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【場】『 湖畔 ―自然公園― 』

1『星見町案内板』:2016/01/25(月) 00:04:30
『星見駅』からバスで一時間、『H湖』の周囲に広がるレジャーゾーン。
海浜公園やサイクリングロード、ゴルフ場からバーベキューまで様々。
豊富な湿地帯や森林区域など、人の手の届かぬ自然を満喫出来る。

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                 ミ三ミz、
        ┌──┐         ミ三ミz、                   【鵺鳴川】
        │    │          ┌─┐ ミ三ミz、                 ││
        │    │    ┌──┘┌┘    ミ三三三三三三三三三【T名高速】三三
        └┐┌┘┌─┘    ┌┘                《          ││
  ┌───┘└┐│      ┌┘                   》     ☆  ││
  └──┐    └┘  ┌─┘┌┐    十         《           ││
        │        ┌┘┌─┘│                 》       ┌┘│
      ┌┘ 【H湖】 │★│┌─┘     【H城】  .///《////    │┌┘
      └─┐      │┌┘│         △       【商店街】      |│
━━━━┓└┐    └┘┌┘               ////《///.┏━━┿┿━━┓
        ┗┓└┐┌──┘    ┏━━━━━━━【星見駅】┛    ││    ┗
          ┗━┿┿━━━━━┛           .: : : :.》.: : :.   ┌┘│
             [_  _]                   【歓楽街】    │┌┘
───────┘└─────┐            .: : : :.》.: :.:   ││
                      └───┐◇      .《.      ││
                【遠州灘】            └───┐  .》       ││      ┌
                                └────┐││┌──┘
                                          └┘└┘
★:『天文台』
☆:『星見スカイモール』
◇:『アリーナ(倉庫街)』
△:『清月館』
十:『アポロン・クリニックモール』
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546草摺十三『ブレーキング・ポイント』:2018/12/22(土) 22:54:48
バチ
バチ

パチッ

「ンン…すっげー煙い」「生木は煙いな」「生木だもんな」

寒い時期で人もあまり来ない、湖畔の『キャンプ場』。
夏はバーベキューだとかで盛り上がるわけだが、寒いのでみんなワザワザ外で遊んだりとかはしない。
なので、一人で焚き火をしたりとかして遊ぶにはモノスゴくうってつけの時期ってわけだ。

547薬師丸 幸『レディ・リン』:2018/12/23(日) 00:53:19
>>546

「あら、先客がいた」

         スタ

    スタ

「お邪魔じゃなければ話しかけるけど、
 それって何かを焼いてたりするの?
 私、キャンプって詳しくなくってさあ」

確かに草摺に話しかけているようだった。
白い髪と赤い目が異様な少女だった。

「それとも、それはそーいう遊び?」

「春になったら家族で来ようと思っててね。
 もしよかったら、教えてくれないかしら」

言葉通り、アウトドア大好きって風ではない。
あまり動きやすくも無さそうな黒いダッフルコートが揺れる。

548草摺十三『ブレーキング・ポイント』:2018/12/23(日) 08:39:43
>>547
「ゲッホっ」「うん?」

話しかけられているのに気付いてそちらを見る。
白い髪と赤い目に少し驚くが、自身も金髪でピアスだ。そーいうオシャレもあるよな。

「これからテント張って、何か食べるもん作って、寝るだけっていう遊びッスよぉ」

アウトドア派だ。
焚き火はいま、火が大きくなり始めたところ。
傍らには大量の薪と、煤けた飯盒と、重そうな鉄の鍋が置いてある。

「春、あったかいし良いッスねェ」「人も多くなるし」「でも虫も出てくるからねェ」

薪を折っては火にくべながら応えを返す。柄のわるそーな見た目だが人当たりは良さそうだ。

549薬師丸 幸『レディ・リン』:2018/12/23(日) 23:02:19
>>548

「ふぅん、そういう感じなのね。
 それってけっこう楽しそうじゃん。
 やる事に『ゆとり』があるっていうかさ」

「『スローライフ』って感じなのかな。
 『やらなきゃいけない』遊びじゃなくて、
 『やりたいことをやる』遊びっていうのかな」

飯盒や鍋などキャンプ道具に、
それなりの好奇の視線を向ける。

「ああ、虫は嫌ねぇ。
 地面が冷たいのと、
 どっちが嫌かって話だけど」

               スッ

「あったかいのと混んでないの、
 どっちが『良いか』って方が前向きか。
 冬に来るってのもありかもしれないわね」

屈んで、地面に手を付ける。
すぐに離して白い息を吹きかけた。

「その口ぶりだと、結構ベテラン?」

「もしよかったら、だけどさあ。
 もうちょっと色々教えて欲しいな。
 お勧めのキャンプ料理とか。どう?」

その姿勢のまま、見上げる形で問いかける。
兎のような見た目に反し、弾むというより落ち着いた声色で。

550草摺十三『ブレーキング・ポイント』:2018/12/24(月) 15:55:43
>>549
「『ベテラン』ってこともねーッスけどぉ」

初心者のようなぎこちなさは無いが、ベテランのような無駄の無い動きでもない。
厚手のシートを焚き火の前に敷いては道具を並べ、火加減から料理までそこに座って行えるように整え、
「あっ」と気付いて小さな折りたたみの椅子を開いて『薬師丸』に寄越す。
支柱を一本立ててテントを広げ、六ヶ所ペグダウンすれば完成だ・・・あとは火の前に座ってぼけーっとしているだけだ・・・

「料理スか」「米たくだけでも楽しいッスけどねェ。でも最近ハマってんのは鍋ッスねェ」
「安物だけどこーいう『ダッチオーブン』ってんですけどこの鉄の鍋がね。煮炊きがスッゲーウマく出来るんよね」

微妙にオタクっぽい早口になってきた。

551薬師丸 幸『レディ・リン』:2018/12/24(月) 22:35:03
>>550

「あら、どうも。気が利くのねぇ〜え」

              カチャ
                   ストン

椅子に座って、膝に肘をつく。
頬杖をつくような姿勢で見守る。

「へえ、そうなの? じゃあ、奥が深い遊びなのね。
 素人目には、けっこう手際が良さそうに見えたからさ」

(見てても上手いのか下手なのかわかんないけど、
 まあ、本人がそういうのならそういう事にしとくべきね)

素人目にはぎこちなさが無いだけで十分。
しかし恐らくもっと上手い人間もいるのなら、
そこを下手におだてるつもりもないのだった。

「鍋、良いわね。え、なに、『ダッチオーブン』?
 ……あ、料理名じゃなくて鍋の名前なの。
 へ〜、じゃあ、今日もその鍋で何か作るんだ?」

鉄鍋に視線を向ける。。
普通の鉄鍋と違うのだろうか?
そもそも普通の鉄鍋も、そう詳しくない。

「当てて良い? ……カレーライス!」

「当てずっぽうだけどね。
 私、結構運が良い方だからさ、
 もしかしたら当たってたりしない?」

知っている鍋を使う料理を挙げただけだと思われる。

552草摺十三『ブレーキング・ポイント』:2018/12/24(月) 23:53:23
>>551
蓋まで鉄で出来ている、重そうな鍋だ。
それを焚き火にかけ、蓋の上にも炭を置いていく。『ダッチオーブン』ならではの調理法だ・・・

「オーブンってだけあって下からも上からも加熱可能っつーワケでね、蓋も重いしけっこー密閉性あって『圧力鍋』みてーに」
「でも今日はライスは無いけど、カレーは良い線いってるッスね。や、カレールー使ってないけど、中身はスパイス効かせた鳥の蒸し焼きでね」
「かなりウマいはず」「で、ビールもあるしね」

出来上がりまで時間はかかるようだ。
口調は早口だが動きはのんびりと、ヤカンだとか小さな鉄板だとかを焚き火にかけていく。

553薬師丸 幸『レディ・リン』:2018/12/25(火) 01:01:48
>>552

(すっごい熱弁……よっぽど好きなのね。
 にしてもビール? ハタチ超えてるのかな。
 まあ、超えてなくても別にいいんだけど)

車に乗るわけでもないのだろうし、
まるきり子供にも見えない。自己責任でいい。

「ああ、それでオーブンっていうんだ。
 なるほどね、ちょっと合点がいった。
 鍋なのにオーブン? って思ってたのよ」

感心したような顔で、焚き火を見つめる。
炎を見るのが趣味という訳でなくても、
なんとなく見ていたい惹きつける物がある。

「あら、外しちゃったか。ざ〜んねん。
 でも、鍋で鳥の蒸し焼きってのは良いね。
 キャンプっぽいっていうかさ……
 家庭料理とは違う感じが良いと思うわけ」

「こういう遊びってさあ、多分だけど、
 そういう『それっぽさ』が大事なのよね」

凝った調理法ではなく、豪快な蒸し焼き。
あるいは最新の器具ではなく鉄の鍋と飯盒。
家があるのに外で寝るという遊びには、
そーいうのが大事なのだろうと、なんとなく思う。

554草摺十三『ブレーキング・ポイント』:2018/12/25(火) 22:03:47
>>553
「そーそー」「そーなんスよねェ〜」
「違う感じとかそれっぽさとか、何かそーいう『感じ』がねー」「いいんよ」

いくらでも便利で簡単にできるのだ。
別に蒸し焼きしたいなら良い圧力鍋と良いガスコンロなりIHヒーターなりでよほどウマいのができるだろう。
失敗もないし。清潔だし。楽だ。

