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【場】『自由の場』 その1

1『自由の場』:2016/01/18(月) 01:47:01
特定の舞台を用意していない場スレです。
他のスレが埋まっている時など用。
町にありえそうな場所なら、どこでもお好きにどうぞ。

252冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2017/08/22(火) 00:57:20
>>251

「僕の作った曲じゃないし」

「別にお礼なんていいよ。明日見」

サングラスの奥の瞳を見つめて言葉を返す。

「ピアス? あぁ、今道具持ってないな」

「あったら今ここであけたんだけど」

「あ、病院であけたいタイプ?」

253夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/08/22(火) 01:20:41
>>252

「え――?」

今ここで、という言葉に少し驚いた。
それと同時に興味も出てきた。
ピアスというより、この少年に。

「ねえ、空ける道具ってどんなの?私、知らないんだ」

「なんかさ、そういうのセンモンの人がやるのかと思ってた」

「やっぱりチクッてする?」

「――ところで、暑くない?ここ、入っていいよ」

寝転がるのをやめて座り、やや横に移動して場所を空ける。

254冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2017/08/22(火) 01:26:36
>>253

「え、ピアッサーって知らない?」

右手の親指と人差し指を広げて二本の指の間隔を広げたり狭めたりする。

「じゃあお邪魔するね」

開けられた場所に座り込んだ。
そしてピアスをつまむ。

「針のついた器具であけるんだよ」

「しっかり殺菌しないとうんじゃうから気を付けないといけなくてさ」

「チクっとはする」

255夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/08/22(火) 01:40:07
>>254

「いやー、私って結構世間知らずだから。箱入りっていうの?
 自分で言うのもなんだけど」

そう言って軽く笑った。

「だから、教えてもらえるのは嬉しいな。
 色んなこと知りたいと思ってるから」

「ふんふん」

「へえ……。まーそうだよね。自分の体に穴空けてんだもんね」

「それも自分で空けたの?」

ピアスを指差して言う。

「何かきっかけとかあったの?空けようと思ったことの」

256冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2017/08/22(火) 23:21:40
>>255

「へぇそうなんだ」

箱入り娘。
冗談か本当かは分からない。

「いや、これは両方ともお姉さんに開けてもらったんだ」

「病院じゃないけど自分でも開けてないって感じかな」

それから顎に手を当てる。

「きっかけ……開けてみたらって言われたんだよ。そのお姉さんに」

「痛いけど、放っておけば閉じられるしいいかなって」

257夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/08/22(火) 23:47:52
>>256

「そう。だから生まれた時から、あんまり外を出歩けなかったんだ。
 最近になって色んな場所に行けるようになってさ」

言葉を続けながらサングラスの位置を直す。

「ふんふん、お姉さん…・・・ねぇ……」

興味の矛先は話に出てきたお姉さんに移った。

「お姉さんってことは姉弟なの?」

「私、一人っ子だから羨ましいな」

258冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2017/08/22(火) 23:59:27
>>257

「なるほどぉ」

うんうんとうなずいてみる。
別にだからといって何かをするわけでもない。

「ううん。血は繋がってないよ」

「近所に住んでるんだ。お姉さん」

259夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/08/23(水) 00:10:54
>>258

「ご近所さんってやつ?」

ピアスの穴を開けることを勧めてくる近所のお姉さん。
興味は、より強くなった。

「その人ってどんな人?」

「スゴイいっぱいアクセサリーつけてたりするの?」

なんとなくパンク風ファッションの女性を想像していた。

260冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2017/08/23(水) 00:48:17
>>259

「そう、ご近所さん」

ご機嫌さんに言葉を返す。

「んー? アクセサリーはいっぱい持ってるけど」

「そんなにつけてないかな。ピアスも耳に三個開けてるだけだし……」

「綺麗な人だよ」

261夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/08/23(水) 01:04:24
>>260

「三つ空けてたら結構空けてる方じゃない?」

基準は知らないが、そんなに付けてる人を見たことがないので、そんな気がした。

「外見は分かったけど、内面はどんな人?」

「性格とか趣味とか特技とか」

口には出さないが、何か変わった部分がないかなという期待を込めて質問する。

262冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2017/08/23(水) 01:13:40
>>261

「そうかな。お姉さんの友達にもっと開けてる人いたからなぁ」

感覚が違うのかもしれない。
少なくとも彼にとっての基準はその人達らしい。

「あー」

「実験が好きで、化学の先生になるって言ってたかなぁ」

「色々薬品とか家に置いてあったよ」

「後は色々教えてくれる」

263夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/08/23(水) 01:25:20
>>262

「えー、なんかスゴイね。インテリって感じ。白衣とか着てそう」

期待した通りだと内心で思った。

「教えてくれるって何を?化学のこと?」

「モノを溶かしたり爆発させたりとか?」

あまり縁がないからか、化学という言葉にかなり偏見があるらしい。

264冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2017/08/23(水) 02:14:10
>>263

「あぁ、白衣、持ってた」

「着せてもらったことあるよ」

あっけらかんと笑っている。

「爆発はちょっとだけ……水素でこう、ポンとやるくらいなら」

「液体窒素の実験とか面白かったな」

「バナナで釘を打つやつ」

手で釘を打つジェスチャー。

「後は生活に役立つこととか立たない事とか、色々教えてくれるよ」

265夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/08/23(水) 06:53:13
>>264

「バナナで釘――あ、それなら、この前テレビで見た」

その時の映像を頭の中で思い出した。
そこで、ふと疑問が浮かぶ。

「でも、エキタイチッソとかって家にあるものなの?うちにはないけど」

「ああいうのって、どこかの研究所とかに置いてると思ってた」

「その役立つこととか立たないことって、それも化学系の話なんでしょ?」

「たとえば、どんなの?
 黒豆を煮る時に一緒に古釘を入れると、表面にツヤが出るっていうのは知ってるけど」

生活という言葉から、ちょっとした豆知識みたいな話かなと想像した。

266冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2017/08/23(水) 23:49:32
>>265

「さぁ?」

「でも、あの人の家にはあったね。もしかしたらどっかから勝手に持ってきちゃったのかもしれないけど」

それから顎に手を当てて考えたような顔をする。

「酢で十円玉を綺麗にするとか教えてもらったなぁ」

「あとは料理とか、遊びとか色々」

267夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/08/24(木) 00:33:38
>>266

「えぇ〜?」

(マッドサイエンティストだ!)

大丈夫かなぁと思った。
色々な意味で。

「ところで、冷泉くん。今日は何しに海に来たの?」

「私は夏らしいことしようと思って来たんだけど」

「ヒマだったらさ、一緒にビーチバレーしないかね?」

自分の背後からビーチボールを取り出して見せた。

268冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2017/08/24(木) 20:19:55
>>267

「不思議だよね」

けらけら笑う少年の顔に危機感はない。
少なくとも彼にとってお姉さんがマッドなのかどうかは気にならないところらしい。

「お姉さんと遊ぼうって約束してきたんだけど」

「お姉さん寝坊で遅刻してるんだ」

「昨日寝られなかったからって、酷いよね」

「だから、うん。一緒にしよっか」

ビーチボールを見てそれに触れた。

269夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/08/24(木) 22:52:02
>>268

(昨日寝られなかった――夜遅くまで怪しい実験してたんだ!)

少年をよそに、勝手に危ない想像を膨らませる。
反面、そのお姉さんに会ってみたいとも思った。

「よーし、いっくぞー!」

「そりゃっ」

緩やかな放物線を描いてボールが宙を舞う。
夏のある午後のことだった。

270斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/09/14(木) 22:24:05
「――わかるよ。」

長い呼吸を一回、目を擦る

 「『辛抱』がさ、大事なんだ」

    「昨日お爺ちゃんがピカピカの釣竿持ってたのもお古の奴プレゼントしてくれたのも」

 「結果としてお爺ちゃんがお祖母ちゃんにボコボコにされてたのもすげーよくわかる」

        「わかるわ」

喧騒から離れた砂浜に一人、首に赤いマフラーを巻いた少年が椅子に座り
少し古びた釣竿を支えながら、欠伸を嚙み殺しつつのんびりと生温い潮風を堪能している
傍に置かれた青いクーラーボックスのコントラストが白い砂浜に映えるようだ

「……もう9月って感じするんだけどな。」

271夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/14(木) 23:09:02
>>270

「ほうほう、それは一大事ですな」

カラフルなネイルアートの付け爪とサングラスが目立つ少女が隣に座った。
待ち合わせしていた友達に「待った?」と声をかける時のような気軽さで。
間違いがあるとすれば、少年の友達でも知り合いでもないということ。

「だよねぇ。もう九月なんだよねぇ」

「夏も終わりかぁ。私は今年の夏は病院で終わったなぁ……」

「――あ、それ引いてるんじゃない?」

言葉の世途中で不意に釣竿を指差す。
もしかしたらかかってるかもしれない。

かかってないかもしれない。

272斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/09/15(金) 00:00:24
>>271

>「ほうほう、それは一大事ですな」

「でしょ――まあ、お爺ちゃん頑丈な上に自業自得だからそれは置いといて。」

苦笑しながら
少女の方をちらとも見ず会話に応答する
顔は未だに寝ぼけまなこのようだが……

>「だよねぇ。もう九月なんだよねぇ」

>「夏も終わりかぁ。私は今年の夏は病院で終わったなぁ……」


「ああ、『俺』は如何でもいいんだけど、僕もさぁ……」

そこまで言って首裏を右手で掻き
数えるために自分の眼前で、右手の指を一本ずつ折り曲げていく

 「ズッコケ4人組相手に『装甲車』と『スプレー缶』と組んで喧嘩したり」

  「公園の中で病院の拘束服付けたDVに泣いてる少女抱えながら逃げ回ったり」

 「いや貴重な出会いなんだけどさ、文句も言えないんだけど、あえて言うならこう……もう少し」

  「可愛い女の子と今しかできない、甘い!酸っぱい!甘い!酸っぱい!って感じの」

「イベント欲しかったなあ……6月くらいに。」

(――あれ?今僕誰と話して……まあいいのか? これも『重力』かな。)

其処まで言うと項垂れた感じで釣竿の方から目を背け、少女の方を見……ようとして

>「――あ、それ引いてるんじゃない?」


「おっ、引いてるぅー?マジでか!有難う!」
   「やったぜお婆ちゃん、今日は焼き魚だ!」

顔を喜びに綻ばせ満面の笑みを浮かべながら釣竿を握りだす
――そしてその腕に、いや全身に『大量の半透明の鎖』が巻き付きだす

(……『ロスト・アイデンティティ』! 僕の精密さを強化する!)

