したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

【場】『 湖畔 ―自然公園― 』

1『星見町案内板』:2016/01/25(月) 00:04:30
『星見駅』からバスで一時間、『H湖』の周囲に広がるレジャーゾーン。
海浜公園やサイクリングロード、ゴルフ場からバーベキューまで様々。
豊富な湿地帯や森林区域など、人の手の届かぬ自然を満喫出来る。

---------------------------------------------------------------------------
                 ミ三ミz、
        ┌──┐         ミ三ミz、                   【鵺鳴川】
        │    │          ┌─┐ ミ三ミz、                 ││
        │    │    ┌──┘┌┘    ミ三三三三三三三三三【T名高速】三三
        └┐┌┘┌─┘    ┌┘                《          ││
  ┌───┘└┐│      ┌┘                   》     ☆  ││
  └──┐    └┘  ┌─┘┌┐    十         《           ││
        │        ┌┘┌─┘│                 》       ┌┘│
      ┌┘ 【H湖】 │★│┌─┘     【H城】  .///《////    │┌┘
      └─┐      │┌┘│         △       【商店街】      |│
━━━━┓└┐    └┘┌┘               ////《///.┏━━┿┿━━┓
        ┗┓└┐┌──┘    ┏━━━━━━━【星見駅】┛    ││    ┗
          ┗━┿┿━━━━━┛           .: : : :.》.: : :.   ┌┘│
             [_  _]                   【歓楽街】    │┌┘
───────┘└─────┐            .: : : :.》.: :.:   ││
                      └───┐◇      .《.      ││
                【遠州灘】            └───┐  .》       ││      ┌
                                └────┐││┌──┘
                                          └┘└┘
★:『天文台』
☆:『星見スカイモール』
◇:『アリーナ(倉庫街)』
△:『清月館』
十:『アポロン・クリニックモール』
---------------------------------------------------------------------------

585鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/26(土) 22:19:22
>>584

「え」「いや、まさか」「本当に…?!」

言われてみれば、あのメガネ投擲はあたかも『苦無』のようだった。
もし本当なら、これは『スタンド』よりもちょっと感動するかもしれない。
思わず目をキラキラさせていると、少女から連絡先の交換の申し出があった。

「こちらこそ、喜んで」「何か困った時は力になる、遠慮なく呼んでくれ」

こちらもスマホを取り出し、コードを読み取った。
やがて彼女のスマホに『信玄餅』のLineアイコンと、『鉄 夕立』という名前が表示されるだろう。

「それじゃあオレは少し『特訓』していくから」「『スタンド』があるとはいえ、松尾さんも帰り道には気をつけて」「おやすみ」

そういって、雑木林へと歩みを進める鉄─────その姿が消える前に、足を止めて振り返った。

「そうだ」「オレもある意味そういう能力だから、説得力がないかもしれないが…」
「『切断系』のスタンド能力がいたら、警戒した方がいいかもしれない」
「それじゃあ」

そう言い残すと、鉄は再び闇の中へと歩みを進めていった。

586松尾 八葉『ターゲット・プラクティス』:2019/01/26(土) 22:30:40
>>585
「はいっ、鉄さんもお気をつけて!」

「おやすみなさい!」
足早に立ち去って行った。

587成田 静也『モノディ』:2019/01/30(水) 18:20:11
「この時間ならだれもいないだろう」

あの不思議な人からもらった『モノディ』という能力…『スタンド』とか言ってたかな
とにかくオレの隣にコイツが現れるようになって数日が経った。
1度だけコイツが本当に人に見えないか試すために宅配の人から物を受け取るとき
この『モノディ』を出したまま受け取ってみたが本当に見えないらしく特に反応はなかった。

だが目覚めさせてくれたあの人の言葉からまだ出会っていないが
きっと同じ『スタンド使い』が身近にいるという確信からそれ以降は
極力人前に出さず、今のように公園の人気のない場所で能力を確認するようにしていた。

「そもそも人気の多い場所は苦手だしな。」「落ち着きたい時には今度からここに来るのもいいかもな」

一通りできることを確認し終えてベンチに寝そべりながら呑気にもそう考えていた

588名無しは星を見ていたい:2019/01/30(水) 22:06:58
>>587

 
 ザァァァ――   カツ コツ カツ コツ

?「……」

風が吹く 何者かの足音が横たわる君の耳元へ到来が近い事を報せる。

カツ コツ カツ 『シュン』  ……ドサッ

だが、唐突にその足音が途絶え そして、『直ぐ隣』に何者かが座るのを聞いた。


   ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ・・・

?「……簡潔に聞こう」

?「君はどちらだろう。運命が見えるとして、ソレが全て崩壊と
理解しても立ち向かう事を選ぶ勇者か。
或いは無情を知り、膝をつき立ち止まる凡夫か?」

何者かが君に問いかけている……。

589成田 静也『モノディ』:2019/01/30(水) 23:46:00
>>588

ドドドドドド…

自分の心音が太鼓のように大きく聞こえ、全身に冷や汗が出るのが分かる。
前までであればただのよくいる変人奇人としてやり過ごしたであろうが
先日の不可思議な出来事からかこの何者が只者ではないと察し
何者かとも聞くことが出来ず、逃げようにも足が動かない。
そして何よりも問いに答えなければならない本能が告げている。

ふとさっきのスタンドの試運転を思い出す。
能力によって一時的にとはいえ声を失った鳥、殴ったことで砕けた石、
そしてその力に感じた少しの不安。

答えれば何か変わるかもしれない…

「オレは…何者にもオレの平穏を侵されたくない…」

「一度前に進んだ以上、勝手に止まることはできない」

「オレが勇者かは知らないが前に立ちふさがるならばそれに立ち向かわなければならない」

震える唇で絞り出したような声で答えた

590遊部『フラジール・デイズ』:2019/01/31(木) 00:05:17
>>589

>前に立ちふさがるならばそれに立ち向かわなければならない

「ならば、君は『立ち向かう』者だな。
そして、私の力に怯えながらも確固とした意志を持ち合わせてるのならば
『力』を宿してるのだろう ―受け取ってくれ」 ピッ

成田へと、フードとコートで全身を覆う怪しい人物は一つの
名刺を投げるように受け渡す……『アリーナ』と言う
どうやらスタンドの闘技者を応募する事柄が記されたものだ。

「運命は生きとし生けるものに呪縛のように纏わりついている」

「君の力はそれを振り払う刃か? または鎖の音を癒す楽器となるか」

「答えずとも良い……所詮わたしは奏者と共に手を叩けども
直接鍵盤を弾く資格を持ち合わせてないのだから」

「幽鬼には所詮眺める事しか出来ない……霞の中で風を感ずるのみだ」

意味を掴むのが難しい呟きを淡々と続けている。
どうやら、君がスタンド使いであるならアリーナの闘技者へ
勧誘してるようではある。

591成田 静也『モノディ』:2019/01/31(木) 00:23:36
>>590

目の前の相手はおそらくオレが初めて会う、しかも熟練のスタンド使いなのだろう。

オレは震える指で名刺を拾い、響くように聞こえる言葉をなんとか理解し、
相手の発するスゴ味という奴だろうか
それに負けないため遊部に質問を投げかけた。

「オレの名は成田…成田 静也だ…最後にアンタの名前を良ければ教えてくれないか?」

2日、3日前に力を手に入れたオレには情けないことにこれが精一杯だった。

592遊部『フラジール・デイズ』:2019/01/31(木) 22:00:58
>>591(お付き合い有難う御座いました。ここら辺で〆ます)

>名前を良ければ教えてくれないか?

「『フラジール』 それが水面に映る名であり
喜劇的なマリオネットの呼称だ」

「全ての巡り会わせに意味はある 決して無為にはならない
例え傍目には価値の無いよう見えて因果は纏わりついている」

「いずれ君も理解するだろう 先に待ち受ける溪谷と言う名の
試練を登り詰めた時に 私が唱えた意味合いをな」

「また会おう 成田 静也」

   ――スゥ

フートを纏った怪しげなスタンド使いは貴方の視界から消えた。
瞬間移動でもするかのように、瞬く間に。

彼? 彼女?が何者であり、何を目指すのか……それは再びの
邂逅がいずれあった時に判明するのかも知れない。

593成田 静也『モノディ』:2019/01/31(木) 22:46:12
>>592(こちらこそここまでお付き合いありがとうございました。
またの機会を楽しみにしています。)

>『フラジール』

「『フラジール』…ありがとう覚えたよその名前…」

彼(?)彼女(?)が去ってからもしばらく冷や汗が止まらなかった
そして頭の中で「なぜ自分がスタンド使いだと分かった?」
「もしかして『あの人』と会ってスタンドに目覚めた所を見らえていたのか?」と様々なことが駆け巡った。

ただ…

「助かった…多分…」

「アレはヤバかった…スタンド使いはみんなあんな風なのか?」

やっと安堵の言葉を吐き出すことができ落ち着くことができた。

そして改めてもらった名刺を見る。
そこには何かのマークと住所、時間が書かれていた。

「アリーナか…スタンド使いの闘技場って言っていたな」

きっと『モノディ』よりも強力なスタンドもいるのだろう
そして顔もわからないソイツらともいつかは…
昔のようにただ怒りに任せて力を振るってはいけない
今のように力に怯えていてもいけない…
身を守るためにも『今を変えるためにも』もっと強くならねば

とりあえず今日は家に帰ることにしよう。
今日は色々とありすぎた。

594三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/15(金) 21:13:54

(この辺りで、ちょっと練習しましょう)

人気のない森の中をスタンドが歩いています。
フードを目深に被り、肩にシャベルを担いだ墓堀人のヴィジョンです。
見える人なら見えたかもしれません。

(でも、スタンドの練習って何をすればいいんでしょうか?)

