのだろう。いつもよりも言葉少なに
接客をする主人に有難うと礼を伝えて、空になった皿を下げて貰った。
 部屋に戻ってベッドに横になり、明日からの数日間のことを考えた。竜王の城には、
地下へと続く秘密の入口があるという。それを聞いて、家に伝わるロトの冒険談を思い
出した。玉座の裏へ廻ったところの床に隠し階段があったという話だ。もしそれが真実
であるなら調べてみる価値はあるだろう。問題はその先だ。まったく道が判らないので
手探りで進むより他ない。松明は多めに買っておいたから、たとえ城の内部が暗くても
照明には事欠かないはずだ。
 不思議と、どうしてこんな時代に生まれたのかという気分にはならなかった。これが
自分の辿るべき道ならそれを最後まで完うしようと思う。ラダトームより登城命令が下
った際に、ロトの血を受け継ぐ者としてある意味『希望の象徴』を体現させられている
のだなということは肌で感じたが、だからといって本人としては特別に気負うこともな
かった。余計なことは考えず、アレフガルドに住まう人間として、とにかく使命を果た
すことに最大の努力を注ぐだけだ。
 考えごとをしていたその耳に、コツ、と部屋の窓に何かが当たった音が聞こえた。閉
じていた目を開いてベッドから身を起こす。窓の錠を外して左右に大きく開いた後で町
の通りに目を向けたが、特にそれらしき人影は見えない。子供達が小石でも投げて遊ん
でいるのかもしれないと思って窓を閉めようとした時、一陣の風が部屋に吹き込んだ。
強風に煽られてカーテンがばたばたと大きく躍る。慌ててそれを手で押さえ付け、窓を
バタンと閉めるともう一度しっかりと錠を閉め直した。
 部屋の中の異常に気付いたのは、その時だった。
「──我を、城へと帰さぬ気か?」
 聞き覚えのある声がしたと思った次の瞬間、背後から抱きすくめられていた。
 一瞬、何が起こったのか判らなかった。我に返った後で腕の中から逃れようとしたが
特別強い力で抱きしめられている訳でもないのに、その腕はびくとも動かなかった。
「ロトの子孫殿は、なかなかに大胆な方のようだ」
 半ば笑うようにして囁かれた声と共に、耳の後ろに生温かい息が掛かった。ぞくりと
体が震えた。耳たぶを口に含まれ、ざらついた舌で転がされる。這い回る舌の、一連の
ゆっくりとした動きに嫌悪を感じて、肌の表面が粟立った。だが自分の思いとは裏腹に
掴み所を欲して抱きしめる腕に思わず縋ってしまう。それが気に入ったのか、<竜王>
は満足そうに溜息をついた。

19竜王×勇者【10】:2004/09/20(月) 05:37
「……何を……しに来た」
 次に会う時はどちらかが死ぬ時だと、そう言ったのは男の方だ。男の居城になかなか
姿を現さなかったために、とうとう痺れを切らしてしまったのだろうか。徐々に上がっ
ていく心拍数を悟られまいと努めて冷静に話しかけようとしたが徒労に終わった。声が
上擦っているのが自分でも判った。
「お前に用向きがあったので、それを果たしに」
 だから前言は撤回だ、と男は耳元で囁いた。
 男の片手が自分の髪を梳き、耳の後ろや首筋を撫でていくのを感じて耐え切れず目を
強く瞑った。
「お前はいい匂いがする」
 首筋に顔を埋めて男が言った。
 やめてくれ。気分が悪い。そう叫んで暴れ出したかった。
「夢の中で、何度もお前に会いに行った」
 その言葉にぎくり、と背筋が凍った。
 やはり、あれは作為的に組まれた夢なのだ。覚えている夢の中で男に何をされたかは
敢えて言わない。簡単に術中に嵌った自分を、男は楽しみながらも蔑んでいたに違いな
かった。またも男との力量差を歴然と見せ付けられて、絶望感に近い気分を味わう羽目
になった。
 有無を言わさず引き込まれるようにしてそのままベッドに倒れ込んだ。男が上から馬
乗りになる。抵抗しようにも、男の視線に縛られて身動きが取れなかった。
「震えているのか」
 はじめて会った時と同じことを男は尋ねてきた。そして顔をゆっくり近づけて接吻け
ようとしてきたので、寸前で顔を横に背けた。男はそれに苛立ったかのように、前髪を
ぐいと掴んで引っ張ると無理やり唇を重ねてきた。角度を変えて深く接吻けてくるのは
この前と同じだったが、突如として侵入してきた舌に、己の舌を絡め取られ根元をくす
ぐられた。意思を持って口腔で暴れるぬめりを持った物体に、いいように翻弄される。
嫌悪と息苦しさから男の胸を拳でどんどんと叩いて解放を訴えた。男が唇を離した隙に
はぁはぁと短い吐息の合間に相手を罵倒する言葉を吐いたが、男は何も言わずまた唇を
奪った。頬に手を添えて繰り返される、先程の性急さとは打って変わったついばむよう
なそれに、眩暈と痺れを感じた。