少年は全身に鎖が巻き付くを関せず、そのまま竿のリールを巻きながら感触を確かめている


 「ん、んん――? ……この感覚 あっ」

……少ししてその顔が苦笑いに変わった
失敗したことを誤魔化す笑みに


「根がかりしたぁ……まあいいかな、たった今1人釣れたみたいだし。」

――「失敗失敗」そんな軽い感覚で少女の方に握手をするために右手を差し出す
ショートカットの黒髪が揺れる、少しバツの悪そうな笑顔で。

「僕、斑鳩 『斑鳩 翔』空は飛べないけどね、君、名前は……爪、奇麗だね?君がやったの?」

273夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/15(金) 00:55:56
>>272

「なにソレ、すっごいキョーミあるぅ」

興味津々といった眼差しで相槌を打つ。
サングラスの奥にある黒目がちの大きな瞳。
それが好奇心の光でキラキラと輝いた。

「私はぁ……ちょっと前に海水浴しに、ここ来たなぁ……。
 それで、たまたま近くにいた男の子と一緒にビーチバレーやってた」

「あとは……ビルの地下にある『トーギジョー』で血まみれになりながら殴り合ってた。
 で、手がボキボキ折れた」

「あのアレ――『ポッキー』みたいに。
 チョー痛かったなー。もう治ったけど」

その最中、『鎖』の発現が視界に入り、しばし押し黙る。
『鎖』の正体には大方の見当がついた。
興味深げに、それを見つめる。

「私は夢見ヶ崎明日美。
 夢見ヶ崎でも明日美でも、名前の最初と最後をくっつけてユメミでもいいよ」

「あ――」

「『なあ、ボブ。俺、船乗りになりたいけど泳げないんだ。
 気にすんなよ、ジョージ!俺だってパイロットになりたいけど空飛べないぜ!』」

「――っていうジョークがあるんだって」

躊躇することなく差し出された手を握った。

「へっへっへっ、まーね。色んな色があってキレーでしょ。
 私、好きなんだ」

「『イカルガ君』……なんか言いづらいな。
 『ショー君』も、いい感じじゃない。
 カッコイイよ――その『アクセサリー』」

おそらくは、その言葉が『鎖』を指していることに気付くのではないだろうか。

274斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/09/15(金) 01:37:14
>>273

「病院とか何でいたの?とか聞きたい事、僕も有るけど……」

「ワァオ、同い年くらいなのに2/1殺伐してる青春だぁ……
 ポッキーとか想像したくないなあ すっごい痛そう。」

  「でもビーチバレーか、『何でも有り』なら負ける気しないな僕
   ……まあ勝負よりは君とビーチバレーした男の子の方が羨ましいけど。」

苦笑いしながら左手をまるで自分が痛めたかのように降りつつも
右手1つで器用に新しい釣り針と餌を釣竿に付けていく
『手慣れた職人のような手つき』で。

「ん、よろしくね ――ゆめみ?夢を見る……かな。 じゃあ『夢見ちゃん』で。」

(事実飛べないからなあ…カッコよく落ちるは出来るけど。)

張りなおした釣竿を改めて構え、投擲する

 ヒュッ……ポシャン

遠くの波間に赤い浮きがぷかぷかとゴムのアヒルの如く浮かんだ
潮風にマフラーが僅かに揺れる


「笑顔は会話の潤滑油だよねー、この名前も気に入ってるんだ、ジョークにも使えるし
 両親から貰ったからね……ショウでもショーでも好きに呼んでくれていいよ。」 ニッ

(……見えてるか 態々『人気のない場所』を選んだけど)
  (スタンド使いの『重力』……ますます強くなっている気がする 素晴らしいな)
 (この子との出会い、僕と僕のスタンドにどんな影響を与えるんだろう。)


「……そっか、この『アクセサリー』かっこいいって言ってくれた人は
 夢美ちゃんが初めてだな。」

 「――他の人は『蜘蛛』だの『蛸』だの言うんだぜ?」

……そう言うと肩をすくめながら顔を綻ばせる まるで長年の親友に会ったような笑顔で。

  「――別に驚かせるつもりは無かったし、謝っておくよ ごめんね。
  僕も気に入ってるんだけどね、『ロスト・アイデンティティ』それが僕の『アクセサリー』の名前
  君の『アクセサリー』も……その爪と同じ様に、きっと奇麗なんだろうな。」

275夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/15(金) 02:23:00
>>274

「――タコ?クモ?」

よく分からない、といった表情をする。
『鎖』のヴィジョンから、どうしてそんな感想が出てくるんだろう。

気になる。知りたい。見たい。

心の中で好奇心が強くなっていくのを感じた。

「ショー君ってさ、器用なんだね。
 ――っていっても、釣りのこと分かんないんだけど……。
 釣竿を見たのも釣りしてる人を見たのも、これが初めてだから」

「でも、さすがに魚くらいは見たことあるよー。
 『ちょっと前に』初めて見た。
 キラキラしてて、思ってたよりキレーだったなぁ」

今度の言葉はジョークじゃない。
あくまでも本気の発言だ。
生まれつき視力がなかった自分には、見えるものは何もなかった。
目が見えるようになったのは、ごく最近のこと。
だからこそ、目に映るあらゆるものに好奇心をくすぐられ、興味をそそられる。
ただし、今のようにサングラスで強い光を遮断していなければほとんど見えなくなるのだが、
そんなのは些細な問題だ。

「で、なんだっけ?
 あー、『アクセサリー』ね……。
 その器用さも、それのゴリヤクってやつ?」

「私も持ってるよ。ちょーイケてる『私だけのアクセサリー』」

「見せてもいいんだけど……。
 その『タコ』とか『クモ』って言われた理由を教えてくれたら見せちゃおっかな」

276斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/09/16(土) 00:37:36
>>275

「君って大分ガッツ、あるよねぇ 好奇心も旺盛みたいだし。」

そこまでを笑顔で言うと少年は深呼吸をする
これから喋るのに必要な事のように。

「君に会えた時、とても嬉しかったんだ、きっと『スタンド使い』だと思ったから、同時に疑問もあった
 ――夢美ちゃんをさ、最初に見た時サングラスだけ付けてるのに、帽子を被ってない、って思った
 『弱視』か、『盲目』なのか……でも今は見えるなら『おめでとう』って言うべきかな。」

「僕には当たり前のように見えてきた世界だけど……そうだよな、奇麗だよな『色』って。」

(――最初から無い物に不自由は感じない、けど こういう人が傍にいると気付かされるな
 僕達が当たり前のように持っているの は『奇跡』の産物だって事 ……だから僕も失いたくないんだ)

――息ができる、5年間『スタンド』を身に着けるまで彼が息を出来なかったように
少女に少し共感したのかもしれない、してないのかもしれない。

「ん?ん―……そんなに見たい? なーんて、僕から見たいって言ったようなものだものなぁー」

……そう言うと鎖の一欠片を親指にのせてコイントスのように空に跳ね飛ばす
見つめるならそれは上空で消えるだろう

瞬間、クーラーボックスの開閉音と同時に
斑鳩の左手に『アイスキャンデー』が2本握られている。

「はい、今どうやったんでしょーか!
 ……紫がブドウ、白がリンゴ味だよ 食べる?」 ――ニッ



意地の悪そうな笑顔と同時に答えが少女が答えを言うか言うまいかの内に告げられる
――鎖の巻き付いていない両腕から、『影のような腕』が現れると同時に。

「正解はぁー……デレデレデレデレ デデン!『腕が4本ある』!でしたぁー!どっじゃぁぁ〜ん!」

影の腕が敬礼するかのように挨拶する

「『鎧』にすれば僕の器用さを上げ、『鎖』を生み出し、解除すれば
 その部分に『影』が出来る、腕4本 脚4本 頭2つ
 ……そういう(ご利益)『スタンド』なんだ。『胴体』は解除されないんだけどね。」

そこまで喋ると少年はふと空を見上げる ……少女からは太陽の逆光で顔の表情が見えない

「――もちろん、ただ話したんじゃない 君に会えて嬉しいっていうのは
 君が僕の求める『スタンド使い』だったらいいなあ……って話なんだ。」

――遠くに浮かぶ釣竿の浮きが波間に揺れている。

277夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/16(土) 01:55:27
>>276

「くっくっくっくっ――」

言い当てられた内容を聞いて含み笑いを漏らす。

「気付いてしまったか……。
 私の正体に気付かなければ平和に暮らせたものを……。
 そのカンの鋭さが……命とりだぁーッ!!」

ババッと勢いよく立ち上がり、唐突に襲い掛かる――フリをする。
そして再び座り直し、しばし海を眺め、やがて静かに口を開く。

「『アリス』ってあるじゃない。『不思議の国のアリス』。
 一人の好奇心旺盛な女の子が、ある日ヘンテコな世界に迷い込んで――
 色々と珍しいものを見たり色んな変わった人に出会ったりして冒険するってヤツ」

