したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

【場】『 私立清月学園 ―城址学区― 』

1『星見町案内板』:2016/01/24(日) 23:57:56
『H城』の周囲に広がる『城址公園』の敷地を共有する『学び舎』の群れ。
『小中高大一貫』の『清月学園』には4000人を超える生徒が所属し、
『城郭』と共に青春を過ごす彼らにとって、『城址公園』は広大な『校庭』の一つ。

『出世城』とも名高い『H城』は『H湖』と共に『町』の象徴である。

---------------------------------------------------------------------------
                 ミ三ミz、
        ┌──┐         ミ三ミz、                   【鵺鳴川】
        │    │          ┌─┐ ミ三ミz、                 ││
        │    │    ┌──┘┌┘    ミ三三三三三三三三三【T名高速】三三
        └┐┌┘┌─┘    ┌┘                《          ││
  ┌───┘└┐│      ┌┘                   》     ☆  ││
  └──┐    └┘  ┌─┘┌┐    十         《           ││
        │        ┌┘┌─┘│                 》       ┌┘│
      ┌┘ 【H湖】 │★│┌─┘     【H城】  .///《////    │┌┘
      └─┐      │┌┘│         △       【商店街】      |│
━━━━┓└┐    └┘┌┘               ////《///.┏━━┿┿━━┓
        ┗┓└┐┌──┘    ┏━━━━━━━【星見駅】┛    ││    ┗
          ┗━┿┿━━━━━┛           .: : : :.》.: : :.   ┌┘│
             [_  _]                   【歓楽街】    │┌┘
───────┘└─────┐            .: : : :.》.: :.:   ││
                      └───┐◇      .《.      ││
                【遠州灘】            └───┐  .》       ││      ┌
                                └────┐││┌──┘
                                          └┘└┘
★:『天文台』
☆:『星見スカイモール』
◇:『アリーナ(倉庫街)』
△:『清月館』
十:『アポロン・クリニックモール』
---------------------------------------------------------------------------

509夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/04/24(水) 00:31:06
>>508

「なんでわかったかって??
 ホントは『キギョーヒミツ』なんだけどな〜〜〜。
 まぁ、いいか!!トクベツにおしえちゃおう!!」

「じつをいうと『ノーリョク』でわかった。
 これはイズミンのオトシモノだろうって。
 ホラ、いわゆる『レイのヤツ』で」

もちろん違う。
『ドクター』にはそんな能力はない。
『できなくはない』けど。

「――――なんてコトができたらベンリだよね〜〜〜。
 そりゃわかるよ。だって、みたコトあるし。
 もしケースかえてたとしても、デコレーションでわかるジシンあるね」

「イズミンの『シュミ』は、だいたいハアクしてるから。
 この『テープ』とか。
 そんなカンジ??」

さっきの通話のことは黙っとこう。
少なくとも聞かれるまでは。
なんとなく、いいにくいし。

「そういやさ、いまヒマ??
 かわったスイーツがたべられるトコみつけたんだ〜〜〜。
 なんでも『タコヤキみたいなシュークリーム』とか、
 『オコノミヤキみたいなパンケーキ』なんかがあるらしいって!!
 キョーミない??そんなのみたコトないし!!ゼッタイみてみたいな〜〜〜」

それに、あんまり湿っぽいのイヤなんだよね。
そのコトについて、私になんかできるワケでもないし。
だから、ユメミンにできるのは、コレくらいだ。

「――――これからイッショにいかない??」

今まで通り、一緒に楽しく過ごすことくらい。

510今泉『コール・イット・ラヴ』【高1】:2019/04/24(水) 02:06:45
>>509

「あれ、『ドクター』にそんな能力――――って。冗談ですかっ」

          アハ ハ

「あは、趣味ばれちゃってましたか」
「こういうの好きなんですよね〜」
「白も好きだし?」

理由はわからないけど、好きなんだと思うんだよね。
好きだって思うものが好きってコトだとも思うんだよね。

「暇ですよ〜、スマホ見つけてくれたおかげで」
「見つからなかったら夜まで忙しいとこでした」
「ほんと、ありがとうございます」

「ちょうどフツーのスイーツ、食べに誘おうかなって」
「思ってたんですけど〜」

      ニコッ

「いいですよっ。行きましょう!」
「ユメミンとそういう変わったの、最近食べてませんでしたしね」

「場所は……星見街道のほうです? それとも横丁のほう?」

そういう理屈でいうと、ユメミンと遊ぶの、やっぱり好きなんだよね。
スマホ落としたのはどうしようかなって思ったけど、拾ったのがユメミンでよかった。

511夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/04/24(水) 02:47:07
>>510

「よし!!いくぞイズミンたいいん!!
 いまこそ、かくされた『おおいなるナゾ』をときあかすトキだ!!
 そこにはデンセツのヒホウがねむっているという!!」

「ユメミンがゴクヒにニュウシュした『こだいちず』によると――
 『ホシミカイドーほうめん』だな!!
 メインストリートからは、チョットはずれたバショか……。
 しるヒトぞしる『かくれがてきショップ』ってカンジだ!!」

        ピッ
             ピッ

『古代地図』――もといスマホに地図を表示して、イズミンに見せる。
使ってるスマホケースはデコレーションが賑やかだ。
様々な色のパーツが、あちこちにゴチャゴチャくっついている。

「そんじゃ、さっそくいこうぜ!!
 テイクアウトもできるみたいだから、おみやげもかってかえろっかな〜〜〜。
 ナニもいわずにだして、みんなをビックリさせてやろう」

        ザッ

そんなこんなで店に向かおう。
チョットわかんないコトはあったけど、そのコトはいいや。
イズミンと遊んでるのは楽しいし、ソレでいいと思う。
だって、ユメミンはイズミンの友達だから。
だから、きっとソレで十分なんだ。

512今泉『コール・イット・ラヴ』【高1】:2019/04/24(水) 23:15:06
>>511

「『隠れ家的』! 良い響きですねえ」

     ずい

スマホを覗き込んで地図を見せてもらう。
知らないお店だ。友達といろんなお店行くけど、
ユメミンはやっぱりフツー知らない事を知ってる。

「へえーっ、こんなところにあったんですねえ、お店」
「ほんとに宝探しみたい」「味もお宝レベルならいいな」

「それじゃ、『秘宝』目指して張り切って行きましょっ」

              スッ

真っ白にマスキングテープを巻いた私のスマホ。
ほんと、見つけてもらえてよかった。
・・・メールとか来てないかな。
まあ、見るのはまた後でいいや。

「テイクアウトですか、それもいいですねえ」
「食べすぎちゃわないように気を付けないとっ」

今は、フツーに、スマホ見なくても楽しい時間だもんね。

513夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/04/25(木) 00:17:49
>>512

    ザッ
        ザッ

少しずつ中庭から遠ざかっていく二つの人影。
それは『普通の日常』だ。
ちょっとだけ変わってるかもしれないけど、それでも『いつも通り』の光景。

          ザッ
              ザッ

あの電話は、もしかすると『いつも通り』じゃないのかもしれない。
いつか何かがあるのかもしれない。
もしかすると、それは大きなことなのかもしれない。

                ザッ
                    ザッ

だけど、もしそうだったとしても、それは今じゃない。
今ここにあるのは、いつもと変わらない『普通の日常』だけ。
少しの余韻を残しながら、この小さな一幕は終わりを迎える――――。

                      ザッ
                          ザッ

514日沼 流月『サグ・パッション』【高2】:2019/05/19(日) 23:30:25

        ガシャ

「ふぅ――――――――――ッ・・・」

屋上の金網に背を預け、何げなく空を見上げる。
頭の中に浮かぶのは『アリーナ』の舞台だ。

(あれはやばかった……
 腕斬られたワケだし……
 ありえないくらい痛かった)

(ヤバい、『逆に』頭から抜けないな〜ッ……二度とやる気はしないけど)

「『サグ・パッション』」

               ガシャンッ

現れた大柄なヴィジョンが、金網を掴んで揺らす。

「流月、ヤバいほうに転がっちゃってないかなァ〜〜〜」

          「まだまだ『引き返せる』気はするけどぉ〜〜〜ッ」

515流星 越『バングルス』【高1】:2019/05/21(火) 00:21:43
>>514

   「うわっ」

   「あっ違いますうわっとか言ってないです。お口チャック」

屋上で雑誌でも読もうかな、なんて思ったのがいけなかったのだろうか。
先客がいた……のはまぁいいとして。
独り言をつぶやいている……のもいいとして。
スタンド出してる。
『私は近距離パワー型です』って顔したスタンドがめっちゃ金網掴んでる。
あまりにも自然に出しているものだから、流星越は思わず『うわっ』とか言ってしまった。
……まぁ、その表情はピクリとも動いていないのだが。
尾のように垂らした三つ編みが、僅かに跳ねた。
赤ぶちの眼鏡越しに、視線は金網を掴むスタンドへ。

   「……………今から何も見てなかったことにできませんかね」

   「歴史改変ビームみたいなの、出ませんか。出ませんね。おーまいが」

516日沼 流月『サグ・パッション』【高2】:2019/05/21(火) 01:54:56
>>515

「あン?」

      キョロッ

    ルナ
「いま流月のこと見てウワッて言ったでしょ!」

「言ってからお口チャックしても遅いし〜」

お世辞にも迫力があるとは言えない顔だ。
が、金髪とも銀髪とも言えない独特な髪は、
多少なりとも『不良っぽさ』を演出していた。
要は、こいつが『何』なのかは分かりやすかった。

           シマ
「べつにここ、流月の縄張りとかじゃないし、
 誰が来て何言ってても良いんだけどさ〜〜っ」

「ひとりごと言ってんの見られたくらい気にしないしね」

流月は『さほど』スタンド使いと会っていない。
特に、学校にいくらでもいるなんて、想像出来ていない。

「てゆーか、流月ビーム撃つように見える? ウケる。
 ぷぷ、『逆に』メガネかけてるあんたの方が撃ちそうだけど!
 なんだっけ、いなかった? メガネからビーム撃つキャラさ〜!」

          「っで、何しにここ来たの?
           流月に会いにじゃないよね?」

517流星 越『バングルス』【高1】:2019/05/21(火) 03:01:12
>>516

   「いえその」

   「もごもご」

もごもごって口で言った。

   「もちろんビームを撃ちに来たわけではないのです。撃てたら楽しそうですが」

   「エッちゃん雑誌を読みに来たんですよルナさん」

そう言って、手に持っていた『バイク雑誌』を胸の前に掲げる。
今日発売、朝のうちに買ってきたばかりの新品だ。

   「屋上で雑誌を読むなんて大変青春めいていてメモリアルがときめくアレなのでは、と。
    そう思ってやってきたはいいものの先客がいたご様子。
    いたご様子なのはともかく、ほら、その、なんと言いますか」

   「『ツッパった』方がいらっしゃるじゃないですか」

   「いえその、ルナさんではなく。殴る蹴るの暴行が得意そうなそこのお方。
    あ、でも『スタンド』だからルナさん自身でもある……?
    つまりルナさんは殴る蹴るの暴行が……いえ普通に苦手ではなさそうですね」

   「ともかくそんなわけで驚いてうわって言っちゃったわけです。
    ええ、どうにか言ってないことにできませんか。できませんね」

若干警戒気味の及び腰。
いきなり襲い掛かってくるとも思わないが、『ヤンキー』っぽい人を反射的に警戒する陰キャの定めであった。

518日沼 流月『サグ・パッション』【高2】:2019/05/21(火) 03:16:31
>>517

「『雑誌』か〜。『ジャンプ』だったら貸してよって言おうとしたけど」

「バイクね〜、それセンパイが読んでたな〜っ。
 てかバイク乗るの? えーっと、16からだっけ。
 だったよね。あんた不良って感じしないし、
 じゃあ『誕生日』もう迎えてんだ。 おめでと!」

「あ、でも、『逆に』そういうカッコでさ?
 不良やってるヤツも……『漫画』にいそーだけど」

バイク雑誌に視線を向けて、そのような話をしつつ、
やや歪んでしまった金網に背を預けて話す体勢に入る。

「『ツッパリ』ぃ〜? ってあの、『不良漫画』的な?
 え〜っ、流月そんな古い感じじゃないでしょ! ……あ」

           『ズズズ・・・』

「見えるんだ? 流月の『サグ・パッション』が。
 そーいうこと! そりゃ悲鳴も上げちゃうわ。
 見えるのもメガネパワー……なんてね、ウケる。ぷぷ……」

       クスクスッ

「まーとにかく、『サグ・パッション』ガタイいいし、
 流月もこいつ初めて見たときビビったし。
 流月自身は、暴力とか、好きじゃないし? ね?」

「べつに言っててもいい。あ、本読むなら座りなよ。そことか日向であったかいし!」

                  スゥッ

これ見よがしにスタンドの指で、なるほど影の都合で日向になっている場所を指さした。

519流星 越『バングルス』【高1】:2019/05/21(火) 03:48:02
>>518

   「あ、はい。ありがとうございます。
    私は別にこう、真面目な文学少女なんですけどね。
    いや嘘ですね。別に文学少女では無いです。
    ともあれバイクが好きな一般ガールなのです。乗ってるのは親戚のお下がりですが」

スッと態度が軟化した。
表情にはまったく出ないが、姿勢から警戒が薄れた。
この先輩、話しやすそうだな――――驚くほど早い掌返しと判断力であった。
ぼっち生活が長い彼女はかなりチョロかった。

   「お察しの通り。エッちゃんアイは透視力なのでバッチリその、『サグ・パッション』さん? が見えてしまいまして。
    私のは『そーいう形』をしてませんから……とてもビックリしましたね。心臓が爆発四散するかと。
    いえ、『人型』は何体か見たこともあるのですが」

   「あ、言葉に甘えますね。ベロベロ甘えます。ちょこん」

そんなわけでホイホイ日向に腰かけるのだ。
とはいえ雑誌を読みだすでもなく、興味はすっかり流月の方へと向いていたが。

                       ナガレボシ エツ
   「ルナさん先輩は……あ、私は『 流星   越 』と申します。ぶい。
    で、えーっと、ルナさん先輩は何かお悩みでしたか? エスパーなのでお悩みだった感じなのがビビビと伝わりまして。
    まぁ普通にルナさん先輩の独り言を聞いてしまっただけなのでエスパー全然関係ないんですが」

