したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

【場】『 私立清月学園 ―城址学区― 』

1『星見町案内板』:2016/01/24(日) 23:57:56
『H城』の周囲に広がる『城址公園』の敷地を共有する『学び舎』の群れ。
『小中高大一貫』の『清月学園』には4000人を超える生徒が所属し、
『城郭』と共に青春を過ごす彼らにとって、『城址公園』は広大な『校庭』の一つ。

『出世城』とも名高い『H城』は『H湖』と共に『町』の象徴である。

---------------------------------------------------------------------------
                 ミ三ミz、
        ┌──┐         ミ三ミz、                   【鵺鳴川】
        │    │          ┌─┐ ミ三ミz、                 ││
        │    │    ┌──┘┌┘    ミ三三三三三三三三三【T名高速】三三
        └┐┌┘┌─┘    ┌┘                《          ││
  ┌───┘└┐│      ┌┘                   》     ☆  ││
  └──┐    └┘  ┌─┘┌┐    十         《           ││
        │        ┌┘┌─┘│                 》       ┌┘│
      ┌┘ 【H湖】 │★│┌─┘     【H城】  .///《////    │┌┘
      └─┐      │┌┘│         △       【商店街】      |│
━━━━┓└┐    └┘┌┘               ////《///.┏━━┿┿━━┓
        ┗┓└┐┌──┘    ┏━━━━━━━【星見駅】┛    ││    ┗
          ┗━┿┿━━━━━┛           .: : : :.》.: : :.   ┌┘│
             [_  _]                   【歓楽街】    │┌┘
───────┘└─────┐            .: : : :.》.: :.:   ││
                      └───┐◇      .《.      ││
                【遠州灘】            └───┐  .》       ││      ┌
                                └────┐││┌──┘
                                          └┘└┘
★:『天文台』
☆:『星見スカイモール』
◇:『アリーナ(倉庫街)』
△:『清月館』
十:『アポロン・クリニックモール』
---------------------------------------------------------------------------

561斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2019/07/25(木) 20:00:41
>>560

彼の返答は困惑と謝罪が混じっていた物だった。

「いや、誤解させたようだが、今泉さん、貴女に聞いた訳ではない」


今泉の背後で何かが揺れる音がし始める
『本棚』だ、楽譜を仕舞い込んだ本棚がまるで地震であるかのように揺れている!

そして本棚から一冊の本が『射出』され、貴女の顔の側面をかすめて
ピアノの譜面台に叩きつけられた!

「『音楽室』に聞いたのだ……しかし君も気に入られたらしい」
「或いは、理想的な観客だからか。」

そう呟く斑鳩の眼前で、本……楽譜集のページが独りでにめくられ続け
あるページで動きを止める、そのタイトルは。

「1888年、エリック・サティ作、『ジムノペディ』……その第一楽章」
「『人類が生みえたことを神に誇ってもよいほどの傑作』と評される、ピアノ独奏曲。」


――斑鳩本人の指先が鍵盤を叩き、柔らかな、ゆったりとした旋律が流れ始める
それは先程の演奏に勝るとも劣らない物だった。


「今、起こっている全ての現象は、私の手によるものではない。」
「私のスタンド……『ロスト・アイデンティティ』は精々ピアノを弾く程度なのだから。」
「一人につき、一つの能力、『スタンドのルール』に反しているからな。」


彼の静かな口調は、この異常な事態でも何一つ変わることが無い
そして奏でられている旋律と同じ様に、ゆっくりと氷のように冷えた言葉が続く。


「もし、君の友人に聞けば『音楽室は使っていない』と答えるだろう」
「そもそもその友人には『スタンドで出来たピアノの音』など聞こえないのだから。」

「もし、君が音楽室のネームプレートの前に立ち『ピアノの音』が聞こえていたら」
「本来の音楽室とは、『違うドア』を音楽室を認識するだろう。」

「もし、君が『本来ない筈の音楽室』にはいったのだとしたら」
「『先生』も……ここにはいるわけがないのだ。」

「そして、もし……ここが、『スタンドの音楽室』だったとしたら」
「君はここに入った時、違和感を感じただろう、まるで『深海に沈んだ』ような……。」



 『ゆっくりと苦しみをもって』(Lent et douloureux)


僅かな雨音の中、作曲者の指示通りにその演奏は続いている。

562今泉『コール・イット・ラヴ』【高1】:2019/07/26(金) 21:51:14
>>561

「え? じゃあ誰に――――」

            「わっ」

   スッ

「わっ」「え」「なにこれ……!?」

見たことが無い。
でもわかる。これは、びっくりすることだ。
イカルガ先輩の言葉も、目に見えてる光景も。
飛んできた本、勝手にめくれる楽譜。

――――『音楽室が生きている』みたいだ。

「じゃあ……ここは」

   キョロ  キョロ

「そう、入った時、変な感じがして」
「そっか」「そういう……へえ〜〜〜っ」

でも、ピアノを弾いてるのは先輩だ。
それは、音楽室が弾くより――――先輩が弾く方が上手だからかな。

「それじゃあイカルガ先輩も、『音楽室』に気に入られてるんですねえ」
「やっぱり」「上手だからですか? ピアノが……」

聞こえてくる旋律は、影の腕じゃなくっても、すごく上手だ。

「そう、『ジムノペディ』! こんな曲でしたねっ」

スタンドがどうとかじゃなくて、この人はピアノが上手いんだ。それに詳しいんだ。

563斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2019/07/26(金) 22:51:39
>>562

斑鳩 翔 彼がここを見つけたのは偶然でもあったし、必然でもあった

この校舎には偶に、白い靴下をはいたような猫が迷い込む
『スリーピング・トゥギャザー』と名付けられたその猫は、体を寸断して瞬間移動する『スタンド使い』だった

彼が猫を見つけた切っ掛けは、ラジオでの怪談話からだが、能力を加味しても、校舎では殆ど目撃されていない
では何処にいるのか ……その答えがここだ

『雨の日にのみ現れる、もう一つの音楽室』

しかし、スタンドには、この音楽室にいる彼らのような本体がいる
 ……恐らく独り歩きしているこのスタンドは、そこまでパワーが強くないのだろう
それ故に、『雨の日』と言う僅かな時間にしか、この部屋は表に出てこない。

「……。」

貴女が称賛した一瞬、彼の纏う空気のような物が変わった
だが、それは一瞬のことで、すぐに返答を口にしだした。


「……最初はミネラルウォーターしか出てこなかった」
「ただ、演奏を重ねると、『報酬』のレパートリーが段々増えてきてね」

「最近では、君が頂いているようなものまで出てくる」

「――『成長』しているのかもな。」
「君の傍の椅子も、君の『スタンド』を認識しているらしい。」

「『楽譜に正確だが、誠実ではない』」
「気に入られているとは思わないが ……『楽器』には『演奏する人間』が必要なのだろう。」

「或いは、演奏者そのものを『本体』としているのか……いや、憶測が過ぎたな、やめておこう。」


『ジムノペディ』、その第一楽章は3分40秒で終了した
――窓の外の雨は、大分まばらになってきている。


 「ご清聴、有難う。」

564今泉『コール・イット・ラヴ』【高1】:2019/07/26(金) 23:35:03
>>563

「こちらこそ、ありがとうございますっ」

        パチパチパチ

演奏が終わったから、小さく拍手をした。

「『報酬』――――そっか、じゃあ、『ウバ』も音楽室が」
「それにお菓子も」「えーと」

      キョロキョロ

「ありがとうございます?」
「美味しいです、これ」

部屋にお礼するときって、どこに言えばいいのかな。

床?壁?空気?
こういう時のフツーって、わかんないや。
本体がいればわかりやすいんだけど。

「それと、演奏。すごくよかったです、昔聞いたのより素敵でした」

          ニコ…

「どこで聞いたのか、忘れちゃったけど」「まあそれはそれとしてぇ」
「音楽室が気に入ってるかは分かんないですけど、私は気に入りましたっ」

音楽を聴いたとき、それが良いのか悪いのか『こころ』で分かるわけじゃない。
でも、耳が聴いている。綺麗な音だし、リズムとかも、いいと思う。
誠実じゃないってことがこころで弾いてないってことだとしても、意味は、あると思う。

「――――あ。雨、止んできましたね」

                ガタ…

「私、そろそろ行こうと思います。先輩はまだここで弾いていきます?」

565斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2019/07/27(土) 00:19:51
>>564

ピアノの蓋をそっと閉じ、立ち上がる
拍手に一礼を持って応える、立ち上がっている所を見ると
学生服を着た姿は、彼女が着ている物とほぼ変わらなかった。

「演奏は終わった、『幼子は水浴びを好むが、季節は巡る』、私も退室するよ」
「……ただ、出るなら早くした方が『絶対に』いい」


 *ザザーッ* *リーン* *ゴーン*


音楽室に備え付けられた一つのスピーカーから
ノイズ交じりのチャイムが鳴り響く、本来ならこの時間には鳴り出さない筈の音が。

「私達のスタンドは、普段は出ていない ……『精神力』を使うからな
そしてこのスタンド ……『音楽室』が出ているのは『雨が降っている間』だけだ」



貴方の肘に何かがあたった、見てみればテーブルが『貴女に向かって移動している』
だがそれは、正確には違った、……全ての物が、いや、『部屋全体が縮みはじめている』!



「維持する力が無ければ『スタンドはしまわれる』」
「その時中にあった物が何処に行くのかは、私にすらわからない。」

――雨音は、もう聞こえない。

斑鳩が貴方の傍を早足で通り抜けると、音楽室のドアをやや乱暴気味に開く
『音楽室』のドアは既に、彼の身長から頭一つ分、下の大きさになっていた。


「お先にどうぞ、後輩。」
「……出ないのなら私は先に出るが、お勧めはしない。」



「――それと、君の『スタンド』によろしく言っておいてくれ。」

566今泉『コール・イット・ラヴ』【高1】:2019/07/27(土) 02:26:34
>>565

「『季節は――――』って、どういう」「……?」
「あれ、チャイム?」

「わ……あれっ、この部屋……あ、そういう!?」
「教えてくれてありがとうございます、先輩!」

部屋から急いで出よう。
ここに来たの、先生に会うためだしさ。
それに先輩ともお話しできたし、とにかく、出よう。

     タタッ

「危ない危ない、消えちゃうとこだった……のかな?」

それとも、次の雨の日でずっと、あそこで観客になったりとか?
どっちにしても、フツーじゃないし……いやだと思うんだ。

「はいっ、今日は出てこなかったですけど」
「『先生』にもよろしく言っておきます!」

               「それじゃあ、またっ。イカルガ先輩!」

567斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2019/07/27(土) 14:01:00
>>566

放課後の廊下から見る窓の外は、雨の降った後の突き抜けるような青さがあった
でも、何故か妙に頭がぼうっとしていて……ここは清月学園だとわかったのは
女子生徒が僕に手を振りながら去って行く時だった。

「……。」

(今のは誰だろう?僕を知っているようだったけど)
(ここは……音楽室の前だ、でも、なんで僕は此処にいるんだ?)

               *カチン*

(そうだ、えーっと…あの子は今泉さんだ、僕の後輩で一年下の。)
(『ジムノペディ』が好きで、そして『スタンド使い』でもある。)
(それで……)

               *カチン*

(ここにいたのは、彼女が見えて、『廊下で挨拶してすれ違っただけだった』よな。)


妙に頭が痛い気がして、振り払うように頭を振る
腕時計を見ると、最後に見た時から大分時間がたっていた。


(うわ、もうこんな時間か、早く帰らないとお祖母ちゃんを心配させるよ、翔。)
(最近、通り魔が出たとかも聞くしな、怖い怖い……。)

斑鳩が廊下を歩み去ると、彼の背後にあった音楽室の扉は
雨の中の涙のように消え去った。

568三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』【中一】:2019/08/25(日) 23:39:13

                トトトトッ

千草は忘れ物をしてしまいました。
英語のノートです。
今は、それを取ってきた帰りなのです。

(こんなことでは『立派な人』にはなれません)

千草の夢は、『素晴らしい死に方』をすることです。
良くない行いをしていると、きっと『良くない最期』になってしまうのでしょう。
だから、千草は『立派な人』になりたいのです。
誰からも愛されて、好かれて、尊敬されるような人間になりたいのです。
そうすれば、きっと最期も素晴らしいものになると信じているからです。

(でも、本当は――)

千草は『死ぬ』のが怖いです。
もし『死なない方法』があるなら知りたいとも思っています。
だけど、そんなものがある訳がありません。
社長でも大統領でも校長先生でも、いつかは死ぬ時が来るのです。
千草が学校にノートを忘れる未熟者でも、それくらいは分かります。

「ふぅ……」

だから、千草は『素晴らしい死に方』をしたいのです。
死が避けられないなら、せめて最期は素敵なものにしたい。
それが千草の願いです。

「……暑いです」

           ポスッ

日陰のベンチに座ります。
帰る前に一休みしておきましょう。
具合が悪くなって倒れたら、もっと未熟者になってしまいます。
もしかすると、熱中症で命を落とすかもしれません。
それは嫌です。

