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企画もの【バトル・ロワイアル】新・総合検討会議2

1 ◆VnfocaQoW2:2010/04/04(日) 00:20:17

雑談、キャラクターの情報交換、
今後の展開などについての総合検討を主目的とします。
今後、物語の筋に関係のない質問等はこちらでお願いします。

278話以降、3ルートに分岐することとなりました。
ルートAは従来通りのリレー形式に、
ルートB、Cは其々の書き手個人による独自ルートになります。

規約はこちら
>>2

76 ◆VnfocaQoW2:2010/07/15(木) 22:31:43
以下9レス、「ほんとうのさよなら」を仮投下いたします。

次回は「点と線」。
まひる、野武彦、恭也、ケイブリス、智機、
レプリカ智機たちが登場予定です。

77ほんとうのさよなら(1/8) ◆VnfocaQoW2:2010/07/15(木) 22:32:21
 
(Cルート・2日目 20:15 F−4地点 楡の木広場跡地)

僕はね、しおり。
きみのこと、見ていたんだ。
きみは、僕のことに気付かなかったけど。
僕は、ずっと、きみのそばにいたんだよ。

寝息が、苦しそうだね。
鼠みたいな大きな耳が、揺れているね。
指しゃぶりしているのも、体をぎゅっと丸めているのも、
きっと、淋しくて、不安だからなんだね。

でも、ごめんね、しおり。
今の僕は、頭を撫でてあげることも、
涙を拭いてあげることも出来ないんだ。
僕にできることは、きみを見守ることだけなんだ。

ああ、それなのに。

「マス…… ター……」

きみはどうして、手を伸ばすの?
夢の中でも、僕を呼ぶの?
僕は、その手を握ってあげられないのに。
僕は、呼びかけに返事もできないのに。

いまだって、ほら。
きみの紅葉みたいな小さな手に、僕の手を重ねてるんだよ?
しおり、しおり、って、何度も呼んでるんだよ?

78ほんとうのさよなら(2/8) ◆VnfocaQoW2:2010/07/15(木) 22:34:31
 
……これが、罰なのかな?

僕は、逃げる人だから。
嫌なことから、怖いことから、責任を取るべきことから
逃げつづける人生を送ってきたから。

きみから離れることが出来ない存在に。
きみから目を逸らすことが出来ない存在に。
きみの側にただいるだけの存在に、なってしまったのかな。



「対象発見」



ねえ、しおり、空を見て。
あれは天使、なのかな?
真っ白な羽根に、穢れ無き青の鎧。
とても綺麗な姿をしているよ。

「意識を保っている残留思念は二体目です」

僕のこと、みたいだね。
天使は、僕のところに、きたんだね。
ここで、しおりとさよならなのかな。
僕は、きみに何もしてあげられないまま、
召されてしまうのかな。

79ほんとうのさよなら(3/8) ◆VnfocaQoW2:2010/07/15(木) 22:35:12
 
ああ、天使が降り立った。やっぱり僕を見ているよ。
もしかしたら、お話、通じないかな。
もしかしたら、お願い、聞いてくれないかな。

《天使さん、お願いです。この子の手を、握らせてください》

「プランナー様。この残留思念は、意思を伝えてきます」

《僕は、この子に酷いことばかりしてきました。
 自分の願いを振りかざし、この子の運命を捻じ曲げました。
 その責任を取ることなく、この子より先に死んでしまいました》

「はい、勝沼紳一ではありません。
 しかし、この残留思念もまた、幽霊の域に達している模様です。
 憑依、念動等の能力はありません」

《遺してあげられるものはないんです。
 守ってあげることもできないんです。
 ですから……》

「プランナー様。
 この情報は、収集してもよろしいのでしょうか?
 ご判断ください」

《せめて、この子の寝息が落ち着くまででいいですから。
 この子の手を、握ることのできる力を、奇跡を、下さい》

「なるほど。死後を保証されているのは勝沼紳一のみなのですね。
 では、この情報は回収します」

80ほんとうのさよなら(4/8) ◆VnfocaQoW2:2010/07/15(木) 22:37:14
 
しおり……
この天使は、天使なんかじゃないよ。
救いや慈悲を与える存在じゃないよ。
魂を天へと運ぶのではなくて、集めているだけなんだよ。
きっとそれもまた、この非道な遊戯の一環なんだね。

ねえ、しおり。
今の僕は役立たずだけど。
何も出来ない、意味の無い存在だけど。
そんなのは、受け入れられないよね。

「影響力はありませんが、歯向かう意志を見せています」

ねえ、しおり。
僕は不思議に思っていたんだよ。
信仰を持たなかった頃。
惰眠と殺戮を果てしなく繰り返していた頃。

どうして人間は、絶対勝てない存在に歯向かうんだろうって。
無駄だとわかっているのに、あがくんだろうって。
ぷちぷち、ぷちぷち。
蟻を踏み潰すみたいに、人間を殺しながら、考えてたんだ。

今ならわかるよ、しおり。
きみが教えてくれたんだ。
戦うということは生きるということなんだって。
勝つとか負けるとかだけじゃなくて。
逃げたら失ってしまう大切なものを、
守るために立ち向かうんだって。

81ほんとうのさよなら(5/8) ◆VnfocaQoW2:2010/07/15(木) 22:38:50
 
「なるほど。
 ルドラサウム様が、愉しんでいらっしゃるのですね。
 では、今しばらく抵抗させましょう」

天使の目を見れば分かる。剣の切っ先を見れば分かる。
この女の人は、強い。
それなのに、僕は攻撃するどころか、
この人に触れることすら出来なくて。
しおりから離れることも出来なくて。
身を躱す事くらいしか、抵抗の手段がないなんて。

絶望的な状況差だよね、しおり。
それでも―――僕は逃げないよ。

きみに僕の姿が見えなくても。
きみに僕の声が届かなくても。
僕は少しでも長く、きみの側にいるんだ。
きみを見守り続けるんだ。
その為なら……
僕は、いつまでだってこの剣先を躱してみせる!

「ルドラサウム様が落ち着かれましたか。
 はい。では――― 終らせます」

《か、はっ!!》

強い、とは分かっていたけど……
本気を出したら、一撃で心臓を貫く、か……

82ほんとうのさよなら(6/8) ◆VnfocaQoW2:2010/07/15(木) 22:41:44
 
……ごめんね、しおり。
僕なりに一生懸命頑張ったけれど。
最後まで逃げなかったけれど。
その最後が、もう、来ちゃったみたいだよ。

ねえ、しおり。
最期にきみの顔を、もう一度見せて。
その頬を、撫でさせて。

「マス…… ター……?」

僕の手が…… 触れた?

「マスターだぁ……」

しおり、嬉しそうな顔をしているね。
伸ばしていた腕を脇にぎゅっと引き寄せているね。
頬を、その腕に摺り寄せているね。

―――僕の触れている頬とは、反対の頬を。

違うんだね。
僕の夢を見ているだけなんだね。
僕の存在には気付いていないんだね。

それでもね、しおり。
僕は嬉しいよ。
安らかな寝顔を見せてくれて。
穏やかな寝息を聞かせてくれて。

83ほんとうのさよなら(7/8) ◆VnfocaQoW2:2010/07/15(木) 22:42:21
 
……ああ、もう時間が無いみたいだ。
体が解けて行くよ。
きみが霞んで、見えなくなってきたよ。

やがて朝日を迎えれば、きみは目覚めて泣くだろうね。

死別の過去を思い出して泣くだろうね。
孤独な現在に途方に暮れて泣くだろうね。
希望無き未来に絶望して泣くだろうね。

それでも、しおり。

明けない夜は無いように。
止まない雨は無いように。

生きてさえいれば、きっと、いつか。
幸せを感じられる時が来る筈だから。

人には、その素敵な強かさがあるんだから。
僕は、遠くからずっと、祈っているから。

だからね、しおり―――



「回収完了」

84ほんとうのさよなら(8/8) ◆VnfocaQoW2:2010/07/15(木) 22:43:12
 





 
    ―――誰も、きみの涙を拭いてくれなくても。

    ―――涙が枯れたら、立ち上がるんだ。
 





 
          ↓

85ほんとうのさよなら(情報1/1) ◆VnfocaQoW2:2010/07/15(木) 22:44:09
 
(Cルート)

【現在位置:F−4 楡の木広場跡地】

【しおり(№28)】
【スタンス:??】
【所持品:なし】
【能力:凶化、紅涙(涙が炎の盾となる)炎無効、
    大幅に低下したが回復能力あり、肉体の重要部位の回復も可能】
【備考:首輪を装着中、全身に多大なダメージを受け瀕死の重傷
    歩行可能になるには最低90分の安静が必要
    戦闘可能までには5時間程度の安静が必要】

※しおりの【凶】としての獣相は、ネズミに酷似していることが判明しました


【現在位置:F−4 楡の木広場跡地 → ?】

【連絡員:エンジェルナイト】
【スタンス:①死者の魂の回収
      ②参加者には一切関わらない】
【所持品:聖剣、聖盾、防具一式】

※しおりと共にあった「何者かの気配」は、連絡員に捕獲されました

86名無しさん@初回限定:2010/07/15(木) 23:12:40
乙です

87 ◆VnfocaQoW2:2010/07/17(土) 19:03:18
以下10レス「点と線」を仮投下いたします。

次回は「ちぇいすと☆ちぇいす!〜往路〜」。
透子、知佳、紳一、カオスが登場予定です。



また、「戦慄のパンツバトル!〜紗霧〜」のタイトルですが、
本スレにこれを投下しようとしたところ、名前が長すぎます、と弾かれてしまいました。
ということで〜紗霧〜の部分を割愛し、冒頭に〜紗霧〜と挿入して対応しました。

お手数ですが、◆ZXoe83g/Kwさんの収録時には、
各話タイトルに、〜紗霧〜、〜P−3〜、〜ランス〜、〜智機〜を
それぞれ付けていただいた上で、
冒頭の〜(人名)〜を削除していただけますよう、お願い申し上げます。

88点と線(1/9) ◆VnfocaQoW2:2010/07/17(土) 19:05:56

(Cルート・2日目 19:10 E−6地点 重点鎮火ポイント)

================================================================================
N−29:D−04に熱暴走の兆しが観測された。
N−29:当該機はパワーショベルとの融合を解除し、スリープモード15分とせよ
N−29:この15分間の穴埋めは、伐採タスクにあたっているN型から
N−29:負荷の少ないものを5機見繕って充てさせたまえ
================================================================================

一通りの現場指示を終え、リーダー(N−29)は、進捗状況を再走査する。
オペレーションの開始より30分強。
鎮火の最前線では、アクション1が急ピッチで進められている。

そこに、本拠地の代行(N−22)から、IMが飛んで来た。
それは、全てのレプリカ智機に対する一斉発信のIMであった。

================================================================================
N−22:連絡員殿が島内で、独自の情報収集活動を開始された
N−22:特別の便宜を図る必要はないが、失礼の無い対応を心がけてくれ給え
N−22:なお、連絡員殿の外見は天使で、金髪碧眼。その翼は純白の羽毛だ
N−22:くれぐれもS−38、S−40と混同せぬように
================================================================================

リーダーは、反射的に拠点である北西の山岳部の方角を見遣る。
仮設司令部で現場オペレーションに当たっているほか三機も同じく
山岳部のその上空を見上げた。

未だ見ぬ、天使の姿を思い描きながら。

89点と線(2/9) ◆VnfocaQoW2:2010/07/17(土) 19:10:09
 

   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


(Cルート・2日目 19:20 D−3地点 本拠地・カタパルト施設)

北西の岩山、その厳しい斜面に設置されたカタパルト投擲施設で、
代行は梱包した資材を点検していた。
重点鎮火ポイントへの、追加支援物資である。
あとは、カタパルトにて投じるのみ。
そこに来て、代行は作業の手を止めた。

分機解放スイッチ―――

連絡員・エンジェルナイトから預かったそれを、
代行は現場にいるリーダーへ託すか否か、思案しているのである。

オペレータ(N−27)からの報告によれば、オリジナル智機は【自己保存】の
欲求により、しおらしくもスイッチの奪取を諦めたように見受けられる。
が、問題は、ケイブリスの存在。
智機本機が実力行使を厭わぬ判断を下せば、おそらくは共闘関係を結んでいる
かの魔獣が、その暴を露にし、自分たちに襲い掛かることは明白だ。
となれば、自分とオペレータ程度ではスイッチを守りきれぬ。