「私もおんなじ。
 私は生まれてから、こことは違う真っ暗な世界にいたけど、
 ある日突然この眩しい世界に迷い込んできた。
 それからは色んなものを見て、色んな人に出会って、この世界を冒険してる」

「だから、私は『アリス』――『光の国のアリス』」

そう言って、邪気のない表情で笑う。
曇りのない明るい笑顔だった。

「――?」

飛ばされた『鎖』の破片を目で追い、その消失を見届けた。

「???」

続いて行われた動作を見て、不思議そうに首を傾げる。
目の奥でチカチカと灯る光が、その強さを増す。

「な――」

「な、なんだってぇぇぇ――ッ!?」

「一ヶ月前に匿名で寄せられた未確認情報……。
 この星見町の海に『腕が四本ある生物』が存在するという噂は本当だったッ!
 その詳しい生態を解解き明かすべく、我々科学調査班は危険を省みずに更なる接近を試みた!」

「――ふぅぅぅ〜ん。ほぉぉぉ〜う。へぇぇぇ〜え……」

グイグイと至近距離まで近付き、『影の腕』をしげしげと眺める。
他のことは目に入っていないといった雰囲気がある。
しばらく観察して満足したのか、また少し離れた。

「『求めるスタンド使い』、ねえ……」

「ついでにそれも教えてよ。言うだけならタダだし」

「それとも、代わりの情報も出さないで私ばっかり聞いてちゃダメかな。
 世の中ギブ!アンド!テイク!でしょ。 
 それが『シホンシュギ』ってヤツ?なんだし?たぶん」

適当なことを混ぜた台詞を言いながら、釣竿の浮きを見つめる。

278夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/16(土) 06:22:51
>>277

「くれるの?くれるんなら私はなんでももらうよ。
 ケガとビョーキ以外なら。
 あっ、それ『なんでも』じゃないか。
 ほぼ『なんでも』ね」

「ふぅん……。じゃ、ブドウにしよ。リンゴは今朝『ジョナゴールド』食べたから」

「あ――ちょっとしたことなんだけど、袋から出して中身だけ渡してくれる?」

紫のアイスを選んだ。
そして、遠慮なく貰う。
貰ったら、当然の帰結としてそれを味わう。

279斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/09/16(土) 22:19:39
>>277
>>278

  「……きゃー、おそわれるー って言うのもなんだけど
   僕が『ジャバウォック』で『トランプ兵』みたいに飛びかかってきたら
   どうするつもりだったんだい『光の国のアリス』ちゃん!
   その素敵な笑顔が『ヴォーパルの剣』だったり?」

襲い掛かってくるフリに怖がるフリで返す
ケラケラと笑う表情は面白くて仕方がないと言うかのようだ

    「そんなに近づくと危ないですよー夢美ちゃん
     『ロスト・アイデンティティ』は独自に考えて動くんだからね
      ……ほら君のほっぺた摘まもうとしてる。」

 影の頭部が少女の方を見て、左腕からずれるように現れた影がほっぺたを人差し指で
 そっとつつこうとする

 「ま、それも冗談、この『影』の手が君の『光』を奪う事なんてないしね
  ――どうぞお嬢さん!『グレープ味のフラミンゴ』ですよ。」

袋から出して、と言う声に包んでいたビニールの端を影の手先が摘まんで振り回す
……当然反動で紫のアイスキャンデーが切れた包装から零れ落ちる
その瞬間を影の頭部が見つめながら持ち手の部分だけを摘まんで少女に差し出した。


「言うだけタダだからね――『心を治せるスタンド』もしくは『時を巻き戻すスタンド』
 可能性はあると思うんだ、それこそこの『スタンド』って言うのは
 まるで『アリス』に挿入されている詩や童謡のように奇妙だから。」

そう言う少年の顔は微笑んでいたとしても瞳だけは笑っていないように見える
透明な氷の欠片が黒い瞳に入っているようだ。

 「ま、シホンシュギ?が好きなら……そうだな
  もっと君の事が知りたいな、それか見つけたら教えてくれるとか、もしくは……」

2本の右腕がクーラーボックスの蓋を開ける
……中には大量の氷と多種多様なドリンク、そしてアイスキャンデーが入っている

  「クーラーボックスの容量減らしにご協力クダサーイ、お祖母ちゃん僕に魚釣るんじゃなくて
   砂浜で遊んでくるために中にぎゅうぎゅうに氷とドリンク+アイス詰め込んでんだよね。」

280夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/17(日) 00:14:54
>>279

「いや、『剣』はないな。さすがにね――」

「――『爪』ならあるけど。ホラ」

色鮮やかなネイルアートの施された指先を軽く突き出す。
同時に、そこから剥離するように、もう一本の腕が姿を現した。
その指先には、『医療用メス』を思わせる形状の鋭利な爪が備わっている。

               『 L(エル) 』

            『 I(アイ) 』

         『 G(ジー) 』
  
      『 H(エイチ) 』
  
   『 T(ティー) 』

不意に、男の声とも女の声ともつかない無機質で機械的な『声』が聞こえる。
まるで傷の付いたレコードが同じ部分をリピートし続けているような声だ。
その声は、少女の背後から発せられたものだった。
いつの間にか、少女の傍らに人型のヴィジョンを持つスタンドが佇んでいた。
その両目は開くことなく、固く閉ざされている。

   『 L 』

「これが――」

   『 I 』

「私の『アクセサリー』――」

   『 G 』

「――『ドクター・ブラインド』」

   『 H 』

「イケてるでしょ?」

   『 T 』

そして、突き出していた手を伸ばして、差し出されたアイスキャンデーを受け取った。
それを舐めながら少し考える。
何のために、そのスタンドを探しているのだろうか――と。

「……知らないなぁ。私が持ってる力とも違うし。
 ま、もし『冒険』の途中で見つけたら教えてあげてもいいよ」

その一瞬、少年の心に巣食う何かを垣間見たような気がした。
もちろん詳しいことは知らない。
ただ、彼の心に何かがあることは理解できた。
濃い暗闇にも似た何か。
それは、かつて私がいた『闇の世界』にも似ているのかもしれない。

「ふっふっ――じゃ、教えてあげるよ」

少年の言葉を受けて彼に向き直り、悪戯っぽくニヤリと不適に笑う。

「『果汁64%』。内訳は『巨峰』が『40%』、『ピオーネ』が『24%』」

「――合ってるよね?」

わざわざ中身だけ受け取ったのは、包装に書いてある表示を見ないためだ。
絶対とは言えないが、おそらく正解だろう。
もし間違いがあったとしても、わずかな誤差だ。

「さて――どうして分かったんだろーねえ?」

281斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/09/17(日) 02:23:44
>>280

 「――へえ『人型』って多いんだなあ
  人間の精神から生まれたのだから、事実そうなるのが近いんだろうけど。」

(掠れたような人の声……か 喋れるスタンド?)

「中々にイカした…と言うより『君らしさ』が出てるアクセサリーかな。
 僕の主観だけど、素敵だと思う その『勇気』とか 
 ……そして今気づいたけど『アクセサリー』褒めたり褒められたりって結構照れるな!」

影の腕が少女の『アクセサリー』に対して挨拶に手を振る
腕を振る速さが多少早めなのは――照れ隠しも混じっているのだろう
そして少年は知らないという声に少しだけ目をつむる。

   「――そっか、残念 と考えるよりは
    教えてくれる方に感謝しようかな 有難うね。」

少し経てば何事もなかったかのように再びの感謝と笑顔をみせる『斑鳩翔』はそういう人格だ
ただ悲しんだりを別の場所に斬り捨てているというよりは
他人との協調の為に『感謝』したり『笑顔』を見せる。

そしてそれ自体を本人は気づかない
故に少女が言ったことに対して素直にアイスの包装を見て驚愕する

「包装……合ってる、舐めただけで解る……ウソォ スタンドも月まで吹っ飛ぶ衝撃的ッ
 (僕のスタンドが吹っ飛ぶと僕まで月に行くけど。)
 今度は僕が考える番かぁー ヒントはもう出てるし推理できる のかな?」

影の手足が思考の癖なのか少年のジョークか、『考える人』のポーズで固まる
笑顔には少しの滑稽さと問題を解く事への楽しさが滲み出ていた。

「んん――僕の2つの脳みそが唸るぜ、学校の期末テスト赤点『ギリギリ』だけど」
 
自分の手でこめかみを叩きながら思考に入る――そのせいで沖で赤い浮きが沈んでるのに気が付いてない。

 「――眼が見えなくなった人は、代わりに視力を補うために別の『感覚』を強化する事が有る
  そして夢では『匂い』や『味』を夢として見るという記録もある
  舐めただけで成分まで解る、『味覚の感覚の発達』は流石に人間離れしているし……
  『五感の超感覚』かな? ……違うかな?だったら『サングラス』必要ないか
  多くても『4つ』くらいだと見た! どう?」

――ニッ!

282夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/17(日) 07:46:05
>>281

「ふぅん……私は他のスタンドってあんまり見たことないんだけど、
 私が『トーギジョー』で対戦したのも人型だったし、そうなのかもね」

「ありがと」

誉められたことに対して、短く感謝の言葉を述べる。

「それと、これは喋ってるっていうより、独り言を言ってるっていうか……。
 ずっと同じ単語を繰り返してるだけで、他のこと言わないんだ。
 一つの曲の一ヶ所をリピートしてるような感じ。
 私もよく分かんないだけど、こういうものだと思ってるから。
 しいて言うなら、私だから……かな……」

少年の表情を察して説明を付け加えた。
『ドクター・ブラインド』からは自我のようなものは感じられない。
本体である少女の『光』に対する強い憧れが、
『光』を意味する言葉を発し続けさせているのだろう。

「――『85点』……かな。その答えは……。
 かなりイイ線いってて、100点まで後もうチョイってトコ。
                  パーフェクト
 ほとんど正解なんだけど、『百点満点』じゃないね」

「『超感覚』って部分は正解だよ。
                     ブースト
 今さっき、私は自分の『味覚』を『鋭敏化』」した。
 だから、『甘味』と『酸味』のバランスから、成分がよく分かったの」

「『正解』は――」

ゆったりとした動作で、『ドクター・ブラインド』が少年に近付いて行く。
そして、鋭い爪を備えた指先を、そっと少年の腕に伸ばした。

「ちょっとチクッとするけど、別に攻撃するわけじゃないからね。
 実際に体験した方が分かりやすいと思うから」

拒否されなければ、爪で軽く撫でるようにして、見えないくらいに薄い『切り傷』を付ける。

                         ソ レ
「ところでさ――かかってるんじゃない?『釣竿』」

浮きが沈んでいるのを見て、少年に注意を促す。
そして、釣竿を握ったなら、すぐに気付くだろう。
自らの『触覚』が『超人的』なものになっていることに。

竿に掛かっている力から、その力の『方向』や『強さ』を鮮明に感じ取れるのは勿論、
普通の感覚ではまず気付かないような、
波の振動がもたらす『微細な変化』までも正確に読み取ることができる。
さらには、糸の先に繋がっているであろう獲物の『大きさ』や『重さ』、
あるいは『種類』までも、頭の中に思い描くことが可能だ。

「『超感覚の移植』――それが『ドクター・ブラインド』の能力だよ」

(ホントは、これも『満点』じゃないんだけどね……)

正確に言えば、『ドクター・ブラインド』の能力は『五感の移植』だ。
『ドクター・ブラインド』は、『超人的四感』と『存在しない視覚』を持つ。
それらを他者に移植することが、『ドクター・ブラインド』の能力。
それを話さなかったのは、『存在しない視覚』の移植が『切り札』だからだ。
だから、少年の答えの中の『四つ』という部分は訂正しなかった。

夢見ヶ崎明日美は、生まれつき全盲だった。
そして、この世界は見えない人間が生きていくためには作られていない。
危険を回避して生きるためには、人一倍の用心と最大限の慎重さを必要とした。
それがなくては命に関わる。

だからこそ、見えなかった頃の明日美は、今よりも内向的で警戒的な性格だった。
現在の性格は、これまでの『見えない人生』の中で満たされなかった好奇心が爆発した結果だ。
しかし、体に染み付いた『過去の自分』は、表に出ることはなくなっても、
依然として心の奥に残り続けている。

「私の『超触覚』とショー君の『器用さ』。
 その二つをミックスすれば、クーラーボックスの容量いっぱいになるまで釣れると思うよ」

「あぁ、この中ギッシリ詰まってるんだったよね。
 じゃ、少しはスペース空けとかなきゃ」

そう言いながら、野生の豹のように俊敏な動きで、素早く氷を掻き分ける。
もちろん、自分ではなく『ドクター・ブラインド』の両手を使っている。
そして、手頃なドリンクを手に取って飲み始める。

283斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/09/17(日) 18:09:53
>>282

誰にでも、見せたくない物は有る
自分がそこに踏み入ったのかもしれないと言う考えが頭をよぎる
何から感じたのかは解らないが、あるいは影の頭部がそう考えたのか

「LIGHT『光』か、僕のが『鎖と影』だったように
 この子は君を確かに表している ――別に恥ずかしい事じゃあない
 むしろ素直な良い子じゃないか、君の『アクセサリー』」

  (――他の人が『スタンド』を見せたがらないのを解った気がするな
   見れば、何となくどういう人間か想像できてしまうからか
   心を見られて良い気がする人間って言うのはあまりいないだろうし。)

全身に巻き付く鎖、解除して現れる影
斑鳩に取っては求める『奇跡』の為の『チケット』だが
同時に少年自身の『精神性』を表しているという事実が有る

  「僕のアクセサリー何て全然自己主張しない上に、蛸やら蜘蛛やらと間違われるんだもんなぁ
   な、『ロスト・アイデンティティ』。」

 そう言いながら少年は影の頭を軽い調子ではたく ――にこやかに笑いつつ

 アイデンティティの喪失――まさしく『名前通り』なのだ。
 スタンドを手に入れるまでの5年間 自身の存在理由を社会から奪われ 
 取り戻すために息の出来ない日々を送り続けた『彼ら』の『悩み』の発露
『器用にする鎧』『影の五体』『縛る鎖』それが現実からの逃避から生まれた
『三つの人格』それぞれの『能力』彼は理不尽に対して歪まなかったのではなく
 正しく人の為に歪みから剥離した人格なのだ。 

 つとめて明るく、笑顔で振舞い続ける為の。

「うーん、赤点回避って所だけど満点じゃあないのか
 ま、予習復習無しでやった割には良い点数かな。」

『ドクター・ブラインド』に抵抗せずに切り傷を付けられる
ほんの少しの痛みだが医者の注射を思い出して少しだけ口角がひきつった

   「えーっと、これが君の能力って事か えっ あっほんとだ! 
    やった、フィーッシュ……!?」

釣竿を握った瞬間、即座に混乱と理解が押し寄せる
自身の感覚に驚愕すると同時に理解できたことによる歓喜で笑みが零れる。

「何だろうこの『感覚』……これが君の『能力』なのか
 糸の先が解る、得物の大きさ、動き 全部解るぞ……凄い。」

4本の腕が釣竿を掴み正確な捌きで糸を巻き取っていく
……そして細い糸の先にいる獲物は数分とかからずに空中に引きずり出された
魚と水の飛沫が同時に二人に飛翔し、それを影の腕が捉える

 「――釣れたッ!僕達二人なら、君の言う通りこの砂浜の魚が逃げ出すのも時間の問題だね
  『魚』に対しては無敵のコンビ!って所かな。 ……ってあれ?何かこの魚おおき」

――眼が再び見開かれる、糸の先にいた『獲物』のせいで。

「……クロダイだぁーッ!?鯛が釣れたってウソォ!『砂浜』で釣れるのかコレ!?」
落ち着くためにクーラーボックスから氷をかき分けてドリンクをあさりだした。

284夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/17(日) 22:54:26
>>283

「私も別に恥ずかしいとは思ってないけど。
 耳元でブツブツ言われてると、ちょっとうるさいけどね。
 もう慣れたよ」

少年の考えを知ってか知らずか、事も無げに応じた。
その言葉通り、特に気にした様子はないらしい。

「イェス!そーいうこと。
              ブースト
 さっきので『触覚』を『鋭敏化』してるから、全身がセンサーみたいに超ビンカンになってるワケ。
 あ、『音』が弱くなってきた。そろそろ終わりかなぁ」

そう言いつつ、こちらは『音』で魚の様子を捕捉していた。
『ドクター・ブラインド』の『超聴覚』を使えば、音の方向や大きさ、種類も聞き分けることができる。

「うわ、デカッ!!こりゃ大物だねぇ。水も滴るっていうけど、今日は濡れたくないなぁ……。
 海水浴に来たわけでもないし」

引き上げられた獲物の大きさに、思わず声を上げた。
同時に、『ドクター・ブラインド』を高速で自分の前に立たせ、水滴を浴びるのを防ぐ。
その直後に、少年が放った驚愕の声を耳にして、小首を傾げる。

「……サカナなんだから海にいるのがフツーなんじゃないの?
 確かにおっきいけどさ。
 そのサカナに足でも生えてたんならビックリだけど」

少女にとっては、さして驚くようなことではないらしく、不思議そうに返した。
魚に関する知識がないということだけは確かなようだ。
かつて目が見えていなかったせいで、やや一般的な認識とズレているせいもあるかもしれない。

「あ、ちょっと――」

少年の行動を見て声を発したが、間に合わなかった。
超人的になった触覚は、皮膚に伝わる刺激を非常に鋭敏に感じ取ることができる。
それは『温度感覚』も同じことだ。
氷に触れたら、その冷たさも通常の何倍も強く感じることになるだろう。

「――『解除』っと。やっぱりフツーに釣るのが一番かもね。
 この辺の魚がゼツメツしちゃっても困るしぃ」

アハハ、と苦笑いしつつ、少年に与えた能力を解除した。

「気長にやろうよ。私、ここで見てるから。
 クーラーボックスの中身減らしながら。ね」

今度はクスリと笑い、クーラーボックスに手を突っ込む。

「とりあえず――はい、コレ」

手を引き抜くと、そこから一本のドリンクを引っ張り出し、少年に差し出した。
その後は近くの適当な場所に座って、時折横槍を入れながら、釣りの様子を眺め続ける。

(――砂浜に出かけたアリスは、そこで変わった男の子に出会いました。
    その子は『不思議な鎖』と『影の腕』を持っていました。
    『見たことのないもの』を見られて、アリスはとても嬉しく思いました。
    そして、『まだ見たことのない沢山のもの』を、もっともっと見てみたいと思いました――)

285斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/09/18(月) 22:02:20
>>284

   「いやさ、流石に砂浜にこんなでかい鯛がいるとは思わな かっ 」

――顔が急速に青くなる
まさか彼自身釣れるとも思っていなかったのが針にかかった事
そのせいですっぽりと頭から『ドクター・ブラインド』が抜け落ちたのだ。

      「た たた ――冷たぁぁぁぃぃぃいいい!
       『超感覚』を『頭』じゃなく『冷たさ』で理解出来たぁ!」

ひっくり帰りそうになるのを『ロスト・アイデンティティ』が影の両腕で支え
ブリッジの体制と化す 見えない人からすれば空中で浮いてるように見えるのだろうが
スタンド使いから見ればまるで『蜘蛛』のようだ。

  「おおお……次から気を付けます 僕『セイウチ』じゃないしね」

   「ホント、ゆっくりやるのが良いんだろうな『回り道』だろーと
    今の僕の『最短の道』なんだしな、『辛抱』が大事さ。」

右手をさすりながら能力を解除されたことを確認する
ドリンクを差し出されたことに対して笑顔で答える
腕時計の影以外の皮膚が多少赤くなっていた

「ん、サンキュ夢美ちゃん。
 もう少しだけ付き合ってもらおうかな……ズルはよくないからな!」

もう能力は解除されているので怯える必要は無いのだが
恐る恐る受け取って冷たくならないのを感じると中身を飲んで一息を付く
左手首のミサンガが三重に絡まり、陽光を受けて煌めいた



 (――彼女が『光の国のアリス』なら『僕達』は何だろうね?
  『奇妙な国の……』)

――砂浜の波打ち際、釣りをする2人に未だに陽光は降り注いでいる
 時折の飛沫が小さな虹を作り出していた。

                           to be continued・・・?

286弓削 和華『アンタイトル・ワーズ』:2017/09/22(金) 22:11:07
平日、夕方。
そろそろ学生達も街に繰り出し始めてきた時間帯に、
溜息を吐きながらブランコに腰掛ける女性が一人。

「ふう……」

黒髪をまとめた、清潔感のある女性だ。
モノトーンのリクルートスーツは、今は夕日で僅かに赤みがかっている。
足元にカバンを置いた彼女の横顔は、途方に暮れているように見えた。

287弓削 和華『アンタイトル・ワーズ』:2017/09/22(金) 23:28:23
>>286
「どうしましょうかねぇ……」

口から漏れた呟きも、風によって儚くかき消されるくらいに弱々しい。
途方に暮れているように見える。-、という印象は単なる印象ではなく、
本当に途方に暮れている、というのが正解だった。何故ならば――

         「早く見つけないとですね」「仕事」

弓削和華、27歳、女性。
『前職』役員秘書。
つまり『現職』は自宅警備員的なアレなのだった!!

288夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/23(土) 00:55:26
>>287

「くふっ」

「い〜ち、に〜い、さ〜ん――」

「ふふふふふ」

「――にじゅは〜ち、にじゅきゅ〜う、さ〜んじゅぅぅぅ」

「くくくっ」

サングラスをかけた少女が、口元に笑みを浮かべながら歩いていきた。
頭にはリボンのようにスカーフを巻いている。
その手の中には、封筒と、数枚の紙切れが握られていた。
両手の指には、ネイルアートの付け爪が見える。

「――あぁッ!?私のユキチ様が!待って!!」

刹那――急な風で少女の手から飛ばされてしまった一万円札が宙を舞う。
その数三十枚。
少女はあたふたとうろたえながら追いかけている。
位置的には、ちょうど弓削の目の前だ。
見ようによっては、ちょっとした見世物状態かもしれない。

289弓削 和華『アンタイトル・ワーズ』:2017/09/23(土) 01:17:17
>>288
「……大丈夫ですか?」

立ち上がって拾いに行く。
無論、大丈夫でないことは(金額的に)分かりきっている。
これはまぁ……コミュニケーションのとっかかりみたいなものだ。

290夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/23(土) 01:35:34
>>289

「私が体を張って稼いだユキチがぁぁぁぁぁ〜!」

少女は紙幣の群れを追いかけて右往左往している。

  ――と……。

      ドシュンッ
            シュババババッ

突如、少女の傍らに人型スタンドが現れ、素早く正確な動きで紙幣をかき集めていく。
それにより、宙を漂っていたもののほとんどが、少女の手に回収された。
あとは、弓削の足元に落ちている数枚が加われば、それで全てだろう。

「あっ、いやいやそんなそんなどーもどーも」

「ありがとーございます」

少女はスタンドを引っ込ませ、ぺこりと頭を下げて弓削に近付いてくる。

291弓削 和華『アンタイトル・ワーズ』:2017/09/23(土) 01:45:14
>>290
   「  」

真顔である。
数枚の諭吉さんを手に取った態勢のまま、弓削は無表情で夢見ヶ崎をガン見していた。
というのも無理はないだろう、彼女は自分以外のスタンドを見るのが初めてなのだった。
というかこの先スタンドを人前で使うつもりもなかったし他人もそうだと
思っていたのでスタンド使いを目の当たりにするという事態がイレギュラーだった。
無論、スタンドをガン見していたことは夢見ヶ崎にも分かるだろう。

「……」「いえ、大事ないようでよかったです」

          「イッツマイプレジャー」

何事もなかったかのようによく分からん事を言いつつ万札を手渡すリクルートスーツ女。
なお、表情は終始真顔のままだった。

292夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/23(土) 02:12:44
>>291

「あー、落ち着いた」

そう言いつつ近くにあったベンチに腰掛ける。
自分としても、そうそう頻繁に日常でスタンドを使っているわけではなかった。
たとえば、自分が動くのがメンドくさいからスタンドでリモコンを取るなんてことはしていない。
だが、たぶん必要だと思った時は使っている。
数えてみて、一枚足りないなんてことになっても困るし。

「えっと……お姉さんの名前なんだっけ?」

知り合いだっただろうかという考えが不意に浮かんだが、
あまり自信がなかったため、とりあえず名前を尋ねてみた。
当然ながら全くの初対面なのだが。
そして、このリクルートスーツの女性が何を思っているかも知るよしもない。

「あとさ――今なんか見えてた?私以外に」

「それとも、私の後ろの方に『超珍しくて不思議なイキモノ』でもいたとか……」

やや声を落とし、念のために問いかける。
このスーツ姿の女性――弓削の考えは分からない。
ただ、水も漏らさぬほどに凝視されていたのは見えていた。
だから、一応は感付いてはいた。
だけど、もしかしたら私の後ろにビッグフットとかチュパカブラとかいたのかもしれないし……。

293夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/23(土) 02:20:28
>>292

諭吉さんは受け取って、ちゃんとお礼を言った。
そして、上記の行動へ。

294弓削 和華『アンタイトル・ワーズ』:2017/09/23(土) 02:22:47
>>292
「弓削和華と申します」

ベンチに座る夢見ヶ崎の前に立ち、誰何に対し明確な一言。
すっと伸ばされた背筋はいかにもキャリアウーマンらしい。

「初めまして、ですね」「すみません、少々視線が不躾だったようで」

      「少し――」

そこで、弓削は少し間を置いた。
おそらく、あそこまであからさまな視線を向けられれば向こうも感づく。
その上で『スタンド使い』であることを明かすべきか、
あるいはしらばっくれるべきか決めかねていたのだ。が……。

        「『奇妙なもの』が見えましたので」

そう言って、親指を立てて自らの背後を指差してみせる。
背後に『寄り添い立つもの』――スタンド、というわけだ。
結局、しらばっくれるメリットもないので正直に明かすことにしたらしい。

   「どうやらご同輩かなと」「奇遇です」

なお、常に真顔のままだ。表情筋が死んでるのだろうか?

295夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/23(土) 17:54:05
>>294

  ……?

  心なしか表情が薄いような……。

   いや――薄いんじゃあない!
   これは、表情が『全くない』ッ!
   まるで人の形に切り出された無機質な彫像のように……!

