したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

音楽指定で即興するけどお題ある?

1二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/02(日) 21:09:34 ID:1fTvy9iE
基本産業
・曲指定
・即興
・参加自由(書くのも題目出すのも)

アドバイス産業
・ネタ曲は作りにくいぞ、まともな曲のがいいかも
・みんな知ってる曲のが面白いかな?(ラジオ使えれば良いんだけど携帯組もいるしね)
・再生できるなら視覚エフェクトもヒントになるぞ

244隣りの名無しさん:2006/07/09(日) 17:45:20 ID:tWX3srLU
っ『ひょっこりひょうたん島』

245二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/09(日) 20:18:57 ID:Gv51/mDU
>>244
んー、すまぬ
露骨に『ひょうたん島』であるわけで、書きようがないんだ。
ある意味同人二次創作みたいなもんじゃん?
解らないから思いつきでやろうにもお、ひょうたん島って書かれたらどうしようもないorz

246隣りの名無しさん:2006/07/09(日) 20:23:45 ID:tWX3srLU
そっか すまなんだ
じゃあ およげ!たいやき君 も駄目か……

カービィの「グリーングリーン」は如何

247二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/09(日) 20:55:51 ID:Gv51/mDU
>>246
グリーングリーンズ、かな(検索したらそう出た)
あんまりにいい感じのアレンジをきいてたら遅くなったorz

やってみるぜー

248保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:14:11 ID:T8QZhQM6
ども。
7/8〜7/9にかけてVIPでスレ立ててやってみた、

『中年で離婚して年金半分持ってかれたけど質問 は受け付けない。 』

はここに投下することでそのまとめとさせていただきます。

ちなみに、曲をモチーフにしている事もここで明らかします。曲は

男の子|YURIA

です。では投下↓

249保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:15:02 ID:T8QZhQM6

田園風景である。田園風景である。
見渡す限り田園である。両側が田園である。見渡す限りの。

田園風景である。田園風景である。
いい天気である。晴れ晴れしているのである。季節は夏。

田園風景である。田園風景である。
綺麗である。見渡す限りの緑。時々カカシとか居たりして。

田園風景である。田園風景である。
その水田に息づくバッタ、タニシ、ボウフラまで。生命の力が静かに横たわるような。

田園風景である。田園風景である。
電車が走っている。その田んぼの真ん中を。線路が延びている。緑の先へ。

その一両編成の箱の中で。
箱であるはずなのに、とても開放的で明るくて。
まるで風そのものに運ばれるように静かな静かな、けれど時速80kmのなかで。
綺麗な綺麗な空気の中で。
流れる大気に夏の暑さが心地よくて。
光が満ちていて。午前で。
箱の中はまるで空洞で。
つり革に意味はなくて。
両側に対面した座席があって。
さっき止まった駅で紛れ込んだトンボが、羽を休めていて。




彼は首をくくろうか、腹を刺そうか、毒を飲もうかを考えていた。



-middle age no.1-

250保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:15:36 ID:T8QZhQM6
そんな人生で何度訪れるとも知れない貴重な貴重な一瞬をそんな事を考えて過ごすのは流石にもったいない気がしたが、さりとてこの状況……地方、それもド田舎への左遷とすべてを失った状況を化合すればなるほど、これは天国への……。今、言い得て名見つけたぜ、まさしく、

グリーンマイル

だと言えなくも無い。解るか?田んぼのグリーンと(ry

そんな事を考え、座席にみっともなく恥じる事もなく醜態を晒すように寄りかかり、意識も定かではないまま清涼な空気を煤煙に変える中年男。

ニヤニヤと、不意に思いついた親父ギャグに一人で笑みを浮かべ、数瞬後に自己嫌悪し、死にたい係数を上げている彼は。

名を 臼井 秀寿(ウスイ ヒデヒサ) と言う。

恐ろしく捻りの無いまったく一般的な名前なのは仕様です。
彼は職業を『配管工型公務員』と言う、市役所は水道局勤務の自称・水周りのおまわりさん。
地域住民からはクラシアンもどきとして通っている。
長らくその町には保守整備のできる業者がおらず。
官から民へのこの時代に、いまだ彼のような存在が許されていた。
その範囲は上水を中心に下水に及び。
下水道整備の際にも引っ張り出されるほど、街の配水において把握している情報で右に出るものは居ない専門職に近いベテランだった。
彼のダウジングは車道近くでも狂わない。
水漏れを、その水溜りの形状からどこが悪いのかを見抜いてしまう経験豊富。
気さくではあるがどうにも人付き合いが苦手なシャイな言動から、実に老人に好かれている男だった。
反面、新人の受けは悪かった。とはいえ、それは彼の指導技能に問題があったからで、もちろん恨みを買うような人物では……あったかもしれない。
彼は、空気を読めない男とでも言おうか。
どことなく、いいや違う。
普段の仕事振りからして、ワンマンなところがあった。
もっともそれは彼が悪いと言うには少々酷な話で。
既に息絶えたかのように見えた年功序列制度がいまだ不確定ながら機能する市の行政の波の中。
実の能力の高い彼を一兵卒として野放しにする事をよしとしなかった上司が、果たしてどれだけその先を見据えた判断だったのかは疑うだけ無駄なことではあるが、退職の際に彼にその座を譲ったのだった。
すなわち、課長である。
課長。
部下を持つもの。
それは言っては何だが、当然のように見えて、大きな間違いだった。
彼は特殊だった。
特殊ゆえに、特例を意識しなければならなかった。
だがされなかった。
彼は人を動かす術を知らない。人の上に立って先導する者ではない。
ただ壊れた水道管があれば良い。

徐々にだが、彼は無能とみなされるようになった。

251保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:16:09 ID:T8QZhQM6
それはある意味では正しい。
だがある意味では間違いだ。
特化した才能のみでは社会を生きるものとして資質に欠く。
さらに言うなら彼自身の責任がここで発生する。
努力しなかったのだ。
立場に相応しい者としての努力を。
自分が求めるもの、組織の求めるもの、行政の求めるもの、民意の求めるもの。
その中で彼は、いつしか社会不適合に近い扱いを受けるようになっていった。

しかし彼は気にしなかった。
名目だけの部下も、役職も。
自分は自分の仕事をすれば良い。
彼にはその信念があった。
そして、事実彼はその給料に見合う働きを存分に果たしていた。

クラシアンが彼を誘いに来たりもしたが、彼はそれを跳ね付けたことがある。
水道トラブル8000円。
馬鹿馬鹿しい値段だったからだ。
信念はただその言葉にあるだけでは成り立たない。
実行する上でのマニュアルが伴わなければ意味が無い。
彼はそのガイドラインに、「できるだけ安価で良いサービスを心がけること」を加える人格者だった。
だから彼は、次第にその存在を理解はされずとも受け入れはされるようになっていった。


そして、彼は今、中年である。


そして今、死にたがっている。

この事実は誰に知られたものではないだろう。
だが知ったものが居るなら。
彼のことを。
どう思うだろうか。


神が居るなら、なぜこんな。

しかしそんな悲嘆は意味を持たない。本人以外には。
なぜなら神は、居ないからだ。

252保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:17:19 ID:T8QZhQM6
_________________________________________________________

かたたん、かたたん。かたたん、かたたん。
ゆりかごのように、一定した震動と小気味のいい音だけが聞こえる。

かたたん、かたたん。かたたん、かたたん。
意識は保っているが、どこと無い遊離感。座席の感触、車内の光量、大気の温度、湿度…完璧。

かたたん、かたたん。かたたん、かたたん。
意識の試しに指先を動かそうとしてみる。が……この感覚を手放したくないからやめる。

かたたん、かたたん。かたたん、かたたん。
リラックスしている。これから向う先を考えないように勤める。そうすれば今だけは、楽で居られるから。

かたたん、かたたん。かたたん、かたたん。
だけど……ああ。ダメだな。だけど……ああ。いいよな。

その一両編成の箱の中で。
陽だまりとまどろみの箱の中で。
これから修羅場に向う男は。
数日悩み続けた結果としての疲労と不眠の果てに。
今やっとしばしの安寧……
かりそめの安らぎを得ていた。
自ら向う以上逃げ場はなく。
望んで立つものに一切の同情もなく。
「清算」に向う彼に一切の餞も要らず。
不意に訪れたこの空間はまさしくゾーンで。
であれば、誰しも受くることの是非を問われず。




しかしその先にあるものは結局、変わるはずもないのだった。



-middle age No.2-

253保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:18:00 ID:T8QZhQM6
晴れた日の車内はぽかぽかして気持ちが良い。
端的に言い表せばこうなる。まったくただこれだけの事。しかし、それだけの事。
あるーはれーたひーのことー。
さて、そんななかどこかへ向っているらしい彼は。

その名を 長崎 康治(ナガサキ コウジ) という。

これまた捻りも何も無いが、それはおいおい明らかにならない理由によるものであり、まったくどうでもいい事に間違いは無いので割愛。愛なんて無いけど。

彼は人間のクズである。
具体的に言うとギャンブル狂のヒモである。
さらに悪い事に、取り付かれた女は馬鹿だった。
そして彼は、駄目なダメ人間だった。

出会いはまったくささやかなものだった。
競馬場だった。彼はその日、初めて競馬場に行った。
目的はたいしたものではない。ただ馬が見たい、と唐突に思った。
その日の前の晩、たまたまバイト先で出張から帰った店長が持ち帰った土産の馬刺しを食べた。
少々戸惑ったが、筋が強い事と馬である事を忘れれば、臭みも無くなんとも美味いものであった。
彼は、いわゆるフリーターだった。しかも、童貞だった。その上、三十に手が届く年齢だった。
それだけだったらまだ良い。
悪いのは、彼が怠け者であった事と、自分から事態を変えようとしないうちに自然とベッタリ張り付き乾いてしまったペンキのような、彼自身の『凝り固まった』色……いつまでたっても変化を起こせないような、それでも時間が過ぎていく、まさしく駄目人間の……停滞した色を、洗う事も出来ずに放置していた点だった。
それでもまだ駄目人間ではないかもしれない。
しかし彼は、矮小な人間でもあった。
『自分がよければそれで良い』人間だった。そして彼は、人の傷みが解らない男だった。

生きてゆくうえでの武器も無く。
道の歩き方も知らず。

そんな、『仕事の仕方もよく知らない』彼はその日競馬場に来たのは、ガキのような部分を多く残した彼の、『どうせ馬だろ。馬に群がる連中を端で見て笑ってやろう』位の気持ちであったことは、なるほど今となっては記録が無いから解らないがありそうな理屈ではある。

254保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:18:51 ID:T8QZhQM6
そして、出会った。
馬券の買い方も、競馬新聞の見方も解らず、それでいて見栄っ張りかつ自堕落な彼は、解りもしない新聞をさも分析するような目で眺め、それでいてその見方を『自分から解ろう』ともしなかった。
格好だけつけて、周りの人間を根拠も無く内心で見下す。

それでも、彼が自身の内でそう思っているだけなら、別に構わない。
実害が無いなら問題ない。彼から誰かに関わる様なことはしないし、関わろうとするものもいない。
だから、このときはまだ、彼はダメ人間だったがダメなダメ人間ではなかった。ダメじゃないダメ人間でもなかったが。

だいたいに、人をダメ人間と言う型に嵌めて考える事自体ナンセンスなのだが、ここでは便宜上使用している。それは彼の思考に準拠してお送りするからに他ならない。


べ、別に俺(著者)がダメ人間だもの、だからじゃないんだからねっ!本当にそれだけなんだからッ!


