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【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】

748Evie ◆XksB4AwhxU:2015/04/15(水) 22:44:24
進行スレ>>338を参考にした海砂利時代の短編を、
導入部分だけあげてみます。
海砂利時代の能力は、能力スレ>>779の予定です。


「解散しようと思うんです」

その発言はあまりに唐突で、自然な響きだった。まるでいつもの世間話と同じように。
「……は?」
向い合って座る上田は、ティースプーンをコーヒーの中に突っ込んだまま、固まってしまう。
話があると言われ呼び出された昼下がりの喫茶店は、サラリーマンで賑わっていて、
彼らの会話に気を払うものはいなかった。鍛冶は、聞き間違いの可能性も考えて、もう一度ゆっくり言葉を紡ぐ。
「だから、俺たち解散しようと思ってるんです」
さくらんぼブービーの二人は顔を見合わせて頷くと、ポケットから石を出して、
喫茶店の磨き上げられたテーブルに転がした。
「なんで、俺に話した」
「くりぃむのお二人にはお世話になったんで。
 ……鍛冶の石が目覚めた時も、まっさきに駆けつけてくれたから」
上田はカップをどける。テーブルの上で指を組んで、話を聞く体勢をとる。
木村はしばらく逡巡していたが、お前からと鍛冶が促すと、決心したように顔を上げた。
「上田さんなら、この石の行く先が分かるかもしれないと思って」
「てことは……お前、引退するのか?」
木村は紅茶を一口飲んで、また深いため息をついた。
おそらく何日も悩んで、二人で何度も話しあった結果出した答えなのだろうが、
いざ口に出すとなるとその言葉は急激に真実味を帯びる。
「……放送作家に…なろうと思ってます」
「そっか……それで本当に後悔しねえのか?」
「はい」
「じゃあ俺からは何も言うこたねえよ。鍛冶は?」
「俺はピンでやってこうかと」
「こりゃずいぶんデカい賭けに出たな」
「やれるだけやってみますよ。
 この石のおかげで、たいていのことは踏ん張れる強さが身につきました」
自信満々、といった面持ちで胸を張る鍛冶に、笑いがこぼれる。
「お前らしいな、ホント」
「いやあ、それほどでも…」
「ちょっとは遠慮しろよ!」
「いって!なんだよ、ちょっとくらいいいじゃんかよ!」
頭をかいて照れる鍛冶を、木村が小突く。
上田を忘れて仲良くじゃれあう二人に、ふと別のコンビの姿が重なった。
お笑い界から消えて随分経つ、昔競いあった友。
「(……もしも……)
片方は劇団で舞台に立っていると風のうわさで聞いたが、もう片方はついぞ消息の知れない、二人。
「(……もしも…俺たちが…こいつらみたいに純粋なままでいられたら……
  お前らはまだこの世界にいられたか?)」
テーブルの上に転がった二粒の瑪瑙。赤と黒で対になった石を見ているうち、上田の心はあの夏の日に飛んでいた。


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