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●事情によりこちらでSSを投下するスレ 2●

6731/2:2010/02/07(日) 17:48:23 ID:???
いつだったかのスレのなんだかっていうお題で一つ

“三年”になる。
口に出してみれば1秒にも満たない短い言葉は、こんなにも重く、こんなにも黒く。
「あぁ。俺は薄情だよ。おまえとこんなになった理由さえ覚えていないんだ」
それはきっと、道端で石に躓いて転んだとか、冷蔵庫を開けたら目当ての飲み物が無かったとか、そんな風にくだらないことだった。
けれどどれだけくだらなくても、離れてしまえばあんなにも重い言葉だったとわかる。
――……。
痛いぐらい耳に押し付けたワインレッド色の携帯の向こうからは、相変わらず何の音も聞こえない。
携帯だけ別の部屋に放置しているのかも知れないし、そもそも、もう繋がっていないのかも知れない。
灰色のアスファルトに目線を落として歩く俺は、そんなことさえわからなく、なっている。
「ばかみたいだ。おまえはこんなに苦しんでいて、俺はそのせいで苦しんでいて、まったく因果なものだけど」
ガタンガタン。
電車の走る音が耳元を駆けていく。
どこからどこに向かう、どこを通る電車だろう。
心の奥底で中途半端に眠りについた思い出が、けだるそうに、緩慢に、そのくせ待ってたかのようにさぁと鮮明になっていく。
電車の色は、確か黄色。
「はは、懐かしいな。……あ。……ごめんな、またかけるよ」
前触れも無く降り出した雨を見て、相手の返事も待たずに通話を終わる。
勝手だと思う。けど、そういう性分だ。
おまえにどんなに怒られたって変わってやるものか。
畳んだワインレッドの携帯をポケットの中に入れて、俺は群青色の大きな傘を広げる。
携帯を切ったのはそのためではない。
いつか見た光景が、ふっと目の前に蘇ったからだ。
「そのままじゃぬれますよ」
違うのは、あのときよりも少女の背丈が高いこと。
地毛だという絹みたいな茶髪も短かいし、フードを目深に被った上着の色は赤じゃなくて青だし。
「ありがとうご……――っ!?」
懐かしいといえば懐かしい。
おかしいのは、こちらを見上げた少女の顔に見覚えがあったことか。
灰色の空。
そんなに急がなくてもいいのにと思わせるぐらい、雨脚は凄まじい勢いで強くなっていく。
黒色の瞳。
傘を差し出してくれた少年の顔を見るなり、言葉を失って沈黙する少女は、やっぱり雨にぬれ、あのときと違って涙でも流しているみたいだ。
自分の膝に手を置いてかがんだ状態のまま、俺はふっと頬を緩めた。
「傘ぐらい、使ってくれてもいいだろ」
「うるさいバカ。バカ。バカ!」
あのときは罵声も無かった。
いや、初対面だったのに散々な態度はとられたかも知れない。
「バカ! 顔なんて見たくもない! あんたの顔なんか、あんたの顔なんか!」
――――の、顔なんか!




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