馬券の買い方も解らず、見たかった『馬』も見えず、いい加減飽きてきた彼に、ある女性が近づいてきた。

かつ、かつ、かつ、かつ。

異例の事態である。異例の事態である。彼は混乱しつつも、雑多なロビーの中で響くハイヒールの音が妙に耳に届いた。
内心バクバクながらも、気がつかないふりをして新聞を読むフリをする彼。中身の無い行動だと、彼は気がついていない。しかし、一般的な振る舞いだともいえた。

「あなた。もしかして初めて?」

それがその女の第一声だった。

女の口調は高飛車なものだった。自信に溢れたものだった。
そして、彼には、逆らいづらい威圧を伴って聞こえた。

「お姉さんが、教えてあげましょうか。」

お姉さん。
確かに年上だろうが、彼にしたって既に三十を超えている。
本人は気がついていないが、全身から発散される『オドオドキョドキョド』オーラは彼からあるべき年季……歳相応の備えるべき示威姿勢が無かった。
ヨレヨレの安いシャツに破けたズボンを穿いていてもジェームズボンドはジェームズボンドだし、堀江貴文は逮捕されてもホリエモンだったし、小泉純一郎はスーツを脱いだらただのセグウェイに乗ったおっさんだし、杉村太蔵は議員をやめてもムカつくと思う。
そういう、個人性から見られるようになる初見の印象、それが彼の場合、不審人物と言うのは言い過ぎだがしかし、キョドッた青年、の、それであったのだ。

ゆえに、紺のスーツを着込んだ彼女と、彼が対比されたとき、自然とお姉さん、といった属性が発生してしまう。
そしてお姉さんは品定めするような目で彼を見て、こういった。

「解らないなら教えてあげましょうか?今なら、か・く・や・す、で。」

金を取ると言う行為をさもサービスするような「か・く・や・す」と言う一文字づつ区切ったお馬鹿なセリフを堂々と吐く。実に、彼を舐めていた。しかし彼はそれにいらだつ事はなく、その女性に羨望を抱いてしまっていた。

傍目で見れば、どちらも。
馬鹿であった。

255保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:20:15 ID:T8QZhQM6
その後の顛末についても追わねばなるまい。なぜならそこからが本題だからだ。

彼はその女性のテキ屋的指摘に沿って馬券を購入。
なぜか………それは神のいたずら心か。あるいは悪魔の誘いだったのか。
ビギナーズラックで大勝。
女はそれにいい気になった。
彼もその「漠然とした大金」に興奮していた。
実際のところ、ちょっと大きな買い物が出来るかもしれない、程度の金額だったのだが、熱に浮かされたような彼らにはそれで十分だった。

二人で街を歩いた。
彼には初めての体験で、自然に動悸が起きたほどで。
デパートに行った。
駅前を散策した。
彼女がブランド物のスカーフを欲しがったので購入した。
それ以外に金の使い道が思い浮かばなかった。

そして、その日も終わりに近づいたとき。
彼女はさも当然のような風を装って、彼に酒をおごるように要求。
半分以上彼女の金であるといえる状況だったし、彼はもちろんそれを快諾。

そうして、夜の街へ消えていった。

女は酒を飲みながら、実際のところ何も考えていない彼の不思議なまなざし。
何を見ているのか解らないその視線の先にあるものを、自分だけに定めたいと考えてしまった。

どこか、運命じみたものを感じてしまう。

そんなありもしないものを感じてしまう時点でおかしいと気がつかない彼女は、やはり格好に似つかわしくない、『中身は少女ともいえない未熟な女』であった。
久々に奢りで飲んだ酒。ほろ酔い絶頂、気分は上々。
彼もまた、その時間を楽しんでいた。普段の彼なら怖くなってすぐ逃げ出すような、初めての体験尽くしだったが、不意に懐に入った大金が彼を増長させていた。

そして、店を出たとき。

256保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:20:45 ID:T8QZhQM6
雨が降っていた。
傘は無かった。
いや、あった。
一本だけ。
彼が、家を出る際に、子離れが出来ないこれもまた愚かな母親に、持たされたものだった。
そして彼は、それを彼女に渡そうとした。

これが、決定的だった。

女は彼を離すべきではないと考えた。
今日のような日が続くと考えてしまった。
愚かにも運命と言うものを感じてしまった。
それが、凋落の始まりであると言う客観的に明確な事実を無視して。

彼女はその傘と一緒に男の手をとり。

「家に来ない……?」

上気した頬と、酒に酔った頼りない、さっきまでのお姉さん振りから離れたたどたどしい口調と。
アルコールによって赤くなった、彼には泣いている様にさえ見えた瞳。

麻痺した思考で、彼は頷くしか出来なかった。

扇情的な年上の女。
半ば奪われるように。

その日の終電を最後に、彼は長年パラサイトを続けた家を出た。


そして現在。

かたたん。かたたん。
かたたん。かたたん。

昔を思い出しながら、彼は。
決めるべき覚悟を探し続けていた。

257保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:21:34 ID:T8QZhQM6

_________________________________________________________

思い出したら腹が立つ事がある。
やめようやめようと思っても思い出してしまうこと。
俺をこんな、自殺を考えるまでに追い詰めた原因。
もちろんそんな事を考えるのは俺の責任だ。
自身に発生する事態を誰かのせいにして逃れるほど落ちぶれてはいない。
ただ、どうしてもぶん殴りたい奴がいる。
それは矛盾する事だろうか。

そこまで考えてしまったらもうアウト。
ひたすらに不愉快になる記憶を思い起こす以外に道はなくなる。

強制再生。
それは彼が、課長になって間もないころから始まった。




「渡瀬 市子(ワタラセ イチコ)です!本日からこちらで業務に当たらせていただきます!よろしくご指導のほどお願いします!」

ぱちぱちぱち。

まばらな拍手。
それもそうだ。人が少ない。しかし歓迎する笑顔があった。
課に新たな人員が加わった。
それも、若い娘だった。
どれくらい若いといって、高卒採用枠の一人である。
ピチピチと言う奴だ。だが、ギャルと言うにはちょっと違う。っていうかどっちも死語だね。
そして、その娘の教育を受け持ったのが臼井だった。

なんと言うか、いちいち元気な娘だった。
なんに関してもやる気があるのは結構だが、彼としてはやり辛いと思うところも無くは無かった。
新人に昼飯をおごる、それくらいは彼でも思いつく社交辞令で、実行できなくも無かったが、自然と同席する事になると会話に詰まる。仕事の話であればいくらでも出来たがこの娘、なんとも仕事の覚えが悪く、しかし言うことは一字一句完璧に記憶していると言う彼にとっては嫌がらせにしかならないやり辛いに極まる娘だった。
実技に関してはほとんどからっきしであるのに、頭ばかりがでかくなってゆく。
ただ黙って練習する場面も何度か会ったが、自分がどれ見てたやろうと思って赴くととたんに集中力を切らしてマシンガンのように話しだす。

なんなんだろうなぁこの娘は。

258保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:22:05 ID:T8QZhQM6
彼は一応既婚者である。
しかし、女性と言うものに関してはほとんど知らず、また良いイメージも無かった。
人間として人を見る目が性別で人を見る目よりもはるかに重んじられる彼の価値観の上で彼女はなるほど悪い人間ではない。
彼の嫁は彼を金づるだとしか見ていなかった。なんて嫁だww
彼はそれをどうとも思っていなかった。
ただ帰れば、冷めてはいても飯はある。家は綺麗にされていたし、酒もあった。彼が好きなスナックやおつまみもしっかり補充されていた。
風呂を沸かしてくれ、といえば沸かしてくれるし、クリーニングを頼めば出してくれる。

ただし、それ以上の会話はなく。
肉体関係も、最初の一年以降は見られなかった。

そんなものだと、思っていた。
当然子供もおらず。
自身から身の上を公開する理由がない彼のこと、独身であると信じているものさえいた。
それも、多く。

「愛情?なにそれ。」

嫁はよく男を連れ込んでいた。
彼はそれを知りつつ、なるほどこういう女なんだな、と理解し受け入れた。男としての所有欲などなかった。ただ、家の嫁は男好きなんだなぁ、位に考えていた。

それは期待していないがゆえの諦観とも違う、馬鹿馬鹿しい勘違いにも似た。
どっちにせよ、婚姻関係のあるハウスシェア契約のような。
そんな彼の女性遍歴は枯れ切っていた。
子種まで枯れたわけではなかったが、しかし発散する必要もなかった。

壊れた水道管こそその人生のすべてだったのかもしれない。

259保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:22:39 ID:T8QZhQM6
そんな彼を慕うものがいた。
その多くは町に住む弱者、老人や子供であったが、そのすべては感謝であった。
そんな彼を嫌うものがいた。
総合的に見ればひどい事だ、彼を好いて、思慕を寄せる女性に端を発するその憎悪は。

思い出す。
冷たい声。
愚鈍と彼を罵る声だ。

「いつまでいるんです?」

馬鹿にしたような。若い声だった。

「会社はあなたの預かり所じゃないんです。さっさと帰ったらどうですか。」

こいつは知っていて言っている。基本的に人に不干渉の彼には、嫌味を言うヤツの気持ちが理解できなかった。

「ああ、まだ書類仕事が終わらないんでしたね。すいません。でもちょっと遅すぎやしませんか?それもう三日前のヤツでしょう。」

ニヤニヤと言ういやな笑い方。まるで俺を見下ろし、食い物にするような。掃き捨てるような。

「まぁ、あなたじゃ単純な書類仕事も時間かけなきゃ出来ませんよね。でもそんなことで、そのイスに座ってて恥ずかしくないんですか?」

うるさいな。いまやってるだろ、邪魔しないでくれよ。そう思っても口には出せない。
なんと言ったら良いのか解らない。

「あ、時間かけてるんですからそれなりのもの出してくださいよ。こっちの作業も停滞しちゃうんですから。」

「もし書式や数値にミスがあったらどこかに飛ばしちゃいますよ?」

まるで笑うように言う。からからと。

「ちょうど知り合いのところに技師を二、三人欲しがってるところがありましてねー。」

じゃ、よろしく〜とか言う事を言いながら出て行った。
いつもこんな感じで彼に攻撃を仕掛けてくる男がいた。

260保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:23:12 ID:T8QZhQM6
名を、荻野 健三郎(オギノ ケンザブロウ)

渡瀬がらみで、彼に突っかかるようになった、人事課に勤める出世頭である。
仕組みは単純にして明快。

渡瀬は臼井に恋心を抱いているという事実。
荻野が渡瀬を気にかけているという事実。
臼井は萎びた中年で既婚であると言う事実。
渡瀬は若く、将来もあり狙うものは多い事実。
荻野は以前から臼井を嫌っていたという事実。
渡瀬はなお怯まずアピールを続けている事実。

以上から導かれる、現状の解釈は一つ。

…………………
しかし、臼井はそれで渡瀬をも邪険にする男ではなかった。
それゆえか、日に日にエスカレートしてゆき。

ある日は。

「先輩、今晩はお暇ですかー?よろしければ焼き鳥の美味い店がぁあああ!!?」
どさどさどさ。
「臼井さん明日までこの図面仕上げておいてくださいお願いしますねもし出来なかったら左遷。」
「………都市計画の担当は俺じゃないだろ……」
「水道局で一番詳しいのはあなたです。やらないなら左遷。」
「わかった……」
「あの、手伝いましょうかぁああああああああ!!?」

帰り支度の済んだ渡瀬を引っぱって強引に出入り口に向う荻野。

「あなたは今週残業してはいけません。労働基準法最近うるさいですからね。」
「せんぱーい!すいませーーーちょっひっぱんないでよっ!?」
「いいから帰る。電車でちゃいますよ。僕も一緒の方向ですから痴漢避けに同乗しましょう。」

261保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:23:52 ID:T8QZhQM6
またある日は。

「せんぱーい。その作業着汚れてませんかー?」
「ん……ああ。今日はクリーニングされたのが無かったから昨日のままだ。そろそろ着替えたい。」
「んー、ちょっと匂っちゃうかもですねー。男臭さがww私は一向に構いませんけどー。」
「すまん。」
「いえいえ、ほんとに気にしてませんからー。あ、そうだ、よければこのポプリを胸ポケットに入れるといいですよー。」
「……香草?巾着の中に入ってるのか。」
「えへへー。最近凝ってるんです。じゃあ先輩にはウッディな香りのうわぁああああああ!!?」
「とーう!!ファブリーズ光線!しゅわっしゅわー!」

いきなり現れた荻野がファブリーズを容赦なく吹き付けてきやがった。

「やめっ…!口に入るっ……」
「植物性ですから安心です。悪霊も退散します。よかったですね。」
「よくないですよー!失礼じゃないですか!」
「さてポプリを渡すと言う行為の方がより私の行為の本質を果たしている……君の言う『失礼』の度合いを増していると思うのだがどうかね。」
「私が言ってるのは、人に向けて撃っちゃいけませんってことでっ」
「なんにせよこれで解決です。私は仕事にもどります。ほらほらあなたもさっさと仕事に就いた就いた!」

な事があったりした。

確執。

一見日常に見えるところに潜む悪意。
それが、たまらなく怖ろしかった。
表層上明るく振舞っても、どす黒い感情に根を持つ行為。

――――――いつか、本気で来る。

その時に、俺はどうするべきだろうか。
いやな人間関係だった。
煩わしかった。
でも解決策が浮かばなかった。

中年は、そして、それ以上考え悩む事をやめた。
そんな事を……いい年して女に端を発する争いなど、したくはなかった。

だが、荻野は違ったのだった。
それが明らかになるのは、それから三ヵ月後の事。

262保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:24:50 ID:T8QZhQM6
その年一番の大型台風が襲来。
後に激甚災害に指定される台風二十七号は南西から北上、日本海に入り、京都府から近畿地方へ。日本海をなぞるように北上を続け。
彼らの町も、大きな被害を受けた。

公務員は災害時、義務として召集を受ける。
自宅が停電し、浸水し、まだ幼い子供と妻を残してでも、行かねばならないときがある。
それが公務員の公務員たる所以。公僕の勤め。
何かと罵られる事が多い役所の人間だが、内実はみな必死なのだ。
そして上水道の保守管理において重要なポジションを占める彼は、ことさら事態の把握と収集、指揮を受け持たなければならず。
雨の中、彼は浸水しプラグがイカレて使い物にならなくなった車を捨て、徒歩で局に向っていた。

その、さなか。

「………!?」

黄色い合羽を着込んだ彼は振り返る。
轟々と風がなり、いまだ冠水を続ける路面。
倒れた樹木に引き裂かれた電線がバチバチと火花を立てる。
リアルにこういう状況は発生する。それも簡単に。

そんな中、彼は。

「……子供の声。」

何かを聞いた。声を聞いた。
泣き叫ぶ子供の声を聞いた。雨と風の中聞こえた。

ばしゃばしゃと水を掻き分け。
ごうごうとなる風の中、右往左往ながら。
何度も耳を澄ませ、徐々にその声がどこから発せられるものなのかの見当を付け。
そうやってたどり着いた先に。

「………っ!バカがっ…!」

263保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:25:29 ID:T8QZhQM6
ペンギンを模した合羽を羽織った少女が、冠水した濁流が流れる橋の中央に、取り残されていた。
既に橋は欄干まで濁流に飲まれており。

なんだよもうこのドラマティックはよぉ。

泣きそうになりながらそれでも必死に方策をさがす。なにか、なにか、ロープのようなものは。

どどどっ……!

