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【場】『自由の場』 その1

1『自由の場』:2016/01/18(月) 01:47:01
特定の舞台を用意していない場スレです。
他のスレが埋まっている時など用。
町にありえそうな場所なら、どこでもお好きにどうぞ。

289弓削 和華『アンタイトル・ワーズ』:2017/09/23(土) 01:17:17
>>288
「……大丈夫ですか?」

立ち上がって拾いに行く。
無論、大丈夫でないことは(金額的に)分かりきっている。
これはまぁ……コミュニケーションのとっかかりみたいなものだ。

290夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/23(土) 01:35:34
>>289

「私が体を張って稼いだユキチがぁぁぁぁぁ〜!」

少女は紙幣の群れを追いかけて右往左往している。

  ――と……。

      ドシュンッ
            シュババババッ

突如、少女の傍らに人型スタンドが現れ、素早く正確な動きで紙幣をかき集めていく。
それにより、宙を漂っていたもののほとんどが、少女の手に回収された。
あとは、弓削の足元に落ちている数枚が加われば、それで全てだろう。

「あっ、いやいやそんなそんなどーもどーも」

「ありがとーございます」

少女はスタンドを引っ込ませ、ぺこりと頭を下げて弓削に近付いてくる。

291弓削 和華『アンタイトル・ワーズ』:2017/09/23(土) 01:45:14
>>290
   「  」

真顔である。
数枚の諭吉さんを手に取った態勢のまま、弓削は無表情で夢見ヶ崎をガン見していた。
というのも無理はないだろう、彼女は自分以外のスタンドを見るのが初めてなのだった。
というかこの先スタンドを人前で使うつもりもなかったし他人もそうだと
思っていたのでスタンド使いを目の当たりにするという事態がイレギュラーだった。
無論、スタンドをガン見していたことは夢見ヶ崎にも分かるだろう。

「……」「いえ、大事ないようでよかったです」

          「イッツマイプレジャー」

何事もなかったかのようによく分からん事を言いつつ万札を手渡すリクルートスーツ女。
なお、表情は終始真顔のままだった。

292夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/23(土) 02:12:44
>>291

「あー、落ち着いた」

そう言いつつ近くにあったベンチに腰掛ける。
自分としても、そうそう頻繁に日常でスタンドを使っているわけではなかった。
たとえば、自分が動くのがメンドくさいからスタンドでリモコンを取るなんてことはしていない。
だが、たぶん必要だと思った時は使っている。
数えてみて、一枚足りないなんてことになっても困るし。

「えっと……お姉さんの名前なんだっけ?」

知り合いだっただろうかという考えが不意に浮かんだが、
あまり自信がなかったため、とりあえず名前を尋ねてみた。
当然ながら全くの初対面なのだが。
そして、このリクルートスーツの女性が何を思っているかも知るよしもない。

「あとさ――今なんか見えてた?私以外に」

「それとも、私の後ろの方に『超珍しくて不思議なイキモノ』でもいたとか……」

やや声を落とし、念のために問いかける。
このスーツ姿の女性――弓削の考えは分からない。
ただ、水も漏らさぬほどに凝視されていたのは見えていた。
だから、一応は感付いてはいた。
だけど、もしかしたら私の後ろにビッグフットとかチュパカブラとかいたのかもしれないし……。

293夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/23(土) 02:20:28
>>292

諭吉さんは受け取って、ちゃんとお礼を言った。
そして、上記の行動へ。

294弓削 和華『アンタイトル・ワーズ』:2017/09/23(土) 02:22:47
>>292
「弓削和華と申します」

ベンチに座る夢見ヶ崎の前に立ち、誰何に対し明確な一言。
すっと伸ばされた背筋はいかにもキャリアウーマンらしい。

「初めまして、ですね」「すみません、少々視線が不躾だったようで」

      「少し――」

そこで、弓削は少し間を置いた。
おそらく、あそこまであからさまな視線を向けられれば向こうも感づく。
その上で『スタンド使い』であることを明かすべきか、
あるいはしらばっくれるべきか決めかねていたのだ。が……。

        「『奇妙なもの』が見えましたので」

そう言って、親指を立てて自らの背後を指差してみせる。
背後に『寄り添い立つもの』――スタンド、というわけだ。
結局、しらばっくれるメリットもないので正直に明かすことにしたらしい。

   「どうやらご同輩かなと」「奇遇です」

なお、常に真顔のままだ。表情筋が死んでるのだろうか?

295夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/23(土) 17:54:05
>>294

  ……?

  心なしか表情が薄いような……。

   いや――薄いんじゃあない!
   これは、表情が『全くない』ッ!
   まるで人の形に切り出された無機質な彫像のように……!

……などと思ったかどうかは定かではない。
ともかく――。

「あっ、知らない人だった。どーりで見覚えがないワケだ」

「――ゴメンなさい」

「夢見ヶ崎明日美っていいます」

名乗られたからには名乗り返そう。
なんといっても、挨拶はタイジンカンケイの基本っていうし。
もっとも、こちらの挨拶は、それほど整ったものではなかったが。

「ゴドーハイですか。ふむふむ」

弓削の背後に目をやり、納得したように二、三度うなずく。
そして、弓削の全身を正面から隈なく観察する。

「お姉さん、ビシッとしててカッコいいね。できる女って感じ」

「あ、名前聞いたんだし名前で呼んだ方がいいよね。
 カズハさんって呼んでもいい?」

「――あとさ、できたら座って欲しいな。見上げたまんま喋るのも疲れるし」

296弓削 和華『アンタイトル・ワーズ』:2017/09/23(土) 22:12:16
>>295
「ええ、どうぞ。よろしくお願いします、夢見ヶ崎さん」

                                  「では、失礼します」

着席を促されると、弓削はあっさりと夢見ヶ崎の隣に腰を下ろした。
スタンド使いの邂逅――当然ながら、話はそこに収束する、

     「しかし災難でしたね」

かと思いきや、微妙に話題が逸れた。
関係はしているので全く別の話題でもないのだが。

  「あれほどの大金、もし風で飛ばされてはいたらと思うと……」

 「ぞっとします」 「お給料、無事でよかったですね」

『身体を張って稼いだ諭吉』、ということでお給料と解釈したようだ。

297夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/23(土) 22:49:57
>>296

「ホントホント。どっか行っちゃう前に戻ってきて良かったぁ。
 慌てすぎて思わず『アレ』使っちゃったよー」

アレというのは、言わずもがなスタンドのことだ。
さっきのは、スタンド持ってて良かったと思った瞬間ベスト10くらいには入るね、きっと。

「えっと、あー、うん」

夢見ヶ崎の年齢は16歳。
一概には言えないが、この年頃で貰う給料としては多い金額だろう。
実際のところは、給料ではない。
この町の片隅で偶然見つけたスタンド使い同士が闘う闘技場。
そこで得た賞金だった。

「いやー、あれはハードな仕事だったなー」

「血は出るし腕の骨は折れたし――」

「それでしばらく入院したりして――」

「キツかったぁー」

その時のことを思い出しながら喋る。
全て事実ではあるが、口に出してみると変な冗談にしか聞こえないのがたまにキズだ。

298弓削 和華『アンタイトル・ワーズ』:2017/09/24(日) 00:11:43
>>297
「………………」

弓削も馬鹿ではない。
30万という大金を(見た感じ)子どもな目の前の少女が持っていることに違和感はあった。
ただ、何らかの事情でバイトで貯めたお金を引き下ろしたとか、実は幼く見えるだけ
というような可能性も考慮していたのだ、が……

          「そう言った『業種』があるんですか?」

ズイ、と身を乗り出して一言。
相変わらず真顔だが、今日一番の食いつきだ。
それより怪我に触れるべき部分なのだが。

   「『能力』を利用することが求められる『業界』が……」

無表情の中心にある瞳に浮かぶのは、好奇心。
自分の知らない未知なる世界へのパイプ役を少女に期待する感情。
そこに少女が負傷の危険をおかしたことへの心配などはない。
何故か? それは彼女が現在失職中でそれどころではないからである。

299夢見ヶ崎明日美『』ドクター・ブラインド:2017/09/24(日) 11:43:49
>>298

「――???」

「……へぇ……」

予想以上の食いつきの良さを目の当たりにして、最初は不思議そうな表情を浮かべた。
しかし、それは心に生じた強い好奇心によって、瞬く間に塗り潰されていく。
この終始真顔で無表情を貫いている女性が、
自分の話に強い反応を示したことに対する好奇心だ。
サングラスの奥に隠された黒目がちの大きな瞳が、小さな星のようにキラリと輝いた。
やがて、口元に悪戯っぽい笑みが現れる。

「うん――『ある』みたいだよ」

「大きな声じゃ言えないけどさ――」

そう言いながら、こちらからも顔を近付ける。
お互いが近寄っているために、かなりの至近距離になるだろう。
そして、耳打ちする時と同じように開いた片手を口元に添え、声を潜める。

「――『アリーナ』っていう場所なんだ」

「スタンド使いの選手が対戦する地下のトーギジョー」

          ファイトマネー
「そこで勝ったら『 賞金 』が貰えるってワケ」

そこまで言うと、いったん言葉を切る。
弓削が関心を持っているかどうかを見るためだ。
それを確認してから、改めて話を続ける。

「カズハさん――もしかしてキョーミある?」

「私は飛び入りで参加したんだけど、そこのカンケーシャと連絡先交換してるんだよね」

「だから――もし良かったら、向こうに話を伝えてもいいんだけど……」

自分と連絡先を交換した男は、こう言っていた。
正式な選手になることを考えるか、参戦希望のスタンド使いを紹介してくれ、と。
あの時は、まさか本当に誰かを紹介することになるなんて思ってなかったけど――
返事次第ではそうなる、か、も。

300弓削 和華『アンタイトル・ワーズ』:2017/09/24(日) 12:44:48
>>299
「いえ」

急転直下。
……というと少し語弊があるが、弓削は先程までの前のめり具合とは
想像もつかないほどあっさりと、勧誘に対して一歩引いた態度をとった。

    「実は私、現在失職中でして」

そんな弓削から放たれたのは、唐突なニート宣言だった。
リクルートスーツを着たままブランコでギコギコやっていたのもそういうことらしい。

「それで今日も就職活動中だったのですが、……なかなかちょっと、という次第でして」

少し声色が沈んだ。

「『スタンド使い』……それそのものが必要な資格になる『業界』について
 ご存知ならば、詳しく伺いたいと思ったまでで……『選手』は特に」
                    「争いごとはあまり得意ではないですし」

弓削はそう言うと目を伏せて、

         「私は、『誰かのために』働きたいと思っています」

「それが『モチベーション』なのです」
「私自身が目立つのでなく……」「それだけが願い」

           「ただ」

「もしも『マネージャー』といった職種があるのでしたら、
 そちらの方にはとても興味を惹かれるのですが……」
「……その前に、『観戦』してみたいですね。どのような職場なのか見ておきたいですし」

「『観戦』は、どうすればできるでしょうか?」

要するに、『選手としてはそんなにだけど、もしマネージャー職があるなら興味がある』……
そして『何にせよどんな仕事なのか理解するために色々見ておきたい』ということらしい。
そんなもんあるのか? あったとして新規採用あるのか? というところからして非常に微妙な感じだが……。

あと、闘技場そのものの営みには全く疑問を差し挟んでなかった。
やはりどこかズレているのかもしれない。

301夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/24(日) 22:28:32
>>300

「……一度しか言わないから、よく聞いてて」

その言葉は、低く重い響きを持って発せられた。
顔からは笑みが消え失せ、神妙な表情に変わっている。
『あなたの余命は残り三日です』と宣言する医者のように、ひどく深刻な顔色だ。

「まず――『ウサギ』を探すの。時計を持ったあわてんぼうの白ウサギをね」

                ラビットホール         ワンダーランド
「そのウサギを追いかけて『ウサギ穴』を通れば、『未知の世界』へ行けるはずだよ」

そこまで言うと、固い表情が少しずつ崩れ、唐突に含み笑いを始める。
最後には、声を出して無邪気に笑い出した。
見る人に悪印象を抱かせるような笑い方ではなく、明るく屈託のない笑いだ。

「ふっふふふ、ゴメン。ただのジョークだよ」

「それで、なんだっけ?ああ、さっきの話の続きね」

「募集してるかどうかは分かんないなぁ。
 代わりに大体の場所を教えるよ」

「そこに行ってみたら、なんか分かるかも」

「さっきのはジョーダンだけど、私の時も似たような感じだったしさ」

言葉通り、自分の知っている場所――
(ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/comic/7023/1454252126/562参照)を伝える。

とはいえ――それで弓削に何か大きな変化が起こるとは考えていない。
あくまで『大体』なので、分かるかもしれないし分からないかもしれない。
そもそも、何か特殊なきっかけでもなければ入れるような場所でもないだろう。

それでも教えたのは、彼女が何か大きな苦労を抱えていることを察したのと――。
この弓削和華という一風変わった女性に対して、興味を抱いたためだ。

302弓削 和華『アンタイトル・ワーズ』:2017/09/24(日) 23:20:34
>>301
「フム」

夢見ヶ崎の『ジョーク』も、眉一つ動かさずまじめ腐った顔でメモを取る弓削。
雰囲気だけなら『仕事の出来る女』のようだが……、

       「……ジョーク」
                   ビィーッ

……今の今まで書いていた部分に『ジョーク』と書き加える姿はいっそ滑稽だ。
何気にメモを取る速度は速い……が、異常というほどではないのでこれは技術だろう。
……気を取り直してメモを取り直し。

「……ありがとうございました。お陰様で、とても助かりました」

メモを取り終えると、弓削はそう言って頭を下げる。
礼をするのにきっかり四拍使って頭を上げると、

「こちら、私の連絡先です。ここで知り合ったのもスタンド使いの『縁』。
 もし何かお困りのことがありましたら、お気軽にご相談下さい。
 スタンド使いとしては若輩者ではありますが、出来る限り力になります」

      「では」「失礼します」ペコォー

そう言って名刺を手渡し――名前と携帯電話、メールアドレスが
書かれていた――、そのまま、会釈をしてその場から去って行った。
相変わらず終始真顔だったが――その後ろ姿からは、どことなく満足げな雰囲気が窺えた。

303夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/25(月) 21:42:01
>>302

「……へぇ〜……」

自分の放ったジョークをそのままメモする弓削を、物珍しそうな好奇の視線で観察する。
『マジメ』だ。
あまりにも『マジメすぎる』。
もし、彼女が冗談のつもりでやっているんだとしたら、自分の言ったジョークより面白いだろう。
たぶん――いや、きっと本気なんだろうけど。

「――ふむふむ」

名刺を受け取り、ざっと目を通す。
こちらには渡す名刺がないのが惜しいところだ。
その代わりに、明るく笑いかける。

「こっちこそ、なんか変なモノとか変わったコトとかあったら教えてねー」

「ネンジュームキュー24時間ボシューチューだから」

「私もスタンド使い若葉マークだけどさ、けっこう役に立つと思うよー」

彼女を通じて、まだ見たことのない何かに出会えたら嬉しい。
未知の世界や未知の存在との遭遇は、自分にとって何よりの報酬だから。
もちろん、スタンド使いの縁で知り合った弓削に対する気遣いもあるが。

「そんじゃ、またね〜」

模範的なお辞儀ではないが、こちらも軽く頭を下げ、立ち去っていく弓削を見送る。
その心には、ささやかな満足感があった。
あの弓削という女性は、今まで自分が出会ったことのないタイプだったからだ。
未知の人間との出会い。
それも自分にとっては、大きな喜びの一つなのだから。

304小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/01/04(木) 02:31:42

一月一日――元旦。

他の地域と同じように、ここ星見町の神社も、新年の初詣をする人々で賑わっていた。
その象徴であるかのように、境内は見目鮮やかな晴れ着姿で溢れている。

     ザッ……

色とりどりの雑踏の中で、墨のように黒い着物を纏った女が静々と歩いていた。
近くで見たならば、それが和装の喪服であることが分かるだろう。
最も格式の高い第一礼装であり、失った最愛の相手に特別な想いを伝えるための装いでもある。

  ――去年は一年、大きな事故や病気もなく、無事に終えることができました。

  ――どうか、今年も無事に過ごせるよう、私を見守っていて下さい。

  ――治生さん……。

自分なりの新年の装いに身を包み、心の中で静かに祈りを捧げる。
去年の一年間、彼との約束を守ることができたことに対する感謝を。
そして、今年の一年間も彼との約束を守り続けたいという願いを込めて。

305ゲルトルート『ラスト・ワルツ・リフレイン』:2018/01/12(金) 00:03:44
>>304

ふっふっふ。
自分は人の波を見ている。
自然の中に数式が潜むことは多かれど人の波は幾何学模様を描きはしないもの。
だけど自分は観察している。
この経験もきっとどこかでしてるはずだから。

「……さぁ実験をはじめよう」

自分は人を避けていく。
多分こうすれば大丈夫というルートが見えてる。

「あ……」

そうだ。ここで人を見つけるんだ。
喪服を着た女の人。きっと、いつか見た風景。

「ねぇ、あなたと自分って会ったことないよね?」

思い切って喪服のあの人に聞いてみる。

306小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/01/12(金) 00:52:14
>>305

ちょうど参拝を終えた時、知らない女性に呼びかけられた。
少なくとも、自分には見覚えがない。
もしかすると、向こうは自分を見たことがあるのかもしれない。
しかし、それは会ったことがあるとは言わないだろう。
少し考えたのち、口を開く。

  「……そうですね」

  「はい――会ったことはありません……」

  「あなたは……私をご存知ですか?」

失礼にならない程度に女性の容姿を確認しながら、質問を返す。
自分が忘れているだけで、本当はどこかで会っていただろうか。
もしそうだとしたら、申し訳なく思う。

307ゲルトルート『ラスト・ワルツ・リフレイン』:2018/01/13(土) 00:27:56
>>306

んっんー。やっぱりそうかそうか。
デジャヴかそうじゃないか、見切れたな。
うんうん。これは一つの進歩だね。

「そうー。自分も君の事は知らないかなー」

「あ、ああ、ごめんねー。怪しい者ではあってもぉ悪い人じゃない、と思ってくれていいよー?」

普通こーゆーのはヘンナヒトって感じだねぇ。
自分はそう言う目で見られるの慣れてるから別にいんだけどね。

「えぇっとーどうしよっかなー?」

「お姉さんは時間ある? お話しないー?」

308小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/01/13(土) 00:58:38
>>307

  「――はじめまして……」

軽い会釈と共に挨拶する。
どうやら自分が忘れているというわけではなかったらしい。
そのことに対して、ひとまず安心した。

  「ええ……私は構いません」

  「……あちらに行きましょうか」

そう言ってから、人の少ない一角に向かって歩き出す。
どちらかというと寂しがりな性格ということもあり、人と話すのは好きな方だ。
きっかけは突然ではあっても悪い気はしない。

  「私は小石川といいます」

  「よろしければ、お名前を聞かせていただけますか?」

309ゲルトルート『ラスト・ワルツ・リフレイン』:2018/01/13(土) 01:03:38
>>308

わーお。ちょっと安心ー的な?
これ、断られることも多いんだよねぇ。
ま、しょーがないけどねぇ。

「ありがとーお姉さん」

「ふふっ。ナンパみたいだねぇ」

「えっと、名前。ツクモ。それか、ゲルトかトゥルーデ」

名字とあだ名とあだ名ね。

「よろしくね。小石川のお姉さん」

310小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/01/13(土) 01:21:18
>>309

  「私も、誰かとお話するのは好きですから……」

  「それでは……ツクモさんとお呼びします」

目的の場所へ着き、歩みを止める。
境内には多くの人がいるが、二人の周りにいる人の数は少ない。
少なくとも、周囲の話し声で声が聞き取りにくいということはないだろう。

  「――先程、会ったことがないかとおっしゃいましたね……」

  「何か……訳があるのでしょうか?」

  「もし差し支えなければ、教えていただけませんか?」

気にならないといえば嘘になる。
ただ、どうしても聞かなければならないということでもない。
もし彼女の気に障るようなら、これ以上は立ち入るつもりはない。

311ゲルトルート『ラスト・ワルツ・リフレイン』:2018/01/13(土) 01:36:25
>>310

「訳。うん、あるよ」

そういって自分は右の耳を触る。
三つのピアス。
それが癖になっている。

「デジャブって知ってる? 見たことがない事を見たことがあるように思うっていうか」

「未経験をすでに経験したことと思うって事」

既視感ともいうその概念。
自分がずっと苛まれる病気でもある。

「自分はデジャブをよく起こすんだ」

「で、なんでかなぁって悩んでる。それと自分の行いが経験したことなのか未経験なのか曖昧になっちゃったの」

「だから、確認ーみたいな?」

交流しないと事実がどうなのか確認が出来ないんだなぁ。

「あ。自分からも聞いていい? お姉さんはなんで喪服?」

312小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/01/13(土) 01:56:42
>>311

  「――そんなことが……」

デジャブというものは知っている。
自分も、時々そういったものを感じることはある。
しかし、そう頻繁に体験するというわけではない。

  「不思議……ですね」

ピアスに目をやりながら呟く。
初めて会った者同士が、こうして会話をしていることも、第三者から見れば不思議なことかもしれない。
そう考えてみると、この出会いも何か不思議なもののように感じられた。

  「私は……」

  「大切な人に……伝えるためです」

  「いつも想っている、と……」

おもむろに両手を胸の前に上げて、軽く握る。
左手の薬指と右手の薬指。
その二ヶ所に、同じデザインの銀の指輪が光っていた。

313ゲルトルート『ラスト・ワルツ・リフレイン』:2018/01/14(日) 00:31:35
>>312

「不思議だよねぇ」

困ったところだよ。

「んー!」

あらら、想い人ときたかい。
予想外、いや考えたら思いつくのかなぁ。
左右一緒の指に指輪か。
自分も指輪してるけど両の小指だからねぇ。

「いいじゃんねーそういうのも」

314小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/01/14(日) 01:01:25
>>313

  「……ええ、そうです」

呟くように言葉を告げて、自分の指輪に愛おしげな視線を向ける。
左手の指輪は自分のもの、右手は彼の形見だ。
少しして、また静かに両手を下ろして目の前の相手に向き直った。

  「デジャブ……私とも、どこかで会ったように感じていらっしゃったのでしょうか……」

  「もしよければ、ツクモさんのことをもう少し教えていただけませんか?」

  「もしかすると……気付かない内に、どこかで会っていたのかもしれませんから」

町の通りで擦れ違ったとか、たまたま同じ店の中にいたというようなこともあるかもしれない。
ただ、特に解き明かさなければならない問題というわけでもない。
このツクモという不思議な女性のことを、もう少し知りたくなったというのが正直なところだった。

315ゲルトルート『ラスト・ワルツ・リフレイン』:2018/01/14(日) 01:33:38
>>314

「そう。どこかで会った気がした」

「というか、この人の波もどこかで見た覚えがあって、どう動けば誰がどう動くかある程度見当ついてたというかー」

勿論、予想の通りに進むとは限らないけどねぇ。
裏返せばある程度は分かったうえで出来るってことかな。

「自分の事? うん、お姉さんがいいなら」

「えっと、何から話そうかな。何かある?」

316小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/01/14(日) 01:53:28
>>315

  「そうですね……」

そっと目を伏せて、少し考える。
何がいいだろうか。
話しやすいものがいいが、あまり踏み込みすぎるのも失礼に当たる。

  「――ツクモさんは、何がお好きですか?」

考えた結果、趣味というところに行き着いた。
不思議な雰囲気を漂わせている彼女は、何が好きなのだろう。

  「私は……森林浴をするのが好きです」

  「それから、庭の花壇でラベンダーの栽培を少し……」

  「木の匂いやラベンダーの香りに包まれていると、気分を落ち着かせてくれるので……」

317ゲルトルート『ラスト・ワルツ・リフレイン』:2018/01/14(日) 22:57:20
>>316

「好き、好きかー」

「……お姉さん、森林浴するんだね」

自分はそういうことはしないけど。
まぁでもお姉さんはイメージに合ってるかな?
マッチしてるかな? ベストマッチ、かな?

「自分はー実験? と、昼寝と散歩とー」

「可愛い子? 可愛い系は好き? 好き好き。うん、ほんとほんと」

318小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/01/15(月) 00:56:24
>>317

  「散歩は私も好きです」

  「自然公園の辺りには、よく……」

自分と共通する部分を見つけて、微笑みを浮かべる。
全く違うタイプのようでいて、実際は気の合う部分もあるのかもしれない。
もちろん、少し会話をしただけだけで、相手の人となりが分かるとも思っていない。
ただ、同じような部分が見つかると、ささやかな喜びはある。
それもまた確かなことだ。

  「……実験――」

  「なんだか……難しいことをなさっているのですね……」

自分とは縁遠い単語だ。
どんなものなのか、なんとなく想像はできる。
しかし、実際にどんなことをするのかは予想できない。

  「可愛い、ですか……」

その言葉を聞いて、少し考える。
何か、そこに力が篭っているような印象を受けた。

  「誰か……そういった方が身の回りにいらっしゃるのですか?」

319ゲルトルート『ラスト・ワルツ・リフレイン』:2018/01/15(月) 01:33:13
>>318

「いいよねぇ散歩」

「刺激的すぎない刺激ー」

もっとも、自分の場合は今みたいな簡単な実験をするつもりで散歩してたりもするけどね?

「そー実験。昔は先生になりたかったんだぁ」

「ってー今もかな」

諦めきれないとかじゃあないんだけどね。
そうありたい姿ではあるんだよね。

「可愛い……うん。いるよ」

「自分は可愛いものを身の回りに置くのが好きだよ」

「ほら、好きなブランドと近いかな。人間だからブランドってことはないんだけど」

320小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/01/15(月) 02:12:39
>>319

  「ええ、お気持ちは分かります」

自分も、この指輪を肌身離さず身につけている。
この世に二つとない、大切な形見の品だからだ。
形は違えど、大事なものを傍に置きたいという意味では似通った部分もある。

  「先生ということは……科学の先生ということでしょうか?」

  「そういったことについては心得がないので、私には想像もつきませんが……」

  「志を持っておられることは、素敵なことだと思います」

自分には、彼女のように何かになりたいという目標はない。
しいて言うなら、この命を全うすることくらいだ。
自分にとっては大きな困難を伴う願い。
時折、心が折れてしまいそうになることもある。
ただ、それでも成就したいという思いも持ち続けている。

  「もし、よければ――」

  「少し歩きながら、お話しの続きをしませんか?」

  「お互いに散歩が好きな者同士として、一緒にお散歩をさせていただきたいと思うのですが……」

  「――いかがでしょうか?」

履いている草履の先を静かに神社の外に向けて、穏やかな微笑と共に誘いの言葉を掛ける。
彼女が承諾してくれたなら、話の続きは歩きながら聞くことになるだろう。

321ゲルトルート『ラスト・ワルツ・リフレイン』:2018/01/15(月) 23:35:22
>>320

「素敵って言われるとむずがゆいなー」

「ま、ありがっとー」

なれるかな。
なれちゃうのかな。自分。

「一緒にお散歩? いいよー」

「断る理由、ないしね」

うんうん。これもまた経験だ。
これは経験した覚えがないから、一つ未知の道をすすめたね。
自分との関わりの中でこの人も変化したのかな。
そして自分自身も変化出来たのかな?
ま、どっちでも大丈夫だね。

「じゃ、行こっかーお姉さん!」

322小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/02/18(日) 22:41:08

                 コッ コッ コッ ……

黒いキャペリンハットに洋装の喪服と黒いパンプスという普段着の上に、ラベンダーを思わせる紫色のコートを着て、
夕日に染まる街を歩いている。
いくつかの店を回って買い物を済ませ、やがて帰宅の途に就いた。
街中の賑やかさから離れ、人通りの少ない閑静な通りに足を踏み入れる。

            ……ィ

   ――……?