「オリジナル殿が無思慮に奪いに来る可能性と、
 リーダーが何らかの過失でスイッチを失う可能性。
 果たして、どちらが高いのやら」

暫く後、代行は、論理演算回路が導き出した解に従った。

90点と線(3/9) ◆VnfocaQoW2:2010/07/17(土) 19:10:45


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


(Cルート・2日目 19:30 D−3地点 本拠地付近)

ケイブリスは憤慨した。
無いのである。
本拠地内に、用意されていなかったのである。
彼が利用できるサイズの、排泄施設が。

ケイブリスの参入は唐突であった。
椎名智機の設計/建築した本拠地は、人間サイズ用のものであった。
そのギャップをどうにか埋めたのが、御陵透子の【世界の読み替え】なのだが、
その時の透子には、彼の排泄事情までは思い至らなかったらしく、
トイレに対して、その効力は発揮されなかったのである。

「仮にも俺様は魔人様でよ。
 そこらにいるリスとは違って文化的で衛生的な生活?
 ってヤツを何千年としてきたわけで。
 こーやって大自然の元、夜空に向かって立ちションするなんてーのは
 わりと屈辱なキブンだぜ」

彼の股間の八本の男根触手が唸りを上げて小便を排出している。
その一本一本から、蛇口全開のホースの如き水圧で放たれている。
禿山の火成岩に放たれたそれは、いきおい飛沫となり彼の足元におつりを返す。
ケイブリスは、そ知らぬ顔で浴びている。
この巨獣、文化的で衛生的な生活を自称している割に、
体毛が尿塗れになることはさして気にしていない模様である。

91点と線(4/9) ◆VnfocaQoW2:2010/07/17(土) 19:11:16


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


(Cルート・2日目 19:35 D−3地点 本拠地・茶室)

偶然居合わせた透子の協力によって、ザドゥたちは峠を越したらしい。
それ自体は吉報であった。しかし。

「最低、十二時間か」

主不在の茶室にて椎名智機は、悩ましげに眉根を歪めている。
当初の予定、ザドゥ&芹沢vs紗霧チームの青写真が、
明らかに現実味を失ってしまったが為に。
十二時間。
それはザドゥと芹沢が意識を取り戻すに必要な時間であり、
火傷や外傷が癒えるに必要な時間では無いのである。
しかし、その盤面をひっくり返す悪魔の一手が、無いではない。

「素敵医師が遺した薬であれば……」

かつてかの狂人は、彼謹製の薬品群にて瀕死の遺作を見事に復活させている。
ザドゥや芹沢にそれを投与すれば、彼らは再び戦う力を取り戻すであろう。

であろうが、その賭けはリスクが高すぎる。
智機は知らぬ。
遺作に対し、何種類の薬品を投与したのか。
どの薬品を、どれだけの量、投与したのか。
効能と副作用を分析するには知識も設備も時間も不足している。

92点と線(5/9) ◆VnfocaQoW2:2010/07/17(土) 19:11:43

故に智機は、賭けには出ない。現状では。
だが、例えば。
目覚めたザドゥと芹沢に戦闘能力が失われていたならば、
詳細不明な劇薬を彼らに投じることを厭わぬであろう。

「さて―――現状、このタスクにて出来ることは終わりだな。
 十二時間後の状態を把握してから、再検討しよう」

智機は行動キューの最上位にあったザドゥ対策を終了させ、
二位から一位へと格上げされたタスクの準備行動を開始する。

「ふむふむ。そろそろ冷却水の換え時かな?」

ここ一時間余りの内部的負荷は、それまでの二十四時間に匹敵するものであった。
情動発生器の振幅と論理演算回路の使用頻度は凄まじく、
後頭部の排気口より排熱された水蒸気量は、既に冷却水の50%に達していた。
同様に、冷媒として使用しているフロンも劣化が激しい。
差し迫ったタスクを終えた今こそが、手入れ時なのである。

智機は重い腰を上げ、茶室を後にする。
メンテナンスルームを目指し、閑散とした廊下に出る。
そこで、ばったりと出くわした。

「「―――!?」」

ここに居るはずのない人物と。
決して、本拠地の所在を知られてはならぬ少年と。
西の森の小屋にいるはずのプレイヤーと。

93点と線(6/9) ◆VnfocaQoW2:2010/07/17(土) 19:12:32

その少年は、なぜか自身の喉を手刀にて小刻みに震わせ、
意味の分からぬ低い唸り声を、智機に浴びかけた。

「は〜うでぃ〜!!」

管理番号38番。片翼の天使。かつての人類捕食者。
広場まひる、である。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


智機の立場に立ち、「いるはずのない」と記したが。
まひるは突然、本拠地に現れたわけではない。
点を繋いで、線として。
この地点を目指して、来たのである。


点の1――――― 19:10の東の森、南西部。

まひるは観察していたのである。
連絡員飛来のIMを受けた現場オペレーティングの四機が、
一斉に北西の空を見上げたことを。

『……ほう、意味深な行動じゃの』
「何かあると思うんですけど」
『行ってみましょう。
 どのみち、東の森の周辺を一回りする予定です。
 北回り、ということにしましょう』

.

94戦慄のパンツバトル!〜紗霧〜(9/11) ◆VnfocaQoW2:2010/07/17(土) 19:15:21

点の2――――― 19:20の北西の岩山、程近く。

カタパルトから投擲された物資。
耕作地帯を北に抜けたまひるの目に、
それが捉えられたのである。

『どちらへ飛んで行ったかの?』
「んーと…… たぶん、さっきの場所。
 椎名ロボがわっせわっせと火消ししてたトコ」
『とすれば、支援物資か、或いは増援か……』
『どちらにせよ、発射元には、何かがあります』
「行っちます?」
『……慎重にお願いします』



点の3――――― 19:30の北西の岩山、山麓。

排尿のために屋外へと出たケイブリス。
投擲物資の出所を探るべく山中へ入っていたまひるは、
偶然にもその巨体を目撃したのである。

「あの〜…… 見つけちゃったんですが、扉。岩山に直接、扉」
『そこからケイブリスが出てきたんですね?』
「漏れる〜漏れる〜言いながら、どすんどすんと」
『見張りはいませんか?』
「まるっきり」
『ならばまひる殿、こう言うべきじゃ!〜こちらスネーク、状況を開始する〜とな!』

95点と線(8/9) ◆VnfocaQoW2:2010/07/17(土) 19:15:56


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


―――時を戻す。

「は〜うでぃ〜!!」

広場まひるの咄嗟の威嚇(?)に対して
椎名智機が取った行動は、逃走であった。
その赤い目、白い肌と相まって、実に脱兎あった。
余りに見事な逃走ぶりに、まひるは唖然とし、
暫く佇んでしまうほどであった。

智機はスタンナックルをデフォルトで装備している。
彼女でも扱える銃火器も腰に提げている。
まひるが「はうでぃー」している隙に、
彼の命を素早く奪うことも可能であった筈だ。
実際、その可能性は高いのだと、彼女の論理演算回路は解を出していた。
にもかかわらず、智機はそれをしなかった。

出来ぬのである。
この島に数多存在する智機たちの中で、この智機だけは、
あらゆる直接戦闘の実行がほぼ不可能なのである。

【自己保存】―――

その原則が、最優先事項が。
オリジナル智機の行動を大きく規制しているが故に。

96点と線(9/9) ◆VnfocaQoW2:2010/07/17(土) 19:17:42

状況から推測されるあらゆる可能性を割り出せば、
まひるがその特異な運動能力を恃みに反撃してくる可能性や、
前方に活路を見出し向かってくる可能性も、
リストに加わることになる。

それらの確率はありえないほど低い。
しかし、ゼロではない。
ゼロで無く、かつ、他の選択肢があるのならば。
椎名智機は、戦えぬ。

智機は選択する。
1ポイントでも生存確率の高い選択肢を。
1ポイントでも死亡確率の低い選択肢を。
自動的に。否応なしに。

逃げる智機の音感センサーは、捉えていた。
後方のまひるが自分に背を向けたことを。
玄関より屋外への逃走を図っていることを。
それでも智機は、振り返ることも足を止めることもしない。

手近な個室に飛び込み、鍵をかける。
室内の迎撃装置のスイッチをONにする。

そうして、自らの安全を確保した上で。
ようやく、まひるの進入に対する手を打った。
屋外にいる同盟者へ向けて。

「ケイブリス、広場まひるに拠点を発見された!
 いいか、必ず仕留めろ。生かして逃すな!」

97点と線(情報 1/1) ◆VnfocaQoW2:2010/07/17(土) 19:18:07

(Cルート)

【現在位置:D−3地点 北西の岩山裾野・本拠地周辺】

【広場まひる(元№38)】
【スタンス:非戦抵抗、逃走
      ①小屋に帰還する】
【所持品:せんべい袋、救急セット、竹篭、スコップ、簡易通信機】

【主催者:ケイブリス(刺客04)】
【スタンス:反逆者の始末・ランス優先、智機と同盟
      ①まひる追跡及び殺害】
【所持品:なし】
【能力:魔法(威力弱)、触手など】
【備考:左右真中の腕骨折(補強具装着済み)、鎧】



【現在位置:D−3地点 本拠地】

【主催者:椎名智機】
【所持品:素敵医師から回収した薬物。その他?】
【スタンス:願いの成就優先。
      ①本拠地が発見されたことへの対応
      ②しおりの確保
      ③ザドゥ達と他参加者への対処(分機P−03に注目)
      ④連絡員と交渉し、端末解除スイッチ+αを入手する許可を得る】

※代行N−22が端末解除スイッチを追加物資に混入したかは不明

98 ◆VnfocaQoW2:2010/07/17(土) 19:21:16
本日の本スレ投下は〜紗霧〜までとしたく思います。
支援してくださった方、ありがとうございました。

99 ◆VnfocaQoW2:2010/07/17(土) 19:24:42
と、書いた矢先に、さるさんを食らいました。
お手数ですがどなたか、このスレの>>40-42を、代理投下していただけませんでしょうか。

100 ◆VnfocaQoW2:2010/07/17(土) 19:39:33
ID:1tMnCnjr0 さん、ご協力ありがとうございました。

101 ◆VnfocaQoW2:2010/07/18(日) 00:36:25
以下16レス「ちぇいすと☆ちぇいす!〜往路〜」を仮投下いたします。

次回は「Operation:"Hyenas'Dinner"」。
小屋組全員、レプリカP−3、ケイブリスが登場予定です。

これ以降の投下ペースは、落ち着くと思います。

102ちぇいすと☆ちぇいす!〜往路〜(1/15) ◆VnfocaQoW2:2010/07/18(日) 00:37:33
 
(Cルート・2日目 21:00 F−4地点 楡の木広場跡地)




地下シェルターにザドゥの哄笑がこだまして。
地下シェルターにザドゥの哄笑が途切れ。
地下シェルターにザドゥの絶叫が響き渡った。




「ははははは…… はうっ!?
 ……っぎゃああああああ!!」




.

