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【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 七冊目【SS】

1ルイーダ★:2008/05/03(土) 01:08:47 ID:???0
【重要】以下の項目を読み、しっかり頭に入れておきましょう。
※このスレッドはsage進行です。
※下げ方:E-mail欄に半角英数で「sage」と入れて本文を書き込む。
※上げる際には時間帯等を考慮のこと。むやみに上げるのは荒れの原因となります。
※激しくSな鞭叩きは厳禁!
※煽り・荒らしはもの凄い勢いで放置!
※煽り・荒らしを放置できない人は同類!
※職人さんたちを直接的に急かすような書き込みはなるべく控えること。
※どうしてもageなければならないようなときには、時間帯などを考えてageること。
※sageの方法が分からない初心者の方は↓へ。
http://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1117795323.html#562


【職人の皆さんへ】
※当スレはあくまで赤石好きの作者・読者が楽しむ場です。
 「自分の下手な文章なんか……」と躊躇している方もどしどし投稿してください。
 ここでは技術よりも「書きたい!」という気持ちを尊重します。
※短編/長編/ジャンルは問いません。改編やRS内で本当に起こったネタ話なども可。
※マジなエロ・グロは自重のこと。そっち系は別スレをご利用ください。(過去ログ参照)


【読者の皆さんへ】
※激しくSな鞭叩きは厳禁です。
※煽りや荒らしは徹底放置のこと。反応した時点で同類と見なされます。
※職人さんたちを直接的に急かすような書き込みはなるべく控えること。


【過去のスレッド】
一冊目 【ノベール】REDSTONE小説うpスレッド【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1117795323.html

二冊目 【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 二冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1127802779.html

三冊目 【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 三冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1139745351.html

四冊目 【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 四冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1170256068/

五冊目【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 五冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1182873433/

六冊目【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 六冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1200393277/

【小説まとめサイト】
RED STONE 小説upスレッド まとめ
ttp://www27.atwiki.jp/rsnovel/

645柚子:2009/01/02(金) 17:03:14 ID:gTpM/8Sc0
風にさらわれていく鎌使いの死骸を眺めながら、イリーナは噴水に腰を下ろす。
残った白い仮面だけが無表情にイリーナを見つめていた。
「そっちも片付いたようね」
「あ、マスター」
顔を上げると、アメリアとグイードがやって来ていた。
「後はあの2人だな」
「いや、その心配はいらない」
イリーナはグイードの目線を追う。
その先では、マイアと彼女に肩を抱かれたディーターがいた。
4人の視線に気づき、ディーターは咄嗟に腕を解く。
「遅いぞ」
「何だと?」
ルイスの冷たい言葉にディーターが詰め寄る。
「こっちは遠くまで行ったんだ、倒したのはこっちが早い」
「どうだか。女に肩を貸してもらわないとまともに立てないのだろう?」
「これは!」
言葉が続かず、ディーターは押し黙る。それでも決してルイスから目を逸らさない。
両者間の温度が急降下していく。
「どうにせよ、皆無事で何よりだ」
グイードの一声が場の緊迫感を中和した。
「そうね。アルトールのおかげで負傷者も最低限に抑えられたみたいだし」
アメリアがそれに続く。
広場では、ようやく到着した救急隊員が負傷者の治療を施していた。
「ふん」
ディーターがルイスから離れる。争う気も失せたらしい。
ルイスも手を掛けていた剣から離した。
グイードはどうやらこの手の扱いにはよく慣れているらしい。
やはり彼は何枚も上手だ。
「出来れば戦って、出来れば2人共死ねば私が幸せになれたのに」
イリーナが言うと、ルイスが嫌そうな顔をした。
「うむ。一件落着じゃな」
最後にマイアが場を締めた。
「……いいや、それにはまだ早い」
背後から声。その声に全員が咄嗟に振り返る。
そこには、先程と姿形が同じの、白い仮面に全身を覆う外套を纏った子供がいた。

646柚子:2009/01/02(金) 17:04:16 ID:gTpM/8Sc0
しかし、見た目は同じでも、感じる圧力が圧倒的に違った。
「貴様か、この一連の犯人は」
全員が動けない中、グイードが何とか言葉を紡ぎ出した。
「……そうだ」
その答えに全員が身構える。
イリーナも隙があれば放とうと魔術を紡いでいく。
「……貴様等か、我が同士を殺したのは」
性別を測れない陰鬱な声。表情は仮面で隠れていて分からない。
瞬間、仮面の子供の圧力が倍増した。
その一瞬に、アメリアとディーターが詰め寄っていた。
2人はそれぞれ左右から仮面の子供に襲い掛かる。
仮面の子供はアメリアの槍を掴み、ディーターの拳を掌で受け止める。
両腕を振り、そのまま2人を投げ飛ばした。
「きゃあ!」
「ぐお!」
2人は地面に叩きつけられ、さらに余った衝撃で転がっていく。
仮面の子供が影に染まる。上空からルイスが斬りかかっていた。
「なに!」
しかし、超重量の剣は届かずにいた。
見えない何かに遮られているかのように、大剣は数十センチ手前で止まっている。
隙だらけのルイスの体へ拳が叩きつけられ、鎧を砕かれながらルイスが吹き飛ぶ。
入れ替わるようにグイードが突進。姿は既に人狼に変貌していた。
グイードの両腕と仮面の子供の両腕が組み合わさる。
太さが数倍も違う両者の腕から出される力が、そこで拮抗していた。
グイードに異変。突然グイードは苦しみ出し、拮抗していたはずの力は徐々に仮面の子供が押していた。
「グオオオオ!」
人狼が吼える。仮面の子供と触れた手から蒸気が上がっていた。
「主様!」
マイアは高速召喚した召喚獣を突撃させる。
仮面の子供はグイードを弾き飛ばし、殺到する召喚獣を掴み上げる。
高速展開で不安定な召喚獣は簡単に元素に戻されてしまう。
しかし、残った1匹がグイードを引き寄せていた。
「主様、気を確かに!」
「うむ……」
人狼化を解いたグイードがなんとか立ち上がる。
「何なのだ奴は。奴は危険過ぎる」
「でも、これで!」
イリーナは紡ぎ終えた難易度4、ファイアーストームを発動。
横向きに放たれた炎の嵐が仮面の子供を飲み込む。
炎が収束していき、魔術効果を終える。
「そんな!」
イリーナは己の目を疑う。炎に飲み込まれた仮面の子供は火傷1つ負わずに、悠然と佇んでいた。
焼かれた石の地面から蒸気が立ち昇る。彼の周囲を残して。
「何者だよ、あいつは」
苦し紛れにイリーナが言葉を吐き出す。
「我が名は、ソロウ」
性別を測れない高くも低い声が、無表情の仮面の下から紡がれる。
「同士の仇を討たせてもらう」
ソロウが片手を掲げる。その上空で巨大な魔力が集っていく。
イリーナたちは微動だにもできない。その先には絶望しかなかった。
爆裂が起こった。ソロウのすぐ傍で。
「何だ!」
イリーナは魔術が飛んで来た方角へ目をやる。
そこには、完全武装した古都の軍隊が陣形を組んでいた。
「下がれ!」
軍の隊長と思しき人物が叫ぶ。イリーナたちは咄嗟に後退する。
「総射!」
イリーナたちが後退すると同時に軍隊の魔術が放たれる。
爆裂や雷撃、風の刃や氷弾など多様の魔術が1度に放たれ、広場を破壊し尽す。
ようやく魔術が止み、それでも油断なく全員が軍用盾を構えている。
煙が薄まる。広場には、そこには不釣合いなほど平然と立っているソロウの姿があった。
これにはさすがの古都の軍隊も驚愕を避けられなかった。
1人が放った炎の弾丸がソロウの手前で掻き消される。
ソロウは無言で背を向けると、飛翔した。
「追撃せよ!」
追うように魔術が放たれるが、どれも届くことはない。
「追え、追うのだ!」
軍の兵士たちがソロウを追いかけていく。
イリーナたちは小さくなっていくソロウを見つめ続けていた。
ソロウが一瞬振り返る。それはイリーナを見たような気もした。
「ソロウ……か」
イリーナは何とも言えない懐かしさに苛まれていた。
しかし、その正体を思い出すことはできない。
銀の槍を強く握り締める。それでも、答えが出ることはない。
古都の町は、ゆっくりと歪み始めていた。

647柚子:2009/01/02(金) 17:09:52 ID:gTpM/8Sc0
みなさん、あけおめです。
年が明ける前にもう1つと思っていましたが間に合いませんでした。
今回は戦闘描写ばかりで疲れました。途中で力尽きた感が否めませんが……
感想は途中なので次回に返したいです。
感想をもらっておきながら申し訳ない。

それでは

648◇68hJrjtY:2009/01/02(金) 21:49:08 ID:Tv4iRUw20
皆様あけましておめでとうございます〜♪
今年も宜しくおねがい申し上げます<(_ _*)>

>蟻人形さん
続きありがとうございます。
熾烈な戦闘が続いておりますが、なんだか少女が以前よりも感情豊かになった気がします。
相変わらずコンピュータのような思考回路、対する剣士たちにも冷徹な判断のみで動いていますが
人外ではあると想像しながらも人間味を感じています。可愛い、などというのとは別物ですけども(笑)
新たに舞台に上がった天使、アドラー。彼が少女を思う気持ちは仕えるべき従者としてのもの以上に思えました。
戦闘以外にも読みどころの多いお話、続きじっくり楽しみにしています。

>柚子さん
新年一発目投稿、ありがとうございます。
今回はグイード、アメリアを筆頭にした二つのギルドの主力との手に汗握る戦闘でしたね。
それぞれのタッグ戦になったこの戦闘ですが、場違いと分かっていてもディーターとマイア編ラストに萌えた(*´д`*)
ルイスとイリーナも二人の仲は置いといても長年のコンビであるわけで強くないはずは無い!
そして今回初戦闘となったグイードとアメリアのコンビ、まさに帝王と女帝。
軍隊の前にまたも失踪した白仮面リーダーの人物。事件がどう動いていくのか、続き楽しみにしています。

649白猫:2009/01/16(金) 23:09:28 ID:k3Ot.7r20


 「――――フゥ」

トン、トン、と。
何もかもが凍り付く氷点下、極寒の空の下。
人の吐息の色とは違う、僅かに濁った煙を大気に吐き出しつつ、金髪の女性は手に持ったキセルを叩き、ベルトに仕舞い込む。
薄らと雪に覆われた冬の草原は、極寒の季節の真只中ということもあり風が吹く度に四肢を貫かれるような寒さが襲ってくる。生憎と、女性は大した防寒具を纏ってはいなかった。
一面、目が眩んでしまいそうな白に覆われた大雪原。容赦無く命を削る寒気に身震いしながら、女性は小さく溜息を吐いた。

「人気者って、辛いわ」

そう呟くや否や、

女性の頬を、一本の矢が掠めた。


体を仰け反らせた女性は腰から鉈を取り出し、続け様に殺到する弓を軽く弾く。
凌いだ――流れる思考の合間、しかし緩まない緊張の中で女性は辺りを見渡し、目を細める。

「参ったわね……囲まれたかしら」

背に掛けられたままだった槍に手を伸ばし、女性は困ったような顔を浮かべながら意識を張詰める。
数は五人程度の小隊といったところ、どれもこれもが並ではなさそうだ。
(こんな山奥まで追ってくるなんて、ご苦労様なことね)
雪の中からゆっくりと這い出して来る黒装束の男達、それらを一瞥し、女性はトリアイナを構えた。
女性を半円状に囲む男達は剣、短刀、それぞれの獲物を構え、女性との距離を徐々に縮める。対する女性の方は涼しい顔でトリアイナを手に取ったまま、動かない。
一向に動きを見せない女性に、男達はその包囲網を確実に狭めて行く。既にその距離は5mと離れていない。
男達の中央に立つ女性は、かかってくる気のない男達に溜息を吐いた。槍を軽く回し、刃を地へと向ける。
それに釣られたか、先まで静寂を見せていた男達が、一斉に女性へと飛び掛かる。僅かにあった距離も、瞬時に埋められる。速いわね、と心中で称賛の言葉をかけ、しかし女性は不敵な笑みを浮かべる。

「残念でした、バァカ」

雪原に響き渡った女性の呟きと男達の怒号は、

槍を媒体に召喚された、十数mにも昇る雷の柱に一瞬で呑み込まれた。






「ちょっと何? コイツらアサシンギルドの連中じゃない」

男達の死体を確認し終え、女性は右手首に刻まれた刺繍に顔を渋くする。
逆十字と鴉の刺繍はアサシンギルドの一員の印。その印が、女性を襲撃した男達全員に刻まれていた。
とうとうアサシンギルドまで敵に回したか、と溜息を吐いた女性は、しかし頬をぺちんと叩き、立ち上がる。
まぁなんとかなるでしょ。


パチパチと爆ぜる男達の死体、炎に包まれた死体たちを眺めながら、女性は目を細めながら松明を放る。
更に強くなる炎は男達の身体を焼き、天高く黒煙を立ち昇らせる。
もっと燃えろ、女性は小さく呟く。もっと高く、もっと高く煙よ昇れ。もっと強く、もっと大きく燃盛れ。
男達が灰燼と化し、火の粉の一つも消え去るまで、女性はじっと膝を抱え天を眺めていた。

650白猫:2009/01/16(金) 23:09:53 ID:k3Ot.7r20


白と白に覆われた月下の城下町に女性が足を踏み入れたのは、それから数日後。
入国審査を受ける間、憲兵たちの間に腰を下している妙な雰囲気についてそれとなく聞いてみた。

「忙しそうね、兵士さんたち」
「ん? ああ、大変さ。国のあちこちでクーデターが起こってるもんでね。国家転覆でもするんじゃないかね」
「あら、もしかして入国手続きより出国手続きの方が大変?」
「出国手続き!」

女性の言葉にフンと鼻を鳴らした兵士は、肩をすくめて女性に身分証を返す。

「出国に手続きなんてありゃしない。そこらの国境から亡命者が近隣の国に逃げ出してるさ。あってないようなもんさ」
「へぇ」

想像以上にややこしいことになっているのね、と呟いた女性は、街灯に照らされた町の情景に目を移す。
国中で争いが起きているとは思えないほどの静寂さ。雪が音を吸収することもあって、女性には微かな衣擦れの音しか聞こえない。
身分証をポチェットに突っ込んだ女性は、町の中央に建つ、巨大な城塞を眺める。これから、自分が落とす城を。

「ちょっとガタイが良すぎるかしら。もうちょっとエスコートし甲斐のある男性がいいわねぇ」

ボヤきながらも女性は、燦然と煌く瞳を城塞から離さない。
難攻不落の城塞と謳われたのも昔の話か。度重なる戦の末、数年前にこの城は落ちた。
落ちた、だけで終われば良かった。だがそうもいかない、この城を握る男は――この国の重要な地位を占めるあの男は、必ず難攻不落神話を再来させるだろう。
(だからこそ、落とす……やれやれ、今度こそ私死んじゃうかも)
民家を跳び、市場を過ぎ、教会を超え、墓場を抜け。
月もない暗闇の中女性は音も無く、あまりにも呆気無く難攻不落の要塞、その一角に足を付けた。

「分厚い城壁ねぇ……1mくらいはあるのかしら」

今女性の立つ、城塞をぐるりと囲う城壁。高さ5m厚さ1mの城壁が、大凡300m四方に渡っていた。
城壁だけではない。その手前にあった堀(女性は一跳びで越えたが)は3mほどの幅がある。しかも、それが城塞に辿り着くまでにもう1セット存在した。
税金と労働力の無駄遣いだわ、と吐き捨てた女性は、もう一対あった堀と城壁を軽く跳び越える。白く彩られた中庭に着地した女性は、改めて城塞を見渡した。
(城内に見張りはなし、と……やっぱり[黒蓑]ってステキね)
実のところ、城壁を飛び越える際に女性は十数人の見張りを確認していた。外側にのみ配置された射手。恐らく侵入者は即座に射殺す命令でも出されているのだろう。物騒極まりない。
自分の故郷ではこんな防備を敷く意味すらない。皆が皆、気の赴くままに好き勝手に暮らしていた、そういう町だ。そこには秩序も無ければ縛るものも存在しない。皆が皆を思いやる心、それだけあれば十分だったというのに。なんだこれは。
(そういえばカチュアに「アンタは頭領としての意識が足りない」って散々怒鳴られたっけ)
赤髪、そばかすの少女のことを思い出して、女性は少しだけ苦笑する。あの頃は本当に馬鹿ばかりやっていた。仕事と娯楽の比率が1と9ほどであっただろう。
いつもアズセットと一緒になって狩りに出かけたり、賭博で八百長をして遊びに遊びまくっていた。そうしていると、いつの間にかどこからともなく現れたカチュアに説教を食らっているんだ。
暮らす場所が故郷から戦場になっても、そんな関係は変わらなかった。
アズセットが道を強引に開いて、自分が相手を一掃する。残った敵はカチュアが片付ける。
そして終われば、いつもの馬鹿騒ぎ。何も変わらない。変わらない筈だった。疑うことすらしなかった。

変えたのは、一人の男だった。
煉獄にも見紛う炎と炎の怒涛、黒い装甲に身を纏う騎馬兵の通る後には、何も残らない。
最強。そんな馬鹿げた二文字すら浮かんだ。此方の剣は騎馬兵一人傷つけることも敵わず砕け、相手の槍に数々の仲間が、戦友が屠られていった。


そしていつの間にか、自分は一人になったんだ。

651白猫:2009/01/16(金) 23:10:15 ID:k3Ot.7r20

黒装束で身を包んだ女性に、兵士は誰ひとり気付かない。
すぐ傍を通り過ぎても、息も触れ合うほどの距離に近付いても、体をぶつけ悪態をついても、誰ひとり気付くことはない。
女性の纏う蓑は、全ての者から彼女と言う存在を消し去っていた。彼女はここにあってここにない。例え体が触れ合っても、相手は脇見をして柱にぶつかった、程度にしか思わない。
(あの男は、強い)
螺旋階段をゆったりとした歩調で上り、女性は槍を握る。長き時を共に過ごした自慢の槍であり、自分の兄の遺した唯一の品でもある。
(少なくとも、あの時は私よりも強かった)
古き記憶を思い起こし、左腕の古傷を、槍を持った右腕で擦る。痛みはない。ただ、疼いているだけ。
(私は、弱い)
螺旋階段が途切れ、古めかしい扉が女性の前に現れた。数年前"女性が"使っていた部屋であり、今"あの男"が使っている部屋だ。
(少なくとも、あの時は私は弱かった)
扉の前に立ち、ドアノブに手をかける。あの時と変わらない、懐かしい感触に自然と女性の頬が緩んだ。
(でも)
ギィ、と小さく音を立て、扉が開く。扉の奥にはやはり、小さなベッドと洋箪笥、嵌め込みの天窓しかない。あの日と何一つ変わらない光景。
(今は違う)
そして、その小さな部屋の奥、椅子に胡坐をかいて座る男へと目が行く。黒い長髪に紅色の瞳、左半身を覆う(今は顔しか見えないが)薄気味悪い刺青。
(私は強くなり、あの男の力を削いだ)
その姿に燃え上がる黒炎を想像した女性は、しかし不敵な笑みを浮かべるに留まった。男の半身とも言えるあの騎馬兵たちは、もう一人も残ってはいない。
全て自分が、斬捨てた。
(今、あの男が強いとは――思わない)




「椅子の上で胡坐は行儀が悪いわね、アーク」
「人の部屋に入る時はノックをするもんだ、レティア」

打てば響くように、女性の言葉に男――アークが悪態をついた。
嫌そうな声色を隠しもしないその態度に女性――レティアは苦笑するが、しかし自分が招かれざる客であるという認識はしている。
(私に感情を見せるようになったのは、私を対等と認めたから、なのかしらね)
思う間に、男は椅子の上で立ち上がり剣を手に取っていた。レティアの方も、何時攻撃されても対応できるよう槍を構える。初撃で戦局はまず動かない。
やっぱりコイツを外におびき寄せるべきだった。そうレティアは小さく後悔した。

「そこの箪笥、結構お気に入りだったのよ」

レティアの言葉に、アークは全身から黒と黒の巨大な爆炎を生み出すことで答えた。

652白猫:2009/01/16(金) 23:10:35 ID:k3Ot.7r20

ガリッ、と登山靴が雪を噛む音が辺りに響き渡る。否、雪ではない。彼女の足元には雪ではなく、月明かりを反射する半透明の結晶――氷の床で覆われていた。
レティアの目の前にゆっくりと降り立ったアークは、右手に携える片刃の剣をレティアへと向ける。氷の結晶で覆われるレティアとは対照的に、彼の周辺からは白い煙が立ち昇っていた。
煙、ではない。そうレティアは理解している。アレは水蒸気だ。見れば分かる――アークの周りの雪が、瞬く間に蒸発しているのだ。
化の繰る黒煙は、そこらの魔術とは次元が違う。何もかもを呑み込み、跡には煤も残らない。彼女の沢山の戦友たちを殺し、自らを蝕んだのだ。あの術は嫌と言うほど理解している。
(本当に狡い奴……遠くから攻撃されてもあの炎に焼き尽くされて、いざ接近してもの炎に焼き尽くされて、あいつの攻撃を防御しても回避しても焼き尽くされて――全部焼き尽くされるじゃない)
なんだか可笑しくなって、レティアは今日何度目かの笑みを浮かべた。"ファウンテンバリア"を解いて、レティアは地面を踏んだ。

「残念だけど、今日は斬り合いに来たのよアーク。毎度毎度氷と炎のぶつけ合いじゃ飽き飽きするでしょ?」
「……――へえ」

レティアが自身の鉄壁の守り[ファウンテンバリア]を解いたのを見、アークは面白そうに笑う。
彼女のバリアは、そこらのウィザードとは格が違う。あの氷の世界には自分の炎すらも「凍る」。
もちろん、こちらがそれなりの威力を持たせた術を放てばあの力は霧散する。だが、自分の思うように進められない戦いに苛立たせられることもあった。
だが――今日はそのバリアを使わない。つまり、本当に、
(この[煉獄鬼]と斬り合うつもりということか?)
その推論に達した瞬間、彼を包む黒炎――[ファイアーエンチャント]が消え去った。腰から二本目の剣を抜き、彼独特の高い姿勢を取り、止まる。
まさか本当に誘いに乗るとは思っていなかったレティアは一瞬呆気に取られたが、しかしすぐに満面の笑みを浮かべる。流石はアークね、と呟いて。

「それじゃあ――行くわよ」
「来い」


一瞬の、静寂。
雪が再び二人を包み、辺りの音を拭い去っていく。
そして、互いの言葉の余韻が消え去る暇さえ惜しいかのように、二人は動いた。




「煉獄の炎に焼き砕かれて朽ちるがいい、[吹雪姫]!!」
「貴方を永の氷河期に閉じ込めてあげる、[煉獄鬼]!!」

---

653白猫:2009/01/16(金) 23:26:06 ID:k3Ot.7r20
お久しぶり、白猫です。あけおめ!←
年が明けて早二週間、ここ最近はめっきり寒くなりましたねぇ。土日を境にまた暖かくなるそうですが、参ったものです。

さて、今回も短編話。本当はクリスマスSSだったのですが、間に合わなくてヤケになってバトルものに変えたら失敗しました。てへ☆
短編なのでジャンルなんてなくていいんです、ジャンルなんて飾りです。なすびのヘタみたいなものです、たぶん。
最近バトルものを書いていない……いや一作書いたかな? とりあえず書き足りていないので伸び悩み。三作同時進行は私には無理でした。まる。

>FATさん
お久しぶりです! とある友人と一緒にFATさん復活を騒がせていただきました!
ミニペットは便利ですけど酷使するとすねちゃいます。適度にあそんであげましょう。
最近作品の投稿の方が御無沙汰なので、FATさんを始め皆様にもがんばってもらわないとね!!←

>蟻人形さん
ミニペット話は前々からククルが影の主人公だと疑いませんでした。いつかククルでSSを書いてみせます。
蟻人形さんの小説の方も時々拝見させてもらっています、ギルド戦ってのはやっぱり燃えますね、こう、ギラギラと!
私はしゃいんさんではありませんのでミニペットは無理強いしないんだぜ!

