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メインストーリーⅣ『桜月召喚』

1GM ◆lor4BkqD86:2005/08/08(月) 22:16:42

「ふふ、皆、どうしたのかしら?――怖い顔をしているわよ?」
第二層の"図書館"と"神殿"にて、古代人達の警告を聞き、世界に在る真実の一片を知りえた月の傭兵達。
彼らは――奇妙な緊張感中、月宮かぐやを見つめている。

あの日以降、どんなに"図書館"と"神殿"で得た情報を尋ねても、微笑みを浮かべるだけで、
一切答えることの無かった月の魔女が、突然、召集をかけたのだ。
――緊張しない方がおかしいだろう。

「そうね。貴方達は"知って"しまったのだものね。
かぐやさんに聞きたいことが沢山あるでしょう――でも、だめ。」

くすり。
強い光を湛える瞳が無ければ、人形にも見えるかぐやの美しく整った相貌が綻んだ。

「だって、誰かから教えてもらうより……自分達で捜し求めた方が、楽しいでしょう?
それに……かぐやさんの傍にいれば、いずれ全てが解る日が来る筈だもの。」
その薄い紅色の唇が、意味深な言葉を紡ぐ。
何か香をつけているのだろうか?僅かに、甘やかな香りが漂う。

「さぁ。次の依頼よ。――今回、"都市"はお休み。3日後の夜12時…ある場所への襲撃と、
ここ、月に踊る天使亭の防衛をお願いするわ。恐らく、襲撃場所と天使亭には、
御老人――タクァ・ザ・ランディゴと同程度の実力の持ち主が来るでしょうから。」
物騒にも程がある…という程の依頼内容を口にしながらも尚、微笑みを絶やさないかぐやは、
再び、皆を驚かせる言葉を紡ぐ。

「襲撃と防衛の理由は…"あるもの"を、御老人と雪が同時に召喚するから。
それは、どちらかが召喚儀式を完遂した時点で、顕現する。…ふふ、当然、自分の方に顕現させたいのだから、
相手の儀式を襲撃してでも邪魔したいという訳ね。」
言葉を切り、意思が伝わるのを待つ。
なぜか……いつもと比べ儚さを感じさせる微笑みはそのまま。

「次に――雪に任せた儀式が成功し、御老人の儀式が失敗した場合。ここに召喚された顕現体を一日、守ってもらうわ。
両者の儀式も成功した時は、どちらの召喚位置にも顕現せず、中間点に顕れる筈。速やかに保護をお願いね。
そして…御老人の儀式が成功し、雪の儀式が失敗したら……すぐにでも御老人から奪取すること。いい?
かぐやさんは、その間留守にしなければならないの……ふふ、また貴方達と会うために、宜しく、ね。」

謎の言葉と、淡い微笑み。
強力無比、傲岸不遜な圧倒的実力者である筈の月の魔女。
しかし、今は……目の前でふと消えてなくなりそうな儚さすら感じる。
月の傭兵達は、その空気に呑まれ、口を開く者は無い。

月に踊る天使亭は――一瞬、静寂に包まれた。

35ミスティ ◆bkLRdztmN.:2005/09/13(火) 22:56:23
とにかく方針を書き込んでおきます。

○登場人物への評価
・フラウ
確かに前ほどこちらを見下した感はないですが、それでも月宮かぐやをかなり意識しているようですね。
そのあたりから上手くせめられればいいのですが……

○目的
フラウに精神的動揺を与えることで、撤退を促す。

○動機
フラウが本当の意味での「本気」を出せば、敵味方がどうなるか全く読めない。
故に本気を出させないよう戦術でフラウを封じ込めるのが最善と考える。

○対処
唯一フラウの実力を知るだけに、出来る限り場を仕切るよう努める。
個人的な考えとしては……
リゼット・シーナ・渚・コックン:グラルド・ボルグへの対応→手が空き次第フラウへ攻撃
エクレール:とにかく結界死守
マグナム:戦況に応じエクレールのフォローかフラウの結界破りを行う。
という分担を考えてます。

自身は……
・まず、フラウを挑発。
・挑発が成功すればマグナムに結界破りを敢行させつつ、フラウへ攻撃。
・挑発に失敗した場合、リゼット・シーナ・渚・コックンのサポートを行い、正攻法でフラウを攻略。

○装備
手持ちのものは出来る限り出し惜しみなく。

○その他
メールを参照。

36シーナ ◆bkLRdztmN.:2005/09/13(火) 23:00:06
出来るだけ後衛に攻撃が行かないよう、足止め、攻撃封じを中心に。
使役獣にも同様の命令を。
グラルド・ボルグを一掃できれば、フラウに対し攻撃。

……それ以外は特段変更無しで。

37アーシャ ◆.ONVKM5Kbk:2005/09/13(火) 23:42:01
○登場人物への評価
・ソウシン
…舐められてるねぇ。ま、こっちとしてはその方がやりやすいけど。

○目的
ソウシンになるべく気づかれないように速攻で結界を破って、遺跡へ直行する。

○動機
手加減されてる以上、少しでも力を出されて消耗戦になれば不利は明白なので、
手加減されてる内に、さっさとやり過ごすのが得策と考えるから。

○対処
とは言っても、自身を含めて隠密行動に向くメンバーが少ないので、
それを逆手にとって、派手にソウシンを攻撃するふりをしつつ、
効率良く結界破りを進める。具体的には、派手な攻撃(に見えるもの)は、
全て結界破りへと繋がるものとする。ソウシンへの(本当の意味での)攻撃は、
基本的にカウンターのみに留める。ただし、本気で頭に血が上っていそうな
カイに関しては、結界を破るまで好きにやらせておく。ある意味で、真の目的を
覆い隠すためのダミーになってもらう。

個人的な行動纏め
・結界の構造を超特急で解析・対処法を決める。その時、時間稼ぎとして色々な話を振ってみる。
 (お約束通りソウシンの目的とか、トゥレシの事とか(ぇ))
・その上で結界破りに関する指示を、結界破りを実行するメンバーに指示して、自身も結界破りを実行する。
 結界破りを始めるタイミングは、誰かがソウシンに一撃入れるか、ソウシンが誰かに仕掛けた時に開始する。
・結界破りに成功したら、速攻で遺跡へ向かって撤退。カイの回収方法はその時の状況で決める。
 (回収しないと言うのは無し)
・なお、結界破りの際には、結界を逆用してソウシンがすぐに追って来れないように、
 手を打つ所まで考えるものとする。(出来るか出来ないかは別問題として)
・ドレッドノートは主に、ソウシン以外の脅威(魔動機兵とか)の対処に回す。
 動力や兵器をピンポイントで狙って、無力化を最優先で。

○装備
手持ちの装備で使えそうなものは、全て使っていく。

○その他
とにかく、ソウシンが手加減してくれたままでいる様に、細心の注意を払う。
無論、こっちも戦闘不能だけは避ける様に、十分注意する。

38ミスティ ◆bkLRdztmN.:2005/09/14(水) 00:03:23
すいません、各キャラに対する指示を変更します。
リゼット・シーナ・渚:グラルド・ボルグへの対応→手が空き次第フラウへ攻撃
エクレール:とにかく結界死守
マグナム:エクレールのフォローを中心に、フラウへの牽制等、搦め手で攻める手だてを考えてもらう。
コックン:指示無しw 心の中では「好き勝手やってフラウの意表をついてください」(爆)

私は、フラウへの攻撃とグラルド・ボルグ攻撃組へのサポートを状況に応じ使い分けます。

39リョウ ◆jsI5jKTdcE:2005/09/14(水) 00:20:21
○登場人物への評価
ソウシン…なぜ竜王があの手配犯に協力しているのでしょうか…気になりますね…

○目的
ソウシンをうまく撒いて遺跡に向かい儀式の妨害をする。

○動機
以前会ったときに実力の差はある程度理解したつもりなので、真っ向勝負を避けて本来の仕事をできるようにするため。

○対処
まず最初のうちは立ち位置にだけ気をつけながら普通に他の仲間を援護、おとりと結界破壊の役は他の仲間に任せます。
ソウシンがこっちの意図に気づいた時点で援護を止めて、ナイトメアシューター(バリアブレイカー使用)+バーストアローによる攻撃の連発で目的地までに残された結界を強行突破。
もちろんシンを温存しておくのに越した事はないので無駄を抑えて最小限での結界突破ができるように注意を払います。

○使用装備
ナイトメアシューター、ミスリルアロー、バーストアロー、自在甲『十二式』

○その他
最初の援護に専念している間はできるだけ相手の視界を遮るような射撃でこっちの意図に気がつくのをできるだけ遅らせるように心がけます。

40パティ ◆.ONVKM5Kbk:2005/09/14(水) 00:24:15
○登場人物への評価
・ソウシン
まずい状況だって言うのに、何だか一戦交えてみたくなったかもっ。

○目的
ソウシンになるべく気づかれないように速攻で結界を破って、遺跡へ直行する為のサポート。
ここでソウシンと一戦交えて、実力の片鱗を推し量る目的もあり。
後に再戦する羽目になった時の事を考えて。

○動機
手加減されてるものの、結界破りは妨害してくるだろうし、奇襲されっぱなしでは
こちらが持たないので、奇襲させないようなるべく正面から来るようにさせる方が良いと考えるから。
あと、純粋に戦ってみたいと言うのもあり。

○対処
基本的にはソウシンの注意を、こちらに向けるような行動を取る。
また、カイが暴れてると思われるので、そのサポートもする。
ソウシンの攻撃は全て全力回避する。カウンターとかは無理に狙わない。
使用する技のレベルは、基本〜中級を軸に組み立てていく。
上級技や奥義クラスは、追い詰められた時の奥の手としておく。
ソウシンを倒すのが目的ではないので。

個人的な行動纏め
・ソウシンの実力を見極めつつ、戦いを進めていく。
 (メインとなる戦法とか、体得している流派とか)
・カイが無茶しすぎないように、サポートしていく(但し、止めはしない)
・結界破りに成功したら、速攻で遺跡へ向かって撤退。カイの回収方法はその時の状況で決める。
 (回収しないと言うのは無し)
・無論、前口上は絶対にやる方向で(ぉ

○装備
手持ちの装備で使えそうなものは、全て使っていく。
武器は彗星剣メイン。瞬間的な攻撃力が欲しい場合は、疾風剣のチャージを利用する。

○その他
戦闘不能だけは避ける様に、十分注意する。
カイの動向は、逐一チェックする。
前口上の内容は、メールにて。

41カイ ◆tMRIkW4z4c:2005/09/14(水) 00:35:51
○登場人物への評価
ソウシン:「ふん、舐めた真似してくれるじゃねーか・・・・」
      不意の一撃を受けた屈辱と、なおかつ手加減されていることも理解しているため、激怒。
      ただし、とんでもない強敵であること、貰ったダメージが少なくない事もわかっています。
      まぁ、いわゆる『激情を通り越した所にある冷徹な怒り』というヤツです。
○目的 ソウシンの殺害。止めたい人は自分も斬られる覚悟でどうぞ。
      彼を倒さねばそもそも儀式妨害そのものが難しいと判断しています。
○動機 「ソウシンとか言ったな。一撃もらった礼はしないとな・・・・お礼に、お前にゃ『死』をくれてやるよ」
○対処 先頭に立って黙々と結界破壊。ソウシンが出現した時点で全力攻撃とする。
○装備 変更なし
○その他 特になし。GMが活躍させてくれる事を希望(をい)

42クレア ◆jsI5jKTdcE:2005/09/14(水) 01:04:30
○登場人物への評価
ソウシン…ふぇ〜ソウシンさんは噂の悪い魔術師さんのお仲間だったんですか〜?

○目的
ソウシンをうまく撒いて遺跡に向かい儀式の妨害をする。

○動機
リョウにそういう風にしようと言われたから(笑)

○対処
最初は鞭の長さを活かして最初に多方向から撃ってきた何者かの遠距離攻撃を叩き落す事に専念、もちろん同じ援護役をしているリョウの傍を離れません。
ソウシンがこっちの作戦に気づいてからはリョウと一緒に結界の強行突破に転じます。
ただし異能力はソウシンにも知られているので遺跡に突入するまでは一切使いません。

○使用装備
F・ミスリルウィップ、ラシフォン・チェニック&スカート、シュートリフレクター

○その他
ソウシンとの戦闘開始直前にリョウから簡単な作戦を耳打ちされたということで。

○追記(これは共通の行動ということでリョウの方にも付け加えておいてください)
頭に血が上っている約1名は遺跡までの道が開けた時点で一応リョウが説得しますが聞き入れない場合はソウシンの足止め役と割り切って置いていきます(笑)

43リゼット ◆VAJ7fpdPRA:2005/09/14(水) 01:18:09
○登場人物への評価
・フラウ
危険な相手と判断するので、手加減せずに戦います。

○目的
フラウへの対処の前に、魔導機兵の撃破を優先します。

○動機
被害を最小限に留めるためには、敵の頭数を減らすべきだと考えるため。

○対処
数をこなすため、完全に破壊出来なくても行動不能になった相手は放って置く。
連携した行動を優先する。

○装備
特に変更なし。

44エクレール ◆VAJ7fpdPRA:2005/09/14(水) 01:18:29
○登場人物への評価
・フラウ
雪君に似ている、けど尋常な相手じゃない…

○目的
天使亭の防衛に専念。

○動機
儀式の完遂と、天使亭自体を守りたいから。

○対処
内側から、結界の保持を行います。
仲間への支援は基本的にしません。

○装備
特に変更なし。

45闇司祭@ラーシュ ◆XksB4AwhxU:2005/09/14(水) 01:34:56
○登場人物への評価
ソウシン:「何でまた、あいつが協力してるんだ…?あの様子といい、何か理由がありそうだな」
     相手は何かの理由があって協力しているもの、と考えています。
     強敵を相手にする故のプレッシャーは感じていますが、怒りを覚えてはいません。
     依頼を受けて動く自分達とある意味同じだ、などとも考えています。

○目的
ソウシンの注意を結界から逸らしつつ、速攻で結界を破って遺跡へ直行。

○動機
万一本気を出されれば勝てない。
手加減してくれているようなので、互いに本気で殺しあう羽目にならないよう
その間に目標を達成したい。

○対処
アーシャの指示に従い、ソウシンを攻撃する振りをしつつ結界を破壊。
意図に気付かれないよう、ウィンドスピリットの特殊能力
「ウィンドバースト」「ウィンドブレイカー」の併用で
相手の視界を遮るようなやや広範囲の攻撃をも行う。