520日沼 流月『サグ・パッション』【高2】:2019/05/21(火) 04:09:24
>>519

                      ヒヌマ ルナ
「あ、ごめん自己紹介まだだっけ。『日沼 流月』だからよろしく!」

軟化した態度にもつられるように、挨拶を返す。

「へぇ〜、いいじゃん。お下がりでもさ。
 まー人から受け継いだっていうのが、
 『自分のじゃない』ってなるとこはありそうだけど」

「あっそうだ『写メ』とかある? 見してよバイク!」

           スッ

「『お返し』出来る写メとかはないワケだけど」

少女の愛機に好奇心を膨らませる日沼。
バイク自体が好きというわけでもないが、
コミュニケーションのための質問、というだけではない。

「へー、『人型』って他にもいんの!
 てゆーか、あんたもスタンド使いなの!?
 その『透視力』ってやつ? 『目力』的な!」

    「なんかウケる。意外と多いのかな?」

             ズズ

スタンドを、特に意味もなくいったん解除して、
それから少し間をおいて、真横に発現させる。

「流月がちゃんと見たのは『武器』だったかな〜。
 それがこう、悩みにも絡んでくる件なんだけど!
 悩み。そう、エスパーじゃなきゃわかんないかもだけど、
 ぷぷ……いや、笑う事じゃないんだけど、悩みあるワケ。
 うーんでも、エッちゃんってそういう相談できる相手かな〜」

      「ね、ね、口固い? あとで武勇伝とかなっても困るし。
        『逆に』なんかで漏れてそれで脅されたりしたらめっちゃ嫌だし〜ッ」

521流星 越『バングルス』【高1】:2019/05/21(火) 05:40:18
>>520

   「いいですよ。自慢の相棒の隠し撮り写真大公開です」

スマホを淀みなく操作すれば、風景写真に交じって『スーパーカブ』の写真が何枚か。
夕暮れ、海岸、山……『カブ』に乗ってあちこち出かけているのが察せられる並びだ。

   「私のスタンドは……実は眼鏡もバイクも関係なく、『剣』の形をしておりまして。
    あ、今度はマジの奴です。『剣と籠手』と言いますか。『バングルス』と呼んでいるのですが。
    なので『透視』とかでもないんですが……まぁ、詳しいことは『乙女の秘密』ということで。いやん」

無表情に頬に手を添えて『しな』を作った。
この少女、表情筋が死滅している。

   「そんなわけで私も『武器』だったりするわけです。
    どっちかというと『人型』が多数派、という特ダネを聞いたこともありますけども。
    あ、じゃあ私少数派? 迂闊。突然マイノリティと化しましたね……まぁ『スタンド使い』自体マイノリティだとは思いますが。
    でも実は皆さんあんまり見せないだけで、意外と『スタンド使い』って多かったりするのかも……」

   「……というのはともかくとして」

   「ご安心くださいルナさん先輩。
    このエッちゃん、こう見えて友達がさほど多くないので秘密を聞いても話す相手がおりません」

己の胸に手を当て、軽く逸らす。無表情に。
……それから、間。
一拍。

   「あっ自分で言ってて悲しくなりましたねこれ」

   「でも別にまったくいないわけではないんですよ、友達。
    ええ、これは少数精鋭なのです。ワンマンアーミー。そんなわけで比較的口は固いかと思われます。
    自分のこととなると余計なぐらいに饒舌だけど、人の秘密は決して漏らさないともっぱらの評判なエッちゃんなのです。
    ミステリアス指数の高さで言えば相当なものですよ私。いい女なので」

522日沼 流月『サグ・パッション』【高2】:2019/05/21(火) 18:24:59
>>521

「へーっ、アウトドア派なんだ!
 流月もインドアってわけじゃないけどね。
 こーいう色んなとこ行くのは足なくてやってないし」

「やっぱバイク良いなァ」

車種にはそれほど興味もないのか、
横から画面を覗き込み風景を見ていた。

が、スタンドの話になると顔を引っ込め、向き合う。

「えー、剣とコテ? 剣道やってるとか?
 なんかあんたのイメージと『真逆』な感じ!
 まーべつに詳しいことは聞かないけどね。
 ほら、流月の『サグ・パッション』だって、
 誰にも教えない方が戦った時強いと思うし」

    「戦う予定があるワケじゃないけどォ〜」

付け加えたのは、どこか慌ててだった。
しなを作るポーズには「何それ、ウケる」と零して、
傍らの『サグ・パッション』の頭から足先を見る。

「どーなんだろうね、流月のもそうだけどさあ。
 その気になったら誰だってやっつけられるじゃん。
 しかもバレずに。『完全犯罪』出来るよね」

「あ。相手がスタンド持ってなかったらの話ね!
 でもさ〜。みんなから嫌われてるやつとかでも、
 ある日突然やっつけられたりとかしないワケだし?
 たぶんそんなに数はいないんじゃないかなぁ〜って思うワケよ」

自分は違う……新元令和や、あの『ロボ子』なんかも、
スタンドをそういう『私刑』に使ったりはしなさそうだ。
が、『逆に』そう考えるやつがいてもおかしくはない。
それでも今のところ全国的にそこそこ平穏だ。なら多くはないのだろう。

「てゆーかウケる、友達少ないのそんな風に語るヤツ初めてだわ!
 うーん、それじゃ語っちゃおうかな。流月も、正直、抱え込みきれないワケだし」

「ね、ね、エッちゃんはさ〜〜っ…………」

       クルッ

逆巻いた後ろ髪の一房を丸めながら、言葉をまとめる。

「……その『剣とコテ』で人と戦ったこととか、ある?」

523流星 越『バングルス』【高1】:2019/05/21(火) 23:10:14
>>522

   「剣道、やった覚えもないんですけどね。不思議なものです。タモリさんがしたり顔するのが見えます」

実際――――剣とも盾とも縁のない人生を送ってきた。
なぜ『バングルス』が『ランタンシールド』なのか、と問われても……流星自身は答えを持たなかった。
心理学に明るい人間ならわかるのだろうか。欲求不満とか言われそうだ。

……閑話休題。

   「…………私はまぁ、能力的に『完全犯罪』は難しいのですが」

   「しかし言わんとすることはバッチリわかります。理解力が高いので。
    あるいは知らないところでは、割とそういうことが起こってたりするのかも……とも思います。
    本当に『完全犯罪』なら、あったことすら気付かれていないでしょうし」

   「ですから……いえ、ですからというわけでもないんですが。ナッシングなのですが」

一瞬だけ、目を逸らす。
逸らしてから、感情の宿らない瞳を流月に向けて。


   「――――ありますよ。人と戦ったこと」


   「あ、喧嘩とか犯罪とかデスゲームとかではなく。痴情のもつれとかでもなく。
    双方合意の上の『決闘』というか『スパーリング』というか、そういうアレで。
    ……まぁちょっと腕試しに。はい。私より強い奴に会いに行く、みたいな」

   「一回だけですけどね。先っちょだけです先っちょだけ」

524日沼 流月『サグ・パッション』【高2】:2019/05/22(水) 00:03:57
>>523

「?? なんでタモリ? まっいいや、流月のも『長ラン』だけどさ、
 こんなの今時着るやつとか……たまにしかいないしさぁ〜〜〜」

「そこはまあ、いいや」

能力と性格――――『叛逆』は『生まれついての性格』ではない。
ましてや『長ラン』という不良の『伝統』……あるいは、その裏側は。

「……まあいいや」

「ま〜そっか、言われてみたら本気で『完全』なら、
 人が行方不明とかなってるのに流月達が気付かないとかありそうだし」

               「そこは言い切れないか〜」
           
       「っで」

「…………えっ! あるの!? やば、ない前提で話そうとしちゃってた!」

「ひっくり返っちゃった〜っ。いや、流月もそーいう感じでさあ。
 や。腕試しとかじゃなくってお小遣い稼ぎにね?
 かる〜く、スタンドで戦うの、やってみたんだけどさ〜〜〜〜」

「……エッちゃんさあ! 腕試ししてみてさぁ、なんとゆーか……『どんな気分だった?』」

525流星 越『バングルス』【高1】:2019/05/22(水) 00:41:38
>>524

   「すみません。御覧の通り行動派なものでして……」

……あまり行動派っぽいヴィジュアルではないが。
少なくとも、『喧嘩』が好きそうな見た目ではない。

   「そしてなるほど。エッちゃん理解力が高いので事情は理解しました」

   「…………『どんな気分だったか』、と言えば……」

再度僅かに俯いて、己の右手の甲を撫でる。
『バングルス』。
『殺し合い』では無かったが――――『人を斬った』手だ。
今も消えない、『アリーナ』で戦った時の記憶。

   「……ちょっとこう、あまり引かないで貰えるとありがたいのですが」

   「正直ちょっとテンション上がったんですよ」

   「ウオオ私はすごいやつだ、みたいなテンションになりました。勝ちましたしね」

   「でも……終わってみれば、やっぱりちょっと『怖い』気もしました。
    『喧嘩』が好きなわけではないのです。ただちょっと、『思春期』なだけ、というか……」

   「…………ほんとですよ。刀身ペロペロしてケヒャったりしませんからね、私」

526日沼 流月『サグ・パッション』【高2】:2019/05/22(水) 13:11:43
>>525

「あ〜〜〜〜〜『逆に』ね? 逆にそれっぽい!」

どう見ても行動派ではないのだが、
『不良グループ』にも『地味なヤツ』はいる。
そういうやつは大抵かなり『ヤバイ』。
エッちゃんも若干ヤバそうだし、そういう事と考えた。

「ひかないひかない」

「……」

そして話を聞く――――日沼としては相当におとなしく。

「………………なるほどねぇ〜〜〜〜わかるよ!」

        「ワカル」

              「すごくわかる」

「流月もさあ、そういう感じ……戦ってるときはすごかった!
 歓声とかめっちゃあるしね、アドレナリンっていうんだっけ、
 『サグ・パッション』で思いっきり殴ったし、刀で切ったりしたし」

「で、終わったらヤバ〜ってなってさ、もうやらないどこって」

        「まあ、気分はよかったんだけどね。
         さすがにちょっと、色々忘れてからかな〜って」

                 「……でも『忘れられない』んだよねェ」

527流星 越『バングルス』【高1】:2019/05/22(水) 23:14:35
>>526

   「……そーなのです」

      「ロキではなく」

   「のめり込んではいけないな、と思いつつ」

   「けれども『クセ』になってしまいそうな自分もいて」

   「絶対にやめておいたほうがいいのに――――心のどこかで、また『戦い』を求めている自分もいるのです」

無表情に、手の甲を――――それを通して、あの時の戦いを見ている。
『人を殺せる力』で、『人と戦った』。
それで『高揚した』。
……家族にも、数少ない友達にも言えっこない。

   「…………話は変わるようで変わらないのですが」

   「私、実はバイクで旅をするのが趣味でして」

先ほど見せた写真からして明らかな事実である。

   「今は日帰りで行ける範囲ですが……いつか」

   「いつか、海外を旅行するのが『夢』なのです。アメリカンドリーム。アメリカじゃなくてもいいんですけどね」

   「自分探し、というか……自分の価値を試したい、というか……なんかそういう。
    私の場合、『戦い』に惹かれているのはそういう部分もあるかと思うのです。
    困難を乗り越えてレベルアップ、みたいな感覚ですかね」

   「なので逆に聞いてみたりするのですが、ルナさん先輩はそういう『夢』みたいなの、ございますか?」

   「『衝動』が理解できれば『納得』もできるかも、みたいな知性派の考えなのですが」

528日沼 流月『サグ・パッション』【高2】:2019/05/23(木) 00:14:24
>>527

「あっよかったァ〜〜〜流月だけじゃないんだ、こーいうの」

              フゥーーーッ

「にへ……流月だけじゃなくてよかった、って思う自分はどうかと思うけど!」

「『皆と一緒だから安心』ってのは、
 流月の流儀に反するワケなんだよねぇ。
 まあ、『逆に』だからこそ『叛逆』する価値もあるわけだけどさァ」

        「……」

それから、少し黙って流星の話を聞いていた。
『夢』――――『海外を旅行する』という夢は、まぶしい気がした。
別に夢を持つヤツに憧れるわけじゃないが、語る流星の真摯さがそう思わせた。

「ん〜まあ、流月は夢とかないかなぁ〜〜〜っ」

「高校終わるまでには見つけたいけど、
 そーいう『衝動』みたいなのは…………ああ」

そういえば、隠しているわけでもない。
仲の深い友人には、あるいは古い知り合いに走られていた。

「エッちゃんになら言っていいか。口固いイイ女でしょ!」

                イヒッ

笑みを浮かべた。

「――――『お医者さんにはならないこと』かな。流月の『夢』ってやつはさぁ」

529流星 越『バングルス』【高1】:2019/05/23(木) 00:42:47
>>528

   「……『お医者さんにならないこと』、ですか」

お医者さんに『なる』、ではなく。
『ならないこと』――――と、彼女は言った。

   「それは……なんというか」

   「複雑、ですかね?」

家庭の事情、なのだろうか。
親への反発……と、想像する。

   「お医者様、なるのはとても難しいと聞きますが……」

530日沼 流月『サグ・パッション』【高2】:2019/05/23(木) 01:02:17
>>529

「そ、流月って頭いいからさァ〜ッ。なれると思うワケよ」

            ガシャッ

フェンスに預けていた背を離した。

「でもならないの。それだけ。複雑じゃないよ。
 誰に言われても、ならない。他の事をするの。
 でも『逆らう』だけじゃダメなんだよね〜〜〜。
 ただ道に逆らって歩くだけじゃ、どこにも行けないから。
 流れに逆らった後どこに行くのかは、決めなきゃいけないから」

ほとんどよどみなく、日沼は思うところを口にした。
隠している訳じゃあない。それでもべらべら話す事じゃないが、
夢を話してくれた『イイ女』に、隠し立てをする気分でもなかった。
それでも、口から出たのは頭の浅いところにある言葉だけで、
『本当』といえるようなことは、言い切れなかったかもしれないけど。