20竜王×勇者【11】:2004/09/20(月) 05:38
 それから小一時間たっぷりと弄ばれたような気がしたが、実際にはそんなに経ってい
ないのかもしれなかった。だが自分にとっては拷問のような時間が長く続いたのは今更
言うまでもない。
 男が足の間を割って入るようにしてのし掛かり、両の脇の下から手を差し込まれたと
思ったらそのまま男にぴったりと密着するよう強引に上半身を引き寄せられた。そして
上下に体を揺すぶられる。激しい動きに耐え切れずにがくりと仰け反った喉元へ唇を寄
せられたのをきっかけに、首筋から鎖骨、はだけた胸の辺りまでを男の舌が何度も往復
した。性交を彷彿とさせる体位とそれらの行為に、怒りと羞恥で全身が赤く染まった。
「憎いか」
 男が合間に尋ねた。憎いどころの話ではない。人を絶望の淵へと突き落としておいて
更に恥辱にまみれた行為を強要する。その上で、恋人達が交わすような穏やかな接吻け
を瞼や唇に落とすのだ。敵だとか男同士だとか異種族同士だとか、そういった禁忌をす
べて通り越して、今はただこの目前の男が何を考えているのかが判らなくて、ぐちゃぐ
ちゃに乱れた間抜けな表情を晒しながらも、ぎらついた金色の目を間近から凝視した。
 男の独白が始まった。
「地上から、<光>を奪ってやろうと思った」
 古より続く忠誠の間柄を壊し、竜を殺し始めた人間。欲に目が眩んだ人間達は、竜の
鱗を剥ぎ……角を削り……魔力が多く宿るという目玉をくり抜いた。竜族は段々と地上
を追われ、ついには光の届かぬ暗闇へと辿り着いた。寿命は長いが生殖能力の低い竜族
は、そこで人間への復讐を誓いながら細々と生き永らえた。そうして<闇>と結託し、
力の強い者が誕生するのを待って巣穴より地上へと一斉に這い出した。長い年月の中で
竜の存在など忘れていた人間達にとってそれは恐怖でしかなく、竜族にとっての人間は
もはや破壊と憎悪の対象でしかなかった。竜達はその大きな体で大地を蹂躙し、炎で焦
がし、生きとし生けるものの命を次々奪った。そうして、人間達の間に『希望』が誕生
するのをじっくりと待った。
「お前のことだ。
 ロトの子孫、人間どもの希望の光」
 互いの唇が触れるか触れないかの位置で、男が呟いた。
「ずっと、お前を堕としてやりたいと思っていた」

21竜王×勇者【12】:2004/09/20(月) 05:38
 いつの間にか男の首に回していた腕を外され、再びベッドに横たえられた。汗で額に
張り付いた前髪を手で梳かれる。火照った顔に時おり触れる冷たい手が思いの外気持ち
よくて、先程までの酷い仕打ちも忘れて何度か目を瞬かせた。
「我と共に来い」
 唇をかすめ取るように接吻けた後で、男が熱っぽく囁いた。だがそれは決して有り得
ないということを互いが判っていた。
「あんたは世界を壊しすぎた」
 そう言うと、男はうっすらと笑った。
「では我を殺すか? だが、銅や鋼では竜の皮膚は貫けまい」
 男は体を離すと、壁際に立て掛けてあった一振りの剣を手にした。それは自分が普段
持ち歩いている鋼の剣ではなく、まったく別の長剣だった。
「光の鎧がお前の所有ならば、王者の剣もまたお前の物だ」
 光の鎧というのは、その昔ロトが大魔王ゾーマを倒した際に身に付けていたとされる
鎧のことだ。ドムドーラの町で手に入れた例の鎧がそれである。そして王者の剣も同様
に、ロトが生前に愛用していた武器だという。
 つまり今、目前にある長剣が王者の剣──魔を打ち砕くロトの剣ということか。
「息の根を止める唯一の武器を、自ら与えに来たのか」
 驚きの色も隠さずに呟いた。身を起こして、男とロトの剣を交互に見つめる。
「あんたの望みは一体何なんだ」
 答えはもう判っていたが、敢えて男に問うた。男はベッドから降りると鞘に収まった
ままのロトの剣を人の腹の上に投げて寄越し、
「お前の勝率を少し上げてやろう」
 と言って、不敵に笑った。そうしておいて男は窓に歩み寄り、錠を外すと大きく開け
放った。涼しい夜風が熱気のこもった部屋の中にひんやりと舞い込んだ。男はしばらく
窓の外を眺めていたが、不意にこちらに顔を向けてその獰猛な瞳を輝かせた。
「必ず、お前が殺しに来い」
 そう言い残すと、男の姿は音もなく空中に霧散した。