595空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/15(金) 23:45:46
>>594

「(うーむ、この辺トイレあったかな……)」

 ガササ


草叢を抜けて足を踏み出したところで、
『それ』と真正面から出くわした。


   バッタリ


「あっ、これは失礼……」
「…………」
「…………」 チラ

「…………」 チラ(二度見)


「ぎ、ぎゃぁああアアアア──────ッ!?」

いい歳こいた眼鏡のおじさんが腰を抜かして
草叢にデーンとハデに尻もちをつく。
スタンド使いらしいがあんまりこの手の遭遇に
慣れてないらしかった。

「で、ででてでででで……」
「何者!?」

596三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/16(土) 00:30:51
>>595

(あっ――)

と思った時には、もう遭遇していました。
驚かせてしまったみたいです。
どうしましょうか。

《大丈夫ですか?》

墓堀人のような人型スタンドが喋っています。
どうしようかと考えて、とりあえず空いている片手を差し出しました。
本体らしき人影は近くにはいません。

《『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』――》

             《と申します》

       ペコリ

やっぱり最初は挨拶でしょうか。
そう思ったので、お辞儀をしておきました。
『見える人』に出会ったのは、これで二度目です。

597空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/16(土) 00:53:32
>>596

「うぉっ!」

ドキビク──っ

差し出された手にいっしゅん後ずさりしかけるが、
労わりに満ちた声を聞き、目の前の掌と顔貌を交互に見つめる。

「あ、……これはどうも……」

(優しい声がこの場合
逆にギャップ効果で怖い気もするが)
手をとって立ち上がった。
オソルオソル……

尻についた葉や草きれを手で払い、
体裁を取り戻す息継ぎのような咳をする。


「コホン。あー、その、なんだ……。
失礼な姿を見せてしまったな……」

「しかし……その……君は一体なんなんだ?
『ナウ・オア・ネヴァー』……
わたしのような『取り憑いた者』はいないのか?」

598空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/16(土) 00:57:57
>>597(訂正)

「(なんか混乱しているのか
よく意味がわからん質問をしてしまったな……)」

「君が『取り憑いた者』はそばにいないのか?
を聞きたかったんだ……」

599三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/16(土) 01:18:06
>>597

おじさんの手を取ったスタンドが、その手を引っ張り上げました。
ですが、『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』のパワーは人並み以下です。
そのことを忘れていたので、軽くよろめいてしまいました。

《いえ、こちらこそごめんなさい》

《驚かせてしまって、すみませんでした》

      ペコリ

《『取り憑いた』――ですか……》

きっと本体のことだと思いました。
『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』は力が弱い代わりに遠くまで行けます。
今、千草は少し離れたところで操作しているのです。

《今、向こうの方にいますが――》

《……ご案内しましょうか?》

幽鬼のようなスタンドが、木立の奥を指差します。
それから、おじさんを振り返りました。
フードの奥の両目が、おじさんを見つめています。

600空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/16(土) 01:36:47
>>599

「だ、大丈夫か君……?」

 ワタワタ

慌てて手を引いてバランスをとる。

自分から手を差しだしておきながら
よろける姿はコミカルというか
もりもり親近感湧いてくるが……。

「(あんまり動き慣れてないのか?)」

『彼』(『彼女』?)が指差した
木立に目を向ける。

「向こうの方って……」
目を細めてみる。
「……どこまで遠くにいるんだ?
そこまで案内してくれるなら」

幽鬼のような瞳と目が合う。
かそけき揺らめきの渦に
全身が吸い込まれていってしまいそうで
思わずササっと目を逸らしてしまった。

「つ、ついていってみるが……頼めるか?」

601三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/16(土) 05:47:20
>>600

《――そんなに遠くじゃありません》

     ザッ

《この先を、ちょっと行ったところです》

おじさんの前に立って、木立の中を歩き出します。
千草までの距離は大体15メートルです。
森の中なので足元は舗装されていませんが、そんなに時間はかかりません。

《ここで少し動かす練習をしていました》

《まだ慣れていないので》

《でも、何を練習したらいいのか、よく分かりません》

《だから、今は『練習の練習』をしています》

歩いている最中に、スタンドが話しかけてきます。
幽鬼のような外見に反して、本体は結構人懐っこい性格のようです。
また、その口ぶりに、どことなく幼い雰囲気が感じられるかもしれません。

《――スタンドのことは、お詳しいですか?》

602空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/16(土) 08:45:11
>>601

  ザスザスザス


草叢を踏み払いながら奇妙な背中についていく。
『不気味さ』と『あどけなさ』の二世帯同居だ……。
わたしの方は『警戒』と『好奇心』がまだ相半ば。


梢の彼方に、この森林行を俯瞰して見ている
もう一人の自分の姿を浮かべた。
そいつに『大丈夫か?』と呟かせる。

 『このまま黄泉の国に連れて行かれたりしない?』
 『急に振り向いてこれはお前の墓穴だァ────ッ 
  とか言われない?』
 『でも相手は子ども?』
 『ならもし万が一襲われても……』などなど。

わたしはしばしばこうやって心の安定を図る
(精神の息継ぎだ)。


「…………」
「『スタンド』というのか、この『亡霊』どもは」
「…………」
「わたしにはその程度の知識しかない。
 『亡霊』に『名前』と独自の『ルール』があることを
 知ったのもつい最近だ」

言葉を吟味するような短い沈黙を挟みつつ、
あどけない質問者に返答する。

「しかしどうやら君も似たようなものらしいな。
 初心者ふたりが出会っちまったというわけだ」
「…………と、ずいぶん歩いた気がするが」

周囲の木立をキョロキョロ見回して人影を探す。

603三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/16(土) 18:47:46
>>602

      ザッ ザッ

《じゃあ『同じクラス』ですね》

《よろしくお願いします》

《あ――》

       ピタリ

突然スタンドが立ち止まり、グルッと振り向きました。
ここは森の中心近くです。
一番深いところと呼んでもいいかもしれません。

《言いにくいんですが、いいですか》

《お話に夢中になりすぎて――》

「――少し通り過ぎてしまいました」

おじさんの背後に立つ木の裏手から、高い声と一緒に小柄な人影が出てきました。
12歳くらいでしょうか。
緩やかな巻き毛と、クルリとカールした長い睫毛が特徴です。
格好はブレザーですが、制服ではないようです。
『これから発表会にでも行くような格好』と言うのが分かりやすいかもしれません。

604空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/16(土) 20:22:47
>>603

>       ピタリ

>突然スタンドが立ち止まり、グルッと振り向きました。

「ピャッ」

ストローでも咥えてました?
ってぐらい細く弱々しい息が唇の隙間から漏れた。
高価そうなジャケットの両肩が緊張で跳ねあがる。

       うめ
「(──やはり埋殺る気かッ!?)」

両手を顔の前にシャっと構え、
カマキリのごとき闘法(ファイティングポーズ)を見せる。
精一杯の抵抗というか威嚇のつもりか?
プルプル震えて明らかに付け焼き刃なのはバレバレだ。
しかし──


>「――少し通り過ぎてしまいました」


背後からの幼気な声に振り返り、愛らしい子どもの姿を認めた。
フゥーッと安堵のため息をつき、
一瞬おくれて気恥ずかしそうに両手を下ろす。
このおじさん、見てくれだけは立派な仕立てのスーツ姿なのだが……


「…………」「コホン」
「君がその『亡霊』……いや、
 『スタンド』の本体か?」

改めて目の前の子どもの姿を見据える。

「幼そう、とは思っていたが……」
「まさか……小学生……か?」

驚きのためか数回、吐息を飲むように言葉がつっかえる。
そこには驚き以外の感情もいくらか混じっているようだった。

605三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/16(土) 21:09:44
>>604

「――いいえ、違います」

「小学生じゃありませんよ」

      スタ スタ

おじさんに近付きながら、そんな風に返します。
少しムキになっているように見えるかもしれません。
自分でも、ちょっと気にしていることなのです。

「『中学一年生』です」

「早生まれなので、平均より成長が遅れてますけど……」

「小学生じゃありません」

客観的に見ると、ほとんど差はないと思います。
でも、千草にとっては大事なことなのです。
だから、しっかりと主張しておきます。

「――こんにちは」

      ペコリ

「『三つの枝に千の草』と書いて、『三枝千草(さえぐさちぐさ)』といいます」

まずは挨拶しましょう。
『立派な人』になるための基本です。
まだまだ未熟者なので、おじさんの内心には気付けていません。

      ザスッ

『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』がシャベルを下ろしました。
地面に突き立てたシャベルの握りに両手を添えて、亡霊のように佇んでいます。
本体の子供は、今その隣に立っています。