「………ダム」

……ぉおん…

僅かに聞こえたのは、放水を知らせる警報音。
マズイ。
じきに大量の濁流が、今現在の水位をはるかに上回る濁流が押し寄せる。
既にこのザマだと言うのにっ……!
だから追加のダム建設をしておけと言ったんだ!
公共事業削減とか脱ダムだか調子のいいことぬかしやがって。
だいたいにこの河川にしたってこのザマじゃあないか!
河川拡張を進言したのは俺だけじゃない!
なんにも解っちゃあいない!非常時に起こる市民生活を真剣に考えようともしない!
その結果がこれか!くそっくそッくそッくそッ!クソッタレがぁッ!!!

彼は一頻り頭の中で毒吐くと、覚悟を決めたように。

書類鞄を近くの電柱にくくりつけ、水の抵抗を抑えるべく合羽を脱ぎ捨て。
欄干に飛びつき、濁流の中を一歩一歩、足をすくわれないように進んでいった。

助けない訳にはいかなかった。

264保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:26:10 ID:T8QZhQM6
途中、流されてきた枝やゴミにぶつかり、いくつもの傷ができる。
傷は即座に泥水で洗われ、細かな石や砂が余計に傷をえぐった。
だが、欄干につかまり、縁石に乗っかった少女が耐えられる範囲の水流である。
ゆっくり行けば、到達できる。
しかし余裕が無いことも確かだった。

あの放水警報は一番山奥にあるダムのものだ。
それが放水を開始したとなると、それ以前に山中に分散して設けられた水門はとっくに開かれている。その影響か、彼が渡るその間にもどんどん水位は増していた。

彼は頭の中で考える。考え続ける。
今のところ大丈夫だ。速く動けるうちに動いた方がいい。
すぐに自由に身動きが取れなくなる。まして帰りは少女を連れて、だ。

ざば、ざばざばざばざば

急ぐ。急ぐ。水位を跳ね除け、少女の下へ。
あと…5,4,3,2、…到達。
この時点で、はじめは脛までしかなかった水は既に彼の膝に到達していた。

「大丈夫か!?動けるか!?怪我してないか!?」

まくし立てるように話しかける。
少女は生命の恐怖に晒されたためか、喋る事は難しそうだったが、しかししっかりと頷いて見せ。

「じゃあ……そうだな。」

既に少女を歩かせるには、危険な水位だった。

「おぶさって、背中に。ほら。」

そう言って身をかがめる。しかし、少女は何かを…抱きかかえているために、腕を伸ばす事が出来ないようだった。

「どうしたの、早く。」

急かす。急かす。焦る。焦る焦る焦る。
焦燥のあまり覗き込むと、そこには。

「……猫。」

子猫だった。まだ目も開かない子猫だった。少女はその子猫を抱えていた。
そして、離そうとしなかった。
まさか、猫を捨てなさい。なんて。

言える筈が無い。

265保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:27:03 ID:T8QZhQM6
「……ええいっ」

彼もまた急いでいた。
少女に何事かを言う前に、自分が動いて事態を動かすのが一番手っ取り早い。

「……っ!?」

少女が突然持ち上げられて目を見張る。
彼は片腕で少女を抱えあげ、もう片手で傾き始めた古い古い欄干に捕まり、濁流を進み始めた。
実際、状況は逼迫していた。
水圧は容赦なくまして、彼の歩を襲った。
これ以上…腰に達すれば確実に身動きは取れなくなる。
既に大腿に近い。今現在も無理やり動いている、といった感じで。橋を抜けれ幾分高い建物もある。
通常、橋は沈下しないように若干高い位置に作られるものであるがここは違った。
そもそもこれほどの水流を予期した造りになっていない。
橋を渡ってすぐに登りの階段があるほどだ。
その階段のほう……恐らく、こっち側にきたら登庁は難しくなるであろう方へ進んでいた。
だが背に腹は変えられず。
確実に助けられるのであれば。
その一心だった。

266保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:27:53 ID:T8QZhQM6
ごごごごご……

水位は増す。いい加減やばい。
しかし。

階段まであと……少し。
眼鏡に水滴が付着しすぎてもはや前は見えなかった。
ただただ進んだ。
そして。

がつん。

靴の先が何かに当たった。
それは。

「…きたっ」

石段。
足を掛ける。
一瞬足を浮かせる、『すり足』を離れるこの瞬間がいちばん危ない。
気を抜かず。
持ち上げた。

ぐぐぐいっ!!!

ちょっと浮かせた途端足を攫われる。

しかし、うまく欄干に当たってバランスを確保。
そして歩を進める。一歩、二歩。
三歩、四歩。
五段目あたりまで来て、ようやく余裕が出てきた。
六段、七段……。
八段。

「………っはぁっ…!!」

ざばっ

少女を、下ろす。
既に数センチと言う水嵩しかなかった。
どうにか……なった。

どどどどどどどどどっ………

振り向くと、先ほどまでいた地点は、既に欄干まで水没していた。
危なかった。
危うく死者を出すところだった。

しかし……

「これじゃあ間に合わんな………」

少女を放っておく訳にも行かない。近くの交番に駆け込むしかない。電話は通っているだろうか。
少女をうかがうと、猫の様子を気にしていた。
タオルに包まった子猫。
小さな小さな。
豪雨に晒されながらも、少女が必死に守った。
そう。
今現在の時刻は、実に午前六時である。子供が出歩いていい状況でも時間でもない。
大方、端の下で飼っていた子猫の様子でも見にきたのだろう。

みゃあ。

「…っ」

突然鳴いた子猫。
その一声で、彼も、少女も、腰が砕けるほどの安堵に襲われた。

267保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:29:02 ID:T8QZhQM6
その後、最寄の派出所に少女を保護してもらい、それから自分はしばしの休憩をとり、携帯を借りて局に連絡を入れようとするも、非常事態につき回線が込み合い不能。
さらに悪い事に固定電話もアウト。このままではライフラインが麻痺しかねない。最悪の場合は、だが。どうにかすぐにでも出頭しなければなら無い。

濡れた服を乾かす暇もなく、コーヒーだけもらうとすぐに出ようとした、そのシャツの端を。

「……」

少女が掴んでいた。
その背後には、乾いたタオル包まった子猫。もう、心配は無い。

「濡れるから……」

そう言って。
差し出したのは。

「ありがとう、借りて行くね。」

がらにも無く、まったく似合わないセリフを吐いて。
少女が差し出した黄色いハンカチを受けとった。

巡査が合羽を持ってきてくれた。彼はここで待機。他のメンツは各々パトロールに出ていて、非常用ボートに空きは無いと言う。

なんとしても一刻も早く、仕事に、義務を果たしに行かねばならない。

豪雨のなか、再び行軍を開始した。

268保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:29:36 ID:T8QZhQM6
この三日後、彼は。

業務不履行。
公務への信頼の損失。
ライフライン復旧の著しい損害。
公務運営障害。

一般服務事項において著しく自覚を欠く行動により、多大な延害を招いたとして。
地方公務員法に基づき、減給と停職処分を受ける事になった。

それでもかなり手加減……いや、相殺した結果だったのだろう。

しかし、現実はそう簡単ではなかった。
事実、大量の供給を必要とする機関……おもに病院などでは、満足な水道設備が確保できずにやむなく重篤患者を危険性の高いことであるのに他の病院に移送するなど、はるかに多くの命を危険に晒す結果を招いていた訳で。

しかし。
最後に下された処分は。
荻野がいつものニヤニヤした笑いとは違う無表情で告げた、宣告。



「あなたはもう信用できません。」

「どこか遠いところへ行って下さい。」

「僕の知り合いがちょうど技師を欲しがってまして……」

そこから先は正式な辞令で知った。



まともに聞けやしなかった。

『あなたはもう信用できません』

それは何よりも、どんなことよりも辛い。
仕事人としてのアイデンティティを破壊するに十分な一言だった。

269保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:30:33 ID:T8QZhQM6
_________________________________________________________


彼女との生活は恐らく、俺の人生の中でもっとも楽しかったときだろう。
それは間違いない。
だけどそれと同時に、もっとも俺が下衆だったときでもあったのだと思う。
それは、ほぼ確実に。
彼女と言う犠牲の上の生活。
フェアじゃない関係。なにかがおかしかった。
俺は自分が楽をしたいがためだけに彼女を食いつぶし、彼女はそれさえ受け入れた。
そしてその終焉は。




俺の最低かつ最悪かつ彼女が最高に不幸になる選択で、幕を閉じた。

270保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:32:15 ID:T8QZhQM6
彼女との生活が始まった。
彼は家に帰ろうとしたが、どうにも彼女は俺を受け入れる姿勢を見せていた。
彼はその日から、徐々にだがギャンブルに溺れるようになっていった。
それを誘導したのはいったいなんなのだろう。
彼女だろうか。
彼女は確かに彼に賭け事を教えた。
しかしそこから先はやはり彼の行動である事は疑いようも無く。
ぼろくそに負けて無一文になって、アパートに帰れば彼女が迎えてくれて戦果を聞いてくる。
彼はまだその時には、彼女の事を少し上に見ており。
どうにか取り繕おうとして、彼女が教えた方法にいろいろ意見を付けてみたりもしたけれど、結局は机上の空論かただのレトリック以下のごまかしにもならない具にも突かない事しか言えていなかった。
彼は彼女にもらった金で、ただ遊び歩くだけの日々をはじめつつあった。
ヒモである。
それも、かなり特殊な。

彼女の仕事は詳しく聞いた事は無いが税理士か何かの類だと言う。
そう、それすら知らない。知らなかった。
彼女と話す時間は楽しかったし、こんな馬鹿な生活でも彼女は楽しいといって笑っていた。
それに関して考えることもせず、ただ合わせて。
飯を食い風呂に入り時には彼女を抱き。
いいや、抱かれ。
自分はいったいなんなんだろうなぁ、と漠然とした問いすら、彼女は許してくれなかった。
異常な関係。
彼の思考は麻痺していた。
酒とギャンブルと容易に手に入る金に。

271保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:32:45 ID:T8QZhQM6
その実を知る事になるのは、四ヶ月ほど経ってからだった。
実にその間、そのような生活を。
季節の移り変わりを肌で感じながら、そんな生活を続けていたのだ。
そんな中で。
とてもとても緩やかで気がつかないほどの変化が起こっていた。

彼は、彼女から日々貰う金に不服を感じ始めていた。
それはひとえに彼女の信頼。


『あなたならできる』

『運命が味方してると思うし』

『私は好きよ?』

『ねぇ……しない?』

『明日はきっと、当りが来るから』


今冷静に考えればまったくナニソレといわざるを得ないセリフの数々はしかし確実に俺を洗脳していた。

俺じゃあ

俺でも

俺だったら

俺にしか

俺なら

俺が


大金を当てて見せる。
そう意気込んでも、うまくは行かない日々。
彼はその原因を元手の少なさにつけるようになっていた。
彼女が渡す毎日の金の少なさに。
俺はまったく正常な判断能力を失っていたとしか考えられない。

相して彼は、徐々に闇金に手を出すようになっていった。

272保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:33:19 ID:T8QZhQM6
『あれは、怖い。
ざぶざぶと金が手に入ってしまう。
いくらでも、言うだけ金が手に入ってしまう。
街金は利用できなかった。
どこに行ってもそれなりの審査基準は定めてあり、それに完璧にシカトされるような人間であった。
しかし闇金は俺にどんどん金を与えた。
これがまた、俺が何かをしでかす人間である事を示唆しているようで。

俺は有頂天になっていた。

頭のどこかが有頂天の状態になると、そうでは無いと解っていてもどんどんそれは広がってゆく。
幻想に理性が食い殺されてゆく。
あまりに脆い精神構造。
金は、それ程に、恐ろしい。』

彼の負債は増えて言ったが、それでも手元にある金と見比べて、
問題ない、問題ないと見える破滅を別世界のものと断定していた。

『なぜなら俺は何かをしでかす男だから。』

一山当てる男だから。
彼女がそう言っているし、手元にある金もそれを示している。

しかし、いつまで経ってもその時はこなかった。
来るわけは無い。圧倒的に無い。しかし、それが解らない。

そしてその日。

彼は運命を目の当たりにした。
彼女と出会って五ヶ月目のその日。

彼はその日、競馬場に居た。

いつもの雑踏。いつもの新聞。
いつもの座席。いつものアナウンス。
唯一つ違っていたのは。

その日、彼は全勝を続けていた。

確率論から言ってありえない話ではない。
毎日のように賭け事を続ける彼である。
ありえない実験環境がありえない結果を招く。
それは当然の事だとも言えた。

しかし、それはやはり………

273保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:33:51 ID:T8QZhQM6
そして、次のレースが近づいたとき、彼は感じた。

びびびっ。
と来た。

この雑踏。
この新聞。
この馬。
今日最後のレース。

湿った空気。
どこそこから聞こえる、ぼそぼそとした雨を気に掛ける声。
その日着ていた服。
その前日食べたのは、やはり。

馬刺しだった。

ああ。

運命とは。

こういうことか!