ソウシンが意図に気付いた時点で、結界への全力破壊に切り替える。
仲間が突出しそうになった場合は押さえる。

カイに対しては、彼に危険が迫った場合のみサポートを。それ以外は独自に行動させておく。
遺跡までの道が開ければ、無理矢理にでも回収して行く。

46GM ◆lor4BkqD86:2005/09/22(木) 23:23:44

◆ ◆ ◆

次の襲撃は僅か10秒後。前方からの集中攻撃だった。
一瞬で前方の結界が開けたかと思うと、一直線上に十数発ものエネルギー弾が重なるように迫り来る。
最初の多方向からの、時間差を設けての奇襲とは真逆な戦術。

が。月の傭兵達も既に準備は完了していた。

「火力を上げて迎撃!ついでに、結界ごと撃破するよ!」
アーシャの掛け声と共に、遠距離攻撃手段をもつ面々が砲撃を開始する。

「実戦での試し撃ちですね…」
ドレッドノートの主砲、Gバスターキャノンが出力を極限まで高めた重力波を打ち出すと、それに呼応するようにリョウの持つ
蒼と漆黒に彩られた魔弓『ナイトメアシューター』から、溢れる程の魔力を湛えた矢が放たれる。

「リョウさん、かっこいいです〜」
ほんわかと笑いながらクレアも自らが改良した『F・ミスリルウィップ』を閃かせると、
ウィップの持つ特殊能力『ヒットバック』を利用し、弾丸の軌道を変えて、他の弾丸とぶつける様に配置する。

「こいつの初場面…だな」
ラーシュもまた、火炎を象った刀身に巻きつく宝具『ウィンドスピリット』の力を引き出して強烈な炎斬を繰り出す。
彼の髪の色と同じような鮮やかな紅の業火が一直線に伸びた。

「ふふ、パティが喜びそうな能力だよね、これ」
そこへ、アーシャの袖付けの手甲が闇色のシンを纏いながら弾丸の如く発射される。
"都市"の神殿より見つけ出した特殊機甲兵装「機龍」の性能の一つ『鉄(くろがね)の魔弾』の発動だった。

ラトナの街外れの林の中で、凄まじい爆風が吹き抜ける。
強烈な砲撃同士がぶつかり合い、周囲の結界札ごと巻き込み派手な爆音と閃光と共に、破壊を撒き散らしたのだ

「来るとすりゃ―後ろだ!」
獰猛な響きを含んだカイの声が爆音を裂く。
前方からの攻撃から感じるシンの波動を察知し、一瞬で『囮』だと見抜き、
砲撃への防御をアーシャ、ラーシュ、ドレッドノート、リョウ、クレアに任せ、
パティ、カイ、香天、後方と周囲の気配を探る――前と同じように、そしてカイが看破したように、後ろから高速で迫る気配。

瞬間、蒼い戦闘服姿のソウシンが後方から奇襲をかけて来たのだ。

47GM ◆lor4BkqD86:2005/09/22(木) 23:24:20

「やっぱり二度目は通じないか」
その強大な闘気と恐るべき速さとは不似合いの明るい笑いを浮かべている。

「っざけんな!」
誰が止める間も無く、カイが神速で踏み込む。
雷を纏った高速剣『雷電』、紙一重で避けられた途端その姿勢から重力操作を利用した回転撃『環』。
大剣がソウシンの分身を切り裂くだけに終わると、人外の筋力と宝具『空位転舞輪』の性能をフルに使用し回転を止めた時点で、
突然の加速―切っ先が見えない程の突き『破』を抉り込む。

しかし、それすら読まれていたのか綺麗に上方へ弾かれた。
それでも止まらない。――弾かれた際の反動を利用して、カイは再び己を加速させる…縦方向へ。
空中を一回転しての『環』。

さすがにそこまでの連撃は読みきれなかったのか、剣閃がソウシンを捉えた。
ギンッ!金属が擦れる高い音。

……剣は確かにソウシンを捉えていた。
だが、その刃は――ソウシンの親指と人差し指で挟まれ、竜王の身体には届いていない。

「驚いた。人間というのも侮れないね」
ギリギリと、有機付与術を最大に高め圧力を加えるものの、ピクリとも動かない。

「―それが、侮ってるっつーんだ!」
カイが同一箇所に高速で打ち込み続け、目標を破壊する為の技『砕』を発動しようとした瞬間、
ソウシンとはまた違う、蒼い閃光が奔った。

「っと、危ない」
その閃光―パティの居合い抜き―を、カイの大剣を離し、中空へ向けて距離をとることにより避けたソウシンが、
余裕の表情はそのままに、空に止まる。

そこへ――突如、竜を象った意匠の手甲のようなものが一閃。
ソウシンの頭へ吸い込まれた…否、顔の前で広げられた掌で受け止められている。

「油断大敵ですよー。それとも、余裕ということですか?」
香天の持つ、格闘戦闘用手甲、金剛飛拳『帝龍』が宙を切り裂き拳となって飛んできたのだ。
不意打ちでマトモに受けていれば、ソウシンとてかなりのダメージを受けていた可能性がある。

「そうだね」
が、涼しい顔で笑ってみせる竜王。
瞳の色は楽しくて仕方が無いとでも言うように輝いている。

「ちっ、挑発にも乗らないってか。ヤなヤツだ」
再びソウシンの隙を狙い間合いを計りながら、カイが苦笑いを浮かべた。

そこへ――。
すくっと一歩前に出る姿。

「竜王だってね、君。さっきの一撃を避けた実力…うん。ボクじゃ敵わないかもしれない――でも!
行く手にどんな大きな力が待っていようと、ボクはボクの信念に従って、ただ前に突き進むだけだよっ!
…人はそれを『反逆』と言うっ!
ボクは月の傭兵、パトルアリス・スターティアラ!あなたに恨みはないし、とても強そうだけど…
神撃流の名の元に、今ここで相手をしてもらうよっ!!」

ビシッと指を指し、宣戦布告。
―当然、パティだった。

「………え、と…はい。宜しく」
さすがに、色々な意味で驚いたのか、ソウシンはパチクリと瞳をしばたかせると、呆気にとられたように頷き…。
そして、パティ達を見回すと、敵の中心だと言うのに、くつくつと笑い出した。
とても楽しそうに。

48GM ◆lor4BkqD86:2005/09/25(日) 23:09:44

◆ ◆ ◆

「楽しいね。――あの月の魔女の拠点にこうやって攻撃できるのだから、
醜悪な老いぼれに手を貸したとしてもお釣りが来るよ」
すぅっと手を一振りすると、クリスタルから、月に踊る天使亭に向け一斉に結界弾が連射される。

「エクレール!」
「はい、お嬢様。させません!」
リゼットの指示と同時に、エクレールの張った結界が今以上に強固なものとなって構成されてゆく。
エクレールの首に光る『紅月環』がその力を示すかのように紅に強く輝く。

「俺に出来る事は――。魔術での援護って処か唯一の魔術師が俺ってのも、なぁ」
余裕があれば、『遺跡』側の様子を異能力『愚者の眼』で視察しようと考えていたマグナムだったが、
現在の状況はかなり厳しいと判断し、魔導式を丹念に形作ると、
エクレールの結界強度を魔術方面から高める呪紋を結界表面に描き出した。
(まずは、形勢をこっちに傾かせてからだ)

魔術と神力、そして宝具の増幅で形成された結界は、フラウの膨大なシンを動力源として、撃ち出される結界弾すら、
面白いように弾いてゆく。この規模の結界が施されている以上、連射される結界弾が貫くことは出来ないだろう。

しかし―。

「見事な結界だね、そこの小さなお嬢さん。でも、さぁ―それ長く使ってると、『副作用』が酷いんじゃない?」
嘲笑うように美貌を綻ばせ、フラウはエクレールを流し目で見る。
フラウ自身は未だ結界刀を携えたまま動かない。
それだけに、隙もまた、無い。

「ぅっ、それは――」
「安心なさい。――エクレールに負担をかける程の時間はとらせません」
何故か顔を赤らめて動揺するエクレールへ、自信と誇りに満ちたリゼットの声が投げかけられる。
背に溢れんばかりのシンの波動を発する翼を広げ、まさに天使のような威厳放っている。

「まずは、その汚らわしい雑魚を掃除しなければなりませんね」
ふわり。『虚空旋律』と名づけられた蒼いマントの形状をした宝具の力により、リゼットの身体が僅かに浮き上がった。

「そうですね。ファーティナ、あの死者たちを炎で浄化しなさい」
有機使役術者としての強制力をもつ『声』を使い、炎の霊獣に命じながらシーナもまた、
黄金と銀に輝く二振りの小太刀を構え、鋼の死者『グラルド・ボルグ』と対峙する。
霊獣の炎に照らされ照り映えるシーナの肢体は、幻想的な美しさを湛えていた。

一瞬、シーナに見惚れそうになっていたナギサは、大きく頭を振るとその金髪を揺らめかせる。
そして強い光を宿す瞳を紅に染め、『怒り』を露にしていた。

「雪とこんなに似てるのに――死者を道具に使うなよっ!」
少女に見紛う、否、少女としてしか見えないその繊細な美貌に怒りを湛えて、
掌の狐炎を最大限に燃やす。ナギサの怒りを反映している為か、その炎は僅かに紅を強く帯びていた。

「食材に使うなら兎も角、あのような形でとは確かに冒涜!」
むんっと、同じく怒りを湛えて、怪しく光る包丁を一振りして、ずかずかと『グラルド・ボルグ』に近づくのは…コックン。
妙に怒りの方向がずれているが、それはいつもの事ゆえ、誰も突っ込まなかった。
ただ、微妙にフラウが突っ込みたそうな顔をしていたのだが…。

そこへ、一人、魔導機銃の銃口をぴったりとフラウに向けた状態のままのミスティが前に出る。

「そんなに……『月の魔女』が気になりますか?」
白い覆面に包まれた唇が、フラウに問いかける。

「そうでもなければ、結界術を使った守りを得意とするあなたが、わざわざ『ご老体』の策略を利用して、
私たちに借りを返しに来る必要はないでしょうに…しかもそんな『玩具』まで従えて。」
普段の彼女を知っていれば、驚くほど饒舌に『挑発』とも言える言葉を紡ぐ。

「――ふふ、そうだね。気になるよ。
だって、彼女の意思次第で、世界の全てがいいように変えられてしまうんだから。
ボクも君達も何度も何度も弄ばれて、殺されたり蘇らされたり……いい加減終わりにしたいんだよね、ボク。
『前』の君達なら、そう思う筈なんだけどなぁ」

周囲が『グラルド・ボルグ』との戦いに突入し、剣戟と破壊音が響き始める中。
ミスティは、フラウの発した謎の言葉に、その美しい紅の瞳を細めた。
(どういう…ことでしょう?はったり?それとも……)

49<削除>:<削除>
<削除>

50<削除>:<削除>
<削除>

51GM ◆lor4BkqD86:2005/09/28(水) 23:57:15

◆ ◆ ◆

「それじゃぁ、再開といくか!」
余裕を見せるソウシンに再び獰猛な笑みで応え、カイの剣が唸る。
と、同時に…。

「クレア、爺様、迎撃・無力化頼むね。
あたし達はトゥレシの困った兄貴を担当するからさ」
ソウシンの反応を探るように、街で知り合い意気投合した竜王の『妹』名をだして
アーシャが小さく笑みを見せながら、はっきりと宣言する。
同時に―シンを通した通信で、素早く『ソウシンへの攻撃は結界破壊を兼ねてね』と指示を飛ばす。
竜王の実力は未知数――まともにやり合うのは得策ではないと。

「ああ、妹を可愛がってもらってるみたいだね。
あの娘も楽しそうに過ごしてるみたいだし、感謝するよ」
世間話でもしているかのように気軽に答えながら、
ソウシンは、カイの豪速の剣をシンを集めた掌で受け止める。
動揺は全く無い。憎らしいほど爽やかな笑みを浮かべて優雅にステップを踏むと、
剣を受け止めた隙に、死角へ潜り込んでの「衝氣」を放ってきた香天の一撃を膝でブロック。
練り上げられ、鋼鉄のような強靭さをもった氣が、容易く拡散させられる。

「くっ、いまのに反応出来ますかー。文字通り人外ですねー」
ブロックされた右手の痺れを振りながら、香天が抑えきれない賞賛の瞳を向ける。
それでも、役割は忘れていない―リョウとクレアを守る…それが香天が自分に課した義務なのだから。
…絶対的な脅威となりうる、この敵を倒せないまでも、無力化しなければならない。

「ボクを忘れないでねっ」
元気な声と共に、一陣の蒼い風。
低い姿勢から一蹴りで足下へ滑り込み、神速の刃で斬りつける。
パティの使う剣術「蒼天流」の基本にして最も流派の性質を体現した高速斬撃「流星剣」。
更にそこへ有機付与術により脚力を強化し、Sクラス以上とも言える程の速さを可能としている、パティの得意技だった。

しかし――。
風が後から吹き付ける程の速さで放たれた蒼い刃は、またも空を切った。

「――まだだよ!」
左足右手を防御に使ったまま、ソウシンは右足だけの蹴りで残像だけを置いて、後方へ逃れていたのだ。
それでもパティの刀は止まらない。「流星剣」は連続攻撃の起点であり、繋げる事を前提に放たれる技。

カイの優雅かつ豪速な剣の舞とはまた違った、鋭い閃光の如き連続攻撃がソウシンを襲う。
蒼い光で構成された刃は、パティの充実した気力を示すように強く輝き、幾本もの光を宙に描いている。

「すごいね。――月の傭兵に『ハズレ』は無いみたいだ」
パティの加速に対応するように、ソウシンの速度も上がってゆく。
さながら、蒼い光が絡み合うように展開し、余波で木々が倒れてゆく。

52GM ◆lor4BkqD86:2005/09/28(水) 23:57:41

「ったりめぇだ!」
パティから間をとれば、すかさずカイの「雷電」が迸り、大きなクレーターを穿ち。
「まだまだ、ですー」
僅かでも隙を見せれば、その小さな体躯を生かした香天が懐へ潜り込み、
離れては金剛飛拳『帝龍』が迫る。