569小林『リヴィング・イン・モーメント』【高3】:2019/08/26(月) 23:38:06
>>568

――ストン    ...ギシ

隣に腰を下ろす音、ベンチの椅子が軋む僅かな音。周囲の環境音が
少ないならば、蝉の鳴き声もするかも知れない。

「夢をね 見た気がするんです。
苦しいような…切なかったような、躍動感と言う
胸のこの奥の部分がね、どうにも治まりつかず語彙としては
浮かれる、と表現すべきかも知れません。
どうにも、不思議な夢でした。そして、何かが掴めそうで……
もう少しで、何か遠い昔に手から零れたものを思い出せそうでして」

空中へ、空へ掲げ伸ばした片手をゆっくりと膝に下ろす。

「……けれど、結局それは分からず仕舞いで目覚めてしまいました。
……千草さんはそう言った体験はありますでしょうか?」ニコッ

「あぁ、今日は暑いですから……アイスココアは申し訳ないですが品切れで。
冷えたマスカットティーと、レモネード。それと烏龍茶のストックならありますよ」

氷は無いですがね。と、薄く微笑してスタンドのある球体の水槽を三つ取り出した。

570三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』【中一】:2019/08/27(火) 00:08:21
>>569

『今この瞬間を生きる』――声を聞いた時、その言葉を思い出しました。
千草のスタンドと、どこか似通った名前のスタンドを持つ人。
それが、隣に腰を下ろした方でした。

「――いえ、ありません」

「『夢』を見たことはありますけど……」

よく考えてから、そう答えました。
この場合の夢は、寝ている時に見る方の夢のことです。
楽しいものもあれば怖いものも見ます。
小林さんは――何だか変わった体験をされたようです。
もちろん、千草には詳しいことは分かりません。

「いいんですか?」

「えっと――」

「それでは、『お茶』を……」

少し迷いました。
人様の手を煩わせるのは良くないことかもしれないと思ったからです。
でも、好意を無下にするのは、もっと良くないことでしょう。
だから、千草はお茶を頂くことにしました。
それに、喉が渇いていたのは本当のことです。

571小林『リヴィング・イン・モーメント』【高3】:2019/08/27(火) 00:24:59
>>570

「烏龍茶ですね。では、私はこちらのマスカットティーで
…乾杯の音頭は、またこうやって語り合える事を祝してにしましょう」

紙コップも持参はしている。冷えたての烏龍茶とマスカットティーを解除し
千草さんと自分の分。一つを渡して、もう一つは口付ける
猛暑を少しだけ忘れさせる涼やかな冷たさが喉を駆け巡る。

「……私はね」

「千草さんの歳よりも、もっと幼少の……小学生に入りたて位でしたかね。
その時に、一度私は完全に『壊れる』体験がありましてね」

フゥ…と冷たさを感ずる吐息を上へと舞わせる。

「それ以来、どうにも物心あった当初と違う存在に変わってしまいまして。
自分自身が人でなしか、生きる上での受容の捉え方が何か作り物に思えるのですよ。
……たまに、その壊れる前の頃の感覚が戻れそうに感ずる事もあります。
それが、今さっき話した『夢』なんですがね……」

もう、良く思い出せません。と溜息を吐き出す。

「共に、その中で守らなくてはいけない『誰が』が居た気がするんです。
其処に、決して忘れ手はいけない『何か』はあった筈なのです。
……何時も、そうなんだ。
私は肝心な時に本当に手放してはいけない選択を誤ってしまう」

紙コップに浮かぶ、薄緑色の水面に焦点が定まらない瞳が覗き込んでいる。

「私は『ブリキ』だ……この金魚(スタンド)と同じく魂に彩りは無い。
それでもです。それでも私は掛け替えの無かった、答えも見出せない
あるかどうかも分からない物を取り戻そうと躍起になっている。
……千草さんから見て、私は何に見えますか?」ニコッ…

何処か虚ろな微笑と共に、少女へ青年は問いかける・・・。

572三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』【中一】:2019/08/27(火) 00:45:44
>>571

「ありがとうございます。千草も、またお会いできて嬉しいです」

    ペコリ

冷えたお茶が喉を通りました。
額に浮かんでいた汗も、少しずつ引いていきます。
そして、千草は小林さんのお話をお聞きしました。

「…………」

それは難しい話でした。
とても難しいお話です。
千草には――未熟者の千草には、その一割も理解できないでしょう。
いつかは分かるのかもしれません。
でも、それは『今』ではないのだと思います。

「それは……」

これは『夢』に近付けるチャンスなのかもしれません。
ここで小林さんを納得させてあげられたら、きっと『立派な人』に近付けます。
『立派な人』なら、どう答えのが正しいのでしょうか。
どう答えれば、『立派な人』に近付けるのでしょうか。
千草は――――悩みました。

「――『人』に見えます」

そう答えました。
自分なりに知恵を絞っても、気の利いた答えは出てこないでしょう。
それに、小林さんが望んでいるのは『正直な答え』ではないかと思いました。
だから、千草は素直に答えました。
『誠実であること』が、『立派な人』になるために大切なことだと感じたからです。

「小林さん……」

「千草からも、お聞きしてよろしいですか?」

「――――千草は何に見えますか?」

573小林『リヴィング・イン・モーメント』【高3】:2019/08/27(火) 01:23:41
【場】『 私立清月学園 ―城址学区― 』
本日はすいませんが落ちさせて頂きます

574小林『リヴィング・イン・モーメント』【高3】:2019/08/27(火) 22:05:24
>>572

「―――そう  ですか」

『人(ひと)』 そう二つの単語であるけれども。
そう告げて頂いた事で 不思議と私は『赦して頂けた』ように思えた。

「……千草さんが ですが?」

少しだけ、答える時間に間が出来た。

人でなし 人未満な私が。答えを未だに模索中の自分自身に
彼女の望みえる言葉があるかと。

「……若輩者な私ですが」

「私には貴方が
『あるべき頂きを目指して進む』方に見えます」

「今は未だ険しく、遠い場所ですが。しっかり足を踏みしめて
そして見失わない場所に目指して歩みを運んでいるように……」

彼女は、私よりも小さな手と身体をしてるが。その瞳の奥底に
輝くものは何とも美しく そして損なわぬ硬さが見て取れるだろうか。

今は未だソレは小さいかも知れず、半ば埋めていても
いずれ掘り起こされ芽を咲かし、花か樹を育むだろうと思える。いや両方かも

「……私には無いものを千草さんは沢山持っていますね」

「それで良いんです。もう私には持てないものを、何時までも
しっかりと貴方は持っていて下さい」

575三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』【中一】:2019/08/27(火) 22:58:29
>>574

実は、少し不安でした。
千草の言葉が、小林さんを傷付けたりしてしまうことが怖かったのです。
だから、小林さんの返事の『響き』を聞いて、千草は安心したのだと思います。

「『あるべき頂き』……」

その言葉が、心の奥に音もなく染み込んでいきました。
千草が『目指している場所』は、果てしなく遠いです。
実現できるかどうかは分かりません。
もしかすると、失敗してしまうかもしれません。
ただ、小林さんの一言で『背中』を押してもらえたような気がしました。

「ありがとう――――ございます」

         ペコリ

その時、千草から見た小林さんは、どこか寂しそうに思えました。
ですが、そのことを聞く気にはなれませんでした。
それは、簡単に踏み込んではいけないことのように感じられたからです。

「今、千草は『清月館』に住まわせていただいてます」

「そのことを小林さんにも――小林先輩にもご報告したかったので……」

「あの…………『小林先輩』とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

576小林『リヴィング・イン・モーメント』【高3】:2019/08/27(火) 23:21:57
>>575(この辺りで〆させて頂きます。お付き合い有難う御座いました)

「えぇ、先輩なんて言われる程の人柄はしてませんがね」

微笑と共に肯定しつつ物思いにふける。

私は遠い所へと、亡くしてしまった影を何時までも忘れずに何処か追っている。

彼女(千草)もまた。遠い所にある場所へ目指している。けど、私とは違い
それは未来(さき)にある物だ、きっと……。

「……清月」パチパチ

その単語に少しだけ瞬きをしてから、少し一文字と化してた口元を綻ばせる。

「はは では、一緒に家路へと戻りますか。
彼(ヤジ)も丁度戻ってきてる頃合でしょうし……今日は鍋でもしようかと
呟いてましたから、早く戻ってあげるべきでしょう」

「――行きましょう」

自身の住処でもある『清月館』へ戻る為、千草さんに手を差し出しつつ
その方向へ頭を向ける。

私の向かうべき先は、頂きか それとは逆に深い底となる黄昏か。

着いた時に私は何の風景を見 何を思うのだろう……それは未だ誰も
知りえないであろうけれど。

(今この瞬間……その感じ入り、巡り合う事を私は忘れない 
――忘れては いけない)

577三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』【中一】:2019/08/27(火) 23:55:23
>>576

「あっ、小林先輩も寮生なんですね」

まだ知っている人に寮生は少ないので、それが分かったのは嬉しいです。
一人暮らしをして成長するために寮に入りましたが、未熟な千草には不安もあります。
だから、小林先輩が寮生だというのは少し心強い気がしました。

「――『宮田さん』ですね。お元気そうで何よりです」

前に小林先輩とお会いした時は、お友達と一緒でした。
仲が良さそうで、ああいった繋がりを『親友』というのでしょうか?
千草にも、そういう人ができればいいなと思います。

        スッ

「はい、帰りましょう。小林先輩」

小林先輩と一緒に、千草は清月館に向かって歩いていきます。
人との繋がり――それが、千草の『夢』を叶えるためには大切なことだと思っています。

           スタ スタ スタ …………

イッツ・ナウ・オア・ネヴァー
『 今しかない好機 』を逃さないために、千草は歩いていきたいのです。

578斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2019/09/11(水) 00:30:50
学校屋上への階段は
リノリウムの床が太陽光を反射して、雲った鏡のようになっている

防火の備えを兼任した鋼鉄の扉は
夏という季節には不釣り合いな冷気と共に閉ざされていて

……当然のように鍵がかかっていた。

学校側が立ち入り禁止にした理由は想像できるが
防ぐに意味が無いのではないか? と思いつつ


  ――鍵を回して扉を開けた。


頬を撫でる風が涼やかで
屋上の高さを考慮しても、夏は確かに終わりに入っているのだろう。


鍵を懐に仕舞うと、点検用の中途半端な長さの梯子を上り
この学校の一番高い場所で寝転がり、暇つぶしにルービックキューブを回しだす

今、自分が抱えている問題と違って
この問題は焦って解く必要も無いので、暇つぶしには丁度良い。

 「いっきし!」

俺は『私立清月学園』の屋上で、日光浴を堪能していた。
夕涼みに鼻を擦りながら。

 「誰か、俺の噂でもしてんのかねぇ」
 「……なわけ、ねえかぁ?」

ぼたん飴をひとつ、口に放り込んで噛み締め
目の前の手軽な問題と再び向き合う、考えるのは苦手になっていた。

579斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2019/09/13(金) 00:29:41
>>578

欠伸を一つ、目の前には完成したパズルがある。
正方形が正しい色調に並ぶのは見た目で完成したと思わせる達成感がある物だ

俺はそれを床に叩きつけた

散らばった破片をかき集め
ピースを残った本体にはめていく

 (完成した物は、それ以上先が無い)
 (もう一度パズルを完成させたいなら、一度崩す他は無い)

正攻法で並べるよりも
遥かに早い時間で出来上がっていくパズル。

 (……今まで努力が『出来なかった』天才が、急に5年も努力に頼るのか?)
 (説得力がねえなぁ、『結果』は解っていたんじゃねえのか?)

再び完成したルービックキューブを、指先で回すと
色が錯覚で混ざり合い、奇妙な正方形の物体として見える。

 (あの天才、何に5年をかけたのか)

パズルを止め、懐に仕舞う
如何に自身と言えど、その記憶と思考が常に連続しているわけではない
夢の中の出来事が、現実ではまったく思い出せなくなるように。

 (あの野郎、自身の精神では『スタンド』が発現しないのを解っていて……)
 (ワザと5年かけて『自分を崩した』のか、そうでなくては『スタンド』にも成長の余地が無いから?)

