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【場】『 湖畔 ―自然公園― 』

1『星見町案内板』:2016/01/25(月) 00:04:30
『星見駅』からバスで一時間、『H湖』の周囲に広がるレジャーゾーン。
海浜公園やサイクリングロード、ゴルフ場からバーベキューまで様々。
豊富な湿地帯や森林区域など、人の手の届かぬ自然を満喫出来る。

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                 ミ三ミz、
        ┌──┐         ミ三ミz、                   【鵺鳴川】
        │    │          ┌─┐ ミ三ミz、                 ││
        │    │    ┌──┘┌┘    ミ三三三三三三三三三【T名高速】三三
        └┐┌┘┌─┘    ┌┘                《          ││
  ┌───┘└┐│      ┌┘                   》     ☆  ││
  └──┐    └┘  ┌─┘┌┐    十         《           ││
        │        ┌┘┌─┘│                 》       ┌┘│
      ┌┘ 【H湖】 │★│┌─┘     【H城】  .///《////    │┌┘
      └─┐      │┌┘│         △       【商店街】      |│
━━━━┓└┐    └┘┌┘               ////《///.┏━━┿┿━━┓
        ┗┓└┐┌──┘    ┏━━━━━━━【星見駅】┛    ││    ┗
          ┗━┿┿━━━━━┛           .: : : :.》.: : :.   ┌┘│
             [_  _]                   【歓楽街】    │┌┘
───────┘└─────┐            .: : : :.》.: :.:   ││
                      └───┐◇      .《.      ││
                【遠州灘】            └───┐  .》       ││      ┌
                                └────┐││┌──┘
                                          └┘└┘
★:『天文台』
☆:『星見スカイモール』
◇:『アリーナ(倉庫街)』
△:『清月館』
十:『アポロン・クリニックモール』
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429杉夜 京氏『DED』:2018/06/03(日) 22:52:00
>>428

「何でもねぇって、いや……」

あるだろう、と言いかけるが。表立って、そう告げて余計に
話をややこしくするのもどうかと思えた。
 何より、この様子を第三者が見たら。最悪、自分が女性に
何か襲い掛かるような、そんな場面に見えない事もない。
 華奢な女性と、徹夜明けで目の下に隈のある大柄な男なら
どう考えても後者の犯罪者度合いに軍配があがる。

「あぁ……うん、何でもないんならな」

 「…………」

それ以上、どう言葉を紡ぐべきか皆目見当もつかなかった。

「……あんた、何しに此処に来てんの?」

 重苦しい空気に耐えかねて、また結局いらぬ言葉が口から飛び出て来た。

430小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/06/04(月) 19:58:47
>>429

森の中で向かい合う見ず知らずの男女。
お互いの間に、長いようで短い沈黙が流れる。
木々の間を風が通り抜け、枝葉が微かに揺れる音がする。

  「すみません……少し失礼します」

一言言ってからバッグの中に果物ナイフをしまい、代わりに包帯を取り出す。
ついさっき自分で裂いた腕の傷に、慣れた手つきで包帯を巻いていく。
手早く止血を終えて捲っていた袖を下ろし、目の前の男性に向き直る。

  「――私は……『散歩』です……」

  「この場所を歩いていると、気持ちが落ち着くので……」

それは本当だった。
事実、ここに来たのは乱れた心を落ち着かせるためだった。
しかし、今日はそれだけでは足りなかった。
普段と比べて、胸の奥に感じるざわめきが大きかった。
だから、この果物ナイフに――『鎮静剤』に頼らなくてはいけなかった。

  「……あなたは?」

ややあって、自分がされたのと同じ質問を返した。
同時に、男性の纏う雰囲気に意識が向けられる。
何かとても疲れているように見え、自然と表情が心配を含んだものに変わる。

431杉夜 京氏『DED』:2018/06/04(月) 20:19:46
>>430

 「散歩 ……ねぇ。まぁ、この時節は散歩日和、だよな……」

女性が、いやに包帯を巻くのが上手な事など特に気に掛けない事にした。
 所詮、他人だ。俺にとっても、彼女にとって余計な深入りは何も有益にならない。

そして、返された言葉に数秒程、頭に空白が出来た。
 ゆっくりと、何を尋ねられたのか脳に染みこむ。何をしに此処に来たか。

「……あぁ、家に、変える所だな。早く帰らないと」

「お袋が、待ってるんだ。ヘルパーも、俺が帰らないと別の場所に
行けないだろうし、早く帰らないと延滞料金が発生するし
……そうだ、早く帰らないと」

そうだ、俺は家に帰るために歩いているんだ。
 俺の事なんて、もう分からない人のために。
そして、明日も早く仕事に出ないと。稼がないと。
 多分、朝も お袋の奇声染みた声に起こされて、飯を作って。
オムツを、取り換えて。そうだ、その為に……。

「…………」

 俯いた顔をあげる時。目は無意識に果物ナイフに注がれた。

真っ赤な血  それを見ると、狂ったように喚きながら爪を突き立てて
肌が裂かれ、それを抑え込みつつ着替えをする自分の姿が思い起こされる。

 「…………何でだろうなぁ」

「…………はぁ」

 理不尽だと思い続けて来た。最初は怒りだって湧きあがってた筈だ。
下火はあり、何時だって遣る瀬無い苛立ちはある。
 けど、それを誰かや何かにぶつけるのは筋違いであるのも知ってる。

 「…………なぁ」

「腕って切り裂くと、あんたにとって幸せなのか?」

432小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/06/04(月) 21:52:28
>>431

淡々と紡がれる言葉に黙って耳を傾ける。
その内容から、おぼろげに彼の辛さが察せられた。
しかし、何も言わなかった。
安易に慰めを掛けることは失礼に当たると考えたからだ。
その代わり、瞳に映る気遣いの色が、やや濃くなった。

  「――……」

それは、自分にとって非常に難しい質問だった。
すぐに答えることはできず、顔を俯かせて深く考える。
やがて面を上げ、静かに口を開く。

  「いいえ……」

幸せかと言われると、そうではないと思う。
なぜなら、自分が本当にしたいのは、自分の身体を傷つけることではないのだから。
私が心から望んでいるのは、この命を断ち切ってしまうこと。

だけど、私には、それが許されていない。
だから、私は自分の身体に傷をつけている。
甘美な死の誘惑に負けてしまいそうな心を抑えるために。

  「あの……」

  「この近くに……お住まいですか?」

433杉夜 京氏『DED』:2018/06/04(月) 22:26:06
>>432

 「…………あぁ?」

「近く? ん…………あぁ、こっから森を抜けて十五分ほど
歩いて行けば、な。……けど、なんで そんな事聞くんだ?」

「それを聞いて、あんた俺になにかしてくれんのか?
それとも、これ以上 俺になにかしようって事か?」

 ガリガリガリガリ

 苛つきが収まらない。痒む後頭部の辺りを鬱血しそうに
なるほどに爪をたてつつ掻きながら、声色は刺々しくなっていく。

「疲れてんだよ……本当に、疲れてんだ。寝る暇もないぐらい
倉庫の整理やら、書類の抜けの訂正とかしたり。運搬やったりとさ。
 頑張ってんだよ、頑張ってんのに何かミスして。それに延々と無能だの
根性が足りないだの、お前何年この仕事つとめてるんだの……人が下手に
出てりゃ言いたい放題に言いやがって。
 なのに、何だって見ず知らずの奴に俺の事詮索されなくちゃいけないんだ?
俺、そんなに不審人物か? 俺は責められるような奴か?? なぁ???」

 ガリガリガリガリ……ッ  スゥ― ハァ……ッ

 「いや……うん、あんたの事を責めてるわけじゃないんだ。
お、俺は……落ち着いてるんだ、うん」

 瞼が痙攣する。目の裏が赤く点滅する。

434小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/06/04(月) 23:05:08
>>433

叩きつけるような勢いで矢継ぎ早に発せられる言葉の数々。
それを聞いて、ひどく胸が痛んだ。
非難されたことに対してではなく、彼にそんな言葉を言わせてしまったことに対して、
後悔の念が込み上げてくる。

  「……お気を悪くさせてしまったことを謝ります」

  「あなたを不愉快な気持ちにさせてしまい、申し訳ありませんでした……」

  「どうか――お許し下さい」

謝罪の言葉と共に、その場で深々と頭を下げる。

  「――私も……あまり遠くないところに住んでいるのです」

  「先程、帰るところだとおっしゃられていたので……」

  「近くまで……ご一緒できればと……」

  「……ご迷惑でしたでしょうか?」

自分が助けになってあげられるなどと大きなことは言えない。
でも、ほんの少しでも彼の痛みを和らげたいと思っていた。
自分が彼の言葉を聞くことで、僅かでも彼の気が楽になればと考えていた。

それに、彼の体調も気掛かりだった。
彼の疲れようを見ていると、途中で倒れてしまうということも絶対にないとは言えない。
かといって、あまり踏み込みすぎるのは却って気を遣わせてしまう。
だから、家まででなくてもいい。
その近くまででいいから、彼が無事に帰り着くのを見届けたかった。

435杉夜 京氏『DED』:2018/06/04(月) 23:19:22
>>434(切りが良いので、ここら辺で〆たいと思います。
お付き合い有難う御座いました)

 俺は膿みたいだと、喋りながら思う。
圧し潰しても、薄汚れた汚らしいものばかりしか出ない。残るのは
鼻水みたいな色合いと、血が混ざりあった残骸だけだ。

 「いや、いや……気持ちは、有難いけど 結構だ。
あんた、見ず知らずの奴にさ。女だろ? お節介をやくと
絶対に痛い目にあうって。関わらないべきなんだからな」

 軽く手を上げて、どの口が吐くんだと思える言葉を告げる。

 善意だけの発言だとわかるからこそ、自分の存在がいやに
薄汚く、それでいて惨めである事が再三と自覚出来ていた。

 そんな相手を見続けると、否応なしに自分自身が愚図だと言う事が
わかってしまうが為に、遮二無二この場から去りたいと言う感情のみが襲う。

 「あんた……あんたも、自分を傷つけるような真似は止めたほうがいい」

 「じゃ じゃあ……」

 そこまでが限界だった。背を向けて一気に走る
早く帰るんだ。あの、もはや自分自身も、俺もわからない母親の元へ。
 そう言えば、もう二日は便が出てない。浣腸液は買い置きしてただろうか?
支払いも滞っている。暴れた所為で壊れた窓も早く修理しないと

 それから、後は 後は 後は 後は。

……俺は、これから何度 やり残した事と処理を考え続けるんだろう。

振り返って、あの女性が見えなくなった事に安堵しつつ。果物ナイフと
 腕に走る赤い雫が脳裏にこびり付いた。

 「……楽になりたいなぁ」

「何時になったら……楽になれるんだろうなぁ」

436斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/06/19(火) 23:18:08
――夏の陽気、じっとりとした湿気が汗ばんだ肌にシャツを貼りつかせ
温い風が通るのを頬に感じられる、雨の匂いは土から乾燥して別れを告げ
蝉の鳴き声はいよいよ持って唸る自販機とタッグを組んで静寂にジャブをかましている。

そして木々の木漏れ日がちらちらと、緑の塗装が剥げかけたベンチに座る首に赤いスカーフを巻いた少年と
隣で丸くなっている赤い首輪を付けた黒猫一匹の顔に降り注いでいた。

「解ってるよクロ『善意』なのはさ、だからこうして散歩にも付き合ってるじゃないか。」

少年の方が渋い顔をしながら何処か尖った口調で喋りながら、公園内を見回している
手首に付けた古めかしい腕時計のゼンマイを巻きながら
――猫の方は……何故か得意げに目を細めているように見える、気がする。

「でも仕方ないだろ?朝起きて顔の傍に『鯉』が有ったら誰だって驚くよ
……魚の『鯉』だぜ?君の頑張りはまさしく『スタ……跡』みたいだけど
むしろマーライオンにならなかったのを褒められたい所だぜ、僕。」

必至に喉から上がる酸っぱさは塞いだが、その後僕が騒いだので勿論お世話になっている叔母に見つかる
結果は僕の不機嫌な様で察してほしいが、この『同居人』は理由なくこういう事はしない奴だ。

「そりゃあ……落ち込んでたさ、父の日に白い薔薇を
母の日にカーネーションを渡すのに、何故か『病室』に行かなくちゃ行けないんだからな。」

病院は嫌いだ、むしろ好きな奴がいるのか疑わしい所だ
健康な筈の自分まで病気の気分になってしまうのが本当に僕は嫌だ
叶うなら僕も全部投げ出してすぐさまお世話になりたい所だ、病名:ファザマザコン。

「――でもさ。」

すっかり温くなった瓶コーラを飲み、一息つく
残念ながら、現実問題困っていても『誰か』はやってくれない
一緒に怒られた猫の散歩一つも、僕がやらなくてはいけない、だから。

「『再確認』だよクロ、解る?『目標の再確認』どんなに辛くても、『人生の目標』があるならそれに進む為に。」

(その為なら過去をほじくり返して、悪戯に傷つくのにも意味が有る。 ……と僕は思ってる
じゃなきゃやってるのはただのマゾヒスト君だ、ゲップを一つ。)

「『きっと明日は、今日よりいい日』さ、だからこうして君の散歩ついでに……探しているんだ
『父と母を治せるスタンド使い』をね。」

僕は元気をプラスチックボトルの切れかけマヨネーズみたいに振り絞り、顔をくしゃくしゃに歪めて笑い猫を撫でる
猫は解っているのかいないのか、目を細めて欠伸を一つ――信じられなくても、信じなくてはいけない。

(……でも 人がいる箇所を探すべきだった気がするな、彼の散歩ついでだから仕方ないけれど。)

ゼンマイを巻きなおした腕に巻き付く『膨大かつ半透明の鎖』が、常人に聞こえない音を立てて揺れた。

437小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/06/19(火) 23:52:35
>>436

空から降り注ぐ日の光は、すっかり初夏の色味を帯びている。
それが、不意に生じた影によって遮られた。
ベンチに座る少年の頭上から、何かが降ってきたのだ。
つばの広い黒い帽子が、綺麗に少年の頭に覆い被さっている。
その直後、足音と共に、少年の背後から穏やかな声が聞こえた。

  「――そこの方……すみません」

  「急に帽子が飛ばされてしまったもので……」

振り返れば、そこに喪服を着た女が立っていた。
ややあって、申し訳なさそうな表情で、丁寧に頭を下げる。
被っていた帽子が飛ばされ、それが少年の頭上に降りてきたらしかった。

  「――……」

腕に巻き付いた鎖――無意識の内に、そこに目がいってしまう。
しかし、それについて言い及ぶことはしなかった。
ただ、その様子を見れば、同じ力を持つ者であることが少年には分かるだろう。

438斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/06/20(水) 01:15:34
>>437

「――?あっ……と」

背後からかけられた優しげな声に、僕は驚きを隠せない
急いで立ち上がって一礼する、だいぶ間抜けな姿。

しかたない、頭が二つあっても目が後ろを向いているわけじゃないんだから。
それよりは笑顔で対応する事と、帽子を返す事だ。

「いえ、風のせいですから仕方ありませんよ な、クロ。」

――猫はそっぽを向いて欠伸を一つ、そうだな君はあの家で僕の先輩かつ空気を読まずに吸う奴だ。
彼女に視線を戻し、肩を竦めて苦笑いをしてみせる、そして頭から取って相手の眼を見ながら彼女の黒い帽子を両手で差し出す
……同時に『鎖』が揺れて音を鳴らす。

「はいどうぞ、お返しします。葬式帰りでこの時期の日差しは辛いでしょうから。」

完璧だ、2つの疑問以外は
探偵でもあるまいし放置すればいいのに。

(そうだ、喪服なんだから葬式の帰り……で、あれ?公園に寄り道をするんだろうか?
お祖母ちゃんは葬式時にしてはいけないと言う人だけど……それに。)

帽子の影が無い穏やかで憂いを帯びた顔、僅かにそよぐ風で揺れる、長い髪をうなじの部分でまとめたアップヘア
初夏の木漏れ日の下で見える……『眼の動き』

(視線が帽子から腕に来て一瞬止まった、この人は『鎖』が『見えている』
 ――『新手のスタンド使い』だ!やった!)