>◇68hJrjtYさん
これまた間が随分と空きました、どうも、白猫です。ご無沙汰してます。
実のところ、ミニペ話でSSのストックが尽きたので書きためなるものに挑戦したはいいものの撃沈、
なんてことを数回繰り返していました。よくあることだと思います、はい。
パペットの方ではみんながみんな大好きキャラなので、きっと細々と続けていくのかもしれません。
この短編もPuppetのサイドストーリーちっくなものですし……短編一本で読める、よね? うん。
---
wiki編集はなんとかぽつぽつこなしてたりします(まだ二回)。
だけどタイトルの編集をミスると再編集できないという罠\(^o^)/
気が向いたらちょくちょくwikiを見てやってください。ちょくちょく更新しようかとはもくろんでいます。


それでは、今回はこのあたりで。
白猫の提供でお送りしました!

654◇68hJrjtY:2009/01/17(土) 16:49:51 ID:N.pdTvYc0
>白猫さん
お久しぶりです、そしてあけおめです♪
パペットのサイドストーリー!?と思って読み返してみればなるほど、雰囲気は同じものですね。
パペットの長編物語からいろいろな短編が枝分かれすると思うと今後が楽しみ&パペット後日談ワクテカ。
前回ハロウィン小話がギャグチックだったので今回のシリアス短編は余計に真剣味を持って読めました。
RSスキルを扱ってのバトル描写、もう白猫さんにかかれば自由自在ですね(笑)
---
Wiki編集ありがとうございます<(_ _)>
PCがクラッシュしてからというもの放置の限りを尽くしていますが無論ブクマには登録してあります!(何
なるほど、とりあえず後で様子見がてら修正できそうな部分探してみますねー。

655FAT:2009/01/24(土) 13:35:28 ID:07LLjSJI0
第一部 『双子の天才姉妹』 二冊目>>798(最終回)

第二部 『水面鏡』

キャラ紹介 三冊目>>21
―田舎の朝― 三冊目1>>22、2>>25-26 
―子供と子供― 三冊目1>>28-29、2>>36、3>>40-42、4>>57-59、5>>98-99、6>>105-107
―双子と娘と― 三冊目1>>173-174、2>>183、3>>185、4>>212
―境界線― 三冊目1>>216、2>>228、3>>229、4>>269、5>>270
―エイミー=ベルツリー― 三冊目1>>294、2>>295-296
―神を冒涜したもの― 三冊目1>>367、2>>368、3>>369
―蘇憶― 五冊目1>>487-488、2>>489、3>>490、4>>497-500、5>>507-508
>>531-532、7>>550、8>>555、9>>556-557、10>>575-576
―ランクーイ― 五冊目1>>579-580、2>>587-589、3>>655-657、4>>827-829
>>908>>910-911、6>>943、7>>944-945、六冊目8>>19-21、9>>57-58、10>>92-96
―言っとくけど、俺はつええぜぇぇぇぇ!!― 六冊目1>>156、2>>193-194、3>>243-245
>>281-283、5>>385-387、6>>442-443、7>>494-495、8>>703-704、9>>705-706、10>>757-758
11>>759 七冊目12>>536-537、13>>538、14>>561-562
―光選― 七冊目1>>599-600、2>>601、3>>609-610、4>>611-612

―5―

 ぴちょん、ぴちょん、ぽちょんと水滴の弾ける音が幾重にも重なって洞窟の屈曲した空
間内を響き合う。鍾乳石から垂れてくる滴と天井から垂れてくる滴とでは奏でる音の高低
が違う。水面に落ちるか、地面や石筍に落ちるかでも音は繊細に変わる。その音の一つ一
つがメロディーのように聞こえてソシアは歌いだす。
「やさしくしあわせなうた〜な〜のよ〜♪ まほうはお〜もい〜〜やさしいお〜もい〜♪ 
ししょうはやさしくこころはみ〜ちる〜♪ やさしいなみだはとものため〜♪」
 空気が感動に震えるような美しい歌声に乗せた優しいメロディーと詩がレルロンドの心
を打つ。ラスもまた、らしくなく胸に熱いものを感じていた。
「ありがとうソシアさん、素敵な歌ですね」
 レルロンドは感動のあまりソシアの手を握っていた。しなやかな温もりがあった。
「こ、こちらこそ、感動して、ど、どうしてもこの感動を歌で表現したくなって」
「おい、いいぞ。もっと歌っててくれ」
 ラスはまたウェスタンハットを深く被りなおした。しかしそれはその奥に光るものを隠
すための照れ隠しだったのかも知れない。

656FAT:2009/01/24(土) 13:36:19 ID:07LLjSJI0
 ソシアはまた優しい歌を歌いだした。自然とレルロンドはランクーイに想いを馳せた。
「師匠、一つ、気にかかることがあるのですが」
「なんだ?」
 レルロンドは少し赤くなった目でラスを見た。
「ランクーイのことなのですが、僕が一緒にいたとき、ランクーイは強い魔法剣士になり
たいと言って魔法を使っていました。ですが、先ほどの僕のように暴走はしなかった。な
ぜなんでしょう?」
 ラスは余裕の表情で答える。
「あいつはまだそこまでのレベルに達していなかったからだ。わかるか? あいつの全魔
力を集めたって自分自身を焼き殺すほどの力はなかったってことだ。あいつが死ぬ直前に
放った魔法の威力は知ってるよな? あれくらいのレベルになると欲望は身を滅ぼす力に
なる。お前はその時点でのランクーイの力を受け継いだ。だから暴走したんだ」
「なるほど」
 レルロンドはランクーイのあのがむしゃらな魔法に対する熱意を思い出した。強くなり
たい、その一心でランクーイは魔法を学んでいた。はたして欲望を捨てろ、と言われすぐ
にそうできただろうか。十何年も抱き続けた想いを、捨てられるだろうか。
 レルロンドは欲望に身を任せること、それこそが子供の象徴のような気がした。欲望を
抑え、他人のことを想うこと、それこそが強さであり、それこそが大人と呼ぶにふさわし
い条件なのだと思った。そんな思考に頭が向いたのは心地よく奏でられているソシアの歌
の影響もあったかも知れない。
「さあ、そろそろ行くか」
 ソシアの優しい歌を堪能し、三人は歩き出した。ラスはレルロンドに実戦を経験させよ
うと生き物を探す。しかし、中々見つからない。
「カニさん、い、いませんねえ」
「ここは昔人気のあった狩場だからな。そのときにだいぶ数が減ったんだろう。なに、も
っと地下に行けばいくらでもいるはずだ」
「はい、期待してます、師匠っ!」
 レルロンドは藪森でのランクーイの気持ちが分かった気がした。ラスに認めてもらえる
ことが、気をつかってもらえることがこんなにも嬉しいなんて。信頼しているからこその
喜び。レルロンドはこの関係がずっと続きますようにと胸のうちで祈った。

657FAT:2009/01/24(土) 13:36:58 ID:07LLjSJI0

―6―

 地下へと何階くらい下っただろうか。過去の乱獲の影響なのか、それとも他の原因があ
るのか、生き物は一匹も見当たらない。ラスの表情からも余裕が消えていた。
「ながく〜くらいどうくつ〜♪ みずはいのち〜はぐくむみなもと〜♪ ひかりなきどう
くつ〜♪ みずをもとめるものもなし〜♪」
 ソシアの歌もトーンが落ち、暗くなってきた。しけたラスとレルロンドの雰囲気に嫌気
がさしたのか、ソシアは歌うのをやめた。
「はぁ、カニさん、い、いませんね」
「これは異常なのではないですか? 冒険者たちの乱獲というだけでは説明がつかない。
何か他の原因があるのでは?」
 レルロンドはラスの表情を伺う。真っ直ぐと前を向き、無反応だ。
「ど、どうしてでしょうか。こ、こまりましたね」
 ソシアは反応のない二人に飽き、辺りをきょろきょろと見始めた。
「あっ、お、お宝!」
 ソシアはたっと駆け出すと、躊躇なく宝箱に触れた。
「おいっ! 待て!」
 ラスの警告は虚しくもソシアが宝箱に触れた後だった。宝箱から不思議な力が開放され、
一閃、洞窟内に光が満ちたかと思うと、もう、ソシアの全身は痺れていた。
「はれれれれれれれ」
「馬鹿野郎! こういうとこの宝箱はたいてい罠がかかってるんだ。特別な訓練を受けた
もの以外はそうやって罰が当たるぞ」
「ごめんなはひいいいいいい」
 痺れというよりも痙攣に近い。ソシアの全身は上下に小刻みに震えている。それがラス
とレルロンドに再びソシアの胸を意識させた。
「た、たすけてくだしいいいいいいいいいい」
 レルロンドは胸に意識を集中させながら、手探りでバッグの中から数種類の解毒剤を調
合した強力な解毒剤を取り出し、震えるソシアの口に押し流した。おふ、おっふとむせた
ものの、体を支配していた痺れは徐々に和らぎ、ソシアはとすんと尻をついた。
「おおっ!」
 どちらが声を漏らしたのか、いや、二人同時に漏らしたのか。ラスとレルロンドは無防
備に開かれた脚の、その短いスカートの奥に釘付けになった。
「たっ、たすかりましたぁ〜。ありがとうございます」
 無頓着なソシアはそんな男たちの視線を気にすることなく、ただただ麻痺から開放され
たことを喜んだ。そしてすっくと立ち上がると、男たちはとても残念そうな顔をした。
「きっをつっけろ〜♪ おいしいおったかっらじっつはわな〜♪ びりびりしびれておっ
ちっち〜♪ わたしはしびれておっちっち〜♪」
 おかしな歌がまた、二人を元気にさせる。いや、ソシアの魅力はその歌声だけに留まら
ず、あれやそれも、全てが若い二人の元気の源となった。
「なんかもう、ずっとこうしてさまよい歩いていてもいい気分です」
「ああ、こういうのもいいもんだな」
 師匠と弟子は男の性によって絆を深めた。ランクーイのことはもちろんだが、このソシ
アとの出会いは二人の絆をより一層強く、結びつけた。
 ランクーイにばかり夢中でレルロンドを無視しがちだったラス。ラスに相手にされない
ことを不服に思っていたレルロンド。少し間違えば不仲になってしまいそうだった関係が、
今は師弟愛で固く結ばれている。少し不純な絆かも知れないが……。
 とにかく、二人の師匠と弟子という間柄は間違いなく成長している。同じものを見、同
じものに触れ、同じものに興奮する。気持ちの共有が二人の成長を助長し、互いの距離感
を無くす。それだけでもソシアの存在の意義はとても大きなものだった。
「た、たのしくいきましょお」
 ソシアは二人に笑いかけた。二人も、ソシアに笑顔を返した。その笑顔はどこか似てい
て、優しくソシアを照らした。

658FAT:2009/01/24(土) 13:37:45 ID:07LLjSJI0

―7―

「よし、レルロンド、いまからこいつをエンチャットする。お前は何を使ってもいい。こ
いつを倒してみせろ」
 ラスはようやく見つけたカニの甲羅を両手で押さえ、レルロンドに真顔で説明する。そ
の表情からは師としての威厳を感じる。
「はい。師匠の教えを守り、必ず倒してみせます」
 カニは甲羅を押さえられ、カシャカシャとハサミを鳴らすもラスには届かない。ラスは
甲羅に当てた手に意識を集中させ、ゆっくりと、壊れてしまわないように魔力をその体内
に送り込む。カニは与えられた力によって目覚め、口から吹き出す泡が青く輝いた。
「開始だ。ソシア、俺と共にここで見ていろ」
「は、はひっ!」
 ラスはカニを突き飛ばすとソシアの手をとり離れた場所に避難し、ソシアにとばっちり
がいかないように、薄い防御魔法の膜を張った。空間が少し歪んで見える。
「いくぞ、ランクーイ」
 レルロンドは優しく体内のランクーイに呼びかける。ぼうっと両手を温かな火が包み、
拳を握りしめる。
 先に攻撃を仕掛けたのはカニだった。ぶくぶくと泡を吹く口から、魔力を伴った冷水を
水鉄砲のように鋭く飛ばした。レルロンドは素早く横に跳ねると凍りつく石筍を横目に矢
を一本軽く放った。緩やかな弧を描く矢はカニの吹き出している泡に触れると凍りつき、
カチリと落ちた。
「なるほど、その泡が防護壁の役割を担っているんですね。なら、やはり狙うは無防備な
背面か」
 レルロンドは動きのとろいカニの背後に回ろうとした。しかし、ラスの魔力の影響か、
カニは機敏にサイドウォークし、レルロンドの正面から体当たりした。
「うはぁ!」
 予想外の動きにレルロンドは腹部を強打し、転がりつつも痛みに耐え、カニの正面に戻
った。カニの全身から魔力が溢れているのか、レルロンドの服が衝撃の瞬間のまま凍り付
いている。

659FAT:2009/01/24(土) 13:38:48 ID:07LLjSJI0
「くっ、ランクーイ!」
 レルロンドは体内から炎を捻出し、凍りついた服を融かす。カニは余裕からなのか、ハ
サミをカシンカシンと鳴らした。しかし、そんな安い挑発には乗らない。レルロンドは冷
静だ。ラスはそこにランクーイとレルロンドの差を見た。
 レルロンドは落ち着いて矢を一本、弓にあてがった。そして、矢に炎を纏い、力強く弓
をしならせ、放った。燃え盛る炎はカニのあぶくを打ち消し、矢が柔らかな口に突き刺さ
るだろう。そう期待したがカニはハサミを器用に動かすと矢を挟み、へし折った。カニは
力に酔いしれているようにハサミをカッチンカッチンといやらしく鳴らした。しかし、レ
ルロンドの表情にはまだ余裕があった。
「あいつ、試してやがる」
「え?」
 ラスはレルロンドの戦い方に感心した。ランクーイのようにただがむしゃらに相手を倒
すことを第一に考えるのではなく、今の自分がどれほどなのか、どんなことができるのか
を研究し、分析している。そもそもラスはレルロンドの戦闘能力の高さを評価していた。
それ故にランクーイとレルロンドの同伴を認めたと言ってもよい。ただ、ランクーイの性
格や求めているものにラスは惹かれ、ランクーイに夢中になっていただけであって、けっ
してレルロンドを評価していないということはなかった。
 レルロンドは次の手を実行する。矢に爆薬入りの小袋を括りつけ、放った。当然のよう
に小袋は矢ごとカニのあぶくで凍りつき、爆発は起こらない。……はずだった。レルロン
ドは凍りついた小袋を見て嬉しそうな笑みを見せた。あらかじめ小袋の中に忍ばせておい
た火の魔力が爆薬を刺激し、凍りついた袋ごと爆ぜる。カニの周囲は煙に巻かれて何も見
えない。煙が晴れたときにはレルロンドは足を炎で守りながら、カニの甲羅を踏みつけて
いた。口を地面で塞がれ、ハサミもレルロンドには届かない。レルロンドの完全勝利だ。
「師匠、倒してみせました!」
 レルロンドは自信に満ちた顔でラスに報告する。しかし、ラスの口からは予想外の厳し
い言葉が返ってきた。
「甘い、甘すぎる。相手が魔法を使えると知っていて、なぜそれで勝利したと言える。魔
法は目に見える想い。上級の魔法使いならば全身どこからでも魔力を放出することは可能。
ただ押さえつけたからと言ってそれでは勝利とは言えないな。相手が魔法を使うものなら、
殺すか、自身の魔力で相手を支配し、結解を張れ。でなければ勝利とは呼べん」
 レルロンドは頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。魔法は目に見える想い。レルロ
ンドは今、足から炎を出している。同じように、このカニも甲羅からなんらかの魔法を出
してくる可能性がある。魔力を持つものとの戦いは、正に生きるか死ぬかのどちらかしか
ないのだ。

660FAT:2009/01/24(土) 13:39:25 ID:07LLjSJI0
「わかりました、師匠。僕は勝利してみせます」
 レルロンドは心を鬼にし、弓の下端についた刃をカニの甲羅と口の間に挿し込んだ。そ
して、その先端に熱を持たせ、内側から燃やした。
「わはー、いい匂いー」
 香ばしいカニの焼けた匂いが洞窟に広がる。レルロンドは食欲を見せるソシアとは反対
に、戦いの厳しさを再認識されたことで穏やかだった心が少し、強張った。
「ま、そんなに気にすんなよ。全身どっからでも魔力を出せる奴なんてそうそういない。
仮にいたとしたら今のお前じゃ太刀打ちできない。ただそういう奴も存在しているってこ
とを知っておいてもらいたかっただけだ。さあ、カニでも食って一休みしようぜ。お前は
飲み込みがいい。成長が早そうだからこれからが楽しみだぜ」
 レルロンドは自分の気持ちをすぐに察して気遣ってくれるラスの優しさに感動した。同
時に、自分の成長を期待してくれているという事実もレルロンドにとってはこの上ない喜
びであった。
「では、僕が身をとりましょう」
 レルロンドは少し照れくさい笑顔を隠しながらカニの甲羅を剥ごうとした。しかし、堅
固なカニの甲羅の前に歯が立たない。
「どけよ、俺がとってやるぜ」
 ラスは乱暴な言葉遣いとは裏腹に、優しくレルロンドをカニから引き離すと、背負った
大きな剣でスパスパッとカニを切り裂いた。
「わはー、い、いっぱい、身がはいってる!」
 ぎっしりと詰まった身にソシアは興奮した。レルロンドはラスの剣さばきに尊敬の眼差
しを向けている。
「いい熱の入り方だ。ムラがなく、脚の先まで均一に火が通っている。レルロンド、お前、
いいコックになれるぞ」
 珍しく、本当に珍しくラスが冗談を言った。レルロンドはラスの変わりように、いや、
角の丸くなりように心を躍らせた。冗談を言えるほどの余裕がラスの心の中に出来ている。
それは、エイミーによって与えられたあの水晶の魔力ではなく、ラス自身の成長によるも
のだとレルロンドは確信した。自覚していないのか、ラスはおいしそうにカニの身をほお
張っている。
「どうした? 食べないのか」
「お、おいしーですよ。食べましょお」
「あ、ええ、いただきます」
 ラスはレルロンドにカニの身を差し出した。それをレルロンドはありがたく受け取った。
ラスは当たり前のように手を差し出したが、それも成長の証。ラスは気付かなくともレル
ロンドは気付いた。そして少し大人になったラスを尊敬の眼差しで嬉しそうに見つめた。
ラスはそんなレルロンドの瞳のわけを理解できず、じっと見つめてくるレルロンドがもっ
とカニの身を催促しているものだと思い、もう一筋差し出した。
「れ、レルロンドさんっ、お、おいしーですね」
「ええ、おいしーです」
 言って、レルロンドの目からはなぜか涙が溢れた。
「おいおい、泣くほどうめーかよ」
「れ、レルロンドさんは美食家なのですねっ」
 笑いながら、レルロンドの頬を涙が流れ落ちた。涙のわけをラスが理解することは出来
なかったが、間違いなく、その涙はラスの成長によるものだった。