立ち上がり、梯子を滑るように下りると
屋上へのドアに手をかけた、借りた鍵を粘土でカタを取って、成型したのは良いが
やはり見つかると事だ、前みたいに誤魔化せれば楽なんだが。

 「答え合わせが出来ねぇのが、面倒くせぇ所だな」

もし考え通りなら、それはいかれた賭けだ。

報酬はあまりにも不確定、失敗すれば自我の崩壊と消滅、廃人化
だが事実ならば、奴はそれに半分とはいえ勝ったことになる、まったくどうかしている。

 「――自分の事だってのに、なぁ?」

それでも、他に方法が無ければそれを選択し、実行したのだろう
我が事ながら呆れる愚かさだ、馬鹿と天才は紙一重か。


鍵のかかる音と共に、彼は屋上から去った
他には何も残らなかった。

580鉄 夕立『シヴァルリー』【高2】:2019/10/01(火) 00:32:32
学園の中にある、静かな図書室。時刻は放課後。
数ある席の中で、端の方に座っている一人の男子学生がいた。
私物と思われる地図を広げ、その横にはメモ帳を置き、地図と交互に覗いている。
どうやら予習復習の類ではないようだ。

581猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』【高二】:2019/10/02(水) 00:16:45
>>580

「何をしてるのかな」

鉄の向かいの席に座る人。
栗色の髪、右側頭部にいくつかの編み込み、背が低く、幼めの顔立ち。
高等部二年の少年、猿渡。

「……探偵、ということでいい?」

582鉄 夕立『シヴァルリー』【高2】:2019/10/02(水) 00:36:43
>>581

「おや、こんにちは」

声をかけられ、一旦手を止めてそちらを見る。
どこかで顔を見たことがあるかもしれない。ひょっとして同い年かもしれないな、なんて思いながら。

>「……探偵、ということでいい?」

微笑んで、小さく頷く。

「それに近いかな。とはいえ、まだ真似事レベルでしかないが」
「オレは二年生の鉄 夕立(くろがね ゆうだち)。君は?」

583猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』【高二】:2019/10/02(水) 00:50:43
>>582

「僕は二年の猿渡。君のことは知ってる、鉄夕立」

「と、言う前に自己紹介されてしまったけど」

左手を口に当て、唇に触れる。
それから言葉を続けていく。

「知らなかった、君が探偵志望だったなんて」

「……ってかー?」

「理由を聞いても?」

持ってきた本を机の上に置きながらそう言った。

584鉄 夕立『シヴァルリー』【高2】:2019/10/02(水) 01:24:39
>>583

「オレの事を?意外だな、目立たない人間だと思っていたけど」
「それはともかく、猿渡くんか。よろしく」

一礼をする。唇に触れる猿渡くんを見て、
仕草のみならず中性的な顔立ちも相まって、中性的な人だなと思った。
もちろん、それでも男性ではあるため女性と違って緊張はしないが。

「最近世の中は物騒だからな」「調べて、気をつけておくに越した事はないと思って」
「君は、借りた本を返しに?それとも新たに借りに来たのかい?」

585猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』【高二】:2019/10/02(水) 02:35:25
>>584

「よろしくね」

そう、言葉を返す。
本の表紙を撫でながら鉄の様子を見ていた。
指先や地図に時々視線をやっていた。

「調べる……? あぁ、ハザードマップみたいなもの、かな」

「……そこに首を突っ込もうって話じゃないといいけど」

ぽつり。
そんな風な言い方だった。

「本を返してから、新しく借りに来た。これは新しく借りる予定の本」

「梶井基次郎の短編集と……ツルゲーネフの『初恋』を」

586鉄 夕立『シヴァルリー』【高2】:2019/10/02(水) 21:16:09
>>585

「これは危険な事件の起きた場所でね」
「例えば、この辺りは…どうやら不良達が何人か一方的な『ケンカ』に合ったらしい」
「数人は『ヤケド』もしているらしい…君も気をつけな」

『星見横町』の辺りを指差しながら、猿渡くんに伝えておく。
もっとも、この事件は自分の探しているものではなさそうだ。『通り魔』ならともかく、個人の私怨にあまり関わるつもりはない。
無関係の人間が巻き込まれたり、『スタンド使い』が関係しているならば話は別だが。


>「……そこに首を突っ込もうって話じゃないといいけど」

「・・・・・」「オレは別に危険を好んだりはしないよ」

笑顔で肯定とも否定とも言えない返事をしながら、猿渡くんの手の中の本を見た。

「それはどういう本なんだ?浅学の身には、二人とも聞き覚えのない人なんだ」

587猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』【高二】:2019/10/02(水) 21:48:58
>>586

「火傷」

復唱し、頷いた。
そういうこともあるらしい。
なんとも恐ろしい話だという雰囲気がある。

「僕も危険は好まないよ」

口に手を当てながら言葉を返し、本を鉄の方に寄せる。

「梶井基次郎は……授業でもやるかな、檸檬は知ってるかな。あれの作者さ」

「ツルゲーネフ……というか、この場合は作品に興味があったんだ。初恋、なんとも言えない話らしいんだけど」

588鉄 夕立『シヴァルリー』【高2】:2019/10/02(水) 22:01:04
>>587

「ああ、『檸檬』の人か」「国語の教科書を買った時に一通り読んだけど、確かに載っていたな」
「この作品を通してこれを伝えよう、とかではなくて、何だか独特で感情的で、でも入り込みやすい」
「不思議な作品だったな」

興味がわいた。
読み終えたら次に借りようかと思ったが、それより先にすべき事がある。
真実に辿り着いてなお、自分が生きていたら借りようか。
もし自分がその時には学生でなかったとしても、図書館になら置いてあるだろう。

「『初恋』…名前からすると、甘酸っぱい青春を連想させるけど」
「ところで猿渡くんには、気になる人とかいるのかい?」

589猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』【高二】:2019/10/02(水) 22:12:37
>>588

「丸善に檸檬を置いて爆弾魔の気分になるところがよく語られるけど」

「そこに至るまでの心境とか状況の描写が素晴らしいんだ彼は」

「独特の気持ちの落ち込みみたいな部分が鮮やかで……おっと」

途中で言葉を切る。
首を何度か横に振った。

「青春は青春だけど……これは優しくないね……オチを知ったうえで読もうとしているし……」

「気になる人? あぁ、いるけど……鉄くんはどうなのかな?」

590鉄 夕立『シヴァルリー』【高2】:2019/10/02(水) 22:20:48
>>589

『初恋』に対する猿渡くんの反応を見て、何となく内容を察した。
少なくとも、恋する若者が報われてハッピーエンド。そんな単純なものではないらしい。

「あぁ、そういう意味でも『初恋』なのか」
「…あくまでオレの好みだけど、最後は幸福な終わり方をしているのがいいな」
「不幸なことは、覆しようのない現実として、近くにあったりするものだから」


>「気になる人? あぁ、いるけど……鉄くんはどうなのかな?」

「え゛っ」

図書室の中にも関わらず、思わず比較的大きな声が出てしまった。
軽い冗談のつもりで訊ねてみたら、本当に意中の女性がいるとは思わなかった。
ついでにそれが誰なのかも知りたくなるが、それは流石に無粋だろう。

「あ、ああ…そうなのか…」「いや、君は大人だな」
「オレは、その……ここだけの話、女性を目の前にすると、緊張してしまって…」
「ほとんどの女性とは上手く話せないから、そういうのとは縁が遠いんだ…」

遠い目で窓の外を見る。綺麗な夕焼けだ。

591猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』【高二】:2019/10/02(水) 22:53:43
>>590

「まぁこれはややこしい話だから仕方ないさ」

「僕だって見るならハッピーエンドが良いね」

頷いて同意して見せた。

「えっじゃないよ」

人差し指を唇に当てながらそう言った。
猿渡は不思議そうな顔をしている。
実際、不思議に思っていたのだろう。

「僕だって、緊張くらいする」

自分も視線を移動させて夕陽を見た。
綺麗だった。

「モテそうだけどね君は」

ぽつりと呟く。

「そうは思わないかい?」

592鉄 夕立『シヴァルリー』【高2】:2019/10/02(水) 23:12:07
>>591

猿渡くんの言葉に、ゆっくりと頷く。

「…成る程」「緊張はするが、それに立ち向かい、制御する術を心得ているということか」
「憧れるな…オレも練習させてもらった事はあるが、どうにも難しい」
「竹刀を構えて相手に立ち向かう方が、まだ御し易い緊張だな」

緊張はするが、それよりもなお相手に対してコミニュケーションを取ろうとし、
好意的になってもらおうとする。並大抵の勇気ではない。少なくとも自分には。
同い年ながら、彼のことを尊敬する。

>「モテそうだけどね君は」

「…それは世辞だと受け止めていいのかな」
「その、本気だとしたら、君の期待には応えられなくて申し訳ないとしか…言えないな…」

俯いて、深く溜め息をつく。
異性と付き合った経験はおろか、手を繋いだこともない。バレンタインのチョコレートも
家族以外からもらった事はない。友人としての女性もいないわけではないが、それはモテるとは無関係だろう。

「とはいえ、別にオレはいいんだ」「もっと集中すべき事があるからな」

例えば、もし、仮に、万が一、偶然にも、自分のような男性を気にかけてくれる女性がいたとして、
その相手が死んだら、その人は恐らく悲しんでしまうのではないか。
ならば、今はそういう事を考えない方がいい。あの『通り魔』を見つけ出して、行動の意味を問うまでは。

593猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』【高二】:2019/10/02(水) 23:51:30
>>592

「まぁそこは人それぞれだよね」

事もなげにそう言った。

「君みたいなタイプは可愛いって言われるタイプだろう」

「そんな気がする」

左の手が唇に触れていた。
どこまで本気なのかは分からないくらいの表情。
ぼんやりとしているようで目に力はある。

「集中すべきこと」

「……それは聞いてもいい事かな?」

594鉄 夕立『シヴァルリー』【高2】:2019/10/03(木) 00:02:53
>>593

「………可愛い、か…」「仮にそう言われたとして、男として思わないことがないでもないが…」
「何にせよ、向けられた好意はありがたく受け取るべきだろうな」

言われる姿はあまり想像つかないが。いや、確か塞川さんに初対面で言われたか。
どうあれ、彼は自分にも魅力があるのだと言ってくれている。
それはとても嬉しいことだし、少し自信がつく。

「ありがとう」
「そう言ってくれる君もオレは魅力的だと思うし、君が意中の女性と結ばれる事を祈っていないるよ」

礼を述べ、小さく頭を下げる。


>「集中すべきこと」

>「……それは聞いてもいい事かな?」


「…危険な事を好まないなら、あまりおススメはしない」「説明しても、信じられないかもしれない」
「それでも猿渡くんが知りたいのであれば」


「─────今度会った時に話すとしよう」「そろそろ部活の時間なんだ」

そう言って微笑みながら、地図やメモ帳をしまっていく。今日は顧問の先生が会議に参加していたので、開始が遅くなったのだ。
もちろん、次回会った時には彼も忘れているかもしれない。それならそれでいい。

595猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』【高二】:2019/10/03(木) 00:18:48
>>594

「……祈ってくれるといいよ」

礼に対して掌で返す。

「じゃあ、次の機会に」

「備えよ常に、と僕は思ってる」

机に置いた本を手に取った。
まだここにいるつもりなのだろう。
ここでお別れだ。

「頑張ってね」

596鉄 夕立『シヴァルリー』【高2】:2019/10/03(木) 00:39:15
>>595

「備えよ、常に、か」「常在戦場…と言うと流石に時代錯誤かもしれないが、オレもそう思ってるよ」
「とある人が教えてくれたんだ。他人を犠牲にすることを何とも思わないような『悪』は、確かにいるんだと」
「自分が『正義』だとは思ってないが、それでもそういった『悪』に対抗する準備はしておいた方がいいだろうな」

「だから、もしそういった時はオレも微力ながら力になる」
「その時は、遠慮なく頼ってほしい」

猿渡くんの言葉に頷きながら、その瞳をじっと見つめる。
実に大袈裟な台詞だと、妹が通り魔の被害に合う前の自分なら思っていた。
だが、この彼は笑わないだろう。真剣に取り合ってくれるかは分からないが、無碍にする事もない、と感じた。

「ああ、お互いにな」

椅子から立ち上がり、手を振って図書室を後にした。
落ち着いて話せる、気の合ういい友人が出来た。
次に会う時は、彼からもいい報告が聞けることを願いながら、部活へと向かった。

597源光『オズボーンズ』【大学一年】:2019/11/26(火) 22:01:33

       バササササササササァァァァァ――――ッ

(『卑怯な蝙蝠』は、『適応』する事に失敗した)

日が落ち始めた敷地内の空を、十匹の黒い影が飛ぶ。
一見すると鳥のようにも見えるが、それはカラスではない。
翼を広げて羽ばたいているのは、群れを成す『蝙蝠』だ。

(だが、『彼ら』は違う)

(『オズボーンズ』は非常に弱く、とても脆い)

50mほど離れた所には、一人の青年が立っている。
片手に単眼鏡を構えており、『蝙蝠』を観察しているらしい。
『蝙蝠』は高速で飛び回り、やがて樹の枝にぶら下がった。

(――――だからこそ、『彼ら』は『強い』)

598源光『オズボーンズ』:2019/11/28(木) 21:09:37

(この世で最も強いのは『力』でも『賢さ』でもない)

    ザッ ザッ ザッ

踵を返し、学生寮に向かって歩き出す。
日が落ちて、足元の影は長く伸びている。
飛び立った『蝙蝠』が、青年の背後から追従する。

        バサササササササササッ

(――――それは最も『適応』出来る者だ)

599斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/12/03(火) 01:06:18
ジュゥゥゥウウウ……

「――じゃ、センセ 醤油取りに行ってください。」


清月学園の一角、理科室にて、僕は割りばしを割りながらそう答えた
目の前にはガスバーナーで加熱された金網、それに乗せられた『ホタテ』がその身を煮立たせながら
なんともいえないかぐわしい香りを漂わせている


「そんな事を言って、君 私の居ない隙に腹に納めるつもりだろう」


そう言うこの人はこの学園の理科担当だ、分厚い眼鏡に無精ひげ
ひょろひょろの体を白衣で巻いている、歯ブラシに学校のプリントを巻きつければ大体似たような外見だと思っていい
生徒からの評判は、いかんせん人が好過ぎるともっぱらの噂だ。


「しませんよこんな大味そうな物、醤油無いんだから」

「……私は学術的興味からだね」

「『異常成長した標本』を『同級生の伝手で入手した』のカバーストーリーですよね、さっき聞きました」


しばしの無言の後、眼鏡の位置を治したセンセが迷いながら口を開いてくる
ムリに威厳を見せようとして上体を逸らしているのがハトみたいでもある。


「……知識欲が湧かないかね?」

「今湧いてくるのは食欲ですね」


またもや無言。
これが演技なら冷や汗が流れるのが見えそうになる程、真に迫った表情だ。


「模範的な生徒なら先生の為に従うべきだと思わないかい?」

「見つけた僕を鮮やかに共犯にしたセンセの言う事では無いですよね?」


さらに無言の間が続く、実際、彼の此処までの行動にミスは無く
単なる給料の安い教員のささやかな幸運……に、なる筈だった
彼にミスがあったとすれば、僕に見つかった事だ。


「よし」

「こうしましょう先生『表』か『裏』か?」

両手をポケットに入れて
ようはコイントスの提案だ、運と言うのは万人に公平に見える事実である。

「いいだろう、表……」

僕はニヤリと笑って見せた

「い、いや、やはり裏だ、裏にする!」


「三回勝負はナシですよセンセ」

そう言及して右ポケットから出したコインを放り、落下してきたところを素早くキャッチする
――結果は

「――僕の勝ちですね よっセンセの鏡。」


苦悶のうめき声をあげながら、泣きそうな顔で理科室から逃げるように走って行った
今頃はなんと運が無いと考えながら歩いているだろう、この学園の廊下は長いのだ。

「……いったか。」

そう呟くと、懐から『醤油瓶』を取り出した

先程のコインは勿論、『裏と表が同じコイン』である。
センセが裏と言えば右ポケットの『裏だけのコイン』、表と言えばその反対のコインを使うつもりだったのだ

そして醤油はここにある。
無ければ食べないとは言ったが、あるなら話は別だ
さあ、努力の報酬(ホタテ達)を頂く時である。

……今この瞬間、何処かの学生か教師がドアを開けて入ってこない限りは!