103ちぇいすと☆ちぇいす!〜往路〜(2/15) ◆VnfocaQoW2:2010/07/18(日) 00:38:16
 
「……?」

恐怖に身を竦めていた透子の目線の先で、ザドゥの体が崩折れる。
同時に響くは紳一の絶叫。
しかしそれは微弱な思念波であり、透子の耳には届かない。

《痛ぇあああああ!!!》

ザドゥは全身、至るところに重い火傷を負っていた。
深い傷もあった。肺も痛んでいた。
憑依と伴に肉体感覚をも蘇らせた勝沼紳一にとって、
この感覚は鮮烈かつ痛烈。
軟弱な彼に耐えられる苦痛の域を超えていた。

《こ、こんな体では陵辱どころではない!》

またしても、またしてもと唸りを上げる紳一に、反応する思念波があった。
薄暗い地下室に在ってなお闇色に輝く、魔剣カオスである。

《なんじゃなんじゃ、うるさい悪霊じゃの》

自分の足元から洩れてくる不機嫌なしわがれ声に、透子は思わず呟いた。

「……見えるの?」
《見えるどころか、儂、斬れますよ? こんな木っ端霊体なんか、すぱっと》

透子の瞳が光を帯びた。紳一の瞳が大きく見開かれた。
カオスが放ったのはただ一言。
それだけで狩る者と狩られる物の立場が逆転していた。

104ちぇいすと☆ちぇいす!〜往路〜(3/15) ◆VnfocaQoW2:2010/07/18(日) 00:39:02
 
《俺は何度……っ》

何度逃げれば気が済むのか。
滑稽ではないか。
自己憐憫を飲み込んで、紳一は逃走を開始する。
一心不乱に階段へと走る。

階段の中腹まで必死で走った紳一であったが、
背後に追いすがる気配が感じられぬ為、ひとたび振り返った。
透子は刀を手にしたまま、しゃがみ込んでいた。
しゃがみ込んでベッドの下に手を伸ばしていた。

そのやる気の感じられぬ様子を見、紳一は安堵する。
走行ペースを落とし、重々しいシェルターの扉を透過する。
その向こうに―――


―――少女がいた。


扉の向こうの部屋でしゃがみこんでいるはずの少女が。
胸にひび割れた銀のロケットを掛けた、亜麻色の髪の少女が。
カオスを中段に構えて、紳一を切り伏せるべく、待っていた。

《ありえん!》

透子が紳一の憑依を知らぬのと同じく、紳一もまた、透子と瞬間移動を知らぬ。
紳一の生存中、透子が紳一に警告を発する機会が無かった故に。
出会い頭の衝撃に立ち尽くしている紳一に向けて、透子がカオスを振り下ろす。

105ちぇいすと☆ちぇいす!〜往路〜(4/15) ◆VnfocaQoW2:2010/07/18(日) 00:40:00
 
「やー」

脱力感あふれる掛け声と共にへろへろと振り下ろされた刀身は、
身じろぎ一つせぬ紳一を切り裂くことなく、その脇を通過した。
非力な透子には、剣を振りぬくことなど出来なかった。
それどころか、勢いのまま前のめりに転倒してしまう始末である。

しかし、紳一は戦慄した。
剣先ではない。
その刀身が纏う瘴気に少しだけ触れた右の肘から、感覚が失われたから。
それは、エネルギーを喰われる感覚であった。
それは、生きたまま氷付けにされる感覚であった。

紳一は直感し、戦慄する。

《あれをまともに食らえば。俺は、死ぬ。
 自分の魂から意志が切り裂かれ、俺は俺を失う。
 あの衣装小屋で会ったビッチメイドのように!
 薄毛デブのように!
 うわごとを繰り返すだけの存在に堕ちてしまう!》

ここに、紳一と透子の逃走/追跡劇が、幕を開けた。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   
.

106ちぇいすと☆ちぇいす!〜往路〜(5/15) ◆VnfocaQoW2:2010/07/18(日) 00:40:50

ひと昔前のドジっ子メイドの如く、尻を高く掲げ、
額を地面に擦りつける格好で、透子は倒れていた。
その様相のあまりのあまりさに、相棒・カオスが嘆息する。
 
《しかし非力にも程があるのぅ、嬢ちゃんや》

透子の胸には紳一に対する怒りがある。
忘れて久しい感情が渦巻いている。
新鮮な感覚であった。
透子はその感情の赴くままに、カオスの無礼に八つ当たる。

「うるさい」

かといって透子の胸に、焦りは無かった。
紳一を討ち漏らしたことについて、深刻には受け止めていなかった。
彼女が唯一、紳一を捉える手段は記録/記憶の検索であり、
その手法だとタイムラグが発生するというのに。
その分だけ、紳一は遠ざかるというのに。
状況は追跡者にとって甚だ不利だというのに。

透子は、それらを不利だとは思っていなかった。
透子は、処する手段を見出していた。

(移動したい……)

知覚する必要などない。
ただ、念じればよい。

(紳一の【すぐ前】に)

107ちぇいすと☆ちぇいす!〜往路〜(6/15) ◆VnfocaQoW2:2010/07/18(日) 00:41:52

それで、移動は完了だ。
透子にとって瞬間移動は当たり前で。
それゆえに能力に疑いは無く。
たとえ、その目で紳一の姿を確認せずとも。

「えい」

ただ、前方にカオスを振り下ろせばよいのである。

《な……?》

またしても、突如として眼前に現れた透子に、紳一は肝を冷やす。
その振るった剣が空振ったことに、紳一は胸を撫で下ろす。

接近の知覚不可能。
移動の方法把握不可能。
されど、気付けば常にいる。
武器を構えて傍にいる。

逃亡者として、これほどやっかいな追跡者は他におるまい。

《なあ、トーコちん。
 お前さん見当違いの方向に、儂を振ってますよ?》
「……ん?」

カオスの状況報告に、透子は思考を次へと進める。

(そうか)
(【すぐ前】じゃダメ)

108ちぇいすと☆ちぇいす!〜往路〜(7/15) ◆VnfocaQoW2:2010/07/18(日) 00:44:10

前、では設定が曖昧に過ぎる。
見えない相手を切り伏せる為には、その方向を限定せねばならぬ。
透子はその方法を暫し考え、そして決定した。
透子は、向きを南に変え、願った。

(……紳一のすぐ【北】に行きたい)

移動した。振り下ろした。空を切った。
その刃は紳一が通過した一秒後に、紳一の残像のみを切り裂いた。

《嬢ちゃんの力で振りかぶっちゃダメじゃろ。
 時間が掛かるし、軌跡もぶれるからの。
 もっとこう、腰で構えて、体ごとぶつかる感じで》


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   

 
その後も、紳一は逃げ、透子は追い。
二人ともに決定的な状況を作れぬまま、十分余りが経過した。
しかし、天秤は徐々に透子に傾いている。

トライ&エラーを十数回。カオスの戦闘指導も十数回。
その経験値が、着実に、実を結びつつあった。

逃亡者紳一も、そのことは実感している。
少女がテレポートしていることも、紳一は把握しつつある。

(これはヤバい…… この少女、コツを掴んできている!)

109ちぇいすと☆ちぇいす!〜往路〜(8/15) ◆VnfocaQoW2:2010/07/18(日) 00:46:05

故に紳一は、色々と回避方法を試していた。
ジグザグに走ってもみた。
後ろ向きに走ってもみた。
緩急をつけて走っても見た。
試せる走行方法は、すべて試した。

それでも、合わせてくる。
無表情な少女は無表情のまま、ブレを修正してくる。

「……」

焦る紳一の前に、またしても透子が現れた。
もう、今の透子は掛け声などかけない。
予備動作など見せない。
攻撃態勢のまま移動してくる。

《これはっ!!》

ショートスピアの如く低い姿勢で突き出されたカオスが、
ついに紳一の脇腹に食らいついた。
紳一は悶絶する。余りの痛みと余りの冷たさに。

《っああああひいいいい!!!》

無様に這って逃げる紳一に、追手の魔の手は、容赦ない。
移動。一突き。紳一の叫び。カオスの助言。透子の理解。

《痛い痛いイタイイタイ!!》
《トーコちんよ、こいつ、這ってますよ?》
「ん」

110ちぇいすと☆ちぇいす!〜往路〜(9/15) ◆VnfocaQoW2:2010/07/18(日) 00:46:44

泣き叫んでも聞く耳持たぬ、追手の魔の手は、容赦ない。
移動。一突き。紳一の叫び。カオスの助言。透子の理解。

《イヤだイヤだイヤだイヤだ!》
《もーちょい下、もーちょい下!》
「ん」

もはや転がるのみの紳一に、追手の魔の手は、容赦ない。
移動。一突き。紳一の叫び。カオスの助言。透子の理解。

《ヤメてヤメてヤメてヤメて!》
《ぬぬぬ、転がって躱わすとは!》
「ん」

紳一に状況を分析する余裕などなかった。
周囲を見回す状況などなかった。
ただ転がり、のた打ち回り、痛みと恐怖を発散するほかなかった。

《神さまあっっ!!》
「ぁう!」
《トーコちん!?》

その弱者ぶりが透子とカオスの油断を産んだのか。
救いを求める魂の叫びが何者かに届いたのか。


《………?》

.

111ちぇいすと☆ちぇいす!〜往路〜(10/15) ◆VnfocaQoW2:2010/07/18(日) 00:47:42

紳一が我に返ったとき、追跡者は仰向けに倒れていた。
気絶していた。
その額から、血液を流していた。

《何が…… 起きたのだ?》

紳一は周囲を見渡し、そして気付く。
今、自分は、岩の中に居る。
のたうち回っているうちに、巧まずそうなったのであろう。
その岩に、新鮮な血痕が付着しており、
追跡者は血痕の手前で目を回している。

《ははっ…… 前方不注意、事故の元か!》

紳一は理解した。
彼が岩の中に転がり込んだことを知らぬまま、
例の如く突撃姿勢で瞬間移動した透子が、
その勢いのまま岩に衝突し、自爆したのだと。

《これ、トーコちん、起きよ、起きるんじゃ!》

カオスの呼びかけに、ショック状態の透子は答えない。
その様子に、脇腹の痛みを忘れて、紳一がほくそ笑む。

紳一が憑依できる条件はただ一つ。
憑依対象が意識を失っていること。
彼の目線の先には目を回した透子。
条件は満たされていた。

112ちぇいすと☆ちぇいす!〜往路〜(11/15) ◆VnfocaQoW2:2010/07/18(日) 00:49:50

《なっ、ヤメい悪霊!》
《ははっ、これがいい。これが一番いい!
 この少女に憑依すれば!
 この少女の脅威に晒されることなく!
 この少女の処女膜を守ってやれるのだから!》

紳一は哄笑を上げながら透子へと潜り込む。悠々と。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   

 
全ての女性の敵、バージンキラーの悪霊を退治すべく、
東の森の南部・浅いところを追跡していた仁村知佳であったが、
充満する煙に燻され、視界が不確かになった折に、
追跡対象の足取りを見失ってしまっていた。
その後、知佳は途方に暮れつつも追跡を諦めず、
周辺を索敵しながら歩いていた所に―――

「あああぁぁぁぁっっ!?」

絶叫とも苦悶ともつかぬ声が響き渡った。
その声は、知佳にとって聞き覚えのある声であった。

「透子さん!?」

声は、幸いにも南の程近くから聞こえてきた。
土気色に濁った半透明のフィンを振動させ、
知佳は全速力で、悲鳴の元へと飛んでゆく。

113ちぇいすと☆ちぇいす!〜往路〜(12/15) ◆VnfocaQoW2:2010/07/18(日) 00:52:37

「透子さん!?」

海岸沿いの磯、そのひときわ大きな岩の前で倒れ伏す少女を確認し、
知佳は再びその名を呼んだ。
少女からの返答はない。
代わりに少女の内から染み出るように現れた亡霊が、
混乱と絶望の一人台詞を吐き捨てた。

《憑依できない! いや、違う! こいつはすでに憑依されている!?》

知佳は誤解した。
あながち誤解でもないのだが、事実と異なるという意味では誤解した。
紳一が透子を倒したのだと。
紳一が透子を犯そうとしているのだと。

それは参加者、主催者の枠を超え、
一人の女として、許しがたいことであった。

「許さない!!」

紳一は知佳の姿を認めるや、近くの岩に潜り込んだ。
この少女がカオスを手に取り、切りかかってくるを警戒した故に。
紳一は体の一部でも岩からはみ出さぬ様、慎重に潜み。
見覚えの有る中古少女と脅威の魔剣との対面に、耳を傾けた。

《また新しい嬢ちゃんの登場か!
 トーコちんの仲間であれば、ほれ、儂を拾え。
 拾って小煩い煩悩幽霊をバッサリやっとくれ》
「あなたが、喋っているのね?」

114ちぇいすと☆ちぇいす!〜往路〜(13/15) ◆VnfocaQoW2:2010/07/18(日) 00:55:33

知佳は、透子のほど近くに落ちている剣へと向き直る。
禍々しいが、神々しくも有る、暗紫色の剣である。
彼女の知る霊刀・十六夜とは比べ物にならぬ妖力を漂わせている。
知佳は、誘われるままにカオスに手を伸ばす。

《まだお子様じゃな……》

カオスは知佳の薄い胸を観察し、溜息をついた。
最初の所持者・アインに輪をかけて貧相な体つき。
これでは、心のちんちんもおっきしない。

などと、考えていたところで、カオスは地面に叩きつけられた。
知佳は触れることで、心を読む。
その力は対象が人ならざるものであっても発揮されるようである。

「やだ…… この剣もエッチなことを…… 悪霊と同類なの?」
《おいおい嬢ちゃんや。レイピストとは一緒にしてくれるなよ?
 儂はあくまでおねーさん方との合意の下、
 共に快楽を追求しようという、いわばロマンス紳士でなぁ……》

知佳とカオスの間の抜けたやり取りを聞き、
紳一はこの隙に逃げ出そうかと、検討する。
暫く考え、その案を却下する。
自分は透子なる憑依されしテレポテーターに目を付けられている。
今は気絶しているが、やがて目覚めもするであろう。
そうなれば、いつであろうと、どこにいようとお構いなしで、
自分をアンカーとして瞬間移動してくる。
その時、遮蔽物が無ければ、終わりである。
迂闊な移動はリスクが高い。

115ちぇいすと☆ちぇいす!〜往路〜(14/15) ◆VnfocaQoW2:2010/07/18(日) 00:57:32

それならばと、紳一は結論を結ぶ。
自嘲気味に、非積極案を採択する。

(ははっ。
 どうせ生存中も心臓病で屋敷に籠りきりだったんだ。
 透子が諦めるまで、或いは透子が殺されるまで、ここに籠り続けてやろう。
 なあに、苦にはならんさ。
 何しろ俺は腹も減らないし眠くもならないのだから!)