彼はいきなり飛び出した。
ものすごい興奮に襲われていた。
この気を逃してはならない。
散々待っていた運命がやってきた。
今しかない。今しかない。今しかない。
駆ける。
その先。

一駅分ほど走ってたどり着いたのは。

彼がここ最近利用している、闇金業者の事務所だった。

がたん!
扉を勢いよく開こうとする。
しかし突っかかって開かない。
それもそうだ。
ガラス張りのオフィスには電気がついていなかった。
真っ暗な待合室が見える。

しかしここで諦めない。もう時間が無い。

274保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:35:42 ID:T8QZhQM6
彼は思いきって裏側に回った。
この事務所の二階部分。
そこに、『店長室』がある。
何度か立ち寄った。
気さくなで小洒落たサングラスの兄さんがここを仕切っていた。

かんかんかんかんっ

安っぽい非常扉を登る。
そして、

がたんっ

開いたッ!!

彼はその足ですぐに事務所内に侵入し、そして。

「すいません、誰かいませ っぶっ!!?」

その鼻っ柱に、裏拳が入った。

のけぞる。そして、その彼を強引に持ち上げるのは。

「なんだてめぇ……?」

柄の悪い大男だった。この人も何度か見たことがある。
こちらの顔は覚えてくれていないのだろうか。

「すっ、すいません…でっあのっ」

どもる。
うまく喋れない。

それもそうだろう。
チキンなのだ。
根本的に。

「ん〜〜〜〜?あれ〜〜〜〜?」

その時。
すっ呆けたような、陽気な声が。
しかし解る者には解る、剣呑な感情を含んだ声が。

「おや。長崎さんじゃないですか。」

「あ、ど、っ…どうもっ…」

どさっ、っと。
大男が床に放るように下ろす。

「どうしたんですか?今日は。臨時休業って張り紙だしてたはずなんですがねぇー?」

「あっ、そのっ……えっ………」

しっかりしろ、しっかりしろ、もう時間がない、もう時間がない。
いまだ、今こそ、俺が、俺が声を挙げるときっ!!!


そして、地獄が。



「お金貸してくださいっ!!!!」



初めて出した大声から、始まった。

275保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:36:23 ID:T8QZhQM6
そして。

「ほぉほぉ。へぇー、それは興味深いですねぇ。」
「いえ、ウチところでは一度に三十万までって決めてあるんですがね。」
「じゃあ特別に、特別ですよ?おいくらでしたっけ?……いいでしょう、お貸ししますよ。」
「今晩にはご返却願えるんですよね?でしたら当方としても歓迎です。」
「では今晩、お伺いしますね。行ってらっしゃい。」

こうして。
臨時休業となった事務所の二階から、サングラスをかけた男……
池田 耕太(イケダ コウタ)は、走り競馬場に向う愚かな男の背中を見送った。

「……いいんですか?」

「いーんじゃないのー?」

「あれの話を信用した訳ではないのでしょう。……まさか。」

「……親父だっておんなじ方法で押し上がったんだ。うまく行くとは思ってねーけどなんかの足しにはなるっしょ。」

「……俺にはマイナスが勝ちすぎているようにしか思えませんが。」

「ま、いざとなったら。」

がらがらっ。

池田が自分の事務机をあける。
二重底の引き出しをボールペンの芯で持ち上げると。

「こいつで片ァつけるさ。」

暗いので良く見えないが、それはかの有名な。
雑な鋼材、ガンブルーがむき出しの拳銃。グリップに星マークが見えるからトカレフだろう。

窓の外。
暗雲が忍び寄っていた。

276保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:37:22 ID:T8QZhQM6
わぁあああぁあぁあああああああああああああああ……………………

大歓声の沸き起こる、パドックを見渡せる特等席。
彼が確保した席だ。
その両手には馬券がぎっしりと握られ。
震える全身を押さえながら、来る成功を確信し。
こみ上げる笑みを押し殺す事を本気でやっていた彼だったが。
徐々に曇り始めた空に気がつかず、ついにレースはその火蓋を切り。


がちゃぁん!
各馬一斉にスタートッ!!

少々出遅れた。気もする。
しかしドキドキが止まらない。

先頭は二番、続いて八番、三位争いが早くも激化しているッ!!
ここで出遅れたか九番ッ!前に出られないッ!

疑うことなく、しかし一片の余裕すらなく。
こみ上げる嬉しさに体がはちきれそうになっていた。

第一コーナーッ良い曲がりだ二番、今注目の****ッ!
続いて綺麗に横に並んで八番、七番、四番!!

さぁ来い、さぁ来い、来るんだ、来いッ!!
俺に金を運んで来い。俺に成功を運んで来い。


しかし。


あーーーーーーーーーーーーーーッ!!?
ここで転倒ッ転倒ですッ!!大混戦ッ!


大混戦ッ!!!


さぁあああああーーーーーーーーーーーーーっ




一気に血の気が引いた。
体に力が入らなくなった。
鼓動さえ止まっていた。
なにがなんだか……


あれ………?




運命、は…………?




ねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーよwwwwwwwwwwwww
バーローwwwwwwwwwwwwwww
あるわけねーーーーーだろwwwwwwwwwwwwwwwwww

277保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:37:59 ID:T8QZhQM6
そして彼は、誰も居なくなった観客席で。
ただ雨に打たれてしばらくを過ごした。




しかし他に帰る場所も無く。
思考停止のまま、彼はアパートに行き着いた。
もはや自動的に。
何も考えずにノブを捻る。
ただいまも言わなかった。

そして、言う必要も無かった。

「やぁ、おかえり。」

「………ッ!?」

池田だった。

「なんでここにいるんだ、みたいな顔されましてもねぇー。私は債務の取立てに来ただけですよ。」

とんとん、と腕時計を叩く。時刻は禁止時刻に届いてはいたが彼らにその法は通じない。

「え、あ、あのっ…」

「みなまで言わなくてもお〜け〜ですよ。大体解ってますから。」

飄々とした態度。
その威圧感の無い風貌に少しだけ思考が戻る。
だから、何を言わんとしているのかが……

「えーと、あったあった。ここにあなたがウチで借りた分の借用書あるんですよね。えーと?わぁお。こりゃすごい。」

「………………ッ!!!!」

言わんとしているのかが……見えてきた。
マグロ漁船かなにかだろう。体で払えと言い出すはずだ。
もしかしたら臓器かもしれない。金額によって変化するだろう。

う…………

278保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:38:39 ID:T8QZhQM6
うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

ああああああああああああああああああああああああああああああああああ。

ぁぁあああああああああああああああぁぁあああああああああああああああああ。

どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうでしょうどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう


混乱。
パニクる。
殺される?
殺される?

殺されるっ!!!?

ガタガタと震えて立ったまま泡を吹き始めた彼に、池田は静かに言い放った。

「あんた。………女の事、聞かないんだな。」

「…………あ。」

「………ま、うすうす感づいてはいたけど。」

池田は、本当はこんな事を言うべきじゃないんだが、といった風に少し躊躇してから。

「ホント最低だな。」

吐き捨てるように、しかし呟くように。
侮蔑の意志はありながらも、目の前に対象者がいるにも関わらず、矛先を向けていないような声だった。
そして。
返す言葉は、無かった。

「っても、別にとって食ったりはしねぇよ。俺はそういうの嫌いだから。」

砕けた口調になった。ビジネス開始の合図。

「それは、あんたの行動次第、って事に…なるな。」

279保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:39:19 ID:T8QZhQM6
もったいぶった口調は、否応に彼の恐怖心をあおった。

「別に大した事してこいって訳じゃねぇよ。ただ、マジメにやれば――いいか?マジメにちゃんと仕事を果たそうと努力すれば――貸した金は、チャラにしてやる。」

「……!!」

「どうだ。やるか?」

「……!」
こくこくこくこく。

もはや言葉すらも失うほどに退化してしまったのだろうか。
会話すること自体が激しい恐怖なのか。

「もし成功して、その上で俺たちに迷惑がかからなきゃ、それ以降の二人の安全も保障してやる。少なくとも俺の力の及ぶ範囲でな。」

「………」

「仕事の内容を伝えるぜ。ちゃんと理解しろよ?」

そういうと、ひらひらと先ほどからはためかせていた紙を裏返し、それとペンをちゃぶ台の上に載せ、マッキーを片手に説明を始めた。

「ここから車で二十分ほど行った場所にな、フーゾクがあるんだ。まぁどこんでもあるやつだけどな。」

きゅきゅきゅっ。

黒いマジックが紙に歪な四角を書く。それがどうやら店舗らしい。
さらにその横にきゅきゅーーーーっと二本ばかり線を引く。間隔がまちまちのふらついた線だったがそれが道路らしい。そして、その道路とは反対側に、小さい四角……いや、もはやただの黒い点のようなそれを書くと、面を上げて向き直った。
釣られて顔を上げる。目が合う。逸らし、また紙を覗き込んだ。

「これ車な。」

とん、とん。マジックの先で黒い点を叩く。
続いて、道路側。店から少し離れた地点。そこを叩く。

「あんたを、ここに置く。」

…………いったい何をやらせるつもりなのだろう、そう考えたとき。

「んで、この店から中国人のおっさんが出てくるからそいつを――」

するり。
イチキュッパの安いスーツの懐に、まったく気が付かない程に、自然に収納されていたそいつを取り出す。

「――これで、殺してもらう。」

意外なほど小さく、意外なほどありふれたように見えるそれは。

ええそうですよ、銃ですよ。

「弾は二発しか入ってないからな。工夫しろ。」



えーと。

なにがなんだか解らない。



「んや、簡単な事だ。ちょっと行ってちょっと殺してくればいい。」

280保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:40:02 ID:T8QZhQM6
殺すって誰を
殺すって誰が
殺すって如何に
殺すって何故に
法律は、モラルは、その後のことは。
俺の身の安全は、確証は、そういえば、彼女の身は。

無理。
絶対無理。

キョドった。
ビビりまくった。
どうしようもないほど、逃げたかった。

玄関のほうを無意識に向いてしまう。
走り出して、このまま逃げて……逃げ切れるだろうか。
いや、それじゃ彼女はどうする。でもどっちにしても……

その視線を、体を横向きにそらし、池田が遮った。
腕を組み軽く首をかしげるような格好で、池田は言い放つ。

「逃げるなんて、 絶対に許さないよ」

「ひっ」

嗚咽。
もうどうすればいいのか。

「じゃぁ早速だけど行くぜ。深夜に見たいアニメあるから速く終わらせたいんだ」

「そっ……あ、……っ!!」

「んー?なんかさっきっからあんた全然話せてないぜ。病気か?」

「…り…」

「あー?」

「無理…です…自分には…出来ません……」

281保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:41:23 ID:T8QZhQM6
ほとんど聞こえないような。
本当に。
死んだほうがいいんじゃないかと思うほどに。
情けない声だった。嗚咽交じりで。矛盾してて。覚悟もなくて。ひたすらにヘタレで。
それは殺すという行為の悪に対しての拒絶ではなく。
ひたすらな逃げから来る拒絶である事は明白であった。

「んー、でも、ダメ。」

さらりと受け流すようにそれだけ言い放ち、手っ取り早い手段として池田はすたすたと歩み寄る。
安くところどころ擦れた畳の上を小汚い靴下が顔を伏せただ泣きじゃくる長崎に近づき、そして。

べちっ!

