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汎用スレpart1

80【1】 ◆Tg./UqnJ52:2012/11/16(金) 08:17:38 ID:276WmNrY
【外伝「月を斬る剣」】

「ミリア・フローレンス・シュヴァルツァー? ……ええ、覚えておりますよ。
 私の弟子の中でも、あの子ほど奇特な者も居ませんでしたからな」

そう語るのは、東京の町田で小さな剣術道場を営んでいる老人。名を三輪重家といった。
襖一枚隔てて、道場に通う子供達のかけ声が聞こえてくる中、頭に白いものしか残っていないほどの齢を重ねた彼は、
湯気を立てる茶で喉と唇を潤し、

「思い出しますな……あの頃を。あなたもご存じだからここに来たのでしょう? 私がディヴァイン・クルセイダーズの一員だったことを。
 はは、年甲斐もなく大はしゃぎをしたものです。とはいえ、私は一度も戦場に出たことはありませんでしたがね。
 私があの組織でやっていたのは、AMに乗るパイロット達に剣を教えることでした。
 …………ええ、仰るとおり、銃器の類が発達している反面格闘戦が不得手なAMでの戦闘では格闘戦に移ること自体が稀なことでしたし、
 格闘戦を主眼とする機体……特機の戦闘においては一撃必殺を重んじる示現流が主流でした。
 私が教えていたパイロット達は、近接戦闘にも対応できるようになった、ガーリオンの量産機に乗っていた子らだったのです。
 ……いえ、乗るために育成されていたパイロット達、と言った方が正しいでしょうな。
 将来的にそういった機体が量産されることを見越して、ゾルダーク総帥は私にそのパイロット達に剣を教えることをお命じになったのです。
 …………いいえ、そういった者は私だけでは、もちろんありませんでしたよ。他にも色々な先生方が居りました。
 洋の東西と武器を問わず、このために総帥は様々な道場の先生をお集めになったようです。
 そういった中で、私が担当した子らに学ばせたのは、柳生新陰流でした。……ええ、江戸柳生の方です。柳生宗矩の」

三輪老人は記憶を引っ張り出すかのように、顔と目線を斜め上に持って行く。

「選抜された子らだったらしく、皆素直で、私の教えをよく聞き、守ってくれました。そしてその中に居たのが、彼女……ミリアです。
 まだ十五という幼い歳なのに家族をエアロゲイターに殺されて孤独の身となり、復讐の炎を燃やしてクルセイダーズに入隊……悲しいことですが、
 組織にはそういった者は珍しくありませんでした。ですが彼女の才能は違っていました」

顔を戻した三輪老人の顔には、わずかな興奮が宿っていた。

「非凡な剣を振るう子でした。十五の娘が、そのような域に至れるのかと疑問に思われるでしょうが、これだけははっきりと言えます。
 彼女は天才でした。スポンジが水を吸うように、とはあのことを言うのでしょうな。加えて熱心な子で、暇を見ては剣を振るっていました。
 …………ええ、そうでしょうな。しかし、彼女の目的と合致する習い事で、なおかつ自分の性に合っているとなれば、楽しさもあったと思いますぞ?
 ……はは、ばれてしまいましたか。ええ、私も彼女に剣を教えるのが楽しみになっていましたよ。
 他人の子ではありましたが、時折孫を見るような目で見ていた自分も居たことは否めませんよ。お恥ずかしい話です」

照れくさそうにする三輪老人の後ろには、剣道着姿の青年の遺影が置かれた仏壇があった。


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