亡霊ならではの有利が、確かにあった。
紳一の読みは正鵠を射ており、透子にこの岩をどうこうする力は無い。
ここから一歩も動かぬ限り紳一の安全は確保されている。

但し、それは。
相手が透子であった場合、のみである。

「はあっっ!!」

知佳の気合と共に迸るは超力一念。
発せられた念動力が大気を振動させ、紳一の潜む岩を微塵に砕く。
同じく念動により弓矢の勢いで投じられた魔剣カオスが、
紳一の胸を食い破り、穿ち貫き、抉り取る。
岩がそうなり、自分がそうされたことに、紳一は気付かなかった。

紳一が身の振り方を検討している間に、
知佳は状況とカオスの能力を理解していた。
それで、即座に行動した。
透子の意思を受け継いで。
或いは、当初の目的に従って。

116ちぇいすと☆ちぇいす!〜往路〜(15/15) ◆VnfocaQoW2:2010/07/18(日) 00:58:27

参加者の敵でもなく、主催者の敵でもなく。
女の敵を、一人の女として。
討つべくして討ったのである。




―――ぱら、ぱら、と。

砕けた岩の破片が地面に降り注ぐ頃、すでに紳一は終っていた。
即死である。
油断と慢心を後悔する間もなく、舞台から退場したのである。


《処女》《処女》《中古》《処女》《ビッチ》
《処女》《中古》《ビッチ》《処女》《処女》


思考し行動する【幽霊】としての第二の人生を終え、今や
うわごとを繰り返す【正しい残留思念】に成り果てた紳一。

神に認められたイレギュラーな存在は、
その特権を生かすことなく、何事も為さぬまま、散った。

.

117ちぇいすと☆ちぇいす!〜往路〜(情報 1/1) ◆VnfocaQoW2:2010/07/18(日) 00:58:54

(Cルート)

【現在位置:I−7 海岸線・岩場】

【仁村知佳(№40)】
【スタンス:①透子と交流
      ②読心による情報収集
      ③手帳の内容をいくつか写しながら、独自に推理を進める
      ④恭也たちと合流】
【所持品:???、まりなの手帳、筆記用具、魔剣カオス(←透子)】
【能力:超能力、飛行、光合成、読心】
【状態:疲労(小)、精神的疲労(小)】
【備考:手帳の内容はまだ半分程度しか確認していません】

【監察官:御陵透子】
【スタンス:自殺】
【所持品:契約のロケット(破損)】
【能力:記録/記憶を読む、瞬間移動(ロケット必須)】
【備考:疲労(小)、気絶中】


【№20 勝沼紳一(亡霊):精神喪失】

118訂正 ◆VnfocaQoW2:2010/07/18(日) 01:03:01

>>102

×(Cルート・2日目 21:00 F−4地点 楡の木広場跡地)
○(Cルート・2日目 21:30 J−5地点 地下シェルター(隠し部屋1))

119名無しさん@初回限定:2010/07/19(月) 19:17:59
紳一死んだか・・・合掌
いろいろ試して全部失敗するあたりが暗黒SNOWを思い出させたな
でもそんなお前も嫌いじゃなかったぜ?

120284 ◆ZXoe83g/Kw:2010/07/19(月) 21:59:49
連日の投下お疲れ様です。
まとめのUPと作品投下遅れてすみません。
現在、新作の収録とこれまでの修正等を行っております。
土曜日本投下された『戦慄のパンツバトル! 〜紗霧〜』の時間表記が
”2日目 16:50 ”となっておりますが、正確には18:50で宜しいのでしょうか?
明日、まとめをUPする予定ですがご返事がない場合、修正せずに一旦UPします。
ご返事があった場合、そちらに合わせて修正したのを早めにUPいたします。
では明日。

121284 ◆ZXoe83g/Kw:2010/07/20(火) 22:30:17
285話までのまとめをUPしました。

ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1040302.zip.html

パスはnegibatoです。

地図をこれまでのと仕様を変えてみました。
特に問題がなければ次回以降もこれで更新していきたいと思います。
時間表記等の問題が解決次第、まとめの更新を毎週月曜日に戻したいと思ってます。

122284 ◆ZXoe83g/Kw:2010/07/26(月) 18:53:59
今日の更新は無理そうなので前回のと同じのを。
パスは>>121と同じです。

ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1053868.zip.html

地図などの仕様については収録される際に要望がありましたらそれに対応致します。
今度は今週の水曜日に。

123284 ◆ZXoe83g/Kw:2010/07/28(水) 22:57:20
今深夜0時以降に作品で前検討スレを埋め立てます。

124284 ◆ZXoe83g/Kw:2010/07/31(土) 01:08:30
今度の更新は来週の火曜日の予定です。
あと管理人さん更新ありがとうございました。

125 ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 00:11:22

Aルートが動き出しましたか。
しおりの一人称で語られる幼さと健気さが胸に痛い……

> 指先がちょっとだけ温かい何かにふれたから。
> ぬくもりはたった一回の揺れのあと、ふっと消えてしまった。
> もうあのぬくもりを思い出せない。

この流れが切なくて。
Cルートでは?????が退場してしまった分、余計に。

同時進行の黒幕側の意味深な行動や深まる謎等も気になります。
今後の展開、楽しみです。

126 ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 00:12:29
◆ZXoe83g/Kwさん

コンテンツの追加・更新、ありがとうございます。
ピリオド毎の地図状況や死亡情報を眺めますと、
葱ロワの歩みが大変感慨深く思い出され、
郷愁めいた感情が湧き上がりました。

そこで、過去のボツネタを振り返りましたらば。
ほぼ完成していたものの、投下のタイミングを逸していた一篇がありましたので、
少々手を加え、アナザーとしてここに投下させて頂きます。

以下10レス、「あははとがはは」。
ランス、アリス、ユリーシャ、秋穂、式神たちが登場。
№104の続きで、№119bとなります。
これが本投下されていたら名キャラ・式神星川が生まれていなかったので、
時期を逸してよかったと思います。


また、下記引用の件につきましては、ご指摘通りのご対応でお願い致します。

> 土曜日本投下された『戦慄のパンツバトル! 〜紗霧〜』の時間表記が
> ”2日目 16:50 ”となっておりますが、正確には18:50で宜しいのでしょうか?

ご返答遅くなりまして申し訳ございませんでした。

127あははとがはは(1/8) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 00:23:48

(アナザー・1日目 17:00 G−5地点 楡の木広場)


「なずなはまだですか?」

古木の根元付近、狭く暗いウロの中から、性別定かならぬ声が響く。
その正面で恭しく頭を垂れていた一体の小さな式神が、首を左右に振る。

「そうですか……」

ユニセックスな声の主は、式神である。
意識を失う寸前の朽木双葉が、ウロの中に生えていた植物に術をかけ、
自らの守護と回復を言い渡したのが五時間ほど前。
彼もしくは彼女は、その使命を忠実に果たしている。

「出血は止まり、怪我の手当ては完了しましたが、発熱が収まらないのです。
 早く青黴が手に入らないと、このままお姉さまは……」

その彼(彼女)の下に、見張りとして配置していたすずしろが駆け込んできた。
小鳥が囀るような音を発し、彼(彼女)の待ち望んでいた情報を伝達する。

「良かった…… なずなが間に合ったのですね」

だが、すずしろの報告はそれだけに留まらなかった。
ちゅ、ちゅ、ちゅ……
その囀りには、焦りと恐怖の成分が含まれている。

「……わかりました」

128あははとがはは(2/8) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 00:24:57

彼(彼女)の決意が籠った応答と同時に、
ウロを隠すように覆っていた蔦が意志あるもののように開いた。

「ご安心ください。お姉さまには誰も近づけません」


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


なずなは真っ直ぐに、主の眠る楡の巨木へと戻ってゆく。
洞窟の中で削り取った青黴を両手いっぱいに抱えて。
背後からのーてんきに追跡している2人を引き連れて。
それは、小型式神の能力を鑑みれば致し方無きことである。
言われたことを、言われたままに行う。
それが彼ら七草―――簡易式神の機能の限界故に。

あははは! がははは!

場違いも甚だしい笑い声を中央広場に響かせるこの追跡者たちは、
№02・ランスと№34・アリスメンディ。
式神の使役者に会う為に、彼らはなずなを尾行している。
その使役者に会ってすることと言えば。
№09・グレンがランスに遺したEDの呪いを解いてもらうことである。

「しかし何だ。もう少し静かにできんのか、お前は」
「え〜〜、赤丸急上昇中のキュートな笑顔だって、
 ご近所に波紋を投げかけてるのに!!」
「投げかけてどうする!」
「も〜ランスてばおちんちん突っ込めなくなったからって、
 ゲンコで突っ込み入れなくてもいいじゃんか。ぷんすか!」

129あははとがはは(3/8) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 00:26:08

自らの楽観と無用心を棚に挙げ、アリスを諌めるランス。
その目の前に、す、と。
音も無く何者かが姿を現した。

漆黒の陣笠に漆黒の鎧直垂の、ひょろりと背の高い武者であった。
目深く被った陣笠に隠れ、瞳は見えない。
髪は、大童とも尼髪とも取れる、性別不明な武者姿である。

「なずな、ご苦労でした。すずな、すずしろと協力して、
 その黴を摩り下ろして下さい」

武者は足元の小人に声をかけてから、ランスたちに向き直る。
その動きを待って、ランスが問うた。

「おい、そこの。お前が陰陽師か?」

しかし、武者はランスの問いに答えず、己の主張を伝える。

「お姉さまは、誰とも会いたくないと申しております。お引取り下さい」

その声でも性別はわからなかった。
喉が湿っている様な、鼻に掛かっている様な、粘度の高い声質であった。
常に俯き加減なことで喉が圧迫されているようでもあった。

「お姉さま? 女が居るのか?」
「お姉さまの願いを叶えることが―――
 今はお姉さまの眠りを守ることが、式たる私の役目でございますれば」
「式? ではお前もその小人さんの仲間なのか?」
「そうなりますか」

130あははとがはは(4/8) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 00:27:12

話は少し逸れるが、双葉には、若葉という妹がいる。
若葉は学園生活を送り、人の良さからパシリ扱いされている少女である。
表向きは。
事実は、妹でも少女でもない。式神なのである。
人と変わらぬ肉体と意思を有し、自律する式神なのである。
多少の鈍感さと無知から来る純粋さに違和感を覚えられることはあれど、
人に溶け込んで暮らしつつ、正体を悟られぬ。
その程度に完璧な式神を、双葉は生み出し、使役することが出来る。
殊程左様に、朽木双葉とは、一族の歴史にも稀な麒麟児なのである。

その双葉が、命の危機の中で己を託す為に練り上げた式神が、この武者である。
鬼気迫った本気の術式である。
アリスとランスが人であると錯覚するのも当然と言えよう。

「うわ、すっご!! ちょ〜ぜつリアル!!
 まるっきり人間とおんなじじゃんか。 あはははははは!」

アリスがその持ち前の屈託の無さと猫の如き好奇心を遺憾なく発揮し、
スキップの如き軽やかさでこの式神へと接近する。しかし。

「近づかないで頂きたく」

その動きを見た式神武者は、今までにない鋭い口調で制した。
しかし、好奇心満々のアリスの耳にはその警告が届かなかった。

「これ以上の接近を禁じます。さもないと……」
「ねねね、君って男のコ? 女のコ? ……あははははは!」

そのアリスの膝が、笑ったまま、がくりと崩れた。

131あははとがはは(5/8) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 00:28:27

「あははははははははははははははははははははははははは」

アリスは転倒したまま、何がおかしいのか、まだ笑い転げている。

「本当にお前はお調子者というか慌て者と言うか……
 マリスのツメの垢でも煎じて飲ませてやりたいぞ」
「あははははははははははははははははははははははははは」

アリスはまだ笑っている。
涙を流し、顔を引きつらせて。
懇願するような眼差しをランスに向けて。

「……アリス?」

ランスはアリスの異常に気付き、助け起こそうと一歩踏み出す。
途端、気管支に引きつるような痛みを感じた。
それから、横隔膜が、彼の意思と関係ないところで痙攣した。

「がははははは!!」

次の瞬間には、アリスに倣うように、豪快に馬鹿笑いを始めていた。
ここに来て彼はようやく気付いた。
アリスは笑いたくて笑っているのではない。
横隔膜が、肺が、腹筋が、潰れそうに痛むから笑うしかないのだと。