600志田忠志『イヴ・オブ・サルヴェイション』【大学三年】:2019/12/03(火) 22:14:00
>>599

ガチャリ――――

その時、理科室の扉が開いた。
醤油を取りに行った教師が戻ってくるには早すぎる。
実際、そこに立っていたのは教師ではなかった。
一人の青年が、理科室の入口付近に立っている。
しかし、『高等部生』ではなさそうだ。

「ん…………?」

まず匂いを感じ、次いでその『出所』に目を向ける。
先程の教師ではないものの、青年の体つきは細い。
どこをどう見ても運動神経は良さそうには見えず、
むしろ不健康そうな雰囲気だった。
最も特徴的なのは、両目の下にドス黒い『隈』が刻まれている事だ。
十数年ほど不眠症が続いていれば、こうなるかもしれない。

「悪かったね。部屋を間違えたよ」

「ここは『理科室』だったと思ったんだけど――」

「『バーベキューハウス』に改装していたとは知らなかったんだ」

ここに来たのは、ちょっとした頼まれ事を片付けるためだ。
機材を幾つか借りてきてくれと、教授に言われてしまった。
それで、こうして高等部まで足を運ぶ羽目になった。

601斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/12/04(水) 00:59:21
>>600

「・・・・・・。」

落ち着け、落ち着くんだ斑鳩翔。

アサイラムファンは狼狽えない、一々サメの頭が増える事に狼狽えていたらあの撮影チームにはついていけない。
今度は尻尾が増えるんでしたっけ?

「志田先輩、申し訳ないんですけどちょっとこっちきてくれます?」

邪悪なる野望()はこのタイミングと隈取りが完璧な先輩によって打ち砕かれたが
まだ手が無いわけでは無いのだ。

「はい、これ持って」

「はい、此処に立って」

まあまあまあまあ等と言いながら無理やり醤油入り皿と割りばしを渡し
帆立達の前に立たせニッコリと笑顔をさせ

「はい、チーズ、サンドイッチ!」

 カシャリ
スマホのカメラ機能が子気味良い音をたてて、『証拠写真』を保存する。
この教室内でこの行為が行われるのは本日二度目である。

「――YHAAA!これでパイセンも共犯だぜ!責任問題回避!」

「じゃ、遠慮なく『ホタテ』食べて行ってください志田パイセン、何か悪いので。」



……なお、途中で彼が怪しんで暴れたりしたら作戦失敗である。

602志田忠志『イヴ・オブ・サルヴェイション』【大学三年】:2019/12/04(水) 01:33:22
>>601

「自分で言うのも何だけど、
 あまり写真写りが良い方じゃなくて申し訳ないね」

強引に皿と割り箸を持たされ、そのまま撮影は完了した。
しかし、その表情は笑顔ではない。
かといって不満そうな顔もしておらず、不思議そうに首を傾げる。

「いや、せっかくだけど遠慮しておくよ。
 実を言うと、さっき食堂でホットドッグを食べてきたばかりなんで、
 ちょうど腹に余裕がないんだ」

    コトッ

手近の机に皿を置き、その上に割り箸を乗せる。
それから、斑鳩の方に向き直った。

「ただ…………一つだけ『分からない事』があってね。
 もし良かったら教えて欲しいんだ」

「このホタテや醤油や諸々は『君の』だろう?
 それに、先生の『許可』だってちゃんと貰っている筈だ」

「そうじゃなきゃ、
 こんなに堂々と教室内で『バーベキュー』なんてする訳がないからね」

「それなのに――――
 何故『悪い事』のように言うのかが、僕には分からないな」

ここに誤算が生じた。
志田は、斑鳩が『許可を取った上でやっている』と思っていた。
だから、『共犯』や『責任回避』という言葉の意味を図りかねていたのだ。

「ええと……確か、斑鳩君だったかな。
 僕は『先生の許可を取ってホタテを炙ってる』と思ったんだけど」

「もし間違ってたら、訂正して貰ってもいいかな?」

603斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/12/04(水) 01:51:24
>>602

「えっ 違いますけど。」

彼は気に留めるでもなくさらりと言った

「醤油は家庭科室、ホタテはここの先生の、ガスバーナーは理科室の備え付け」

「ほら、その金網ビーカーとか乗せて温める用のアレですし。」

実際、金網は金網だがそのサイズはホタテがギリギリ一個乗るかどうかであった
偶に吹きこぼれた水分が蒸発し、音をたてながら白い線を残す。

「これは推測ですけど、あの先生が許可取ってるなら理科室でやらないんじゃないかな。
まあそれが裏目に出て、こうして僕とパイセンに見つかったんですがね!」

因みにこれを言うとさっき出て行ったセンセは新品のコピー用紙の如く真っ白になります等と言いながら
席に戻り、ホタテの一つに醤油をかけてかぶりつく

「うーん、やっぱいい所のだなコレ、標本用とか嘘だよあのセンセ。」

「……ところで僕も二つ解らない事があるんですけど、志田パイセンは何しにここに来たんです?センセ虐め?」

604志田忠志『イヴ・オブ・サルヴェイション』【大学三年】:2019/12/04(水) 14:53:29
>>603

>「……ところで僕も二つ解らない事があるんですけど、志田パイセンは何しにここに来たんです?センセ虐め?」

「それが冗談なら笑うよ」

言いながら、おもむろにポケットから『鍵』を取り出す。
斑鳩に背を向けて、『薬品棚』に歩いていく。
鍵穴に鍵を差し込み、音もなく棚を開いた。

「教授に頼まれちゃってね。
 勿論、この鍵を借りる『許可』は貰ってるけど」

      ガチャ
              ガチャ

「二つ目の答えは又聞きだよ」

背を向けたまま言葉を続ける。
手元では、薬品のラベルを確認していた。

「僕と同じゼミ生の妹が、君のクラスメイトなんだ。
 会話の中で、君の話が何度か出てきた」

          ガチャ

「……いや、これじゃないか。それで、何だっけ」

「ああ、そうそう。それで、君の事を知っていたという事さ」

「君が僕の事を知っていたのは――まぁ、この顔は目立つからね。
 悪い意味で」

605斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2019/12/04(水) 23:23:28
>>604

「ん、ん〜……。」

思案を一つ、これは僕の落ち度かもしれない


「いやあ、パイセンの妹さんに覚えていただけるのは、こういう顔に産んで貰った両親に感謝する所ですが。」

「妹さんだけだと、ちょっと解りませんね。」

「妹さんと言えば、パイセンみたいな人が、女の子達にどう可愛く例えられてるか知ってましたか?僕はそれで知ってたんですよ、まあ、それが悪い意味と言うなら、その通りになりますけど!」

「なので、そういう動物大好きメイクなのかと、今日見るまでは思ってました……が。」

ちらりと彼の背を見る
この位置では見えないが、彼の特徴は一目見れば充分わかる。

「3つ目を聞いても?もっとも、聡明な先輩の事ですから、何を聞きたいかは、言わずとも解りそうですがね!」

606志田忠志『イヴ・オブ・サルヴェイション』【大学三年】:2019/12/05(木) 00:25:07
>>605

「フフ――」

「『僕の妹』じゃあないんだ。僕は一人っ子でね。妹はいない」

「『僕と同じゼミに所属している男の妹』と言った方が分かりやすかったかな。
 とにかく、そこからの又聞きだよ」

     ガチャッ

「これでもないな……」

「こんなメイクをしてる生徒がいるんなら、是非見てみたいね」

「幸い、僕の場合は『鏡』を見ればいい訳だ」

           ガチャッ

「ああ、これかな……」

薬品を手に取り、振り返る。
その両目には濃い隈が見える。
皮膚に染み付いているかのようにドス黒い。

「それは分からないな。
 僕は心を読める訳でもないし、心理学者でもないから」

「まぁ、予想する事くらいなら誰でも出来る」

「『これ』に関係する事とか、そういう事かな?」

空いている方の手で、自分の目元を指差す。
特に気負った雰囲気もない口調だった。

607斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2019/12/05(木) 01:02:42
>>606

(まあパンダ先輩とかは流石に言えないかな!)

「ええ?パイセンの事だから、『超能力者』くらいはあると思ってたんですけど。」

「ええ、気分を害されたなら、流石に僕も悪いなあとは思うんですが。」

「その時には僕が悪いので、頭を下げて、ごめんなさいすれば良いし、だったら聞いてしまった方が、気にもならなくなるかなと。」

「明日、交通事故で死んだら、後悔しますからね、ああ、聞いときゃよかったなって。」

「知ってましたか先輩、宝くじで一等当てるよか、交通事故で死ぬ方が確率高いんですよ。」

「……つまり僕がこうして先輩にずけずけ聞くのは『交通事故』のせいと言う事で、どうかひとつ。」

「終わったこのは後悔してもしきれませんからね。」

608志田忠志『イヴ・オブ・サルヴェイション』【大学三年】:2019/12/05(木) 01:21:51
>>607

「ハハハ――――」

『超能力』という言葉を聞いて、軽く笑う。
どことなく乾いたような笑いだった。
悪意とか敵意といったものはないが、乾いた印象だった。

「『超能力』なんてものが、世の中にゴロゴロあったら怖いね」

「まぁ、もしあったとしても、
 そうそうお目に掛かれるものじゃないんじゃないかな」

「多分だけど」

以前、それが絡んだ事件に出くわした事があった。
あれは『温泉旅行』に出掛けた時だったか。
ちょっとしたスリルとサスペンスって所だ。

「その気持ちは分かるよ。
 後悔してからじゃ遅いからね。
 勇気を持って踏み切る事が大事な事だってある」

「それじゃ、僕も勇気を持って秘密を打ち明けよう」

「『これ』はね、『不眠症』だよ」

「はい――――おしまい」

薬品の容器を手の中で弄ぶ。
その口元は穏やかに笑っていた。
目の隈は相変わらずだったが。

609斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2019/12/05(木) 03:06:35
>>608

「そうですか?」

ガッカリしたような
そうでもないような、アメコミみたいな事は早々ない物だ、だってそれは漫画なのだから。

「僕は結構お目にかかってる気がするなあ、この前も、鳥とお話しするパフォーマーとか見れたし。」

「……まあ、見分けつかないんで、マジックとか言われればそれまでかな!」

2つ目のホタテを醤油をかけて一息にいただくと
バーナーを消して伸びをひとつ。

「それじゃ、さよならです志田先輩。」

「そろそろ僕が家庭科室の醤油を全部隠した事に気づいて、センセが戻ってくる頃合いだけど……」

メモを取り出して番号を書き、先輩に押し付け、出口へ向かう

「変な事聞いた詫びに、今度飯でも奢らせて下さい、好みの店、見つけときますよ。」

「それでは!」

簡単には見つからない物だ、と
だから奇跡と言うのだろう。

610<削除>:<削除>
<削除>

611志田忠志『イヴ・オブ・サルヴェイション』【大学三年】:2019/12/06(金) 23:40:13
>>609

「――――そう?随分と気が利くね」

「『ありがとう』」

至って何気ない様子で、立ち去る斑鳩を見送る。
まもなくして、当の教師が戻ってきた。
息を切らしている彼を見て、僕は『こう言った』。

「すみません、先生。
 斑鳩君が平らげてしまったみたいですよ。
 僕に片棒を担がせる気だったようですね」

「あぁ…………でも――――」

「その『お詫び』として、今度僕達に食事を奢ってくれるそうです。
 彼が場所を伝えてきたら、また連絡しますよ」

まぁ――――この程度は許されるだろう。
何しろ、無断で写真を撮られた挙句、『脅迫』されたのだから。
あまり悪い事をするもんじゃあないね。

612宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2019/12/06(金) 23:53:31


「『体育用具室』って気が狂ってるよな」

 ぶつぶつと、誰にともなく呟く。
 独り言でも吐き出さなければやっていけないからだ。

「マジふざけんなよ……マジ……」

 この陰気な眼鏡の男子生徒には、誰にも明かせぬ秘密がある。

 彼の『眼』は、人の目には見えない『怪物』が映る、というものだ。
 なぜ人の目には見えないのか。
 奴らはあらゆる無生物に『擬態』して、人の目を欺いているからだ。

 頭がおかしくなっているわけではない。

「マジ……マジで……」

 怪しい陰気な眼鏡は、体育用具室の『扉』を睨んでいる。
 年季の入った木造の倉庫だ。
 少し開いている。鍵が掛かっているわけではないらしい。

「……誰か通りかかんねえかしら」

613蝶名林ルロイ紗英『ボブモ』【非常勤講師】:2019/12/07(土) 01:47:37
>>612

「おや、悩みごとかな?」

声の方向には人。
羽織にジップアップのパーカーという着こなし。
その顔に表情なし。
硬くはないが笑ってもいない。

「何か困っているのなら、話は聞こうかな」

「先生として、ね」

陰気な眼鏡の学生を見ている。
そして、その肩越しに扉を見ている。

「何か忘れものでも」

614宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』【高三】:2019/12/07(土) 06:14:26
>>613

(教員か……)

 蝶名林が声をかけたのは、陰気な眼鏡。
 不健康そうな顔色の、痩せぎすの男子生徒だ。

(年下を巻き込むよりか、大人の方がまだ安心か……?)