その時、何か動物の鳴き声が聞こえたような気がした。
思わず足を止めて、その場で振り返る。
しかし、そこには何もいなかった。
聞き間違いだったのだろうか。
そう思い、再び正面に向き直る。

           ……ミィ

その時、また鳴き声が聞こえた。
今度は、先程よりもはっきりと、耳に届いた。
鳴き声に応えるように、おもむろに自身の頭上を仰ぎ見る。

  「――あっ……」

背の高い一本の街路樹。
その枝の上で、一匹の猫が不安げな声で鳴いていた。
自分は、その猫に見覚えがあった。
以前、星見横丁で見かけたことがあったのだ。
その時に一緒にいた少年は、この猫を『あい』と呼んでいたことを覚えている。

おそらくは、木に登った後で下りられなくなってしまったのだろう。
どうすれば無事に下ろしてあげられるのだろう。
夕暮れに照らされた通りに一人佇み、胸中で思案しながら、木の上を見つめている。

323アンジェ『シェパーズ・ディライト』:2018/02/18(日) 22:50:19
>>322
「おねーさんどうしたの?」

少し離れたところから声をかけたのは、金髪碧眼の少女。
清月学園の中等部の制服を身に纏っている。

少女は街路樹のネコに気付いていないらしく、
何やら街路樹の前で空を曲げている女性を怪訝に思ったようだ。

324小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/02/18(日) 23:27:13
>>323

少女の声を聞き、そちらに顔を向ける。
その表情には、少し困ったような微笑が浮かんでいた。
少女に向かって、軽く頭を下げて挨拶する。

  「あの上に……猫がいるんです……」

  「ただ――自力で下りられなくなっているようなのです」

  「怪我をしない内に、下ろしてあげたいのですが……」

街路樹に猫がいることと、その状況を少女に告げる。
自分だけでは、この猫を下ろしてあげることは難しいだろう。
しかし、この少女も、力では自分と大きな違いはなさそうに思える。

やはり、誰か他に力のありそうな人を呼んでくるべきだろうか。
そんなことを考えながら、猫の様子を見守る。
目の前にいながら、不安そうに鳴いている猫を助けられないことを歯痒く思っていた。

325アンジェ『シェパーズ・ディライト』:2018/02/18(日) 23:43:39
>>324
「え? あっ! ほんとだ!」

目の前の女性の言葉に、金髪碧眼の少女──アンジェは得心する。
確かに、ネコが降りられなくなっている。これは大変だ。

「助けてあげないと……ちょっと待ってね〜……」

事態を認識したアンジェはそう言って、
猫のいる街路樹の下に駆け寄る。
どうやら、ここで助けるつもりらしい。
木でも登る気なのか、と思いきや──

          ズッ

と、少女の身体から乖離するように、
夕焼けのような輝きを秘めた
屈強な肉体を持つ羊角の人型が現れる。
強靭そうな肉体とは裏腹に、その恰好は燕尾服。
何かミスマッチなかみ合わせだった。

    『フゥッ……』  ズオオ

現れた人型スタンド──『シェパーズ・ディライト』は、
一跳びに跳躍すると、猫の腹を両手で挟んで捕獲する。
高速かつ精密な動き……メタ的に言うとス精BBくらいだった。

なお、アンジェはこの間両手を上げて『おいでおいで〜』とやっている。
おそらく、このままスタンドを戻して
『声に反応して降りたネコを抱きかかえました』というポーズにするつもりなのだろう。

326小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/02/19(月) 00:05:37
>>325

  「――……!」

まず、街路樹に駆け寄る少女を見た。
続いて、彼女が発現した、角を持つ屈強な人型スタンドを目視した。
予想していなかった光景を目の当たりにして、その表情に驚きの色が現れる。

  「……ありがとうございます」

深く頭を下げると共に、少女に感謝の言葉を述べる。
やがて、少女を見つめる視線が、その傍らに立つ少女のスタンドへ移る。
その様子を見れば、スタンドが見えていることは一目瞭然だろう。

  「――良かった……」

まもなく、小さな声で安堵の呟きを発しながら、少女のスタンドによって助けられた猫に視線を移した。
本当に無事で良かった。
思いがけずスタンドを目撃した驚きよりも、今は猫が無事だったことを喜ぶ気持ちの方が大きかった。

327アンジェ『シェパーズ・ディライト』:2018/02/19(月) 00:15:50
>>326
アンジェはというと気づかれたとは毛頭思っていないようで、
スタンドから渡された猫を抱きかかえたまま、小石川の方へと向き直った。

「うん、ほんとによかったね!
 この子も怪我とかしてないみたいだし!」

破顔一笑して、それからアンジェは気付いた。
目の前の女性の視線が、自分ではなくスタンドに向けられていたことに。
その視線はすぐ助けられた猫の方へと映ったが、まぁ流石に分かる。

「えーと……」

『スタンド使いなんだ?』と聞きたい好奇心はもちろんあるが、
それより先に、まずは猫の方をどうにかせねばなるまい。
つたない頭脳でそう計算を弾き出したアンジェは、
傍らに立つ夕焼け色の屈強な戦士と一緒に小首を傾げた。

「このネコ、お姉さんのネコ?」

328小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/02/19(月) 00:36:27
>>327

  「いえ――私の猫ではありません……」

  「野良猫ですが、以前に見かけたことがあるんです」

  「その猫を私よりも前から知っていた私の知人は、『あい』と呼んでいました」

そう言って、少女に対して穏やかな微笑みを向ける。
そして、スタンドに抱き抱えられている猫を見つめた。
猫は、スタンドの腕の中で体を捩っていた。
もしかすると、下ろして欲しいのかもしれない。
木上から助けられた今、このまま離してしまっても問題はないだろう。

  「もう大丈夫なようですね」

  「――下ろしてみていただけますか?」

少女に猫の様子を伝え、猫を地上に下ろすように頼む。
その後は、おそらく自分の居場所へ帰っていくのだろう。
人間に居場所があるように、彼らにも居場所はあるのだろうから。

329アンジェ『シェパーズ・ディライト』:2018/02/19(月) 00:43:24
>>328
「へぇー……」

野良猫、との言葉にぽけーと頷き、
それから猫を下してやる。
「あいちゃんじゃあねー」なんて言いつつ見送ると、

「──でも、わたしはびっくりしたよ!
 まさかこんなところでスタンド使いと会うなんて!」

言いながら、彼女の身体に溶け込むように、
『シェパーズ・ディライト』は消えていく。

ちなみにアンジェは以前の邂逅で
『ものを運ぶのが苦手なスタンド使いもいる』と
知ったので、目の前の女性もまぁそうなんだろうなと思っている。

330小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/02/19(月) 02:54:47
>>329

  「――さようなら……」

少女と同じように、立ち去ろうとする猫に別れの言葉を掛ける。
それらの呼び声に反応したのか、猫は一度だけ振り返り、小さな声で鳴いた。
そして、そのまま通りを歩いていく。
明るい夕焼けの中に、しなやかな猫のシルエットが浮かんでいる。
その姿は徐々に小さくなり、やがて見えなくなった。

  「私も驚きました」

  「それに、あんなにも力強いスタンドは見たことがなかったので……」

今しがた目にしたスタンド――『シェパーズ・ディライト』を思い出す。
自分も、それほど多くのスタンドを見てきたわけではない。
それでも、目の前にいる少女のスタンドからは、ほとんど出会ったことがないくらいの力強さを感じた。

  「私の『スーサイド・ライフ』では、あの猫を助けることはできなかったと思います」

  「この場に、あなたがいてくれたことは、本当に幸運でした」

『スーサイド・ライフ』は、自身の肉体を切り離すことによって遠隔操作を可能とするナイフのスタンド。
         パーツ
切り離された『部位』は非力であり、能力を持たない者にも視認できる。
猫をしっかりと捕まえられたかは分からないし、そもそも猫を驚かせてしまう。
助けるどころか、木から転落させてしまうことも考えられる。
そうしたことを考えると、自分のスタンド能力では木から下りられなくなった猫を助けることは難しかっただろう。

331アンジェ『シェパーズ・ディライト』:2018/02/19(月) 23:31:37
>>330
「それほどでもある!」

小石川の言葉に、アンジェは衒った様子もなく素直に頷いた。
元より謙遜とか気遣いとかができるタイプではないのだ。

「ふふん。わたしの『シェパーズ・ディライト』は力持ちだし
 すばしっこいし起用だしでけっこうなんでもできるんだよね。
 できないことなんて遠くのリモコンを取って来るくらい……」

普段のスタンドの使い方がよく分かるセリフである。

「ただ、あの猫はけっこうギリギリだったかな……。
 距離的に、あと少し高いところにいたら届かなかったかも」

パワーとスピード、そして精密性の代償として、
『シェパーズ・ディライト』は射程がとても短い。
意外とギリギリの勝負だったらしい。

「ちなみに、そんなこと言うお姉さんのスタンド能力ってなんなのさ? 拳銃とか??」

知り合いに拳銃の能力を使うスタンド使い(蓮華)がいるのだ。
とはいえヴィジョンだけで、詳しい能力など知らないのだが――
アンジェにとっては自分以外に知っている唯一のスタンドなので印象が強い。

332小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/02/20(火) 00:24:43
>>331

  「私のスタンドは、遠くにあるものを持ってくるには、とても便利ですよ」

スタンドの活用について話す少女に対し、帽子の陰でくすりと笑いながら答える。
ただ、実際に遠くのものを持ってくるためだけにスタンドを使うことはしていない。
元々、普段の生活の中ではスタンドを使ってはいなかった。
日常で使う機会がないというのもあるが、できればあまり使いたくないとも思っている。
もし使うことがあるとすれば、それは必要に迫られた時だけだ。

  「――拳銃……ですか……?」

耳慣れない言葉を聞いて、思わず同じ言葉を繰り返してしまった。
普通は、テレビや映画の中くらいでしか目にすることのない道具だろう。
それでも、それがスタンドならば、そういった形のものがあっても不思議ではないと思い直した。

  「私のスタンドは――」

静かに左手を持ち上げて、胸元にかざす。
その手を軽く握り、見えない何かを持つような形を作った。
静かに目を閉じて、意識を集中する。

       スラァァァァァ――――z____

一瞬の間を置いて、先程まで空だった左手の内に、スタンドのヴィジョンが姿を現した。
それは、一振りの『ナイフ』だ。
まもなく、閉じていた目を再び開く。

  「『スーサイド・ライフ』――これが、私のスタンドです……」

燃えるような夕日が、『スーサイド・ライフ』を照らしている。
鋭利な刃は、金属質の鈍い輝きを放っていた。
その輝きからは、切れ味の鋭さが窺い知れるだろう。

333アンジェ『シェパーズ・ディライト』:2018/02/20(火) 00:30:37
>>332
「わっ! きれい!」

突如小石川の手の中に現れたナイフに、アンジェは目を輝かせた。
夕日色を照り返すそれを見ながら、

「やっぱり『スタンド』って道具とか武器とかの方が
 多いのかな〜……? わたしのはなんで人なんだろう」

と、刃に映る自分とにらめっこをするみたいに
まじまじと『スーサイド・ライフ』を見つめていた。
その表情に、鋭利な刃物に対する警戒の色はない。
対抗できる──とかではなく、単純に思考が平和なのだろう。

「なんか、人によって色々な形があるって不思議だよねぇ」

334小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/02/20(火) 01:06:32
>>333

  「本来、スタンドというのは、人の形をしていることが多いようです」

  「私も、そんなに沢山のスタンドを見ているわけではないので、はっきりとは言えませんが……」

そう言った後で、手の中にある『スーサイド・ライフ』を解除する。
今は特に使う必要もない。
それに、スタンドとはいえ人前で刃物を持ったままでいるというのは礼儀に反する。

  「そうですね……」

  「人がそれぞれ違った姿をしているのと同じように、
   それぞれが違った心を持っているということなのでしょうか……」

  「たとえば――あなたと私がそうであるように……」

『スーサイド・ライフ』の能力は、本体の『自傷』によって発動する。
スタンドが精神の現れであるなら、これほど自分に相応しいものはないと感じる。
私自身が、自傷行為という鎮静剤なしでは生きられない人間なのだから。
ほんの一瞬、表情に暗い陰が入り交じる。
それでも、すぐに気を取り直し、再び口元に微笑を浮かべた。

  「私は、小石川文子という者です」

  「もしよろしければ……出会いの記念に、あなたのお名前を教えていただけませんか?」

335アンジェ『シェパーズ・ディライト』:2018/02/20(火) 23:02:34
>>334
「なるほど……確かに、わたしとアナタは違うね……」

分かったんだか分かってないんだか、
とりあえず分かった気ではいそうな神妙な面持ちで頷くアンジェ。

「──よろしく文子! わたしはアンジェ!
 アンジェリカ・マームズベリーだよ!」

一瞬小石川に浮かんだ暗い色の表情には気づかず、
アンジェはにっこりと笑って手を差し出した。
握手がしたい……ということなのだろう。

控えめな小石川の態度に対し、アンジェの態度は
かなり遠慮を知らないグイグイっぷりである。
こういうお国柄なのかもしれないが。

336小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/02/21(水) 01:37:52
>>335

日本人だからという理由だけではなく、自分は元々あまり積極的ではない性格だった。
しかし、表情に困惑の色はない。
この異国の少女は、自分にはない明るさを持っている。
こうした無邪気な輝きに触れることは、自分にとっても好ましいことだと思う。
ふとしたきっかけで悲観的になってしまいがちな自分の心を励まし、勇気付けてもらえる気がするから。

  「アンジェリカさん……ですね」

  「――よろしくお願いします」

アンジェが右手を差し出したのなら右手を、左手を差し出していれば左手で握手に応じる。
どちらの場合でも、共通していることが一つあった。
薬指に光るものがある。
飾り気のないシンプルな銀の指輪だ。
それは通常であれば左手だけにはめられる類のものだが、その指輪は両手の薬指にはめられている。

  「アンジェリカさんは、清月学園に通っていらっしゃるんですか?」

  「その制服を着た生徒さん達を、何度か見かけたことがあったので……」

彼女が身に着けているのは清月学園の制服だ。
しかし、一般の生徒という感じには見えない。
見たところ、留学生なのだろうか。

337アンジェ『シェパーズ・ディライト』:2018/02/22(木) 21:21:49
>>336
「アンジェでいいよ! みんなそう呼ぶし」

やはり全体的に距離感の近い少女である。
ちなみに、握手は左手でしていた。利き手が左なのかもしれない。

(あ……結婚してるんだ)

なので薬指の指輪を見てそう理解するが、
だからといって『既婚者なんですね!』と言うほどアンジェの距離感は近くはなかった。

「うん! あ、ちなみに。わたしは去年の九月から日本に来てね。
 清月学園にはその頃から通い始めたよ。『ムシャシュギョー』中なんだ」

よく分からない説明だが、おおよそ『留学生』という認識で間違いないだろう。
九月という『日本の基準』では中途半端な編入時期は──
おそらく、彼女の故国での新学期に合わせた、という形だと思われる。