 残像の粒子が消え失せる頃、窓の外から町の喧噪が耳に届き始めた。今の今まで外界
から隔てられていたらしいことに気付いたが、それを知っても、男のことはもう畏怖の
対象だとは思わなくなっていた。
 汗で濡れた服を脱ぎ、風呂場で身を清めた。その時、下着にべっとりと付着したもの
を見て気が滅入りそうになった。しつこいぐらいに全身を擦って、湯を浴びる。風呂か
ら上がる頃には部屋の空気も入れ換わっていたので、窓に近寄り戸を閉めた。ベッドに
腰を下ろして、男が置いていったロトの剣を鞘から抜いてみる。オリハルコンという名
の未知なる金属から成る刃は、部屋の明かりを受けてあくまで鈍く光を反射した。これ
をもって、<竜王>に戦いを挑むことになる。
 剣を鞘に収め壁に立て掛けると、ベッドにごろりと横になった。
 目を閉じたところで、今夜は金の輝きを忘れられそうにもなかった。


                               〜終〜

22名無しの勇者:2004/09/20(月) 05:39
以上で、第二部終了です。
第二部で終えるつもりだったのに全然終わりませんでした。ワァァァン
なるべく次で終わらせるつもりでいますが…。
行き当たりばったりで書いてるのでどうなることやら(;´Д`)

ところで勝手にガソガソ投下しておいて何なんですが
職人の皆様を差し置いてこんなに続けて
うpしてしまっても良かったんでしょうか…??
もしかして空気読めてなかったりしますか_| ̄|○ モウシワケアリマセン

23名無しの勇者:2004/09/20(月) 15:09
続きキタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
本番突入してないのに雰囲気がエロいですyo
チッスや密着してベタベタしているだけというシチュが大好物な自分には
大変ウマーな展開ですた。GJです!!
変態仮面でもカコイイ竜王様に萌え。勇者たんも真面目そうな性格で萌えるハァハァ

読み応えのあるSSで、この後の展開が禿しく気になります。
続き楽しみにしていますのでガンガッテ下さい!DQ2話も読ませて頂いてます(*´∀`*)

連続うpは、気になさらなくても大丈夫だと思いますよ。
最近は投下数が少なくて閑古鳥が鳴いているので、
職人さんのSS投下が板全体の活性化に繋がるといいな〜。なんつって。
自分は文章が書けないので、皆さんの作品が読めるだけでもありがたいです。

24名無しの勇者:2004/09/21(火) 10:05
>22
GJですた。萌え萌えですたよ。 (;´Д`)ハァハァ
>第二部で終えるつもりだったのに全然終わりませんでした。ワァァァン
読み手に取ったら嬉しいです。続きすごく楽しみにしてまつヽ(´ー`)ノ

25名無しの勇者:2004/09/22(水) 09:49
竜王×勇者カプ小説を投下した者です。

>>15,23,24
感想有難うございます!やる気が出ます(`・ω・´)キリリ
次の話なんですが、書いているうちにやっぱりというか
長くなってしまいそうな予感がしてきたので
二部に分けてうpするかもしれません。
簡潔に文章をまとめられる書き手さんが羨ましい…。
続きはもう少しお待ちください。


それでは仕事に戻ります。コソコソ

26名無しの勇者:2004/09/23(木) 17:16
>>17-21の続き、カプは竜王×勇者です。
今回の分で話は完結します。
投下レス数も文字数も多くて申し訳ないです…_| ̄|○
多少グロテスクな表現がありますのでご注意ください。