「宝具の力――。全開にすればどうなるか、試させて貰う」
炎を象った刀身に枝を巻きつかせた剣を正眼に構え……ラーシュは、パティ・カイ・香天の
連携攻撃に押され、大きく間合いをとったソウシンに向け、一気に力を解き放った。

紅蓮のシンが、宝具の増幅機能を持つ「風」と相まって業火と化し、
爆発するような衝撃派と轟音と共に、火柱となってソウシンを飲み込み、背後の木々さえも巻き込んで、
灰すら残らぬ程燃やし尽くした。

「完全に入ったな。――これで……決まるわきゃねーか」
カイの口調に呆れが混じる。

荒れ狂った爆炎の後に、一人。
ソウシンが指先に強烈なシンを纏わせたまま無傷で立っていたのだ。

「ん、俺への攻撃を兼ねて結界の破壊。
戦術立案も実行能力も申し分無し。――さすが……」
掛け値なしの賞賛を向け、一段と纏うシンを強靭に。
ソウシンは、徐々に戦闘力のレベルを引き上げているようにも見える。

「ふええ〜。やっぱり強いですね〜。でも、計画通りです〜」
「しかし、気づかれました…――クレアさん、次の砲撃に備えて下さいね」
要所要所で矢を放ち、ソウシンの退避場所を誘導するように援護していたリョウが、
寄り添うようにくっついているクレアへ、顔を赤らめながら注意を促す。

しかし、その手は素早くバーストアローを番えて、シンを高めている。
意図に気づかれた以上、援護というレベルではおいつかない。本格的に足止めにかかる必要があるだろう。
その隙に……。

「ふむ、わしとお嬢ちゃんで、迎撃という訳じゃな。責任重大だな」
「はい〜。でもリョウさんに信頼されてるって事ですから〜嬉しいです〜」
妙なノロケを入れながらも、クレアもまた鞭にシンを通して、十分な備えをもって
周囲を警戒している。

そして、ソウシンが軽く構えると――。
その背後の結界が、開き……3度目の砲撃が木々と結界の合間を縫い、迫ってきた。

53GM ◆lor4BkqD86:2005/09/30(金) 23:59:09
◆ ◆ ◆

「戯言を!」
フラウから流れてくる言葉を、リゼットが一蹴する。

同時に、グラルド・ボルグが振るう骨とと鋼鉄を組み合わせて造られた禍々しく巨大な曲刀を
翼で構成された力場によって弾き、マントをはためかせながらのレイピアによる回転斬撃で、
屍鋼同化型魔導機兵の腕間接部を綺麗に切り裂いた。

破損部の再生を行う為に僅かに動きの止まったグラルド・ボルグへ、
右の翼が掬い上げるように下方から閃き、レイピアで傷つけた同じ場所を殴打する。
はじけ飛ぶ鋼鉄の腕を見もせず、再び回転、鋼鉄の巨体を吹き飛ばす。
その先にはもう一体の、グラルド・ボルグ。

吹き飛ばされた一体の身体を支えきれず倒れると――その先にはマグナムの構成した迎撃結界が。
再び弾き飛ばされるように結界外へ追い出され

冷たい碧の瞳に、煌く銀の髪。
一面に広がり、陽炎のように消えてゆく羽が散るその姿は、
ユビキタスの神話にある、裁きを齎す殺戮の天使のような、冷厳な美しさを称えていた。

「ああ…お嬢様――素敵です。」
今にも蕩けそうな瞳でリゼットを見つめて呟くのは、当然、エクレール。
危険な美しさに魅入られた者特有のうっとりとした様子は、普通ならば油断の証拠となるのだが・・・
エクレールの形成する結界は全く揺らがない。

リゼットに見惚れながらの戦闘は、いつもの事であって、
それで援護を遅らせて、大切なお嬢様を危険な目に合わせるような事は無いように
実は、最新の注意を払っているのだ。――それでも、傍から見れば危ういのだが…。

「ううむ、目をハートマークにしてここまでの結界を作ってやがるぜ……」
魔術式による結界補強を行っているマグナムが、
エクレールの見も世も無い程の心酔ぶりへ妙に感心しながら軽口を叩く。
複雑な術式を構成しつつ、迎撃結界をも周囲に張り巡らし、
決定打とはなりうる威力ではなくとも、牽制としては十分な威力を誇る、
足を踏み入れた途端自動反撃する「陣地」を作り出していた。

「ったく。――偵察役の俺が、なんで戦術魔導士みてーな事を」
ぶつぶつと呟きつつも、技術と気力の限りを尽くして、
専門職ではない戦闘系魔術を見事に完成させている処が、マグナムの性格を現していた。

「ナギサさんは、魔導機兵一体を。無理してはいけませんよ?
私とファーティナも一体づつ、すぐに倒して援護しますから」
シーナは、すっとナギサの柔らかな金髪を撫でると、自らが使役する使役霊獣へ合図を送る。
了承。とでも言うように明らかな知性を感じさせる挙動で、ファーティナと呼ばれた炎の霊獣が静かに頷く。

「にゃぁ…ぅぅ、また子供扱いかよ。」
そう文句を言いながらも、有機使役術者であるシーナの『言葉』には、
若干の強制力とも言うべき魅力がある為、獣人族の子供であるナギサは、
強く反発する事が出来ないのか、素直にコクンと頷く。撫でられているのも従順なる一因のようだ。

54GM ◆lor4BkqD86:2005/09/30(金) 23:59:31

そして――突然。
シーナ、ナギサ、ファーティナの姿が消える。
二人のやり取りを隙と見た3体のグラルド・ボルグが迎撃結界を強行突破して、
シーナ達に襲い掛かり…それを察知した二人と一匹がそれぞれ反応を起こしたのだった。

結界による自動反撃で動きの止まった魔導機兵は、その隙を突かれ、
小太刀で鮮やかに鋼鉄部ごと切飛ばされ、あるいは狐火で、炎の爪で大きな破損を受ける。
完全に奇襲が裏目に出ている。

「やはり、玩具は玩具ですね――」
「はい、マスター」
「う、でも、ちょっと驚いたぞ」
3者3様の反応。
しかし、完全に息は合っていた。

「やー。なんだか、燃えないゴミを処理してる気分だなぁ。
肉で出来ている部分はなんとか料理できないかやってみようか?」

陽気に人外の反応で、言葉通り、稼動部の柔軟性を高める為に使用されている
死肉部分を、見事な包丁捌きで切り裂いているのは……コック姿の男、コックンだった。
それどころか、妖しげな包丁は鋼鉄部までもを裂き、魔導機兵にダメージを与えている。


「あなたの言葉は理解不能です。
こう――言い直しましょう…そんなに『月の魔女』が怖いのですか?」

ミスティは、フラウの謎めいた言葉の意味を一瞬考え、すぐさま思考を切り替える。
疑心暗鬼。それこそが、目の前にいる美貌の少年の目的なのだろうから。

「怖い?――ボクがあの女を恐れてる……ふふふ、そうかもね。
でも、君達の方が恐れる理由があると思うのに。」

ミスティの言葉に一瞬、その美しい容貌を歪めて、それでも小さく笑う。
彼には珍しいであろう「自嘲」の笑み。しかし、それも一瞬。
ちらりと、押されているグラルド・ボルグ達に目をやると肩を竦め、ミスティの魔導機銃へ視線を移す。

「っと、あーあ、ガラクタはやっぱりガラクタだったみたいだね。
さ、ボク達もそろそろ始めない?―今度は貫かれないように気をつけないとなぁ」

それは、本格的な戦闘開始の宣言でもあった。

55GM ◆lor4BkqD86:2005/10/04(火) 22:45:49

◆ ◆ ◆

「始まったな。
しっかし――仲間を信じて待つっていうノリはちょっと慣れないな」
姿を消し、気配を断ったまま、シアは声に出さず一人ごちる。
静かなこの街中でさえ感じる壮絶な戦気とも言うべき気配が、
月の傭兵達の戦いの厳しさを物語っている。

高レベルな魔術・神力術の使い手であるシアが参戦していれば、
襲撃、防衛、どちらの月の傭兵達も少しは楽に戦えた筈。

それでも、万が一の「保険」としてこの場に留まっているのは…。
仲間を信用していないからではなく、信頼しているからこその行動だった。
勿論、それを態々言ったりはしないが…。

カツン。
シアの思考は、路地の向こうから響いた足音に遮られた。
召還の影響によって人が入り難くなっている筈のこの場所に、
人が来ること自体、かなり不自然だ。

シアの子供らしい大きな瞳が、警戒心を顕すように細められる。

視界に、足音の主が姿を現す。
金髪碧眼。白く透き通るような肌に整った鼻梁。
目元は涼しく、それでいて甘さを感じさせる瞳の表情。
文句なしの美青年、否、どこかの国の王子と言っても過言ではない、流麗な容姿の持ち主だった。

何よりも――その人物は…シアも一度会ったことのある…。

「やあ、シアちゃんだったかな?奇遇だなぁ」
前に冒険者連盟で依頼を受けた時に、なぜか事情説明を行っていた
軽薄で外見とのギャップが激しい謎の青年―ダグディだった。

しかも、完全に姿を消し、気配を断っている筈のシアへ、
迷うことなく視線を向け、街で偶然会ったような、何でも無い口調で話しかけている。
探索能力に優れたルナでさえ、今のシアを見つける事など、そうそうは出来ないであろう程の
隠蔽をいとも簡単に見破っているということなのだ。

異常事態、だった。

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57GM ◆lor4BkqD86:2005/10/07(金) 01:18:38

◆ ◆ ◆

3度目の砲撃への対応は迅速に行われた。
何度も同じ手が効く相手では無いことはソウシンも解っている筈。
これは、魔導機兵達の限界と、恐らくは――手加減。

「ふむ。――基本的な陽動・援護射撃への対応をしくじる訳にはいかんのぉ」
軌道予測・迎撃準備。全てが完了し、クレアへの指示を出し終わったドレッドノートが
自信に満ちた声で、主砲から重力波を放ち始める。
アーシャの卓抜した技術と知識、大国でさえ滅多に入手できない鋼材を余すことなく使用した砲身は、
量産型の魔導機兵が行う砲撃を遥かに超える出力にも耐える。

「はい〜。ちゃんと弾かないと〜。リョウさんにご褒美貰えなくなっちゃいますから〜」
いつものように、ほわほわとした笑みを浮かべて、謎な言葉を漏らすクレア。
それでも、右手で操る銀の鞭は鮮やかな曲線を描いて、誤たる事無く、
砲弾を弾き、軌道を見事に逸らしている。

3度目ともなれば、初撃の奇襲で見られた混乱は無い。

「早速―。総攻撃といきますか」
リョウの瞳がスナイパーらしい冷たい色を湛えて、ソウシンを見据えた。
作戦が早期に察知されたのは痛かったものの、十分ありえる範囲。
それよりも、これからの対応そのものが今後の動向を決定付ける。

ナイトメアシューターにバーストアローを番えた瞬間。
超高速でソウシンへ放たれる数本の閃光。

リョウの超絶的な技量によって連続射出された矢は、
ソウシンの心臓、頭、足の急所をピンポイントで射抜いた―。
否…「残像」を射抜いた。

残像を抜けた矢は、背後の結界をも貫き――派手な豪炎を上げ破壊を撒き散らした。
強固な呪力結界が外部から貫かれ、内部からの爆裂により構成を失ってゆく。

「―――次」
容赦なく次弾が、前着弾地点より45度西へ向けられる。
ソウシンの回避地点を潰し、あわよくば一撃入れるための射撃。
混戦の中、リョウの手から放たれる矢は、確実にソウシンの行動範囲を狭めてゆく。

「リョウさんーお見事ですー。さー、ソウシンさん、どうしますか?」
リョウの爆撃範囲から外れた場所。
つまり、月の傭兵達が待ち構える場へ誘導されたソウシンへ、
香天が押さえきれない期待―強者と戦える―を滲ませた声色で笑う。

「てめーは、ここで、死にな!」
口を開きかけたソウシンを遮るようなカイの爆斬。
雷撃にも似た一撃は、見事に避けられたものの一直線に伸び、
林とそこに張り巡らされた結界を砕きながら破壊跡を残してゆく。

「リョウ。ナイスだよ――さすが、もてる男は違うねぇ」
チラリとクレアとリョウを冷やかすように眺めて、
アーシャは、いつでも獲物を投擲出来る姿勢をとっている。

「なっ!…何を言って……」
その言葉に、冷徹な色を帯びていたリョウの表情が赤く染まる。

「アーシャちゃん、からかったら悪いよっ」
くすくすと笑いながらパティも悪戯っぽい表情を浮かべている。
が――その剣閃は、一片の油断も無い。

「なるほど、この彼はモテるのか」
パティの超速移動攻撃を上回る速度で回避行動をとり、
蒼い剣の切っ先ギリギリで踊るようなステップを踏んでいるソウシンもまた、
真面目な表情で突っ込む。

「羨ましい話だな。っと!俺の相手は、あんたにしてもらう事にしようか」
紅蓮を纏った剣を華麗に躍らせ、ラーシュもまたソウシンの間合いに踏み込む。
戦場で交わされる軽口は、全員のテンションが高まり、戦闘そのものを「楽しんでいる」事を表している。

ラーシュもまた、笑みが止まらない高揚感を覚えていた。
徐々に「手加減」が削られて行き、竜王の力を引き出すことが楽しくなっているのだ。

「えー。ラーシュさんは、そんな趣味がー」
クスクスと笑いながら、牽制の蹴りに合わせての逆氣。
当然のようにブロックされ、散らされるものの――それは、隙を作り、他の戦闘者への援護となる。
香天もまた――「楽しんで」いた。

戦況はゆっくりと、月の傭兵達の思惑通りに進みつつある。
ソウシンへの攻撃そのものが結界を破壊し、かなりの速度で遺跡へ近づく。
恐らく、竜王がそれに気づいていない訳も無いのだが――
幾人ものAクラスルナを相手にし、押されつつあるソウシンの表情は、月の傭兵達と同じような笑みが浮かぶのみ。

そして――。
とうとう…林の間に『遺跡』が見え始めた。

58GM ◆lor4BkqD86:2005/10/08(土) 23:24:44

◆ ◆ ◆

剣戟と破砕音――そして、不気味に響く、
呻き声のような屍術によって作られた魔導機兵の駆動音。

物騒な噂のある月の魔女が経営していることで、
普段全く客足が無く静寂な地となっていた月に踊る天使亭は、
月の消えた夜に、凄まじい喧騒に包まれていた。

「大規模戦闘には向いている機体です。しかし、私達相手では、いささか力不足ですね」
変幻自在の連続攻撃を繰り出すレイピアによる銀の剣閃。時折体術をも織り交ぜる実戦的な戦闘法。
更に、二種の宝具によって、中空を戦場にすることを可能とし、
背に顕現させた翼は第二の刃となり、魔導機兵の戦術プログラムが予測出来ない方向から痛撃を加える。