「あ、『ムシャシュギョー』って言うのはね。わたしもともと
 ケンシキ? を広めるためにこっちに来たんだけど、
 日本ではそういうのを『ムシャシュギョー』って言うらしくってね〜」

聞かれてもいないことをぺらぺら話し始めた。

338小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/02/22(木) 22:31:20
>>337

  「分かりました。それでは、アンジェさんと呼ばせていただきます」

最初に断りを入れてから、少女に対する呼び方を訂正する。
それでも、控えめな態度は変わらない。
元々の気質であるので、こればかりは変えようがなかった。

  「――見識を……。それは、とても立派なことだと思います」

  「この国での――この町での、あなたの『武者修行』が実りあるものとなるよう、陰ながらお祈りしています」

  「アンジェさんのような行動力を、私も見習わなければいけませんね」

そう言って、くすりと笑う。
慎ましく、穏やかな微笑みだった。
その表情は、この出会いにささやかな喜びを感じていることを裏付けていた。

      スッ

ふと顔を上げると、夕日が沈みかけているのが目に入る。
思いの他、長く話していたようだ。
楽しい時間は早く過ぎるということかもしれない。

  「――ごめんなさい。すっかり話し込んでしまって……」

  「アンジェさん、またどこかでお会いしましょう」

丁寧に頭を下げ、別れの挨拶を告げてから、自宅に向かって通りを歩き始める。
誰にも帰る場所はある。
それは、このアンジェという少女にもあるだろうし、おそらく野良猫のあいにもあるのだろう。
そして、私にも帰るべき場所がある。
たとえ、そこに誰も待っていないとしても、それでもそこは私と『彼』の場所なのだから。

339美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/01(日) 23:47:39
      
               ――夕方 星見町内ラジオ局――

   「――さてさて、今日もこの時間がやって参りました!皆様いかがお過ごしでしょうか?」

     「いつものように、パーソナリティーはワタクシこと『美作くるみ』でお送りします」

   「今週のテーマは『ドキッとしたこと』!
    リスナーの皆さんからの『私のドキッとしたこと』をお待ちしてますッ。
    採用された方には、コンビニ各社で使える番組特製クオカードを差し上げちゃいまぁす」

   「ちなみに、くるみの『ドキッとしたこと』は――あれは二年くらい前になりますかねえ。
    買い物してたんですね。大きなスーパーで」

   「その時、一緒にいた男友達が、何も言わずに重い荷物を持ってくれたんですよ。
    で、私は『いや、自分で持つからいいよ』って言ったんです」

   「そしたら、『じゃ、お前はこれを持っとけ』って言われて、彼が手を握ってきたんですよ。
    うっわキザだなあと思ったんですけど、あの時は不覚にも『ドキッ』としちゃいましたねえ」

   「でも、ここからが肝心なんですけど、その『ドキッとした話』を、女友達にしたんですね。
    この前こんなことあったんだけどっていう軽い感じで。
    そしたら、その友達が『え、ちょっと待って。私も同じことされたんだけど』って言い出したんですよ!」

   「つまり、ただの『チャラ男』だったってことなんですよね。これはですね、『ときめき損』ですね。
    私の『ドキッ』を返せ!と声を大にして言いたい瞬間でした!」

   「――さて、私が男運の悪さを披露したところで、リスナーの方(>>340)と電話が繋がったようです。
    はいもしもし、こちら美作くるみでございます」

340鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/02(月) 00:12:30
>>339

「あ。え、えーっと鈴元涼いいますぅ」

「美作さん? で、ええんよね?」

京ことばのイントネーションが混じった若い男の声だ。

341美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/02(月) 00:40:18
>>340

   「――鈴元さん、ですねえ?こんにちは!」

   「もしかして、ご出身は京都の方でしょうか?
   私もあんまり詳しくないんですけど、話し方がそんな風だったので
   京都の言葉って上品で素敵ですよねえ」

   「京都は場所もいいですよね。
    私も何回か旅行したことあるんですけど、なんていうかそこだけ別世界って感じで、
    日常から離れるにはうってつけですよねえ」

   「っと、ごめんなさい。話が反れちゃいましたね。
    お電話してくださったということは、何か『ドキッとしたこと』があったということでしょうか?」

342鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/02(月) 01:35:07
>>341

「いや、上品やなんてそんな……」

照れているのか言葉が濁る。

「でもテレビとかラジオの人とかきれぇに話しはるやろ?」

「僕はそっちの方がすごいって思うんよ」

「で、えーっとそうなんよ。うちの学校で」

343美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/02(月) 01:57:31
>>342

自分は、こうして日々多くのリスナーと話している。
しかし、こういったタイプは、あまり出会ったことがなかった。
言葉には出さないが、心の中では新鮮さを感じていた。

   「いやあ、ありがとうございます。
    そう言ってもらえると、私もこうしてお喋りしてる甲斐がありますねえ」

   「――ねえ、ディレクター?今、向こうで笑ってますけども」

   「なるほど、学校で――?」

おそらくは京都方面の出身。
そして学校ということは学生だろう。
果たして、どんな話をしてくれるのだろうか?

344鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/02(月) 02:21:48
>>343

「ん? 笑ってはるの? 僕なんか変な事言うたやろか?」

「あ、えっと、それでな」

ちょっとの間。
少し思い出して頭の中で整理。

「僕散歩が好きなんよ。引っ越して京都離れてな、地元……今はこっちが地元みたいなもんやねんけど」

「そんで、その日はガッコを散歩しようと思って」

「ほら、ガッコって僕ら毎日のように通ってるけど、授業の関係で使わん教室とかあらはるやろ?」

「そういうの見てみようと思って……ほんで、散歩してたら見てもうて」

345美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/02(月) 02:48:35
>>344

   「そういう訳じゃなくってね、彼も喜んでるってこと。
    だから、ディレクターの分まで、私がお礼を言っておきます。どうもありがとう」

そう言いながら、軽く頭を下げる。
もちろん電話では伝わらないが、こういうのは気持ちの問題だ。
ブースの外側では、ディレクターが片手を上げて同意の意思表示をしている。

   「ああ、言われてみたら確かに。一回も入らないまま卒業しちゃう部屋とか結構あるものね。
    こういうの灯台下暗しっていうのかな」

   「鈴元さんは、そこへ行って何かを見ちゃったってわけね。
    それで、そこには何がいたのかしら?
    なんだか怪談みたいね」

喋っている内に、やや砕けた口調に変わっていく。
それが自分のいつものスタイルだ。
少年が見たものはなんなのだろう?
本当に幽霊か何かでも現れたのだろうか。
怖い話をテーマにするには、まだ早い時期だけど。

346鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/02(月) 23:08:30
>>345

「あぁそうなんや。よかった」

変な事を言ったわけではないという事に胸を撫でおろす。
電話の向こうの相手には分からないことだが、声色は安心した色だ。

「そうなんよ。別館っていうんやろか? 旧校舎……やったら怪談にぴったりやったかもしれんけど」

「ようは実験室とか視聴覚室。そういう教室って、普段使ってる教室にはあんまりないやろ?」

だから座学の場合でも理科の実験などは教室を移動する必要がある。
そういう棟は使う機会が少ないので行く回数も自ずと少なくなる。

「やから、そっちの方に言ったんよ」

「で、その……音楽室の近く行ったら吹奏楽部が練習してて……」

「そこを通り過ぎて音楽準備室……で、あれと遭遇して……」

「なんていうんやろ、カップル? や、アベック? に。遭遇って言っても僕は廊下、向こうさんは準備室の中やけど」

347美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/02(月) 23:39:04
>>346

   「ああ、なるほどね。そういう教室って行く機会が少ないものね。
    科学部とか、その教室に関係するような部活をやってれば行くかもしれないけど。
    特別教室って、変わった道具があったりして興味を引かれるわよねえ」

――部活動、か。
そういえば私は入ってなかったなあ。
中学高校時代はアイドルの活動が忙しかったから、学校の出席日数もギリギリだったっけ。
考えてみれば、普通の学校生活っていうのを謳歌できてなかったかもしれない。
改めて思い直すと、そういう生活が眩しく思えてくる。

   「あらら?つまりロマンスの現場に遭遇しちゃったわけね。
    もし気付かれちゃったりしたら気まずいわよねえ」
 
   「それで、鈴元さんはどうしたのかしら?
    私だったら、こっそり見ちゃいそうだけど」

学校での甘い一時――羨ましい話だ。
アイドルという立場上、自分は恋愛もできなかった。
そもそも、恋をする暇もなかった。
当時の私は周囲から見れば羨望の対象だったのかもしれない。
今になってそれが逆転するというのは皮肉な話だ。

348鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/02(月) 23:50:50
>>347

「そう。やから、そっちの方行ってもうて」

行ってしまったという表現になるのは無意識のうちにマイナス意識が働いているのだろうか。

「うん……ロマンス」

「あんまり、褒められたことやないんやけど……見ててん……そういうの、その、や、ちゃうの、えっと、やめとくわ……」

何か言おうとしてやめる。
顔から火が出そうだ。思い出すだけで心臓がどくどくと速くなる。

「あの、そんで……その二人の片方。クラスメイトやって。なんていうんやろ、あんまり目立たへんっていうかそういう感じの子」

「僕もそういう感じやからよう覚えとって……向こうさんはそう思ってへんとは思うけど」

「やから、なんか、すごい意識してもうて……」

歯切れが悪い。
一つ一つ確認する様に話していく。

「向こうさん、こっち気付いてへんくて。そらそうやんね。だって隣は吹奏楽部、練習してるし。音とかじゃ気付かへんし」

「……ほんなら何で盛り上がったんか、急に二人こう、ぎゅーってして……ちゅーしはってん……」

「僕見たアカンって思うたんやけど見てもうて……もう、ドキーってしてもうたんよ」

349美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/03(火) 00:26:25
>>348

何か言いかけたことに対しては突っ込まない。
大体の内容は想像できる。
それに、電話の向こうにいるリスナーを尊重するのがパーソナリティーというものだ。

   「大人しいようでいて、結構大胆な子だったってことかしら?
    それは意外な一面ねえ。
    誰にでもそういう部分はあるかもしれないけど、実際に目の前で見ちゃうと驚くわよねえ」

   「隣に人がいるのは分かってたわけだし、急にってことは、気分が盛り上がっちゃったのかしらね?
    うん、確かに私もそういうことがあるわ。
    といっても、私は男運が悪いから、ロマンスのことじゃないんだけど」

   「後で考えてみると、『なんでこんなものを買っちゃったんだろう』って思うものを買ってきちゃったりとか。
    衝動的にっていうか。感覚でいうと、そういうものに近いかもしれないわね」

この手の恋愛話には、自分も人並みの興味は持っている。
最近は仕事のことばかりで、そういった話とはご無沙汰だ。
私も抱き合ってキスできる恋人が欲しい――なあんてことを、ふと考えてしまう。

   「思いがけずに遭遇した校内のロマンス。
    ふふ、それが鈴元さんの『ドキッとしたこと』なわけね。
    どうも、ありがとう」

この辺りで話も終わりだろうか。
そう考えて、最後のまとめに入っていく。
何事もなければ、もうちょっとでこの通話を終えることになるだろう。

   「ところで、その後は二人に見つからずに無事にその場から離れられたのかしら?」

最後に一つの質問を投げかける。
これは、個人的な興味もあった。
仕事に私情を挟むのは良くないが、これくらいは許されるだろう。

350鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/03(火) 01:03:47
>>349

「ほんまに驚いて驚いて……はぁ……いま思い出しただけでもドキドキするわぁ」

ため息も出る。
心臓に悪い経験だったのだろう。

「うん。意外やった……失礼な言い方かもしれんけど、ほんまに」

「……あの、ラジオ聞いてる印象やけど美作さん、エエ人やから」

「きっと、エエ人見つかると思う。あ、その、これはナンパとかやなくて……あぁ、えっと……」

自分で言って自分で慌てて。
そういう独り相撲だ。

「……実ははよのかなと思ってそこから動こうとした時、目がおうてん」

「女の人の方。うっとこ、一貫校やねんけど高校生の人」

「こっち見て、笑って……ほんでなんか言ってん。もちろん、声には出してへんかったよ」

もし出していたら男子生徒に気付かれていただろうから。

「何言ったかは分からへん。僕、そのあとすぐ走って逃げたから」

「そういうお話でした……聞いてくれて。おおきにはばかりさん」

351美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/03(火) 02:02:30
>>350

   「ふふ、ありがとう。
    でも、そんなこと言われたら、調子に乗っちゃうわよ。
    この場を借りて、どこかにいい人がいないか募集でもしましょうかね?あ、ダメ?」

   「残念ながら番組の私物化はNGということで、ね。
    潔く自分で探すことにしましょうか。
    その代わり、ディレクターもいい人がいたら紹介してくださいよ?」

もちろん冗談だ。
まあ、全部が冗談かというと微妙なところだけど。
今のところそこまで飢えてはいないけど、いい人が見つかればいいなというのは本当だから。

   「ふむ、気になるわねえ。その子が何を言ったのか……。
    でも、笑ってたってことは、怒ってたわけじゃないみたいね。
    照れ隠しという感じでもないようだし……」

   「ロマンスは一種のミステリー。それにまつわる人達も謎のベールに包まれてるってところかしら。
    とても興味深いお話だったわ」

マイクを前にして、うんうんと頷く。
実際のところ、何を言ったのかは気になる。
しばらく頭の片隅に残りそうだ。

   「どうもありがとう。
    鈴元さんからいただいた『ドキッとしたこと』でした!
    聞いてる私も思わず『ドキッ』としちゃうようなお話でしたねえ」

   「お話してくださった鈴元さんには、番組特製クオカードを差し上げます!
    のちほど番組から折り返し電話させていただきますので、その際に送り先をお伝え下さい」

   「今日は本当にありがとうねえ、鈴元さん。またいつかお話しましょう!
    番組の方も引き続き応援よろしくね」

    「――それじゃ、またいつか!」

そう言って、通話を終了する。
『またいつか』というのは、自分の好きなフレーズだった。
一度だけの邂逅かもしれないが、もしかすると次もあるかもしれないからだ。
一人一人のリスナーを大事にしたいという思いが、自分の中にはある。
応援してくれる人を大切に思う気持ちは、アイドルだった時も、パーソナリティーである今も変わらない。

    ――後日、少年の下にコンビニ全店で使える番組特製クオカード(500円分)が届けられた。
       メッセージカードが同封されている。
       『いつかお互いに、いい人見つけようね!by美作くるみ』


鈴元 涼『ザ・ギャザリング』→『500円分クオカード』Get!!

