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【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 七冊目【SS】

1ルイーダ★:2008/05/03(土) 01:08:47 ID:???0
【重要】以下の項目を読み、しっかり頭に入れておきましょう。
※このスレッドはsage進行です。
※下げ方:E-mail欄に半角英数で「sage」と入れて本文を書き込む。
※上げる際には時間帯等を考慮のこと。むやみに上げるのは荒れの原因となります。
※激しくSな鞭叩きは厳禁!
※煽り・荒らしはもの凄い勢いで放置!
※煽り・荒らしを放置できない人は同類!
※職人さんたちを直接的に急かすような書き込みはなるべく控えること。
※どうしてもageなければならないようなときには、時間帯などを考えてageること。
※sageの方法が分からない初心者の方は↓へ。
http://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1117795323.html#562


【職人の皆さんへ】
※当スレはあくまで赤石好きの作者・読者が楽しむ場です。
 「自分の下手な文章なんか……」と躊躇している方もどしどし投稿してください。
 ここでは技術よりも「書きたい!」という気持ちを尊重します。
※短編/長編/ジャンルは問いません。改編やRS内で本当に起こったネタ話なども可。
※マジなエロ・グロは自重のこと。そっち系は別スレをご利用ください。(過去ログ参照)


【読者の皆さんへ】
※激しくSな鞭叩きは厳禁です。
※煽りや荒らしは徹底放置のこと。反応した時点で同類と見なされます。
※職人さんたちを直接的に急かすような書き込みはなるべく控えること。


【過去のスレッド】
一冊目 【ノベール】REDSTONE小説うpスレッド【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1117795323.html

二冊目 【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 二冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1127802779.html

三冊目 【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 三冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1139745351.html

四冊目 【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 四冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1170256068/

五冊目【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 五冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1182873433/

六冊目【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 六冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1200393277/

【小説まとめサイト】
RED STONE 小説upスレッド まとめ
ttp://www27.atwiki.jp/rsnovel/

613FAT:2008/12/14(日) 20:24:10 ID:07LLjSJI0
昨晩は雪が降りました。つま先が冷えます。

>>68hさん
書き始めの頃はこのソシアがラスたちと書き馴染めるか不安でしたが、なんとか
なるものですね。
リトルが異星人って設定にしてしまうとスケールが広がりすぎて収拾つかなく
なっちゃいそうなのでやめときました 笑

>>蟻人形さん
表現力が凄いです。語彙力とそれらを組み合わせるのが本当に上手いなとただただ
感動するばかりです。
僅かな時間の経過の中での膨大な思考の回転に読んでいるこちらも緊迫し、一挙一動
に息を詰まらせています。
続きも楽しみにしています。

614防災頭巾★:削除
削除

615◇68hJrjtY:2008/12/15(月) 20:55:04 ID:jj8GvLEo0
>蟻人形さん
続きありがとうございます。
決して大規模ではない、少女一人と数人の戦いだというのに恐ろしいほどの緊張感を感じます。
謎の力を持つ少女とて無敵ではなく、剣士を筆頭とするメンバーたちとの火花散る戦い。
勝敗がどうの、という以前に一刻ごとの戦闘の流れに見惚れました。
さて、武道家キターと言いたいところですが…20人の分身!?(;゜ロ゜)
ついに焦りの見えた少女、「力」も気になるところです。続きお待ちしています。

>FATさん
続きありがとうございます〜!
沈みがちな行軍がソシア加入でやっぱり楽しくて明るいものになった気がします。
もちろん邪な視線と二人の男としての本性も同時に磨かれたようですが、それも含めて(笑)
むしろここで人間的にも二人の成長が描かれているような気もしました。レンダルたちと出会った時が楽しみ(ノ∀`*)
さて、キャンサー気孔でのレルロンドの修行。ランクーイの「ために」ではなく、「共に生きる」。
それこそがレルロンドの本当の意思であり、この物語の数あるひとつの柱とも思いました。
続きお待ちしています!

616柚子:2008/12/20(土) 17:45:11 ID:PR0YW7JE0
前作 最終回 六冊目>>837-853
Avengers
登場人物 >>542
1. >>543-551 2.>>568-573 3.>>593-597


エルネストが目覚めた日から、既に一週間が経とうとしていた。
盗賊たちは彼に温かく触れてくれて、カルン以外にも何人か話し相手もできた。
それでも、カルンと話す時間が1番長かった。
「はい。左腕を上げてください」
「もう体も動く。君がやる必要はないのだが」
エルネストはカルンに包帯を巻かれていた。
量は多いが、それでも日に日に少なくなってきている。
「いいです、やりたくてやっているんですから。それにこれは他人にやってもらった方が早いですし。はい、終わり!」
包帯の先を切り、結んだ後、お約束のように背中を叩く。
それからしばらく、カルンは男の引き締まった無駄のない肉体を眺める。
「それにしても、回復速度が異常です。これも騎士団の隊長さんだから?」
特に隠す必要もないので、エルネストはカルンに自分のことも話していた。
「いいや。これは私の体中に張り巡らされている身体強化の魔術のお陰だ」
「へえ、私もしてみようかしら?」
「すごく痛いぞ」
「やっぱり遠慮しておきますね」
カルンの言葉にエルネストが軽く笑う。
エルネストはあれから笑うことが多くなってきていた。
「この分だと、あと3日もあれば完治するだろう」
エルネストは己の体に手を当てる。
「早く治るといいですね」
そう言うカルンは言葉とは反対に少し寂しそうな表情だった。
そんなカルンをエルネストは悟り、少し考え込む。
「……邪魔でなければ、もう少しここに居させてもらおうと思う」
瞬間、カルンの表情が少女のように輝いた。
「はい! ここはいつでも年中無休ですから」
カルンの声が弾む。
エルネストはもう1度軽く笑って見せた。

617柚子:2008/12/20(土) 17:46:22 ID:PR0YW7JE0
道行く人を掻き分けるように歩く。朝だというのに凄い人の量である。
古都の街は人口が爆発寸前だ。
イリーナたち4人は再び街中を歩いていた。
大通りでは人が多すぎてカーペットが使えないのだ。
それに目的地も大通りに面しているのである。
「よくもこんな地価が高い所に建てられるわね。くそっ!」
ギルドマスターのアメリアが歯噛みする。
昨晩では平気な顔をしていたが、実は彼女が1番悔しかったらしい。
つまり、これから向かう場所はブランクギルド事務所なのだ。
昨晩は余興で、翌日の今日に詳細を話すらしい。
イリーナとしてはただ気が重いだけだった。
「マスター、一体どんな仕事なんです? 死んだり死にかける予感で死にそうなんですが」
「うるさい黙れ。くそ、人が邪魔ね。刺してやりたいわ」
イリーナは仮にも民間人を守る為のギルドの人間が、絶対に言ってはいけない言葉を聞いた気がした。
確かに人が邪魔で思うように進めない。
イリーナはルイスの後ろに居たので掻き分ける必要はなかった。
ルイスの迫力に、街の人間が自ら避けてくれるからだ。
「ルイス除人機だな」
「黙れ、ゴミ排出機」
背中越しにルイスが言ってくる。
反撃しようとすると、深くフードを被った子供と肩がぶつかった。
「すまない」
イリーナが言うが、子供は気にすることなくそのまま人混みの中へと潜っていく。
一瞬、懐かしい匂いが鼻をかすめる。思い出そうとするが、なかなか思い出せない。
考えていると、もう目的地に着くところだった。
昼間に最も人口が密集する中央区に建つ4階建ての建造物。
ブランクギルド事務所がそこにあった。
外壁には象徴図である重厚な盾を描いた旗がいくつもたなびいている。
中に入ると一般団員たちがせわしなく働いていた。
古都の一角を張る巨大ギルドでも忙しさには勝てないようだ。
「凄い数ね。何人いるのかしら?」
「この本部だけで30名。支部を含めると100名を超えるそうです」
アメリアの疑問にアルトールが事務的に答える。
アルトールが言ったのは戦闘員の人数。非戦闘員も含めるともっと増えるだろう。
最近はさらに増え、若手の育成に力を入れているとも噂で聞く。
段違いの規模に驚きを通り越して呆れるしかなかった。
「同業者だとは思いたくもないね」
イリーナが小さく感想を漏らした。
「いつか抜いてやるわ」
アメリアが夢のような夢を言う。
この現実を目の当たりにしても、彼女は本気で言っているようだ。
イリーナはそんな彼女を少し羨ましく思った。

618柚子:2008/12/20(土) 17:47:40 ID:PR0YW7JE0
受付の女性に尋ねて場所を教えてもらう。
会議室は4階にあるようだ。
階段を上がり、幅広い廊下を抜ける。会議室に入ると、既に昨晩と同じ顔触れが揃っていた。
中心に座るギルドマスターのグイードを挟むように、全身漆黒のディーターに、人形のようなマイアが両脇に陣取る。
「よく来てくれたな」
グイードが軽く会釈する。
両脇の2人もそれに倣った。
「失礼ですが、よほど多忙とお見えになりますが?」
まさか3人だけとは思わず、イリーナは遠まわしの皮肉を口にする。
「いや、これでいい」
イリーナの言葉に嫌な顔1つせずグイードが答えた。
「これから話すことは、我々のみで行う。マイア、あれを」
言われたマイアが数枚の用紙を取り出す。
イリーナたちも腰を下ろし、それを受け取った。
配られた物には、例の殺人事件の場所や時刻などが詳細に書き綴られていた。
「ご存知の通り、それは最近古都を賑わせる事件の1つだ」
全員がグイードに耳を傾ける。
「我々は依頼を受けこの事件の解決に協力していた」
「だが、未だに何も出来ていないようだな」
イリーナは言ってやる。
被害者は増え、犯人は今ものうのうと生きているのだから遠慮する必要はない。
「いや、進展はある」
グイードが意外な言葉を吐いた。
「どういう事だ?」
「4日目の日に、我々は遂に交戦することに成功した」
その言葉に、イリーナたちは驚きを隠せなかった。
「そいつは変わった仮面を被った子供でな、不思議な戦い方をする」
「それで、逃がしたとか言うのか?」
グイードは首を振る。
「いいや、厄介だったが倒した。だが、仲間が2人やられた」
イリーナの頭に疑問が生じる。
それを察したように、グイードは続けた。
「次は君たちも知っているように、次の日は西区長が殺された。昨晩もやはり起こったそうだ」
「つまり、犯人は複数犯ということですね?」
アメリアがそこから導き出せる答えを下す。
グイードが重々しく頷いた。
「さらに分かったことがある。我々は倒した敵の死体から仮面を外そうとした。しかし、その前に奴は砂になって消滅したのだ」
「あり得ない」
それは信じられることではなかった。
イリーナはこれまでの依頼で数多くの人間を殺してきたが、そんな異質な体質の人間は1人もいなかった。
「いいえ、それはあり得ることです」
答えたのはアルトールだった。
「敵は人型の魔獣ではなく、確実に人間だったのですよね?」
「ああ、そうだ」
アルトールが大きく息を吐く。
全員の視線がアルトールに集中していた。
「闇の魔術に死霊術というものがあります。その魔術に操られた人間、つまりシビトは再び死ぬと異常な早さで分解され、砂に還ると聞きます」
イリーナも聞いたことがある。
何度かネクロマンサーと対峙したことがあるが、強力なやつは死者の軍を率いていることがあった。
長く使役されている死者は肉が腐り、骨だけで動いていたのを覚えている。
それらは、確かに倒すと砂になった。
「しかし、現在その魔術を成功させた人間はいないと聞きます。闇の魔術を操れる人間自体が希少なので詳しくは分かりませんが」
「つまり、敵はネクロマンサーか、もしくはそのあり得ない魔術を習得した人間だと?」
「私にはそうとしか思えませんね」
「やはり、そうか」
グイードが重々しい息を吐く。彼も同じ結論に至っていたらしい。
「出来れば前者であってほしいね。後者だと厄介に過ぎる」
「俺は後者がいい」
横を向くとルイスが薄く笑っていた。戦闘の予感に疼いているのだろう。
「おい、どっちがいいとか暢気な話をしている場合かよ」
ディーターが突っかかってくる。
それにしても何かと噛み付いてくる男だ。特にルイスに。
イリーナは昨晩のその後の食事風景を思い出した。
「だが、ネクロマンサーのような魔獣がこのような事件を起こすとも思えん。後者だと想定して動いた方が良いだろう」
グイードが下した決断に、広い会議室の室内に重たい空気が張り詰める。
「それで、本題はこれからだ」
「何だと?」
咄嗟に横を向くと、アメリアが笑顔を浮かべていた。
イリーナは嫌な予感がした。

619柚子:2008/12/20(土) 17:48:25 ID:PR0YW7JE0
「今言った件だけなら我々でも十分に対処できる。だが、もう1つ依頼があってな。こちらの方がある意味厄介だ」
イリーナはアメリアの笑顔の意味が分かった。これがアメリアの言っていた大きな仕事なのだ。
グイードとアメリアが目線で確認し、グイードが話を進めていく。
「ある方の護衛を頼まれていてな、これを君たちに協力して欲しい」
「依頼主は?」
一拍の間を置いて、グイードが続けた。
「……現アリアン党首、ダグラス国王だ」
グイードの言葉に、イリーナに衝撃が走る。流石のルイスも驚きを隠せない様子だった。
「百歩譲って、何故そんな話が私たちに回ってくるんだ?」
「スパイの心配がない、他国で有名なギルドに頼みたいのだそうだ。もちろん、依頼も特別ルートを辿って要請された」
イリーナは気がさらに重くなった気がした。
対象相手が大物過ぎる。
「それで、誰から守ればいい?」
「今噂の革命軍からだ」
イリーナは再び衝撃に貫かれた。
先ほどから、予想の遥か上の回答が返ってくる。
イリーナは心労がさらに募った気がした。
「要請だと護衛は4人。だが我々が受けた要請だから丸々そちらに任せるわけにはいかない」
「だから、俺たちが行く。そっちからも同行する2人を選んでくれ」
グイードの隣のディーターが手っ取り早く進める。
どうやら、あちらは副マスターの2人が同行してくれるようだ。
「そうね」
全員の注目がアメリアに注がれる。
アメリアは少し迷ったような演技の後、あっさりと決断を下した。
「こちらからはイリーナとルイスを行かせるわ」
「な……」
明らかに悪意のある悪質な嫌がらせに、イリーナが言葉に詰まる。
あの2人と、さらにルイスと組むなど悪夢としか思えない。
イリーナはストレスがさらに溜まった気がした。
「何でこいつらと。冗談じゃねえ!」
「俺はこちらの敵と戦いたいのだが」
「いいじゃない、面白そうだし?」
冷気を含んだアメリアの笑顔に、男共が押し黙る。
「それでは、残りの2人はこちらに協力してもらおう」
「決まりね」
改めて2人のギルドマスターが握手をして契約を完了させる。
隣ではルイスとディーターが睨み合っていた。
先が思いやられそうだ。
「アリアン出発は2日後、詳細は後で送ろう。これで会議は終了する」
グイードが締めくくり、全員立ち上がる。
イリーナたちが出ようとすると、入れ替わるようにギルドの人間が飛び込んできた。
「マスター、例の殺人犯が現れました!」
「何だと!」
その報告に全員が反応する。
「既に軍、ギルド共に緊急要請が入っています! 場所は中央区噴水前!」
「ここが1番近いか。鈍間の軍は待っていられん。我々が行くぞ!」
「了解!」
ディーターとマイアが戦闘準備を始める。
「君は各隊と共に民間人の救助に向かってくれ。我々は殲滅に向かう」
「了解!」
そう言ってその団員は駆け出して行った。
「行くぞ、ディーター、マイア」
装備を終えたグイードが窓を開け放ち、そのまま空中に身を投げ出す。
次にディーターがマイアを抱えてグイードに続く。
「私たちも行くわよ!」
「はい!」
正義感の強いアメリアとアルトールが追うように窓から飛び出す。
「おい、ここは何階だと……」
イリーナが呆気に取られていると、不意に襟首を掴まれた。
「来い、貧弱」
ルイスが片腕でイリーナを持ち上げる。
「私は人間らしく階段で、って待って、やめて、心の準備がまだ……」
イリーナを待つはずもなく、ルイスがイリーナを抱えて窓から身を投げる。
イリーナの声無き叫びと共に難無く地面に着地する。
着地と同時にルイスがイリーナを放り投げる。
「階段を考え出した人の偉大さを再認識したよ」
「下らない事を言ってないで行くぞ」
2人はグイードたちの後を追う為に走り出した。

620柚子:2008/12/20(土) 17:58:35 ID:PR0YW7JE0
こんばんは。そろそろ今年も終わりますね。
今年中にあと1つは投下したいです。

>FATさん
久々のラスパート。新キャラのソシアのお陰か微笑ましいです。
ソシアをちらちら見る2人は、むしろ正常。男の哀しい性ですね。
レルロンドの成長ぶりは目を見張るものがありますね。これからどう成長していくのか楽しみです。
続きをお待ちしています。

621FAT:2008/12/23(火) 16:08:29 ID:07LLjSJI0
【赤鼻のビショさん】



ジンジングルグールベェ〜ル♪ジングリベェ〜ル♪

OH!!

ジングリグリグリジングリベェェェェェェ〜〜〜〜ル♪♪♪

赤鼻のビショさんがやってきた!! 真っ赤なお鼻で子供を探せ!!

おっきな袋に夢と子供を詰め込んで!! 一緒に行こうよ夢の国へ!!



「HEY!! 僕は赤鼻のビショさん!! トナトナ君今日は何の日か知ってるよな!!」
「天皇様の誕生日だね! ビショさん!!」
「ノンノンナンセンス♪ 今日はクリスッマッスイブイヴ!! 
トナトナ君、クリスマスイッヴイッヴといえば何が楽しみかな?」
「天皇様がまた一つ、ご無事に歳を召されたことです」
「HEY!! ボォォォッォォォォイッ!! 赤石に入りな。おじさんが
本当の楽しみってやつをティーチングしてたもう」
「ティーチン“グゥゥゥゥッゥゥ”!?」
「ノンノン!! そんな他人のネタは使わせないのがおじさんさ。さぁ、一緒にレッツ赤石in☆」



――赤石の中――

 真っ赤なお鼻のビショさんは子供たちに大人気!
 ほら、さっそくかわいらしいアリアンの子供たちがビショさんの周りに集まってきた!

「わぁ☆赤鼻のビショさんだぁ〜〜☆☆」
「HEY!! 赤石の☆たち、今年もおじさんの季節がやってきたよ!! さぁ、望みのものを出しな!!」
 赤い髪の女の子が勢いよく手を挙げたぞ! ビショさん即指名だ!
「あたち、かぜひいちゃったの。なおちてびしょさん」
「オーケィ!! 君にクリストマッス! プレゼントォォォォォォ!! ヒーリィィッィィングッ!!」
「“グゥゥゥゥゥゥゥ”!!」
「ノンノン、ヒーリン“グッ”!!」
「びしょさん、なおらないの」
「ハッハッハッ、喜んでもらえたようだね☆ さぁ、みんなどんどんおじさんに甘えておいで!!」
 頼りにならないぜ! 赤鼻のビショさん!! おっと、次の子供が待ってるぞ!
「ビショさん、ぼ、ぼく、強くなりたいんだ」
 黒いハットが似合うシャイボォイだ。突然ビショさんが腕まくりしたぁっ!!
「HEYボォイッッ!! 強くなりたきゃな、おじさんのように毎日この袋を右手に吊り下げてな!!」
 ビショさんの腕はむっきむき!! おっきな袋は重たいんだい!!
「じゃ、じゃあ、それください」
「HEY!! ボォォォォッォォォッォォィイ!!! それはできないぜん!!」
 声がでっかいよビショさん。シャイボォイがびびってる!
「ボォイ、この袋にはなぁ、おじさんの“夢”が詰まってるんだぜい。人には渡せないな」
 それが“男”ってもんだね、ビショさん!!
「ねぇねぇ、その中見せて〜」
 そんな可愛い声でおねだりするなよ、お姫様
「見せて見せて〜」「見せて〜」「中いれろー」「くれくれ〜」「鼻くれ〜」「見せて見せて〜」
 み、みんな!! そんなにビショさんを攻めると……
「オッケイッ!! みんなにだけ、特別に見せてあげたもう」
 お、男が廃るぜ! ビショさん!!

 大きな袋の口にみんなの視線は釘付け!! さぁ、ビショさん、思いっ切りひらいちゃって!!

「きゃーーーーー」「わぁーーーーー」「もわーーーーーー」「ちょたーーーーーー」

 ……あれれ? みんな消えちゃった。ビショさん、みんなはどこいったの?

622FAT:2008/12/23(火) 16:10:25 ID:07LLjSJI0

「夢の国さ」
 え?
「僕らが赤石の中に入っているように、ボォイガァルたちは赤石から出てったのさ」
 ビショさん……
「あいつら、きっと最高の笑顔で笑ってるさ」
 うん、目に浮かぶよ
「SAGE! おじさんたちも赤石の中でクリストマッスイブイヴを楽しくすごそうじゃないか☆」
 ああ、ビショさん、僕、いまサイコーな気分だよ!!

アナウンス:〜〜緊急メンテナンスのお知らせ〜〜

      只今より緊急メンテナンスを勝手に行います。すみやかにログアウト願います
      尚、ログアウトが間に合わなかった場合、全データの消失を保証致します。
      繰り返します……

「FAT!?」
 ビショさん!! 早く赤石から出なきゃ!!
「ふっ……」
 どうしたの? ビショさん?
「おじさんは、ここに残る」
 はぁ?
「この赤っぱなを、クリストマスまで赤石から出すわけにはいかねえんだ」
 一度ログアウトして、また入りなおせばいいじゃん!

アナウンス:キムチメンテナンス開始まで残り20秒

「トナトナ、お前はログアウトしろ」
 する。
「……ボォイ」

アナウンス:緊急キムチメンテナンスを開始しました。さようなら。




――あれから、二十四時間経った。世間はクリスマスイブに浮かれてる。

「となーあそべー!!」
「かぜがなおらないの」
「つ、つよくなるぞー」
 赤石から出てきた子供たちはみんな元気だ。
 僕は窓の外を眺める。帰ってこないとわかっていても、赤鼻のビショさんを
待ってしまうのはトナトナの宿命なんだね。
 ああ、ビショさん、あなたはきっと、このPCの中から僕らを見守ってくれてるんだね。

【HEY! ボォォォォォォォォイ!!】

 !?
 PCの画面に文字が!?
 ああ、ビショさん! ビショさんなんだね!!

 【メリークリストマッス☆】

 みんな、見て! ビショさんからの素敵なプレゼントだよ!!
「わぁー」「ビショさんありがとう」「かぜがなおらないの」「ありがとう!」
 ふふ、みんな嬉しそうだ。ほんとにいいことをしたんだね、ビショさん。

 赤鼻のビショさん!! サイコーだよ、あんた!!

