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汎用スレpart1

72 ◆ehmeRCjCRw:2012/07/26(木) 18:36:49 ID:cBrc0g0s
【プロローグ:蒼騎士の瞳】

一面を閉ざす闇と静寂。
天地も、昼夜すらもない、永遠の停滞を思わせる虚空の内に、小さな赤色の光が灯った。
冷え切った宇宙に出現した唯一の恒星の如きそれは、
闇の一角に、一つの輪郭を照らし出していた。

『ミリアス……ミリアス・アレイ』

低く電子的な声と共に、血のように赤い灯火が揺らぐ。
その光を総身に受けながら、身じろぎ一つせずに座しているのは、一人の青年だった。
金糸の装飾を施された蒼い外套を纏い、豪奢な鞘に覆われた直剣を、右の肩に立てかけるようにして携えている。
一言で表すならば、彼は中世の騎士のような装束に身を包んでいた。
長い黒髪の隙間からは、鋭い瞳が射抜くように声の主を睨んでいる。

「……何の用だ」

『決まっているだろう。次なる侵攻の目処が立った。
 君にも、ふたたび我らの戦列に加わってもらおう。”協力者”よ』

赤い光は二度、三度と明滅すると、一挙に膨張して弾け、
暗闇の中心に、ぽっかりと白い穴を穿った。

『よもや、拒否することなどあるまい』

ミリアスは左手に握った機械時計に目をやった。
外界への扉が開放されたのは、実に172時間ぶりであった。

『戦線に立つことでのみ、君は救うことができるのだから。
 君の同胞達と、たった一人の妹君を――』

おもむろに立ち上がると、ミリアスは扉に向かってゆっくりと歩を進める。

やがて暗闇の牢獄から脱すると、そこは殺風景な鉄色の格納庫であった。
整備用と思わしき種々のマシンが行き交う立体的なケージの中心には、
青紫の装甲に身を固めた巨人が沈黙と共に佇み、ミリアスを見下ろしている。

「……滑稽と思うか? お前も」

消灯されたその赤い双眸に向けて、ミリアスは自嘲の言葉を投げかけた。
当然にして、返ってくる言葉などない。
しかし、その物言わぬ瞳は彼の脳裏に、鮮烈な声を蘇らせる。

(力に屈し、罪無き異郷の民を蹂躙することが、兄上の正義なのですか?)

視線を逸らすことなく、瞳と瞳をかち合わせたままミリアスは呟く。

「ここで朽ちるは我が本懐に非ず……
 どうあろうと、今しばらく私に付き合ってもらおう、ヒューキャリオスよ」

そして、蒼の外套を翻しつつ、
ミリアスは開け放たれた愛機のコックピットへと身を投じた。


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