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我の名は新人! 新時代の先駆者!!

568名無しさん:2013/08/06(火) 00:04:33

  
 俺は社宅を出て、親に貰った資金を使い文香と同棲を始めた。
 街の外れにある、家賃の安い、古びたボロアパート。そこが俺達の城だ。
 
 1Kの風呂付き。
 一人暮らしを対象にしたような物件だったが、文香と過ごすと窮屈な感じはしなかった。寧ろ、お互いの距離が近く、安心感がある。
 夜は一つのシングルベッドで身を寄せ合って眠る。セックスの際は狭さを感じずにはいられないが、普通に寄り添って眠る分には不便が無かった。
 
 休みの日には二人でギルティギアをプレイするために出掛けたり、家でのんびり過ごしたりしている。
 文香は俺が出所した時に出会い易くする為にギルティギアを始めたらしい。それがどっぷり嵌ったらしく、今では俺が教わる側になってしまった。
 
 今日は出掛けずに家で過ごす休日。
 こういう暇な時間を使い、俺は簡単な物語を書くようになった。
 夢として小説家を目指しているわけではない、といえば嘘になるが、何よりも読みたいと言ってくれる読者の為に書くことにしている。
 俺の拙い文章のファン一号こそ彼女、文香だ。
「偶には目を休めてくださいね」
 彼女はそう言って珈琲を淹れてくれる。
「ああ、そうだな。休憩にするか」
 俺は狭い部屋に置かれたテーブルで文香と向かい合う。
 其々に珈琲とお茶請けのお菓子を用意して、少々早めの三時のおやつと洒落込むことにした。
「そう言えば、」
 俺はふとあの日の事を思いだす。
 ヤクザに追われたあの日。正光寺との電話や、逮捕、様々な場所を巡ったことばかり覚えていて忘れていたが、気になることがあったのだった。
 文香は当時に比べて少しだけ上手くなった笑顔で応じる。
「なんでしょう?」
「俺が捕まった日、母さんの部屋に入る前の事を覚えているか?」
 もう遥か昔になる。特に文香にとっては覚えている方が不自然なくらい前の事だ。
 案の定、記憶が曖昧なようで「あまり覚えておりません」などと言ってくる。
 俺達は各所を回るより前、一緒にシャワーを浴びた。風呂上りに文香が髪を乾かす最中、何かを言っていたのを覚えている。ドライヤーの音で聞えず、適当に微笑み返してしまったあの台詞が、今になって気になった。
「文香、ドライヤーしながら何か言ってただろ。あれ、なんて言ってたんだ」
 彼女はふふっと笑う。
「聞こえていなかったのですか?」
「ああ。それがずっと気になってて」
 ほんの些細な事。もしかしたら聞くまでもないような内容なのかもしれな¥い。
 眠いですね、だとか、今日は涼しいですね、だとか。そんなことのような気もする。
 文香は少し照れくさそうにこめかみを掻き、近付いて耳打ちするように言った。

「全部片付いたら一緒に暮らしたい、と言ったのです」

 艶っぽい声の後、温く淫らな吐息。次いで耳朶を舐めあげられる。
 与えられたくすぐったい感覚に、俺はすっかりその気になってしまった。その場で彼女を押し倒そうとする。
文香は『生意気ですよ、新人さんのクセに』と言った。俺は逆にマウントを取られてしまう。
制圧され、支配している感覚が堪らない。俺を見下す文香の妖艶な姿が魅力的だ。その旨を伝えると、彼女は蔑んだような、それでいて愛おしむような表情をする。
「手の施しようもないダメ人間ですね」
「言ってくれるなぁ、クソ女」
 昼間から、セックスの名を借りた暴力と支配のシーソーゲームを繰り返す。
 休憩という当初の目的はどこへやら、狭いボロ屋の一室で俺達は何度も行為を繰り返した。

 金銭的な余裕は少なく、暇だって多くない。親も友人も、思い出すらも無くしてしまった。
 それでも帰るべき場所があり、其処には愛しい人がいる。

そんな当たり前の日常が、物凄く贅沢で充実したものに感じられた。

この日々こそ、未来に引き継いでいきたい資産だ。
  
 
    ----おわり!----


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