 眠そうに開かれた目が、じとり、と蝶名林を見る。
 親切にも声をかけてくれた相手を、まるで値踏みするような視線だ。

「……転校してきたばっかで、体操着持ってないんですよね」

 が、物柔らかな蝶名林の口振りを信用してか、事情を説明し始める。

「前の学校のヤツも、ちょっと色々あって捨てちまって。
 担任に相談したら、『仲の良い生徒』に借りるか、
 『用具室』にある予備のものを着るように、って言われたんだけど」

「『転校生』に、『仲の良い生徒』なんているか、フツー……?
 実質一択みたいなもんじゃねえか。分かって言ってたなら嫌味だよな……」


「……」


「『だから』 悩んでたんですよね」

 男子生徒の説明には、何か不自然な空白がある。
 しかし要約すると、『用具室』から体操着の予備を借りたい、ということだろう。

615蝶名林ルロイ紗英『ボブモ』【非常勤講師】:2019/12/07(土) 10:35:30
>>614

値踏みするような視線も全く気にしない。
何処吹く風というやつだ。
だから出る言葉の温度も変わらない。
蝶の家紋の羽織が揺れて、男が言葉を返す。

「だから、の意味が分からないな」

初めの言葉はそれだった。

「実質一択なんでしょ? だったら借りればいい」

「体育をフケたいってんじゃなかったらね」

「何か問題でも?」

そう言って用具室の方に近付いていく。
なんてことの無い顔をして。

616宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』【高三】:2019/12/08(日) 21:02:06
>>615

「理由が上手く説明できないが、苦手なモンってないですか?」

 男子生徒は、忌々しそうに扉を睨んだままだ。

「トマトの皮とか、ガソリンスタンドの匂いとか、
 魚のエラとか、指の骨を鳴らす音とか。
 俺にとっちゃ、『用具室』がそういうモンなんですよ」

「つーより、『用具室』の中身、ってのが正しいんだけど、……」

「……」

 用具室に近づく蝶名林に、期待と心配の入り混じった視線を送る。

617蝶名林ルロイ紗英『ボブモ』【非常勤講師】:2019/12/09(月) 19:19:04
>>616

「俺は『孕』って字がそうだね」

「嫌な字だ」

用具室の扉に指をかける。
なんてことはなくそれを開け放つ。
扉の向こうに広がっているのは何の変哲もない用具室の光景だ。
土と埃の香りのするむせ返るような空間。

「で、用具室が苦手なの?」

「なんてことないだろ」

618宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2019/12/09(月) 23:06:39
>>617

 蝶名林が開け放った、扉の中。
 薄暗い空間だ。

 屋外の授業のために必要な用具が、所狭しと散在している。
 金属バットにサッカーボール、メッシュ生地のビブス、ハードル、ライン引きのアレ……


 ギクリ、と、


「……」

 目に見えて、男子生徒の体が強張った。

「『苦手』っつーか……そうですね」

「先生、『例えば』なんですけど。『例えば』。
 もし『サッカーボール』が生きてたら、何考えてると思います?」

「大勢の人間に追い掛け回されて。
 土の上を転がされ、何度も蹴り飛ばされて。
 何も悪いことしてねーのに。
 人間のコト、どんな風に思ってんのか、とか」

 宍戸の視線は、苦手だと言った用具室の中を睨み続けている。
 汚物を見るように冷たく、親の仇を見るように鋭い。
 何が起きても見逃すまい、としているかのような、集中力を感じさせる目つきだ。

「そういうくだらねーコト考えちゃうんですよね、俺……」
「……先生は、用具室って平気な人?」

619蝶名林ルロイ紗英『ボブモ』【非常勤講師】:2019/12/09(月) 23:56:55
>>618

「サッカーボールが何か考えてるとしたら?」

「……俺達と似たようなことでしょ」

しばらく黙ってからそう答えた。
奥に入ってそこにある体操服を引っ張り出してくる。
ついでに籠からこぼれてサッカーボールを蹴り上げた。
軽い雰囲気で何度かリフティングをして籠に蹴って戻す。

「ステーキを見て、牛の人生に想い馳せちゃうのに似てるね」

「でも牛は人間の思惑なんて知らないよ。食われるために生まれてきて、そして死ぬだけだろ」

「ボールだって蹴られるために生まれてきた、その役目を果たせずに箱の中で死ぬのとどっちのがいいかな」

男の表情に色はない。
蝶の家紋が抜かれた羽織が揺れている。
パーカーと羽織、洋装と和装。
全てを平等に区別せずに混ぜてしまう。

「俺はね、用具室駄目なの。ガキの頃思い出すから」

「……君はさ、このボールが本当に生きてると思う?」

620宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2019/12/10(火) 01:17:57
>>619

「あ、ちょっと、」

 用具室に踏み入る蝶名林に、声はかけども足は動かない。
 易々と体操服を取って出てくる様を、ただ見守るだけだ。

「う、うぉぉ……勇者か……」
「先生、肝試しとか絶対効かないタイプでしょ」

 陰気な面構えは変わらない。
 しかし、先ほどまでの緊張はない。

 そのまま蝶名林の言葉に耳を傾けていたが、


「……はは」「確かに」

 少し、解れたように笑った。

「家畜の牛が何考えてようが、人間には人間の都合がありますしね」
「そりゃあ、そうか。無視している命の方が多いんじゃねーか」


 『グロテスキュアリー』。

          ・・・・・・
「『いいえ』、先生。そのボールは、生きちゃあいない」


 宍戸の眼球が、不気味な緑色に光る。
 その視線は、先ほどまで蝶名林が足蹴にしていた籠の中のサッカーボールには注がれてはいない。


       フ ・・・


 緑の眼光は、一瞬きで消える。と、陰気な面も戻ってきた。


「……だがやっぱり、どうも用具室は好きになれそうにはねえな……」
「それはそれとして、すみません先生。その体操服、俺にください」

621蝶名林ルロイ紗英『ボブモ』【非常勤講師】:2019/12/10(火) 01:50:07
>>620

「俺は勇者じゃなくて破壊者なんだよ。あるいは戒を破る人なんだ」

返す言葉、向ける視線。
どこまでもフラット。
しかし、揺れない水面の奥底に潜むものがあることを人間は知っている。

「俺は野菜もお肉も美味しくいただくよ」

そして、変化。
笑った。
歯を見せて男が笑った。

「そのボールじゃないならどれなんだ?」

「これは俺のじゃないし、そのために取ってきたんだから当然渡すさ」

ずり……と音がした。
用具室の隅から這い出るもの。
プラスチックのような、粘土のようなものが人の形を取っていた。
そいつは光の届かない用具室の隅から現れ、籠の方へとゆらりと這って行く。

「ほら、どうぞ」

体操服を渡す。
もうその顔に笑みはない。

「……なんか、見えてるでしょ」

622宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2019/12/10(火) 20:49:01
>>621

「勇敢だから幽霊が怖くない、ってんじゃなくて、
 そもそも幽霊とかハナから気にしてねー、みたいな話ですか?」

「ともあれ、ありがとうございます」

 恭しく一礼。

 面を上げて、用具室の暗闇を這う影に、緑色の視線を投げた。

「……どうですかね。まあ、『目はイイ』方ですよ」

 煙に巻いて、眼鏡を押し上げる。
 体操服を受け取って、袖を通す。
 間に合わせなので、サイズが合わなくてもご愛嬌だ。

「そういえば」

 そろそろ、予鈴も鳴る頃だろうか。
 体育の授業……敢えて出たくもないが。
 しかし、転校して間もないうちにサボタージュも拙い。

「先生、受け持ちの教科は?
 つーか、三年の教室に来ることあります?
 俺、転校してきたばっかで、まだよく知らないんですよね……」

623蝶名林ルロイ紗英『ボブモ』【非常勤講師】:2019/12/10(火) 21:09:15
>>622

「なんで俺が幽霊怖がらないといけないのって感じ」

「俺には神様がついてるからね」

口ぶりからして、そういうのを信じていない、というわけではないのだろうか。
その目は据わっていた。

「はっ、よく言うよ」

その言葉の真意を掴んでいるような気があった。

「受け持ちは美術。非常勤だけどね、三年も相手にするし、準備室は暇だから適当にうろついてるよ」

「蝶名林ルロイ紗英、それが名前」

624宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2019/12/10(火) 21:27:40
>>623

「『美術』。」

 刻むように呟く。

「……いや、『美術』かァ。
 人の作ったモンを見てる分にはいいんだが、
 肝心の成績がよくねーんだよな……
 まあ、分かった。『美術』の授業は、サボんないようにします」

 遠く、予鈴が響く。
 屋外の用具室から、本舎の体育館はやや距離があるが……
 急いで戻れば、本鈴には間に合うだろう。

「B組の宍戸 獅堂。授業ン時は、よろしくお願いします」

 背を向けて、走る。

625蝶名林ルロイ紗英『ボブモ』【非常勤講師】:2019/12/10(火) 22:37:39
>>624

「実技の課題とか出来てなかったら来なよ。話とかは聞くからさ」

「暇だしね」

そう言って手をあげる。

「宍戸くんね、はいはい。その顔覚えたから」

見送る蝶名林。
男の背後でまだ人型は蠢いていた。
その後、しばらくしてサッカーボールがいくつか破裂していたのは別の話。

626日沼 流月『サグ・パッション』【高2】:2019/12/15(日) 03:39:20

          ゴ  オ オ オ オ

「ウワッ……!」

屋上には冷たい風が吹いていた。
ドアを開けた日沼は、それに目を細める。

           バサッ

      ボサッ

金とも銀とも取れない切り揃えた前髪が、
あるいは後ろ髪の流れに逆らった数房が、
風に巻かれて余計に『不自然』になる。

鍵は『開いていた』……

      キョロ

だから、手櫛で髪を直しつつ、視線を走らせた。
先客がいるかどうか……別にどちらでもいいのだけど。

627三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』【中一】:2019/12/15(日) 07:32:21
>>626

    ビュオオオオオ
              オオオオオオオ…………

風が吹き荒ぶ屋上に、一人の『先客』がいました。
ジャージ姿の小柄な生徒です。
もしかすると、どこかで見たような気がするかもしれません。
校庭が見下ろせるフェンスの近くで、うつ伏せに倒れているようです。
今のところ動く気配はありません。

628日沼 流月『サグ・パッション』【高2】:2019/12/15(日) 19:30:04
>>627

「え!?」

思わぬ光景に、目を丸くした。

「……え!! なに!? 千草ひっくり返ってるし! マジ!?
 なにしてんの!? ちょいちょいっ、起きて起きてって!!」

         バシッバシッ

声を出しながら、駆け寄って肩を叩く。
仰向けならなんか寝てるのかな?って感じだが、
コンクリ張りで床も汚い屋上にうつ伏せはヤバイ。
多少エキセントリックだから……でやる事でもない。
非常事態だと思うと自然に体は動くものだ。

「え……ヤバいじゃんこれ……千草こーいう冗談しないでしょ」

「いや『逆に』するのかな……ヤバい……
 千草、冗談なら今言わないとウケないからね!」

    バシッバシッ

居眠りをしてるとか……
何か目的があるとか……
それこそ冗談とか……

そういうのなら良いが……声を掛けながら肩を叩く。
不測に備えてスタンドを傍らに浮かべ、それを続ける。

629三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』【中一】:2019/12/15(日) 20:18:46
>>628

肩を叩かれますが、反応がありません。
その時の千草の状態は、何か狙いがあるわけでもなく、
居眠りしているわけでもなく、冗談でもありませんでした。
一言で表現するなら『気絶』していたのです。

