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ちょっと短めのSS投下スレ
1
:
KINO </b><font color=#FF0000>(.KINOKeY)</font><b>
:2004/03/19(金) 23:49
ちょっと短めのエロなしSSの投下スレです。
188
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/12/24(金) 00:10
「…悪かったよ」
ゾロが小さく謝った。ロビンがにこりと笑った。あ、そうだ、俺も。
「ごめんね、ロビン」
くすくすと笑って、頭を撫でてくれた。うん、やっぱりロビンは優しいんだ。
「でも、狐は少し意外だったわ。狐といえば、剣士さんかと…」
「俺かよ?」
ゾロが、今度はロビンを睨む。それを受けて、笑うロビン。
「あなたの名前、ゾロ」
どうしていいかわからず、ふたりの顔を見比べていたからわかった。
名前を呼ばれた瞬間、ゾロが驚きに眉を上げた。一瞬だけど。
「とある国の言葉で、ゾロは狐という意味よ。強くて、優しいあなたには相応しいのでは?」
ゾロの口がぽかんと開いた。
うん、そうだよ。ゾロも強くて、優しい。ゾロだけじゃない、ここにいる皆。
「ロビンちゃん、こいつ、賢くないですよ?」
「んだと、こら」
ああ、またゾロとサンジがケンカを始めた。でも、俺の隣でロビンがくすくす笑ってる。
だからいいや、と思った。もうすぐナミの鉄拳がふたりの頭に落ちるんだ。
俺もロビンと一緒に笑って、それをぼうっと眺めてた。
189
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/12/24(金) 00:10
そういう楽しい船。いつでも。ケンカしても、誰ひとり、本気でいがみ合ったりしない。
だから、余計に言えない。きっと、気づかなかったことを、皆、申し訳なく思うから。
祝われている自分の姿を簡単に想像できる。そんなふうに主役になれたら、とっても楽しかっただろうな。
目の前にそんな光景が浮かんだ気がした。
でも、それはアラバスタの砂漠で見たあの景色のように掴めないものなんだ。
ごつごつした岩が空中に見えた。あれは、あの場所にはないってビビが言ってた。
蜃気楼っていうんだって。背伸びをすると大きく見えて、しゃがむと消える、不思議な景色。
見えるのに、ないだなんて、悲しいなあって思ってたんだ。
掴めそうなのに、掴むことができないもの。どうして、そんなものがあるんだろう。
サンタクロースも一緒なのかもしれない。きっと、俺にはこれからも、サンタクロースの姿は掴めない。
薬の調合でもしよう。男部屋に戻って、ウソップが呼びに来るまで、集中していた。
「チョッパー、夕飯だぞ。早く来ーい!」
声をかけられる。甲板に上がっていくと、ウソップがにこにことした顔で俺を待っていた。
後ろから、俺の背を叩いて、ラウンジへと急がせる。
いつもは、早く来なきゃ置いてくぞって、俺より先に行こうとするのに。
ラウンジのドアを開けろって言う。早く早くと、笑顔で急かしてくる。どうしたんだろう。
「メリークリスマス、チョッパー!」
ドアを開けた俺を出迎えてくれたのは、クラッカーの音と、変な恰好をした皆。
「皆、その恰好は何?」
ルフィは茶色い全身タイツみたいな服に、丸い耳当て。ゾロは灰青色の被り物。
サンジは白いもこもこした着ぐるみだ。ウソップも黄土色の着ぐるみを着込んでいるところだった。
ナミとロビンは三角の耳をつけて、温かそうな毛皮。でも、腕や脚やお腹には何もつけていない。
190
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/12/24(金) 00:11
「何って、おめぇが、猿だって言うから、こんなの着てるんだろ?」
ルフィがぶつぶつ言いながら、背中を見せる。長細い尻尾がついてるお尻が赤かった。
「俺がサメ」
よく見れば、ゾロの頭は無数の歯がついてる魚に喰われていた。
首から下が、いつもの腹巻姿だから、恐ろしく不気味だ。リアルすぎて、怖いよ、あの被り物。
「全部、俺様が作ったんだぜ。俺がアルマジロ、サンジがアヒルな!」
アルマジロも、なんだか皮がリアルだし。わあ、今にも丸まりそうだ。
サンジのは、安心して見れるな。もこもこしていて、可愛い。動きにくそうだけど。
「私が猫で、ロビンが狐ね」
髪の色を逆にしたみたいだ。ナミが黒で、ロビンが狐色の耳と毛皮をつけている。
ナミは細い尻尾。ロビンはふさふさの長い尻尾をつけて。ふたりとも、似合ってるなあ…でも。
「何で、ナミたちだけ、そんな寒そうな恰好なんだ?」
ルフィみたいに全身を包めば、温かそうなのに。お腹、冷えちゃわないかな。
「あー、それは、製作途中に『大事なところだけ守り、肌は見せるのがコスプレのロマン』という意見がな」
「…もう、やっぱりサンジ君だったのね」
「何で、俺ってわかっちゃったの、ナミさーん」
「お前以外に、そんな下らんことを言う阿呆がどこにいる」
「何だと、コラァ!」
ゾロとサンジが睨み合う。サメとアヒルが対立してるって、おかしな光景だ。
でも、何で、仮装してるんだろう。クリスマスって仮装するものだっけ?
「サンジ君たちも、その辺で終わってよ。ね、皆。準備できてる?」
俺に向かって、6人が目の前にずらっと並んだ。にこにこしながら、手を後ろに組んで。
「せーのっ! おめでとう、チョッパー!」
ナミのかけ声で、一斉に皆の手が俺にさし出される。その手には、様々な形の箱が乗っていた。
色とりどりの包装紙とリボン。どこからどう見てもプレゼント。
191
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/12/24(金) 00:11
「…どうしよう」
困った。そんなの、皆、言わなかったじゃないか。俺、何も用意してないよ。
「俺、皆へのクリスマスプレゼント、何もないよ…ごめん」
しゅん、と俯くと、くつくつと笑い声が聞こえる。
「やっぱりな。忘れてると思ったんだよ。全然、話題にしないんだもんな」
「クリスマスプレゼントじゃないのよ、チョッパー。皆、もう1回、せーのっ!」
「誕生日おめでとう、チョッパー!」
皆の声が重なった。誕生日プレゼント? どうして? だって、だって、俺。
「誰にも言わなかったのに…」
「なぁんだよ、おめぇ、覚えてたのに言わなかったのか? 水臭ぇぞ」
ルフィが口をへの字にして、俺の背中を叩く。手にプレゼントを渡された。
「ドクトリーヌに聞いてたのよ。忘れてるみたいだから、黙ったままで、驚かせようってサンジ君がね」
「そう! そんで、せっかくだから、何かおもしろい恰好でもして、楽しもうっつったのがルフィな」
ナミとウソップがルフィの箱の上に、プレゼントを乗せていく。
「動物の恰好なんかおもしろそう、という素晴らしき提案はナミさんだぞ」
続いてサンジ。帽子を、ぽんと叩かれた。
「ウソップが衣装を作るって、はりきってな。これだけ作れるんだから器用なもんだ」
「せっかくだから、船医さんがイメージする動物でって、剣士さんが」
ゾロとロビンも笑いながら。ずるいよ、皆。俺、何も返せないのに。
「おめぇの欲しいもの、ばれないように聞き出してくれたのがロビンだぞ。開けてみろよ、チョッパー」
そうやってルフィが促すから、ひとつずつ開けていった。
欲しかった専門書、図鑑、調合用の道具、薬の材料、全部、俺が欲しかったものばかり。
そういえばゾロの誕生日が終わった後くらいから、ロビンが買いたい物はあるかって聞いてきた。
お金がないから買えないけど、揃えたい物はあるんだって、俺、ぺらぺら喋ってた。
「…何だよ、バカヤロー。ちっとも嬉しくねーぞ!」
どうしていつも、俺、素直に喜べないんだろ。嬉しいのに。泣きたくなるほど嬉しいのに。
192
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/12/24(金) 00:12
「わかってる、わかってる。さっ、腕によりかけて作ったディナー、食べようぜ」
「覚悟しろよー、お前の誕生日にクリスマスと、めでたい日が続いてるんだ。徹夜で騒ぐぜー?」
クリスマス。ウソップの言葉に、舞い上がっていた心がじわじわと冷めていく気がした。
「俺、クリスマスに騒いでいいのかな…」
「どうした、チョッパー?」
「トナカイだから、俺のところに、サンタクロースは来たことないんだよ?」
聞いたゾロが、眉をしかめた。やっぱり、そんなの俺だけなのかな。
「あんた、バカねー。サンタなんて、私のところにも来たことないわよ」
「クリスマスは、誰にでも平等にやって来るものよ。もちろん、船医さんのところへも」
ナミとロビンが笑いながら言う。俺だけじゃないの? クリスマスに騒いでもいいの?