「それがどこかってのは……高校終わるまでに決めとくワケだけど」

そして、『サグ・パッション』を解除して、
ちょうどすれ違うように『屋上』の入り口へ歩く。

「あっそうだエッちゃんさあ!」

「もしさ、『アメリカ』……『ハワイ』とかでもいいや!
 自分探しの旅行ってさ、それでまた写真撮ったら、
 流月にまた見せてよ! 『グランドキャニオン』とかさぁ〜」

       「だから『LINE』教えといて! やってるでしょ?」

531流星 越『バングルス』【高1】:2019/05/23(木) 01:45:58
>>530

   「はえー、なるほど……」

   「……少し、わかる気はします」

   「自分の力でなにかをしたい、というのは……私の『夢』は、そのようなものですし。
    さっきも言いましたが、自分探し的な。私の場合は、ですけどね」

ある意味では……『何をしたいか』を確かめるために、『旅をしたい』のだ。
『何をしたいか』、『何ができるか』。それを確かめるために。

   「見つかるといいですね。ルナさん先輩の道」

   「私もまだ見つかってないので、エラソーなことは言えないのですが。
    かといってしょんぼりしながら言うことでもないので、エラソーなことを言うのです」

えへん、と胸に手を当てて背を逸らす。
そのまま、歩いていくルナを見送って。

   「……『LINE』!」

   「失敬。普段あまり使わないので驚きました。
    もちろんばっちりオッケー丸です。うひょうLINE交換蜜の味」

無表情のままにテンションを上げ、わたわたスマホを操作する。

   「いつになるかはわかりませんが……写真を取ったら、必ず送りますね」

   「…………あ、先輩も今日の話、内緒でお願いします。お口チャックで。
    もちろん……ルナさん先輩は『イイ女』なので、あまり心配していませんけど」

532日沼 流月『サグ・パッション』【高2】:2019/05/23(木) 02:12:41
>>531

「わかる? いいね、エッちゃん。
 流月たち最初『逆』な雰囲気だと思ったワケだけどさ。
 エッちゃんも思ったでしょ? でも、結構共通点あるね〜」

「しかも応援してくれんの?
 いいやつ〜〜〜。流月も応援してる!
 見つけてない同士がんばろ!」

そこまでは振り返って答えて、
スマートフォンの連絡先を交換して。

「言わないよ、流月記憶力もいいからさ。
 こーゆう約束ってやつは、忘れないワケ。
 そのうえイイ女だから秘密は守るしね!」

それから、完全に入り口のほうに振り返った。

「んじゃ、またね。写真以外でも連絡してくれていーよ!」

            「流月からも連絡する、かも。ばいばい!」

   ギィ

       バタンッ

そうして日沼は屋上を去った。
後ろ姿で、表情は読めないが、言葉に嘘はなかったらしく『夢』が漏れる事はなかった。

533今泉『コール・イット・ラヴ』【高1】:2019/07/15(月) 19:02:07

寮に引っ越すのって、書類とかいるんだよね。
よく考えたらフツーのことなんだけどさ。
私、家のこととか、あんまり知らないんだ。

         トコ トコ

ちゃんと必要なのは全部貰えたから、いいや。
知らなくても教えて貰えるから、良かったよね。
それで今はそれを持って歩いてるところなんだ。

  ツルッ

    「わっ」

そういう時に限って足を滑らせるんだよね。
雨が多いから。地面がぬかるんでるんだもん。
もう7月なのになんだか梅雨みたい。

私はなんとかこう、バランスを取れんだけど。
そのために手を持ってるものから離しちゃって。

書類の入ったファイルを水たまりに落としそうに、なって。

         パシッ

         『今泉サン、再三デスガ足元ニハ オ気ヲ付ケテ』

先生が取ってくれた。

「あっ! 先生どうもです。まさかこんなに滑るとは思わなくって」

反射みたいにお礼が出て、それから、人がこっちを見てないかなって見回した。

534嬉野好恵『小1』&ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/07/15(月) 20:03:36
>>533

「あっ――――」

少し離れた所から、その様子を見ている視線が『二つ』あった。
一つは花柄のワンピースを着た少女。
彼女の視線は、危うく転びかけた今泉に向けられていた。

        それから、もう一つは――――。

  (あれは――また『人型』か……)

  (いや……本体が『人間』なら当たり前の事なのかもな)

少女が背負ったリュックから頭を出している、一匹の黒い短毛の『チワワ』。
その視線の先にいるのは今泉ではなかった。
チワワが注意を向けていたのは、今泉の傍らに立つ『コール・イット・ラヴ』だ。

535今泉『コール・イット・ラヴ』【高1】:2019/07/16(火) 15:28:58
>>534

「あっ」

目が合った。

「こんにちは〜」

        『コンニチハ』

だから挨拶をした。

先生も頭を下げてる。でも見えてるのかな。これ。
私がこけそうになったのを見てただけな気がする。

「石にね、つまずいちゃって」

だから、理由を言い訳みたいに言いながら近付いて。

        『…………』

先生は、少し後ろをついてくる。
怖がらせないため、かな。見えてたらだけど。

「えーと……お散歩かなっ?」「ワンちゃんかわいいね」

授業の帰りじゃないよね。服とか、犬とか。
校庭開放とかしてるんだったかな。広いもんね、ここ。

536今泉『コール・イット・ラヴ』【高1】:2019/07/16(火) 15:41:02
>>535(追記)

┌───────────────────────────┐
│        今泉は、犬の視線を気にしていない。        │
│   犬が『先生』のいる辺りを見ていてもそれは犬だ。      │
│    だが・・・見られている者は、気づいている。       │
│     気づいているが、判断に困っているのだ。       │
└───────────────────────────┘

537嬉野好恵『一般人』【小1】&ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/07/16(火) 18:13:09
>>535
>>536

「はーい!」

「今日はー、ここの公園であそぼうと思ってー」

「だから、あそびに来ましたー!」

少々背伸びしているらしく、子供っぽく拙い敬語で言葉を返す。
笑顔で話す少女の表情に驚きなどはなく、『先生』が見えている様子は全くない。
少なくとも、今の所は――。

    (『スタンド』は既に出ている状態だ)

    (そして、『距離』も縮まろうとしている……)

『問題』は――――『俺にとっての問題』は一つしかない。
この『スタンド』が、ヨシエにとって害を与える存在でないかどうか。
重要なのは、その『一点』だけだ。

    (あんまり見せたくはない――が……)

    (『念』には『念』を入れておく)

俺はヨシエを守らなければならない。
だから、『万一の可能性』に備える必要がある。
『起こってしまってから』では遅いのだ。

       シュルルルル

チワワの首輪には、革紐の『リボンタイ』が結んであった。
それが『淡い光』を放ち、独りでに解け始める。
まるで、見えない手で解かれていくように――――。

538今泉『コール・イット・ラヴ』【高1】:2019/07/16(火) 22:50:40
>>537

この子が笑ってるから、私も笑うことにしたんだ。

「そうなんだ、広いもんねこの公園!」
「遊具とかはあんまり、なかった気がするけど」

城址公園だもん。城址って、お城の『あと』の事。
広いし、探せばあるのかもしれないけどね。

「ワンちゃんの散歩にはフツーに良さそうだよねっ」
「その子、名前はなんていうの?」

それにしてもやっぱり先生は見えてなさそう。
見えててほしいとは、思わないから、よかったのかな。

・・・でも。

「…………あれっ」

         『……! 今泉サン、少シ 下ガッテ下サイ』

      スッ

先生がそう言うから思わず私も一歩下がった。
犬の首に巻かれた……リボン? それとも、首輪の紐?

どう見ても、フツーじゃない。
そういえばこの犬、『先生』を見てるような気もする。

         『……私ガ 見エテイマスカ?』
         『アナタ ハ …………ソレトモ マサカ』

それで先生も、犬を見てるんだ。
質問してる相手も……この子じゃなくて、犬の方なのかも。

・・・『犬のスタンド使い』? そんな事も、あるのかな。

539嬉野好恵『一般人』【小1】&ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/07/16(火) 23:36:16
>>538

「そうだよー。ここで一緒にあそんでるのー」

俺は、ヨシエ達のやり取りをリュックの中から見ていた。
今の時点では、特に危険はないように見える。
だが、それと用心するって事は別の話だ。

「『ディーン』っていうんだよー」

「――『ディーン』っていいまーす!」

ヨシエは、同じ内容を敬語で言い直している。
しっかりしてはいても、まだ子供だ。
その辺まで出来るようになるには、十分な経験を積むだけの時間が必要なんだろう。

     シュルルルルルルルッ

解かれた『リボンタイ』は、一本の『光の紐』となっていた。
先端部分は、『人の手』のような形となっている。
その『手』と少女の手が――繋がれた。

「――わっ!?」

直後、少女が驚きの声を上げる。
彼女の視線は、『コール・イット・ラヴ』に向けられていた。
少女は――『スタンド』が見えている。

《……俺が言いたいのは、これはあくまで『用心』だって事だ。
 万が一のための『保険』ってヤツさ》

《『条件』を同じにしたかったんだ。そっちが出してるから、こっちも出した……。
 『挨拶』みたいなもんだな。ちょっとばかり物騒なのが玉にキズだが》

《まぁ、何だ……これで『フェア』に話せるって事さ》

相手が『スタンド使い』なら、『スタンド』を通して意志が伝わる。
だから、おそらく俺の言葉も分かってもらえるだろう。
その前に、『人間と会話する犬』っていう事実を受け止めてもらわなきゃならないが。

540今泉『コール・イット・ラヴ』【高1】:2019/07/17(水) 00:39:54
>>539

「あは、敬語じゃなくってもいいよ」
「私、別に、偉い人とかじゃないし」

       「って」

「『犬』の……『スタンド使い』ですか!」

びっくりすることだと思う。
人間じゃないスタンド使い、いてもおかしくはないけど。

犬と人間でも『スタンドで話す』と話せるのが、びっくりすると思うんだ。

「出してるっていうか、先生は『出てくる』んですよね」
「それにしても」「犬って、大人っぽい事考えてるんですねっ」
「私より頭良さそう」

思わずっていうか、反射的に敬語になっちゃうよね。
先生とか、大人の人と話してる感じ。こんな小さい犬なのに。

       『〝人ノ意思〟ヲ持ツスタンドガ イルノデス』
       『モシ 犬ガ 〝スタンド〟ニ 目覚メタトシタラ――――』
       『〝人ノ意思〟ヲ、獲得シテモ オカシクハ ナイノデショウネ』

「元から意思はあったのかもしれませんけどっ」
「……そこのところ、どうなんでしょう?」

フツー、人間には『こころ』があるんだ。
人間みたいに喋る犬にも、もとから、あるのかな。それがフツーなのかな。

541今泉『コール・イット・ラヴ』【高1】:2019/07/17(水) 00:47:55
>>539

「あは、敬語じゃなくってもいいよ」
「私、別に、偉い人とかじゃないし」
「『ディーン』かあ、よろし――――」

       「って」

「『犬』の……『スタンド使い』ですか!?」
「って、あれっ、この子にも見えて―――あれっ?」

びっくりすることだと思う。
人間じゃないスタンド使い、いてもおかしくはないけど。
犬と人間でも『スタンドで話す』と話せるのが、びっくりすると思うんだ。

           『――――用心ヲ カケサセテ 申シ訳ゴザイマセン』
           『私ノ名前ハ〝コール・イット・ラヴ〟』

           『今泉サンノ 〝先生〟デス』

「出してるっていうか、先生は『出てくる』んですよね」
「危なかったりは、しませんから」「って言っても仕方ないですけど」

「……あ、ちなみに私は『今泉 未来』です。改めて、よろしくお願いします!」

それに、いつの間にかこの子にも先生が見えてるし。
分かるのは、これがこの子じゃなくって『ディーン』の力ってコトだけ。

「それにしても」「犬って、大人っぽい事考えてるんですねっ」
「ディーンさん、私より頭良さそうじゃないですか」

思わずっていうか、反射的に敬語になっちゃうよね。
先生とか、大人の人と話してる感じ。こんな小さい犬なのに。

       『人ノ意思 ヲ 持ツ スタンドガ イルノデス』
       『モシ 犬ガ スタンド ニ 目覚メタトシタラ――――』
       『人ノ意思ヤ知識 ヲ、獲得シテモ オカシクハ ナイノデショウネ』

「元から意思はあったのかも、しれませんけど」
「……そこのところ、どうなんでしょう? ディーンさんっ」

フツー、人間には『こころ』があるんだ。
人間みたいに喋る犬にも、もとから、あるのかな。それがフツーなのかな。

542嬉野好恵『一般人』【小1】&ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/07/17(水) 01:24:51
>>541

「『コール・イット・ラヴ』さん、はじめましてー!」

「『ヨシエ』は『嬉野好恵(うれしのよしえ)』っていいまーす!1年生です!」

ヨシエは、まず『コール・イット・ラヴ』に、続いて未来に挨拶した。
最初は驚いていたが、今はもう落ち着いている。
すぐ状況に順応出来るのが、ヨシエの良い所だと俺は思っている。

    《『出てくる』?自分の意思で、か?》

    《いや――『なるほど』な……》

実際、俺自身も戸惑っている部分があった事は否定出来ない。
他のスタンドと出会った経験は少ないが、風変わりだというのは何となく理解出来た。
自分の意思があるなら、自分自身で出てきても不思議はないかもしれない。
ひとまず俺は、そのように結論づける事にしておいた。
少なくとも、知らなかった事を知ったというのは有益に違いない。