661FAT:2009/01/24(土) 13:40:31 ID:07LLjSJI0
皆様こんにちは。最近体を動かすことにはまってます。やはり適度な運動は必要ですね。

>>◇68hJrjtYさん
いつも感想いただきありがとうございます。
赤鼻の話とネクロの話を書いて思ったことはやっぱり短編っていいなぁってことですかね。
ほぼその日の気分次第で話のトーンが変わってくるので一日違うだけでこんな風に作風が
がらりと変わってきます。
また本編の合間に短編を書いていきたいと思います。

>>蟻人形さん
少女の期待が崩落していく様を想像すると背筋が凍るような恐怖を感じました。
でもギルド側の作戦もまだほんの一部すら実行されていないようなので、今後の少女の表
情の変化が楽しみです。
少女の従者、アドラーも興味深い存在ですね。この特異な追放天使が少女とギルドにど
のような影響を及ぼしていくのか、続きを期待しております。

>>柚子さん
流れるような戦闘シーンの連続、楽しませていただきました。
白い仮面の子供たち……両ギルドの精鋭達でも苦戦するほどの力、こんなものが大量に召
喚(?)されたらひとたまりもありませんね。フロストクエイクのようなオリジナル魔法
もより白い仮面の子供たちの特殊さを引き立てていて痺れました。
イリーナを意識しているようにも見えるソロウ。ミシェリー以外にも二人を結ぶものがあ
るのかなんて色々想像しちゃいます。
続きを楽しみにしております。

>> 白猫さん
お久しぶりです!!
氷を駆使するレティアと炎を駆使するアーク。対照的な二人の因縁は根が深いのですね。
ちょうどいいところで終わってしまったので続きが気になります。あ、でも短編だからこ
れで終わりなのでしょうか。
長編でも短編でも、これからも白猫さんのSSに期待しております。

662◇68hJrjtY:2009/01/24(土) 17:08:57 ID:N.pdTvYc0
>FATさん
続きありがとうございます♪毎回楽しみにしていますよ!
レルロンドの修行…なのですが、なんだか楽しい冒険物語チックでほんわか読めました。
ソシアのイケイケっぷり(死語)もそこまで「えろぃ!」と感じない不思議。
むしろソシアのお陰で二人の距離感が縮まったことのほうが嬉しいです。いいトリオだなぁ(笑)
ひとつずつ、しかし確かな足取りで成長する師弟。つい、もっとこの雰囲気を堪能したくなってしまいますね。
続きお待ちしています。

663名無しさん:2009/01/28(水) 17:56:01 ID:WrGT.WaE0
てすと

664防災頭巾★:削除
削除

665防災頭巾★:削除
削除

666防災頭巾★:削除
削除

667防災頭巾★:削除
削除

668K:2009/01/31(土) 04:39:40 ID:o10ct1CA0
 ずっと憎しみばかりだった。
 攻撃するならばやりかえし、命つきるまで戦うものだと、思っていた。
 すさまじく熱い炎の固まりと共に殴られ、最初の昇天をかますまでは。


1れべる

すごくあたまがいたいです。
隣でお姉さんがなでなでしてくれます。
ぼく、さっき一回なんか死んだ気がします。
けげんそうにお姉さんを見上げると、お姉さんはぼくを笛でこつんと殴りました。
痛くはなかったです。よろしくってことらしいです。
「コボくん、今日からあなたは私のペットだからね」

新しく名前を貰いました。


8れべる

ご主人さまがコボルト秘密にいきました。
なんかご主人さまの足下に炎があるので、慌てて後ろ足でけりけり、砂をかけて消そうとしました。
「ちょ、こら、めっ!」

怒られてしまいました。


14れべる

ご主人さまと一緒にコボルト秘密をくりあしました。
ぼくはご主人さまに攻撃しなさいっていわれたんだけど、誰を攻撃して良いのかわからなくてぐるぐるしてしまいました。
ぼくより先にご主人さまは撲殺していました。
ご主人さまはちょっとこわいです。

でも、ちゃんと役にたてないぼくも情けないです。



15れべる

あじとB3へ行こう!とご主人さまが言い出しました。
ぼくは途中のもんすたーが怖いのでやめたほうがいいんじゃないかなとおもいました。
ご主人さまはぼくの様子はまったくむししてB3にいきます。

2人して殺されて帰ってきました。
ぼく、5回くらいしんだ…。



21れべる

ご主人さまが洋服をとどけにいくそうなので、ついていきました。
そらとぶじゅうたんはきもちよくって、ご主人さまは鼻歌を歌っています。
ピクニックみたいでわくわくしました。

音程がはずれていることは気にしてはいけないとおもいます。



33れべる

 アウグスタうえの吸血鬼のおじさんとたたかいました。
 いたいいたいいたいいたい。
 ご主人さまが赤いお薬をのませてくれました。
 おいしくておなかいっぱいです。
「さあ、もっかい行ってらっしゃい!」

 いたいいたいいたいいたい。

669K:2009/01/31(土) 04:44:58 ID:o10ct1CA0
41れべる

もういちどあじとB3にいきました。
ご主人さまのお友達のお姫様が手伝ってくれました。
白い綺麗なドレスをひるがえして、爆弾をなげています。

可愛くてかっこいいけど、お姫様で爆弾ってどういうことか気になってしかたありません。
 鞄から液体窒素がちらりと見えるのでつっこむのはやめようと思いました。 
 ぼくはすることがないようで、ご主人さまとお姫様のお話を聞いていたら眠くなってしまいました。
「だいぶレベルがあがったね!」
「うん、53まで待ち遠しいよ〜!」

 うつらうつらしながらきいていましたが、ご主人さまが嬉しそうだとなんだかぼくも嬉しいです。


43れべる

 とおりがかった長髪のおにいさんがぼくに羽と炎をくれました。
 炎は槍の先にくっついて、一撃で吸血鬼のおじさんをたおします。
 はやいはやい!つよいつよい!
 ご主人さまがおにいさんにお礼をいって、ぼくに攻撃命令をだします。

 …でもやっぱりぐるぐるしちゃいました。

 ぼくがもっともっとはやくて、なにからもご主人さまを守れるようになればいいのに。
「ぽめ〜^^」
 ご主人さまの笑顔が、ぼく大好きなの。


46れべる

 ご主人さまが「絶対死ぬと思うけど」と言いつつぼくににっこりわらいかけた。
 よくわからないけど笑っているご主人さまは大好き。

「ちょっとハノブ高台望楼いってみよっか! ネクロクエしてみる!」
 無謀なことが大好きなご主人さまだよねって前お姫様がいってた気がする。

 絶対って絶対起こるから絶対って言うんだよね。


46れべる

 ご主人さまのお友達のお姫様と、都を西にちょっとでたところでばったり会ったのでおしゃべりした。
たたかわないでのんびりしてると、ぼくねむくなっちゃう。
「あと4レベルくらい? ファミテイム手伝うよ〜^^」
「ありがとう! でも病気のコボルトも使ってるとやっぱり愛着わくよね〜。ちっこくて、可愛くて」
「ダメだよ、ファミかエルフじゃないとダメ低いじゃん!」
「そうだよねー…やっぱだめだよね」

 ご主人さまはぼくをそっとなでてくれました。
 ぼくは半分眠りながらその手に頬をすり寄せました。

670◇68hJrjtY:2009/02/01(日) 03:27:06 ID:N.pdTvYc0
>Kさん
(´;ω;`)ウッ…。無邪気な文章なのが余計に悲しさをさそいます。こんばんわ68hです。
多くのテイマが踏襲してきたであろう病気コボ→ファミorエルフへの変更。
ゲーム内では何事もなかったかのように新しいペットにわくわくしてしまいがちですが…。
でも、今までのペットたちはどこかの空で応援してくれてるとか思いながら涙を飲んでます。
しかし病気コボでネクロクエとはっ…!このテイマちゃん、強くなりますね。うん。
またの投稿お待ちしています。

671FAT:2009/02/08(日) 20:40:57 ID:f79bllg60
第一部 『双子の天才姉妹』 二冊目>>798(最終回)

第二部 『水面鏡』

キャラ紹介 三冊目>>21
―田舎の朝― 三冊目1>>22、2>>25-26 
―子供と子供― 三冊目1>>28-29、2>>36、3>>40-42、4>>57-59、5>>98-99、6>>105-107
―双子と娘と― 三冊目1>>173-174、2>>183、3>>185、4>>212
―境界線― 三冊目1>>216、2>>228、3>>229、4>>269、5>>270
―エイミー=ベルツリー― 三冊目1>>294、2>>295-296
―神を冒涜したもの― 三冊目1>>367、2>>368、3>>369
―蘇憶― 五冊目1>>487-488、2>>489、3>>490、4>>497-500、5>>507-508
>>531-532、7>>550、8>>555、9>>556-557、10>>575-576
―ランクーイ― 五冊目1>>579-580、2>>587-589、3>>655-657、4>>827-829
>>908>>910-911、6>>943、7>>944-945、六冊目8>>19-21、9>>57-58、10>>92-96
―言っとくけど、俺はつええぜぇぇぇぇ!!― 六冊目1>>156、2>>193-194、3>>243-245
>>281-283、5>>385-387、6>>442-443、7>>494-495、8>>703-704、9>>705-706、10>>757-758
11>>759 七冊目12>>536-537、13>>538、14>>561-562
―光選― 七冊目1>>599-600、2>>601、3>>609-610、4>>611-612、5>>655-656、6>>657
>>658-660

―8―

 光の届かないキャンサー気孔。しかし、その孔内は淡く明るい。レルロンドはいまさら
ながらに疑問を持った。
「師匠、なぜここはこんなに明るいのですか? 光の届かない洞窟なのに」
「そ、そういえば、不思議ですね」
 ラスは足を止めると、斜め先の天井を指差した。
「あれを見ろ。光の強いところと弱いところがあるだろう」
 見れば、澄んだ緑色の光が淡濃と天井を彩っている。
「あの光の濃いところの下を見てみろ」
 ラスに言われたとおりにレルロンドとソシアは一番色の濃い光の下方に目線を送った。
「み、湖があります」
 ラスは頷いた。
「そうだ。この湖には特殊な夜光虫が繁殖している。そいつらが発光しているおかげでこ
の気孔は松明がなくても明るく、安心して狩りができる」
「ちょっと待ってください。では、あそこの濃い光はどう説明するんですか?」
 とレルロンドは一点を指差した。確かに、そこは下に水があるわけでもないのに明るい。

672FAT:2009/02/08(日) 20:41:33 ID:f79bllg60
「説明の順序を間違えたな。この特殊な夜光虫はまず、カニなどの生物の体内で繁殖する。
そいつらが死んだときに血や腐った肉に混じって外に出る。だからそこには何かの死体が
あったんだろう。そしてそれはいつの日にか水溜りに集まり、光が生まれる。そこの光が
色濃いということは、まだ死体がなくなって幾日も経っていないということだろうな」
 相変わらずの知識量の豊富さにレルロンドの好奇が疼く。
「でも不思議ですね。この湖を見る限りは光なんて全く感じられないのに、上を見上げれ
ば宝石のようなエメラルドグリーンが輝いてる。なぜ湖は光らないのですか?」
 ラスはすました顔で答える。
「だから特殊な夜光虫なんだ。普通の夜光虫は自身をその場で発光させ、その光は目に見
えるが照らすほどの強さはない。だが、この特殊な夜光虫は岩のような地殻をつくってい
る硬い物質に反応する光を出している。こいつらの出す光は俺たちには見えない。しかし、
岩と反応するとその光は俺たちにも見えるようになり、こうして洞窟全体を照らす、とい
うことだ。わかったか?」
「ら、ラスさん、やっぱりあったまいー」
「はい、たいへん分かりやすい説明、ありがとうございます」
「補足だが、この特殊な夜光虫はここだけでなく様々な場所に生息している。しかし、不
思議とこいつらは地下じゃないと発光できないらしい。あとは寄生できる生物がいないと
ころではやはり繁殖できないようだな」
 レルロンドとソシアはへぇ〜とラスに尊敬の眼差しを送った。たった七年間でよくもこ
れほどの情報を理解できるものだ。
「師匠にお供するのは楽しいですね」
 レルロンドはソシアに笑いかけた。
「ええ、わ、わたし、あ、あたまがわるいのでっ、ラスさんのお話、た、たのしいですっ。
ず、ずっと、お供させてください!」
 ソシアはどもりながら、本人はそんなことなど気にせずにラスを輝いた美しい瞳で見つ
めた。
「へっ、それじゃお前ら、俺と一緒にいたいなら死ぬなよ。それが俺についてくる唯一の
条件だ」
 ラスはソシアの美しい瞳に気付かれないように、照れをウェスタンハットの奥に隠した。
そんなラスに気付かずに、ソシアは喜ぶ。少女のような無邪気さと、整った大人の顔立ち
とのギャップは美しくもあり、まるでこの世の存在とは思えないほどの甘美さを持ってい
る。共にいたいと願っているのはむしろ、レルロンドであり、ラスでもあった。

 三人が絆を温かく深めているのを遠くで、天井から滴る水の音よりも静かに、夜光虫よ
りもひっそりと監視しているものがいた。それは何者かにテレパシーを送り、三人のあと
をつけた。天井から滴る水の音よりも静かに、夜光虫よりもひっそりと。

673FAT:2009/02/08(日) 20:43:13 ID:f79bllg60

―9―

 何の前触れもなく、突然ラスが振り返った。もうこれで五回目だ。夜光虫が照らし出す
その先には、石筍の一つもない。
「師匠、一体どうしたんですか?」
 レルロンドが心配そうにラスの顔を覗き込む。ソシアも両手を胸の前で握り、眉尻を下
げ、不安そうだ。
「お前は感じないのか? いるだろう、俺たちを監視している者が」
「えっ!?」
 レルロンドは驚いて振り返る。しかし、そこには転がっている岩の一つもない。
「いるったって、こんなひらけた所になにかいたら、さすがの僕だって気付きますよ」
「わ、わたしも、きづきませんでした」
 ラスは少し困ったようにウェスタンハットのつばに手をかけた。
「そうだな、俺も気配は感じるものの、そいつがどこにいるのかは特定できない。尾行の
うまいやつだ」
「こ、こまりましたね」
「なら、僕が囮になりましょうか?」
 レルロンドは何もいない空間を睨む。しかし、その視界はラスの大きな手によって遮ら
れる。
「いや、一人になるのはやめとけ。俺はもうあんなのは嫌なんだ」
 ラスの深い傷を見たレルロンド。
 ランクーイを失って後悔しているのはラスも同じだった。だから、ラスはもう愛する弟
子を一人にはさせない。一人にすることは、責任を放棄することになるのだから。
 レルロンドを失うことを最も恐れているのはラスであり、レルロンドの成長を最も望ん
でいるのもラスである。危険を冒さなければ強くはなれないだろう、しかし、危険を冒せ
ば死は近づいてくるだろう。ラスはそんなぎりぎりの駆け引きをさせつつも、自分だけは
どんなときもレルロンドの傍にいようと心に決めていた。そうすることで近づいてきた死
を、触れさせないようにするのだ。
 ランクーイが教えてくれたこと。弟子は野に放たれれば自力で強くなる。しかし、近づ
いてきた死にたやすく触れてしまう危うさを併せ持っている。もう二度とあんな思いをす
るものか、とラスの心に刻み込んだのは間違いなくランクーイだった。
「はい、すみませんでした」
 ラスの心情を察したレルロンドは野暮な考えを捨てた。
「まあいいさ、どんなやつが襲ってこようと俺が蹴散らしてやる。レルロンド、お前は俺
の指定した相手とだけ戦うことを考えていればいい。背伸びをすると後悔することになる
ぞ」
 後悔することになる。それは、レルロンドに言い聞かせるのと同時に、自分自身へも警
告しているようだった。
「あ、あそこに、ひ、ひとがいるー」
 ソシアの声に二人は前を向いた。すると、遠くに長く黒い髪の女が立っているのが見え
た。女は悪寒のするような青白いワンピース一枚で直立し、じーっと三人を見ている。
「おい、あんたぁ、こんなとこでなにしてんだ?」
 ラスが呼びかけると女は直立姿勢のまま、三人から視線を外すことなく薄闇の中に消え
ていった。

674FAT:2009/02/08(日) 20:43:45 ID:f79bllg60
「おっ、おおおおおばけっ」
 ソシアの顔から血の気がさっと抜け、体が震えだした。
「不気味ですね。先ほどから師匠が感じていたという気配はあの女性のものでしょうか」
 ラスは腕組みをし、静かに女の消えた方を睨んだ。
「いや、違うな。まだ背後から気配を感じる。今のはそいつが見せた幻覚かもしれん」
「僕にはあの女性があちらに誘い込もうとしているように見えましたが、どうします?」
 レルロンドはラスを仰ぎ見る。ラスは少し考えてから腕組みをしたまま、
「まあ、考えても仕方ないか。罠だろうが何だろうが、今の女を追うぞ」とつかつか歩き
出した。
「はいっ!」と威勢の良い返事をし、レルロンドは後に従う。
「ま、まってくださいー! 置いていかないで〜」
 ソシアは恐怖のあまり腰が抜けたのか、体を震わせたまま動けないでいた。
「そんなに恐がんなよ。ほら、いくぞ」
 ラスは少し戻り、ソシアの手を強引に引いた。腰の抜けているソシアは「きゃっ」と小
さく悲鳴をあげ、ラスにもたれかかるように抱きついた。
「おっ、おい」
 甘い香りと柔らかな感触に戸惑うラス。この気孔の入り口で感じたときよりも強く、鮮
明に女を感じた。無意識にまわした腕の中でソシアの震えは徐々に治まり、温もりだけが
全身に伝わった。
「あ、ありがとうございます。ラスさん、あったかいんですね」
 腕の中から自分を見上げているソシアの瞳があまりに魅力的でラスは思わず目を逸らし
てしまう。レルロンドはそんなラスの仕草に「ほう」と気付き、抱き合う二人に柔らかな
笑みがこぼれた。

「あた〜たかな〜うで〜♪ たくま〜しいうで〜♪ わたしをつつむやさしさは〜♪ て
んしのようなあたたかさ〜♪ きっとあなたはてんのひと〜♪」
 歩き出し、妙に熱っぽいラスと嬉しそうなレルロンドにソシアの歌が心地よく響く。レ
ルロンドは歌詞を聴き、また笑みがこぼれた。
 しかしながらラスは、嬉しいはずなのにソシアの歌の歌詞に胸を痛めた。自分は闇の者
なのだと、あの緑髪のエルフがラスの心の奥深くに植えつけた言葉がラスを苦しめた。
 天使のような温かさ。それがあったとしても、天の人には決してなれない。天とは真逆
のところに自分の存在はあるのだとラスは表情を隠した顔の裏で悩み、自分自身を追い込
んでいた。
「やわらかなひ〜とみ〜♪ やすらぎのひ〜とみ〜♪ わたしをつつむやさしさは〜♪ 
てんしのようなやさしさ〜♪ きっとあなたはてんのひと〜♪」
 ソシアは上機嫌に歌い続ける。清らかな歌声が響けば響くほどラスの苦しみは嵩み、ソ
シアの意図に反し、ラスの胸は癒えることなく、ただ諦めに起因する悲しみだけが満ちて
いった。

675FAT:2009/02/08(日) 20:45:05 ID:f79bllg60

―10―

 背後の気配を感じながらも、三人は不気味な女を追った。女は不自然に姿を見せては消
え、姿を見せては消えと何度も繰り返した。
 キャンサー気孔はカニが掘った穴。ここのカニは他の生き物との共生を好む。本来なら
ばトカゲ男やメロウのような長身の魔物が共に生活しているはずだ。トカゲ男たちはカニ
を喰らう。捕食者と共生とはおかしな話のように思えるが、キャンサー気孔に生息してい
るカニにとって、この捕食される瞬間が大切なのだ。
 通常、海辺に生息しているカニは腹の中で孵化した幼生を海に放つ。しかし、ここのカ
ニは幼生を自ら放つことが出来ない。幼生は母体の硬い殻の中でただひたすらに待つので
ある。捕食の瞬間を。
 殻の中で幼生が十分に育った親カニは寄行に走る。捕食者の前に自ら進み出、無抵抗に
捕食を誘うのである。トカゲ男はカニを捕食する際、銛で硬い殻を砕き、身を食す。メロ
ウはハンマーで豪快に叩き潰し、身を食す。このとき、幼生はようやく外の世界に出れる
のである。親の殻の中で十分に育った幼生はすでに親と同じ姿形をしており、すぐに岩の
陰などに逃げ込む。こうして捕食者は食糧を提供してもらい、カニは子孫を増やすという
共生関係がなりたっている。
 この特殊な共生関係がキャンサー気孔をただのカニの巣穴ではなく、人間も入り込める
ほどの巨大な穴にしているのである。メロウが悠々と歩けるほど高い天井、トカゲ男たち
が集団で過ごせるような広い部屋。これらはそれぞれの種が過ごしやすい環境を自ら創り
出した功績である。
 今、三人はそれらの生物が創り上げたとは思えないほど広大な空間の中に立っていた。
上を見上げても夜光虫の光が見えないほど天井は高く、壁は荒々しく削られ、その縁には
砕けた岩が転がっている。削り取られた岩はまだ新しい色合いをしている。風化の度合い
から、まだそれほど時が経っていないことが窺える。
「ひ、ひっろいですねー」
 ソシアは関心したように見上げる。声が幾重にも重なって返ってくる。
「こんな……なんの部屋だ、ここは!」
 ラスはこの巨大な空間に恐怖を感じた。その感覚はあの藪森で不気味な泉を目撃したと
きの驚きに似ていた。
 異世界の臭い。闇。
 ラスはこの気孔の仕組みを知っていた。故に、これほど巨大な空間が存在するというこ
とがカニの生息数の激減という先刻までの疑問の答えだと理解した。
「無駄に広いですね。ここから地上にでも通じているんでしょうか?」
「おしいわね」
 レルロンドの問いに聞きなれない女の答えが返ってくる。それはあの黒い長髪の不気味
な女のものだった。女は長い髪を垂らし、暗闇の中にうつむいて立っていた。
「ここはね、坊や、門なのよ」
 女が近づいてくる。よく見れば、長い髪は波打つような黒のソバージュヘアで肌はペン
キを塗ったような紫がかった青、歩いているはずなのにワンピースからは脚を運ぶ動作が
見えない。まるでお化けのようである。