「なぁ、サンタはプレゼントくれるんだろ? じゃあ、俺らにとってはお前がサンタでいいよ」
後ろから抱え上げられ、気づいたらルフィに肩車されていた。
「え? 俺がサンタ?」
「笑ってろ。それが俺らにとっちゃあ、プレゼントだ」
ルフィの声は力強い。この声に、含まれている信念に、俺は誘われて海へ出た。
そんなふうに。簡単に。俺の意地をぶち壊すんだ。
こんなふうに。簡単に。俺に涙と笑いをくれるんだ。
「チョッパー、泣くな。せめて、俺の料理を味わってから、感動で泣け」
「そうだ! この俺様の、この日のための宴会芸を見てから、感動で泣け」
猿の上から見下ろす、アヒルとアルマジロの姿は、なんだかおかしかった。
「主役が来なきゃ飲めないだろ、早く来い、チョッパー」
ゾロが呼んでる。隣に座れって、席を叩いてる。
こう見ると、あのサメの被り物も意外とユーモラスでいい。
ルフィの頭の上から飛び降りて、ゾロの隣に座った。テーブルには豪華な料理。
「美味しそうね。船医さんの誕生日を、こんなに素敵に祝えて嬉しいわ」
ゾロとは反対側の隣にロビンが座った。狐の尻尾が椅子から垂れてる。
温かそうって言ったら、マフラーみたいに首に巻いてくれた。
193
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/12/24(金) 00:12
「乾杯しましょう! ウソップ、あんた、音頭とんなさい!」
ナミが腰に手をあてて、びしっと命令してる。猫が一番強い、変な船。
トナカイの俺を皆で祝ってくれる変な船。俺が、皆にとってのサンタなら。
「皆が、俺にとってのサンタクロースだ」
そう言ったら、皆が笑った。
豪華な料理に、俺に合わせてくれた甘いケーキ。
夢中で食べたら、喉に詰まって、ロビンが水を飲ませてくれた。
ウソップがアルマジロみたいに体丸めて転がって。ナミの方へ突っ込んでナミとサンジに殴られてた。
その隙にルフィが冷蔵庫を漁って、こんなご馳走にまだ満足できないのか、ってサンジに蹴られてた。
ゾロが眺めて、あいつら阿呆だな、って言って、お前の頭のほうがアホだ、ってサンジに言われてた。
案の定、ゾロとサンジがケンカを始めて、ロビンが、とっても楽しいわね、って微笑んでくれた。
楽しくて、嬉しくて。誰にだって、サンタはやって来て。誰だって、サンタになれるんだ。
「サンタはね、蜃気楼みたいなもんだと思ってたんだ」
「蜃気楼?」
「うん、掴めそうで掴めないもの。目指しても、辿りつけないもの」
ロビンは、優しく微笑んで、俺の話を聞いてくれる。
「それでも、掴めたのでしょう?」
「うん、皆がサンタクロースになってくれたから」
「そうね。蜃気楼は掴めなくても、その見た景色は必ずどこかに存在しているから」
ああ、そっか。探せば見つかるものなんだ。確実に。
194
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/12/24(金) 00:12
「ねえ、見て! 雪よ!」
ナミが窓を指さした。白い雲の欠片がちらちらと降りている。
猿とアルマジロの恰好のまま、ルフィとウソップがラウンジから飛び出した。
「ナミたちも来いよー!」
甲板から、呼ぶルフィの声。俺も、と駆け出した。俺の後から、皆、ついてくる。
「あー、寒いわ。やっぱり、この恰好」
「ナミすゎん、寒いなら、俺の羽毛に入りませんか?」
白いもこもこを指したサンジが、馬鹿じゃないの、って呆れられてた。
「お前のこれは、温そうだな」
「ふふ、船医さんみたいに首に巻きたい?」
こっちでは、ロビンの尻尾を掴んだゾロがからかわれてる。ゾロが赤くなった。
「マリモ、コラァ! ロビンちゃんに不埒な真似を!」
「ああ? てめえじゃあるまいし、やましい感情なんかねえよ!」
ゾロとサンジが、いつものケンカ。ルフィは囃したて、ウソップは巻き込まれないよう丸まっている。
「猫はコタツで丸くなるわ、と言いたいところだけど、コート持ってくるわね」
「そうね。そうしたら、船医さん、一緒に遊びましょう」
ナミとロビンがそう言って、ゾロとサンジが喜び跳ねた俺を見て、ケンカの手を止めて笑って。
ルフィとウソップが俺を手招きして、一緒に駆け回ろうと誘うから。
揺らがない景色が確かにそこにあるのだと嬉しくなって。
俺は、白い雪と、皆の笑顔から零れる白い息に、浮かれながら駆け出した。
―終―
195
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/12/24(金) 00:13
以上です。
チョッパー誕生日おめでとう。
読んでくださった方、ありがとうございました。
196
:
774万ベリーの賞金首
:2005/01/12(水) 03:22
うわーーー!!苺屋さん!!!
キテタ━キタ━━━━Σ(゚∀゚ノ)ノ━━━━!!
危うく見逃すトコでしたよ。
愛しいSSですね。チョッパー好きなので男気?のある奴が見られて嬉しいです。
ありがとー!GJ!!
197
:
名無し
:2006/04/04(火) 14:25:10
苺屋さん読ませてもらいました
とても、おもしろかったです
私のめっせーじに気付いたらまた書いてください
198
:
774万ベリーの賞金首
:2006/11/25(土) 15:29:51
ここは不夜城、エニエス・ロビー。
司法の塔の先に位置する執務室。
インペルタウン行きの護送船が来るまでにまだ時間がある。
「合コンでもしねぇか?」
連行されてきたニコ・ロビン、召集命令に従ったCP9、そしてその上司スパンダム。
勿論、頭の悪い提案をしたのは顔を矯正器具に覆った男、スパンダムだ。
「セクハラです!」
カリファが条件反射の如く眼鏡を上げて抗議し、スパンダムも反射的に謝る。
他のCP9も慣れた物で、聴こえなかった事(無視)に徹するもの、賛同するもの、様々な反応をしていた。
それを一歩引いた視点から眺めながらロビンは、上司に恵まれない彼らへの少しの同情と、
あんな男に未来を奪われたのか、と、なんとなく自分が情けなく思えて、小さく溜め息を吐いた。
「暇だろ、命令だ!合コン!命令!男は…多すぎるな、何人か外そう。
女は……しかたねぇ、ニコ・ロビン、おまえも入れ。あと…給仕のギャサリンも連れて来い!」
スパンダムは楽しそうに命令を下し、ジャブラに向かって神々しいウインクをする。
ギャサリンがジャブラの想い人である事は皆知っている。彼なりのお膳立てらしい。
が、ギャサリンがルッチに想いを寄せていることも周知の事実。
しかしジャブラは顔に似合わず頬を染め上げ、俺、呼んでくるぜ!と意気揚々と去って行った。
ルッチは険しい顔をしながら、命令とあらば、と支度を始める。
カクはいつの間にかロビンの隣に歩み寄り、すまんのう、少しだけ付き合ってやってくれ、と
苦い笑いを浮かべながら上司の非礼を詫びた。
麦藁の海賊船も相当賑やかなものだったが……ここは上司の頭が相当賑やかな様だ。
199
:
774万ベリーの賞金首
:2006/11/25(土) 15:31:44
198
とか、あったらいいな
過疎化ですな
200
:
774万ベリーの賞金首
:2007/08/04(土) 20:13:50
叫ぶ場所がないのでここで・・・
ルロビ激萌え!