……などと思ったかどうかは定かではない。
ともかく――。

「あっ、知らない人だった。どーりで見覚えがないワケだ」

「――ゴメンなさい」

「夢見ヶ崎明日美っていいます」

名乗られたからには名乗り返そう。
なんといっても、挨拶はタイジンカンケイの基本っていうし。
もっとも、こちらの挨拶は、それほど整ったものではなかったが。

「ゴドーハイですか。ふむふむ」

弓削の背後に目をやり、納得したように二、三度うなずく。
そして、弓削の全身を正面から隈なく観察する。

「お姉さん、ビシッとしててカッコいいね。できる女って感じ」

「あ、名前聞いたんだし名前で呼んだ方がいいよね。
 カズハさんって呼んでもいい?」

「――あとさ、できたら座って欲しいな。見上げたまんま喋るのも疲れるし」

296弓削 和華『アンタイトル・ワーズ』:2017/09/23(土) 22:12:16
>>295
「ええ、どうぞ。よろしくお願いします、夢見ヶ崎さん」

                                  「では、失礼します」

着席を促されると、弓削はあっさりと夢見ヶ崎の隣に腰を下ろした。
スタンド使いの邂逅――当然ながら、話はそこに収束する、

     「しかし災難でしたね」

かと思いきや、微妙に話題が逸れた。
関係はしているので全く別の話題でもないのだが。

  「あれほどの大金、もし風で飛ばされてはいたらと思うと……」

 「ぞっとします」 「お給料、無事でよかったですね」

『身体を張って稼いだ諭吉』、ということでお給料と解釈したようだ。

297夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/23(土) 22:49:57
>>296

「ホントホント。どっか行っちゃう前に戻ってきて良かったぁ。
 慌てすぎて思わず『アレ』使っちゃったよー」

アレというのは、言わずもがなスタンドのことだ。
さっきのは、スタンド持ってて良かったと思った瞬間ベスト10くらいには入るね、きっと。

「えっと、あー、うん」

夢見ヶ崎の年齢は16歳。
一概には言えないが、この年頃で貰う給料としては多い金額だろう。
実際のところは、給料ではない。
この町の片隅で偶然見つけたスタンド使い同士が闘う闘技場。
そこで得た賞金だった。

「いやー、あれはハードな仕事だったなー」

「血は出るし腕の骨は折れたし――」

「それでしばらく入院したりして――」

「キツかったぁー」

その時のことを思い出しながら喋る。
全て事実ではあるが、口に出してみると変な冗談にしか聞こえないのがたまにキズだ。

298弓削 和華『アンタイトル・ワーズ』:2017/09/24(日) 00:11:43
>>297
「………………」

弓削も馬鹿ではない。
30万という大金を(見た感じ)子どもな目の前の少女が持っていることに違和感はあった。
ただ、何らかの事情でバイトで貯めたお金を引き下ろしたとか、実は幼く見えるだけ
というような可能性も考慮していたのだ、が……

          「そう言った『業種』があるんですか?」

ズイ、と身を乗り出して一言。
相変わらず真顔だが、今日一番の食いつきだ。
それより怪我に触れるべき部分なのだが。

   「『能力』を利用することが求められる『業界』が……」

無表情の中心にある瞳に浮かぶのは、好奇心。
自分の知らない未知なる世界へのパイプ役を少女に期待する感情。
そこに少女が負傷の危険をおかしたことへの心配などはない。
何故か? それは彼女が現在失職中でそれどころではないからである。

299夢見ヶ崎明日美『』ドクター・ブラインド:2017/09/24(日) 11:43:49
>>298

「――???」

「……へぇ……」

予想以上の食いつきの良さを目の当たりにして、最初は不思議そうな表情を浮かべた。
しかし、それは心に生じた強い好奇心によって、瞬く間に塗り潰されていく。
この終始真顔で無表情を貫いている女性が、
自分の話に強い反応を示したことに対する好奇心だ。
サングラスの奥に隠された黒目がちの大きな瞳が、小さな星のようにキラリと輝いた。
やがて、口元に悪戯っぽい笑みが現れる。

「うん――『ある』みたいだよ」

「大きな声じゃ言えないけどさ――」

そう言いながら、こちらからも顔を近付ける。
お互いが近寄っているために、かなりの至近距離になるだろう。
そして、耳打ちする時と同じように開いた片手を口元に添え、声を潜める。

「――『アリーナ』っていう場所なんだ」

「スタンド使いの選手が対戦する地下のトーギジョー」

          ファイトマネー
「そこで勝ったら『 賞金 』が貰えるってワケ」

そこまで言うと、いったん言葉を切る。
弓削が関心を持っているかどうかを見るためだ。
それを確認してから、改めて話を続ける。

「カズハさん――もしかしてキョーミある?」

「私は飛び入りで参加したんだけど、そこのカンケーシャと連絡先交換してるんだよね」

「だから――もし良かったら、向こうに話を伝えてもいいんだけど……」

自分と連絡先を交換した男は、こう言っていた。
正式な選手になることを考えるか、参戦希望のスタンド使いを紹介してくれ、と。
あの時は、まさか本当に誰かを紹介することになるなんて思ってなかったけど――
返事次第ではそうなる、か、も。

300弓削 和華『アンタイトル・ワーズ』:2017/09/24(日) 12:44:48
>>299
「いえ」

急転直下。
……というと少し語弊があるが、弓削は先程までの前のめり具合とは
想像もつかないほどあっさりと、勧誘に対して一歩引いた態度をとった。

    「実は私、現在失職中でして」

そんな弓削から放たれたのは、唐突なニート宣言だった。
リクルートスーツを着たままブランコでギコギコやっていたのもそういうことらしい。

「それで今日も就職活動中だったのですが、……なかなかちょっと、という次第でして」

少し声色が沈んだ。

「『スタンド使い』……それそのものが必要な資格になる『業界』について
 ご存知ならば、詳しく伺いたいと思ったまでで……『選手』は特に」
                    「争いごとはあまり得意ではないですし」

弓削はそう言うと目を伏せて、

         「私は、『誰かのために』働きたいと思っています」

「それが『モチベーション』なのです」
「私自身が目立つのでなく……」「それだけが願い」

           「ただ」

「もしも『マネージャー』といった職種があるのでしたら、
 そちらの方にはとても興味を惹かれるのですが……」
「……その前に、『観戦』してみたいですね。どのような職場なのか見ておきたいですし」

「『観戦』は、どうすればできるでしょうか?」

要するに、『選手としてはそんなにだけど、もしマネージャー職があるなら興味がある』……
そして『何にせよどんな仕事なのか理解するために色々見ておきたい』ということらしい。
そんなもんあるのか? あったとして新規採用あるのか? というところからして非常に微妙な感じだが……。

あと、闘技場そのものの営みには全く疑問を差し挟んでなかった。
やはりどこかズレているのかもしれない。

301夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/24(日) 22:28:32
>>300

「……一度しか言わないから、よく聞いてて」

その言葉は、低く重い響きを持って発せられた。
顔からは笑みが消え失せ、神妙な表情に変わっている。
『あなたの余命は残り三日です』と宣言する医者のように、ひどく深刻な顔色だ。

「まず――『ウサギ』を探すの。時計を持ったあわてんぼうの白ウサギをね」

                ラビットホール         ワンダーランド
「そのウサギを追いかけて『ウサギ穴』を通れば、『未知の世界』へ行けるはずだよ」

そこまで言うと、固い表情が少しずつ崩れ、唐突に含み笑いを始める。
最後には、声を出して無邪気に笑い出した。
見る人に悪印象を抱かせるような笑い方ではなく、明るく屈託のない笑いだ。

「ふっふふふ、ゴメン。ただのジョークだよ」

「それで、なんだっけ?ああ、さっきの話の続きね」

「募集してるかどうかは分かんないなぁ。
 代わりに大体の場所を教えるよ」

「そこに行ってみたら、なんか分かるかも」

「さっきのはジョーダンだけど、私の時も似たような感じだったしさ」

言葉通り、自分の知っている場所――
(ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/comic/7023/1454252126/562参照)を伝える。

とはいえ――それで弓削に何か大きな変化が起こるとは考えていない。
あくまで『大体』なので、分かるかもしれないし分からないかもしれない。
そもそも、何か特殊なきっかけでもなければ入れるような場所でもないだろう。

それでも教えたのは、彼女が何か大きな苦労を抱えていることを察したのと――。
この弓削和華という一風変わった女性に対して、興味を抱いたためだ。

302弓削 和華『アンタイトル・ワーズ』:2017/09/24(日) 23:20:34
>>301
「フム」

夢見ヶ崎の『ジョーク』も、眉一つ動かさずまじめ腐った顔でメモを取る弓削。
雰囲気だけなら『仕事の出来る女』のようだが……、

       「……ジョーク」
                   ビィーッ

……今の今まで書いていた部分に『ジョーク』と書き加える姿はいっそ滑稽だ。
何気にメモを取る速度は速い……が、異常というほどではないのでこれは技術だろう。
……気を取り直してメモを取り直し。

「……ありがとうございました。お陰様で、とても助かりました」

メモを取り終えると、弓削はそう言って頭を下げる。
礼をするのにきっかり四拍使って頭を上げると、

「こちら、私の連絡先です。ここで知り合ったのもスタンド使いの『縁』。
 もし何かお困りのことがありましたら、お気軽にご相談下さい。
 スタンド使いとしては若輩者ではありますが、出来る限り力になります」

      「では」「失礼します」ペコォー

そう言って名刺を手渡し――名前と携帯電話、メールアドレスが
書かれていた――、そのまま、会釈をしてその場から去って行った。
相変わらず終始真顔だったが――その後ろ姿からは、どことなく満足げな雰囲気が窺えた。

303夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/25(月) 21:42:01
>>302

「……へぇ〜……」

自分の放ったジョークをそのままメモする弓削を、物珍しそうな好奇の視線で観察する。
『マジメ』だ。
あまりにも『マジメすぎる』。
もし、彼女が冗談のつもりでやっているんだとしたら、自分の言ったジョークより面白いだろう。
たぶん――いや、きっと本気なんだろうけど。

「――ふむふむ」

名刺を受け取り、ざっと目を通す。
こちらには渡す名刺がないのが惜しいところだ。
その代わりに、明るく笑いかける。

「こっちこそ、なんか変なモノとか変わったコトとかあったら教えてねー」

「ネンジュームキュー24時間ボシューチューだから」

「私もスタンド使い若葉マークだけどさ、けっこう役に立つと思うよー」

彼女を通じて、まだ見たことのない何かに出会えたら嬉しい。
未知の世界や未知の存在との遭遇は、自分にとって何よりの報酬だから。
もちろん、スタンド使いの縁で知り合った弓削に対する気遣いもあるが。

「そんじゃ、またね〜」

模範的なお辞儀ではないが、こちらも軽く頭を下げ、立ち去っていく弓削を見送る。
その心には、ささやかな満足感があった。
あの弓削という女性は、今まで自分が出会ったことのないタイプだったからだ。
未知の人間との出会い。
それも自分にとっては、大きな喜びの一つなのだから。