676FAT:2009/02/08(日) 20:45:43 ID:f79bllg60
「きゃーっきゃーっ! あ、足がないー!」
 ソシアは恐怖に取り乱し、ラスの腕にしがみ付く。
「い、一体あなたは何者なんですか」
 レルロンドは恐怖から額に汗を滲ませている。やはり、霊は恐い。
「ナーマ様だ」
 突如背後に羽のついた目玉のような魔物が現れる。フランデル大陸でも確認されている
短い尾に触角のような二つの目を持つ浮遊性の目玉の魔物だ。
「ナーマ?」
「ナーマ様は我が主。そしてお前らの母となるお方だ」
「およし、フォルダー」
 ナーマがなだめるように言うとフォルダーは黙った。
「私はナーマ。まずはようこそおいでなさいました、とでも言っておきましょうか」
 ナーマは不気味に一人ひとりの顔を爬虫類のような目で見定める。その目をラスは知っ
ているようで寒気がし、なるべくナーマのギョロっとした気味の悪い目を見ないようにし
た。
「私は今、この瞬間を幸福に思うわ。だってそうでしょう、こうしてあなたが餌を引き連
れて私に会いに来てくださったんですもの」
 三人はナーマが何を言っているのか理解できなかった。
「このフォルダーの目、確かにあなた様の望む者と確認致しております」
「そうね。でなきゃ私自らが出向くなんてありえないわ」
 ナーマはそう言うと、ラスに熱く痺れるような視線を送った。
「もういいでしょ? あなたは十分に経験を積んだわ。私と一緒に帰りましょう」
「は?」
 ラスの内側からあの緑髪のエルフの言葉が沸きだす。引き出された不安が目の前のこの
生物に、おそらく大陸では確認されたことがないであろう爬虫類のような眼を持つ女に殺
意を抱かせる。
「まだ自覚してないのかしら? でもあなたの本能は目覚めているはずよ。だって、その
証拠にここに来たじゃない。もう芝居はいいのよ。餌を私に渡して、あなたは門をくぐり
なさい。そうすれば全て分かるわ。あなたは思い出すのよ、あなたの居るべきところ、す
るべきことを」
 ナーマの言葉はラスを不安定にさせた。ラスは不安気にレルロンドを見る。しかし、レ
ルロンドは冷静だった。
「師匠、そんな目をしないで下さい。大丈夫です、僕はあなたの弟子なんですから。ナー
マ、あなたはそうやって僕らをたぶらかすつもりですか? 生憎ですが、僕らの絆はその
程度では壊れませんよ」
 真っ直ぐなレルロンドの思い。レルロンドはラスのことを疑わなかった。その想いに、
ラスは奮起した。
「あのエルフの野郎も、お前も、人のことを何だと思ってやがるんだ! 俺は人間だ! 闇
の者でもなければお化けでもねぇ! 人間だっ!!」
 相手が何も言わぬうちにラスはナーマに斬りかかろうとソシアを振り払おうとした。し
かし、ソシアは全身でラスを引き止める。ラスの特攻はソシアの懸命の制止によって阻止
された。
「ちっ、なにしやがんだ!」
「ラスさん、だ、だめです! まだ、だめです! 相手の姿を良く見てください」
「あら、鋭い娘ね。せっかく一撃で捕らえてあげようと思っていたのに、台無しじゃない」
 とナーマは不気味に笑いながら腰を横に振った。ワンピースの後ろには背丈の何倍もあ
る長い尾が隠れており、尾の一振りは岩を軽々と粉砕した。
「ヘビ女? こんな化け物がこの世に存在していたなんてっ!」
「ナーマ様、どうなさいましょう」
 パタパタと羽ばたくフォルダーは指示を仰ぎつつもすでに獲物に飛び付かんと体を揺ら
していた。
「お前はそこの坊やと娘を殺りな。私はこの子を捕まえるわ。巻き添えを食らわないよう
にうまく立ち回るんだよ」
 ナーマが言い終わるのを待たずにフォルダーはレルロンド目掛けて高速で突っ込んだ。
「ランクーイ!」
 レルロンドが叫ぶと全身から眩いばかりの炎が噴き出し、高速接近してきた敵を巻き込
まんと天高く猛る。フォルダーは急旋回し、上空に退避する。状況がよく飲み込めないま
ま、戦闘は始まった。

677FAT:2009/02/08(日) 20:46:46 ID:f79bllg60
皆様こんばんは。目がしばしばし始めました。もう春ですね。

>>◇68hJrjtYさん
ラスとレルロンドの旅のお供キャラにはお色気ぷんぷんなお姉さまが欲しかったのですが、なんとなく合わ
ない気がして今のソシアのキャラに落ち着きました。
大人のエロスを表現できる方々は神だと思います。

>>Kさん
こんばんは、初めまして。
Kさんの作品を読んで、病気のコボルトをレベル100まで上げたギルメンの勇ましい姿を思い出しました。
テイムされ、徐々に主人との絆を深めていく姿がいたいけで、それだけに最後の二行がぐっときました。
また投稿して下さいね。読ませていただきます!

678◇68hJrjtY:2009/02/09(月) 17:39:25 ID:N.pdTvYc0
>FATさん
投稿ありがとうございます♪
ううむっ、ついに戦闘突入…の前に、いやーラスの博学な事!
特にカニが体内で子供を作り、他の捕食者に襲わせて出産する、のくだりには驚きました。
もちろんFATさん設定である事はわかりますが、やたらと説得力がありますね。もしかして実在動物の生態系がモデルとか…!
お色気姉御は確かに書ける人すごいですよねぇ。でも、ソシアもしっかり色気爆発ですから(*´д`*)
そして他人レスながら病気コボLv100に驚愕しております、すげぇぇっ。
ナーマと名乗る怪しい女性との戦い、ラスはまたも闇の者と烙印されてしまいましたが…続きお待ちしています。

679みやびだった何か:2009/02/11(水) 04:27:59 ID:xwp1C6OU0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Responce
 こんばんは。ってすでにおはようですね。

 お馴染みのみなさんお久しぶりです。そうでない方は初めまして。かつてみやびと呼ばれ
ていた出がらしです。雑巾かもしれません。いや本当は残飯ですごめんなさい。

 ――と。このくらい自分を卑下しておけば……[壁]д・)ダメ...?

 久しぶりすぎて読みきれないので最新の初めましてさんだけ。

>Kさん
 可愛くて牧歌的でいて切なくて、グッドです(★´ -`)(´- `☆)。o0(コボタソカワィィ)

 私も以前育てていたコボルトの本がどこかにあるはずなんですが、また開いてみようかな、
とか思ってみたり。……でも本はあるけど “本体” が消滅してたりしますが(殴)
 そのくらいあったかい気持ちにさせてくれたということで、またぜひ書いてくださいね。

---ちょこっと私信---------------きりとり---------------きりとり---------------

 【次スレに関して(早いけど;)】
 現行テンプレの以下の箇所について。

 投稿制限:1レス50行以内(空行含む) ※これを越える文は投稿できません。

 次スレのテンプレ案を出す際、上記の行の削除をお願いします(汗)
 どうも内容に誤りがある気がしてなりません。というかちゃんと仕様を確認して出したテン
プレ案ではないので、十中八九間違ってるハズです(;゜∇゜)
 スレを立てたことがないのでその辺わかりません;;
 また板の仕様およびここの現設定に詳しい方がいらっしゃいましたら、補足なり修正なり
してください。
 お手数をおかけします……ペコリン(o_ _)o))

---------きりとり---------------きりとり---------------きりとり---------------

 記:68hさん
 メールを出したのですが届いていないでしょうか。他に連絡先を知らないのでここで(汗)
 隠居の身で私用に使ってしまった……。

 とは言えリレーくらいは企画人として引率しないとマズイですね;
 (※続き書いてくれたみなさん、ありがとうございます!)
 そのうち折を見てまとめます(。-人-。)

 次から正規の流れで――|彡サッ
Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

680◇68hJrjtY:2009/02/11(水) 19:50:01 ID:N.pdTvYc0
(私信失礼します)

>みやびさん
うぉお!お久しぶりです♪
リレー小説まとめてくださる!その節はぜひともまとめWikiにも(こら
メールいただいていたのですか…申し訳ない、PCのリカバリやらなんやらでながらく放置していたため
迷惑メールの山に埋もれたかなんかしたようですorz
と、ともかく、こちらから改めて別の生きてるメアドで送らせてもらいますね。
(というかまとめWiki(http://wikiwiki.jp/rsnovell/)で公開してるメアドなんですけどね(笑))。
ではでは、私信&急ぎで失礼しますね<(_ _*)>

681DIWALI:2009/02/12(木) 12:06:50 ID:.UokWbBQ0
Episode 10:Sexy Vampire 〜フィナーア、人間やめちゃいました☆〜


 黄金に輝く不思議な果実を口にしてから、彼女の身体に何かが起こった。
 体の内側から感じる熱、性的快感その他いろいろ・・・生来のエロ可愛すぎる声による喘ぎ声は森中に響き渡り、
 本人は顔を紅潮させながらその辺にあった木々に艶っぽくもたれかかり、火照りが収まるのをただ待っていた。
 俯きながら自身の素肌に目を見やると、その色に彼女は戸惑いを隠せない・・・肌が『灰色』に変色しているのだ!!

「えー!?ちょっとちょっとぉ、これは一体どういうことなのよ〜!!?どうしてぇ!?
 どうしてあたしのセクシーお肌が何でこんな色になっちゃってるの〜!!?いやァ〜んっ!!!!」

 頬を両手で覆い、若干涙目になりながら腰をくねらせるフィナーア。だが同時に背中から何かの音も・・・
 首を捻って後ろを振り向けば、刺々しい漆黒の翼がバサバサと音を立てながらホバリング状態になっている。
 あまりにも唐突過ぎる、自らの肉体の急激な変貌・・・驚くのも無理はないが、彼女は突如冷静になる。
 灰色の肌に白銀色の長髪、漆黒の翼と鋭い鉤爪、悪魔のような尻尾・・・ ま さ か 。

「あらあら・・・あたしってば、サキュバスちゃんに変身しちゃったみたい。もしかしてあの変なフルーツを食べたから?
 まァでも、子供の頃から憧れてたあのモンスターになれたなんてぇ・・・うふふっ、フィナちゃん嬉しくって、ふぁ・・・あっ
 な・・・何だか、あぁっ・・・変な気分に・・やぁ・・・んっ/////」

 幼き頃からの願いが叶って感極まったのか、自分の身体を、その綺麗で細い指を以て触りまくり、フィナーアは快感の海に溺れる。
 しかし意識がおかしな世界へとイってしまいそうな一歩手前だった・・・近くの茂みから何者かが言い争うような声が耳に入った。
 といっても距離としては彼女のいる場所から100m以上も離れている。その遠距離からでも微かな音が聞こえてしまうのも変身の影響だろう。

「(どうやら聴覚も相当なものになっちゃったようね・・・まァいいわ。いったん一人エッチは止めてやり過ごさなきゃ・・・)」


 ―――――・・・・・

「ところでよォ、ダリオ。おめぇこの変な黒い箱、ミカエルのリュックサックの中に入ってたんだが何だと思うよ?」
「え〜?そんなん聞かれてもわからないッスよぉ〜・・・てゆーかもうちょい幼女ミリアたん見たかったのに。」
「ほんとおめーのロリコンぶりには感服するというか呆れるというか・・・もうツっ込む気も失せるわ・・・」

 サキュバスに変身したフィナーアが接近を感知してから2分後、一匹の火鬼とレイスが彼女の隠れる茂みを通り過ぎる。
 だが彼女は聞き逃さなかった・・・ダリオという名のレイスが口にした『幼女ミリア』という言葉。
 溺愛する妹に何かあったのね!?――――思考する時間などゼロ同然、鉤爪を尖らせたサキュバスが2匹の前に躍り出た!!

682DIWALI:2009/02/12(木) 12:33:27 ID:.UokWbBQ0
「大体おめーよぉ、幼女以外に萌える対象とかいねぇのか!?例えばこう・・・おっぱいのデケェ姉ちゃんとかさ〜」
「先輩みたいな親父趣味は○ございません。幼女こそが正義です、真理なのです。あの愛くるしさはこの世の癒し・・・」
「おぇっ、な〜に神様気どりでほざいてやがんだよっ!!それになんだよ『○ございません』ってのは!!?
 気色悪ぃったらねーぜ・・・ん?お、噂をすればなんとやら・・・ボインなサキュバス姉ちゃんのお出ましか・・・」

 小柄な火鬼は、自身の前に立ちはだかるサキュバスに口笛を吹きながら声をかけた。
 対するサキュバスはスレンダーなボディを魅せつけるようなモデル立ちのまま、相手を睨みつけていた。
 すると火鬼の背後にいたレイスが詰め寄ってきた・・・火鬼と会話していた時のような間抜けさは無い、
 邪悪さを剥き出しにしたドスの効いた口調で美女に迫る・・・!!

「おぉコラ、何先輩にガンくれてんだおめー?焼き殺すぞこのアマが!!?」
「お黙りなさい、醜い亡霊魔術師が・・・あなた達、さっきミリアちゃんがどうとか言ってたわね。どういう事?」
「シカトこいてんじゃねぇぞこの野郎ァっ!!!もうプッツン来たぜ!?焼豚にしてやらぁっ!!!」

 うるさい蝿をあしらうように無視されたのが気に食わなかったのか、キレたレイスは最大火力でのフレイムストームを放とうとする。
 だがその刹那、彼の視界に一閃の光が過った・・・その攻撃はあまりにも速く、既にフィナーアの鋭い爪が彼を無惨に切り刻んでいた・・・!!

「うるさいおバカさんね・・・永遠に お・や・す・み」

 囁くように葬送の言葉を呟くと、ウィンクと投げキッスを風に舞うマントに送りつけた。
 彼女の脅威の戦闘力を前に、相棒を一瞬にして葬られた火鬼は凍りついている。眼は大きく開かれ、ガチガチと音を立てて口は震えきっている・・・
 そして焦燥に駆られた汗が立て続けに伝ってくる・・・・『殺される!!』その一言が彼の頭を支配していた。

「お、おい待て!?ミリアだって?何だおめぇ、あいつのペットなのか・・・えぇ!?」
「うふふっ、残念。わたしはこれでも元人間だったの・・・さっきまではね。そしてミリアちゃんはわたしの妹よ。
 覚悟はできてるかしら?妹に手を出したこと・・・あとその黒い箱、ミカエルちゃんのリュックから勝手に取ったのね?
 弟の物を無断で盗んだのも、妹に手を出したのと同罪ね・・・あの世で償ってもらうわよ?」

「ひぃっ・・・やめてくれぇぇぇぇぇええぇえぇえぇぇぇぇえええぇっ!!!」



「ダメよ・・・悪いコね。」


 鼻先を細い指で突かれたと思ったら、火鬼の視界はもう何も映していなかった。
 ただ真っ暗な闇が覆うだけ・・・静かな幕切れだった。

683DIWALI:2009/02/12(木) 12:58:43 ID:.UokWbBQ0
 ・・・一方、森の小道をモンスターの群れが進み行く。黒い肌と筋骨隆々の肉体、肩をいからせて歩くのはオーガソルジャー。
 そして彼らと追従して歩くのは、バナナを貪りながら四足歩行で移動している珍獣、ホワイトゴルゴの群れ。
 実は彼ら、この先にあるエルフ族の集落にて草野球の試合を挑むためにこうして遠路はるばるやってきたというのだ。

「ボボッボボンボ〜(訳:バナナ飽きた〜(´;ω;)ノシ)」
「そうだな〜・・・ほれ、これやるよ。ダイアーウルフの肉だ、旨いぞ〜」
「フンボボ〜!!(訳:ネ申 降臨!!肉キタ――――(゚∀゚)―――ッ!!!)」
「ボボ〜!!(訳:キタ―――――――(゚∀゚)―――――――ッ!!!)」

 骨太な腕を振り上げながら大喜びするホワイトゴルゴ達。オーガ達から分けてもらった肉を千切って、仲間内で頬張っている。
 しかし突如、パーティの歩みが止まりだす・・・思わずオーガの背中にぶつかるホワイトゴルゴたち・・・

「ンボ〜?(訳:どしたの〜?(´・ω・)σ)」
「あ・・・あれは・・・!!!」

 プルプルと震えるオーガ達の前には、一人のサキュバス・・・もといフィナーアがいた。
 自らを包む熱い視線に気付いたのか、フィナーアはオーガの群れに自ら近づいて行く。

「あらあら、ハァ〜イ!エロキュートなあたしに何かご用?今ならもれなくパフパフしてあげてもい・・・」
「野郎ども!!サキュバスの尻尾を擦ればラッキーになれるってばっちゃが言ってた!!擦るぞォー!!!!」

「え?えぇ〜!!!?ちょっとぉ、フィナちゃん強引なのはちょっと苦手・・・あっ、いやぁぁあぁあんっ!!
 ダメっ、そんな強く擦っちゃ・・・・ふぁ、あぁんっ!!か、感じちゃうわァ・・・こんなのっ、初めてぇ〜っ!!
 はァっ、はァっ・・・もっと、もっともっとォ!!あたしの尻尾を擦ってぇ〜んっ!!!あはぁ〜んっ!!?!/////」

 いきなり変な連中に巻き込まれるフィナーア、果たして無事に帰れるのやら、そして人間に戻れるのか・・・?


to be continued・・・

684DIWALI:2009/02/12(木) 13:05:04 ID:.UokWbBQ0
あとがき

・・・・やっちまったな〜、やっちまいましたよマミータ。
久しぶりにフィナーア登場and理不尽不条理無理矢理な展開でやってみました。
そしてこれまたギリギリな内容ですいません、尺度を一定に保てるようにしておきます;;;

・・・遅くなりましたが新年あけおめです、サキュバスの尻尾は性感帯b

685◇68hJrjtY:2009/02/12(木) 19:42:16 ID:N.pdTvYc0
>DIWALIさん
さりげなくもお久しぶりです!おっとと、あけましておめでとうございます♪
いやはや、久しぶりにDIWALIさんのエロ可愛い小説を堪能しましたよー(*´д`*)
と思ってたらなんとフィナ姉がサキュバスに(汗 これは一時的なものなのか否か!?(笑)
変身しても妹を思う気持ちは変わらずといったところですが、新ペットモンスター総出ですねぇ。
やっぱり個人的にはホワイトゴルゴ君たちが好きです(ノ∀`*) あの会話が(笑)
またの続きお待ちしております。

686K:2009/02/14(土) 06:48:33 ID:o10ct1CA0
48れべる

あと1れべるで、ご主人さまは説得ってスキルをとれるんだって!
そうしたら2人ペットが使えるらしいの!
ぼくどんなひとと一緒に戦うんだろうなぁ。
怖い人じゃないといいな。一緒にいっぱい遊んでくれるといいな。
「ごめんね……」
 ご主人さま、なんで?
 すごい悲しそうな顔。どうしたの?
 ご主人さまが悲しいのはいやだよ。ぼくにできることあったら、なんでもいって。
 ぼく、ご主人さまが大好きなんだよ…。


49れべる

ご主人さまは53れべるになりました。
説得を覚えたみたいです。

ご主人さまおめでとうって足下にすりよったらいつものようになでてくれました。
でもすごい、浮かない顔…。どうしたんだろう。
お姫様が言います。
「じゃあ、コボとは別れてね」
「ん……」

え?
別れるって、なに?
ぼく?

「ごめんね……」

ご主人さまがぼくの鎖をはずします。

なんで?これがないとぼく、ご主人さまのところに帰ってこれないよ。
別れるって、ぼくと?

あたまががんがんして、目の前がまっくらになったみたい。
ぼくはご主人さまの足下からうごかなかった。

「…行きなさい、コボ」

いやだ。
いやだよ、どうして?
ぼく、ご主人さまといっしょにいたいんだよ。それ以外なにもほしくなんてないよ。

「いきなさいったら!」

 笛でごちんと頭を叩かれて、小さく鳴いて逃げ出した。
 でも、ちょっと遠くでご主人さまの様子をみていたの。

 嘘だよね、ご主人さま。
 ぼくを、捨てたりなんかしないよね?
 ここにきて、抱きしめてくれるよね?
 いつものように頭をなでてくれるよね?

 でもご主人さまはぼくにそっくりの緑色を2人捕まえて、いなくなってしまった。

 追いかけて追いかけて、お外に出たけれどご主人さまはどこにもいなかった。鎖でつながれてないから、ついていくことができなかった。


 ご主人さま、どこ?