「『あえて』!『あえて』焦げるかもしれねーってちょっと気にしながらやるのが『良い』んスよなぁ〜ッ」

「・・・」
「・・・」
「・・・ゴホン」

「まーこういう遊びッスよ」「ウン」

熱く語っているうちにもう出来上がりだ。蓋を持ち上げれば肉と香辛料の混ざったにおいが流れてくる。

「今日のもウマくいった」「へっへ」「もし良かったら一口たべます?」「これフォーク。今水で洗ったからキレーッスよ」

気さくに勧める。
もはや友達気分だ。親友だったのかもしれないな・・・

555薬師丸 幸『レディ・リン』:2018/12/25(火) 22:46:51
>>554

「『既製品』のステキな洋服と、
 『手縫い』のセーターだと、
 違う魅力があるっていうかさ」

「なんとゆーかそんな感じだよね。
 『洗練』されてないからこそ、っていうか」

裁縫好きから妙な例えになったが、
要は草摺と同じ考え、『そういうこと』だ。

薬師丸はてまひまってものを礼賛しないが、
てまひまが生む『雑味』は確かに楽しめる。

「なんとなくわかって来た。
 キャンプって遊びの入り口が」

「ん、貰っていいの?」

食べ物はありがたい。

「それじゃ、遠慮なくもらっちゃおうかな。
 実はそれ見ててけっこーお腹空いて来てたの」

               「ありがとね」

フォークを受け取り、小さめの一口をむしろう。

「あのさ、貰うばかりじゃ私の『良心』がうずく。
 今はあんまりいいもの持ってないけどね、
 何かきっとお返しするから……ぜひ覚えといて」

食事を共にすればそれはもう、知った仲。そうだ、親友でもいい。
だが、そのためには『お返し』の約束が必要だ。薬師丸はそういう『線』を愛する。

556草摺十三『ブレーキング・ポイント』:2018/12/25(火) 23:06:56
>>555
「へっへっへ」

同意の笑みだ。口一杯に肉をほおばっているのでマトモに喋れないということもある。

「へっへ」「むぐ」

ビールで流し込んだ。おいしい!

「草摺十三(くさずり じゅうざ)」「ッス」「同じ鍋のメシ食った仲ってことで」

町中にある小さいが老舗の『造園屋』の屋号と苗字が同じである。
薬師丸は気付かなくても良いしこの先まったく知らなくても構わない。

「でもお礼ーとかお返しーとか気にしねーッスよ」「俺は」
「あんたさんの気が済むならいーし覚えとくけど、あ、水コレ。はい」「辛いっしょ」

557薬師丸 幸『レディ・リン』:2018/12/25(火) 23:18:14
>>556

「『薬師丸 幸(やくしまる さち)』」

「好きに呼んでくれていーよ。
 薬師丸でも、幸でも。
 なにせ『同じ鍋のメシ』だからね」

薬師丸はまっとうな『市民生活』と縁が薄く、
造園という立派な仕事の屋号にもまた縁薄い。

     モグ

「! ……ありがと、やっぱあんた気が利く。
 辛いねこれ。でも、それが『良い』。今日は寒いし」

        ゴクゴク

受け取った水を飲み、笑みを浮かべる。
それでも、確かな縁がここにある。

「お返しは、ま、私の自己満足だからさ。
 こう見えて『人を幸せにする』のが生業でね。
 あ、変な宗教とか、悪徳商法じゃないけど」

                ス

「『幸せ』が欲しくなったらこの番号に電話してちょーだい」

それに自分の満足を上乗せするのは、
幸運を売る少女としての『サガ』のようなもの。

兎の絵が描かれたポップな『名刺』を、そっと差し出した。

558草摺十三『ブレーキング・ポイント』:2018/12/27(木) 00:31:02
>>557
(さっちゃんだな)

造園屋の息子は名刺を受け取る。
自分のは無いので渡せない。軽く詫びる。

「『幸せ』ッスか〜」

怪しむとかではなく単純に『よくわからない』って声だ。

「まーこうやって」「遊んでたら友達が増えていくのが今は『幸せ』ッスからねェ」「へっへ」

その意味では充分『生業』とやらは果たせているというわけだ。
日も落ちかけ、薪を放り込んで火を大きくした。

559薬師丸 幸『レディ・リン』:2018/12/27(木) 01:10:58
>>558

名刺を返されないのは普通だ。
ビジネスではないのだから。
詫びには気にしないで、と一言返した。

「そ? 嬉しい事言ってくれちゃって」

    ニコ

「じゃ、改めて言うけどさ。
 今日から私たちは友達。
 よろしくね、ジューザくん」

「私も、友達が増えて嬉しい」

満面の笑みを浮かべて、そう宣言する。
言葉にするなんて無粋かもしれないけど、
言葉にするから確かなものになる気もする。

「っと、ちょっと暗くなって来た。
 私、家族を待たせてるから……そろそろ帰るね」

「チキンとお水、ご馳走様」

          ザッ

「ね、なんとなく、また会う気がする。それじゃあね」

完全に暗くなる前に、帰路につくことにした。
もし何か言葉があれば、それを聞いて、答えて帰ることにしたのだ。

560草摺十三『ブレーキング・ポイント』:2018/12/28(金) 22:00:05
>>559
「『なんとなく』、俺もそんな気がするッスねェ」
「へっへ。じゃあ。気ィつけて」

友達が増えることは良いことだ。
一人で遊ぶのも友達と遊ぶのもとても楽しい。
遊び始めたときに仲良くなって、その余韻のまま遊べるのは最高に良い。

「♪」

    パチ ッ

鼻歌混じりに薪をくべ、寒くて長くて、楽しい夜を待つとする。

561薬師丸 幸『レディ・リン』:2018/12/28(金) 22:15:48
>>560

「寒くなるから、あんたも気を付けて。
 寒いのも楽しいのかもしれないけど、ね」

         スタ
            スタ

それだけ返して、去っていった。

『スタンド使い』として『惹かれ合う』時も、
いずれ来るかもしれないが――――

少なくともはじまりは異能など関係のないただの友達だ。

562鉄 夕立『シヴァルリー』:2018/12/30(日) 20:20:54
「・・・・・・・・・・」

『ブン』『ブン』

日も沈みかけた夕暮れ。公園の片隅で、一人の学生服の少年が素振りをしていた。
その手は竹刀を握り、頭上に掲げ。そして正面、次は手元まで振り下ろす。
同時にすり足で前へと進み、そして下がる。それをひたすら繰り返している。

563鉄 夕立『シヴァルリー』:2018/12/31(月) 22:32:47
>>562

『ブゥン』『ピタリ』

「・・・千五百」

間に休憩を挟み、300×5セットを振り終える。
ゆっくり呼吸を整えると、竹刀から鍔を外し、まとめて竹刀袋に入れた。
そして身体が冷えない内にマフラーと上着を羽織って、スマホの画面を見る。

「年越しそばを食べたら・・・初詣か」

家族への連絡を入れると、鉄は帰途に着いた。

564<削除>:<削除>
<削除>

565鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/25(金) 22:46:25
既に夜の帳が下りた公園、その端にある雑木林。
学生服姿の少年が、大きな黒い革製の袋を背負って入り口に立っていた。

「・・・・・・・・」『キョロキョロ』

辺りを見回した後、こっそりと目の前の林の中に入っていく。
いかにも怪しげな姿だった。

566???:2019/01/25(金) 23:12:58
>>565

……シュピッ !!

背後の暗闇から『何か』が『鉄』の足元目がけて、投げつけられた!

「青少年がこんな夜中に、怪しい荷物……怪しいですね。」

少女の声が響いた。

567鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/25(金) 23:23:23
>>566

『ビクッ』

「・・・・・なッ!?」

実際に後ろめたいことでもあったのだろう。
少年はたじろぎながら、飛んできた何かの正体を確かめる。

「何者だッ!」

どこにいるかも分からない声の主に、そう訊ねながら。

568松尾 八葉『ターゲット・プラクティス』:2019/01/25(金) 23:36:14
>>567
地面に刺さった飛んできたモノを確かめる……

  これは……!
    これは……!!
      これは……!!!
        『メガネ』 だ。MEGANEだ。英語で言うとGlasses。

「私の『メガネ』は非行行為を見逃さない。」
メガネをクイッと整えながら、14歳ぐらいの黒髪メガネ制服少女が闇の中から現れた。

「何者かと問われれば……」

「清月学園中等部2年 風紀委員 松尾 八葉(まつお やつば)!」

「夜の風紀の乱れに即参上!」
少女が参上した。

569鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/25(金) 23:52:38
>>568

「─────」

(メガネ?)
(いや、何故メガネを?そもそも投げつけるものではないはずだろう?)

『ゴシゴシ』

目をこすってみたが、やはり飛来物はメガネにしか見えなかった。
これは自分にこそメガネが必要なのではないか?暗闇でよく見えていないのかもしれない。
だが、近づいてみてもそれはメガネだった。鉄は困惑した。

「…こんばんは」
「オレは清月学園高等部二年生、鉄夕立(くろがね ゆうだち)だ」
「ええと…松尾さん、よろしく」

「その…何故、メガネを投げたんだ?」

色々と気になるところはあったが、まず先にツッコミたいところを訊ねてみた。
ひょっとしたら、お互いに何か勘違いをしてるのかもしれない。

570松尾 八葉『ターゲット・プラクティス』:2019/01/26(土) 00:08:03
>>569
「なぜ、メガネを投げたか?」

「いい質問です。
 夜中に風紀パトロールをしていたら、
 怪しい人影が見えたので、手近にあったメガネを投擲したまでです。」

「鉄さんは高等部2年生ですか、先輩にあたるわけですね。」

「風紀委員としてお尋ねしますが、鉄さんこそ、この夜中にそのような出で立ちでどこへ向かわれるのでしょうか?」

「特にその『黒い袋』!怪しすぎます!」
ビシッと袋を指さす。

571鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/26(土) 00:26:55
>>570

「・・・・・・・・・・」

ダメだ、説明を聞いても全く分からなかった。
いや、ほとんど成り行きは分かったのだが、怪しい人影を見つけたのでメガネを投げた、この部分が全く分からなかった。
ひょっとして、どこかの家系にはメガネを暗器として扱う技術もあるのだろうか?
いや、とりあえずそうしておこう。この部分に突っ込んでも理解できる気がしない。

「あぁ、これか」「今日は自主練に来たんだよ」
「オレは『剣道部』だから」

確かに鉄が背負っていたのは、普段防具を入れておく『防具袋』だ。
しかし、疑問が残る。剣道の練習に来たならば、何故『竹刀袋』はないのか?