蹴った。

「――ぶッ」

顔面。蹴り上げるように。さらに続けて、

ずぐっ

「っがぁあああああああああ!!」

みぞおちを踏み込んだ。じりじりと力を入れて。

「ひぃっ…い、いたいっいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいぃぃいいっあああああああ
や、はな、どけてったすけぎゃぁあああああああああああああああああ」

「んー。大丈夫大丈夫。痛いのは踏んでる間だけだから。」

「潰れますっつぶれるからぁあああああああああああああああああああああああどけてどけうがぁああああああああああああああ」

282保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:42:13 ID:T8QZhQM6
ただ叫んで助けを求めるだけ。
もがいてのた打ち回って踏みつけられて。
小さなアパート全体が揺らぐ振動は成人男性の無様が原因である。

「ほいっと。」

足をどける。その途端、這うように逃げ出す長崎。
しかし、それは見越したことで。

ごっ!

無造作に振り出したつま先は丸められ、それが楽にうつ伏せの首元に入り。
簡易版の『延髄切り』。脳が揺さぶられ、動揺していたために意識は簡単に飛んでしまった。

「ぅあっ………」

ぐったりと動かなくなったそれを見下ろし。
池田はとてもとてもつまらなそうに、それを担ぎ上げ、レンタカーの後部座席に放り出し。
安全を確認してから、丁寧な運転でその白いカローラは雨の降る夜の街に消えていった。

――わざわざ暴力を振るったのには理由がある。
まず、恐怖心を与える。
これで強迫観念は出来上がったはずだ。
ついで暴力に感覚を麻痺させる。判断基準は崩壊する。

そして気絶させ、否応ない状況に誘い込む。

ただの馬鹿なら、ただの馬鹿でも銃を持てば調子づきかねない。
だからこその二発。
そして、自分たちの痕跡を残さないように。もしだとしても池田と言う名前もあの店舗からもこちらの情報は漏れないはず。
あれが警察に捕まろうと、華東会……ここ最近動きの激しい大陸から来た商売敵にとっ捕まろうとそれを仕向けたのが自分であることは果たして明らかにはならない。
サングラスに安物のスーツ。
いかにもな格好は一重に、印象を消した結果でもあった。

そう、高々300万で連中にアクションを、それも捨て身のアクションを見せられるなら決して高くは無い。もっとも、へっぴり腰だったら舐められるだけでオシマイだが。そうならないように『処置』は施した。池田はこの計画に自信と言うでもなく、確信を持っていた。そういう男で、そのように世界は動く。

そういう人間がいるものだ。

283保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:42:51 ID:T8QZhQM6
果たして。
適度に人通りのなくなった雨の打ち付けられる風俗店が立ち並ぶ一角。
本当に、ほんの二十分。
あっけなく、線はまたがれ、池田は長崎を、ただのヘタレを『人殺し』にする準備を整えたのだった。

「……オイ。起きたか。」

「………………。」

震えている。がちがちと定まらない歯の根が鳴る。
瞬きをせず、呼吸は浅く、身をちぢこませ。
ただただ、許しを請う。誰に対してかは知らない。池田の興味はそこには無い。

「心配しなくってもいーぜ。相手は一人だからよ。『ちゃんと殺せば』逃げる事も出来る。その時お前を追う借金はもうなくなってる。既にお前は自由に足を掛けてる。」

すらすらと。どうでもいい事を池田が言う。

「あのセダンに乗ろうとするおっさんを、その辺で待ち伏せて撃てばいいんだ。簡単だ。そしたら、もう、逃げていいぞ。」

「………………」

洗脳。
そんな上級なものではなかったが、今の長崎にはそれでも十分な逃げ道で。
今すぐにこの状況を終わらせる、自死以外の方法。
渡された安っぽい拳銃。
言うにも聞くにも簡単そうな仕事。
それだけで。

「まじめにやれよ。まじめにやればきっと……『神様』も、助けてくれるからよ。」

その言葉を最後に、やっと長崎は自分の足でアスファルトに降り。

「終わったら……帰っていいんですよね……」

「ああ。どこへなりと。」

それだけ会話して、傘もささずにフラフラと。ネオンの影に入っていった。

284保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:43:52 ID:T8QZhQM6
それから池田は一本タバコを取り出し。
車内でそれを吹かしはじめ。

「………人間って……面白っ!」

池田は意味もなくそんな事を呟く。
先ほど作戦概要を説明した際に使った紙。
くしゃくしゃに丸めたそれを開く。
それは。
あのアパートに転がっていた紙だった。
茶封筒に入った紙だった。
何の気なしに開けた。
興味本位だった。
やけにこれ見よがしにおいてあった飾り気の無い封筒。
別段驚きもしなかったし、だったらどうだと思うものでもなかったが。

やはり、これを直視するのは、池田としても辛いものがあった。
ゆえに。

「恨んでもいいけど、何かしようとは考えるなよーっと。」

くしゃくしゃと丸めたそれを放る。
雨に流されて、ころころと転がり。
やがて大きな流れに乗って、排水溝へと消えていった。
ようやくエンジンをかける。
あー、そうだ。
今日でハルヒが最終回だ。今日のも録れば全話揃うから…

「録画用DVD買って帰るか……」

そんな夜であった。

285保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:44:27 ID:T8QZhQM6
長崎は。
雨に打たれながら待っていた。
ビルとビルの狭間。
暗がり。
背後をしきりに気にしながら。
手には一丁の拳銃。
心には怯えと恐怖。
それだけ。何も考えない。
考えたくない。
ただ、すぐにでも。
『おっさん』が出てきたら撃つ。
それだけ。
そうすればまたあの日々に戻れる。
帰る。

ただそれだけを繰り返しながら待つ。

そして――来た。

雨の音が強い。しかし、暗い道、店の光に照らされたそいつは間違いなく『おっさん』で。
しかしまだ出ない。出ない。
おっさんがマイカーに向う。その足取り。
一瞬見せるであろう背中。
片手で傘を持ち片手をポケットに突っ込んでいる。
明らかに、キーを捜している。

そして運転席のドアの前に立つ――

今。
するり。

影から現れる。
音は無い。あっても雨が消す。既に裸足だった。

がちゃがちゃっ……かちん

キーがロックを解除する。銃を片腕で構える。身は隠さない。ただ正面に捕らえる。

286保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:45:02 ID:T8QZhQM6
じゃきっ…がちんっ。

キーが引き抜かれる音。
ドアに手を掛け、引いた音。

ここで。
必中距離に入った。
そして。

ちきっ。

――引き金を、引いた。
衝動。
興奮。
恐怖。
早い話が、混乱。
ものすごい量の感情の奔流が脳を揺さぶる。
だから引くには相当の力が必要で。
その、気配…どうしようもなく体立てる音、心音、血流、ざわつく皮膚。
だから、引きしろがなくなるまで。

おっさんが、振り返っ

ばん!!

反動。
びぃん、と肩から突き抜けるように。
閃光。
捉えることは出来なかったが、目にちかちかと焼きついている。
轟音。
想像以上でも以下でもない。

おっさん。
右脇腹を、消失していた。
かのように見えた。

287保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:46:16 ID:T8QZhQM6
FMJはおっさんの脇腹を貫通し、さらにいくつかの肉を殺ぎ取っていった。
脆い。筋肉も細胞も、脆い。
恐らく他の臓器…小腸大腸はもちろん、あるいは肝臓も。
中国北方工業工司製。鉛を軟鉄で被甲し、鍍金したFMJ.
貫通力が高く、しかし今だばだばと血が噴出しているのは肝動脈を傷つけることができたからだろうか。
長くは持たないだろう。
しかし、おっさんはまだ動けていた。こちらを振り向こうとしたその状態から、自身の身に起こった事態を一瞬で整理し、背後の暗殺者(そんな高級なものじゃないけど)から生還するべく、取った行動は。

きちんっ

びぃぃぃいいいいいいいーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!

おっさんが抜いたのは、小中学生も持っている程度の品物ではあったが、実に侮れない音域を備えた防犯ブザーだった。助けを呼ぶには効果的だ。ちなみに携帯に付いたミッフィーのストラップがそれだった。似合わねぇなぁ。

そしてそれは、チキンな長崎の恐怖心を大きく揺さぶるものだった。

――だぁん

抵抗…は、したものの、後はくず折れるだけと言うほど出血を被ったおっさんに向け、さらに残りの一発を撃ち込む。
膝をついたおっさんの脳が吹き飛ぶのが見えた。

――死んだ。

撃った。殺した。死んだ。吹き飛んだ。殺した。殺した。殺した。殺した。
怒涛のように押し寄せる思考を無理やり押さえつけ、とにかく逃げると言う最大目標を実行。
言われたとおりに、その場に銃を放棄して。

長崎は裸足のまま、雨の中を。
犯行から、警報音から、現場から、自分を追い立てるあらゆるものから、逃げ出して、走った。

288保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:47:55 ID:T8QZhQM6
――その後。
あっけなく、逃げも隠れも出来ぬまま、長崎は容疑者として手配される事になる。
まったくの偶然に、長崎は県警が彼女のアパートを押さえ、長崎を待ち受けている事を発見。
その情報源は捜査ではなく、垂れ込み。
匿名の情報により、華東会に借りた借金のカタに暗殺の依頼を受けた長崎が、同・華東会日本関東支部後見人、馬 正角(マー チョング)を殺害した事がほぼ断定される。

目撃証言等にあわせて、朝方帰宅した同居人、

最上 みちる 

の任意同行により得た情報、すなわち犯行当夜、夜も遅いと言うのにサングラスをかけた893風の男が現れ、

『イ尓好ー!あw背drftgyふじこlp;@:「」...........』

と中国語らしい言葉でまくし立て、それを理解できない風でいると、やや重苦しそうに、日本語で

『どうも夜分遅く申し訳ありません。長崎さんはご在宅でしょうか。』

と言いだした。まだ帰ってきていないと答えると、

『あーそうでしょうね、実は長崎さん事故に遭ってしまわれまして……実は少々危ないかもしれません。至急病院のほうまで来ていただけますか?』

あわてた彼女はすぐに支度を整え、その男の用意したタクシーに乗り込んだ。
そして男は、

『自分は長崎さんのご両親の方にも行かなければなりません、先に行っててください』

と言って、彼女を乗せたタクシーは発進した。
その後、彼女は県内で一番大きい病院に運ばれ、そこで受付に長崎はどこにいる、と問うも、
そのような患者は来ていない、もし担ぎ込まれた重篤患者だと言うのなら、名前を確認できていないものがいる。
ERはその角を曲がった奥だ、必要が無ければ立ち入らないで欲しい、座って待ってろ。
と言われ。

そうして彼女は明け方までそこで待ち続けた。
祈り続けた。
しかし、午前五時。
緊急処置を必要とする最後の一人まで見送ったところで、彼女はそこに長崎がいない事を知る。
ケツの穴に悪ふざけでゆでたまごを突っ込み抜けなくなり、やむなく通報し処置を受けたバカな宴会大学生を見送りながら、彼女は思案した。
その場で受付に頼んで、県内と隣接する件の病院にも問い合わせたが、長崎はどこにもいなかった。
これは明らかに。
なんらかの思惑による彼女の誘導であったと考えるべきで。

どうして先に私の所にこれたのだろう?

彼の所在としては正しい。しかし彼は今現在住所不定だ。あくまで居候、ヒモでしかない。それを彼が誰に公表したと言うことは無い。いまだに彼女は契約上一人暮らしなのだ。そのアパートに、長崎を求めて人が来た。実家よりも先に。

そもそも、彼はなぜ最初に広東語だったのか、が引っかかった。それも警察に報告した。

彼女は話しながら、見えぬ長崎を求めていた。
彼に速く伝えたい事があった。

彼はどこにいるの?
彼は無事なの?
なぜ警察がこんな事を聞ききにくるの?
彼に、

なにがあったの?