 ちいさな青い生き物が、タトバ山の前で鳴いていた。

687K:2009/02/14(土) 06:54:25 ID:o10ct1CA0
青い声は泣きやまない。
その身が朽ち果てるか、ご主人さまが迎えにくるまでは。



数日経って。

青い声は泣きやんだ。
はてさて、小さな命がつきたのだろうか。




 タトバの山の茂みを、見慣れた顔が覗く。
「……ごめんね」

 ご主人さまと呼ばれた娘は、小さな声で謝った。
 コボと呼ばれた青い生き物は、全力でその胸に飛び込んだ。
 探して探して、その手足はボロボロで、泥に塗れていた。激しいタックルに娘とコボ両方とも転ぶ。
「やっぱりコボと一緒にPT入ることはできないから…」
 このまま別れるには、娘はコボを愛しすぎていた。それ以上に、コボも。

 しかしそれでも。
 2人を分かつ常識は明確に存在した。

「だから、一緒にいよう。ソロしかできないけど、2人きりでも寂しくないなら」

 小さな青い生き物は、頭をその手にこすりつけた。
 寂しくなんかないよ、と言っているかのよう。



 ご主人さま。
 ぼくはいっしょにいるだけで、しあわせなんだよ。



 聞こえるはずのないその声が、聞こえたかのように娘も微笑んだ。

「いこっか」


 ちいさな病気のコボルトと、とあるビーストテイマーのおはなし。

688◇68hJrjtY:2009/02/14(土) 17:44:07 ID:N.pdTvYc0
>Kさん
続きありがとうございます。前回ラストまでは号泣モノで読ませてもらっていましたが
今回でちゃんとハッピーエンドにしてくれてとっても嬉しい一心です(´;ω;`)
「コボ」という名前ではなく、「コボと呼ばれた青い生き物」に変化しているあたりが
もうコボはペットでもなんでもないただのモンスターに変化してしまった…という暗示に思えました。
でも最後の最後にテイマ視点になって、コボと意思疎通できた事に読者としても幸せな気分です。
気が向いたらまたぜひ、お話を執筆してくださいね。お待ちしています。

689蟻人形:2009/02/15(日) 15:24:13 ID:vYAtmCGQ0
  赤に満ちた夜

 0:秉燭夜遊
 Ⅰ >>577-579 (七冊目)
 Ⅱ >>589-590 (  〃  )
 Ⅲ >>604-607 (  〃  )
 Ⅳ >>635-636 (  〃  )


 0:秉燭夜遊 Ⅴ … Lit Light Lives Ⅰ


 静かなノックは廊下と部屋の双方に響いた。
 返事と伺えるものはなかったが、ドアノブはすぐに、しかし遠慮がちに音を立てる。直後、古い木製の扉が軋みながら開き、仄暗い部屋に廊下の灯りが漏れた。
 消極的な訪問に気付いた部屋の占有者により、部屋の最奥から問いが投げかけられる。だが、質問は戸口に立つ者を確認するためのものではない。
「……何人残った?」
 声は意気消沈し、いつにも増して弱々しかった。
 しかし他方はその事実を予期していた。自分が正しく認識され、入室の許可を得たと考えた訪問者は扉を開き、部屋に足を踏み入れた。

 踵の低いブーツが石の床の上を横断する。ヒールが奏でる乾いた靴音は、出入り口の対極に設けられた机の前で止んだ。
 足音の主は机の左に置かれた小棚の上を確認し、転がっていたマッチ箱を手に取る。中の一本を取り出し、粗雑な作りのマッチをこなれた手つきで箱の側面に擦り合わせる。
 マッチの先端が淡い光を発すると、一組の男女が浮かび上がった。
「あたしを入れて四人。だけど移転先が決まるまで、ここに居座る人も多いみたいよ」
 訪問者である女は小棚の燭台を机に移し、蝋燭に火を点した。やや衰えていた幼火は居場所を変えると軽やかに揺れ、すぐに蝋を溶かす作業に取り掛かった。
 女が訪れるずっと前から同じ姿勢で椅子にもたれ掛かっていた男は、それを聞いても大きな反応は示さない。
 彼の傍らで、普段は賑やかなはずの女が静かに佇んでいる。
 火の光に除けられた闇さえも、自分から姿を変えようとはしない。
 部屋の中で動いているのは儚い一つの灯だけであった。

 小さな火は閑寂な空間の大部分に光を届けている。
 まずは二人の人間、机と椅子、そして小棚を一人前に照らしており、次いで白く塗られた壁や冷たい石の床を映し出す。
 四角い空間の中央には飾り気のない大きなテーブルが置かれ、チラシやら書類やらがぞんざいに積まれている。
 外の風景を縁取る窓は一箇所のみだが、見下ろせば南側の路地を行きかう人々の頭が一望できる。
 暗がりにより近くなった部屋の奥には、扉を背にして硬いソファが配置されている。
 そこで目を留めるべきは、人間が座るはずの場所を独占する一組の剣と盾。
 二つの痛み具合から、それらが一人の騎士に一つの戦いで使われたものだと連想できる者はそう多くはないだろう。
 剣には少量の泥が付着している以外は万全の状態を保っているのに対し、激しい凹凸や焼け焦げを負った盾は最早その役割を終え、亡骸のように横たわっている。

 よにん――。
 多少の間を置いて、男の口はそう動いた。勿論女はそれを見逃さない。
 次いで男の顔が傾き、女の視線を拾う。その瞼は腫れ、目は血走り、頬に涙痕がはっきりと残っている。表情から憂い以外の気色を見出すことはできず、心身ともに衰弱しきっているようだった。
 眼前の仲間に向けて無理にでも微笑もうとしたのだろうが、極度の消耗故それに至らず、力なく頬を引き攣らせるに止まった。
 男は再び口を開き、今度は己の言葉を女に伝えることに成功した。
「お前はいいのか? 行くなら行けよ、俺は止めないから」
 乾燥した喉から千切るように言葉を投げる男に対し、女は移籍を勧められることを前もって予想していたようだ。
 彼女は男の言葉を無視し、踵を返して窓に歩み寄った。何時から降り出したのか、細かな雪が灰色の空にちらついていた。
 背を向ける直前、彼女が表情を固くしたことに男が気付いたかどうかは分からない。
 ただ、女の右手が丈の短いカーテンを必要以上に強く引っ張ったことだけは確かだった。
「抜けるわけないでしょ。……したじゃない」
 目線を上げ、カーテンを握り締め、強い口調で、彼女は言った。

 短い言葉ではあったが、それが女の意の全貌ではなかった。彼女は否定の直後、用意していた非難を咄嗟に呑み込んでいた。
 数日前。仲間の命を乞うため敵に降伏したのは、ギルドの長である彼であった。彼は息の根を止めようともせず、只管に相手を弄ぶような子どもに対して頭を下げた。
 仲間を救うためとはいえ、プライドを自ら投げ打った男は果たして、剣を手放した自分を許すことができるだろうか。
 彼と長い付き合いのある女には、その心の内奥までも見て取ることができる。精神の弱さを知り、彼の心情を汲み取っての判断だった。

690蟻人形:2009/02/15(日) 15:25:08 ID:vYAtmCGQ0

 手触りのよい木肌で作られた年代物の椅子が音を立てる。背もたれにかかっていた男の重心が前に移動したのだ。
 揺らめく火を前に考え事をする男、その丸くした背中はまるで六十を過ぎた老人のようであった。
 少しの沈黙の後、今度は机に体重を乗せてから、男は女の方を見ずに尋ねた。ほんの一握りの生気を、無意味な憂さ晴らしに変えて。
「約束は、なかったことにする。それならどうだ?」

 曇った窓の左半分を通して早い夜の街を眺めていた女は、握ったままのカーテンからゆっくりと手を離した。
 質問が耳に届いてからの一瞬、彼女が息を荒くすることはなかった。むしろ、意に反して眉根に寄った皺を取ろうと努めていた。
 今は売られた喧嘩を買っている場合ではない。彼女は自分で考えていたより冷静な判断ができていた。
 女はなるべく普段に近い声色をつくり、男が投げて寄越した破れかぶれな提案をあしらおうと口をひらく。
 それと同時に、無意識のうちに手が動く。その動作は残された左側のカーテンを閉めるための動きではなかった。
「何言ってんのよ、まったく――」

 暗がりの中、女の指の三本が空を掻いた。そう、まるでその場所に自分の髪があり、それを梳かしつけようとするかのように。
 指先に違和感を覚えた彼女は、このとき初めて自分が肩に手を伸ばしていることに気付いた。そしてふと、蝋燭の明かりは自分を照らすことを避けているのでは、という妙な考えに襲われた。
 途端に女の表情に陰りが見えた。それは周囲の暗さとは関係のないものだ。
 他人の様子ばかりを気にかけていて自身の動揺を見つけられずにいたことに、彼女は強い不安を抱いていた。

 女に似合っていた長い金髪は最早見受けられない。その代わり、肩に掛からない程度の短髪が、彼女の覚悟をより深いものにしていた。
 そしてもう一つ。彼女の両手の掌や指の腹には、まだ軽い痛みが残っていた。

 部屋中に響く自分の靴音を聞きながら、女は心持ち足早に男に歩み寄る。燭台に乗った火の勢いが僅かばかり衰えていたのも事実だった。
 適当な距離で足を止め、普段は逞しいはずの肩に手を置き、黙考していた男に自分の存在を気付かせる。
 小さく息を吸った後、女は口を開いた。
「ほら、いい加減元気出しなよ。こういう暗〜いときに盛り上げるのがギルドマスターの役目だって、いつも言ってたじゃない!」
 優しいというより陽気な音だった。残念ながら、その二人分の激励は空しさを隠しきれておらず、女自身が望んでいたような効果をもたらしはしなかった。男の憮然とした態度も事を悪い方向に進めたようだ。
 女は唐突に椅子の肘掛を引っ張り、忽ち男を正面に突き合わせた。
 驚き戸惑う男の眼が幾度もの瞬きを経て女を捉えると、彼女は切迫したような面持ちで男に迫った。
 唇が一瞬震えたが、しっかりとした口調で、彼女は言った。
「思い出して」

 痺れるような永遠の時間が蕩けるように流れ出し、やがて男の声が戻ってきた。これまでで一番大きく、気恥ずかしそうな声が。
「そうだな。ありがとな」
 言いながら前髪を掻いて目を隠す男。そのせいで目の前に立つ女の溶けるような変化にも気付かない。
 それでも気にならなかった。不器用な後押しを受け止めてくれたひとへの感謝を込めて、女は小さく微笑んだ。
 光の中心に陣取る蝋燭の明かりが小さく踊り、二人の影が音もなく揺らめいた。

 ややあって、女は部屋を訪ねたそもそもの理由を思い起こす。それはギルドにとどまった者についての詳らかな報告。つまり、まだ彼女の役目は終わっていない。
 ところで、と切り出すと、男はようやく髪を弄る手を止め、視線は真っ直ぐに女を捉える。
 女が自分以外に残留を名乗り出た三人の名を伝えると、男はおもむろに頷いた。その顔はまだ青白かったが、数分前には見られなかった生気が戻っていた。
「……よし」
 男は自分に気合を叩き込むように唸り、続けて女に言った。
「その三人を広間に呼んでくれ」
「今すぐ?」
 男が延々と座り続けていた椅子から立ち上がったので、半歩後ろに下がりながら女が尋ねた。
「ああ、話がある。俺もすぐ下りるよ」
 男はそう答え、大テーブルに歩み寄った。上に乗った紙の山を漁り始めたのを見て、女は何も言わないままに部屋を出ていった。
 一人と一人が二人になり、二人のまま一人になるまで、蝋燭は始終彼らを照らし出していた。

691蟻人形:2009/02/15(日) 15:26:09 ID:vYAtmCGQ0
お久しぶりです。一週間に一話投稿は全然続きませんでしたorz
戦闘中に過去の話は……と思いましたが、思い切って入れてみました(これ以上延ばすと書くタイミングがなくなりそうなので)。
本編だけで力尽きました。毎回きちんと感想をつけなければと思うんですが……申し訳ないです。

692復讐の女神:2009/02/15(日) 21:43:58 ID:29CoJzW60
 テルと初めての冒険をこなしてから、それなりの月日が経っていた。
 気づけばテルはジェシの家に住み着いており、物置として使用していた部屋をひとつ占領するまでになっていた。
 もともと冒険に出ている日が多く部屋をあける期間が長いため、家を売り払おうか迷っていたが、やめることにしたのはこのためだ。
 それに、一緒に冒険をする間にジェシはテルの性格をおおむね理解しており、ありていに言えば気に入っていた。 
「せっかく部屋が余ってるんだし、お金もったいないじゃない?」
 テルに一緒に住まないかと提案したときに、使った言葉だ。
 宿代は月単位で借りたらしく安く済んでいるようだが、それでもお金はかかる。
 彼女はなにやらお金を必死になって貯めている節があったため、助けてあげたかった。
「ぶー、ジェシお姉さまはひどいですの。私には冒険に来るなといつもおっしゃるのに、テルだけは特別ですの?」
 ビシュカはかわいらしく頬を膨らませ、机につっぷしている。
 ここのところテルと行動することが多く、ビシュカをかまってあげる時間が少なくなったのが原因だろう、少し拗ねてしまったようだ。
「ビシュカ、無理言わないで。テルとビシュカでは冒険者としての経験が違いすぎるわ」
 ふくらんだ頬をつつくと「うぷー」と謎の音を立てて頬がしぼんでいく。
 そもそも、ジェシはビシュカを冒険に連れて行くつもりはない。ジェシの冒険はRED STONEの探索ではなく、個人的な目的だからだ。
 RED STONEの探索はもののついでであり、探索を手伝っていればコミュニティを通じて情報が得られやすいのだ。
「わ、私だって、ちゃんと経験はつんでますのよ! この間は、ラディルと一緒に地下墓地に入ったんですもの!」
 あのときの勇姿はと語りだすビシュカだったが。
「紅茶が入ったわよ」
 台所からトレイを運び出したジェシの鶴の一声で、嬉しそうに足をばたばた動かしだした。
 カランとテーブルに置かれたトレイには、入れられたばかりの紅茶とケーキが乗っていたのだ。
「こら、はしたないわよ」
「だって、ジェシお姉さまとお茶ですもの!」
 ティーポットは、白地に淡い赤の薔薇が描かれたもの。
 それに合わせたティーカップは同じく白地で、とっての部分に小さな薔薇の意匠が飾られていた。
 ティーカップに隠れて分かりづらいが、ソーサは茨を意識して作られたものである。
「トレイの上が、薔薇の舞踏会になってますの」
 ジェシが用意したケーキは、薔薇のジャムをたっぷりと使った赤いケーキであり。
 ティーカップを舞台とし、湯を極として踊るのはローズヒップ。
 ビシュカの言うとおり、まさに薔薇の舞踏会だった。
「別に意識していたわけじゃないんだけどね」
 ティーセットは、下品でない程度で手ごろなものを買った。
 ケーキは街を歩いているとき、懇意にしているお菓子職人に試作品として渡されたものだ。
 ローズヒップは、今日ビシュカが持ってきたもの。
 ここに舞踏会と相成ったのは、小さな奇跡といえよう。
「ジェシお姉さま、なぜティーカップが3つあるんですの?」
 いまこの場には、ジェシとビシュカの2人しかいない。
 普通に考えたなら、2つでよいはずだ。
「規則正しい人がいるからよ」
 小さな間が空き、ビシュカが不思議そうに首をかしげると、階段をギシギシと鳴らす音が聞こえてきた。
 音の主はそのまま一直線にこちらに向かってきて、ドアを開けた。

693復讐の女神:2009/02/15(日) 21:45:47 ID:29CoJzW60
番外編みたいなものをふと思いついたので書きました。
就職やらなんやらで、まったく小説を描く暇がなく泣いてます。
自分の小説を読み返して「あぁ、こんな設定だったっけ」などの思ったり。
4月から就職・・・時間作れなくなるのかな。

694復讐の女神:2009/02/15(日) 21:47:09 ID:29CoJzW60
「おふぁよー」
 テルだった。
 髪はボサボサで、目元にはあくびの結果である涙。寝ぼけているのか服が着こなせていないため、肩口が偏ってしまっている。
「おはよう。紅茶が入ったわよ、飲む?」
「んーのむー」
 とてとてと、目元をこすりながら歩いてきたテルは、近くて空いていたジェシの左隣に座った。
 ちなみにテーブルは長方形で、ビシュカはジェシの真正面に座っている。
 入れたときから時間を計っていたジェシは、蒸らし終わった紅茶をティーカップに入れていく。
 紅茶を全員に配り、ケーキをビシュカと自分の前に用意したジェシは、そこで初めてビシュカがジェシの隣に座ったテルを驚愕
の目で凝視しているのに気がついた。空いた口が本当にふさがらない様子で、言葉も忘れているみたいだ。
 しかし、当のテルは寝ぼけているためかそんなことにもまったく気づいておらず、目の前に置かれた紅茶を黙って手に取り一口。
「ん〜」
 満足そうにティーカップをソーサーの上に置き、頭をふらふらと動かしはじめた。
 そして、ポテリ。
 横にいるジェシの腕に寄り添うよう、倒れこんだのだった。
「お、おおおおおお、お姉さま!? ジェシお姉さま!? なんですの、これは!」
 声が完全に裏返ってしまっているのだが、きっと本人は気づいていないのだろう。
 ジェシは気にした風もなく、右手で優雅に紅茶を楽しんでいる。
「ちょ、ちょとテルさん! ジェシお姉さま、説明してください! いったい、これはなんなんですの!」
 テーブルに乗り出すようにして、テルとジェシを交互に凝視するビシュカ。
「ん〜♪」
 寝ぼけているテルが、嬉しそうな鳴き声でジェシの腕に顔をこすりつけた。
「─────────っ!!!!!!!??」
 もはや、言葉にすらならない悲鳴を上げるビシュカを認め、ジェシはカランとティーカップを置く。
「この子、朝が弱いみたいなのよ。依頼の最中とかはそんなことないんだけど、何もないとこんな感じなのよね」
「で、ですが、ですが……!」
「紅茶1杯飲み終わる頃に、本格的に目が覚めるわ。まあ見てなさい」
 そういってジェシがテルの体を起こすと、テルはまたゆっくりとティーカップを手に取り紅茶を飲みだした。それは本当にゆっくりと
した動きで、たっぷり2分をかけて紅茶を飲み干したテルは、一つ大きなあくびを上げた。
「……っ、おはよっ、ジェシ」
「おはよう、テル。もうお昼は過ぎてるわよ。顔を洗ってらっしゃい」
「うん、そうするわ。って、およ? ビシュカじゃないの、おはよっ。いたの?」
 返事の帰ってこないビシュカに疑問を持ちながらも、顔を洗うために台所へ向かったテル。
 その後姿を、ビシュカは鬼の形相でにらみつけていた。

695復讐の女神:2009/02/15(日) 21:48:56 ID:29CoJzW60
>>693>>694 を脳内で置き換えてもらえるとうれしいですorz

696◇68hJrjtY:2009/02/16(月) 16:26:00 ID:N.pdTvYc0
>蟻人形さん
続きありがとうございます。
少女とあるギルドとの戦闘から一転しての場面転換。
しかしこれは、やはり剣士たちのギルド側が敗北したという見方で良いのでしょうか…。
お話はGv場面からのスタートでしたが、今後ギルドの事やもちろん少女たちの事も
明らかになっていくと思うととても楽しみです。
マスターと思われる男性、そして女性のひとつひとつの所作が細かくて間近で見ているような気がします。
熟考しながらの執筆ですよね、ゆっくりで構いません。続きお待ちしています。

>復讐の女神さん
お久しぶりです、続きありがとうございます。
ジェシ、テル、ビシュカの三人娘の薔薇の舞踏会。ひと時の安らぎ風景に和みました。
ビシュカかわええなぁ(*´д`*) ジェシへの懐きようがほんとにウサギっぽくて可愛い(謎)
ジェシの意向には反してしまいますがビシュカも同行…なんてほのかに妄想しながら続きお待ちしています。
就職ですか、そういえばもうそんな季節ですねぇ。新しい生活のほうも頑張ってくださいね♪

697ヒカル★:削除
削除

698防災頭巾★:削除
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699防災頭巾★:削除
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700防災頭巾★:削除
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701防災頭巾★:削除
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702ヒカル★:削除
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703ヒカル★:削除
削除

704ヒカル★:削除
削除

705◇68hJrjtY:2009/03/14(土) 18:00:30 ID:IPwDFHXg0
保守させていただきます。

最近は花粉がすごいですねー。私もかなり花粉症キテます。鼻水だばだば。
皆様もお気をつけてくださいな。

706名無しさん:2009/03/18(水) 16:53:56 ID:OnMpHZjE0
0時フォリン秘密
30分前に再起もして、長いことやっと連打に勝って秘密に入り
聖水を使うところの前の隊長相手にDTHをつかったシフがいて、強制

戻ってくるころには、2回目の秘密がはじまってました
経験値?入ってませんでした^−^

愚痴ではないが、秘密入口で人がいっぱいいたりしたら再起後でも強制することあるよ

707しー:2009/04/05(日) 00:34:59 ID:gy15gzhw0

古都ブルンネンシュティグ。冒険者たちの最初の拠点に、新米テイマーのミルティは足を踏み入れた。
「ここが、古都・・・」
古都の割には都会で、露店が立ち並んでいる。初めての光景に、ミルティは目を輝かせた。そして、故郷
ビスルにはない、噴水を見つけた。
「わあぁ・・・きれい!」
ミルティははしゃいで、噴水の方へ走り出した。しかし、途中で人にぶつかってしまった。
ぶつかった相手は冷めた目でミルティを見ていたが、ミルティはたたらを踏んでしまった。
「あっ・・・ご、ごめんなさい」
ミルティは慌てて謝った。そのとき、相手の静かでありながら燃えるような赤い双眸と目が合った。折れた
片翼が特徴的な追放天使は、にこりともせず言った。
「次は気をつけるんだよ」
そして天使は去っていこうとしたが、ふと足を止め振り返った。
「な・・・なんですか?」
「何かが取り憑いているかと思っただけだ。私は行く」
そう言うと翼を広げ明後日の方向へ飛んでいってしまった。ミルティはちら、と後ろを振り返った。
建物の陰に溶け込むように一人のシーフが立っている。ミルティがシャドーと呼んでいる、彼女に憑いている
霊である。いつからいたかは覚えていないが、いつの間にか姿を見るようになった。幽霊なのに、なぜか天使や
悪魔、さらには他職にまでよく気づかれる。
ミルティはシャドーに向けて、小さな声で言った。
「夜にまた、姿を見せて」
シャドーはそのまま、黒い霧と化し、消えた。ミルティがため息をついたとき、
「まったく・・・誰に向かって喋ってるんだ人ん家の前で」
振り返ると長身の男、ウィザードが立っていた。あんまりマジメそうに聞かれなかったので、ミルティは笑って
ごまかした。
「あんまり人がいないところで喋るもんじゃないぞ」
ウィザードはそう言って家の中に入っていった。
「はぁ・・・ごまかした」
ミルティは再度ため息をついた。