リゼットは、完全に二機の魔導機兵グラルド・ボルグを圧倒していた。
ユビキタスの聖堂騎士は、教会の堅苦しいイメージからお行儀のいい正当な剣術を使うと思われがちだが、
聖堂騎士の改革を断行した『戦天使』レイ=ラルスフォールによる教練によって、
形式的な剣術のみならず、体術まで含めたあらゆる状況に対応可能な実戦型の戦闘術を叩き込まれている。
その華美なマントの下には、様々な武器…手斧といった無骨な得物さえ仕込んでいるのだ。

「やぁ、再生能力が高い箇所と防御力が高い箇所。解り易いなぁ。ここはこう切るのがコツだ」
コックンもまた、朗らかに超絶的な包丁捌きを見せている。
着実に再生力の高い屍肉部位を重点的に切り刻み、「エネルギードレイン」にも似た能力を持つ宝具の影響で、
動力に深刻な障害を負わせているのだ。

冗談のような彼の戦闘能力と得物は、グラルド・ボルグとの相性がぴったりだった。
腕間接部を切り飛ばした後、無理やり結合しようと触手のように伸びる屍肉を容赦無く、微塵切り。
シンで熱した中華鍋で炒めてしまうのだ。――悪夢のような恐怖を与える筈の屍鋼合成魔導機兵も、
これでは、三流の滑稽劇のピエロでしか無い。

「私が切断しますから、焼却は二人でお願いします。ファーティナは牽制も担当して下さい」
優しく丁寧な口調。慎ましやかな笑み。
その声と表情に似合わぬ、見事な曲線を描く肢体を露にした蠱惑的な姿で、
シーナは、霊獣ファーティナと、長い金髪をなびかせた美少女にしか見えない格闘少年ナギサに指示を出す。

「了解です。マスター」
「おっけー…っと、結構動きはいいよな、こいつら」

静かに頷いたファーティナが、炎の獅子の形態のまま疾る。

ファーティナの翼から放たれる豪炎が、三体のグラルド・ボルグを包み込むと、
紅蓮の軌跡を描くと、熱に比較的弱い間接部が派手に火を噴く。
すぐさま再生機能を稼動させているが、それは「動き」にラグを作ることとなり…。

その決定的な隙に、美しい残像を結び、シーナの小太刀が綺麗に火炎で弱った部位を切り裂く。
鍛えられ引き締まった褐色の脚線。身体の動きに合わせて大きく揺れる胸は、戦闘時だと言うのに、目の毒になる程魅惑的だった。

「…あ…ぅぅ」
連携の都合上、シーナのすぐ傍に位置しなければならないナギサは、
その、ほぼ裸に近いシーナの姿を直視してしまい、やはり真っ赤になっている。

それでも自分の仕事は忘れていないのか、豪炎と斬撃で弱った部位へ再び特殊な闘気で練った
『狐火』を剣のような形にして投げつけた。

ズズッ。
狐火で焼ききられた一体のグラルド・ボルグ膝が、鋼鉄を含む重い巨体に耐えられず、無様に崩れ落ちた。
再生しようと触手が伸びるもののそれも、
ファーティナとシーナの連携により、切り刻まれ、爆炎で灰に変わる。

59GM ◆lor4BkqD86:2005/10/10(月) 22:25:00

「くぅ…。まだ、まだです」
凄まじい威力の結界弾を連続で撃ち続ける、フラウの宝具。
それらを全く通さぬ強固な結界を維持し続けるエクレール。
しかし、時間が経つにつれ、エクレールの額には僅かに汗が滲み始めている。

同一箇所へ強力な弾丸を打ち込まれ続ければ、どんなに緻密な構成の結界も綻びを見せる。
その綻びをすぐさま修復し、高レベルなまま保ち続けるには、神力を操る技術、訓練に裏付けられた集中力、
個人の資質が大きいシンそのものの容量が絶対条件だった。
それでも――人間には限界がある。

エクレールの首に光る宝具「紅月環」の力を使用している為、シンの消費は通常の結界維持よりも高い。
今はまだ、持ち堪えられても、戦いが長引けばエクレールの消耗は結界の精度に影響してくるだろう。

「ちっ、まずいな…。しかし――力の消費は、アイツの方が激しい筈なんだが…。
あれだけのシンの流れをどうやって……っと、まてよ、そうか…」
夜だと言うのに瞳を隠すようにかけているサングラスのフレームを、指で小さく押し上げて、
迎撃結界、強化呪文をキャンセル。すぐさま新しい呪を唱え、指先で呪紋を刻み始める。

フラウと結界弾を無限に撃ち出す『宝具』を繋ぐ空間へ、迎撃結界を展開させる。
迎撃内容は、「ジャミング」。シンの齎す効果を打ち消す「ディスペル」の亜種で、
術の効果を阻害し、弱体化させる為の補助魔法の一つだった。

撃ち出される結界弾に対してならば、マグナムの魔力では、否、それ以上の魔導師の術であったとしても殆ど作用しないだろう。
しかし、弾丸に精製される以前のシンに対してならば、話は違ってくる。
マグナムは、その「ジャミング」を迎撃結界の形で展開し、自動的に発動するよう組み上げたのだ。


「っ…。思ったより早く気づかれたね。やってくれる」
宝具へのシンの供給が阻害されたことに気づいたフラウが、美麗な眉を顰め、忌々しそうにマグナムを見る。
そして――指に強い光。マグナムへと照準を合わせる。

途端。
同一タイミングでミスティの魔導機銃へ一気にシンが流れ込み、シンが膨れ上がる。
ミスティの異能力を使用した、最大出力の熱線が銃口よりその威力の片鱗を示す魔力波を放ち始めた。

「ちっ……」
無視は出来ない。
一度、ミスティによる手痛い銃撃を喰らった事のあるフラウの反応は早かった。
マグナムに向けていた指先の神力を一気に展開させると、
ミスティの銃口が向く方向へレンズ型の結界を形成した。

「――甘い」
冷たい紅の瞳は、自らの『読み』通りの展開となっても喜びに揺らぐことも無く、結界の端を見極めていた。
神力の盾を避け回り込む形になりながら、ミスティは一瞬でキャンセルしたブラストから、
S(セイバー)モード―魔導機銃を銃剣と化し、白兵戦に対応可能とさせる―へ切り替えて、
鮮やかな体捌きで、容赦なくフラウの喉元へ向け、魔力を帯びた切っ先を突き上げた。

60GM ◆lor4BkqD86:2005/10/14(金) 23:16:57

◆ ◆ ◆

「先、行ってるねっ」
アーシャにそう囁くと、パティはその俊足を生かし、
林の合間から見えつつある襲撃対象―遺跡―を目指して加速した。

ソウシンは、カイの疾風怒濤とも言うべき連続攻撃と、
香天の、懐に潜り込んで針のように鋭い一撃を加える一撃離脱の戦術に梃子摺っている上に、
リョウとラーシュは、ソウシンの退路へ予め爆撃を加えることにより、動きを封じている。

魔導機兵からの援護は、アーシャの指示の元、
クレアとドレッドノートで迎撃を行い、砲撃が届く前に全て打ち落とされている。

この状況下、月の傭兵の中で最速を誇るパティだけが、一瞬フリーとなったのだ。

一蹴りだけで、闘気とその蒼い髪が光となって音速を超える。
体に纏うシンは、超高速の動きによって生まれる空気摩擦を軽減して、更なる加速を可能としている。
有機付与術によって限界まで強化された脚力と総合能力は、彼女の恵まれた素質と相俟って、
S級ルナでさえ追いつけない程のスピードを実現していた。

「行かせるか!てめぇは、ここで――死にな!」
パティの『抜け駆け』に対して追おうとする挙動を見せたソウシンへ、
カイが強烈な剣気と殺気を刃に込め、自らの編み出した「雅闘術」による嵐のような斬撃を、
叩き付けるようにお見舞いする。

破、環、返、砕、貫、虚、背、握。
多彩な組み合わせの技が、常人には光の筋としか見えない程の速度で繰り出される。
四肢に取り付けた宝具『空位転舞輪』の能力を生かし、今までの雅闘術では実現できなかった、
3次元的な動きと、重力緩和による加速を組み合わせた連続攻撃は、
何者をも破壊出来るという確信を湧き上がらせる。

(こいつがあったら、月の魔女の試験は、切り札使う必要も無かったな)
確実にソウシンを追い詰め、余裕を削っている。
更に精度・速度・威力を高める為にシンを高めようとしたその瞬間――。
五つの光がカイは身体に吸い込まれた。……ゴッ、鈍く低い音が一つ。
それだけで、カイは凄まじい速度で十数メートル先の地面に叩き付けられていた。

61GM ◆lor4BkqD86:2005/10/14(金) 23:17:34

「なっ…」
突然の戦況の変化に、香天が短く声を漏らす。
格闘術の鍛錬により、蜂の羽ばたきの動きでさえ羽一枚一枚の動きを見切ることの出来る香天の瞳にさえ、
ソウシンの動きは捉え切れなかった。否、一つだけ解ったことがある。
…彼は右腕だけで、今の攻撃を行ったのだ。

そして左腕は――香天に向けられていた。
五本の指から、氣が放射。香天も驚きからいち早く立ち直ると、余裕をもって回避行動に移る。
確かに早く、数も多いが避けられないスピードでは無い。

「この程度では…って、えええーー!くっぅぅ!」
肌に風を感じる程の紙一重で全弾をかわしきった香天が不適に笑おうとしたその時。
やり過ごした筈の氣弾が更なる高速で迫ってきたのだ。
(追尾形の?!あんな速度で可能なんですかー!?)
咄嗟に両腕を交差させる十字受けで威力を殺し、後ろに飛ぶ。

先ほどのカイと同じように激しく樹に叩きつけられ、暫く、身体の動きが麻痺したように止まる。
恐らくは、元々そういう技なのだろう。だからこそ、あれだけの速さを…?
吹き飛ばされた香天とカイの間合いに入ったラーシュと、それを援護するリョウを眺めながら、
香天は、戦線復帰を早める為、体内の氣を練り、麻痺解除に努めた。


「香天さん!」
「――ちっ、まずい」
「爺様、クレア、すぐに竜王を足止…くっ!だめ、また来た!」

リョウ、ラーシュ、アーシャの声が交錯する。
ソウシンがカイと香天を吹き飛ばしたタイミングで、再び激しい砲撃が月の傭兵達を襲ったのだ。

「ふぇぇ〜。今度のは、ちょっと……数が多いです〜」
クレアが泣きそうな声で応える。
無機付与術を応用し、伸縮自在に変化する鮮やかな鞭捌きによって、
砲弾の軌道を変え、時には絡めとって地面へ叩きつけたりと、その手は休むことが無い。
それでも、香天やリョウの援護に入れないのが不安なのだろう、心細そうな表情を見せている。

「とりあえずはっ、向こうの砲撃を止め、反撃の機会を待つのじゃ!
それを果たせねば、負担は彼らにかかるからのぉ」
鋼の身体から、熱気を放出し、縦横無尽に乱れ飛ぶ重力派によって敵の砲弾ごと砕き、
または地に沈め、大きなクレーターを現出させる。

62GM ◆lor4BkqD86:2005/10/14(金) 23:17:56

「これは……。さっきの比じゃない。けれど索敵反応は同一数…。
ってことは、出力限界以上の速度で砲身を稼動させてるね。そう長くは続けられないはず!持ちこたえるよ!」
アーシャの叱咤が飛ぶ。東洋風の大胆なスリットの入った服を靡かせ、腕を一閃。
再び黒鋼の手甲が高速で飛び、砲撃を破砕した。

同時に両刃槍を回転させ、同じように右方向から来るエネルギー弾へ――。、
特殊合金『ヴェルドライトγ』の赤い刃が、綺麗に砲弾を真っ二つにする。

先ほどの数倍にも及ぶ多段攻撃でさえ、綻びを生じさせない。
「ふんっ、竜王と相対しておるのじゃ、魔導機兵ごときにしてやられては、面目が立たんからのぉ」
ドレッドノートが嘯いた。


「これならば、どうだ!」

紅蓮。
ラーシュ特有の炎にも似た闘気を文字通り劫火に変え、爆発的な燃焼力により、
火炎の嘗めた後は、灰すら残さない。
炎を象った剣に絡まる奇妙な枝は、そんな凄まじい力を持っていた。

一度この技はソウシンに防がれている。
が、あの時は牽制の意味もあり、完全に力を解放してはいなかったのだ。
(それでも、あの竜王を倒すには至らないだろうが…)
再び、剣に闘気を送り込む。そして――舞い散る火の粉の如き紅蓮の乱舞。

宝具の力を解放したまま、その場で連撃を繰り出したのだ。
カイと香天は吹き飛ばされて範囲内には入っていない――この瞬間だけが、
大技を繰り出すチャンスだった。

「殆ど、殲滅体勢ですね――。これで足止めなのだから…」
香天、カイの様子を見て、命に別状は無いと判断したリョウは、ほっとしたように苦笑いを浮かべる
そして、すぐさまナイトメアシューターを構えると、爆炎に紛れて強烈な気配を放っているソウシンへ、
容赦なく幾本もの矢を撃ち込んで行く。

爆破系の矢「バーストアロー」と同時に、貫通力を高めたシンで構成された針のような矢を使用し、
シンの流れを滞らせる「ニードルショット」も混ぜる。
(手の内は知られているとは言え、この使い方は、妹さんとの戦いでも見せてませんからね)
嵐のような爆炎に紛れたニードルを的確に打ち落とす事は、ほぼ不可能だろう――。

リョウの予測通り。
熱気の嵐が収まった後には、膝を付いたソウシンの姿が。
戦闘服をニードルショットが貫き、所々が爆炎の影響か炭化している。

効いている。
一瞬、脳裏に浮かんだ勝利の予感を――

「…くぅっ!そんなっ」
鈍い音と共に聞こえたパティの声が、引き裂いた。

63<削除>:<削除>
<削除>

64GM ◆lor4BkqD86:2005/10/16(日) 19:58:53

◆ ◆ ◆ 

キィィン!
よく響く澄んだ音と同時に、フラウの喉に吸い込まれる寸前だったミスティの銃剣の切っ先が弾かれる。
鎧型結界。戦闘術で多用されるシンの集中による防御を、闘気では無く防御に特化した神気で形成することにより、
『結界』として機能させる、神力術の基礎。