352美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/05/28(月) 23:38:05

ラジオのスイッチを入れれば、その声が聞こえてくるだろう。
今この時、この町のどこかで、誰かがそれを聴いているはずだ。
それが誰なのかは分からない。
でも、聴いてくれる誰かのために、私は今日も声を届ける。

「今日も、あなたの隣に『電気カナリア』の囀りを――」

その言葉が、始まりの合図。
軽快だけど、派手になりすぎない音楽が鳴り始める。
今からが『私の時間』だ。

「『Electric Canary Garden』――
 パーソナリティーは、この私『カナリアボイス』こと『美作くるみ』がお送りしまぁす!」

「実を言うと、今朝ちょっとした事件が起きたの。
 起きたら、私のスマホがなくなってたのよ」

「あちこち探しても見つからなくて。
 で、ノド乾いたから何か飲もうと思って冷蔵庫を開けたのね」

「そしたら、なんと!冷蔵庫の中にスマホが置いてあったのよ!
 いい感じに冷えて、ヒンヤリしちゃってたわ。
 それを見て『え!?なんで!?』って思って、ちょっと考えたの」

「それで思い出したんだけど、昨日の夜、私ノド乾いちゃって一回起きてたの。
 今朝と同じように何か飲もうと思って、冷蔵庫を開けたのよ。
 片手には、ついでにチェックしてたスマホを持ったままでね」

「その時、私まだ半分くらい寝てる状態で。
 ねぼけながら飲み物を飲んで、それを冷蔵庫に戻す時、スマホも一緒に置いちゃってたのよねえ。
 それに気付かないまま、また寝ちゃってたってわけ」

「ホントに、ねぼけてる時って、とんでもないことしちゃうわよねえ。
 うっかり入れたのが『冷凍庫』の中じゃなくて良かったわぁ。
 みんなも気をつけようね!くるみとの約束よ!」

「――と、まあ私の恥をさらして場が和んだところで……今回のテーマは『私の失敗したこと』!
 『あー、やっちゃったわあ〜』っていう、あなたの体験談をお待ちしてまぁす!
 採用された方には、全国のコンビニで使える番組のロゴ入り特製クオカードを差し上げちゃいます!」

「おっと、早速リスナーの方(>>353)とお電話が繋がったようです。
 もしもし?こちらは『カナリアボイス』こと『美作くるみ』でございまぁす」

353溝呂木『レッドバッジ・オブ・カラッジ』:2018/05/31(木) 00:09:33
>>352

       「――――あ、もしもしィ?」

            「これ通じてる?」

                「緊張するなァ」「ハハハ」

緊張するから電話が嫌いって人、いるよね。
普通は見えてるはずの相手の顔が見えていなくて、細かいニュアンスにも気をつけなきゃいけないからか……
……実際、僕の職場でも『怖くて電話を取りたくない』ってコがいるしねぇ。
職場の電話ともなると責任もついて回るし、不安ってのもまぁわからんでもない話だ。

    「いつもラジオ聞いてます、『TK』で〜す」

―――ま、僕は割と気にしないタイプで、だからこうして贔屓のラジオに電話かけてみたりしてるわけだけども。

354美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/05/31(木) 00:52:14
>>353

「はいはい、ちゃぁんと通じてますよぉ〜。
 お電話ありがとうございます!」

顔の見えない相手との会話。
電話というのは普通そういうもの。
最近ではテレビ電話というのもあるけれど、ラジオというのは声を届けるものだ。
だから、ここで交わされる会話も声だけのやり取り。
もっとも、私の顔は番組の公式サイトに掲載されているので、知っている人は知っているだろう。

「はぁい、『TK』さんですね!いつも聴いてくださってありがとうございまぁす!
 その言葉をいただけることが何よりも嬉しいことですからねぇ〜。
 
「この番組やってて良かった〜って思える瞬間ですねえ。
 これからも、どうぞ応援よろしくお願いしますっ!」

リスナーから貰える応援の言葉。
それは私にとって一番嬉しいものだ。
別の言い方をすると、『やり甲斐』と呼んでもいいだろう。
聴いてくれる人から私が元気を貰い、私の声でリスナーを少しでも元気にしたい。
大袈裟かもしれないけど、なんというか、そういう『良い循環』を作っていきたいと思っている。

「さてさて、今回は『私の失敗したこと』というテーマでお送りしています」

「早速ですが、『TK』さんの『失敗したこと』をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

355溝呂木『レッドバッジ・オブ・カラッジ』:2018/05/31(木) 01:15:18
>>354

   「もちろん、これからも応援させてもらうよー」

実際のとこ、欠かさず聞いてるってほどではないんだけどね。
それでもまぁ、気付けば聞く程度には『お気に入り』だ。

    「で、うん」
           「『失敗談』ね、『失敗談』」

  「さっきのくるみさんの『スマホ冷蔵事件』ほど愉快な話じゃないんだけどサァ」

少し茶化すように言ってから、僕は本題を切り出した。

     「こないだね?」「『ソファ』買ったんだよ」

         「結構オシャレな奴……『デパート』でいいの見つけてさ」

       「思わず買っちゃったワケ」

356美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/05/31(木) 01:41:44
>>355

「アハハハ。いやぁ〜気をつけないといけませんねぇ〜。
 でも、これからの季節はヒンヤリしてるのも悪くないかもしれませんねぇ」

冗談めかして明るく笑う。
私の声は、大人っぽいというほどしっとりはしていない。
かといって、学生みたいに賑やかな声でもない。
丁度その中間辺りといった感じ。
実際のところ、年齢もその辺りなのだ。

「『ソファ』ですか。いいですねえ。
 私も輸入品の家具とか見るのが好きなんですよぉ」

「でも、結構お高いものが多くて、なかなか買うのは難しいですねえ。
 買おうとしたら、『ゼロ』が一つ多かったりとか……。
 最近は、見て満足しちゃうことも多かったり――」

「さてさて、ソファを買った『TK』さんの身に何が起こったのでしょうか?
 気になりますねぇ〜」

357溝呂木『レッドバッジ・オブ・カラッジ』:2018/05/31(木) 02:04:16
>>356

          「そーなんだよね」

   「僕も輸入品好きでサァ」「『エスニック系』のソファだったんだけど」

      「たまたま安くてさ。気に入って買っちゃたワケ」

ああいうの、風情があっていいよね。
お金に余裕があったら、『トルコランプ』とかもつけてみたいとこだけど。

  「で……その日は『車』ってわけでもなかったし、『お届け』してもらうじゃん?」

       「『土曜朝指定』だったんだけど……結構遠かったんだよね、日付」

    「なんか運送屋の都合とかで。仕方ないんだけどさ」

         「それで僕すっかり忘れちゃってて、前日に『徹夜』しちゃったんだよ」

      「そろそろ寝よっかな、って頃に業者来ちゃってさー……」

   「もー受け取る時眠いのなんのって……受け取った直後に寝たね。新品のソファで」

自分が悪いとはいえ、あれはかなり堪えたね。
正直半分寝たたからね、僕。
その時の記憶、相当曖昧だからね。
―――――おっと、もちろん話はここで終わりじゃないぜ。
ここでオチだと、流石に弱すぎる。

358美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/05/31(木) 02:31:40
>>357

「はいはい、確かにありますよねよぇ、そういうコト。
 私も経験したことありますよぉ」

「自分で注文したものが忘れた頃にやって来て、『え?何?』って感じで。
 伝票見て『あぁ〜』って納得するんですよねえ。

「そういうのって『自分へのサプライズ』みたいなところがありますねえ。
 『自分へのご褒美』じゃないですけど」 

「でも、あんまり待ってる時間が長すぎると、
 『最初はワクワクしてたけど届く頃には冷静になっちゃってる』ってことも、たまにありますねぇ。
 衝動買いした時なんか、そのパターンになりがちですねえ」

「さて、受け取り直後に眠ってしまった『TK』さん。
 果たして、『TK』さんの失敗談も、くるみと同じ『ねぼけ系』なんでしょうか?
 これは、さすがの私も想像がつきませんねぇ」

話の流れからして、これで終わりとは思っていなかった。
この後に、何が起こったのだろうか?
実際のところ、予想がつかない。
元々、人の話に耳を傾けるのは好きなのだ。
パーソナリティーとして話を盛り上げるのは勿論だが、聞き手としても続きが気になっていた。

359溝呂木『レッドバッジ・オブ・カラッジ』:2018/05/31(木) 03:44:03
>>358

    「ま、この時は嬉しいとか以前に『眠い』って気持ちがメチャクチャに強かったからねぇ」

  「正直なんも考えられなかったよ」「寝心地は良かったけどね」

いいソファ買ったなって、正直今でも思ってる。

     「んで、『寝ぼけ系』っちゃ『寝ぼけ系』なんだけど……」

        「夕方ぐらいに起きたらさ」


      「――――――――リビングのドアが『無い』の」


    「……実はソファが結構大きくて、部屋に入れる時に一回扉外したんだよね」

          「そしたら業者さんが間違えて持って帰っちゃったみたいでさぁ」

        「僕それ眠かったせいで全然気づかないでスルーしちゃったんだよ」

   「『リビングのドア』なんて無くてもそこまで困るもんじゃないんだけど、あれは焦ったね……」

物凄い絶妙な気持ち悪さがあるんだよね。
あるべき場所にあるべきものが無いっていうの、すごく気持ち悪いよあれ。

360美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/05/31(木) 17:28:42
>>353

「ワァオ、それはまた凄いお話ですねぇ。
 初めて聞きましたよ〜。『起きてみたらドアがなくなってた』なんて。
 『なんのドッキリか』って感じですよねえ」

「もう呆然としちゃうでしょうねえ。
 話の前の部分を聞いてなかったら、ドアが『自分から動いて出て行った』のかと思うところでしたよぉ〜。
 なにしろ『リビング(生きている)ドア』なんていうくらいですからねえ」

「『TK』さんのお話で思い出したんですけど、ソファ関連のトラブルは私も覚えがあって。
 『ここに置こう!』って決めてた場所があったんですよ。壁際なんですけど。
 でも、買ってきたら、その位置に収まらなくて」

「だからって他の家具の位置を変えると全体のコーディネートが崩れるから、
 仕方なく部屋の真ん中に置いてますね〜。
 でも、これが案外使い勝手が良くって……」

「おっとっとっ、話が逸れてしまいました。
 だけど、『TK』さんのお話のインパクトには適いませんねえ〜。
 なにせ、『ドアがない』んですからねぇ」

「さて、不幸なすれ違いで旅立ってしまった『リビングドアちゃん』。
その後、無事に『TK』さんの下に戻ってきてくれたんでしょうか?
 『今はお店に並んでる』――なぁんてことになってないといいんですが!」

361溝呂木『レッドバッジ・オブ・カラッジ』:2018/05/31(木) 23:54:10
>>360

   「あっはっは!」

        「ドアが勝手に歩き出したら、それはそれで面白かったけど」

    「言う事聞いてくれればさらによし、だね」

自動ドアとかにね。なるからね。
寂しい時は話し相手にもなってくれる。

      「採寸もねぇ。間違えがちだよねぇ」

  「友達に、家に入らないから庭で使ってるって奴いたなぁ」

それはそれで風情が合ってよし、とか言ってたか。
……言ってられたのは、雨が降るまでだったけどね!


…………とまぁ、閑話休題。


         「はは、流石に売りに出されるってなこともなく」

    「慌てて電話して、返してもらうように頼んで……」

       「……でもさぁ。向こうも忙しい時期だったんだよ。さっきも言ったけど」

     「結局それから『二週間』……我が家のリビングは開け放たれたままでした、って話」

  「いやぁ、徹夜明けになにかするもんじゃないね!」

          「今、そのソファに座ってるんだけど、座る度にそのこと思い出すよ……」

362美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/01(金) 00:56:55
>>361

「アッハハ、いいですねえ〜。お庭でソファなんて、シャレてるじゃないですかぁ。
 なんか、こう……『リラックスホリデー』みたいな感じで」

「でも、やっぱり野外だと難しいですよねえ。色々と問題があって。
 使うたびに外に出すっていうのも手間ですしぃ。
 せめて屋根があれば……。ガレージみたいな場所で使うといいかもしれませんねえ」

「でも、無事に『リビングドアちゃん』と再会できたわけですから、ホントに良かったですね!
 これで普段は気にも留めない『リビングのドア』の大事さが確認できたってところでしょうか?」

「一度距離を置くことで大切さに気付く。うんうん、いいじゃないですか。
 人間だって、そうですからねえ」

「たとえば、倦怠期のカップルも一旦距離を置いてみれば、
 それまで以上に相手を思いやれるようになるんじゃないでしょうか?
 もっとも、距離を置いてみたら、『そのまま自然消滅』ってこともたまにはありますけれども……」

「いやいや、決して私のことじゃございませんよ!あくまでも『私の友達』の話ですからね!
 そもそも私には『距離を置く相手』がいませんからねぇ〜!アッハッハッ!!」

「ハァ〜……。いや〜、それも良いんだか悪いんだか……。
 ま、私の個人的な事情は脇に置いときまして……。
 今回お話して下さった『TK』さんには、僭越ながら、ワタクシくるみから、この言葉をお贈りいたしましょう!」

ここでブースの外側に向かって軽く片手を上げる。
それは、ディレクターへの合図。
音声に『エフェクト』を掛けてもらうためだ。

「――眠い時には変な事をしがちだから、今度から『外したドア』には注意しましょうね?
 くるみからのお・ね・が・い・よ」

耳元で囁くようなイメージで、先程よりも幾らか音程を下げた低めの声で囁きかける。
『大人の色気たっぷり』とまではいかないが、二十台半ばという実年齢の割には、
なかなか色っぽい声だという自負はある。
ちなみに、ディレクターが声に『エコー』を掛けてくれているので、声はよく響いて聞こえていた。