                       -*-

708しー:2009/04/05(日) 00:51:58 ID:gy15gzhw0

街のすぐ西のコボルトを捕まえてペットにしたミルティはその夜、宿に泊まった。しかし、ペットのコボルト・・・
ベリーがミルティのそばから離れようとしない。
「どうしたの」
ベリーは部屋の一点を見つめて震えている。目をやると、鏡に映ったシャドーが、ベリーの後ろで短剣を構えていた。
「や、やめてよシャドー・・・この子は味方よ」
シャドーが鏡から消え、ゆっくりと闇からにじみ出るようにミルティの前に現れた。ベリーがキィッと鳴いて、逆毛
を立てた。その時、コンコンと部屋のドアがノックされた。
「あぁもう、何こんな時間に・・・シャドー、隠れてて」
ミルティがドアを開けると、ビショップと悪魔が立っていた。
「リエディス、ここからよ、霊の気配がするの!本当よ!」
「ほっとこうよ。殺気とかないしさ」
「ナリを潜めてるんだわ。おじゃまするけどいい?」
相手はそう言って一方的に上がってきた。「いい?」とか言った意味がない。ミルティはあわてて悪魔を止めた。
「ちょっと待ってください、大丈夫ですから」
「それが甘いのよ・・・あっ、いた、あそこ、リエディス!」
悪魔が指さした先に、シャドーがいた。足の先は、闇に包まれ見えない。ビショップは傍からみてもわかるほど
面倒そうにシャドーに近づいた。
「君・・・幽霊みたいだね」
(……)
「この子に危害を加える気かい」
(そんなことはない…)
「君ずっとこの部屋にいたのかい」
(違う。テイマに取り憑いて、様々な景色を見ている)
珍しくシャドーが口をきいている、とミルティが驚くと同時に、ビショップが振り返った。
「守護霊だってよ、フレン?あっ、テイマーさん、ご迷惑おかけしました。これどうぞ」
ビショップはいたって落ち着いた仕草でミルティに何かを握らせた。見ると、小さめの鯛焼きが1つあった。
「ほらほらフレン、行こう」
「待って!絶対あいつは・・・」
「人を疑うのはよくないよ」
そんな会話を交わしながら、2人は出ていった。後にはミルティとベリー、そしてシャドーだけが残された。
「ベリー、鯛焼き半分食べる?」
ベリーはキーキーと嬉しそうに甘えた。ミルティは鯛焼きを半分に割り、頭の方をベリーにあげた。そして自分は
しっぽの方の割ったところをかじり、いつの間にか隣に来ていたシャドーに言った。
「大丈夫かな・・・今日だけで3人にばれたよ」
シャドーはミルティの方を向かずに、低く聞き取りづらい声で言った。
(…お前がいる限り、俺は消えない…)
果たしてどういう意味なのかミルティが考えている間に、シャドーは暗い闇へ消えていってしまった。

                       -*-

709しー:2009/04/05(日) 01:06:53 ID:gy15gzhw0
初めまして。
文章に自信はありませんが、書きました。
新参ながらまだみなさんの文を読んでいません。すみません。
明日ゆっくり読みます。

710◇68hJrjtY:2009/04/07(火) 20:13:01 ID:2jCZ.Q9M0
>しーさん
初めましてー。投稿ありがとうございます♪ ちょこちょこ感想書いてる68hと申します<(_ _)>
なるほど、シフの守護霊とは面白いですね。ミルティとシャドー、そしてベリーの三人旅。
シャドーの目的、というよりもミルティとの隠された繋がりがあるのでしょうか。楽しみです。
ビショップや悪魔など気になる顔ぶれも登場しましたね。続きお待ちしています。

711FAT:2009/04/07(火) 22:22:44 ID:teGRvlfQ0
第一部 『双子の天才姉妹』 二冊目>>798(最終回)

第二部 『水面鏡』

キャラ紹介 三冊目>>21
―田舎の朝― 三冊目1>>22、2>>25-26 
―子供と子供― 三冊目1>>28-29、2>>36、3>>40-42、4>>57-59、5>>98-99、6>>105-107
―双子と娘と― 三冊目1>>173-174、2>>183、3>>185、4>>212
―境界線― 三冊目1>>216、2>>228、3>>229、4>>269、5>>270
―エイミー=ベルツリー― 三冊目1>>294、2>>295-296
―神を冒涜したもの― 三冊目1>>367、2>>368、3>>369
―蘇憶― 五冊目1>>487-488、2>>489、3>>490、4>>497-500、5>>507-508
>>531-532、7>>550、8>>555、9>>556-557、10>>575-576
―ランクーイ― 五冊目1>>579-580、2>>587-589、3>>655-657、4>>827-829
>>908>>910-911、6>>943、7>>944-945、六冊目8>>19-21、9>>57-58、10>>92-96
―言っとくけど、俺はつええぜぇぇぇぇ!!― 六冊目1>>156、2>>193-194、3>>243-245
>>281-283、5>>385-387、6>>442-443、7>>494-495、8>>703-704、9>>705-706、10>>757-758
11>>759 七冊目12>>536-537、13>>538、14>>561-562
―光選― 七冊目1>>599-600、2>>601、3>>609-610、4>>611-612、5>>655-656、6>>657
>>658-660、8>>671-672、9>>673-674、10>>675-676


―11―

 レルロンドを大きな目で見下ろし、フォルダーは炎を纏った姿を睥睨する。
「その程度の炎で立ち向かおうとは、これではナーマ様の腹は満たせぬ。そこの女もただ
の人の模様。せめてナーマ様の食をそそるような姿にし、献上しよう」
 フォルダーは無力なソシアに背を向け、レルロンドに二本の触角を向けた。先端に付い
た小さな二つの目の焦点がレルロンドに重なると、二本の黒い光線がその一点を目掛けて
放たれた。細く鋭い光線はレルロンドの居た場所で接触し、地面を掘り返すほどの爆発を
起こす。
「すごい破壊力だ、あの小さな目が攻撃の主力なのか」
 噴煙を上げ大小の岩石が噴き落ちる中、レルロンドは広い床を転がりながらフォルダー
を分析する。高い天井までの空間は全てフォルダーの間合い。この地の利は覆せない。な
ら、どうする。
「中々の身のこなしだ。だが、いつまで持つかな」
 フォルダーは空中で停滞したまま、逃げ回るレルロンドを目で追い、何度も光線を放つ。
休まず打ち続けられる黒の光線を避けるだけで精一杯のレルロンド。抉られる地面に逃げ
場が無くなっていく。窮地。レルロンドの表情はすでに苦しそうに歪んでいた。しかし、
そんなレルロンドの耳にソシアの応援する声が届く。
「レッルロンド! レッルロンド! あっなたっはゆっうしゃ! レッルロンド! そら
もとべるっぞレッルロンド!」
 軽快な歌がソシアの美しくも力強い声に乗ってレルロンドを勇気付ける。すると、まる
で背が高くなったかのように目線が上がっていく。苦しかった息も戻った。気づけば、地
面が下方に遠くなっていた。
「レッルロンド! レッルロンド! ひをふけもっやせ! レッルロンド! そらかけか
ぜきるレッルロンド!」
 自分でも気付かなかった力が、目覚めたようだった。ソシアが歌えば歌うほど、レルロ
ンドの体に活力が漲ってくる。体を覆う炎もそれに呼応するように熱を増し、勢い付いて
いく。

712FAT:2009/04/07(火) 22:23:17 ID:teGRvlfQ0
「すごい! ソシアさん、応援ありがとうございます!」
 もはや応援というレベルではない。まるで高度な支援魔法を掛け尽してもらったかのよ
うにレルロンドは見違えた。自信に漲る青年はフォルダーの大きな目を不敵に睨みつける。
「この力……真に厄介なのはあの女の方だったか」
 フォルダーは歌うソシアに目の焦点を合わせようとした。しかし、レルロンドの高速射
矢が触角を掠め、狙いを定まらせない。
「ソシアさんには手を出させない。僕が守ってみせる!」
 レルロンドは炎の玉を創り上げると上空に放り投げた。間を置かず、三本の矢をその炎
の玉目掛け投げ入れた。
「その触角、もらう!」
 弓に矢をあてがい、フォルダーに放つ。フォルダーは単純に飛んでくる矢をぐるりと宙
で円を描いて軽々とかわし、触角を俊敏に反応させる。
「真の狙いはそちらだろう!」
 触角はレルロンドを狙わず、上空に浮いている炎の玉に焦点を合わせた。二本の黒い光
線が交差し、空中で爆発が起こる。炎の玉は三方に砕け散り、燦然と輝きながらゆっくり
と落下を始める。
「狙い通り」
 目の離れた一瞬の隙に、レルロンドは嘘のようなスピードでフォルダーに接近し、弓端
の刃で小さな羽を一気に切り落とした。
「ぬうっ! ばかなぁ!」
 羽を失い、落下していくフォルダー。その周りを先ほどの砕け散った三つの炎の残骸が
取り囲んでいた。
「ごめん、師匠の手前、君を生かしてはおけないんだ」
 フォルダーを取り囲んでいる三つの炎の中心には矢があった。その全ての矢じりがフォ
ルダーに向いている。
「ナーマ様に頂いた力に酔いしれていた、と云うわけか。だが、それは貴様も同じことだ
ぞ! 明日は我が身と思え!」
 ボシュッと火を噴き、三本の矢は炎の中から勢いよく噴射されフォルダーに突き刺さり、
燃え上がった。燃え盛る一つの炎は儚い線香花火のように強く光り、地面に激突すると弾
けて消えた。
「明日は我が身……か。ランクーイ……」
 レルロンドはランクーイのことを想った。決して力に酔いしれていた、と言うことでは
ないが結果としてはフォルダーの言葉の通りだ。いや、力に酔いしれていたと言うのなら
ばそれは逞しくなったランクーイの隣にいた自分のことではないだろうか。
 そんなことを考えていると突然強大な魔力の波がレルロンドを側面から飲み込んだ。
「うわぁぁぁぁぁぁああああ!!」
 レルロンドは浮遊したまま衝撃に乗り、背骨が砕けんばかりに強く岩壁に打ち付けられ
た。
レルロンドを襲った強大な魔力の波はラスとナーマの魔法がぶつかり合った際に起こった
魔力の暴発だった。意識を失うと同時にソシアの応援の力が切れ、レルロンドの体は落下
を始める。
「レルロンド!? レルロンド、しっかりなさい」
 重力に引かれ落下してきたレルロンドを頼りなくソシアが受け止める。レルロンドの意
識は既に失われ、激しく打ち付けられた背面は真紅に染まり出血がひどい。
「しかたないですね。ちょっと早いけど大サービスですよ」
 ソシアはレルロンドを静かにおろすと星付きワンドを両手で顔の前にかざし、くるくる
と体を回転し始めた。
「ほら、しっかり。大サービスだからよ〜く見ておきなさい」
 くるくると軽快に回るソシアの全身から暖かな光がほとばしる。その光に導かれたよう
にレルロンドは意識を取り戻し、薄く瞼を開ける。
「うっ、ま、まぶしい……!! え! ソシアさん!?」
 レルロンドの目の前にはいつの間にか全裸になり、回転するソシアの神秘的な舞があっ
た。これは夢か。回転しながらでもソシアの美しい体のラインがレルロンドの眼にはっき
りと映った。レルロンドは傷付いていることも忘れ、立ち上がり、ソシアに夢中になった。
「はいっ! 元気になりましたね、レルロンド」
 レルロンドは白い歯を見せるソシアの言葉に違和感を覚えた。どもりもなく、自分を呼
び捨てにした美しい声。ほんの一時思考の止まったレルロンドの目の前で回転を止めたソ
シアは煙を巻きながら一瞬で別の姿に変身した。視覚がソシアの変貌を捉えたその瞬間、
レルロンドは自分の魂が体から抜け、天に昇っていく様を見た気がした。

713FAT:2009/04/07(火) 22:24:02 ID:teGRvlfQ0

―12―

 誰なのだろう。一体、この目の前にいる皺だらけの老婆は誰なのだろう。
 口をだらしなく開け、放心状態のレルロンドはソシアの代わりに現れた白いローブを羽
織った老婆に己の全てを奪われたように、あっけにとられていた。
「そんな顔をするんじゃありませんよ。仕方なかったのです。私が地上界にくるためには
『ソシア』を演じるしかなかったのです。そうしなければ、私は存在されることすら許さ
れなくなってしまうのですから」
 そんな老婆の言葉はもうレルロンドには届かない。ただただ、走馬灯のようにあの美し
いソシアが頭の中を駆け巡っている。しなやかな指にふやつやとしたもも、香る胸に高雅
な長い金色の髪。初めて意識した男と女の関係。その全てがこの老婆に置き換わっていく。
レルロンドは力なく膝を落とすと顔を深くうな垂れた。
「まぁ、あなたの気持ちがわからないでもありませんよ。だましている私も心が痛みまし
た。ですがね、レルロンド、これから私のすることを見ていてもらえれば、きっとあなた
にも私の苦悩が理解していただけると思いますよ」
 老婆がくるっと回転すると再び美しいソシアに戻った。そして激しい接戦を繰り広げて
いるラスとナーマを指差し、レルロンドに注目するよう促した。
「へえ、あなた、お父上よりも素質があるかも知れないわ。だって、気を抜いたら私が殺
されちゃいそうだもの」
 ラスの頭上に創り出されたいくつもの炎の玉が軍を成してナーマに急行する。ナーマは
体の倍以上もある尾をぶんぶん振って喜んだ。
「でも、私は負けないわ、絶対に。だって、気を抜かないもの」
 長い尾に水元素の魔力を張り、襲い来る炎の群れをまとめて打ち落とす。振り切った尾
からはまるで巨大な剣のような氷の刃が生まれ一直線にラスに斬りかかる。尾の異変を瞬
時に察すると体を倒して横転し、ラスは険しい顔をしてナーマを睨んだ。どんな元素の魔
法を放ってもナーマはその弱点となる元素で対抗する。見極めの速さとその威力の十分さ
から、中々次の手を出せないでいた。

714FAT:2009/04/07(火) 22:24:31 ID:teGRvlfQ0
「あなたが素晴らしいということはよ〜くわかったわ。だから、全力で捕らえてあげる」
 獲物の心を潰さんと禍々しくギョロッとした眼が鈍く光る。ナーマの体から何かが裂け
たような乾いた音が漏れた。すると突如、体の内側から何種類もの妖しい色彩をした魔法
元素が体外に溢れ出した。その元素群が溢れれば溢れるほどナーマの体に溶着し、徐々に
彼女を巨大化していく。ラスは無防備なナーマに風の魔力を乗せた大刀を背まで振りかぶ
り、未完成な体に斬りつけるも溢れ出る混沌とした魔力の前に激しく弾かれ、尻餅をつい
た。既にナーマは見上げるほど巨大なヘビの魔物へとその姿を変化させていた。
「なめやがって!」
 いきり立つラスは大刀を担ぐとナーマの人とヘビの境目に刃を入れる。剣に施したエン
チャットは大地の元素。少しでも傷つけば猛毒を注入できる。しかし、ラスの剣圧をもっ
てしてもナーマの皮膚は硬く、薄皮のひとつも切れない。火花が一瞬輝いた。
「無謀な子。お父上と違って頭は悪いのね」
 すぐさま離れようとしたラスをナーマの長い尾が追撃する。鋼鉄のごとく硬質な尾の先
端が槍のように伸び、ラスの大刀を弾き上げる。がら空きになった胴を狙う捕殺者の意図
をラスは分かっていた。冷気を伴う魔力を胸部に集中させ、不気味な笑みを近づけるナー
マの顔面に凄まじい威力の水鉄砲を放つ。水でありながら触れるもの全てを凍りつかせる
高純度の水元素魔法。至近距離からの発砲にナーマの上体が吹き飛ぶ。しかし、尾はすで
に獲物を捕らえていた、
「うがっ! うおおぉぉぉぉ!!」
 きつくラスを締め付ける長い尾。硬い鱗がラスの内臓を圧迫する。
「きっと、教育者が悪かったのね。可愛そうに。だって、あなた、こんなに簡単に捕まっ
ちゃったじゃない」
 尾を収縮させ、ラスを引き寄せる。凍りついた髪を労わりながら、ナーマの顔には勝者
の笑みが浮かび締め付けられているラスを見下す。
「なめんなよ……なめんなよ! ちくしょう!!」ナーマの罵りにラスの全身が火を噴く。
「だめよ、私の鱗は魔法を通さない。もうあがくだけ無駄なんだから、おとなしく私と一
緒に地下界に来なさい」
「ソシアさん、師匠が!」
「レルロンド、待ちなさい。もう少し、もう少しなのですから」
 ソシアは何かを待っているようだ。しかし、ラスの圧倒的不利は誰の目にも明らかであ
る。レルロンドはラスを助けるか、ソシアの策を待つか迷った。絶対にラスは失いたくな
い。だから今すぐに助け舟を出したい。しかし、ナーマはラスを捕らえると言っていた。
一緒に地下界に行くと言っていた。ならば、殺されることはないのではないだろうか。そ
れなら、何か策を持ってソシアが待てと言うのならば、それに賭けるべきではないだろう
か。内に持てる限りの魔力を集約し、その緊張状態を維持したまま、レルロンドはソシア
を信じ、彼女の策を待つことに決めた。
「負けるかよ!」
 体を拘束された焦燥感から、ラスは感情任せに炎風を巻き起こし抗うが、やはりナーマ
の体には傷一つつけることが出来ない。
「いい顔ね。青臭くって、好きよ。そういうの」
「ま……けるか……」
だんだんに強く締め上がる尾の圧にラスの意識は薄れ、ついには抵抗する力を失い頭を垂
れた。頭の上には目を光らせる捕食者の舌を伸ばした薄気味悪い影が映っている。決定的
な敗北だった。

715FAT:2009/04/07(火) 22:25:55 ID:teGRvlfQ0

―13―

「いい志ね。あなたはきっと私たちの大事な戦力になるわ」
 くたったラスをナーマは称え、右手の掌を天高くピンと肘を伸ばし掲げるとナーマはラ
スを締め付ける尾の力を抜かずに、ぼつぼつと低く唸るように呪文を詠唱し始めた。する
と、高い天井から重く生暖かい、目に映るほど悪意の充満した空気が流れ込み、まるで全
身に重甲冑をつけたかのように体が重く、指先を動かすことさえぎこちなさを感じる。
 闇の門が開いたのだ。
「あなたたち、フォルダーを倒したのは褒めてあげる。敬意を払って食べてあげるからそ
こで待っていなさい」
 巨大なナーマがそのヘビのような目を見開くと、ただでさえ重圧を受けていたレルロン
ドは体が痺れ、身動きが取れなくなった。
「かっ、体が……ソシアさん!?」
 ナーマのヘビ睨みにもソシアは動じず、ワンドを胸の前に構えナーマを見据える。そし
て、ワンドの先端についた星に指先を触れた。
「待ちましたよ、あなたが門を開いてくれるのを。闇への門は闇の者でなければ開けない、
闇への門へは闇の者でなければ辿り着けない。全く、あなたたちは面倒な物をつくってく
れたものです」
「おかしな娘ね、そんなことを知っているなんて。何者かしら」
 ヘビ眼が殺意に色めき立つ。ソシアは泰然自若として動じず、ゆっくりと星を手首で時
計回りに回した。
「この子たちの手前、本当のことを言うわけにはいきません。ですが、これだけは教えて
あげても良いでしょう」
 言葉が切れると同時に、ワンドの先端に捻じ込まれていた星が跳ねるように抜けた。
「門を破壊する者、です」
 解放された星は蒼い尾を引きながら、意思を持ったように一直線に開かれた門を目指す。
もちろんそれを見逃すナーマではない。腕を星に伸ばし、鋭い爪を振るう。だが、意外な
ものがナーマの注意を引いた。
「師匠をはなせ、ヘビ女ぁぁぁぁぁ!!」
 レルロンドが炎を纏った矢をナーマの長い髪に放った。下半身に魔法が通じないことは
分かっている。だからラスを締め付ける尾ではなく、燃えやすそうな髪を狙った。
「くっ! このくそがきがぁぁぁぁ!!」
 星の進行を阻もうと、そちらに気を取られていたナーマは不覚にもレルロンドの火矢を
喰らってしまう。ナーマの体から溢れる微量な魔力の膜によって火矢は消滅し、燃えも傷
つきもしないが恐ろしいことに彼女の怒りに火を点けてしまった。
「坊やが! おもちゃを振り回しちゃ! 危ないでしょぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!」
 レルロンドをナーマの太い尾が襲う。鞭のようにしなる尾にレルロンドは構えることも
できず鉄柱のような尾が深々と腹部にめり込んだ。バキバキといくつかの乾いた音が重な
り、体はそのまま軽々と吹き飛んだ。必然的にラスはナーマの尾から開放された。