623FAT:2008/12/23(火) 16:11:27 ID:07LLjSJI0
こんばんは。今回のは昔読んだ漫画のノリで書いてみました。

>>柚子さん
エルネストとカルンの微笑ましいやりとりが素敵です。この二人がどう五年後に繋がってくるんでしょう。
イリーナが肩をぶつけた子供が懐かしい匂いを残していった。
……なんて書かれると、やっぱりミシェリーと白い仮面の子供との関係を意識しちゃいます。
次回はついにイリーナたちと白い仮面の子供との対面となるのでしょうか。
続きを楽しみにしております。

624FAT:2008/12/24(水) 21:35:54 ID:07LLjSJI0

【暖かな冬】



――明かりなんて、この世から全て消えてしまえばいいのに――

 僕は明かりが嫌いだ。昼の明るさが嫌い、街の明るさが嫌い、人の明るさが嫌い……。
 明かりは僕の火を薄め、透明にし、消してしまう。
 明かりの中では、僕は存在できない。
 だから、僕は明かりが嫌いなんだ……。

 僕の住まいは古都ブルネンシュティグの路地裏にある。
 もちろん、賑わう街中からずっと北東に離れたところにある。
 いつだって静かで、じめじめと湿気っていて、昼間だって太陽と顔を合わせなくて済む。
 夜になれば真っ暗闇さ。
 遠くの空に街の賑やかな明かりが映っているのがぼんやりと見えるくらい。
 そんな遠くの景色をぼんやり眺めながら、僕は独り言をぼそぼそと吹く。
 夜から朝まで誰にも会わずに一日が終わる。
 ……みんな僕が望んだ生き方だ。


 ある日、僕はいつも通り窓のない真っ暗な部屋で目を覚まし、鏡に姿を映した。
 炎はしっかりと青く燃えていて、調子は良さそうだ。
 僕の部屋には物がほとんど置いていない。あるのは、
 朽ちかけたベッド、くすんだ姿見、同じ木材を用いた小穴だらけのテーブルとイス……。
 僕には、これだけあれば十分だ。
 顔色がいいことを確認するとそっと部屋のドアを開け、外が暗くなっていることを確かめてから部屋を出る。
 最近の僕は昼間に起きたためしがない。
 陽の下に出るのは恐いんだ。
 外の世界に足を踏み出した瞬間、むぎゅっという粉のようなものを押し固めた際に出る音が足元から聞こえた。
 少しびっくりして下を照らすときらきらと小さく反射するものが無数に見えた。
 息を吐くとひどく白い。僕は足元のきらきらを拾い上げてみた。

 ……雪だ。

 僕が記憶するに、僕が存在し始めてから二度目の雪だ。
 一度目はもう五年も前になる。
 場所は覚えていないけれど、とにかく静かなところだった。
 僕はまだ存在したてで、赤い髪の呪術師と一緒にいた。
 彼女の部屋には窓があった。そして、夜にはまぶしいくらいの明かりもあった。
 彼女は黒いローブを頭から被っていたけど光り物が大好きで、指には邪魔になりそうな大きな指輪を八つもしていた。
 僕は彼女の子供だったと思う。
 こんな料理のときに使う炉のような見た目の僕だけれど、彼女は決して自分が“創った”とは言わなかった。
 それに、僕が彼女の愛情を感じていたんだ。
 だから僕は彼女が好きだった。
 雪は音もなく、窓の外にいつのまにか降り積もっていた。
 雪に気付いたのは彼女だった。
 僕はぼぉっと火を灯していた。
 彼女は僕の両脇を抱きかかえるとドアを開けて、まだ置き人形のように体を動かすことの出来なかった僕を雪の上に置いてはしゃいだ。
「お前には雪が似合うねぇ。そのともし火も、雪におあつらえ向きだよ」
 そのとき、僕を映す鏡がなかったので確かなことは言えないけど、きっと僕は喜んでいた。
 そんな色だったと思う。

625FAT:2008/12/24(水) 21:36:52 ID:07LLjSJI0

 久しぶりの雪との再開に、僕の心は当時を映し出し、とても懐かしくなった。
 あのころの楽しかった思い出が雪となり、僕に忘れてしまっていたことを思い出させてくれた。
 手にした雪を大切にしたくて、グローブでそっと包み込み、珍しく浮かれた気分で小路をあるいた。
 雪のうえには僕の足あとがついていた。
 久しぶりに、僕は遠出をした。
 だって今夜は雪が降りたのだ。
 月さえも姿を見せない。
 僕は今夜、とても気分がいい。

 明かりのないほうへ、ないほうへと雪を踏みながら歩いた。
 きゅっきゅっと一歩ごと鳴るリズムが心地よかった。
 僕は橋を渡った。その先には寂びれた木工所がある。夜になれば人はいない。
 月のない夜に限って、そこは僕の展望台となる。
 建物の中に入ると、すぐ右にある階段を軋ませながら上り、屋根裏部屋の小さな窓辺に腰を下ろす。
 小窓を開け放つと僕は一つ、大きく息を吐いた。
 さらさらと白い息が流れていく。
 ここから眺める古都の夜景が、僕は好きだ。
 キラキラと輝いていて、でも、僕を恐がらせない。
 僕といっしょにいてくれる光だからだ。明かりとは違う。ぜんぜん違う。

 僕がぼぉ〜っと夜景に浸っていると、小さくすすり泣く女の子の声が耳に入った。
 やばい、人だ。
 僕が慌てて立ち上がり、階段に向かおうと体を回したときだった。
 女の子はもう僕を見つけていて、たたっと駆け寄ってきたかと思うと腕に抱きついてきた。
 はずみで、グローブの中の雪がこぼれた。
「え〜ん、こわかったよ〜。え〜ん」
 迷子だろうか。
 まだ右も左もわからなさそうな女の子は茶色のロングコートのフードをすっぽりと被っていた。
 袖口にはファーが付いていて、足には幼い体に不釣合いな大きな黒いブーツをはいている。
 僕は困惑した。
 人間と接触してしまった。
 どうしよう。
 『彼女』以外の人間と関わるのは、絶対にしないと誓ったのに。
 少女は僕に触れてしまった。
「うぅ、ヒック、ヒック」
 考えてもどうしようもない。少女はここにいるのだ。
 僕はどうするべきかわからなかったので窓の外へ顔を向けた。
 家々の屋根に積もった雪は白く、街は変わらず輝いている。
 少女はべそをかいたまま、ひしと僕の腕にしがみついている。
 そのまま、時間は止まったかのように過ぎていった。

626FAT:2008/12/24(水) 21:37:42 ID:07LLjSJI0

 僕は飽きるということがない。
 だからこの景色を眺めたまま、人形のように固まって動かなくったって苦にはならない。
 でも、人間は違うらしい。
 僕の腕の中でいつの間にか眠っていた少女は目を覚まし、じぃーっと僕の顔を覗きこんでいる。
 僕は少し照れて、少女の視線を気にしながらも窓の外を眺めたままだった。
「おじちゃん」
 呼ばれて、僕はようやくはっきりと少女の顔を見た。
 少し切れ長の目がついた幼い丸顔は僕の火に照らされて少し青く、髪は紫に見えた。
「おうちに、かえりたいよぅ」
 そうだね、僕もそう望むよ。
「ねぇ、おじちゃん」
 少女は僕の腕の裾をぐいぐい引っぱる。
 僕の声は火を揺らすだけで少女には聞こえないのだ。
 無視してるわけじゃない。ちゃんと答えているのに。
「おじちゃん〜……」
 また泣き出しそうに、少女の表情が曇る。
 困ったなぁ。とにかく、ここから出なきゃ。
 僕が立ち上がると腕の中にいた少女は転げ落ちた。
 しかし、なぜか楽しげに、再び僕の腕に抱きついてきた。
 人間といると、僕の心は乱れるようだ。

 木工所から出たものの、目的地はわからない。
 少女に君のお家はどこ? なんて聞いてみても伝わらない。
 少女は僕の顔を不思議そうに覗き込んで、首をかしげている。
 困ったなぁ。
 なんとかコミュニケーションをとりたくて、おろおろと辺りを見回してみると、いいものを見つけた。
 足あとだ。
 雪の上の足あとは何十分も前の形をそのままに残している。
 僕はジグザグに雪の上を歩いて少女に見せた。

 キミノオウチハドコ

 ところどころ繋がってしまってとても読みにくい。
 僕の描いた暗号を少女は指をくわえながら読んだ。
 そしてうんうんと頷き、ちょこんとしゃがみこんでくわえていた指で雪に返事を描いた。

 フルンネンシェテグ

 たどたどしい文字だけれど、少女は何かを期待して僕を見ている。
 わざわざ雪を踏みつけて文字を書かなくても、指で書けばよかったんだ。
 気付いて少し恥ずかしかった。
 
 ブルネンシュティグ?

 グローブをはめたままで、大きく文字を描く。
 少女はきゃきゃっと喜んだ。誤字だったんだね。

 ブルネンシュティグノドコ?

 ジャージャー

 少女はまた、書き終えて僕をじっと見つめる。でも今度はわからなかった。
 
 ジャージャー?

 少女は頬をふくらませて、両手をわっと何度も何度も空に広げた。
 繰り返されるジェスチャーに、ようやく僕は答えを見つけた。

 フンスイ?

 少女はコクンコクンとまんべんの笑みで二度うなずく。
 なぜだろう、少女が笑顔になると僕まで嬉しい。

627FAT:2008/12/24(水) 21:38:33 ID:07LLjSJI0

 目指す場所がわかったところで、僕はさっそく歩き始めた。
「さむい〜」
 少女は僕の横で雪をいじった手のひらに息をかけていた。かなり赤くなっている。
 僕は自分の手を見た。
 茶色のグローブに覆われた下の生の手は、しっかりと見たことがない。
 温度も感じたことがない。
 雪って、寒いんだ……。
 僕は思い切ってグローブを外してみた。
 そこには黒く、干からびた棒切れのような腕と小枝のような指があった。
 寒がっている少女に左右のグローブを渡すと喜んでくれた。
 僕は少しわくわくしながら、足もとの雪をすくってみた。
 雪を掻く感触はあった。
 それでも僕は雪の寒さを感じられなかった。
 哀しくなって、手を裾の奥に引っ込めた。

 だんだんと街の光が近くなる。
 輝きは明かりに変わり、胸が苦しくなった。
 
 ――『彼女』との時間をまた、思い出す。
 僕と彼女とは一年ほど、いっしょに暮らした。
 僕には食事の必要がない。眠りさえすればいい。
 着替えもしない。湯浴びもしない。
 彼女といっしょにいれるだけでいい。
 感情が火に表れるんだって、彼女は教えてくれた。
 僕は人間じゃないけど、とても人間らしいと彼女は言ってくれていた。
 そして自分は人間だけれども、人間らしくないとも笑いながら言っていた。
 僕はそんな彼女をとても人間らしいと思った。
 
 彼女との別れはあまりに突然だった。
 ……僕はやはり、明かりが苦手だ。
 はやる少女の手を引いて、立ち止まってしまう。
「?」
 首をかしげる少女。
 僕の火はきっと弱々しく揺れている。
「これ」
 少女が差し出したのは僕がさっき渡したグローブだった。
 違うんだよ、寒くない。
 でも、やっぱり伝わらない。
 雪に書こうかとも思ったけど、少女が強く押し付けてくるものだからあきらめてグローブをはめた。
 またじーっと僕の表情をうかがう少女に僕は喜んでみせた。
 少女に何か期待されると、不思議と気持ちが入るようだ。
 僕の火はきっといい色をしている。少女も笑顔になった。

 僕はちゃんと歩くことにした。
 この少女を送り届けるまでは、苦手な明かりだってがまんしてやる。

628黒頭巾:2008/12/24(水) 21:39:29 ID:JLWm9YSQ0
偉いお坊さんすら走る師走の暮、新年まで後数日の古都。
北風が建物と建物の間を駆け抜ける、寒い寒い季節。
古都を歩く人々は少し早足で――しかし、その要因は寒さの所為だけではなく。
ソレは、道行く人々が何処か楽しげな表情を浮かべている確率が高い事からも判る。
通りすがりの男が抱えた大きな荷物は、家で待つ子どもへプレゼントなのだろうか。
普段から人々の賑わう古都の噴水は、大きなツリーになって更に賑わいを増す。
そう――今日は楽しいクリスマス!


【聖なる夜の空に降るモノ】


まぁ、そんな古都でも、予定がなくて燻っているヤツもいくらでもいるもんだ――俺みたいにな。
自嘲気味に溜息をついた俺は、ごくごく一般的なウルフマンだ。
一般的とはいっても、よく手入れしている自慢の毛皮はふわふわもこもこもふもふ。
この季節こそモテてもイイ筈なのに、世の中色々間違ってる。
天上界にいるという神様に心の中で中指をおったてた俺に、ナイスタイミングで友の爆弾娘から耳打ちが来た。

『やっほー! どうせ暇でしょ、今すぐいつもの秘密基地に来てネ♪』

相変わらず失礼な小娘だ。
この秘密基地ってのは、所謂赤目倉庫ではなく、アリアン銀行近くの一般倉庫の事だ。
不法侵入ってヤツなんだが、四六時中入口に鍵がかかってない出入自由状態なんだから仕方ない。
俺達以外にも、密会や馬鹿騒ぎに使ってたりするのをよく見かける。
全く、何処が“秘密”基地なんだか。

『ばーか、俺があfkしてたら如何するつもりだったんだよ! ちょっと待ってろ』

色々と失礼な言い分だが、予定もない事だから付き合ってやるかと思ったからな。
じゃないと、何処にいても友録観察とローラー作戦で居場所を突き止められて何をされるかわかったもんじゃない。
どうせ、「寒いからもこもこ毛皮ぎゅーさせれ!」とかそんなノリだろう。
知識姫の癖に箱金腰装備要求分の力を振っている勿体無いステ振りのアイツの抱擁は、健康が少なめの自分としてはかなり痛い。
昔、全力で抱きしめられた時は……本気で天使のお迎えが来るかと思った、いやマジで。
そんな事を思いながら指定された場所に向かった俺を待っていたのは、予想外の展開で。

「ポチ、よく来た!」
「ポチ言うな!」

俺の名前は断じてポチではないコトを、俺の名誉の為に言っておく。

「まぁまぁ。はい、どーぞ!」

俺がコンマ1秒で返しても全く気にしない少女は、白い袋に詰められた何かを渡してきた。
柄にもなくクリスマスプレゼントなのかと嬉々として袋を開けた俺が馬鹿だった。
そう、コイツはそんな可愛い事をするようなヤツじゃないのは、長い付き合いの俺が一番よくわかっている筈なのに。

「なぁ、コレは何だ」
「トナカイの仮装」

いや、わかるがな。
袋の中身は、トナカイの角に、真っ赤なズボンに、紐が付いた真っ赤な球。

「何でトナカイの仮装?」

本当は訊く前から答えは解っていた、解っていたんだ。

「サンタさんのお供は真っ赤なお鼻のトナカイさんって相場が決まってるのよ!」

嗚呼、やっぱりですか。
全力で言い切る少女の背後に、ドーンと砕ける波が見えた……気がした。
普段とは違い、真っ赤なドレスの少女の姿を見た時点で嫌な予感はしてたんだ、本当は。
因みに、頭についているのも普段の羽根飾りでなくヒイラギだ。
こんな時、コイツは無駄に凝り性だと思う。

「それとも、サバイバルになる?」

笑顔でUM火炎瓶を取り出されたので、ソレだけはと辞退しておく。
コイツなら街中でも全力で俺に投げつけてくるだろう。
俺、何でコイツと友人やってんだろうか……時々わからなくなる。
諦めた俺は溜息をついて頭にツノをつけてみる。
少女が嬉しそうに笑うと同時に、俺のプライドが崩れる音がした。
心の中で泣いて、更に赤い丸い球を鼻につけたら――何か凄く甘い匂いが俺の鼻を刺激する。
犬に変身している間は嗅覚が並外れて優れているというのに……俺、涙目。
チキショウ、飴と一緒に入れてやがったな。
あまりの甘い匂いにガンガンする頭の中で、少女を罵倒する。
そんな事はまるで知らない少女は、ごそごそと何かを準備していた。

「次、コレ身体に結んでー」

何か赤と緑の紐を差し出されたので、その先に繋がるものに視線を走らせた俺は眩暈がした。

629FAT:2008/12/24(水) 21:39:36 ID:07LLjSJI0
 なるべく明かりのない建物の影を伝って歩き、街の中心を目指す。
 人がちらほら見え始めた。
 僕にとっては人は恐いものだけど、人からしたら僕らはもはやありふれた存在。
 受け入れられていないのは僕の勝手なんだ。
 少女は上機嫌に鼻歌を歌いながら、スキップなんてしてる。
 ときどき僕の顔を見上げて、ニカッなんて笑いながら。
 人の明るさも嫌いなはずだった僕が、少女の無邪気な明るさにはすっかり心を開いていた。
 
 そういえば、『彼女』も明るかった。
 僕にちょっかいを出しては、嫌がる僕を見て笑っていた。
 僕に夢のような話を聞かせてくれては、穏やかに笑っていた。
 僕はあの笑顔が好きだったんだ。
 少女の笑顔が思い出させてくれた。
 決して忘れるもんかと誓った彼女の、忘れてしまっていた笑顔を。
 
 急に、少女が駆け出し、強く僕の手を引いた。
 少女の目に映るものを見た瞬間、僕は強くブレーキをかけた。
 噴水だったはずのそこにはきらびやかに光る巨大なデコレーションツリーがあった。
「ここ〜!」
 少女は両手で僕を引っぱろうとする。
 ごめん、君の明るさは好きだけど、やっぱりこの明かりはだめだ。
 苦しすぎるよ。

 ――僕の脳裏にまばゆすぎる光が広がる。
 僕をかばい、光の中に消えてしまった彼女を、思い出させる。
 だめだ、強すぎる。
 赤い髪が光の中に飲まれたあの瞬間を、強烈に思い出してしまう。
「ねぇ〜!!」
 少女は一層の力をこめて僕を引っぱる。
 やめてくれ!
 僕はつい、少女を振り払ってしまった。
「いたぃ!」
 雪の上に転がった少女のフードがとれた。
 僕はとてもおどろいた。
 少女の髪の色もまた、赤かったからだ。
 僕はあわてて少女を抱き起こすと、少女はまたも僕を引っぱった。
 今度は、抵抗しなかった。
 赤い色の髪に、僕のふさぎこんでいた心の氷が溶けたようだった。
 少女に手を引かれながら、僕の火はとても強く燃えていたと思う。
 だって、このツリーの明かりが、まぶしくなかったから。
「キャー! きれいー!」
 明るい白黄色の照明の前で声を上げてはしゃぐ少女。
 赤い髪も跳びはねる。
 僕は不思議な気持ちになった。
 光の中に消えてしまったはずの『彼女』が、光の中から少女となって出てきたような気がした。

630FAT:2008/12/24(水) 21:40:25 ID:07LLjSJI0
「ママー!!」
 少女が突如両手を振った。
 少女が呼ぶ先から、背の高い金髪の女性が駆けつけた。
「ああ、よかった、無事だったのね。お母さん、とっても心配したわよ」
「うん、ごめんね、ママ」
 抱き合う母子の姿を、僕はなぜか嬉しく感じた。
「おじちゃん、ありがとう」
 突っ立っている僕に少女が駆け寄り、手を握った。
「まぁ、あなたがこの子を送り届けてくださったのですか。本当にありがとうございます」
 少女の母親は僕に本当に感謝してくれたんだと思う。
 とても優しい目をしていた。
「おじちゃん〜」
 少女はまた、無反応な僕を見上げて何かをさいそくする。
 僕はありがとうと言った。
 すると、少女の表情がぱぁっと明るくなった。
「おじちゃん! また遊んでね!」
「こちらこそありがとうございました。ご迷惑でなかったらこの子を今後も
よろしくおねがいいたします。それでは、また」
 あれれ?
 雪に書いたわけじゃないのに、僕の気持ちが伝わった?
「ばいば〜い」
 振り向きながら、元気よく手を振る少女。
 僕もばいばいと明るい火を灯しながら手を振った。
 
 帰り道、僕はこれ以上ないほど嬉しい気持ちでいっぱいだった。
 街灯に照らされながら、少女との一時を思い出す。
 少女は僕にとても大事なことを教えてくれた。
 あんなに恐れていた『明かり』が、今は好きだ。
 少女は『彼女』の生まれ変わりだったのかな、なんて楽しい空想をしてみたり。
 そうだ、明日はちゃんと朝に起きてみよう。
 きっと昼の明るさにも、楽しいことがいっぱいある。
 
「ありがとう」
 初めて伝わった言葉。
 この素敵な夜を、僕は忘れないよ。

631黒頭巾:2008/12/24(水) 21:58:13 ID:JLWm9YSQ0
Σぎゃー、長すぎエラー削ってる間に割り込んでしまってごめんなさいΣ(゚д゚;三;゚д゚)
も、もう大丈夫かな…(゚д゚ノ|

>>628の続き



「……何で絨毯を曳く必要がある。それは自分の意思で操って自動で飛ぶだろう!?」
「いやー、課金が切れたら飛ばなくなっちゃって」

課金しろ、課金。
もしくは、初心者クエやって来い、頼むから。
脱力してしゃがみこむ俺をさくっと無視した少女は、ちっちっちっと指を振って言い放つ。

「『飛べない絨毯は、ただの絨毯だ!』って言うじゃない」

何を当たり前の事を。
コイツ馬鹿だ、間違いなく馬鹿だ。
知識は高くても知恵がないに違いない。

「え、南瓜の馬車を曳く方がイイ?」
「……重いから遠慮しておく」

可愛く首を傾げて何ふざけた事を抜かすんだと小一時間(ry
まぁ、コイツの突拍子のない行動は今に始まった事じゃない。
ハロウィンにも「美女と野獣の仮装よ!」とか言いながら連れ回されそうになった。
兄と一緒に友人宅に行くってんで、途中でいなくなってくれたからよかったものの。
そう言えば、あの日は古都で色々な爆発騒ぎやジャベリン登りがいつもより多くあったっけか。
まぁ、イイ……言い出したら聞かないのがこの少女がこの少女たる所以。
人間、自らの精神を護るには――諦めが肝心なんだ。


――とは言え。
まさか、古都の国会議事堂を登らさせられる羽目になるとは思わなかったよ、俺。
でもね、この少女は期待に込めた目で見つめてくる訳ですよ。
で、言うの――「イイから黙って登れ?」ってね。
男として登らざるを得ないだろう、jk!
別にUM火炎瓶で脅されたからじゃなくて俺が紳士だからなんだぞ、勘違いするなよ!
まぁ、実際に登ってみたら予想外にしんどかった訳ですが。
もうね、ロッククライミングかと。
いくら力はあっても紙なのがワンコなのに……。
むしろ、警備員に見付かったら何を言われるかわかった事じゃないっつーの。
そんな事は全く気にしないであろう少女は、満足げな笑みで屋根の上から下界を見詰めている。
その笑顔を見て、こんな苦労もたまにはイイかとか不覚にも思ってしまった辺り俺も絆されているんだろうか。

「……れっつ、フラワーシャワー&キャンディシャワー!」

満面の笑顔の少女の言葉と共に、古都の空に花と飴が舞う。
スリングから放たれ、雪に紛れて落ちてくるモノに、古都を行きかう人々が驚きの声をあげた。
特に飴なんかは子ども達に大人気なお菓子だからな。
そんな様子を微笑ましく眺めていると、議事堂の下に古都の警備兵達がわいわい集まってきた。
と、同時に何か喚き立てている。

「こら、貴様ら! 早くそこから降りて来て神妙にお縄につけ!」

屋根も不法侵入になるのかよ。
思わず突っ込みかけた俺より、少女が不満の声を張り上げる方が早かった。

「何でー!? ただ高いトコに登ってクリスマスを彩っただけじゃない!」

その言葉に、警備兵が俄かに殺気立つ。
そして、隊長と思しき者が怒声をあげた。

「ばっかもーん! 一般市民や抵抗装備してない冒険者が混乱しているのが見えんのか!!」

俺達は互いに顔を見合わせて、呟く。

「「……あ」」

確かに、下界の騒ぎはいつの間にか不穏な空気になっている。
真っ直ぐ歩けずに建造物にぶつかる人やら、殴りあう人やら……あ、血まみれの人がまた一人倒れた。

「なぁ、コレさ……」
「みなまで言わないで……」

引きつった笑顔で同時に懐から不思議な時計を出す俺達、息ピッタリじゃね?
せーの。

「「ごめんなさーい!」」

謝罪の言葉と共に、時計の針を操作してお互いのGHへと逃げた。
いや、マジですまんかった、反省はしている。
罰は勘弁だけど。

632黒頭巾:2008/12/24(水) 22:01:02 ID:JLWm9YSQ0

――景色が一気に変わり、俺は見慣れた木の香りのGHにいた。
GHの奥には、腐れ縁のテイマがいたが、こっちを見ようともしない。
何かの写真を見ては「幸せ家族計画にはあの女が邪魔だわ」とかブツブツ言っていたので、俺もアイツを見なかった事にする。
君子危うきに近寄らずってヤツだ、うん。
どうせ、いつもの某GのGMのWIZだかの写真だろう。
一度見せて貰った事があるが、確かに顔はよかった――それは、先程まで一緒だったあの見た目だけはイイ姫と何処か似た顔立ちで。
そう言えば、あの姫の兄もWIZだとか言ってたような……まさか、な。
広い古都でそんな偶然はあるまい。
そんな事よりも先に誰にも見られないうちにと、俺は赤い付け鼻を外して赤いズボンも着替えた。
そして、ずっと漂っていた甘い香りの正体に気付く――うへ、この鼻ってば飴で出来てやがんの。
わーい、食っちまえば証拠隠滅も簡単だね☆
いや、現実逃避も大概にしろよ、俺……あの少女から渡されたってのが一番恐いんだよ!
何が混入されているかわかりやしねぇ。
俺は肩の上に呼び出したミニPに装備アイテムだからと無理矢理食わせて、証拠隠滅を図った。


――翌日の古都。
赤いワンコと赤い姫の手配書が回っていたのは――きっと気の所為だ、うん。
ただ、暫くはWIZの姿で出歩こうと思う。



おわれ。



****************



皆様にハッピークリスマs(ry
久方振りにお邪魔します、黒頭巾です。
FATさんは割り込みごめんなさい…orz
そして、お帰りなさい!
皆様への感想はまだ途中なので、次回こそ間に合うとイイな…orz

633FAT:2008/12/24(水) 22:59:09 ID:07LLjSJI0
皆様こんばんわ。連日連投になってしまいました。

>黒頭巾さん
おひさしぶりです! ただいまっ! 
割り込みというか、ほぼ同時の投稿にびっくりしつつも、今日の投稿が一人じゃ
なくてよかったとほっとしました。
下僕ウルフマンとわがまま姫のお祭り騒ぎ、面白かったです。
ポチ君(仮称)のあしらわれ様がけなげで、でもなんだかんだ言いながら楽しん
じゃってる姿が微笑ましかったです。
またの投稿を楽しみにしてます!