304小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/01/04(木) 02:31:42

一月一日――元旦。

他の地域と同じように、ここ星見町の神社も、新年の初詣をする人々で賑わっていた。
その象徴であるかのように、境内は見目鮮やかな晴れ着姿で溢れている。

     ザッ……

色とりどりの雑踏の中で、墨のように黒い着物を纏った女が静々と歩いていた。
近くで見たならば、それが和装の喪服であることが分かるだろう。
最も格式の高い第一礼装であり、失った最愛の相手に特別な想いを伝えるための装いでもある。

  ――去年は一年、大きな事故や病気もなく、無事に終えることができました。

  ――どうか、今年も無事に過ごせるよう、私を見守っていて下さい。

  ――治生さん……。

自分なりの新年の装いに身を包み、心の中で静かに祈りを捧げる。
去年の一年間、彼との約束を守ることができたことに対する感謝を。
そして、今年の一年間も彼との約束を守り続けたいという願いを込めて。

305ゲルトルート『ラスト・ワルツ・リフレイン』:2018/01/12(金) 00:03:44
>>304

ふっふっふ。
自分は人の波を見ている。
自然の中に数式が潜むことは多かれど人の波は幾何学模様を描きはしないもの。
だけど自分は観察している。
この経験もきっとどこかでしてるはずだから。

「……さぁ実験をはじめよう」

自分は人を避けていく。
多分こうすれば大丈夫というルートが見えてる。

「あ……」

そうだ。ここで人を見つけるんだ。
喪服を着た女の人。きっと、いつか見た風景。

「ねぇ、あなたと自分って会ったことないよね?」

思い切って喪服のあの人に聞いてみる。

306小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/01/12(金) 00:52:14
>>305

ちょうど参拝を終えた時、知らない女性に呼びかけられた。
少なくとも、自分には見覚えがない。
もしかすると、向こうは自分を見たことがあるのかもしれない。
しかし、それは会ったことがあるとは言わないだろう。
少し考えたのち、口を開く。

  「……そうですね」

  「はい――会ったことはありません……」

  「あなたは……私をご存知ですか?」

失礼にならない程度に女性の容姿を確認しながら、質問を返す。
自分が忘れているだけで、本当はどこかで会っていただろうか。
もしそうだとしたら、申し訳なく思う。

307ゲルトルート『ラスト・ワルツ・リフレイン』:2018/01/13(土) 00:27:56
>>306

んっんー。やっぱりそうかそうか。
デジャヴかそうじゃないか、見切れたな。
うんうん。これは一つの進歩だね。

「そうー。自分も君の事は知らないかなー」

「あ、ああ、ごめんねー。怪しい者ではあってもぉ悪い人じゃない、と思ってくれていいよー?」

普通こーゆーのはヘンナヒトって感じだねぇ。
自分はそう言う目で見られるの慣れてるから別にいんだけどね。

「えぇっとーどうしよっかなー?」

「お姉さんは時間ある? お話しないー?」

308小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/01/13(土) 00:58:38
>>307

  「――はじめまして……」

軽い会釈と共に挨拶する。
どうやら自分が忘れているというわけではなかったらしい。
そのことに対して、ひとまず安心した。

  「ええ……私は構いません」

  「……あちらに行きましょうか」

そう言ってから、人の少ない一角に向かって歩き出す。
どちらかというと寂しがりな性格ということもあり、人と話すのは好きな方だ。
きっかけは突然ではあっても悪い気はしない。

  「私は小石川といいます」

  「よろしければ、お名前を聞かせていただけますか?」

309ゲルトルート『ラスト・ワルツ・リフレイン』:2018/01/13(土) 01:03:38
>>308

わーお。ちょっと安心ー的な?
これ、断られることも多いんだよねぇ。
ま、しょーがないけどねぇ。

「ありがとーお姉さん」

「ふふっ。ナンパみたいだねぇ」

「えっと、名前。ツクモ。それか、ゲルトかトゥルーデ」

名字とあだ名とあだ名ね。

「よろしくね。小石川のお姉さん」

310小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/01/13(土) 01:21:18
>>309

  「私も、誰かとお話するのは好きですから……」

  「それでは……ツクモさんとお呼びします」

目的の場所へ着き、歩みを止める。
境内には多くの人がいるが、二人の周りにいる人の数は少ない。
少なくとも、周囲の話し声で声が聞き取りにくいということはないだろう。

  「――先程、会ったことがないかとおっしゃいましたね……」

  「何か……訳があるのでしょうか?」

  「もし差し支えなければ、教えていただけませんか?」

気にならないといえば嘘になる。
ただ、どうしても聞かなければならないということでもない。
もし彼女の気に障るようなら、これ以上は立ち入るつもりはない。

311ゲルトルート『ラスト・ワルツ・リフレイン』:2018/01/13(土) 01:36:25
>>310

「訳。うん、あるよ」

そういって自分は右の耳を触る。
三つのピアス。
それが癖になっている。

「デジャブって知ってる? 見たことがない事を見たことがあるように思うっていうか」

「未経験をすでに経験したことと思うって事」

既視感ともいうその概念。
自分がずっと苛まれる病気でもある。

「自分はデジャブをよく起こすんだ」

「で、なんでかなぁって悩んでる。それと自分の行いが経験したことなのか未経験なのか曖昧になっちゃったの」

「だから、確認ーみたいな?」

交流しないと事実がどうなのか確認が出来ないんだなぁ。

「あ。自分からも聞いていい? お姉さんはなんで喪服?」

312小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/01/13(土) 01:56:42
>>311

  「――そんなことが……」

デジャブというものは知っている。
自分も、時々そういったものを感じることはある。
しかし、そう頻繁に体験するというわけではない。

  「不思議……ですね」

ピアスに目をやりながら呟く。
初めて会った者同士が、こうして会話をしていることも、第三者から見れば不思議なことかもしれない。
そう考えてみると、この出会いも何か不思議なもののように感じられた。

  「私は……」

  「大切な人に……伝えるためです」

  「いつも想っている、と……」

おもむろに両手を胸の前に上げて、軽く握る。
左手の薬指と右手の薬指。
その二ヶ所に、同じデザインの銀の指輪が光っていた。

313ゲルトルート『ラスト・ワルツ・リフレイン』:2018/01/14(日) 00:31:35
>>312

「不思議だよねぇ」

困ったところだよ。

「んー!」

あらら、想い人ときたかい。
予想外、いや考えたら思いつくのかなぁ。
左右一緒の指に指輪か。
自分も指輪してるけど両の小指だからねぇ。

「いいじゃんねーそういうのも」

314小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/01/14(日) 01:01:25
>>313

  「……ええ、そうです」

呟くように言葉を告げて、自分の指輪に愛おしげな視線を向ける。
左手の指輪は自分のもの、右手は彼の形見だ。
少しして、また静かに両手を下ろして目の前の相手に向き直った。

  「デジャブ……私とも、どこかで会ったように感じていらっしゃったのでしょうか……」

  「もしよければ、ツクモさんのことをもう少し教えていただけませんか?」

  「もしかすると……気付かない内に、どこかで会っていたのかもしれませんから」

町の通りで擦れ違ったとか、たまたま同じ店の中にいたというようなこともあるかもしれない。
ただ、特に解き明かさなければならない問題というわけでもない。
このツクモという不思議な女性のことを、もう少し知りたくなったというのが正直なところだった。

315ゲルトルート『ラスト・ワルツ・リフレイン』:2018/01/14(日) 01:33:38
>>314

「そう。どこかで会った気がした」

「というか、この人の波もどこかで見た覚えがあって、どう動けば誰がどう動くかある程度見当ついてたというかー」

勿論、予想の通りに進むとは限らないけどねぇ。
裏返せばある程度は分かったうえで出来るってことかな。

「自分の事? うん、お姉さんがいいなら」

「えっと、何から話そうかな。何かある?」

316小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/01/14(日) 01:53:28
>>315

  「そうですね……」

そっと目を伏せて、少し考える。
何がいいだろうか。
話しやすいものがいいが、あまり踏み込みすぎるのも失礼に当たる。

  「――ツクモさんは、何がお好きですか?」

考えた結果、趣味というところに行き着いた。
不思議な雰囲気を漂わせている彼女は、何が好きなのだろう。

  「私は……森林浴をするのが好きです」

  「それから、庭の花壇でラベンダーの栽培を少し……」

  「木の匂いやラベンダーの香りに包まれていると、気分を落ち着かせてくれるので……」

317ゲルトルート『ラスト・ワルツ・リフレイン』:2018/01/14(日) 22:57:20
>>316

「好き、好きかー」

「……お姉さん、森林浴するんだね」

自分はそういうことはしないけど。
まぁでもお姉さんはイメージに合ってるかな?
マッチしてるかな? ベストマッチ、かな?