「夜間に出歩いたのは申し訳ないな…今度からはもう少し早めにしておくよ」

(中学生でよかった…緊張せずに済むからな)(流石に苦手なタイプだったら、隠し切れなかったかもしれない)

572松尾 八葉『ターゲット・プラクティス』:2019/01/26(土) 00:35:59
>>571
「むむむ、防具袋。
 確かに一見おかしくなく見えますが……ズバリ言いましょう。」

「『防具』だけで練習をするのですか?
 素振りなどの練習ならむしろ、『竹刀』だけでよいのでは?」

「と、このように、私の『メガネ』は不正を見逃さないのです。」
メガネの奥から不審な視線を向けている。

573鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/26(土) 00:55:06
>>572
>「『防具』だけで練習をするのですか?
> 素振りなどの練習ならむしろ、『竹刀』だけでよいのでは?」

『ギクリ』

(い…意外と鋭いぞ、この子ッ!)
(参った…一般人に話しても分かり辛いだろうし…頭のおかしい人間だと思われてしまうな)

「そ…そうだな、うっかり忘れてしまったみたいだ」「ははは」
「それではオレは帰るとするよ」「練習しようにも『竹刀』を忘れてしまったからな」

『クルリ』

そういって鉄は松尾に対して背中を向ける。隙だらけだ、『防具袋』に手を伸ばせば簡単に届きそうである。

574松尾 八葉『ターゲット・プラクティス』:2019/01/26(土) 01:04:06
>>573
「むむむ……怪しいです。」

「風紀の乱れは、心の乱れ!」

「風紀クロスチョップ!」

松尾の背中の防具袋目掛けて、軽いクロスチョップでとびつき、引っ張ってみる。

「持ち物検査の型!」

575鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/26(土) 01:12:17
>>574

『グラァッ』

「なっ?!」「意外と破天荒なタイプだなキミはッ!」

松尾に飛びつかれ、バランスを崩した鉄は、思わず『防具袋』を手放した。
すぐにそれは地面に落ちて音を立てつつ中身の一部を散らばらせる。

『ガシャアン』

「・・・・・・・・・・」

それは、『刃物』だった。防具袋からこぼれたのは、『錐』と『ペティナイフ』。
その他にも、『包丁』などの雑多な刃物が防具袋の中にゴチャゴチャ詰められている。

『┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨』

「見て…しまったか…」

鉄の刃先のように斜めになったシャープな前髪の下で、鋭い目が松尾を見下ろしている。

576松尾 八葉『ターゲット・プラクティス』:2019/01/26(土) 01:30:49
>>575
「は、刃物!? 大量の……!?」

「これは……強盗ですか!?殺人ですか!?それとも両方……!?」

「ああ、これはまさか『好奇心は風紀委員を殺す』のことわざにのっとり、私をも……!?」

   『┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨』 

バッと後ろに下がり、顔の『メガネ』を外す。

   『┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨』 

「粛清の時です………!」
『メガネ』で覆われていた表情が消え、鋭い視線が鉄へと向けられ……

「『ターゲット・プラクティス』!」
真黒な忍装束のスタンドがその傍らに立った!

577鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/26(土) 01:44:43
>>576

>「ああ、これはまさか『好奇心は風紀委員を殺す』のことわざにのっとり、私をも……!?」

「いや、そんなピンポイントな諺ないだろ」

ツッコミつつも、溜め息をつく。時間がかかるが、なんとか説明して理解してもらうしかない。
下がりながらメガネを外す松尾に対して、鉄は地面に落ちた『ペティナイフ』を拾った。

(伊達メガネだったのか…)
「驚かせてすまないな…だが、これにはちゃんとした理由が─────」

そして、鉄は目を見開いた。
松尾の傍らに立つ、忍び装束の『スタンド』を見て。

「まさか、キミも…『スタンド使い』ッ!」「…だがこれは手間が省けたかな」

逆手に握った『ペティナイフ』。それを松尾に見せると、鉄はおもむろに自らの喉へ突き刺すッ!

『ヒュンッ』

『トスッ』

───だが、鮮血は出なかった。勢いは十分、そして今もその刃先は首に触れているというのに。

578松尾 八葉『ターゲット・プラクティス』:2019/01/26(土) 09:01:21
>>577
「あっ……自殺はいけません!自殺は!」
『ペティナイフ』を喉に突き立てようとした鉄に言葉を投げかける。

「……あれ?」
……が、刺さらないのを見て疑問と困惑の表情を浮かべる。

「まさか、この刃物たちは……」
足元に転がっている『錐』を手にして、その切っ先を指先でツンツンしてみる。

「偽物?作り物?なまくら?」

579鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/26(土) 19:53:18
>>578

「いや、それらは『本物』だよ」「たった今『なまくら』にしたんだ」
「オレの『シヴァルリー』で」

ペティナイフを握る鉄の手に重なって見えるのは、金属製の籠手を身につけたような人型の腕。
『ターゲット・プラクティス』と同じ─────『スタンド』だ。
錐を拾い上げる松尾に対し、今度は左手を向けた鉄。右手と同じくヴィジョンが発現し。

『ズキュウンッ!』

その錐から、同じ形だが幽体のようなものが鉄の『スタンド』へと飛んでいき、吸い込まれる。
その後ならば松尾が切っ先に指を当てても、傷どころか痛みすら感じないだろう。
あたかも皮膚が頑丈になったようだが、金属による冷たい感触は変わらない。

「『斬撃を統制する能力』」
「オレが殺傷力を奪った刃は、誰であれ何であれ傷付けることはできない」
「そういう能力なんだ…キミも別の能力を持ってるように、オレはこういうことができる」

580松尾 八葉『ターゲット・プラクティス』:2019/01/26(土) 20:22:13
>>579
  ツンツン……

「キレテナーイ……」
『錐』をツンツンしながらそんなことを呟く。

「なるほど。もしかして『その能力』を訓練しに出歩いていたわけですか?」

581鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/26(土) 20:43:20
>>580

「その通り」「自主練は自主練でも、『スタンド』のってことさ」
「…まぁ、人間みたいに筋力や技術が鍛えられるわけじゃあないだろうが」
「扱いに慣れておくという点では、間違いではない…と思いたいな」

歯切れの悪い言葉を使う。
そもそも目覚めてから日が浅い自分には、どうすれば『スタンド使い』として強くなれるか分からない。
『剣道』と練習方法はまるで違うのだろう。
それでもじっとなにかを待つよりは、動いた方がマシだと思っている。

「この前会った人も『スタンド使い』でね」
「その人がふと、『スタンド』の危険性を示唆したんだ」
「平石さん…その人は恐らく危ない人でないけれど、他に危険な『スタンド使い』がいないとも限らない」
「人を守れるくらいには、強くなっておきたいからな」

他にも散らばった刃物を、『防具袋』の中にしまい込んでいく。

「松尾さんは?目覚めてから結構経つ…所謂ベテランなのか?」

582松尾 八葉『ターゲット・プラクティス』:2019/01/26(土) 21:24:51
>>581
「なるほど、それは……お邪魔をしてしまいましたね。」
『メガネ』をかけ直す。

「片付けるのを手伝わせてください。」
散らばった刃物を『防具袋』に片付けていく。

「私も……まだ目覚めたばかりですよ。
 スタンドと言う『コレ』も『風紀を守る役に立つ』くらいにしか考えてなくて……。」

「しっかりしているんですね、鉄さんは。」

「もし、また何か『修行』をしたかったりしたら、声をかけてくださいよ。
 なにしろ、この『ターゲット・プラクティス』は『身代わりの術』の使い手でして……
 訓練などにピッタリなスタンドなんですよ。」

自らの傍らのスタンド、『ターゲット・プラクティス』を見ながら鉄に話しかける。

583鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/26(土) 21:43:39
>>582

「いや、そもそも怪しい行動をしていたのはオレだからな」
「松尾さんは間違っちゃいないよ…『風紀委員』として正しい行動をした」
「洞察力と行動力は特にスゴいと思う」

こちらの行動の矛盾点を突いた点や、本当に危険物の入った袋を叩き落とした点は見事だ。
中学生といえど流石は風紀委員といったところか。学園の中の治安については安心してもいいかもしれない。
もっともメガネの投擲は未だに謎のままだが。

「ありがとう、怪我をしないように気をつけて」「それじゃあお互い『ルーキー』だな」

共に拾い集めてくれる松尾に対して、礼を述べる鉄。

「いやいや、まだまだオレは未熟者だよ」
「人と争うのが苦手なんだ…他校ならまだしも、同じ部活の仲間と試合をするのとか、…特にね」
「いざという時には、この能力で人を斬らなければならないのか」「そういう事を考えると…手が震えるよ」

わずかに、自嘲するような笑みを浮かべる。
そして刃物を全て『防具袋』にしまい終えると、それを改めて担いだ。
改めて、黒髪の少女へと向き直る。

「だから、松尾さんのありがたい提案はオレに『覚悟』ができてからかな」
「それにしても『変わり身』か…」「カッコいいな」「まるで『忍者』みたいだ」

584松尾 八葉『ターゲット・プラクティス』:2019/01/26(土) 21:53:21
>>583
「忍者みたい……ふふふ、それは秘密です。にんっ。」
不思議な印を組みながら答える。

「もし、よかったら、連絡先を交換しませんか?
 これ、私のLINEです。」
スマホのQRコード画面を見せる。

「『覚悟』をお待ちしてます。にんっ。」

585鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/26(土) 22:19:22
>>584

「え」「いや、まさか」「本当に…?!」

言われてみれば、あのメガネ投擲はあたかも『苦無』のようだった。
もし本当なら、これは『スタンド』よりもちょっと感動するかもしれない。
思わず目をキラキラさせていると、少女から連絡先の交換の申し出があった。