201
:
モリアとペローナ
:2008/03/02(日) 12:52:14
TBの過去話としてのモリア×ペローナを投下
ペローナ自身はモリアには遊びで仕えていたと言ってますが、個人的にそうは思えなかったです。
対クマシーも含めて彼女の言動不一致はいつものことみたいな描かれ方ですし。
第一本当に遊びなら、くまに対してモリアの情報を一切言わずに挑みかかるなんて無茶なことをするわけがありません。
彼女が先に逃げようとしたのは、本気を出したモリアの強さに対する絶対的信頼があり、かつ自分がいては邪魔になると感じたからではないでしょうか?
拙い文章ですが目を通していただけると嬉しいです。
202
:
モリアとペローナ(1/11)
:2008/03/02(日) 12:53:07
「気持ち悪……それに身体痛ぇ……最高に……最悪……」
薄暗い船倉で覚醒したペローナは、憂鬱な気分で身体を起こした。もっとも、どこの馬の骨とも知れない海賊に攫われ、船に備品として押し込まれてからは全ての目覚めが最悪であったのだが。
しかし、いつもと違うことがいくつかあった。
まず、妙に辺りが静かだし、航海中特有の船の揺れもない。
どこかに停泊しているようだ。
「逃げられるかもしれねえ」
誰に言うでもなく呟くと、ゆっくりと立ち上がり、シーツで身体を拭う。少し前に使われたよくわからない薬が抜け切ってないのか、こすれる感覚が気持ち悪い。
しかも、床やら縄やらでついた細かい傷がちくちくと痛む。
とりあえずそれは無視し、目立つ汚れを拭い去ってから、部屋の隅に投げ捨てられている服を着る。唯一の私物である、お気に入りの熊のぬいぐるみも持っていくことにした。
軽い足音が船内通路に響く。人の気配は全くない。
本当に脱出できる希望が湧いてくると、生理的欲求が鎌首をもたげてきた。
……つまり、食欲だ。
「船の構造なんてわからねえし、それっぽい所を探すしかねえか」
食料庫は程なくして見つかったが、酷い事に酒樽と乾物しか見当たらない。
調理場にも殆ど何もない。
大きく溜め息をつき、唯一見つかったチーズを水で胃に流し込む。
それにしても、ボロっちい船だ。宝物なんてとてもありそうにない。
もし脱出できても無一文ではどうすることもできず、きっとすぐに今と似たような境遇になってしまうだろう。
203
:
モリアとペローナ(2/11)
:2008/03/02(日) 12:53:48
「なんか、何でもいいから金目のものぐらいねえのか」
しばらく歩き回ると、船長室らしい少し立派な扉を発見した。
船長の私物らしきものを漁りまわるも、金貨数枚しか見つけられない。
あまりの収穫のなさに涙が出る。
「なにもないのかよ……なにもない、なーんにもない。ねえクマシー、何とか言ってよ、ひっく。……言えっての!!!」
何も答えられないぬいぐるみを力任せに棚に叩き付けたところで、少し冷静さが戻ってきた。
「ああ、ごめんね、つい……」
ぬいぐるみを拾って、大きく深呼吸をする。ふと棚の上を見上げると、何かの影が目に止まった。
「果物?」
背伸びをして取ったそれは不思議な形をしていて。
気味の悪い唐草模様がついていた。
おそらく、船長室の棚の上なんて場所にあるということは大事な物なんだろう。
見た目は変だけれども、きっと美味しいに違いない。
とりあえず持っていくことにした。
ろくな物が見つからない船室漁りにも飽き、こっそりと甲板へ出る。
ずっと船室に押し込められていたため、時間の感覚があまりなかったのだが、どうやら夜だったようだ。湿っていて生温いとはいえ、久々に当たる外の風はなかなかに心地よい。
そして、予想通り船は島に横付けされている。
遠くには大きな建物らしき明かりが見え、無人島でもなさそうだ。
「よし、脱出だ!こんな何もない船沈んじまえバーカ!」
念のためもう一度だけ辺りに誰もいないのを確認し、ペローナはこの忌々しい船を後にした。
204
:
モリアとペローナ(3/11)
:2008/03/02(日) 12:54:36
「暗えし、道もねえし、お腹すいた……一休みするか」
その島は予想以上に広く、そして木がやたらと多くて道が狭い。船の上からだとすぐ近くに見えた建物の灯りも、思ったよりかなり遠いようだ。
持ってきた食料は瓶詰めの水とチーズ少々、そして船長室で見つけた果物が一つ。
あの建物で何かが売っているか、もしくは親切なバカがいるかでなければ飢死するかもしれない。
そのネガティブな想像を振り払い、木の根に腰を掛けて唐草模様の果物にかじりついた。
「うぇ、な、何これ、ま、不味いいいいいいい!!!」
とても人の食うものとは思えないその味に顔をしかめる。
だが、これでも数少ない食料のうちの一つなのだ。
大切な食料……食……。
「無理無理」
一口目は勿体無さが先に立って飲み込んだものの、冷静に考えてこんなものは人の食いものではない。諦めて投げ捨て、瓶から水を飲みチーズに手をつけ口直しをする。
ともかく本日2回目の食事を終えたペローナは少し元気を取り戻した。
建物まではまだ当分かかりそうだ。木をかきわけてゆっくりと進む。
このまま野垂れ死んでは本末転倒だ。
それにしても不思議なことがある。さっきの食事を終えてから身体がおかしい。
何となく視界が広いような気もする。何故だろう?
考えてもわからない。
205
:
モリアとペローナ(4/11)
:2008/03/02(日) 12:55:40
所変わって、島中央部の建物の中。
継ぎ接ぎだらけの生物数匹が忙しく動き回っている。
その大広間の中央部に二人の男が座っていた。
小太りの男が溜め息をつきつつ口を開く。
「それにしても今回の獲物は外れでしたな」
もう一人の恰幅のいい大男が笑いながらそれに答える。
「いつもいつも“将軍”級がかかるとは限らんだろうよ、ホグバック。
後はお前がやれ、キシシシシ」
「ところで、ちょっと気になることが」
「んぁ?面倒なことなら知らんぞ」
そう言うと、大男は心底面倒くさそうに大欠伸した。
「アブサロムの馬鹿が“幽霊”を見たと騒いでたんだが、心当たりはありませんかい?」
「奴がこの“スリラーバーク”に乗ってからどのぐれえだ?飛べるゾンビの何かを勘違いしたんじゃないのか。放っとけ、面倒くせぇ」
「なんでもその幽霊は半透明で“漂っていた”とか」
「ふむ……まあ、これだけゾンビがいれば幽霊の一匹ぐらい居ても不思議はねえだろう。じゃあ寝るぜ、今度こそな」
ドタドタと身体に見合った足音を立てて、奥へと消えていく主人を横目で見ながら、ホグバックは自分の次の仕事について考えを巡らせはじめた。
206
:
モリアとペローナ(5/11)
:2008/03/02(日) 12:56:39
「こんなに広いのに何もねえってのはどういう了見だ」
なんとか海賊たちに出会うことなく建物に辿り着き、その内部へと入り込んだペローナではあったが、なんともいえないその場所に閉口していた。
それに、数刻前から感じている身体の変調はひどくなるばかり。
まるで何人もの自分がいるような不思議な感覚。
地面の感覚もあいまいで、気を抜くと飛んでしまいそうだ。熱でもあるのだろうか?
話が通じる人間に出会わないのも気にかかる。
これまで十人ほどと鉢合わせたが、どいつもこいつも大怪我をしている上、どうも会話がかみ合わない。
しかも、理由は不明だが近付くと土下座して謝るのだ。
そのおかげで捕まったりはしていないのだが、一体どうしろというのだろう。
「ああ、腹が立つ!」
悪態をつきながら上へ上へと階段を上ると、突然視界が開けた。
巨大ではあるが随分とかわいらしいオブジェが並び、中央部には巨大な布団と枕。
その上に、大男が寝転がっている。
「な……なんだこれ!人間……か?」
思わず叫んでしまったペローナの声に気づいたのか、それともずっと前から気づいていたのか。
大男が面倒くさそうにその妙に長い首を起こす。
「あァ?失礼な奴だな、おめェこそ何だ……ゾンビじゃねえな、どうやってここまで入ってきた?