心の中で手を叩いて喜ぶ、目的に近づけるのだから表情にも隠しようがない
クロの奴が招いたと言われても今なら僕は信じ込むだろう。

「あの、聞いていいのならお尋ねしたいのです…が…」

笑顔のままに
すぐに聞こうとして僕は言葉に詰まって目線を泳がせた、『罪悪感』で

――もっと言うと、自分の事しか考えてなかった僕は
口に出した後にようやく『喪服を着た相手の事』に脳が回った。

(……いや、でも遠慮しないと、だって相手は親しい人が無くなって辛い時かもしれないのに。
それに何を聞くって言うんだ?スタンド?経緯?聞きたい事は山ほどある
でも、そんなに人にずけずけと聞くのはいい事か?違う、悪い事だ、やめよう。)

「――貴方は、貴方の『力』を知っていますか?僕と『同じ人』。」

……『同じ人』がスタンド使いだと解るだろうか?
それともしらばっくれるだろうか、何方でも構わな……くはない、必要がある
でも『僕』はどっちつかずだ、迷っている。

(けれど声を優しく感じた理由は解った、顔の憂いと影がまるで西洋人形のようで、この人まるで死んでるみたいなんだ。)

439小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/06/20(水) 18:27:53
>>438

思わず腕の鎖に向いてしまった視線を、再び帽子に戻す。
それから、改めて少年の顔と向き合った。
少年を見つめる表情には、陰を帯びたような微笑みがある。

  「……ありがとうございます」

そっと両手を伸ばして帽子を受け取り、元通りに被り直した。
左手の薬指には、飾り気のないシンプルな銀の指輪が光っている。
それと全く同じデザインの指輪が、右手の薬指にも嵌っていた。

  「はい……なんでしょうか?」

投げかけられた質問が途中で途切れるのを聞いて、
生じた間を埋めるように言葉を発する。
それは、質問をされることに対する肯定の意思表示。
そうすることで少年の背中を押し、彼が質問しやすくするために。

  「――私は……特別に優れた人間ではありません」

  「私にできることは、決して多くありませんから……」

静かに言葉を紡ぎながら、穏やかに微笑する。
柔らかく、人当たりの良い微笑み。
しかし、それは太陽のような笑顔とは違っていた。
どこか月の光にも似た憂いを含んだ微笑。
日差しを遮る黒い帽子の下に、それが存在している。

  「ですが――私は、私の力を知っています」

その声と同時に、左手の中に一振りのナイフが現れる。
質問の答えとしては、こうすることが一番だと考えたからだった。
ただ、これを見せることには抵抗もあった。

自身のスタンドを見られることに対してではなく、この凶器を思わせるヴィジョンが、
少年に不快感を与えてしまうのではないかという不安だった。
少し前、ここで自傷の最中に出会った見ず知らずの男性の姿が頭に浮かぶ。
あの時も、自分の不用意な発言のせいで、
彼に不愉快な思いをさせてしまっていた。

自分の行動が原因で、人の心を傷付けてしまうかもしれない。
内心では、そのような結果になってしまうことが怖いとも思っていた。
しかし、何か理由がありそうな少年の助けになりたいという気持ちの方が、
今は強かった。

440斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/06/20(水) 23:21:43
女性の左手に一振りのナイフ、本来なら警察物だろう……ただしそれが『器物型スタンド』なら話は別だ
『スタンド』は僕が纏う『鎖』のように周囲の一般人には見えない。

それに、自慢ではないけど僕にとっては驚く光景じゃない、奇妙だが少し見慣れた光景だ。

「――まずは質問に答えてくださって、有難う御座います。」

彼女の『スタンド』を見て『何でも無いよ』と言う風に受け流し、微笑む
返答へのお礼を言う、左手を首元に、安心するために無意識に『短くなった母のマフラー』を触る。

(嫌いだ、つまらない、押し殺す、もどかしい、でも必要だ。)

――左手を戻す、楽な姿勢に。
今すぐにでも質問攻めにしたい、でもそれはいけない事だ
頭の中が蝉の鳴き声と思考で酷く騒がしい、汗が頬を伝っている気もする。

「自己紹介が遅れました
 僕の名前は斑鳩、『斑鳩 翔』貴方は『短剣』なんですね……えっと。」

言外に後押しはしてくれているのかもしれない
それでもやっぱり言葉に詰まるのは『鎖』のせいだろうか。
――スタンドは使う人間の『精神』だと言う、その姿形も似るだろう。

「……あ、座りませんか?僕とお話を続けてくれるなら、ですけど。」

名前を聞きながらベンチに座る事を促してその間に考えよう
夏の暑さと歓喜に茹だったこの時の僕の考えだ。

隣の猫(クロ)は退く気が無いので、僕は立ったままだが仕方ない
それに、あまり良くない質問をこれからしなきゃいけない。

(落ち着いて……する事は1.僕の両親を治せる能力かを聞く。2.他のスタンド使いを聞く。
 ――ぼかして聞かないといけないかな、何て言おうか。)

……夏の日差しが差し込む中、木漏れ日が差すベンチの上で猫が貴方の事を見つめる
目の前の少年は一つ深呼吸をした。

441小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/06/21(木) 00:31:17
>>440

この少年には、どこか思いつめたところがあるような気がした。
もちろん、それは単に自分がそう思っているだけかもしれない。
ただ、少年の真剣な態度からは、思い過ごすだと言い切れない何かを感じていた。

  「私は……小石川文子です」

  「――はじめまして……」

少年の内面にある葛藤を察して、自身の名前を告げた。
そして、また軽く頭を下げる。
その間も、表情は穏やかなままだった。

  「ご一緒にお話ができるなら……私は嬉しく思います」

  「一人で歩いていて、少し寂しさを感じていたところだったので……」

そう言って、口元に柔和な微笑を浮かべる。
それは、偽りのない本心からの言葉だった。
普段、自分は静かな場所を好んでいる。
でも、時々どうしようもなく物寂しくなることがあり、
そんな時は無性に誰かと話をしたくなる。
今も、ちょうどそんな気持ちだったのだ。

  「――お気遣い、ありがとうございます」

  「よろしければ……私は、こちらに座らせていただけませんか?」

お礼を言ってから、ベンチが設置された歩道から少し外れた芝生に立つ。
新緑の上に白いハンカチを敷いて、そこに腰を下ろした。
今の少年の様子を見ていると、立ったまま話し続けるのは辛そうに思えた。
自分は、どちらかというと暑さには強い方なので、熱気をそれほど厳しく感じない。
だから、一人しかベンチに座れないのなら、彼が座る方がいいと考えたのだ。

  「どうぞ、ご遠慮なく――」

  「私にできることは多くありませんが……できる範囲で、お答えします」

木漏れ日の下で、少年に向けて微笑む。
左手には、まだ『ナイフ』が握られている。
それを消さないのは、そうした方が少年の希望に沿えると思ったからだ。

442斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/06/21(木) 02:41:10
>>441

「有難う、小石川さん。」

笑顔のままに感謝を言う斑鳩の眼には、小石川の両指の結婚指輪が嫌でも視界にちらついた
力を持てばそれを狙う人間は少なからずいるのだ、平穏を望むならば持たないほうが良い
――故に斑鳩には『ナプキンを取った理由』が何処か想像がついた気までしてきた。

(喪服、結婚指輪、前に会ったスタンド使いは両目のせいなのか感覚に関するスタンドだった。
彼女がスタンドのナイフを持っていて、僕に親身に話を聞く理由……)

「――スタンドには固有の『能力』が有ります、貴方もご存知の通り
僕が知りたいのは、貴方の『能力』が誰かを治せる類かという事なのです。」

真っすぐと相手の眼を見て答える、小石川文子の憂いを湛える瞳を見て
その奥に死を垣間見ている気すらしてくる、彼女が共感したのは僕と同じような目に合っているからだ
――『呪われている』過去か、人か、頭の片隅にそんな言葉がよぎる。

(何を馬鹿な……僕の想像のし過ぎだ、それとも僕の『スタンド』のせいなのか。
 こんな事を表情にだけは出したくない、笑顔のままでいないと。)

指を折り、拳を作り、また開く

合間に夏の喧騒と、遠くで子供の元気な声が聞こえる数人で遊んでいるのだろう
それらが耳に入らず、彼女が芝生に座っても気に出来ない程には焦っている

数度繰り返して続けて、やっと口を開く。

「代わりに僕の『スタンド』を知りたいと言うなら教えます
 ……それでも聞きたいのです。」

(……そして可能なら、僕の両親を治して貰いたい
我ながら砂漠で砂金粒を探すような賭けだが、これ以上に確率の高いギャンブルが無いから仕方ない。)

443小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/06/21(木) 20:17:33
>>442

人知れず悩む少年の姿を見つめる瞳に、気遣いの色が浮かぶ。
しかし、今は気軽に声を掛けるべきではないと判断した。
黙って少年の言葉に耳を傾け、やがて小さく頷いた。

  「……よく分かりました」

短く答えてから、おもむろに左手を軽く持ち上げる。
そして、何気ない動作で右手の親指を切り落とした。
普通なら指は地面に落下し、切り口から滴る鮮血が芝生を赤く染めているだろう。

  「『スーサイド・ライフ』――」

しかし、実際には、そのどちらも起きてはいなかった。
血は一滴も流れておらず、切断された指は重力に逆らうように宙に浮かんでいる。
自身の表情にも、痛みを感じている様子は全く見られない。

  「私は、そう呼んでいます」

不意に、手中からナイフが消える。
それと同時に、浮遊していた指が灰のように崩れ去った。
欠けていた親指が、徐々に元通り再生していく。

  「……私にできることは、これだけです」

  「――ごめんなさい……」

謝罪の言葉と共に、静かに目を伏せる。
『スーサイド・ライフ』に、誰かを癒す力はない。
考えてみれば、それは当然のことかもしれない。

自らの命を絶つことを望む衝動と、それに抗い生きようとする意思。
その相反する葛藤の狭間から、『スーサイド・ライフ』は生まれた。
人を治すことのできる力など、持てるはずがない。

少年のスタンドのことを聞き出そうという意思はなかった。
質問されたとはいえ、こちらの能力を教えたのは、あくまで自分の意思だ。
だから、引き換えに少年の能力を教えて欲しいという気持ちは持っていなかった。

444斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/06/21(木) 23:28:46
僕は正直な所、自分で頼んでおいて予想外に動揺していた
何せ目の前の優しそうな女性がいきなり自傷行為をするのだ。

……素直に見せて貰えるとも思っていなかったし
何よりギャップのせいで悲惨かつショッキング&ヘビーだ。

「……ええっ!?」

それでも目は釘付けになる、なにせ斬られた指が『宙に浮いている』のだ
そして一滴の血も流れず、『スーサイド・ライフ』を消すと共に灰の如く崩れ消え去る

「『スーサイド・ライフ』……。」

(器物型のスタンド、能力は切断部位の空中浮遊と操作かな、分離して動かしたりできそうだ
でも、残念ながら治す能力では無かった……。)

一瞬眼前に眩暈を覚え、視界が暗転しかけるが、すぐに失望を振り払うかのように顔を振る

(……大丈夫、僕は大丈夫 勝手に期待して勝手に失望してるだけさ
もう10回は繰り返しているんだ、人間慣れる生き物だからね!)

「――あ、いえ 謝らないでください
もう何回も繰り返した事ですし、貴方に非が有る事では有りませんから。」

事実、この人に非があるわけでは無いのだ
もし有る等と言えば、僕は生まれつきの肌色等で差別する連中と同じになってしまう
両親にも顔向け出来ない、どれも嫌だ、故に頭を下げさせてはいけない。

「そんなに深く頭を下げられたら、なんだか僕は申し訳なくなってしまいます。
僕は大丈夫ですよ、教えて頂いて有難う御座いました。」

そう言いながら朗らかに笑顔で返す
この人に暗い顔を向けてはいけない気さえするのだ。

「自分の都合なのに親切に答えて頂いて、それで暗い顔をさせては
 僕の両親にも、祖父母にも顔向けできませんから。」

445小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/06/22(金) 00:21:44
>>444

謝らないで欲しいという言葉を聞いて、また頭を下げそうになるが、
途中で思い止まった。
これは自分の悪い癖なのかもしれない。
良かれと思ったことでも、相手を不快にしてしまう時もあるのだから。

  「――はい……」

頭を下げる代わりに微笑を送る。
自分が笑うことで、この少年が笑ってくれるのなら、
それが一番いいと思った。
思いつめた様子の彼に、気を遣わせては申し訳ない。

  「お差し支えなければ……連絡先を教えていただけませんか?」

自分には人を治せる力はない。
それでも、できることがある。
ほんのわずかな助けかもしれないけれど。

  「もし……治せる方を見つけたら――」

彼が治せるスタンド使いを捜し求める理由は知らない。
だけど、きっと大切な誰かを治したいのだろう。
その気持ちには、大きな共感を覚えた。

  「その時は、お知らせします」

もし自分と少年の立場が同じだとしたら、私も同じ行動を選ぶだろう。
私にも、大切な人がいた。
『生きて欲しい』という彼の最後の言葉を守るために、
私は今を生きている。

  「私にできるのは、それくらいですから……」

だからこそ、この少年の助けになりたいと思った。
自分と少年に似ている部分があると感じられるから。
心の中で思いを重ねながら、穏やかな微笑みと共に言葉を告げた。

446斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/06/22(金) 03:17:14
小石川文子は笑顔を見せた
そして協力を言い出している。

(……いいのだろうか。)

やめておくべきではないだろうか
『溺れる者は藁をもつかむ』という言葉が有る。

僕は今溺れている、掴んでいる『スタンド』すら不確かな物だ。
……それに巻き込む?