「こちらこそ、喜んで」「何か困った時は力になる、遠慮なく呼んでくれ」

こちらもスマホを取り出し、コードを読み取った。
やがて彼女のスマホに『信玄餅』のLineアイコンと、『鉄 夕立』という名前が表示されるだろう。

「それじゃあオレは少し『特訓』していくから」「『スタンド』があるとはいえ、松尾さんも帰り道には気をつけて」「おやすみ」

そういって、雑木林へと歩みを進める鉄─────その姿が消える前に、足を止めて振り返った。

「そうだ」「オレもある意味そういう能力だから、説得力がないかもしれないが…」
「『切断系』のスタンド能力がいたら、警戒した方がいいかもしれない」
「それじゃあ」

そう言い残すと、鉄は再び闇の中へと歩みを進めていった。

586松尾 八葉『ターゲット・プラクティス』:2019/01/26(土) 22:30:40
>>585
「はいっ、鉄さんもお気をつけて!」

「おやすみなさい!」
足早に立ち去って行った。

587成田 静也『モノディ』:2019/01/30(水) 18:20:11
「この時間ならだれもいないだろう」

あの不思議な人からもらった『モノディ』という能力…『スタンド』とか言ってたかな
とにかくオレの隣にコイツが現れるようになって数日が経った。
1度だけコイツが本当に人に見えないか試すために宅配の人から物を受け取るとき
この『モノディ』を出したまま受け取ってみたが本当に見えないらしく特に反応はなかった。

だが目覚めさせてくれたあの人の言葉からまだ出会っていないが
きっと同じ『スタンド使い』が身近にいるという確信からそれ以降は
極力人前に出さず、今のように公園の人気のない場所で能力を確認するようにしていた。

「そもそも人気の多い場所は苦手だしな。」「落ち着きたい時には今度からここに来るのもいいかもな」

一通りできることを確認し終えてベンチに寝そべりながら呑気にもそう考えていた

588名無しは星を見ていたい:2019/01/30(水) 22:06:58
>>587

 
 ザァァァ――   カツ コツ カツ コツ

?「……」

風が吹く 何者かの足音が横たわる君の耳元へ到来が近い事を報せる。

カツ コツ カツ 『シュン』  ……ドサッ

だが、唐突にその足音が途絶え そして、『直ぐ隣』に何者かが座るのを聞いた。


   ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ・・・

?「……簡潔に聞こう」

?「君はどちらだろう。運命が見えるとして、ソレが全て崩壊と
理解しても立ち向かう事を選ぶ勇者か。
或いは無情を知り、膝をつき立ち止まる凡夫か?」

何者かが君に問いかけている……。

589成田 静也『モノディ』:2019/01/30(水) 23:46:00
>>588

ドドドドドド…

自分の心音が太鼓のように大きく聞こえ、全身に冷や汗が出るのが分かる。
前までであればただのよくいる変人奇人としてやり過ごしたであろうが
先日の不可思議な出来事からかこの何者が只者ではないと察し
何者かとも聞くことが出来ず、逃げようにも足が動かない。
そして何よりも問いに答えなければならない本能が告げている。

ふとさっきのスタンドの試運転を思い出す。
能力によって一時的にとはいえ声を失った鳥、殴ったことで砕けた石、
そしてその力に感じた少しの不安。

答えれば何か変わるかもしれない…

「オレは…何者にもオレの平穏を侵されたくない…」

「一度前に進んだ以上、勝手に止まることはできない」

「オレが勇者かは知らないが前に立ちふさがるならばそれに立ち向かわなければならない」

震える唇で絞り出したような声で答えた

590遊部『フラジール・デイズ』:2019/01/31(木) 00:05:17
>>589

>前に立ちふさがるならばそれに立ち向かわなければならない

「ならば、君は『立ち向かう』者だな。
そして、私の力に怯えながらも確固とした意志を持ち合わせてるのならば
『力』を宿してるのだろう ―受け取ってくれ」 ピッ

成田へと、フードとコートで全身を覆う怪しい人物は一つの
名刺を投げるように受け渡す……『アリーナ』と言う
どうやらスタンドの闘技者を応募する事柄が記されたものだ。

「運命は生きとし生けるものに呪縛のように纏わりついている」

「君の力はそれを振り払う刃か? または鎖の音を癒す楽器となるか」

「答えずとも良い……所詮わたしは奏者と共に手を叩けども
直接鍵盤を弾く資格を持ち合わせてないのだから」

「幽鬼には所詮眺める事しか出来ない……霞の中で風を感ずるのみだ」

意味を掴むのが難しい呟きを淡々と続けている。
どうやら、君がスタンド使いであるならアリーナの闘技者へ
勧誘してるようではある。

591成田 静也『モノディ』:2019/01/31(木) 00:23:36
>>590

目の前の相手はおそらくオレが初めて会う、しかも熟練のスタンド使いなのだろう。

オレは震える指で名刺を拾い、響くように聞こえる言葉をなんとか理解し、
相手の発するスゴ味という奴だろうか
それに負けないため遊部に質問を投げかけた。

「オレの名は成田…成田 静也だ…最後にアンタの名前を良ければ教えてくれないか?」

2日、3日前に力を手に入れたオレには情けないことにこれが精一杯だった。

592遊部『フラジール・デイズ』:2019/01/31(木) 22:00:58
>>591(お付き合い有難う御座いました。ここら辺で〆ます)

>名前を良ければ教えてくれないか?

「『フラジール』 それが水面に映る名であり
喜劇的なマリオネットの呼称だ」

「全ての巡り会わせに意味はある 決して無為にはならない
例え傍目には価値の無いよう見えて因果は纏わりついている」

「いずれ君も理解するだろう 先に待ち受ける溪谷と言う名の
試練を登り詰めた時に 私が唱えた意味合いをな」

「また会おう 成田 静也」

   ――スゥ

フートを纏った怪しげなスタンド使いは貴方の視界から消えた。
瞬間移動でもするかのように、瞬く間に。

彼? 彼女?が何者であり、何を目指すのか……それは再びの
邂逅がいずれあった時に判明するのかも知れない。

593成田 静也『モノディ』:2019/01/31(木) 22:46:12
>>592(こちらこそここまでお付き合いありがとうございました。
またの機会を楽しみにしています。)

>『フラジール』

「『フラジール』…ありがとう覚えたよその名前…」

彼(?)彼女(?)が去ってからもしばらく冷や汗が止まらなかった
そして頭の中で「なぜ自分がスタンド使いだと分かった?」
「もしかして『あの人』と会ってスタンドに目覚めた所を見らえていたのか?」と様々なことが駆け巡った。

ただ…

「助かった…多分…」

「アレはヤバかった…スタンド使いはみんなあんな風なのか?」

やっと安堵の言葉を吐き出すことができ落ち着くことができた。

そして改めてもらった名刺を見る。
そこには何かのマークと住所、時間が書かれていた。

「アリーナか…スタンド使いの闘技場って言っていたな」

きっと『モノディ』よりも強力なスタンドもいるのだろう
そして顔もわからないソイツらともいつかは…
昔のようにただ怒りに任せて力を振るってはいけない
今のように力に怯えていてもいけない…
身を守るためにも『今を変えるためにも』もっと強くならねば

とりあえず今日は家に帰ることにしよう。
今日は色々とありすぎた。

594三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/15(金) 21:13:54

(この辺りで、ちょっと練習しましょう)

人気のない森の中をスタンドが歩いています。
フードを目深に被り、肩にシャベルを担いだ墓堀人のヴィジョンです。
見える人なら見えたかもしれません。

(でも、スタンドの練習って何をすればいいんでしょうか?)

595空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/15(金) 23:45:46
>>594

「(うーむ、この辺トイレあったかな……)」

 ガササ


草叢を抜けて足を踏み出したところで、
『それ』と真正面から出くわした。


   バッタリ


「あっ、これは失礼……」
「…………」
「…………」 チラ

「…………」 チラ(二度見)


「ぎ、ぎゃぁああアアアア──────ッ!?」

いい歳こいた眼鏡のおじさんが腰を抜かして
草叢にデーンとハデに尻もちをつく。
スタンド使いらしいがあんまりこの手の遭遇に
慣れてないらしかった。

「で、ででてでででで……」
「何者!?」

596三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/16(土) 00:30:51
>>595

(あっ――)

と思った時には、もう遭遇していました。
驚かせてしまったみたいです。
どうしましょうか。

《大丈夫ですか?》

墓堀人のような人型スタンドが喋っています。
どうしようかと考えて、とりあえず空いている片手を差し出しました。
本体らしき人影は近くにはいません。

《『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』――》

             《と申します》

       ペコリ

やっぱり最初は挨拶でしょうか。
そう思ったので、お辞儀をしておきました。
『見える人』に出会ったのは、これで二度目です。

597空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/16(土) 00:53:32
>>596

「うぉっ!」

ドキビク──っ

差し出された手にいっしゅん後ずさりしかけるが、
労わりに満ちた声を聞き、目の前の掌と顔貌を交互に見つめる。

「あ、……これはどうも……」

(優しい声がこの場合
逆にギャップ効果で怖い気もするが)
手をとって立ち上がった。
オソルオソル……

尻についた葉や草きれを手で払い、
体裁を取り戻す息継ぎのような咳をする。


「コホン。あー、その、なんだ……。
失礼な姿を見せてしまったな……」

「しかし……その……君は一体なんなんだ?
『ナウ・オア・ネヴァー』……
わたしのような『取り憑いた者』はいないのか?」

598空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/16(土) 00:57:57
>>597(訂正)

「(なんか混乱しているのか
よく意味がわからん質問をしてしまったな……)」

「君が『取り憑いた者』はそばにいないのか?
を聞きたかったんだ……」

599三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/16(土) 01:18:06
>>597

おじさんの手を取ったスタンドが、その手を引っ張り上げました。
ですが、『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』のパワーは人並み以下です。
そのことを忘れていたので、軽くよろめいてしまいました。