桁外れの神気を纏い、S級ルナでさえ幼稚に思えてしまう程の技量の持ち主であるフラウが使えば、
強烈な一撃でさえ、髪一筋すら通さぬ鉄壁の守りとなる。

「さすがですね。――この程度の攻撃で倒せるとは、思っていませんでしたが」
通常のルナならば、一撃で仕留めていたであろう奇襲を弾かれたにも関わらず、
ミスティの表情は変わらない。

(そう、あの時のようにはいかない。――彼の結界は、油断や無理が無い限り貫くことは難しい。
私のブラスターでさえ、まともに相対すれば恐らくは……)
冷静な戦力分析は、敵の能力は自分を含めた月の傭兵を圧倒的に上回ると告げている。
が、それは戦況を決定付ける「差」では無い。

冷たい光を称えた紅の瞳は、いかなる動きにも対応できるよう油断無く、
雪とそっくりな造作の美貌を見つめていた。

「いい目だね。ふふふ―殺し甲斐があるよ」
優しく淡い微笑を浮かべ、困ったような瞳で見つめる…そんな可愛らしい表情を浮かべる雪の顔。
その相貌と瓜二つである筈のフラウは、一度見ただけで別人と解る様な、
優しい気質の雪が決して浮かべる事の無い色を露にしている。

獲物を目の前にした蛇を思わせる…残虐な喜悦交じりの嘲笑。

そこへ。

「――エクレール、待たせましたね。」
静かな、それでいて強い意思を湛えた声が凛と響く。
再生すら不可能な程に砕かれた魔導機兵の残骸を背したリゼットが
エクレールを守るように、マントを靡かせ颯爽とフラウの目の前に立ったのだ。

手には刃こぼれ一つ無い銀のレイピア。
魔導機兵を打ち砕いた翼も、くすみ等一切無く輝いていた。

――激しい戦闘を終わらせたとは思えない、汗一つ無い姿は、
一服の絵としたくなる程に凛々しかった。

「ああ、素敵です…」
勿論、エクレールは完全に瞳をハート型にして、拳を握って胸元で合わせ、うっとりと見とれている。
かなり消耗を強いられていた筈なのだが、それすら気にならないように。

「やれやれ、美味しいところをもってかれるよなぁ」
颯爽と登場したリゼットとは対照的に、汗だくになりながら「ジャミング」を続けているマグナムが、
苦笑いしながら、一人ごちる。

導師級の実力を持つとは言え、魔術専門という訳ではない為、
フラウほどの化け物が放出する神気の流れを妨害するだけでも、かなりの消耗を強いられるのだ。
元々汗っかきだというのもあるが。

「こちらも、処分終了です。――ナギサさん、ファーティナ、油断無く」
「了解」
「うん、わかった」
静かな、それでいて『従わせる』力を持ったシーナの声。
シーナの使役獣であるファーティナだけでなく、有機使役術者の『声』の影響を受けやすい獣人族である
ナギサまでも、素直に頷いて構えている。

ここに、いつもナギサに反抗されているアーシャがいたら、
「へぇぇぇ?妙に従順だねぇ?」とでもからかうことだろう。

「こっちも下ごしらえは万全さ!」
―どうやら、コックンの方も、魔導機兵グラルド・ボルグ二体を破壊し終わったらしい。
キラリと歯を光らせてポーズ。怪しげな包丁の輝きも、更に増しているようにすら見える。

下ごしらえというのは、コックンが金属部を鮮やかに『剥いて』、千切りにした肉部分の事だろう。

その一人だけ、妙に浮いているコックンをきっぱりと見ない振りをして、
ミスティは、風の無い湖面を思わせる声でフラウへ尋ねる。
「これで、『前』と同じ状況。――全員を相手にしますか?」

65GM ◆lor4BkqD86:2005/10/18(火) 22:46:09

◆ ◆ ◆

「……前と同じでいいんだよ。今日はボク、『挨拶』に来たんだから」
酷薄な アルカイックスマイル。
雪と同じ声で紡がれるその言葉が終わった時。一瞬でフラウの周囲に神力が満ちた。

「――これは…皆、離れ…っ!」
ミスティの警告。同時に、眩い閃光。
フラウの身体全てから無数の結界弾が放たれたのだ。
同時に、魔導機銃から放たれるブラストのマズルフラッシュが、夜の闇を切り裂く。

一瞬の攻防。

光が消えた後に残ったのは…衝撃で抉られた地面と、各々に防御体制をとっている月の傭兵達。
ランダムに撃ち出された結界弾は、彼らにも爪痕を残していた。

「っ…ぅ」
ナギサが、胸を押さえて崩れ落ちる。
唇からは一筋の紅。――まともに被弾したらしい。

「――くっ」
ミスティの瞳に悔しさが滲む。
瞬時の判断で、結界を守るエクレール、マグナムへの弾丸は撃ち落とせた。
自分へ迫り来る結界弾にも対応は出来た。しかし全員をフォローするのは不可能だった。
以前、フラウの力を目の当たりにした自分でさえ、ここまでの攻撃は予想以上なのだから、
他のメンバーは…。

「やって、くれますね。エクレール、大丈夫ですか?」
エクレールを守るように結界弾をレイピアで受け止めたミスティが、
店を守る結界を構成しながらも、なんとか自分に鎧型結界を付与してくれた従者に慈しみの瞳を向ける。
そして、心配そうに…ナギサへも。

「私は大丈夫です。お嬢様…ご無事でよかった。でも、ナギサさんは・・・」
同じく、完全に被弾したらしいナギサへエクレールも視線を向ける。
必要ならば治癒を…そう思っているのか、今にも駆け寄りたそうにしている。
が、状況はそれを許すほど甘くは無い。

フラウは、ミスティのセイバーを受け止めた右腕に煙を纏いながらも、
薄笑いを浮かべて全員を睥睨している。無闇な行動は、とれない。

「お、オレは、大丈夫…けほっ、かはっ」
月の傭兵達が見守る中――ナギサが、咳き込み、血を吐き出しながらふらふらと立ち上がった。
その胸元から、「厄除守」と書かれた布製の小さな袋がボロボロになって落ちる。

「くそー、パティから貰ったのにー」
破れた護符を掌で受け止めて、ナギサは悔しそうに呟く。
結界弾が直撃した割には、元気そうだ。

「ひゅー、見かけによらずタフだな。さすがにちょっと焦ったぜ」
ジャミングに集中していた為、即座に対応することの出来なかったマグナムが、
冷や汗を額に浮かべながらも口笛を吹く。

下手をすれば、マグナム自身も結界弾に貫かれていたというのに、未だジャミングの精度は落ちていない。
タフなのはマグナムの胆力だとも言えるだろう。

「全ての防御は不可能でした。…さすがに、アレの力を借りないと…」
自分へ迫る結界弾は、小太刀『月詠』の防御フィールドで軌道を捻じ曲げたものの、
周りへのフォローまでは手を廻すことが出来なかったシーナが、すっと構えなおす。
途端、艶やかな褐色の肌が闇の色に染まってゆく。

シーナの異能力『二重の影』を起動させたのだ。

「……」
中空に避難していたファーティナもまた、シーナに寄り添うように戻ってくる。

「ぬぅぅ。フライパンが貫通されるとはっ――やはりテフロン加工にするべきだったかな」
よく解らないコトを言いながらも、見事な体捌きで結界弾を受け止め、弾いたコックンが
包丁を光らせながらゆっくりとフラウに近づく。

「調理道具を壊してしまう子にはお説教が必要だ」
胸を逸らして、フラウを睨みつけた。

じわり。
奇襲が成功したにも関わらず、フラウへの包囲網は更に狭まり始めた。

66GM ◆lor4BkqD86:2005/10/18(火) 22:47:37

◆ ◆ ◆

「この件、冒険者連盟が関わっているのか?」
この男は、完全にシアの隠蔽を見破っている。―ハッタリじゃない。
そう判断したシアは、全く動揺を感じさせない口調で逆に尋ねる。

ダグディを見たのは、例の林檎爆弾騒動の時。彼は冒険者連盟の立場を説明していた。
なんらかの強い繋がりがあるのは確かだろう。

「いやいや、こっちは俺の趣味でね。『お姫様』の見物に」
茶飲み話でもするかのような口調で、謎めいたことを言う。
その彫刻のように整った相貌には、女性が見れば蕩けてしまうであろう微笑を浮かべている。

「お姫様、ね。」
今だ透明化と気配の隠蔽は続けたまま、シアは小さく呟く。
その声も、全く漏れないように空気の振動を抑えている。
ダグディはシアの存在を完全に把握しているようだが、彼が一人だとは限らない。

(…やっぱり顕現体は…)
瞳を細め、考え込む。
勿論、目の前の男に隙は見せない。…いつでも上級攻撃魔法を撃ち込めるよう指先で紋を描いている。

「まあまあ。そんな物騒な呪紋をこっちに向けないでくれって。
とりあえず、ほら利害は一致してる訳だしさぁ」
軽薄そのものといった風情で、ダグディが両手を挙げてみせる。
隙だらけで、確かに敵意は無いように見える。

(――まったく面倒ヤツに絡まれたな)
憮然とした表情で、ダグディに冷たい視線を送り、シアは一つため息をついた。

67GM ◆lor4BkqD86:2005/10/21(金) 22:14:08

◆ ◆ ◆

「な……っ」
パティが、年齢よりずっと幼く見えてしまう理由の1つである大きく表情豊かな瞳。
その瞳に驚愕を湛えて、目の前に立ちはだかった男を見つめる。

竜王ソウシン。
パティの仲間達が、壮絶な攻撃によって後ろで足止めされている筈の強敵。
彼が、結界を抜けた先、遺跡の正門の前に立ちはだかっていたのだ。

「――聞いたこと無いかな?『双霊』。人間が編み出す術には、便利なのが多い」
静かに微笑むソウシンは、パティ達が住む家に居候している彼の妹、トゥレシが心酔するのが解る程、
底に秘める「強さ」の持つ輝きを感じさせた。

『双霊』とは、実体を持った分身の意。
しかし、高い戦闘力を持たせたまま、長時間維持させるのは至難の業で、
この技術を開発した流派『神幻流』のルナでさえ、使い手はごく少数だったと言われている。
現在では、古代の宝具や異能力を使用し、やっと実現可能な技術だった。

『神撃流』『夢幻流』を越えるために無理な抗争を行った為、
現在では滅びに瀕している『神幻流』の奥義を、人間では無い筈の竜王が再現しているのだ。

「――相手にとって不足無し、だよ。神撃流の使い手として、勝負させてもらうからね!」
強者に会えた喜びに、パティの顔が綻んだ。神撃流に縁のある流派との相対となれば、尚更。
静かに瞑目し、刀の柄に手をかける。

いざ、尋常に勝負。―そう心に唱えて。
一瞬、闘いの期待に目的を忘れそうになってしまったパティだが…。

「こーら、パティ。心配して来てみれば、嬉しそうに敵と話して……浮気かい?」
からかいの言葉がパティの緊張を破った。
と、同時に、その声の主、アーシャの持つ両刃槍「朱鳥」が、紅の鳥の如きシンを放ちながら、
パティの脇を抜け、高速回転してソウシンへ迫った。

いとも簡単に避けるソウシン。しかし――。
その後ろには、崩れかけた遺跡がある。

ギリュゥゥゥ!!!
視界が赤く染まる程の閃光。
アーシャの放ったストライクイーグルが、遺跡に施されていた結界と削りあって、
火花のようにシンの欠片を光と化して撒き散らしたのだった。

「おや?ま、不可抗力。破られなければ契約不履行にはならない」
ソウシンが、悪戯な笑いを見せる。どうやら、遺跡を狙った事を知りつつわざと避けたらしい。

「あぅぅ、浮気って、そんなんじゃないよっ!」
「パティ、楽しそうに笑ってたしねぇ。相手はトゥレシの兄だけあって、まあまあいい男だしねぇ」
竜王を目の前にして、大胆な会話をする姉妹。しかし、それは油断では無く……。

シュッ。
再び流星のような光が夜を引き裂く。
鋭く流れる光に、金がかった大きめの光、しなるように薙ぐ銀の光。

それら全てが、ソウシンの身体に吸い込まれる。
否、ソウシンの身体を突き抜け――遺跡の結界を震わせた。

「あれ〜?ソウシンさんに当たったと思ったのに〜。山で見たときのリョウさんと同じ?」
魔竜連山で、リョウがトゥレシ相手に見せた絶技を思い出したのか、
クレアが驚く――それでも表情はのんびりほんわかなのだが―。

「いえ、違います。今のは……私と同じ術ではない筈です…」
そう、リョウが魔竜連山で見せたのは、彼固有の異能力。
簡単に真似られるもので無い上に…次元移動の際の「ゆらぎ」も見られなかった。
弓を構えたまま慎重に、先ほどのソウシンの動きを脳内で反芻する。

あれを見切れない限り、ソウシンを倒すのは…。
いや、「倒す」必要は無いか。シンを高めて弓を引き絞りながら、リョウは小さく笑った。

「むむー。あれは……戦闘術、の一種の筈ですね。氣の波動が一瞬ぶれて…」
大きな光の1つに『乗って』いた香天が小さく呟く。

拳に嵌める金属製の格闘用手甲型宝具、金剛飛拳『帝龍』。
『帝龍』の特殊能力を使用し、弾丸のように飛ばすと同時に、
約30㎝程しか無いその体躯を生かして、『帝龍』そのものに飛び乗ることも出来る。

その為、香天だけが、間近でソウシンの「術」を確認できたのだった。

「何にせよ、相手に不足無しっ、だよっ!それでもボク達は勝ってみせるからね!
…って、あれ?カイさんと、ラーシュさんは?」
びしっと、格好つけた後、パティはちょこんと首を傾げた。

68GM ◆lor4BkqD86:2005/10/25(火) 00:04:38

◆ ◆ ◆

「さぁて、今度こそ容赦なく――殺してやるぜ」
殺気に満ちた声が、右腕をその巨躯にすら釣り合わない程巨大化させた影から発される。
カイの異能力『神の左手 悪魔の右手』。