早く言わねえと“影”を取ってそこの窓から投げ捨てるぞ」
ゾンビや影という単語はともかく、それ以上によくわからない事を男が言う。
「どうやって、って……何のことだ?ここまで十人ほどに鉢合わせたが、誰も私を止めなかったぜ」
207
:
モリアとペローナ(6/11)
:2008/03/02(日) 12:58:35
「噛みあわねェ、質問を変えるか。まあ座れ、キシシシ!」
言うが早いか、ペローナの真横に椅子が投げ置かれた。大男の身体は一切動いてないにもかかわらず。
「話がわかるじゃねえか。何でも答えるぜ」
「まず、おれはこの“スリラーバーク”の主、“七武海”ゲッコー・モリア。お前はどこから、そして何をしに来た?」
「私はペローナだ。海賊船から逃げてきた」
その返答の何がおかしかったのか、モリアは大声で笑った。
「キシシシ!!そりゃあ残念だったなァ!ここに来る船は全て“夜討ち”して財宝を頂き放り出すことになってるのさ。
お前の乗ってきた船も今頃はボロボロで海の上だろうよ!」
「何、それは本当か?!」
「嘘を言ってどうする」
「あ、ありがてぇ……モリア、いやモリア様、あんた私の恩人だ。
ああ……うあ、うえええええん!」
「ぬ?おめェはゾンビ達を倒しながらここまで来たんじゃあねえのか?それよりおい、泣くんじゃねェ、おれは苦手なんだ、そういう面倒なのはよお……」
ちょっと前まで堂々とした態度と粗暴な言葉遣いをしていたというのに、いきなり泣き始めた少女。
単純に考えれば今晩の海賊の一味ではなく、単に捕まって船に乗せられていたということなのだろう。
だが、あんな弱小のチンピラ共に捕まるような奴が、例え“能力者”だとしても一人でこんなところまで来られるものだろうか。
いくら“夜討ち”で出払っていたとは言え、余りに不自然な……。
しかし、モリアの思考は開始わずか数秒で中断された。
ペローナが何の前触れもなく抱きついてきたからだ。
その体型や面相は置いておくとしても、海賊という職業からして彼は女というものに縁がない。
勿論何らかの下心ありきで言い寄ってくるゲスは居たが、文字通り“目の前”で唐突に泣き始めた少女に対する対応なんぞというものは管轄外なのであった。
「あー、泣き止めよ、頼むからよォ。何が悲しいんだよ、それともおれが怖ェのか?」
「ひっく、怖くも悲しくもねーよ!うう、ちょっとだけこうさせてろ」
「……好きにしやがれ」
208
:
モリアとペローナ(7/11)
:2008/03/02(日) 13:00:11
ようやく泣き止み、先ほどよりも随分と表情が和らいでいるペローナをとりあえず引き剥がして椅子に座りなおさせたモリアは、やれやれと溜め息をついた。
「ようやく落ち着いたか。で、おめェは何の“能力者”なんだ?」
理解できない質問にペローナが首を捻る。
「それは私に言ってんのか?」
「他に誰が居るっつうんだ、いいから面倒なく答えろ」
「いや、まったく意味がわからないんだが」
騙しているという感じが微塵も感じられないきょとんとした返事。
とはいえこの部屋まで華奢な少女が素通りしてきた時点で、能力者でないと考える方に無理がある。
「なら、“変な模様がついた不味い果物”を喰った事はあるか?」
「それならある!あまりに不味かったから一口しか食ってねーが」
「いや、一口で十分だぜ、キシシシ!」
「一口で?そんなにやべぇ物なのか?」
「あぁ……そいつは通称“悪魔の実”一口でも喰うと海に呪われる代わりに、すげえ能力が身につくって代物だ」
「げぇ!呪われる?!」
「大した事はねぇ、泳げなくなるだけよ。おめェが何の実を喰ったのかわからねェが、おれの“能力”を少し見せてやる」
言いつつ、モリアは少々困惑していた。
自分から何かを見せようとすることなど、今まであっただろうか?しかも、得体の知れない侵入者に対して。
普段なら即ぶち殺すか影を抜き取っているというのに。
ともかく、彼は自己紹介のため悪魔の力を発動させた。
床が揺らめき、泡立ち、黒一色の巨人が這いずり出し、そして立ち上がる。
「ひっ、化け物……」
「化け物じゃねえ。こいつは“カゲカゲの実”により生み出された“影法師”、おれの分身だ。
おめェも悪魔の実を喰ったんなら、まだ自覚はねえとしても何か出来る筈だ。見せてみろ!」
言うが早いか、“影法師”がペローナに向かい這いずってきた。
モリアにしてみれば、能力を見極めるのを兼ねたちょっとしたデモンストレーションなのだが、大抵の人間なら失神してもおかしくない光景である。
209
:
モリアとペローナ(8/11)
:2008/03/02(日) 13:02:12
「うえ、来るな!来るんじゃねえ!いやああああ!」
ペローナがその怪物に対して恐怖の叫びを上げた刹那、彼女の身体から半透明の何かが、不協和音を伴って大量に飛び出してきた。
……ホロホロ……ホロホロホロ……
「ぬ?!これは何の実だ?!“欠片蝙蝠”!!!」
かなりの速度で向かってくるそれらを受け止めるべく、影を散らす。
砲弾や斬撃、果ては炎までも受け止められる影の壁だ。
しかし。
ホロホロホロ…………
「ぐおおおおお!」
まるでそこに何もないかのように貫通してきた飛行物体が、モリアの巨体に吸い込まれていく。
それと同時に影法師は崩れて普通の影へと還り、そして……。
「……驚かせて悪かったああああ……おれは駄目な奴だ……
そうさ……部下の一人も守れねえ……人を信じられねえ……部不相応な野望を持った駄目な男だ…………うおあ……」
我に返ったペローナは、突然へたり込んで呻きだしたモリアに駆け寄った。
「おい、なんだよ、どうしたってんだ、モリア……ねえ!何とか言ってよ!私が何かしたのか?!
うう、ごめんね、なんかわかんないけどごめんなさぃ……」
結局“能力者”としての自己紹介はほぼ失敗に終わった。
なにせ何がなんだかわからないまま、モリアが立ち直るまで互いに泣きながら謝り続けたのだから。
210
:
モリアとペローナ(9/11)
:2008/03/02(日) 13:03:41
「本当にすまねえ」
「黙れ、気にしてないと言ってるだろう、面倒だから忘れろ。後、おれにくっつくんじゃねェ。ええと、“超人系”は何頁だったか……」
「むー」
謎の精神攻撃から開放されたモリアは、腹を背もたれにして離れようとしないペローナを可能な限り無視して、“悪魔の実辞典”をめくった。
数十年海賊をやり続け、“新世界”に侵入したこともあるモリアをして何の実か判らないということはかなり特殊な種類に違いない。
どちらにしろここまで自分のことを話し、かつ“カゲカゲ”では防げない能力の持ち主であることがわかった以上、選択肢は仲間にするか殺すかという二つに絞られている。
「……あんまり殺したくはねえなあ」
「なんか言ったか?」
「気のせいだ」
「なー、まだわかんねえの?」
「今調べてるんだから黙ってやがれ、喰っちまうぞ」
「いいぜ」
「あァ?」
「この角みたいなのは何でできてんだ?かわいいな!」
「自前だ馬鹿野郎」
「すげー!」
「うるせェつってんだろ!……お、こいつか。ペローナ、おめェ字は読めるか?」
「読める」
「なら自分で見ろ」
ペローナは分厚い古びた本を覗き込んだ。
−超人系“ホロホロの実”
−虚ろな心と人の魂を司り、自分の魂を分割しゴーストとして使役できる。
・ゴーストには視覚聴覚があるが、あらゆる物や攻撃をすり抜ける。
・ゴーストを他人の魂に重ねることで強力な精神攻撃を行える。
・ゴーストは霊現象を起こせる。
211
:
モリアとペローナ(10/11)
:2008/03/02(日) 13:05:38
「おお、これすげー便利じゃん!ホロホロ!座ったまま外も見えるぜ!」
“能力”を認識したペローナが、早速ゴーストを撒き散らし始める。
「嬉しいのはわかるが、おれにそれを向けるんじゃねえ。ところで、おめェ海賊は好きか?」
「大ッ嫌いだ」
「そうか、それは残念だ」
「え……あ……モリアは好きだぞ!今のところは!」
「まあいいさ。なら、海賊をぶっ飛ばしてみたいと思うか?」
「思う」
「結構な事だ。なら、おめぇ夢はあるか?」
「ある!」
「キシシシシ、なら決まりだな!ペローナ、おれの部下になれ。その代わりにおれはおめェの夢を可能な限り叶えてやる。どうだ!」
「おあ……本当にいいのか?」
「何だ、何か不満か?」
「不満は全然ねえが、私は……ホロホロは、モリア……様の役に立てるか?」
その返答を聞いた瞬間、モリアは実に嬉しそうに笑って、その巨大な両手でペローナを抱き上げた。
「立つさ、その能力はおめェが思ってるより遥かに強ええ。
おれには判る、もっと自信を持て、おめェはやれる奴だ!今よりもずっとな、キシシシシ!」
それにつられるかの様に、ペローナの顔にも久方振りの笑みが浮かぶ。
「自信はねえが、努力する。私は今からあんたについていくぜ。……でも、何故だ?」
「あァ?」
「正直、“七武海”の名を聞いた瞬間、私はあんたに殺されると思った」
「キシシシシ!」
「生意気で、適当で、何処の誰かもわからねえような……私なんかを……」
「ンッンー、素直じゃねえところかな」
「は?」
「独り言だ。まあ今日は休め、おめェよく見たらボロボロじゃねえか」
「ああ、そうする。なあ、モリア様」
「まだ何かあるのか?おれはもう寝るぞ、これでも仕事上がりだ」
「……ここで寝てもいいか?」
「早く目が覚めてもおれを起こすんじゃねえぞ」
212
:
モリアとペローナ(11/11)
:2008/03/02(日) 13:07:06
……ペローナ様!ペローナ様!お仕事のお時間です!