    《『年相応』ってだけさ。俺も『二歳』だからな。
     嫌でも考えなきゃならない事は色々と出てくる》

俺達みたいなチワワは、二歳で成犬になる。
人間に換算すると『23』とか『24』とか、大体その辺りらしいな。
要するに、人間よりもかなり早く年を取るって事さ。

    《『心』ってのがどういうものかによるが、
    それが『感情』って意味なら――あるような気がする》

    《嫌いなヤツには近付きたくないし、逆に好きなヤツの近くにはいたいと思う……》

    《だから――俺はヨシエと一緒にいるんだろうな》

543今泉『コール・イット・ラヴ』【高1】:2019/07/17(水) 02:03:32
>>542

「ヨシエちゃんもよろしくねっ。私も1年生だよ、高校のだけど」

先生より先に、挨拶を返した。
1年生なのにすごくしっかりしてる気がする。

            『ハジメマシテ。ヨロシク オネガイシマス』

               ペコリ

            『エエ、私ハ〝意思〟ガアリマス』
            『必要デアレバ イツデモ 出ラレルノデス』

「おかげでさっきは助かりました、先生っ」

出なくていいときにも出てきちゃうんだけど。
でも、先生にはそれが出るべき時なんだろうけど。

「なるほど〜っ、犬の2歳は、えーと」

            『人間ノ〝20代〟ダッタハズデス』
            『厳密ニ 比較デキルカハ ワカリマセンガ』

「流石先生、詳しい。じゃあ私より一回りお兄さんですね」
「生まれた年で言えば、フツーに全然逆ですけども。あはは」
   
2年でここまで大人にならなきゃいけない犬って大変なのかも。    
時間の進み方とかも、私とは違うんだろうけど。どうなんだろうね。

「……」

「へえ、そうなんですねえ。ディーンさんも、『こころ』があるんですねえ」
「犬ってなんとなく、人間に近いイメージですもんね!」「なんだか、納得です」

                  ニコ

「すてきですねっ!」

笑顔になる。

「ヨシエちゃんも、ディーンのことすごく好きそうだし」「とっても仲良しって感じだねっ」

だって、リュックに入れてるぐらいだもん。よっぽど好きじゃないと、そうはしない気がする。

544嬉野好恵『一般人』【小1】&ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/07/17(水) 02:53:32
>>543

「うん、大すき!」

「ディーンは一番大事な友だちだから――」

「だから、ずっと一緒!」

   ニコッ

ヨシエは、俺を好きでいてくれる。
だから、俺もヨシエが好きなんだろう。
単純な理屈だが、それが俺にとっては何物にも代えがたい。

    (だが――ずっと一緒にはいられない)

たとえ分かり合えたとしても、『人』と『犬』だ。
どれだけ願ったとしても、種族の垣根を越える事は出来ない。
俺は、ヨシエより先に『この世』から消える。

    《アンタらも、仲が良さそうだな。
     ちょっと変わった話ではあるが……》

    《『人間と会話する犬』と同じくらいには変わってるか?
     何にせよ――珍しそうなのは確かだ》

前に見た『人型のスタンド』は、意思を持っているようには見えなかった。
人型だから意思を持ってるワケじゃないらしい。
もっと色々なスタンドを見ていけば、もっと詳しい事が分かるんだろうが。

「じゃあー、今度はみんなで仲良しになりたーい!
 『ヨシエ』と『ディーン』と『未来のお姉さん』と『コール・イット・ラヴ』さんでー!」

    《……だ、そうだ》

ヨシエは寂しがり屋で、より多くの人間と仲良くなりたがってる。
それがヨシエの望みなら、俺は『手を貸す』だろう。
文字通り、今のように――――な。

545今泉『コール・イット・ラヴ』【高1】:2019/07/17(水) 21:53:39
>>544

「そっか、そうなんだ」
「良いね」「すごく」
「そういうの、羨ましいかも」

犬は長くても20歳くらいで死ぬ。
だから、ずっとじゃあないんだ。

         『…………』

「私、ペットとかって飼ってないからさ!」

でもそんなこと、わざわざ言うのはフツーじゃない。
ずっと一緒。子どもの夢と現実は、一緒でいいんだ。

「先生は……仲良しというか、先生ですよねっ」

         『今泉サン ハ 〝生徒〟デスカラネ』
         『トハイエ』

         『教師ト 生徒二 友情ガナイトハ 限リマセンガ』

「そうですか? 先生がそう言うならそうなのかな」
「それじゃあ、四人で友達にもなれるね!」

「あ、ディーンが『人(にん)』扱いで良いのかは」
「ディーンさん、そこのところって良いんですかねぇ?」

犬的には匹のほうが嬉しかったりするのかな。
これは難しいよね。何が嬉しいとか、人間のことでも難しいのにさ。

546嬉野好恵『一般人』&ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/07/17(水) 23:09:54
>>545

「――うんっ!」

「未来のおねえさんと『先生』も、ずっと一緒にいられるといいねー!」

ヨシエは明るく笑っている。
俺は、心の中で未来と『コール・イット・ラヴ』に感謝した。
ヨシエに対する気遣いを察したからだ。

   (『スタンド』があろうとなかろうと、俺は『犬』だ)

ヨシエが大人になる頃には、俺はいないだろう。
だが、その時にはヨシエも一人前になっている筈だ。
だから、それでいい。
ヨシエなら、きっと立派にやっていける。
俺が傍にいなかったとしても、だ。

   《なら、三人と一匹だ――それでいいか?》

   《アンタを『一人』と呼ぶなら、だが》

俺は『コール・イット・ラヴ』の方を向いて言った。
スタンドは人間じゃない。
たとえば、『一体』と呼ぶ事も出来るだろう。
だが、人のような形をしていて、自分の意思がある。
それを『一人』と呼ぶのは自然な事だ。

   《いや――まぁ、いいさ。
    どんな呼び方をしたって、それでソイツが変わるワケじゃないからな》

   《リンゴを『リンゴ』と呼ぼうが『アップル』と呼ぼうが、モノは一緒だ。
    それと同じように、俺は俺だしアンタはアンタだ》

   《それが俺の答えさ。良かったら採点してやってくれないか――『先生』》

そう言って、俺は未来の隣の『先生』を見やった。
人間じゃないが自分の意思を持っていて、人間の傍にいる。
そういう意味では、俺と『似た者同士』なのかもしれないな。

547今泉『コール・イット・ラヴ』【高1】:2019/07/18(木) 00:11:03
>>546

         『私ハ〝先生〟デスガ』
         『〝卒業〟ハ 無イデショウ』
          『今泉サン ガ 私ヲ 先生トスル限リ』

「それはよかったですっ」
「私も、先生から卒業する気はないので!」

先生は先生だ。
それが変わることは、たぶん私が幾つになってもない。
私は、ずっと勉強し続けるんだと思う。

           タイ
         『〝体〟デモ カマイマセンヨ』
         『デスガ 二人ト 一匹ト 一体トイウノハ……少シ 長イデス』

「そうですねえ、ここは三人と一匹にしましょう!」

ディーンは人間みたいなこころは有るけど、犬。
ヨシエちゃんは人間だ。これは間違いないよね。
先生は、人間の見た目で、人間みたいな、こころがある。
それで私もフツーに一人だ。人間だから。 三人と一匹。

         『エエ。名前ガ 違ッテモ 〝ソレ〟ハ〝ソレ〟』
         『トテモ 大事ナ 事デス』

         『ソウデスネ……〝90点〟ヲ ツケマショウ』

         『自分ガ 〝何〟カ …… 悩ンデイルナラバ 〝呼ビ名〟一ツガ 背中ヲ押スコトモ』

         『肩ヲ 支エル事モ アルノデハ ナイデショウカ――――』


「…………」

         『――――少シ ロマンチストカモ シレマセンネ』
         『今泉サン ハ ドウ 思イマスカ?』

「あ、はいっ、そうかも。そうかもしれないですねっ」

私は学生で、先生の生徒だ。
こころがある犬と会ってもそれは変わらない。間違いない正解なんだ。

548嬉野好恵『一般人』【小1】&ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/07/18(木) 01:04:17
>>547

「うーん…………」

ヨシエは『先生』の言葉を理解しようとしているらしい。
しかし、まだ難しいようだ。
小首を傾げて考え込んでいる。

「『未来のお姉さん』は『未来のお姉さん』でー……」

「『ヨシエ』は『ヨシエ』……なのかなー?」

ヨシエは、頭では理解しきれてないんだろう。
だが、感覚としては分かっているのだと思う。
そして、今はそれで十分だ。

   《なるほど、な》

   《俺は犬だが、だからって『イヌ』って呼び方じゃあ他のヤツと区別がつかない。
    『ディーン』と呼ばれる事で、俺と俺以外の犬を分ける事が出来る》

   《アンタの言う通り、『名前』は大事なモノだ。
    『先生』のお陰で、俺にも良い勉強になったよ》

未来のスタンドが『先生』と呼ばれる理由が分かる気がした。
『先生』というのは、何かを教えるものだ。
そして、俺も一つ教えられた。

   《さて……じゃあ、改めて『三人と一匹』で挨拶するとしようか。
    ここで出会った記念に、な》

   《よろしくな――未来と『先生』》

「よろしくお願いしまーす!」

ヨシエは『二人』にお辞儀をした。
俺も、その『真似』をする。
何日か前に、神社でやったのと同じような感じだ。

「あっ、未来のお姉さんと『先生』も一緒にあそびませんかー?」

ヨシエはリュックを下ろし、俺はリュックの外に出る。
そして、ヨシエはリュックから子供用の小さなビーチボールを取り出した。
元々は、俺と一緒に『バレー』するつもりで持ってきたものだ。

549今泉『コール・イット・ラヴ』【高1】:2019/07/18(木) 21:54:20
>>548

「私も、ちゃんと全部は分かんないけどね」
「でもきっと……それがフツーなんだと思う」

自分は、自分。
他人は、他人。
皆に"自分"があるんだから、きっとそうなんだ。

            『イエ、私モ 〝考エタ〟ダケデス』
            『本当ハ ソウデモナイ ノカモシレナイ』
            『先ニ役目ガアルカラ 名前ガツク ダケトイウ 考エモアリマスシ』

            『先生モ 間違エル時ハ アリマスカラネ』

先生はそう言ってるけど、何が間違いかなんてそれこそ、分かんないよね。
こころは、数学みたいに一つの答えがあるわけじゃないんだからさ。

「はいっ、よろしくお願いしますね!」

            『ドウゾ ヨロシク オ願イシマス』

「あ、ビーチボール! いいですね、先生どうですかっ?」

            『折角ノ オ誘イデス。私モ混ザリマショウカ――手加減ハ、シマセンヨ』

この後のことは、遊んだだけ。
先生はちゃんと手加減してくれるし、私だってそうする。
それがフツーだし、その方が、きっと楽しいんだと思う。

勉強する事はたくさんあるけどさ、こういう楽しい時間も大事だよね。

550嬉野好恵『一般人』【小1】&ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/07/18(木) 23:50:03
>>549

    《…………そうだな》

俺は、『コール・イット・ラヴ』の言葉に短く同意した。
さて、難しい話はこれくらいしておこう。
今は、他にやる事があるからな。

    《まぁ、少なくとも――――》

    《勝負の上では『先生』も『』生徒》も対等だ》

    《やるからには、しっかりやらせてもらうさ》

「やったぁ!じゃあー、ヨシエからねー!」

               「――――はいっ!」

         ポーンッ

ヨシエが、両手に持ったボールを高く投げ上げる。
放物線を描いて飛んできたソレを、俺は頭で打ち上げた。
ボールは、『二人』がいる方向に飛んでいく。

    《上手いこと返してくれよ》

ヨシエは楽しそうだった。
その様子を見ていると、俺も喜ばしい気分になる。
だから――――ヨシエの幸せは俺の幸せだ。

551斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2019/07/22(月) 02:07:21
音楽室の窓には、雨粒が流星の様に流れていた
黒く分厚いカーテンを引くと、雨音が主張を抑える

ピアノの前に歩み、蓋を開いて埃一つ無い鍵盤に触れる
音の粒が溢れ、静かな校内に響いた

そして『影のような腕』が、演奏を始める
鍵盤がひとりでに動いたかのような光景の中で

余りにも正確過ぎる演奏が響だした
雨の匂いを纏わせながら。

552今泉『コール・イット・ラヴ』【高1】:2019/07/22(月) 23:56:25
>>551

ピアノの音が、雨の音よりずっとはっきり聞こえた。

今日は使ってないって、部活の子から聞いたんだ。
だから『顧問』もやってるその先生はいないはずなんだけど。
こんな上手な演奏だし、何か用事があってここにいるのかも。

「すいませーん」
「先生いますか〜」「プリント持ってきた」

        ガラララッ


少なくとも、職員室にはいなかったし。
物は試し、音楽室のドアを開けて・・・

「ん」「ですけどっ」

「………………………」

ドアを開けたら、その人がいた。『影みたいな』腕で、ピアノを弾いてた。
私は、そういう時にどういう反応をすればいいのか、よくわかんなくて、固まった。

553斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2019/07/23(火) 01:47:01
>>552

貴女の視界は、日常に存在する、よくある放課後から、急激に深海に沈んだような、非日常に移り変わった。
ピアノを奏でる滑らかな『影』の指先が止まる。

ベートーヴェン作『エリーゼのために』の演奏が終わり、影の腕……よく見なくても解る、コレはスタンドだ……が愛おしそうに鍵盤をなでる。
同時に、カーテンでくぐもった雨音が再び戻ってきた


 ――目の前の彼は、『スタンド使い』だ。


彼が気配に気づき、貴方の方を振り返る

整った顔立ちに、柔らかな微笑みを称えている顔は、優し気な印象を与えるが
唯一、その眼だけは笑っておらず、何も映さない、氷のような瞳だった。

学生服は彼が貴女の先輩にあたる物だと示してはいたが
襟首には赤いスカーフが巻かれているだけだった。


 「……君は?」


その声には何の感情も混じってはいなかった。
その発言が、何を問うているのかも理解しがたい物だった。

……演奏の無い音楽室は、雨音だけが静かに奏でられている。

554今泉『コール・イット・ラヴ』【高1】:2019/07/23(火) 02:43:19
>>553

「あっ」

雨が降ってるのを、思い出して、私は笑顔を作った。

┌────────────────────┐
│   『こころ』に無い笑顔にも『意味』だけはある. │
└────────────────────┘

「えーと」
「『今泉』って言います、『音楽の先生』を探しにここに」

「来たんですけど〜」

      キョロキョロ

「今はいない感じですかね?」

君は?って聞かれても、意味がいくつかあるよね。
君は誰? 君は何をしに? どっちにも、応えておこう。

「先輩、見てませんか? 先生を……」
「ピアノ使う許可とかって、たしか先生に貰う感じでしたよねっ?」

私の先生は、私の中にいる。あの影の腕はスタンドだと思う。
出てこないのは、スタンド使いだってわかって、刺激しないためなんだろうな。

555斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2019/07/23(火) 13:26:02
>>554