363溝呂木『レッドバッジ・オブ・カラッジ』:2018/06/01(金) 01:51:41
>>362

    「ドアのないリビング、奇妙な違和感が凄まじかったからねぇ……」

  「それこそ、部屋が『死んだ』みたい、なんて」

ぽっかりと穴が開いたみたい……っていうか空いてたんだけど。

      「それこそ、『同棲中の恋人』が出てったりしたら、あんな感じなのかな」

         「別に僕も恋人と同棲したことないんだけどね」

めんどくさいじゃん。同棲。
僕、自分の時間大事にしたいほうだからさ……
幸い、今は同棲する恋人がそもそもいないんだけども。

なのでまぁ、こういう風に『囁かれる』のも、なんとなく悪くない気分なわけだ。
虚しさを感じるほど入れ込んでも無いしね。

   「おー」「ありがとうございまーす」「今後気をつけまーす」

      「くるみさんも、『距離の近い人』ができるといいねぇ」

         「遠く離れると寂しくなるくらいの」

     「あ、そっちは『冷蔵』しちゃダメだぜ?」「ハハハ」

364美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/01(金) 03:04:55
>>363

「『部屋が死んだ』って聞くと、どことなく詩的な香りがしますねぇ。
 『リビング』なのに『生きてない』とは、これいかに?
 でも、機械が壊れた時なんかも、『死んでる』なぁんて言ったりしますしねぇ。
 言われてみると、言いえて妙って感じのする言い回しですねぇ〜」

「いやぁ〜、アハハハ……。
 これは一本取られちゃいましたねぇ〜
 『恋人を冷蔵』だなんて、まるでサスペンスドラマ!
 これで、あなたはずっと私のもの……なぁんてことがあったら怖いですねぇ〜」

「勿論くるみは、そんなことしませんよ!むしろ温めてあげたいくらいですから!
 電子レンジに突っ込んじゃいますからね!
 え?入らないって?いや〜、『細かくすれば』入りますから……。
 こわっ!自分で言ってて怖くなってきましたよ〜。この手のネタは、もうちょっと季節が早かったですね!」

「いやいや、私もスマホなくなさないようにしなきゃいけませんからね〜。
 今後は『お互いに』気をつけましょう!」

話も一段落したところで、そろそろ締めの言葉に入っていくことにしよう。

「――さて、今回は『私の失敗したこと』というテーマでお送りしました!
 ソファにまつわる失敗談をお話して下さったのは、ラジオネーム『TK』さんでしたっ!
 『TK』さんには、当番組『Electric canary garden』特製のクオカードを差し上げます!」

「また是非お電話してきて下さいねぇ〜。
 それでは、この度はお電話ありがとうございましたっ!!」

「続きまして、イベント紹介のコーナー!
 今月末に、星見町の大通りでストリートミュージシャン達の生演奏が――」

後日、『TK』氏こと溝呂木氏の下に、一通の封書が届けられた。
中には、クオカードと共にメッセージカードが同封されていた。
カードの隅には、番組のイメージキャラクターである『電気コードの付いた小鳥』のイラストが手描きで描かれている。
そして、カードの中央には、丸みを帯びた文字で以下のように書かれてあった。

『これからも「Electric canary garden」と美作くるみをヨロシクお願いします!
 それから、「徹夜」にはご注意!』



溝呂木『レッドバッジ・オブ・カラッジ』⇒『500円分クオカード』Get!!

365美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/23(土) 21:05:32

星見町――。
この町のどこかで誰かが、このラジオを聞いている。
流れていた音楽が終わると、再びパーソナリティーの声が戻ってきた。

「お送りした曲(ttps://www.youtube.com/watch?v=ybg-T4jhcRI)は、
 『EliZe』の『Automatic』でした! 
 聴いてると元気が出てきて、
 何か新しいこと始めようって気持ちになってきますねえ。
 新しいことといえば、最近くるみは新しい趣味を始めたんですよぉ」 

「何かっていうと、『バードウォッチング』なんですねぇ。
 軽い気持ちで始めたら、これが結構ハマッちゃって。 
 今は8倍の双眼鏡を使ってるんですけど、
 12倍のやつが欲しいなぁ〜なぁんて思ってますねえ」

「少し前も、いい感じの観察スポット見つけたので、
 お休みの日に出かけたんですよ。
 野外なんで、ちゃんと天気予報も事前に確かめて。
 でも行ってみたら、急に雨が降り出しちゃったんですよねぇ〜」

「雨雲レーダーで確認したら、
 私がいるとこだけピンポイントで降ってるんですよ!
 しかも、全然やまなくて。
 しばらく粘ったんですけど、傘の用意をしてなかったので、
 すごすごと撤退することになったのでした!」

「でも、しとしと雨が降る中で野鳥観察っていうのも、
 なかなか風流でオツな感じがしますねえ。
 湿気を吸って毛が膨れてるムクドリの雛を見たんですけど、
 ペンギンの雛みたいで可愛かったんですよぉ〜。
 いやぁ〜、バードウォッチングは奥が深いですね!」

「というわけで、今回リスナーの皆様とトークするテーマは、
 『最近始めた趣味』です!
 何年か前に始めた『わりと最近の趣味』でも全然オッケーですよ〜。
 私こと『電気カナリア』くるみは、皆様のコールをお待ちしておりまぁす」

「いつものように、トークしていただいた方には、
 番組特製クオカードを差し上げます!
 おっと、早速リスナーの方からのコールをいただけました。
 もしもし。こちら『Electric canary garden』パーソナリティー、
 美作くるみでございまぁす!」

366城生 乗『一般人』:2018/06/24(日) 16:54:23
>>365

 「あっ こ、こんにちわっ。しろお のり
お城のしろに、生きるで、お。乗り物の乗りで
城生 乗(しろお のり)って言います」

 少し最初はつっかえつつも、丁寧に自己紹介する
声変わり時期の女性の声が電話口に上がる。

「清月の高校二年生です……美作さんっ
何時もラジオ楽しく聞かせて貰ってます!
 こうして、お話が出来て大変嬉しいです!」

  ナマラジオッスー!   クルミチャンノラジオダ―!


電話の声の主とは違う、周りにいる人の声らしきものが
美作くるみの名を唱えつつ騒ぐ声も聞こえる。
 シーッ! と、軽めに短く注意するノイズも届けられた。

367美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/24(日) 19:55:34
>>366

一人で喋ることも、私は嫌いじゃない。
だけど、こうしてリスナーと直に話をする時が、私は一番好きだ。
何というか、仕事をする上での『遣り甲斐』のようなものを強く感じる。

「こんにちは、城生さん。とっても可愛らしい声なのねえ。
 こちらこそ、いつも番組を聴いてくれてありがとう!
 お話できて、くるみもとっても嬉しいわ」

「一緒にいるのは、お友達かな?
 いいわねえ。青春してるって感じで。
 私にも、そんな時があったのよねえ……。何だか嫉妬しちゃいそう」

「なぁんてね――アハハハ!年は取りたくないものねぇ。
 さぁて、では城生さん!あなたの『最近始めた趣味』は何かな?
 くるみに教えてくれる?」

電話してきてくれたリスナーの周囲に、複数の人がいる。
そういうケースは初めてではないが、珍しいことは確かだ。
心なしか、普段とは少し違う新鮮さがあった。

368城生 乗『一般人』:2018/06/24(日) 23:02:02
>>367

 「すみませんっ。今は、自宅なんですけど
『Electric Canary Garden』で私が参加できる事を聞いたら
どうしても近くで、やりとりを聞きたいって騒ぎになって・・・・・・
今は、私のほかに三人友達がいます。みんな大切な親友です!」

 力強く自分の大切な仲間であると宣言する彼女の周りでは
私たちも同じ気持ちだぞーっ、遠目ながら賛同する声が響く。

 「か、可愛らしいですか? 有難うございます!
美作さんの声も素敵ですよっ。何時も勉強前に集中を
高めるのに利用させて貰ってます・・・・・・って、話が逸れちゃってますね」

 「『最近始めた趣味』なんですけど、沢山あるんですよねっ
以前は殆どしてなかったんですけど、友達の提案で最近では
『ボランティア』をしてます。町のゴミ拾いとか、リングプル回収とか・・・・・・
最近だと蒸し暑い日が続くんでレモネード売りとかも。
クラスの皆のちょっとした悩み相談とかも、ささやかですけど
聞いたりして。あ、でもこれって趣味に入るのかな・・・・・・
 えーっと、ボランティアがラジオのお題として不似合いでしたら
『不思議探し』って言うのも、最近はしてます」

369美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/24(日) 23:47:51
>>368

「いいわねえ、そういうの。
 親友なんて、なかなか言えない言葉だもんね。
 そう言えるってことは、すごく素敵なことだと思うわ」

実際、そんな言葉を言うには勇気がいる。
それを言える相手がいることは幸せなことだ。
だから、そんな友達に囲まれている彼女は幸せなのだろうと思う。

「そんな城生さんのお友達にも、くるみからのメッセージ!
 いつも聴いてくれてありがとう!
 まだ聴いたことないって子も、これから応援してね。
 いい?くるみとの約束よ!」

三人の友人達に向けて言葉を送る。
なぜなら、彼女達も、また私のリスナーなのだから。
支えてくれるリスナーは、私にとって何よりも大切なものだ。

「ボランティア!すごいわねぇ〜。立派なことじゃない。
 みんなでボランティアなんて、もう『ザ・青春』って感じよねえ。
 予想外の答えが返ってきたから、思わず感心しちゃったわぁ」

「いえいえ、それもちゃんと趣味の範疇よ。
 私が認定してるんだから間違いないわ。
 よければ、その『不思議探し』っていうのも教えてくれない?」

「『不思議を探す』っていうくらいだから、
 あまり見かけない珍しいものを見つけたりするのかしら?
 たとえば変わった場所とか、生き物とか……。
 そういうのって楽しいわよねぇ」

「私も小さい頃は、近所を探検とかしたっけなあ。
 道に落ちてるものとか、よく拾ってきてたのよねえ。
 綺麗な石とか、ピカピカ光る部品とか……」

「おっと、いけない!
 ついつい懐かしくなって、脱線しちゃったわね。
 さて、聴いてくれてるリスナーの皆も気になってるでしょうし、
 ミステリアスな『不思議探し』についてお聞きしましょうか?」

370城生 乗『一般人』:2018/06/25(月) 01:17:44
>>369(レス遅れ失礼しました)

美作の三人へのメッセージに対し、電話口から少し遠くながらも
賛同の声が沸きあがる。

 「三人とも、約束しますって言ってくれてます!
『不思議探し』について、ですね?
 星見町には、色々な都市伝説 おまじないなどがあると思いますけど
私たちの不思議探しも、そう言ったものが本当かどうか
それとなく、噂のある場所に赴いて調べたりする感じなんです。
 あっ、でも危ない事はしてないですよ? 最近だと、自然公園の
湖畔に住んでいると言われる、星の模様のウナギを探してみたり。
 展望桜塔のスポットの一つから目撃した流れ星に願い事をかけたら
願い事が叶うと言うのを試してみたりですね」

 楽しそうに、弾んだ声が電話口から流れる。

 「そう言えば、最近だと こう言う噂も聞きましたね。
夏は星見町に流星群が訪れて、その中には星の形をした隕石が
落ちてきたって話なんです。大体手のひらより小さいサイズの
 その、文字通り星を手に入れた人には大きな人生の変化が
約束されるって言う話なんです。何だかロマンがありますよね」

371美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/25(月) 04:50:48
>>370

「ああ、なるほどね!よく分かるわぁ〜。
 そういうのって、いくつになっても憧れるわよねぇ。
 私だって、そういう話を聞くと未だに胸がときめくもの」

電話を通して、少女の話に同意する声が届けられる。
何かしら思うところがあるような響きが込められていた。
事実、思い当たる節があったのだ。

「それを聞いて思い出したんだけど、私が子供の頃にも、
 そういう話があったのよねぇ。
 星型の光を放つ『不思議な蛍』が湖畔にいて、
 それを見てから好きな子に告白すると成功するっていう内容だったわ。
 実は私も小学生の時に探したのよね。その『星の蛍』を」

「当時、好きだった男の子に告白しようと思っててね。
 でも、探してる最中に、恋敵の女の子とバッタリ会っちゃったのよ!
 しかも、その子も例の蛍を探してて、
 どっちが見つけるかってお互い対抗心バリバリで競争になったわ」

「ようやく見つけて『やった!』って思ったら、それがごく普通の蛍でねぇ。
 結局、二人とも諦めて家に帰ったわ。
 次の日に告白したんだけど、結果は見事に玉砕。
 私だけじゃなくて、一緒に蛍を探した恋敵の子もね」

「でも、それがきっかけで、その女の子とは逆に仲良くなったのよねぇ。
 一緒に学校から帰る途中で湖畔に寄って、
 二人して湖で水切りしたのを覚えてるわ。
 『コノヤロー!』って感じでね。アッハハハ」

十数年前の失恋を曝け出しつつ、それを高らかに笑い飛ばす。
少女の話を受けて語られた、過去の『不思議』。
もっとも、その審議は定かではなかったようだ。

「城生さん達はどう?
 『不思議』は見つけられたのかしら?
 『ウナギ』も『流れ星』も面白いんだけど――
 くるみ的には三つ目の『隕石』の話なんかが特に素敵だと思うわ。
 夜空からの贈り物なんて、ロマンチックよねぇ〜」

372『ペイズリー・ハウス』:2018/06/26(火) 08:59:56
>>371

 「いいですね! 『星の蛍』!
私も、いつか好きな人が出来たら蛍を見つけたいって思います。
今は、友達と一緒に面白い事や不思議な事を探したり。
 学校での他愛ない事かも知れないけど、日常を送る事だけで
幸せなんですけどね……昔はちょっと出来なかった事だから」

 少ししみじみ、とい言った口調を最後に唱え。

 「『星の隕石』なんですけど……ちょっと笑っちゃう話と言うか
友達の失敗談になっちゃうと言うか……ぁ、サッちゃん話しても
問題ない? 良かった。あのですね、実は星の模様に良く似た
平べったい白い石みたいなのを友達が見つけたんです。
自然公園のある湖畔の場所を、湖の浅いところとか色々探索してる時に。
 大発見っスー! って、その時は私たちも、これは本物だって
結構騒いだんですけど。近くにいた物知りの方が騒いでるのを
聞きつけて調べて貰ったら。
 あぁ……これはスカシカシパン(ウニの一種)だね。って
拍子抜けと言うか、湖畔に海の生き物がいた事も結構不思議だったんですけど。
 まぁ、その星の石曰くウニの仲間は他の不思議探索をする傍ら
海に返そうかなーって話してたんですけど、もう一人いる友達が
湖畔でも生きていける海のそいつが興味深いから飼ってみる……って事で
今は友達の家の水槽に入っています。
 スカシカシパンって、餌にするものとか余り良く分かってないですけど
小魚のフンとかを栄養にしてるらしいので、飼ってる魚と一緒に」

