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ツンデレじゃない長編投下・評価スレ

113ロストマン  3/3:2005/09/11(日) 01:02:27 ID:8NkVx/ik

 病室が赤く歪む。
 赤いベッド。
 赤い天井。
 赤い壁。

 …そのセカイは、少しずつ溶けていく。
 その様が、ぼくには、流れ出る血に見えた。

 赤い海。
 地球の始まりは、こんな世界だったらしい。
 その原初の海は、生命のスープ。
 …うろ覚えだけど、みことさんが、そんなことを言っていた。

 生命のスープから、いのちが生まれるのは当然のこと。
 地面から、人間らしきものが生えてくる。

「…父、さん……?」
 ……じゃ、ない。
 父さんは、死んでしまったんだ。
 ぼくが、殺したんだ……!

 その面影と、その姿は、どこか、父さんに似ている。
 …みんな、虚ろな眼差しで、死んだ目をしているからだろうか。

 もう、いやだ。
 まるで、ここがゲンジツみたいじゃないか。
 こんな世界、ぼくは望んでいないのに。

 さっきまで、ぼくはどこにいた?
 …ぼくだけの、ぼくの望んだ世界に、いたはずだ。

 ―――――じゃあ、ここは、一体どこなんだ?

 狂っているのはどちらだろう。
 世界か、それとも自分の方か。
 わからない。わからない。
 …自分が、わからない。

 くるくるくるくると、かれらは踊り始めた。
 ぼくのことなんて、目にもかけない。

 くるくるくるくる、くるくるくるくる。
 くるくるくるくるくるくるくるくるくる。
 くるくるくるくるくるくるくるくるくるくる。

 …そして、共食いが始まる。
 それも当然だ。だって、食べ物がないんだから。

 ぐちゃ、ぐちゃ。ぶちゅ、ぐしゃ。
 肉を咀嚼する音。吐気がする。

 ひとがたが、ひとがたを喰らう。
 父さんが、父さんを殺した。

 …目をつぶっても、耳をふさいでも、その音が聞こえてくる。
 もう、いやだ。もういやだ……!

 ――――――ここから、逃げたい。
 でも、その手段がない。

 ドアも壁も天井も窓も、全て溶けてしまった。
 …もう、逃げられない。

 ぼくの望んだ世界なんて、こころの中だけのもの。
 そんな当たり前のことに、ようやく気付いた。

 …そんなこと、きづかなければ、よかった。

 ぼくは、どこにも。
 どこにも、逃げることなんて、できないってことに。

 ――――――夢からも、現実からも。


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