《いえ、こちらこそごめんなさい》

《驚かせてしまって、すみませんでした》

      ペコリ

《『取り憑いた』――ですか……》

きっと本体のことだと思いました。
『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』は力が弱い代わりに遠くまで行けます。
今、千草は少し離れたところで操作しているのです。

《今、向こうの方にいますが――》

《……ご案内しましょうか?》

幽鬼のようなスタンドが、木立の奥を指差します。
それから、おじさんを振り返りました。
フードの奥の両目が、おじさんを見つめています。

600空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/16(土) 01:36:47
>>599

「だ、大丈夫か君……?」

 ワタワタ

慌てて手を引いてバランスをとる。

自分から手を差しだしておきながら
よろける姿はコミカルというか
もりもり親近感湧いてくるが……。

「(あんまり動き慣れてないのか?)」

『彼』(『彼女』?)が指差した
木立に目を向ける。

「向こうの方って……」
目を細めてみる。
「……どこまで遠くにいるんだ?
そこまで案内してくれるなら」

幽鬼のような瞳と目が合う。
かそけき揺らめきの渦に
全身が吸い込まれていってしまいそうで
思わずササっと目を逸らしてしまった。

「つ、ついていってみるが……頼めるか?」

601三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/16(土) 05:47:20
>>600

《――そんなに遠くじゃありません》

     ザッ

《この先を、ちょっと行ったところです》

おじさんの前に立って、木立の中を歩き出します。
千草までの距離は大体15メートルです。
森の中なので足元は舗装されていませんが、そんなに時間はかかりません。

《ここで少し動かす練習をしていました》

《まだ慣れていないので》

《でも、何を練習したらいいのか、よく分かりません》

《だから、今は『練習の練習』をしています》

歩いている最中に、スタンドが話しかけてきます。
幽鬼のような外見に反して、本体は結構人懐っこい性格のようです。
また、その口ぶりに、どことなく幼い雰囲気が感じられるかもしれません。

《――スタンドのことは、お詳しいですか?》

602空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/16(土) 08:45:11
>>601

  ザスザスザス


草叢を踏み払いながら奇妙な背中についていく。
『不気味さ』と『あどけなさ』の二世帯同居だ……。
わたしの方は『警戒』と『好奇心』がまだ相半ば。


梢の彼方に、この森林行を俯瞰して見ている
もう一人の自分の姿を浮かべた。
そいつに『大丈夫か?』と呟かせる。

 『このまま黄泉の国に連れて行かれたりしない?』
 『急に振り向いてこれはお前の墓穴だァ────ッ 
  とか言われない?』
 『でも相手は子ども?』
 『ならもし万が一襲われても……』などなど。

わたしはしばしばこうやって心の安定を図る
(精神の息継ぎだ)。


「…………」
「『スタンド』というのか、この『亡霊』どもは」
「…………」
「わたしにはその程度の知識しかない。
 『亡霊』に『名前』と独自の『ルール』があることを
 知ったのもつい最近だ」

言葉を吟味するような短い沈黙を挟みつつ、
あどけない質問者に返答する。

「しかしどうやら君も似たようなものらしいな。
 初心者ふたりが出会っちまったというわけだ」
「…………と、ずいぶん歩いた気がするが」

周囲の木立をキョロキョロ見回して人影を探す。

603三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/16(土) 18:47:46
>>602

      ザッ ザッ

《じゃあ『同じクラス』ですね》

《よろしくお願いします》

《あ――》

       ピタリ

突然スタンドが立ち止まり、グルッと振り向きました。
ここは森の中心近くです。
一番深いところと呼んでもいいかもしれません。

《言いにくいんですが、いいですか》

《お話に夢中になりすぎて――》

「――少し通り過ぎてしまいました」

おじさんの背後に立つ木の裏手から、高い声と一緒に小柄な人影が出てきました。
12歳くらいでしょうか。
緩やかな巻き毛と、クルリとカールした長い睫毛が特徴です。
格好はブレザーですが、制服ではないようです。
『これから発表会にでも行くような格好』と言うのが分かりやすいかもしれません。

604空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/16(土) 20:22:47
>>603

>       ピタリ

>突然スタンドが立ち止まり、グルッと振り向きました。

「ピャッ」

ストローでも咥えてました?
ってぐらい細く弱々しい息が唇の隙間から漏れた。
高価そうなジャケットの両肩が緊張で跳ねあがる。

       うめ
「(──やはり埋殺る気かッ!?)」

両手を顔の前にシャっと構え、
カマキリのごとき闘法(ファイティングポーズ)を見せる。
精一杯の抵抗というか威嚇のつもりか?
プルプル震えて明らかに付け焼き刃なのはバレバレだ。
しかし──


>「――少し通り過ぎてしまいました」


背後からの幼気な声に振り返り、愛らしい子どもの姿を認めた。
フゥーッと安堵のため息をつき、
一瞬おくれて気恥ずかしそうに両手を下ろす。
このおじさん、見てくれだけは立派な仕立てのスーツ姿なのだが……


「…………」「コホン」
「君がその『亡霊』……いや、
 『スタンド』の本体か?」

改めて目の前の子どもの姿を見据える。

「幼そう、とは思っていたが……」
「まさか……小学生……か?」

驚きのためか数回、吐息を飲むように言葉がつっかえる。
そこには驚き以外の感情もいくらか混じっているようだった。

605三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/16(土) 21:09:44
>>604

「――いいえ、違います」

「小学生じゃありませんよ」

      スタ スタ

おじさんに近付きながら、そんな風に返します。
少しムキになっているように見えるかもしれません。
自分でも、ちょっと気にしていることなのです。

「『中学一年生』です」

「早生まれなので、平均より成長が遅れてますけど……」

「小学生じゃありません」

客観的に見ると、ほとんど差はないと思います。
でも、千草にとっては大事なことなのです。
だから、しっかりと主張しておきます。

「――こんにちは」

      ペコリ

「『三つの枝に千の草』と書いて、『三枝千草(さえぐさちぐさ)』といいます」

まずは挨拶しましょう。
『立派な人』になるための基本です。
まだまだ未熟者なので、おじさんの内心には気付けていません。

      ザスッ

『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』がシャベルを下ろしました。
地面に突き立てたシャベルの握りに両手を添えて、亡霊のように佇んでいます。
本体の子供は、今その隣に立っています。

「――おじさんのお名前は、何とおっしゃるんですか?」

606空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/16(土) 22:06:35
>>605

「あっ、ああ……それは失礼した」

  ペッコォー

こちらは相手がどうも気にしてるらしい
繊細な部分の泡立ちに気づけた(大人の面目躍如だ)。
我に返ったように口を閉じ、あわてて軽く頭をさげる。

ふたまわり近く歳の離れた相手に
チト情けない振る舞いに映るだろうか?
しかし男なら、たとえ相手が子どもだろうと
レディに『敬意』は必要だ……。

「(あ、いや待て……
  果たしてこの子は『レディ』……でいいのか?)」

  チラミ

判別の難しい年頃だし、何より『そこ』も
この子が気にしてる繊細な部分かもしれない。
視線を走らせ、その佇まいや服装をもっと深く精査する。


「わたしは
 空織 清次(くおり きよつぐ)」

「君は『仕立て屋』……って知ってるか?
 まあカンタンに言えば『洋服屋のおじさん』だ」

『元』だが、と口の中でこっそり付けたす。

「ところで、君はさっき『練習』と言っていたが……
 その亡霊──『スタンド』を操って、
 何かするつもりなのか?」

小峰のごとく直立する『墓掘り人』を
指差しながら訊ねる。

607三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/16(土) 23:14:10
>>606

「空織さんというお名前なんですね」

「はじめまして、空織さん」

      ペコリ

体格は華奢で、顔立ちは繊細な作りです。
女の子と言われれば女の子に見えるし、男の子と言われれば男の子に見えます。
つまり、服を着ている限りは分かりそうにありません。

「――似合いますか?」

視線に気付いて、その場で軽く姿勢を正しました。
金釦のブレザーとボタンダウンシャツに、ネクタイも締めています。
下はシンプルなスラックスでした。

「『従兄弟のお下がり』ですけど、気に入ってます」

この服装は、元々は従兄弟のために用意されたものだったようです。
仕立て屋さんの空織さんなら、それが男の子用らしいことは分かると思います。
ですが『お下がり』なので、やっぱり性別の決め手にはなりません。

「えっと……」

「スタンドを使って具体的に何かしたいとか、そういうのはまだ分かりません」

「でも――いつか叶えたい『夢』はあります」

「その実現のために、『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』が役立てばいいなと思います」

「だから、この力でできることを色々と試してみたいのです」

608空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/16(土) 23:57:31
>>607

「あ、ああ……とても似合っているよ」

「君みたいな年頃で、フックのないフォーマルを
 『着せられる』感なく着こなすのは
 実に難しいことだ」

「だがその服は、君にとてもフィットしている。
 それはたんに君の見た目のことを言ってるんじゃあない。
 その服が似合うのは、
 君の『精神性』に正しく寄り添っているからだ」

などと小難しいことをペラペラまくしたてるが、
その心中では荒波が立っていた。

「(いや分からんッ! どっちだ!?
  男か女か!?)」

   ゴゴゴゴゴ

「(この空織、『仕立物師』として
  それなりに『着振る舞い』の眼は
  磨いてきたつもりだったが……
  今回はマジで分からんッ。
  空織、お手上げ!)」


 ゴソゴソ
(懐を漁る)

「…………君、良かったら『飴』いるか?」

ふたごの天使が描かれた『いちごミルク味』と
恐竜の描かれた『コーラ味』を差し出す。
どっちを取るかを見るのだ……(意味あるのか?)