634◇68hJrjtY:2008/12/25(木) 17:55:59 ID:wmDr2SRU0
なんやらぷろくしエラーだかでしばらくの間書き込めませんでした(T-T*)
スレの皆さんメリークリスマス★

>柚子さん
年末ですよねぇ、言われてみれば確かに(;´Д`A なんだか忙しさにかまけてますorz
エルネストとカルンのなんだかほのかな恋模様に顔がにやらーっとしてる68hですがさて、
殺人犯が複数と分かっただけではなくそれ以上に大変な依頼を受けたイリーナとルイス…。
ディーター&マイアのコンビはともかく、この四人が一緒というだけで波乱万丈が予想されます(笑)
果たしてこの依頼と殺人犯グループの関係があるのか、そして殺人犯らしいフードの少年は。
戦闘シーンも楽しみながら推理も楽しい今回の小説、続きお待ちしています♪

>FATさん
まずはノリノリでハイテンションな赤鼻ビショさんの小話、ありがとうございました(笑)
始終笑いっぱなしでまさにマンガを読んでる気分。元ネタとなったほうのマンガも気になります(ノ∀`*)
風邪が治らない少女にわけもなく萌える!そして最高の相棒(?)、トナトナ君も素敵!
二作目の「暖かな冬」はまさに雪の日にほっと心が暖まる小話。
ネクロマンサーである彼が雪の中で出会えた少女は、何よりも「暖かなもの」だったのですね。
「ありがとう」という言葉が少女に伝わった時は感動しました。そうかしかし、おじちゃんかぁ(笑)
クリスマス…そうか、クリスマスだったなぁと感慨している、天皇誕生日で休めてラッキーな68hでした。
またの小話、そして本編。楽しみにしています♪

>黒頭巾さん
ハロウィンぶりです♪こちらもクリスマス小話ありがとうございます!
ちょくちょく前回のハロウィン話とリンクしてるのと、ワンコ×姫にニヤニヤさせていただきました(´д`*)
ポチ君(と命名!)のもふもふ毛皮に包まれて飴シャワー浴びたい。
そして某GMであるWIZの妹というと(笑) 全力少年ならぬ全力プリンセスも好きです(*´ェ`*)
シリーズ化なるかっ!?とか淡い期待を胸に…。次回作もお待ちしてます。

635蟻人形:2008/12/25(木) 21:42:03 ID:fUoOnsFI0
  赤に満ちた夜

 1:黎明の夢
 All >>640-647 (四冊目)

 2:先鞭
 All >>888-899 (四冊目)

 3: Avengers Ⅰ
 All >>344-351 (五冊目)

 4: Avengers Ⅱ
 Side Black >>824-827 (六冊目)
 Side White >>466-469 (七冊目)

 0:秉燭夜遊
 Ⅰ >>577-579 (七冊目)
 Ⅱ >>589-590 (  〃  )
 Ⅲ >>604-607 (  〃  )


 0:秉燭夜遊 Ⅳ … 秋と冬


 少女が戦闘の陰の部分で行われていた作業を眺める余裕があったのは、前方に構える槍遣いもまた戦闘再開の時機を見送っていたからだった。
 槍遣いは敵方との間合いを量りながら、ほとんど聞き手としてだが、ギルド間での魔力の会話にも加わっていた。
 従来の計画からの変更点を説く剣士の声を頭に掻っ込む途中で、槍遣いは正面に立つ敵の表情を捉えてしまった。
 今までとは違い真剣な顔つきだが、口元には――笑い。確実に笑みが浮かんでいる。それを目にした彼女の胸には再び怒りが込み上げ、今度は抑えることができなかった。
 槍遣いは少女の微笑の意味など問題にしていなかった。無礼千万、戦闘に際して笑むこと自体が異常であり信じられるものではなく、どうあっても許し難かった。
 変調に気付いた剣士の確認の問いにも答えず、彼女は槍を固く握り締めていた。他の者たちが変異に感付いたときには遅かった。全ての者の双眼に、第一歩目で土を蹴り上げ少女に走る槍遣いの姿が映った。

 このとき、少女は相対する女性が怒りに燃える理由について浅く考えていたものの、戦闘の最中に槍遣いの憤りが再発することを正確に予想していた。
 それにも拘らず、仲間の制止を余所にして駆ける槍遣いへの対応が遅れたのは、戦場で自分の対極に位置する武道家の分身に注意を奪われていたからに他ならない。
 確かに少女は相手方の向上した実力の度合い、長い思案によって生まれた策に期待を掛けていた。だからこそ五人は未だに存命しているのだ。
 しかし彼女は発見してしまった穴を見逃してやるほど情け深い性格ではなかった。むしろサディスティックな性分を持っていると言っても過言ではない。
 ただし、弱みに付け込んで相手を甚振るようなことは決してしなかった。自らの品格を貶めるような言動・行為はできる限り謹み、相手の尊厳を傷つけないよう常に意識する。戦闘以外の点においては、彼女はこの掟を完璧に守り抜いていた。

 鬼気迫る突撃に猶予の無さが相俟って、この戦いで初めて少女は迎撃――後手へと回ることになった。
 槍遣いの自暴とも言える捨て身の攻めはさながら特攻を決め込んだ兵士のようだ。
 単純な刺撃、頭上で槍を旋回させながらの迫撃、敵を除ける為の迎撃。非常に攻撃的だがどれも荒く大振りで、実力のある相手に傷を負わせる程のものではなかった。
 だが風の魔法が宿ったお蔭で、彼女の繰り出す猛撃は少女に反撃の隙を与えなかった。更に少女の注意を武道家の分身から引き離すことにも貢献し、結果的に良い方向へ転んだことは間違いなかった。

 戦闘が再開されて数秒が経過。早くも形勢は傾きつつあった。
 初めは猛攻を防ぐだけで精一杯だった少女は次第に敵の速度に慣れ、回避や防御を危なげなくこなすようになっていた。
 先程まで窺う機会もなかったが、観察を進める過程で彼女は槍遣いの武器との相性、更には槍を扱う技術にまで違和を感じ始めていた。まるで新調したばかり、自分の手に馴染んでいないようにも見える。半年間特訓したとはとても思えない実力に、少女は大きく落胆した。
 もっとも、苛立ち故に試合前の小競り合いをただ眺めていただけで注視していなかった彼女には、槍遣いの動きがぎこちない理由が分かるはずはない。
 しかも悪いことに、数あるうちの一つの期待が裏切られたことで、少女の頭の中では他の全ての期待も同じく望みのないものであるという思考が展開され始めた。
 こうなると積み上げられた土台は一気に崩落する。燃え上がるような苛立ちが、少女の瞳に熾った。心待ちにしていた分の落差が怒気を生み、彼女の意思は一気に、これまでと同質の虐殺へと転がっていった。

636蟻人形:2008/12/25(木) 21:42:56 ID:fUoOnsFI0

 場外に置かれた男の瞳は大まかにではあるが、主人の心境の変化を捕捉していた。
 言動を大人っぽく見せていても、精神は幼い外見と同様に未発達。その稚さ故に感情を抑制する術は未熟で、普段は男が欠けた欲求を補い少女の平静を保つ役割を果たしていた。
 手出しは禁止されている。しかし、今動かなければ主人の殺意を逸らせない。主人の命令か、挑戦者の生命か。男の心の天秤はひと時、確かに仮初めの良心に揺れた。
 だがその偽善とも呼べる迷いは一瞬の後に、心底に潜む本心によって完全に打ち砕かれた。
「切り捨てよ。重要なものは他にある」
 闇は語った。彼もそれに同意し、やがて体内で反響する僅かばかりの誠心を鎮めようと、体に溜まった心地の悪い空気を吐き出した。


 最早際限のない零落に運命を委ねる男は遥か昔、他愛の意思を失くした天界人だった。彼は様々な面で他の天界人と異なっていた。

 第一に、男は強い自我を持っていた。その予兆は『赤い空の日』以前から見え隠れしていたものだった。
 ビショップの姿を借りた者は当然であるが、地上に堕ちた天界人――即ち追放天使ならばほとんど全ての者が、天上界を治める『神』なる存在を信仰している。
 しかし彼は地上界に降り立って以来一度も神に祈りを捧げたことがない。
 直に対面したこともあるが故に存在だけは認めていたが、その力、例えば『神のご加護』などという下らないまじない事の効果などは完全に否定していた。
 だから人間の姿を借りるときも決してビショップには扮せず、神への奉仕に当たる技術も磨こうとしなかった。
 多くの天使にとって有り得ないような『地上界の生物に仕える』という所業に及んだ事実についても、上記を踏まえて考えたのなら全く理解できないことではないだろう。

 次に、男は過去に二度もの裁断を下された天界人の中で唯一、裁きの後も双翼を自らの背に負うことを許されていた。
 と言っても、『赤き石』の守護を勤める天使の一人だった彼は、『赤い空の日』以後に追放された同僚と同じく片方の羽の半分を剥奪されてはいた。
 だが三年前に執り行われた二度目の審判のとき、新たな任務に就くことで彼の罪は完全に赦免されている。
 ただし、任務を素直に受け入れたのは美しい忠誠心を示すためではなく、自我の目覚めによって生まれた抹消への恐怖に突き動かされたからだった。
 罪人が二度に渡って重罪を赦された前例はなかった。通常ならば、どちらも完全追放を免れないような罪状なのだ。
 当然のことながら最後の審問以来、彼は他の追放天使たちから白い目で見られている。
 しかし上記の点から分かる通り、代用のきかない重要な天使として、彼は多くの意味で一目置かれる存在だった。

 最後に、男は己の地上界名『クリフ』を嫌悪していた。これは非常に新しい時期起きた変質だった。
 意外に思われるかもしれないが、地上界の名で呼ばれることに対して不満を抱く天使はほとんどいない。
 何故なら大部分の追放天使は『赤き石』の盗難の責任を重く受け止め、片翼の半分を失う程度の刑罰で放免されたことに感謝し、与えられた任務に没頭しているからだ。
 彼らは自分の天命に不平を漏らすことなど全くなかった。まして授かったものに意義を唱えることなど考えられなかった。そういう訳で、これも男の特異な性質に数えられる。
 男が地上名を嫌悪するのは天使の尊厳と自我の過多が成す地上界への侮蔑でも、自分に新たな名を押し付けた者に対する反感でもない。
 今の主人に対してさえ、初めて自分の呼び名が必要になったとき、天上界で掲げていた姓『アドラー』を使うことを希求した。
 これは自分という芯が強い彼だからこそ苛まれる苦悩であり、突き立てられた刃は少女が負った傷よりも更に深く、彼の真の良心を引き裂いていた。

 それら三つの点を併せ持った異質な追放天使。一人の少女に仕える『アドラー』という男。
 彼が既に追放天使の領域から外れた位置にいることを、自身を含めた全ての天界人が存知していた。


 果敢な勇士たちの最期を見届けるため、暗い気持ちで視線を戦場に戻した男は、目には映らない自分の吐息を通して予想外の状況を目にする。
 不可解。一人の敵を眼前に置いたまま、彼の主人は一切の挙動を止めていた。

637蟻人形:2008/12/25(木) 21:44:12 ID:fUoOnsFI0
こんばんは。割と雪の多い地方に住んでいるので、地面の見えるクリスマスは久々です。
雪掻きの必要がないので楽ですが、何か物足りない気がします。

先日話を作っていく中で、前回から特に「こと」という単語を乱用していることに気付きました。
それまで同じ言葉を重ねないように注意していたので、見落としていたことに自己嫌悪……orz
中々気合が戻らないので、自分の癖に気付けた分進歩したと前向きに考えています。

今回は他の方々を見習い、これまでの経緯をまとめてみました。すみません、もっと早くにするべきだったと反省しています。やっぱり他にも反省点が多いです。


>◇68hJrjtYさん
いつもながら感想をありがとうございます。
感想も文章を読み、考えて書くことで上達するものですよね。
登場人物が何を考えているのか、みたいな些細なことでも考え出すと凄いボリュームになりそうです。

二十人分の分身については、無いとギルド側の策が成り立たないため出しました。
Ⅱで少女が下した判断と完全に食い違いますが、武道家の半年間に渡る鍛錬の成果だと大目に見てほしいです(汗


>黒頭巾さん
不憫な立場のポ――もといウルフマン。普段の彼の苦労が目に浮かびます。
ただ、姫に抱きしめられて泡を吹く狼は見ごたえありそうだな……とは考えましたが。
読んで思い出しましたが、ウルフマンはウィザードに戻れるんでしたね。実はシーフ以上に犯罪に適した職なのかも。
ハロウィンの大騒ぎが「いつもより多い」で済まされているあたり、いつもの古都の賑やかさが窺えます。
次回の祭りはいつ到来するのか! 更なる波乱を期待しています。


>FATさん
イラっと来る程ノリノリなビショさん、貴方のテンションが大好きです。
わが道を行くビショさんが普段どんな司祭を務めているのかも気になるところ。
何だかんだ言ってかなり元気をもらいました。赤鼻のビショさん、ありがとう!
そして前作とは全く違うのに、同じように心温まる冬の話も読ませていただきました。
全体的に不思議な雰囲気のネクロマンサーですが、手袋を貸してあげる優しさや、手で書けることに気付いて恥ずかしがる様子が、彼(彼女?)の人間らしさを感じさせてくれます。
そういえば以前、中に可愛い女の子が入っていると噂された時期があったような。第三の変身システムに期待するべきでしょうか。
最後に。遅くなりましたが、ラスとレルロンドの気持ちが痛いほど分かります。柚子さんの言う通り、男の性……ですね。


>柚子さん
アメリアさん、口に出してしまう大胆さが怖いです。しかしそのお蔭でクセのある二人を纏め上げていると考えると、マイナスには考えられないですね。
そして、イリーナがマイスの面倒を看るのは、やはり宿命でしょうか。
更にブランクギルドの二人まで加わって、最早予想できない範囲に達しています。
様々な摩擦によって生じているストレスの大部分がイリーナに降りかかっているのは、決して気のせいではないはず。
次回はいよいよ仮面の子供との交戦か、はたまた別の展開が待ち受けているのか。イリーナの精神消耗を気遣いつつ、続きをお待ちしています。

638名無しさん:2008/12/29(月) 17:35:04 ID:WrGT.WaE0
もったいないwテレビでテレビを見るだけなんてwww

639柚子:2009/01/02(金) 16:57:54 ID:gTpM/8Sc0
前作 最終回 六冊目>>837-853
Avengers
登場人物 >>542
1. >>543-551 2.>>568-573 3.>>593-597 4.>>616-619


古都の噴水前は地獄絵図となり果てていた。
いても賑わっているはずの広場は恐慌に陥っていた。
噴水の周囲には、人間だった赤黒い何かがいくつも転がっている。
次に自分がそうなることを恐れ、人々が押し合いながら逃げ惑う。
その中心には既に武装を展開しているアメリアたちが対峙していた。
その中にイリーナたちも参加する。
「マスター、状況は」
「言わせないで。見ての通り、最悪よ」
アメリアが強く唇を噛み締める。
「やはり、こいつらか」
グイードが呟く。視線は前方へ向けられていた。
そこには、3人のフードを深く被った、性別不詳の子供がいた。
1人は巨大な螺旋剣を持ち、横に並ぶ1人は大鎌を持っている。
最後の1人は遥か後方で空中に浮かんでいた。
しかし、共通して全員が白い死者のような仮面を被っていた。
「こいつら、前に……」
イリーナはブランクギルド事務所に来る途中、深くフードを被った子供とすれ違ったことを思い出す。
しかし、何故かこの中にその時の人物はいないと断定できた。
「アルトール、負傷者の救助を。1人でも多くを救うのよ」
「分かりました」
アメリアの判断を受けたアルトールが陣形から抜ける。
そしてすぐに救助活動を始めた。
「3体か、厄介だな。しかし、何としてもここで食い止めるぞ!」
グイードが活を入れ、全体の士気を高める。
魔術を紡ぎながら、互いに間合いを詰めていく。
両者の間合いが臨界点に達した時、ルイスとグイードが動いた。
魔風となって駆け抜け、前方の螺旋剣を持った子供に斬り掛かる。
金属音。2つの剣戟は完全に防がれていた。見た目からは有り得ない筋力だ。
さらに大剣が振り抜かれる。2人は地を蹴って後退。
大剣が完全に振り抜かれた瞬間、様子を窺っていたディーターが2人の頭上を越えて飛びかかる。
両腰に差した双剣を抜刀。隙のできた懐へ斬り掛かる。
その一撃を横から走った大鎌の一撃が防いだ。
ディーターは双剣を交差して受け止める。さらに勢いを利用し後転、地面に着地する。
着地と同時に納刀。両手を後ろに忍ばせ、無数の短剣を投擲する。
大鎌使いは得物を振るい、大半を撃ち落とし、残った短剣が肩やフードを切り裂いていく。
大鎌使いに金色の閃光が走る。
黄金の風となったアメリアが大鎌持ちの死角へ迫っていた。
最速の足が突然止まる。同時に足元の地面が穿たれる。
後方で空中に浮かんでいる弓使いの魔術だった。
「く、こう連携を取られると厄介ね!」
続く魔矢を避けながら、アメリアが叫ぶ。
全員が1度後退したところでイリーナは紡いでいた難易度2、ファイアーボールを連続で発動する。
脳から送られた魔力信号を魔石が受け取り、発光。脳からの情報を解析し、魔方陣が空中に展開されていく。
虚空から合計10個の火球が顕現。一気に斉射する。
火球は着弾と同時に炸裂。周りの露店ごと吹き飛ばしていく。
3体とも着弾の寸前に跳躍していたことを前衛が見逃すはずがない。
爆煙を抜け出てきた剣使いにグイードとディーターが迫る。
剣使いが大剣を一閃すると同時にディーターが跳躍し、グイードが巨大な盾を突き出して耐える。
空中に舞ったディーターが急降下。空中で前転し、そのまま踵を頭蓋目掛けて振り落とす。
剣使いは左腕を掲げてこれを防ぐ。
ディーターはさらに続く足で腕に絡め、体を捻る。回転に巻き込まれた剣使いの腕が、乾いた音を立てて折れた。
それでも構わず剣使いは蹴りを放つ。足がディーターの腹腔にめり込み、ディーターは大きく吹き飛ばされた。

640柚子:2009/01/02(金) 16:59:01 ID:gTpM/8Sc0
反対側で激しい剣戟が繰り返される。
鎌使いがルイスの袈裟切りを巨大な鎌の刃で受ける。受けると同時に氷弾を放ち、忍び寄るアメリアを牽制。
長大な鎌のリーチと速い魔術展開が、2人の接近を許さなかった。
イリーナのような後衛はこの高速戦闘についていけない。
その代わり、厄介な弓使いに近づける隙が生じた。
イリーナは左右で展開されている戦闘を抜け、後方の弓使いに向かって走り出した。
「変態の変態的速度にはついていけない!」
「なに、儂もおる」
気付くと、マイアが併走していた。脇には4体の召喚獣を引き連れている。
それを見てイリーナは軽く驚く。4体を同時に制御する召喚士など見たことがない。
想像を絶する統一力と制御力だった。
2人の接近に勘付いた弓使いが光の矢を放ってくる。2人は左右に展開。
イリーナは魔術を紡ぎながら走る。イリーナの方が御しやすいと思ったのか、弓使いはイリーナに狙いを定めた。
一瞬早くイリーナの魔術が完成。銀の短槍の先から難易度3、ジャベリンテンペストを放つ。
刹那の後、弓使いも光の矢を放った。
不可視の風の刃が弓使いのフードと左胴を裂いていき、光の矢がイリーナの肩を灼いていく。
激痛で魔力信号が乱れ、並行して紡いでいた魔術が途切れた。
次の瞬間弓使いの第二射が発射される。
光の矢がイリーナを捉える寸前、急に地面が隆起して壁が生成され、イリーナを守る。
マイアの召喚獣による元素魔法だ。
土の壁に容赦なく次々と攻撃が加えられる。壁に亀裂が入り、耐久限界を迎えた。
「乗るがよい!」
低空で飛んできたウィンディがイリーナを掴み上げる。
イリーナたちは魔術で牽制をしながら後退した。

641柚子:2009/01/02(金) 17:00:12 ID:gTpM/8Sc0
他の4人も同時に後退し、背中を合わせるように構える。
多かれ少なかれ、全員が全員傷を負っていた。
「ディーター、大丈夫かや?」
ディーターは片手で腹を押さえていた。口からは一筋の血が流れている。
「氣でなんとか処置はしたが、結構やばい」
ルイスやグイードと比べて、ディーターの防具は軽装だった。
速度は上がるが、その分一撃一撃が致命傷に繋がる。
「なかなかに厄介だ。これは他の団員には任せられないな」
荒い息を吐きながらグイードが呟く。
「よし、糞男共を囮という名の犠牲にした陽動作戦で行こう。人数も奇跡的にぴったり」
「1人でやっていろ」
イリーナの提案にルイスが短く切って捨てる。
他の面々も呆れたような顔を浮かべていた。そう言いながらも、誰も敵から目を離さない。
3体の体は無傷だった。この魔術と身体能力に加えて、再生力も備えている。
存在しないはずの隙を見出そうと、イリーナは3人を眺め回す。
見ると、大鎌使いが密かに魔術を紡いでいた。
その魔方陣を見た瞬間、イリーナは全身が総毛立つのを感じた。
「離れろ!」
叫ぶと同時に魔方陣が完成。空中に展開される。
4人はそれぞれの方向に飛び散る。刹那の後、4人が寸前まで居た空間が凍結した。
逃げ遅れた髪や外套の裾が凍結する。
発動されたのは、難易度4、フロストクエイクの空間凍結魔術だった。
その正体は、冷気の振動による瞬間凍結。この魔術の前にはどんなに頑健な鎧や盾も意味を成さない。
最悪、死んだことも理解しないまま死ぬことになる、恐ろしい魔術だった。
魔術から回避したディーターに剣使いが迫る。
剣の柄に唯一嵌っていた魔石が光る。すると、巨大な螺旋剣の刀身が回転を始めた。
高速回転した刀身が唸りを上げてディーターに襲い掛かる。
ディーターは1度に7本の短剣を投擲。
短剣が回転する刀身に触れる。瞬間、短剣は例外なく粉砕された。
「なにっ!?」
短剣を抜けて螺旋剣が直進してくる。回避不能の一撃。
固まるディーターの襟をグイードが引き寄せる。
剣に激突した石像が紙屑のように砕け散る。剣使いは止まることなく方向転換。
均衡を崩したグイードは盾でそれを受ける。凄まじいエネルギーに分厚い盾が火花を散らし、軋んだ音を立てる。
さらに踏み込もうとする剣使いに横から入ったルイスが蹴りを放つ。
まともに受けた剣使いは建物の壁に叩きつけられる。
そのルイスを襲う獰猛な刃。背後に迫っていた大鎌使いの攻撃をアメリアが受ける。
アメリアは刃を受け流し、槍を回転。アメリアの技術に鎌使いが圧倒される。
鎌使いは反撃の魔術を紡ぐ。難易度2、チリングタッチが鎌に向けて発動された。
冷気が籠められた鎌が槍と接触。すると、触れた先から槍が凍結を始めた。
握る手が凍る前に、イリーナは難易度3、ファイアーエンチャントを発動。
大鎌に向かって放ち、魔術を相殺。槍の凍結が止まった。
「スウェルファー!」
マイアの召喚獣が元素魔術を発動。
水の檻がアメリアを囲っていく。
続いてアメリアに殺到する光の閃光を水の檻が防いだ。光の作用により、矢が屈折して無人の地面に刺さる。
「せい!」
アメリアが懇親の突きを放つ。受け切れず、大鎌使いの体勢が崩れた。
刹那の隙にアメリアは体ごと槍を回転。柄部分で鎌使いの胴を殴打した。
吹き飛ぶ敵にアメリアが追跡をかける。
鎌の先が発光。難易度3、アイススタグラマイトによる氷壁で、それ以上の侵入を防ぐ。
「退いて!」
イリーナは既に紡いでいた魔術を展開する。
アメリアが飛び退くと同時に解放。槍の魔石が発光し、空中に巨大な魔法陣が描かれる。
難易度4、ファイアーストームの魔術が発動された。
横向きに放たれた炎の嵐は、大量の酸素を飲み込んで肥大化しながら直進。
前方の氷壁に炎の嵐が激突。瞬時に蒸発し、鎌使いに殺到する。
鎌使いはもう1度アイススタグラマイトを発動。形成された氷壁に、炎の嵐が一瞬だけ止まる。
その一瞬を利用して鎌使いは横跳びで死から逃れる。
しかし、逃げ遅れた右腕が炭化された。
追撃を妨害する弓使いへ召喚獣の元素魔術が殺到。1つが直撃し、弓使いが墜落する。
不利を悟ったのか、3人はそれぞれに撤退を開始した。
「いかん!」
グイードが叫ぶ。
「奴らを放つな、ここで仕留めるぞ!」
「応!」
即座に動いたディーターとマイアが逃げていく弓使いを追跡する。
グイードとアメリアが剣使いへと走る。
残ったイリーナとルイスは大鎌使いへと向かった。