この人を傷つけてでも手を払うべきだ
既に傷ついている筈なのに、あまりに『献身的』過ぎる。

僕はあまりに必死に見えたかもしれない
それでも理由すら聞かずに小石川文子は言うのだ。
「助けてあげたい」と。

僕の求めは、この人を潰す事になる可能性が無いと言えるのか
そして潰した時に僕がその責任を取れるかと言われれば、否だ。

(僕は責任を取れない、受けるべきではない。)


頭を下げて、申し訳なさそうに断りを……

「――有難う御座います小石川さん、何から何まで。」

「『これが僕の連絡先です』……何故だかやっと笑顔が見れた気がしますね。」

そう言いながらにこやかにスマートフォンを取り出して、番号を相手に見せる。

――いいや、もう決めた事だ、もう一度息がしたいだけだ
弱い僕はその為なら何でもする、でなければ僕は死んでいる
携帯を差し出す時に斑鳩の『鎖』が、消えた瞬間にまた少し音を鳴らす。

「…でもこれでは助けて貰うばかりで、…そう、何か僕に手伝えることは有りませんか?
『帽子を拾う以外』で。」

それを後から付け足すように口から絞り出すのが
僕の『りょうしん』の精一杯だった。

447小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/06/22(金) 18:53:26
>>446

何事もないように言葉を返す少年の瞳を、ただ静かに見つめる。
鎖の少年――斑鳩翔が、何を考えているかは分からない。
人の考えていることが分からないのは当然だ。

  「――……」

しかし、その様子から心の機微を感じ取ることはできる。
おそらくは彼も、こちらの機微を感じ取れるのと同じように。
それは、どこか共通点のようなものがあるせいかもしれない。

  「……ありがとうございました」

見せてもらった番号を自分の携帯電話に打ち込み、謝辞を述べる。
それ以外、少年の心に踏み込むような言葉は口にしない。
その後で、今度は自分の番号を少年に見せた。

  「――私の連絡先です」

  「何かお聞きになりたいことがあれば……」

判断する権利は、この少年にある。
もし拒否されたとしたら、素直に引っ込めるつもりでいた。
やり取りを済ませてから少年の申し出を聞き、俯いて少し考える。

  「……では、何かお話をしていただけないでしょうか?」

  「斑鳩さんのことや、この町のこと……何でも構いません」

  「今は、一人でいることが寂しい気分なので……」

顔を上げて、少年の問い掛けに応じる。
嘘ではなかった。
最初に彼の話を聞こうと決めたのも、それが理由だったのだから。

空の上には、抜けるような初夏の晴天が広がる。
その下に生じた木陰の中に、二人の輪郭が浮かび上がっている。
子供達が遊ぶ声と虫の音が、遠くに聞こえた――。

448斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/06/23(土) 05:17:52
蝉が騒ぎ、遠間で子供が屈託なく笑う
ある夏の一日に出会った人は影のある女性だった

「――はい。」

その表情は何処か寂しそうに憂いを湛えていたけれど
同時に優しさに溢れていたのだと

「喜んで、それなら最近のこの町で出会った――……」

この奇妙な出会いと関係に
僕は感謝し、何時かの希望を手放さないように祈るのだ。

この冒険の無事を。

449今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/06/28(木) 17:41:49

夕暮れの湖畔にいた。ピクニックの帰りだった。
友達は塾で先に帰って、レジャーシートや食べ残しを片付けていた。
人気の動画配信者がゴミ拾いをしていて、それに少し影響されて、
自分が出したごみ以外でも触って平気そうなものは拾ったりしていた。

        『イイ心ガケ デス。先生ハ感心シテイマスヨ』

「先生も片付け手伝ってくれればよかったのに」

        『先生ハ 食ベタリ 飲ンダリ シテマセンノデ』
        『自分ノゴミハ 自分デ 処理シマショウ』

「まあ、わかってますけど。試しに言ってみただけです」
「猫の手も借りたいというやつでして」「先生は猫じゃないけど」

「それじゃ、帰りましょうか。でも、まだ明るいですね。もう夏ですねえ」

           『明ルクテモ 夜ハ 夜デスカラ』『不審者ガ出マスヨ』

最後にシートを包んでカバンに詰めて、水筒の残りを飲み干した。
その時ふと顔を上げて、本当に不審者がいたら嫌だなと思って周りを見渡した。

450美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/28(木) 19:26:36
>>449

向けた視線の先に、一つの人影があった。
キャップにスタジャン、ジーンズにスニーカーでコーディネートした、
メンズライクな『アメカジファッション』の女だ。
何かを探しているらしく、森の方に双眼鏡を向けている。

「――しまった。見失っちゃったなぁ……」

やがて双眼鏡を下ろし、辺りを見渡す。
移動する目線が、少女の傍らに佇む人型スタンドに向けられた。
その様子から、『コール・イット・ラヴ』が見えていることが分かるだろう。

「……ん」

バードウォッチングの途中、先程まで見ていたメジロを探していた。
メジロを見失った代わりに、思いがけずスタンドを見つけてしまった。
一応、自分以外のスタンドを見たことはある。
ただ、いきなりスタンドに出会うという経験をしたことはない。
さて、どうするべきだろうか。

(とりあえず――挨拶するのが良さそうね)

「こんにちは。それとも、この時間だと『こんばんは』かしら?」

「この辺は『ちょっとしたアウトドア』をやるには良い場所よね」

明るい口調で気さくに声を掛ける。
そして、少女のいる方向へ歩いていこう。
警戒されるってことも考えられなくはないから、少しずつ近付いていく。

451今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/06/28(木) 20:23:55
>>450

「え? あ、私ですか」「えーと」
「こんにちは、で良いと思います。夜って気がしませんし」

いきなり話しかけてきたのは驚いたけど、なんだかカッコいい人だ。
こういうの『アメカジ』って言うんだよね。私じゃ似合わないかも。

              『…………』

「そうですね、湖もありますし」「場所も広いですし」
「ちょっと虫が多いのが困りますけど」「アウトドアならフツーかも」

先生は私の少し前に出ている。警戒してるのかな。
見えてないと思うから良いけど、不審者扱いしてると思われるかも。 

「お姉さんもアウトドアですか? 双眼鏡持ってますし」
「当ててみます」「……フツーに考えたら、『バードウォッチング』とか?」   

なんで話しかけて来たのかは分からないけど、ちょっと会話を広げてみる。
無視して帰るほど疲れてないし、もう少しこの湖畔にいたい気持ちもあった。

452美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/28(木) 21:15:49
>>451

少女とスタンドの少し手前で立ち止まる。
スタンドが前に出ているということは警戒されているのかもしれない。
声を掛けてはいるが、こちらとしても不安を与えたくはなかった。

「当たり。『メジロ』を見てたんだけど、見失っちゃってね」

「目の周りに白い輪がある小鳥よ。綺麗な声で囀るの」

『チャンネル7』に自我はない。
そして、自分が見たスタンドも自我は持っていなかった。
だから、少女のスタンドに自我があるという考えは頭になかった。

「『あなた達』は――『ピクニック』ってところかしら?」

ちらりと横目で『コール・イット・ラヴ』に視線を向ける。
それから『プラン9・チャンネル7』を発現した。
マイクとスピーカーを備えた『機械仕掛けの駒鳥』が、肩に止まっている。

「――あら?こんな所にも『小鳥』がいたわ。なぁんてね」

少女にクスリと笑いかける。
これで警戒が緩んでくれたらいいんだけど。
さて、どうかしらね。

453今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/06/28(木) 22:22:20
>>452

「へえ、私鳥って詳しくないですけど、メジロは聞いた事あります」
「『ピチュチュチュチュ』みたいに鳴くんですよね」「違ったかな」

本物を見たとか、そういう記憶はないけどテレビで聞いた気がする。
それにしても、バードウォッチングなんて文化的な趣味だと思う。

「達? まあさっきまでは4人いましたけど」
「そうでしたよ。良い天気で、ピクニック日和でした」
「サンドイッチとか交換したりして……」

          『今泉サン コノ人ニハ 見エテマスヨ』

「……ああっ。そういう『貴方達』だったんですか」
「ほんとだ、『鳥』――――そういう『スタンド』もあるんですね!」
  
          『〝人型〟ダケデハナイ トハ 思ッテマシタガ』
          『〝動物〟モ イルンデスネ』『新発見デス』

先生から指摘されて、気づいた。肩の上の鳥を見てもっとはっきりわかった。
スタンド使い。フツーじゃないけど、フツーに町中にいる。ちょっと変わった存在。

「それにしても、かなり好きなんですか? 鳥」

見た目がどういう意味なのかは分からないけど、趣味が鳥でスタンドも鳥だとそんな気はする。

454美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/28(木) 23:20:55
>>453

「アハハハ。驚かせちゃったみたいで、なんだかごめんね。
 その――『あなたの』が出てるから、それが気になって」

そこまで言ったところで、
少女とスタンドが別々に喋っていることに気付いた。
まるで、そこに二人の人物がいるかのようだ。
その様子から、『コール・イット・ラヴ』が自我を持っているらしいと察した。

「そう聞くと、『人型』が多いのかしら?
 私は、こういう人の形をしているスタンドは初めて見たわね」

「最初に見たのは『妖精』で、その次に見たのは『ピストル』だったわ」

喋っている途中で思い出したことがある。
そういえば、この場所で最初に見かけた妖精のスタンドも、
自我を持っているようだった。
多分、この少女のスタンドも同じようなタイプなんだろう。

「一緒にお話ができるっていうのは、私が見た『妖精』と似てるわね。
 私の『小鳥』は囀ってくれないから、ちょっと羨ましいな」

「鳥は好きなんだけど、バードウォッチングを始めたのは割と最近なの。
 この子は、こんな形してるけどね」

肩に乗る小鳥に目をやる。
『機械仕掛けの駒鳥』は動くことも鳴くこともない。
まるで小さなオブジェのように佇んでいる。

「『趣味』でもあるし『仕事』でもあるって感じかな。
 なにせ私自身が鳥みたいなものだから。
 鳥は囀る。そして、私も囀ってる。『電波の止まり木の上』でね」

『プラン9・チャンネル7』のマイクとスピーカー。
それらが、私の仕事場であるラジオ局を思い起こさせる。
私にとっては、とても馴染み深いものだ。

455今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/06/28(木) 23:55:25
>>454

「いえいえ、私の方こそ驚かせちゃったみたいで」
「私の方というか」「先生が勝手に出たんですけども」

        『モウソロソロ 帰ル時間デスノデ』

「なんだか、目覚ましのアラームみたいですねえ」

        『アラームトハ 違イマスヨ』
        『鳴ルマデニ 帰ルノガ一番デスカラ』

            『……トモカク 驚カセタヨウデ』
               『ドウモ スミマセン デシタ』

               ペコリ

先生が頭を下げる。やっぱり、礼儀正しいと思う。
それがフツーなのかな? そうでもないような気もする。

「それにしても、妖精にピストルですか……」
「そうなると、私やユメミンみたいに人型が珍しいのかな」
「私以外で、勝手にしゃべるって人も見たことないですし」

        『…………』

「フツーじゃないのかもしれませんねえ」

        『コレダケ 不思議ナ 存在ナンデスカラ』
        『コレ トイウ 〝基準〟ハ 無イト思イマスヨ』
        『〝先生〟ガ言ウノモ ナンデスガ』

「そうかな、それならいいんですけど」

肩の鳥を見る。機械みたいで、生きている鳥とは全然印象が違う。
部屋に飾ってたらお洒落な感じだ。こういうのどこかに売ってないかな。

「貴女自身が? えーと、声がキレイって話でしょうか?」
「電波の止まり木……ってことは、実は『ユーチューバー』だったり?」
「あっ。それとも、どこかの地方局のアナウンサーさんとか?」

よくわからないけど良い声だと思うし、そういうお仕事をしてる人なのかな。
フツーの人とはちょっと違う感じがする。そう思ってるからそう感じるだけかも。

456美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/29(金) 00:48:17
>>455

「あら、これはご丁寧に。
 私の方こそ、いきなり話しかけちゃってごめんなさい。
 警戒させちゃったでしょ?」

『先生』と呼ばれるスタンドにつられて、お辞儀を返す。
実際に警戒していたかは分からないが、そんな雰囲気も感じた。
もしかしたら、私の勘違いかもしれないけど。

「あ、ひょっとして私のこと怪しい人だと思ったんじゃないの〜?
 なぁんてね。アハハハ」

「突然知らない相手に声を掛けられたら何かと思うわよねぇ。
 相手が男の人だったら『ナンパかな?』って思っちゃうわ。
 内心ちょっとされてみたいなぁ――っていうのは冗談だけど」

サバサバした調子の明るい声で話し、そして笑う。
よく通る澄んだ声だった。
『ボイストレーニング』とか、
そういった専門的な訓練を積んでいることを思わせる声色だ。

「そうね、『人の数だけ個性がある』って言うし。
 『スタンド使いの数だけスタンドがある』っていうのも、
 あながち間違いじゃないかもね」

自分のスタンドと少女のスタンドを見比べてみて思う。
外見も中身も全く違う。
それは、私と彼女との違いでもあるのだろう。

「惜しいんだけど、ちょっと違うわね。
 かなりイイ線いってるんだけど」

ポケットから名刺入れを取り出す。
そこから一枚の名刺を取り出して、少女に差し出す。

「これが私の『正体』よ。大したもんじゃないけどね」

『放送局名』や『放送時間』、『連絡先』といった情報と一緒に、
以下のように記されている。

『――あなたの傍に電気カナリアの囀りを――

    【 Electric Canary Garden 】

          パーソナリティー:美作くるみ』

番組名の下には、
『電源コードの付いた丸みのある小鳥』のイラストが添えられていた。
『電気カナリア』という名前も小さく書かれている。
それが番組のイメージキャラクターだった。

「よければ、あなたのお名前も教えてくれる?
 『先生』を連れたお嬢さん。
 それと、『先生』の名前もね」

457今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/06/29(金) 01:45:58
>>456