では、以下8レスほど使用します↓↓↓↓↓↓↓

27竜王×勇者【13】:2004/09/23(木) 17:18
 竜王の城は島の北北東、荒れ果てた岩山の谷間にひっそりと建っていた。大昔、この
アレフガルドを闇に閉じ込めた大魔王ゾーマが君臨していた場所。まさかこんなところ
に自分が足を向けるとは思ってもみなかった。あの時のロトと同じ格好で今、自分は暗
闇の支配者に立ち向かおうとしている。ロトはこの光景を前に何を思ったのだろうか。
(彼には仲間が居たから心強かったのかもしれない)
 では、どうして自分はたった一人で旅立ち、ここまで来たのか。集団を組もうと思え
ば幾らでも出来たはずだ。立ち寄った町で同志を募集したり……リムルダールでは故郷
でよく剣術の訓練をし合った旧友にも再会したのだから、彼を誘うことも可能だったの
ではないか。だがそれをしなかったのは彼らの目に浮かぶ諦念の色、そして竜王に挑む
使命を負った者に向けられる憐憫の情に気付いたからだ。アレフガルドの民は、世界と
共に滅ぶ気でいる。それに抗おうとしている自分はさぞ奇妙に映ったに違いない。
 時々、風に乗って漂ってくる腐敗した沼の臭いは、下手な魔法よりも効き目がある。
あまりの悪臭にくらくらする頭をぶるりと振って、今立っている位置から遥か下方に視
線を向けた。竜王の城の向こうに見えているのは、自然に起こったとは言いがたい波が
渦巻く海、更には対岸のラダトーム城も見える。後ろを振り返れば『虹の雫』の不思議
な力によって現れた淡い色の架け橋が、今だ消えずにその神秘的な情景を保っていた。
しかし、あの橋はいつ消えるとも限らないし、ロトの印を持つ者以外があの上を歩いて
渡れるという保証もないのだ。……やはりこれは、後続の援軍は期待しない方がいいと
いうことか。ますます己の孤独感に拍車が掛かる。この先は、もう後ろを振り返るのは
やめよう。精霊神ルビスが付いていてくれるのなら話は別だが。
 濡れて黒光りしている岩の表面を注意深く踏みしめながら、辛うじて平地と呼べる場
所に降り立った。ここまで来れば竜王の城はもうすぐだ。見た限り、門の前に見張りが
立っているということもなさそうだが……。魔物の死骸や汚物でどす黒く濁った沼地を
避けるように進んで、どうにか城門まで辿り着くと、重い鋼鉄の扉を押し開けてそこを
通った。門をくぐった瞬間、身に付けている鎧や腰に差した剣がパチパチッと音を立て
て反応した。聖なる加護が<闇>の力に反発しているようだ。ここが、敵の本拠地なの
だということを改めて認識する。一旦、深呼吸をして気分を落ち着かせてから城の内部
へと足を踏み入れた。まずは、例の玉座の間を探し出さなければならない。
 建物の中は思ったよりも明るかった。それでも照明がないと色々と不便を感じる気が
したので、荷物から松明を取り出してそれに点火した。明かりが点いたことで、不安な
気持ちが多少なりとも吹き飛ぶ。右手に剣を、左手に松明を持って城の一階部分をぐる
ぐると歩き廻った結果、玉座の間を発見した。玉座の背後に廻って床を調べてみると、
驚いたことに本当に隠し階段があった。床の一部がばね仕掛けで固定されており、それ
を外して板を持ち上げると床下に階段が現れる仕組みになっていた。そこから先は何が
出るか判ったものではないので顔を突っ込んで下の様子を見ようとしたのだが、地下は
この階とは比べようもないぐらいに暗く、手にしている松明の小さな明かりでは様子を
窺い知ることは不可能だった。仕方がないので、実際に階段を降りてみることにした。