彼がピアノに向き合うと
影の腕が再び鍵盤を叩き始める
ベートーヴェン作、愛称『月光ソナタ』その第1楽章
再び緩やかな、どこか物悲しい旋律が音楽室を満たしていく。

「今泉さん、だね。」

貴女に背を向けたまま、呟くように喋り出した。

「『私』の名前は『斑鳩』。」

「残念だが、先生の事なら、もう此処にはいない
帰ってしまったから。」

「私は、あの人から、ここのカギを借りて
ここで演奏しているだけ……。」

「人生には、慰めが必要だから。」

ふと見れば、彼の身体にはところどころに『鎖』が巻きついている。まるで隠さない事が当然だと言うように。彼と彼のスタンドはただそこに在った。

「プリントなら、ここに置いておけば、私が帰る時に、持っていこう。」

「君は、どうする?今泉さん」

556今泉『コール・イット・ラヴ』【高1】:2019/07/23(火) 23:07:51
>>555

聞いたことがある曲だけど、タイトルが思い出せなかった。
悲しい曲だと思う。それとも、悲しい演奏だからなのかな。

「『イカルガ』さんですか、初めましてっ」

どういう漢字で書くんだろう。
『東海林さん』みたいな特別な漢字なのかな。

「そうですか〜」
「先生、いないんだ」

       スタッ

「いやあ、『出し忘れた』プリントなので」
「先輩に持って行ってもらったりしたら、また怒られそうで」

体に巻き付いているのは、なんだろう。鎖?
ファッションじゃないのは、分かる。アレもスタンドなんだ。

「それにしても、持ってこいって言ったのに帰っちゃうなんて」
「まあいいや」「何か用事とかあったのかな」

自分を縛る鎖と、体から分かれた影みたいな『腕』。
この人はどういう人なんだろう。私にはわからない。

「イカルガ先輩、ちょっとここにいていいですか?」
「雨、夕方になったら止むって、予報にあるんで」

「ピアノ弾くなら静かにしておきますし」
 
                スタッ

まあ、イカルガ先輩は演奏しながらフツーにしゃべってるけど。椅子があるところに歩いていく。

557斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2019/07/24(水) 15:18:24
>>556

椅子を探そうとする貴女の視界に、学校の備品であるパイプ椅子、テーブル、そして
今いれたばかりと言わんばかりの、湯気の立つ紅茶の入ったティーカップとポットが入ってきた。

「……そうだな。」

香りはそれが正しく本物である事を証明している
……周りに今泉と斑鳩と名乗った男以外の影はない。

「私達も、観客が2人増えたところで、気にしないだろう。」

……いつの間にか、ピアノの側にもテーブルとポットが置かれている。
斑鳩が自分の手にソーサーを、もったカップを口元まで運んでいた。

「そこの紅茶でも飲んでいればいい、よければ、だが。」

影の腕による演奏は、第1楽章の終わりに差し掛かっている。

558今泉『コール・イット・ラヴ』【高1】:2019/07/25(木) 01:01:40
>>557

「あれっ」「あれ〜?」
「いつの間にっ……あ、どうもどうも」

        ストン

椅子に座った。
テーブルまであるし、紅茶まであるのは予想外。
というか、ほんとに、いつの間に?

……そういう能力なのかな、って。
フツーに考えちゃうのはフツーじゃないなあ。

「それじゃあご遠慮なく、いただきますっ」

                  スッ

とりあえず一口飲んでみる。
私、紅茶とかあんまり詳しくないけど。

「……イカルガ先輩は、紅茶好きなんですか?」
「『ティーポット』でお茶出してくれる人って初めてかも〜っ」

ピアノ聴きながら紅茶のむってなんだか、おしゃれな感じがする。
紅茶の味がよくわからなくっても、美味しく感じるんじゃあないかな。

559斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2019/07/25(木) 03:23:38
>>558

「……いいや」
「私は、そこまで便利にはなれなかった。」


演奏を途切れさせないままに、彼は質問に答える
外の雨は僅かに弱くなり始めている……


「だが、知識としては知っている、それは『ウバ』だ」

「セイロンティーと呼ばれる紅茶の一つで、注いだ時に、カップの内側に黄金の輪を残し
 甘い花のような香りがある……本来は、濃いミルクティーが適している、が」

「丁度、今の季節頃に、最上の葉が取れるので選んだのだろう」

紅茶の説明が終わって数分後、影の腕が演奏を終了した。
『月光ソナタ』その第1楽章が終わったのだ。


               コトン


演奏が修了すると同時に、何かが置かれるような物音がする。

貴女がすぐそばの物音の方を見れば
『ティーポット』の乗っていたテーブルに『ミルク壺』と小皿に乗った数枚の『クッキー』
そしてもう一組の『椅子』を見つけるだろう


「『演奏の報酬』…として『観客』にも渡される、という事だな。」

そう呟く彼の傍にも、ほぼ同様の物を見つける事が出来る
椅子以外の物を。


「――リクエストはあるかい?」

560今泉『コール・イット・ラヴ』【高1】:2019/07/25(木) 05:48:02
>>559

「?」「便利……?」
「そうなんですか、十分詳しそうなのに」

なんだか、ひとごとみたいな言い方。
私には、少しだけ、ひとごとには思えなかった。

「へー、これが『ウバ』っていうんですねっ」
「名前だけ、聞いたことあるかも」

ある気がするんだ。

「黄金の輪……うーん、出来てるかな」
「フツーな気がする」「わかんないけど」
「葉っぱが最上なだけあって、美味しいですねえ〜」

だろう、ってことはつまり。
この人の能力じゃなくて、他に誰かいるってことだ。
よく考えたらさっきも、私より一人多く数えてたし。
あれ、でも『私達も』とも言ってたよね?

私達、っていうのがイカルガ先輩と、その誰かで。
それじゃあ、増えた二人っていうのは……そういうこと?

「あれっ」
「クッキー……なんだかすみません、こんなに色々」
「って、イカルガ先輩に言うのも変ですけど」

「出してくれてる人が、見あたらないから」

どこに誰がいるんだろう?
透明人間みたいな人がいるのかな。
報酬って言ってるし、先輩本人じゃないのは確か。
それも、ひとごとなだけかもしれないけど。

それに、私の横に、もう一つ置かれた椅子……
やっぱり、『誰か』に分かられてるのかな。なんでだろ。
それとも、ここに『誰か』が、座ってたりするのかな。

先生はまだ、出てこなかった。
だから私はなんとなくその空間に手を泳がせて。
それから先輩の質問に頭を悩ませてみる。

「リクエストですか〜っ、私クラシックって、こう……」
「フツーに、知識がないんですけど」「うーん」
「あー、あの、なんでしたっけ」「落ち着く曲で」
「ウィキペディア……じゃなくて、えーと」

「そう、えー、『ジムノペディ』! あれ、弾けますか?」

どこで聞いたんだったかな、でも、覚えてるんだよね。

561斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2019/07/25(木) 20:00:41
>>560

彼の返答は困惑と謝罪が混じっていた物だった。

「いや、誤解させたようだが、今泉さん、貴女に聞いた訳ではない」


今泉の背後で何かが揺れる音がし始める
『本棚』だ、楽譜を仕舞い込んだ本棚がまるで地震であるかのように揺れている!

そして本棚から一冊の本が『射出』され、貴女の顔の側面をかすめて
ピアノの譜面台に叩きつけられた!

「『音楽室』に聞いたのだ……しかし君も気に入られたらしい」
「或いは、理想的な観客だからか。」

そう呟く斑鳩の眼前で、本……楽譜集のページが独りでにめくられ続け
あるページで動きを止める、そのタイトルは。

「1888年、エリック・サティ作、『ジムノペディ』……その第一楽章」
「『人類が生みえたことを神に誇ってもよいほどの傑作』と評される、ピアノ独奏曲。」


――斑鳩本人の指先が鍵盤を叩き、柔らかな、ゆったりとした旋律が流れ始める
それは先程の演奏に勝るとも劣らない物だった。


「今、起こっている全ての現象は、私の手によるものではない。」
「私のスタンド……『ロスト・アイデンティティ』は精々ピアノを弾く程度なのだから。」
「一人につき、一つの能力、『スタンドのルール』に反しているからな。」


彼の静かな口調は、この異常な事態でも何一つ変わることが無い
そして奏でられている旋律と同じ様に、ゆっくりと氷のように冷えた言葉が続く。


「もし、君の友人に聞けば『音楽室は使っていない』と答えるだろう」
「そもそもその友人には『スタンドで出来たピアノの音』など聞こえないのだから。」

「もし、君が音楽室のネームプレートの前に立ち『ピアノの音』が聞こえていたら」
「本来の音楽室とは、『違うドア』を音楽室を認識するだろう。」

「もし、君が『本来ない筈の音楽室』にはいったのだとしたら」
「『先生』も……ここにはいるわけがないのだ。」

「そして、もし……ここが、『スタンドの音楽室』だったとしたら」
「君はここに入った時、違和感を感じただろう、まるで『深海に沈んだ』ような……。」



 『ゆっくりと苦しみをもって』(Lent et douloureux)


僅かな雨音の中、作曲者の指示通りにその演奏は続いている。

562今泉『コール・イット・ラヴ』【高1】:2019/07/26(金) 21:51:14
>>561

「え? じゃあ誰に――――」

            「わっ」

   スッ

「わっ」「え」「なにこれ……!?」

見たことが無い。
でもわかる。これは、びっくりすることだ。
イカルガ先輩の言葉も、目に見えてる光景も。
飛んできた本、勝手にめくれる楽譜。

――――『音楽室が生きている』みたいだ。

「じゃあ……ここは」

   キョロ  キョロ

「そう、入った時、変な感じがして」
「そっか」「そういう……へえ〜〜〜っ」

でも、ピアノを弾いてるのは先輩だ。
それは、音楽室が弾くより――――先輩が弾く方が上手だからかな。

「それじゃあイカルガ先輩も、『音楽室』に気に入られてるんですねえ」
「やっぱり」「上手だからですか? ピアノが……」

聞こえてくる旋律は、影の腕じゃなくっても、すごく上手だ。

「そう、『ジムノペディ』! こんな曲でしたねっ」

スタンドがどうとかじゃなくて、この人はピアノが上手いんだ。それに詳しいんだ。

563斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2019/07/26(金) 22:51:39
>>562

斑鳩 翔 彼がここを見つけたのは偶然でもあったし、必然でもあった

この校舎には偶に、白い靴下をはいたような猫が迷い込む
『スリーピング・トゥギャザー』と名付けられたその猫は、体を寸断して瞬間移動する『スタンド使い』だった

彼が猫を見つけた切っ掛けは、ラジオでの怪談話からだが、能力を加味しても、校舎では殆ど目撃されていない
では何処にいるのか ……その答えがここだ

『雨の日にのみ現れる、もう一つの音楽室』

しかし、スタンドには、この音楽室にいる彼らのような本体がいる
 ……恐らく独り歩きしているこのスタンドは、そこまでパワーが強くないのだろう
それ故に、『雨の日』と言う僅かな時間にしか、この部屋は表に出てこない。

「……。」

貴女が称賛した一瞬、彼の纏う空気のような物が変わった
だが、それは一瞬のことで、すぐに返答を口にしだした。


「……最初はミネラルウォーターしか出てこなかった」
「ただ、演奏を重ねると、『報酬』のレパートリーが段々増えてきてね」

「最近では、君が頂いているようなものまで出てくる」

「――『成長』しているのかもな。」
「君の傍の椅子も、君の『スタンド』を認識しているらしい。」

「『楽譜に正確だが、誠実ではない』」
「気に入られているとは思わないが ……『楽器』には『演奏する人間』が必要なのだろう。」

「或いは、演奏者そのものを『本体』としているのか……いや、憶測が過ぎたな、やめておこう。」


『ジムノペディ』、その第一楽章は3分40秒で終了した
――窓の外の雨は、大分まばらになってきている。


 「ご清聴、有難う。」

564今泉『コール・イット・ラヴ』【高1】:2019/07/26(金) 23:35:03
>>563

「こちらこそ、ありがとうございますっ」

        パチパチパチ

演奏が終わったから、小さく拍手をした。

「『報酬』――――そっか、じゃあ、『ウバ』も音楽室が」
「それにお菓子も」「えーと」

      キョロキョロ

「ありがとうございます?」
「美味しいです、これ」

部屋にお礼するときって、どこに言えばいいのかな。

床?壁?空気?
こういう時のフツーって、わかんないや。
本体がいればわかりやすいんだけど。

「それと、演奏。すごくよかったです、昔聞いたのより素敵でした」

          ニコ…

「どこで聞いたのか、忘れちゃったけど」「まあそれはそれとしてぇ」
「音楽室が気に入ってるかは分かんないですけど、私は気に入りましたっ」

音楽を聴いたとき、それが良いのか悪いのか『こころ』で分かるわけじゃない。
でも、耳が聴いている。綺麗な音だし、リズムとかも、いいと思う。
誠実じゃないってことがこころで弾いてないってことだとしても、意味は、あると思う。

「――――あ。雨、止んできましたね」

                ガタ…

「私、そろそろ行こうと思います。先輩はまだここで弾いていきます?」

565斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2019/07/27(土) 00:19:51
>>564

ピアノの蓋をそっと閉じ、立ち上がる
拍手に一礼を持って応える、立ち上がっている所を見ると
学生服を着た姿は、彼女が着ている物とほぼ変わらなかった。

「演奏は終わった、『幼子は水浴びを好むが、季節は巡る』、私も退室するよ」
「……ただ、出るなら早くした方が『絶対に』いい」


 *ザザーッ* *リーン* *ゴーン*


音楽室に備え付けられた一つのスピーカーから
ノイズ交じりのチャイムが鳴り響く、本来ならこの時間には鳴り出さない筈の音が。

「私達のスタンドは、普段は出ていない ……『精神力』を使うからな
そしてこのスタンド ……『音楽室』が出ているのは『雨が降っている間』だけだ」



貴方の肘に何かがあたった、見てみればテーブルが『貴女に向かって移動している』
だがそれは、正確には違った、……全ての物が、いや、『部屋全体が縮みはじめている』!



