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我の名は新人! 新時代の先駆者!!

551名無しさん:2013/08/01(木) 00:13:57

ゆっくりと近づいてきた人物は、やがて姿を露わにする。

肩丈に鋏の入れられた茶髪、小柄な身体。
階段を上ってきたのは江嵜だった。
「ごめんなさい・・・、ごめんなさい・・・、ごめんなさい・・・」
江嵜はそう繰り返しながら歩み寄ってくる。
「結局、帰らなかったのか・・・」
怒ったところで、もう遅い。既に危険に巻き込まれてしまっている。
俺がうまく逃げ遂せたところで、文香が、もしかしたら江嵜も、ヤクザに何らかの報復や尋問を受けることになるだろう。
「ごめんなさい・・・。私、やっぱり耐えられない・・・」
俯きながら話す江嵜。下に集まった黒塗りの車を目の当たりにして、残ったことを後悔しているのだろうか。
彼女としても、事態がここまで深刻だとは思っていなかったのかもしれない。

安易な気持ちで物事に首を突っ込むからこうなる、とは言えない。
俺も同じだ。正光寺の甘い話に騙されてしまった。安易な気持ちで至上の今などという幻影を追い、そしてドツボ。彼の掌の上で踊らされ、こうして嵌められている。
 
「残ったのは江嵜の責任だ。悪いが俺は責任を持てない」
不甲斐ない。そう思いながら江嵜に関する責任を放棄する。
上手く立ち回ることができたとしても、俺が優先して守りたいのは江嵜ではなく文香だ。心中密かに同情を圧し殺した。
泣き崩れるかと思ったが、江嵜の様子に変化は見られなかった。彼女は相変わらず俯いたまま、ごめんなさいと繰り返すばかり。
そして、続けてその言葉の意味を白状する。
「新人君を文香ちゃんに取られるのが耐えられない。だから警察を呼んじゃった。捕まえてもらおうと思って。ごめんなさい」
江嵜は警察を呼んだと言った。
俺の後ろでは、今も新しいサイレンが聞こえている。続々と警察車両が集まっているようだ。
「下のあれは江嵜が呼んだのか?」
パトカーが溜まった東側を指差して問うと、江嵜はこくりと頷いた。

「江嵜、ナイスだ」
そうとしか言いようがない。
江嵜の迅速な対応に救われた。彼女の嫉妬が危機的な状況と噛みあった。
恐らく屋上を去った直後に通報したのだろう。それ故、手遅れにならなかった。
江嵜はごめんなさいなどと呟いていたが、謝罪の言葉など必要ない。寧ろ、彼女の行動は感謝されて然るべきだ。
状況が飲み込めていないらしい江嵜は間の抜けた顔をしている。宛ら、鳩が豆鉄砲をくらったようだ。もしかしたら西側の光景、ヤクザの追っ手の存在に気付いていないのかもしれない。
「俺は正光寺に嵌められてヤクザに追い込まれていた。だが、江嵜のおかげで助かりそうだよ。上手いこと警察に身柄を押さえてもらえそうだ」
俺の説明で江嵜は漸く状況を理解できたらしく、複雑な表情を浮かべていた。
「結果オーライ、なのかな?でも、知らないで通報してたから一応謝る、ごめんなさい」
「謝る必要なんかないさ、俺は感謝してる」
警察に捕まることができれば最低条件はクリアとなる。偶然だとしても、江嵜には重大な手助けをしてもらった。


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