289保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:48:27 ID:T8QZhQM6
その問いには、その時点で警察関係者は答えを持ち合わせていなかった。
しかし証言から類推。
既に概要は見えていた。

――内部抗争。その引き金である。
そしてそれを裏付ける証拠が出てきた。

彼女の許可を得た上での家宅捜索……の、ようなもの。立会いの上で、同居人と言う不特定な人間の痕跡、足跡を洗う。
そして出てきた。

長崎が華東会に多大な借金を作っていたこと。
その催促を受けていたこと。
そして訪れたと言う中国人らしき男。若かったと言う。

華東会はここ十年ほどでこの辺一帯に大きな力を持つようになった中華系マフィアである。
近年の捜査でどうやら内部に亀裂……旧体制派と新体制派……初期においてこの街で地元ヤクザと抗争を繰り広げ、鉄板事業で手堅くシェアを確立した旧体制派と、この一年くらいで流入してきた本国の幹部、呉 化竜(ウー ホンロン)を中心とする、闇金、ワンクリック、不法請求、クラッキングを含めた情報搾取、その他インテリ層的活動で一気に規模を拡大させている新体制派。呉は、瀋陽は東北大学の出でなるほどコネばかりが目立つが、それだけに止まらない優秀な人材である事は明らかだった。
その新体制派だが、その急進力ゆえに旧体制派をまとめて失業させる脅威を持っていた。当然これに反発するも、この不景気である。早々使える奴ばかりでもなく、結局後見人と新幹部との間で緊張関係が続いている。

さらによくない事に、彼らには共通の敵がいなかった。

現在ちまちまと闇金や献金で繋いでいる地元ヤクザもいるにはいるが、それは既に威厳を失い、限られた枠の中での活動を余儀なくされている。
まぁ、そんな状況を許している警察の肩身が一番狭いんだけどね。

そして今回の後見人殺害である。
反発した歴戦の兵が一体どういう行動に出るのか。
実行犯には死と言う制裁を。
差し向けたものにはやはり死の制裁を。

昨晩の殺害現場。地元警察が到着するのと、風俗店店主の通報により駆けつけた華東海構成員到着はほぼ同時だった。
現場を保存する間もなく、急をつけてきた若い巡査二人は五人の実戦経験を持つ構成員と小競り合いを起こし、公務執行妨害でこの五名を確保、この巡査二名が軽症。
なにせタイミングが悪かった。この一件により華東会は警察を寄せ付けなくなっている。

しかし華東会の手は長い。
一見して中国製だと解るトカレフ、華東会が十年前から使用している7.62mm×25、軟鉄合金被甲=フルメタルジャケット。明らかな内部犯の示唆。それを補いあう証拠群。

これはもう決定的かも解らんね。
ただ、決定的過ぎる、と言うのもあるが。

290保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:49:41 ID:T8QZhQM6
そして、その間にも長崎は逃走を続け。

この事態を牽引した池田自身、長崎の意外なしぶとさに感心していたりした。
ちなみに、華東会は独自のルートで警察内部の情報をゲットしており、使われたトカレフの情報はもちろんのこと、長崎の名前、顔写真、住所までが明らかになっていた。

そして警察はそれを見越して長崎の実家に護衛を配置。
何とか華東会の手がかかる前に保護する事に成功。
この情報により華東会は池田を捕らえてから黒幕を明らかにしようと言う姿勢を明らかにし、明確な行動をはじめたが、すぐに不審に気が付く。
すなわち、長崎の居候していたと言うアパート、長崎自身。
彼ら自身がいくら洗っても、長崎らしき人間が自分たちから金を借りていった履歴は見つからなかった。
ただ不幸なのは、ここでも派閥間情報伝達の不十分があり、新体制の呉は正式な『長崎など知らない』、と言う声明を出すものの、結局はいたずらに不信を招くだけに終わってしまった。

つまりは。

池田……地元ヤクザは若頭による、漁夫の利作戦は、着実に進行していたのであった。
そのためにわざわざフットボールアワーの石尾のマネまでしたのだ。

約束どおり、池田は借用書を破棄し、手動による操作ではあったが借金を『チャラ』にした。
ついで、警察もガードをつけていた最上に生活の保障すべく、ド田舎のセーフハウスをあてがう。
なんて言うことは無い。
彼女の実家のほうから彼女を誘わせた。
長崎の名を使い、最上の両親に金をつかませ、こちらに都合の良い事実を教え、最上みちるを隔離する。捜査からも、抗争からも。これは池田にとっても重要な作戦の一部分だった。ぼろが出るとしたら、二番目にはこの女だ。
はたして最上は命の危険を伴う生活から離れる事を決意。
それは同時に。

長崎の帰りを待つ事をやめると言う、彼女にとっても苦渋の多い選択でもあったのだった。

そして一番厄介なのは。
長崎自身。
――逃亡生活は、そろそろ佳境に入りつつある。

池田は当初、長崎はすぐに警察に捕まるものだと考えていた。
そうなれば警察は己から抗争をあおるような真似はできないわけで、長崎の証言もしばらくの間は封殺される事は目に見えている。そうなれば再び池田が第二、第三の小細工を仕掛ける。
三年……いや二年。
それで、伸びた池田たちで完全に押さえ込める規模まで華東会支部を弱体化させる。
その思惑を達成するには、ここでくじかれるわけには行かないのだった。

291保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:51:29 ID:T8QZhQM6
だから。

事件発生から二週間後、池田が長崎に金を貸していた事務所を、念のため畳んで移ろうと言う引越し作業中。
拳にバンテージを巻き、フードを目深に被り、ジャージに薄いスニーカー。
そんな、時折シャドウボクシングを交えながら走ってくる男が、そのままいとも当然のような足取り、小走りのまま池田の事務所に飛び込んで。

池田はダンボールを抱え、悪い事に背後を晒していた。
その背中。
やはり脇腹を目指して、凶刃が迫った。

「んもーだから何もするなっていったのにさぁ。」

げしっ。

あっけなかった。

池田強かったです。

ナイフごと後方に吹っ飛ばされた。

「あんた……っ」

長崎が転がった姿勢のままうめくように。

「俺の安全も保障するって言ったろぉっ!?」

その叫びにもまったく動じず。

「言ってねーよ。」

まるでここに来る事まで予期していたように。

「んでもまぁ、しっかりここまで来てくれたことだし?なかなか努力してるじゃねーの。」

飄々として言った。

「あんた俺と彼女の安全を保障するって言っただろぉ!?」

292保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:52:40 ID:T8QZhQM6
自暴自棄。絶望。それが今の長崎の行動力の源だったりした。
でもなきゃここまで来れやしない。

「言ってないよ。あ、でも女のほうは多分大丈夫だ。安心して良い。」

「俺はっ!?」

「知らね。あ、でも早く警察に捕まった方がいいよ。中国人に捕まったら殺されるよ?」

「なんでこんなっ」

「そりゃあんたの責任だろ。議論の必要も無い。」

「俺はそうすりゃ良いんだよ!?」

「知らねーよwww自分で考えれやww」

突き放した発言。
それもそうだ。
彼を助けるものは居ない。
居ない。
いや。
居る。

「彼女は…彼女はどこにいるんだ。」

結局そこかよ……

「それは教えられねぇなぁ。だってそこにお前が言ったら俺が約束した『安全』がなくなっちまう。」

やきもき。
どうすれば良いのか。
考える。
愚鈍な思考。
どうしても前提が間違っている。
だから解らない。

そして池田はどうでも良かった。

「あんたが捕まればいいんじゃねーの?」

293保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:53:24 ID:T8QZhQM6
あっさり答えを出す。

「それ…はっ…」

「あんたがそこでお縄にかかるって言うなら、教えてやっても良いぜ。」

「……でもそれ」

「もう一つ条件があるけどね。……なに。まだ自分の身だけが大事かよあんたは。」

「そんなのっ」

当たり前じゃないか。

「でもあんた。既にあんた一人の身じゃないだろ。…あー。知らないんだったな。」

池田はどうでも良かった。

「あの女妊娠してたぜ。あんたの子だろ?」

「……!」

「まーそんな訳だ。そうだそうだ、良いこと思いついたぜ。

 俺はあんたに今の彼女の現住所を教えても良い。ただし条件がある。
 その後、この街に戻って警察に出頭する事。
 その際、こちらの言ったとおりに証言すればいい。まぁそこまでいくとボロがでかねないからなー…
 まぁ最悪、無言を貫くだけでも良い。そうすれば最後にあの女に会わせてやっても良い。どうだ?」

「でもっ」

「解ってねぇなぁ。」

一拍おいて。

「もうあんたはお終いなんだよ。約束どおり、『二人』の身の安全は保証する。あんたが捕まる事でそれは確定する。
多分ムショ暮らしもそんなに悪いもんじゃないだろー?それでやり直せばいいじゃないか。
何年かかるかは知らんけどな。それにあの女も――まぁいいや。で、どうする。」

「あ……」

「どうする」

どうする。
その言葉だけがぐるぐるとまわった。
長崎はここにいたりようやく、自分の愚かさと矮小さを痛感し。
そもそも身を満たしていた絶望とあいまって。
明示された僅かな希望。

「……教えてくれ。」


そして。

294保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:54:21 ID:T8QZhQM6
_________________________________________________________


「なるほどねぇー。」
臼井が興味もなさそうに呟く。
「ええ……もう、自分には彼女しかいないんです。だから、こうしてこの電車に乗って。」
「なるほどねぇー…げぇえっぷ。」

ビール臭いガスを噴きながら、なんかもうこいつ最悪じゃねぇ?www的な座り方をした中年が、幾分若い男の向かいに座っていた。

ただの同乗者。
それだけだった。
だが臼井は何の気なしに、同じく辛気臭い顔をしながら転寝するこいつに酒を勧めてみた。
それが、以上の身の上話である。

「もし彼女にまで見放されたら、自分にはもう生きる意味はありません…」

「生きる意味ねぇー。そんなの、果たしてどこまであるもんかねー……」
臼井自身、生きる意味を持っていた男ではあったが、それは先に失ってしまっている。
嫁はもともと愛情などない冷め切った関係だった事もあり、彼から手切れ金(使い方間違ってないか?)をふんだくってどこかへ行ってしまった。大方、男のところだろう。別に良い。

年金も半分持っていかれた。
少々不服ではあったものの、確かに持っていかれる理由としては正しい。
彼は実際あの嫁に随分助けられていたと言っても良い。
ただ、言うなれば家政婦と言って良いような関係にそこまで払う義理があるかといえばそれは不明だが。
しかし、争う気も無かった。
どうでも良かった。

295保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:55:03 ID:T8QZhQM6
必死に働いてきて、その結果がこれか。
そういった諦観が今、臼井を支配していた。

対して。

今までだめ人間やってきたツケがここに来た。
だがしかし、やり直しが効くものであると言う希望が、長崎を動かしていた。

「自分が言ってもしかたないですけど。」

随分しおらしくなった、歳相応の発言力をようやく獲得した長崎は言う。

「諦めなきゃ、きっと良いことがありますよ。まじめにやってきたあなたです。……

『まじめに生きてれば、きっと神様も助けれくれる』

自分はそう思っています。」

それは、誰の言葉だったか。

296保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:55:57 ID:T8QZhQM6
臼井は鼻を一つ鳴らしただけで。
具にもつかない意見だと振り切って見せた。

神、天使、悪魔、 奇跡。

魔法、呪、運命、 奇跡。


そんなもの。


「ゲームのやりすぎだ。」


臼井は缶に口をつけながら。

「良い歳してガキみてぇな事いってんなよ…全部自分の招いた結果で、自分のもんなんだよ…」

それでもどこかで望んでしまう。自身のその弱さを断ち切るように。

「神様とか。どうせお前も無宗教だろ。いつまでも現実にてめぇの幻想重ねてちゃダメだぜ。」

なじるような物言いだったが、長崎はそれを受け止めていた。
そして臼井自身。
どこかで、そういったものを信じたいくらいに、もう、なんにも無いのである。

電車は走り続ける。
目的地は否応に近づく。
臼井が先だった。

正直、億劫だったと言うのもある。
少しでもこの現実から離れたいと思っていたと言うのもある。
だからこんな下らない話をしていたのだ。
だが、受け入れなければならない。
それが、良くも悪くも中年の、臼井の覚悟。

297保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 21:59:12 ID:T8QZhQM6
「そろそろだなー。」

重い腰を上げ、さらに重い荷物を下ろす。

「そうですか。自分はまだまだ先です。」

「ん……。」

小銭入れを覗き込んだ臼井が唸る。
そうだった……売店でビール買った時に小銭を使い果たしていた。

乗車賃は1280円。

小銭入れの中には、775円。

「……十円あるか?」

「いいですよ。」

長崎にちょっとのためしで聞いてみる。
それは少し、心を許した、袖触れ合う中だからこその、臼井の提案。

銅の硬貨を一枚受け取る。千円札と小銭を手のひらに握りしめ、存在に意味のなかったつり革に手を掛け、徐々に迫ってくる新しい土地の駅を望む。

ああ……あそこか。

小銭入れをポケットに突っ込むと、何かに当たった。

それを取り出してみる。
それは。



「……なぁ、いいものやろうか。」

298保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 22:00:14 ID:T8QZhQM6
黄色いハンカチだった。
いつか少女に借りたもの。
返す宛てもないからもらったと言う事にしていた。