「維持する力が無ければ『スタンドはしまわれる』」
「その時中にあった物が何処に行くのかは、私にすらわからない。」

――雨音は、もう聞こえない。

斑鳩が貴方の傍を早足で通り抜けると、音楽室のドアをやや乱暴気味に開く
『音楽室』のドアは既に、彼の身長から頭一つ分、下の大きさになっていた。


「お先にどうぞ、後輩。」
「……出ないのなら私は先に出るが、お勧めはしない。」



「――それと、君の『スタンド』によろしく言っておいてくれ。」

566今泉『コール・イット・ラヴ』【高1】:2019/07/27(土) 02:26:34
>>565

「『季節は――――』って、どういう」「……?」
「あれ、チャイム?」

「わ……あれっ、この部屋……あ、そういう!?」
「教えてくれてありがとうございます、先輩!」

部屋から急いで出よう。
ここに来たの、先生に会うためだしさ。
それに先輩ともお話しできたし、とにかく、出よう。

     タタッ

「危ない危ない、消えちゃうとこだった……のかな?」

それとも、次の雨の日でずっと、あそこで観客になったりとか?
どっちにしても、フツーじゃないし……いやだと思うんだ。

「はいっ、今日は出てこなかったですけど」
「『先生』にもよろしく言っておきます!」

               「それじゃあ、またっ。イカルガ先輩!」

567斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2019/07/27(土) 14:01:00
>>566

放課後の廊下から見る窓の外は、雨の降った後の突き抜けるような青さがあった
でも、何故か妙に頭がぼうっとしていて……ここは清月学園だとわかったのは
女子生徒が僕に手を振りながら去って行く時だった。

「……。」

(今のは誰だろう?僕を知っているようだったけど)
(ここは……音楽室の前だ、でも、なんで僕は此処にいるんだ?)

               *カチン*

(そうだ、えーっと…あの子は今泉さんだ、僕の後輩で一年下の。)
(『ジムノペディ』が好きで、そして『スタンド使い』でもある。)
(それで……)

               *カチン*

(ここにいたのは、彼女が見えて、『廊下で挨拶してすれ違っただけだった』よな。)


妙に頭が痛い気がして、振り払うように頭を振る
腕時計を見ると、最後に見た時から大分時間がたっていた。


(うわ、もうこんな時間か、早く帰らないとお祖母ちゃんを心配させるよ、翔。)
(最近、通り魔が出たとかも聞くしな、怖い怖い……。)

斑鳩が廊下を歩み去ると、彼の背後にあった音楽室の扉は
雨の中の涙のように消え去った。

568三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』【中一】:2019/08/25(日) 23:39:13

                トトトトッ

千草は忘れ物をしてしまいました。
英語のノートです。
今は、それを取ってきた帰りなのです。

(こんなことでは『立派な人』にはなれません)

千草の夢は、『素晴らしい死に方』をすることです。
良くない行いをしていると、きっと『良くない最期』になってしまうのでしょう。
だから、千草は『立派な人』になりたいのです。
誰からも愛されて、好かれて、尊敬されるような人間になりたいのです。
そうすれば、きっと最期も素晴らしいものになると信じているからです。

(でも、本当は――)

千草は『死ぬ』のが怖いです。
もし『死なない方法』があるなら知りたいとも思っています。
だけど、そんなものがある訳がありません。
社長でも大統領でも校長先生でも、いつかは死ぬ時が来るのです。
千草が学校にノートを忘れる未熟者でも、それくらいは分かります。

「ふぅ……」

だから、千草は『素晴らしい死に方』をしたいのです。
死が避けられないなら、せめて最期は素敵なものにしたい。
それが千草の願いです。

「……暑いです」

           ポスッ

日陰のベンチに座ります。
帰る前に一休みしておきましょう。
具合が悪くなって倒れたら、もっと未熟者になってしまいます。
もしかすると、熱中症で命を落とすかもしれません。
それは嫌です。

569小林『リヴィング・イン・モーメント』【高3】:2019/08/26(月) 23:38:06
>>568

――ストン    ...ギシ

隣に腰を下ろす音、ベンチの椅子が軋む僅かな音。周囲の環境音が
少ないならば、蝉の鳴き声もするかも知れない。

「夢をね 見た気がするんです。
苦しいような…切なかったような、躍動感と言う
胸のこの奥の部分がね、どうにも治まりつかず語彙としては
浮かれる、と表現すべきかも知れません。
どうにも、不思議な夢でした。そして、何かが掴めそうで……
もう少しで、何か遠い昔に手から零れたものを思い出せそうでして」

空中へ、空へ掲げ伸ばした片手をゆっくりと膝に下ろす。

「……けれど、結局それは分からず仕舞いで目覚めてしまいました。
……千草さんはそう言った体験はありますでしょうか?」ニコッ

「あぁ、今日は暑いですから……アイスココアは申し訳ないですが品切れで。
冷えたマスカットティーと、レモネード。それと烏龍茶のストックならありますよ」

氷は無いですがね。と、薄く微笑してスタンドのある球体の水槽を三つ取り出した。

570三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』【中一】:2019/08/27(火) 00:08:21
>>569

『今この瞬間を生きる』――声を聞いた時、その言葉を思い出しました。
千草のスタンドと、どこか似通った名前のスタンドを持つ人。
それが、隣に腰を下ろした方でした。

「――いえ、ありません」

「『夢』を見たことはありますけど……」

よく考えてから、そう答えました。
この場合の夢は、寝ている時に見る方の夢のことです。
楽しいものもあれば怖いものも見ます。
小林さんは――何だか変わった体験をされたようです。
もちろん、千草には詳しいことは分かりません。

「いいんですか?」

「えっと――」

「それでは、『お茶』を……」

少し迷いました。
人様の手を煩わせるのは良くないことかもしれないと思ったからです。
でも、好意を無下にするのは、もっと良くないことでしょう。
だから、千草はお茶を頂くことにしました。
それに、喉が渇いていたのは本当のことです。

571小林『リヴィング・イン・モーメント』【高3】:2019/08/27(火) 00:24:59
>>570

「烏龍茶ですね。では、私はこちらのマスカットティーで
…乾杯の音頭は、またこうやって語り合える事を祝してにしましょう」

紙コップも持参はしている。冷えたての烏龍茶とマスカットティーを解除し
千草さんと自分の分。一つを渡して、もう一つは口付ける
猛暑を少しだけ忘れさせる涼やかな冷たさが喉を駆け巡る。

「……私はね」

「千草さんの歳よりも、もっと幼少の……小学生に入りたて位でしたかね。
その時に、一度私は完全に『壊れる』体験がありましてね」

フゥ…と冷たさを感ずる吐息を上へと舞わせる。

「それ以来、どうにも物心あった当初と違う存在に変わってしまいまして。
自分自身が人でなしか、生きる上での受容の捉え方が何か作り物に思えるのですよ。
……たまに、その壊れる前の頃の感覚が戻れそうに感ずる事もあります。
それが、今さっき話した『夢』なんですがね……」

もう、良く思い出せません。と溜息を吐き出す。

「共に、その中で守らなくてはいけない『誰が』が居た気がするんです。
其処に、決して忘れ手はいけない『何か』はあった筈なのです。
……何時も、そうなんだ。
私は肝心な時に本当に手放してはいけない選択を誤ってしまう」

紙コップに浮かぶ、薄緑色の水面に焦点が定まらない瞳が覗き込んでいる。

「私は『ブリキ』だ……この金魚(スタンド)と同じく魂に彩りは無い。
それでもです。それでも私は掛け替えの無かった、答えも見出せない
あるかどうかも分からない物を取り戻そうと躍起になっている。
……千草さんから見て、私は何に見えますか?」ニコッ…

何処か虚ろな微笑と共に、少女へ青年は問いかける・・・。

572三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』【中一】:2019/08/27(火) 00:45:44
>>571

「ありがとうございます。千草も、またお会いできて嬉しいです」

    ペコリ

冷えたお茶が喉を通りました。
額に浮かんでいた汗も、少しずつ引いていきます。
そして、千草は小林さんのお話をお聞きしました。

「…………」

それは難しい話でした。
とても難しいお話です。
千草には――未熟者の千草には、その一割も理解できないでしょう。
いつかは分かるのかもしれません。
でも、それは『今』ではないのだと思います。

「それは……」

これは『夢』に近付けるチャンスなのかもしれません。
ここで小林さんを納得させてあげられたら、きっと『立派な人』に近付けます。
『立派な人』なら、どう答えのが正しいのでしょうか。
どう答えれば、『立派な人』に近付けるのでしょうか。
千草は――――悩みました。

「――『人』に見えます」

そう答えました。
自分なりに知恵を絞っても、気の利いた答えは出てこないでしょう。
それに、小林さんが望んでいるのは『正直な答え』ではないかと思いました。
だから、千草は素直に答えました。
『誠実であること』が、『立派な人』になるために大切なことだと感じたからです。

「小林さん……」

「千草からも、お聞きしてよろしいですか?」

「――――千草は何に見えますか?」

573小林『リヴィング・イン・モーメント』【高3】:2019/08/27(火) 01:23:41
【場】『 私立清月学園 ―城址学区― 』
本日はすいませんが落ちさせて頂きます

574小林『リヴィング・イン・モーメント』【高3】:2019/08/27(火) 22:05:24
>>572

「―――そう  ですか」

『人(ひと)』 そう二つの単語であるけれども。
そう告げて頂いた事で 不思議と私は『赦して頂けた』ように思えた。

「……千草さんが ですが?」

少しだけ、答える時間に間が出来た。

人でなし 人未満な私が。答えを未だに模索中の自分自身に
彼女の望みえる言葉があるかと。

「……若輩者な私ですが」

「私には貴方が
『あるべき頂きを目指して進む』方に見えます」

「今は未だ険しく、遠い場所ですが。しっかり足を踏みしめて
そして見失わない場所に目指して歩みを運んでいるように……」

彼女は、私よりも小さな手と身体をしてるが。その瞳の奥底に
輝くものは何とも美しく そして損なわぬ硬さが見て取れるだろうか。

今は未だソレは小さいかも知れず、半ば埋めていても
いずれ掘り起こされ芽を咲かし、花か樹を育むだろうと思える。いや両方かも

「……私には無いものを千草さんは沢山持っていますね」

「それで良いんです。もう私には持てないものを、何時までも
しっかりと貴方は持っていて下さい」

575三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』【中一】:2019/08/27(火) 22:58:29
>>574

実は、少し不安でした。
千草の言葉が、小林さんを傷付けたりしてしまうことが怖かったのです。
だから、小林さんの返事の『響き』を聞いて、千草は安心したのだと思います。

「『あるべき頂き』……」

その言葉が、心の奥に音もなく染み込んでいきました。
千草が『目指している場所』は、果てしなく遠いです。
実現できるかどうかは分かりません。
もしかすると、失敗してしまうかもしれません。
ただ、小林さんの一言で『背中』を押してもらえたような気がしました。

「ありがとう――――ございます」

         ペコリ

その時、千草から見た小林さんは、どこか寂しそうに思えました。
ですが、そのことを聞く気にはなれませんでした。
それは、簡単に踏み込んではいけないことのように感じられたからです。

「今、千草は『清月館』に住まわせていただいてます」

「そのことを小林さんにも――小林先輩にもご報告したかったので……」

「あの…………『小林先輩』とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

576小林『リヴィング・イン・モーメント』【高3】:2019/08/27(火) 23:21:57
>>575(この辺りで〆させて頂きます。お付き合い有難う御座いました)

「えぇ、先輩なんて言われる程の人柄はしてませんがね」

微笑と共に肯定しつつ物思いにふける。

私は遠い所へと、亡くしてしまった影を何時までも忘れずに何処か追っている。

彼女(千草)もまた。遠い所にある場所へ目指している。けど、私とは違い
それは未来(さき)にある物だ、きっと……。

「……清月」パチパチ

その単語に少しだけ瞬きをしてから、少し一文字と化してた口元を綻ばせる。

「はは では、一緒に家路へと戻りますか。
彼(ヤジ)も丁度戻ってきてる頃合でしょうし……今日は鍋でもしようかと
呟いてましたから、早く戻ってあげるべきでしょう」

「――行きましょう」

自身の住処でもある『清月館』へ戻る為、千草さんに手を差し出しつつ
その方向へ頭を向ける。

私の向かうべき先は、頂きか それとは逆に深い底となる黄昏か。

着いた時に私は何の風景を見 何を思うのだろう……それは未だ誰も
知りえないであろうけれど。

(今この瞬間……その感じ入り、巡り合う事を私は忘れない 
――忘れては いけない)

577三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』【中一】:2019/08/27(火) 23:55:23
>>576

「あっ、小林先輩も寮生なんですね」

まだ知っている人に寮生は少ないので、それが分かったのは嬉しいです。
一人暮らしをして成長するために寮に入りましたが、未熟な千草には不安もあります。
だから、小林先輩が寮生だというのは少し心強い気がしました。

「――『宮田さん』ですね。お元気そうで何よりです」

前に小林先輩とお会いした時は、お友達と一緒でした。
仲が良さそうで、ああいった繋がりを『親友』というのでしょうか?
千草にも、そういう人ができればいいなと思います。

        スッ

「はい、帰りましょう。小林先輩」

小林先輩と一緒に、千草は清月館に向かって歩いていきます。
人との繋がり――それが、千草の『夢』を叶えるためには大切なことだと思っています。

           スタ スタ スタ …………

イッツ・ナウ・オア・ネヴァー
『 今しかない好機 』を逃さないために、千草は歩いていきたいのです。

578斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2019/09/11(水) 00:30:50
学校屋上への階段は
リノリウムの床が太陽光を反射して、雲った鏡のようになっている

防火の備えを兼任した鋼鉄の扉は
夏という季節には不釣り合いな冷気と共に閉ざされていて

……当然のように鍵がかかっていた。

学校側が立ち入り禁止にした理由は想像できるが
防ぐに意味が無いのではないか? と思いつつ


  ――鍵を回して扉を開けた。


頬を撫でる風が涼やかで
屋上の高さを考慮しても、夏は確かに終わりに入っているのだろう。


鍵を懐に仕舞うと、点検用の中途半端な長さの梯子を上り
この学校の一番高い場所で寝転がり、暇つぶしにルービックキューブを回しだす

今、自分が抱えている問題と違って
この問題は焦って解く必要も無いので、暇つぶしには丁度良い。

 「いっきし!」

俺は『私立清月学園』の屋上で、日光浴を堪能していた。
夕涼みに鼻を擦りながら。

 「誰か、俺の噂でもしてんのかねぇ」
 「……なわけ、ねえかぁ?」

ぼたん飴をひとつ、口に放り込んで噛み締め
目の前の手軽な問題と再び向き合う、考えるのは苦手になっていた。

579斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2019/09/13(金) 00:29:41
>>578

欠伸を一つ、目の前には完成したパズルがある。
正方形が正しい色調に並ぶのは見た目で完成したと思わせる達成感がある物だ

俺はそれを床に叩きつけた

散らばった破片をかき集め
ピースを残った本体にはめていく

 (完成した物は、それ以上先が無い)
 (もう一度パズルを完成させたいなら、一度崩す他は無い)

正攻法で並べるよりも
遥かに早い時間で出来上がっていくパズル。

 (……今まで努力が『出来なかった』天才が、急に5年も努力に頼るのか?)
 (説得力がねえなぁ、『結果』は解っていたんじゃねえのか?)