「先生は心配性なんですよ」

           『〝先生〟デスノデ』
           『少シ 警戒シマシマイマシタ』
           『杞憂ダッタヨウデ スミマセン』

「私からもごめんなさい、こういう先生でして」

        ヘヘ

「私は怪しいとか思ってなかったですから」
「フツーに、オシャレな人だな〜ってくらいで」

なんて調子のいいことを言ったりもする。
実際、知らない人がみんな怪しいなんてことない。
いきなり話しかけてくる知らない人は……
驚きはするけど、怪しいとはちょっと違うかも。

「うーん、そういうものかもしれませんねえ」
「っと、名刺ですか」「私持ってなくて」「名刺入れも」
「あとで財布にでも入れときますね、どれどれ……」

名刺を眺める。放送局、ってことはアナウンサー?
でも聞いたことのないチャンネル。もしかしてこれって。

「えーと、ラジオのパーソナリティーさん!」
「って呼び方でいいんでしたっけ」「『DJさん』?」
「わーっ、有名人に会っちゃった……」

           イマイズミ ミライ
「あっ、私ですか。『今泉 未来』です!」
「一応、清月学園に通ってまして」「高1です」
 
                コール・イット・ラヴ
           『〝世界はそれを愛と呼ぶ〟』
           『呼ビ方ハ オ任セシマスガ』
           『〝先生〟デモ 名前デモ アダ名デモ』

自己紹介を返す。ラジオの人って、フツーじゃない。
私は、フツーでいいんだけど、ちょっとだけ憧れる気もする。

458美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/29(金) 20:36:49
>>457

「アハハ、そこまで有名って程でもないわ。
 まぁ、なんというか、そこそこね」

番組の公式サイトに顔は載っている。
だから、それを見た人は知ってるし、見ていない人は知らない。
大体そんな程度だ。

「私はパーソナリティーって名乗ってるけど、どっちでもいいわよ。
 ただし、私はターンテーブルは扱わないけどね」

「『クラブのDJ』じゃないから」

冗談交じりに言って、軽く笑う。
そして、考えるように顎に手を添える。
思考の糸に触れたのは清月学園という部分だ。

「清月――この前、ラジオで話した子も清月生だったわ。
 その子は高二だったかしら。
 やっぱり、この辺は清月生が多いのね」

「未来さんね。
 それから、そちらが『コール・イット・ラヴ』――素敵な名前ね」

「私の名前は――そこに書いてある通りね。
 代わりに、この子の名前を教えてあげるわ」

「『プラン9・チャンネル7』――それが、この『小鳥』の名前よ」

相変わらず小鳥は鳴き声を上げず、身動ぎ一つしていない。
流暢に言葉を話す『コール・イット・ラヴ』とは対照的だ。

459今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/06/29(金) 23:10:07
>>458

「そうなんですか? じゃあパーソナリティさんで」
「DJってもうちょっとワルそうなイメージですし」
「ちょっと偏見かな……」

           『偏見デスヨ』

「偏見ですか、それはごめんなさいですね」
「悪いというか、パリピって感じ?」

悪口とかじゃなくてイメージの話だ。
悪いのがダメだとは思わないし。私は悪くなる気はないけど。

「このあたりはまあ、清月小中の校区ですから」
「公立に行ってる子もいますけど」「ま〜少ないです」
「高2って事はセンパイですね、もしかしたら知り合いかも」

ラジオ好きな知り合いもいたような気はする。誰だったかな。
今までそんなに興味のあるジャンルじゃなかったから聞き流してたかも。

           『オ褒メノ 言葉 感謝シマス』
           『貴女モ 綺麗ナ名前ヲ シテイラッシャル』

「へえ、『プラン9・チャンネル7』さんですか!」
「なんだか賢そうな名前ですねえ」「宇宙っぽいというか」
「それにしても静かですね。って、喋らせてないならフツーなのか」

動かず、喋る事もない鳥のヴィジョンを少し眺める。
人のスタンドをゆっくり見るのはドクター以外だと初めてかも。

「ちなみに、くるみさんは『和国』さんのところで貰ったんですか?」
「あ、スタンドの話です」「私はそうなんですけど」「他にもあるみたいで」

460美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/30(土) 00:23:23
>>459

「宇宙、ねえ。そんな風に思ったことはなかったけど、
 言われてみると、そんな気がしてきたわ」

「新しい発見ね。ありがとう」

そして、聞き覚えのない単語が耳に飛び込んだ。

「――『和国』?いえ、違うわ。
 そんな場所もあるのね。私は『音仙』という所だったわ」

「他にも同じような場所があるなんて考えたこともなかったわ。
 『コール・イット・ラヴ』は、そこで生まれたというわけね」

「私としては、この手の話がラジオで使えないのが惜しいわねぇ。
 内容は、すっごく面白い話なんだけど。
 残念ながらトークのネタにはできないわね、アッハハハ」

「実を言うとね、今は静かだけど、この子もお喋りできるのよ。
 見せましょうか?」

そう言って、不意にスマホを取り出す。

「あ、ごめんね。ちょっといいかしら?」

「もしもし?ちょっと聞きたいことがあるんだけど、教えてくれる?」

少女に断ってから、スマホを口元に持っていき、
まるで電話の向こうの誰かと通話しているかのように声を発する。
だけど、実際は違う。
『小鳥』の背中にあるマイクが、私の声をキャッチして、スマホに送る。

「ええとね――今、『何が見える』?」

ごく何気ない口調で、簡単な質問を投げ掛ける。
それに対応して、『小鳥』の口にあるスピーカーから、
『読み上げソフト』のような機械的な音声で、質問の答えが返ってくる。

『シゼンコウエン ガ ミエマス。
 チカク ニハ ショウジョ ガ ヒトリ タッテイマス。
 ショウジョ ノ トナリ ニハ スタンド ガ イルヨウデス』

その姿は、まるで『小鳥』が喋っているように見えた。
しかし、本当に喋っているのは、手に持っているスマホだった。
擬似的な『自立意思』と『視聴覚』を与えられたスマホの声が、
『小鳥』のスピーカーから出力されているという仕組みだ。

461今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/06/30(土) 01:32:36
>>460

「いえいえ、どういたしまして」
「うーん、くるみさんも『音仙』ですか」
「私も『和国』しかないと思ってたんですけどね」
「前に友達に聞いて、『音仙』って人もいるって聞きました」

一度探してみたが、それらしい店は見つからなかった。
二人も同じ名前を挙げるって事はこの町にあるんだろうけど。

「確かに、フツーの人に話しても『作り話』だと思われそうですもんねえ」
「え、喋れるんですか」「あーでも、友達のスタンドも少し喋ってましたね」

などと言いつつ様子を見守っていると、小鳥がしゃべりだした。
スマホを使って自分のスタンドと話す、そういうのもあるんだ。

「へーっ」

               『先生ト今泉サンノ コトデスネ』

「なんだか『音声案内』みたいですね」
「見た目が機械ですし、意外とかではないですけど」
「スマホで連絡できるスタンドって、ちょっと新しいですね」

遠くにあるものを見て来てもらったりも出来るのかな。
見た目が鳥だし、もしかしたら飛んだりもできるのかな。

スタンドはフツーじゃないから、いくらでも想像出来る。
フツーなことのほうが想像するのって難しいのかも。

「そうだ、私も『プラン9』さんと話したりとかって出来ます?」

462美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/30(土) 21:38:38
>>461

「『音声案内』ねえ。それは的確な表現ね」

「ほら、口の中にスピーカーが見えるでしょ?
 ここから声が出てるってわけなの」

「背中にあるのはマイクよ。
 これが私の声を拾ってるの」

「実を言うと、このスマホを通して喋ってるわけじゃないのよ。
 『今、何が聞こえる?』」

スマホを下ろして、再び質問する。
それに対して、また答えが返ってきた。

『カゼ デ クサバナ ガ ユレル オト ガ キコエマス。
 トオク デハ トリ ガ ナイテイマス』

その場にしゃがんで、揺れる草葉を軽く撫でる。
そして、すぐに立ち上がった。

「――こんな風に、ね。
 でも、このスマホが全然関係ないわけじゃないのよ。
 これがあるから、今『プラン9』はお喋りできてるの」

                        フ ァ ン
『プラン・チャンネル7』は音響機器を『支持者』に変える能力。
音響機器がなければ、それこそオブジェと変わらない。

「お話できれば楽しかったんだけど、
 『プラン9』は私の声にしか反応しないのよ」

「未来さんの『コール・イット・ラヴ』みたいに自分から喋ることもないしね。
 質問に答えるのが専門だから」

「『コール・イット・ラヴ』は何か……あら?」

言葉を途中で止めて、指先に視線を向ける。
さっき葉に触れた時に切れたらしく、指の腹に小さな傷ができていた。

463今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/06/30(土) 22:51:08
>>462

「へー、流石ラジオのパーソナリティさんですねえ」
「質問に答える専門っていうのも、なんとなくラジオ番組みたいです」

ラジオ番組に詳しいわけじゃないけど、イメージとして。
聞いてる人……リスナーがハガキを送ってそれに答えるイメージがある。

「その点、先生はそんなに――」

      シュルルルル

         『"補修"ヲ 開始シマス』

「あっ、始まっちゃった」「指、切ってたんです? 大丈夫ですか?」
「えーっと、先生はですね、『傷』とか『壊れたもの』を直して回るんです」
「直そうとする基準はよく分からないところもあったりするんですけど」

先生の手で、有無を言わせずマスキングテープが巻かれていく。
剥がせば元どおり。フツーじゃない。けれど、もう驚きはしない力。

「そういうちょっとした傷なら、すぐに直してくれちゃいます」

            『……治スカラトイッテ、怪我ヲシテイイワケデハ ナイデスガ』
            『モシ 怪我ヲセザルヲ 得ナイナラ 先生ガ治シマス』

「頼もしいです、先生」「私も怪我する気は無いですよ」
「……っと、そろそろ流石に行かなきゃですかね」

            『ツイ 話シ込ンデ シマイマシタネ』

「楽しかったので、仕方ないですよ」
「くるみさん、今日はありがとうございました!」
「偶然だったけど……話せて楽しかったです」

荷物をまとめて、そろそろここを離れる準備をしておく。
話すのは楽しいけど、そろそろ暗くなり始めてる気もするし。

464美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/30(土) 23:45:06
>>463

「へえ!すごい!」

一瞬で元通りになった指を見つめて、感嘆の声を上げた。
やはりというか、自分とは全く違ったタイプのスタンドのようだ。

「うっかり怪我をしたり物が壊れることって、
 普段の生活でも結構あるものね。
 随分と実用的で羨ましいな」

「それについて、もう少しお話を伺いたいところだけど――
 今日はそろそろお開きの時間みたいね」

キャップのつばを持ち上げて、沈む夕日に視線を向ける。
暗くなってきたし、私も帰ることにしよう。

「こちらこそ、ありがとう。未来さんと話せて楽しかったわ」

「『音仙』で聞いたんだけど、スタンドを持っている人同士は、
 引き合う性質があるそうよ。
 もしかすると、またどこかで会うこともあるかもね」

「それじゃ、未来さん――」 「それから『コール・イット・ラヴ』にも――」

      「――『See You Again!!』」

笑顔で片手を軽く振り、別れの言葉を送る。
そして『プラン9・チャンネル7』を肩に乗せて駐車場の方に歩いていこう。
そこに愛車のスクーターを停めてあるのだ。

他のスタンド使いと出会うことは、自分のプラスにしていきたい。
ただ、トークのネタに使えないのが残念だけど――。
だけど、自分と同じような人と出会えたことで、
明日も頑張ろうって思えるのは良いことよね、きっと。

465今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/07/01(日) 01:10:55
>>464

「便利遣いするなって、先生は言うんですけどね」

          『必要ノナイ時ニ 乱用スベキデハ ナイデス』

「減るものじゃないんだし、とは思うんだけど」
「先生がそう言うなら、まあ」
「確かに、自由に使えたら物を壊しやすくなっちゃいそうですし」

先生の直す力はどこまでできるのか分からない。
だから、自由に使えたらどこまででもやってしまう気がする。

・・・そんなに欲が深いってつもりじゃないけど。フツーだけど。

「引き合う、ですか? 磁石みたいに」
「何だかロマンチックな話ですねえ」
「でも、信じてみたいです。また会いたいですし」

            『エエ ゼヒ マタ』

「くるみさん、さようなら〜」
「今度はラジオのお話とか聞かせてくださいね!」

             ブン  ブン

「………………」

大きめに手を振って、学校から帰る道のりに戻る。

ここから歩き出す前にスマホを取り出して、『美作』って調べて、
ようやくそれが『ミマサカ』と読むと知って、少し安心したのは内緒。

466ココロ『RLP』:2018/07/21(土) 05:14:31

湖畔公園――――この季節に長居するのは流石に堪えるけど、
冷房がガンガンに掛かった家でピアノを教えている時間と同じくらい、
ここで過ごす時間は良いものだ。水は冷たいし……冷たいし……

          ……水はまあ、冷たいけども。

(あ、暑いわ……! 水は冷たくっても頭が暑いわ…………
 夏ってそういう季節だもの、し、仕方ないけど……
 日よけの帽子をかぶってるのに、まだ暑いなんて…………
 こ、木陰に入っても、暑いものは暑いし……って、
 な、なんだか、木陰が悪いみたいな言い方だけど……
 違うわよ、木陰は私の避暑の為にあるんじゃないし…………)

             (…………)

      (い、いくらなんでも……猛暑すぎるわ…‥……!
        ゆ、油断していた私が悪いとはいえ…………!
         も……もう少し、手心とか……な、無いわよね)

  キュルキュル

         キュポン

「ふぅ…………」

(それでも……す……スポーツドリンクをたくさん入れてきてよかったわね……
 いつもの調子で、少し濃く淹れたミルクティーなんかにしてたら、今頃…………
 や、やめましょう。ふ、不謹慎だわ……こんな妄想。でも私が今その暑さに直面しているし)

(も、妄想というより……私、暑さでやられているんじゃ……!?)

足を水に着け、水筒を傾ける。
もちろん水に入っていいエリアでやっている。
そういうので怒られるのは嫌だし、迷惑だからだ。

(は……早く帰りましょう、こんな日は早く帰って長めにお稽古をする方が良いわ。
 そうよ、そうしましょう。仮に倒れたりしたらどれだけの人に迷惑が……
 め、迷惑どころか…………た、助けられる前提で考えてるけど…………だ、だめよ無駄に重く考えちゃ)

それにしても暑すぎる季節。ココロとしても茹だる頭でネガティブが加速する。
早く帰ろう、その一心で湖から足を上げて、靴を履きなおした。さあ早く帰ろう。

・・・そこでふと気付くが、そういえばずっと周りを見ていなかった。近くに誰かいたりするだろうか?