「『夢』……?」
「……その『スタンド』を活かせる、か?」
「気になるが……それって、わたしが聴いて
 いいものか?」

ふつうに年相応の子どもに対する気遣いとして訊ねる。

609三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/17(日) 00:38:51
>>608

「そう言っていただけると嬉しいです」

     ペコリ

たぶん褒められたのだろうと思ったので、軽く頭を下げます。
内容は半分くらいしか分かっていませんでしたが。
そして、それとなく探りを入れられていることにも気付きません。

「――くれるんですか?いただきます」

      スッ

二つを見比べて、特に迷うこともなく『いちごミルク味』を手に取りました。
『炭酸』の味は苦手なのです。
単純に、それだけの理由でした。

「この力が活かせるかどうかは……分かりません」

「でも、『妖甘さん』が――
 『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』を目覚めさせてくれた人ですけど、
 『恐怖を乗り越えて成長することを祈っておく』と言ってくれたので」

「だから、この力が『夢』を叶える助けになってくれたらって……」

「――そう思ってます」

      ニコリ

そう言って、無邪気な笑顔を向けます。
屈託のない子供らしい笑いです。
それから、もらった飴を包装から取り出して、口の中に放り込みました。

「空織さんにも『夢』がありますか?」

「もしあったなら――それを聞かせてくださったなら、話してもいいですよ」

「いわゆる『秘密の共有』です」

610空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/17(日) 01:29:12
>>609

「(ノータイムでいちごミルク!
  だが実は『飴』の二択は『フェイント』だ……)」

  見るのは飴を受け取るときの千草の『指先』!
 実は『指』というのは『性差』が出やすい部分なのだ。
 (たとえば男性ホルモンの『テストステロン』は、
  『薬指』の長さに影響を与える)──

 そうして手の表象に現れる
 微小な『男女のちがい』をッ!
 飴を選んだこの一瞬!
 この仕立物師としての『熟練の眼』で
 逃さず見極めてやるッ!

 ※ なお精密動作性:C(人間並)


……冗談はさておき。

「たいした子だな……」

千草の独白に腕を組んで唸る。
12才に感服させられる34才のおじさんの図。

「わたしが君ぐらいの歳のころって、たぶん
『ニガテな野菜を克服できるか』とかで
 悩んでるレベルだったと思うが……
『恐怖を乗り越えて成長』という言葉に
 真正面から向き合っているとはな」

「(だが一方で気になる言葉も聞いたぞ……『妖甘』?
『目覚めさせる奴』がまだいるのか? こんな子どもを?)」


「『夢』──わたしの?」
「あ、あるにはあるが……」

『秘密の共有』というあどけない約束、
だが心の荒んだアル中の男にはあまりにも眩しい……!

「そ、それは……」「…………」
「わかった、教えよう」
「君が聞いてもつまらんことだと思うが……」

「『もう一度この町で、自分の店を持ちたい』……」
「…………」
「な、なにをマジになってるんだわたしは……」
「コホン。き、君のを聞かせてくれるか?」

611三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/17(日) 03:59:16
>>610

空織さんの視線の先にあったのは、細長い指でした。
それが決め手になるのかどうかは分かりません。
本人は何も気付くことなく、口の中で飴を転がしています。

「お店……『洋服屋さん』ですか?」

「目指す形がしっかりしていて、とても立派な『夢』だと思います」

「その『夢』が叶ったら――空織さんのお店に行ってみたいです」

『千草の夢』は、まだ形が曖昧です。
だから、余計にしっかりしていると感じるんだと思います。
早く目標のヴィジョンを確かなものにしたいですが、難しいです。

「笑わないで下さいね」

「――『立派な人になること』です」

「『たくさんの人から尊敬されるような立派な人になる』――それが『夢』です」

『千草の夢』は、『素晴らしい死に方をすること』です。
そして、そのためには『立派な人になること』が必要だと思っています。
だから、『立派な人になること』は『夢』というよりは『夢の夢』です。
それを言わなかったのは、空織さんとまた会いたいと思うからです。
いつかまた出会った時に、それを話せれば嬉しいです。

「空織さん、良かったら連絡先を交換してくれませんか?」

「『スタンドの仲間』で『初心者の仲間』で『叶えたい夢を持っている仲間』で――」

「その……『友達』になって欲しいです」

ブレザーのポケットから、
手帳型のレザーケースに入ったスマートフォンを取り出します。
それから、空織さんを見上げました。
シャベルを携えた『墓堀人』は、本体の隣で頭を垂れています。

612空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/17(日) 06:39:56
>>611

「……笑わんよ」
「『立派な人になる』というのは十二分に立派な夢だ」

「だが生涯持ちつづけるには
 すこしばかり危うい夢ではあるな……」

その夢は価値判断を他者に依存している。
自我を確立すればいずれ脱皮する、『さなぎの夢』だと
空織は思った。


気になったのは彼女の精神性の方だ。
彼女の心は妙に『達観』しすぎている……
一体なにを見て育てば、ちっぽけな子どもが
こんな精神性に(『スタンド』に)たどり着く?

この子は心身に皺ひとつない高潔な両親から
たっぷりとした愛を受けて育ったのだろうか?
何一つ黒点のない『白』に囲まれた世界にいるのだろうか?
それとも……

かつて出来損ないながら親だった身として、
わたしは妙な心配をしてしまっている。
梢の向こうでわたしを俯瞰するもう1人の自分が
『身勝手な想像だ』とささやいた。


「……わたしの名刺を渡しておこう。
 『困ったこと』や『相談したいこと』があったら
 連絡してくれ。
 『スタンド』に限らずな」

「ほんとうは、
 大人が子どもと個人的に連絡先を交換するのは
 あんまり良くないことなんだが……」

「…………………
 まあ、『友達』ということならいいだろう。
 (いやホントはよくない)」

携帯番号と名前が書かれた名刺を渡し、
すこしためらったが千草の番号を受けとる。

「君が望むなら、
 その名刺は君の両親に見せてもいい。
 理由はどうとでもなるし、わたしもその方が安心できる」

と、妙にそわそわしだす空織。

「………………
 ところで、少しばかり友人の君に訊ねたいんだが」

「…………………………
 この辺にトイレってあるかな?」

613空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/17(日) 06:56:01
>>612(訂正)

>気になったのは彼女の精神性の方だ。
>彼女の心は妙に『達観』しすぎている……

× 彼女 → ◯ この子

614三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/17(日) 22:53:32
>>612

未熟者の千草には、空織さんが心配してくれていることは気付きませんでした。
もし気付いていたなら、きっとお礼を言ったでしょう。
それができなかったのは、とても残念なことだと思います。

「……そうですね」

「難しいと思います」

空織さんに向かって、ニコリと笑ってみせます。
でも、上手くできたかどうかは分かりません。
口の中で、『でも』と小さく付け加えました。

「――ありがとうございます」

       ペコリ

名刺をもらう機会なんてないので、なんだか緊張します。
でも、少しだけ大人になれたような気分も感じました。
だから、なんとなく誇らしげな表情になっていたのだと思います。

「『トイレ』――ですか」

      ザック ザック

「少し待っていてもらえますか?」

「――今、『用意』します」

至って真面目な顔で、空織さんに呟きます。
同時に、『墓堀人』がシャベルで地面に穴を掘り始めました。
ほんの少しして、その動きが唐突に止まります。

      クスクス

「『冗談』です」

「ビックリしましたか?」

        ズズゥゥゥ……

表情を子供っぽい笑い顔に変えて、空織さんに言いました。
『墓堀人』がシャベルを肩に担ぎ直すと、穴が消えて地面が元通りになりました。
『墓堀人』は千草に重なり、その姿が溶けるように消えていきます。

「あっちです」

「この辺りで練習しているので、どこに何があるか知ってるんです」

一角を指差して、空織さんを案内して歩き出します。
これも立派な人になるための――『素晴らしい死に方』をするための一歩です。
まだまだ道のりは長くて遠いですが、一つずつの行いを積み重ねていけば、
いつか叶えられると信じています。

615空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/18(月) 00:58:03
>>614

「えっ、いやそれは待…………」


「…………………………………
 …………………………………」


「……………………生まれて初めての経験だ、
 『ハカホリニンジョーク』を食らったのは」

「もしわたしが自分の店を手に入れたら、
 君にはトイレ工事をさせてやるからな」


年相応のいたずらっぽい笑みを浮かべる千草に向け、
座り目で抗議の視線を送る。
たっぷり数秒ジトーっと睨んだあと、
こらえきれず吹き出すみたいに笑った。
目を糸みたいに細めて微笑む。


「おっと、今度はちゃんと案内してくれるのか?

 それは『落とし穴に』とかじゃないだろうな?
 なんてな、冗談だ。
 フフ。ありがとう……」

千草を追って足を踏み出しながら、
肩越しに地面を振り返る。

   チラ

「(穴が一瞬で消えている。
  これがこの子のスタンド……か)」

「(この無言の墓掘り人は、いったい
  この子のどんな心を表象しているのだろう?

