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我の名は新人! 新時代の先駆者!!

562名無しさん:2013/08/05(月) 23:58:57

 
塀の外に出てもあまり実感がない。
刑務所は天国や地獄などではなく、結局ここと同じ現実世界の一部だ。出ただけで大きな変化を感じる理由もない。敢えて一つの感動を挙げるとするならば、見飽きた景色以外の光景を目にできている事くらいだ。

特に迎えの人間がいるわけでもなし。この場所に立っていてもただ虚しさばかりが残る。
俺は手渡された小金と逮捕時に所持していた金を使って、地元だった場所へと戻ることにした。


先ず向かった場所は実家。
両親には出所日が伝わっていた筈だった。だが迎えに顔すら出さない。勘当されているのだろうが最後に一言謝りたかった。
呼び鈴を鳴らして出てきたのは母親。
俺の姿を見るなり、扉を開けたまま家の中へと戻っていった。
事前に通報を入れたので、母も服役に行っていた筈だ。本来ならば犯さなかったであろう罪を俺の所為で犯してしまった。
母からの対応にショックなど受けない。俺はそうされて当然の罪を犯したのだから。寧ろ、約七年ぶりで俺だと分かってくれたことが嬉しかった。
戸を閉めて立ち去ろうとすると丁度母が戻ってくる。
「お父さんと話して決めました。もうあなたは大人です。これからは一人で生きてください」
母はそう言って手提げ袋を渡してきた。
「母さん。御免なさい」
深く頭を下げる。許してもらう心算などなかったが、反応も無く扉を閉められてしまうと流石に堪えた。
涙が出そうだ。
そんな悲しい気分になって手提げ袋の中身を見ると、身分証や必要書類の他に封筒が入っていた。その中に入っていたのは預金通帳と印鑑、そして約二十五年前の日付が書かれたメッセージカード。それは俺が産まれた日だった。

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生まれたばかりのあなたを眺めながらこのメッセージを書いています.
将来あなたは何を目指して、どんな大人になるのでしょう。
あなたの夢を応援するために二十年間の貯金をすることにしました。
二十歳ではまだ夢も決まっていないかもしれません。ですが、もし決まった時にはお金が必要になるものです。
将来に向けて頑張るあなたが、あなたの為にこのお金を使ってください。

成人おめでとう。新人。    ママより
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通帳には母親の薬物使用を通報したその月まで、毎月三万円ずつの入金記録があった。
ニートになった後も、暴力をふるった後も、金をせびるようになってからも、変わらず律義に振り込みが為されている。積もり積った貯金は七百万円近くの膨大な額となっていた。
文面を見るに、恐らくは俺が成人を迎える誕生日にでも渡す心算だったのだろう。その頃俺は獄中に在った。母親だってそうだったかもしれない。
俺にこの金を得る資格などない。だが、帰る場所すら失ってしまった身分では、突き返す事などできなかった。意地汚くその大金を懐に仕舞いこみ、ひとり路上で後悔の涙を流す。
父さん、母さん、御免なさい。


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