28竜王×勇者【14】:2004/09/23(木) 17:18
 城の地下部分は、紛れもない魔物の巣窟だった。地上階の静けさが嘘のように次々と
魔物達が襲いかかってくる。余計な魔力を消費したくないので剣術だけで対応したが、
それにしても数が多い。しかしこれだけの魔物が居るということは、今進んでいる道が
竜王の元へ辿り着く正しい道筋であるという証拠と見て良さそうだ。
 魔物の種類においても、死霊の騎士などは一度死んだ者であるから、姿は恐ろしいに
しろ殺すことには躊躇しないが、幾つか階段を降りた先でダースドラゴンに遭遇した時
には流石に嫌な気分になった。あんな話を聞いた後では、竜に手を掛けることに対して
何より罪悪感が先行してしまう。しかしここで攻撃する手を緩めてしまえば、自分自身
の命に関わるのだ。痛む心を無理矢理押さえ込んで、炎を吐かれる前にダースドラゴン
に斬りかかった。途中、ラリホーで眠らされそうになったがどうにか対抗して致命傷を
負わせる。そして首を胴体から切り離してとどめを刺した。竜の体はしばらく地面の上
でのたくり暴れ回ってたが、そのうち事切れた。竜を一匹殺すと仲間はその死を敏感に
感じ取る、と言うがそれは本当なのだろうか。もし本当だとすれば、竜王は同族の死を
思って存分に苦しむがいい。
 一体、何匹の魔物を斬り捨てたか判らなくなったところで城の最下層と思われる階に
着いた。そこは大広間のようになっていて、周囲に視線を巡らせると所々に洞窟内部の
ごつごつした岩壁と海水と思われる池溜まりが見て取れた。場所が場所なら風情のある
造りだと思えるのだが、如何せん、ここは褒められた場所ではない。
「来てやったぞ。竜王」
 がらんとした空間に、自分の声と足音が響き渡る。
「俺は、あんたの配下を殺した」
 旅に出て早六ヶ月。殺めた魔物の数は一体どれだけだったか、もう想像も付かない。
「ここに来て竜も殺した」
 それも五、六匹。皆、苦しみながら悶え死んでいった。殺す度に何処からか聞こえて
きた唸り声は彼らの仲間が嘆き怒る声だったのではないか。
「それとも、あれはあんたが怒り狂う声だったのかな」
 大広間を突っ切った先に見えた扉を開け放った。中は薄暗く、壇上の玉座に誰かが座
っているのが見えたが、その影は微動だにしなかった。だが部屋の中に足を踏み入れた
途端、壁飾りの燭台で蝋燭が一気に灯った。もう松明は必要ない。火を消してその辺に
放り投げた。玉座に向かって足を踏み出す。背後で、扉が大きな音を立てて閉まった。
「憎いんだろう。人間が」
 そう声を掛けると、竜王はこちらをギッと睨め付けてきた。その表情は憔悴しきって
おり、普段より幾分余裕がないように見えたが、視線だけで心臓を鷲掴みされたような
気分になった。だがこの男を恐れる理由などもう持ち合わせて居ない。
「あんたが仕向けたことだ。俺は出会った魔物をすべて殺すことで、あんたの期待に応
えてやった。満足したか? それともまだ足りないか? 足りないなら上の階に戻って
もっと狩ってきてやる」
 畳み掛けるようにそう言ったら、竜王はいい加減苛付いたらしく、ガタンと音を立て
て玉座から立ち上がった。そうして足音も荒くこちらに歩み寄ると、人の喉元を片手で
掴んで体ごと脇に押し遣った。押し遣られた先には丁度机が置いてあったので、腰の辺
りを机の縁に強打した。咄嗟のことだったので、思わず痛みに声を上げそうになった。
「……たかが人間ごときが言ってくれる」
「その『人間ごとき』に甘えたのは誰だ」
 苦々しげに呟く男に言葉を返したら、更に喉を絞められた。流石に息が詰まって苦し
い。顔が殆ど仰向いてしまっているので見下ろすようにして竜王を睨んだ。
「お前は卑怯だ……<暗闇の支配者>の名に恥じない、卑劣な行動……」
「黙れ」
 竜王の顔が歪んだ。
「お前は人を、憎いと……信じ込む……ために、同族の死を利用……した」
 空気をうまく吸えない状況で言葉を吐くから、酸素不足で頭がぼうっとしてきた。苦
しさから、生理的な涙が目尻に浮かんだ。だがもう止まらない。
「人を、心の……底から……憎いと、思えるよう……になって……良かった、な」
 殆ど掠れて声になっていなかったが、独り言のように喋り続けた。
「俺も……お前を……嫌いになれた……」
 目前は真っ暗闇で、喉を締め付ける手が緩んだことにも気付かなかった。