467『ニュー・エクリプス』:2018/07/21(土) 22:38:39
>>466

 「あ」

    「つ」

       「いっ」

           「スッーーーー!!!」


 『あついー(スッーー)!!!』

 「なんて暑さだ! シャツから下まで、もうびっしょびしょ!
何だろうねっ、地球温暖化って言うのを今まさに味わってるよ
ムーさん、のんちゃん! 暑い暑い暑いー あーーっ(´Д⊂ヽ」

 「し ん と う め っ き ゃ く……」

「うわぁ!? む ムーさんが白目向いて棒立ちになってる!?
ムーさんっ、しっかりして頂戴! サッちゃん水 水っ!!」

 「ぬうおおおおおおぉぉぉ!!!! 了解っスーーー
権三郎!! レスキューエクリプス、出動っスーーーーー!!」

 『パァァァウゥゥンンッ〜〜!!!』


 何だか、貴方の温度をさらに上昇しそうな騒がしい
学生服四人+犬一匹が通りかかって来た。ドドドドド!!! と言う
激しい足音と共に、ココロの直ぐ傍をテンション高い少女と犬が
水に突撃してくる。

「んっ(`・ω・´) あぁ、こんにちわっス!!
ちょっと水を分けてもらうっス!!!」

「(;^ω^) パウッ!!!」

 挨拶もそこそこに、鞄に入っていたらしいプラスチックのタライから
水をすくって、またドドドドド!!! と三人のほうへ戻る!!

 「そぉぉぉおおおおおいいいいっっ!!!」

               パシャ―ンっっ!!!


 「……はっ!? 私は一体今まで何を……」

 「棒立ちになってたよ……(´・ω・`)」

 「……とても綺麗は花畑が見えていた」

 「こわっ!?Σ」

 四人は、騒ぎつつ貴方へと近づいてくる。清月の制服だとわかった。

468ココロ『RLP』:2018/07/21(土) 23:52:43
>>467

「ひ、ひぃっ……!?」

          ドサッ

思わず立ちかけていた足を崩し、軽いしりもちを着く。

(なっ、なにっ……人!? み、水がこっちにも……!
 つ、冷たいわ……暑いから、あ、ありがたいのかも……?
 な、なんて。遊園地の水を撒くショーじゃないのよ……!?
 ……い、いくら暑いとはいえ……いいえ、)

       (……で、でも、涼もうとしたんでしょうし、
         暑さで大変な事になってたみたいだし……
          せ、責められるはずないわ。少し濡れたぐらいで)

突然横に4人も飛び込んでいくと、
当然水は撥ねるわけで、結構濡れた。

「えっ、こ、こんにちは……!?
 お、お水は私のじゃないし、
 別に、す、好きにしてちょうだい……」

とはいえ涼しさを感じない事もないし、
暑さの限界での奇行だ、悪いとは言えない。

(あっ、戻って来たわ……って、この制服……清月だわ。
 私と同じ学年じゃなさそうだけれど……1年生かしら?)

「……だっ……だ、大丈夫かしら?
 相当……暑さに、ま、参っていたようだけれど……」

(なんだか失礼な言い方になってしまった気がするわね……)

「わ、私も、相当参ってるから……湖は、冷たくていいわよね」

内心気を遣いつつ、近付いて来る四人組に先んじて声を掛ける。
この状況で、黙って待っていると『怒ってる』と思われそうな気もするから。

469『ニュー・エクリプス』:2018/07/22(日) 19:30:59
>>468

城生「こんにちはー。暑いねぇ、本当に……今年は猛暑で倒れてる人も
続出してますもんねー」

ムーさん「私もほぼ 倒れかけました」

エッ子「ムーさんが、未だやばそうΣ さぁ、早くアレを引き揚げるのだ佐生隊長!」

朝山「了解っス! 権三郎!! 一緒にアレを引き揚げるっスーーー!!」

権三郎「パァーゥッ!」

 動きが忙しい四人と一匹だ。貴方に挨拶もそこそこに、湖畔公園の水の張る
片隅に手を伸ばして、何やら長い紐らしきものをずるずる引っ張り……っ。

 『出たー(っス)!!!』

 出たのは、瑞々しく実がとても詰まってそうなスイカだっ!!

城生「今日は凄く暑くなるって言うから、此処で冷やしておいて正解だったねー」

朝山「ふっふっ、我が悪の名案は常に天気の先読みをするんっスよ! と言うわけで
さっそくスイカを食べるっス!! スイカ割りっス!!」

エッ子「うおおおぉぉぉ〜! スイカ割り〜っ!」

 やんややんやとスイカ割りが目の前で始まろうとしている。
そんな騒がしい集団から、長身の女の子は長めの棒を出して貴方に近寄る。

ムーさん「……んっ」

 棒を差し出してきた……スイカ割りを一緒にしようと誘ってるのか……?

470ココロ『RLP』:2018/07/23(月) 00:22:27
>>469

「た、倒れなくって本当に良かったわ……
 あ、お水……じゃなくてスポーツドリンクだけど、
 水分補給も大切らしいから、わ……私の飲みさしでよかったら」

           「って」

「す…………スイカ………………!?」

(わ、私が座っていた横で……スイカが冷やされていたの!?
 ど、どうしましょう、蹴っちゃったりしてなかったかしら……)

水筒を差し出そうとしていたところ、
いきなり出てきたスイカに困惑した。
しかし、差し出されたそれで意味を悟った。

「えっ……………!?」

そして、さらに困惑した。

(ま、まさか……私も混ぜてくれようとしているのかしら……!?
 なっ……なんてコミュニケーション能力が高いのかしら……
 正直、も……もう帰りたいというか……暑いし、あまり外に長居したくないのだけれど……)

スイカ割りといえば涼しそうだが、
猛暑具合にはなんの変わりもない。
熱中症には『涼しげ』では勝てないのだ。

(で、でも……断って帰っても、ピアノの練習を少し長くするだけだし……
 いえ、それも大事なことだけれど……そのために、折角誘ってくれたのを……)

「こ……これ、私が持っていいの? 貴女達の役目じゃあなくて……いいのかしら」

それにしてもスイカ割りは割るのが楽しいと思っていた。
まさか見ず知らずの自分に割らせるとは……これもコミュ力なのか?

(ど、どうしましょう……もし私が割るんだとしたら、責任重大よ……!?
 間違えて湖に転落したりしたら……そ、されはある意味ウケそうだけど……
 でも私、そんな若手の芸人さんみたいな体の張り方をするべきなのかしら……?
 ……と、というか、割るのは目隠しをしてだから……
 いえ、まさかそんな事しないはず、信じるのよ、疑うのは失礼すぎるわ……)

棒を受け取ってしまったものの、ここからどうするべきなのか逡巡する。

(ま、待たせてたりするのかしら、私……この暑い中……でもこれは、い、いきなり過ぎるわ……!)

471『ニュー・エクリプス』:2018/07/23(月) 08:41:20
>>470

 これ、私が持っていいの?

エッ子「細かいことは きにしなーっい!!ヽ(^。^)ノ」

城生「楽しい事はみんなでしたほうが良いですから。
あ、何か急用があってご迷惑とかなら やめますけど」

 スイカの下に、いそいそとシートを設置しつつココロに返答する
学生ら二人。残る二人は近くにまわり。

 ムーさん「さぁ、少女よ……めぐるめぐスイカ割りの世界へと
いざなわれるのだぁ……ぬんっ」 ペトッ

 貴方の背後に回り、目隠しを自分の両手で行った。密着してる所為か
暑苦しく目元に湿り気が増し、それでいて微妙な双丘が背中にあたる。


朝山「ソーレっ 前、前 前に行くっスー! 構えて構えてっ!」

権三郎「パウッ パウッ パーウッッ!」

振れー 触れーっと、もう一人の少女も団扇を振りつつ周囲の熱気を
拡散させながら応援モードに入ってる。犬も応援してくれているようだ

472ココロ『RLP』:2018/07/23(月) 17:25:09
>>471

「い、いえ……急用とかは無いわ。
 迷惑なんかでもないし……むしろありがとうよ。
 や、やりましょう。上手くできるかは自信がないけれど……」

(こ、こうまで言われて参加しないなんて失礼すぎるわ)

             シュル

「あっ、ご、ごめんなさいね、着けさせちゃって」

(め、目隠しが暑いわね……)

密着はそんなに気にならないが、暑苦しい。
早急にスイカを叩き割り、清涼感に包まれたい。

(こ……心なしか犬も応援してくれている気がするわ。
 別に、特に犬が好きというわけではないけど……
 それにしても、この中の誰かの飼い犬なのかしら……)

      (こんなに暑いのに散歩なんて大変よね……)

わりと利口な犬だし、しつけがいいのだろうか。
ともかく棒を両手でしっかり持って、言葉通り動く。

       フラ
             フラ

「……ま、まだ? もうちょっと前かしら……?」

(湖に落ちるような方向じゃないし、大丈夫……よね?
 いえ、落ちそうならさすがに声を掛けたりしてくれるはず)

                (し……信じているわよ……!)

473『ニュー・エクリプス』:2018/07/23(月) 23:47:25
>>472

 あぁ……ココロ ココロよ。君はムーさんが
何か黒っぽい布とかで目隠しをしたと思い込んでいる。

 だが、違う。……ムーさんんは『ただの両手』で君の
目元を覆っているのだ。凄く この暑さでべとっとした手だ。
余計に君の暑苦しさを引き立てている。

城生「あっ 棒が右に寄りすぎ― もうちょっと左ー!」

エッ子「そのまま前だー! そんでもって左に左、もうちょっと左
んでもって斜め四十五度に棒を構えて〜!」

朝山「思いっきりズドンっと振り下ろすっスー!」
権三郎「パゥー!」

 約一名、わかり難い指令があったものの。スイカの位置を
教えてくれてはいる。さぁ フィニッシュだ!!

474ココロ『RLP』:2018/07/24(火) 00:43:18
>>473

「……………??」

(あ、あら……なんで目隠しされたのに、
 まだ背中にくっついてるのかしら……って、
 も、もしかして、目隠しが布じゃなくて……手!?)

     (そ、そうだわ! 妙に暑いと思ったら……
       ど、どうすればいいの……あ、歩きづらいし……)

            (でも、ぬ、布が無くてもスイカを割りたいという、
              この人たちの気持ちに私は答えてあげるべきよ)

     フラ
              フラ

(…………こ、答えてあげるべきよね。
 そうよ、きっとそう……別に悪い事とか、
 嫌な事をされているというわけではないわ……)

(嫌と言えば……う、後ろの子、熱中症になりかけてた子よね?
 大丈夫なのかしら、こんな暑いことして……い、嫌じゃないかしら?)

あまりの急な事態にやや混乱はしているものの、
言われるがまま歩いていく……分かりやすい指示だ。

(犬も何か指示をしてくれてるのかしら……
 い、いえ、犬に気を取られ過ぎては駄目よ、
 彼女たちの大事な仲間なんでしょうけれど、
 スイカ割りをする上では……犬は関係ないわ)

        「こっ……」

                  「ここっ……ね!」

     ブン!

ココロは気が小さいが体は大きいので、威力は問題ないはずだ!

475『ニュー・エクリプス』:2018/07/24(火) 18:18:31
>>474

 ムーさんが何故、適当に鞄を漁れば目隠しになる布はきっと
見つかるだろうに、ソレをしない事。
それは真夏の太陽が醸し出した悪戯心なのかも知れない。
 もしくは、単に暑すぎてダル過ぎて面倒だったからも知れない。

まぁ、十中八九後者で。殆ど意味のなさない行動だから気にしなくていい。

 犬の言ってる意味についても考えつつ、貴方は三人と一匹の声援と
指示に従い、憑依した幽霊のように、べったりくっ付くムーさんと
共に歩きつつ、棒を振りかぶる!!

       ――パコンッッ!!

     『割れたーーーー(っス/パーァ ウン)っ!!!!』


 暑い日差しの下、湖畔公園に女の子達の歓声が轟いた。


     ・ ・ ・ ・


 シャリシャリ

 「美味しいねぇー」

 「冷えてるっスねぇ〜」

 「極楽だ」

 「あーまーいーぞ!」

 スイカを割ったら、当然割れたスイカを食べ始めるタイムだ!
ベンチに座って仲良くスイカを食べ始める。飼い犬も、スイカの切れ端を
美味しそうにモグモグしている。

 あと、ココロの分も当然用意している。何か振る雑談がなければ
きっと、このまま仲良くスイカを食べ終わった後に別れるだろう……。

476ココロ『RLP』:2018/07/24(火) 21:47:26
>>475

        パ

               コン!


棒を振り抜いた感覚が、空を切らなくて本当によかった。
そして――――このスイカを叩き割った感覚の、なんと爽快な事。

「やっ、やった…………やったわ!」

         (夏にみんなスイカ割をしたがる理由……
           こ……こういうことだったのね!
            今日知るとは思ってなかったけど)

     ・ ・ ・ ・

       ・ ・ ・ ・

「こんな季節でも、水だけでここまで冷えるのね」

              「なんだか不思議だわ」

        シャリシャリ

「あっ、きょ、今日はありがとう、私のことも混ぜてくれて……」

       「スイカまで貰ってしまって……本当に、嬉しいわ」

お礼を言うばかりではつまらないだろうし、
雑談をする事もあったかもしれないが、
なにせこの暑さ、そして倒れかけた者もいる。

(あまり長く引き止めるのも良くないわね……
 スイカで体が冷えている内に、涼しい所に帰りましょう)

            (この子達も暑いのは同じでしょうし……)

ココロ的にもやっぱり暑いものは暑いので、食べ終えたら家に帰ろう。
ひと夏の思い出と言うには小規模だが、なんだか忘れられない日にはなりそうだ。

477『ニュー・エクリプス』:2018/07/25(水) 15:39:03
>>476

 「そんじゃー バイバーイ!」

「あっ 名前を聞くの忘れちゃったねぇ」

 「なーにっ! また今度会えるっスよ!」 『パーウッ!』

「まぁ、適当にぶらついていればな」

 夏は始まったばかりだ!
ニュー・エクリプスの悪の進撃もまだまだ開始したばかりなのだ!!

 「うおおおぉぉぉ!! 真夏に出来る事を全部やりきるっスぅぅうう!」

燦燦と輝く太陽に負けず劣らず! 悪の首領は暴れ(遊び)まくるのだ!!!

478夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/05(水) 20:34:12

「ない――」

      ササッ
          ササッ

           「ない――」

                ササッ
                    ササッ

                      「ない――」

『パンキッシュなアリス風ファッション』の少女が、地面に屈み込んで、
手探りで『何か』を探していた。
少し離れた所には『ブルーのサングラス』が落ちている。
手を伸ばしても届かない距離だが、その位置は『視界の外』ではない。

今から約一分前――大型犬と、それを散歩させている子供が、
不意に背後から駆けてきた。
咄嗟に避けることはできたのだが、問題は『その後』だ。
バランスを崩してスッ転び、同時にサングラスが外れてしまった。
強い光を遮るサングラスなしでは、自分の視力は皆無に近い。
だから、今こうして手探りでサングラスを探しているというワケだ。

479冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/05(水) 23:07:26
>>478

「探し物はこれかな?」

そういって、サングラスを拾って目の前まで持ってくる。
耳に黒いリングのピアス。
右手の人差し指と左手の中指に銀のリング。

「明日美、だよね?」

「どうしたの。大丈夫? 元気?」

480夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/05(水) 23:46:39
>>479

「ほほう――」

「そのこえはレーゼーくんじゃないかね??」

反射的に、声の聞こえた方向を振り返る。
その視線が、声の主の方へ向けられている。
しかし、実際には彼の姿は見えていない。

「あー、そうそう。コレコレ。コレをさがしてたんだ」

「サンキュー!!」

手を伸ばしてサングラスに触れる。
指先の感覚で、それが探していたものだと分かった。
感謝の言葉を述べて、それを受け取ろうとする。

「ん??ゲンキだよ。ゲンキゲンキ。いつもとおんなじ」

「ちがいがあるとしたら、ソレがあるかないかってコトくらい」

サングラスを指差しながら、黒目がちの瞳で、そう告げる。
その瞳には、どことなく光が欠けているように見える。
サングラスがない状態だと、それがはっきりと分かる。

481冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/06(木) 00:01:44
>>480

「そ。冷泉君だよ。冷泉咲ちゃんだ」

にっこり笑ってみせる。
多分相手は見えてないんだろうなと思いつつも。

「じゃあこれで元通りだ」

相手が触れたのを確認して手を離す。
目を丸くして彼女の顔の前で手を振ってみる。
ちょっとした確認作業だ。

「これかけたら見えんだよね?」

「割れたりしてない?」

482夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/06(木) 00:21:54
>>481

「そういうコト――」

「コレさえあれば、コーディネートはパーフェクト」

受け取ったサングラスを元通りかけ直す。
すぐには視力は戻らない。
徐々に、目の前に世界が戻ってくる。

「やっぱコレがないとね」

「なんといっても、このファッションのポイントだから」

「そのピアスとリングみたいにね」

冗談を言いつつ、同じように笑う。
目の前で振られる手に反応して視線が動いた。
確かに、それが見えている。

「レンズにキズは――ついてないね。
 このサングラス、けっこうイイやつだからさ」

「だから、ひざしがつよいひでも、バッチリみえるってワケ」

483冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/06(木) 00:46:22
>>482

「パーフェクト、素晴らしい」

「んー……確かにこれはポイント、というか僕の好み」

ピアスを指でつまむ。
黒と銀のリングが並びあう。
幼い十六歳の少年が多少大人びて見えた。

「へぇ……僕はサングラス使わないからわかんないけど、色々あるんだねぇ」

未知との遭遇だ。
未知、というと少し大げさかもしれないが意味合い的にはそんな感じだ。
冷泉咲の視力は悪くない。
メガネにも縁はなかった。

「今日は散歩? それともサングラスを探しに?」

484夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/06(木) 01:14:25
>>483

「きょうはね――ちょっとした『ぼうけん』だよ」

「まだみたことのないモノをさがしに、ともいうかな??」

パンパンと軽く手の汚れを払う。
そして、少年の顔を見つめる。
今は、しっかりと彼の顔が見えている。

「それで、いまはレーゼーくんをみつけたトコ」

「レーゼーくんは??さんぽ??」

「せっかくあったんだし、ちょっといっしょにあるかない??
 ほら、このヘンはさんぽコースだし。
 さっきはイヌとコドモが、バババッとココをはしってった」

そう言いながら、片方の手を横にサッと素早く動かして見せる。
そんな感じだったというジェスチャーだ。
それから、頭の中で一つ思い出した。

「あ――」

「そういえばさ、『おねえさん』はゲンキにしてる??」

一度、電話を通して話したことがある。
独特な雰囲気のある特徴的な人だった。
だから、そのことはよく覚えていた。

485冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/06(木) 01:40:27
>>484

「冒険……?」

「明日美ってアグレッシブだね。結構」

手の汚れを払っているのを見て、他に汚れている場所がないか探してみる。
見つけたとして気安く触れないとは思うが。
勿論、相手に気を遣うという意味で。
相手は年頃の乙女であった。

「冷泉君は散歩ー。一人ぼっちで家にいるのも寂しいから出てきたの」

「だから一緒に歩くよ」

「……犬ね。なるほどね」

彼女の言葉一つ一つに反応を返す。
合いの手という奴か。
相槌という奴だろう。

「お姉さんは元気。ただ最近会ってない。部屋こもりっぱ」

「だから、遊んでくれる人いない」

486夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/06(木) 02:04:09
>>485

青いジャンパースカートに土が付いているのが見えた。
少年の視線を見て、その汚れに気付いて払い落とす。
リボンのように頭に巻いているスカーフが風を受けて揺れた。

「ありがと――」

「わたしはさ、いつかセカイのゼンブをみてみたいとおもってるんだ」

「――だって、わたしは『アリス』だから」

「いまは、このマチのゼンブをみるのが、とりあえずのもくひょう」

肩を並べて歩きながら、自分の夢を語る。
突拍子もない目標だが、簡単に叶ってしまっては面白くない。
自分にとっては、それは一生かけても叶えたい夢だった。
ライフワークと呼んでもいいかもしれない。
要は、そういう生き方をしたいということだ。

「こもりっきりかぁ〜〜〜。なんかのジッケンとかケンキュウとか??」

「じゃ、わたしとあそぼうよ」

「んー」

「『かくれんぼ』しない??わたしがオニやるから。
 じつは、わたしとくいなんだ〜〜〜」

487冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/06(木) 02:37:37
>>486

「世界の全部か……いいじゃん」

「この街だけでもかなりかかりそうだけど」

一生の内、自分は本当にこの街のすべてを知れるのだろうか。
それくらいなら出来てしまいそうな気がするが、本当に可能なんだろうか。
それよりも広い世界のすべてを知るというのは、壮大だ。

「……多分ね」

少し間があって、冷泉は答えた。
正直、彼女と会えていない理由は本人にも分からない。
ただ、何の返答もなくなったのが唯一の事実だ。

「かくれんぼ? いいよ」

488夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/06(木) 17:54:22
>>487

「……ふ〜〜〜ん」

彼のお姉さんと前に話した時は、色々と言われた。
難しいことは分からなかったが、
彼女の心中には複雑なものがある様子だった。
ひょっとすると、その辺りに原因があるのかもしれないとも思った。
しかし、今は黙っておくことにした。
あまり気軽に踏み込むようなことでもない気がしたからだ。

「よし!!じゃ、かくれてよ。
 はんいは、だいたいこのまわりにしよう。フィーリングでいいから」

「いまから10――いや、やっぱ15かぞえるから、そのあいだにね」

自然公園という場所だけに、隠れられる場所は幾らでもあるだろう。
自分は、少年に背中を向けて目を閉じる。
そして、数を数え始めた。

「いーち、にーい、さーん……」

口で言いながら、同時に両手の指も折っている。
その調子で15秒ほど数え続ける。
それが終わったら、目を開けて振り向こう。

489冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/06(木) 22:14:41
>>488

「はーい、隠れまーす」

冷泉咲はそれ以上彼の隣人の話はしなかった。
特に聞かれもしなかったし、特にしたい話でもなかったからだ。

「んー……」

(時間かかっちゃうな)

背の低めの木に近づいた。
登れるかと思ったが、時間的に厳しそうだ。
陰に隠れよう。

490夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/06(木) 23:45:13
>>489

「……じゅうさーん、じゅうよーん、じゅうごぉ〜〜〜」

15秒を数え終えてから、ゆっくりと振り返る。
少年の姿は見当たらない。
かくれんぼなのだから当然だ。

「――よし!!じゃ、さがすよー!!」

しかし、立っている場所からは動かない。
その代わりに、自身の傍らに『ドクター・ブラインド』を発現する。
メスのような爪を持つ盲目のスタンドが、夢見ヶ崎の隣に立つ。

「むむむ……むむむむむむ……むむむむむむむむむ……」

両手の人差し指を左右のこめかみに当て、目を閉じて意識を集中する。
といっても、この仕草はほとんど見せかけだけのものだ。
ポーズを取りつつ、『超人的聴覚』を使って、冷泉少年の音を探る。
呼吸する音や、微かな衣擦れの音などを掴む。
街中と違って雑音が少ないので、聴き取りやすいだろう。

491冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/07(金) 00:35:10
>>490

発現したスタンド。
その力は超常的なそれに相応しい。
冷泉咲はその存在に気付けていない。
自分から見えるということは相手から見えるという事である。
木に背中を預けてじっとしている。

「ふぅ……」

規則正しい呼吸。
木と服がすれる音。
後ろに上げた木に靴が当たる音。
普通なら気付けないほどの音だが、それを捉えることが出来るのがスタンドだ。

492夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/07(金) 00:56:59
>>491

「ほうほう――」

微かな音を『超聴覚』が捉えた。
少年の発する、ほんの僅かな音。
それが、彼の居場所を教えてくれる。

「なるほどなるほど――」

『ドクター・ブラインド』を解除する。
そして、木陰に向かって歩いていく。
その歩みに迷いはなく、一直線だ。

「――みーつけた!!」

淀みなく木の裏側に回り、冷泉少年の姿を視認する。
人を探すのなら得意分野だ。
音を立てず匂いもしないので、落としたサングラスを探すのは苦労するが。

493冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/07(金) 01:17:26
>>492

「えー!」

見つけられて少年は目を丸くした。
丸い目がさらに真ん丸だ。

「おかしいよ。だって、見えないところにいたのに……」

不満気な様子だ。
納得はしていない。

「……むぅ」

494夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/07(金) 01:44:49
>>493

「ふふ〜〜〜ん」

驚かせたことに気を良くし、自慢げに笑う。
どうやら、少し調子に乗ったらしい。
その勢いで、もう一つ披露することにした。

「とくいだからさー、こういうの」

「たとえば――」

冷泉少年が自分と同じ力の持ち主であることも知らず、
再び『ドクター・ブラインド』を発現させる。
そして、周囲の音に耳を澄ます。
小さな音が聴こえた。
それは鳥の羽音だ。
木立の中から、こちらに向かって飛んでくる鳥の羽音が微かに聴き取れた。

「トリが、にわ。おおきいのとちいさいの。もうすぐ、あのヘンからでてくる」

宣言通り、大きさの異なる二羽の鳥達が、二人の頭上を通過していった。
それを指差し、堂々と胸を張る。
当然、スタンドを見られることなど考えていない。

「ほら――ね??」

495冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/07(金) 02:05:40
>>494

「!」

突然のスタンドに少年が表情をこわばらせる。
直感的に理解できた。
そして、それが正解であることを少女が自分自身で証明する。

「確かに……二羽……」

少年の眉間にしわが寄った。
同時に背後に『ザ・ケミカル・ブラザーズ』が現れる。
球体についたアームと手。
五本指が少女の頬をつねろうと動く。

「インチキだ。明日美そういうのはよくない……!」

少年が指を差す。
まるで自身のスタンドにターゲットを教えるように。

496夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/07(金) 02:24:19
>>495

「でしょ??ちゃんと、にわ――え??」

二本のアームを備えた球体を目の当たりにして、両目を見開く。
それは予想外の光景だった。
調子に乗ったツケと呼んでもいいかもしれない。

「あ……」

「あ、あっはっはっ〜〜〜」

「はは、は……」

少年の迫力に押されて、思わず苦笑いする。
そして、無意識に後ずさろうとした。
しかし、『ザ・ケミカル・ブラザーズ』が動く方が速かった。

「――むぎゅッ」

よって、そのまま頬をつねられてしまった。
ズルをしたバチが当たったというところだろう。
両手を動かしてジタバタしているが、実質ほぼ無抵抗だ。

497冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/07(金) 22:58:49
>>496

「騙されたっていうより、騙したうえで詰めが甘いのはかなり減点だよ明日美」

「むっとした。怒ってはないけどむっとした」

より眉間のしわが深くなっている。
本人曰く怒ってはいないらしいが、不機嫌ではあった。

「なので、赤面の刑だ」

ぐにぐにと『ザ・ケミカル・ブラザーズ』が頬を動かす。
つねるというよりは強く押して揉んでいるような感覚だ。

「血行を良くしてやる。覚悟したまえ」

498夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/08(土) 00:11:38
>>497

「いやいや〜〜〜ベツにだますつもりはなくって……」

「むぐッ」

「カンペキじゃないのは、まぁ『アイキョウ』があるってコトで……」

「むぐぐッ」

「なんていうか……ちょっとしたオチャメだから、ね??」

「むぐぐぐッ」

言い訳している口を、『ザ・ケミカル・ブラザーズ』に封じられる。
そして、なすがままにされる。
口では弁解しているが、ズルをしたという負い目は一応あった。
なので、本格的な抵抗はしていない。
『ドクター・ブラインド』も、ただ後ろに突っ立っているだけだ。

「だからさぁ――」

「むぐぐぐぐッ」

「そろそろ――」

「むぐぐぐぐぐッ」

「ゆるしてくれない??」

「むぐぐぐぐぐぐ〜〜〜ッ」

やがて、両方の頬が赤みを帯びてきた。
といっても、別に照れているワケではない。
手荒なマッサージを受けて、血の巡りが十分に良くなったせいだろう。

499冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/08(土) 00:38:22
>>498

「うんうん。そういう気持ちになるよね、分かるー」

スマホを立ち上げる。
画面をスライドしてアプリを選択する。

「許すよ。もう顔真っ赤で見てらんないし」

「じゃあ、はいチーズ」

スマホの内カメラを起動して自撮りをする。
『ザ・ケミカル・ブラザーズ』の手がそれっぽい笑顔を浮かべさせようと動いた。

「解放」

手が離れた。

500冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/08(土) 00:39:15
>>499

自分と彼女がフレームに収まるように自撮りする。

501夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/08(土) 01:06:44
>>499

「あっはっはっはっ〜〜〜。そうなんだよね〜〜〜。
 なにせ、そういうトシゴロだからさぁ〜〜〜」

「――むぐぅッ」

二本のアームによって、明るい笑顔が形作られる。
そして、撮影が行われた。
スタンドである『ザ・ケミカル・ブラザーズ』が写ることはない。
だから、夢見ヶ崎が自分で笑っているように見えるだろう。
その隣には、仕掛け人の少年が一緒に写っている。

