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二つ名を持つ異能者になって戦うスレ避難所5
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前スレ>>53>>56
廃工場の中はひっそりと静まり返り、そしてひんやりと冷え込んでいた。
歩けばそれだけ冷えた空気が肌を撫で、体温をゆっくりと下げていく。
若干の黴臭さがあるものの、真夏の蒸し暑さでほてった体には心地が良い場所だった。
氷室は、おぶった海部ヶ崎を適当な床に降ろすと、周囲を見回した。
間取りは広い正方形。それぞれの方角にガラスの割れたはめ殺しの窓。
部屋の中央には錆び付いた大きな機械が何台か置いてあり、
階段の隅に塗装の禿げた三本のドラム缶が横一列に並んでいる。
「入り口周りの地面の下にワイヤーを忍ばせておく。上から圧力がかかる・・・つまり踏まれた場合、直ぐに解る。」
後ろでは早速、海部ヶ崎の治療に乗り出した天木が何やかんやと言い出していたが、
そんなことにいちいち耳を傾けていない氷室は、一人でさっさとドラム缶に近寄っていくと、
やがて何を思ったかそれらを順に蹴飛ばしていった。
倒れたドラム缶から乾いた音が連続して起こり、床に何かが散らばる。
それは乾パンやら缶詰やらの、この島に来てから見慣れた保存食であった。
「余計なことに気を回すな。お前は治療に専念してればいい。
治療を引き受けた以上、失敗は許されない立場なんだからな」
天木を冷たい瞳で一睨みして、氷室はその場に腰を降ろした。
決して豪華なメニューとはいえないが、本能的にほっと一息つける瞬間……。
いつもより一時間も二時間も遅れているものの、
この日も無事に昼食という一時の休息の時間が訪れたのだ。
「……」
しかし、食料を口に運んでいく氷室には、笑顔もなければ会話もない。
元々、感情をあまり表に出さず、性格もフレンドリーとは程遠いものだから当然ではあるのだが、
それを抜きにしても、やはり現状を省みれば、
ほっとできるのは文字通りのほんの一瞬でしかないということであろう。
(……それにしても……)
先程から、氷室の脳裏には繰り返し同じ疑問が渦巻いていた。
それはワイズマンについてなのだが、果たして彼がこの島にいるのかどうか──
そこに疑問を感じるようになっていたのだ。
(よくよく考えてみれば、奴自身がこの島全体をバトルのフィールドとしたんだ。
この島に潜んでいる……? 何らかの拍子に参加者と対面するリスクがありながら?
正体を探るなと念を押すような奴が、果たしてそんな迂闊な真似をするだろうか?
逆にいえば、だからこそ念を押したとも考えられるが……)
氷室は自分の足で確かめた地理情報と、海部ヶ崎から聞いた地理情報とを合わせてみた。
要するにこの島の簡単な地図を浮かべてみたのだ。
(いずれにしても、確かにこの島にはいないという可能性はある。
だが、仮にこの島にいて、我々が調査した地域にはいないと仮定した場合は?
……やはり可能性があるのは未調査の北東だけ、か……
……いや、何か引っかかる。そもそも……そうだ、そもそも目に映る場所にいるとは限らない。
カノッサのアジトがそうだったように、中枢はあるいは地下に…………?)
自問する。しかし、出てきた答えは、どれも結局憶測の域を出ない。
氷室は考えても無駄だというように一つの大きな溜息をつくと、
じきに頭の中を真っ白にしてひたすら若い食欲だけを満たし始めた。
【氷室 霞美:工場内で昼食を摂る。現時刻:PM2:00過ぎ】
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