ソウシンに吹き飛ばされ、叩きつけられた時、ダメージで動けないと見せかけ、
レア・ヴァロライト鋼すらバターのように切り裂ける力を宿す、切り札を発動させていたのだ。

「いや、足止めするだけでいいだろ」
苦笑いしてラーシュが突っ込みをいれる。

あの後、パティの声を聞き、走り出した面々をソウシンの追撃から守るため残った二人だったが、
その必要は無かったのかもしれない。ソウシンは、彼らを止める素振りすら見せなかったのだから。

「殺せば足も止まる」
素っ気無いカイの言葉。
その落ち着いた殺意の表明に、ラーシュは肩を竦めた。
それでも、数々の噂のある『S級傭兵』が見せる"本気"には並々ならぬ興味があるらしく、
対峙する二人を、少し楽しそうに眺めている。

「ほほう…面白い。人間如きに、何が出来るかな?」
――妙に芝居がかった声でソウシンが返す。完全にこの状況を楽しんでいる事は明白だった。
(竜王ってのは、こーいう性格なのか)
ラーシュの額に汗が伝う。

「……」
無言の旋風。
妙にノリのいい竜王に対し、完全に本気で殺しにかかっているカイは、
一瞬の隙とも言えぬ間を見つけ出した途端、音速を超えるスピードで、
ソウシンの身体めがけて、真一文字に大剣を振り下ろしたのだった。

右手そのものが見えなくなる程の速度で振り下ろされた剣は、
ソウシンを真っ二つに切り裂いた。…が、カイの動きは止まらない。
何も無い空間を剣閃が走り、爆風の如く放たれる剣気が、ごっそりと林の樹木ごと削り砕いた。

剣速は、S級ルナでさえも確実に凌駕している。

「これが、『帰還者』の切り札か」
ごく少数のルナが持つ異能力は、生死を分ける切り札となりうる為、
それを間近に見られる機会は、滅多に無い。カイ程のレベルのルナとなれば尚更だ。
ラーシュは、目の前で繰り広げられる超絶技を見逃すまいと、
(俺が闘いに参加するのはもう少し後…だろうな。今入ったら殺されそうだ)

そう――。カイにも、そして、ラーシュにも、「見えて」いるのだ。
カイの異能力すら超える速度で……常人どころか普通のルナの瞳にさえ映らない動きで、
殺人剣を避け続けているソウシンの姿が。

69GM ◆lor4BkqD86:2005/10/25(火) 21:42:13

◆ ◆ ◆

上空から。鋭い白光が夜を疾る。
天使の翼が銀刺繍された蒼いマント「虚空旋律」の力によって驚異的な跳躍から急降下したリゼットが、
レイピアによる突進、斬撃、刺突を同時に繰り出す『白銀の氷雨』を放ったのだ。

(これは囮。結界強度を私へ向けさせる為の…しかし、全力をもって!)

全ての剣撃が結界によって弾かれたとしても、衝撃を吸収し、体勢を崩さないようバランスに細心の注意を払う。
「虚空旋律」の制御レベルを引き上げる。

が――。
覚悟していた衝撃は無かった。

「――なっ!」
フラウがその華奢な身体に似合わぬ見事な体捌きで、リゼットの攻撃全てを「避けた」のだ。

「この結界刀、飾りだと思ってた?」
フラウは、技を放った後、残心をかろうじてとっている状態のリゼットを無視して、
彼女の攻撃に合わせ、地を滑るように迫ってきたシーナへ笑いかける。

途端、フラウの手にある結界刀の刀身が急激に伸びて、シーナの喉元へ。

ギィィィィン
金属同士が激しく擦れ合う音。
結界刀の切っ先を十字にした小太刀が受け止めた。

「なるほど……確かに、見事な戦闘術です」
『影』を使役している状態特有の冷たい瞳で、シーナは静かに応えを返す。

「高度な神力術と組み合わせた刀技。驚きました」
リゼットもまた、敵への賞賛を惜しまない。
しかし、その表情は獲物の能力を測る豹を思わせる鋭さがあった。

「ふん、万能って訳だ。――そいつぁ羨ましい」
ジャミングに全精力を傾け、体中にびっしりと汗をかいているマグナムが、
それでも減らず口を叩く。一瞬でも油断すれば、膨大な神力に流されそうになるのだ。
1つ、息を吐く。

「だがよ、アンタはまだ、俺達を甘くみてるぜ」

「ええ…。んっ…くぅ――そう、です。お嬢様の力は……っ」
エクレールが全て言えず、言葉を切る。
マグナムのジャミングが効を奏しているとは言え、エクレールの負担はかなり激しいらしく、
フラウが圧力を高めただけで、結界の防御力を維持するために、集中せざる得ない。

「お、おい、どうするんだ?!このままじゃ…」
焦って前に踏み出そうとするナギサ。
しかし、目の前を魔導機銃の銃身が横切りナギサを止める。

「もう少し――」
ミスティの紅の瞳がナギサの瞳を見据える。
そして、すっとナギサの小さな身体に身を寄せると何事かをささやいた。

「むんっ。次は私のお仕置きを受けてもらうよ。調理道具の仇!いざ!」
緊迫した状況とは全く関係なく、ビシッと包丁を天に掲げたコックンが、
見た目からは全く想像できないスピードでフラウの目の前へ立った。

「え――?!」
全く予想外の方向から、予想外の人物の動きに、僅かにフラウの挙動に隙が生まれた。

70GM ◆lor4BkqD86:2005/10/26(水) 23:46:17

◆ ◆ ◆

実際、コックンは、フラウの予測を遥かに凌駕する戦闘術の使い手だった。
先ほど流麗な絶技を見せたリゼットと同等かそれ以上。
コックンがルナであることはフラウも解っていただろう。
しかし、ここまでの腕だとは想像の外だったに違いない。

ギィィ、キィィン!
コックンの千切りでもしているかのような動きから繰り出される、数十閃もの斬撃。
それらを、紙一重で避け、鎧結界ので弾く。――この猛攻でさえ、フラウに傷1つつける事は出来ない。
高度な戦闘能力と規格外の神力術。
不意を打たれたとしても、通常の攻撃では貫くことは出来なかった。

「この妖包丁サザメをもってしても、さばけ無い鱗があるとは!」
紫の怪しいオーラを放っている刺身包丁を握り締め、驚きの表情で叫ぶコックン。
それは鱗じゃないとか、その怪しい包丁は何だとか、なんでコックがそんな動き出来るんだとか、
言いたいことは色々あったであろうフラウだが……その暇は無かった。

「油断大敵。ってなぁぁ!」
汗だくになっていたマグナムが吼える。
途端、目を眩ます程の閃光と共に、フラウへ霍乱魔術が放たれる。
結界弾を打ち出す宝具への神力供給へ働きかけていた「ジャミング」を切っての援護だ。

「――持ちこたえて見せます」
同じように苦しそうな表情ながらも、エクレールは更なる神力を結界に流し込む。
ジャミングが無くなり、強烈な結界弾の嵐に晒された結界を維持出来るのは、ほんの僅かだろう。
それでも、懸命に紅月環の副作用に耐え続ける。

ミスティが数秒前にシンを媒介とした「囁き」によって提案した作戦の第一段階。
…コックンの健闘は予想外だったものの、それが良い方向に事態を傾けた。

「――…くっ」
一瞬、索敵能力を減退させられ、フラウの動きに躊躇いが生じる。

そこへ、一筋の光。
フラウの鳩尾めがけてレイピアが放たれたのだ。
一筋の隙を見事に捕らえた一閃は、凄まじい速度でフラウに突き刺さる寸前で、
鎧結界に止められ激しく火花を散らした。

そこへ―。神速の踏み込みで迫ったリゼットが、
格闘家もかくやという凄まじい突きを、「レイピア」の柄に。
『紫の雷火(トネール・ド・ヴィオレ)』。
剣術と体術を融合した敵の防御を削るのを目的とする技だった。

「甘かったね――その位じゃボクの…っ!?」
「…甘いのはどちらかしら?」
レイピアの柄を支点にして、華麗に倒立してフラウから離れたリゼットの背後から、柔らかな声。

しなやかな漆黒の肢体が舞う。
ゆっくりとスローモーションにさえ見えるシーナの動きは、
A級ルナ全員の誰よりも速かった。

シーナが呼び出した自身の「影」。
装着型の使役体は、シーナ自身の能力を飛躍的にアップする。
その実力はS級ルナ以上かもしれないのだ。

影により増大した力の全てが、リゼットの削りによって生まれた鎧結界の綻びへ。

「――くっぅ。まだ…」
フラウの神力術もまた、S級以上。
完全防御を目的とした障壁結界では無い。
機動性を重視し、強度は圧倒的に劣る鎧結界でさえ、猛攻を耐え切っていた。

「いえ、最後です」
月が消え、星輝く夜に冷たく響く声。
星明りに白く映える長衣を靡かせ、複雑な呪紋が刻まれた魔導機銃を携えたミスティの周りを、
霊砲結界石が囲んでいる。形は正六芒星。

同じタイミングで、ナギサが右腕を突き出した構えのまま、凄まじい氣を先端に集めていた。
異能力「狐炎弾」。普段のナギサからは考えられない程の威力を秘めた炎は、
完全に動きの止まったフラウの鎧結界の綻びへ向けられている。

ゴォォォォ!!!
ミスティの魔導機銃、霊砲結界石からの一斉放射。
ナギサの掌から放たれた、桁違いの火力を持つ狐炎弾。

それが――。フラウの元へ吸い込まれ……辺り一帯を染め上げる光と化した。

71GM ◆lor4BkqD86:2005/10/28(金) 23:39:21

◆ ◆ ◆

幕間

闇の中。
――複雑な紋様が描かれた魔方陣だけが鈍く輝いている。
その周りには光を宿さぬ黒い炎。

「ぐぬぅ……竜王よ、どういう…つもりだ」
召還そのものは成功に近づいている。
しかし――周囲に張った結界は徐々に削られ弱まっているのだ。
竜王が真の力を発揮すれば、すぐにでも終わる筈にも関わらず―。

このペースで行けば、召還寸前で破壊される恐れもある。
そうなれば、儀式中の無防備な状態で、月の傭兵と相対する嵌めに陥る。
いまや彼らを甘く見る事は出来ない。

皺深い顔に焦燥の色。
顕現体をこちらに引き寄せれば、勝利は確定するだろう。
だが――『向こう』の干渉もかなり高い。

「何を、やっておる…あの人形めが…」
万が一を考えて、敵側の召還を撹乱するために向けた刺客。
にも関わらず、向こうの魔力の流れは衰えることは、未だ無い。

負けはしない。技量の差は歴然。
しかし――結界を砕かれれば全ては終わる……竜王はあてにならぬ。

ならば…。

数瞬の迷い。
そして、老人は「安全」を選んだ。

72GM ◆lor4BkqD86:2005/10/28(金) 23:39:52

◆ ◆ ◆

赤、青、金、白、銀、様々な色彩の光芒が弾け、月の無い闇を切り裂く。
その度に遺跡を守る結界が悲鳴をあげるように軋み、揺らぐ。

豪雨のような猛攻の中、それら全てを捌き続けているソウシンへ二つの影が迫る。

「さすが、竜王だねっ!」
凄まじい疾さでソウシンに張り付くように斬撃を繰り出しているパティが、
徐々にその速度を上げながら、神撃流の技を放つ間合いを探る。

A級、否、それ以上の実力を持つルナ数人に集中攻撃を受けてさえ、
余裕の色さえ浮かべている竜王……。
(この人、多分、ボクよりずっと疾い…)

「二人とも、ちょっと速すぎですよー」
のほほんとした声で、香天が声をかけてくる。
そして―言葉とは裏腹に、ソウシン、パティの速度に合わせ、僅かでも間合いが開けば、
そこに小さな身体を生かして入り込み、超接近戦でソウシンの動きを止めているのだ。

「……そこの小美人さんの動きは…??見たことが無いな。我流…という訳でも無さそうだけど。
こちらの可愛い子は、神撃流を中心とした組み立てかー。――良い動きだ」
出来の良い生徒を褒める教師のような表情を浮かべて、ソウシンがにこりと笑う。

「え?…そ、そうかなっ?」
流派を的確に当てられた上に、褒められたせいか、パティの頬にすっと赤みが差す。
この緊迫した場面だというのに、なぜか、戦闘術の教練を行っているような雰囲気が漂っている。
恐らくは、ソウシン自身の持つ余裕のなせる業なのだろうが…。

「むー、そうやって評されるのは複雑ですー」
完全な実力差を思い知らされているようで、香天が不快感をあらわす。
それでも瞳には賞賛の色。――実力は本物だ…と。

「こら!そこの竜!――あたしのパティを口説かないように!」
二人の間を裂くようにして、紅の輪が横切った。
アーシャが、呆れたような笑いを浮かべて、戻ってくる「朱鳥」を綺麗にキャッチする。
勿論、ついでとばかりに、結界を削るのは忘れていない。

ソウシンへの攻撃と共に、避けられたとしても結界を破壊する手は、
いまや完全に効を奏し、随所に綻びが生じている。恐らくソウシンも気づいているだろう。
にも関わらず――そこには手を打たないのだ。
(ナに考えてるのか解らないけど、利用させてもらいますか)

「ソウシンさん、悪い人の仲間でぇ〜。リョウさんと同じで色々な女性に手をだしてるんですね〜」
むむ〜。っと唸って、クレアの瞳がリョウに移る。
ちょっとだけ笑みを含んでいるのを見ると、珍しく天然では無く冗句のようだったが…。

「なっ!……なにを言ってるんですカっ!」
淡々とソウシンの動きを捉えながら、結界の綻びへ矢を撃ち込んでいたリョウが咳き込むように
クレアへ抗議する。――その間も射撃速度は衰えない処がさすがと言うべきか。

「あ〜、ちょっと壊れてきましたよー。がんばりましょ〜」
にこにこと、結界に向けてウィップを繰り出すクレア。
リョウの抗議は、さらっと受け流されてしまっている…。

「……うぅ。と、とにかく集中しましょう」
かろうじてそう答えると…1つ息を吸い。
――リョウは、漆黒と蒼に彩られた禍々しくも美しい弓、ナイトメアシューターにシンを集めだした。

(そろそろ頃合――。これで破壊します)