「んん、何だ、うるさいぞ……」
目を覚ますと、巨大な熊のぬいぐるみが目の前に立っている。ここ数年おなじみ、いつもどおりの光景だ。
それにしてもキモく低い声だ。もっとかわいらしく喋れないものか。
ぬいぐるみに喋ってほしくて仕方なかった昔の自分を殴ってやりたい。
「んなこたー判ってる!喋るんじゃねえっていつも言ってるだろ、クマシー!」
「おああ、ですが今日はお休み中随分とうなされたり笑ったり、何か変でしたもんで……」
「喋んじゃねえつってるだろうが!!!」
拳がぬいぐるみの口元を直撃する。
「おうっ!おお……」
「……ちょっと、昔の夢を見ただけだ。気にするな」
「それはようございました」
「しつこい、黙れ、かわいくなくなる!!!」
「おお……」
「さて、仕事にかかるか。クマシーはその辺で静かにしてろ」
「はい、ペローナさ……うごぁ!」
「だから喋るんじゃねえ」
まだ口をもごもご動かそうとしている熊のぬいぐるみ……カゲカゲの力で動いているゾンビなのだが……を無視し、精神を集中させる。
今はもう慣れ親しんだ感覚、気持ちのいい浮揚感を伴って大量の幽体が身体から抜けていく。
それらは壁を抜け、空を飛び、あらゆる情報を取り込んでご主人様や、私以外の“怪人”へ届けられる。
私はこの巨大海賊船“スリラーバーク”の目であり耳だ。
私は海賊が嫌いだ。……モリア様以外は。
人に従うのも大嫌いだ。……モリア様以外には。
霧の中に、中型の船が見えてきた。
ひまわりだか太陽だかわからない無駄にかわいい船首がついているし、変な形はしているが、髑髏を掲げている!海賊船だ!
こいつらの影はどれぐらいご主人様の役に立つだろうか?
モリア様は私の夢をほぼ完全な形で叶えてくれた。
今度は私がモリア様の夢を叶える番だ。
213
:
モリアとペローナ
:2008/03/02(日) 13:12:00
以上です。
構想段階では最初と最後に少しエロ成分が入っていたのですが、別にそれがメインでもないし
入れるとエロパロの方に貼らざるを得ないので結局削除しました。
モリア一味は敵役にしては固い絆で結ばれていて好感が持てます。
時間があればアブサロムやホグバックの話も書いてみたいです。
お付き合い頂きありがとうございました。
214
:
774万ベリーの賞金首
:2008/03/02(日) 19:53:25
何となく覗いたらまさかの新作投下ktkr
エロ分削ったらしいけど、この展開ならエロ無い方が萌える気がする
ペローナかわいいよGJGJ
215
:
774万ベリーの賞金首
:2008/03/04(火) 10:56:35
GOOD!
216
:
苺屋★
:がぼ〜ん
がぼ〜ん
217
:
774万ベリーの賞金首
:2008/03/19(水) 07:40:26
書き手が増えればいいなあ
218
:
774万ベリーの賞金首
:2008/04/08(火) 00:29:00
GJ!ペローナ可愛いよペローナ
219
:
774万ベリーの賞金首
:2008/10/14(火) 02:07:59
過疎ってんなー
ペローナは人気www俺も好きだけどwww
220
:
ハンコック×ルフィ
:2009/11/27(金) 20:18:58
少し前に他スレにうpしたやつですがこちらの方が趣旨に合いそう&
スレ活性もかねて投下してみたいと思います。
内容……名前欄の通りハンコック×ルフィ(むしろハンコック→ルフィかも)
インペルダウンに向かう船の中での話で(今の所は)原作に沿った内容です
拙い文章ではありますが一読してもらえたら嬉しいです
221
:
ハンコック×ルフィ
:2009/11/27(金) 20:19:22
「〜〜。〜〜〜〜!」霞みがかった意識の中、眼前で誰かが会話をしている。
話の内容はよく分からなかった。ここがどこなのか、目の前のそいつが男なのか女なのかも。
ただ、酷く嫌な予感がする事は確かだった。
逃げなきゃ――
そういって、盛んに頭が警鐘を鳴らして来るが、身体は動かない。四肢を鎖に繋がれている上、屈強な男達に両腕をがっちりと押さえつけられていれば、それも当然であった。
やがて目の前のそいつがこっちを振り向いた。頭に透明の金魚鉢の様なものを被った、何とも珍妙な出で立ちだったが少しも笑う気にはなれない。むしろその下から覗かせる狂気じみた笑みと相俟って、余計に恐怖を煽りだたせる。
「ふん」
怯えの混じった自分の瞳をにやにやと見つめながら、そいつが立ち上がった。そのまま――まるで珍獣でも眺めるかの様に、自分の周囲をゆっくりと歩き始める。
抵抗は……しなかった。したところで意味が無い事は、捕まってからの短い日々の間でも、嫌という程覚え込まされている。
「う……うぅっ……」
恐怖からか、それとも耐え難い程の屈辱感からか。おそらくはその両方だろう。もはや何十回目になるのかも分からない涙が頬を濡らした。
滲みゆく視界の中、女ケ島での辛くも楽しかった日々が、次々に浮かんでは消えていく。
親愛なるアマゾンリリーの土を踏む事は、もはや無いのかも知れない。このうえは少しでも長く、故郷の記憶に縋り付いていたかった。
――だが。
「ここに……決めた!」
そんなささやか願いすら、その一言であっさりと切り捨てられる。
はっと顔を上げた自分の前に、再びそいつが立っていた。ただし最初と違うのは、顔中に満面の笑み――それも嗜虐に溢れた――を浮かべている事、そして……もう一つ……が……。
「〜〜〜〜っ!?」
『忠告』の事すら頭から消え、鶏の様な悲鳴を上げる。この場から逃げ出そうと必死に抵抗するが、それでも、腕一つ満足に動かす事ができない。
「◆@¢♪〜っ!」
その間にも、そいつは手にした焼き鏝を視界にちらつかせつつ、ゆっくりと背後へ回っていく。
あまり島から出た事が無い自分でも、あれが何を意味するのかは一目で分かった。あの棒を押し付けられた瞬間から、自分は人間でいられなくなるのだ。奴らの奴隷として、所有物として、一生を惨めに送り続けなけれねばならない。
――嫌!――嫌っ!!――嫌ぁっ!!!
もはや半狂乱になってもがき続ける自分に、男達も勘忍袋が切れたらしい。背中と腹に容赦無い一撃を浴びせられ、その場へ跪く。
訪れた痛みと嘔吐感で、全身が強張りかけた――その時。
「――――!!」
背中から感じる熱が、全ての感覚を忘れ去せた。
「※%●#〜〜っ!!」
幼児の様な奇声を上げながら、そいつが赤銅色に輝く棒を一気に押し出し――
222
:
ハンコック×ルフィ
:2009/11/27(金) 20:20:01
「――――!!」
声にならない叫びを上げながら、無我夢中で跳ね起きた。拳を無茶苦茶に振り回して――その全てが虚空を切っている事に、気付く。
(ゆ……め……?)