642柚子:2009/01/02(金) 17:01:06 ID:gTpM/8Sc0
螺旋剣を引きずりながら逃げる剣使いにグイードとアメリアが追い付く。
2人なら勝てると踏んだのか、剣使いは螺旋剣を構える。
螺旋剣が再び回転。剣使いは2人に突進を開始する。
2人は左右に跳躍。剣使いは大剣を振り回し、地面や壁を破砕していく。
グイードが上空から切りかかる。回転する剣が受け、火花を激しく散らす。
アメリアが高速接近。剣使いは大剣を振り抜き、2人ごと吹き飛ばした。
「剣が厄介に過ぎる!」
グイードが唸る。
「だが、これ以上好きにはさせん。アメリア殿、あの回転を止めることは可能か?」
「少しの間だけなら、可能よ」
自信に溢れるアメリアの返答に、グイードが満足気に頷いた。
「十分だ」
「では、行くわよ!」
アメリアを先頭に2人が走り出す。剣使いは構わずに剣を突き出した。
「少し本気を出すわよ!」
アメリアの槍の魔石が輝く。次の瞬間、大量の分身が出現した。
発動したのは難易度4、オーサムフォートレスの魔術だった。
その効果は複数の分身を呼び起こし、長時間維持が可能な魔術なのだが、それでも20人は多すぎた。
その驚異的な魔術にグイードも驚愕する。
アメリアはこの魔術に特化した槍術士だった。
故に虚勢。彼女の称号はそんな彼女の姿を指した物だった。
20人のアメリアが螺旋剣に槍を突き入れる。
回転する剣の隙間に槍が次々と差し入れられ、剣の回転が弱まる。
「まだまだ!」
残りのアメリアたちも槍を突き入れ、全て差し入れられる。
そして、剣の回転が完全に止まった。
「今よ!」
後方にいたグイードが疾走。武器を捨てて剣に飛びかかり、巨大な両腕で押さえつけた。
突然グイードの腕が隆起。さらに腕や顔から黒茶色の毛が生じる。
最後に牙と爪が伸び、グイードは完全な人狼になっていた。
「ぬぉおおおお!」
人間の域を軽く凌駕する超筋力で剣ごと剣使いを持ち上げ、そのまま叩きつける。
その衝撃で剣が砕けた。
追い討ちを掛けるようにアメリアが跳躍。槍の柄が捻られ、全長2メートル超の長槍がその姿を現す。
アメリアはそれを投擲。唸りを上げて落下する槍の弓努が剣使いの心臓を貫いた。
どんな再生力があろうと、心臓を貫かれては生き残れる生物は存在しない。
「……倒したか」
人間の姿に戻ったグイードが大きく息を吐いた。
「存外に厄介な敵だったわ」
アメリアも魔術を切り、息をつく。
死んだ剣使いの体が変化を始めた。体が急速に分解を行われ、砂になる。
残った物はローブと白い仮面だけだった。

643柚子:2009/01/02(金) 17:01:45 ID:gTpM/8Sc0
空に浮遊して逃げる弓使いをディーターとマイアが追う。
「待てこの根暗仮面野郎!」
ディーターが1度に7本の短剣を投擲する。
逃げ切れないことを察した弓使いは難易度3、トルネードシールドを展開し、短剣を逸らす。
しかし、その隙にディーターは一気に距離を縮めていた。
風の結界内に侵入したディーターが双剣を抜刀。だが、そのまま切りかかろうとする足が止まった。
弓使いが紡ぎ終わっていた魔術に気づくとディーターは後退を開始。
その直後に魔術が放たれた。
放たれた魔術は難易度4、ライトニングサンダーだった。
上空から高電圧の雷が高速落下。落下すると地面を伝って2人に襲いかかる。
マイアはヘッジャーの岩の壁で防ぎ、ディーターは短剣を複数地面に刺し威力を軽減。
さらに魔力を殺す作用を持つ“氣”を前方に展開し、ようやく防ぐ。
攻撃を防ぐことは出来たが、再び距離は開いてしまった。
続く矢の応酬を避けながら2人は手近な建物へ逃げ込む。
「どうする、近づけねーぞ!」
苛立ちを含んだディーターの声。
「儂に言うな。主様が来るのを待つかや?」
「師匠には頼らねえ。俺たちだけで倒す。絶対」
マイアの提案をディーターは即断る。
しかし、状況は良いとは言えなかった。
「ふむ。飛び道具は効かぬし、魔術も強力じゃ。さらに回復力が凄まじい」
「一気に畳み込むしか手はないみたいだな」
結論は早くついたが、策がなかった。
「とりあえず突っ込む。後はどうにでもなる」
その言葉にマイアは小さく笑った。
「ふふ、ディーターらしいのう。それに、敵もあまり待ってくれないようじゃ」
マイアが言うように、2人を見つけ出した弓使いが魔術を紡いでいるのが見えた。
2人が脱出すると共に魔術が発動。降り注ぐ落雷が建造物を炎上させる。
ニ次爆発が起こり、木々の破片を含んだ風が2人に吹き付ける。
「行くぞマイア!」
ディーターが疾走。マイアが召喚獣を十字に展開し後に続く。
飛翔する矢を召喚獣が打ち落とす。
ディーターはヘッジャーを踏み台に上昇。ウィンディの風でさらに飛翔。
さらにケルビーとスウェルファーが左右に展開した。
正面と左右、上方からの同時攻撃。この連携こそが2人の強みだった。
しかし、魔術も同時に紡ぎ終わっていた。
魔法陣が空中に展開され、高電圧の毒蛇が召喚される。
「突撃せよ!」
雷が放たれる瞬間、雷と召喚獣たちが激突。
相殺された魔力が爆発を起こし、弓使いを吹き飛ばす。
倒れた弓使いへディーターが高速落下。
「迂闊に近づいたのが命取りだ!」
ディーターが双剣を抜刀。立ち上がろうとする弓使いの両肩から両脇にかけて双剣を一閃。
噴き出す鮮血がディーターの全身を染める。
ディーターの拳が青色に発光。それは武道家が持つ“氣”の集合だった。
その“氣”を叩きつける。青色の光は弓使いの体を通り抜けた。
ディーターが放った技は烈風撃と呼ばれる武道家の奥義だった。
武道家の“氣”は物理干渉を起こさない代わりに、触れることが出来ない物を破壊する。
触れられない物、全身の魔力を破壊し尽くされた弓使いが力無く倒れる。
回復のための魔力をも破壊され、全身が砂塵となっていく。
完全に死んだことを確認すると、ディーターは膝をついた。
「もう、生き返るとか、さすがに、ない、よな?」
肩で息をしながらディーターが白い仮面を突っつく。
ディーターが放った烈風撃は、威力だけなら難易度5の魔術に匹敵する。
その分、消費も激しかった。
「うむ。お主も知らぬ間に成長しているようじゃの。ほれ」
膝をつくディーターへマイアが手を差し出す。
ディーターは1度躊躇った後、その手を握り返した。

644柚子:2009/01/02(金) 17:02:34 ID:gTpM/8Sc0
風の刃が外套を貫く。
それでも大鎌使いの足は止められない。
イリーナたちは逃げた鎌使いを追っていた。
走りながらイリーナはファイアーボールを放つ。5つの火の玉が鎌使いを越えた先で着弾した。
着弾と共に爆裂し、鎌使いの足が止まる。
そこへ先行していたルイスが空中から斬撃。鎌使いの逃走経路を断つ。
ルイスの剣を鎌が受け、そのまま2人は切り結んでいく。
守りに入った鎌使いが後方へ跳躍。その瞬間イリーナがファイアーボールを放つ。
爆裂した炎が地面や家屋を粉砕。爆風が鎌使いを飲み込んでいく。
「やったか?」
「いや、逃げた」
ルイスが前方の家屋に指をさす。
ルイスのような前衛職ならしっかりと見えていただろう。
「しぶといな」
そう言いながらイリーナは槍を構え直す。
魔術反応。イリーナとルイスは同時に感知。それぞれ左右に退避。
退避と同時に氷弾と共に鎌使いが家屋の壁を突き破ってきた。
そのまま鎌使いは噴水の方へと逃げる。
「逃がすか!」
振り向きざまにファイアーボールを発動。5つの火の球がさらに5つに別れる。
合計25の弾丸が鎌使いへ殺到。鎌使いは氷の壁を形成してそれを防ぐ。
しかしそれは目くらましに過ぎない。接近していたルイスが爆風ごと壁を切り裂く。
重すぎる剣圧に受けた鎌が軋みを上げる。
さらにルイスは難易度1、マッスルインフレーションを発動。激しく隆起した各筋肉がさらなる剛力を生む。
ルイスの剣が閃く。隙ができた鎌使いの左腕を大剣が両断した。
腕を切られながらも鎌使いは後方へ跳躍。しかし、イリーナが放った風魔術が直撃する。
放たれた圧縮空気が鎌使いを吹き飛ばす。噴水に落下し、大きな水しぶきを上げた。
「ルイス!」
ルイスは難易度3、サンダーエンチャントを発動。刀身に高電圧の電撃が帯電。
ルイスはそれを投擲。投擲された剣は噴水に落ちた鎌使いに突き刺さった。
次に電流が走り、鎌使いの身体を徹底的に破壊する。
身体機能が停止し、鎌使いは完全に活動を停止した。
「今度こそ、やったな」
噴水の水は電流で干上がっていた。
「そうだな」
ルイスは無人の外套に突き立った大剣を抜いた。

645柚子:2009/01/02(金) 17:03:14 ID:gTpM/8Sc0
風にさらわれていく鎌使いの死骸を眺めながら、イリーナは噴水に腰を下ろす。
残った白い仮面だけが無表情にイリーナを見つめていた。
「そっちも片付いたようね」
「あ、マスター」
顔を上げると、アメリアとグイードがやって来ていた。
「後はあの2人だな」
「いや、その心配はいらない」
イリーナはグイードの目線を追う。
その先では、マイアと彼女に肩を抱かれたディーターがいた。
4人の視線に気づき、ディーターは咄嗟に腕を解く。
「遅いぞ」
「何だと?」
ルイスの冷たい言葉にディーターが詰め寄る。
「こっちは遠くまで行ったんだ、倒したのはこっちが早い」
「どうだか。女に肩を貸してもらわないとまともに立てないのだろう?」
「これは!」
言葉が続かず、ディーターは押し黙る。それでも決してルイスから目を逸らさない。
両者間の温度が急降下していく。
「どうにせよ、皆無事で何よりだ」
グイードの一声が場の緊迫感を中和した。
「そうね。アルトールのおかげで負傷者も最低限に抑えられたみたいだし」
アメリアがそれに続く。
広場では、ようやく到着した救急隊員が負傷者の治療を施していた。
「ふん」
ディーターがルイスから離れる。争う気も失せたらしい。
ルイスも手を掛けていた剣から離した。
グイードはどうやらこの手の扱いにはよく慣れているらしい。
やはり彼は何枚も上手だ。
「出来れば戦って、出来れば2人共死ねば私が幸せになれたのに」
イリーナが言うと、ルイスが嫌そうな顔をした。
「うむ。一件落着じゃな」
最後にマイアが場を締めた。
「……いいや、それにはまだ早い」
背後から声。その声に全員が咄嗟に振り返る。
そこには、先程と姿形が同じの、白い仮面に全身を覆う外套を纏った子供がいた。

646柚子:2009/01/02(金) 17:04:16 ID:gTpM/8Sc0
しかし、見た目は同じでも、感じる圧力が圧倒的に違った。
「貴様か、この一連の犯人は」
全員が動けない中、グイードが何とか言葉を紡ぎ出した。
「……そうだ」
その答えに全員が身構える。
イリーナも隙があれば放とうと魔術を紡いでいく。
「……貴様等か、我が同士を殺したのは」
性別を測れない陰鬱な声。表情は仮面で隠れていて分からない。
瞬間、仮面の子供の圧力が倍増した。
その一瞬に、アメリアとディーターが詰め寄っていた。
2人はそれぞれ左右から仮面の子供に襲い掛かる。
仮面の子供はアメリアの槍を掴み、ディーターの拳を掌で受け止める。
両腕を振り、そのまま2人を投げ飛ばした。
「きゃあ!」
「ぐお!」
2人は地面に叩きつけられ、さらに余った衝撃で転がっていく。
仮面の子供が影に染まる。上空からルイスが斬りかかっていた。
「なに!」
しかし、超重量の剣は届かずにいた。
見えない何かに遮られているかのように、大剣は数十センチ手前で止まっている。
隙だらけのルイスの体へ拳が叩きつけられ、鎧を砕かれながらルイスが吹き飛ぶ。
入れ替わるようにグイードが突進。姿は既に人狼に変貌していた。
グイードの両腕と仮面の子供の両腕が組み合わさる。
太さが数倍も違う両者の腕から出される力が、そこで拮抗していた。
グイードに異変。突然グイードは苦しみ出し、拮抗していたはずの力は徐々に仮面の子供が押していた。
「グオオオオ!」
人狼が吼える。仮面の子供と触れた手から蒸気が上がっていた。
「主様!」
マイアは高速召喚した召喚獣を突撃させる。
仮面の子供はグイードを弾き飛ばし、殺到する召喚獣を掴み上げる。
高速展開で不安定な召喚獣は簡単に元素に戻されてしまう。
しかし、残った1匹がグイードを引き寄せていた。
「主様、気を確かに!」
「うむ……」
人狼化を解いたグイードがなんとか立ち上がる。
「何なのだ奴は。奴は危険過ぎる」
「でも、これで!」
イリーナは紡ぎ終えた難易度4、ファイアーストームを発動。
横向きに放たれた炎の嵐が仮面の子供を飲み込む。
炎が収束していき、魔術効果を終える。
「そんな!」
イリーナは己の目を疑う。炎に飲み込まれた仮面の子供は火傷1つ負わずに、悠然と佇んでいた。
焼かれた石の地面から蒸気が立ち昇る。彼の周囲を残して。
「何者だよ、あいつは」
苦し紛れにイリーナが言葉を吐き出す。
「我が名は、ソロウ」
性別を測れない高くも低い声が、無表情の仮面の下から紡がれる。
「同士の仇を討たせてもらう」
ソロウが片手を掲げる。その上空で巨大な魔力が集っていく。
イリーナたちは微動だにもできない。その先には絶望しかなかった。
爆裂が起こった。ソロウのすぐ傍で。
「何だ!」
イリーナは魔術が飛んで来た方角へ目をやる。
そこには、完全武装した古都の軍隊が陣形を組んでいた。
「下がれ!」
軍の隊長と思しき人物が叫ぶ。イリーナたちは咄嗟に後退する。
「総射!」
イリーナたちが後退すると同時に軍隊の魔術が放たれる。
爆裂や雷撃、風の刃や氷弾など多様の魔術が1度に放たれ、広場を破壊し尽す。
ようやく魔術が止み、それでも油断なく全員が軍用盾を構えている。
煙が薄まる。広場には、そこには不釣合いなほど平然と立っているソロウの姿があった。
これにはさすがの古都の軍隊も驚愕を避けられなかった。
1人が放った炎の弾丸がソロウの手前で掻き消される。
ソロウは無言で背を向けると、飛翔した。
「追撃せよ!」
追うように魔術が放たれるが、どれも届くことはない。
「追え、追うのだ!」
軍の兵士たちがソロウを追いかけていく。
イリーナたちは小さくなっていくソロウを見つめ続けていた。
ソロウが一瞬振り返る。それはイリーナを見たような気もした。
「ソロウ……か」
イリーナは何とも言えない懐かしさに苛まれていた。
しかし、その正体を思い出すことはできない。
銀の槍を強く握り締める。それでも、答えが出ることはない。
古都の町は、ゆっくりと歪み始めていた。

647柚子:2009/01/02(金) 17:09:52 ID:gTpM/8Sc0
みなさん、あけおめです。
年が明ける前にもう1つと思っていましたが間に合いませんでした。
今回は戦闘描写ばかりで疲れました。途中で力尽きた感が否めませんが……
感想は途中なので次回に返したいです。
感想をもらっておきながら申し訳ない。

それでは

648◇68hJrjtY:2009/01/02(金) 21:49:08 ID:Tv4iRUw20
皆様あけましておめでとうございます〜♪
今年も宜しくおねがい申し上げます<(_ _*)>

>蟻人形さん
続きありがとうございます。
熾烈な戦闘が続いておりますが、なんだか少女が以前よりも感情豊かになった気がします。
相変わらずコンピュータのような思考回路、対する剣士たちにも冷徹な判断のみで動いていますが
人外ではあると想像しながらも人間味を感じています。可愛い、などというのとは別物ですけども(笑)
新たに舞台に上がった天使、アドラー。彼が少女を思う気持ちは仕えるべき従者としてのもの以上に思えました。
戦闘以外にも読みどころの多いお話、続きじっくり楽しみにしています。

>柚子さん
新年一発目投稿、ありがとうございます。
今回はグイード、アメリアを筆頭にした二つのギルドの主力との手に汗握る戦闘でしたね。
それぞれのタッグ戦になったこの戦闘ですが、場違いと分かっていてもディーターとマイア編ラストに萌えた(*´д`*)
ルイスとイリーナも二人の仲は置いといても長年のコンビであるわけで強くないはずは無い!
そして今回初戦闘となったグイードとアメリアのコンビ、まさに帝王と女帝。
軍隊の前にまたも失踪した白仮面リーダーの人物。事件がどう動いていくのか、続き楽しみにしています。

649白猫:2009/01/16(金) 23:09:28 ID:k3Ot.7r20


 「――――フゥ」

トン、トン、と。
何もかもが凍り付く氷点下、極寒の空の下。
人の吐息の色とは違う、僅かに濁った煙を大気に吐き出しつつ、金髪の女性は手に持ったキセルを叩き、ベルトに仕舞い込む。
薄らと雪に覆われた冬の草原は、極寒の季節の真只中ということもあり風が吹く度に四肢を貫かれるような寒さが襲ってくる。生憎と、女性は大した防寒具を纏ってはいなかった。
一面、目が眩んでしまいそうな白に覆われた大雪原。容赦無く命を削る寒気に身震いしながら、女性は小さく溜息を吐いた。

「人気者って、辛いわ」

そう呟くや否や、

女性の頬を、一本の矢が掠めた。


体を仰け反らせた女性は腰から鉈を取り出し、続け様に殺到する弓を軽く弾く。
凌いだ――流れる思考の合間、しかし緩まない緊張の中で女性は辺りを見渡し、目を細める。

「参ったわね……囲まれたかしら」

背に掛けられたままだった槍に手を伸ばし、女性は困ったような顔を浮かべながら意識を張詰める。
数は五人程度の小隊といったところ、どれもこれもが並ではなさそうだ。
(こんな山奥まで追ってくるなんて、ご苦労様なことね)
雪の中からゆっくりと這い出して来る黒装束の男達、それらを一瞥し、女性はトリアイナを構えた。
女性を半円状に囲む男達は剣、短刀、それぞれの獲物を構え、女性との距離を徐々に縮める。対する女性の方は涼しい顔でトリアイナを手に取ったまま、動かない。
一向に動きを見せない女性に、男達はその包囲網を確実に狭めて行く。既にその距離は5mと離れていない。
男達の中央に立つ女性は、かかってくる気のない男達に溜息を吐いた。槍を軽く回し、刃を地へと向ける。
それに釣られたか、先まで静寂を見せていた男達が、一斉に女性へと飛び掛かる。僅かにあった距離も、瞬時に埋められる。速いわね、と心中で称賛の言葉をかけ、しかし女性は不敵な笑みを浮かべる。

「残念でした、バァカ」

雪原に響き渡った女性の呟きと男達の怒号は、

槍を媒体に召喚された、十数mにも昇る雷の柱に一瞬で呑み込まれた。






「ちょっと何? コイツらアサシンギルドの連中じゃない」

男達の死体を確認し終え、女性は右手首に刻まれた刺繍に顔を渋くする。
逆十字と鴉の刺繍はアサシンギルドの一員の印。その印が、女性を襲撃した男達全員に刻まれていた。
とうとうアサシンギルドまで敵に回したか、と溜息を吐いた女性は、しかし頬をぺちんと叩き、立ち上がる。
まぁなんとかなるでしょ。


パチパチと爆ぜる男達の死体、炎に包まれた死体たちを眺めながら、女性は目を細めながら松明を放る。
更に強くなる炎は男達の身体を焼き、天高く黒煙を立ち昇らせる。
もっと燃えろ、女性は小さく呟く。もっと高く、もっと高く煙よ昇れ。もっと強く、もっと大きく燃盛れ。
男達が灰燼と化し、火の粉の一つも消え去るまで、女性はじっと膝を抱え天を眺めていた。

650白猫:2009/01/16(金) 23:09:53 ID:k3Ot.7r20


白と白に覆われた月下の城下町に女性が足を踏み入れたのは、それから数日後。
入国審査を受ける間、憲兵たちの間に腰を下している妙な雰囲気についてそれとなく聞いてみた。

「忙しそうね、兵士さんたち」
「ん? ああ、大変さ。国のあちこちでクーデターが起こってるもんでね。国家転覆でもするんじゃないかね」
「あら、もしかして入国手続きより出国手続きの方が大変?」
「出国手続き!」

女性の言葉にフンと鼻を鳴らした兵士は、肩をすくめて女性に身分証を返す。

「出国に手続きなんてありゃしない。そこらの国境から亡命者が近隣の国に逃げ出してるさ。あってないようなもんさ」
「へぇ」

想像以上にややこしいことになっているのね、と呟いた女性は、街灯に照らされた町の情景に目を移す。
国中で争いが起きているとは思えないほどの静寂さ。雪が音を吸収することもあって、女性には微かな衣擦れの音しか聞こえない。
身分証をポチェットに突っ込んだ女性は、町の中央に建つ、巨大な城塞を眺める。これから、自分が落とす城を。

「ちょっとガタイが良すぎるかしら。もうちょっとエスコートし甲斐のある男性がいいわねぇ」

ボヤきながらも女性は、燦然と煌く瞳を城塞から離さない。
難攻不落の城塞と謳われたのも昔の話か。度重なる戦の末、数年前にこの城は落ちた。
落ちた、だけで終われば良かった。だがそうもいかない、この城を握る男は――この国の重要な地位を占めるあの男は、必ず難攻不落神話を再来させるだろう。
(だからこそ、落とす……やれやれ、今度こそ私死んじゃうかも)
民家を跳び、市場を過ぎ、教会を超え、墓場を抜け。
月もない暗闇の中女性は音も無く、あまりにも呆気無く難攻不落の要塞、その一角に足を付けた。

「分厚い城壁ねぇ……1mくらいはあるのかしら」

今女性の立つ、城塞をぐるりと囲う城壁。高さ5m厚さ1mの城壁が、大凡300m四方に渡っていた。
城壁だけではない。その手前にあった堀(女性は一跳びで越えたが)は3mほどの幅がある。しかも、それが城塞に辿り着くまでにもう1セット存在した。
税金と労働力の無駄遣いだわ、と吐き捨てた女性は、もう一対あった堀と城壁を軽く跳び越える。白く彩られた中庭に着地した女性は、改めて城塞を見渡した。
(城内に見張りはなし、と……やっぱり[黒蓑]ってステキね)
実のところ、城壁を飛び越える際に女性は十数人の見張りを確認していた。外側にのみ配置された射手。恐らく侵入者は即座に射殺す命令でも出されているのだろう。物騒極まりない。
自分の故郷ではこんな防備を敷く意味すらない。皆が皆、気の赴くままに好き勝手に暮らしていた、そういう町だ。そこには秩序も無ければ縛るものも存在しない。皆が皆を思いやる心、それだけあれば十分だったというのに。なんだこれは。
(そういえばカチュアに「アンタは頭領としての意識が足りない」って散々怒鳴られたっけ)
赤髪、そばかすの少女のことを思い出して、女性は少しだけ苦笑する。あの頃は本当に馬鹿ばかりやっていた。仕事と娯楽の比率が1と9ほどであっただろう。
いつもアズセットと一緒になって狩りに出かけたり、賭博で八百長をして遊びに遊びまくっていた。そうしていると、いつの間にかどこからともなく現れたカチュアに説教を食らっているんだ。
暮らす場所が故郷から戦場になっても、そんな関係は変わらなかった。
アズセットが道を強引に開いて、自分が相手を一掃する。残った敵はカチュアが片付ける。
そして終われば、いつもの馬鹿騒ぎ。何も変わらない。変わらない筈だった。疑うことすらしなかった。

変えたのは、一人の男だった。
煉獄にも見紛う炎と炎の怒涛、黒い装甲に身を纏う騎馬兵の通る後には、何も残らない。
最強。そんな馬鹿げた二文字すら浮かんだ。此方の剣は騎馬兵一人傷つけることも敵わず砕け、相手の槍に数々の仲間が、戦友が屠られていった。


そしていつの間にか、自分は一人になったんだ。

651白猫:2009/01/16(金) 23:10:15 ID:k3Ot.7r20

黒装束で身を包んだ女性に、兵士は誰ひとり気付かない。
すぐ傍を通り過ぎても、息も触れ合うほどの距離に近付いても、体をぶつけ悪態をついても、誰ひとり気付くことはない。
女性の纏う蓑は、全ての者から彼女と言う存在を消し去っていた。彼女はここにあってここにない。例え体が触れ合っても、相手は脇見をして柱にぶつかった、程度にしか思わない。
(あの男は、強い)
螺旋階段をゆったりとした歩調で上り、女性は槍を握る。長き時を共に過ごした自慢の槍であり、自分の兄の遺した唯一の品でもある。
(少なくとも、あの時は私よりも強かった)
古き記憶を思い起こし、左腕の古傷を、槍を持った右腕で擦る。痛みはない。ただ、疼いているだけ。
(私は、弱い)
螺旋階段が途切れ、古めかしい扉が女性の前に現れた。数年前"女性が"使っていた部屋であり、今"あの男"が使っている部屋だ。
(少なくとも、あの時は私は弱かった)
扉の前に立ち、ドアノブに手をかける。あの時と変わらない、懐かしい感触に自然と女性の頬が緩んだ。
(でも)
ギィ、と小さく音を立て、扉が開く。扉の奥にはやはり、小さなベッドと洋箪笥、嵌め込みの天窓しかない。あの日と何一つ変わらない光景。
(今は違う)
そして、その小さな部屋の奥、椅子に胡坐をかいて座る男へと目が行く。黒い長髪に紅色の瞳、左半身を覆う(今は顔しか見えないが)薄気味悪い刺青。
(私は強くなり、あの男の力を削いだ)
その姿に燃え上がる黒炎を想像した女性は、しかし不敵な笑みを浮かべるに留まった。男の半身とも言えるあの騎馬兵たちは、もう一人も残ってはいない。
全て自分が、斬捨てた。
(今、あの男が強いとは――思わない)




