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TWのシナリオについて考えてみる

158『der Tod』その11@28:2004/03/14(日) 07:42
 マキシミンが死んでから一週間後、イスピンはマキシミン弟妹の家を訪れた。
 「初めまして。ボクはイスピン・シャルルといいます。」
 「話は兄から聞いてます。兄が大変お世話になったようですね。」
 イスピンを出迎えて対応してくれたのは、長女のグナーデであった。イスピンがボロボロの
隣の部屋の中を見ると、そこにはまだ十代前半と十才前の子供しかいなかった。
 「マキシミンの本心からの希望なのかは解りませんが、皆さんでオルランヌ公国に
引っ越したいと言っていました。もしよければ、ボクがお手伝いします。」
 「ありがとうございます。兄も……お金ができたならこの国を離れたいと言っていましたので
喜んで行きます。」
 「良かった。これでボクはマキシミンに恩返しができます。」
 イスピンが安心したように言うと、グナーデは首を振った。
 「恩返しをしなければいけないのは私達のほうです。最後に私達に送ってくれたお金は、
あなたから戴いた物だと一緒に送られてきた兄の手紙に書いてありました。」
 「そう……ですか。もう自分の命が短い事をマキシミンは知っていたんですね。」
 生命力だと嘘をついて自分を安心させようとしていたマキシミンを思いだし、イスピンの
目に涙があふれた。
 「直接は書いてありませんでしたが、そういうニュアンスの文はありました。それに……。」
 グナーデはそう言って立ち上がると、戸棚の中にしまってあったケースを取り出してきた。
 「イスピン・シャルルという方が訪ねてきたのなら、これを渡して欲しいと書いてありました。」
 受け取ったイスピンは蓋をあけた。そこには暇な時にマキシミンが弾いていた古ぼけた
バイオリンが入っていた。
 「兄は音楽が好きで、一生懸命に貯めたお金でこれを買ったんです。もしよろしければ、
もらって下さい。もらってくだされば、きっと兄も喜ぶでしょう。」
 「…………。」
 イスピンはバイオリンをジッと見つめた。
 心の中にマキシミンと旅をしていた時の事が鮮明に浮かんできた。楽しかった時も、
辛かった時も、マキシミンの弾くバイオリンの音がそばにあった。
 (マキシミン……。)
 イスピンはバイオリンを手に取ると、弓を張って弦の調律をはじめた。隣にいたマキシミンの
弟妹がその音を聞いて、不思議そうに隣の部屋から覗き込んでいた。
 調律が終わるとイスピンは目を閉じた。
 「ボクが大好きだった君に送ります……。グリュック エァインナーン ヴァルツァー。」
 呟くように言うと、イスピンはゆっくりと弓を動かした。力強く、しかし優しい音が部屋の
中に響いた。その音は思い出の中の音と重なって、マキシミンの優しい笑顔を思いださせた。
 イスピンの目から涙があふれ、頬を伝ってマキシミンのバイオリンの上に次々と落ちた。
マキシミンの弟妹達も、互いに肩を寄せ合って泣いていた。
 イスピンの弾くバイオリンの音色は、大切な者を失った悲しみを乗せて空に響いていた。

das Ende


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