再び完成したルービックキューブを、指先で回すと
色が錯覚で混ざり合い、奇妙な正方形の物体として見える。

 (あの天才、何に5年をかけたのか)

パズルを止め、懐に仕舞う
如何に自身と言えど、その記憶と思考が常に連続しているわけではない
夢の中の出来事が、現実ではまったく思い出せなくなるように。

 (あの野郎、自身の精神では『スタンド』が発現しないのを解っていて……)
 (ワザと5年かけて『自分を崩した』のか、そうでなくては『スタンド』にも成長の余地が無いから?)

立ち上がり、梯子を滑るように下りると
屋上へのドアに手をかけた、借りた鍵を粘土でカタを取って、成型したのは良いが
やはり見つかると事だ、前みたいに誤魔化せれば楽なんだが。

 「答え合わせが出来ねぇのが、面倒くせぇ所だな」

もし考え通りなら、それはいかれた賭けだ。

報酬はあまりにも不確定、失敗すれば自我の崩壊と消滅、廃人化
だが事実ならば、奴はそれに半分とはいえ勝ったことになる、まったくどうかしている。

 「――自分の事だってのに、なぁ?」

それでも、他に方法が無ければそれを選択し、実行したのだろう
我が事ながら呆れる愚かさだ、馬鹿と天才は紙一重か。


鍵のかかる音と共に、彼は屋上から去った
他には何も残らなかった。

580鉄 夕立『シヴァルリー』【高2】:2019/10/01(火) 00:32:32
学園の中にある、静かな図書室。時刻は放課後。
数ある席の中で、端の方に座っている一人の男子学生がいた。
私物と思われる地図を広げ、その横にはメモ帳を置き、地図と交互に覗いている。
どうやら予習復習の類ではないようだ。

581猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』【高二】:2019/10/02(水) 00:16:45
>>580

「何をしてるのかな」

鉄の向かいの席に座る人。
栗色の髪、右側頭部にいくつかの編み込み、背が低く、幼めの顔立ち。
高等部二年の少年、猿渡。

「……探偵、ということでいい?」

582鉄 夕立『シヴァルリー』【高2】:2019/10/02(水) 00:36:43
>>581

「おや、こんにちは」

声をかけられ、一旦手を止めてそちらを見る。
どこかで顔を見たことがあるかもしれない。ひょっとして同い年かもしれないな、なんて思いながら。

>「……探偵、ということでいい?」

微笑んで、小さく頷く。

「それに近いかな。とはいえ、まだ真似事レベルでしかないが」
「オレは二年生の鉄 夕立(くろがね ゆうだち)。君は?」

583猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』【高二】:2019/10/02(水) 00:50:43
>>582

「僕は二年の猿渡。君のことは知ってる、鉄夕立」

「と、言う前に自己紹介されてしまったけど」

左手を口に当て、唇に触れる。
それから言葉を続けていく。

「知らなかった、君が探偵志望だったなんて」

「……ってかー?」

「理由を聞いても?」

持ってきた本を机の上に置きながらそう言った。

584鉄 夕立『シヴァルリー』【高2】:2019/10/02(水) 01:24:39
>>583

「オレの事を?意外だな、目立たない人間だと思っていたけど」
「それはともかく、猿渡くんか。よろしく」

一礼をする。唇に触れる猿渡くんを見て、
仕草のみならず中性的な顔立ちも相まって、中性的な人だなと思った。
もちろん、それでも男性ではあるため女性と違って緊張はしないが。

「最近世の中は物騒だからな」「調べて、気をつけておくに越した事はないと思って」
「君は、借りた本を返しに?それとも新たに借りに来たのかい?」

585猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』【高二】:2019/10/02(水) 02:35:25
>>584

「よろしくね」

そう、言葉を返す。
本の表紙を撫でながら鉄の様子を見ていた。
指先や地図に時々視線をやっていた。

「調べる……? あぁ、ハザードマップみたいなもの、かな」

「……そこに首を突っ込もうって話じゃないといいけど」

ぽつり。
そんな風な言い方だった。

「本を返してから、新しく借りに来た。これは新しく借りる予定の本」

「梶井基次郎の短編集と……ツルゲーネフの『初恋』を」

586鉄 夕立『シヴァルリー』【高2】:2019/10/02(水) 21:16:09
>>585

「これは危険な事件の起きた場所でね」
「例えば、この辺りは…どうやら不良達が何人か一方的な『ケンカ』に合ったらしい」
「数人は『ヤケド』もしているらしい…君も気をつけな」

『星見横町』の辺りを指差しながら、猿渡くんに伝えておく。
もっとも、この事件は自分の探しているものではなさそうだ。『通り魔』ならともかく、個人の私怨にあまり関わるつもりはない。
無関係の人間が巻き込まれたり、『スタンド使い』が関係しているならば話は別だが。


>「……そこに首を突っ込もうって話じゃないといいけど」

「・・・・・」「オレは別に危険を好んだりはしないよ」

笑顔で肯定とも否定とも言えない返事をしながら、猿渡くんの手の中の本を見た。

「それはどういう本なんだ?浅学の身には、二人とも聞き覚えのない人なんだ」

587猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』【高二】:2019/10/02(水) 21:48:58
>>586

「火傷」

復唱し、頷いた。
そういうこともあるらしい。
なんとも恐ろしい話だという雰囲気がある。

「僕も危険は好まないよ」

口に手を当てながら言葉を返し、本を鉄の方に寄せる。

「梶井基次郎は……授業でもやるかな、檸檬は知ってるかな。あれの作者さ」

「ツルゲーネフ……というか、この場合は作品に興味があったんだ。初恋、なんとも言えない話らしいんだけど」

588鉄 夕立『シヴァルリー』【高2】:2019/10/02(水) 22:01:04
>>587

「ああ、『檸檬』の人か」「国語の教科書を買った時に一通り読んだけど、確かに載っていたな」
「この作品を通してこれを伝えよう、とかではなくて、何だか独特で感情的で、でも入り込みやすい」
「不思議な作品だったな」

興味がわいた。
読み終えたら次に借りようかと思ったが、それより先にすべき事がある。
真実に辿り着いてなお、自分が生きていたら借りようか。
もし自分がその時には学生でなかったとしても、図書館になら置いてあるだろう。

「『初恋』…名前からすると、甘酸っぱい青春を連想させるけど」
「ところで猿渡くんには、気になる人とかいるのかい?」

589猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』【高二】:2019/10/02(水) 22:12:37
>>588

「丸善に檸檬を置いて爆弾魔の気分になるところがよく語られるけど」

「そこに至るまでの心境とか状況の描写が素晴らしいんだ彼は」

「独特の気持ちの落ち込みみたいな部分が鮮やかで……おっと」

途中で言葉を切る。
首を何度か横に振った。

「青春は青春だけど……これは優しくないね……オチを知ったうえで読もうとしているし……」

「気になる人? あぁ、いるけど……鉄くんはどうなのかな?」

590鉄 夕立『シヴァルリー』【高2】:2019/10/02(水) 22:20:48
>>589

『初恋』に対する猿渡くんの反応を見て、何となく内容を察した。
少なくとも、恋する若者が報われてハッピーエンド。そんな単純なものではないらしい。

「あぁ、そういう意味でも『初恋』なのか」
「…あくまでオレの好みだけど、最後は幸福な終わり方をしているのがいいな」
「不幸なことは、覆しようのない現実として、近くにあったりするものだから」


>「気になる人? あぁ、いるけど……鉄くんはどうなのかな?」

「え゛っ」

図書室の中にも関わらず、思わず比較的大きな声が出てしまった。
軽い冗談のつもりで訊ねてみたら、本当に意中の女性がいるとは思わなかった。
ついでにそれが誰なのかも知りたくなるが、それは流石に無粋だろう。

「あ、ああ…そうなのか…」「いや、君は大人だな」
「オレは、その……ここだけの話、女性を目の前にすると、緊張してしまって…」
「ほとんどの女性とは上手く話せないから、そういうのとは縁が遠いんだ…」

遠い目で窓の外を見る。綺麗な夕焼けだ。

591猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』【高二】:2019/10/02(水) 22:53:43
>>590

「まぁこれはややこしい話だから仕方ないさ」

「僕だって見るならハッピーエンドが良いね」

頷いて同意して見せた。

「えっじゃないよ」

人差し指を唇に当てながらそう言った。
猿渡は不思議そうな顔をしている。
実際、不思議に思っていたのだろう。

「僕だって、緊張くらいする」

自分も視線を移動させて夕陽を見た。
綺麗だった。

「モテそうだけどね君は」

ぽつりと呟く。

「そうは思わないかい?」

592鉄 夕立『シヴァルリー』【高2】:2019/10/02(水) 23:12:07
>>591

猿渡くんの言葉に、ゆっくりと頷く。

「…成る程」「緊張はするが、それに立ち向かい、制御する術を心得ているということか」
「憧れるな…オレも練習させてもらった事はあるが、どうにも難しい」
「竹刀を構えて相手に立ち向かう方が、まだ御し易い緊張だな」

緊張はするが、それよりもなお相手に対してコミニュケーションを取ろうとし、
好意的になってもらおうとする。並大抵の勇気ではない。少なくとも自分には。
同い年ながら、彼のことを尊敬する。

>「モテそうだけどね君は」

「…それは世辞だと受け止めていいのかな」
「その、本気だとしたら、君の期待には応えられなくて申し訳ないとしか…言えないな…」

俯いて、深く溜め息をつく。
異性と付き合った経験はおろか、手を繋いだこともない。バレンタインのチョコレートも
家族以外からもらった事はない。友人としての女性もいないわけではないが、それはモテるとは無関係だろう。

「とはいえ、別にオレはいいんだ」「もっと集中すべき事があるからな」

例えば、もし、仮に、万が一、偶然にも、自分のような男性を気にかけてくれる女性がいたとして、
その相手が死んだら、その人は恐らく悲しんでしまうのではないか。
ならば、今はそういう事を考えない方がいい。あの『通り魔』を見つけ出して、行動の意味を問うまでは。

593猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』【高二】:2019/10/02(水) 23:51:30
>>592

「まぁそこは人それぞれだよね」

事もなげにそう言った。

「君みたいなタイプは可愛いって言われるタイプだろう」

「そんな気がする」

左の手が唇に触れていた。
どこまで本気なのかは分からないくらいの表情。
ぼんやりとしているようで目に力はある。

「集中すべきこと」

「……それは聞いてもいい事かな?」

594鉄 夕立『シヴァルリー』【高2】:2019/10/03(木) 00:02:53
>>593

「………可愛い、か…」「仮にそう言われたとして、男として思わないことがないでもないが…」
「何にせよ、向けられた好意はありがたく受け取るべきだろうな」

言われる姿はあまり想像つかないが。いや、確か塞川さんに初対面で言われたか。
どうあれ、彼は自分にも魅力があるのだと言ってくれている。
それはとても嬉しいことだし、少し自信がつく。

「ありがとう」
「そう言ってくれる君もオレは魅力的だと思うし、君が意中の女性と結ばれる事を祈っていないるよ」

礼を述べ、小さく頭を下げる。


>「集中すべきこと」

>「……それは聞いてもいい事かな?」


「…危険な事を好まないなら、あまりおススメはしない」「説明しても、信じられないかもしれない」
「それでも猿渡くんが知りたいのであれば」


「─────今度会った時に話すとしよう」「そろそろ部活の時間なんだ」

そう言って微笑みながら、地図やメモ帳をしまっていく。今日は顧問の先生が会議に参加していたので、開始が遅くなったのだ。
もちろん、次回会った時には彼も忘れているかもしれない。それならそれでいい。

595猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』【高二】:2019/10/03(木) 00:18:48
>>594

「……祈ってくれるといいよ」

礼に対して掌で返す。

「じゃあ、次の機会に」

「備えよ常に、と僕は思ってる」

机に置いた本を手に取った。
まだここにいるつもりなのだろう。
ここでお別れだ。

「頑張ってね」

596鉄 夕立『シヴァルリー』【高2】:2019/10/03(木) 00:39:15
>>595

「備えよ、常に、か」「常在戦場…と言うと流石に時代錯誤かもしれないが、オレもそう思ってるよ」
「とある人が教えてくれたんだ。他人を犠牲にすることを何とも思わないような『悪』は、確かにいるんだと」
「自分が『正義』だとは思ってないが、それでもそういった『悪』に対抗する準備はしておいた方がいいだろうな」

「だから、もしそういった時はオレも微力ながら力になる」
「その時は、遠慮なく頼ってほしい」

猿渡くんの言葉に頷きながら、その瞳をじっと見つめる。
実に大袈裟な台詞だと、妹が通り魔の被害に合う前の自分なら思っていた。
だが、この彼は笑わないだろう。真剣に取り合ってくれるかは分からないが、無碍にする事もない、と感じた。

