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●事情によりこちらでSSを投下するスレ 2●
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よく聞こえなかった誰かの名前。
言って、俺から傘を奪う少女。
ガタン。雨の音がうるさい。ゴトン。電車の音がうるさい?
群青色の大きな傘は見るも無残にびしょぬれな少女を守って、雨粒を景気よくばしばし弾く。
「おまえは家にいるものだとばかり思っていたけれど」
少なくとも携帯からは雨の音はなかった。
どこからどこに向かう、いつを通るかもわからない電車の音はしたけれど。
その思い込みは嘘じゃない。
でも俺の言葉を少女がどれだけ信じているかは別問題。
昔から言っていた。あんたの話は半分真面目に聞くぐらいが丁度いいんだって。
ひどい話だ。まったく。
「でも、そっか。ここにいたんだ。嬉しいな。小躍りしようか、雨の中で」
ばか、と本日何度目かもわからない悪口が雨をかきわけてまっすぐに俺の心を刺す。
小躍りしたいのは本当だ。でも俺の言葉を少女がどれだけ信じているかは別問題。
昔から言っていた。あんたは思ったことを全部口にする正直(バカ)なやつだって。
ひどい話だ。ほんと。それじゃぁ俺はこれから風邪をひくことになる。
「そうだよばか。しんじゃえ。かぜひいて、おもくなって、しんじゃえばいいんだ」
看病になんか行ってやるもんかって、少女の声は雨に打たれる水溜りみたいに震えている。
道端の、雨の日は水溜りでばしゃばしゃするのが仕事みたいな子供にさえ見向きもされない惨めな水溜りみたいに。
「ひどいなまったく。ほんと、なんてひどい。ごめんな」
「知らないよ」
それは凄惨な光景だった。
ずぶぬれの少年がいて、傘の中で震える少女がいて、化かしあいみたいな会話ばっかりで、最後まで顔をあわせないで。
なるほど、何のことはない、二人は変わらず、生憎の天気だったというだけのくだらないワンシーン。
「帰ろう。送る……は、――っくしょん! ……よ」
「そう」
少女が歩き出す。俺も歩き出す。
傘に入った誰かと傘に入ってない誰かが縦に並んで住宅街を歩くなんて、奇妙な光景だろう。
けど、それが俺たちの関係で。
多分、ここからやり直す関係で。
「……そうだよな?」
答えはなかったけど、どうせ知らない、とかばか、とかしょうもなく容赦のない言葉が弾丸のように返ってきたことだろう。
それでいいんだ。
あの電車の見える安アパートで、俺たちはそうやっていがみあってきたんだから。
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