 星の石を拾おうとしたら、実はウニの仲間を湖で拾った。

笑い話でもあり、考えてみると湖に海の生き物が平然と潜んでいたのも
奇妙な話だ。真相は、ペットの放棄をしてた人が海に行くのも面倒で
近くの湖に捨てたからかも知れないが。

373美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/26(火) 20:43:05
>>372

「湖って淡水よねえ?
 で、ウニって海水で暮らしてる生き物でしょう?
 それが淡水の中で生きてるって、なんかスゴいわねえ。
 ウニには詳しくないけど――『食べると美味しい』ってこと以外はね。
 最近食べてないのよねぇ〜。 
 おっとっと……それは置いといて――」

「確かに不思議な話よねえ。
 そんなとこにいるのも変だし、さっきも言ったけど、
 湖で生きてられるのも不思議だし……。
 あそこの湖って何かあるのかしらね?」

「科学的なことは分からないけど、実は『塩分濃度が高い』とか。
 それとも、実はそのウニは進化して淡水に適応した、
 『新種の生物』だったりするかもよ?
 なぁんて、アハハハ。まっさかねぇ〜」

「ところで――どこにでもあるんだけど、
 そのウニと同じくらい不思議なものを私は知ってるのよ。
 何だと思う?」

「それはね。『人と人の繋がり』よ。
 城生さんと友達が一緒にいて、そして私と城生さんが今お喋りしてる。
 考えてみたら、それって不思議なことだと思わない?」

「別々の道を生きてきた人と人が、何かのきっかけで、
 今こうして接点を持ってる。
 『運命』なんて言葉を使っちゃあ大袈裟だけど、ね」

そこまで言って、明朗快活な声で高らかに笑う。

「アッハハハッ、ちょっとカッコつけすぎたかしら?
 我ながら似合わないわねえ」

「でも、人との繋がりは大切にしたいわね。
 もちろん城生さんとの繋がりもね。
 お時間あれば、またコールしてくれると嬉しいわ。
 その時は、『新しい不思議』のお話を聞かせてちょうだいね」

今回のトークコーナーは、そろそろ終わりそうな気配だ。
何か言いたいことがあれば、まだ間に合う。

374城生 乗『一般人』:2018/06/26(火) 21:17:00
>>373(了解しました。レス遅れなど、不手際あってすみません
また別の機会で絡ませて頂ければ嬉しいです)

 「湖畔は、幻の生き物が住んでる話もあるし……やっぱり、何か
不思議が詰まってる感じですよね。星見町全体でも、そう言う奇妙な
噂や不思議な出来事に遭遇した人も珍しくない話だし。
 もしかしたら、この町全体が一つのミステリースポットなのかも!
となると、私たちも奇妙な住人達って事ですねっ。あははは」

 「――そうですね。『人と人との繋がり』
私も、いまこうして生きて。他の皆と楽しくお喋りして
学校に通って……平凡かも知れないけど、私にとっては
掛け替えのない日々なので、美作さんの言葉は
似合わないなんて思いませんよ! とっても恰好いいです!」

 「あ……もう、そろそろお時間ですねっ。
それじゃあ、最後に一つだけ美作さんに、お願いがっ!」

 「私の親友が飼いはじめた。
スカシカシパンのペットネーム!
 美作さんとの出会いの記念として、名付けて欲しいなーって思います!」

 最後にリスナーからのリクエストだ!

375美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/26(火) 22:06:07
>>374

「私が名前を?それは光栄だわ。もちろんオッケーよ。
 でも、これは私の『センス』が試されるわねぇ〜。
 ウニの名前を付けた経験ってないから、なかなかの難問ね」

電話の向こう側で、深く考え始める。

「うーん、白いのよね?
 そして、星型の模様がある……。『白』……『星』……」

やがて考えがまとまり、一つの名前が頭に浮かび上がる。

「――じゃあ、『白星』なんてどうかしら?」

「勝負に負けることを『黒星』、勝つことを『白星』って言うでしょう。
 『白星』がペットだなんて、すごく縁起がいいと思わない?
 なにせ『勝利のシンボル』なんだから」

「どうかな?気に入ってもらえたらいいんだけど。
 城生さんにも、ウニを飼ってる友達にもね。
 それと――その『ウニさん』にも、ね」

「でも、ちょっと渋すぎるかな?
 もうちょっとファンシーな名前が良かったかもね。
 アハハハハ……」

376美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/28(木) 17:24:22
>>375

「何の変哲もない、見慣れた普段の風景。
 そんな場所でも一つ横道に入れば、
 結構新鮮な気分になれたりするんですよねえ。
 『不思議』って言うと遠くにあると思いがちですが、
 案外私達の身近にも隠れてるのかもしれません」

「本日のお相手は、城生乗さんでしたぁ!
 素敵で楽しいお話を聞かせてくれて、どうもありがとう!
 城生さんには、『Electric Canary Garden』特製クオカードをお送りします!」

「ここで、くるみのイベント紹介!
 パーソナリティー美作くるみが、この街のホットな話題をお届けしちゃいまぁす!
 まず、星見駅前商店街では毎年恒例の七夕祭りが――」

後日、城生乗の下に一通の封書が届く。
番組のロゴ入りクオカードとメッセージカードが入っていた。
メッセージカードには、パーソナリティーからのメッセージと共に、
番組のイメージキャラクターである『電気カナリア』のイラストが添えられている。
通常のイラストとは異なり、『探検帽』のようなものを被っている。
カードに記されたメッセージの内容は、以下のようなものだった。

『いつも応援ありがとう!それ行け!星見町不思議探検隊!』


城生 乗『一般人』⇒『500円分クオカード』Get!!

377太刀川叶『スマザード』:2018/07/08(日) 00:39:01
「さて、どうしたもんか……」
 と、うちは誰に言うでもなく呟いた。
 今日、この場のこの街に到着し、ほんで―――超能力者、みたいなもんになっていることに気付き、ここにおる。
 来た道を戻って、今は駅前。
 戻ってきたんに特に深いわけはない。
 そこに嘘もない。
 ただ、そう、ほんまにただただ単純で、ありきたりな理由。
 ここのがすぐにタクシーを拾えそうやな、と思っただけやから。
「どこに行くか、やな」

378太刀川叶『スマザード』:2018/07/13(金) 17:19:49
咳をしても一人。
所詮そんなもんで、うちに声をかける親切な人っていうんは、この街にはおらんらしい。
まぁ、せやったらせやったで、商売がやりやすいって、考えた方がええかもな。
軽薄で希薄であればあるほど、孤独を埋めたくなるもんや。
ま、知らんけど。
「とりあえずホテルはどこかやな。ビジホ以外があるとええけど」

379斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/08/14(火) 23:05:13
「――わかるよ」

長い溜息を一回、寝ボケ眼を擦り
今日の空模様のような、何処までも青い釣竿を持ち直す

 「『辛抱』がさ、大事なんだ」

    「僕が目的とする、必要なスタンド使いを探すのも」

 「獲物が餌につられてかかる釣りも、『辛抱』が大事なんだってな」

          「――わかるわ」

喧騒から離れた砂浜に、1人、軽装に赤いスカーフを巻いた少年が、折りたたみ椅子に座っている
緩やかな風に吹かれた麦わら帽子を直し、欠伸を嚙み殺しつつ、キンキンに冷えたスプライトを口に運ぶ

 (人魚でなくても、何か飲まないと干からびてしまう……けど
  クーラーガンガンの室内もいいけど、これも贅沢だね、飲みごたえがある)

――三本目の影の腕が、飲み干したスプライトをクーラーボックスに戻す
見える人間にはスタンドだと、即座に理解できるだろう

傍に置かれた青いクーラーボックスの上には、小型のラジオが古い洋楽を流し
さらにその上には、ちょこんと赤い鳥のぬいぐるみが置かれていた。

「……もう8月……んん?」

台詞の最中に、ふと疑問が浮かんで首をひねる

「これ前もやった……事ないな うん」

……釣り糸の先に浮かぶ、ウキが波間に僅かに揺れていた。

380美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/08/14(火) 23:29:35

この町のどこかで、誰かが『ラジオ』を聞いている。
スピーカーから流れる声は良く通り、さながら『カナリアの囀り』を思わせる。
その番組の名は――『Electric Canary Garden』――。

「今日も、あなたの隣に『電気カナリア』の囀りを――」

「『Electric Canary Garden』――
 パーソナリティーは、この私『カナリアボイス』こと『美作くるみ』がお送りしまぁす!」

「いや〜〜〜『暑い』ですね!とにかく『暑い』!
 この季節になると、一番よく聞く言葉ですよねぇ」

「今年は特に酷暑みたいで、皆さんも日射病には気をつけて下さいねー。
 聞くところによると、まだまだ猛暑日が続くらしいですからねぇ〜。
 わたくしくるみも、水分補給にはいつも気を遣っておりますっ」

「さてさて――今回は『納涼企画』といたしまして、
 先週お知らせしました通り、リスナーの皆様から『怖い話』を募集しております〜。
 採用された方には、おなじみの番組特製クオカードと、くるみからのメッセージカードを差し上げますっ」

「ちなみに、くるみの『怖い話』はですねぇ……。
 あれはいつだったかなぁ?
 正確には覚えてないんですけど、古本屋さんで『本』を買ったんですよ」

「それ自体は、別に何てことない普通の本だったんですね。
 で、家に帰って、こうパラパラめくってたんです。
 そしたら、『あるもの』を発見してしまったんですよ……」

   ――デロデロデロデロ〜ン……。

話を区切り、ブースの外に向けて手で合図を送る。
担当のスタッフと決めておいた『SE』を入れてもらうためのものだ。
合図に応じて、いかにもおどろおどろしいホラー風の効果音が流れた。

「……ページとページの間に、『何か』が挟まってたんです。
 見てみると、それ『写真』だったんですね。
 どこかの古い家の中が写ってるんですよ」

「まさか、そんなものが挟まってるだなんて思わないじゃないですか。
 だから、それ見つけた時はビックリしましたねぇ〜。
 思わず固まっちゃいましたもん」

「で、もうちょっと続きがあって。
 その気はなかったんですけど、ついじぃっと眺めちゃったんですよ。
 そしたら、隅の方に人の影みたいなものが写ってることに気付いたんです」

「人は写ってないんですけど、影だけが見えてるんですよ。
 それが身長的に大人じゃなくて子供なんですね。
 多分、その家の子だと思うんですけど」

「いや、もしかしたら『座敷わらし』かな?
 そうだとしたら、もしかすると幸運のお守りになるかもしれないですけどね。
 でも、買った本の間にあったっていうのが不思議なんですよねぇ〜」

「その写真は今も家にあるんですけど、特に何も起きておりませんねえ。
 とりあえず悪いことが起きてないんならいいかなと、くるみは楽観的に考えておりますっ」
 
「はいっ!以上くるみの『怖い話』でしたっ!
 いやぁ〜、いまいちオチが弱くて申し訳ないですね〜。
 アッハハハッ――でも、こういうのもこれはこれで良くありません?
 こう、なんというか赴きというか風情があって……。
 『怖い話』っていうより『不思議な話』って言う方が合ってるかもしれませんねぇ〜」

「――っと、ここでリスナーの方(>>380)とお電話が繋がったようです。
 もしもし、こちら『Electric Canary Garden』の『美作くるみ』でございまぁす!」

381美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/08/14(火) 23:38:25
>>380

――と、いうような声がラジオから流れていたという……。

382斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/08/15(水) 16:27:32
>>379
>>381

「――おっ、美作さんだ」
(もうそんな時間か……)

「怖い話特集 ね 夏祭りの裏で、肝試し大会とかあったっけ」

釣りの最中、釣竿の保持をスタンドに任せ ひと時の間、目をつぶり
通っている『清月学園』での出来事を思い出す

「しかし、僕の怖い話と言えば……」
「さっきから釣り用の『練り餌』狙って、野良猫がちょっかい出すくらいだな……君の事だぜ、君の」

そう言う斑鳩の目線の先には、出した腕を引っ込める黒い猫の姿がある
足先は白く、靴下を履いているようにも見える、首輪を付けていないあたり、野良なのだろう

   ニャーン

「ニャーンじゃないよ、針に餌が無きゃ、釣れるもんも釣れないぞ ホント
 行儀よく待ってな、僕も待ってるんだぜ? 色々」

   シッ シッ

影の腕で追い払うと、猫はまるで、ここが定位置だという風にクーラーボックスの日陰で丸くなり
それを見て斑鳩は釣竿を再び自身の腕で保持し、釣りを再開する

――そうして美作くるみのラジオを聞きながら釣りを続けると、ふと一つの疑問が少年の頭によぎった

(――ん、あれ? この猫、僕の『影の腕』が『見えて』たんだろうか)
(まさかね……いるわけないか『動物のスタンド使い』なんて……)

383美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/08/16(木) 00:39:22
>>382

「――なるほど、『猫』のお話なんですね?」

「はい、つい一週間前のことなんですけど……」

ラジオからは、美作くるみと少年の通話が流れている。
彼女の紹介によると、彼は清月中等部の学生ということだった。
どうやら、少年が語ろうとしているのは『猫』にまつわる話らしい。

「俺、その日は部活で遅くなって。
 それで近道しようと思って、路地に入って……。
 そしたら、正面にワゴンが停まってたんです」

「そのワゴンの右端から、真っ黒い猫の顔が覗いてて。
 よく見たら、左端からは尻尾と足が出てたんですよ。
 足は白かったんです。まるで靴下を履いてるみたいで」

「うーん……車の後ろに猫が二匹いたのかな?
 それとも『超胴体が長い猫』が車の後ろに隠れてた――とか?
 想像すると、なんだか凄い光景ねぇ」

「俺も同じこと考えて、確かめようと思ったんです。
 車の裏側に回って、そこがどうなってるか見ようとしたんです」

「確かに気になるわよねえ。それで、どっちだった?
 ひょっとして、二匹どころじゃなく、もっと沢山いたんじゃない?」

美作くるみと少年の話は続いている。
足の白い黒猫。
もし、これが偶然だとすれば、相当な確率だろう。

384斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/08/16(木) 22:04:08
>>383

偶に竿を引き上げると餌が無くなっている
流石に水中までは眼が通るわけでも無い、経験で引くしかなさそうだ
練り餌を付け直し、再び海に放ると、暇つぶしにラジオの方に耳を傾ける

「おっ、誰か繋がった……ありゃ、僕と同じ所の学生かぁ
 中学だから、僕は会わないだろうけど すっごい偶然……」

ラジオからの雑音交じりの音声が
さざ波の音にかき消されずはっきりと聞こえる
『それ』を聞いて、僕が目を白黒させても、仕方ない情報と共に

 「…………」

ラジオに何があるわけでも無い
クーラーボックスの影で寝転ぶ猫にもそれは同じだが
馬鹿みたいに交互に視線を送ってしまった

「おいおい……ええ?
 これ、君の事かぁ?偶然って2連続おこるのぉ?」

 「偶然から超スゴイ偶然…って所か、おったまげたな」

            ニャン!       

