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【お題で嫁を】お題で簡単にSSを作ってみようか【自慢するスレ】

3936:2009/04/21(火) 01:31:11 ID:BMwuiH8I0
『籤』

「本当に、幻想郷から出て行くの?」
 八雲紫はそう静かに訊ね、氷のような眼で見据えている。
 その視線の先にいるのは、白黒装束の古風な魔女姿の少女。霧雨魔理沙だった。
 彼女は口の端を小気味よく吊り上げた笑みを浮かべながら答えを返す。
「ああ、そうだぜ。もう全員に挨拶はしてきたし、別れの杯も交わしてきただろ。あとはお前がウンと言えばいいだけだ」
「外の世界なんていいものじゃないわよ。拒絶と排他で満ち、老人は尊ばれず子供は望まれず、人々は未来に夢を見ない。貴女みたいな小娘は、一晩でボロ切れにされてもおかしくないわよ」
「おいおい、そのくらい覚悟してないと思ってたのか? 手ごたえがあって上等じゃないか。全部見事に潜り抜けてやるぜ」
 そう言って胸を張る魔理沙を見ながら、紫は扇で口元を隠してこっそりと溜息をつく。
「……霊夢はそっけなく見えたけど、そうじゃないからね」
 その言葉に魔理沙は軽く眉根を寄せた。
「知ってるよ」
「じゃあなんで……!」
「だからこそだよ。私はあいつに正々堂々と追いつきたいんだ。ウサギとカメの寓話なんて大嫌いだぜ。世界最速のカメになって、ウサギが居眠りできないほど熱くさせたいんだよ」
 言い切った魔理沙に、紫は扇を閉じて今度は隠すことなく、長々とした溜息を見せる。
 そして閉じた扇を掌に隠したかと思うと、次の瞬間その手には三本の紙縒りが握られていた。
 それを差し出しながら紫は言う。
「じゃあ幻想郷の管理者からの最後の試練よ。この三本のうち一本だけが先端を朱で染めているわ。それを見事選んで抜き取ることができたら、貴女が通る隙間を開きましょう」
「よりにもよって籤とはな。妖怪が神明裁判なんて冗句としてもどうかと思うぜ」
「この程度の運もつかみ取れない人間なんて危なっかしくて出せないわよ。確率は三分の一。さあ、どうする?」
「じゃ、これ」
 拍子抜けするほど簡単に決め、魔理沙は一本の紙縒りを掴む。
 だが引っ張ろうとするのを紫は手で制し、無言のまま魔理沙が掴んでいない一本を引き抜いた。
 魔理沙がわずかに息を呑む。
 その先端は白かった。
「……脅かすなよ。何がやりたいんだ」
「ハズレを一つ取り除いたのよ。さて、今この瞬間にもう一回選びなおしてもいいわよ。確率が上がるわ」
「はぁ? なに言ってんだ? 選びなおしたところで確率は一緒だろ」
「数学の初歩よ。貴女が最初に選んだのは三本からなので確率三分の一。でもハズレが一つ減った状態で選びなおせば、確率が二分の一になる。納得した?」
「できるかよ。狐の親玉につままれたような気分にしかならないぜ」
「じゃあ例えばこの籤が百本あって、当たりは一本と仮定しましょう。これなら確率は百分の一ね」
「ああ。それで?
「貴女が一本選んだ後で、私が98本のハズレ籤をつぎつぎと捨てていき、あなたが選んだ以外では一本だけが残りました。さて、この籤が当たりである確率は百分の一だと思う?」
「……ああ。なるほど、わかったぜ。ついでにお前が何を言いたいのかもな」
 理解の色を見て、紫は優しく微笑んだ。
 初志貫徹はたしかに耳障りが良い。だが世の中、途中で選択を変えた方が有利になることが多々あるのだ。
 特に、当たり籤を抜いたりしない、善意の世界の中では、なおさらに。
 その気持ちがきちんと伝わったのを感じ、紫は籤をしまおうとした。
 だがそのとき、魔理沙が最初に掴んだ紙縒りを未だ離していないことに気づく。
 そしてそれが、ぐいぐいと引っ張られていることにも。
「私はお前の言うことを理解したが、お前の方は理解していなかったようだな」
 目に狼狽の色を浮かべる紫に対し、魔理沙は白い歯を見せた晴れ晴れしい笑顔を浮かべている。
「私はな。お前があらゆるハズレ籤を取り除いていくそのやり方が、だいっ嫌いだったんだよ」
 これさえ抜かれなければとでも慌てたのか、紫は籤を握る手に力を入れる。
 だが魔理沙の手によって、紙縒りはずるずると少しずつ引っ張られていく。
「見てろよ。お前の保護の届かない外の世界で、私は百倍も千倍も立派になって帰ってくる。そしてお前のやり方全てが正しいわけじゃないと、証明してやるからな!」
 そうして魔理沙は、紫の掌中から籤を抜き取った。




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