  ………だがそれを知るには、今はまだ……)」


首を振り、前方に向き直ろうと顔を上げたとき、
わたしはわたしの肩に誰かの手が
乗せられていることに気づいてハッと息を呑む。

それはさっきまで
梢の向こうでわたしを俯瞰して見ていた
もう1人のわたしの手だった。

わたしの耳元に顔を寄せて彼はささやく。

  『おまえの娘が生きていれば
   この子ぐらいになっていたかもな』

 『この子に娘の姿を重ねているのか?』

     『なんてみじめな贖罪だ──』


わたしは彼を睨みつける。
我を忘れて彼と目を合わせる。
だがそこにいたのはもう1人のわたしではなかった。

空転する糸車を腹腑に埋めたわたしの『スタンド』。
娘を失ったわたしの前にあらわれた『亡霊』。
物言わぬ虚ろな瞳でわたしを見つめている。

「『エラッタ・スティグマ』………」

消えろと強く念じると、
糸車のカラカラという空っぽな残響だけを残して、
虚ろな亡霊は宙空に解けて消える。


わたしは何事もなかったかのように前を向き、
小さな案内人の背を追いかけた。

616高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/01(金) 00:29:32
夜の自然公園に人影が一つ。
動きやすそうな格好をした女性。
癖のある髪を一本に結び、どこか暗い印象のある人だった。
ペットボトルを片手に彼女は公園にいた。

「……」

わずかな明かりの下、女性は踊っていた。
ペットボトルをマイクに見立て、音は出さずに口を動かしながら踊っている。

「……!」

ステップを誤り、重心が崩れる。
踏ん張らずにそのまま彼女は地面に体を預けた。

617薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/01(金) 01:20:52
>>616

「…………」

    ピ ピ

       ガコン

自販機でジュースを買いながら、それを見ていた。
今は仕事帰りで、入れたコインと押したボタンは妹の分だ。
自分のジュースは――――

  チリン

         『ピピピピピピピピ』

今から『ルーレット』が当たるのでそれで買う。

(ダンスか何かやってるのかな。
 駅前で踊ってるヤンキーみたいな?
 こけたのかそういう振り付けなのか、
 よくわかんないけど……真剣そうだし)

    『アタリ! モウイッポン エランデネ!』

(邪魔はしないでおこうかな)

              ピ

                    ガコン

邪魔はしないが、普段静かな自販機がうるさい夜だ。
それに、白い髪と赤い目――――薬師丸の姿は目立つ。

618高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/01(金) 02:28:09
>>617

「ふぅ……ふぅ……」

呼吸を整えながら、ゆっくりと立ち上がる。
右足を上げて、何度か地面を踏みしめる。
地団駄というよりもそれは、足に力を入れるためにやっているような動きだった。
靴から覗くものは靴下と黒いサポーターである。

「……ふぅ……ふぅ……はぁ……はぁ……」

少しふらつきながら地面を踏みしめ、顔を動かす。
その目線は薬師丸に向けられた。

(……見られたかな)

(不味いかな。一応、新曲だしなぁ……)

俯き気味で陰気な顔のまま、薬師丸を見ている。

619薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/01(金) 03:38:04
>>618

「あ〜」

(ジロジロ見てるって思われたかな。
 まあ、実際ジロジロ見てたようなもんよね)

視線があった。

「ごめんごめん。つい見入っちゃった。
 ふだん、ダンスってあんまり見ないからさ」

      ガコッ  ガコン

ジュースを二本取り出して――
それを小脇に抱えて、少しだけ近づく。

「それにしても……こんな時間に練習?
 秘密トレーニングってやつなのかしら。
 私はスポーツとかしないほうだから、
 あんまり詳しくはないし……
 追求とか、そういうのするつもりもないけど」

「この水いる? 『偶然』当たっちゃったんだけどさ」

無視して立ち去ることも出来たけれど、
追いかけてきて絡まれたりしても良くない。
穏便に立ち去るためにはむしろ会話がいると思う。

だから、自分用の水だったが、小さく掲げてみせた。

620高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/01(金) 04:11:06
>>619

「あぅ……やっぱり見てたんですか……」

(あ、ちが、もっと……)

思わず一歩下がってしまう。
不意に下げた右足。
ビクリと背中が跳ねて、少しを食いしばる。
深呼吸。
顔を上げる。
逆ハの字だった眉が横になり、目が少し大きく開かれた。

「ダンスは苦手でね。こうせねばならない身の上なんだ」

しゃんとした雰囲気を出そうとしているらしいがまだ少し目が震えている。

「貰えるのなら、頂きたいが」

「ありがたい」

すでに手に持ったペットボトルは空。
握りしめたからかベコベコにへこんでいる。

621薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/01(金) 21:17:15
>>620

「あげるよ、減るもんじゃないしさ。
 あ、一応言っとくけど、なんの味もない水だよ」

「最近は透明な紅茶とか流行ってるから一応ね」

軽く放り投げようとしたが……

「…………はい、あげる」

目の動きに何かを感じてやめた。
もう少しだけ歩み寄って、ゆっくり手渡す。

「苦手なのにやらなきゃいけないのね。
 大変ねぇ〜え。お仕事か何かでやってるの?」

「踊る仕事ってあんまり思い付かないけどさ」

近づいて見える薬師丸の顔は、高宮より一回り幼い。
不相応な毛皮の黒コートや真っ白な髪も、どこか現実味を欠いていた。

622高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/01(金) 21:50:13
>>621

「お気遣いどうも」

受け取り、水を飲む。
乾いた体に潤いが流れ込んでいくのがわかる。

「……仕事だから、これは時間外労働」

「アイドルだよ。頭に地下とつくアンダーグラウンドなやつだ」

ゆっくりと息を吐いて、また言葉を出す。

「そういう君はどうかな?」

623薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/01(金) 22:38:29
>>622

「ああ……えーと、地下アイドルってやつ。
 星見横丁とかでビラ配ったりしてるよね。
 私の知り合いにそういうの好きなヒトいるわ」

それが高宮の事務所かは知らない。
もらったビラをしっかり読んだこともないし。

「ともかく、スターの卵ってわけね」

笑みを浮かべる。

「私は――『幸せ』を売ってるの。
 それが私の仕事よ。あ、勘違いされそうだけど、
 ハッピーじゃなくてラッキーの方が本業だから」

「怪しいクスリとかは警戒しなくていいよ」

それはそれで得体が知れないわけだが、
少なくとも妙な売人というわけではないらしい。

「何も法に触れるような事は、してないからね」

水から妙な味がしたとか、そういう事もなかった。

624高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/01(金) 22:49:10
>>623

「もしかしたらその人と会ってるかもね」

(分からないけど)

また水を飲もうと口をつける。
が、勢いを間違えたのか口の端から飲みきれなかった水がこぼれ落ちた。

(またか)

手の甲で水を拭った。

「スターの卵か。そうだね、早くオーバーグラウンドに打ち上げて衛星みたいになりたいものだ」

暗い笑みを返した。

「幸せか……」

眉がハの字に曲がる。
伏し目がちに視線が動く。
迷い。
先程までの雰囲気が収まり、憂い雰囲気が増していく。

「いくらで売ってくれますか……?」

625薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/02(土) 04:32:10
>>624

「どうだろ。まっ、とにかく詳しくないからさ。
 詳しくないなりに、あんたに幸がある事を祈るわ」

「私はそれの専門家だからさ」

薬師丸はアイドルというものはよく知らないが、
こんな夜にまで一人で練習に励んでいるあたり、
恐らくは『本気』で・・・理想はまだ先なのだろう。
言葉ではあまり深くは突っ込まずにおくことにした。

「――――あら、興味ある?」

        リィーーー ・・・ ン

《『害』も『戦意』ないよ。見えてるなら、ね》

      「『幸運』ってさ。形の無い物だし、
       『実演販売』ってことにしてるの」

それは『こころ』 に直接響くような鈴の音。
空気を揺らす、振動としての音ではない。

「で、初回はその実演込みで千円って感じね。
 ほら、期待はずれって事もあるだろうしさ。
 千円くらいなら『募金』した気持ちになるでしょ」

少女の背後に浮かび上がる、人型のヴィジョン。
白い毛皮を纏い、兎の耳を生やした『スタンド』。

――特に何か構えたりするでもなく、背後にいるだけだ。

626高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/02(土) 12:28:04
>>625

「専門家……」

馴染みがない。

「……分かりました」

ポケットに入れられた財布から千円札を一枚取り出す。
祈るように少し震える手が突き出される。

「見えてますけど……」

627薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/02(土) 22:01:44
>>626

         ピラッ

「はい、まいどあり。千円確かに受け取ったよ。」

スタンドの手がお札を受け取り、
軽く弾いて枚数を確認してから懐へ。

「見えてるんだ、お仲間なのね。
 それだったら話が早くて助かるわ」

         リン

その手が今度は、高宮の手に触れようとする。
触れれば小さな金色の『鈴』が生まれるだろう。

「お代の分はしっかり説明させてもらうね」

薬師丸はと言うと、それを見ながら微笑を浮かべた。

「ハッピーじゃなくてラッキーって言ったけど、
 要するに・・・私の『レディ・リン』は、
 運勢ってやつを前借り出来るのよね。
 今コイントスを絶対に当てられる代わり、
 あとで絶対に外しちゃうようになるわけ」

「そういうとプラマイゼロに聞こえるけど、
 外すって分かってるコイントスだからね。
 そこに大金を賭けたりはしないでしょ?
 借りた分返さなきゃいけないって分かってれば、
 備える事は出来る…………だから商売になるの」

長口上を終えると、スタンドが一歩引く。
鈴を付け終えたにせよ、そうでないにせよ、だ。

「それで、どう? 何か『運を天に任せたい』ものってある?
 今日じゃなくってまた明日、ってことでも私はいいよ。
 来週のくじ引きで、とか言われるとちょっと困っちゃうけど」

「もし決められないなら、商売だからね。私の方では実演しやすい店は当たり付けてるの。
 それで良ければ案内するけど……一応、あんたの運を使うわけだからね。好きに決めていーよ」

628高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/02(土) 22:36:26
>>627

手に着いた鈴をじっと見つめる。
これがラッキー。

「明後日の……」

「明後日のライブの……成功を……」

小さく、そう呟いた。

629薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/02(土) 23:16:41
>>628

「分かった、明後日ね。明後日の……何時?
 良いタイミングで幸運を入れるために、
 私もその場にいないといけないからさ。
 あと……反動の不幸に、対処するためにもね」