「――おじさんのお名前は、何とおっしゃるんですか?」

606空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/16(土) 22:06:35
>>605

「あっ、ああ……それは失礼した」

  ペッコォー

こちらは相手がどうも気にしてるらしい
繊細な部分の泡立ちに気づけた(大人の面目躍如だ)。
我に返ったように口を閉じ、あわてて軽く頭をさげる。

ふたまわり近く歳の離れた相手に
チト情けない振る舞いに映るだろうか?
しかし男なら、たとえ相手が子どもだろうと
レディに『敬意』は必要だ……。

「(あ、いや待て……
  果たしてこの子は『レディ』……でいいのか?)」

  チラミ

判別の難しい年頃だし、何より『そこ』も
この子が気にしてる繊細な部分かもしれない。
視線を走らせ、その佇まいや服装をもっと深く精査する。


「わたしは
 空織 清次(くおり きよつぐ)」

「君は『仕立て屋』……って知ってるか?
 まあカンタンに言えば『洋服屋のおじさん』だ」

『元』だが、と口の中でこっそり付けたす。

「ところで、君はさっき『練習』と言っていたが……
 その亡霊──『スタンド』を操って、
 何かするつもりなのか?」

小峰のごとく直立する『墓掘り人』を
指差しながら訊ねる。

607三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/16(土) 23:14:10
>>606

「空織さんというお名前なんですね」

「はじめまして、空織さん」

      ペコリ

体格は華奢で、顔立ちは繊細な作りです。
女の子と言われれば女の子に見えるし、男の子と言われれば男の子に見えます。
つまり、服を着ている限りは分かりそうにありません。

「――似合いますか?」

視線に気付いて、その場で軽く姿勢を正しました。
金釦のブレザーとボタンダウンシャツに、ネクタイも締めています。
下はシンプルなスラックスでした。

「『従兄弟のお下がり』ですけど、気に入ってます」

この服装は、元々は従兄弟のために用意されたものだったようです。
仕立て屋さんの空織さんなら、それが男の子用らしいことは分かると思います。
ですが『お下がり』なので、やっぱり性別の決め手にはなりません。

「えっと……」

「スタンドを使って具体的に何かしたいとか、そういうのはまだ分かりません」

「でも――いつか叶えたい『夢』はあります」

「その実現のために、『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』が役立てばいいなと思います」

「だから、この力でできることを色々と試してみたいのです」

608空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/16(土) 23:57:31
>>607

「あ、ああ……とても似合っているよ」

「君みたいな年頃で、フックのないフォーマルを
 『着せられる』感なく着こなすのは
 実に難しいことだ」

「だがその服は、君にとてもフィットしている。
 それはたんに君の見た目のことを言ってるんじゃあない。
 その服が似合うのは、
 君の『精神性』に正しく寄り添っているからだ」

などと小難しいことをペラペラまくしたてるが、
その心中では荒波が立っていた。

「(いや分からんッ! どっちだ!?
  男か女か!?)」

   ゴゴゴゴゴ

「(この空織、『仕立物師』として
  それなりに『着振る舞い』の眼は
  磨いてきたつもりだったが……
  今回はマジで分からんッ。
  空織、お手上げ!)」


 ゴソゴソ
(懐を漁る)

「…………君、良かったら『飴』いるか?」

ふたごの天使が描かれた『いちごミルク味』と
恐竜の描かれた『コーラ味』を差し出す。
どっちを取るかを見るのだ……(意味あるのか?)

「『夢』……?」
「……その『スタンド』を活かせる、か?」
「気になるが……それって、わたしが聴いて
 いいものか?」

ふつうに年相応の子どもに対する気遣いとして訊ねる。

609三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/17(日) 00:38:51
>>608

「そう言っていただけると嬉しいです」

     ペコリ

たぶん褒められたのだろうと思ったので、軽く頭を下げます。
内容は半分くらいしか分かっていませんでしたが。
そして、それとなく探りを入れられていることにも気付きません。

「――くれるんですか?いただきます」

      スッ

二つを見比べて、特に迷うこともなく『いちごミルク味』を手に取りました。
『炭酸』の味は苦手なのです。
単純に、それだけの理由でした。

「この力が活かせるかどうかは……分かりません」

「でも、『妖甘さん』が――
 『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』を目覚めさせてくれた人ですけど、
 『恐怖を乗り越えて成長することを祈っておく』と言ってくれたので」

「だから、この力が『夢』を叶える助けになってくれたらって……」

「――そう思ってます」

      ニコリ

そう言って、無邪気な笑顔を向けます。
屈託のない子供らしい笑いです。
それから、もらった飴を包装から取り出して、口の中に放り込みました。

「空織さんにも『夢』がありますか?」

「もしあったなら――それを聞かせてくださったなら、話してもいいですよ」

「いわゆる『秘密の共有』です」

610空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/17(日) 01:29:12
>>609

「(ノータイムでいちごミルク!
  だが実は『飴』の二択は『フェイント』だ……)」

  見るのは飴を受け取るときの千草の『指先』!
 実は『指』というのは『性差』が出やすい部分なのだ。
 (たとえば男性ホルモンの『テストステロン』は、
  『薬指』の長さに影響を与える)──

 そうして手の表象に現れる
 微小な『男女のちがい』をッ!
 飴を選んだこの一瞬!
 この仕立物師としての『熟練の眼』で
 逃さず見極めてやるッ!

 ※ なお精密動作性:C(人間並)


……冗談はさておき。

「たいした子だな……」

千草の独白に腕を組んで唸る。
12才に感服させられる34才のおじさんの図。

「わたしが君ぐらいの歳のころって、たぶん
『ニガテな野菜を克服できるか』とかで
 悩んでるレベルだったと思うが……
『恐怖を乗り越えて成長』という言葉に
 真正面から向き合っているとはな」

「(だが一方で気になる言葉も聞いたぞ……『妖甘』?
『目覚めさせる奴』がまだいるのか? こんな子どもを?)」


「『夢』──わたしの?」
「あ、あるにはあるが……」

『秘密の共有』というあどけない約束、
だが心の荒んだアル中の男にはあまりにも眩しい……!

「そ、それは……」「…………」
「わかった、教えよう」
「君が聞いてもつまらんことだと思うが……」

「『もう一度この町で、自分の店を持ちたい』……」
「…………」
「な、なにをマジになってるんだわたしは……」
「コホン。き、君のを聞かせてくれるか?」

611三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/17(日) 03:59:16
>>610

空織さんの視線の先にあったのは、細長い指でした。
それが決め手になるのかどうかは分かりません。
本人は何も気付くことなく、口の中で飴を転がしています。

「お店……『洋服屋さん』ですか?」

「目指す形がしっかりしていて、とても立派な『夢』だと思います」

「その『夢』が叶ったら――空織さんのお店に行ってみたいです」

『千草の夢』は、まだ形が曖昧です。
だから、余計にしっかりしていると感じるんだと思います。
早く目標のヴィジョンを確かなものにしたいですが、難しいです。

「笑わないで下さいね」

「――『立派な人になること』です」

「『たくさんの人から尊敬されるような立派な人になる』――それが『夢』です」

『千草の夢』は、『素晴らしい死に方をすること』です。
そして、そのためには『立派な人になること』が必要だと思っています。
だから、『立派な人になること』は『夢』というよりは『夢の夢』です。
それを言わなかったのは、空織さんとまた会いたいと思うからです。
いつかまた出会った時に、それを話せれば嬉しいです。

「空織さん、良かったら連絡先を交換してくれませんか?」

「『スタンドの仲間』で『初心者の仲間』で『叶えたい夢を持っている仲間』で――」

「その……『友達』になって欲しいです」

ブレザーのポケットから、
手帳型のレザーケースに入ったスマートフォンを取り出します。
それから、空織さんを見上げました。
シャベルを携えた『墓堀人』は、本体の隣で頭を垂れています。

612空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/17(日) 06:39:56
>>611

「……笑わんよ」
「『立派な人になる』というのは十二分に立派な夢だ」

「だが生涯持ちつづけるには
 すこしばかり危うい夢ではあるな……」

その夢は価値判断を他者に依存している。
自我を確立すればいずれ脱皮する、『さなぎの夢』だと
空織は思った。


気になったのは彼女の精神性の方だ。
彼女の心は妙に『達観』しすぎている……
一体なにを見て育てば、ちっぽけな子どもが
こんな精神性に(『スタンド』に)たどり着く?

この子は心身に皺ひとつない高潔な両親から
たっぷりとした愛を受けて育ったのだろうか?
何一つ黒点のない『白』に囲まれた世界にいるのだろうか?
それとも……

かつて出来損ないながら親だった身として、
わたしは妙な心配をしてしまっている。
梢の向こうでわたしを俯瞰するもう1人の自分が
『身勝手な想像だ』とささやいた。


「……わたしの名刺を渡しておこう。
 『困ったこと』や『相談したいこと』があったら
 連絡してくれ。
 『スタンド』に限らずな」

「ほんとうは、
 大人が子どもと個人的に連絡先を交換するのは
 あんまり良くないことなんだが……」

「…………………
 まあ、『友達』ということならいいだろう。
 (いやホントはよくない)」

携帯番号と名前が書かれた名刺を渡し、
すこしためらったが千草の番号を受けとる。

「君が望むなら、
 その名刺は君の両親に見せてもいい。
 理由はどうとでもなるし、わたしもその方が安心できる」

と、妙にそわそわしだす空織。

「………………
 ところで、少しばかり友人の君に訊ねたいんだが」

「…………………………
 この辺にトイレってあるかな?」

613空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/17(日) 06:56:01
>>612(訂正)

>気になったのは彼女の精神性の方だ。
>彼女の心は妙に『達観』しすぎている……

× 彼女 → ◯ この子

614三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/17(日) 22:53:32
>>612

未熟者の千草には、空織さんが心配してくれていることは気付きませんでした。
もし気付いていたなら、きっとお礼を言ったでしょう。
それができなかったのは、とても残念なことだと思います。