古代の宝具『ナイトメアシューター』の特殊能力バリアブレイカー。
結界への貫通能力を飛躍的に高める事の出来るこの力を使えば、
遺跡全体に施されている強固な結界ですら――綻びが出た今ならば……。

精密射撃。
リョウから放たれた矢は、針の穴を通すような精度で、結界の綻びへと
闇色の軌跡を残しながら吸い込まれていった。

73GM ◆lor4BkqD86:2005/10/30(日) 23:16:20

◆ ◆ ◆

「さぁて、そろそろ『確定』しそうかな。あの可愛い子も頑張ったみたいだ――ふむふむ。近い近い」
ダグディが露骨にシアへ聞かせるのが目的だと解るような独り言を大声で言うと、
手を額に翳してきょろきょろと辺りを見回すおどけた仕草をした後に、チラリとシアを見る。
傍目からはシアは完全に姿が見えないのだから、見物人がいたとしたらかなり間抜けな一人芝居に見えるだろう。

「近いって、何がだよ」
シアは1つため息をつく。この男のペースは調子が狂う…。
「予測はつくけどな…」と瞳を細めながら、突っ込んで欲しげにシアを見るダグディの視線に耐えかねて、
うんざりしたように言ってやる。

「勿論、我等がお姫様の降臨に決まっているだろう?」
何を今更、と言った風情で指を振ってくる。それはシアの推測とも合致している。

「……成る程な、アンタは私達より色々と事情を知ってそうだ。けど、ヘンな行動をすれば容赦なく攻撃魔法をブチ込むからな」
シアの空に描いた呪紋が光る。
(――こんなのでどうにかなる相手じゃないだろうが……。いざとなれば奪取してさっさとずらかるか)

ダグディにもなにやら思惑はあるのだろうが、それに乗せられてやる筋合いは無い。
狐と狸の化かしあいといった風情だ。

「いやいや、『凶賊の殲滅者』と言われる魔法少女に逆らうなんて、とんでもない」
「オイ、魔法少女ってのはヤメロ」
ジト目でシアが文句をつける。
年頃の少女としては『凶賊の殲滅者』の二つ名の方が問題ありだろうが、
そこに突っ込む者はいなかった。

74GM ◆lor4BkqD86:2005/10/30(日) 23:18:59

◆ ◆ ◆

眩い光芒が再び闇に吸い込まれ、光に隠されていたフラウの姿が露になる。
全身から蒸発した鎧結界が発する煙を纏い、服はボロボロに崩れ、
透き通るような白い肌が見え、可憐な艶とも言うべき雰囲気を醸し出す。
――そんな処も、、雪そっくりだった。

「さすが……準備してなければ……危なかった」
フラウの周辺を漂う、結界石。
それは、数秒前まで月に踊る天使亭に弾丸を撃ち込んでいた宝具だった。
総攻撃の瞬間、フラウは宝具を防御モードに切り替え、自らの身を守らせたのだが…。
それでも尚、一瞬遅れただけで、かなりのダメージを受けている。
完全に攻守は逆転した。

「ひゅー。さすがにアレじゃ死んだと思ったけどな」
疲労困憊という態で、肩で息をしながらもマグナムが茶々を入れる。
既に高出力のジャミングで魔力は尽きかけている為か、接近戦用のナイフを構えている。

星の明かりを銀の髪に映し出した麗姿が颯爽と前に。
「よく耐え抜いたものですね……。しかしその様子では私達に勝つのは不可能です。降伏なさい」
気品と威厳溢れる声。
リゼットの唇が降伏勧告を紡ぐ。レイピアの切っ先は油断無くフラウに突きつけられ、
彼の劣勢を告げるように、その刀身を纏ったシンで輝かせている。

「――攻撃が無ければ…んっ、維持するのは……そんな厳しく、ないです」
結界弾の荒らしから月に踊る天使亭を守り続けていたエクレールもまた、
荒い息を吐きながらも、健気にフラウを睨みつけている。
今はもう、『紅月環』の力は切っている為、確かに楽にはなっているようだった。

「防御だけでは勝てません。終わりですね」
ゆっくりと近づく二振りの小太刀を携えた影。
魅力的な身体の線を露にしたままの姿でシーナが小さく微笑む。

「そうだね。まあ、さすがにボクも上手くいくとは思ってなかったし、
――上手く行かせる必要もなかったからさぁ。いいんだけどね」
傷つき、守勢に廻り、包囲されているにも関わらず、
雪そっくりのフラウの相貌が笑顔を見せる。

「うー。負け惜しみだろっ」
右掌に狐炎弾を準備したまま、ナギサが吠えるように言う。
しかし、その華奢で可憐な美少女然とした姿では、かえって微笑ましく見えてしまうらしく、
フラウは、金色に燃えるナギサの腕を無視して、傍に寄る。

「なっ、なに…ひゃぁっ」
「君、可愛いね。――美味しそうだ」
あまりにも堂々と近づかれたので、撃つのを躊躇していたナギサの頬を撫でるフラウ。
途端、暴発するように、狐炎弾が至近距離で放たれる。

「なかなかの威力だね。将来が楽しみだ。ふふ」
狐炎弾の爆炎を身体に纏わせながら、全くの無傷のままフラウが囁く。

「ぬぬっ。――あの火力は、私のフライパンごと食材が蒸発する程だろうに…。
結界というのはスゴイものだ。是非調理道具にも導入して…」
ズレタ感想を漏らすのは、当然ながらコックン。
しかし、それは一部的を射た発言でもあった。

「宝具の力……しかし、攻撃は不可能。解除すれば…」
ミスティの魔導機銃の銃口がぴったりとフラウの胸を狙う。
霊砲結界石も正六芒星を描いて、出力可能状態へと移行する。

「しないよ。もう、時間切れ。ボクの遊びはこれで終わりさ。――帰してくれるよね?
だって君達……それどころじゃないだろうし」
フラウの言葉が終わった瞬間。
周囲に満ちていた、強力な召還魔術が作り出す魔力の流れが、渦を描くように変化した。、渦を描くように変化した。
現世にナニカを顕現させつつある気配。それが、ルナならば誰にでも解るほど急激に高まったのだ。

75GM ◆lor4BkqD86:2005/11/04(金) 00:46:32

◆ ◆ ◆

結界の綻びを貫いた矢が、神力域と呼ばれる力場に亀裂を入れた瞬間、
突如、遺跡が光に包まれた。
――弱まっていた力場が息を吹き返すように修復されてゆく。
リョウの放った矢もまた、内部から再構成される結界に弾き飛ばされ、地に落ちる。

「これは……?」
突然の展開に、警戒心を露にしながらも、リョウの射撃は止まらない。
修復され続ける結界の弱い部分を狙い撃ちして、回復速度を鈍らせ続ける。

この展開を予測していたように、ソウシンの動きに動揺は無い。
それどころか、オカシそうに笑みさえ零している。

「ちっ、計算通りって訳かい?全く…?!――これは」
舌打ちをして、ソウシンを睨み付けたアーシャがはっと周囲を見回す。
すぐさま、ドレッドノートとアイコンタクトをとって、周辺の魔力変動状況をデータとして出させる。

その数値は…。

「なんだか〜。ちょっと空気が変わり、ました?
ええっと。。ふぇ〜〜こんなに魔力密度が落ちてます〜」
リョウの援護をしていたクレアも、ちょこんと首をかしげる。
そして、ドレッドノートの弾き出した数値を見て、声を上げた。

「やっぱり。信用されてないな」
楽しそうにつぶやくソウシンの眼前を――。

「蒼天神撃流 月光剣!!」
パティの放った、強烈な突きと、そこから伸びてゆく蒼い光が
ソウシンの残像を貫いて結界へと突き刺さる。
パティの指に光る宝具『紅月の指輪』の力を使用した、貫通力の高い攻撃は、
破壊までには至らなくとも、確実に結界を削る。

「むぅ〜。避けてばっかりじゃないかっ」
業を煮やしたようにパティがジト目でソウシンを睨みつける。

「ぅぅ、ここまで避けられると自信がー」
パティの攻撃を避けた隙を狙っての絶妙なタイミングで放った木曜式・青龍咆の軌道を
超反応によって、上手く逸らされた香天が、これまた不満そうに頬を膨らませた。

勿論、木曜式・青龍咆は、逸らされたとはいえ、
確実に結界の表面で砕けダメージを与え続けている。

「ショートの君は、少し速さに頼りすぎるところがある。
勿論、大きなブレじゃないし、それが逆に長所となってる部分もあるけどね。
小美人さんは、氣を操作する時に精度を高める為、少しだけ止まるね。
そこは、上手との勝負で付け込まれる間となるかもしれないから、気をつけて」

「ぎくっ。そんなこと敵に言われる筋合い無いよっ」
「ぅぅー。そ、それは…」

作戦通り。
けれど――二人へ指導するようなソウシンの動きを見ると、なんとなく悔しいのだ。

そんな微笑ましい(?)光景を苦笑いして眺めながら、アーシャは小さく呟いた。
「成る程ね。竜は嘘をつかない……でも、容易くは扱えないってことかい。
ま、アタシらにとっては都合がいいけどさ」

一つ息を吸って。

「さっ!"結界"を破壊するよ!」
そう言うと、率先して、ソウシンを狙うこと無く、直接結界へ攻撃を放ち始めた。

「了解しました。それにしても――竜というのは厄介な種族ですね」
アーシャと同じく、ソウシンの行動の意味を悟ったリョウが肩をすくめて見せる。
その脳裏には、以前戦ったことのある竜の少女の面影が浮かぶ。
苦笑い。――確かに厄介な種族だ。

「リョウさ〜ん。今、女の人のこと考えてましたね〜」
能天気ながら、ヘンな方向に鋭いクレアが、ほわほわと微笑みながらリョウへ。

「なっ、何を言ってるんですか!……ぅぅ」
リョウが言葉に詰まる。
"攻撃に集中して下さい"と言って誤魔化そうにも、クレアのミスリルウィップは
一片のよどみも無く動いているのだから始末に終えない。

そして―。
妙に明るい雰囲気のまま、事態は急展開を迎えた。

76GM ◆lor4BkqD86:2005/11/05(土) 01:32:22

◆ ◆ ◆

大音響と共に、地面がバターのように引き裂かれ、
太い樹木が細枝の如く折れ砕ける。
暴風のようなカイの攻撃は、辺りに障害物等無いかのように振るわれ、
全てを破壊しながら、着実にソウシンを追い詰めていた。

「……っ、と」
軽口すら叩く余裕の無いソウシンの様子に、見物を決め込んでいたラーシュがも感心したように、
カイへ賞賛の視線を送る。
(帰還者の二つ名は伊達じゃないな。今の状態のヤツには近寄るのも遠慮したい。…が、竜王の動きは…)
そして――竜王には、警戒心に満ちた瞳を。

「この…っ」
当たらない。
通常の状態より遥かに高いレベルで雅闘術を繰り出し、悪魔の右手は掠っただけでも…
否、その剣風を浴びただけでも、激甚なダメージを与えることが出来る筈だった。
神の左手は何者をも通さぬ鉄壁を誇り、カウンターさえ入れさせない。

しかし。
未だ竜王には一筋の傷すらつけられない。

(ああ、理由は解ってる。――くそっ!これじゃ、稽古つけられてるよーなもんじゃねぇか!)

理由は左手。
力場が具現化し、鉄壁の盾とも、形状を変えて武器としても使用できる力を備えた神の左手。
だが、右手程の攻撃力は無い。

一歩引いて、眺めているラーシュの赤みがかった紫の瞳が二人を写す。

「カイの左半身中心に動きを展開している…という訳か」
現に、ソウシンは左の攻撃は何度もガードに追い込まれている。
が、一片たりとも右の斬撃は受けていないのだ。

突然、カイの動きにブレが出た。
「なっ―!??」

その隙を見逃さず、ソウシンが初めてカイの右に廻ると同時に、凄まじい闘気の塊が無数に放たれた。
左手は間に合わず、右の剣で受けられなかった弾丸のような塊が、カイの鎧に包まれた逞しい身体に吸い込まれ爆ぜる。
軽々と吹き飛ぶ巨体に追撃をかけようとした瞬間――。

「俺を忘れるなよっ!!!」
軌道上へ、ラーシュが飛び込み爆炎を散らしながら、ソウシンのいた空間をごっそりと火炎そのもので斬った。
勿論、この程度で倒せる相手では無い。が、『カイのカウンターを受けた後』のソウシンの状態ならば、
動きを止める事は出来る。

「……いいタイミングを狙うね。
身体調和を乱す波長を右に送り続けて、崩した辺りまでは予定通りだったんだけどな」
竜王の瞳は楽しげに輝いている。
無傷だった筈の身体の一部、わき腹の部分が僅かに煤け…そこを、感心したように撫でていた。
――カイが、ソウシンに撃たれる瞬間、カウンターで左から放った気弾がヒットしていたのだ。

「そこから、割って入る間合いの掴み方も見事……"本気"を出されていたら、今頃はちょっとやばかったかな?」
未だ炎の残滓を纏うラーシュへ、異能力を使っていなかったことを知っているかのような口ぶりで評す。

「るっせ〜。まだ、終わって無いぜ。次は剣を叩き込んでやる…」
壮絶な殺気を揺らめかせつつ、カイがのっそりと立ち上がる。

「…まあ、毒食らわば皿まで。俺も付き合うけど…な」
ラーシュもまた、闘気を高めてソウシンに相対する。
瞳が語っている。次は二人だ、と。

「それは楽しみ…と言いたいけど、また今度。タイムオーバー」
そう言って、ソウシンが一つ肩を竦めると。

今まで流れていた魔力の流れ――カイ達のような魔導に疎い者でさえ感じる―が一気に変化した。

「顕現体が召還されたようだ」

77GM ◆lor4BkqD86:2005/11/06(日) 23:39:41

◆ ◆ ◆

幕間

そこは、どこにでもあるような路地裏だった。
酔っ払いがくだを巻き、嘔吐し、時には喧嘩沙汰で流血もある。
神秘や神聖さとは無縁の俗世の垢に塗れた場所。

しかし、今。
膨大な魔力が、静かに、強く、流れ込んでいる。
石畳にくっきりと魔方陣が浮かび上がる。
中空に、縦、横、斜め――四方に。
複雑な紋様が描かれた、高位呪紋結界が張り巡らされる。

