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FFDQかっこいい男コンテスト 〜ドラゴンクエスト1部門〜

3崩壊の序曲2:2003/05/12(月) 21:53
 月の光を反射し、水面が輝いている。
「う……わ、すご……」
 魔物が多く潜む森でありながら澄んだ水を湛える泉に、勇者は思わず感嘆の声を上げていた。
 ここが魔物の徘徊する森であることを思えば、もはやこれは奇跡に近い。だからこそ罠である可能性を捨てきれず、一転して表情を険しくした勇者は、剣の柄に手をかけたまま泉へと近付いた。
「…………」
 待てども待てども魔物の気配など無く、時折吹く風に月光を照らす湖面がさざめくばかり。慎重に慎重を重ねて周辺の気を探っていた勇者だったが、やがて安堵の息と共に肩から力を抜いた。
「……。こっちもすごいな……」
 剣から手を離して水面を覗き込む。そこに映った自分の姿に、勇者は思わず苦笑を漏らした。
 魔物の体液に汚れた全身。滅多に街の外に出ることのない人々が見たら、間違いなく魔物と間違われるだろう、その姿。
 それが、この森に入ってから続いた戦闘が原因であることは分かっているが、もしここに泉がなかったらどうなっていたのだろうか、とある意味くだらないことを考えて身震いする。
 魔物よりも魔物に見える、返り血に染まった鎧に身を包んだ者を、誰が街に入れたいと思うだろうか。
 門番などが理解力のある人間ならば良いのだが、時々居る『勘違い人間』に剣を向けられたことは、実は一度や二度ではない。
 目の前に街があるのに野宿を余儀なくされた瞬間を思い出し、勇者は勢いよく兜を脱いだ。
「決めた!」 
 こんなところで鎧を脱ぐことがどれほど危険なことかぐらい、誰に言われずとも自身が一番よく知っている。
 それでも、この格好で知らない街に辿り着いたとき、その街の門番が『馬鹿』で無い保証は無いのだ。
「確か、荷物の中に……」
 異臭を放つ荷物袋を開けて、中から小瓶を取り出す。それを自分の周辺に振りかけ、ついでに湖に流せば、瞬間的に彼の周辺は光に包まれた。
「これでよし、と」
 聖水による、簡易結界。魔物の襲来を押さえてくれるアイテムは、ある程度力に差が出てきた場所では特に使用頻度が高い。
 もう少し経てばこれと同じ力を持つ魔法を憶えられるだろう、と教会で告げられたことを思い出して、勇者は空になった小瓶を指先で振った。
「あと少しだけ力を借りるよ」
 警戒に警戒を重ねての行為にようやく満足して、今度こそ鎧を脱ぐ。鎧の下に来ていた布の服も脱ごうと手をかけ、そのままじっと布の服を見下ろした。
「……ついでだし。このまま洗うか」
 火打ち石と焚き付け用の脂を取り出し、先に火を熾しておく。そう簡単に消えそうもないことを確認して、勇者は泉に飛び込んだ。
「っ!」
 冷たい水が、全身を包み込む。体の心まで染み渡るその冷たさに体を震わせたのは一瞬で、久しぶりの水浴びに勇者は自然と顔を綻ばせたのだった。


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