「う…………」

    スゥッ――――

少しして、ゆっくりと両目を開けました。
ここは何処でしょうか?
どうやら屋上のようです。

「あ…………日沼先輩?」

先輩の顔を見て、少しずつ頭が働き始めました。
両手を使って体を起こし、その場に座り込みます。
そして、自分が何をしていたかを思い出しました。

「えっと……」

  「『練習』をしようと思って……」

     「『下』を見たら急に意識が遠くなって……」

        「それで……」

           「少し気を失っていたみたいで――――」

話している途中で、ふと『先輩の隣』に目が行きました。
そこにいるのは、大きな体格の『人型』のようでした。
まだ意識が朦朧としているのかもしれません。
そのせいで、おかしな幻覚を見ているのでしょうか?
目を閉じてから、もう一度よく見てみましょう。

         「――――す」

まだ見えました。
やはり、意識が正常に戻っていないせいでしょうか?
もしかすると、倒れた時の打ち所が悪かったのかもしれません。

630日沼 流月『サグ・パッション』【高2】:2019/12/15(日) 21:40:06
>>629

「あ、起きたし! ウン、流月だけど。
 急に倒れてるからビックリした! 貧血かなんか持病あるの?
 知らないビョーキなら怖いしさ〜、このあと保健室行った方が良いよ」

起き上がったのを見て、少し離れる。
髪の乱れを改めて直しつつそのまま立ち上がり、
傍らに浮かんでいた『人型』は、ようやく消した。

そして、そのまま隣に座り込む。

「別に熱中症とかなる季節じゃないしさ。
 あ〜でもなんだっけ、みんな気を付けてる夏より、
 冬のが『逆に』罹りやすいとか聞いたことあるカモ」

     フゥーー

「てか、こんなとこで練習?
 千草ってさ〜、運動部とかじゃないでしょ?
 たしか生徒会だよね? なんの練習してたの?」

「なんかあったっけ、行事とか……にへ、流月が知らないだけ?」

閉じた目、途切れた言葉の意味はまだ、気付いていない。
倒れていた人間のすることだ、混乱しているから……それでもおかしくない。

631三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』【中一】:2019/12/15(日) 22:25:06
>>630

「いえ、『病気』というか…………」

「その――――『体』は大丈夫ですから」

    ニコリ

千草は『死ぬ』のが怖いです。
多分、それは当たり前の事です。
でも、病気と言えば病気かもしれません。

「ここで『恐怖を克服する練習』をしていました」

「でも、そっと下を覗いてみたら気が遠くなって……」

『ここから落ちたら死ぬだろう』と思った瞬間、強い眩暈がしました。
体感ですが、大体『二秒くらい』で気絶したような気がします。
やはり、いきなりハードルが高すぎたみたいです。

「『恐怖を乗り越えて成長することを祈っておく』」

「『ある人』に、そう言われたので――――」

「それで……勇気を出して『挑戦』してみようと思ったんですが……」

「でも――――『このレベル』にチャレンジするのは、
 まだ千草には早かったみたいです」

静かに呟きながら、
『先輩の隣』に向けていた視線を『日沼先輩』に移します。
『妖甘』さん――千草に『目覚め』を与えてくれた人です。
その言葉に応えられるのは、もう少し先になりそうです。

632日沼 流月『サグ・パッション』【高2】:2019/12/15(日) 23:42:17
>>631

「なるほどね〜、流月それ分かんなくはないかも!
 苦手なことを『あえて』やるってのは、
 まー……誰かに言われたことっていってもさァ。
 ある意味『反骨的』ってゆーかさァ……共感できるよ」

    ガシャッ

「でも、気絶するまではやったことはないけどね。
 そーいうとこ、やっぱ千草ってマジメだよねェ〜ッ」

     イヒヒ…

振り向いて、なにげなく屋上から外を見る。
そして身を乗り出してフェンス越しに下を見る。
なるほど、落ちない保証があっても結構怖い。

「ちなみにアレ? 高所恐怖症ってワケ?」

……気絶する、という感覚は分からない。

「いきなりここってのは確かにハードル高そ〜。
 自宅の二階とか、ジャングルジムの一番上とか……
 ガラス張りの壁があるスカイモールの展望台とか?」

     キョロキョロ

「練習は良いけど無理して倒れるとかアブなすぎるし。
 あの……貯水タンク? あそことか絶対ダメでしょ!」

視線の先には、屋上の中でも一際高い貯水槽だ。
ハシゴで登れるあそこが、常識的な最高高度だろう。
もっとも、日沼はその常識に『反逆』出来るけど。

「落ちても怪我しないくらいの高さからが良いのかもね」

       「んー……朝礼台とか? ぷぷっ。
        流石にアレは低すぎるか!
        てか、生徒会任命の時に乗るもんね」

633三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』【中一】:2019/12/16(月) 00:18:52
>>632

「『あえてやる』――ですか……」

「何となく共感できます。いわゆる『荒療治』というのでしょうか?」

「でも、今回は失敗してしまいました」

    ニコ

「『高い所』は確かに怖いと思います。
 でも、『低い所』も場合によっては怖いです」

「千草は、まだまだ未熟です。
 だから、『怖いもの』が沢山あるのです」

「倒れるのは良くない事ですね。
 他の人に迷惑を掛けてしまいますから」

「日沼先輩、わざわざ起こして頂いてありがとうございました」

              ペコリ

    「…………『貯水タンク』」

                   「――――ですか」
    スッ
        スタスタスタ

日沼先輩の言葉を繰り返し、屋上の一角を見つめました。
静かに立ち上がり、おもむろに貯水タンクの方へ歩いて行きます。
そして、ハシゴに手を掛けて上り始めました。

                  カン カン カン

まもなく貯水タンクの上で立ち上がります。
一歩ずつ、ゆっくりとですが。
ここが『屋上で一番高い場所』です。
つまり、『フェンスの前より高い場所』なのです。
そこに立つ事で、
ほんの少しだけ『恐怖』を克服できるのではないかと思いました。
だから、その思い付きを実行してみたのです。
『善は急げ』――です

「このくらいのハードル、なら――――」

「――――何とか、越えられそうです…………」

634日沼 流月『サグ・パッション』【高2】:2019/12/16(月) 00:50:42
>>633

「『やれない』って決めつけられるとさァ〜。
 自分の中でもほんとにそれが出来なくなるじゃん?
 そうならないように、やれないって言われたことでも、
 あえてやってみるってワケ。何でもかんでもじゃないケドね。
 本気でやりたくない事とか、やる意味ないと思うし」

「それが『反骨精神』ってやつよ。
 にひ、お話含めてありがたく思っといて!」

などと言っていると――――
おもむろに歩き出した千草を目で追う。

「えッ! 千草何してんの!?
 そこ登んの、マジで危ないし!
 絶対ダメなやつって今いったやつだし!
 ――――あ、だから『あえてやった』のか。ぷぷ、ウケる!」

「千草、ほんとマジメすぎ!」

             タタタッ

「流月はさァ、なんていうの、『流れ』に逆らったら……
 ハードルを飛び越えたら、そこがゴールじゃなくってさ!
 その後、行きたい道行って、なりたいようになるのが大事だと思うんだよね」

そして、貯水タンクの傍まで近寄る。
お世辞にもバランスのいい場所じゃあない。
生徒が昇ることを想定している場所でもない。

「千草はさ、『怖いもの』無くなったら、どんな風になりたいの?」

千草を見上げながら、しかし引きずりおろしたり、やめろと叫びはしない。
行き当たりばったりではなく、千草の望む生き様なら、その『反骨』には価値がある。

635三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』【中一】:2019/12/16(月) 01:21:43
>>634

「飛び越えても――『ゴール』じゃない……」

「何となく分かるような気がします……。
 でも――分からないような気もします……」

「『怖いもの』がなくなったらなんて、今まで考えた事もなかったです」

千草の『怖いもの』――それは『死ぬ事』です。
本当は死にたくないけれど、それは無理な話です。
だから、せめて『良い死に方』を迎えたいのです。
『死の恐怖』を少しでも和らげるために。
そのために、多くの人から尊敬されるような、
『立派な人間』になれるように頑張ってるつもりです。

「克服しようとしてるのに――何だか、おかしいですね」

    クス

「でも、もし『怖いもの』がなくなったら……」

もしも、『死』が怖くなくなったら。
そうしたら、『良い死に方』に拘る事もなくなるのでしょうか?
『死の恐怖』がなくなったら、
いい加減な生き方をするようになってしまうかもしれません。
それは、果たして良い事なのでしょうか?
考えていると、何だかよく分からなくなってきます。

「…………よく分かりません」

「でも、今は――――」

           カン カン カン
                   ――――トンッ

「皆に尊敬されるような『立派な人』になりたいと思っています」

            ニコリ

ハシゴを降りて、屋上の地面に降り立ちます。
今は分かりませんが、いつか分かるかもしれません。
その時のために、
これからも『自分に出来る努力』を続けていこうと思いました。

636日沼 流月『サグ・パッション』【高2】:2019/12/16(月) 03:04:26
>>635

ハシゴから降りてくる千草の姿を、観ていた。

「流月もさ、ゴールがどこかはよく分かんないワケよ。
 立派なヒトになりたいとかも思わないし……
 かといって悪いヤツになりたいわけでもないしさァ!」

流れに逆らうことは『行く末』を増やす事だ。
決まった一本の流れから逸脱することは、
無数の行き止まりと、無数の支流を見出す事だ。

「千草と違ってまだ、なんにも決まってないワケ」

「まだ、決めたいとも思ってないし!」

「決まるとも限らないじゃん」

「だから」

決められた道は…………日沼流月の前に敷かれていた。

「『逆に』……流月には、分かんないことも大事な気がする。
 ぷぷっ、なんかそれこそおかしな話だけど! ウケるね」

あるいは今も。それを望まない限りは『反骨』は続く。
目覚めた叛逆の熱情は、きっと日沼の魂そのものなのだ。

        ビュ オオオオ ・・・

「……………てか千草さ〜、さっきから風寒くない!?
 流月、ちょいお菓子食べようと思ってたんだけどさ。
 寒すぎて食べてられないし! 校舎戻ろうと思うワケよ」

いずれにせよ……倒れていた後輩が無事だった事で、
来たワケと、ドアを開けた時に感じた冷気を思い出す。

「千草どーする? まだ、ここで練習してく?」

千草がどうするにしても日沼は立ち上がり、ドアに向かう。

637三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』【中一】:2019/12/16(月) 18:43:23
>>636

「『分からないことも大事』――――」

「分からないからこそ色々やれて……。
 それで、色々な事が分かるのかもしれませんね」

「何だかスッとしました」

    ニコ

難しい話だと思います。
でも、日沼先輩の言う事には共感が持てました。
今は、それで十分です。

「そうですね。
 だから『練習』には打ってつけだと思いました。
 今なら、もうちょっとくらいハードルを越えられそうな気がします」

「でも、『あえて』止めておきます。
 欲を出すのは失敗の元ですから」
 
「――――戻りましょう、日沼先輩」

日沼先輩の後ろから、同じように歩き出します。
最初は失敗しましたが、まずまずの結果が得られました。
だから、今日は満足しています。

         カツンッ

風の音に交じって、不意に『音』が聞こえました。
コンクリートの地面を、『金属』が軽く打ったような音でした。
千草の後ろ辺りから聞こえてきたようですが、
そこには何も見当たりません。

「『It’s now or never』」

「『今しかない』――千草の好きな言葉です」

638日沼 流月『サグ・パッション』【高二】:2019/12/16(月) 23:36:29
>>637

「『今やらなきゃずっとやらない』……『今しかない』」

「その言葉、めちゃ千草が好きそ〜〜〜。流月も分かんなくはないよ。
 今逆らわなきゃ最後まで逆らえないだろうなってコト、あるからさァ」

日沼もまた、共感を持つ事ができた。
意図が100パーセント同じでは、無いとしても。

     ビュオ
        オオォ

             カツンッ

「んじゃ戻ろ戻ろ。……ン?」

去り際、冬風に紛れる音を耳が拾って振り向いた。
そこには何もなかった。
何かを察せるほどは、まだ詳しくはない。

「? 何今の音! ……まあいいや。寒〜〜〜ッ」

…………だから立ち止まる事もなく、そのまま校舎に戻った。

639三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』【中一】:2020/01/05(日) 17:24:59

最近、『こんな話』があるそうです。
各教室に設置されているゴミ箱の中身が、
いつの間にか消えているというのです。
でも、みんなが出すゴミの量が減った訳ではありません。
どこか別の場所に、こっそり捨てられているということもありません。
それなのに、確かにゴミはなくなっているのです。

    ガラッ

ここは放課後の『ある教室』です。
そこには誰もいませんでした。
『千草以外』は。

          キョロ キョロ

誰もいないことを確認して、ゴミ箱を開けてみます。
中身は空ではありませんでした。
嬉しいことです。

「『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』」

         ザック ザック ザック

『墓堀人』のスタンドを発現し、『シャベル』で床を掘ります。
足場の強度を無視できますので、
そこに『穴』を開けるのは簡単です。
少し時間を掛ければ、
ちょうどいいサイズの『墓穴』の出来上がりです。