「椅子の上で胡坐は行儀が悪いわね、アーク」
「人の部屋に入る時はノックをするもんだ、レティア」

打てば響くように、女性の言葉に男――アークが悪態をついた。
嫌そうな声色を隠しもしないその態度に女性――レティアは苦笑するが、しかし自分が招かれざる客であるという認識はしている。
(私に感情を見せるようになったのは、私を対等と認めたから、なのかしらね)
思う間に、男は椅子の上で立ち上がり剣を手に取っていた。レティアの方も、何時攻撃されても対応できるよう槍を構える。初撃で戦局はまず動かない。
やっぱりコイツを外におびき寄せるべきだった。そうレティアは小さく後悔した。

「そこの箪笥、結構お気に入りだったのよ」

レティアの言葉に、アークは全身から黒と黒の巨大な爆炎を生み出すことで答えた。

652白猫:2009/01/16(金) 23:10:35 ID:k3Ot.7r20

ガリッ、と登山靴が雪を噛む音が辺りに響き渡る。否、雪ではない。彼女の足元には雪ではなく、月明かりを反射する半透明の結晶――氷の床で覆われていた。
レティアの目の前にゆっくりと降り立ったアークは、右手に携える片刃の剣をレティアへと向ける。氷の結晶で覆われるレティアとは対照的に、彼の周辺からは白い煙が立ち昇っていた。
煙、ではない。そうレティアは理解している。アレは水蒸気だ。見れば分かる――アークの周りの雪が、瞬く間に蒸発しているのだ。
化の繰る黒煙は、そこらの魔術とは次元が違う。何もかもを呑み込み、跡には煤も残らない。彼女の沢山の戦友たちを殺し、自らを蝕んだのだ。あの術は嫌と言うほど理解している。
(本当に狡い奴……遠くから攻撃されてもあの炎に焼き尽くされて、いざ接近してもの炎に焼き尽くされて、あいつの攻撃を防御しても回避しても焼き尽くされて――全部焼き尽くされるじゃない)
なんだか可笑しくなって、レティアは今日何度目かの笑みを浮かべた。"ファウンテンバリア"を解いて、レティアは地面を踏んだ。

「残念だけど、今日は斬り合いに来たのよアーク。毎度毎度氷と炎のぶつけ合いじゃ飽き飽きするでしょ?」
「……――へえ」

レティアが自身の鉄壁の守り[ファウンテンバリア]を解いたのを見、アークは面白そうに笑う。
彼女のバリアは、そこらのウィザードとは格が違う。あの氷の世界には自分の炎すらも「凍る」。
もちろん、こちらがそれなりの威力を持たせた術を放てばあの力は霧散する。だが、自分の思うように進められない戦いに苛立たせられることもあった。
だが――今日はそのバリアを使わない。つまり、本当に、
(この[煉獄鬼]と斬り合うつもりということか?)
その推論に達した瞬間、彼を包む黒炎――[ファイアーエンチャント]が消え去った。腰から二本目の剣を抜き、彼独特の高い姿勢を取り、止まる。
まさか本当に誘いに乗るとは思っていなかったレティアは一瞬呆気に取られたが、しかしすぐに満面の笑みを浮かべる。流石はアークね、と呟いて。

「それじゃあ――行くわよ」
「来い」


一瞬の、静寂。
雪が再び二人を包み、辺りの音を拭い去っていく。
そして、互いの言葉の余韻が消え去る暇さえ惜しいかのように、二人は動いた。




「煉獄の炎に焼き砕かれて朽ちるがいい、[吹雪姫]!!」
「貴方を永の氷河期に閉じ込めてあげる、[煉獄鬼]!!」

---

653白猫:2009/01/16(金) 23:26:06 ID:k3Ot.7r20
お久しぶり、白猫です。あけおめ!←
年が明けて早二週間、ここ最近はめっきり寒くなりましたねぇ。土日を境にまた暖かくなるそうですが、参ったものです。

さて、今回も短編話。本当はクリスマスSSだったのですが、間に合わなくてヤケになってバトルものに変えたら失敗しました。てへ☆
短編なのでジャンルなんてなくていいんです、ジャンルなんて飾りです。なすびのヘタみたいなものです、たぶん。
最近バトルものを書いていない……いや一作書いたかな? とりあえず書き足りていないので伸び悩み。三作同時進行は私には無理でした。まる。

>FATさん
お久しぶりです! とある友人と一緒にFATさん復活を騒がせていただきました!
ミニペットは便利ですけど酷使するとすねちゃいます。適度にあそんであげましょう。
最近作品の投稿の方が御無沙汰なので、FATさんを始め皆様にもがんばってもらわないとね!!←

>蟻人形さん
ミニペット話は前々からククルが影の主人公だと疑いませんでした。いつかククルでSSを書いてみせます。
蟻人形さんの小説の方も時々拝見させてもらっています、ギルド戦ってのはやっぱり燃えますね、こう、ギラギラと!
私はしゃいんさんではありませんのでミニペットは無理強いしないんだぜ!

>◇68hJrjtYさん
これまた間が随分と空きました、どうも、白猫です。ご無沙汰してます。
実のところ、ミニペ話でSSのストックが尽きたので書きためなるものに挑戦したはいいものの撃沈、
なんてことを数回繰り返していました。よくあることだと思います、はい。
パペットの方ではみんながみんな大好きキャラなので、きっと細々と続けていくのかもしれません。
この短編もPuppetのサイドストーリーちっくなものですし……短編一本で読める、よね? うん。
---
wiki編集はなんとかぽつぽつこなしてたりします(まだ二回)。
だけどタイトルの編集をミスると再編集できないという罠\(^o^)/
気が向いたらちょくちょくwikiを見てやってください。ちょくちょく更新しようかとはもくろんでいます。


それでは、今回はこのあたりで。
白猫の提供でお送りしました!

654◇68hJrjtY:2009/01/17(土) 16:49:51 ID:N.pdTvYc0
>白猫さん
お久しぶりです、そしてあけおめです♪
パペットのサイドストーリー!?と思って読み返してみればなるほど、雰囲気は同じものですね。
パペットの長編物語からいろいろな短編が枝分かれすると思うと今後が楽しみ&パペット後日談ワクテカ。
前回ハロウィン小話がギャグチックだったので今回のシリアス短編は余計に真剣味を持って読めました。
RSスキルを扱ってのバトル描写、もう白猫さんにかかれば自由自在ですね(笑)
---
Wiki編集ありがとうございます<(_ _)>
PCがクラッシュしてからというもの放置の限りを尽くしていますが無論ブクマには登録してあります!(何
なるほど、とりあえず後で様子見がてら修正できそうな部分探してみますねー。

655FAT:2009/01/24(土) 13:35:28 ID:07LLjSJI0
第一部 『双子の天才姉妹』 二冊目>>798(最終回)

第二部 『水面鏡』

キャラ紹介 三冊目>>21
―田舎の朝― 三冊目1>>22、2>>25-26 
―子供と子供― 三冊目1>>28-29、2>>36、3>>40-42、4>>57-59、5>>98-99、6>>105-107
―双子と娘と― 三冊目1>>173-174、2>>183、3>>185、4>>212
―境界線― 三冊目1>>216、2>>228、3>>229、4>>269、5>>270
―エイミー=ベルツリー― 三冊目1>>294、2>>295-296
―神を冒涜したもの― 三冊目1>>367、2>>368、3>>369
―蘇憶― 五冊目1>>487-488、2>>489、3>>490、4>>497-500、5>>507-508
>>531-532、7>>550、8>>555、9>>556-557、10>>575-576
―ランクーイ― 五冊目1>>579-580、2>>587-589、3>>655-657、4>>827-829
>>908>>910-911、6>>943、7>>944-945、六冊目8>>19-21、9>>57-58、10>>92-96
―言っとくけど、俺はつええぜぇぇぇぇ!!― 六冊目1>>156、2>>193-194、3>>243-245
>>281-283、5>>385-387、6>>442-443、7>>494-495、8>>703-704、9>>705-706、10>>757-758
11>>759 七冊目12>>536-537、13>>538、14>>561-562
―光選― 七冊目1>>599-600、2>>601、3>>609-610、4>>611-612

―5―

 ぴちょん、ぴちょん、ぽちょんと水滴の弾ける音が幾重にも重なって洞窟の屈曲した空
間内を響き合う。鍾乳石から垂れてくる滴と天井から垂れてくる滴とでは奏でる音の高低
が違う。水面に落ちるか、地面や石筍に落ちるかでも音は繊細に変わる。その音の一つ一
つがメロディーのように聞こえてソシアは歌いだす。
「やさしくしあわせなうた〜な〜のよ〜♪ まほうはお〜もい〜〜やさしいお〜もい〜♪ 
ししょうはやさしくこころはみ〜ちる〜♪ やさしいなみだはとものため〜♪」
 空気が感動に震えるような美しい歌声に乗せた優しいメロディーと詩がレルロンドの心
を打つ。ラスもまた、らしくなく胸に熱いものを感じていた。
「ありがとうソシアさん、素敵な歌ですね」
 レルロンドは感動のあまりソシアの手を握っていた。しなやかな温もりがあった。
「こ、こちらこそ、感動して、ど、どうしてもこの感動を歌で表現したくなって」
「おい、いいぞ。もっと歌っててくれ」
 ラスはまたウェスタンハットを深く被りなおした。しかしそれはその奥に光るものを隠
すための照れ隠しだったのかも知れない。

656FAT:2009/01/24(土) 13:36:19 ID:07LLjSJI0
 ソシアはまた優しい歌を歌いだした。自然とレルロンドはランクーイに想いを馳せた。
「師匠、一つ、気にかかることがあるのですが」
「なんだ?」
 レルロンドは少し赤くなった目でラスを見た。
「ランクーイのことなのですが、僕が一緒にいたとき、ランクーイは強い魔法剣士になり
たいと言って魔法を使っていました。ですが、先ほどの僕のように暴走はしなかった。な
ぜなんでしょう?」
 ラスは余裕の表情で答える。
「あいつはまだそこまでのレベルに達していなかったからだ。わかるか? あいつの全魔
力を集めたって自分自身を焼き殺すほどの力はなかったってことだ。あいつが死ぬ直前に
放った魔法の威力は知ってるよな? あれくらいのレベルになると欲望は身を滅ぼす力に
なる。お前はその時点でのランクーイの力を受け継いだ。だから暴走したんだ」
「なるほど」
 レルロンドはランクーイのあのがむしゃらな魔法に対する熱意を思い出した。強くなり
たい、その一心でランクーイは魔法を学んでいた。はたして欲望を捨てろ、と言われすぐ
にそうできただろうか。十何年も抱き続けた想いを、捨てられるだろうか。
 レルロンドは欲望に身を任せること、それこそが子供の象徴のような気がした。欲望を
抑え、他人のことを想うこと、それこそが強さであり、それこそが大人と呼ぶにふさわし
い条件なのだと思った。そんな思考に頭が向いたのは心地よく奏でられているソシアの歌
の影響もあったかも知れない。
「さあ、そろそろ行くか」
 ソシアの優しい歌を堪能し、三人は歩き出した。ラスはレルロンドに実戦を経験させよ
うと生き物を探す。しかし、中々見つからない。
「カニさん、い、いませんねえ」
「ここは昔人気のあった狩場だからな。そのときにだいぶ数が減ったんだろう。なに、も
っと地下に行けばいくらでもいるはずだ」
「はい、期待してます、師匠っ!」
 レルロンドは藪森でのランクーイの気持ちが分かった気がした。ラスに認めてもらえる
ことが、気をつかってもらえることがこんなにも嬉しいなんて。信頼しているからこその
喜び。レルロンドはこの関係がずっと続きますようにと胸のうちで祈った。

657FAT:2009/01/24(土) 13:36:58 ID:07LLjSJI0

―6―

 地下へと何階くらい下っただろうか。過去の乱獲の影響なのか、それとも他の原因があ
るのか、生き物は一匹も見当たらない。ラスの表情からも余裕が消えていた。
「ながく〜くらいどうくつ〜♪ みずはいのち〜はぐくむみなもと〜♪ ひかりなきどう
くつ〜♪ みずをもとめるものもなし〜♪」
 ソシアの歌もトーンが落ち、暗くなってきた。しけたラスとレルロンドの雰囲気に嫌気
がさしたのか、ソシアは歌うのをやめた。
「はぁ、カニさん、い、いませんね」
「これは異常なのではないですか? 冒険者たちの乱獲というだけでは説明がつかない。
何か他の原因があるのでは?」
 レルロンドはラスの表情を伺う。真っ直ぐと前を向き、無反応だ。
「ど、どうしてでしょうか。こ、こまりましたね」
 ソシアは反応のない二人に飽き、辺りをきょろきょろと見始めた。
「あっ、お、お宝!」
 ソシアはたっと駆け出すと、躊躇なく宝箱に触れた。
「おいっ! 待て!」
 ラスの警告は虚しくもソシアが宝箱に触れた後だった。宝箱から不思議な力が開放され、
一閃、洞窟内に光が満ちたかと思うと、もう、ソシアの全身は痺れていた。
「はれれれれれれれ」
「馬鹿野郎! こういうとこの宝箱はたいてい罠がかかってるんだ。特別な訓練を受けた
もの以外はそうやって罰が当たるぞ」
「ごめんなはひいいいいいい」
 痺れというよりも痙攣に近い。ソシアの全身は上下に小刻みに震えている。それがラス
とレルロンドに再びソシアの胸を意識させた。
「た、たすけてくだしいいいいいいいいいい」
 レルロンドは胸に意識を集中させながら、手探りでバッグの中から数種類の解毒剤を調
合した強力な解毒剤を取り出し、震えるソシアの口に押し流した。おふ、おっふとむせた
ものの、体を支配していた痺れは徐々に和らぎ、ソシアはとすんと尻をついた。
「おおっ!」
 どちらが声を漏らしたのか、いや、二人同時に漏らしたのか。ラスとレルロンドは無防
備に開かれた脚の、その短いスカートの奥に釘付けになった。
「たっ、たすかりましたぁ〜。ありがとうございます」
 無頓着なソシアはそんな男たちの視線を気にすることなく、ただただ麻痺から開放され
たことを喜んだ。そしてすっくと立ち上がると、男たちはとても残念そうな顔をした。
「きっをつっけろ〜♪ おいしいおったかっらじっつはわな〜♪ びりびりしびれておっ
ちっち〜♪ わたしはしびれておっちっち〜♪」
 おかしな歌がまた、二人を元気にさせる。いや、ソシアの魅力はその歌声だけに留まら
ず、あれやそれも、全てが若い二人の元気の源となった。
「なんかもう、ずっとこうしてさまよい歩いていてもいい気分です」
「ああ、こういうのもいいもんだな」
 師匠と弟子は男の性によって絆を深めた。ランクーイのことはもちろんだが、このソシ
アとの出会いは二人の絆をより一層強く、結びつけた。
 ランクーイにばかり夢中でレルロンドを無視しがちだったラス。ラスに相手にされない
ことを不服に思っていたレルロンド。少し間違えば不仲になってしまいそうだった関係が、
今は師弟愛で固く結ばれている。少し不純な絆かも知れないが……。
 とにかく、二人の師匠と弟子という間柄は間違いなく成長している。同じものを見、同
じものに触れ、同じものに興奮する。気持ちの共有が二人の成長を助長し、互いの距離感
を無くす。それだけでもソシアの存在の意義はとても大きなものだった。
「た、たのしくいきましょお」
 ソシアは二人に笑いかけた。二人も、ソシアに笑顔を返した。その笑顔はどこか似てい
て、優しくソシアを照らした。

658FAT:2009/01/24(土) 13:37:45 ID:07LLjSJI0

―7―

「よし、レルロンド、いまからこいつをエンチャットする。お前は何を使ってもいい。こ
いつを倒してみせろ」
 ラスはようやく見つけたカニの甲羅を両手で押さえ、レルロンドに真顔で説明する。そ
の表情からは師としての威厳を感じる。
「はい。師匠の教えを守り、必ず倒してみせます」
 カニは甲羅を押さえられ、カシャカシャとハサミを鳴らすもラスには届かない。ラスは
甲羅に当てた手に意識を集中させ、ゆっくりと、壊れてしまわないように魔力をその体内
に送り込む。カニは与えられた力によって目覚め、口から吹き出す泡が青く輝いた。
「開始だ。ソシア、俺と共にここで見ていろ」
「は、はひっ!」
 ラスはカニを突き飛ばすとソシアの手をとり離れた場所に避難し、ソシアにとばっちり
がいかないように、薄い防御魔法の膜を張った。空間が少し歪んで見える。
「いくぞ、ランクーイ」
 レルロンドは優しく体内のランクーイに呼びかける。ぼうっと両手を温かな火が包み、
拳を握りしめる。
 先に攻撃を仕掛けたのはカニだった。ぶくぶくと泡を吹く口から、魔力を伴った冷水を
水鉄砲のように鋭く飛ばした。レルロンドは素早く横に跳ねると凍りつく石筍を横目に矢
を一本軽く放った。緩やかな弧を描く矢はカニの吹き出している泡に触れると凍りつき、
カチリと落ちた。
「なるほど、その泡が防護壁の役割を担っているんですね。なら、やはり狙うは無防備な
背面か」
 レルロンドは動きのとろいカニの背後に回ろうとした。しかし、ラスの魔力の影響か、
カニは機敏にサイドウォークし、レルロンドの正面から体当たりした。
「うはぁ!」
 予想外の動きにレルロンドは腹部を強打し、転がりつつも痛みに耐え、カニの正面に戻
った。カニの全身から魔力が溢れているのか、レルロンドの服が衝撃の瞬間のまま凍り付
いている。

659FAT:2009/01/24(土) 13:38:48 ID:07LLjSJI0
「くっ、ランクーイ!」
 レルロンドは体内から炎を捻出し、凍りついた服を融かす。カニは余裕からなのか、ハ
サミをカシンカシンと鳴らした。しかし、そんな安い挑発には乗らない。レルロンドは冷
静だ。ラスはそこにランクーイとレルロンドの差を見た。
 レルロンドは落ち着いて矢を一本、弓にあてがった。そして、矢に炎を纏い、力強く弓
をしならせ、放った。燃え盛る炎はカニのあぶくを打ち消し、矢が柔らかな口に突き刺さ
るだろう。そう期待したがカニはハサミを器用に動かすと矢を挟み、へし折った。カニは
力に酔いしれているようにハサミをカッチンカッチンといやらしく鳴らした。しかし、レ
ルロンドの表情にはまだ余裕があった。
「あいつ、試してやがる」
「え?」
 ラスはレルロンドの戦い方に感心した。ランクーイのようにただがむしゃらに相手を倒
すことを第一に考えるのではなく、今の自分がどれほどなのか、どんなことができるのか
を研究し、分析している。そもそもラスはレルロンドの戦闘能力の高さを評価していた。
それ故にランクーイとレルロンドの同伴を認めたと言ってもよい。ただ、ランクーイの性
格や求めているものにラスは惹かれ、ランクーイに夢中になっていただけであって、けっ
してレルロンドを評価していないということはなかった。
 レルロンドは次の手を実行する。矢に爆薬入りの小袋を括りつけ、放った。当然のよう
に小袋は矢ごとカニのあぶくで凍りつき、爆発は起こらない。……はずだった。レルロン
ドは凍りついた小袋を見て嬉しそうな笑みを見せた。あらかじめ小袋の中に忍ばせておい
た火の魔力が爆薬を刺激し、凍りついた袋ごと爆ぜる。カニの周囲は煙に巻かれて何も見
えない。煙が晴れたときにはレルロンドは足を炎で守りながら、カニの甲羅を踏みつけて
いた。口を地面で塞がれ、ハサミもレルロンドには届かない。レルロンドの完全勝利だ。
「師匠、倒してみせました!」
 レルロンドは自信に満ちた顔でラスに報告する。しかし、ラスの口からは予想外の厳し
い言葉が返ってきた。
「甘い、甘すぎる。相手が魔法を使えると知っていて、なぜそれで勝利したと言える。魔
法は目に見える想い。上級の魔法使いならば全身どこからでも魔力を放出することは可能。
ただ押さえつけたからと言ってそれでは勝利とは言えないな。相手が魔法を使うものなら、
殺すか、自身の魔力で相手を支配し、結解を張れ。でなければ勝利とは呼べん」
 レルロンドは頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。魔法は目に見える想い。レルロ
ンドは今、足から炎を出している。同じように、このカニも甲羅からなんらかの魔法を出
してくる可能性がある。魔力を持つものとの戦いは、正に生きるか死ぬかのどちらかしか
ないのだ。

660FAT:2009/01/24(土) 13:39:25 ID:07LLjSJI0
「わかりました、師匠。僕は勝利してみせます」
 レルロンドは心を鬼にし、弓の下端についた刃をカニの甲羅と口の間に挿し込んだ。そ
して、その先端に熱を持たせ、内側から燃やした。
「わはー、いい匂いー」
 香ばしいカニの焼けた匂いが洞窟に広がる。レルロンドは食欲を見せるソシアとは反対
に、戦いの厳しさを再認識されたことで穏やかだった心が少し、強張った。
「ま、そんなに気にすんなよ。全身どっからでも魔力を出せる奴なんてそうそういない。
仮にいたとしたら今のお前じゃ太刀打ちできない。ただそういう奴も存在しているってこ
とを知っておいてもらいたかっただけだ。さあ、カニでも食って一休みしようぜ。お前は
飲み込みがいい。成長が早そうだからこれからが楽しみだぜ」
 レルロンドは自分の気持ちをすぐに察して気遣ってくれるラスの優しさに感動した。同
時に、自分の成長を期待してくれているという事実もレルロンドにとってはこの上ない喜
びであった。
「では、僕が身をとりましょう」
 レルロンドは少し照れくさい笑顔を隠しながらカニの甲羅を剥ごうとした。しかし、堅
固なカニの甲羅の前に歯が立たない。
「どけよ、俺がとってやるぜ」
 ラスは乱暴な言葉遣いとは裏腹に、優しくレルロンドをカニから引き離すと、背負った
大きな剣でスパスパッとカニを切り裂いた。
「わはー、い、いっぱい、身がはいってる!」
 ぎっしりと詰まった身にソシアは興奮した。レルロンドはラスの剣さばきに尊敬の眼差
しを向けている。
「いい熱の入り方だ。ムラがなく、脚の先まで均一に火が通っている。レルロンド、お前、
いいコックになれるぞ」
 珍しく、本当に珍しくラスが冗談を言った。レルロンドはラスの変わりように、いや、
角の丸くなりように心を躍らせた。冗談を言えるほどの余裕がラスの心の中に出来ている。
それは、エイミーによって与えられたあの水晶の魔力ではなく、ラス自身の成長によるも
のだとレルロンドは確信した。自覚していないのか、ラスはおいしそうにカニの身をほお
張っている。
「どうした? 食べないのか」
「お、おいしーですよ。食べましょお」
「あ、ええ、いただきます」
 ラスはレルロンドにカニの身を差し出した。それをレルロンドはありがたく受け取った。
ラスは当たり前のように手を差し出したが、それも成長の証。ラスは気付かなくともレル
ロンドは気付いた。そして少し大人になったラスを尊敬の眼差しで嬉しそうに見つめた。
ラスはそんなレルロンドの瞳のわけを理解できず、じっと見つめてくるレルロンドがもっ
とカニの身を催促しているものだと思い、もう一筋差し出した。
「れ、レルロンドさんっ、お、おいしーですね」
「ええ、おいしーです」
 言って、レルロンドの目からはなぜか涙が溢れた。
「おいおい、泣くほどうめーかよ」
「れ、レルロンドさんは美食家なのですねっ」
 笑いながら、レルロンドの頬を涙が流れ落ちた。涙のわけをラスが理解することは出来
なかったが、間違いなく、その涙はラスの成長によるものだった。

661FAT:2009/01/24(土) 13:40:31 ID:07LLjSJI0
皆様こんにちは。最近体を動かすことにはまってます。やはり適度な運動は必要ですね。

>>◇68hJrjtYさん
いつも感想いただきありがとうございます。
赤鼻の話とネクロの話を書いて思ったことはやっぱり短編っていいなぁってことですかね。
ほぼその日の気分次第で話のトーンが変わってくるので一日違うだけでこんな風に作風が
がらりと変わってきます。
また本編の合間に短編を書いていきたいと思います。

>>蟻人形さん
少女の期待が崩落していく様を想像すると背筋が凍るような恐怖を感じました。
でもギルド側の作戦もまだほんの一部すら実行されていないようなので、今後の少女の表
情の変化が楽しみです。
少女の従者、アドラーも興味深い存在ですね。この特異な追放天使が少女とギルドにど
のような影響を及ぼしていくのか、続きを期待しております。