        『リ″ン』

薬師丸の耳に付いた『錆びた鈴』が、風に揺れる。

「あ、入場料とかあるならそこは自腹きるよ。
 初回だし、ライブっていうのも興味あるしね」

明らかに危険な響きだったが、
薬師丸自身に焦りなどは感じられない。

この現象には『慣れている』――という風に。

「それとも……幸運、今ここで使う?
 ライブに効くかは保証出来ないけど、
 ライブの事しか考えてないなら大丈夫かも。
 それに、『不幸』はこの場で処理できる」

「私はどっちでもいーけど……どうする?」

悪戯っぽい笑みを浮かべた。
薬師丸にとっては、本当にどちらでもいいのだろう。

630高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/03(日) 00:18:22
>>629

「不幸は慣れてますから……」

どうしようもないほどに彼女の目は暗かった。
おそらくこの場にある闇よりも深く、暗い。

「十五時……です。チェキ会もあるけど、ライブだけで……」

「これ……インビ……」

インビテーションチケット。
招待券とも言われるものだ。
無料で入れるだろう。

「ぼくはちゃんとライブが終われればそれでいいんです」

631薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/03(日) 00:52:31
>>630

「そ、私とおんなじね」

        ニコ…

赤い瞳を作るガラスレンズの奥――――
薬師丸の本当の目を知る者は、多くはない。

ただ、そのレンズに写る高宮の目が、
どうしようもなく暗いのは薬師丸の目にも確かだ。

「それじゃ、しっかりやらせてもらうよ。
 少なくとも、そのライブが終わるまではね」

    ズギュン

「15時から空けとくから。
 『レディ・リン』はちゃんと運命を変えるからね」

        スゥッ

          「あと、連絡先交換しとこう。
            もしものこともあるだろうし」

招待券を受け取り、代わりにスマートフォンを取り出す。
『仕事』に手ぬかりはしない。そうでないと生きていけないから。

632高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/03(日) 01:12:20
>>631

「分かりました」

スマートフォンをズボンのポケットから取り出す。
カバーをしているが、傷だらけだ。

「………仕事用とかじゃないので」

(ぼくにとって最も大きな幸運が訪れるのなら)

(それはあの人たちと同じ事務所に入って、同じステージに立つこと)

633薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/03(日) 01:36:54
>>632

薬師丸のスマホカバーは白いが、
目立った汚れなどはないようだった。

「私のは、仕事用だけど……
 プライベートで掛けてくれてもいいよ。
 同じ『スタンド使い』同士でもあるし」

         スッ

「少なくとも今だけは『仲間』だからね」

友達とか、同志とか、そういうのじゃあない。
客と商売人であり……夢を追う彼女の『仲間』だ。
 
「それじゃ、私は今夜は帰るから……
 今つけた鈴は勝手に消えるから安心して。
 本番の明後日に、また付け直したげるからさ」

         「じゃ、またね」

明後日に向けて、今夜から早めに寝る事にしよう。
特別に止められないなら、そのままこの場を立ち去る。

運命を味方に付けたライブが成功したかどうかは――また、別の話だろう。

634高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/03(日) 02:28:43
>>633

「仲間、ですか……?」

それを彼女がどういう意味で言ったのか分からない。
自分がどれぐらいの重み言葉を返したのかは分からない。

「さようなら」

別れを告げて、またダンスを続ける。
まだ理想の未来には遠い。

635高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/12(火) 23:55:17
「ら、ら、ら」

夜の自然公園に人の影。
何かを歌いながら躍るように動く。
しかしそれはダンスではない。
頼りのない灯の下で、時に遅く、時に早く。
見える者には見える物がある。
彼女が持っているもの、それは鎖鎌だ。
左手に鎌を持ち、右手に鎖と分銅。
鎖を回すと手から離れた分銅が回る。
まるでカウボーイのようにそれを飛ばして、また手元に引いて戻す。

「ら、ら、ら」

636美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/13(水) 23:16:57
>>635

時を同じくして、公園内を一人の女が通りがかった。
ラフなスタジャンのポケットに両手を突っ込んで歩いている。
人影に気付いてキャップのツバを持ち上げ、闇夜に目を凝らした。

(あれは――ダンスの練習かしら)

最初に見た時は、そう思った。
だから、少し離れた場所で立ち止まって様子を眺めていた。
でも、どうやら違っていたようだ。

「ステージで使う小道具――」

「――じゃなさそうね」

その視線は、鎖鎌に注がれている。
自身のスタンド――『プラン9』には身を守れるような力はない。
このまま何事もなかったかのように立ち去るべきか、内心で迷っていた。

637高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/14(木) 01:54:38
>>636

鎖鎌の女はジャージを着ている。
所々擦れたような傷がある。

「ら、ら、あれ……ん、ら、ら……」

何かが気に食わなかったのか歌いながら小首を傾げる。
ぐらりと、途中で彼女の体がブレる。
靴紐を踏んでしまったらしい。
歌に気を取られた彼女は体勢を崩しーーー

「ひぅ……!」

コントロールをしくじった分銅が顔面に迫る。
何とかかわした頃には、体はバランスを失い完全に転んでしまった。

「あ……」

背後の街頭に鎖が絡まり、分銅が倒れた彼女の足に命中した。

(ついてない……)

自分の顔の傍の地面に突き刺さった鎌を見て一人溜息をつく。

638美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/14(木) 14:10:12
>>637

歌と踊り。
それは、私の中にある過去の記憶を思い起こさせた。
忘れる事の出来ない輝かしい栄光。

(『まだまだこれから』って感じなのかしらね、彼女)

その姿に、かつての自分自身が重なる。
大きなステージを控えて、厳しいレッスンに明け暮れていた日々を思い出す。
だから、迷いながらも立ち去らずに見続けていたのかもしれない。

(あららら……――)

その物騒なヴィジョンが見えたことで、ほんの少し警戒していた。
しかし、どうやら危険と呼べるものはなさそうだ。
むしろ、今の彼女は助けが必要なのかもしれない。

      スタ スタ スタ

「――立てる?」

近くまで歩み寄り、片手を伸ばす。
その身体を引っ張り上げて、元通りに立ち上がらせようという意図だ。
彼女が、この手を掴んでくれたらの話だけど。

639高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/14(木) 19:53:18
>>638

「……はぁ」

落ち込んだ気分のままため息をつくと鎖鎌がぱっと消えてしまった。
この世に存在するものでありながら、通常の物質とは違うもの。
スタンドの鎖鎌。

「え……?」

声の方に振り返って、息を呑む。
わたわたと一人で慌てだし、ズボンで手を拭いてから両手でしっかりと手を掴んだ。
が、立ち上がろうとはしなかった。

「み、美作くるみさん、ですよね……!?」

「なん、な、なんで、なんでこんな所に……!」

「あわ、あぅ、あ」

なにか言おうとしているらしいが上手く言葉が出ないらしい。

640美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/15(金) 17:37:59
>>639

「えっと――」

「ええ、確かに私は『美作くるみ』ね」

「ちょっと考え事をしながら歩いていたら、地面に倒れ込んだのが見えたものだから」

返ってきたのは、思いもよらない反応だった。
どうやら、彼女を立ち上がらせようという試みは成功しなかったみたい。
それなら、私の方が目線を下げる事にするわ。

「あの、もしかしてだけど――」

「前に、どこかでお会いした事があったかしら?」

「もし忘れてしまっていたなら、ごめんなさい」

こちらからも両手を出して、彼女の手を握り返す。
精一杯の誠意の印だ。
同時に、その場に屈み込んで視線の高さを均等にした。

(まさか、ねえ)

(『昔の私』を覚えてくれているのかもしれない――)

(そんな風に思っちゃうのは、きっと私の自意識過剰よね)

641高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/15(金) 23:29:05
>>640

「あ、ありますけど……お話したのは今日が初めてで……!」

精一杯に話す。

「綺麗な歌声にずっと、ずっと憧れててぇ……」

ぽろぽろと目から滴が零れた。

「うれしい……」

まっすぐだった背中が丸まって、そのまま俯いてしまった。

642美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/16(土) 13:57:49
>>641

「……あの」

一瞬、どう言葉をかければいいのか分からなかった。
彼女の真摯な様子に胸を打たれたからだ。
それは自分にとって驚きでもあり、喜びでもあった。

「――ありがとう……」

「私の事を覚えていてくれて」

「本当にありがとう」

もしかすると、もっと気の利いた台詞を言うべきだったかもしれない。
でも今の私には、これしか言えなかった。
他の言葉が思い浮かばなかった。

「あなたも『同じ分野』だと思っていいのよね?」

「違ってたら恥ずかしいけど」

穏やかに笑いかけながら、彼女の背中を軽くさする。
それから、街灯の傍にあるベンチに視線を向けた。
ずっと地面に座ったままという訳にもいかないだろう。

「とりあえず、立ちましょうか?」

「座るなら、そこのベンチの方が良いと思うから」

「その前に、まず立ち上がらなきゃね」

彼女が立ち上がろうとするなら、その手を引いて手伝う事にしよう。
自分も、かつては彼女と同じ志を抱いていた。
それが消えてしまった後も、こうして誰かの記憶に残れるというのは有り難い事だ。

643高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/16(土) 18:26:36
>>642

「はい……そうです……」

「私は地下アイドルですけど……」

美作の声にこくこくと頷いて立ち上がる。
泣いているうちに落ち着いてきたようだ。

「すいません……ありがとうございます」

644美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/16(土) 19:55:19
>>643

「良いのよ。気にしないで」

「そういえば、まだ名前を聞いていなかったわね」

「教えてもらっても平気かしら?アイドルさん」

彼女が立ち上がったのを見届けてから、握っていた手を離す。
話しながらベンチの方へ歩いていく。
そのまま、そこに腰を下ろした。

「あなたと話していると、何だかノスタルジーに浸りたくなっちゃうわ」

「私は、今はラジオパーソナリティーをやってるの」

「良かったら、そっちの方も覚えておいてくれると嬉しいな」

645高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/16(土) 23:35:17
>>644

「ぼくは高宮と言います……」

ベンチに座り、小さな声でそう言った。
膝の上に置いた手を見つめている。

「聞いてます、ラジオも毎週……」

「お電話はしたことないですけど」


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