 猫の目が光った瞬間
 練り餌を入れたプラ容器を、届かないところまで影の手が上昇させる

            ヒョイ

「いや、だからって練り餌はだめでしょ
 ほーれほれ、コレ、スタンド能力の悪用ね」

8月の気候に汗を流しながら竿を持ち直し
 意地の悪い笑みをうかべながら釣りを続ける

「しかし、胴体が超長い猫かあ……普通に考えれば、親指のトリックだよな
 手の裏に隠して、前からだと伸びてるように見える奴……どうなんだろう?」

385美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/08/17(金) 00:36:54
>>384

同じ学校に通う学生。
そして、同じような姿の猫。
単なる偶然かもしれないし――そうではないかもしれない。
いずれにせよ、少年の話は続いている。
釣りに興じる合間、猫と戯れる斑鳩翔の傍らから、その声が聞こえてくる。

「……それが、『何もいなかった』んですよ。
 不思議なんですけど、ワゴンの裏に回ると、猫は一匹も見当たらなかったんです」

「いなかった――『消えた』ってこと?」

「はい、そうなんですけど……。
 実は、他にも気になることがあって……」

「うん、何かしら?」

「近付いて分かったんですけど……
 その車、壁にピッタリ横付けされてて、隙間が全然なかったんです。
 だからその……猫が入る隙間もなかったってことで……」

「――へえ……」

話しながら、少年が声のボリュームを落とした。
心なしか、美作くるみの声も小さくなったように聞こえる。
何か『ゾクリ』としたものを感じたのかもしれない。

「最近暑いじゃないですか。
 その上、部活がキツくて疲れてたし。
 だから、意識が朦朧として幻覚みたいなのが見えただけかもしれませんけど」

「うんうん」

「その時は、なんかゾクッとして、急いで家に帰りましたねー。
 えっと……これが、俺の体験した『怖い話』です」

「いやぁ〜、ありがとう!
 とっても興味あるお話だったわ。
 確かに不思議なんだけど、
 何だか日常的っていうか、身近に感じられるリアルさのあるお話だったわねぇ。
 『猫のお化け』……『猫の姿をした何か』……『超薄型の猫』……。
 つい色々と想像しちゃうわねぇ〜」

「それじゃ『国枝』君、今日は電話してくれてありがとね〜。
 後日、番組特製クオカードとくるみのメッセージカード送っときます!
 お楽しみに〜!!」

「さて――ここで一曲お届けします!
 『Porcupine Tree』の『Sleep Together』
 (ttps://www.youtube.com/watch?v=OZuxErudMPc)
 ――Let’s Start!!」

美作くるみの明るい紹介の後に、怪奇ムードたっぷりのメロディーが流れ始める。
『納涼企画』に合わせた選曲らしい。
それはラジオを通して斑鳩少年にも届いている。
そして、少年の側にいる猫にも。
これによって、一人と一匹の間に怪奇的な雰囲気が演出されたかどうかは――
定かではない。

386斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/08/17(金) 16:49:11
>>385

「…………美作さんは聞き上手だなぁ、ほんとうに
 お陰でつい、聞き入ってしまった この話の中の……一つに」

斑鳩翔は考える、彼は幽霊や幻覚は勿論、経験上の一つとしては知っている
だが彼が知る、彼だけの一つの現象についての可能性だけは、彼の過去から常に離れない
常に、その可能性を考える…『スタンド』…の可能性を。

(怪談のせいにしたいが、背筋が冷えるっていうのはこういう感覚なのか?
 一度も味わった事のない感覚だ……むき出しの背骨を冷えた肉の塊で撫でられるような)

「ん……あれ」

(クーラーボックスの日陰にいた筈、寝転んでいた筈の…)

「『猫がいない』……!?」
 「……ハッ!?」


   ピチャ    ピチャ 
      ピチャ

視界の外、僕のスタンド、その影の左腕から…聞こえる
……水音? 何か舐めるような…。

「な…何で、何でプラ容器の中から『水音』がするのだ…?
 『猫』は何処に行ったのだ…?あの猫はッ!」

    シュン! シュン!   シュン!
         シュン!

「う…ううっ」
「し…『舌』だ…舌だけが容器の中にッ『移動している』!」

「この猫!『新手のスタンド使い』なのだッ!!」
 「――『動物のスタンド使い』!」

 ピチャ…    ピチャ…

「この際、僕の思い込みは捨てなければならない――あの、ラジオの話――車の後ろは『通っていない』のだ……この猫
 『自身を寸断させて瞬間移動する』能力なのだ!」

(猫の入る隙間もない車の背後にいたのも『自らを薄く寸断させれば』造作もない
 傍目から見れば消えたのも、最初からいなかったのではなく、『瞬間移動』したのだ…!
 こんな存在がいるとは!)


         シュン! シュン!   シュン!


「プラ容器も寸断されて消えていく…接触していれば持っていけるのか
 ……だが、お陰で移動した位置は解った『スタンドは1つの能力しかない』」


「――『ロスト・アイデンティティ』」


頭部に鎖が巻き付かれると同時に、自らその鎖を引き千切る
『影の頭部』が僕自身の頭部と重なって現れ、視覚と聴覚を二人分にする
僕のスタンドの能力……

「猫は『姿を消す能力』は持っていない、だから、僕の視界の通らない場所にいる…この場所での死角はそう多くは無い
 僕の視界の死角はクーラーボックス!その裏だッ!」


クーラーボックスを勢いよくどかした瞬間
『寸断された猫』が練り餌の入った容器を銜えた状態で後ろに飛び跳ねる!

            フーッ!

「……『速い』元々の猫の身体能力せいか?スタンドの能力も相まってこれでは捉えられない
 射程がどの程度か解らないが、少なくとも2m…それ以上は確実に有る…!」

(僕の射程距離ではひいき目に見ても5mが精々…影は僕から離れない
 パワーもスピードも近距離パワーの最低限である以上、捉えるには……)


単純に『スタンド』はこの事態の解決に最適とはなりえない、なら如何するか

……僕は、釣り上げた魚を一匹、猫の傍に放り投げた

その猫はまさしく猫撫で声をあげて其方にかぶりつき始めた
それを見て頷くと、ゆっくりと練り餌を取り戻して、釣りを再開する。

「……まあ、練り餌よか食いでのある物が有れば、そっちに行くよなぁ」
「多分、お腹すいてるだけだし」

「ラジオに因んで『スリープ・トゥギャザー』とでも名付けるか、ベッドに入るにも楽勝そうだしな、君の『スタンド』」

(しかし、『練り餌』を保存してあるクーラーボックスの中に入らなかった所を見ると
 『密閉された空間内』には移動できないのか……何にせよ、こういうスタンド使いもいるもんだな
 ……夏の怪談って、こういう事でいいのかぁ〜?『スタンドの夏』だよな…これじゃ)

釣竿を放ると、再び、鮮やかな色のウキが夏の海に浮かんだ。

387美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/08/17(金) 21:47:16
>>386

ある夏の日、ラジオで語られた奇怪な体験談。
それは『寸断』の能力を持つスタンドが引き起こした現象だった。
奇妙な邂逅を経た斑鳩少年によって、
そのスタンドは『スリープ・トゥギャザー』と名付けられる。

「――いかがでしたでしょうか?
 『怪奇特集』にピッタリの曲でしたね!
 さて、番組宛にメールが届いておりますので、読んでいきましょう!」

「えー、ラジオネーム・『ハルちゃん2号』さん!
 くるみさん、こんにちは。いつも楽しく聴いています。
 はぁ〜い、こんにちは!『ハルちゃん2号』さん、ありがと〜。
 『1号さん』もどこかにいらっしゃるのかしら?おっと、脱線脱線」

「早速ですが、私の怖い体験談をお話します。
 この前、友達と一緒に海へ行ったんです。
 海!いいわねぇ。私まだ今年は一度も海に行ってないのよ。
 誰か誘ってくれない?アハハ、な〜んて――公私混同はダメよ!メッ!」

「気を取り直して、お話に戻りましょう。
 砂浜を歩いている時に、ふと『誰かの声』が聞こえたんです。
 とても小さな声で、最初は風の音かと思ったんですけど、
 よく聞いてみると、それが人の声だってことに気付いたんです」

「耳を澄まして聞いてみると、なんて言ってるか分かりました。
 何かしらね?こういうのは、『うらめしや』なんてのが定番よねぇ。
 ちょっとセンスが古いかな?
 今だったら、『憎い……』って言った方がモダンかしらね」

「その声は、こう言ってたんです。
 ――『いらっしゃいませ』って」

     ヒュ〜ドロドロドロドロ〜……

「『いらっしゃいませ』ねぇ……。これはさすがに予想外だったわ。
 なんで『いらっしゃいませ』なのかしらね?うーん、謎だわねぇ〜」

「それっきり声は聞こえなくなりました。
 友達には聞こえていなかったみたいです。
 今でも、あれが何だったのか分かりません……」

「『ハルちゃん2号』さん、どうもありがとうッ!
 とにかくミステリアスなお話だったわねー。
 謎が謎を呼ぶ……ともかく、『ハルちゃん2号』さんには、
 番組特製クオカードとくるみからのメッセージカード送っときます!
 楽しみにしててね〜!
 あ――もし、この謎について何か知ってる方がいらっしゃれば、
 ぜひ当番組に御一報いただきたいところですねぇ〜」

      クイッ
          クイッ

『海』、『砂浜』――これも偶然だろうか?
……ともあれ、ウキが反応している。
どうやら、何かがかかったようだ。
引き上げてみれば、それが何かが分かる。
水面から上がってきたのは大体スイカぐらいの大きさで、形は丸い。

それは――人間の『頭部』だった。
とはいえ本物ではなく、美容師が練習用に使う『ヘッドマネキン』だ。
釣り針が髪に絡み付いて引っかかってしまったらしい。

388斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/08/17(金) 22:53:25
>>387

――肩の力を抜いて、クーラーボックスから氷に包まれてキンキンに冷えたコーラ瓶を取り出し
飲み終わったボトルを戻す、結露した瓶の蓋に鎖を巻き付けて、栓抜きのように開ける

どうやら今日のラジオは怪奇特集SP(スペシャル)らしい
続くお便りですらホラー系と来たものだ、僕にとっては初めての経験ばかりで新鮮ではあるが。

「成程……怪談っていうのは、こういう物か……物か?」

幾らなんでも偶然が連続すると、僕の語尾は疑問形になりだすらしい。

瓶を傾け、黒く泡立つ液体を流し込む
眩しい日差しに……喉が焼ける程冷たい!

お祖父ちゃんが言ってたっけ、最初が幸運、二度めは偶然、三度目はイカサマだって
何の事かと聞いたら、賭け事の事だと言っていたが……これで三度目

有り得るんだろうか?偶々ファンが聞いてる、ラジオの一番組からこうも
僕に近しい事が起こり続けるなんて……。

「なんて…海と砂浜って言ったって、夏の定番なんだし、海と怪談のセット何て
 スイカに塩入りの小瓶がついてくるくらい、当たり前のタッグだしなあ。 たぶん」

流石にこれでスタンド使いの仕業だ!等と言いだしたら
見える人間にも過剰反応と言われるだろう、第一、僕にそうする理由が無い。

(それに、スタンドにもスタンドのルールがある……パワーと射程が反比例するというルールが)

一応、知り合いの顔を思い浮かべて彼らのスタンドを思い出してみる
――だが、そもそも、そんな能力だと断定できるような知り合いはいない

(考えすぎだぞ、翔 上手く行っていないのは最初からの事だ……焦るのもイラつくのも今に始まる事じゃない
 失敗なら既に、し続けたではないか……。)

――ふと見ると、海面のウキが引いている

 「…やった!」

だが引いてみると、これが嫌に重い
明らかに魚の重さでは無いし、竿が振動したりもしない

 「…あっちゃー」

即座に僕の感情が歓喜から落胆に変わる、こういう場合、大抵は
海の底に針が引っかかる『根がかり』か、長靴とかの『ゴミ』だからだ
がっかりしながらリールを巻いてみると、するすると釣り糸が巻き戻ってくる
どうやら根がかりでは無いらしい。

(ゴミか、下手したら新しい針に変えないとかな)

そうして引き上げて見ると
それは――人間の『頭部』だった


「…………」


あり得ない物だとは解っているが
人間、予想外の物だと思い込むと思考が固まるようだ

遅れてそれが美容師が練習用に使う『ヘッドマネキン』だと気付いたのは
海水にもまれてボロボロになったソレとにらめっこをして十数秒たった後だった。

「な」
「なーんだ…ビックリさせてくれて!」
「全然こわく……えーっと、少し……有るけど」

傍にいる猫が呆れたような目線を投げかけてくるのをスルーして
取り合えず手元に引き寄せ針を外そうとする、このままじゃ釣りの成果はマネキンですと言わなくてはならない

(……そういえば、さっきの手紙『いらっしゃいませ』?だっけな
 普通に考えれば『海の家』とか…いや、聞くのはカメヨースーパーとかか?
 服を着せたマネキンとかは見た事が有るけど……)

「『物が覚えて喋る』なんて、有るんだろうか……。」


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