         ザザ――――ッ
                     ドササッ

ゴミ箱を傾けて、『墓穴』にゴミを流し込み、埋めてしまいます。
ゴミは『仮死状態』になっていますが、今は余り関係ありません。
あとの処置は簡単です。

    パッ

『墓穴』を解除します。
同時に、『埋められたもの』も『消滅』します。
環境にも優しい『埋立』です。
『人の役に立つ使い方』を自分なりに考えてみました。
これが、『最近の話』の真相という訳です。

640斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/01/07(火) 20:04:16
>>639

僕は気配を感じて扉を開けた

 「――おっと、失礼」

陽当たりのいい放課後の風景、嗅ぎ慣れた古い備品の香り
そして女子生徒がその風景の中に一人

 (『お目当て』は……いないようだ。)

周囲を見やり、肩を竦める、どうやら気配は目の前の生徒の物だったらしい
僕はそこまで勘が良いほうではないのだろう。

 「君、ここの生徒かい?」

何故そんな事を聞いたか?
最近のちょっとした『噂』のせいだ。

だって、『実は幽霊です』とか言いだしたら 
少し楽しいじゃあないか。

641三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/01/07(火) 21:00:06
>>640

その教室には、そこにいる生徒以外誰もいません。
至って静かなものです。
もちろん『人間以外の者』も、そこにはいないはずです。

「もし『生徒』じゃなかったら『不法侵入』になってしまいますね」

「立派な『犯罪』です」

目の前の生徒は、制服ではなく学校指定のジャージを着ていました。
身体は小さくて細く、平均より発育がかなり遅れているようです。
実年齢以上に幼く見えるのは、そのせいでしょう。

「中等部一年生の三枝千草と申します。
 『三つの枝』に『千の草』と書きます」

「――――はじめまして」

    ペコリ

お見かけした事はないですが、おそらく先輩でしょう。
ですので、丁寧に挨拶します。
第一印象は大事です。

642斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/01/07(火) 22:17:47
>>641

 「これはこれは、ご丁寧にどうも」

一礼を返し、『学生手帳』を開いて見せる
当然、手帳には僕の『名前』が乗っている。

 「僕は斑鳩、斑鳩翔。」

 「『ショウちゃん』でも『先輩』でもお気軽にどうぞ、『三枝』さん」

短く整えた頭髪
鎖の意匠を持ったカフス
学ランの胸元には赤いスカーフ

冬だろうと変わり映えがない僕の服装だ。

 「変な質問してすまない、と言いたいが」

 「最近妙な噂を聞くもんでね」

第一印象?彼女は『礼儀正しい後輩』って感じだ
自分が言うのもなんだけど、放課後に教室で1人と言う以外は、特に怪しい所も無い。

 「君、知ってるかい?」

――それ故に気になる個所は有る、『ゴミ箱』とか。

643三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/01/07(火) 22:45:41
>>642

「高等部の先輩ですね。
 『鉄先輩』や『日沼先輩』をご存知ですか?」

「同じ学年なら、お知り合いかと」

学年は斑鳩先輩と同じはずです。
クラスが別なら知らないかもしれませんが。
人数の多い学校ですから。

「――――『妙な噂』?」

「その内容をお聞きしない事には、何とも言えませんが……」

ゴミ箱は特におかしな点はありません。
外見は極めて普通です。
中身は空っぽですが、それはおかしな事でもないでしょう。

「どんな『噂』ですか?」

644斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/01/07(火) 23:13:34
>>643

首を振る

 「いや、そんなに難しい話ではないんだ、穏やかでもないのだけれど。」

適当な椅子を引いて腰かける
歩き回って足が棒のようだ、それもこれも『探し物』のせいだが

 「――『学校内に不審者が出る』っていう話」

『まだそこまで広がってはいないよ』、と
同時に『どうしてそんな事を?』を我ながら絶妙に表せる口調だったと思う

正直、僕もこれが事実かどうか解らないし。

 「それも、『下着泥棒』 ……ああいや、僕では無く」

人懐っこい苦笑を浮かべながら、まるで冗談事のように話し続ける
当人には笑い事では無いのかもしれないが、僕にもそれがどうにも信じられないのだ。

 「僕のクラスメイトが被害にあったって言う話さ。」

 「手口の方も正直、眉唾物で……その、馬鹿らしいとは思うけど」

だって、被害に会った彼女の言い分もそうだが
そんな事する理由あるかい?って話だから。

 「『ゴミ箱ごと持っていった』って言うのさ。」

 「――妙だろ?」

645三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/01/07(火) 23:39:17
>>644

「確かに妙なお話ですね」

「『学校のゴミ箱に下着を捨てた人』がいるんですか?
 家のゴミ箱に捨てた方がいいように思うのですが……」

思わず首を傾げます。
泥棒は悪い事です。
でも、学校内に下着を捨てるのはどうでしょう。
それこそ不思議な話のような気がします。
そう思うのは、千草だけでしょうか。

        ガタ

「――――続きをお願いします」

近くにある適当な椅子に座ります。
先輩の話は、これで終わりではないでしょう。
なので、続きを聞こうと思います。

646斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/01/08(水) 00:26:07
>>645

 「あー…… やっぱり気づいちゃうか。」

彼女の指摘を鋭いと褒めるべきか
それとも少し困ると考えるべきか、三枝という後輩が聞く姿勢なのは確かだ。

 「『泥棒』の方もそうだが、僕も彼女にこう言ったのさ『なあ、君はどうして学校に下着を捨てたんだ? 不用心にも程が有るんじゃないのか。』」
 「……最初に言ったけど、これはあまり穏やかじゃない話なんだ。」

頬を掻く、見ず知らずの相手にする話でもないが
同時に、目の前の女性に関係のない話……でもないだろう。

 「ところで、このせ……『清月学園』は知っての通りマンモス校だ」
 「お手手つないで友達100人…なんて簡単にはいかない事を、今じゃ僕達はよく知ってる、だろ?」

 「その中の最小単位、40人と顔見知りになれば『親友』が1人出来る間に」
 「『どうしても気にくわない奴』とかが、2〜3人くらい出てくるものさ」

視線をそらして廊下の方を見やる
人の眼を見ながら話したくはない話題なんだ、それが僕に関係なくとも。

 「――あんまり褒められた事じゃないよな」
 「『い』で始まって『め』で終わるような事は、さ。」

……溜息が漏れ出そうになるのを抑え込む

 「彼女の言葉は躊躇い混じりで正確じゃあなかった、『彼女』では無く、『彼女が庇っていた友人』が被害者で……」
 「『捨てた』のではなく『捨てられた』んだ。」

647三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/01/08(水) 00:43:48
>>646

「そうですか…………」

「それは言葉に出しにくい話題だと思います」

「でも――――」

    ズイッ

「『目を背けてはいけない事』です」

「そのお話は、『生徒会』に持って帰ろうと思います。
 何が出来るか分かりませんが、何かしなければいけません」

「その『責任』があると考えていますので」

千草はちっぽけな存在です。
ですが、聞いたからには行動しなければいけません。
それは、千草の『夢』に繋がる道でもあります。
誰からも尊敬される人間になる。
それが、千草の『人生の目標』です。

「あの…………すみません。話の腰を折ってしまいました。
 『噂』の話が途中だったかと思います」

「続きをお願いしてもよろしいでしょうか?」

648斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2020/01/08(水) 21:29:08
>>647

 「…………。」

少しは驚いた、大抵の場合は目を逸らし
見て見ぬふりをする、そういう物だと思っていたからだ。

 「今、全ての生徒に 君みたいな『責任感』が有ればなあ、と思ってるよ。」

 (……同時に、無くて良かったとも思うが。)

今、彼女……『三枝千草』に対しての印象は少し変わった
礼儀正しさ以外に、悲劇に対して目をそらさない『意志』が有るらしい

 「けど、『生徒会』に持っていくのはやめた方がいいな」

 「僕が何故こうして動いてると思う? ……頼まれたからなんだ。」

背もたれに思い切りもたれかかると、椅子の脚二本でバランスを取る
特に意味はない、あえて言うなら姿勢に飽きた。

 「この『いじめ』は単独ではなく、多くの場合……『インターネット』とかの……」
 「『赤信号、皆で渡れば怖くない』、みたいな集団心理の元に行われてる、『複数犯』なんだ。」

 「勿論、警告して、相手が反省し、二度としないと誓わせて仲直り それが理想だ。」
 「ただし、理想は理想、絵に描いた餅でしかない、もし『相手が1人でも逆恨みしたら』?報復は簡単だ」

 「『学園に必ず来る』怯えている被害者の肩を掴んで、無理やり引き摺って行けばいいんだから。」

ジェスチャーを交えながら話す途中で
廊下の方をちらと見やる、無関係とはいえ僕は探りを入れ始めた
恐らく、そろそろだとは思うが。

 「被害者に、さらに被害に会えとはちょっと言えないし」
 「だからと言って付きっきりで守る、と言うわけにもいかないんだ、『そう言う事』だとバレてしまう。」

視線を戻す。

 「この事について君が知らなかったように、『知ってる人は知っているが、大半の人間はこの事を知らない』」
 「こういう事実を下手に拡散するのも、被害者を傷つける、『いじめ問題』の根の深い所だよ。」
 
 「でも方法はある、ジャブを打っても返されるなら、ストレートで『再起不能』にすればいい、その為には『証拠』が必要なんだ。」
 「少なくとも、『謹慎処分』、或いは『退学』まで持っていくのが。」


椅子を戻し席を立つ、彼女に近づくと乾いた靴音が教室に響く
その必要が有るし、『この話は目を逸らしてはいけない事だ』。


 「……話を戻そう、僕は『証拠が必要になった』、『物証』、『証言』、『証人』。」

 「それが、『何故ぼくが此処に来たのか』という話にも繋がるんだ……『三枝千草』さん。」

 「僕は君が見ての通り、上の学年だ 本来なら此処で証拠を探すのは筋違い、収集個所の方が早いかもしれない」
 「だが、グループの1人がこう発言したんだ…『下級生の1人に証拠を捨てさせた』…ってね、その人は『証人』になる」

生徒手帳を取り出し、ページをめくる
大抵のものぐさな生徒には忘れられがちだが、こういう物はメモ代わりにもなる

 「噂の中身の実際はこうだ、『いじめでゴミ箱に下着を捨てられた女子生徒がいる』」
 「そして同時にもう一つの噂が最近流れてる、『ゴミ箱の中身がいつの間にか消えている』。」

例えば、『他の生徒から聞いた話を書き込む時』とか。
 
 「ここのクラスメイトの証言だけど、君は最近『放課後にこうして一人でいる』んじゃないかな?」

 「――誤解無く、単刀直入に言おう」

 「何故かそんな事をしている君を、今、『疑っている』。」

今度は目を背けない、笑顔で、しかし笑顔の無い瞳で真っすぐと。

649三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』【中一】:2020/01/08(水) 22:10:43
>>648

「ご存知ですか?
 そもそも周りは、
 『いじめが起きている』とさえ思っていないケースが多いのです。
 加害者にしてもそうです。
 単に『じゃれているだけだ』とか、
 『いじってみただけだ』とか思っているのです。
 生徒も先生も、皆そうです」

「その時、当人はどうすればいいと思いますか。
 我慢するだけです。ただ我慢して日々を過ごすだけです。
 ずっとずっとです。
 そして、誰もそれに気付かないのです」

「先輩の意見は、とても冷静です。
 落ち着いた第三者の意見です」

「でも……こんなことを言うのは心苦しいのですが」

「その――――」

「『それだけ』のような気がします」

    フゥ……

少し、少しだけ熱くなってしまいました。
こういう時は、深呼吸です。
静かに長く。

「『疑い』ですか……。
 そんな噂があるなら、疑われるのも仕方がないと思います。
 もし千草が同じ立場でも、そうするでしょう」

    スッ

「知らなかった事とはいえ、悪事の片棒を担いでしまった事を、
 心からお詫び申し上げます」

「千草の処分は斑鳩先輩にお任せします。
 どのようにも為さって頂いて結構です」

        ペコリ

椅子から立って、先輩に頭を下げます。
千草は嘘が苦手ですし、何より悪い事です。
でも、これで千草は地獄に落ちるかもしれません。
無残な死に方だけはしたくないと思っているのですが。
ここから挽回できるでしょうか?

650斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2020/01/08(水) 22:48:04
>>649

 「…………(違うな、ああ、違う)。」

『俺』の勘だが少なくとも、この三枝という女が自分から関わっているとは思えない
関わるような人間が、こうも熱くなるとも思えない、俺は怒りならよく知っている。

 謝罪と共に深く頭を下げる

 「――すまない、言い過ぎたな、顔をあげてくれ」

……一瞬ぼうっとしていたような気もする
廊下の方を見る、やはり近づいて来ている。

 「……君の言う事は、正しい、僕も頼まれただけの第三者だからな」
 「『それだけ』しかできないし、しない、冷たいようだけど『熱く』はなれない……自分が情けなくなるな。」

情けなさを振り払うように首を振る
言葉にするのは簡単だが、行動が伴わないならばなんの意味が有るだろう?