「あ〜〜〜あぁ〜〜〜」

「ねぇねぇ、ちょっとカオがちっちゃくなったんじゃない??」

「なんとなくスリムになったようなカンジするんだけど、どう??」

両手で頬を包み込むようにしながら、そんなことを言っている。
実際には、ちょっと膨れているかもしれない。
そうであったとしても、少しすれば元に戻るだろう。

「あ――」

「わたしのはさ、『ドクター・ブラインド』っていうんだ」

「――レーゼーくんのは??」

物珍しそうな視線を向けながら、アームを持つ球体を指差す。
今まで見たことのない形だ。
それだけが理由ではないが、大いに興味があった。

502冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/08(土) 02:37:18
>>501

「ちっちゃくはなってない」

「なってないよ」

ずばっと言ってのけた。
言い切ってしまった。

「これは『ザ・ケミカル・ブラザーズ』」

「たった一人で兄弟なんだ」

くるくるとその場で回転する。
ロボットアニメのキャラクターのような動きだ。

「そういうもの」

503夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/08(土) 02:57:39
>>502

「そうかなぁ〜〜〜??」

「いやいや、これはきっと『かくど』のモンダイだ」

「たとえば、ななめのアングルからみると、ほそくみえるとか……??」

適当な理屈を並べて、顔を左右に動かしてみる。
もちろん変化はないが、今はそれよりも気になることがあった。
言うまでもなく、『ザ・ケミカル・ブラザーズ』の存在だ。

「ふんふん――」

「ところで、なにか『とくぎ』があるんじゃない??
 『ザ・ケミカル・ブラザーズ』だけのさ」

「アリスのブンセキリョクで、いまからソレをあててあげるよ」

興味深げな様子で、回転の動作をじっと見つめる。
機械的なヴィジョンのスタンドだ。
一体どんな能力を持っているのだろうか。

「ふぅ〜〜〜む……」

「――わかった!!」

「いまはガッタイしてるジョウタイで、ブンリして『フタツ』になるんだ!!
 だから、『ブラザーズ』!!」

504冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/08(土) 23:40:09
>>503

「『ザ・ケミカル・ブラザーズ』」

「まぁ、特技はあるよ」

少年の体の上をすべるようにスタンドが動く。

「分離はしない。くっつくのさ」

「化学でつながった兄弟なんだ」

505夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/09(日) 00:03:34
>>504

「ふぅん??」

瞳を輝かせ、『ザ・ケミカル・ブラザーズ』の動きに目を凝らす。
何かを期待しているような視線だ。
その視線が、球体から少年に移っていく。

「とくぎがあるんなら、ソレみたいな〜〜〜。
 みてみたいな〜〜〜。
 みせてもらえたらウレシーなぁ〜〜〜」

「わたしのも、さっきちょこっとみせたしさぁ〜〜〜」

「――ダメ??」

冷泉少年は、この街に住んでいる。
つまり、彼のスタンドも街の一部と言える。
だから、『ザ・ケミカル・ブラザース』の特技も見てみたいのだ。

506冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/09(日) 01:01:14
>>505

「しょうがないなぁ……」

「ちょっと人のいないところに行こうか。これは目立つから」

そういって木の枝を折って人気のない方に歩いていく。

「僕の『ザ・ケミカル・ブラザーズ』は二つを一つにする」

「まずはこれだ」

右のアームで木の枝を掴ませる。

「1、2、3……完了」

次に取り出したのはライター。
火をつける。

「今度は左」

左の手が火に触れる。

507夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/09(日) 01:23:33
>>506

「いいねいいね〜〜〜。そうそう、そうこなくっちゃ。
 レーゼーくんなら、そういってくれるとおもってたよ〜〜〜」

調子のいいセリフを言いながら少年についていく。
目立つということは、きっと派手なのだろう。
心の中で、ひそかに期待を強める。

「ふたつをひとつに……??」

「『えだ』と『ひ』でしょ??それで『カガク』……。
 えーと……えだがもえる??」

「――っていうのは、いくらなんでもアタリマエすぎるか……。
 もしコレをあてたら、いっとうのハワイりょこういけるなー」

それくらい難しいという意味だ。
頭をひねって考えてみるが、どうにも想像がつかない。
何が起きるのかを見届けるため、
しっかりと『ザ・ケミカル・ブラザーズ』を見据える。

508冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/09(日) 01:38:14
>>507

「3秒」

指で作られた三。
同時に手が火から離れた。

「あぁ君はハワイに行けるよ。ただし、今すぐではないけど」

認識は完了した。
『ザ・ケミカル・ブラザーズ』の姿が変化する。
体、足と部位が生まれてくる。
それが完成したらしい時には、アームがついていた球体の部分は胸に格納されてしまった。
2mほどのあまりにも大きなモノ。
どうやら実体化しているらしい。
右腕は木で出来ており、左腕は火で出来ている。

「『ザ・ケミカル・ブラザーズ』これが化学の子だよ」

509夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/09(日) 02:02:07
>>508

「えっ??ホントに??」

そう言っている間に、目の前で変化が始まる。
まるっきり予想外の光景だった。
出現した巨体を目の当たりにして、思わず両目を大きく見開く。

「す……」

「――スゲェ〜〜〜ッ!!デケェ〜〜〜ッ!!」

その両腕に木と火を宿した化学の子を見上げる。
サングラスの奥の瞳が、星のようにキラキラと輝いている。
下ろされた視線は、右腕と左腕を交互に見比べる。

「スゴいスゴい!!
 これだけでもじゅうぶんスゴいんだけど……。
 ほかにも、なんかヒミツがありそうだよねぇ〜〜〜。
 とくに、そのウデにさぁ〜〜〜」

510冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/09(日) 02:37:39
>>509

「そりゃこんだけ大きければ目立つさ」

「そして、いかにもって感じの腕だろ?」

能力の発動過程からして腕にキーがあるのは確かだ。

「本来二つの腕は反応しあわない」

ガンガンと腕をぶつけ合うが燃え移ることは無い。
体も木と火が混じったようだが燃えはしない。

「だけど、このゴーレムの終わり3秒は違う」

解除するとゴーレムが解けていく。
その瞬間、片腕の火が木の腕に燃え移った。

「たった3秒の化学実験だ」

規定通り、3秒間のうちにゴーレムは消えていった。

511夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/09(日) 17:28:34
>>510

「ふんふん――」

「ほーうほーう――」

「おぉぉ〜〜〜ッ!!」

いちいち頷きながら、少年が行う実験の経過を見守る。
最後に大きな歓声を上げ、両手をパチパチ叩く。
とりあえず満足したようだ。

「ソレ、『ゴーレム』っていうんだ。
 いやぁ〜〜〜きょうはイイものがみられたなぁ〜〜〜うんうん」

「オマケにハワイにもいけるし、いうことなし!!
 レーゼーくん、いっしょにいく??」

いや、それはダメか。
彼の隣人と話す時、また何か言われそうだ。
まだ一度も見たことがない未知の存在。
しばらく部屋に篭りきりらしいが、いつか会ってみたい。
ひとまず、それは頭の隅っこに置いといて――。

「まぁ、ハワイには、ちかいうちにいくとして……。
 なんか、ほかのアソビしない??
 レーゼーくんがとくいなヤツでいいよ」

今は、今の出会いを楽しむことに専念する。
――森の中で『アリス』は『ゴーレム』を見た。
その新たな一ページを、『光の国のアリス』の物語に書き加えよう。

512一色 直『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』:2018/09/16(日) 19:54:33
――秋の風が吹いている。

「……夏も終わってしまった。僕の中学最後の夏……
これから僕はどうする……?どうしたいんだろう」

 自然公園の片隅、湖のほとりに少年が腰掛けている。掌サイズのメモ帳を片手に、
自分に問いかけるように、あるいはここにはいない誰かに語りかけるように、
中空に目をやり、やや芝居がかった台詞回しで言葉をぽつぽつと紡いでいる。

「未来の全てが輝かしいものだなんて幻想はいわない。でも、
自分の進む先はきっと素晴らしいと思っている……都合のいい話だけど、
そうしないと不安で仕方がないんだ。それに」

            ズ ギ ャ ン ッ

「君と一緒なら、きっと大丈夫だって、不思議とそう思えるんだ。
そうでしょ、僕の『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』」

 見える者は見えるだろう。
少年の目線の先に、半透明のビジョン――『スタンド』が現れている。

 ちなみに見えない者には「なんかブツブツ独り言呟いてるやべーやつ」
に見えるだろうが、まあ、しょうがないね。

513花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2018/09/16(日) 21:38:26
>>512

(――あン?なんだァ、ありゃあ?)

その光景を遠くから見かけた時、最初はそう思った。
ぼちぼち涼しくなってきたってのに、頭が残暑でやられちまってんのかってな。
だが、興味が湧いて近寄ってみると『人型スタンド』の姿が目に入った。

(ははァ、なるほどなァ……)

    ザッ

「青春してんなァ。ちっとばかし羨ましいぜ」

「――隣、いいかい?」

気安い調子で声を掛けると、返事を待たずに隣に腰を下ろす。
レザーファッションで固めた二十台半ばの男だ。
ウルフカットにした髪を真っ赤に染めている。

「さっき『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』ってフレーズが聞こえてよ。
 そいつは、あんたの好きなバンドの名前か何かか?」

ここに来る途中で、『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』は遠目から見えていた。
しかし、そちらには視線を向けず、正面の湖を見つめたまま問い掛ける。
いきなり明かしちまうってのも面白味が足りねえ。
相手が、どんな奴かも分からねえしな。
まずは軽く探りを入れさせてもらうぜ。

514一色 直『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』:2018/09/16(日) 22:22:02
>>513

「……はっ」
「隣ですか? えっと、どうぞ……」

『花菱』に声を掛けられて、我に返ったように返事をする少年。
さっきの発言からしても『中学生』なのだろうが、
歳相応の幼さを残した顔立ちで、体格はやや小柄だ。

「……ええと、『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』は……
バンドの名前、とかじゃあ無いんです」
「ううん……なんて言うか、上手く言えないんですけど、
僕の中にある『特別な存在』の……その名前なんです」

探りを入れる『花菱』の思惑を知ってか知らずか、
慎重に考えながら、しかし誤魔化しはせずに答えを返していく。

「…………」
チラッ

喋りつつ、ちらっと『花菱』の派手なヘアスタイルに目を留め、
思い付いたように言葉を継ぎ足す。

「あの、ところで……ちょっと聞いても良いですか?」
「『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』って聞いて、
そこで『バンドの名前』か、って思うのは
もしかして、貴方がバンド活動してたりするから……だったりしますか?」

515花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2018/09/16(日) 22:58:29
>>514

「いやァ、オレはマトモに楽器を扱ったこともねェな。
 バンド活動とは、生まれてこの方ご縁がない身さ。
 こんな外見だがよ」

否定の言葉と共に、笑いながら片手を軽く振った。
言われてみれば、そう思われても不思議ではないかもしれない。
今言ったように、もちろん実際は違うが。

「まァ、しがない『スタントマン』だ。
 こんな頭で良いのかって思うかもしれねえが、
 仕事中はヘルメットやらカツラやら被るからな。
 だから、それほど問題にはならねえのさ」

(……『素直』だなァ。どうやら悪い奴じゃあねえらしい)

少年の受け答えを見て、そう感じた。
万が一『マジにヤバイ奴』だったら、
見えてることを明かした時に厄介なことになりかねないからよォ。
しかし、この様子なら大丈夫そうだな。

「――で、『特別な存在の名前』ねェ……。
 なるほどなァ。それなら、オレにも分かるぜ」

そう言って、視線を『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』に向ける。

「『スウィート・ダーウィン』ってのが、『オレの中にある奴』の名前さ」

516一色 直『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』:2018/09/16(日) 23:18:08
>>515

「えっ、『スタントマン』……そうだったんですか!」
「いや、その、ごめんなさい。正直なところ、その髪型を見て『バンドマン』の方かな、
と思ったんです」

誤解したことを申し訳なさそうに、ぺこっと頭を下げる。

「『スウィート・ダーウィン』? あッ、もしかして……!」

『花菱』の言葉にちょっと戸惑った後、自分の『スタンド』を見る彼の視線に
気付いたように声をあげ、立ち上がる。

   パサッ

その弾みに、手に持った大学ノートを取り落とす少年。開いたページには、
何やら細々とした文章が書き込まれている。

「貴方には『見える』んですね、僕の『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』が!
驚きました……家族にも友達にも、彼は『見え』なかったのに」
「初めてです。えっと、『見えて』いるんですよね……?」

念を押すように確認する少年。傍らの『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』が、
ひらひらと『花菱』に手を振る。

517花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2018/09/16(日) 23:47:09
>>516

「ハハハ、なァに構わねえさ。
 『バンドマン』と『スタントマン』か。響きはちっとばかり似てるな」

反射的に、地面に落ちたノートに目を向けた。
他人のものを見て喜ぶ趣味はねえが、これはまぁちょっとした事故って奴だ。
全然興味がないかっていうと、まぁ多少はあるけどな。

「あぁ、しっかり『見えてる』ぜ。『鍵』と『鍵穴』か。
 なかなかイカしたデザインじゃねェか」

『ステイル・トゥ・ヘブン』の腕を見て、感想を漏らした。
スタンドが手を振るのに合わせて、それを追うように視線も動く。
間違いなく『見えている』ことが分かるだろう。

「もっとも、『オレの』とは大分『形』が違ってるがよ。
 オレとあんたが違うように、『人それぞれ』ってことなんだろうな。
 だからこそ面白いと、オレは思うぜ」

    スゥゥゥ……

そう言って、おもむろに片手を持ち上げる。
意識を集中すると、そこに『精神の象徴』が姿を現していく。
それは、一丁の『リボルバー拳銃』だった。

    ドギュンッ!

「これが『スウィート・ダーウィン』――『オレの中にある特別な奴』さ」

518一色 直『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』:2018/09/17(月) 00:14:34
>>517

地面に落ちたノートに目を向けると、細々と書かれた文章が、『脚本』の体裁を
とっていることが分かる。何かの『演劇』だろうか?