「……そうですね」

「難しいと思います」

空織さんに向かって、ニコリと笑ってみせます。
でも、上手くできたかどうかは分かりません。
口の中で、『でも』と小さく付け加えました。

「――ありがとうございます」

       ペコリ

名刺をもらう機会なんてないので、なんだか緊張します。
でも、少しだけ大人になれたような気分も感じました。
だから、なんとなく誇らしげな表情になっていたのだと思います。

「『トイレ』――ですか」

      ザック ザック

「少し待っていてもらえますか?」

「――今、『用意』します」

至って真面目な顔で、空織さんに呟きます。
同時に、『墓堀人』がシャベルで地面に穴を掘り始めました。
ほんの少しして、その動きが唐突に止まります。

      クスクス

「『冗談』です」

「ビックリしましたか?」

        ズズゥゥゥ……

表情を子供っぽい笑い顔に変えて、空織さんに言いました。
『墓堀人』がシャベルを肩に担ぎ直すと、穴が消えて地面が元通りになりました。
『墓堀人』は千草に重なり、その姿が溶けるように消えていきます。

「あっちです」

「この辺りで練習しているので、どこに何があるか知ってるんです」

一角を指差して、空織さんを案内して歩き出します。
これも立派な人になるための――『素晴らしい死に方』をするための一歩です。
まだまだ道のりは長くて遠いですが、一つずつの行いを積み重ねていけば、
いつか叶えられると信じています。

615空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/18(月) 00:58:03
>>614

「えっ、いやそれは待…………」


「…………………………………
 …………………………………」


「……………………生まれて初めての経験だ、
 『ハカホリニンジョーク』を食らったのは」

「もしわたしが自分の店を手に入れたら、
 君にはトイレ工事をさせてやるからな」


年相応のいたずらっぽい笑みを浮かべる千草に向け、
座り目で抗議の視線を送る。
たっぷり数秒ジトーっと睨んだあと、
こらえきれず吹き出すみたいに笑った。
目を糸みたいに細めて微笑む。


「おっと、今度はちゃんと案内してくれるのか?

 それは『落とし穴に』とかじゃないだろうな?
 なんてな、冗談だ。
 フフ。ありがとう……」

千草を追って足を踏み出しながら、
肩越しに地面を振り返る。

   チラ

「(穴が一瞬で消えている。
  これがこの子のスタンド……か)」

「(この無言の墓掘り人は、いったい
  この子のどんな心を表象しているのだろう?

  ………だがそれを知るには、今はまだ……)」


首を振り、前方に向き直ろうと顔を上げたとき、
わたしはわたしの肩に誰かの手が
乗せられていることに気づいてハッと息を呑む。

それはさっきまで
梢の向こうでわたしを俯瞰して見ていた
もう1人のわたしの手だった。

わたしの耳元に顔を寄せて彼はささやく。

  『おまえの娘が生きていれば
   この子ぐらいになっていたかもな』

 『この子に娘の姿を重ねているのか?』

     『なんてみじめな贖罪だ──』


わたしは彼を睨みつける。
我を忘れて彼と目を合わせる。
だがそこにいたのはもう1人のわたしではなかった。

空転する糸車を腹腑に埋めたわたしの『スタンド』。
娘を失ったわたしの前にあらわれた『亡霊』。
物言わぬ虚ろな瞳でわたしを見つめている。

「『エラッタ・スティグマ』………」

消えろと強く念じると、
糸車のカラカラという空っぽな残響だけを残して、
虚ろな亡霊は宙空に解けて消える。


わたしは何事もなかったかのように前を向き、
小さな案内人の背を追いかけた。

616高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/01(金) 00:29:32
夜の自然公園に人影が一つ。
動きやすそうな格好をした女性。
癖のある髪を一本に結び、どこか暗い印象のある人だった。
ペットボトルを片手に彼女は公園にいた。

「……」

わずかな明かりの下、女性は踊っていた。
ペットボトルをマイクに見立て、音は出さずに口を動かしながら踊っている。

「……!」

ステップを誤り、重心が崩れる。
踏ん張らずにそのまま彼女は地面に体を預けた。

617薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/01(金) 01:20:52
>>616

「…………」

    ピ ピ

       ガコン

自販機でジュースを買いながら、それを見ていた。
今は仕事帰りで、入れたコインと押したボタンは妹の分だ。
自分のジュースは――――

  チリン

         『ピピピピピピピピ』

今から『ルーレット』が当たるのでそれで買う。

(ダンスか何かやってるのかな。
 駅前で踊ってるヤンキーみたいな?
 こけたのかそういう振り付けなのか、
 よくわかんないけど……真剣そうだし)

    『アタリ! モウイッポン エランデネ!』

(邪魔はしないでおこうかな)

              ピ

                    ガコン

邪魔はしないが、普段静かな自販機がうるさい夜だ。
それに、白い髪と赤い目――――薬師丸の姿は目立つ。

618高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/01(金) 02:28:09
>>617

「ふぅ……ふぅ……」

呼吸を整えながら、ゆっくりと立ち上がる。
右足を上げて、何度か地面を踏みしめる。
地団駄というよりもそれは、足に力を入れるためにやっているような動きだった。
靴から覗くものは靴下と黒いサポーターである。

「……ふぅ……ふぅ……はぁ……はぁ……」

少しふらつきながら地面を踏みしめ、顔を動かす。
その目線は薬師丸に向けられた。

(……見られたかな)

(不味いかな。一応、新曲だしなぁ……)

俯き気味で陰気な顔のまま、薬師丸を見ている。

619薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/01(金) 03:38:04
>>618

「あ〜」

(ジロジロ見てるって思われたかな。
 まあ、実際ジロジロ見てたようなもんよね)

視線があった。

「ごめんごめん。つい見入っちゃった。
 ふだん、ダンスってあんまり見ないからさ」

      ガコッ  ガコン

ジュースを二本取り出して――
それを小脇に抱えて、少しだけ近づく。

「それにしても……こんな時間に練習?
 秘密トレーニングってやつなのかしら。
 私はスポーツとかしないほうだから、
 あんまり詳しくはないし……
 追求とか、そういうのするつもりもないけど」

「この水いる? 『偶然』当たっちゃったんだけどさ」

無視して立ち去ることも出来たけれど、
追いかけてきて絡まれたりしても良くない。
穏便に立ち去るためにはむしろ会話がいると思う。

だから、自分用の水だったが、小さく掲げてみせた。

620高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/01(金) 04:11:06
>>619

「あぅ……やっぱり見てたんですか……」

(あ、ちが、もっと……)

思わず一歩下がってしまう。
不意に下げた右足。
ビクリと背中が跳ねて、少しを食いしばる。
深呼吸。
顔を上げる。
逆ハの字だった眉が横になり、目が少し大きく開かれた。

「ダンスは苦手でね。こうせねばならない身の上なんだ」

しゃんとした雰囲気を出そうとしているらしいがまだ少し目が震えている。

「貰えるのなら、頂きたいが」

「ありがたい」

すでに手に持ったペットボトルは空。
握りしめたからかベコベコにへこんでいる。

621薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/01(金) 21:17:15
>>620

「あげるよ、減るもんじゃないしさ。
 あ、一応言っとくけど、なんの味もない水だよ」

「最近は透明な紅茶とか流行ってるから一応ね」

軽く放り投げようとしたが……

「…………はい、あげる」

目の動きに何かを感じてやめた。
もう少しだけ歩み寄って、ゆっくり手渡す。

「苦手なのにやらなきゃいけないのね。
 大変ねぇ〜え。お仕事か何かでやってるの?」

「踊る仕事ってあんまり思い付かないけどさ」

近づいて見える薬師丸の顔は、高宮より一回り幼い。
不相応な毛皮の黒コートや真っ白な髪も、どこか現実味を欠いていた。

622高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/01(金) 21:50:13
>>621

「お気遣いどうも」

受け取り、水を飲む。
乾いた体に潤いが流れ込んでいくのがわかる。

「……仕事だから、これは時間外労働」

「アイドルだよ。頭に地下とつくアンダーグラウンドなやつだ」

ゆっくりと息を吐いて、また言葉を出す。

「そういう君はどうかな?」

623薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/01(金) 22:38:29
>>622

「ああ……えーと、地下アイドルってやつ。
 星見横丁とかでビラ配ったりしてるよね。
 私の知り合いにそういうの好きなヒトいるわ」

それが高宮の事務所かは知らない。
もらったビラをしっかり読んだこともないし。

「ともかく、スターの卵ってわけね」

笑みを浮かべる。

「私は――『幸せ』を売ってるの。
 それが私の仕事よ。あ、勘違いされそうだけど、
 ハッピーじゃなくてラッキーの方が本業だから」

「怪しいクスリとかは警戒しなくていいよ」

それはそれで得体が知れないわけだが、
少なくとも妙な売人というわけではないらしい。

「何も法に触れるような事は、してないからね」

水から妙な味がしたとか、そういう事もなかった。

624高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/01(金) 22:49:10
>>623

「もしかしたらその人と会ってるかもね」

(分からないけど)

また水を飲もうと口をつける。
が、勢いを間違えたのか口の端から飲みきれなかった水がこぼれ落ちた。

(またか)