>>柚子さん
流れるような戦闘シーンの連続、楽しませていただきました。
白い仮面の子供たち……両ギルドの精鋭達でも苦戦するほどの力、こんなものが大量に召
喚(?)されたらひとたまりもありませんね。フロストクエイクのようなオリジナル魔法
もより白い仮面の子供たちの特殊さを引き立てていて痺れました。
イリーナを意識しているようにも見えるソロウ。ミシェリー以外にも二人を結ぶものがあ
るのかなんて色々想像しちゃいます。
続きを楽しみにしております。

>> 白猫さん
お久しぶりです!!
氷を駆使するレティアと炎を駆使するアーク。対照的な二人の因縁は根が深いのですね。
ちょうどいいところで終わってしまったので続きが気になります。あ、でも短編だからこ
れで終わりなのでしょうか。
長編でも短編でも、これからも白猫さんのSSに期待しております。

662◇68hJrjtY:2009/01/24(土) 17:08:57 ID:N.pdTvYc0
>FATさん
続きありがとうございます♪毎回楽しみにしていますよ!
レルロンドの修行…なのですが、なんだか楽しい冒険物語チックでほんわか読めました。
ソシアのイケイケっぷり(死語)もそこまで「えろぃ!」と感じない不思議。
むしろソシアのお陰で二人の距離感が縮まったことのほうが嬉しいです。いいトリオだなぁ(笑)
ひとつずつ、しかし確かな足取りで成長する師弟。つい、もっとこの雰囲気を堪能したくなってしまいますね。
続きお待ちしています。

663名無しさん:2009/01/28(水) 17:56:01 ID:WrGT.WaE0
てすと

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668K:2009/01/31(土) 04:39:40 ID:o10ct1CA0
 ずっと憎しみばかりだった。
 攻撃するならばやりかえし、命つきるまで戦うものだと、思っていた。
 すさまじく熱い炎の固まりと共に殴られ、最初の昇天をかますまでは。


1れべる

すごくあたまがいたいです。
隣でお姉さんがなでなでしてくれます。
ぼく、さっき一回なんか死んだ気がします。
けげんそうにお姉さんを見上げると、お姉さんはぼくを笛でこつんと殴りました。
痛くはなかったです。よろしくってことらしいです。
「コボくん、今日からあなたは私のペットだからね」

新しく名前を貰いました。


8れべる

ご主人さまがコボルト秘密にいきました。
なんかご主人さまの足下に炎があるので、慌てて後ろ足でけりけり、砂をかけて消そうとしました。
「ちょ、こら、めっ!」

怒られてしまいました。


14れべる

ご主人さまと一緒にコボルト秘密をくりあしました。
ぼくはご主人さまに攻撃しなさいっていわれたんだけど、誰を攻撃して良いのかわからなくてぐるぐるしてしまいました。
ぼくより先にご主人さまは撲殺していました。
ご主人さまはちょっとこわいです。

でも、ちゃんと役にたてないぼくも情けないです。



15れべる

あじとB3へ行こう!とご主人さまが言い出しました。
ぼくは途中のもんすたーが怖いのでやめたほうがいいんじゃないかなとおもいました。
ご主人さまはぼくの様子はまったくむししてB3にいきます。

2人して殺されて帰ってきました。
ぼく、5回くらいしんだ…。



21れべる

ご主人さまが洋服をとどけにいくそうなので、ついていきました。
そらとぶじゅうたんはきもちよくって、ご主人さまは鼻歌を歌っています。
ピクニックみたいでわくわくしました。

音程がはずれていることは気にしてはいけないとおもいます。



33れべる

 アウグスタうえの吸血鬼のおじさんとたたかいました。
 いたいいたいいたいいたい。
 ご主人さまが赤いお薬をのませてくれました。
 おいしくておなかいっぱいです。
「さあ、もっかい行ってらっしゃい!」

 いたいいたいいたいいたい。

669K:2009/01/31(土) 04:44:58 ID:o10ct1CA0
41れべる

もういちどあじとB3にいきました。
ご主人さまのお友達のお姫様が手伝ってくれました。
白い綺麗なドレスをひるがえして、爆弾をなげています。

可愛くてかっこいいけど、お姫様で爆弾ってどういうことか気になってしかたありません。
 鞄から液体窒素がちらりと見えるのでつっこむのはやめようと思いました。 
 ぼくはすることがないようで、ご主人さまとお姫様のお話を聞いていたら眠くなってしまいました。
「だいぶレベルがあがったね!」
「うん、53まで待ち遠しいよ〜!」

 うつらうつらしながらきいていましたが、ご主人さまが嬉しそうだとなんだかぼくも嬉しいです。


43れべる

 とおりがかった長髪のおにいさんがぼくに羽と炎をくれました。
 炎は槍の先にくっついて、一撃で吸血鬼のおじさんをたおします。
 はやいはやい!つよいつよい!
 ご主人さまがおにいさんにお礼をいって、ぼくに攻撃命令をだします。

 …でもやっぱりぐるぐるしちゃいました。

 ぼくがもっともっとはやくて、なにからもご主人さまを守れるようになればいいのに。
「ぽめ〜^^」
 ご主人さまの笑顔が、ぼく大好きなの。


46れべる

 ご主人さまが「絶対死ぬと思うけど」と言いつつぼくににっこりわらいかけた。
 よくわからないけど笑っているご主人さまは大好き。

「ちょっとハノブ高台望楼いってみよっか! ネクロクエしてみる!」
 無謀なことが大好きなご主人さまだよねって前お姫様がいってた気がする。

 絶対って絶対起こるから絶対って言うんだよね。


46れべる

 ご主人さまのお友達のお姫様と、都を西にちょっとでたところでばったり会ったのでおしゃべりした。
たたかわないでのんびりしてると、ぼくねむくなっちゃう。
「あと4レベルくらい? ファミテイム手伝うよ〜^^」
「ありがとう! でも病気のコボルトも使ってるとやっぱり愛着わくよね〜。ちっこくて、可愛くて」
「ダメだよ、ファミかエルフじゃないとダメ低いじゃん!」
「そうだよねー…やっぱだめだよね」

 ご主人さまはぼくをそっとなでてくれました。
 ぼくは半分眠りながらその手に頬をすり寄せました。

670◇68hJrjtY:2009/02/01(日) 03:27:06 ID:N.pdTvYc0
>Kさん
(´;ω;`)ウッ…。無邪気な文章なのが余計に悲しさをさそいます。こんばんわ68hです。
多くのテイマが踏襲してきたであろう病気コボ→ファミorエルフへの変更。
ゲーム内では何事もなかったかのように新しいペットにわくわくしてしまいがちですが…。
でも、今までのペットたちはどこかの空で応援してくれてるとか思いながら涙を飲んでます。
しかし病気コボでネクロクエとはっ…!このテイマちゃん、強くなりますね。うん。
またの投稿お待ちしています。

671FAT:2009/02/08(日) 20:40:57 ID:f79bllg60
第一部 『双子の天才姉妹』 二冊目>>798(最終回)

第二部 『水面鏡』

キャラ紹介 三冊目>>21
―田舎の朝― 三冊目1>>22、2>>25-26 
―子供と子供― 三冊目1>>28-29、2>>36、3>>40-42、4>>57-59、5>>98-99、6>>105-107
―双子と娘と― 三冊目1>>173-174、2>>183、3>>185、4>>212
―境界線― 三冊目1>>216、2>>228、3>>229、4>>269、5>>270
―エイミー=ベルツリー― 三冊目1>>294、2>>295-296
―神を冒涜したもの― 三冊目1>>367、2>>368、3>>369
―蘇憶― 五冊目1>>487-488、2>>489、3>>490、4>>497-500、5>>507-508
>>531-532、7>>550、8>>555、9>>556-557、10>>575-576
―ランクーイ― 五冊目1>>579-580、2>>587-589、3>>655-657、4>>827-829
>>908>>910-911、6>>943、7>>944-945、六冊目8>>19-21、9>>57-58、10>>92-96
―言っとくけど、俺はつええぜぇぇぇぇ!!― 六冊目1>>156、2>>193-194、3>>243-245
>>281-283、5>>385-387、6>>442-443、7>>494-495、8>>703-704、9>>705-706、10>>757-758
11>>759 七冊目12>>536-537、13>>538、14>>561-562
―光選― 七冊目1>>599-600、2>>601、3>>609-610、4>>611-612、5>>655-656、6>>657
>>658-660

―8―

 光の届かないキャンサー気孔。しかし、その孔内は淡く明るい。レルロンドはいまさら
ながらに疑問を持った。
「師匠、なぜここはこんなに明るいのですか? 光の届かない洞窟なのに」
「そ、そういえば、不思議ですね」
 ラスは足を止めると、斜め先の天井を指差した。
「あれを見ろ。光の強いところと弱いところがあるだろう」
 見れば、澄んだ緑色の光が淡濃と天井を彩っている。
「あの光の濃いところの下を見てみろ」
 ラスに言われたとおりにレルロンドとソシアは一番色の濃い光の下方に目線を送った。
「み、湖があります」
 ラスは頷いた。
「そうだ。この湖には特殊な夜光虫が繁殖している。そいつらが発光しているおかげでこ
の気孔は松明がなくても明るく、安心して狩りができる」
「ちょっと待ってください。では、あそこの濃い光はどう説明するんですか?」
 とレルロンドは一点を指差した。確かに、そこは下に水があるわけでもないのに明るい。

672FAT:2009/02/08(日) 20:41:33 ID:f79bllg60
「説明の順序を間違えたな。この特殊な夜光虫はまず、カニなどの生物の体内で繁殖する。
そいつらが死んだときに血や腐った肉に混じって外に出る。だからそこには何かの死体が
あったんだろう。そしてそれはいつの日にか水溜りに集まり、光が生まれる。そこの光が
色濃いということは、まだ死体がなくなって幾日も経っていないということだろうな」
 相変わらずの知識量の豊富さにレルロンドの好奇が疼く。
「でも不思議ですね。この湖を見る限りは光なんて全く感じられないのに、上を見上げれ
ば宝石のようなエメラルドグリーンが輝いてる。なぜ湖は光らないのですか?」
 ラスはすました顔で答える。
「だから特殊な夜光虫なんだ。普通の夜光虫は自身をその場で発光させ、その光は目に見
えるが照らすほどの強さはない。だが、この特殊な夜光虫は岩のような地殻をつくってい
る硬い物質に反応する光を出している。こいつらの出す光は俺たちには見えない。しかし、
岩と反応するとその光は俺たちにも見えるようになり、こうして洞窟全体を照らす、とい
うことだ。わかったか?」
「ら、ラスさん、やっぱりあったまいー」
「はい、たいへん分かりやすい説明、ありがとうございます」
「補足だが、この特殊な夜光虫はここだけでなく様々な場所に生息している。しかし、不
思議とこいつらは地下じゃないと発光できないらしい。あとは寄生できる生物がいないと
ころではやはり繁殖できないようだな」
 レルロンドとソシアはへぇ〜とラスに尊敬の眼差しを送った。たった七年間でよくもこ
れほどの情報を理解できるものだ。
「師匠にお供するのは楽しいですね」
 レルロンドはソシアに笑いかけた。
「ええ、わ、わたし、あ、あたまがわるいのでっ、ラスさんのお話、た、たのしいですっ。
ず、ずっと、お供させてください!」
 ソシアはどもりながら、本人はそんなことなど気にせずにラスを輝いた美しい瞳で見つ
めた。
「へっ、それじゃお前ら、俺と一緒にいたいなら死ぬなよ。それが俺についてくる唯一の
条件だ」
 ラスはソシアの美しい瞳に気付かれないように、照れをウェスタンハットの奥に隠した。
そんなラスに気付かずに、ソシアは喜ぶ。少女のような無邪気さと、整った大人の顔立ち
とのギャップは美しくもあり、まるでこの世の存在とは思えないほどの甘美さを持ってい
る。共にいたいと願っているのはむしろ、レルロンドであり、ラスでもあった。

 三人が絆を温かく深めているのを遠くで、天井から滴る水の音よりも静かに、夜光虫よ
りもひっそりと監視しているものがいた。それは何者かにテレパシーを送り、三人のあと
をつけた。天井から滴る水の音よりも静かに、夜光虫よりもひっそりと。

673FAT:2009/02/08(日) 20:43:13 ID:f79bllg60

―9―

 何の前触れもなく、突然ラスが振り返った。もうこれで五回目だ。夜光虫が照らし出す
その先には、石筍の一つもない。
「師匠、一体どうしたんですか?」
 レルロンドが心配そうにラスの顔を覗き込む。ソシアも両手を胸の前で握り、眉尻を下
げ、不安そうだ。
「お前は感じないのか? いるだろう、俺たちを監視している者が」
「えっ!?」
 レルロンドは驚いて振り返る。しかし、そこには転がっている岩の一つもない。
「いるったって、こんなひらけた所になにかいたら、さすがの僕だって気付きますよ」
「わ、わたしも、きづきませんでした」
 ラスは少し困ったようにウェスタンハットのつばに手をかけた。
「そうだな、俺も気配は感じるものの、そいつがどこにいるのかは特定できない。尾行の
うまいやつだ」
「こ、こまりましたね」
「なら、僕が囮になりましょうか?」
 レルロンドは何もいない空間を睨む。しかし、その視界はラスの大きな手によって遮ら
れる。
「いや、一人になるのはやめとけ。俺はもうあんなのは嫌なんだ」
 ラスの深い傷を見たレルロンド。
 ランクーイを失って後悔しているのはラスも同じだった。だから、ラスはもう愛する弟
子を一人にはさせない。一人にすることは、責任を放棄することになるのだから。
 レルロンドを失うことを最も恐れているのはラスであり、レルロンドの成長を最も望ん
でいるのもラスである。危険を冒さなければ強くはなれないだろう、しかし、危険を冒せ
ば死は近づいてくるだろう。ラスはそんなぎりぎりの駆け引きをさせつつも、自分だけは
どんなときもレルロンドの傍にいようと心に決めていた。そうすることで近づいてきた死
を、触れさせないようにするのだ。
 ランクーイが教えてくれたこと。弟子は野に放たれれば自力で強くなる。しかし、近づ
いてきた死にたやすく触れてしまう危うさを併せ持っている。もう二度とあんな思いをす
るものか、とラスの心に刻み込んだのは間違いなくランクーイだった。
「はい、すみませんでした」
 ラスの心情を察したレルロンドは野暮な考えを捨てた。
「まあいいさ、どんなやつが襲ってこようと俺が蹴散らしてやる。レルロンド、お前は俺
の指定した相手とだけ戦うことを考えていればいい。背伸びをすると後悔することになる
ぞ」
 後悔することになる。それは、レルロンドに言い聞かせるのと同時に、自分自身へも警
告しているようだった。
「あ、あそこに、ひ、ひとがいるー」
 ソシアの声に二人は前を向いた。すると、遠くに長く黒い髪の女が立っているのが見え
た。女は悪寒のするような青白いワンピース一枚で直立し、じーっと三人を見ている。
「おい、あんたぁ、こんなとこでなにしてんだ?」
 ラスが呼びかけると女は直立姿勢のまま、三人から視線を外すことなく薄闇の中に消え
ていった。

674FAT:2009/02/08(日) 20:43:45 ID:f79bllg60
「おっ、おおおおおばけっ」
 ソシアの顔から血の気がさっと抜け、体が震えだした。
「不気味ですね。先ほどから師匠が感じていたという気配はあの女性のものでしょうか」
 ラスは腕組みをし、静かに女の消えた方を睨んだ。
「いや、違うな。まだ背後から気配を感じる。今のはそいつが見せた幻覚かもしれん」
「僕にはあの女性があちらに誘い込もうとしているように見えましたが、どうします?」
 レルロンドはラスを仰ぎ見る。ラスは少し考えてから腕組みをしたまま、
「まあ、考えても仕方ないか。罠だろうが何だろうが、今の女を追うぞ」とつかつか歩き
出した。
「はいっ!」と威勢の良い返事をし、レルロンドは後に従う。
「ま、まってくださいー! 置いていかないで〜」
 ソシアは恐怖のあまり腰が抜けたのか、体を震わせたまま動けないでいた。
「そんなに恐がんなよ。ほら、いくぞ」
 ラスは少し戻り、ソシアの手を強引に引いた。腰の抜けているソシアは「きゃっ」と小
さく悲鳴をあげ、ラスにもたれかかるように抱きついた。
「おっ、おい」
 甘い香りと柔らかな感触に戸惑うラス。この気孔の入り口で感じたときよりも強く、鮮
明に女を感じた。無意識にまわした腕の中でソシアの震えは徐々に治まり、温もりだけが
全身に伝わった。
「あ、ありがとうございます。ラスさん、あったかいんですね」
 腕の中から自分を見上げているソシアの瞳があまりに魅力的でラスは思わず目を逸らし
てしまう。レルロンドはそんなラスの仕草に「ほう」と気付き、抱き合う二人に柔らかな
笑みがこぼれた。

「あた〜たかな〜うで〜♪ たくま〜しいうで〜♪ わたしをつつむやさしさは〜♪ て
んしのようなあたたかさ〜♪ きっとあなたはてんのひと〜♪」
 歩き出し、妙に熱っぽいラスと嬉しそうなレルロンドにソシアの歌が心地よく響く。レ
ルロンドは歌詞を聴き、また笑みがこぼれた。
 しかしながらラスは、嬉しいはずなのにソシアの歌の歌詞に胸を痛めた。自分は闇の者
なのだと、あの緑髪のエルフがラスの心の奥深くに植えつけた言葉がラスを苦しめた。
 天使のような温かさ。それがあったとしても、天の人には決してなれない。天とは真逆
のところに自分の存在はあるのだとラスは表情を隠した顔の裏で悩み、自分自身を追い込
んでいた。
「やわらかなひ〜とみ〜♪ やすらぎのひ〜とみ〜♪ わたしをつつむやさしさは〜♪ 
てんしのようなやさしさ〜♪ きっとあなたはてんのひと〜♪」
 ソシアは上機嫌に歌い続ける。清らかな歌声が響けば響くほどラスの苦しみは嵩み、ソ
シアの意図に反し、ラスの胸は癒えることなく、ただ諦めに起因する悲しみだけが満ちて
いった。

675FAT:2009/02/08(日) 20:45:05 ID:f79bllg60

―10―

 背後の気配を感じながらも、三人は不気味な女を追った。女は不自然に姿を見せては消
え、姿を見せては消えと何度も繰り返した。
 キャンサー気孔はカニが掘った穴。ここのカニは他の生き物との共生を好む。本来なら
ばトカゲ男やメロウのような長身の魔物が共に生活しているはずだ。トカゲ男たちはカニ
を喰らう。捕食者と共生とはおかしな話のように思えるが、キャンサー気孔に生息してい
るカニにとって、この捕食される瞬間が大切なのだ。
 通常、海辺に生息しているカニは腹の中で孵化した幼生を海に放つ。しかし、ここのカ
ニは幼生を自ら放つことが出来ない。幼生は母体の硬い殻の中でただひたすらに待つので
ある。捕食の瞬間を。
 殻の中で幼生が十分に育った親カニは寄行に走る。捕食者の前に自ら進み出、無抵抗に
捕食を誘うのである。トカゲ男はカニを捕食する際、銛で硬い殻を砕き、身を食す。メロ
ウはハンマーで豪快に叩き潰し、身を食す。このとき、幼生はようやく外の世界に出れる
のである。親の殻の中で十分に育った幼生はすでに親と同じ姿形をしており、すぐに岩の
陰などに逃げ込む。こうして捕食者は食糧を提供してもらい、カニは子孫を増やすという
共生関係がなりたっている。
 この特殊な共生関係がキャンサー気孔をただのカニの巣穴ではなく、人間も入り込める
ほどの巨大な穴にしているのである。メロウが悠々と歩けるほど高い天井、トカゲ男たち
が集団で過ごせるような広い部屋。これらはそれぞれの種が過ごしやすい環境を自ら創り
出した功績である。
 今、三人はそれらの生物が創り上げたとは思えないほど広大な空間の中に立っていた。
上を見上げても夜光虫の光が見えないほど天井は高く、壁は荒々しく削られ、その縁には
砕けた岩が転がっている。削り取られた岩はまだ新しい色合いをしている。風化の度合い
から、まだそれほど時が経っていないことが窺える。
「ひ、ひっろいですねー」
 ソシアは関心したように見上げる。声が幾重にも重なって返ってくる。
「こんな……なんの部屋だ、ここは!」
 ラスはこの巨大な空間に恐怖を感じた。その感覚はあの藪森で不気味な泉を目撃したと
きの驚きに似ていた。
 異世界の臭い。闇。
 ラスはこの気孔の仕組みを知っていた。故に、これほど巨大な空間が存在するというこ
とがカニの生息数の激減という先刻までの疑問の答えだと理解した。
「無駄に広いですね。ここから地上にでも通じているんでしょうか?」
「おしいわね」
 レルロンドの問いに聞きなれない女の答えが返ってくる。それはあの黒い長髪の不気味
な女のものだった。女は長い髪を垂らし、暗闇の中にうつむいて立っていた。
「ここはね、坊や、門なのよ」
 女が近づいてくる。よく見れば、長い髪は波打つような黒のソバージュヘアで肌はペン
キを塗ったような紫がかった青、歩いているはずなのにワンピースからは脚を運ぶ動作が
見えない。まるでお化けのようである。

676FAT:2009/02/08(日) 20:45:43 ID:f79bllg60
「きゃーっきゃーっ! あ、足がないー!」
 ソシアは恐怖に取り乱し、ラスの腕にしがみ付く。
「い、一体あなたは何者なんですか」
 レルロンドは恐怖から額に汗を滲ませている。やはり、霊は恐い。
「ナーマ様だ」
 突如背後に羽のついた目玉のような魔物が現れる。フランデル大陸でも確認されている
短い尾に触角のような二つの目を持つ浮遊性の目玉の魔物だ。
「ナーマ?」
「ナーマ様は我が主。そしてお前らの母となるお方だ」
「およし、フォルダー」
 ナーマがなだめるように言うとフォルダーは黙った。
「私はナーマ。まずはようこそおいでなさいました、とでも言っておきましょうか」
 ナーマは不気味に一人ひとりの顔を爬虫類のような目で見定める。その目をラスは知っ
ているようで寒気がし、なるべくナーマのギョロっとした気味の悪い目を見ないようにし
た。
「私は今、この瞬間を幸福に思うわ。だってそうでしょう、こうしてあなたが餌を引き連
れて私に会いに来てくださったんですもの」
 三人はナーマが何を言っているのか理解できなかった。
「このフォルダーの目、確かにあなた様の望む者と確認致しております」
「そうね。でなきゃ私自らが出向くなんてありえないわ」
 ナーマはそう言うと、ラスに熱く痺れるような視線を送った。
「もういいでしょ? あなたは十分に経験を積んだわ。私と一緒に帰りましょう」
「は?」
 ラスの内側からあの緑髪のエルフの言葉が沸きだす。引き出された不安が目の前のこの
生物に、おそらく大陸では確認されたことがないであろう爬虫類のような眼を持つ女に殺
意を抱かせる。
「まだ自覚してないのかしら? でもあなたの本能は目覚めているはずよ。だって、その
証拠にここに来たじゃない。もう芝居はいいのよ。餌を私に渡して、あなたは門をくぐり
なさい。そうすれば全て分かるわ。あなたは思い出すのよ、あなたの居るべきところ、す
るべきことを」
 ナーマの言葉はラスを不安定にさせた。ラスは不安気にレルロンドを見る。しかし、レ
ルロンドは冷静だった。
「師匠、そんな目をしないで下さい。大丈夫です、僕はあなたの弟子なんですから。ナー
マ、あなたはそうやって僕らをたぶらかすつもりですか? 生憎ですが、僕らの絆はその
程度では壊れませんよ」
 真っ直ぐなレルロンドの思い。レルロンドはラスのことを疑わなかった。その想いに、
ラスは奮起した。
「あのエルフの野郎も、お前も、人のことを何だと思ってやがるんだ! 俺は人間だ! 闇
の者でもなければお化けでもねぇ! 人間だっ!!」
 相手が何も言わぬうちにラスはナーマに斬りかかろうとソシアを振り払おうとした。し
かし、ソシアは全身でラスを引き止める。ラスの特攻はソシアの懸命の制止によって阻止
された。
「ちっ、なにしやがんだ!」
「ラスさん、だ、だめです! まだ、だめです! 相手の姿を良く見てください」
「あら、鋭い娘ね。せっかく一撃で捕らえてあげようと思っていたのに、台無しじゃない」
 とナーマは不気味に笑いながら腰を横に振った。ワンピースの後ろには背丈の何倍もあ
る長い尾が隠れており、尾の一振りは岩を軽々と粉砕した。
「ヘビ女? こんな化け物がこの世に存在していたなんてっ!」
「ナーマ様、どうなさいましょう」
 パタパタと羽ばたくフォルダーは指示を仰ぎつつもすでに獲物に飛び付かんと体を揺ら
していた。
「お前はそこの坊やと娘を殺りな。私はこの子を捕まえるわ。巻き添えを食らわないよう
にうまく立ち回るんだよ」
 ナーマが言い終わるのを待たずにフォルダーはレルロンド目掛けて高速で突っ込んだ。
「ランクーイ!」
 レルロンドが叫ぶと全身から眩いばかりの炎が噴き出し、高速接近してきた敵を巻き込
まんと天高く猛る。フォルダーは急旋回し、上空に退避する。状況がよく飲み込めないま
ま、戦闘は始まった。

677FAT:2009/02/08(日) 20:46:46 ID:f79bllg60
皆様こんばんは。目がしばしばし始めました。もう春ですね。

>>◇68hJrjtYさん
ラスとレルロンドの旅のお供キャラにはお色気ぷんぷんなお姉さまが欲しかったのですが、なんとなく合わ
ない気がして今のソシアのキャラに落ち着きました。
大人のエロスを表現できる方々は神だと思います。

>>Kさん
こんばんは、初めまして。
Kさんの作品を読んで、病気のコボルトをレベル100まで上げたギルメンの勇ましい姿を思い出しました。
テイムされ、徐々に主人との絆を深めていく姿がいたいけで、それだけに最後の二行がぐっときました。
また投稿して下さいね。読ませていただきます!

