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【お題で嫁を】お題で簡単にSSを作ってみようか【自慢するスレ】

4437:2009/04/21(火) 21:03:19 ID:7smCPDGM0
甘酸っぱいと言えるかどうかわからない代物ですが、出来たので投下します。




『妖精逢人而変妖怪 ―妖精 人に逢ひて妖怪に変ず―』
 もう随分と経ってしまったわねぇ、と幽香は独り呟いた。
 正面にあるのは一面の菊。林の一角が全て菊に覆われ、今は盛りと咲き誇っていた。



 そう、この場所で彼に会った。向こうは妖怪を狩る人として、こちらは一介の妖精として。確か彼が、他の妖怪に襲われていたのだったと思う。幽香に日常茶飯事であった。
 最初に彼を見て思ったのは、こいつは美味しいかな、だったはずだ。

 それが、どうしてか気まぐれで助けてしまったのが始まりだったと思う。どういう心境の変化だったかなんて覚えていない。ただ辺りにいた歯牙にも掛からぬ妖怪共を一蹴して――こちらはまだ妖精だったけれど、並の妖怪くらいなら難なく潰せた――怪我だらけになった彼を助け起こしてやって、わざわざ手当までしてやったのだったと思う。今ならまずありえないのだろうな、と幽香は思う。
 とにかく、一度関わってしまったら途中で投げ出せなかったから、彼が動けるようになるまで丁寧に面倒を見てやった。
 そうして、気付いた時には自分の中に彼が座っていた。

 それから幽香の生活は変わった。それまで平気で裸のまま雑魚寝するような生活だったのに、きちんと洞窟の中で服を着て寝るようになったし、食べ物も肉を生のまま齧っていたのからきちんと調理するようになった。
 彼の居る洞窟へ行く前には水浴びして体を清め、一張羅を着て行った。近くにいた獣を狩って持って行って、また体にいい草をたくさん持って行って、いつもできるだけ良いものを食べてもらおうと頑張った。妖怪が人間の匂いを嗅ぎつけて襲ってきたときには、これまでないほど真剣に戦って追い払った。
 そうやって頑張っているのを見るといつも、幽香に彼は少し困った顔で笑いかけるのだった。
「いつも、ありがとうな」と。
 その笑顔が幽香には恥ずかしくて、嬉しくて、たとえどんなに疲れていてもどんな怪我を負っていても、まだ頑張ろうという気になれた。彼の為なら、なんでもしてやろうと思えた。

 毎日自分の寝床に帰っても、考えるのは彼の事ばかり。彼の少し困った笑顔が風呂の間も寝る時も頭を離れない。そしてそれはやがて、自分と彼とが一緒にいる光景へと変貌する。そうすると決まって幽香は顔を真っ赤に染めて水風呂を浴びた。でもいつかは、想像しているように彼に求められるのではないか、とそんな思いに心を焦がされながら、毎日暮らしていた。
 今考えれば、恥ずかしくて仕様もない話。紫なんかには絶対できない話だ。

 彼はほんの10日くらいで動けるようになっていた。元々そこまでの酷い怪我でもなかったのだろうし、幽香が毎日のようにその辺りで一番効く薬草を持って行ったこともきっと効を奏したのだろう。
 そうして、幽香が最も恐れていたことを彼は口にした。もう帰ろうか、と。

 最初は、帰れば、とそっけなく返事をした。自分は妖精で、彼は人間で。その差は埋めがたいことをわかっていたから。でも、やっぱり無理だった。彼が着々と自らの身支度をしていく姿が、幽香には耐えられなかった。でも今更帰らないで、ということもできず幽香はただその新緑の如き髪を振ってみていることしかできない。

 そしてとうとう彼の身支度が終わって、すっかり旅姿になった。洞窟の中は本当に彼がさっきまで使っていたとは思えないようなほど綺麗になっていて、彼が戻ってこないことを明らかにしていた。
「それではな」
 そう言って彼が背を向ける。でも、幽香は遂にはち切れた。
「行かないで!」
 この先の事は良く覚えていない。ただわんわん泣いて、それから必死に彼を引きとめたことだけ記憶している。


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