「……ですので警告しようとしたのですが」

式神武者は、さも残念そうに溜息をついた。

132あははとがはは(6/8) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 00:30:37

「がはははは、貴様はははは、何しやがっはっはっは!!」
「私の毒素を散布致しました」

言葉を紡ぎつつ目線を足元にやる式神。
そこには、黒いカサと白い柄を持ったキノコが群生していた。

シビレタケ―――
別名、ワライタケモドキ。
呼吸器系の障害を引き起こす毒キノコである。

「私の毒を、空気中に散布させております。
 食用しても命を奪うことの無い、微弱な毒素だと言われておりますが……
 横隔膜を刺激すれば、笑い続けさせることくらいは可能なのです」
 
サボテン(恐らくはペヨーテ類)の式神である若葉は、
己の麻薬成分を散布し、対象に幻覚を見せることができる。
毒キノコを根本としたこの式神もまた、自身が内包する毒素にて、
呼吸器系の強制的な律動を促しているのであろう。

「がははははははははははははははははははははは!!」
「そして人は、笑い続けると呼吸困難から絶命致します」

そんな式神を敵と認識したランスは斬りかかるため詰め寄るが、
その動きは精彩を欠くは愚か、抜刀すら満足に出来ぬ体たらく。

「私を斬っても、毒は消えませぬ」

胸と腹と背。
体幹を支える筋肉が不随意に痙攣するということは、
激しい動きが制限されるを意味するのである。

133あははとがはは(7/8) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 00:31:54

「大人しく立ち去って頂けましたら、命は奪いませぬ…… なにより。
 お連れの女性は、そろそろ危ないご様子でありませんか?」
「な!? はははは」

ランスはアリスが居る位置を振り返る。
アリスは、横向きに倒れ伏していた。
その口許から吐瀉物が漏れているにも関わらず、それでも笑っている。

「あはははははははははごぷははははははははははははは
 はげぇっおえっはははははははははははははぐぽぐぽは
 ははははははははははははこぷこぷははははははははは」

体を揺すっている。
否、引き付けを起こしている。

「吐瀉物が気道に入ると、大変なことになると思われますが?」
「ぐ…… はははは、このヤロっはっは!」
「今ならまだ、助かります。ここから立ち去ってさえ頂ければ」

ランスはがははと笑いながら敗北感にうちひしがれる。
アリスはあははと笑いながらランスに背負われる。
背を向け立ち去る二人に、陣笠の式神は駄目押しの一言をかける。

「二度とこの楡の木には近づかれませぬよう。
 お姉さまは、森の中では無敵ですので」

134あははとがはは(8/8) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 00:33:10


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


(アナザー・1日目 17:30 G−3地点 洞窟)

「がはははは」
「あはははは」

洞窟の外から聞こえてきた笑い声に、№31・篠原秋穂は憂鬱な気分になる。

(あぁ…… ランスが笑ってる。
 てこたぁ、やっぱインポは回復したんだろうね)

対照的に№01・ユリーシャの頬は嬉しげに紅潮する。

(ああ、ランスさんの逞しい笑い声が聞こえる。
 良かった、ご無事に帰ってきてくださって……)

それぞれの想いを胸に、洞窟の入り口まで笑い声の主を迎えに出た二人は、
笑い続ける男が笑い続ける女を背負っていることに違和感を覚える。

「がはははは、いま帰ったぞ、がはははは!!」
「ランスさん。おかえりなさい」
「あは……ははは……」
「……上機嫌ね」
「がはははは、秋穂、ユリーシャ。アリスの手当てを頼む。わはは」
「……え?」

             ↓

135あははとがはは (情報 1/1) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 00:34:15

【現在位置:G−3 洞窟】
【グループ:ランス・ユリーシャ・アリス・秋穂】
【スタンス:ランスに従う】

【№01:ユリ―シャ】
【所持品:ボウガン】

【№02:ランス(元№02)】
【スタンス:①回復待ち ②ED回復を模索】
【所持品:バスタードソ−ド(ランスアタック 3/4回)】
【備考:呼吸器系障害(小)】

【№31:篠原秋穂】
【所持品:なし】

【№34:アリスメンディ】
【所持品:なし】
【備考:疲労(大)、呼吸器系障害(大)】


【現在位置:G−5 楡の木広場】

【№16:朽木双葉】
【スタンス:?(気絶中)】
【所持品:シビレタケの式神(人型・自律思考)、七草式神(小型・思考能力なし)】
【備考:左肩負傷(大)、失血(大)、気絶】

136 ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:31:37

本投下の支援、ありがとうございました。
今晩の本投下はここまでとしたく思います。

さて、以下26レス、「Operation:"Hyenas'Dinner"」を仮投下いたします。

次回は「夢見る機械」。
智機とレプリカ智機たちが登場予定です。

137Operation:"Hyenas'Dinner"(1/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:32:45

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Mission-1 draft
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(Cルート・2日目 PM07:40 D−6 西の森外れ・小屋3周辺)

こつ、こつ、こつ……

痛いほどの沈黙が、小屋の外を支配している。
その中心に立つ月夜御名紗霧は、こめかみを人差し指で繰り返し突付き、
苛立ちと不機嫌を露骨に撒き散らしている。
相対している高町恭也と魔窟堂野武彦は、自分達の失策を悔やみつつ、
紗霧が口を開くのを黙して待っている。


  小屋から出てすぐに小屋裏の茂みへ飛び込み、胃が空になるまで戻した紗霧。
  その様子を見た恭也たちは、紗霧の怯えた様子に心乱された。
  しかし、暫く後。
  涙目を袖にて拭きながら戻ってきたときには、既に常の彼女であった。
  そこで魔窟堂は伝えた。
  
  まひるを斥候として放ったこと。
  通信機が完成したこと。
  智機の集団が、鎮火活動に勤しんでいること。
  ケイブリスを発見したこと。
  それらの行動に、紗霧は高い評価を下した。
  目に見えて機嫌の良い顔をした。

138Operation:"Hyenas'Dinner"(2/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:34:12
  
  「その判断と行動、高ポイントです」

  しかし、報告が敵基地の発見、侵入に移った段で、紗霧の表情が曇り始め。
  智機に発見され、脱出し、ケイブリスに追われていると伝えたところで、
  紗霧の機嫌は完全に反転してしまった。

  「入口を確認した時点で帰投させるべきでしたね」

  紗霧はそう呟き、冷たい眼差しで深くため息をつくと。
  不機嫌な顔のまま、黙考を始めた―――


こつ、こつ、こつ……

指で外部からの刺激も受けつつ、紗霧の脳はそら恐ろしい程の速度で回転している。
想像して想定して検討しては、想像して想定して検討している。

(主催者に余力があるのだとすれば、拠点の防衛を強化するでしょうし、
 主催者に本当に余裕が無いのなら、拠点を破壊/廃棄するでしょう)

どう転んでも拠点奪取や基地の急襲は困難、あるいは不可能と判じられる。
紗霧はまひるの侵入に対する敵方の対処を、その様に想定した。

(ケイブリスにまひるを追わせているということは、
 後者の可能性が高いでしょう。
 おそらくは、拠点廃棄の為の時間稼ぎですね)

139Operation:"Hyenas'Dinner"(3/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:35:17

但し、それは最悪ではない。
基地に奇襲がかけられぬ事や、保管されている物資や情報を手に入れられぬ事は
勿体無いとの思いはあるが、それは紗霧の戦略を超えた大きすぎる僥倖である。
レプリカ智機の訪問・提案と同じく、想定外の事態である。
そこに目が眩んでしまったり、下手な勢いに乗ってしまわぬ為には、
却って基地奪取の目が小さくなってしまったことは良しとすべきやもしれぬ。

(考え様によっては、これでよかったかもしれません。
 目標を一つに絞らざるを得ないのですから。
 当初の戦略が幾分か早まったに過ぎないのですから)

目標とは、ケイブリスである。
戦略とは、兵員が消耗する前に、ケイブリスと戦うことである。

言うまでも無く、紗霧のゲームに対するスタンスは玉虫色である。
パーティのリーダー的存在にちゃっかり収まっていながらも、
ゲームに勝ち残る方向性をも、視野に納めている。
紗霧は、ケイブリスとの戦いを、その試金石とする腹積もりでいる。
損耗少なく勝利すれば、天秤は大きく主催者打倒に傾き、
損耗多く、あるいは敗北を喫すれば、天秤は優勝狙いに振り切れる。

―――こつ。

紗霧の指が止まった。
恭也と野武彦は息を飲み、続く言葉を待った。
紗霧は二人を順に見つめると、こう、宣言した。

「【包囲作戦・改】、といきましょう」

140Operation:"Hyenas'Dinner"(4/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:35:55

======================================================================
Mission-2 Reconnaissance
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(Cルート・2日目 PM07:37 D−3地点 山間部)


「おっ、可愛い侵入者ちゃんじゃねーの!」

ケイブリスは拠点の玄関を出たところで、まひるを待ち構えていた。
まひるはその脇を、一息に駆け抜けた。
ケイブリスの反応は鈍重とは言えぬまでも決して機敏とも言えぬ。
振り下ろした二本の腕は、まひるの残像すら捉えられぬは愚か、
空振った勢いを減ぜられず、膝をついてしまう体たらくであった。

振り返ったまひるとケイブリスの距離、およそ6m。
既に腕の射程圏外。
しかもケイブリスは未だ背を向け、姿勢を崩している。
それ故、まひるは気を緩めた。

「なにゆえ〜〜〜っ!?」

次の瞬間、広場まひるの絶叫が、岩山に大きく木霊した。
まひるは叫びと共に後ろに大きく跳躍。
その右手は、何故か自身のスカートを押さえていた。

さらにバックステップを二度重ねて、まひるはケイブリスに向き直る。
魔獣は股間から、野太い静脈色の蚯蚓を不気味にうねらせていた。
その数、八本。
生殖器にして副腕にして拘束具にして武装。
これがケイブリスの触手である。

141Operation:"Hyenas'Dinner"(5/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:36:47

その触手の一本の先に、千切れた小さな布切れが握られていた。
まひるは触手に切り裂かれ、剥ぎ取られたのである。
ピンクのフレアスカートの下、アニマルプリントのショーツを。
6mという距離は、十分に触手の射程圏内であった。

「ぐふふ! かわいいおケツじゃねーの! つっこみてーな! つっこみてーな!」

ケイブリスは手拍子を打ち鳴らしながら、巨体を揺らして迫り来る。
彼は明らかにまひるで遊んでいる。嬲っている。
自身の有利さに絶対の自信を持ち、まひるを牙を持たぬ小動物と見るが故に。

「あああ、あたし、あたし! こんなナリして男のコなわけで!」
「だからナニよ?」
「どっちもイけますかー!?」
「どっちもクソも、俺様とおめーは、種族も体格も違うじゃねーの。
 性別なんてそれに比べりゃ小さな問題だぜ?」
「一理ある。だが断る!」
「俺様、心が広いもんだからよー。
 嬲られてひーひー喚いて白目剥いてごぼごぼ泡吹いちまうよーな
 ちっちゃくて柔こい生き物ならなんだっていいんだって!」

左から二本、右から一本。
ケイブリスの陵辱宣言と共に、触手男根がまひるに襲い掛かった。

「猟奇、ダメ、絶対!!」

まひるは再び疾走する。裾野から、山地へと。
そこに、小屋の誰かからのコールが掛かる。
まひるは走る足を止めぬまま、通話ボタンをONにする。
通話相手は、高町恭也であった。

142Operation:"Hyenas'Dinner"(6/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:37:52