意識がはっきりしないものの、おそらくそうだろう。熱も痛みも無いのが何よりの証拠だ。自覚した瞬間、止まっていた呼吸が、ようやく活動を再開する。
本当に、最悪の寝覚めだった。昔の、奴隷だった頃の夢。あまりの悍ましさに、未だ動悸は収まらず、肌も氷の様に冷えきっている。
(ただの……夢じゃ――)
深呼吸をしながら、事実だけを何度も復唱する。そんな作業を繰り返している内に、ようやく呼吸が整ってきた。
深く息を吐き出すと、顔を上げ、周囲を見渡す。
(――暗い)
見たままの感想だった。おそらくは未だ真夜中に違いない。若い海兵達の掛け声も、窓の外からこの部屋を覗き見ようと企む薄馬鹿者たちの気配も、今は何一つ感じられなかった。
本当に静かな夜だった。――果たしてここは現実なのだろうか?そんな思いすら湧いてきそうになる。
(馬鹿馬鹿しい!)
吐き捨てる様に頭を振ると、真正面から闇を見据える。時間が経つにつれ、黒一色だった世界は、徐々に正体を顕していく。
――カーテンの降りた丸窓、シンプルと堅固さを前面に出した家具・調度品……
この数日にすっかり見慣れた風景が、そこにあった。
(海軍の船室じゃ。間違い無い――)
ほっと息をつくと同時、身体の緊張が抜けたのが分かった。余程力んでいたのだろう。肩の辺りが、ずっしりと重い。
『不様』
肩を揉みほぐしている自分に、そんな言葉が心を過ぎる。
確かに、たかが夢の一つでこうも取り乱すなど、とんだお笑い草である。この場に自分の部下達がいたら、さぞ驚いただろう。あるいは――
(失望される……かもしれぬな)
胸の内で呟きながら、口を皮肉げに歪める。
彼女達の思う蛇姫とは、強く、美しく、何者をも恐れない、勇敢なる九蛇の皇帝の事だろう。そのイメージを作ったのは自分であり、現実、彼女達の前ではその様に振る舞った。それ以外の顔を見せた事は無かったし、見せる気も無い。とはいえ――
「まあ……よい」
ふう、と息を吐き出すと、そのまま思考を打ち切った。
何がどうあれ、さっきの自分の姿を見た者は誰もいない。仮定の話を気にした所で意味は無い。
「ふふっ……」
と――解決にならない答えだけはすらすらと導き出される事に、つい自嘲の笑みが浮かぶ。
一段と深くなったため息の音が、辺りを支配した。
(気分を入れ換えよう)
せき立てる様にそう決断し、視線を向ける。汗をかいたせいか、随分と喉が渇いていた。テーブルの上に水瓶が置いてあったのを思い出し、立ち上がりかける。が、
(――!?)
どういう訳か、膝に力が入らなかった。そのままバランスを崩し、前へつんのめる。未だ下半身を覆っていたシーツが勢いよくめくられた。そして――
(あ……)
露になった下半身を見て、呆然とする。足が……震えていた。
――記憶は始終蘇る――
223
:
ハンコック×ルフィ
:2009/11/27(金) 20:20:45
九蛇城で『彼』に語った言葉が脳裏を過ぎる。四年もの間毎日の様に行われた虐待の日々は、もはや忘れ去る事などできぬのだろう。
苦痛・恐怖・絶望・死への誘惑……繰り返し刷り込まれた負の感情が、渦の様に頭を掻き乱す。
ここが海軍の……もとい、忌まわしき世界政府の船という事もあったのだろう。何処へ行こうが逃げられない――そんな声が聞こえた気がして、心が、身体が、悲鳴を上げる。
そして――
(――――――!!)
燃える様な背中の疼きが、自分が人間以下の存在であった事を、ありありと蘇らせた。
恐怖に凍った身体が、背中に浴びた焼鏝の熱が、助けを呼びながら狂った様に泣き叫ぶ自分の姿が――何度も何度も脳裏に瞬く。
五体を引き裂かれんばかりのトラウマに、震えが、寒気が、吐き気が止まらなかった。だが――
(……っ!)
それでも尚――唇を噛み締め、絶叫を張り上げそうになる口を必死に押さえ込む。
逃げ場など元より有りはしない。ただただ、耐える他なかった。
……どれくらいの時間が過ぎたのか。
気が付けば膝を抱えたままベッドにうずくまっていた。背中がまだ疼くものの、何とか『嵐』は過ぎ去ったらしい。
身体に異常――自傷の跡など――が無い事を確認すると、ふらふらと顔を上げる。
「…………」
部屋の内も外も、依然変わらない様子だった。結構な時間が経過したと思っていたが、この分ではまだいくらも経っていないのかもしれない。それどころか……。
――もし、このまま朝が訪れなかったら?
そんな、ぞっとする様な想像が頭に浮かび、思わず身を竦ませる。憔悴しきった心では、自身を強く保つにはあまりにも脆弱であった。
――結局……今の姿こそが本当の自分ではないのか?
(それは――)
違う、と言いかけて――そのまま口ごもる。
何が違うと言うのか……。ここにいる自分は、九蛇の蛇姫でも、王下七武海の海賊女帝でもない。過去のトラウマに未だ怯え続ける、一人の元奴隷だった。
「……」
ぎゅっと、唇を噛む。分かっていた事だった。いくら国を騙し、人の上に立とうとも、奴隷だった過去が消える事は無い。
むしろ、背負うものが大きくなるほど、自分達の目が届かなくなる事に不安を募らせた。
――いつまた、全てを失いやしないか――
そんな焦燥感が、いつしか一切の隙も見せない程に心を凍てつかせた。目は濁り、感情を表に出す事すら、滅多に見せなくなっていた。それでも――
「……っ」
溢れ出した感情が、視界を滲ませた。
それでも――誇りを失くし、蔑まれるだけの存在となった自分達が、再び平穏を手に入れるには……これしか方法が無かったのだ。
「う……ああっ……!」
もう、何も思いはしなかった。熱くなった目頭から、涙がぼろぼろと零れ出す。
誰一人とて信用できない。いつ正体が暴かれるかも知れない。そんな気持ちで孤独に過ごす夜を、あとどれだけ乗り越えていかねばならぬのだろう。
身体が再び強張る。行き場の無い閉塞感だけが重く心にのしかかったまま、ひたすら怯え、震え、涙を流し続ける。――その時だった。
224
:
ハンコック×ルフィ
:2009/11/27(金) 20:21:37
「……?」
ふと、胸の辺りに違和感があった。濡れた目を拭い自分の体を見る。暗がりなのでよく分からないが、どうも自分の身体に何かが纏わり付いているらしい。
自分の蛇だろうか?
そう思い、軽く触れてみたが、その感触はまるで違った。掌から伝わる温もりや、肌触りなどは、まるで人間の腕のようであり――
「え?」
思わず声を上げた。人間の腕?何故そんなものがこの場に存在するのか?
この部屋にいるのは自分とあと一人だけの筈で――
(――まさか!?)
そう思った直後だった。ぎゅっと、『腕』からの締め付けが強くなる。――そのまま、まるで野菜でも引っこ抜くかの様に、身体が宙へと舞い上がった。
(〜〜〜〜〜〜!?)
訳が分からぬまま、目線だけがベッドから天井へと、目まぐるしく移り変わる。
つかの間の浮遊感を味わった後、今度はそのまま床を目指して、一気に落下した。
(このままでは――)
流石にこの高さから落ちれば無傷とはいかない。何とか体勢を整えようと意識した直後――徐々に速度が緩やかになり、そのまま、ぼん、と何かにぶつかった。
逞しい肉の感触に、少しの間きょとんとし――やがて理解する。自分を持ち上げたものは何か?何に受け止められたのか?
どくん、と心臓が跳ねた。喉を鳴らすと恐る恐る……彼の名を呼ぶ。
「ル…ルフィ。そなた一体……?」
彼――この部屋にいるもう一人の人間であり、自分がこの船に乗り込む理由となった『男』――モンキー・D・ルフィの事だ。
その彼から……一向に返事が来ない。
「ルフィ……?」
もう一度呼びかける。が、結果は同じだった。首を傾ける。自分の声が聞こえなかったのだろうか?