716FAT:2009/04/07(火) 22:26:25 ID:teGRvlfQ0
「レルロンド! 無事ですか!?」
 不安げに遠く飛んでいったレルロンドを見遣るソシア。しかし、返事は無く小さく何か
が落ちた音がした。
「レルロンド、無事でいて下さいね。そして出来ることなら、これから起こることを見て
いて下さい」
 ソシアの放った星は門に吸い込まれるように内部へと入っていく。そして次の瞬間、甲
高く鳴ったかと思うと星は砕け散り、星の中に抑えられていた目を塞ぐほど眩い光が門に
亀裂を生じさせた。砕け散った星の欠片、その一つ一つが光り輝く流星となり、門を砕く。
門は内側から破壊され、星から生じた光が門を覆うように隠し、蓋となった。重く悪意に
満ちた風は断ち切られ、代わりに光の流星が戦場に降り注ぐ。
「ぎゃあぁぁぁあぁぁぁああ!!」
 光は悪を浄化し善を癒す。ナーマは雨のように体を打つ流星に焦げ付く己の臭いを嗅い
だ。焼けると同時に溶けてもいるような連続する痛みの感覚、魔法を通さないはずの鱗で
覆われた尾もきりきりと痛む。痛みはナーマの巨大化を解かせ、元の大きさに戻った。
 流星は誰の元にも降り注ぐ。光に打たれたレルロンドはぼぉ〜っとしていた意識が急速
に戻ってくるのを感じた。そして、ソシアが何を待っていたのか、何をしたがっていたの
かを理解した。ぼやける視界で見えた星の爆破と光の降雨。きっと彼女は大きな役目を背
負っているのだろう。「門」を破壊することに何の意味があるのかは分からなかったがソシ
アは自分を偽ってまでその「門」を破壊しようとした。レルロンドの想像では補いきれな
い世界が目の前にあった。
 流星はまた、ラスにも降り注ぐ。光は悪を浄化し善を癒す。ラスが本当に地下界の者な
らば、すなわち悪ならば消滅してしまうだろう。
 しかし、ラスは消えなかった。光は優しくラスを包み、傷ついた体を癒す。意識を失っ
ていた間に何が起こったのか、ラスには見当もつかない。ただ、やるべきことは分かって
いた。本能に従い、目に唯一映るナーマにとどめを刺すべく立ち上がると大刀にエンチャ
ットを施し、弱ったナーマの胴体を切り離した。
「ふっ、ふふふふふふ、頼もしい、実に頼もしいわ。あなた、無意識でしょう? その「闇
のエンチャット」、無意識の賜物でしょう?」
 ラスの剣を見ると黒く、禍々しく、深い闇を湛えた魔力がほとばしっていた。
「私を斬るほどの「闇」、見させてもらったわ。これなら安心して消えれるわ。ふふ、恐く
はないのよ。私たちはそのための一種二代制なんだから。私の娘も、あなたのようにたく
ましく育ってほしいわ」
「闇!? 俺が、かけたのか、この闇のエンチャット……」
「さようなら、次代を担う闇の者、皆が待ち焦がれていた獣魔の英雄。あなたの活躍を見
れないのは残念だけど、私、満足してるのよ。最高の闇だったわ。ただ、その小娘には気
をつけなさい。だって、私たちの敵なんですもの」
 上半身だけのナーマはソシアを睨む。ソシアは真っ直ぐに、透き通るような瞳でナーマ
に手をかざし、呟いた。
「消えなさい。あなたの存在は闇を呼んでしまう。欠片の一つも残しません」
 ナーマの上半身と下半身を突如出現した白い真四角の箱が飲み込む。ぽつり、何か呟く
とソシアの全身がほのかな光に包まれ、静かにその箱に近寄り、体を覆っていた光の魔力
を手に集め、勢いよく箱に叩きつけた。
「あなたは余計なことをしゃべりすぎました。その責任、取っていただきますよ」
 魔力を注入された箱が光を放ち、震え輝く。光が部屋を覆ったかと思うと次の瞬間には
箱が消え、ナーマは消滅していた。文字通り、灰の一つも残りはしなかった。

717FAT:2009/04/07(火) 22:27:02 ID:teGRvlfQ0

―14―

 巨大な空間は一瞬の静寂と煮え切らない思いで硬直していた。何から質問すれば良いの
か、余りにも多くの情報が一度に入ってきてしまって、戦闘で疲れた頭がそれらを整理す
るのを嫌がり、怠っているようだった。
「あ、あのぉ……」
 ソシアがもじもじと二人に話しかける。その話し方は以前のソシアのものだ。
「い、いろいろ、聞きたいことはあるでしょうけど、わ、わたし、しゃべれません」
 二人は黙ったまま、まだ整理のつかない情報を必死に繋げようとしていた。ナーマやソ
シアの発言から推測するに、ラスの父親は地下界におり、ナーマは直接の関与があったよ
うである。地下界と地上界を行き来する手段はあの「門」をくぐること。その「門」は「闇
の者」でなければ開けず、「闇の者」以外は辿り着くことさえ出来ないという。今回、「門」
に辿り着けたのはラスが「闇の者」だからか? しかし、ラスは光に癒された。光にその
存在を認められたのである。ナーマは光に拒絶され、身を焦がした。両者の違いは何か?
 ラスは自分が恐ろしくなった。無意識にかけたエンチャットの属性は闇。本能が選んだ
のは闇の元素。それも「闇の者」を一刀両断にするほどの高純度、高密度の闇。もはやラ
スは自分が地下界の住人だということを認めざるを得なくなっていた。長年人間として育
てられてきたが、無理があったのだ。

 人間ではなかったのだから。

「わ、わたしがなにものかって、きかないんですか?」
 ソシアは無反応な二人が不安になり、じろじろと顔を見た。やはり二人は何の反応も見
せない。
 レルロンドはソシアのしている全てのことに口を出すまいと決めていた。ラスやナーマ
ほどの実力者でも見抜けなかったソシアの秘めた力。戦闘が終わると同時に再び偽りの「ソ
シア」を演じていることに、ソシアの事情の深さを悟ったからだ。彼女のしようとしてい
ることは自分のためではなく、誰かのためなのだろう。だから自分を偽っている。レルロ
ンドは黙り続けた。
「おい」
 ラスが重い口を開く。
「はひ」
「お前に話がある。ちょっと来い」
 ソシアの腕をぐいと引き、ラスとソシアは部屋から出て行った。レルロンドはナーマの
言葉を思い返す。
「その小娘には気をつけなさい。だって、私たちの敵なんですもの」
 まさか、と一瞬残酷なイメージが脳裏を過ぎるが、今ここでラスを疑うわけにはいかな
い。
「そうさ、師匠は師匠なんだ。闇の者なんかでも、地下界の住人なんかでもない、僕らの
師匠なんだ。そうだよな、ランクーイ」
 レルロンドは胸に手をあて、その中にいるランクーイに助けを求めた。緑髪のエルフ、
そしてナーマ。二人はラスを闇の者だと断言した。それだけではない、ラスが使ったあの
闇のエンチャット。もはや疑う余地はない。でも、誰かが信じてあげなければいけない。
弟子である自分が、信じてあげなければいけない。
 レルロンドが胸に手をあて、震えているとラスとソシアが戻ってきた。レルロンドは何
と声をかければよいか、良い言葉が思いつかなかった。しかし、そんな心配をよそにラス
はいつも通りの口調で、
「おい、こんなとこさっさとおさらばするぞ。次に俺たちが目指すのは古都ブルネンシュ
ティグだ。お前もよく知ってるとこだろ?」とレルロンドの腕を持ち上げ、無理やり立た
せた。恐る恐るラスの眼を見るとそこには何の迷いも無く、強い決意を持った黒く力強い
瞳が輝いていた。
「はい! どこへだってついて行きますよ、師匠!」
 ラスの瞳にレルロンドの不安はどこかへ吹き飛んでいった。ラスはラス、それで良いの
だと、ラスの瞳が教えてくれた。
「そ、それじゃあみなさん、げ、げんきにいきましょお!」
 美しいソシアの声がキャンサー気孔に響く。数多くのしこりを残したまま、三人は上塗
りの自論でそれらを覆い隠し、キャンサー気孔を後にした。

718FAT:2009/04/07(火) 22:35:53 ID:teGRvlfQ0
みなさんこんばんは。いつの間にかほんとの春になってて驚きです。
二か月も空いてしまいました。

>>しーさん
はじめまして。
書き初めのなんともいえない緊張感を思い出してレスしてます。
色んな方の小説読むのも楽しいですよね。
内容的にも今までにないタイプのお話だと思いますし、続きを期待してますね。

719◇68hJrjtY:2009/04/08(水) 16:56:31 ID:2jCZ.Q9M0
>FATさん
お久しぶりです。ほんとに二ヶ月ですねぇ、早いものです。
お花見ももう終わり頃で新緑が綺麗な季節ですね。
FATさんの小説は土壇場で予想外な新事実や事件が起きると常々思っていましたが
今回の新事実はソシアの隠れた実態ですね。これは流石に予想外でしたよ!
無論、最初の出会いから考えれば自然とは言い切れない同行ではありましたが。
ラスが闇の者かはたまた光の者かというところですが、個人的にはどっちの者でもラスは大好きです。
精神的な葛藤を越えて、是非とも本来の自分を見つけて欲しいですね。
もちろんストーリーの続きもお待ちしています。次はついに古都への行程ですね。

720名無しさん:2009/04/10(金) 17:37:39 ID:WjRYiJOY0


此処は古都から西へ数キロ、東へ数キロの位置にある古都ブルンネンシュティング。
誰でも勇者になれる、そんな謳い文句で飾られた剣術道場には、今日も多くの入門者が訪れる。
だが厳しい入門試験に通ることができるの数百人の内一人いれば良い方だという。

「アレキスさん」
「なんだ、パッドフット君」

剣術道場といっても、内部は小さな教室のようにしかなっていない。教卓に正座して座る師範を始め、席には数人の生徒が重苦しい雰囲気の中にあった。
その生徒――厳しい入門試験に合格し、道場に入門した少年は手を上げて椅子から立ち上がる。ようやく師範たる剣士、アレキスも教卓から飛び降りる。

「ラビットです、先生。ところで、いつになったら鍛練は開始されるのでしょう」
「ふむ、鍛練を始めたいと言うのか。そういうことならば始めよう」

言うが早いか、アレキスは黒板の方へと歩み寄って黒板に人差し指を立てる。
生徒たちは黙って両の耳に耳栓を入れ、アレキスはそれを全く気にすることなくギィィイ、と爪を立てた。
アレキスは何食わぬ顔で生徒たちの方へと向き直り、生徒たちも無表情で耳栓を外す。耳栓を忘れて呻いている生徒が若干名いるが、残念ながら彼らは内申書にペケだ。
ちなみに内申書は就職や内定に必要になる。勇者と無職は似て非なるものであり、勇者になるなら無職は許されない。

「それでは始めよう、ダメオン君、号礼を」
「ダリオンです、先生」
「それでは授業に入ろう」

アレキスの言葉に手を上げた少年、ダリオンにウインクを飛ばし、アレキスはチョークを手に取って黒板に白の滑らかな線を描く。
程無くして黒板に描かれた美しい古都の情景に、子供たちから賞賛と感嘆の声が上がる。美しく、そしてどこか儚い古都のその姿を、アレキスはチョーク一本で再現して見せたのだ。

「これは何かな、ダメオン君」
「古都ブルンネンシュティングです、先生」
「その通り、これは剣士のパラレルシュティングを立体的に描いた図だ」

ざわざわと生徒たちから声が上がる。
だがアレキスも無理難題を押し付けるほど鬼畜ではない。彼は勇者であって無職ではないからだ。
めくるめく社会の荒波を知らない生徒たちを諭すように柔和な笑顔でアレキスは言う。

「それではパッドフット君、パラレルスティングとは何だ?」
「ラビットです、先生」
「その通り。パラレルスティングとは私の得意技だ」

ざわざわ。

「私はこう考えている。勇者とはパラレルスティングであると」
「先生、仰る意味が分かりません」
「疑問とは己で解決するために存在するのだレベッカ。では授業を続けよう。
レベッカは明日までにパラレルスティングの考察について原稿用紙50枚分の論文を書いて提出する人に嘲笑の目を送ること」
「先生、論文を書いて提出する人は誰ですか」
「もちろんダメオン君だ」

ギクリ、と肩を震わせる数名の少年。このクラスにはダメオンと呼ばれる生徒が5人いた。
ちなみに、初代卒業生の8人の内3人がダメオンだった。別に例の赤い悪魔とは何の因果も関係も無い。

「では実際にパラレルスティングとはどういうものか、見てみよう」

そう言うが早いか、アレキスは全員に立つように言って教室を出た。暗についてこい、と言われた生徒たちはその後をゆらりとした歩調でついて行く。
数分も経たずに古都の西、コボルトの生息地へと到着したアレキス達に通行人の視線が飛び交う。

「先生、こんな人の多い場所で鍛練をするのですか」
「良い質問だパッドフット君」
「ラビットです、先生」

アレキスの拍手に、生徒全員から惜しみない拍手がラビットに送られる。
辻支援の飛び交う西口の情景に細い眼をしつつ、アレキスはゆっくりと腰の剣に手を翳す。

「答えはイエスだ、パッドフット君。勇者とは常に民衆の視線に耐えなければならない」

剣を抜き、目の前の哀れなコボルトに向けて剣を構える。

「さあ、鍛練を始めよう。鍛錬に付き合ってくれるコボルトがせめて心置きなく逝けるよう祈るんだ」

アレキスの言葉に、生徒たちを始め通行人、露天商までもがコボルトへと黙祷を捧ぐ。
決して死者への敬意を忘れてはならない。そう暗に生徒たちにアレキスは指導しているに違いない。その光景を見た露天商ブロームは涙を流し、この涙で後に国会議員となる。

「では鍛練を始めよう」

アレキスはラビット目掛けて剣を振り上げた。

721◇68hJrjtY:2009/04/11(土) 02:31:47 ID:2jCZ.Q9M0
>720さん
投稿ありがとうございます♪しかし、深夜なのに笑わせてもらいました。
なんだか堅い語り口なのに、やってる事がみんなして楽しい…!
「ブルンネンシュティグ=パラレルシュティング」、この発想はマジで無かった。。
ちょっとトボけた感じの面白い先生だと思ってたらラストなんですかこれは(ノ∀`*)
最後までパッドフッド君だったラビット君に敬礼(笑) また投稿お待ちしてますー。

722しー:2009/04/13(月) 00:11:48 ID:fcS9pJCg0

「ベリー、いけ!がんば・・・あ、ベリー!まって、ちょ、ストップスト・・・」
制止の声もむなしく、ミルティは天使が攻撃していたガイコツを倒してしまった。
「ご、ごめんなさい・・・」
ミルティは慌てて謝った。天使は無表情のままミルティを見下ろして一言、
「次は気をつけるんだよ」
「はい・・・」
天使はそのまま飛んでいこうとしたが、ふと翼を下ろして振り返った。
「な、なん・・・」
「お前とは一回会ったな。何かが憑いた、すぐ周りが見えなくなるテイマ」
天使はミルティに反論する暇も与えず、つかつかと歩み寄ってミルティの目の前に立った。冷めた赤い瞳で睨まれ
怯みつつも、ミルティは口を開いた。
「なな何なのぉ・・・べべべ別にいいじゃない・・・」
ミルティが少し涙声になりかけたとき、すっと横から手が伸ばされた。まるでミルティを守るように・・・
「現れたか」
天使は表情を変えず呟いた。シャドーはやや前髪に隠れた深紅の双眸を光らせて天使を睨みつけている。
「幽霊のお前が私に立てつくか。一応ターンアンデッドもあるのだが」
「!!」
ターンアンデッド。範囲内のアンデッドを一瞬にして葬り去る魔法だ。もしそんなものを使われたら・・・
(天使…)
ミルティが再度泣きそうになったとき、シャドーの重く暗い声が響いた。
「何だ」
(もし貴様が俺を消し去るならば、困るのは俺だけではない)
「少女を盾にする気か」
(俺は今は消されたくない)
果たしてそれが嘘か本当かもわからない無感情な声でシャドーは言った。そして俯き、
上目遣いに天使を睨み上げ、笑った。
(クク…そんな無防備で俺に勝てるとでも…?)
天使の体が一瞬ビクリと震えた。翼が消え、髪が色を持ち・・・天使はビショップへ変身を遂げた。そして、
ビショップは膝をついた。
「・・・貴・・・様・・・・・・ッ・・・!!」
ミルティは、はっとした。天使に何が起こったか・・・シャドーが何をしたか。天使やウルフマンは、CPが
切れると変身が解けると、誰かが言っていたような気がする。
「シャドー・・・!」
ミルティはシャドーの方を見た。シャドーの瞳が赤く、暗く光っている。
天使から変身が切れる程搾り取っておきながら、まだ何かを吸収する気だ・・・天使の命が危ない!
ミルティは踵を返し、その場から逃げ出した。

シャドーの目から、光が消えた。だんだんとその姿が薄くなっていく。
(…命拾いしたな……)
そう言い残し、シャドーは消えた。同時にビショップは、力を失って倒れた。

                    -*-

723しー:2009/04/13(月) 00:32:22 ID:fcS9pJCg0

近くに浅い洞窟を見つけ、ミルティはそこへ入った。全力で走ったので、肩で息をする始末だ。こんなに走ったの何年
ぶりだろうと思うと同時に、涙があふれた。ベリーが心配したのか、キィと鳴いた。
「・・・シャ・・・ドー・・・。いる、でしょ・・・?」
ミルティは小さく問いかけた。暗い洞窟に、もう一つの気配が現れる。シャドーは、しゃがみ込んで泣くミルティの横に
立った。
「・・・うぅ・・・シャドー・・・いくらなんでも・・・、やりすぎよ・・・」
(……何故…泣く)
「・・・・・・だって・・・」
ミルティはシャドーの方を見た。
「だってっ・・・あの天使さん・・・すっごく辛そうで・・・でも私、何もできなかった・・・あなたを止めることも
せず・・・」
ミルティは悔しく、そして悲しかった。シャドーとずっと一緒にいたが、シャドーがこんなことをしたのは初めてだった。
自分の相棒が他人を苦しめるなんて思いもしなかった。
だからミルティは謝ってほしかったのだが、
(…今からでも遅くない…天使に謝ってこい)
「っっ、ど、どうしてよ!あなたが悪いんじゃない!」
予想を大きく外れた言葉に、ミルティは食ってかかった。するとシャドーは目を伏せ、
(………そうか)
それだけ言った。シャドーの足元にわだかまっていた黒い霧が、序々にシャドーの体全体を包む。ミルティが
しまったと思った時には、既にシャドーの姿はなかった。少し遅れて、声だけが聞こえた。
(……俺がいなければ、お前は泣くこともなかったわけだな…?)
「・・・・・・・・・」
シャドーの気配が消えたのを感じた。昼間に感じる希薄な視線も、たまに聞こえる幻聴かと思うほど小さい
息遣いも、感じなくなった。
少し離れた所にベリーがいるから、完全に一人ではないが、ミルティは寂しさと虚しさにおそわれた。風が
いつもより冷たく感じ、ミルティは二の腕を抱いた。ここで初めてミルティは、シャドーが憑依を解いたのだと
わかった。
「嘘・・・でしょ・・・?」
呆然として呟いたが、答えてくれる者は誰一人いなかった。

                       -*-

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725◇68hJrjtY:2009/04/13(月) 18:23:00 ID:2jCZ.Q9M0
>しーさん
続きありがとうございます♪
シフ×テイマラヴーとか勝手な妄想爆発してましたが、事態は深刻な展開ですね。
シャドーの隠れた力が発現されたと同時にミルティからの憑依解除…?
今までのほんわかとした流れから一変してきましたね。
これが一時的なものなのか、それとも二人は別離してしまうのか。
先がまったく読めませんが、シャドーとミルティの今後など続きお待ちしています。

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729Rachel:2009/04/20(月) 13:46:34 ID:pFONwgYY0
  Z&eacute;ro licence

 蒼い蒼穹に、少しずつ形を変化させる白い雲。
 その姿は、お祭りで綿菓子をちぎるよう。
 夢を持つ冒険者が集うここ、古都ブルンネンシュティグ。
 世の中は弱肉強食。
 強き者は名声もあり、豪華な食事にありつけるが、弱き者は知らぬ所で消えていく。
 "夢が叶うと思うな。決して清き心の人物が幸福を得るとは限らない。"
 これが親父の、唯一覚えている言葉だ。
 夢を描く事は簡単だ。
 頭で思い浮かべればいい。
 しかし、現実にするためには?
 夢によって様々だが、血も廻る思いで行動しなければならないだろう。
 ある人は力をつけ、ある人は知識、知恵を積み。
 チャンスが2度あるとは限らない。
 1回きりかもしれないし、人によっては1回もないかもしれない。
 では……夢が複数ある人は?
 贅沢者としか言い様がないだろう。
 叶うはずがないだろう、馬鹿野郎、と言える。
 ……いや、俺は。
 俺の夢は全て叶えてみせる。
 5つの、夢。
 叶えなくてはいけないんだ……。