手の甲で水を拭った。

「スターの卵か。そうだね、早くオーバーグラウンドに打ち上げて衛星みたいになりたいものだ」

暗い笑みを返した。

「幸せか……」

眉がハの字に曲がる。
伏し目がちに視線が動く。
迷い。
先程までの雰囲気が収まり、憂い雰囲気が増していく。

「いくらで売ってくれますか……?」

625薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/02(土) 04:32:10
>>624

「どうだろ。まっ、とにかく詳しくないからさ。
 詳しくないなりに、あんたに幸がある事を祈るわ」

「私はそれの専門家だからさ」

薬師丸はアイドルというものはよく知らないが、
こんな夜にまで一人で練習に励んでいるあたり、
恐らくは『本気』で・・・理想はまだ先なのだろう。
言葉ではあまり深くは突っ込まずにおくことにした。

「――――あら、興味ある?」

        リィーーー ・・・ ン

《『害』も『戦意』ないよ。見えてるなら、ね》

      「『幸運』ってさ。形の無い物だし、
       『実演販売』ってことにしてるの」

それは『こころ』 に直接響くような鈴の音。
空気を揺らす、振動としての音ではない。

「で、初回はその実演込みで千円って感じね。
 ほら、期待はずれって事もあるだろうしさ。
 千円くらいなら『募金』した気持ちになるでしょ」

少女の背後に浮かび上がる、人型のヴィジョン。
白い毛皮を纏い、兎の耳を生やした『スタンド』。

――特に何か構えたりするでもなく、背後にいるだけだ。

626高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/02(土) 12:28:04
>>625

「専門家……」

馴染みがない。

「……分かりました」

ポケットに入れられた財布から千円札を一枚取り出す。
祈るように少し震える手が突き出される。

「見えてますけど……」

627薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/02(土) 22:01:44
>>626

         ピラッ

「はい、まいどあり。千円確かに受け取ったよ。」

スタンドの手がお札を受け取り、
軽く弾いて枚数を確認してから懐へ。

「見えてるんだ、お仲間なのね。
 それだったら話が早くて助かるわ」

         リン

その手が今度は、高宮の手に触れようとする。
触れれば小さな金色の『鈴』が生まれるだろう。

「お代の分はしっかり説明させてもらうね」

薬師丸はと言うと、それを見ながら微笑を浮かべた。

「ハッピーじゃなくてラッキーって言ったけど、
 要するに・・・私の『レディ・リン』は、
 運勢ってやつを前借り出来るのよね。
 今コイントスを絶対に当てられる代わり、
 あとで絶対に外しちゃうようになるわけ」

「そういうとプラマイゼロに聞こえるけど、
 外すって分かってるコイントスだからね。
 そこに大金を賭けたりはしないでしょ?
 借りた分返さなきゃいけないって分かってれば、
 備える事は出来る…………だから商売になるの」

長口上を終えると、スタンドが一歩引く。
鈴を付け終えたにせよ、そうでないにせよ、だ。

「それで、どう? 何か『運を天に任せたい』ものってある?
 今日じゃなくってまた明日、ってことでも私はいいよ。
 来週のくじ引きで、とか言われるとちょっと困っちゃうけど」

「もし決められないなら、商売だからね。私の方では実演しやすい店は当たり付けてるの。
 それで良ければ案内するけど……一応、あんたの運を使うわけだからね。好きに決めていーよ」

628高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/02(土) 22:36:26
>>627

手に着いた鈴をじっと見つめる。
これがラッキー。

「明後日の……」

「明後日のライブの……成功を……」

小さく、そう呟いた。

629薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/02(土) 23:16:41
>>628

「分かった、明後日ね。明後日の……何時?
 良いタイミングで幸運を入れるために、
 私もその場にいないといけないからさ。
 あと……反動の不幸に、対処するためにもね」

        『リ″ン』

薬師丸の耳に付いた『錆びた鈴』が、風に揺れる。

「あ、入場料とかあるならそこは自腹きるよ。
 初回だし、ライブっていうのも興味あるしね」

明らかに危険な響きだったが、
薬師丸自身に焦りなどは感じられない。

この現象には『慣れている』――という風に。

「それとも……幸運、今ここで使う?
 ライブに効くかは保証出来ないけど、
 ライブの事しか考えてないなら大丈夫かも。
 それに、『不幸』はこの場で処理できる」

「私はどっちでもいーけど……どうする?」

悪戯っぽい笑みを浮かべた。
薬師丸にとっては、本当にどちらでもいいのだろう。

630高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/03(日) 00:18:22
>>629

「不幸は慣れてますから……」

どうしようもないほどに彼女の目は暗かった。
おそらくこの場にある闇よりも深く、暗い。

「十五時……です。チェキ会もあるけど、ライブだけで……」

「これ……インビ……」

インビテーションチケット。
招待券とも言われるものだ。
無料で入れるだろう。

「ぼくはちゃんとライブが終われればそれでいいんです」

631薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/03(日) 00:52:31
>>630

「そ、私とおんなじね」

        ニコ…

赤い瞳を作るガラスレンズの奥――――
薬師丸の本当の目を知る者は、多くはない。

ただ、そのレンズに写る高宮の目が、
どうしようもなく暗いのは薬師丸の目にも確かだ。

「それじゃ、しっかりやらせてもらうよ。
 少なくとも、そのライブが終わるまではね」

    ズギュン

「15時から空けとくから。
 『レディ・リン』はちゃんと運命を変えるからね」

        スゥッ

          「あと、連絡先交換しとこう。
            もしものこともあるだろうし」

招待券を受け取り、代わりにスマートフォンを取り出す。
『仕事』に手ぬかりはしない。そうでないと生きていけないから。

632高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/03(日) 01:12:20
>>631

「分かりました」

スマートフォンをズボンのポケットから取り出す。
カバーをしているが、傷だらけだ。

「………仕事用とかじゃないので」

(ぼくにとって最も大きな幸運が訪れるのなら)

(それはあの人たちと同じ事務所に入って、同じステージに立つこと)

633薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/03(日) 01:36:54
>>632

薬師丸のスマホカバーは白いが、
目立った汚れなどはないようだった。

「私のは、仕事用だけど……
 プライベートで掛けてくれてもいいよ。
 同じ『スタンド使い』同士でもあるし」

         スッ

「少なくとも今だけは『仲間』だからね」

友達とか、同志とか、そういうのじゃあない。
客と商売人であり……夢を追う彼女の『仲間』だ。
 
「それじゃ、私は今夜は帰るから……
 今つけた鈴は勝手に消えるから安心して。
 本番の明後日に、また付け直したげるからさ」

         「じゃ、またね」

明後日に向けて、今夜から早めに寝る事にしよう。
特別に止められないなら、そのままこの場を立ち去る。

運命を味方に付けたライブが成功したかどうかは――また、別の話だろう。

634高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/03(日) 02:28:43
>>633

「仲間、ですか……?」

それを彼女がどういう意味で言ったのか分からない。
自分がどれぐらいの重み言葉を返したのかは分からない。

「さようなら」

別れを告げて、またダンスを続ける。
まだ理想の未来には遠い。

635高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/12(火) 23:55:17
「ら、ら、ら」

夜の自然公園に人の影。
何かを歌いながら躍るように動く。
しかしそれはダンスではない。
頼りのない灯の下で、時に遅く、時に早く。
見える者には見える物がある。
彼女が持っているもの、それは鎖鎌だ。
左手に鎌を持ち、右手に鎖と分銅。
鎖を回すと手から離れた分銅が回る。
まるでカウボーイのようにそれを飛ばして、また手元に引いて戻す。

「ら、ら、ら」

636美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/13(水) 23:16:57
>>635

時を同じくして、公園内を一人の女が通りがかった。
ラフなスタジャンのポケットに両手を突っ込んで歩いている。
人影に気付いてキャップのツバを持ち上げ、闇夜に目を凝らした。

(あれは――ダンスの練習かしら)

最初に見た時は、そう思った。
だから、少し離れた場所で立ち止まって様子を眺めていた。
でも、どうやら違っていたようだ。

「ステージで使う小道具――」

「――じゃなさそうね」

その視線は、鎖鎌に注がれている。
自身のスタンド――『プラン9』には身を守れるような力はない。
このまま何事もなかったかのように立ち去るべきか、内心で迷っていた。

637高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/14(木) 01:54:38
>>636

鎖鎌の女はジャージを着ている。
所々擦れたような傷がある。

「ら、ら、あれ……ん、ら、ら……」

何かが気に食わなかったのか歌いながら小首を傾げる。
ぐらりと、途中で彼女の体がブレる。
靴紐を踏んでしまったらしい。
歌に気を取られた彼女は体勢を崩しーーー

「ひぅ……!」

コントロールをしくじった分銅が顔面に迫る。
何とかかわした頃には、体はバランスを失い完全に転んでしまった。

「あ……」

背後の街頭に鎖が絡まり、分銅が倒れた彼女の足に命中した。

(ついてない……)

自分の顔の傍の地面に突き刺さった鎌を見て一人溜息をつく。

638美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/14(木) 14:10:12
>>637

歌と踊り。
それは、私の中にある過去の記憶を思い起こさせた。
忘れる事の出来ない輝かしい栄光。

(『まだまだこれから』って感じなのかしらね、彼女)

その姿に、かつての自分自身が重なる。
大きなステージを控えて、厳しいレッスンに明け暮れていた日々を思い出す。
だから、迷いながらも立ち去らずに見続けていたのかもしれない。

(あららら……――)

