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我の名は新人! 新時代の先駆者!!

565名無しさん:2013/08/06(火) 00:02:11

 江嵜からの手紙には彼女の住所が書かれている。
 彼女に会いに行ってみようと思った。恋愛だとかセックスだとか、その類の邪な気持ちは一切無い。
 ただ俺を、新人を知っている人間と会いたい一心だった。
 
 最初に知り合ってから十年以上が経過して、初めて彼女の家がこの建物の近くだと知った。
 歩いて数分で目的の住所に辿り着く。小奇麗な江嵜らしい一軒家。
 呼び鈴を鳴らす。親御さんが出たらどうしようなどと不安になった。やがてインターフォン越しに声が聞こえてくる。
「はい、江嵜ですが」
年紀の入った女声。江嵜の母親なのだろうか。
 不審人物だと思われないように自己紹介をする。
「娘さんの中学時代の同級生なのですが、彼女はいらっしゃいませんか?」
 尋ねると、彼女は思い出したように口調を変えた。
「あなたが新人さんですか?」
「はい」
 あまり好意的ではない声音だったが、偽る理由もない。俺は肯定した。
「娘からあなたが来た時にと伝言を授かっています」
「そうですか。インターフォン越しで良いので聞かせていただけますか?」
「新人さんの事は愛していました。でも、私は心から尊敬できる男性と出会い結婚を決めました。だから御免なさい。さようなら」
 “伝言”する声は泣き出しそうなもので、俺はこれ以上この場所に居てはいけないのだろうと思った。
 
江嵜はもう俺の帰るべき場所じゃない。。


もう、俺の帰る場所など何処にもない。


俺はニートになって、至上の今を求めた。
未来や将来、そういったものはタブーな存在。ニートには今しかなく、先など無い。

確かにその通りだった。
 ただ今の楽ばかり求めて努力をせず、何も積み重ねない。そんな生き方をしていた人間には未来まで資産を引き継ぐことなどできない。自由であったり、金であったり、人間関係や思い出、そういったあらゆるものを維持することができない。
 当たり前の事だ。今ばかりに拘って将来を放棄した人間は、未来に向かって変化を続けるそれら全てに置き去りにされる。
 
 俺があれだけ大事にしていた今は六年半前に終わった。
 そして、今。俺には何もない。
未来を見据えて動こうとしなかった俺は何一つとして引き継げなかった。
手元の金だって、普通に生きていても得られたはずのものだった。寧ろ、真っ当に受け取っていればもっと真面な使い方だってできたのかもしれない。

俺はニートになった事を完全に後悔している。
今を堪能していた時間の何十倍もの期間、この後悔をし続けなければならない。
 割に合わないとは正にこの事だ。少し考えれば分かるような現実にすら俺は気付いていなかった。
  
 過去の俺が目の前にいたならば教えてやりたい。殴ってでも改心させてやりたい。
 そんな無意味な後悔で、今度は現在ですらなく、過去ばかりを見たい気分になる。
だが、現実はそれを許さない。何もかもを失った俺は、前を向かなければ文字通り死ぬ。くだらない後悔で後ろを向いたまま、二十代半ばで惨めに生涯を終えてしまう事になる。それだけは嫌だった。


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