「ああ、お互いにな」

椅子から立ち上がり、手を振って図書室を後にした。
落ち着いて話せる、気の合ういい友人が出来た。
次に会う時は、彼からもいい報告が聞けることを願いながら、部活へと向かった。

597源光『オズボーンズ』【大学一年】:2019/11/26(火) 22:01:33

       バササササササササァァァァァ――――ッ

(『卑怯な蝙蝠』は、『適応』する事に失敗した)

日が落ち始めた敷地内の空を、十匹の黒い影が飛ぶ。
一見すると鳥のようにも見えるが、それはカラスではない。
翼を広げて羽ばたいているのは、群れを成す『蝙蝠』だ。

(だが、『彼ら』は違う)

(『オズボーンズ』は非常に弱く、とても脆い)

50mほど離れた所には、一人の青年が立っている。
片手に単眼鏡を構えており、『蝙蝠』を観察しているらしい。
『蝙蝠』は高速で飛び回り、やがて樹の枝にぶら下がった。

(――――だからこそ、『彼ら』は『強い』)

598源光『オズボーンズ』:2019/11/28(木) 21:09:37

(この世で最も強いのは『力』でも『賢さ』でもない)

    ザッ ザッ ザッ

踵を返し、学生寮に向かって歩き出す。
日が落ちて、足元の影は長く伸びている。
飛び立った『蝙蝠』が、青年の背後から追従する。

        バサササササササササッ

(――――それは最も『適応』出来る者だ)

599斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/12/03(火) 01:06:18
ジュゥゥゥウウウ……

「――じゃ、センセ 醤油取りに行ってください。」


清月学園の一角、理科室にて、僕は割りばしを割りながらそう答えた
目の前にはガスバーナーで加熱された金網、それに乗せられた『ホタテ』がその身を煮立たせながら
なんともいえないかぐわしい香りを漂わせている


「そんな事を言って、君 私の居ない隙に腹に納めるつもりだろう」


そう言うこの人はこの学園の理科担当だ、分厚い眼鏡に無精ひげ
ひょろひょろの体を白衣で巻いている、歯ブラシに学校のプリントを巻きつければ大体似たような外見だと思っていい
生徒からの評判は、いかんせん人が好過ぎるともっぱらの噂だ。


「しませんよこんな大味そうな物、醤油無いんだから」

「……私は学術的興味からだね」

「『異常成長した標本』を『同級生の伝手で入手した』のカバーストーリーですよね、さっき聞きました」


しばしの無言の後、眼鏡の位置を治したセンセが迷いながら口を開いてくる
ムリに威厳を見せようとして上体を逸らしているのがハトみたいでもある。


「……知識欲が湧かないかね?」

「今湧いてくるのは食欲ですね」


またもや無言。
これが演技なら冷や汗が流れるのが見えそうになる程、真に迫った表情だ。


「模範的な生徒なら先生の為に従うべきだと思わないかい?」

「見つけた僕を鮮やかに共犯にしたセンセの言う事では無いですよね?」


さらに無言の間が続く、実際、彼の此処までの行動にミスは無く
単なる給料の安い教員のささやかな幸運……に、なる筈だった
彼にミスがあったとすれば、僕に見つかった事だ。


「よし」

「こうしましょう先生『表』か『裏』か?」

両手をポケットに入れて
ようはコイントスの提案だ、運と言うのは万人に公平に見える事実である。

「いいだろう、表……」

僕はニヤリと笑って見せた

「い、いや、やはり裏だ、裏にする!」


「三回勝負はナシですよセンセ」

そう言及して右ポケットから出したコインを放り、落下してきたところを素早くキャッチする
――結果は

「――僕の勝ちですね よっセンセの鏡。」


苦悶のうめき声をあげながら、泣きそうな顔で理科室から逃げるように走って行った
今頃はなんと運が無いと考えながら歩いているだろう、この学園の廊下は長いのだ。

「……いったか。」

そう呟くと、懐から『醤油瓶』を取り出した

先程のコインは勿論、『裏と表が同じコイン』である。
センセが裏と言えば右ポケットの『裏だけのコイン』、表と言えばその反対のコインを使うつもりだったのだ

そして醤油はここにある。
無ければ食べないとは言ったが、あるなら話は別だ
さあ、努力の報酬(ホタテ達)を頂く時である。

……今この瞬間、何処かの学生か教師がドアを開けて入ってこない限りは!

600志田忠志『イヴ・オブ・サルヴェイション』【大学三年】:2019/12/03(火) 22:14:00
>>599

ガチャリ――――

その時、理科室の扉が開いた。
醤油を取りに行った教師が戻ってくるには早すぎる。
実際、そこに立っていたのは教師ではなかった。
一人の青年が、理科室の入口付近に立っている。
しかし、『高等部生』ではなさそうだ。

「ん…………?」

まず匂いを感じ、次いでその『出所』に目を向ける。
先程の教師ではないものの、青年の体つきは細い。
どこをどう見ても運動神経は良さそうには見えず、
むしろ不健康そうな雰囲気だった。
最も特徴的なのは、両目の下にドス黒い『隈』が刻まれている事だ。
十数年ほど不眠症が続いていれば、こうなるかもしれない。

「悪かったね。部屋を間違えたよ」

「ここは『理科室』だったと思ったんだけど――」

「『バーベキューハウス』に改装していたとは知らなかったんだ」

ここに来たのは、ちょっとした頼まれ事を片付けるためだ。
機材を幾つか借りてきてくれと、教授に言われてしまった。
それで、こうして高等部まで足を運ぶ羽目になった。

601斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/12/04(水) 00:59:21
>>600

「・・・・・・。」

落ち着け、落ち着くんだ斑鳩翔。

アサイラムファンは狼狽えない、一々サメの頭が増える事に狼狽えていたらあの撮影チームにはついていけない。
今度は尻尾が増えるんでしたっけ?

「志田先輩、申し訳ないんですけどちょっとこっちきてくれます?」

邪悪なる野望()はこのタイミングと隈取りが完璧な先輩によって打ち砕かれたが
まだ手が無いわけでは無いのだ。

「はい、これ持って」

「はい、此処に立って」

まあまあまあまあ等と言いながら無理やり醤油入り皿と割りばしを渡し
帆立達の前に立たせニッコリと笑顔をさせ

「はい、チーズ、サンドイッチ!」

 カシャリ
スマホのカメラ機能が子気味良い音をたてて、『証拠写真』を保存する。
この教室内でこの行為が行われるのは本日二度目である。

「――YHAAA!これでパイセンも共犯だぜ!責任問題回避!」

「じゃ、遠慮なく『ホタテ』食べて行ってください志田パイセン、何か悪いので。」



……なお、途中で彼が怪しんで暴れたりしたら作戦失敗である。

602志田忠志『イヴ・オブ・サルヴェイション』【大学三年】:2019/12/04(水) 01:33:22
>>601

「自分で言うのも何だけど、
 あまり写真写りが良い方じゃなくて申し訳ないね」

強引に皿と割り箸を持たされ、そのまま撮影は完了した。
しかし、その表情は笑顔ではない。
かといって不満そうな顔もしておらず、不思議そうに首を傾げる。

「いや、せっかくだけど遠慮しておくよ。
 実を言うと、さっき食堂でホットドッグを食べてきたばかりなんで、
 ちょうど腹に余裕がないんだ」

    コトッ

手近の机に皿を置き、その上に割り箸を乗せる。
それから、斑鳩の方に向き直った。

「ただ…………一つだけ『分からない事』があってね。
 もし良かったら教えて欲しいんだ」

「このホタテや醤油や諸々は『君の』だろう?
 それに、先生の『許可』だってちゃんと貰っている筈だ」

「そうじゃなきゃ、
 こんなに堂々と教室内で『バーベキュー』なんてする訳がないからね」

「それなのに――――
 何故『悪い事』のように言うのかが、僕には分からないな」

ここに誤算が生じた。
志田は、斑鳩が『許可を取った上でやっている』と思っていた。
だから、『共犯』や『責任回避』という言葉の意味を図りかねていたのだ。

「ええと……確か、斑鳩君だったかな。
 僕は『先生の許可を取ってホタテを炙ってる』と思ったんだけど」

「もし間違ってたら、訂正して貰ってもいいかな?」

603斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/12/04(水) 01:51:24
>>602

「えっ 違いますけど。」

彼は気に留めるでもなくさらりと言った

「醤油は家庭科室、ホタテはここの先生の、ガスバーナーは理科室の備え付け」

「ほら、その金網ビーカーとか乗せて温める用のアレですし。」

実際、金網は金網だがそのサイズはホタテがギリギリ一個乗るかどうかであった
偶に吹きこぼれた水分が蒸発し、音をたてながら白い線を残す。

「これは推測ですけど、あの先生が許可取ってるなら理科室でやらないんじゃないかな。
まあそれが裏目に出て、こうして僕とパイセンに見つかったんですがね!」

因みにこれを言うとさっき出て行ったセンセは新品のコピー用紙の如く真っ白になります等と言いながら
席に戻り、ホタテの一つに醤油をかけてかぶりつく

「うーん、やっぱいい所のだなコレ、標本用とか嘘だよあのセンセ。」

「……ところで僕も二つ解らない事があるんですけど、志田パイセンは何しにここに来たんです?センセ虐め?」

604志田忠志『イヴ・オブ・サルヴェイション』【大学三年】:2019/12/04(水) 14:53:29
>>603

>「……ところで僕も二つ解らない事があるんですけど、志田パイセンは何しにここに来たんです?センセ虐め?」

「それが冗談なら笑うよ」

言いながら、おもむろにポケットから『鍵』を取り出す。
斑鳩に背を向けて、『薬品棚』に歩いていく。
鍵穴に鍵を差し込み、音もなく棚を開いた。

「教授に頼まれちゃってね。
 勿論、この鍵を借りる『許可』は貰ってるけど」

      ガチャ
              ガチャ

「二つ目の答えは又聞きだよ」

背を向けたまま言葉を続ける。
手元では、薬品のラベルを確認していた。

「僕と同じゼミ生の妹が、君のクラスメイトなんだ。
 会話の中で、君の話が何度か出てきた」

          ガチャ

「……いや、これじゃないか。それで、何だっけ」

「ああ、そうそう。それで、君の事を知っていたという事さ」

「君が僕の事を知っていたのは――まぁ、この顔は目立つからね。
 悪い意味で」

605斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2019/12/04(水) 23:23:28
>>604

「ん、ん〜……。」

思案を一つ、これは僕の落ち度かもしれない


「いやあ、パイセンの妹さんに覚えていただけるのは、こういう顔に産んで貰った両親に感謝する所ですが。」

「妹さんだけだと、ちょっと解りませんね。」

「妹さんと言えば、パイセンみたいな人が、女の子達にどう可愛く例えられてるか知ってましたか?僕はそれで知ってたんですよ、まあ、それが悪い意味と言うなら、その通りになりますけど!」

「なので、そういう動物大好きメイクなのかと、今日見るまでは思ってました……が。」

ちらりと彼の背を見る
この位置では見えないが、彼の特徴は一目見れば充分わかる。

「3つ目を聞いても?もっとも、聡明な先輩の事ですから、何を聞きたいかは、言わずとも解りそうですがね!」

606志田忠志『イヴ・オブ・サルヴェイション』【大学三年】:2019/12/05(木) 00:25:07
>>605

「フフ――」

「『僕の妹』じゃあないんだ。僕は一人っ子でね。妹はいない」

「『僕と同じゼミに所属している男の妹』と言った方が分かりやすかったかな。
 とにかく、そこからの又聞きだよ」

     ガチャッ

「これでもないな……」

「こんなメイクをしてる生徒がいるんなら、是非見てみたいね」

「幸い、僕の場合は『鏡』を見ればいい訳だ」

           ガチャッ

「ああ、これかな……」

薬品を手に取り、振り返る。
その両目には濃い隈が見える。
皮膚に染み付いているかのようにドス黒い。

「それは分からないな。
 僕は心を読める訳でもないし、心理学者でもないから」

「まぁ、予想する事くらいなら誰でも出来る」

「『これ』に関係する事とか、そういう事かな?」

空いている方の手で、自分の目元を指差す。
特に気負った雰囲気もない口調だった。

607斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2019/12/05(木) 01:02:42
>>606

(まあパンダ先輩とかは流石に言えないかな!)

「ええ?パイセンの事だから、『超能力者』くらいはあると思ってたんですけど。」

「ええ、気分を害されたなら、流石に僕も悪いなあとは思うんですが。」

「その時には僕が悪いので、頭を下げて、ごめんなさいすれば良いし、だったら聞いてしまった方が、気にもならなくなるかなと。」

「明日、交通事故で死んだら、後悔しますからね、ああ、聞いときゃよかったなって。」

「知ってましたか先輩、宝くじで一等当てるよか、交通事故で死ぬ方が確率高いんですよ。」

「……つまり僕がこうして先輩にずけずけ聞くのは『交通事故』のせいと言う事で、どうかひとつ。」

「終わったこのは後悔してもしきれませんからね。」

608志田忠志『イヴ・オブ・サルヴェイション』【大学三年】:2019/12/05(木) 01:21:51
>>607

「ハハハ――――」

『超能力』という言葉を聞いて、軽く笑う。
どことなく乾いたような笑いだった。
悪意とか敵意といったものはないが、乾いた印象だった。

「『超能力』なんてものが、世の中にゴロゴロあったら怖いね」

「まぁ、もしあったとしても、
 そうそうお目に掛かれるものじゃないんじゃないかな」

「多分だけど」

以前、それが絡んだ事件に出くわした事があった。
あれは『温泉旅行』に出掛けた時だったか。
ちょっとしたスリルとサスペンスって所だ。

「その気持ちは分かるよ。
 後悔してからじゃ遅いからね。
 勇気を持って踏み切る事が大事な事だってある」

「それじゃ、僕も勇気を持って秘密を打ち明けよう」

「『これ』はね、『不眠症』だよ」

「はい――――おしまい」

薬品の容器を手の中で弄ぶ。
その口元は穏やかに笑っていた。
目の隈は相変わらずだったが。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板