したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

スタンド小説スレッド3ページ

301:2004/05/09(日) 19:24

 『代行者同士でも、誰がどの任務を扱っているのかは分からない』。
 かって、簞ちゃんはそう言っていた。
 だが、簞ちゃん自身が密命を受けていた訳だ。

 簞ちゃんは視線を落とした。
「最初は、離れた所から監視しようかと思っていたのです。
 でも、何も知らないおにーさんは私を家に置いてくれた。だから、せめて兄妹みたいに…」
 そう言って、声を詰まらせる簞ちゃん。
「簞ちゃんが何かを隠していたのは、前から分かっていたよ。
 でも、簞ちゃんは何度も僕の身を守ってくれた… だから、そんなの関係ない」
 僕は、なるべく優しい笑みを浮かべて言った。

「…ごめんなさい」
 簞ちゃんは、涙に潤んだ瞳を僕に向ける。
 これだけ優しい心を持った少女が、同居する人間を3ヶ月以上も騙してきたのだ。
 その心の痛みは、僕なんかには窺い知れない。

 簞ちゃんは、立ち上がると周囲を見た。
「このアパート、いつから住んでいるか覚えていますか?」
 突然、妙な事を訊ねる簞ちゃん。
「…え?」
 そう言えば、全然覚えていない。

「なぜおにーさんの両親が同居していないか、覚えていますか?」
「…!!」
 そんな事、今まで考えた事もない。
 僕は、長い間一人暮らしだった。
 両親なんていない。

 ――なんでいないんだ?
 今まで、疑問にも思わなかった。
 それは、すごく異常なことじゃないか?
 まるで、生まれた時からこのアパートで一人暮らしをしていたように錯覚していた。
 だが――

「…暗示をかけられていたのです」
 簞ちゃんは、真剣な表情で言った。
「暗示だって…?」
 僕は、簞ちゃんの瞳を見据える。

「おにーさんは、自分の境遇に疑問を抱かないよう暗示をかけられていたのです。
 ですが、相当古い暗示だったのでしょう。
 他人から指摘されるだけで効力が切れてしまったようなのです」
 簞ちゃんは、僕の事を思いやるように言った。

「暗示だって…!? 一体誰が!!」
 僕は、思わず叫んだ。
 簞ちゃんは視線を落とす。
「…そこまで長期間の暗示を使いこなせる人物は、たった1人。
 でも、多分その人の独断ではないでしょう。その裏には…」
 簞ちゃんは言葉を切った。
 その事実を信じたくはないのか…
 …いや。簞ちゃん自身、不審を抱いていたではないか。

 ――『教会』。

 その不気味な存在が、僕の脳裏に飛来する。

「ここを出て行くなんて言わないよね…」
 僕は、簞ちゃんに言った。
「…はい。もうしばらくは、おにーさんの妹でいさせてもらうのです」
 視線を上げて微笑む簞ちゃん。
「…しばらくじゃない。ずっとだよ」
 僕は、簞ちゃんを見つめて言った。


 時が動き出した。
 僕の眠っていた時間が、本格的に動き出した。
 もう、偽りの日常に埋没する気はない。
 ――これからだ。
 僕の物語は、多分これから始まるのだ。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板