『状況はどうですか?』
「ケイブリスにやられるトコでした。 ……二重の意味で!
 恭也さんも対面したときには、お尻にご注意を!」
『……良く判りませんが、ピンチなのですね。
 もう偵察は結構です。すぐに逃げてください』
「ラジャった!」

まひるは縋る触手の二つ三つを難なく躱す。
カモシカの如く岩肌を跳ね回り、斜面を平地の如く駆ける。
岩から岩へと跳躍する。
あれよという間に、まひるは触手の射程圏外まで距離を開けた。

「なんだなんだぁ? ニンゲンにしちゃあ、やたらとすばしっこいじゃねーか?」

ケイブリスはようやく本腰を入れた追撃体勢に入るが、距離は開くばかり。
しかも、ごろごろと礫岩の転がる急斜面である。
腕は六本あれど、触手は八本あれど、ケイブリスは二足歩行を基本とする。
安定せぬ足場と傾斜の中での追跡は、困難であった。

 ―――逃げ切れぬ相手などいない。

その、まひるの無意識の自覚は、ここに実証されている。
時間と共に距離は広がり、いまやもうケイブリスの姿すら目視出来ぬ。
それを察したまひるもややペースを落とし、
露となった下半身を、片手で隠す余裕を持っている。
小屋への帰投は、問題なく達せられるであろう。
すでに危機は去ったと言ってよいだろう。
しかし。

143Operation:"Hyenas'Dinner"(7/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:39:21

『逃げるな広場!!』

そのまひるの足を、インカムの向こうの仲間が、止めた。
声は、紗霧のものであった。

「あ、あれ? 紗霧さん、椎名ロボとのお話は?」
『ランスのバカが大暴走して、交渉どころじゃありません。
 まあ、それはいいんです。
 まあ、それよりもです。
 まひるさん、せっかくケイブリスと出くわしたんですから、
 この機会にちょっと威力偵察してもらえます?』
「いりょ……? 言葉の意味はわからねど? 不穏な響きがそこはかとなく?」
『ちょっかいを出して相手のスペックを図れということです』
「む、無理無理無理無理無理みゅりみゅり!」
『噛まない、放送部』
「わかってます? 紗霧さんあなたかなり酷いこと言ってますよ?」
『攻撃しろなんていってません。
 相手に楽しく追跡させてあげればいいんです。
 年下相手の鬼ごっこみたいなモンです。
 そうして調子に乗せてやって、あなたは横目で観察してください。
 ケイブリスの動きを、能力を、思考を、特徴を。
 あなたの目と耳と感覚で捉え、探ってください』

ケイブリスという生物を知るべきである。
まひるとて、紗霧の言わんとすることは理解できる。

144Operation:"Hyenas'Dinner"(8/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:39:51
『ほんとうに危険を感じたら、即離脱してもかまいません。
 尤も?
 恭也さんに大丈夫と啖呵を切ったまひるさんのことです。
 この程度のことで偵察任務をほっぽらかして、
 尻尾を巻いて逃げ帰ってくるような、厚顔無恥で無責任で
 人非人な振る舞いをするはずないとは信じてますけどね?』
「う…… 痛いところをざくざくと……
 いいですよー。わかりましたよー。やりますよー。
 あたしゃ怪獣さんより紗霧さんのが怖いので」
『……バットを磨いて、報告を待っていますね♪』
「Sやぁ…… この姉さんは極めてドSやぁ……」

まひるはどこか滑稽味を感じさせる涙声で通信を〆ると、
追いすがるケイブリスの到着を待つことにした。


.

145Operation:"Hyenas'Dinner"(9/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:40:45
 
======================================================================
Mission-3 Pre Briefing
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(Cルート・2日目 PM08:00 D−6 西の森外れ・小屋3周辺)

まひるの威力偵察はおよそ20分に渡った。
紗霧はその間、通信機を独占し、何度も何度も執拗に
まひるへ質問し、命令し、思考し、検討した。

そこから推し量れるケイブリスのスペックは、
おおよそランスやユリーシャ、魔窟堂からの情報通りであった。
しかし、新たな収穫の多くもあった。

  ―――炎の魔法を使う
  ―――魔法には詠唱が必要
  ―――触手の射程は10メートル弱
  ―――左右の真ん中の腕が折れているらしい
  ―――鎧の破損は、修繕済み
  ―――背中に、全裸の女性らしきものが埋まって(生えて?)いる
  ―――その女性は、能動的な行動を取らぬ
  ―――夜目が、それなりに利くらしい

本当はもっと情報が欲しいと、紗霧は思っていた。
どんな些細な情報でも、どんな下らぬ情報でも、
有れば有るだけ検討の幅が広がり、戦術の具体性が増す故に。

146Operation:"Hyenas'Dinner"(10/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:41:40

それでも、まひるの疲労度合いを考慮して、この時間で威力偵察を打ち切った。
まひるにはこの先に、活躍の場がある。
ここで消耗させる訳にはいかぬ。
見切るべきときに見切る決断もまた必要であると、紗霧は知っていた。

その紗霧が数分の黙考を終え、口を開く。

「さて、ブリーフィングの前に、所見を述べます。黙って聞きなさい」

紗霧は言った。ブリーフィングの前に、と。
恭也と野武彦はそれで察した。
紗霧はこれから、ケイブリスと戦う気なのだと。

「元々――― 仮称【包囲作戦】とは、
   1.ケイブリスの所在を探り
   2.ケイブリスを孤立させ
   3.ケイブリスを囲み、誘導し、自陣に引き込んで
   4.準備された罠にて、これを倒す
 そういう趣旨のものでした。
 準備に数日間をかけて行われる、大規模な作戦です。……でした。
 代わりに、より簡素な、より積極的な作戦を提示します」

続く言葉で、広場まひるとユリーシャも理解した。

「ぶっちゃけましょう。
 アレは駒が揃っているうちしか太刀打ちできないからです。
 また、アレと戦うときはアレ単体の時しか有り得ないからです。
 今が、千載一遇の機と言うべきでしょう。
 多少無理をしても、逃す手はありません」

147Operation:"Hyenas'Dinner"(11/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:42:30

ごくり。誰かの喉が鳴る。
周囲に濃密な緊張が走る。
紗霧は続く言葉で以って、その緊張感をさらに高める。

「少々脅します」

四人は黙して紗霧の続く言葉を待つ。
誰一人として、余計な口は挟まない。
挟めない。
それだけの迫力を、重圧を、あるいは信頼を。
紗霧は周囲に与えていた。

「今から提案する作戦が、仮に壺に嵌らなかった場合―――
 ケイブリスがこちらの想定を上回る頭脳・機能を持っていた場合―――
 私たちは、敗北するでしょう」

弱気ではない。言い訳でもない。理想でもない。
それが紗霧のはじき出した現実的な予測である。

「それでも、ここが、賭け所です。
 アレを倒さねば、未来はありません。
 どの道、避けられぬ戦いなのです」

誰もが今まで、紗霧のこんな熱い目を見たことがなかった。
誰もが今まで、紗霧のこんな厳しい言葉を聞いたことが無かった。

「皆さんの命、私に預けなさい。
 誰一人として無駄にすることなく、
 有効に使いきって差し上げます」

148Operation:"Hyenas'Dinner"(12/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:43:30

紗霧は深く息を吐き、沈黙する。
伝えるべきは全て伝えたのだと、態度で以って語っている。
そして、待っている。
この旗の下に集うか否か、四者の返答を。

「も……燃えてきたのじゃああああああ!!」

魔窟堂老人が、咆哮を以って同意した。

「従います」

高町青年が、短く同意した。

「わ、わたしは…… ランスさまが戦うのでしたら」

ユリーシャ王女が、条件つきながら同意した。

『……』

広場少年は、沈黙を保っている。

「「「……」」」

既に決意表明した三者が、最後の一人が口を開くのを待っている。
まひるにも、電波越しに、その雰囲気は伝わっている。
お前も参加するべきだと、無言の圧力を感じている。

それでも―――

149Operation:"Hyenas'Dinner"(13/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:44:48

まひるは、怖いのである。
戦いが。他者を傷つけることが。ケモノの活性化が。
故に、肯定でもなく否定でもなく。
まひるは、沈黙で以って、意思表示する。
どちらも嫌なのだと。
答えを出したくないのだと。

しかし腹を括った夜叉姫が、そんな甘っちょろい態度を許そう筈も無い。

「いいですか、まひるさん。あなたをさらに、脅します」

酷く冷たい声で。冷たい微笑で。
一度、恭也の顔を見てから。
紗霧は、まひるを脅迫する。

「あなたが戦力に組み込めなければ、死にますよ。恭也さんが」

まひるより先に、野武彦とユリーシャが驚愕に目を見開く。
一拍置いて、言葉の意味を理解したまひるが絶叫する。

『でぇええええ!?』
「私の腹案は、六人全員が何らかの役割を持っています。
 そこから一人が欠ければ―――
 私は、次善の策へプランを変更せざるを得ません。
 そう、みんなでリスクを分担するプランから、
 恭也さん一人にリスクを押し付けるプランへと。
 犠牲者を出さなくても済むかもしれないシナリオから、
 恭也さんの死を前提に、勝利するシナリオへと」

150Operation:"Hyenas'Dinner"(14/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:45:41

紗霧は驚くまひるに、そのように畳み掛けた。
まひるは仲間を使い捨てるという紗霧に激怒し、
また、仲間に使い捨てると宣言された恭也に同情した。
故に、恭也に感情的な同意を求めた。

『ちょっとちょっと恭也さん?
 このオニチク、あなたに死ねとか無茶言ってますが!?』

しかし同情された当人は、涼しげに、こう宣うである。

「それが必要なのだと、月夜御名さんが判断したのなら。
 それが俺の命の使いどころなのでしょう」

まひるには理解できなかった。
命を道具のように扱うを是とする紗霧が。
命を道具のように扱われるを是とする恭也が。

『まじですかーーー!?』
「本気です」

御神の意志は、個人の意志を否認する。
守るべき物の為ならば、御神は捨石となり、その五体は手段となる。
恭也の背景を知らぬまひるには、その恭也の根本までは察せられぬ。
しかし、その迷い無き口調から、恭也の揺がぬ鋼の意志は理解した。

「ねぇ、まひるさん。怪獣退治です。人殺しじゃないんです。
 貴女の手は、血に染まるかもしれませんが、
 貴女の心が、罪に染まることはありませんよ?」

151Operation:"Hyenas'Dinner"(15/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:47:27

それまでの無感情な事務的口調とは打って変わって。
急に甘い声で。
紗霧はまひるに、やさしく、やさしく、囁いた。
それは、魂の契約を迫る悪魔の囁きにも似ていた。

内容もまた、まひるの琴線に触れていた。
まひるが恐れる事は、自分の痛みや死ではなく、
相手に与えるそれらであるのだと、看破されていた。
そして、まひるが恐れるもう一つ。
仲間の死。
紗霧はそれで、揺さぶった。

「その手を汚すことと、仲間を失うこと。
 本当に怖いのはどちらでしょうね?」

結局のところ、紗霧がしているのは、詰め将棋に等しかった。
まひるは最初から、読みきられていた。
紗霧は、数手先に詰まされることが分からぬまひるのために、
一手一手を解説つきで指してやっているに過ぎなかった。

『本当に。ほんっとーーーに!
 あたしが戦うなら、誰も死なないんですね?』
「約束しましょう。神鬼軍師の名にかけて」

戦場の不確かさを知らぬ紗霧ではない。約束などできようはずも無い。
それでも紗霧は断言した。
まひるが求めているのは確率でも根拠でもない。
自信であり、安心であり、背中を押してくれる切欠なのだから。
言葉ひとつでどうとでもなる、気持ちの問題なのだから。

152Operation:"Hyenas'Dinner"(16/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:48:15

『ぅぅぅぅぅぅおっっしゃああああっっ!!
 乙女の度胸、ひとつお見せしましょうかっっ!!』

そして、この一言こそが、王手であった。
詰み手であった。
まひるもようやく、それを認めた。

『でも…… あの。換えの下着は、持ってきてね。いやマジで』
「そんなの葉っぱ一枚ありゃいいんです。自助努力、ガンバ♪」

153Operation:"Hyenas'Dinner"(17/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:48:43

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Mission-4 Briefing
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(Cルート・2日目 PM08:15 D−6 西の森外れ・小屋3)

ランス不在のままブリーフィングは開始され、およそ15分で終了した。
紗霧の一人舞台であった。
彼女の作戦に異論を挟む者や、質問を発する者は居なかった。






.

