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我の名は新人! 新時代の先駆者!!

542名無しさん:2013/07/27(土) 11:10:00

だが、気付いたところで、その感情を適切な対象に正しく分配することなどしない。

それはあまりに面倒で、意味のない行為だ。
小分けにして与えられた1×100の恨みに対して、それを各方面に1ずつ返すのでは精神的な釣り合いが取れない。当然のことだ。連日の集団暴行で入院させられた復讐をしようとして、個々に小さく危害を加えて満足できるはずもない。
一個体の瞬間的な苦痛が、自分の受けたそれと等しくなるようにする。それが最も、自分で納得ができる復讐や憂さ晴らしの形なのだ。

俺と似た正光寺が、そんな無意味な方法を取るわけがない。
される方の身になれば堪ったものではないが、正光寺の選択は何処までも正しく、そして理解できるものだ。

俺だって、その選択をしたのだから。

俺が高校を退学させられる切っ掛けとなった暴力沙汰。
あれは積年の恨みと、その他無関係なフラストレーションを、全て正光寺に対して発散したものだ。自分の中で一気に清算しきった気分になれた。
面倒な清算方法を取るのであれば、立場を逆転し、同じ期間、些細な嫌がらせを続ける必要がある。そんな事では恨みなど晴らせようもない。他のストレスも別で発散しなければいけなくなる。

効率を重視して負の感情を集約することは、否定しようもない合理的手段なのだ。
 
 
だからと言って、はいそうですか、と自らの死を快く受け入れる事などできない。
例えニートに未来がなくとも、人は本能的に死を恐れ、それに抗おうとする。頭で理解していても死という現実を享受できない。

「気持ちは分かる。だが、お前の合理主義の為に死ぬってのは納得できないな。指を千切るなり、目を潰すなり、色々とあるんじゃないのか?」
『なら俺の合理主義の為じゃなく、人助けだと思って死んでくれ。融通が利かせられない状況なんだよ』
「その状況とやらを説明しろよ」
『だから今順を追って説明してやってんだろうが。死ぬ前くらい大人しく聞け。不服でならねぇが、お前は俺に似た人間だ。そんなお前だから最後くらいは全てを知った上で死んでほしい』

正光寺は優しい声で死ねと言う。まるで今の俺達の間に友愛があるかのような、そんな噓くさい口振り。

今の発言だけではない。この電話の最中、正光寺は少々“優しすぎる”気がした。
何でも教えようとする。俺の挑発に乗らないだけでなく、受け入れる。柔らかく接する。俺の願いを聞き入れる。まるで正光寺らしくない。
死んでもらうと口にしながら、彼はまるで殺意を持っていないように思える。

始めの方で、彼は『勝者の余裕だ』と言っていた。
果たして、理由はそれだけなのだろうか。とてもそうは思えない。
まるで俺に話を聞いてもらいたいかのようだ。だとしたら、その理由はどこにあると言うのだろう。
罪悪感、或いは死なすという極限に至って本当に友好的な感情が芽生えたのかもしれない。だとすると何ともやりにくい。正光寺には最後までクソ野郎でいてほしかった。

「分かった。きいてやるよ」

俺はそう言って、雨の降りしきる薄汚れた屋上に座り込む。
ズボンが汚れた。だからなんだという感覚だった。どうせ、もう履くことなどない。

首の後ろから文香の腕が回される。彼女は座って電話をする俺を抱きしめるような体勢になり、俺の耳元にある携帯電話に耳を当てた。
無機質な機器を間に挟み、耳合わせをしているような状態。背中に当てられた柔らかな胸部から、すぐ真横にある顔から、回された手から、文香を感じる。


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