29竜王×勇者【15】:2004/09/23(木) 17:19
 突然解放された気管を、急激に酸素が通った。それに反応して肺がビクビクと動く。
顔を背け、激しく咽せながら息を吸い込むと喉がひゅうっと音を立てた。
「お前は」
 相変わらず表情を歪めたまま竜王が呟いた。先程まで自分を殺そうとしていた手が、
締め付けた跡が残っているであろう首筋を這った。
「お前こそ……、卑怯ではないか」
 竜王は苛立たしげにそう言うと、声とは裏腹に優しい手付きで人の頭を撫でた。
「憎しみを煽るために、わざと策略に乗ったな」
 違うと頭を横に振って否定したが、自分の口からは何の言葉も出てこなかった。
「策略に乗ると同時に、お前も我を憎んだ。憎もうとした」
 竜王が断定の言葉を未遂の形で言い直す。もう頭を振る気力もない。
 目前の男が今も憎いことには変わりはない。これは竜王もきっと同じで、自分のこと
を憎悪の対象として見ている。だが別の感情を覚えてしまった以上、踏ん切りが付かな
いのも、お互い同じことのようだった。
「……本当に腹が立つ」
 自然と涙が零れた。両手で頬を包み込まれ、顔を寄せて来た竜王の薄い唇に涙を掬い
取られた。
 続けて、瞼と額に接吻けられる。
「あんたのことなんか、知らなければ良かった」
 そうすれば完璧に憎めたのに。
 八つ当たりするように呟いた唇に、男のものが重なった。
 男が上半身に力を入れてのし掛かったので、まるで追い立てられるように背後の机に
座らされた。何か瓶のようなものが卓上で倒れて転がる音がしたが、気にしている暇も
なかった。何処か掴む場所が欲しくて、男の着衣をまさぐっていたらその手を握り込ま
れた。その間もずっと、慈しむような優しい動作で互いの唇を味わう。ゆるく開かれた
自分の足の間に立つ男の体を、両脇から内腿で軽く挟み込んでやると男が微かに笑った
雰囲気が伝わってきた。男がそっと抱きしめてきたので、広い背中に腕を回して抱き返
した。交わし合う接吻けに激しさはなかったが、合間に洩れる甘い吐息ですら逃すまい
とする、相手をどこまでも貪り尽くすような行為に心底溺れた。
「……ほら。だから、あんたは卑怯なんだ」
 唇が離れた後で、吐息が掛かる距離で囁いた。
「ここまでしておいて、今更『憎め』だの『殺せ』だのって言うのか?」
「お前でなければ、我の生命を絶つことは出来ない」
 思いの外、甘えたような口調で男が言うから、子供をあやすように男の頭を自分の胸
に抱き込んだ。
「今のままでは、遅かれ早かれこの世は暗闇に包まれる」
 胸の中で男が、遠くを見つめるような目つきをして呟いた。
 己の意思ではもう止められない、ということか。
「俺があんたを殺す以外に方法はないのか」
「一度、<闇>に魅入られた者が<光>と共存することは不可能だ」
 竜王が顔を上げて、自嘲気味に笑った。
「お前が我を殺さねば、今すぐにでもお前を食い殺して世界中を焼き尽くしてくれる」
 その言葉が冗談でも何でもないことは判っていた。このまま放っておけば男の自我は
<竜王>に侵食され完全に乗っ取られてしまうだろう。男の方もそれを判っていて、だ
から敢えて自分にロトの剣を託したのだ──己の理性が残っている間に。
「我を殺せ。ロトの子孫」
 男の瞳孔が蛇のようにスッと縦に窄まった。そう言われても何となく次の行動が取れ
ずにいたが、金の目を見つめているうちに決心が固まった。判った、と答えてから一瞬
はたと考えて、耳元に口を寄せて一言囁いたら竜王が少々面食らったような顔をした。