魔界から魔族を呼び出す時でさえ、このような高度な魔導域は形成しないであろう。
其れ程までに非常識な召還魔法が、今、行使されている。

呪紋の光が収束する。
その収束地点は凄まじい速さで"人"の姿を描き出していた。

幾重にも描画され、細かく、細かく構成されてゆく"人型"。

光が消えたとき。
そこには――幼い着物姿の少女が立っていた。

78GM ◆lor4BkqD86:2005/11/06(日) 23:43:38

◆ ◆ ◆

「そいつの言うことはマジだ……。
――ここで膠着してる暇は無ぇ。さっさとお引取り願おうぜ」
何故か遠くを見るように"瞳を見開いたまま"マグナムが断言した。
口元は小さく震え『な…んだ。まさか……月の…?』と、聞き取れない程の小さな呟きを口にしている。

それを聞いたリゼットが悔しそうに美貌を歪める。
「ここまで追い詰めながら……いいでしょう、命拾いしましたね」
そのままツカツカとエクレールの傍へ。

「お嬢様……」
「よく頑張りました。貴女を従者としていることを誇りに思います」
優しい言葉に、疲れきっていたエクレールの顔が喜びに輝く。

「お嬢様…私、私…」
涙を流して、リゼットの胸に顔をうずめている姿は、
こんな時だというのに、とても微笑ましい空気が漂う。

「……行きなさい」
魔導機銃と霊砲結界石の照準をぴったりと頭部に合わせ、
ミスティは、緋色の瞳でフラウに退却を促す。
妙な行動をとれば、すぐさま凄まじい銃撃がフラウを襲うだろう。

「はいはい、ボクは退散するよ。
――今度会う時は…くくっ、それは楽しみにとっておこうか」
何の未練も無い様に、ふわりと身体を浮かせると、含み笑いをして意味深な事を言う。
月の傭兵達が、その意を尋ねる前に、フラウの身体は神力術を大量消費する飛空法によって、
星星が輝く夜空に吸い込まれていった。

「それで、マグナムさん。顕現体とは一体…?」
紅の精霊獣を傍に控えさせ、炎の鬣を撫でつけて、シーナが尋ねる。
フラウが去った後に、影使役を解いたのかその艶やかな肌は、また褐色にまで薄まっている。

「ふむっ。やはり料理か!?」
コックンの言葉には誰も突っ込まない。
いや食材か…と、フォローらしき何かをつぶやいているのもやっぱり無視。

このオッサンに突っ込むと、調理されそうだしなー。
っと狐族のナギサは、少し頬を引きつらせて思う。

「でも、ここを留守にする訳いかないよな?雪がいるし、
またアイツが帰ってくるかもしれない。オレはここに残るぞ」
ぶんぶんと頭を振ってヤな想像を散らすと、ナギサは手を上げて提案する。

「確かに…。ナギサさんは優しいのですね」
シーナがそっと手を伸ばしてナギサの長い金髪に触れる。
「そ、そんなこと無い…ぅぅ、髪触るなー」
照れているのか小声で抗議するナギサ。頬には朱が散っている。

「とりあえず、探すにしても『姿』を知っておく必要があるだろ。今、映す」
ぶっきらぼうにマグナムが言う。

「姿ですか…『形』では無いということは…」
リゼットがその秀麗な眉をひそめて呟いた時。
マグナムのかけているサングラスが薄い光を放つと、中空に像を結び始めた。

宝具『現映鏡』の力の一つ、『現映(うつつし)』。
この宝具の力と、マグナムの愚者の眼が同時に発動した時、遠くの光景を
目の前で見ているかのように再現可能になるのだ。

月の傭兵達の目の前には……。
輝く魔方陣の中央に佇む、7、8歳程の少女の姿が映し出された。

全員が息を飲む。

少女の、整った顔立ち。
幼いながらも強い意志を湛える涼やかな瞳。
背に流れる絹の如き黒髪は――彼らのよく知る人物を強く連想させたのだ。

「まさか…」
誰とも無く呟きが、もれた。

79GM ◆lor4BkqD86:2005/11/08(火) 23:29:29

◆ ◆ ◆

「ここか――!」
のんびりと歩いているダグディに先んじて、魔力の集約点…つまり、顕現体の召還地点へ
いち早く辿り着いたシアが、顕現体―シアの予測通りの『彼女』―を抱いて、
安全地帯へ転移するために手を伸ばす。

シアの小さな手は、少女に触れる寸前に、弾かれた。
障壁結界が寸前で張られたのだ。

「抜け駆けはズルイじゃないか、魔法少女」
「魔法少女はやめろ!……これはお前の仕業か」
正体を現したな?と言わんばかりに、シアが睨みつける。
と、同時に攻撃魔法を示す光が掌に。
(フェイク、だけどなー。しかし、この障壁結界…やっぱ、こいつかなりできる)

「まあ、まあ。抜け目が無いと噂の君相手じゃ、
油断した途端にお姫さまごと消えてるってこともありえそーだしなぁ」
くつくつと笑うダグディ。
図星を突かれたシアだが、しかし、それで顔色を変えるような柔な神経はしていない。
「フン、ずっとそこで障壁立ててる訳にもいかないだろ、どーすんだよ」
チラリと少女に視線を向けて言い募る。

その時。

「私が決めるわ」
涼やかな声が口論を遮った。

80GM ◆lor4BkqD86:2005/11/08(火) 23:34:59

◆ ◆ ◆

「戦闘は終了にしよう。
召還は終わったようだしね――顕現体は…言わなくても明白か。ここまで魔力が溢れては」
パティの彗星剣を右の掌で受け止め、
香天の金剛飛拳『帝龍』を左の掌で柔らかく掴みながら、ソウシンが停戦を呼びかける。

そして。

「二人とも、楽しかったよ。また今度、組み手頼んでいいかな?君達と戦うのは楽しい」
爽やかな笑顔をパティと香天に向けて、しゃあしゃあと言ってのけた。
デートにでも誘うような雰囲気さえ漂わせて。

「なっ…、それは…ボク…」
――決着はいつかつけたい。この人、すごく強いし。
けれど、なんとなく口説かれているような気もするような?
でも、戦いたいし…。軽くあしらわれたみたいで悔しいよ。
勝手に約束したら、お姉さま達、怒るかな?

…パティが珍しく口ごもる。

「むむー。望む処です!…私も全力をみせて戦いたいですからねー」
香天が心なしか頬を赤らめて宣言した。
ソウシンの格闘能力への関心と共に、ちょっとストライクゾーン…ですー。
と考えているのは内緒だった。

「この…あたしのパティにデートの申し込み?……。ふふふ、さすが竜王いい度胸ね」
明らかに敵意の増した視線を送りつつ、アーシャはソウシンに笑いかけた。
両刃槍 朱鳥が、溢れる闘気で輝き出すのが、アーシャの警戒心を表している。

「……アーシャ、闘気を漲らせる場面を間違っておるぞ」
呆れたようにドレッドノートが突っ込みを入れた。

「やっぱり〜。竜王さんって〜。
リョウさんと同じで〜。女の人好きなんですねぇ〜」
しみじみと頷いて、クレアがリョウに微笑みかける。

「――っ、っ、だ、だから、そこから離れてください!
さ、ここには用は無くなりました。ソウシンさんの言う通り……魔力収束地点へ急ぎましょう」
妖しくなってきた会話の流れをきっぱりと断ち切る為に、自分から走り出す。
クレアの言葉にも表情にも邪気は無いのが、逆に怖い気もするリョウだった。

首を振って、雑念を払う。
月の傭兵達が背を向けたからといって、竜王が追撃をかける可能性は0だろう。
彼の目的は一体……リョウは、ちらりと背後を振り返ると、
見守るように傭兵達を眺めているソウシンを視界におさめ…再び前を向いて力強く走り出した。

81GM ◆lor4BkqD86:2005/11/11(金) 00:31:09

◆ ◆ ◆

「……くっ!決着は必ずつける。いいな」
大剣の柄を握りつぶさんばかりに力を込め、カイは低い声でソウシンへ宣言する。
このまま戦い続ければ、傭兵としての責務を果せない。
生粋の「傭兵」であるカイは、目的と手段を取り違える愚を犯すことは出来なかった。

「じゃ、行こうか。――場所はシンの流れを辿ればすぐに解る筈だ。
とりあえず、"遺跡"に召還されずに済んで良かった。
……ソウシン、アンタの負けだ……と言いたいが、そーでも無いようだな」
ラーシュが肩を竦めて、苦笑する。
恐らくはカイにも解っているだろう。
いや、激しく戦ったカイの方が深く理解しているのかもしれない。

竜王は力を制限している。それもかなりのレベルで……。
本気で月の傭兵達を阻止しようとしていれば、こんな被害で済むわけも無いのだ。
相手は「竜」、しかもその長なのだから。

「それじゃ、また。皆に宜しく。噂の『帰還者』との戦い、なかなか楽しかったよ。
――今度はそちらの火の部族出身者とも戦いたいね」
気の弱い者ならば、睨みつけられただけで失神しそうなカイの殺気を
飄々とした態度で受け流し、さらりとラーシュへ笑いかける。

「っのぉ…」
「――……」
一人は睨みつけ、一人は呆れて。
月の傭兵二人は、ソウシンを一瞥すると、強く気配の残る「顕現体」が召還された場所へ向かい走り出した。

82GM ◆lor4BkqD86:2005/11/11(金) 00:31:29

◆ ◆ ◆

「成る程。――急ぐ必要がありますね」
少女の相貌に、"ある予感"を感じたリゼットが動揺を押さえて呟く。
それでも隠し切れない心のうちは、無意識にエクレールを抱きしめている力が表していた。

「…かぐや…さん?でも…そんな。――お嬢様」
すがり付くように、リゼットへ寄り掛かるエクレール。
疲労と不安のせいだろうか、顔色が悪い。

「そして…。抜け駆けたヤツが登場…ってか。いいタイミングだ」
マグナムがにやりと笑うと、サングラスは更なる光景を映す。
シアとダグディが、少女の目の前で口論する姿。

「なぜ、冒険者連盟にいた彼が…?」
精霊獣を封印し終わったシーナが不思議そうに目の前で繰り広げられる幻を眺める。
やはり不安なのか、そっとナギサを露な胸に抱きしめている。

「ぅぅ、だから…離せってー」
小声で抗議するも気づかれていないナギサだった。

「はっはっは、簡単なことだよ。直接彼に聞いてみればいい。
あの、お嬢ちゃん似のお嬢ちゃん…むむっ、これは言いにくい…」

なにやら呼称で悩み始めたコックンへミスティが小さく頷いた。
勿論、前者についての意見に対して。

「そう。本人に聞けば……。彼女が足止めしている間に」
先を切って走り出す。
"ルナ"の足は、数キロ程度あっという間に辿り付ける。
まだ――間に合う。

83GM ◆lor4BkqD86:2005/11/11(金) 00:32:33

◆ ◆ ◆

幕間

「竜族…しかも、長ともあろう者が、約束を違えるとはな」
怒りに震える声が、ソウシンの後ろから発された。
振り返ると、皺だらけの顔を土気色にして、ギラギラと光る瞳に憎悪を宿らせる老人が睨みつけている。

「『儀式妨害の排除と、儀式達成までを契約の範囲とする』」
対してソウシンは、朗々と契約内容を諳んじる。

「遺跡に張り巡らされた結界の防御と破壊阻止は契約の範囲外。
もし、この竜王ソウシンを信頼していたのならば、結界を破壊されたとしても、
儀式妨害の排除なされると判断し、勝手に儀式中に結界を張る等の行為はしないだろう。
つまりは――自業自得だ。竜族を容易く動かせるとでも思ったか?」

冷たい声が、老人を射抜く。

「用意した3枚のカード。全て、使いどころを間違えたな」
先程、月の傭兵と軽口を交わしていた人物とは思えない…冷笑。

「ぐっ、ぐぬぅ…」
土気色の相貌が、紅に染まる。

「もう手札は残っていない。今の状態では本体を使ったところで、
"姫"を守る裏切りし"道化"と"騎士"には太刀打ち出来ないだろうし、ね」
止めを刺すように、ソウシンが言葉を続けた。

「否、まだ"老屍術師"が残っておる」
笑みが皺を深く刻む。

「……それはまた早い」
呆れたように言い放つと、ソウシンは背に翼を顕現させ、ふわりと宙に浮く。

「竜族は傍観させてもらう」
そして――一瞬で老人の目の前から消え去った。

84GM ◆lor4BkqD86:2005/11/11(金) 00:34:56

◆ ◆ ◆

「おおっ、それはグッドアイディア!」
コミカルな仕草で、ポンと手を叩く。
美青年然とした相貌に全然似合っていないのだが、それが妙な親しみやすさを醸し出している。

(ちっ、7、8歳でも、女ならコイツを選んじまいそうだよな……。
まあ、目の前の『かぐや姫』が、ふつーのヤツだったらだが)
一時的に隠蔽を解いたシアは、無言で少女を見つめる。

「クスクス、良く解らないけれど、あなた達面白いわね」
あどけなく笑う姿は、どこから見ても幼い少女。
ルナである気配すら無い、一般人の少女だった。

「それで、姫様はどちらの騎士をお望みですか?――いや、俺は騎士というより道化かなぁ」
ぽりぽり、あくまで軽い態度を崩さないダグディ

少女――あまりにも「月宮かぐや」に似ている―は、艶やかに微笑む。
そう…こんな少女の姿でさえ、ルナである兆候が全く無くとも。
その笑みは強い魅力を感じさせる。

「可愛い女の子の方に」
つっと視線をシアに。

「……おい、それは私のことか?」

明らかに年下の少女に『可愛い女の子』呼ばわりされて、
シアは憮然と自分を指差した。

「ええ、勿論。綺麗な瞳ね、あなた。
――それに…大勢の方が、楽しいのでは無くて?」

いつもは人気の無い路地裏に。
既に、襲撃・防御に赴ていた月の傭兵達が姿をみせつつあった。

「あーあ、振られちまったい。
ま、道化は振られてもフラフラとお姫様の笑顔を求めて歩むもの――おっと、怖い顔しないでくれって。
ちょっと離れて歩くからさぁ」
相変わらずのダグディが、シアと、周囲の面々へおどけてみせた。


少女は楽しそうに、月の傭兵達を眺めると…鈴の鳴るような声で、こう尋ねた。

「綺麗な瞳をした人達。
――あなた達は…私をどこに連れて行ってくれるのかしら?」


メインストーリー『屍魔襲撃』へ続く。


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