678◇68hJrjtY:2009/02/09(月) 17:39:25 ID:N.pdTvYc0
>FATさん
投稿ありがとうございます♪
ううむっ、ついに戦闘突入…の前に、いやーラスの博学な事!
特にカニが体内で子供を作り、他の捕食者に襲わせて出産する、のくだりには驚きました。
もちろんFATさん設定である事はわかりますが、やたらと説得力がありますね。もしかして実在動物の生態系がモデルとか…!
お色気姉御は確かに書ける人すごいですよねぇ。でも、ソシアもしっかり色気爆発ですから(*´д`*)
そして他人レスながら病気コボLv100に驚愕しております、すげぇぇっ。
ナーマと名乗る怪しい女性との戦い、ラスはまたも闇の者と烙印されてしまいましたが…続きお待ちしています。

679みやびだった何か:2009/02/11(水) 04:27:59 ID:xwp1C6OU0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Responce
 こんばんは。ってすでにおはようですね。

 お馴染みのみなさんお久しぶりです。そうでない方は初めまして。かつてみやびと呼ばれ
ていた出がらしです。雑巾かもしれません。いや本当は残飯ですごめんなさい。

 ――と。このくらい自分を卑下しておけば……[壁]д・)ダメ...?

 久しぶりすぎて読みきれないので最新の初めましてさんだけ。

>Kさん
 可愛くて牧歌的でいて切なくて、グッドです(★´ -`)(´- `☆)。o0(コボタソカワィィ)

 私も以前育てていたコボルトの本がどこかにあるはずなんですが、また開いてみようかな、
とか思ってみたり。……でも本はあるけど “本体” が消滅してたりしますが(殴)
 そのくらいあったかい気持ちにさせてくれたということで、またぜひ書いてくださいね。

---ちょこっと私信---------------きりとり---------------きりとり---------------

 【次スレに関して(早いけど;)】
 現行テンプレの以下の箇所について。

 投稿制限:1レス50行以内(空行含む) ※これを越える文は投稿できません。

 次スレのテンプレ案を出す際、上記の行の削除をお願いします(汗)
 どうも内容に誤りがある気がしてなりません。というかちゃんと仕様を確認して出したテン
プレ案ではないので、十中八九間違ってるハズです(;゜∇゜)
 スレを立てたことがないのでその辺わかりません;;
 また板の仕様およびここの現設定に詳しい方がいらっしゃいましたら、補足なり修正なり
してください。
 お手数をおかけします……ペコリン(o_ _)o))

---------きりとり---------------きりとり---------------きりとり---------------

 記:68hさん
 メールを出したのですが届いていないでしょうか。他に連絡先を知らないのでここで(汗)
 隠居の身で私用に使ってしまった……。

 とは言えリレーくらいは企画人として引率しないとマズイですね;
 (※続き書いてくれたみなさん、ありがとうございます!)
 そのうち折を見てまとめます(。-人-。)

 次から正規の流れで――|彡サッ
Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

680◇68hJrjtY:2009/02/11(水) 19:50:01 ID:N.pdTvYc0
(私信失礼します)

>みやびさん
うぉお!お久しぶりです♪
リレー小説まとめてくださる!その節はぜひともまとめWikiにも(こら
メールいただいていたのですか…申し訳ない、PCのリカバリやらなんやらでながらく放置していたため
迷惑メールの山に埋もれたかなんかしたようですorz
と、ともかく、こちらから改めて別の生きてるメアドで送らせてもらいますね。
(というかまとめWiki(http://wikiwiki.jp/rsnovell/)で公開してるメアドなんですけどね(笑))。
ではでは、私信&急ぎで失礼しますね<(_ _*)>

681DIWALI:2009/02/12(木) 12:06:50 ID:.UokWbBQ0
Episode 10:Sexy Vampire 〜フィナーア、人間やめちゃいました☆〜


 黄金に輝く不思議な果実を口にしてから、彼女の身体に何かが起こった。
 体の内側から感じる熱、性的快感その他いろいろ・・・生来のエロ可愛すぎる声による喘ぎ声は森中に響き渡り、
 本人は顔を紅潮させながらその辺にあった木々に艶っぽくもたれかかり、火照りが収まるのをただ待っていた。
 俯きながら自身の素肌に目を見やると、その色に彼女は戸惑いを隠せない・・・肌が『灰色』に変色しているのだ!!

「えー!?ちょっとちょっとぉ、これは一体どういうことなのよ〜!!?どうしてぇ!?
 どうしてあたしのセクシーお肌が何でこんな色になっちゃってるの〜!!?いやァ〜んっ!!!!」

 頬を両手で覆い、若干涙目になりながら腰をくねらせるフィナーア。だが同時に背中から何かの音も・・・
 首を捻って後ろを振り向けば、刺々しい漆黒の翼がバサバサと音を立てながらホバリング状態になっている。
 あまりにも唐突過ぎる、自らの肉体の急激な変貌・・・驚くのも無理はないが、彼女は突如冷静になる。
 灰色の肌に白銀色の長髪、漆黒の翼と鋭い鉤爪、悪魔のような尻尾・・・ ま さ か 。

「あらあら・・・あたしってば、サキュバスちゃんに変身しちゃったみたい。もしかしてあの変なフルーツを食べたから?
 まァでも、子供の頃から憧れてたあのモンスターになれたなんてぇ・・・うふふっ、フィナちゃん嬉しくって、ふぁ・・・あっ
 な・・・何だか、あぁっ・・・変な気分に・・やぁ・・・んっ/////」

 幼き頃からの願いが叶って感極まったのか、自分の身体を、その綺麗で細い指を以て触りまくり、フィナーアは快感の海に溺れる。
 しかし意識がおかしな世界へとイってしまいそうな一歩手前だった・・・近くの茂みから何者かが言い争うような声が耳に入った。
 といっても距離としては彼女のいる場所から100m以上も離れている。その遠距離からでも微かな音が聞こえてしまうのも変身の影響だろう。

「(どうやら聴覚も相当なものになっちゃったようね・・・まァいいわ。いったん一人エッチは止めてやり過ごさなきゃ・・・)」


 ―――――・・・・・

「ところでよォ、ダリオ。おめぇこの変な黒い箱、ミカエルのリュックサックの中に入ってたんだが何だと思うよ?」
「え〜?そんなん聞かれてもわからないッスよぉ〜・・・てゆーかもうちょい幼女ミリアたん見たかったのに。」
「ほんとおめーのロリコンぶりには感服するというか呆れるというか・・・もうツっ込む気も失せるわ・・・」

 サキュバスに変身したフィナーアが接近を感知してから2分後、一匹の火鬼とレイスが彼女の隠れる茂みを通り過ぎる。
 だが彼女は聞き逃さなかった・・・ダリオという名のレイスが口にした『幼女ミリア』という言葉。
 溺愛する妹に何かあったのね!?――――思考する時間などゼロ同然、鉤爪を尖らせたサキュバスが2匹の前に躍り出た!!

682DIWALI:2009/02/12(木) 12:33:27 ID:.UokWbBQ0
「大体おめーよぉ、幼女以外に萌える対象とかいねぇのか!?例えばこう・・・おっぱいのデケェ姉ちゃんとかさ〜」
「先輩みたいな親父趣味は○ございません。幼女こそが正義です、真理なのです。あの愛くるしさはこの世の癒し・・・」
「おぇっ、な〜に神様気どりでほざいてやがんだよっ!!それになんだよ『○ございません』ってのは!!?
 気色悪ぃったらねーぜ・・・ん?お、噂をすればなんとやら・・・ボインなサキュバス姉ちゃんのお出ましか・・・」

 小柄な火鬼は、自身の前に立ちはだかるサキュバスに口笛を吹きながら声をかけた。
 対するサキュバスはスレンダーなボディを魅せつけるようなモデル立ちのまま、相手を睨みつけていた。
 すると火鬼の背後にいたレイスが詰め寄ってきた・・・火鬼と会話していた時のような間抜けさは無い、
 邪悪さを剥き出しにしたドスの効いた口調で美女に迫る・・・!!

「おぉコラ、何先輩にガンくれてんだおめー?焼き殺すぞこのアマが!!?」
「お黙りなさい、醜い亡霊魔術師が・・・あなた達、さっきミリアちゃんがどうとか言ってたわね。どういう事?」
「シカトこいてんじゃねぇぞこの野郎ァっ!!!もうプッツン来たぜ!?焼豚にしてやらぁっ!!!」

 うるさい蝿をあしらうように無視されたのが気に食わなかったのか、キレたレイスは最大火力でのフレイムストームを放とうとする。
 だがその刹那、彼の視界に一閃の光が過った・・・その攻撃はあまりにも速く、既にフィナーアの鋭い爪が彼を無惨に切り刻んでいた・・・!!

「うるさいおバカさんね・・・永遠に お・や・す・み」

 囁くように葬送の言葉を呟くと、ウィンクと投げキッスを風に舞うマントに送りつけた。
 彼女の脅威の戦闘力を前に、相棒を一瞬にして葬られた火鬼は凍りついている。眼は大きく開かれ、ガチガチと音を立てて口は震えきっている・・・
 そして焦燥に駆られた汗が立て続けに伝ってくる・・・・『殺される!!』その一言が彼の頭を支配していた。

「お、おい待て!?ミリアだって?何だおめぇ、あいつのペットなのか・・・えぇ!?」
「うふふっ、残念。わたしはこれでも元人間だったの・・・さっきまではね。そしてミリアちゃんはわたしの妹よ。
 覚悟はできてるかしら?妹に手を出したこと・・・あとその黒い箱、ミカエルちゃんのリュックから勝手に取ったのね?
 弟の物を無断で盗んだのも、妹に手を出したのと同罪ね・・・あの世で償ってもらうわよ?」

「ひぃっ・・・やめてくれぇぇぇぇぇええぇえぇえぇぇぇぇえええぇっ!!!」



「ダメよ・・・悪いコね。」


 鼻先を細い指で突かれたと思ったら、火鬼の視界はもう何も映していなかった。
 ただ真っ暗な闇が覆うだけ・・・静かな幕切れだった。

683DIWALI:2009/02/12(木) 12:58:43 ID:.UokWbBQ0
 ・・・一方、森の小道をモンスターの群れが進み行く。黒い肌と筋骨隆々の肉体、肩をいからせて歩くのはオーガソルジャー。
 そして彼らと追従して歩くのは、バナナを貪りながら四足歩行で移動している珍獣、ホワイトゴルゴの群れ。
 実は彼ら、この先にあるエルフ族の集落にて草野球の試合を挑むためにこうして遠路はるばるやってきたというのだ。

「ボボッボボンボ〜(訳:バナナ飽きた〜(´;ω;)ノシ)」
「そうだな〜・・・ほれ、これやるよ。ダイアーウルフの肉だ、旨いぞ〜」
「フンボボ〜!!(訳:ネ申 降臨!!肉キタ――――(゚∀゚)―――ッ!!!)」
「ボボ〜!!(訳:キタ―――――――(゚∀゚)―――――――ッ!!!)」

 骨太な腕を振り上げながら大喜びするホワイトゴルゴ達。オーガ達から分けてもらった肉を千切って、仲間内で頬張っている。
 しかし突如、パーティの歩みが止まりだす・・・思わずオーガの背中にぶつかるホワイトゴルゴたち・・・

「ンボ〜?(訳:どしたの〜?(´・ω・)σ)」
「あ・・・あれは・・・!!!」

 プルプルと震えるオーガ達の前には、一人のサキュバス・・・もといフィナーアがいた。
 自らを包む熱い視線に気付いたのか、フィナーアはオーガの群れに自ら近づいて行く。

「あらあら、ハァ〜イ!エロキュートなあたしに何かご用?今ならもれなくパフパフしてあげてもい・・・」
「野郎ども!!サキュバスの尻尾を擦ればラッキーになれるってばっちゃが言ってた!!擦るぞォー!!!!」

「え?えぇ〜!!!?ちょっとぉ、フィナちゃん強引なのはちょっと苦手・・・あっ、いやぁぁあぁあんっ!!
 ダメっ、そんな強く擦っちゃ・・・・ふぁ、あぁんっ!!か、感じちゃうわァ・・・こんなのっ、初めてぇ〜っ!!
 はァっ、はァっ・・・もっと、もっともっとォ!!あたしの尻尾を擦ってぇ〜んっ!!!あはぁ〜んっ!!?!/////」

 いきなり変な連中に巻き込まれるフィナーア、果たして無事に帰れるのやら、そして人間に戻れるのか・・・?


to be continued・・・

684DIWALI:2009/02/12(木) 13:05:04 ID:.UokWbBQ0
あとがき

・・・・やっちまったな〜、やっちまいましたよマミータ。
久しぶりにフィナーア登場and理不尽不条理無理矢理な展開でやってみました。
そしてこれまたギリギリな内容ですいません、尺度を一定に保てるようにしておきます;;;

・・・遅くなりましたが新年あけおめです、サキュバスの尻尾は性感帯b

685◇68hJrjtY:2009/02/12(木) 19:42:16 ID:N.pdTvYc0
>DIWALIさん
さりげなくもお久しぶりです!おっとと、あけましておめでとうございます♪
いやはや、久しぶりにDIWALIさんのエロ可愛い小説を堪能しましたよー(*´д`*)
と思ってたらなんとフィナ姉がサキュバスに(汗 これは一時的なものなのか否か!?(笑)
変身しても妹を思う気持ちは変わらずといったところですが、新ペットモンスター総出ですねぇ。
やっぱり個人的にはホワイトゴルゴ君たちが好きです(ノ∀`*) あの会話が(笑)
またの続きお待ちしております。

686K:2009/02/14(土) 06:48:33 ID:o10ct1CA0
48れべる

あと1れべるで、ご主人さまは説得ってスキルをとれるんだって!
そうしたら2人ペットが使えるらしいの!
ぼくどんなひとと一緒に戦うんだろうなぁ。
怖い人じゃないといいな。一緒にいっぱい遊んでくれるといいな。
「ごめんね……」
 ご主人さま、なんで?
 すごい悲しそうな顔。どうしたの?
 ご主人さまが悲しいのはいやだよ。ぼくにできることあったら、なんでもいって。
 ぼく、ご主人さまが大好きなんだよ…。


49れべる

ご主人さまは53れべるになりました。
説得を覚えたみたいです。

ご主人さまおめでとうって足下にすりよったらいつものようになでてくれました。
でもすごい、浮かない顔…。どうしたんだろう。
お姫様が言います。
「じゃあ、コボとは別れてね」
「ん……」

え?
別れるって、なに?
ぼく?

「ごめんね……」

ご主人さまがぼくの鎖をはずします。

なんで?これがないとぼく、ご主人さまのところに帰ってこれないよ。
別れるって、ぼくと?

あたまががんがんして、目の前がまっくらになったみたい。
ぼくはご主人さまの足下からうごかなかった。

「…行きなさい、コボ」

いやだ。
いやだよ、どうして?
ぼく、ご主人さまといっしょにいたいんだよ。それ以外なにもほしくなんてないよ。

「いきなさいったら!」

 笛でごちんと頭を叩かれて、小さく鳴いて逃げ出した。
 でも、ちょっと遠くでご主人さまの様子をみていたの。

 嘘だよね、ご主人さま。
 ぼくを、捨てたりなんかしないよね?
 ここにきて、抱きしめてくれるよね?
 いつものように頭をなでてくれるよね?

 でもご主人さまはぼくにそっくりの緑色を2人捕まえて、いなくなってしまった。

 追いかけて追いかけて、お外に出たけれどご主人さまはどこにもいなかった。鎖でつながれてないから、ついていくことができなかった。


 ご主人さま、どこ?



 ちいさな青い生き物が、タトバ山の前で鳴いていた。

687K:2009/02/14(土) 06:54:25 ID:o10ct1CA0
青い声は泣きやまない。
その身が朽ち果てるか、ご主人さまが迎えにくるまでは。



数日経って。

青い声は泣きやんだ。
はてさて、小さな命がつきたのだろうか。




 タトバの山の茂みを、見慣れた顔が覗く。
「……ごめんね」

 ご主人さまと呼ばれた娘は、小さな声で謝った。
 コボと呼ばれた青い生き物は、全力でその胸に飛び込んだ。
 探して探して、その手足はボロボロで、泥に塗れていた。激しいタックルに娘とコボ両方とも転ぶ。
「やっぱりコボと一緒にPT入ることはできないから…」
 このまま別れるには、娘はコボを愛しすぎていた。それ以上に、コボも。

 しかしそれでも。
 2人を分かつ常識は明確に存在した。

「だから、一緒にいよう。ソロしかできないけど、2人きりでも寂しくないなら」

 小さな青い生き物は、頭をその手にこすりつけた。
 寂しくなんかないよ、と言っているかのよう。



 ご主人さま。
 ぼくはいっしょにいるだけで、しあわせなんだよ。



 聞こえるはずのないその声が、聞こえたかのように娘も微笑んだ。

「いこっか」


 ちいさな病気のコボルトと、とあるビーストテイマーのおはなし。

688◇68hJrjtY:2009/02/14(土) 17:44:07 ID:N.pdTvYc0
>Kさん
続きありがとうございます。前回ラストまでは号泣モノで読ませてもらっていましたが
今回でちゃんとハッピーエンドにしてくれてとっても嬉しい一心です(´;ω;`)
「コボ」という名前ではなく、「コボと呼ばれた青い生き物」に変化しているあたりが
もうコボはペットでもなんでもないただのモンスターに変化してしまった…という暗示に思えました。
でも最後の最後にテイマ視点になって、コボと意思疎通できた事に読者としても幸せな気分です。
気が向いたらまたぜひ、お話を執筆してくださいね。お待ちしています。

689蟻人形:2009/02/15(日) 15:24:13 ID:vYAtmCGQ0
  赤に満ちた夜

 0:秉燭夜遊
 Ⅰ >>577-579 (七冊目)
 Ⅱ >>589-590 (  〃  )
 Ⅲ >>604-607 (  〃  )
 Ⅳ >>635-636 (  〃  )


 0:秉燭夜遊 Ⅴ … Lit Light Lives Ⅰ


 静かなノックは廊下と部屋の双方に響いた。
 返事と伺えるものはなかったが、ドアノブはすぐに、しかし遠慮がちに音を立てる。直後、古い木製の扉が軋みながら開き、仄暗い部屋に廊下の灯りが漏れた。
 消極的な訪問に気付いた部屋の占有者により、部屋の最奥から問いが投げかけられる。だが、質問は戸口に立つ者を確認するためのものではない。
「……何人残った?」
 声は意気消沈し、いつにも増して弱々しかった。
 しかし他方はその事実を予期していた。自分が正しく認識され、入室の許可を得たと考えた訪問者は扉を開き、部屋に足を踏み入れた。

 踵の低いブーツが石の床の上を横断する。ヒールが奏でる乾いた靴音は、出入り口の対極に設けられた机の前で止んだ。
 足音の主は机の左に置かれた小棚の上を確認し、転がっていたマッチ箱を手に取る。中の一本を取り出し、粗雑な作りのマッチをこなれた手つきで箱の側面に擦り合わせる。
 マッチの先端が淡い光を発すると、一組の男女が浮かび上がった。
「あたしを入れて四人。だけど移転先が決まるまで、ここに居座る人も多いみたいよ」
 訪問者である女は小棚の燭台を机に移し、蝋燭に火を点した。やや衰えていた幼火は居場所を変えると軽やかに揺れ、すぐに蝋を溶かす作業に取り掛かった。
 女が訪れるずっと前から同じ姿勢で椅子にもたれ掛かっていた男は、それを聞いても大きな反応は示さない。
 彼の傍らで、普段は賑やかなはずの女が静かに佇んでいる。
 火の光に除けられた闇さえも、自分から姿を変えようとはしない。
 部屋の中で動いているのは儚い一つの灯だけであった。

 小さな火は閑寂な空間の大部分に光を届けている。
 まずは二人の人間、机と椅子、そして小棚を一人前に照らしており、次いで白く塗られた壁や冷たい石の床を映し出す。
 四角い空間の中央には飾り気のない大きなテーブルが置かれ、チラシやら書類やらがぞんざいに積まれている。
 外の風景を縁取る窓は一箇所のみだが、見下ろせば南側の路地を行きかう人々の頭が一望できる。
 暗がりにより近くなった部屋の奥には、扉を背にして硬いソファが配置されている。
 そこで目を留めるべきは、人間が座るはずの場所を独占する一組の剣と盾。
 二つの痛み具合から、それらが一人の騎士に一つの戦いで使われたものだと連想できる者はそう多くはないだろう。
 剣には少量の泥が付着している以外は万全の状態を保っているのに対し、激しい凹凸や焼け焦げを負った盾は最早その役割を終え、亡骸のように横たわっている。

 よにん――。
 多少の間を置いて、男の口はそう動いた。勿論女はそれを見逃さない。
 次いで男の顔が傾き、女の視線を拾う。その瞼は腫れ、目は血走り、頬に涙痕がはっきりと残っている。表情から憂い以外の気色を見出すことはできず、心身ともに衰弱しきっているようだった。
 眼前の仲間に向けて無理にでも微笑もうとしたのだろうが、極度の消耗故それに至らず、力なく頬を引き攣らせるに止まった。
 男は再び口を開き、今度は己の言葉を女に伝えることに成功した。
「お前はいいのか? 行くなら行けよ、俺は止めないから」
 乾燥した喉から千切るように言葉を投げる男に対し、女は移籍を勧められることを前もって予想していたようだ。
 彼女は男の言葉を無視し、踵を返して窓に歩み寄った。何時から降り出したのか、細かな雪が灰色の空にちらついていた。
 背を向ける直前、彼女が表情を固くしたことに男が気付いたかどうかは分からない。
 ただ、女の右手が丈の短いカーテンを必要以上に強く引っ張ったことだけは確かだった。
「抜けるわけないでしょ。……したじゃない」
 目線を上げ、カーテンを握り締め、強い口調で、彼女は言った。

 短い言葉ではあったが、それが女の意の全貌ではなかった。彼女は否定の直後、用意していた非難を咄嗟に呑み込んでいた。
 数日前。仲間の命を乞うため敵に降伏したのは、ギルドの長である彼であった。彼は息の根を止めようともせず、只管に相手を弄ぶような子どもに対して頭を下げた。
 仲間を救うためとはいえ、プライドを自ら投げ打った男は果たして、剣を手放した自分を許すことができるだろうか。
 彼と長い付き合いのある女には、その心の内奥までも見て取ることができる。精神の弱さを知り、彼の心情を汲み取っての判断だった。

690蟻人形:2009/02/15(日) 15:25:08 ID:vYAtmCGQ0

 手触りのよい木肌で作られた年代物の椅子が音を立てる。背もたれにかかっていた男の重心が前に移動したのだ。
 揺らめく火を前に考え事をする男、その丸くした背中はまるで六十を過ぎた老人のようであった。
 少しの沈黙の後、今度は机に体重を乗せてから、男は女の方を見ずに尋ねた。ほんの一握りの生気を、無意味な憂さ晴らしに変えて。
「約束は、なかったことにする。それならどうだ?」

 曇った窓の左半分を通して早い夜の街を眺めていた女は、握ったままのカーテンからゆっくりと手を離した。
 質問が耳に届いてからの一瞬、彼女が息を荒くすることはなかった。むしろ、意に反して眉根に寄った皺を取ろうと努めていた。
 今は売られた喧嘩を買っている場合ではない。彼女は自分で考えていたより冷静な判断ができていた。
 女はなるべく普段に近い声色をつくり、男が投げて寄越した破れかぶれな提案をあしらおうと口をひらく。
 それと同時に、無意識のうちに手が動く。その動作は残された左側のカーテンを閉めるための動きではなかった。
「何言ってんのよ、まったく――」

 暗がりの中、女の指の三本が空を掻いた。そう、まるでその場所に自分の髪があり、それを梳かしつけようとするかのように。
 指先に違和感を覚えた彼女は、このとき初めて自分が肩に手を伸ばしていることに気付いた。そしてふと、蝋燭の明かりは自分を照らすことを避けているのでは、という妙な考えに襲われた。
 途端に女の表情に陰りが見えた。それは周囲の暗さとは関係のないものだ。
 他人の様子ばかりを気にかけていて自身の動揺を見つけられずにいたことに、彼女は強い不安を抱いていた。

 女に似合っていた長い金髪は最早見受けられない。その代わり、肩に掛からない程度の短髪が、彼女の覚悟をより深いものにしていた。
 そしてもう一つ。彼女の両手の掌や指の腹には、まだ軽い痛みが残っていた。