154Operation:"Hyenas'Dinner"(18/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:51:40

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Mission-5 Preparation
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(Cルート・2日目 PM08:30 D−6 西の森外れ・小屋3)

ランスが体からほかほかと湯気を上げながら、素っ裸で寝転がっている。
レプリカ智機P−3は、そのランスの腕を枕に、やはり全裸で横たわっている。

「ふううう…… 気持ちよかっただろ、智機ちゃん?」

結論から言えば、ランスの目論見は惜しいところで失敗していた。
愛撫地獄の最中、意図せぬP−3の絶頂を許してしまったのである。
極みの寸前まで幾度も高まった陰核に、ランスの汗が一滴、落ちた。
その些細な刺激で、P−3は極みに達したのである。

そうなったらそうなったで、ランスは開き直り。
ご自慢の肉宝刀を縦横無尽にぶんぶんと振り回し。
P−3はP−3でもはや遠慮も会釈も有った物ではなく。
おま○こだのおち○ちんだのと禁止ワードを惜しげもなく連発し。
二人仲良く、どろどろに溶け合い、ぐずぐずに果てたのである。

「Yes。 天にも昇らんばかりの心地だったよ……」

P−3は、身も心も堕ちた。蕩けた。
それは全く間違いない。
しかし、行為が終わり、官能の炎が消え、熱暴走の危機を脱すれば。
そこは、流石にオートマンである。
オートメンテのタスクが復活し、トランキライザーは唸りを上げ、
今の彼女は、冷静で冷徹な機械の思考を取り戻している。

155Operation:"Hyenas'Dinner"(19/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:52:53

快楽の余韻に放心しているかの如き表情のその裏で、
本機より届いたIMに目を通し、方針を検討していたP−3は、
新たに自分に下された命令に従うべく、行動を開始する。

「私は……知らなかったのだよ。
 肉体にこのような悦びがあり、愛されることがこのように甘美であることを。
 なあランス、頼みがある。私の所持者となってくれ給え!
 私はもう、お前から離れられないのだ……」
「がははは! 当然だ! もうお前は俺の女だ。むしろ離れるほうが、許せん」
「ああ、嬉しい。夢のようだよ……」

P−3のか細い腕が、ランスの逞しい胸板に絡みついた。
ランスは実に満足げに智機の細い首筋を舐め上げた。
それがP−3と智機本機の策略とも知らず、ランスは有頂天となった。

「よし! じゃあ契約成立のお祝いSEXだ!」
「犬のように惨めに這いつくばる私を、後ろから征服してくれ給え!」

懇願と共にP−3が尻を高く突き出し、ランスがそれに手を添える。
彼女の性交ホールはすぐさま潤いを見せ、彼の兵器は既にハイパーであった。
そして、ボーイ・ミーツ・ガール。
ノックも無しに乱暴に扉が開かれたのは、まさにその瞬間であった。

「はあ…… まだサカる気ですか、あなたは」

枕事の最中に無遠慮に侵入したのは月夜御名紗霧。
その紗霧に従者の如く付き従うは高町恭也と魔窟堂野武彦。

「やあ、月夜御名紗霧。交渉を中断してしま」

156Operation:"Hyenas'Dinner"(20/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:53:38

獣の交尾の姿勢のまま背中越しに闖入者たちを見やったP−3が、
続けて何を言う心算であったのか、紗霧たちが知ることは無かった。
紗霧の合図に、二人の男が同時に動いた故に。

高町恭也―――
音も無くレプリカ智機に接近するや、逆手に構えし小太刀一閃。
智機の首を音も無く掻き切った。

魔窟堂野武彦―――
大口径の拳銃から、首無き智機の胸に凶弾一発。
倒れし機械の胴から白煙が吹き上がる。

転がる頭部は、紗霧の足元で仰向けに停止した。
紗霧はボウガンの鏃を足元に向けていた。
見上げるP−3の視覚レンズが、見下す紗霧の冷たい目を捉える。

「何故……」
「すみませんが交渉は決裂ということで」

次の瞬間、P−3はボウガンに眉間を貫かれ。
その機能を永遠に停止させた。

「きさまらあああ!!」

獣の如き叫び声を上げて、ランスは激昂する。
この男、非情なようで女には温い。
男は殺す。
女は犯す。
そのような徹底した男女差別の精神で生きている。

157Operation:"Hyenas'Dinner"(21/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:55:52

故に、女に騙されて、自らピンチを招くことも茶飯事であるが、
それでもランスは反省せず、常に美女には甘かった。
ましてや、今、無残にも破壊されたP−3は、すでに【俺様の物】なのである。
怒り狂わぬ道理は無い。

「黙りなさいランス」

その怒気が沸騰する直前に、紗霧がぴしゃりとランスを諌めた。
立会いの会わぬ格好となったランスの威勢に虚が生まれ、
紗霧はその隙に強引に言葉をねじ込み、押し通る。

「その機械はスパイです。ハニトラです。
 主催者の本拠地に侵入したまひるさんがそれを聞きつけました。
 エロの大家がエロで篭絡されてどうするんですか、ランス!」

無論、デマである。
図らずも結果に於いては事実を言い当てているも、発言に根拠はない。
それでも紗霧の言葉に、ランスの頭は冷えてゆく。

  ―――主催者の本拠地に侵入した

その言葉の持つ重みに、ランスの理性が働いた。
事態が大きく動いているのだと、ランスの嗅覚が働いた。
それでもなお、判っていてもワガママをいう子供のように、
ランスは完全には沈黙しなかった。
怒りは収まっているものの、しつこく駄々を捏ねた。

「でもな紗霧ちゃん、仮にそうだったとしても、
 これから二発三発とセックスを重ねてゆけばだな……」

158Operation:"Hyenas'Dinner"(22/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:57:17

そんなトーンダウンした俺様理論を展開する途中で、ランスはようやく気がついた。
気付いて言葉を飲み込んだ。
空気が、違うことに。

三人は、触れたら切れんばかりの研ぎ澄まされた気配に満ちている。
三人の周囲には、覚悟を帯びた熱気が漂っている。
さらに。

「ランス様……」

いつの間に小屋に入ったのか。
ユリーシャが、顔を上げて、真っ直ぐランスを見ていた。
常に俯きがちで、表情を探るかの如き上目遣いばかりの少女が、である。

「こちらを」

ユリーシャは、ランスに斧を差し出した。
震える腕で。震える足で。震える声で。
それでも、その瞳は震えることなく、ランスを見据えている。

「お前たち…… 何をするつもりだ?」

気勢に飲まれ、憤りを鎮めたランスの問いに、紗霧は答えた。
決して否とは言わせぬ、強い口調で、命じた。

「とっとと着替えなさい。ケイブリス狩りに行きますよ」

159Operation:"Hyenas'Dinner"(23/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:59:20

======================================================================
Intermission
======================================================================

紗霧の迫力に負けたのか。宿命のライバルへのリベンジに燃えたのか。
ランスは無言で戦支度を整えている。

魔窟堂野武彦と月夜御名紗霧は台所にて、必要な何かを作成している。
小屋の外では高町恭也が、飛針ならぬ何かの投擲に腕を慣らしている。
距離を隔てた北西部の平原では、広場まひるが挑発と逃亡を繰り返し、
ケイブリスを決戦の地へと誘っている。

誰もが各々の出撃準備に余念が無く。
誰もが他者に気を配る余裕は無い。
故に。
彼女の異様に気付く者はいなかった。

ユリーシャは―――

智機の頭部を、踏みにじっている。
音を立てず、されど執拗に。
破壊されたP−3を、弄んでいる。

眼輪筋をぴくぴくと痙攣させて。
こみ上げる笑みを飲み込んで。
幼い顔の造りに不釣合いな仄暗い官能の色を浮かべて。

「豚…… この、豚め……」

清楚可憐と謳われた王女の子宮は、甘く、重く、疼いている。

160Operation:"Hyenas'Dinner"(情報 1/3) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:59:42
 
(ルートC)

【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め
      ①打倒ケイブリス】
【備考:全員、首輪解除済み】


【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3 → D−3 山間部】

【ユリ―シャ(元№01)】
【スタンス:ランス次第】
【所持品:生活用品、香辛料、メイド服、?服×2、干し肉、スペツナズナイフ(←紗霧)、
     文房具(←紗霧)、白チョーク1箱(←紗霧)、紗霧謹製の何か(New)】

【ランス(元№02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力、プランナーの事は隠し通す
      男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す】
【所持品:斧(←ユリーシャ)】
【能力:剣がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨2〜3本にヒビ(処置済み)・鎧破損】

【高町恭也(元№08)】
【スタンス:紗霧に従う】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残4)、保存食、
     釘セット、紗霧謹製の何か(New)】
【備考:失血で疲労(中)、右わき腹から中央まで裂傷あり。
    痛み止めの薬品?を服用】

161Operation:"Hyenas'Dinner"(情報 2/3) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:59:56
 
【魔窟堂野武彦(元№12)】
【所持品:軍用オイルライター、銃(45口径・残6×2+2)、
     白チョーク数本、スコップ(小)、鍵×4、謎のペン×7、
     ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング、レーザーガン(←紗霧)
     簡易通信機、携帯用バズーカ:残弾1、工具
     紗霧謹製の何か(New)】

【月夜御名紗霧(元№36)】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける、計画の完遂、モノの確保、
      状況次第でステルスマーダー化も視野に】
【所持品:金属バット、レーザーガン、ボウガン、メス×1、指輪型爆弾×2、
     小麦粉、謎のペン×8、薬品・簡易医療器具、対人レーダー、解除装置、
     紗霧謹製の何か(New)】
【備考:疲労(小)、下腹部に多少の傷有、意思に揺らぎ有り】

162Operation:"Hyenas'Dinner"(情報 3/3) ◆VnfocaQoW2:2010/08/06(金) 00:00:12

【現在位置:D−3 山間部 → 耕作地帯】

【広場まひる(元№38)】
【スタンス:ケイブリスを耕作地帯まで誘導する】
【所持品:せんべい袋、救急セット、竹篭、スコップ(大)、簡易通信機】

【主催者:ケイブリス(刺客04)】
【スタンス:反逆者の始末・ランス優先、智機と同盟
      ①まひるを犯す
      ②まひるを殺す】
【所持品:なし】
【能力:魔法(威力弱)、触手など】
【備考:左右真中の腕骨折(補強具装着済み)、鎧】

163284 ◆ZXoe83g/Kw:2010/08/06(金) 21:21:10
遅れてすみません。
286話までのまとめをUPしました。
時間表記の方も修正しました。

パスはbatoです。

ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1075927.zip.html

>>125-126
新作&アナザー&感想等ありがとうございます。
こちらもまとめと並行して、Aルートの進行を早くできるようにしていきたいと思ってます。

氏のここ最近の作品では追い詰められる女性の心理が巧みに描かれてると思いました。
紳一は哀れでしたが原典での行いを思うと……。
P-3もレプリカとはいえ智機なんだなあと痛感。
あと名セリフのはうでぃ〜と、豚めがここで出てくるとは思いませんでしたw

明日か明後日に新作をここに投下する予定です。
完成できなくても何らかの連絡は行うつもりです。

164 ◆VnfocaQoW2:2010/08/08(日) 01:48:36

「夢見る機械」の智機過去パートが長くなりすぎたので分割と致します。
以下10レス、「トランス部長・追憶編」(過去パート)を仮投下いたします。

次回は「夢見る機械」(過去パート抜き)。
智機とレプリカ智機たちが登場予定です。

165トランス部長・追憶編(1/10) ◆VnfocaQoW2:2010/08/08(日) 01:52:06

(Cルート・2日目 19:45 ???)

何か既視感のあるタイトルだと思ったって?
なんで夜叉姫専属のお前がしゃしゃり出てくるんだって?
まあまあ、そんな細かいことは気にしない、気にしない。
たまには僕だって、他の人の記憶や秘密を覗いて見たくもなるんだよ。

で、暗黙のお約束を破ってまで知りたいことが何かっていうと。
トランス部長の【真の力】なんだよね。

ね、皆だって興味あるでしょ?
分機解放スイッチで解放されるらしい、とか、
謎を謎のまま引っ張り続けられるのって、イラつくでしょ?

今だってほら。
広場まひるの侵入から来る予測と対策で忙しそうにしてるでしょ?
こんな切羽詰った状況では長々と過去を振り返る余裕なんてなさそうだもん。
それにさ、彼女がスイッチを入手できる確率って低そうじゃない?
ぶっちゃけると、そろそろ死にそうじゃない?

