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ツンデレじゃない長編投下・評価スレ

130名無しさん:2005/12/30(金) 15:39:58 ID:OsxQoflE
 コンコン、とドアをノックする音が廊下に響く。
「お嬢様、朝食の準備が済みました。お早めに、御出でになって……」
『解りましたから、さっさとどこかへ行って頂けますか? 朝から不愉快ですわ』
「…………失礼します」

 嫌われたものだな……と、自嘲気味に思う。15年あまりの時は、人を変えすぎる。
 もっとも、その間自分にも明確な変化が訪れているのだから、他人のことをとやかくは言えない。
 この方が自分にとって楽なのだから、と自分を納得させる。
 ……きっと、今日の朝食はあまりお召しにならないだろう、という思いと共に。

『この朝食は、誰が作りました?』
「別府主任……ですが」
『そう……少し食欲がないの。今日はこれでいいわ』
「は、はい……」

 やっぱりか、と思う。盗み聞くように、わざわざ用もないキッチンに居座り続ける自分もどうかと思うが。
 続けて、他の使用人達の会話も聞こえる。
「……ねぇ、お嬢様……主任の料理は殆ど食べませんよね」
「しーっ……でも、主任とお嬢様って小さい頃一緒だったらしいよ?」
「えっ、そうなんですか?」
「何でも、主任の両親もここに仕える人だったらしくて――――」

 とりとめのない話。度が過ぎるようなら、自分が注意しに行かねばならない……そう思った時だった。

「でも、よく主任も耐えられるよね。お嬢様、主任には自分のこと殆ど隠してますし」
「態度も結構露骨だしねー……結婚のことなんて、私達にまで口止めしたし」
「そうだよね、そこまで隠さなくても……」

 ―――出来れば聞きたくない、話が聞こえてしまった。

「その話、本当か?」
「しゅ、主任?!」 「っ…………」
「本当、だな?」
 気まずそうに、こくりと頷く二人。
「……嫌われてても、祝わなくちゃいけない。無理矢理聞き出した事にするから、安心してくれ」

 そう言うと、俺は自然とリナの部屋に向かっていた。
 恐れていた事が、起こっている。いずれリナは結婚するという、この当たり前の事。
 …………どうせ二度とないこの機会に、決別しよう……自分の中途半端さから。
 今朝見せられた夢は、きっとそれを暗示していたのだ。

 ――部屋に向かいながら、思い出し、そして考える。
 お嬢様、貴女が居た日々は、少なくとも自分にとっては輝かしい日々であったと。
 そして、貴女を想いながら努力を続けた日々は、辛くもまた多くのものを得たと。

 最後に……この世にはどうしようも無い事があるのだと思い知り、それでも道を間違えた、自分は馬鹿のままであると。
 可能ならば、次に顔を合わせるのが最後になりますように。
 お嬢様……いや、リナ…………俺は貴女が、ずっと好きでした。


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