「あっ、ありがとうございますッ!
この『鍵穴』と『鍵』の意匠、僕、大好きなんです……なんと言うか、
『未来』への象徴、みたいな感じがして。だから、いいデザインだ、って
言ってくれたこと、嬉しいんです」

笑顔を浮かべて、そう『花菱』の言葉に応える。心底『嬉しそう』だ。
そして『スタンド』――『スウィート・ダーウィン』を発現する『花菱』の様子を、
落としたノートを拾うこともせずにじっと見守る。

「うわッ!?」

    ドテッ!

「……失礼しました。えっと、それ、『拳銃』ですよね?
それが――貴方の『スウィート・ダーウィン』、特別な力なんですね」

パッ パッ

 『花菱』の掌中に現れた『リボルバー』のビジョンに、びっくりした様子で
尻餅をついた。暫くして立ち上がり、気恥ずかしそうに、服についた草葉を払うと、
二人の『スタンド』のビジョンをしげしげと見比べながら口を開く。

「本当に……僕のとは形も、何もかも違うみたい……一人一人違う形と
性質を持っているもの、なんでしょうか」
「……だとしたら、ひょっとして……貴方の『スウィート・ダーウィン』、
特別な『特徴』みたいなものを持っていたりしませんか?」

519花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2018/09/17(月) 00:39:45
>>518

(……『演劇部』か何かか?いや、そうとは限らねえか。
 ついさっき、オレも『外見』で間違われたばっかりだしなァ)

とりあえずノートからは視線を外した。
あんまりジロジロ見てんのも悪いしな。
それよりも、今は『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』が気になった。

「あぁ、『拳銃』でも『ピストル』でも『リボルバー』でもいいぜ。
 ここの『トリガー』を引くと、銃口から『タマ』が出る。
 オレは触ったことはねえが、『本物』と同じようにな」

物騒なヴィジョンだが、『本物の弾』は一発だけだ。
残りの五発は『偽りの死』をもたらす『偽死弾』。
それが、『スウィート・ダーウィン』の『能力』だ。

「『特徴』か――あるぜ。
 折角だし、ご披露したいところだが……
 この場で『ブッ放す』のは、それこそ物騒だからなァ。
 『あんたの』を見せてくれたら考えるが……」

思案顔で『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』に目をやる。
物騒だというのは本当だが、実際はそれだけではなかった。
少年の『スタンド』が持つであろう『能力』に興味を引かれたからだ。

520一色 直『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』:2018/09/17(月) 01:14:58
>>519

「やっぱり!一人に一つの『外見』、そして『特徴』……『これ』には
そういう性質――いや、現象としてのルールがあるんですね……」
「あれ、ノート……あっ」

感心しながら、何か書き込もうとして……思い出したようにノートを拾い上げる。
立ち上がった拍子に取り落としたことを忘れるほど、『スタンド』に『興味』があったようだ。

「ううん、確かに……『拳銃』ですからね。何となく、特徴も『物騒』な予感があります」
「僕の『特徴』ですか?ええっと、お見せするのは構わないです。
『力』を使うのに、周りに配慮できる貴方は(見た目は怖いけど)……
『悪い人』とは思えないです。ただ、ちょっと準備がいるので――」

ビッ

そう言いながら、さっき尻餅をついた『地面』に、『スタンド』が指を突き立てる。
『鍵』のかたちをした指先が地面に触れ――

 ズ ォ オ ォ オ ォ オ

そこに、『A4サイズ』の『扉』が現れる。もっとも、本物の『扉』というわけではなく、
明らかに『イメージの扉』であることが、スタンド使いである『花菱』には分かるはずだ。

「ええと、ご覧の通り、『扉』です。これを設置することが『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』の
『特徴』……でも、『扉』だけじゃあ、どこにも繋がらないですから、これはまだ
『途中』なんです」

521花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2018/09/17(月) 01:42:54
>>520

「そうみてェだな。もっとも、オレもそれほど詳しい訳じゃねェが……。
 今までオレが見かけたことがあるのは、
 あんたの『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』みたいな奴だったぜ」

(えらく『スタンド』に関心があるらしいなァ……。
 この感じだとスタンド使いになったのは『最近』ってとこか……)

「ハハハ、そいつはどうも。
 さァてと――それじゃあ『特等席』で鑑賞させてもらうとするか」

『スウィート・ダーウィン』を手の中で弄びながら、
『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』の動きに注目する。
『鍵』と『鍵穴』の意匠を備えたスタンドだ。
『扉を』生み出すというのは理に適っているように感じられた。

「ははァ、なァるほどな。
 『扉』が出てきたってことは……
 それが『どこかに繋がる』って考えるのが自然だよなァ。
 ここから、更に何かが起きるって訳かい?」

『扉』を眺めて、顎に手を当てながら自身の考えを呟く。
それが当たっているかは分からない。
何しろ『スタンド』というのは、常識では計れない存在だからだ。

522一色 直『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』:2018/09/17(月) 02:03:23
>>521
          、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
「そう――扉はどこかに繋がらなければならないんです」

ビッ

ノートのページを一枚破り、それを『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』の
素早く精密な動きで『紙飛行機』のかたちに折り、それを右手で持って
左手で翼に触れる。すると――

 ポ ゥ

翼の表面に『鍵穴』の意匠が浮かびあがり、それと同時に左手の
『鍵穴』の意匠が消える。そしてその紙飛行機を、『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』が
ふわり、と投げる。

「そして、その『行き先』はッ」

紙飛行機はふわふわと漂い、やがて地面に、翼を上にしてぱさりと落ちる。
それを待ち、『扉』に手を押し当て、押し開けるように『進む』と――

『ガチャ』

ふ、と少年の姿が掻き消え、

         グニャア…ッ

地に落ちた『紙飛行機』の翼の『鍵穴』から、彼の姿が現れる。

「……と、こんな風に、『扉』は『鍵穴』に通じているんです。
一度通り抜けると、扉は消えて、鍵穴も『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』の
手に戻って来てしまうんですけどね」

523花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2018/09/17(月) 02:49:06
>>522

「――うおッ!?」

眼前で発揮された『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』の『能力』に、
思わず目を見張る。
目の前で繰り広げられた一連の流れは、まるで『イリュージョン』だ。
『どこかに繋がる』と予想はしていたものの、
実際に自分の目で見ると驚きを隠せない。

「『扉は繋がらなければならない』……か。
 『納得』したぜ。良いものを拝ませてくれて、ありがとよ」

口元を緩ませてニヤッと笑い、それから少し考え込む。
『能力』を見せてもらったからには、
こっちも披露するのが『フェア』ってもんだろう。
今オレが悩んでいるのは『どう見せるか』についてだ。

「さて――と……。
 『今度はオレの番』ってことになるんだが、どうしたもんかな……。
 『見せること自体』は、別に何も難しくはねェんだが……」

『スウィート・ダーウィン』の『能力』は、
『能力を受けた人間』にしか感じ取れない。
一番『分かりやすい』のは『目の前にいる少年を撃つ』ことだ。
しかし、いくら『偽り』とはいえ、
出会ったばかりの相手に『死』を体感させるというのはどうか――。

「突然だが、お前さん――『スリル』は好きかい?オレは大好きでよ。
 『病み付き』と言ってもいいくらいになァ」

      ――スゥッ……

『スウィート・ダーウィン』を握っている腕を、静かに持ち上げる。
そして、その銃口を自身の『こめかみ』に突き付けた。

「特に『死ぬ一歩手前』くらいの『スリル』が『大好物』だな。
 『デッドラインギリギリのスリル』って奴に目がねェのさ。
 『スタントマン』なんてやってんのも、それが大きな理由って訳さ」

          ガァァァァァ――ンッ!!

次の瞬間、空気を引き裂くような『銃声』が轟いた。
といっても、『スタンド使い』以外には聞こえない音だ。
『スタンドを持つ者』には、『本物の銃声』と同じように聞こえただろう。

「――が……ぎッ……!!」

着弾の直後、その場に膝をつき、前のめりに地面に倒れ込む。
顔面は蒼白の様相を呈しており、
苦悶の声を上げながらもがき苦しむ姿は演技にしてはリアル過ぎる。
あたかも、本当に『瀕死状態』のようだ。

524一色 直『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』:2018/09/17(月) 03:07:10
>>523

「あはは……まあ、ちょっと『演技過剰』だった気もしますけど、
楽しんでいただけたなら幸いです」
「それじゃ、今度は僕が『特等席』で拝見する番ですね」

ぺこり、と一礼して、その場に腰掛ける。
何が起こるんだろう、とワクワクしていたのはいいのだが……

「って、えっ……!?」

突然『拳銃』を自分自身のこめかみに突きつけた『花菱』の行動に、
思わず立ち上がってしまった。またもや、ノートが地面に転がる。

          ガァァァァァ――ンッ!!

「うっ……ま、まるで本当に『火薬』が炸裂するような音……銃撃なんて
経験したことはないけど……昔『花火』の暴発に遭ったときのような……」
「って、わあァ――――ッ! なッ、何をしてるんですかッ!?」

耳をつんざく『銃声』!思わず耳を抑えて呟くが、直後に倒れ伏す
『花菱』を目にして、「それどころじゃない」とばかりに駆け寄り、
抱え起こそうとしながら呼びかける。

「し、しっかりして下さい! 『自分』を撃つなんて……!」

525花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2018/09/17(月) 03:39:53
>>524

「うぐッ……ぐッ……がッ……!!」

地面の上に仰向けに転がり、空いている方の手を天に向けて伸ばす。
その手から徐々に力が失われていく。
やがて、力なく腕が地面に落ちる。
苦悶の声も聞こえなくなっている。
瞳から光が消え失せていき、そのまま動かなくなった……。

     ――ガバッ!

「――ハハハハハッ!!これだぜ、これ!!
 心の奥にガツンとくる『死と隣り合わせ』の『スリル』!!
 全く、いつやっても『こいつ』は『最高』に『スウィート』だ!!
 ハハハハハッ!!」

きっかり『四秒間』が経過し、不意に勢いよく上半身を起こして高笑いする。
先程までの姿が嘘のようだ。
もっとも、『偽りの死』ではあっても『演技』ではないのだが。

「――っと、つい一人で盛り上がっちまった。
 驚かせてすまねェな。いや、別に騙した訳じゃねェんだ。
 傍目から見たら分からねェと思うが、これが『能力』だ。
 『死因』を『再現』する――それが『スウィート・ダーウィン』の力ってことさ」

「さっきは『窒息死』を再現したんだ。
 ちょうど目の前に『湖』があるしよ。
 『湖の前』で『溺れ死んでみる』のも一興だと思ってな」

平静を取り戻し、自身の『能力』について説明する。
これで納得してもらえるかどうかは分からないが、
『出会ったばかりの少年を撃つ』よりはマシだろうと判断した。
目の前で『死んでみせる』というのも、心臓には良くないとは思うが。

526一色 直『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』:2018/09/17(月) 05:52:46
>>525

「ちょ、ちょっとしっかり……ああ、そんなッ!」

明らかに『絶息』せんとする『花菱』の様子に、
がくりと膝を地面につけて衝撃を受けた……のも束の間。

「え、ええ? 今度は『生き返った』……ッ!?」

平然と起き上がる彼の姿に、二度目のびっくりである。
二度目だというのに出力の落ちない驚愕を見せつつ、
彼の説明を真剣な様子で聞く。

「……なるほど……『死因』を再現する、死を演じる
『銃弾』……それが『スウィート・ダーウィン』なんですね。
先ほどの貴方の様子、『演技』にしてはあまりにも
『真に迫り』過ぎていたと思います。本当に
『死に』かけたようにしか見えなかった……」
「僕とは全く違う『力』の性質……とても面白いです」

『花菱』の説明を、少し考えて噛み砕きつつ、
それを彼に確認するように喋る。

「……今日は、とてもいい経験が出来た、そう思っています。
貴方に会えて良かったです」

そう言うと、すっくと立ち上がって声色を正し、続ける。

「僕は『一色』……『一色直(いっしき すなお)』」
「この町の学校に通っています。
色々と教えてくれたこと、ありがとうございましたッ」

びしっと頭を下げて、感謝の意を示す。

527花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2018/09/17(月) 22:53:26
>>526

「ま、そういうこったな。分かってくれたようで何よりだ。
 一人でバカみてェに転げ回ってるだけだと思われたら、
 どうしようかと思ったぜ」

「『死を演じる銃弾』とは、なかなかシャレた言い回しじゃあねェか。
 ハハハハ、気に入ったぜ。
 『瀕死の演技』だけなら、アカデミー賞も取れるかもなァ」

『スウィート・ダーウィン』を解除し、両手で服の汚れを適当に払う。
そして、少年と同じように立ち上がった。
感謝の意を示す少年に、軽く笑った後で言葉を返す。

「ハハハ――なァに、いいってことよ。
 同じ『スタンド使い』のよしみってことでな。
 オレの方こそ、滅多に見られねェようなもんを見せてくれてありがとよ」

「しかし――お前さんを見てると『名は体を表す』って言葉を思い出すなァ。
 道理で『素直』な訳だ。
 その名前を付けた親御さんは、かなり良いセンスしてると思うぜ」

「オレは『花菱蓮華』って名さ。
 またどっかで会ったら、その時はよろしくな。
 聞いた話じゃあ『スタンド使い』ってのは『惹かれ合う』もんらしいから、
 偶然出くわすこともあるかもしれねェな」

「そんじゃあ、オレはちっとそこらをブラブラしてくるとするぜ。
 またな、『一色』ィ」

ヒラヒラと片手を振って少年に別れを告げ、歩き出した。
こういうことがあるんなら、たまの散歩も悪くねェ。
『スタンド使い』と出会うのは『刺激』になる。
そういう意味じゃあ、オレにとっても『プラス』って訳だ。
『死ぬ一歩手前のスリル』程じゃあなくってもなァ。

528一色 直『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』:2018/09/17(月) 23:54:15
>>527

「『花菱』……『花菱蓮華』さん」

その名前を、しっかりと記憶に刻むように繰り返した。

「本当にありがとうございました……貴方の言うように
『惹かれあう』のであれば、いつかまた会えるでしょう」
「その時を、楽しみにしています……それでは!」

そう言って『花菱』をその姿が見えなくなるまで見送り、
その場に腰掛けて落としたノートを拾い、開く。

「……スゴい体験が出来たぞ……それに『スタンド使い』
って最後に『花菱』さんが言ってたけど、それが
きっとこの『力』の呼び名なんだ……!」
「忘れないうちに今日のことをしっかり書き残さなくちゃ」

   カリカリカリカリ…  パタン

そう言いながら手早くメモを取り、すっくと立ち上がる。

「やっぱり、君と行く道は『良いところ』に続きそうだ。
そうだよね、『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』」

傍らの『スタンド』に一言かけて、足早に公園から出て行く少年。
その行く先に何があるのかは、まだ誰も知らない。


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