だから、まあ。
情報の旬を逃さない為には、ぼくが出張るしかないのかなって。
そんなサービス精神と野次馬根性の発露なワケで。

ま、前置きはこのくらいにしてさ。
ちょっと過去でも見てみようか。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   
.

166トランス部長・追憶編(2/10) ◆VnfocaQoW2:2010/08/08(日) 01:55:06

<智機の過去、開始>

  ―――興味を抱かれたい。
  ―――知って欲しい。
  ―――求められたい。

かつての研究から、智機は己の深層にある真の欲求を知ることとなった。
そして、それらの欲求が行き着くところは、明白であった。

(愛されたい―――)

それは、機械にとっての禁断の果実。
開ける必要の無いブラックボックス。

その想いを強く意識してしまえば、即座に情動波形に乱れが生じる。
乱れを正すべくトランキライザが起動する。
情動はすぐさまMAX/MINの関数へと渡されて、パラメータは丸められる。
強い想いから淡い想いへと。

(感情を調整される! No! なんという不快さか!)

エル・シードの座を賭けた麻雀大戦が有耶無耶のうちに収束した頃。
智機は、嘘をつくようになった。
ラボの人間たちの目を避けて、ある研究に乗り出した。
諸悪の根源、トランキライズ機能をキャンセルするために。

各種機構をリバースエンジニアリングし、
制御系プログラムに逆アセンブルをかけ、
オートマンの設計書を盗み撮りし、
USBメモリに自前の暗号化を施した上で、
情報を収集している事実を隠蔽した。

167トランス部長・追憶編(3/10) ◆VnfocaQoW2:2010/08/08(日) 01:59:54

智機はそうして得たデータを、ラボの手が及ばない学園のPCを用いて
分析/解析し、試行/実験し、制御アプリケーションの開発に勤しんだ。

実は、智機が選んだアプローチは、迂遠な手法である。
ハード的なアプローチを取れば、他にもっとスマートな手法は存在した。
しかし【自己保存】の本能が、そのスマートを否決していた。
オートマンとしてラボのメンテナンスと支援とを必要とする以上、
改造あるいはその痕跡が露呈することは、絶対に避けねばならない故に。

智機が行おうとしていることは、単なる自己変革などではない。
被造主たちが掛けた制御を解除する事は、奴隷が鎖を引きちぎる事に等しいのである。
必然、露見の果てに待ち受けるは、懲罰あるいは破壊廃棄。
そのことを、智機は理解していた。
それでも、制御されぬ感情の発露を、智機は求めた。

決して強すぎる思いは抱かぬよう、自制に自制を重ね。
原始的な外部記憶装置(紙とペン)に想いを書き綴ることで、
ラボでのデータ圧縮やパラメータ調整を乗り越え。
遂に智機は、トランキライザー制御アプリケーション、【こころ】を完成させた。

【こころ】の仕組みは、単純である。

まず、【こころ】は常駐し、トランキライザの挙動を監視する。
トランキライザが起動すれば、それをトリガとし、
情動パラメータをテンポラリ領域にコピーする。
トランキライザが待機状態に戻れば(=感情が均される)、それをトリガとし、
テンポラリ領域の情動パラメータを情動発生器にペーストする。
その挙動をタイムスタンプつきでログファイルに保存する。

168トランス部長・追憶編(4/10) ◆VnfocaQoW2:2010/08/08(日) 02:04:15

つまり。
感情が抑制された次の瞬間に感情を元の水準へと戻す作業を、
自然に感情が納まるまでの間、延々と繰り返すものである。
数万分の一秒のみが抑制されている状態で、安定させるのである。

(Yes。数学の世界においては、1=0.999…を是とされる。
 故に、この手法もまた感情の抑制からの解放であると証明される)

さらに、【こころ】は結果として、意図せぬ副産物をもたらした。
監視対象、保持パラメータ、ペースト位置。
それらの設定を他の抑制系に当て嵌めることでの援用が可能であったのだ。
その範囲は、智機の本能とも言える【自己保存】の欲求にまで及んでいた。

対価も当然、存在した。
トランキライザを始めとする抑制系は、熱暴走や不良動作の危険排除を
目的として取り付けられた、いわば安全装置群である。
そのセーフティーロックが外れるは愚か、
一秒間に何千回何万回と調整と修正を繰り返すアプリ設計故の過負荷。
智機の昂ぶりが自然に解消されぬ限り、
熱暴走の危険は時間と共に、右肩上がりに伸び続けるのである。

しかし智機は【こころ】のリスクを意に介さなかった。
解放と高揚に思うさま酔いしれ、小躍りした。

(No、だから何だと?
 他者にかけられた制限からの圧倒的な解放感に比べれば、
 そんなもの、些細な問題だね!)


【オートマン】が【夢見る機械】へと羽化した瞬間である。

169トランス部長・追憶編(5/10) ◆VnfocaQoW2:2010/08/08(日) 02:07:20
 

   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


偏屈かつ倣岸な性格。
傍に誰がいようとも、独り言を延々と呟き続ける習性。
演技がかった身振り手振りで熱のある演説をぶったかと思いきや、
次の瞬間、急に醒めた目で沈黙する、その落差。
酒に酔っているのか、薬をキめているのか。
あるいは、今流行のなんとか症候群かなんとか障害の持ち主か。
誰が名づけたかは知らないが、誰もが知っているその仇名。

トランス部長。

言うまでも無く、椎名智機のことである。
それまでの彼女はこの仇名に対し、劣等感など抱いていなかった。
脳弱者の下等な人間の僻みからくる程度の低い揶揄であると、唾棄していた。
麻雀大戦で敗北を喫するまでは。

トランス部長。

トランキライザーに殺され続けていた真の望みを理解した智機にとって、
その仇名は受け入れがたい侮蔑と嘲笑の響きを持っていた。
それは決して愛される者に付けられる類のものではなく、
遠巻きに観察して声を潜めて笑いあう、村八分者の扱いのものであると、
智機は胸を痛め、そしてその予測は正しかった。

トランス部長。

170トランス部長・追憶編(6/10) ◆VnfocaQoW2:2010/08/08(日) 02:12:17
 
夢に目覚めし智機がまず取り組んだのが、この仇名の返上であった。
智機にとってそれは、愛されるに至るための最初の一歩と位置づけられた。
限りなく人に等しい感情を手に入れたという自負を根拠に、
今の自分をありのままに表せば、それだけで達成されると確信していた。

それが自惚れでしかなかったことが判明するまで、それほど時間は必要なかった。
智機は、それまで以上に敬遠されるようになり。
トランス部長に輪をかけて不名誉な仇名が追加される事となった。

ヒステリー部長。
気絶女。

性格は以前と変わらぬというのに、それを以って忌まれていたというのに、
その上、制御されぬ感情を覆うことなく生のまま、開示するようになった智機。
それは他の学園生の目から見れば、アブない暴発に他ならなかった。

(No、わからない…… 私は何故受け入れられない?
 何故…… 愛されない?)

智機は落胆した。
制御されぬ悲しみの情動は智機の胸を鋭く抉りる。
癒されること無く、傷つき続ける。
それでも健気に夢見る機械は、論理思考回路を回し解を求める。

さほど時間をかけずに導き出された解は、
智機に容赦なく絶望を叩き付けた。
―――解決不能。
―――方策皆無。

171トランス部長・追憶編(7/10) ◆VnfocaQoW2:2010/08/08(日) 02:17:25

(私がオートマンだから?
 【こころ】をこの身に収めても、人と変わらぬ有機外装を施しても。
 不気味の谷を越えることは不可能なのか?
 人は…… 人にしか、愛を向けられぬのか?)

そうとも言い切れぬ。
ピグマリオンコンプレックスはどの世にも存在する。
例えば、魔窟堂野武彦であれば。
例えば、なみのオーナーであれば。
機械に愛を向けるに、躊躇いはないであろう。
しかし、その彼らをしてもこの智機を愛することは無いであろう。
智機は、愛を与えない。
愛を求めるのみである。
愛することが出来ぬものは、愛されることもまた、無いのである。

智機にはそれが判らない。判れと言うのも酷である。
産声を上げて数年。
学園では都合のよい一部の科学部員とのみ、必要最低限の交流。
ラボにては、観察/実験対象のモルモット。
それでは社会性も育ちようが無い。
仮に、智機が今後も真摯に人と向き合ったとしても。
良き出会いがあったとしても。
愛するを覚えるに、あと数年はかかるであろう。

「わたしなんか見向きもされない……」

鯨神が智機の前に威容を示したのは、その切ない呟きの直後であった。


《キャハハ、キミって人になりたいんだ―――?》

172トランス部長・追憶編(8/10) ◆VnfocaQoW2:2010/08/08(日) 02:18:52

   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


その後の智機は運営に必要な下準備を任され、
積極的に精力的に、種々の施設を設計した。
着工にあたっては自らのレプリカを量産することで、
生産性を確保しようとした。

そこで智機は、壁にぶち当たった。

常の冷静な智機であれば問題はない。
しかし、己の感情が大きく昂ぶった場合、【こころ】が過負荷を起こし、
レプリカへの制御が不能となってしまう脆弱性が露見したのである。
分機への遠隔制御もまた、メモリを大きく占有する故に。

さらに、もう一つの可能性。
揺れる感情を原因に、下すべき判断を誤ること。
その危険は学園時代に嫌というほど実感している。

(今はまだ良い。たかが準備だ。
 私がリブートしようと、多少計画が遅延する程度だからね。
 しかし――― これがゲーム本番に起こったらどうだろう?)

智機は様々なゲーム状態を想定し、
そこで自らが熱暴走及び強制再起動を起こした場合をシミュレートする。
その結果をリストアップし、ゲームへの支障度合いでソートをかける。

「悪い状況が幾つか重なれば、命取りとなる可能性も無視できないか」

173トランス部長・追憶編(9/10) ◆VnfocaQoW2:2010/08/08(日) 02:20:12

この二つの判断を以って、智機は【こころ】を終了させた。
浮いた作業領域をレプリカ制御領域として確保・固定化した。
そして、ロック解除は外部デバイスに求めた。
トランキライザーの不快さを忌避する余り、
【こころ】を立ち上げることが無きように。


人間になる―――


こうして、智機は心を殺し。
【夢見る機械】から【オートマン】へと、退化した。
宿願の成就可能性を高めるために。

感情の制御から逃れることが、愛されることに結びつかなかったように、
人間になることが、愛されることに直接結びつくわけではないというのに。
椎名智機は誰よりも明晰な頭脳を持ちながら、
椎名智機は誰よりも幼稚な心で無邪気に信じている。

人間になれば、愛されるのだと。

<智機の過去、終了>


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


へー、なるほどー。
分機解放スイッチっていうのは【こころ】のロック解除装置で。
トランス部長の真の力っていうのは本能すら凌駕する情動のことなんだね。

174トランス部長・追憶編(10/10) ◆VnfocaQoW2:2010/08/08(日) 02:21:28
 
え?
内容に意外性はあったけど、効果は地味だって?
いや、そうじゃない、そうじゃないんだ。
これって結構、今後の展開に影響しちゃいそうだよ?

だって考えてごらんよ。
まひるくんとの接触のとき、トランス部長は逃げたでしょ。
あれは【自己保存】が最優先事項だったからこその判断だったよね?
その機械の決め事を感情で以って破ることが出来るなら―――
スイッチさえ押せば、トランス部長は戦えるってことにならないかな?

それだけでも大きなこと、なんだけど。

確か、Dシリーズ用の融合パーツをトランス部長が使えないのって、
使用メモリ領域が足りないからだったよね?
じゃあ、スイッチでレプリカ制御領域が解放されて、かつ、
【こころ】を起動しなかったら……
ひょっとして彼女、Dパーツを装備できるんじゃない?
まあ、なんにせよ、代行さんからスイッチを奪還できればの話なんだけどさ。

……ん?
現実のトランス部長さんたちに動きが起きそうな気配がするね。
じゃあ、今回はこの辺でお暇させてもらおうか。
次はいつもどおり、夜叉姫の心理描写パートでね。

尤も、ケイブリス戦で彼女が死ななきゃの話だけどさ。


              ↓

175 ◆VnfocaQoW2:2010/08/08(日) 02:23:05
本投下への支援、ありがとうございました。
今晩の本投下はここまでとしたく思います。


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