 部屋中に響く自分の靴音を聞きながら、女は心持ち足早に男に歩み寄る。燭台に乗った火の勢いが僅かばかり衰えていたのも事実だった。
 適当な距離で足を止め、普段は逞しいはずの肩に手を置き、黙考していた男に自分の存在を気付かせる。
 小さく息を吸った後、女は口を開いた。
「ほら、いい加減元気出しなよ。こういう暗〜いときに盛り上げるのがギルドマスターの役目だって、いつも言ってたじゃない!」
 優しいというより陽気な音だった。残念ながら、その二人分の激励は空しさを隠しきれておらず、女自身が望んでいたような効果をもたらしはしなかった。男の憮然とした態度も事を悪い方向に進めたようだ。
 女は唐突に椅子の肘掛を引っ張り、忽ち男を正面に突き合わせた。
 驚き戸惑う男の眼が幾度もの瞬きを経て女を捉えると、彼女は切迫したような面持ちで男に迫った。
 唇が一瞬震えたが、しっかりとした口調で、彼女は言った。
「思い出して」

 痺れるような永遠の時間が蕩けるように流れ出し、やがて男の声が戻ってきた。これまでで一番大きく、気恥ずかしそうな声が。
「そうだな。ありがとな」
 言いながら前髪を掻いて目を隠す男。そのせいで目の前に立つ女の溶けるような変化にも気付かない。
 それでも気にならなかった。不器用な後押しを受け止めてくれたひとへの感謝を込めて、女は小さく微笑んだ。
 光の中心に陣取る蝋燭の明かりが小さく踊り、二人の影が音もなく揺らめいた。

 ややあって、女は部屋を訪ねたそもそもの理由を思い起こす。それはギルドにとどまった者についての詳らかな報告。つまり、まだ彼女の役目は終わっていない。
 ところで、と切り出すと、男はようやく髪を弄る手を止め、視線は真っ直ぐに女を捉える。
 女が自分以外に残留を名乗り出た三人の名を伝えると、男はおもむろに頷いた。その顔はまだ青白かったが、数分前には見られなかった生気が戻っていた。
「……よし」
 男は自分に気合を叩き込むように唸り、続けて女に言った。
「その三人を広間に呼んでくれ」
「今すぐ?」
 男が延々と座り続けていた椅子から立ち上がったので、半歩後ろに下がりながら女が尋ねた。
「ああ、話がある。俺もすぐ下りるよ」
 男はそう答え、大テーブルに歩み寄った。上に乗った紙の山を漁り始めたのを見て、女は何も言わないままに部屋を出ていった。
 一人と一人が二人になり、二人のまま一人になるまで、蝋燭は始終彼らを照らし出していた。

691蟻人形:2009/02/15(日) 15:26:09 ID:vYAtmCGQ0
お久しぶりです。一週間に一話投稿は全然続きませんでしたorz
戦闘中に過去の話は……と思いましたが、思い切って入れてみました(これ以上延ばすと書くタイミングがなくなりそうなので)。
本編だけで力尽きました。毎回きちんと感想をつけなければと思うんですが……申し訳ないです。

692復讐の女神:2009/02/15(日) 21:43:58 ID:29CoJzW60
 テルと初めての冒険をこなしてから、それなりの月日が経っていた。
 気づけばテルはジェシの家に住み着いており、物置として使用していた部屋をひとつ占領するまでになっていた。
 もともと冒険に出ている日が多く部屋をあける期間が長いため、家を売り払おうか迷っていたが、やめることにしたのはこのためだ。
 それに、一緒に冒険をする間にジェシはテルの性格をおおむね理解しており、ありていに言えば気に入っていた。 
「せっかく部屋が余ってるんだし、お金もったいないじゃない?」
 テルに一緒に住まないかと提案したときに、使った言葉だ。
 宿代は月単位で借りたらしく安く済んでいるようだが、それでもお金はかかる。
 彼女はなにやらお金を必死になって貯めている節があったため、助けてあげたかった。
「ぶー、ジェシお姉さまはひどいですの。私には冒険に来るなといつもおっしゃるのに、テルだけは特別ですの?」
 ビシュカはかわいらしく頬を膨らませ、机につっぷしている。
 ここのところテルと行動することが多く、ビシュカをかまってあげる時間が少なくなったのが原因だろう、少し拗ねてしまったようだ。
「ビシュカ、無理言わないで。テルとビシュカでは冒険者としての経験が違いすぎるわ」
 ふくらんだ頬をつつくと「うぷー」と謎の音を立てて頬がしぼんでいく。
 そもそも、ジェシはビシュカを冒険に連れて行くつもりはない。ジェシの冒険はRED STONEの探索ではなく、個人的な目的だからだ。
 RED STONEの探索はもののついでであり、探索を手伝っていればコミュニティを通じて情報が得られやすいのだ。
「わ、私だって、ちゃんと経験はつんでますのよ! この間は、ラディルと一緒に地下墓地に入ったんですもの!」
 あのときの勇姿はと語りだすビシュカだったが。
「紅茶が入ったわよ」
 台所からトレイを運び出したジェシの鶴の一声で、嬉しそうに足をばたばた動かしだした。
 カランとテーブルに置かれたトレイには、入れられたばかりの紅茶とケーキが乗っていたのだ。
「こら、はしたないわよ」
「だって、ジェシお姉さまとお茶ですもの!」
 ティーポットは、白地に淡い赤の薔薇が描かれたもの。
 それに合わせたティーカップは同じく白地で、とっての部分に小さな薔薇の意匠が飾られていた。
 ティーカップに隠れて分かりづらいが、ソーサは茨を意識して作られたものである。
「トレイの上が、薔薇の舞踏会になってますの」
 ジェシが用意したケーキは、薔薇のジャムをたっぷりと使った赤いケーキであり。
 ティーカップを舞台とし、湯を極として踊るのはローズヒップ。
 ビシュカの言うとおり、まさに薔薇の舞踏会だった。
「別に意識していたわけじゃないんだけどね」
 ティーセットは、下品でない程度で手ごろなものを買った。
 ケーキは街を歩いているとき、懇意にしているお菓子職人に試作品として渡されたものだ。
 ローズヒップは、今日ビシュカが持ってきたもの。
 ここに舞踏会と相成ったのは、小さな奇跡といえよう。
「ジェシお姉さま、なぜティーカップが3つあるんですの?」
 いまこの場には、ジェシとビシュカの2人しかいない。
 普通に考えたなら、2つでよいはずだ。
「規則正しい人がいるからよ」
 小さな間が空き、ビシュカが不思議そうに首をかしげると、階段をギシギシと鳴らす音が聞こえてきた。
 音の主はそのまま一直線にこちらに向かってきて、ドアを開けた。

693復讐の女神:2009/02/15(日) 21:45:47 ID:29CoJzW60
番外編みたいなものをふと思いついたので書きました。
就職やらなんやらで、まったく小説を描く暇がなく泣いてます。
自分の小説を読み返して「あぁ、こんな設定だったっけ」などの思ったり。
4月から就職・・・時間作れなくなるのかな。

694復讐の女神:2009/02/15(日) 21:47:09 ID:29CoJzW60
「おふぁよー」
 テルだった。
 髪はボサボサで、目元にはあくびの結果である涙。寝ぼけているのか服が着こなせていないため、肩口が偏ってしまっている。
「おはよう。紅茶が入ったわよ、飲む?」
「んーのむー」
 とてとてと、目元をこすりながら歩いてきたテルは、近くて空いていたジェシの左隣に座った。
 ちなみにテーブルは長方形で、ビシュカはジェシの真正面に座っている。
 入れたときから時間を計っていたジェシは、蒸らし終わった紅茶をティーカップに入れていく。
 紅茶を全員に配り、ケーキをビシュカと自分の前に用意したジェシは、そこで初めてビシュカがジェシの隣に座ったテルを驚愕
の目で凝視しているのに気がついた。空いた口が本当にふさがらない様子で、言葉も忘れているみたいだ。
 しかし、当のテルは寝ぼけているためかそんなことにもまったく気づいておらず、目の前に置かれた紅茶を黙って手に取り一口。
「ん〜」
 満足そうにティーカップをソーサーの上に置き、頭をふらふらと動かしはじめた。
 そして、ポテリ。
 横にいるジェシの腕に寄り添うよう、倒れこんだのだった。
「お、おおおおおお、お姉さま!? ジェシお姉さま!? なんですの、これは!」
 声が完全に裏返ってしまっているのだが、きっと本人は気づいていないのだろう。
 ジェシは気にした風もなく、右手で優雅に紅茶を楽しんでいる。
「ちょ、ちょとテルさん! ジェシお姉さま、説明してください! いったい、これはなんなんですの!」
 テーブルに乗り出すようにして、テルとジェシを交互に凝視するビシュカ。
「ん〜♪」
 寝ぼけているテルが、嬉しそうな鳴き声でジェシの腕に顔をこすりつけた。
「─────────っ!!!!!!!??」
 もはや、言葉にすらならない悲鳴を上げるビシュカを認め、ジェシはカランとティーカップを置く。
「この子、朝が弱いみたいなのよ。依頼の最中とかはそんなことないんだけど、何もないとこんな感じなのよね」
「で、ですが、ですが……!」
「紅茶1杯飲み終わる頃に、本格的に目が覚めるわ。まあ見てなさい」
 そういってジェシがテルの体を起こすと、テルはまたゆっくりとティーカップを手に取り紅茶を飲みだした。それは本当にゆっくりと
した動きで、たっぷり2分をかけて紅茶を飲み干したテルは、一つ大きなあくびを上げた。
「……っ、おはよっ、ジェシ」
「おはよう、テル。もうお昼は過ぎてるわよ。顔を洗ってらっしゃい」
「うん、そうするわ。って、およ? ビシュカじゃないの、おはよっ。いたの?」
 返事の帰ってこないビシュカに疑問を持ちながらも、顔を洗うために台所へ向かったテル。
 その後姿を、ビシュカは鬼の形相でにらみつけていた。

695復讐の女神:2009/02/15(日) 21:48:56 ID:29CoJzW60
>>693>>694 を脳内で置き換えてもらえるとうれしいですorz

696◇68hJrjtY:2009/02/16(月) 16:26:00 ID:N.pdTvYc0
>蟻人形さん
続きありがとうございます。
少女とあるギルドとの戦闘から一転しての場面転換。
しかしこれは、やはり剣士たちのギルド側が敗北したという見方で良いのでしょうか…。
お話はGv場面からのスタートでしたが、今後ギルドの事やもちろん少女たちの事も
明らかになっていくと思うととても楽しみです。
マスターと思われる男性、そして女性のひとつひとつの所作が細かくて間近で見ているような気がします。
熟考しながらの執筆ですよね、ゆっくりで構いません。続きお待ちしています。

>復讐の女神さん
お久しぶりです、続きありがとうございます。
ジェシ、テル、ビシュカの三人娘の薔薇の舞踏会。ひと時の安らぎ風景に和みました。
ビシュカかわええなぁ(*´д`*) ジェシへの懐きようがほんとにウサギっぽくて可愛い(謎)
ジェシの意向には反してしまいますがビシュカも同行…なんてほのかに妄想しながら続きお待ちしています。
就職ですか、そういえばもうそんな季節ですねぇ。新しい生活のほうも頑張ってくださいね♪

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705◇68hJrjtY:2009/03/14(土) 18:00:30 ID:IPwDFHXg0
保守させていただきます。

最近は花粉がすごいですねー。私もかなり花粉症キテます。鼻水だばだば。
皆様もお気をつけてくださいな。

706名無しさん:2009/03/18(水) 16:53:56 ID:OnMpHZjE0
0時フォリン秘密
30分前に再起もして、長いことやっと連打に勝って秘密に入り
聖水を使うところの前の隊長相手にDTHをつかったシフがいて、強制

戻ってくるころには、2回目の秘密がはじまってました
経験値?入ってませんでした^−^

愚痴ではないが、秘密入口で人がいっぱいいたりしたら再起後でも強制することあるよ

707しー:2009/04/05(日) 00:34:59 ID:gy15gzhw0

古都ブルンネンシュティグ。冒険者たちの最初の拠点に、新米テイマーのミルティは足を踏み入れた。
「ここが、古都・・・」
古都の割には都会で、露店が立ち並んでいる。初めての光景に、ミルティは目を輝かせた。そして、故郷
ビスルにはない、噴水を見つけた。
「わあぁ・・・きれい!」
ミルティははしゃいで、噴水の方へ走り出した。しかし、途中で人にぶつかってしまった。
ぶつかった相手は冷めた目でミルティを見ていたが、ミルティはたたらを踏んでしまった。
「あっ・・・ご、ごめんなさい」
ミルティは慌てて謝った。そのとき、相手の静かでありながら燃えるような赤い双眸と目が合った。折れた
片翼が特徴的な追放天使は、にこりともせず言った。
「次は気をつけるんだよ」
そして天使は去っていこうとしたが、ふと足を止め振り返った。
「な・・・なんですか?」
「何かが取り憑いているかと思っただけだ。私は行く」
そう言うと翼を広げ明後日の方向へ飛んでいってしまった。ミルティはちら、と後ろを振り返った。
建物の陰に溶け込むように一人のシーフが立っている。ミルティがシャドーと呼んでいる、彼女に憑いている
霊である。いつからいたかは覚えていないが、いつの間にか姿を見るようになった。幽霊なのに、なぜか天使や
悪魔、さらには他職にまでよく気づかれる。
ミルティはシャドーに向けて、小さな声で言った。
「夜にまた、姿を見せて」
シャドーはそのまま、黒い霧と化し、消えた。ミルティがため息をついたとき、
「まったく・・・誰に向かって喋ってるんだ人ん家の前で」
振り返ると長身の男、ウィザードが立っていた。あんまりマジメそうに聞かれなかったので、ミルティは笑って
ごまかした。
「あんまり人がいないところで喋るもんじゃないぞ」
ウィザードはそう言って家の中に入っていった。
「はぁ・・・ごまかした」
ミルティは再度ため息をついた。

                       -*-

708しー:2009/04/05(日) 00:51:58 ID:gy15gzhw0

街のすぐ西のコボルトを捕まえてペットにしたミルティはその夜、宿に泊まった。しかし、ペットのコボルト・・・
ベリーがミルティのそばから離れようとしない。
「どうしたの」
ベリーは部屋の一点を見つめて震えている。目をやると、鏡に映ったシャドーが、ベリーの後ろで短剣を構えていた。
「や、やめてよシャドー・・・この子は味方よ」
シャドーが鏡から消え、ゆっくりと闇からにじみ出るようにミルティの前に現れた。ベリーがキィッと鳴いて、逆毛
を立てた。その時、コンコンと部屋のドアがノックされた。
「あぁもう、何こんな時間に・・・シャドー、隠れてて」
ミルティがドアを開けると、ビショップと悪魔が立っていた。
「リエディス、ここからよ、霊の気配がするの!本当よ!」
「ほっとこうよ。殺気とかないしさ」
「ナリを潜めてるんだわ。おじゃまするけどいい?」
相手はそう言って一方的に上がってきた。「いい?」とか言った意味がない。ミルティはあわてて悪魔を止めた。
「ちょっと待ってください、大丈夫ですから」
「それが甘いのよ・・・あっ、いた、あそこ、リエディス!」
悪魔が指さした先に、シャドーがいた。足の先は、闇に包まれ見えない。ビショップは傍からみてもわかるほど
面倒そうにシャドーに近づいた。
「君・・・幽霊みたいだね」
(……)
「この子に危害を加える気かい」
(そんなことはない…)
「君ずっとこの部屋にいたのかい」
(違う。テイマに取り憑いて、様々な景色を見ている)
珍しくシャドーが口をきいている、とミルティが驚くと同時に、ビショップが振り返った。
「守護霊だってよ、フレン?あっ、テイマーさん、ご迷惑おかけしました。これどうぞ」
ビショップはいたって落ち着いた仕草でミルティに何かを握らせた。見ると、小さめの鯛焼きが1つあった。
「ほらほらフレン、行こう」
「待って!絶対あいつは・・・」
「人を疑うのはよくないよ」
そんな会話を交わしながら、2人は出ていった。後にはミルティとベリー、そしてシャドーだけが残された。
「ベリー、鯛焼き半分食べる?」
ベリーはキーキーと嬉しそうに甘えた。ミルティは鯛焼きを半分に割り、頭の方をベリーにあげた。そして自分は
しっぽの方の割ったところをかじり、いつの間にか隣に来ていたシャドーに言った。
「大丈夫かな・・・今日だけで3人にばれたよ」
シャドーはミルティの方を向かずに、低く聞き取りづらい声で言った。
(…お前がいる限り、俺は消えない…)
果たしてどういう意味なのかミルティが考えている間に、シャドーは暗い闇へ消えていってしまった。

                       -*-

709しー:2009/04/05(日) 01:06:53 ID:gy15gzhw0
初めまして。
文章に自信はありませんが、書きました。
新参ながらまだみなさんの文を読んでいません。すみません。
明日ゆっくり読みます。

710◇68hJrjtY:2009/04/07(火) 20:13:01 ID:2jCZ.Q9M0
>しーさん
初めましてー。投稿ありがとうございます♪ ちょこちょこ感想書いてる68hと申します<(_ _)>
なるほど、シフの守護霊とは面白いですね。ミルティとシャドー、そしてベリーの三人旅。
シャドーの目的、というよりもミルティとの隠された繋がりがあるのでしょうか。楽しみです。
ビショップや悪魔など気になる顔ぶれも登場しましたね。続きお待ちしています。

711FAT:2009/04/07(火) 22:22:44 ID:teGRvlfQ0
第一部 『双子の天才姉妹』 二冊目>>798(最終回)

第二部 『水面鏡』

キャラ紹介 三冊目>>21
―田舎の朝― 三冊目1>>22、2>>25-26 
―子供と子供― 三冊目1>>28-29、2>>36、3>>40-42、4>>57-59、5>>98-99、6>>105-107
―双子と娘と― 三冊目1>>173-174、2>>183、3>>185、4>>212
―境界線― 三冊目1>>216、2>>228、3>>229、4>>269、5>>270
―エイミー=ベルツリー― 三冊目1>>294、2>>295-296
―神を冒涜したもの― 三冊目1>>367、2>>368、3>>369
―蘇憶― 五冊目1>>487-488、2>>489、3>>490、4>>497-500、5>>507-508
>>531-532、7>>550、8>>555、9>>556-557、10>>575-576
―ランクーイ― 五冊目1>>579-580、2>>587-589、3>>655-657、4>>827-829
>>908>>910-911、6>>943、7>>944-945、六冊目8>>19-21、9>>57-58、10>>92-96
―言っとくけど、俺はつええぜぇぇぇぇ!!― 六冊目1>>156、2>>193-194、3>>243-245
>>281-283、5>>385-387、6>>442-443、7>>494-495、8>>703-704、9>>705-706、10>>757-758
11>>759 七冊目12>>536-537、13>>538、14>>561-562
―光選― 七冊目1>>599-600、2>>601、3>>609-610、4>>611-612、5>>655-656、6>>657
>>658-660、8>>671-672、9>>673-674、10>>675-676


―11―

 レルロンドを大きな目で見下ろし、フォルダーは炎を纏った姿を睥睨する。
「その程度の炎で立ち向かおうとは、これではナーマ様の腹は満たせぬ。そこの女もただ
の人の模様。せめてナーマ様の食をそそるような姿にし、献上しよう」
 フォルダーは無力なソシアに背を向け、レルロンドに二本の触角を向けた。先端に付い
た小さな二つの目の焦点がレルロンドに重なると、二本の黒い光線がその一点を目掛けて
放たれた。細く鋭い光線はレルロンドの居た場所で接触し、地面を掘り返すほどの爆発を
起こす。
「すごい破壊力だ、あの小さな目が攻撃の主力なのか」
 噴煙を上げ大小の岩石が噴き落ちる中、レルロンドは広い床を転がりながらフォルダー
を分析する。高い天井までの空間は全てフォルダーの間合い。この地の利は覆せない。な
ら、どうする。
「中々の身のこなしだ。だが、いつまで持つかな」
 フォルダーは空中で停滞したまま、逃げ回るレルロンドを目で追い、何度も光線を放つ。
休まず打ち続けられる黒の光線を避けるだけで精一杯のレルロンド。抉られる地面に逃げ
場が無くなっていく。窮地。レルロンドの表情はすでに苦しそうに歪んでいた。しかし、
そんなレルロンドの耳にソシアの応援する声が届く。
「レッルロンド! レッルロンド! あっなたっはゆっうしゃ! レッルロンド! そら
もとべるっぞレッルロンド!」
 軽快な歌がソシアの美しくも力強い声に乗ってレルロンドを勇気付ける。すると、まる
で背が高くなったかのように目線が上がっていく。苦しかった息も戻った。気づけば、地
面が下方に遠くなっていた。
「レッルロンド! レッルロンド! ひをふけもっやせ! レッルロンド! そらかけか
ぜきるレッルロンド!」
 自分でも気付かなかった力が、目覚めたようだった。ソシアが歌えば歌うほど、レルロ
ンドの体に活力が漲ってくる。体を覆う炎もそれに呼応するように熱を増し、勢い付いて
いく。

712FAT:2009/04/07(火) 22:23:17 ID:teGRvlfQ0
「すごい! ソシアさん、応援ありがとうございます!」
 もはや応援というレベルではない。まるで高度な支援魔法を掛け尽してもらったかのよ
うにレルロンドは見違えた。自信に漲る青年はフォルダーの大きな目を不敵に睨みつける。
「この力……真に厄介なのはあの女の方だったか」
 フォルダーは歌うソシアに目の焦点を合わせようとした。しかし、レルロンドの高速射
矢が触角を掠め、狙いを定まらせない。
「ソシアさんには手を出させない。僕が守ってみせる!」
 レルロンドは炎の玉を創り上げると上空に放り投げた。間を置かず、三本の矢をその炎
の玉目掛け投げ入れた。
「その触角、もらう!」
 弓に矢をあてがい、フォルダーに放つ。フォルダーは単純に飛んでくる矢をぐるりと宙
で円を描いて軽々とかわし、触角を俊敏に反応させる。
「真の狙いはそちらだろう!」
 触角はレルロンドを狙わず、上空に浮いている炎の玉に焦点を合わせた。二本の黒い光
線が交差し、空中で爆発が起こる。炎の玉は三方に砕け散り、燦然と輝きながらゆっくり
と落下を始める。
「狙い通り」
 目の離れた一瞬の隙に、レルロンドは嘘のようなスピードでフォルダーに接近し、弓端
の刃で小さな羽を一気に切り落とした。
「ぬうっ! ばかなぁ!」
 羽を失い、落下していくフォルダー。その周りを先ほどの砕け散った三つの炎の残骸が
取り囲んでいた。
「ごめん、師匠の手前、君を生かしてはおけないんだ」
 フォルダーを取り囲んでいる三つの炎の中心には矢があった。その全ての矢じりがフォ
ルダーに向いている。
「ナーマ様に頂いた力に酔いしれていた、と云うわけか。だが、それは貴様も同じことだ
ぞ! 明日は我が身と思え!」
 ボシュッと火を噴き、三本の矢は炎の中から勢いよく噴射されフォルダーに突き刺さり、
燃え上がった。燃え盛る一つの炎は儚い線香花火のように強く光り、地面に激突すると弾
けて消えた。
「明日は我が身……か。ランクーイ……」
 レルロンドはランクーイのことを想った。決して力に酔いしれていた、と言うことでは
ないが結果としてはフォルダーの言葉の通りだ。いや、力に酔いしれていたと言うのなら
ばそれは逞しくなったランクーイの隣にいた自分のことではないだろうか。
 そんなことを考えていると突然強大な魔力の波がレルロンドを側面から飲み込んだ。
「うわぁぁぁぁぁぁああああ!!」
 レルロンドは浮遊したまま衝撃に乗り、背骨が砕けんばかりに強く岩壁に打ち付けられ
た。
レルロンドを襲った強大な魔力の波はラスとナーマの魔法がぶつかり合った際に起こった
魔力の暴発だった。意識を失うと同時にソシアの応援の力が切れ、レルロンドの体は落下
を始める。
「レルロンド!? レルロンド、しっかりなさい」
 重力に引かれ落下してきたレルロンドを頼りなくソシアが受け止める。レルロンドの意
識は既に失われ、激しく打ち付けられた背面は真紅に染まり出血がひどい。
「しかたないですね。ちょっと早いけど大サービスですよ」
 ソシアはレルロンドを静かにおろすと星付きワンドを両手で顔の前にかざし、くるくる
と体を回転し始めた。
「ほら、しっかり。大サービスだからよ〜く見ておきなさい」
 くるくると軽快に回るソシアの全身から暖かな光がほとばしる。その光に導かれたよう
にレルロンドは意識を取り戻し、薄く瞼を開ける。
「うっ、ま、まぶしい……!! え! ソシアさん!?」
 レルロンドの目の前にはいつの間にか全裸になり、回転するソシアの神秘的な舞があっ
た。これは夢か。回転しながらでもソシアの美しい体のラインがレルロンドの眼にはっき
りと映った。レルロンドは傷付いていることも忘れ、立ち上がり、ソシアに夢中になった。
「はいっ! 元気になりましたね、レルロンド」
 レルロンドは白い歯を見せるソシアの言葉に違和感を覚えた。どもりもなく、自分を呼
び捨てにした美しい声。ほんの一時思考の止まったレルロンドの目の前で回転を止めたソ
シアは煙を巻きながら一瞬で別の姿に変身した。視覚がソシアの変貌を捉えたその瞬間、
レルロンドは自分の魂が体から抜け、天に昇っていく様を見た気がした。


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