(いや……)
そんな筈は無い、と思う。この距離で、その上抱きつかれて、もとい――巻き付かれたままでの状態で、自分の声が届かない訳が無い。
(ならば――)
何故、と自問をしかけた瞬間、はっ、と気付く。二人だけの船室……暗闇……。
ルフィが無言なのも、そのつもりなら、至極納得がいく。
「ル……ルルルルフィ!?そなた……もしや!?」
完全に予想だにしなかった展開に、声が裏返った。その刹那――
「――――!」
本当に僅か。まるで花を摘むかの様に、優しく抱き締められる。言葉よりもまず行動ありきな、何とも彼らしい返答だった。
「武々の時も……そうじゃったな」
彼の体温を感じながら、そっと笑みを浮かべる。やはり自分の予想は正しかったのだ。そう確信した瞬間、一気に心臓が跳ね上がる。
(ルフィ……)
頬に手をやるまでもなく、顔が上気している事が分かる。気まぐれか、本能なのか。はたまたこの二、三日の付き合いで、自分の想いが通じたとでもいうのだろうか?
いくつもの思いが絡み合い、頭を駆け巡る。だが――
(そう……じゃな)
いくら考えた所で、彼の心の内など分かる筈も無い。分かりきった答にさっさと見切りを付けると、そのまま目を閉じた。自問する。
抱き締められた事以外に、ルフィからのアプローチは無い。受け入れるか、否か……全ては自分の意思次第なのだろう。
時間をかけて考える。そして――
225
:
ハンコック×ルフィ
:2009/11/27(金) 20:22:01
――だからおれ、天竜人嫌いなんだって!!
屈託ない顔で、そう言い切った彼の姿を思い出して、目を開ける。
「そなたに……なら」
決意を固め、頷く。もう迷いは無かった。
「ルフィ……」
消え入りそうな声で彼を呼ぶと、そのまま彼の身体へと寄り掛かった。閉じた瞼の裏側で、じっと、その時が来るのを待ち受ける。
顔が、身体が熱かった。心臓ももはや破裂しそうな程の勢いである。彼がこれから何をするのか。自分はどうなってしまうのか。
不安と期待が心を占領し――
「…………」
そのまま、たっぷり10分は過ぎた――と思う――所で、ようやく我に返った。
「ル、ルフィ……?」
何一つ起こらない事に困惑しつつも、とりあえず呼びかけてみる。やや間があったものの、先程同様に、身体が優しく包まれた。
「ああ、ルフィ」
満足感に浸りながら、再び彼の胸へと身を埋めた。
「…………」
更に5分。今度はきっちり数まで数えていた。なのに……一向に変化が無いのはどういう事なのか。
「ルフィ……」
沸き上がって来る疑問に耐え切れなくなて、目を開く。とはいえ、いかんせん真っ暗闇な上に、未だ寄りかかったままの状態である。顔の輪郭などは分かるものの、表情までは読み取れない。読み取れなかったのだが……。
(……っ)
何故だか、どうしても彼から目を離せない。首を左右へと向けてみたが、視線だけはしっかりと彼を捉えていた。
(まるで……サウスバードじゃな)
常に南を向いているという、奇妙な鳥の事を思い出して、苦笑する。こんな事、以前の自分ならば決してあり得なかった。つまりはそれだけ、彼に心を許しているのだろう。
「…………」
沈黙のまま時間が過ぎていく。密着と言っても差し支えない距離。彼の息遣いを感じる度、前髪が軽く額を撫でる。
悪くない気分だった。思えばこうやって他人を見上げていた事など、奴隷の頃を除けば、記憶に無い。ましてや――自らの意思でそうするなど……。
(……)
進んで他人に身を委ねる。そんな日が来るなど、思ってもみなかった。何だか自分が頼りなく見え――そしてそれ以上に、彼が頼もしく思えた。
(あ――)
気付けば、彼の吐息が自分の鼻先にかかっていた。いつの間にか、近付き過ぎていたらしい。
(離れないと――)
そう思い、顔を引こうとしたのだが……止まらない。高ぶった身体が、感情が、自分の身体を突き動かせる。
(――――!!)
そうこうする内に、彼との距離が徐々に迫っていく。互いの鼻先がちょん、と触れ合い――そのまま擦る様に進んでいく。傾いた視界一杯に、彼の唇が映っていた。
もう止まらない。止められなかった。ぎゅっ、と目を瞑り、数瞬先にやって来るであろう未知の世界を待ち受ける。予想とは少し違う形になったが、これはこれで良かったのかもしれない。
そんな思いが頭に浮かんだ――その時だった。
226
:
ハンコック×ルフィ
:2009/11/27(金) 20:22:31
「……の飯だぞ……ップ……」
「……え?」
唇が触れ合う寸前、ルフィの口から飛び出した言葉に、はたと動きを止める。
『飯』
……彼らしいと言えなくもないのだが、こんな場面ですら口にするものなのだろうか?さっきからのちぐはぐな行動といい、どうにも普段の彼とは様子が違う気がした。――その瞬間。
「だから、これは俺の飯だっつってんだろ!?ウソップ!」
外に漏れそうな程の叫び声を上げたルフィが、ぐいっと自分を引き寄せた。まさかという思いで彼の腕を強引にほどくと、正面から顔を覗き込む。
「や……やはり……」
力無く呟いて、がっくりとその場に落胆する。――案の定、その目は固く閉じられていた。
「……ふ……ふふ……」
乾ききった笑いが止まらない。寝ぼけた彼に食料と間違われた事がショックなのか。それとも自分の空回りっぷりに呆れ果てているのか。理由は分からない。
どちらにせよ確実に言える事は……彼の気持ちは単に自分の想像に過ぎなかったという事だった。
「考えてみれば……まだ名前すらまともに呼ばれておらぬのじゃったな……」
船に乗って以来、どうにも妄想が膨らみがちの毎日ではあるが……現実には未だ『お前』や『ハンモック』扱いである。どうひいき目に見た所で、親しいという印象には思えなかった。
――何も進展してなどいない。
冷静になった自分からの、図星ともいえる指摘に、一層表情を暗くする。確かに、愛しき人との航海とはいえ、少々はしゃぎ過ぎていたかもしれない。その上今の彼は、逸れた仲間や兄の事で、頭が一杯だった。
日ながずっと、兄や仲間の物であろうビブルカードを見つめている事からも、よく分かる。
「はあ……」
すっかりしゅんとして、ため息を漏らす。
少なくともこの戦争が終わるまでは、彼の心の中に自分の居場所は無いのだろう。そうだとしたら、彼の目が覚めなかったのは本当に幸いだった。
起きている時に、こんな空気の読めない勘違いをしていたなら……。
「〜〜〜っ!!」
ぞっとする程の結末が頭をかすめ、思わず首を振った。ここで冷静になれたのは、かえって良かったのかもしれない。
(少し……自重せねば……)
明日にはいよいよインペルダウンに着く。今回の事を抜きにしても、気持ちを切り替える時機ではあった。立ち直るきっかけを掴み、少しだけ平穏を取り戻す。
あとは素早いものだった。背筋を伸ばし、力の抜けた身体に喝を入れると、たちまち女帝の顔を取り戻した。
(そなたを、無事に送り届けねば……な――)
すやすやと眠るルフィを見つめながら、きりっ、と口を引き締め――
はたと気付いた。
「え……?」
一瞬、何の事か分からずに、きょとんとする。『力の抜けた身体に喝を入れた?』
おかしい。つい先程まで、自分の身体はがちがちに強張っていた筈だ。それ以前に、自分は酷いトラウマに襲われていた筈で……。
若干の戸惑いを感じながら、胸に手を当ててみる――が、何の感情も湧いては来ない。強張った身体も、張り裂けんばかりの慟哭も、綺麗さっぱり無くなっていた。というか、むしろルフィの顔と先程の自分の失敗の事ばかりが頭に浮かんで来てしまう。
「……」
余程呆然としていたのか。閉じていた口がまた開いていた。半ば無理矢理に押し込めると、後はそのまま沈黙が続く――が、
「はは……悪ぃな……ップ……」
そう言って寝返りをうったルフィが視界に入ると、我慢も限界だった。
「……ふ……ふふふふ……!」
笑った。声を上げて笑った。皇帝ともあろう自分が、海賊女帝ともあろう自分が、こんな真夜中だというのに可笑しくてたまらない。
――本当に、自分は何に怯えていたのだろう。こんな事で。こんな単純な事で。あっさりと霧散する様な記憶に、何を怯え続ける必要があったのだろう。
考えれば考えるほど馬鹿馬鹿しくなり、更に笑いが込み上げるのだった
227
:
ハンコック×ルフィ