  プロローグ 10歳

 物語は少年が10歳の時のあるきっかけからだった。
 いや、逆に言い換えればそれはきっかけに過ぎなかった。
 少年が、目指す夢の、最初のスタート地点なのだ。
 少年の名はユウヤ=クロリア。
 何の変哲もない、普通の男の子である。
 親は居ない。
 留守だとか、どこか遠くに出かけているなどではなく、ユウヤが物心ついた頃にはもう、この姉だけだったのである。
 母親はビーストテイマー、父親は武道家。
 というのは表向きであり、母親は天に仕える、魔獣使い。
 天上にいる全ての獣はもちろん、地上のモンスターまで全てを手なずけることが出来るという。
 そして、父親の本職はシーフ。
 いや、それよりassassinと言った方がいいだろう。
 以前、国家暗殺に関わっていた5人の内の、リーダー格であったが、ある事をきっかけに計画は崩れ、身を潜めたらしい。
 姉、ミカは母の血を受け継いだ。
 12歳で全てのスキルをマスターし、若くもビーストテイマーで知らない人は居ない、という状態になるが、15歳で引退し、今はロマでユウヤと平凡に暮らしている。

 ユウヤが夢をもつ、きっかけの糸が解れかけていた。

730Rachel:2009/04/20(月) 13:50:02 ID:pFONwgYY0
「ユウヤはさ。」
ふいに、編み物をしていた姉が呟く。
「夢とか、ないの?」
編んでいるのは、ユウヤが使う手袋である。
ユウヤも満10歳。
そろそろ何かの職を教わり始めてもいい年頃。
フランテル大陸には学校がない。
しかし、人の大半は何かの職に就き、何かを極める旅にでる。
男の子はもちろん、女の子もである。
戦いのための偵察術を学んだり、天文学だったり、調練学だったり。
宮廷の侍女にでもなりたかったら宮廷礼節を学び、騎士になりたいならば騎士道……などと。
シーフの場合は弟子入りが基本なのだが、表ざたにしていると死に関わるであろう。
父……ラウリー=クロリアに学んだ者は皆、名を知れる暗殺者に成長している。
国家はこれ以上暗殺者が増えると、反逆者が出、この地位が危ないのではないか……と、
シーフはもちろん、それを教える者にも賞金をかけ、捕まった者は……生きては、帰れない。
まあ、プロならば簡単には捕まったりしないのだが。
そんなふうに、大体の人が学ぶ、平均の年齢というのが10歳なのである。
「俺は普通にこの、ロマ村で暮らすよ。少し狩り出来る程度の腕はあるしさ!」
ユウヤは腕をぶんぶん振り回してみせる。
確かに、何も習ってない状態で……古代ヴァンプに喧嘩を売って、倒せないにしても生きて帰ってきた時点で並はずれているのだが。
「だからこそ、磨けば立派な騎士さんとか、戦士さんとか……まぁ、立派になれるかもしれないのよ?」
暗殺者、とは出さなかった。
ミキは父親のことはあまり良く思っていない様子だった。
母親はミキが、12つの時まで居たのだが、ミキは母親が父親に捨てられたと、そう思っていた。
いつも母親は微笑んでくれていたけど、その瞳はなんだか物寂しげだったから……。
ミキが、12歳……ビーストテイマーをマスターする、ほんの少し前に亡くなってしまった。
偉いね、凄いよって、褒めてくれる前だった。
だからこそミキは……ありえないかもしれないけど、自分がユウヤの前から居なくなってしまう前までに、ユウヤの立派な姿をみて、たくさん褒めてあげたいのだ。
……きっと、私みたいに夢が叶ってもだれも褒めてくれなかったら、すごくさびしいことだから。
叶った夢を、見てみてもちっとも嬉しくなかった、それをユウヤに、体験させたくはなかったのだ。
「……まだ、わかんないよ。やっぱり。」
「そっか。」
ミキは編む手を止め、優しく、ユウヤを小さな両手で包み込む。
育ち盛りの歳。
力ももうミキよりあるだろう。
何にでもいい。
傍で、この子を見守れたら、その時はもう……。

見守れたら。
それも一種の夢であろう。
そして、叶うことの無い夢に……。

731Rachel:2009/04/20(月) 13:55:54 ID:pFONwgYY0
初めまして。
粗末な文ですが、gdgdと考え、出してみました。
プロローグは軸である、ユウヤ君の冒険への始まりに関するところです。
ナレーターのところなど……いろんな人の考えが入り混じるようになってしまい、とても読みにくいと感じてしまうでしょうが、
暇つぶしとして読んで頂ければ光栄です。
まずは10歳、という名でプロローグを書いてみました。
というか……ここで終わったらプロローグまだあるんじゃ……って感じなのですが、
ユウヤ君の旅は12歳から始まります。
2年どこいくの?ってなっちゃうんですが
そこはいろいろと……考えてもなかったりします。
まあ、どうにかなるでしょう……。w
次回は、1話となります。
では、また、よろしくお願いします。
レイチェルでした。

732◇68hJrjtY:2009/04/20(月) 17:57:27 ID:2jCZ.Q9M0
>Rachelさん
初めまして!投稿ありがとうございます。
母の血を引いて天才的な素質を持つ姉のミキ。12歳でマスターして15歳で引退とは…!
シーフの血を引くユウヤ君も今後が期待できそうなのですが、プロローグの段階では判然としませんね。
両親は死んでしまったのか、それとも本当にただ「居なくなって」しまったのかもちょっと気になりました。
果たしてユウヤの「五つの夢」とは。今後、楽しみにしています。

733しー:2009/04/20(月) 18:25:19 ID:fcS9pJCg0

ミルティは古都の宿に泊まった。なんだか前止まった時より部屋が広く見える。ミルティは後ろをついてきたベリーを
ちらりと振り返ると、目が合った。ベリーはそっぽを向いた。ミルティの今のどうしようもない気持ちをなんとなく察しての
ことだろう。
ミルティはバッグからクッキーを取り出して、かじった。しけった味がした。しかしミルティは何も考えることができず、ただ
クッキーを少しずつ食べていった。3分の1くらいまで食べたとき、ふとミルティは、クッキーを食べ終えてしまったらシャドーと
二度と会えないような気がした。ミルティは残りを袋に入れて口をしばった。
扉の外から、小さな声が聞こえる。
「ああっ、こぼしたぁ!」
「・・・フレンってさぁ・・・いつもいつも」
「どういう意味よ!あぁあ、あたしのイチゴ牛乳・・・リエディスのせいだからね。・・・・・・どうして何も言わないの!?ねぇ、
そういうの一番嫌いなパターン・・・」
ガチャ。
ミルティは耐えかねて扉をあけてしまった。ビショップに文句を言っていた悪魔が口をつぐむ。ビショップも、驚いたように
ミルティを見た。
「君は・・・たしか・・・」
「あっ、あなた、霊に取り憑かれてた・・・。あの、前の幽霊はどうしたのよ」
「れい・・・」
悪魔、フレンの言う『霊』がシャドーを指すことに気づくのに、少し時間がかかった。シャドーを思うと、後悔と
寂しさで心が痛かった。
「・・・シャドーなら、いなくなった・・・私が、ひどいこと・・・うっ」
「わわっ、こんなところで泣かないで。入るわよ、いい?」
フレンはそう言って泣き始めたミルティを部屋に入れた。ビショップのリエディスもそれに続いた。

734名無しさん:2009/04/20(月) 19:08:01 ID:fcS9pJCg0

「そう・・・そんなことが」
フレンはミルティから話を聞き、そう漏らした。ミルティはうなずいて、リエディスが淹れてくれたコーヒーに口をつけた。
ミルティの涙もおさまり、部屋の真ん中のテーブルを囲んで3人で座っていた。ミルティは、他人に話したことで心が
少し軽くなるのを感じて、頬が染まった。
「その霊・・・シャドーは、いつからいたんだい」
リエディスが静かに尋ねた。
「もう覚えてない。ずっと前から」
「そうか」
リエディスは少し考え、
「君、ミルティの故郷はビスルだろう?」
「はい・・・」
「じゃぁその近くに墓があるかもね」
言われてみれば確かにそうである。取り憑かれていたということはその辺に霊がいたからに相違ない。リエディスは、
シャドーが自分の墓の近くへ帰ったと考えているようだ。しかし、ビスルには確か墓はなかった。
「ビスルは、墓なかったよ」
ミルティが言うと、フレンが身を乗り出して言った。
「でも、近くのブリッジヘッドにはあるのよ。小さい墓場で、たいした霊もいないみたいだったけど」
「・・・ミルティ、ブリッジヘッドには行ったことあるかい」
リエディスが尋ねた。そういえば、ブリッジヘッドには行ったことがあった。海がきれいで、特に夕方がきれいだった。
そして、そこで謎の声が聞こえ、怖かったことは今でも覚えている。
「そこかもしれない・・・!」
ミルティは希望をこめて言った。リエディスは遠慮がちに、
「いや、そのシャドーが戻ってたらと仮定してのことだし」
「でも、行ってみる価値はある・・・ありがとう!」
ミルティは2人にお辞儀をした。フレンが、少し微笑んだ。
「あのシーフのこと、好きなんでしょ」
「っ、え!?」
急に言われたのでミルティは反応に困った。
「フレン、そろそろ行くよ」
「ふふ、幸運を祈ってる・・・こんなこと悪魔が言うのおかしいかしら?」
「フレンー」
「もう、わかったってば」
フレンはミルティに手を振った。ミルティも、少し照れくさかったが、手を振り返した。

                      -*-

735しー:2009/04/20(月) 19:22:13 ID:fcS9pJCg0

「はぁ・・・はぁ・・・」
思った以上にブリッジヘッドは遠かった。ミルティはアウグスタに着いたが、既に走る気力はなかった。
「ベリ・・・歩こ・・・」
ベリーも疲れているようで、返事をしなかった。ミルティがさあ歩こうと前を向いたら、誰かとぶつかった。
「あっ・・・ご、ごめ」
ミルティの言葉が止まった。このパターンは前にも2回ほどあったが、まさかこんなところで会おうなんて。
「・・・貴様・・・前はよくも・・・」
天使の眼が復讐の色を帯びる。ミルティは慌てて言った。
「い、今は、その、いないの。彼を探しに、ブリッジヘッドまで行くの・・・」
「・・・どういうことだ」

ミルティの話を、天使は黙って聞いていた。ミルティは話しながら、この天使は実は優しかったんだと思うと同時に、申し訳
なさがこみあげた。
「・・・なるほど。それでお前はここまで走ってきたのか」
ミルティがうなずくと、天使は少しミルティから離れ、チャージを始めた。
「・・・・・・あの?」
ミルティが声をかけると、天使はこちらを一瞥し、両手を何も無い空間に向けて掲げた。そこに、白く光り輝く渦が
現れる。
「行け。すぐ消えるぞ」
ミルティはそれがタウンポータルだと、行けと言われるまで気づかなかった。ミルティは一歩踏み出したが、ふと振り返った。
「あの・・・私、ミルティ。あなたは?」
「私か。・・・ニフだ」
「ニフ、ありがとう・・・!」
最後の方は、ポータルに体が吸い込まれる感覚が強すぎて、うまく言えたかどうかわからなかった。

                      -*-

736◇68hJrjtY:2009/04/21(火) 16:44:27 ID:2jCZ.Q9M0
>しーさん
続きありがとうございます!
シャドーを探して旅を始めたミルティに、フレンやリエディスたちが入れ替わり立ち代りで
手助けをしてくれるというのがなんか自分の事のように嬉しい。あのニフまでもが。
それでいてミルティはベリーと共に一人でシャドーを探す…恋は強しですね!
さて、ブリッジヘッドで果たして何が待ち受けるのか。続きお待ちしています。

737DIWALI:2009/04/22(水) 16:17:50 ID:OhTl4zsk0
久々に続きです。

 場所としてはトラン森の西側だろうか・・・その場所は今、一人の青年が生み出した灼熱のせいで森林火災に見舞われている。
 彼の名はミカエル・ウォン。このフランデル大陸において、彼ほど炎の扱いに長けた者はもう一人といない炎の精霊術師・・・
 拳に紅蓮の炎を纏ったミカエルが睨むのは、東の異国からやって来た巨漢。名は東雲橙堂、ラティナの父親である。
 二人の男達は、燃え盛る業火に周りを囲まれながら20分以上も闘いを繰り広げていた・・・

「はっ・・・俺の灼熱領域に入ってこれたのは、アンタが初めてだな。東の国のおっさんよォ? 」
「フン! この程度の熱さなんぞ、生まれ故郷の火山で溶岩浴をすることよか温いわ!! 自惚れるな若造ォっ!!」
「どの口が言ってやがるんだこのジジイっ!!! フランデルの猛者達の力、甘く見てんじゃねぇぞォっ!!!! 」

 両者の怒号が飛び交い、巨大な薙刀と業炎の拳が激突する・・・!! 右の裏拳で薙刀の刃の軌道を逸らして、
 すかさずそこから身を捻り、火炎を纏った右足で後ろ回し蹴りを3連発放った!! 橙堂の脇腹に鈍重な痛みが走る・・・
 だが、橙堂もこれしきで怯むほどヤワでは無い。ミカエルの右足を右腕でガッチリと押さえつけると、左手で握る槍の石突で
 お返しとばかりにミカエルの鳩尾を穿つ・・・!! ミカエルは吹き飛ばされて地面に転げ落ちた。彼の相棒で炎の霊獣ケルビーが
 主の下へと迅速に駆け寄り、介抱している・・・

『ミカエル!! 大丈夫か?』
「っ、いてててて・・・・ペッ、にゃろォ〜!! やってくれるじゃねぇか 」
「フフっ、若造。お前こそ見事な蹴りを放つではないか・・・私としたことが甘く見ていたな 」

「ハッ、だ〜から言ったじゃねぇかよ。フランデルの猛者達を見くびるなってよ? けどな、俺はまだまだ弱い。
 まだまだ甘ぇよ。俺が目指している高みなんかにゃ程遠い・・・『英雄王のネリエル』や『唄姫のルフィエ』に比べりゃ
 俺の『炎帝』の二つ名なんか蟻並みさ・・・だが、高みへ行くためにも俺はここで負けるわけにはいかねぇ!!
 魅せてやるぜ、俺の本気100%の灼熱の世界を!!!」

 指をぱちんと鳴らし、相棒のケルビーにインシナレイトの火力を上げさせた。遠くからでも見えるほどの陽炎が森を覆い
 近づいただけで肌を焦がしそうな熱気が漂い出す・・・対する橙堂は、着ていた着物の上半身を脱いで裸になった。
 筋骨隆々な肉体を誇る彼の背には、東方伝来の芸術によって描かれた、天へと昇る龍の刺青があった・・・!!!

「その心意気や良し!! この『昇り龍』の橙堂、奥義を振るうに恥じぬ!!! 行くぞ、灼熱の王っ!!!」

738DIWALI:2009/04/22(水) 16:42:30 ID:OhTl4zsk0
「はァっ、はァっ・・・はァ〜・・・熱い、砂漠じゃないのに何か熱い!! ミカっちめ、森を砂漠化させたいの!? 」
「っ・・・ティ、ティエラさん・・・これ以上近づけば、火傷しちゃいそうですよぉ〜・・・ぜぇっ、ぜぇ 」

  橙堂とミカエルが闘っている場所より少し離れた森の小道。怒りのあまり、森林火災を引き起こしたミカエルを止めようと
 ティエラとラティナ、そして奇妙な木の実で年齢が退行、幼児化してしまったミリアたち一行は現場へと近づいていく。
 しかし、幼児化してしまい体力もそれ並みになってしまったミリアには、森中に漂う熱気が水分を奪うほど有害なものになっていた。
 顔を赤くし、息遣いも安定しない様子に、ティエラたち二人のランサーも戸惑いを隠せなかった・・・

「ふぇ・・・ぁぅ、あつ・・・い」
「大変、脱水症状を起こしてるわ!! ・・・っ、ティエラさん!
 わたしはミリアちゃんに水分を与えますから、先に行ってミリアちゃんのお兄さんを止めて下さい!! お願いしますっ!!! 」
「うん、わかったよ!! 全く馬鹿ミカエル、直情的なところは相変わらずなんだからっ!!! 」

 ホースキラーを握り締めて、ティエラは風に乗るような高速移動でどんどん進んでいった。
 砂漠のような暑さが漂う異常な森の中、ポーチから水筒を取り出して、少しずつ水をミリアに飲ませた。
 失われていた水分を取り戻した彼女の顔には微笑が浮かび上がり、間もなくすやすやと眠ってしまった。

「あっ・・・ふふ、疲れちゃったのかな。何で幼児に戻っちゃったのかわかんないけど、
 やっぱりミリアちゃん可愛いなぁ。わたしとトレスヴァントに子供が生まれたらこんなに可愛く・・・
 って、何勝手に妄想しちゃってるのよ〜!? わたしのバカバカバカぁ〜、忘れろっ、忘れろォ〜!!!!」

 妄想に顔を赤らめるも、それをしていた自分に突っ込みを入れて頭をポカポカと叩くラティナ。
 すると彼女の背後に二人の人物が現われ、ラティナはその姿に驚きを露わにした・・・

to be continued...

739DIWALI:2009/04/22(水) 16:51:27 ID:OhTl4zsk0
あっ、sage忘れてすいません!!
久々に投稿、ミカエルと橙堂の戦闘シーンを書いてみました・・・短いですが。
最近は色々と忙しくなって、SSスレも赤石もあまりできなくなってますが、ぼちぼちやっていきたいです;;



私言

某ブログでの1年前の記事にて、名指しで不満をブチまけられたのに今更気付きました・・・
「何故直球エロを描いた?閲覧者は誰もが大人じゃない、閲覧者の視点で考えろ、自重しろ」と。
仰るとおりです、ただ開き直って天狗になってただけでした。

今まで、自分の作品で不快感を感じた人へ・・・月並みな言葉ですが


『ごめんなさい。』

740ヒカル★:削除
削除

741みやび:2009/04/22(水) 19:17:03 ID:ywVIv7TQ0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Responce
>DIWALIさん
 こんにちは! そして超がつくほどお久しぶりです。
 隠居中の身なのでコテハン無しにしようかとも思いましたが「お前誰やねん!」と言われ
そうなので一時的に復活。※活動を再開したわけではありませんのこと(汗)

 某ブログのお話しについて。
 詳しい経緯は知らないので迂闊なことは言えませんが……少なくとも個人攻撃に対しては
毅然としていてよいかと存じます。正論を掲げさえすればあらゆる行為は正義である、など
という考えは危険思想だと思いますし。もっとも私もかなり口が悪いほうなので、あまり偉そ
うなことは言えないのですが(汗)
 ただそれを逆手にとって盾とする行為もまた、個人攻撃者となんら変わらないことになって
しまいますから、ひとことお詫びしてあとは静観――というのが平和的でしょうね。
 エロ自体の是非については、普通の人がドン引きしそうなアングラ系でも屁の河童な私的
には「ノープロブレム!」と言いたいところではありますけれど(汗) 場所が場所なので『抜
いてもらうために書いた』ようなスタンスのエロはさすがにまずいでしょうね。
 ただ私の見落としがなければ、DIWALIさんに限らずここに投下された過去作品の中に度
を越した、いわゆる“えげつない”エロは一本もなかったように記憶してますが……はて。
 一冊目あたりには存在していた可能性もありますが、だとしてもすでに削除済みのはずで
すから。ちょっと謎ですね(汗)
 いずれにしても元気出してください。

 後ろ回し蹴りステキ。こういうのを読むと農家作りたくなっちゃいますよね。まあ知り合いが
もれなく引退および行方不明の今となっては、新規にキャラをこしらえて無課金でやっていく
にはモチベーションを新たに設定しなくちゃなりませんが(汗)
 あとラティナのボケっぷりに100点(笑)

 追記――。
 その他の職人さん、感想できなくてごめんなさい。
 最近はスレの安否を確認するためにアクセスしている状態なので、通読に至っていないの
が実情だったり……(汗)
 でもご新規さんもチラホラいてステキ。今度ちゃんと読みますorz

 ここはひとつ68hさんに作品を投下してもらって場を盛り上げる! という手も(笑)
 あれ。それにしても書式おかしいかなこれ? ちょいと最近仕入れたエディタを使っている
ので自信ないかも……。改行ズレてたらすみましぇん(泣)
Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

742ヒカル★:削除
削除

743◇68hJrjtY:2009/04/22(水) 23:05:14 ID:2jCZ.Q9M0
>DIWALIさん
おぉ、久しぶりです!この啖呵の切り合いぶりはまさしくDIWALIさんの小説だ(*´д`*)
東雲vsミカエル戦もたけなわ、どっちが負けても無事に済まない展開になってきましたね!
しかしほっとしたのも束の間今度はラティナ&ミリアに伸びる謎の姿…敵か味方か。
幼児化ミリアがまたまた暴走してくれるかなとか勝手に期待してます(笑)
---
エロというものを主軸に扱うかサブ的な要素として用いるかでだいぶ印象も変わりますしね。
DIWALIさんの作品は後者だと前々から認識していましたので、私としても気にはなりませんでした。
ブログのコメントなど他人の意見には毅然とすべきだというみやびさんの言葉ももっともだと思います。
こういった匿名のコメントひとつで作風を変える必要は無いと思いますよ。プロ作家さんなんかは膨大な批判があるようですしね。

>みやびさん
こちらもお久しぶりです♪このスレでは(笑)
コテハン無しなんて許しませんぞ!もはやみやびさんはこのスレの歴史に残ってますよ!
スレの安否…。私も新掲示板の広告コピペがあったもんで、みんなそっちに移動したのかなーとか邪推してました(笑)
いっちょ盛り上げようかと、消えた小説を復活作業はしてみましたがなかなか進まずorz
エディタ使用ですか!改行など、大丈夫なようですよ〜(笑) in Firefox3

744ヒカル★:削除
削除


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