その物騒なヴィジョンが見えたことで、ほんの少し警戒していた。
しかし、どうやら危険と呼べるものはなさそうだ。
むしろ、今の彼女は助けが必要なのかもしれない。

      スタ スタ スタ

「――立てる?」

近くまで歩み寄り、片手を伸ばす。
その身体を引っ張り上げて、元通りに立ち上がらせようという意図だ。
彼女が、この手を掴んでくれたらの話だけど。

639高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/14(木) 19:53:18
>>638

「……はぁ」

落ち込んだ気分のままため息をつくと鎖鎌がぱっと消えてしまった。
この世に存在するものでありながら、通常の物質とは違うもの。
スタンドの鎖鎌。

「え……?」

声の方に振り返って、息を呑む。
わたわたと一人で慌てだし、ズボンで手を拭いてから両手でしっかりと手を掴んだ。
が、立ち上がろうとはしなかった。

「み、美作くるみさん、ですよね……!?」

「なん、な、なんで、なんでこんな所に……!」

「あわ、あぅ、あ」

なにか言おうとしているらしいが上手く言葉が出ないらしい。

640美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/15(金) 17:37:59
>>639

「えっと――」

「ええ、確かに私は『美作くるみ』ね」

「ちょっと考え事をしながら歩いていたら、地面に倒れ込んだのが見えたものだから」

返ってきたのは、思いもよらない反応だった。
どうやら、彼女を立ち上がらせようという試みは成功しなかったみたい。
それなら、私の方が目線を下げる事にするわ。

「あの、もしかしてだけど――」

「前に、どこかでお会いした事があったかしら?」

「もし忘れてしまっていたなら、ごめんなさい」

こちらからも両手を出して、彼女の手を握り返す。
精一杯の誠意の印だ。
同時に、その場に屈み込んで視線の高さを均等にした。

(まさか、ねえ)

(『昔の私』を覚えてくれているのかもしれない――)

(そんな風に思っちゃうのは、きっと私の自意識過剰よね)

641高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/15(金) 23:29:05
>>640

「あ、ありますけど……お話したのは今日が初めてで……!」

精一杯に話す。

「綺麗な歌声にずっと、ずっと憧れててぇ……」

ぽろぽろと目から滴が零れた。

「うれしい……」

まっすぐだった背中が丸まって、そのまま俯いてしまった。

642美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/16(土) 13:57:49
>>641

「……あの」

一瞬、どう言葉をかければいいのか分からなかった。
彼女の真摯な様子に胸を打たれたからだ。
それは自分にとって驚きでもあり、喜びでもあった。

「――ありがとう……」

「私の事を覚えていてくれて」

「本当にありがとう」

もしかすると、もっと気の利いた台詞を言うべきだったかもしれない。
でも今の私には、これしか言えなかった。
他の言葉が思い浮かばなかった。

「あなたも『同じ分野』だと思っていいのよね?」

「違ってたら恥ずかしいけど」

穏やかに笑いかけながら、彼女の背中を軽くさする。
それから、街灯の傍にあるベンチに視線を向けた。
ずっと地面に座ったままという訳にもいかないだろう。

「とりあえず、立ちましょうか?」

「座るなら、そこのベンチの方が良いと思うから」

「その前に、まず立ち上がらなきゃね」

彼女が立ち上がろうとするなら、その手を引いて手伝う事にしよう。
自分も、かつては彼女と同じ志を抱いていた。
それが消えてしまった後も、こうして誰かの記憶に残れるというのは有り難い事だ。

643高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/16(土) 18:26:36
>>642

「はい……そうです……」

「私は地下アイドルですけど……」

美作の声にこくこくと頷いて立ち上がる。
泣いているうちに落ち着いてきたようだ。

「すいません……ありがとうございます」

644美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/16(土) 19:55:19
>>643

「良いのよ。気にしないで」

「そういえば、まだ名前を聞いていなかったわね」

「教えてもらっても平気かしら?アイドルさん」

彼女が立ち上がったのを見届けてから、握っていた手を離す。
話しながらベンチの方へ歩いていく。
そのまま、そこに腰を下ろした。

「あなたと話していると、何だかノスタルジーに浸りたくなっちゃうわ」

「私は、今はラジオパーソナリティーをやってるの」

「良かったら、そっちの方も覚えておいてくれると嬉しいな」

645高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/16(土) 23:35:17
>>644

「ぼくは高宮と言います……」

ベンチに座り、小さな声でそう言った。
膝の上に置いた手を見つめている。

「聞いてます、ラジオも毎週……」

「お電話はしたことないですけど」

646美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/17(日) 00:00:18
>>645

「高宮さん、ね――良く覚えておくわ」

「ありがとう。そう言ってもらえると、とっても嬉しい」

「気が向いたら掛けてきて。いつでも待ってるから」

      フフ

話を続けながら、膝の上に置かれた手を見やる。
それから、辺りを照らす街灯を見上げた。
柔らかい光が、その横顔を浮かび上がらせている。

「ちょっと見えたんだけど、さっきは練習の最中だったのかしら?」

「こういう公共の場で練習するのって、私も結構やっていたわ」

「程良い緊張感があって、それが適度に気を引き締めてくれるのよね」

647高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/17(日) 00:24:36
>>646

「……はい、その時が来たら」

何か言いにくそうに手をもぞもぞと動かしていた。
明かりの下で高宮は暗い顔をしている。

「練習と、実験を兼ねて……」

648美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/17(日) 00:57:30
>>647

「『実験』」

「それって――」

   フッ

その言葉に何かを感じ取った。
一つの考えが脳裏を過ぎる。
自分の肩の上を指差すと、そこに『機械仕掛けの小鳥』が現れた。

「『これ』の事かしら」

「私達の共通点は一つじゃないみたいね」

あまり見せるものじゃないが、似通った部分を持つ彼女なら、それも悪くない気がする。
何となく不思議な縁だと思った。
やがて、ある思い付きが頭に浮かぶ。

「そうだ――」

「もし良かったら、ここで少し『練習の成果』を見せてもらえない?」

「せっかくのライブの観客が、引退した私だけなのは申し訳ないんだけど」

「少しでも高宮さんの力になれたら嬉しいから」

「そう考えるのは、私の我侭かしら?」

649高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/17(日) 01:10:25
>>648

横目で美作に発現するそれを認識する。
ぎょっとした雰囲気で目が開かれた。
驚きと同時にその力の形に感心する。

「成果をですか……」

「大丈夫ですけど……いいんですか?」

酷く申し訳なさそうで憂い顔をしていた。

「ぼくので、本当に」

「美作さんからすれば素人同然だと思いますけど」

650美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/17(日) 01:29:41
>>649

「――もちろんよ」

軽く頷き、口元を綻ばせて座り直す。
機械の小鳥は微動だにしない。
肩の上で、小さなオブジェのように佇んでいる。

「今、あなたは『アイドル』で私は『観客』なんだから」

「是非、見せて欲しいわ」

その目は、真っ直ぐに高宮の瞳を見つめている。
憂いを含んだ顔とは対照的に、その表情は明るい。
ただ明るいのではなく、どこか真剣さを帯びたものでもあった。

「――ダメかしら?」

651高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/17(日) 02:36:45
>>650

「……やる以上は全力ですよ」

上目遣い気味に見るその目に迷いはない。
目の奥に宿るものは炎ではなく覚悟だ。
ハの字の眉が平行になり、彼女の持つ空気感が変化していく。
ベンチから立ち上がったころには、気弱そうな女性の姿はなかった。

「鎖鎌は危ないから使わないよ。あくまで今のぼくはアイドル、だからね」

伸びた背筋。
はっきりとした言葉。
髪をいったん解いて結び直す。

「『どこにも行けやしないさ 分かっているだろう?』」

「『逃げ場所も行き場所もとうに見えないだろう?』」

「『罵倒など所詮、心の波動 なのに揺れる心の湖面よ』」

「『生き抜くモメント 生むのは君だけなのに また弱気になる』」

気弱な線の細い声から一転、低く力強い声だった。
ステップの一つ一つが流れるように繋がっていき、公園の地面に模様のような足跡を残す。

「『全て投げ捨てて 壁を 越えて』」

652美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/17(日) 03:13:17
>>651

雰囲気の変化を受けて、ほんの僅かに両目を見開く。
眼前で繰り広げられる本気のパフォーマンス。
今の自分は観客として、それに対して全力で向かい合う。

(何かしら……)

(こうしていると胸の奥がチリチリして来るわ)

(あなたみたいに熱く燃えていた頃を思い出して、ね……)

歌を口ずさみ、舞い踊る姿。
その凛とした姿に、記憶の中の自分が重なる。
見ている内に、心の深い部分が強く刺激されるのが分かった。

(高宮さん――)

(あなたなら、きっと大丈夫よ)

(私は、そう思うわ)

彼女の発声や身のこなしからは、アイドルを名乗るだけの実力を感じる。
それに見合うだけのプライドも持っている。
だから、彼女は彼女自身が思っている以上に強い人なのだろうと思えた。

653高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/17(日) 03:59:01
>>652

「『誇れ胸を張ろう またここで会おう 諦めないのなら』」

「『夢が己に変わるから』」

歌と踊りが終わり、最後のポーズで止まる。
指先まで力のこもった姿勢。
しばらく、そのままで動かない。

(久しぶりだな、ミスも何もない、完璧なパフォーマンス)