彼を、ここに連れて来た、原因。

それを差し出す。

「……十円の礼にしちゃあ、出来すぎてませんか?」

勘ぐる長崎だったが、その口調は笑っていて。

「ほんとに偶然なんだがなぁー。」

臼井も笑っていた。
笑いながら。

原因と結果。
その中で、少しでも自分の行動に自信を持つために持ち歩いていた黄色いハンカチ。
それを長崎に、バトンタッチした。

「ありがとうございます。」

と、長崎が言うのと、電車が速度を相殺し、回生ブレーキもその動きを止め。
アナウンスも無く、その駅で止まった車両から、臼井はきつく照りつける日差しの中、降り立った。
涼しかった車内から、焼けたコンクリートの上に。
輻射熱。一気に肌から噴出す中年汗。

「じゃぁな。」

「はい。お話できてよかったです。」

臼井を降ろし、長崎を乗せた車両がゆっくりと動き出し、そして消えていった。
緑の中に、埋没するように。

ただ黙って。しかし。

うまく行くと良いな。

そう思いながら、見送った。

299保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 22:01:08 ID:T8QZhQM6
「……こりゃ、暑い……」

それはこれからの生活すべてへの不安だった。
白いものが出てきた頭皮に照りつける太陽。
ふと見上げると、田舎だからだろうか。やたらに元気な太陽。
目に強烈な光。やや視界が白くなる。

その背後から


「お待ちしておりましたぁ―――っ!」

「……ッ!?」

やたらに元気な声。
この日差しの下でもまったく衰えないエネルギー。
それを彼は知っている。

「庁舎の掃除と整理はもう済んでますよー!今日から二人で頑張りましょー!」

「………あぁ?」

渡瀬 市子、だった。

「……なんでお前がここに居るんだ。」

それは当然の問い。
そして、少々はにかむように、その少女といっても通じそうな女は。

「お兄ちゃん……じゃなかった、荻野さんに頼んで、私も異動にしてもらったんです。」

「…はぁ?」

「いろいろ積もる話はありますけど……あなたを、追ってきたんです。」

300保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 22:02:25 ID:T8QZhQM6
――要約。
聞く話によると。

荻野は渡瀬の親戚…従兄に当たる存在で。
同じ『会社』に就職した、幼い頃から妹同然に過ごしてきた渡瀬の事をよくよく面倒見てきたのだと言う。
それは今なお変わらず。
ただ、中年に思いを寄せるその妹を何度か止めようとはしたものの、ここ最近ではすっかり諦めモードに入っていて。
どうにか臼井自身を相応しい男と変化させるべく画策していたのは良いが。
結局、この男はこの男で出来上がっているのであった。
そしてその変化は、渡瀬の望むところでもなく。

「荻野さんは私を気遣ってくれていたんです。本当に、それだけ。あなたに対しても厳しくなってしまった事、時にストレスをぶつけてしまった事を詫びていました。」

それに関して、臼井としてはそれ以上に思うことは無い。だが?

「……俺のここへの異動は。」

「それは、本当に、仕事としての決断でした。私も少し動揺してかなり厳しく問い詰めちゃいましたけど、これは本当みたいです。……実際、あなたの行動は必ずしもこの結果に結びつかないものではないと解っています。」

「それで…あいつはお前…」

「私が頼んできたんです。お一人じゃ辛いでしょうと思いまして。」

「それにしたって随分急な話じゃないか。」

「ええ。ですから、急に支度して、急に異動したんです。」

そういって。
いつも見ていた、満面の笑みを。

どこに居ようと変わらないそれを、渡瀬は浮かべていた。

301保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 22:03:09 ID:T8QZhQM6
――なんだよ。


臼井は考える。

そして周囲を見渡す。

『あなたはもう信用できません。』

それは果たして、荻野の本音であった事も確かだっただろう。
しかしそれは、彼のすべてを否定する言葉ではないことも確かで。

なるほど?

清涼な風。
溢れる緑。
セミの声。
人も、空気も、以前居た場所とは違う。

一からやり直すには……丁度良い場所かもしれないな。

荻野め。

粋な事をしやがる。

「……それじゃあ。」

「はい!」

「新しい仕事場に案内してくれるか。」

「はい。…頑張りましょう!」

こいつの元気も揃えば、なんでもできそうな気がした。

302保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 22:04:55 ID:T8QZhQM6
神が居るのなら、それは誰だかは解らない。
だが、今、臼井に希望と新しい人生を与える、助けてくれた存在が居るとしたら。

それは、荻野であったと言う事になる。
天使はあの銀縁メガネの嫌味男か……

だがしかし。
何もかもが。

「悪くない。」

臼井はそう、本気で思っていた。



-middle age No.1-

303保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 22:06:35 ID:T8QZhQM6

------------------------------


長崎は期せずして訪れた『声に出して話す機会』を得て、ようやく事実関係と自身の心の整理をつけるにいたろうとしていた。
しかし、結局重要なのは度胸、覚悟、勇気。
そういったものであり、しかしてそれらを捻出するのは十分な『考える時間」である事は確かであった。

「……すぅ」

空気を胸いっぱいに溜め込む。
動悸が明らかになる。
緊張していた。

彼女には予め、連絡をつけている。
駅で待っていてもらえるように。
ほんのそれだけ。
その場でUターンし、少しだけの猶予を持って、警察へ出頭。
そう考えていて、それ以外の選択肢を捨てた。

――それが一番。

責任と言うもの。
それにようやく手を掛けた。
あのおっさんのことを考える。
まだ良く、解らない。
けれど取り返しの付かない事ならば、清算も出来ないのであれば。
ひたすらに抱えていくしかない。
どんなに申し訳なく思っても、それは故人。

酷いようだけど、整理をつけてしまう。

304保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 22:07:46 ID:T8QZhQM6
ただ、もしも。

彼女が自分を拒絶したら。

十分に考えられる事ではあった。
今に至ってようやく心を入れ替える事に成功した彼ではあったが、それが信用に足るものなのかは明らかではない。
だから、もし、そうなったら。

生きる意味はない。
ただ彼女のためだけに。
それしか今の彼にはないのだ。
本当に矮小で技能もない彼ではあったが身を粉にして女子供一人どうにか手助けしてやれないわけではなく。
そこに起因する覚悟、それによりこうして希望を得て動く彼から、すべてを取り去ってしまうイベント。

それが彼女の拒絶と言う、非常に危なっかしいものなのである。

なんと言うべきだろうか。
なんと言おうか。

そう考える間に、瞬く間と時は過ぎ。

夕暮れが近づく時刻に、ようやく彼は目的の場所に着こうとしていた。

「……はぁ。」

溜め込んだ空気を吐く。

「……やべぇ、死にそうだ…」

正直な感想だった。

ぷしゅーーーーっ………

終点。後は引き返すだけ。しばし運転手も休息を取る。その時間。

かつ。

降りた。

305保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 22:08:20 ID:T8QZhQM6
ひぐらしの鳴く中。
赤く赤く染まった世界で。

彼女は、待ってくれていた。

「……ごめん。」

「……」

「俺が馬鹿だった。本当に申し訳ない。」

「……」

「これから俺は出頭する。出てくるまで、どれくらい時間がかかるか解らない。」

「……」

ただ無言を貫く彼女。
しかし、無表情には程遠く。
その顔を正面に見ながら、続けた。
言うべきことがある。

「また、ここに来る。」

「いつになるかは解らないけど、また来る。」

「もしその時俺を受け入れる気があったら…」

そう言って差し出したのが、あの黄色いハンカチだった。
それだけで、何をして欲しいかが通じてしまう。

そろそろ、電車が出る時間となった。

彼女はただ静止していた。
何も言わず、しかしその目は明らかに。

「最後に。」

電車の扉が開く。発射前。ほんの数瞬。

「楽しかったよ。ありがとう。

 今まで見てきたおっきな夢は、俺には叶えられない。
 だけど、またあなたと一緒に生活できれば、どれはどんな夢より幸せな現実になると思う。
 だから、俺は絶対また来るから。幸せにしたいと思ってるから。

凄く苦労かけてしまう俺を、どうか…許して欲しい。」

306保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 22:09:23 ID:T8QZhQM6
それだけ。
それだけを言って。
長崎は電車に舞い戻り。

扉は閉じ、箱は反対方向にゆっくりと進み始めた。

その中で。
遠ざかってゆく女を見ながら。
彼は心に溢れるものが、目から流れるのを感じていた。

いやまったく。
泣いてる女を見て感無量に浸る男である。

あらゆるしがらみがプラスに働く状況だといえた。

必ず帰る、必ず幸せにする。
だから今は。

歳相応の年季をようやく手に入れた男は、そうやって夜の帳が下りる方向に、消えていった。

-middle age No.2-

307保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 22:09:57 ID:T8QZhQM6
長々と続いたけど

以上ッ!

308二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/09(日) 22:10:53 ID:Gv51/mDU
乙ッ!
頑張ったなって感じ……。
最近長文してねぇなぁ俺orz

 さー俺も投下するぞーッ!

309二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/09(日) 22:11:26 ID:Gv51/mDU
♪Green greens 注意:アレンジのイメージ強め(;´∀`)
アレンジソースはここ http://sbfr.nothing.sh/special/0006_kirby/

森の砦は、子供の砦――。
大人には入れない、お菓子の家。

実際そうはいってないんだけどさ。
何が悲しくて大人まで守る砦になっちゃったのやら。
ま、ヒーローは一人じゃないみたいだし、大丈夫かー!

この森は、変だった。
子供だけが空を泳ぐ。滑る。
なんでだろう。
とにかく、村を守る。
家が無くても人がいれば、勝ち。
また作れるモノはおいといて、さあ――。
機械国家とやらと勝負しましょ!

310保冷剤 ◆xl4B3i0CLs:2006/07/09(日) 22:11:58 ID:T8QZhQM6
YURIAの男の子って言うよりEaglesのHotel californiaの方が似合うような内容になっちゃったけど

知らん。

311二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/09(日) 22:11:58 ID:Gv51/mDU
弓をつがえ、森を滑る。
木漏れ日が気持ちいい。
速いし、隠れる場所もいっぱい。
森が守ってくれるし、今のところ勢力差はトントンってとこ?
「そっちいったぞー!」
「あいよーっ!」
弓をすぐ、森が教えてくれる方向に向けて。
「てぇい!」
戦車に突き刺さった矢は、いきなり急成長!
大きな木になる!
もちろん戦車は押しつぶされて。
はい出た兵隊さんにいがぐりが落ちた。
「わーお、徹底的ぃ」

森が約束してくれた。
がんばったらその木でまた家を建てればいいって。
頑張ろう!
森のために、みんなのために!
さーあたしは頑張るぞ!
森よ、応援よろしくッ!
「ほーら、いがぐりに当たりたいのはだぁれかなー!」
滑って踊り、森を通る風があたしを冷やしてくれた。
冷静になる前に、踊って返す。
行っちゃうぞー!

312二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/09(日) 22:12:30 ID:Gv51/mDU
良く分からない。
僕には解っていない。
森が言うには、子供の想像力らしいけど。
想像力なら物書きの先生とか、いっぱいあるのに。
先生が言うには、自由だから。
知らないことが逆に力となっている、難しいなぁ。
僕は半端に知っているから力が弱いのかも。
その代わり、知ろうとする力を武器に。
――あ。
「エイミー、そっち2つ」
「はぁい!」
司令官ってわけ。
みんなの力を手伝う。
自由を手伝うのは、ちょっとだけ何かを知っている僕さ!
みんなより、知ることを強くした、僕のね!
さあ、声を聴かせてくれ、森よ!

鳥が僕の周りを囲んだ。
「伝達、よろしくね」
流石に前線までは届かないから、メッセンジャーに頼んで。
「頑張って!」
さえずりを返事に、鳥が飛ぶ!
僕も前に出よう……!
空を滑り、木をぬって。
もっと伝わる場所へ。
知ることを、
伝えることを!

313二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/09(日) 22:13:01 ID:Gv51/mDU
森のカバーを抜け、空に出た。
私は弓じゃなかった。
私だけ、なんか似合わない武器(なのかな?)だった。
森の上を滑っているのは最高だけど……あー、これ使うのぉ……?
しくしく……。
森と、アルの言う場所へ――。
滑って、回って。
ああ、なんか緊張してるのに楽しんでるなぁ私……。
――そこへ、まっすぐ。いっかいで。
うんっ!
声を頼り、そこへ私の獲物を大きく振りかぶり――。

「どっせぇ――――いッ!」
飛ばす。
ああ、はしたない声。
投げてすぐ、大後悔して。
「なんで病弱な私が丸太なの――っ?!」
心の強さって言われたけど。
とほほ。
あああ、あんなに砂煙あげちゃって……。
「鳥さんごめーん!」
いいよ、って。
私の周りをくるくる。
あううう、……っと!
うなだれる私に丸太が返ってきた。慌ててキャッチして、一息。
「はふー……」
ショックだよー……丸太女とか言われるし……。

314二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/09(日) 22:13:36 ID:Gv51/mDU
「どけどけーい!」
木刀で、風を切る。
風が森をざわつかせ。
木の実や枝が落ちていく。
それが全部、誘われるように切り裂いた先へ飛んでいき!
直にぶったたいても良し、
森の弾丸に任せるも良し、
ああ、この木刀はすげぇや!
さあ、森よ。
俺の武器をお誘いに。
みんなで守ろうぜ!

