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我の名は新人! 新時代の先駆者!!

533名無しさん:2013/07/24(水) 22:32:27

中学時代に通っていた塾をエレベーターで通過し、俺達はテナントビルの最上階へと至った。
エレベーター前にある扉から外の非常階段に出て、目前にある柵の鍵を解錠する。横から内側に向けて手を伸ばすと解錠できてしまうのは相変わらずだ。
外は雨が降り続いている。雨量もそれほど多くなく、いちいち傘を差すのも面倒などで、俺達はその場に傘を放置した。
「この場所は、俺と江嵜が中学時代によく来ていた場所だ。言ってしまえばサボり用のスペースだな」
「二人だけの秘密基地ですね。憧れます。そして嫉妬します」
「正光寺を信じきった俺は、あいつをここに招いた。この場所で薬物に関する詳しい話を聞いた。この場所は俺の過去が詰まったような場所だ」
そして、この屋上は俺自身に似ている。
こうして文香を招いたことで、文香も確かに俺の重大な過去になる。初めての恋人。苦く青臭いが、いい思い出だ。
「私も立ち入って宜しいのですか?」
「あぁ、お前が入らないと、終わるに終われないからな」
解錠した柵を押し開け、非常階段から屋上へと昇る。
高所故に風が強く、堆積した汚れが雨に濡れて足元が滑りやすい。安全柵のない屋上では、下手をすれば転げ落ちてしまいそうだ。
文香の手を確りと握り、二人で開かれた屋上に踏み込んだ。
 
そこには先客が居た。
一人の小柄な少女。その栗色の髪は雨に塗れ、艶っぽく纏まっている。
「もう、これ以上私に見せつけないでよ」
江嵜だ。
彼女は全身を雨でずぶ濡れにしながら、一人屋上に突っ立っていた。
良く見れば目が腫れている。雨に打たれてずぶ濡れの所為で、今も泣いているのかどうかは分からない。
 
「そんな心算はなかったんだがな」
そう言いながら、江嵜に歩み寄る。
彼女は拒みも求めもしない。ただ此方を見詰めて立ち尽くしている。
「何をしにきたの?」
「終わらせる前に色々な場所を回っててな。ここが最後だ。そして俺はここで終わる」
「自殺でもする気?」
「飛び降りたりはしないが、まぁ近いものがあるな」
俺と文香と江嵜、三人で狭い屋上の中心に集まる。
文香の化粧は雨で崩れてしまっていた。何度も見ているが、すっぴんの彼女はやはり可愛げが足りない。江嵜と見比べるとその差は歴然だ。
「江嵜、俺は今から正光寺に電話をする。恐らく、何らかの形でケリが付くことになると思う」
江嵜の存在は予想外の事象だ。
本来いない筈の、招かれざる客。俺は彼女を巻き込むまいと拒絶した。
此処にいては、俺の決着に彼女も関わってしまう恐れがある。
「だから立ち去れって?」
「物分りが良くて助かるよ」
そう言う彼女が素直に立ち去ってくれたならば、それほど好ましい状況はなかった。
最後にもう一度会っておくことができて喜ばしく思えるくらいだ。だが、現実はそう上手く回らない。
「文香ちゃんは立ち会うんでしょ?」
江嵜は文香に対して問うているようだった。
無言で頷く文香。肯定的な彼女の反応を受けて、江嵜が言う。
「なら私も見届ける」
「駄目だ、消えろ」
「文香ちゃんは部外者でしょ。彼女が立ち会えて、私に立ち会えない理由なんてない」
強い口調の江嵜。
だが、それでも関わらせるわけにはいかなかった。彼女は日の当たる場所で真っ当に生きられる人種だ。俺達みたいなのと関わる必要はない。
「文香は俺の恋人だ。最後を見届けると言ってくれた」
「なら私は過去の関係者って立場で見届けさせてよ。新人君だって、正光寺君だって、この場所だって、全部私に関係してるんだから」
彼女には折れる気配が見られない。
きっと殴っても蹴っても、この場に残ろうとするだろう。暴力で制するなら殺すしかない。だがそれでは本末転倒だ。


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