ベンチに座る彼女に向き合って、頭を下げる。
これで終わりだ。

「あ、ありがとうございます」

少し気の弱い自分に戻りそうになる。
ハの字になりそうな眉をなんとか持ち直して、憧れと向き合った。

654美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/17(日) 04:26:51
>>653

     パチパチパチパチパチ

演技の終わりまで見届けてから、惜しみない拍手を送る。
アイドル――それは彼女にとっての今であり、自分にとっての過去だ。
方向は真逆だが、それでも根幹には通じ合う部分も存在する。

「アイドルって、見る人に元気を与える職業だと思うの」

「今のパフォーマンスを見て、私もパワーを分けて貰えたわ」

「高宮さん――だから、あなたはアイドルよ」

おもむろにベンチから立ち上がる。
数歩ほど歩み寄り、彼女の両肩に手を置いた。
その表情には、ここまでで一番の笑顔が浮かんでいた。

「私も負けてられないって気分にさせられるわ」

「同じエンターテイナーとして、っていう意味だけどね」

「これからも、お互いに切磋琢磨していきましょう」

        フフッ

今の自分はアイドルではなくパーソナリティー。
新しい生き方を、これからも貫く。
その後押しとなる力を分け与えて貰えたような気がした。

655高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/17(日) 14:27:56
>>654

「ぼくが……アイドル……」

自分の理想と現実の中にあって、どうにもならぬ気持ちというのがある。
高宮にとって気の重くなる毎日の事がこの一瞬で努力の日々に昇華される。

「はい、お互いに」

「今度はここじゃなくて、現場で会えるように」

客と演者ではなく、演者同士として。
そして、舞台を降りれば人間同士として。

「頑張ります」

656美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/17(日) 22:18:48
>>655

「自信に裏打ちされている貴女は輝いてる」

「貴女には、これからも輝いていて欲しいわ」

「――私の分までね」

私は輝きを失った過去の星。
かつての栄光を夢見る事も、時にはある。
だけど、少しでも誰かの支えになれるのなら――今の私も、そんなに悪いものじゃないわよね。

「そうね」

「いつかゲストに来て貰えたら嬉しいな」

「――なんてね」

クスッ

「ええ、私も頑張るわ」

明るい微笑を浮かべながら、彼女の前に片手を差し出す。
この出会いの締め括りとして、最後に握手を交わしたかった。
これは、いつの日か共通の場所で再会したいという気持ちの表れでもあった。

「――いつか何処かで、またお会いしましょう」

657高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/18(月) 01:13:07
>>656

「……私の分までなんて、言わないで下さい……」

「今でも美作さんは輝いてますから……」

場所こそ変われど、輝く星に変わりわない。
嘘偽りのない言葉で返す。

「ゲストになった時はよろしくお願いします。ぼくはもっといいアイドルになりますから」

「またどこかで」

優しく、しかし確かに手を握った。

658美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/18(月) 19:33:21
>>657

真摯な言葉を受け取って、静かに息を呑んだ。
私は輝きを失ったんじゃなく、以前とは異なる種類の輝きを纏っている。
その意味を噛み締めて、緩やかに口元を綻ばせた。

「アハハ、そうね」

「――ありがとう」

言われてみれば、その通りだった。
忘れていた訳じゃない。
ただ、改めて再認識させて貰えたのは確かだ。

「私も、その時までに腕を上げておくわ」

「『See You Again』」

似通った点を持つ二人の間で、穏やかに握手が交わされる。
それぞれの場所で輝く二つの星の交わり。
夜空に瞬く星々が、その光景を優しく見守っていた。

659三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/22(金) 21:36:21

   ザック ザック
             ザック ザック

そろそろ辺りが暗くなり始めた時間のことでした。
林の奥から規則的な音が聞こえます。
地面を掘っている音のようです。

   ザック ザック
             ザック ザック

近付いたら、地面に穴が開いているのが見えると思います。
かなり大きな穴です。
人一人は十分に入れるくらいでしょうか。

   ザック ザック
             ザック ザック

穴を掘っているのは、『シャベル』を持った『墓堀人』です。
目深に被ったフードの奥で二つの目が光っています。
近くには人の姿はありません。

    ピタリ

         《――――…………》

ふと、『墓堀人』が動きを止めました。
何かの気配を感じたような気がしたからです。
でも、もしかすると気のせいかもしれません。

660三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/25(月) 20:45:44

        ザクッ
              ――――フッ

穴から出てきた『墓堀人』が、穴の手前の地面にシャベルを突き立てました。
次の瞬間には、穴は消えてなくなっていました。
それを確かめた『墓堀人』は、シャベルを肩に担いで歩き去っていきました。

661夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/04/07(日) 00:25:48

「――――『パーティーかいじょう』はココだな…………」

          ザッ

ピクニックの用意をして、自然公園にやって来た。
『春の一大イベント』である『花見』に興じるためだ!!
しかし――――。

「ヒトがおおい!!おおすぎるぞ!!」

桜は『満開』で、天気は『快晴』だ。
おまけに今日は『週末』と来ている。
桜の花が咲き誇るこの場所に、人が集まらないワケがなかった。

「サクラくらいであつまってくるなんて、みんなケッコーヒマなんだな〜〜〜」

      キョロ
           キョロ

自分のことを棚に上げて、周囲を見渡す。
空いている場所を探しているのだが、大抵の場所は埋まっていた。
特に、『桜の真下』は人が多い。

「マズいな……。『ベストスポット』は、スデにヤツらのテに……!!
 ムッ!?アレは……!!むこうのほうにスペースがあいているぞ!!
 いそがねば!!ヤツらにおさえられるマエに、『あのポイント』をカクホする!!」

        ダダダダダッ

巧みな動きで人々の合間を縫って、全力ダッシュで駆け抜けていく。
速やかに目的地に到着し、背中に背負っていたリュックを下ろす。
『ウサギ』の形のアニマルリュックだ。

         バサァッ

「――――『カクホ』!!」

リュックからレジャーシートを出して広げ、素早く地面に敷く。
その上に腰を下ろして、ランチとして準備してきたサンドイッチを取り出した。
なお他の場所は大体埋まっているが、この辺りはまだ多少の空きがあるようだ。

662夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/04/14(日) 16:33:45
>>661

「ソレにしても――――」

リュックを枕代わりに、レジャーシートに寝転がる。
頭の上には、溢れそうな程に咲き乱れる桜の花。
サングラス越に、その光景に見入る。
その時、やや強めの風が吹き抜けていった。
枝が揺れて花びらが散り、薄桃色の花吹雪となって舞い落ちる。

「――――キレイだな」

こんなキレイなモノを見られなかったなんて、ジンセー損してたな。
だからこそ、これから今までの分を取り戻さなきゃ。
ジンセーは短いんだ。
その間に、たくさんのモノを見ないといけない。
セカイには、もっとスゴいモノやキレイなモノやフシギなモノがいっぱいあるハズ。
それをゼンブ見てみたい。
『セカイのゼンブ』を見るのが、わたしのユメだから。

「おん??」

気付けば、ケッコー時間が経っていたようだ。
ぼちぼち日が傾きだして、ヒトも徐々に少なくなっている。
起き上がり、片付けを済ませてから、近くに立つ桜の樹を見上げる。

「――――んじゃッ!!」

桜の樹に向かい合い、片手を上げて別れの挨拶を送る。
そして、軽快な足取りで歩き出す。
こうして『アリス』は、次の冒険に向かうのだ。

663今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/13(木) 00:45:58

        ザ ァァァ ァ ァ ァ  ァ …… 

「うわ〜っ」

暑いから油断してたけど、梅雨なんだった。
傘は、ちゃんと持ってきておくべきだったな。

「先生、傘になりそうなもの作れたりしないんですか?」
「こう、テープで布を貼り付けたりして・・・」

      『先生ハ ソウイウ〝能力〟デハ ナイデスヨ』

「わかってますけど〜」「ああ」
「木の下で雨宿りって漫画とかで見ますけど、やっぱり濡れちゃいますねえ」

「・・・早く止まないかなあ」

このあたりで雨宿りができるのは、ここしかないから、出るにも出られないんだよね。

664小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/13(木) 01:31:46
>>663

そいつは傘をさしていなかった。
黒い髪も、服も、全てが雨ざらしになっていた。
それでも走ることは無く、焦った雰囲気もなく、小鍛治明は歩いていた。
ゆっくりと、晴れと変わら無いテンポで歩いていた。

「……」

同じ木の下に入ってきた。
ぼんやりと髪を手ですく。

「いい雨ね」

そうとだけ呟いた。

665今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/13(木) 20:41:32
>>664

「え?」「あ、はいっ、そうですねえ」
「『梅雨』っぽい感じの雨ですねっ」

         ザ ァ ァ ・・・

湿っぽい雨で、あんまりよくはないけど。
この人は……雨が好きなのかな?

「いきなり降ってきたし」
「すごい勢いで降ってるし」

「……」
「あのーっ、びしょ濡れですけどっ」
「タオルとか、使います?」

濡れてるの気にならないのかな。雨が好きだから?