30竜王×勇者【16】※注意※グロテスク表現・有:2004/09/23(木) 17:20
「では、竜王よ。生まれついての姿を見せるがいい」
 身を離した後で、互いに距離を取った。鞘からロトの剣を抜き、竜王と対峙する。
 竜王は静かな眼差しでこちらを見つめていたが、不意に体の輪郭がぶれたと思ったら
次の瞬間には、巨大な竜が目前に姿を現していた。あまりの大きさと威圧感に思わず唾
を飲み込んだ。こんなに威風堂々とした竜ははじめて見た。今まで相手にしてきた魔物
などこれに比べたら可愛いものだ。本来の姿に戻った竜王は、首を伸ばしたり、全身を
犬のようにぶるぶるっと震わせたりしていたが、やがて落ち着いたのかその大きな体を
床に伏した。
 竜王の側に歩み寄り、そっと耳の後ろを撫でてみる。産毛のようなものが生えたその
部分は撫でられると気持ちがいいらしく、竜王が目を細めた。それが笑っているように
見えたので、これから自分がしようとしている行為を思って居たたまれない気持ちにな
り、それを誤魔化すよう瞼に接吻けた。そうしてロトの剣を持ち上げて竜王の目の縁に
切っ先を宛てると、躊躇うことなく力を込めて突き立てた。素早く刃をぐるりと廻して
中身を手前に引っ張り出す。目の奥でブチブチと筋肉や視神経が切れる音がし、大量の
血と共に竜の目玉がごぷり、と眼窩から飛び出した。顔を背けたくなるようなあまりに
凄惨な光景に嘔吐感を催した。反射的に回復呪文を唱えると、竜王に、
「気休めなど要らぬ」
 と、鋭い声で一喝される。仕方が無いので陰鬱な作業を続けた。剣も手も竜王の血液
にまみれ、ぬるぬるとした感触が手元を狂わせる。竜王はその身を細かく震わせて激痛
に耐えていたが、もう片方の目に剣を突き立てた時に、とうとう気が触れたように恐ろ
しい雄叫びを上げた。自分の背中に鋭い爪が食い込む感触を覚える。竜王が咄嗟に目前
の己の体を鷲掴みにしたらしい。内臓まで爪が届いたのではないかと思うぐらいに深く
抉られて、口の中いっぱいに錆びた味が広がった。それでも残りの眼球を引っ張り出す
と竜王は痛みに我を失って床の上を転げ回り、その口から高熱の炎を吐いた。熱い、と
思ったら自分の右足が炎に包まれていた。竜王が手を離したので、数メートルの高さか
ら床に叩き付けられる。骨が軋む感じがしたが、それには構わず右足に引火した炎を消
すと、感覚のなくなった足を引きずりながら竜王に近寄ってその体に手を掛けた。竜王
は血溜まりの中で全身を痙攣させている。その頭を撫でながら何度も接吻けした。
 もう大丈夫。あんたの恐れていたことは起こらないんだ。この目は貰って行くから、
あんたは安らかに眠るといい。
 気休めだと言われようが、竜王の苦痛を少しでも和らげてやりたくて、ありったけの
魔力を使ってベホイミをかけた。竜王は既に気を失ったのか、ぴくりとも動かなくなっ
た。最後に、彼にもう一度接吻けをすると自分はその場から離れた。轟炎に包まれた部
屋を出る時に後ろを振り返ったが、やはり竜王は微動だにしなかった。部屋の外に出て
後ろ手で扉を閉める。足を引きずりつつ歩き出した己の背後で竜の悲しげな声がこだま
したが、すぐに聞こえなくなった。

31竜王×勇者【17】:2004/09/23(木) 17:21
※上のレスでageてしまいました!スマソ


       *  *  *

 同じ頃、ラダトームの住民は夜明け前に恐ろしい音を耳にしていた。獣が上げる断末
魔の咆哮にも似た、身の毛もよだつようなそれに人々は震え上がった。あまりの恐ろし
さに、「勇者が竜王に屈したのではないか」と絶望した者も居た。人々は地平線より昇
る太陽を祈るような気持ちで見守った。
 翌朝、ラダトーム城の警備に当たっていた当直の兵士は城門前に人が倒れているのを
発見する。駆け寄って抱き起こしてみれば、それは竜王を倒すべく旅立ったロトの血を
引きし若者の変わり果てた姿だった。若者は酷い火傷を負っており、背中には鋭い爪で
引っ掻かれたような跡があったが辛うじて意識は保っているようだった。若者は急いで
城の一室へと運び込まれ、部屋には王家に属する魔導士が呼び集められた。魔導士達は
若者に対し、最大級の回復呪文を施して彼の傷を癒すことに成功したが、若者は意識が
戻らないまま三日三晩、ただひたすらに昏々と眠り続けた。
 ようやく眠りから覚めた若者は、ベッド脇に置かれた椅子に座るラダトーム国王ラル
ス十六世に、竜王滅せしと報告した。若者はその証拠に竜の目玉を二つとも城へ持ち帰
ることに成功していた。竜の体から黄金に輝く眼球を抉り取るには、その竜が死んでも
居ない限り到底出来ない芸当であったのでラルス十六世は「悪は消え去り、ここに世界
の平和は戻った」と宣言した。アレフガルドの民は歓喜に湧いた。諸悪の権化とも言え
る魔力を包した竜王の目玉はその後、聖なる火でもって丁重に荼毘に付された。