:2009/11/27(金) 20:22:50
「……ふう」
しばらく笑った後、ようやく息をついた。
「また……そなたに助けられたのじゃな」
目元に溜まった涙を掬いつつ、ルフィにくすりと微笑みかける。
何はともあれ、彼が二度も助けてくれた事実に変わりは無い。ここ数日の事も、おそらく恋愛的な意味では何も進んでないのだろうが、そもそも初めは「ムカつくなあ」とまで言われたのだ。それを考慮すれば、充分過ぎる程の進展といえる。
「ありがとう。ルフィ」
気持ちが軽くなったからだろうか。気付くと自分でも驚く程素直に、感謝の言葉を口にしていた。島の者――特にニョン婆辺りが聞いていたなら、今頃は卒倒していたかもしれない。
泡を吹いて倒れる老婆の姿を脳裏に浮かべつつ、ゆっくりと顔を上げる。気のせいか。目を離した瞬間、彼の口元が微かに笑っていた様な気がした。
(もうすぐ夜明けじゃな)
ぼんやりと明るくなったカーテンの真下を見つめて、呟く。ちらり、とめくると、水平線の真ん中より、徐々に光がともりつつあった。 ――明けない夜なんて無い。
そんな声が聞こえてきそうな程、雄々しく姿を現し始めた太陽に、しばし心を奪われる。
航海中の朝焼けなど、もはや珍しくもなかったが、今日ばかりは不思議と格別に美しく見えたのだ。
結局、日の出までそのまま見てしまった。
「……っふ……」
カーテンを戻した後、不意に出かけた欠伸で、ようやく自分が禄に寝ていない事を思い出す。美容的な部分を抜きにすれば、さして問題は無いのだが……あと何時間後にはインペルダウンに着く事を考えれば、体調は万全にしておかなければならない。
――少し眠ろう。
そう思ってベッドに足を踏み出しかけた時、不意にルフィの寝ているソファが目に入った。同時に、にんまりとする。
「少し……少しの間だけじゃ」
そう自分に言い聞かせて、ルフィの横に腰掛けた。そっと彼の頭を抱えると、慎重に自分の膝上へと降ろす。
「ふふっ」
彼の頬を撫でながら、そのまま至福の時間が過ぎていった。
228
:
ハンコック×ルフィ
:2009/11/27(金) 20:24:34
霞みがかった意識の中、焼き鏝を手にしたそいつが、にやついた笑みを浮かべて自分の背後へ進み出す。
とはいえ、以前の様な震え上がる程の怖さは無かった。むしろ相変わらず奇妙な姿だ、と笑いすら込み上げそうになる。
「※%●#!!」
そんな自分の態度がお気にめさなかったらしい。意味不明な叫び声を発しながら男が自分の背中に鏝を宛てがった。流石に平常心のままとはいかず、背中から感じる熱気に、ぞくりとした恐怖が湧き上がる。
――だが、
「わらわは……もう誰にも支配されぬ!」
彼の姿が脳裏に過ぎったその瞬間、高らかに宣言した。と同時に、強張りかけていた身体に再び力がみなぎって来る。ぼろぼろだった姿も、元の服装に戻っていた。
「邪魔じゃ!」
両腕に纏わり付いた男達を一瞬で片付けた。が、僅かに遅かった。振り返った自分の眼前に、そいつが――天竜人が、勝ち誇った笑みを浮かべて手を突き出して来る。
――間に――合わない!
脳が下した絶望的な結論に、覚悟し、目を閉じかけた――その時。
「――の!JETバズーカ!!」
天から降り注いだ、まさしく救世主の様なその一声で、目の前の手から赤銅の棒が弾き飛んだ。そいつが武器を失った事すら気付かない程の速さで、ただ一言、発する。
「芳香脚!」
渾身の力を込めた蹴りが天竜人の眉間に炸裂した。首から先を石化させたそいつが、一瞬後、血の一滴すら噴き出す事無く、粉々になった。
「やったな!ハンコック!」
肩で息をついている自分の背後で、彼の嬉しそうな声が聞こえた。彼が自分の名を正しく呼んだ事は無い。おそらくはこれで、この夢を見るのは最後となるのだろう。
そんな確信めいた予感と共に、後ろを振り返る。泣きだしそうになる顔を笑顔に変えると――彼の元へと駆け寄った
229
:
ハンコック×ルフィ
:2009/11/27(金) 20:24:56
「さあ、服の中へ」
船がインペルダウンへと到着してから数刻、部屋の外でまだかと急かす海兵達を尻目に、マントをたくし上げたハンコックがルフィに囁いた。「ああ」と神妙な顔で頷いたルフィだったが、
「……ところでお前、何でさっきは俺の横なんかで寝てたんだ?」
何気無い顔で質問すると、ハンコックの身体がびしりと固まった。「そ、それは……」と、たちまちしどろもどろになる。
あの後――ルフィの顔を自分の膝に置くと、そのまま寝てしまった。もっとも、彼は起きて来るのがかなり遅い。滅多な事では自分の方が先に起きるだろうと計算しての事である。だが、
――甘かった
ハンコックが、がっくりと肩を落とした。流石の海賊女帝も、眠気と疲れには勝てなかったらしい。気が付けばルフィに起こされていた上――それだけならまだ良かったのだが――起こされた時の姿が色々と大問題だった。
(あの……あの夢が悪いのじゃ……)
脳裏に、天竜人を倒した後に繰り広げられた、ルフィとの熱いロマンスが、ありありと蘇る。実際は単にルフィの寝相が悪かった所為なのだが、半裸に近い状態で、お互い組んづほぐれづな体勢になっていれば、あまり意味の無い事ではあった。
「なあ、何でだ?」
落ち込みながら赤面するという、何とも器用な事をやってのけるハンコックに、ルフィが追求する。当然答えが返って来る訳も無く、「ああ…」やら「ううっ」やら、普段の彼女からは想像もつかない様子でうろたえている。
最初の方は彼女の出方を待っていたルフィだったが、やがて段々と面白くなって来たらしい。
結局、彼女が我を取り戻すまで、一緒になって付き合っていたのだった。
「よぉし!エースを助けに行くぞぉ!」
仕切り直しとばかりに言い放って、ルフィがハンコックのマントをめくり上げる。無言で頷いた彼女と一瞬目が合うと、にっと笑いかけた。
「よろしくな!ハン…ック」
「……え?」
囁く程の小さな声だったが、ハンコックは呆気に取られた。最後の辺りがよく聞こえなかったが、まさか――
「そ……そなた今……!?」
言い出しかけた直前、扉から再び催促の声がした。
「時間がねぇ!早く!」
「う、うむ……」
聞き間違いだったのだろうか――マントの位置を手早く直しつつ、さっきの事を考える。が、
(まあ、また出会った時でよい……か)
どうせすぐに会える。そんな確信めいた予感を胸に抱いて、扉へと歩き出す。
それからおよそ30分後、彼女は幸福の絶頂を味わう事になるのだが――
無論、この時の彼女が知る由は無かった。
230
:
ハンコック×ルフィ
:2009/11/27(金) 20:47:25
以上です。気付けば
少年誌の枠に沿ったラブ場面
ルフィと共にトラウマを克服するハンコック
ルフィとの共闘シーンなど、
自分がこの二人に求めるシーンを全部書いてしまいました
またこの二人で何か思いつけば書いてみたいなと思います
お付き合いありがとうござました
231
:
774万ベリーの賞金首
:2012/01/10(火) 11:11:47
テス
232
:
774万ベリーの賞金首
:2016/04/12(火) 01:10:23
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774万ベリーの賞金首
:2016/04/21(木) 15:04:48
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:
774万ベリーの賞金首
:2016/04/27(水) 18:37:15
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774万ベリーの賞金首
:2016/05/05(木) 22:39:27
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:2016/05/08(日) 10:08:20
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:
774万ベリーの賞金首
:2016/05/10(火) 22:43:45
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