「っと! あぶね!」
栗鼠の鳴き声、緊急回避の合図。
「サンキュッ!」
落ちたどんぐりを1つ放ってやって。
「次も頼むぜ!」
尻尾を振って応援する栗鼠を後目、一気に突っ走る。
抉られた地面に木刀をこすり。
そうするとあっという間に若芽が生える。
森を生き返らせながら、俺は奔る。
滑る!

315二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/09(日) 22:14:08 ID:Gv51/mDU
滑る勇者は子供の勇者。
色々知ってはいないけれど。
それが夢を強くする。
大人に見えない夢を持って、大人の知ってる限界越えて、
今はそれを現実に。

      森は――。
村は――。
       僕たちが――。
  あたしたちが――。

  ――守るッ!

さあ行こう。
夢を力に、無知を原動力に。
大事な者を守るために!

*27分+リファイン10分前後。ああ、アレンジ最高w
なんかSTG作りたくなるノリでやってみた。

316二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/09(日) 22:42:21 ID:Gv51/mDU
カービィのアレンジしてる人が神すぎて想像がとまらんwwwwwwwww
2発目いくかもwwwwww

317二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/09(日) 22:59:55 ID:Gv51/mDU
♪green green's happy http://fz.bms.ms/#5 より

魔女の箒は、不思議の箒。
じゃあ、これはなんだろ?

止まらないの。
どうしよ。
変な箒。機械の箒。
遊びで乗ったら、止まらない。
「ぎゃ――っ!」
断末魔が空に。
あー私の人生ここで終わり?
って勝手に死んだことにしたら危ないじゃないかー!

止まらない、止まらない。
勝手に飛び回る箒。
公園は、公園はやめぇぇぇぇぇぇ!
木が、木がぁぁぁぁ!
必死に避けつつ、落ちかかり。
「って落ちればいいんじゃないの?」
……速いし高い。
うわぁぁぁ。

318二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/09(日) 23:00:54 ID:Gv51/mDU
空が流れ、緑が流れ。
マンションを壁扱いして上っていく。
うーん、そらは気持ちいいけど、止まってくれたり自由だったりの話だね……。
うーわ、どうしようどうしようー!
壁をかけおわった箒はそのまま。
「ああああああああ空はこれ以上上は嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
と思ったら宙返りした。
「ひーん! さっか……さっかさまぁぁぁぁぁっ?!」

誰か助けてくんないかなー?!
逆さまで木を抜けるのって怖すぎるーっ!
うあわーッ!

『そこの飛行物体! とまりなさーい!』
ああああ、警察まで来たって!
『ノーヘルはやめなさーい!』
「そこーッ!?」
うわーどうしよ。
この歳で警察沙汰とか洒落になんないよー!

319二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/09(日) 23:01:35 ID:Gv51/mDU
とかおもってたら加速した。
「あわーッ!」
一回転してくれて、ようやく正しい座り方になって。
あ――。
海にでた。

でも。
「とっまんな――――――――いぃぃぃ!!」

飛ぶ飛ぶ。
止まらない箒。
あー……今止まっても。
「う――――――み――――――ッ!」
ああああ。

*17分。 もっと速く書けるよな俺orz

320二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/09(日) 23:03:23 ID:Gv51/mDU
てなわけで
基本:ハイスピード
1:ファンタジー
2:サイバー+ポップ
のカービィ2本立てでした。

オリジナル? ……アレ?(;´Д`)

321隣りの名無しさん:2006/07/10(月) 01:58:51 ID:vmUyMWiA
GJです!!
明るく楽しげ、軽快さがあっていい感じでした!

最近スピード感溢れる曲が多かったので、こんなのはどうでしょう。
ヤミと帽子と本の旅人サウンドトラックより
夢影深遠
http://054.info/054_54513.zip.html
なお、造語なので正確な歌詞はないそうです。

322隣りの名無しさん:2006/07/10(月) 02:11:01 ID:vmUyMWiA
すみません忘れてました。パスは『とな板』です。

323二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/10(月) 02:21:58 ID:KYEAnbgE
あい、把握ー やってみますよ

324二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/10(月) 02:22:28 ID:KYEAnbgE
って、あれ
ライセンス言われた(;´Д`)アレマ

325隣りの名無しさん:2006/07/10(月) 05:27:26 ID:vmUyMWiA
ごめんなさい、間違えてwmaであげてしまいました…
http://054.info/054_54561.zip.html
mp3にしたので今度は大丈夫かと…

326二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/10(月) 20:29:21 ID:KYEAnbgE
>>325
遅くなってすんませ、やってみまー

327二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/10(月) 21:07:08 ID:KYEAnbgE
♪夢影深遠

夜はお嫌い?
夜が怖いの?

洋館で灯りも無いんだから、幽霊だと思った?
それとも――、
そう聞かれて、幽霊じゃないと思った?

怖いんだね、怖いのね。

かわいそ。
かわいそ。

328二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/10(月) 21:07:41 ID:KYEAnbgE
月夜の洋館、白い影が。
白い娘が、ゆっくりと。
相手の居ないワルツなのか、手は虚空を掴み。
視線は唯一の観客を見ずに。

静謐な空気の中、娘の息づかいだけ。
時折、ステップ。

真夜中だというのにカラスの声。
そして、影。

どっちでも、好きな方で。
関係ないし。
気にしないし。

どっちでも、どっちでも。

かちり、かちり。音がする。
何かも解らないが。
メトロノームのように。
ワルツを助ける、そんな音。

でも――。

怖くないよ?
ほら。

329二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/10(月) 21:08:11 ID:KYEAnbgE
踊りをやめた、白の娘。
少しずつその白を強める。
ドームの天井が、花咲くように広がって。
月の真下、銀に輝く白かった影。
見上げた娘は目をつぶり。
いつまでも、両手を広げ、揺れていた。

さ――。
一緒に、ね。

踊らなきゃ、

帰してあげないよ?

ぎこちない踊りと、慣れた踊り。
少年少女の奇妙なワルツ。

別の世界が開きそうな、そんな舞。
星と月が見守って。
それでも、なにか、おかしい夜。

わかるよ。
もすこし、がんばってね。

男の子は、リードしなきゃ――ね。

少しずつ、少しずつ。

330二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/10(月) 21:08:42 ID:KYEAnbgE
何かが変わる。
ワルツも変わる。
ゆっくり、正しく。
美しく。

何か、何か、変わってく。

そうよ、ほら。
1・2・3……。

変でしょ?
でも、
綺麗でしょ?

月夜に人影、二人分。
踊りが線から、円になる。

まわる、まわる、淀みなく。

月夜のワルツが、美しく。
月夜のワルツが、奇妙に。
まわる、まわる、まわる。

331二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/10(月) 21:09:13 ID:KYEAnbgE
これで、おわり。

踊り、覚えちゃったね?

……いらっしゃい。

*終わり ループ処理に困ったわい。
げ、27分orz

うーん、しかし、変わった世界がいい感じに作れる音だなー

332隣りの名無しさん:2006/07/10(月) 22:07:34 ID:Trgn7q6k
GJでした!!!
幻想的な感じで、引き込まれるようで。
二人の踊っているのが、自然と浮かんでくる感じがしました。

同サントラ内でも、この曲は特に不思議な感じのする曲なんです。
他の曲はある程度テーマがはっきりしているのですが、この曲だけはどうも掴み所が無くて。
で、二郎さんならどうだろうと思ってお願いしたのです。
綺麗な世界を、ありがとうございました。

333二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/10(月) 22:26:50 ID:KYEAnbgE
>>332
いやいや、有りがたいー
色んな世界が作れる感じがしたー。
また箒で魔女のパーティとかそういうノリが第一案だったんだけど、箒は前にやったので却下とw

実に、ああ童話だーって感じのいい曲っすね、うん。

334隣りの名無しさん:2006/07/11(火) 17:47:31 ID:m2WlDJzg
G-DARIUSの『ADAM』は如何に

335二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/11(火) 19:54:45 ID:y/qBTSRg
>>334
ォーウイェ やってみるぜぇ

336二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/11(火) 20:15:15 ID:y/qBTSRg
♪ADAM 注意:電波つゆだく!

「いらっしゃい」
金属塊で出来た崖の縁、女が立つ。
「また……君か?」
いつもの、夢とは違う良く分からない世界。
男は時折ここに連れてこられていた。

崖の先、広がる夕焼けを巨大な鉄塊が、下から上へ。
まるで跳ねる魚のような。
敵意のミサイルのような。

幾重にもフラッシュバックが男を襲う。
笑う女。
目をつぶり、何かをささやく女。

「なんなんだよ、ここは……っ!」
女の見透かすような、見下すような視線が男を射抜く。
「私のイマジネイション、言うなれば」

「脳内って奴かな?」

向き直った表情は良く読めず、夕日の影になっているためだ。
両手を浅く広げたシルエットの背後、鉄塊が再び二つ三つと空へ打ち上げられていく。

「あなたは、私が生み出した者。ううん……」

337二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/11(火) 20:15:49 ID:y/qBTSRg
「物、ね」
――何を言っている?
――何を伝えている?
――俺は俺だろう?
――俺が産物だと?

鉄塊が歌う。
体に似合わず繊細な声が響く。

338二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/11(火) 20:16:19 ID:y/qBTSRg
「もっと苦悩しなさい」
影が笑った、と思う。
「もっと暴れなさい」
影が目を閉じた、と思う。
「さあ、さあ私を」
影が両手を広げた、と思う。
「満足させてよ」
影が舌なめずりした、と思う。
「逃げられぬ」
影の瞳が大きくなった、と思う。
「あなたは」
影がゆっくり近づいてきた、と思う。
「私の物」
影と手を取り合ってしまった、と思う。
「あは」
影――。

339二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/11(火) 20:16:54 ID:y/qBTSRg
踊らされている?
騙されている?
信じている?
疑っている?
理解している?
解ってしまった?

解らない。
解らない。
解らない。

ただ、居るべきでない気がした。
ただ、ここにしか居られない気がした。

相反する感情がない交ぜになって。
その最中も鉄塊は空を目指し、打ち上げられ。

最初の一つが地に墜ちる。
海だった。
逆流の滝。
降り注ぐ、
塩の雨。

滝、
雨、
幾重にも繰り返される。

夕日に虹が生まれ。
気づけば二人は解けあって。

340二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/11(火) 20:18:35 ID:y/qBTSRg
「解った」
「何が?」
「俺は君のイマジネイションから生まれた」
「ええ」
「だが、君は俺のイマジネイションから生まれた」
「――ええ」
「戻れば、いいんだな?」
「ええ、たまには帰ってきなさい?」

ハジメハヒトツ
ヒトツハハジメ

オワリモヒトツ
ソシテ、マタハジマリ
クリカエス
クリカエス

フリダシニモドル

――有るべきでなく、有るべき。
――居るべきでなく、居るべき。

341二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/11(火) 20:19:07 ID:y/qBTSRg
誰の物か、解らない。
そんな世界が、ほどけていく。

――さあ、いこう?
消えゆく二人が見上げる先。
最後の鉄塊が空を往く。



*おわり 19分。 うわーなんかνのラストみたいだな。
最初にこれ聴いたときは、興奮と、あと絶望感。何より、来ちゃいけなかったような気分になったな。
何せ初adamはμだったもんでねぇw
カメは鯨より安定しねぇや。Ver2は余計に(;´Д`)
どうしても、ダライアスには狂気の沙汰という物が見え隠れするね。
外伝の曲は脳科学とか、心理系の曲名だし、妄想が相手だったり……。
まともな戦闘シーンより、狂気の世界が先に浮かんでしまう。

342二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/07/11(火) 20:24:11 ID:y/qBTSRg
曲無い人へ

ライブ動画発見
http://www.youtube.com/watch?v=mog_1mDPXKc&search=adam%20darius

343隣りの名無しさん:2006/07/11(火) 21:07:21 ID:m2WlDJzg
お疲れす
前半の奇妙さは面白かったけど後半よくわかんねーwww
何か魂のルフラン思い出したよ
ダライアスの音楽は珍妙なのが多いけどそこが好きだな
ライブには向かん気がするけど……
何か見てるとアーケードとコンシューマで結構違うみたいね
Gも外伝もコンシューマしか知らねーや

というわけでダライアス外伝の『FAKE』はどうだろう


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板