 「……君はやって無いんだろ?少なくとも自発的に加担してはいない」

 「そうなると謝るのは僕の方だし、元から探してたのは『証人』の方なんだ、証拠は別の方を集めればいいからね。」
 「いじめグループに加担してた下級生が別にいる、次を探さないとな。」

少し考えてから、ひとつ引っかかった事が有る
彼女の態度についてだ。

 「ところで、君は謝っていたけど あー……その、『何かをした』のか?」
 「『ゴミ箱の中身全てを跡形もなく消し去る』なんて、君が1人で出来る事だとは思わないんだが。」

651三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』【中一】:2020/01/08(水) 23:08:32
>>650

「いえ、生意気な事を言って申し訳ありませんでした」

    ペコリ

「――ええ、しました。千草が『一人』で」

「いつも考えているのです。
 自分が何か人の役に立てないかどうか。
 色々と考えてみて、『掃除』をする事にしたのです」

「千草が片付けたゴミはなくなりました。『永遠』に」

千草が『昇天』させたものは、どこへ行くのでしょうか。
それは千草にも分かりません。
ただ、『この世』に存在していない事だけは確かです。

「ですので……もう、それを取ってくる事は出来ません」

            ペコ

        「『ごめんなさい』」

652斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2020/01/09(木) 00:25:54
>>651

顎を撫で、少し考える
証拠を消したという確証はないが、彼女にはどうやら罪悪感が有るらしい
……此方としても、口の堅い人手が欲しい所ではあった。

 「間が悪かったんだ、誰も悪くは無いし、もし悪いとしたら、それは何も知らない君を利用した彼女たちの方だ。」
 「けれど、そこまで言うのなら、君が適任かもしれないな」

 「巻き込んでおいてなんだけれど…そこまで悪く思っているなら協力して欲しい」
 「証拠はなくなったかも知れないが、証人は必要なんだ、つまり……君の周囲で、その事態に加担している人間を」
 「一緒に探してほしいんだ、『高等部』の学生が『中等部』にいても、大体の場合は警戒されてしまうからね。」

 「そのお礼としては……そうだな、僕に出来る範囲で出す物を出すよ。」
 「金銭は少し五月蠅いのがいるから…現品だとか駅前のクレープとか。」

思いつくのはこの辺りだ
流石に目の前の後輩が『荒事』に首を突っ込むとも思わないが

(……いや、この責任感と意志の強さなら、何時か首を突っ込むかもしれないな。)

 「ところでその表現……つまり君は、新手の『スタンド使い』か?」

 「僕と同じ様に?」

653三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』【中一】:2020/01/09(木) 00:46:53
>>652

「お手伝い出来る事なら何でもします。どうぞ、ご遠慮なく」

「千草は――――
 『誰からも尊敬されるような立派な人間』になりたいと思っています。
 それが『夢』であり、『人生の目標』です。
 『人の役に立つ事をする』のは、その『一歩』になります」

「ですから、『お手伝い出来る事』が十分なお礼です」

千草が何よりも欲しいのは、自分の価値を高める機会です。
それを積み重ねて、立派な人になりたいのです。
『安らかな最期』を迎えるためには、それが必要です。

「『新手』…………?」

「それはどうか分かりませんが」

「でも――――『はい』」

      カツンッ
            ズズッ…………

『金属が床を打つ音』が響きました。
そして、『幽鬼のような姿のスタンド』が現れます。
目深に『フード』を被り、杖のように『シャベル』を携えていました。

654斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2020/01/09(木) 21:12:24
>>653

 「『尊敬』か」

こうして改めて口に出し、思い返すと
人生の中で尊敬する相手というものは結構少ない物だ。

他人の人格や行為を高いものと認め、頭を下げるような、また、ついて行きたいような気持になること。
うやまうこと。

例文:「親を―する」

 「僕は両親の事は尊敬しているよ、誰よりも何よりも」

 「君もなれるといいな ……そして。」

第一印象?『ぎょっとした』、もしかしたら、流石に僕の顔にも驚愕が出たかもしれない、彼女の台詞と妙に噛み合わないなとは思ったかな
なにせそのスタンドは、『尊敬されるような立派な人物になりたい』と言っている割にはあまりにも……暗かった。

目の前にあるそれは重たいシャベルを引きずる墓守のようではあった、誰の言葉だったか、『スタンドは性格』だ
少なくともそのビジョンは、尊敬を集めるような立派さは無く、むしろ『死への執着』を僕に強くイメージさせた。 

彼女は少なくとも嘘をついてはいないのだろう
ただ、恐らく立派な人物に、というのは……それが通過点か、或いは彼女自身も気づいていないか、だ。

 「それが君のスタンドか?」

見せてくれたのだから此方も見せなければならないだろう
少なくとも、あの律儀な男ならそうした筈だ。

そう呟く僕の腕に、影から引きずり出されたように『鎖』が伸び
右腕を雁字搦めにする『枷』のように巻き付く、幻覚でもなければ、幻でもない。

 ――『ロスト・アイデンティティ』

 「そう名前を付けられた、これが僕にとっての『スタンド』」
 「まあ、人探しにはあんまり役に立たないのだけど。」

廊下の方を見やる。

 「それじゃ、お互い自己紹介も終わって用件も済んだし……聞きたい事はもっとあるけど、そろそろ『逃げる時』かな。」

足音は大きくなっている、約4人程だろう。

 「ところで三枝さん 君、『彼氏』とかいる?」

655三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』【中一】:2020/01/09(木) 22:03:07
>>654

「『鎖』ですね」

「『鎖』と『シャベル』――――どちらも『金属』です。
 少しだけ似てるかもしれませんね」

    ニコ

「『It’s now or never』」

「そういう名前です」

千草は、『他の人のスタンド』を見た事は、ほとんどありません。
斑鳩先輩の事も、今さっき知ったばかりです。
だから、単純な比較は出来ません。
でも、きっと『斑鳩先輩だからこそ目覚めたもの』なのでしょう。
千草の『墓堀人』がそうであるように。

「?」

その質問に、首を傾げました。
そして、口を開きます。
ゆっくりと。

          「そ――――」

 ドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタッ

千草の声は、逆方向から走り抜けていった『誰かの足音』に、
かき消されました。
きっと『偶然』でしょう。
その間にも、『四人分の足音』は近付いてきているようですね。

656斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2020/01/09(木) 23:40:53
>>655

 (……?)

廊下を走る足音に後輩の台詞はかき消された
放課後だってのに暇な奴が多いもんだな

まあ俺も人の事は言えねぇがな、退屈は俺の敵だ。

 「――話はいじめグループの方に戻るんだが」
 「リーダー格の女性が、これまた美人でね、その人に『彼氏』がいるんだよ」

ソイツの事はよく知ってる、『銀鶏』の奴だ
女の方が粉をかけたか、女を見る眼が無いんだろう
今度ガラス玉と交換をおススメしてやるか、運がよけりゃあ視力が良くなるぜ。

 「いかつい『お友達』を連れた、『業務用冷蔵庫』の上に『たわし』を張り付けた様な奴が」
 「僕の事は、まあ面白くないだろうな 見つかったら何される事か。」

俺か?俺は喧嘩は嫌いじゃない。
1:4だろうとタダでやられてやるつもりはねぇ
ただし他人を巻き込むのは趣味じゃない、それが女だと猶更だ。

窓の方に脚を向ける、窓を開くと流れ込む季節の空気
まあ今は傍の排水用パイプの方が重要だな、ひっかけて降りるにはこれで充分。

 「実のところ……さっきからその人達が近づいて来てるんだ、君は『今のところ』関係ないし。」
 「『ターゲット』にも入ってないだろうな ……どうする?此処にいるかい?」

俺は楽しい追いかけっこの時間だ、ニヤリと後輩に笑ってやる。

657三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』【中一】:2020/01/10(金) 00:35:33
>>656

「…………『暴力』は嫌いです。
 見たくはないですし、聞きたくもありません」

千草にとって、暴力は『死』を連想させます。
だから嫌いなのです。
だから怖いのです。

「千草には単純な力はありません。
 今ここで、『誰かを殴れ』と言われても無理です。
 殴りたくないですし、殴れる力もありません」

「でも、『殴られる』くらいなら出来ます」

「『年下の生徒会の一人に暴力を振るった』――――
 そういう『既成事実』を作ってしまえば、
 周りからの風当たりが強くなって、
 これまでのように幅を利かせにくくなるかと思ったのですが」

      ザック ザック ザック

言いながら、『墓堀人』が、扉の手前に『墓穴』を拵えます。
ごく普通に考えて、
教室の床に『穴』が開いているとは思わないでしょう。
だから、無警戒に足を踏み出す事でしょう。

「これで『足』を取られます。
 窓から出るのでしたら、時間稼ぎになるかと思います」

「斑鳩先輩、
 さっき千草が言った言葉を覚えていらっしゃいますか?」

「千草の扱いは先輩にお任せしました。
 どうぞ、『お好きなように』。千草は、それに従います」

「ただ…………一つだけお話しておく事が」

「あの、千草は『運動』が得意ではないです」

斑鳩先輩に向き直ります。
どうするかは先輩に一任します。
ただ、窓から降りる途中に『転落死』しないかどうかだけが心配です。

658斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2020/01/10(金) 23:34:02
>>657

 「……訂正しよう、君の事を少し驚いたと思ったが、今、君の『行動』にかなり驚いている」
 「君の行いは彼らにそこまで考える知性が無い、という前提なら有効だろう」

俺にいわせりゃ実際無いだろうなあいつら
階段を登らせると登りと下りで数が違うとか言い出す連中だ。

 「しかし、まあ」

鎖が伸びる、一度に伸ばせるのは約5m
もっとも分離した鎖はそれに含まないので
少しズルすれば地面と全身でキスする事無く、余裕で降りられる距離だ。

 「悪党と正義の人の違いは『手段を選ぶかどうか』だと言う人もいる。」

後輩をひっ掴んで窓際に寄せる
運動が不得意で自分から殴られようだって?
ようは受け身も取れないって事だろ?馬鹿な後輩。

 「一人の不幸の為に一人を犠牲に…では計算が合わないし」
 「何より、そんな事をしたと知れたら、僕に依頼した子は、僕を殺しかねない勢いで迫るだろうしね。」

苦笑しながら考える、まあそういう馬鹿は嫌いじゃない
何より女が怖いって事はうちのババアがよく証明している。
見捨てる選択肢は無い。

 「でも『好きにしろ』って軽々しく男性に言うのは良くないな、悲鳴を上げることになるぜ。」
 「――動くなよ?」

――俺は後輩を窓から突き落とした。

『鎖』…『ロスト・アイデンティティ』でぐるぐる巻きにした後でな、分離、結合

解けた後に出来るのは即席の『空中ブランコ』だ
ちゃんと手すりとシートベルト付き、問題は全部スタンド製なので、スタンドアレルギーだと辛い所だな。
ドのつく運動下手でも、暴れない限りは落ちないだろう。

物音に振り返ると、手下が何人か落っこちた向こうに『銀鶏』の野郎が額に青筋を立てているのが見えた、ざまあねぇな
ウインクの一つでも返して、俺も窓から飛び降りる。

頭上の怒号を聞き流して逃げるのは中々愉快なもんだが
この後輩をお姫様抱っこしてさっさと逃げたほうが良さそうだ。

659三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』【中一】:2020/01/11(土) 00:18:18
>>658

「…………そうですね」

「『殴られる』なら、
 もっと『人目につく場所』を選ばないと『殴られ損』です。
 大勢の前で試す方が、きっと大きな効果が得られ――――」

ここは『場所』が悪いです。
やるなら『目立つ場所』にしないといけません。
だから、とりあえず今は――。

        ドンッ!

不意に突き飛ばされて、いとも容易く吹っ飛ばされました。
『為すがまま』というのでしょうか。
つまるところ、そういう状態と言っていいでしょう。
ところで、斑鳩先輩はお気付きでしょうか。
千草の言葉が、途中で途切れた事を。

    「…………」

           「…………」

                  「…………」

『悲鳴』はありませんでした。
何故なら、千草は完全に『気絶』していたからです。
突き落とされた瞬間には、もう意識はありませんでした。

千草は『スタンドアレルギー』ではありませんが、
『死に対するアレルギー』を持っています。
いわゆる『ネクロフォビア』というものかもしれません。
少し前は、屋上から校庭を覗き込んで意識を失いました。

同じように、『死の恐怖に対する無意識の防衛本能』が働いて、
自動的に意識がシャットダウンしたようです。
つまり、後は全て先輩に『お任せする』という形になります。
お手数ですが――――どうぞ、よろしくお願いします。

660斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2020/01/11(土) 03:25:21
>>659

『死』、それは誰もに平等に送られる最後である。

 「悪い事したなあ、こりゃ」

僕も割と急いでいたとはいえ
まさかあんな台詞吐く子が落下で気絶するとは思わなかった
……いや、普通は気絶するものなんだろうか?

 「ふーむ……変わったお嬢さんだが、そんなに高い所が怖かったのかね?」

周囲の女性が微妙に個性的なために
普通の基準がいまいちピンとこない……ような
もう1人の後輩に今度聞いてみるべきだろう。

 「ま、『好きにしろ』って言われた事だし、目が覚めるまでは預かっておくか。」

でもサイドカーにバレないように後輩を突っ込んで
『ボーイズギャング』の知り合いに、バイクで走って預けに行くのはどうかと思う。

 「まあ俺達の家に連れてくとさ、ほら、ババアが怖いし」
 「追ってくる連中と起きる前にファイトクラブもいいけど、俺としては穏便な選択肢だと思うぜ?」

……彼女がなるたけ早めに起きる事を祈ろう
下手するとこの奇妙な『放課後F・C編』は、予想以上に長くなりかねない。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板