666小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/13(木) 22:08:35
>>665

「いいわ、別に」

タオルはいらないらしい。
彼女が髪をかきあげると額に髪が張り付いていた。
濡れているものの、雨ざらしの子犬のような風情はなかった。
シャワーでも浴びたあとのようだ。
黒い彼女の髪が艶やかなひとつの塊になっていた。

「雨宿り?」

667今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/13(木) 22:41:55
>>666

「あ、そうですか……冷たくないんです?」
「まー拭いてもキリないといえば、ないですけど」

この人は、雨に濡れてもいい人なのかも。
私にはわからないけど、そういう自信がありそうだ。

そういえば、先生は引っ込んでいた。
人が来たからかもしれない。

「そうですね、傘忘れちゃいまして」
「屋根があるところも、ないですし」        
「予報も、たしか晴れでしたし」 

「えーと」
「あなたも雨宿りですかっ?」

そうじゃなきゃここには来ないとは思うけど。
もしかして、私に用事とかだったらってこともある。確認はしておく。

668小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/13(木) 22:52:09
>>667

「別にそういうのは気にしないわ」

ぱてぱたと雫が服から滑り落ちた。
彼女の肌は元から白いらしく、血色の程はわからないらしい。

「雨宿りよ。人と待ち合わせたのだけれど」

「この天気だと厳しそうね」

669今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/14(金) 00:09:57
>>668

「待ち合わせですか〜っ」
「災難ですねえ・・・」

     ザ ァァァ ァ ァ ・ ・ ・

雨は、とてもじゃないけど止みそうにもない。
私はもう用事とか終わってて、まだマシだったのかも。

「これ……止みそうにないですもんねえ」

「ちなみに」
「どこに行く予定だったんです?」

670小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/14(金) 01:11:37
>>669

「どこに行く……そうねぇ」

「山、かしら?」

ぼうっと遠くに視線を投げてそんなことを言った。
確かにそちらには山がある。
だが車で行った方がいいような遠い所だ。

「彼が来て欲しいって言ったのだけれど」

「この天気だとそんなに早くは来れないかもね」

671今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/14(金) 02:00:34
>>670

「山……」「えーと」

「この辺で山ってありましたっけ」
「……あっちの方だったかな?」

この人が見てる方を見たら、あった。
でも、あんなところにある山行くのに、なんでここいるんだろ?

まあフツーに家がこの辺だから、とかなのかな。

「ここ、自然公園から車で行くんです?」
「って言っても、止んでしばらくしないと山は危ないですか」

672小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/14(金) 02:38:03
>>671

「車というか、なんというか」

一瞬視線を外す。
答えにちょうどいい言葉を頭の中で探す。
が、結局途中で諦めてしまった。

「そうね、山道がぬかるんでると崩れる可能性もあるし、良くはないわね」

「……私の話ばかりしても良くないわね」

「あなたは何かをする途中? それとも、し終わったのかしら?」

673今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/14(金) 03:00:30
>>672(小鍛治)

「えーっと? バスとか?」
「まあいっか」

「え、私ですか? 大した用ではないですけども」
「友達とちょっと買い物してきた帰りでして〜」

カバンをちょっとだけ開けて、見せる。
買ったのはアクセサリーとか。

別に見せていいものしかないから、いいよね。

「だから、し終わった方ですねっ」
「・・・後なら降っていいわけじゃないですけどっ」

「スカイモールまで行ってたんです」
「その時、傘も買っておいたらよかったな・・・」

折り畳み傘は通学カバンに入れっぱなしだし。
もう一つくらい買っておいた方が便利な気はするんだよね。

674小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/14(金) 15:32:56
>>673

カバンに視線を向ける。
覗き込むようにして見ないのは自分の体から落ちる雫が入らないようにするためだ。

「仕方ないわ。予報は晴れだったんですもの」

「傘が必要だなんて誰も思わないわ」

雨はまだ降り続けている。

「備えあればと言うけれどね」

「本当に備えておけることなんて少ないのよ」

675今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/14(金) 22:47:47
>>674

「そうですよね、それがフツーですよねっ」
「全部に備えるなんて、無理ですよね」

       ザ ァ ァ ァ ・・・

「雨……全然緩くならないですねえ」

もう濡れてもいいから帰ろうかな。
夜まで止まなかったら、どうしようかな。

「そういえば」

「お名前、聞いてませんでしたっけ?」
「あっ」「私、『今泉 未来(イマイズミ ミライ)』って言います」

676小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/14(金) 23:53:35
>>675

「小鍛冶明」

「小さな鍛冶屋は明るいで小鍛冶明」

微笑みながら、話した。
冷たい印象の目元が少しだけ和らいだ気がした。

「どこかで会った気もするけれど」

「よろしくね、今泉さん」

677今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/15(土) 00:10:12
>>676

「小鍛治、さん……小鍛治明さん」「あれ?」

聞いたことあるような。
……どこでだっけ?

「どうでしたっけ……言われてみれば」
「会ったこと、あったかも」

「・・・」「どうでしたっけ」

何となく会ったような……気はする。
あっ。……そうだ。

「あっ」

他にびっくりすることがありすぎて、忘れてた。

「あ〜〜〜っあの、ほら、白い街で!」
「これ見せたら小鍛治さんも思い出すかな」

「――――『先生』」

           『今泉サン』

           『……貴女ハ、〝小鍛治〟サンデスネ』

    コール・イット・ラヴ
「ほら、私の『先生』」

「あの時は、あまりゆっくりお話しできませんでしたよねっ」

                   「状況が状況でしたし」

678小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/15(土) 00:46:46
>>677

「あぁ、やっぱり……」

「お久しぶりね」

軽く、頭を下げた。

「状況が状況でしたものね」

「あれから状況はどう?」

679今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/15(土) 01:41:48
>>678

「すみません、顔見ただけで思い出せなくって」
「あの後ですか……特に変わりはないですね」

「うーん」
「いやまあ、少しはありますけども」

ほんとに、派手な話とかないんだよね。
引っ越そうとしてるとか、私事というか。
そもそも家の話もしたことないヒトだし。

「何かスタンド絡みの事件とか」
「そういうのもないですし」
「あは、それは無くてフツーですけどっ」

フツーな事しかない。いいことだけど。

「小鍛治さんは……」
「特にお変わりとか、なさそうですかね」

見た目とかはあんまり変わってない。
元気じゃなさそうとか、そういう感じでもないし。

「いや、変わる前をほとんど知らないんですけども〜っ」

「ほんと、出会いがフツーじゃなさすぎましたもんねえ」

680小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/15(土) 02:37:57
>>679

「そんなものよ」

「そんなに目立つこともしてなかったし」

気付かないのも仕方がないと小鍜治が言う。
事実がどうであったかはその目で見た人のみが知る。

「……そうね、変わらないわね」

「普通じゃない出会い、そうね。確かに普通じゃなかったわ」

白い指が唇に触れて、思案顔。
ほんの少しの間があったが概ね言った通りなのだろう。

「普段なら、変わる前を知らないなら今から知ればいいじゃないの、なんて言うんだけど」

また、髪を撫でる。
降りてきた髪が指の股に入り、ゆっくりと持ち上げられる。
生え際の辺りまで手の底が上がる。
上目遣いをするような形で、口元を緩めて言葉を吐き出す。
真っ白な肌と真っ黒な髪、ほのかに感じる血の色の赤みがコントラストになっていた。

「どうかしら、今泉さん?」

681今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/15(土) 03:11:16
>>680

「私もあんまり目立ってなかったですしねえ」
「目立ちたかったわけでもないですけど」

小鍛治さんも私のこと忘れてたっぽいし。
でも、あれは仕方ないと思うんだよね。

芽足さん、個性すごいし。
カレンさんとかタマキさんも濃かったし。
小鍛治さんと一緒にいた人も和服だったし。

私と小鍛治さんは、『スタンド使い』だけど『フツーなほう』だったんだよ。

「そうですねっ」
「自己紹介だけじゃ、分かんない事もありますし」

「……」

なんだか『色気』っていうのがある人だ。
私あんまり、たぶん、そういうのないんだよね。
そういうのもやっぱり、よくわかんないしさ。

「今からお互いのこと、知りましょっか小鍛治さん!」
「とりあえず……」

   ゴソッ

「『連絡先』とかからでも!」
「何か『変わった』りしたら連絡できますし〜」

682小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/15(土) 12:07:52
>>681

「そう、じゃあそうしようかしら」

小鍜治もスマホを取りだした。
カバーも何も無い、むき身のそれ。

「じゃあ何か変わったことがあれば」

「それこそ、前見たいことがあればよろしくね」

683今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/15(土) 20:27:42
>>682

あ、スマホにカバー付けてないんだ。
私のは……白いカバーにマステを巻いてる。
カバー無しで持ちにくくないのかな。滑らない?
無しが普通だと、むしろ付いてる方が邪魔なのかな。

「スマホ、カバーとか付けない派なんですね」
「えーと」「じゃあQRで……」

「……よしっ」

「これでいつでも連絡できますねっ」

      『〝異常〟ハ ナイニ コシタコトハ ナイデスガ』
      『モシ ソノヨウナコトニナレバ、ヨロシクオ願イシマス』

          ペコーッ

先生が頭を下げてた。

「私からもよろしくお願いしますっ」
「おかしなことじゃなくて、フツーのことでも」
「何かあったら、連絡してきてくださいね!」

だから、私も小さく下げておいた。

それから、スマホをカバンにしまった。
雨は相変わらず、止みそうにないけど・・・どうやって帰ろうかなあ。

684小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/15(土) 23:45:43
>>683

「これでいいのよ、人間じゃないんだから着飾らなくても」

「作ってる人だってカバーをつける前提でデザインしているわけでもないでしょう?」

そういう理論らしい。
そして、頭を下げた『先生』に礼を返す。
不思議な光景だった。

「ええ、連絡させてもらうわ」

そう言葉を返し、空を見上げる。
まだ雲は重い。
だけれど構わず一歩を踏み出した。

「仕方ないわね」

また雨模様の中に自分を放り投げる。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板