 ラルス十六世は祝いの席で、若者にラダトームの玉座を譲る、と言ったが彼はその申
し出を有難くも丁重に辞退した。若者は、自分が治めるべき国があるなら自分の足で探
したいのです、と言った。それを聞いたラルス十六世の娘、ローラ姫は、彼に付いて行
きたいと父に願い出た。この地において前途明るい若者と、まだ若干十四歳であるロー
ラ姫の言葉にラルス十六世は驚いたが、新しい時代の到来を告げる素晴らしき門出にな
るはずという家臣の言葉に納得し、ラダトームの王として、一人の娘の親として、若者
とローラ姫を祝福した。
 平和を祝う式典はその後一月近くも続き、誰もがその手に戻った平穏を喜び噛みしめ
ていた。若者とてそれは例外ではないはずだったが、彼は無事生還を果たしたというの
にどこか浮かない表情でぼんやりとしていることがあった。己の成し遂げた偉業と評価
に対してまだ実感が伴っていないせいだろう、と周りは囁き合った。

       *  *  *

32竜王×勇者【18】:2004/09/23(木) 17:22
 竜王の城から帰還して三週間が経った頃、国王には「一度故郷に帰り、改めて家族に
報告したい」と断ってラダトーム城を後にした。城下の町は相変わらず祭りで賑わって
おり、外套で姿を覆い隠した自分に気付く者は誰ひとり居なかった。そうして人混みに
上手く紛れて町外れにある人気のない船着き場へと足を運ぶと、もう使われなくなって
大分経つ小型船を勝手に拝借して岸からそっと海へ出た。海はもう穏やかな色を取り戻
しており、この分ならすぐにでも海運業は復興するだろうと思われた。
 船を数時間走らせたのち辿り着いた先は、竜王の城が頭上にそびえる断崖絶壁の岩場
だった。……要するに、「故郷に帰る」と嘘をついてまでラダトーム城を出てきたので
ある。自分は『あの』後、入って来たのとはまた別の場所から城の外へ出た。剣も柄を
握る両の手も、竜王の流す血で真っ赤に染まっていた。自身が負った怪我の出血具合も
酷く、すえた鉄のような血の臭いも相まって貧血を起こしていた。ふらふらとした足取
りで何とか外へ出ると、そこが海面に程近い切り立った岩場であることを知った。そこ
で残った魔力を振り絞ってルーラを唱えて、それから……。
 それから先は、ラダトーム城の部屋で目が覚めるまで何も覚えていない。

 船をロープで適当に繋ぎ止めると、秘密の入口がある岩の辺りまでよじ登った。入口
を見つけるとその隙間に体を滑り込ませる。内側からは生温かい弱風が、外に向かって
吹いていた。風に逆流するように狭い通路を進むと、蟻の巣穴のように幾つも部屋が分
かれている洞窟に出た。今日は松明がないので、レミーラの呪文で明かりを灯す。動く
度に自分の影が洞窟内の壁にゆらゆらと躍った。歩を進めるうちに、この洞窟は竜族が
ひっそりと生きる場所、そしてまた死を迎える場所でもあるということが判った。
 洞窟を更に抜けると広い空間に出た。レミーラでもすべてを照らし出すことが出来な
い程の広さ。ここは、あの竜王が居た大広間だ。だが建物はほぼ焼き尽くされており、
洞窟の岩は黒い煤で汚れ、池を満たしていた海水も干上がっていた。うろうろと視線を
彷徨わせた挙げ句、部屋の隅に巨大な体を丸めて横たわる竜の姿を見つけた。ほのかな
照明を受けて陰影に縁取られたその姿は、太古の昔からそうであったとでも言いたげに
少しも動かなかった。竜の体は己の炎では焼けない、というのは本で読んだとおりのよ
うだ。しばらく彼を眺め、それから側に寄って行き、固く閉ざされた瞼から流れ落ちた
血の跡を指で撫でた。かなりの量が流れたに違いないが、高熱に晒されていたせいか血
はかさついていた。竜王の肌に、このどす黒い赤色がこびり付いてこのまま落ちないの
かと思ったら、無性にそれを爪で引っ掻いて剥がしてしまいたい気持ちになった。
「あんたを死なせたくなかったな」
 叶わないと判っていても、それが自分の本音だった。
 竜王に寄り添うようにして足の間にうずくまった。二度と握ることのない剣は、眠る
竜の側に置いて行こうと思った。どのみちこの剣にはもう魔を砕く力など残っていない
だろう。そして、竜の首に腕を廻すと今はもう冷たい体に頬を寄せて泣いた。レミーラ
の呪文の効果が薄まって行き、段々と本来の暗がりを取り戻していく洞窟の中で、この
男以上に思う相手は生涯現れないだろうなと考えながら眠りに落ちた。


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