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我の名は新人! 新時代の先駆者!!

554名無しさん:2013/08/01(木) 00:18:02

「刑事、には見えないな・・・」
ドラマではあるまいし、陽も照っていない日にサングラスを常用している刑事などいない。
「まぁ、その敵みたいなもんだな」
男のうち一人はそう言って、笑いながらゆっくりと歩み寄ってきた。もう一人は階段を塞ぐように仁王立ちをしている。
警察との揉み合いをすり抜けたヤクザだとみてまず間違いないだろう。
「俺の話を聞いてはくれませんか?」
最後の抵抗。
無駄だと分かっていながらも、一応語りかける。
「聞いてやるよ。車の中でな」
「俺は薬を奪ってません。奪った奴、正光寺に嵌められただけなんです」
「車で聞くって言ってんだろ!いいから大人しくついてこい、ガキ!」
男に恫喝される。
恐ろしい。正光寺やゲームセンターの不良とはわけが違う。本物の迫力、威圧感。
本能的な恐怖から逃げの体勢を取ってしまう。

だが、逃げ場などない。
この場所は柵も壁もない屋上。

江嵜は放心状態となっており、文香は自分の携帯電話とビルの下の様子を頻りに確認している。
ヤクザの男は無抵抗な二人を襲わなかった。気にも留めていない。
目的さえ達成できればそれでいい。余計なことはしない。暴力組織らしからぬスマートな方法。
 
震えて声も出なくなった俺を庇うように、文香が俺とヤクザの間に割って入る。
「車に乗せてどうする気ですか?」
ヤクザは文香を睨みつけて言う。
「手前には関係ねえんだよ。出しゃばると殺すぞ」
その言葉は重い。日常的に使われるコロスとは違う単語にすら思える。
何か見えない部分に絶対的な裏付けがあるような、恐ろしい言葉。俺はその言葉のイメージに気圧されて、反抗する気など起きなかった。
だがそれでも文香は引こうとしない。折れそうに細い足を震わせながら、食い下がる。
「連れて行ったとしても、下があの状況です。あなた方が警察に捕まりますよ?」
「やり方があるんだよ。何なら先に手前で試してやってもいいんだぜ」
「警察の前で叫びます」
「それができねえからこそ、俺達の仕事が成立すんだよ。手前このガキの女か?そんなに死にたきゃ一緒の穴に埋めてやってもいいんだぜ」
このままでは不味い。ヤクザの男は本気でそうしそうな雰囲気だった。
文香まであらぬ罪で死ぬ必要はない。
俺は最後の力を振り絞って声を出す。
「そいつは関係ないので見逃してやってください」
弱々しく震えた俺の声を聞いてヤクザの男は笑い出した。なんだその声、と馬鹿にしてくる。
構わない。いくら馬鹿にされても構わないから、文香と江嵜を巻き込んでほしくない。

人間は極限で他人を庇う事などないと思っていた。
だが、自分がどうあれ死んでしまう状況に陥ると、最後の最後で良心がはたらくらしい。今それを実感できている。

最後くらい、どんなに惨めで弱々しくても、文香の彼氏らしいことをしたかった。


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