「自分はー実験? と、昼寝と散歩とー」

「可愛い子? 可愛い系は好き? 好き好き。うん、ほんとほんと」

318小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/01/15(月) 00:56:24
>>317

  「散歩は私も好きです」

  「自然公園の辺りには、よく……」

自分と共通する部分を見つけて、微笑みを浮かべる。
全く違うタイプのようでいて、実際は気の合う部分もあるのかもしれない。
もちろん、少し会話をしただけだけで、相手の人となりが分かるとも思っていない。
ただ、同じような部分が見つかると、ささやかな喜びはある。
それもまた確かなことだ。

  「……実験――」

  「なんだか……難しいことをなさっているのですね……」

自分とは縁遠い単語だ。
どんなものなのか、なんとなく想像はできる。
しかし、実際にどんなことをするのかは予想できない。

  「可愛い、ですか……」

その言葉を聞いて、少し考える。
何か、そこに力が篭っているような印象を受けた。

  「誰か……そういった方が身の回りにいらっしゃるのですか?」

319ゲルトルート『ラスト・ワルツ・リフレイン』:2018/01/15(月) 01:33:13
>>318

「いいよねぇ散歩」

「刺激的すぎない刺激ー」

もっとも、自分の場合は今みたいな簡単な実験をするつもりで散歩してたりもするけどね?

「そー実験。昔は先生になりたかったんだぁ」

「ってー今もかな」

諦めきれないとかじゃあないんだけどね。
そうありたい姿ではあるんだよね。

「可愛い……うん。いるよ」

「自分は可愛いものを身の回りに置くのが好きだよ」

「ほら、好きなブランドと近いかな。人間だからブランドってことはないんだけど」

320小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/01/15(月) 02:12:39
>>319

  「ええ、お気持ちは分かります」

自分も、この指輪を肌身離さず身につけている。
この世に二つとない、大切な形見の品だからだ。
形は違えど、大事なものを傍に置きたいという意味では似通った部分もある。

  「先生ということは……科学の先生ということでしょうか?」

  「そういったことについては心得がないので、私には想像もつきませんが……」

  「志を持っておられることは、素敵なことだと思います」

自分には、彼女のように何かになりたいという目標はない。
しいて言うなら、この命を全うすることくらいだ。
自分にとっては大きな困難を伴う願い。
時折、心が折れてしまいそうになることもある。
ただ、それでも成就したいという思いも持ち続けている。

  「もし、よければ――」

  「少し歩きながら、お話しの続きをしませんか?」

  「お互いに散歩が好きな者同士として、一緒にお散歩をさせていただきたいと思うのですが……」

  「――いかがでしょうか?」

履いている草履の先を静かに神社の外に向けて、穏やかな微笑と共に誘いの言葉を掛ける。
彼女が承諾してくれたなら、話の続きは歩きながら聞くことになるだろう。

321ゲルトルート『ラスト・ワルツ・リフレイン』:2018/01/15(月) 23:35:22
>>320

「素敵って言われるとむずがゆいなー」

「ま、ありがっとー」

なれるかな。
なれちゃうのかな。自分。

「一緒にお散歩? いいよー」

「断る理由、ないしね」

うんうん。これもまた経験だ。
これは経験した覚えがないから、一つ未知の道をすすめたね。
自分との関わりの中でこの人も変化したのかな。
そして自分自身も変化出来たのかな?
ま、どっちでも大丈夫だね。

「じゃ、行こっかーお姉さん!」

322小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/02/18(日) 22:41:08

                 コッ コッ コッ ……

黒いキャペリンハットに洋装の喪服と黒いパンプスという普段着の上に、ラベンダーを思わせる紫色のコートを着て、
夕日に染まる街を歩いている。
いくつかの店を回って買い物を済ませ、やがて帰宅の途に就いた。
街中の賑やかさから離れ、人通りの少ない閑静な通りに足を踏み入れる。

            ……ィ

   ――……?

その時、何か動物の鳴き声が聞こえたような気がした。
思わず足を止めて、その場で振り返る。
しかし、そこには何もいなかった。
聞き間違いだったのだろうか。
そう思い、再び正面に向き直る。

           ……ミィ

その時、また鳴き声が聞こえた。
今度は、先程よりもはっきりと、耳に届いた。
鳴き声に応えるように、おもむろに自身の頭上を仰ぎ見る。

  「――あっ……」

背の高い一本の街路樹。
その枝の上で、一匹の猫が不安げな声で鳴いていた。
自分は、その猫に見覚えがあった。
以前、星見横丁で見かけたことがあったのだ。
その時に一緒にいた少年は、この猫を『あい』と呼んでいたことを覚えている。

おそらくは、木に登った後で下りられなくなってしまったのだろう。
どうすれば無事に下ろしてあげられるのだろう。
夕暮れに照らされた通りに一人佇み、胸中で思案しながら、木の上を見つめている。

323アンジェ『シェパーズ・ディライト』:2018/02/18(日) 22:50:19
>>322
「おねーさんどうしたの?」

少し離れたところから声をかけたのは、金髪碧眼の少女。
清月学園の中等部の制服を身に纏っている。

少女は街路樹のネコに気付いていないらしく、
何やら街路樹の前で空を曲げている女性を怪訝に思ったようだ。

324小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/02/18(日) 23:27:13
>>323

少女の声を聞き、そちらに顔を向ける。
その表情には、少し困ったような微笑が浮かんでいた。
少女に向かって、軽く頭を下げて挨拶する。

  「あの上に……猫がいるんです……」

  「ただ――自力で下りられなくなっているようなのです」

  「怪我をしない内に、下ろしてあげたいのですが……」

街路樹に猫がいることと、その状況を少女に告げる。
自分だけでは、この猫を下ろしてあげることは難しいだろう。
しかし、この少女も、力では自分と大きな違いはなさそうに思える。

やはり、誰か他に力のありそうな人を呼んでくるべきだろうか。
そんなことを考えながら、猫の様子を見守る。
目の前にいながら、不安そうに鳴いている猫を助けられないことを歯痒く思っていた。

325アンジェ『シェパーズ・ディライト』:2018/02/18(日) 23:43:39
>>324
「え? あっ! ほんとだ!」

目の前の女性の言葉に、金髪碧眼の少女──アンジェは得心する。
確かに、ネコが降りられなくなっている。これは大変だ。

「助けてあげないと……ちょっと待ってね〜……」

事態を認識したアンジェはそう言って、
猫のいる街路樹の下に駆け寄る。
どうやら、ここで助けるつもりらしい。
木でも登る気なのか、と思いきや──

          ズッ

と、少女の身体から乖離するように、
夕焼けのような輝きを秘めた
屈強な肉体を持つ羊角の人型が現れる。
強靭そうな肉体とは裏腹に、その恰好は燕尾服。
何かミスマッチなかみ合わせだった。

    『フゥッ……』  ズオオ

現れた人型スタンド──『シェパーズ・ディライト』は、
一跳びに跳躍すると、猫の腹を両手で挟んで捕獲する。
高速かつ精密な動き……メタ的に言うとス精BBくらいだった。

なお、アンジェはこの間両手を上げて『おいでおいで〜』とやっている。
おそらく、このままスタンドを戻して
『声に反応して降りたネコを抱きかかえました』というポーズにするつもりなのだろう。

326小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/02/19(月) 00:05:37
>>325

  「――……!」

まず、街路樹に駆け寄る少女を見た。
続いて、彼女が発現した、角を持つ屈強な人型スタンドを目視した。
予想していなかった光景を目の当たりにして、その表情に驚きの色が現れる。

  「……ありがとうございます」

深く頭を下げると共に、少女に感謝の言葉を述べる。
やがて、少女を見つめる視線が、その傍らに立つ少女のスタンドへ移る。
その様子を見れば、スタンドが見えていることは一目瞭然だろう。

  「――良かった……」

まもなく、小さな声で安堵の呟きを発しながら、少女のスタンドによって助けられた猫に視線を移した。
本当に無事で良かった。
思いがけずスタンドを目撃した驚きよりも、今は猫が無事だったことを喜ぶ気持ちの方が大きかった。

327アンジェ『シェパーズ・ディライト』:2018/02/19(月) 00:15:50
>>326
アンジェはというと気づかれたとは毛頭思っていないようで、
スタンドから渡された猫を抱きかかえたまま、小石川の方へと向き直った。

「うん、ほんとによかったね!
 この子も怪我とかしてないみたいだし!」

破顔一笑して、それからアンジェは気付いた。
目の前の女性の視線が、自分ではなくスタンドに向けられていたことに。
その視線はすぐ助けられた猫の方へと映ったが、まぁ流石に分かる。

「えーと……」

『スタンド使いなんだ?』と聞きたい好奇心はもちろんあるが、
それより先に、まずは猫の方をどうにかせねばなるまい。
つたない頭脳でそう計算を弾き出したアンジェは、
傍らに立つ夕焼け色の屈強な戦士と一緒に小首を傾げた。

「このネコ、お姉さんのネコ?」

328小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/02/19(月) 00:36:27
>>327

  「いえ――私の猫ではありません……」

  「野良猫ですが、以前に見かけたことがあるんです」

  「その猫を私よりも前から知っていた私の知人は、『あい』と呼んでいました」

そう言って、少女に対して穏やかな微笑みを向ける。
そして、スタンドに抱き抱えられている猫を見つめた。
猫は、スタンドの腕の中で体を捩っていた。
もしかすると、下ろして欲しいのかもしれない。
木上から助けられた今、このまま離してしまっても問題はないだろう。

  「もう大丈夫なようですね」

  「――下ろしてみていただけますか?」

少女に猫の様子を伝え、猫を地上に下ろすように頼む。
その後は、おそらく自分の居場所へ帰っていくのだろう。
人間に居場所があるように、彼らにも居場所はあるのだろうから。

329アンジェ『シェパーズ・ディライト』:2018/02/19(月) 00:43:24
>>328
「へぇー……」

野良猫、との言葉にぽけーと頷き、
それから猫を下してやる。
「あいちゃんじゃあねー」なんて言いつつ見送ると、

「──でも、わたしはびっくりしたよ!
 まさかこんなところでスタンド使いと会うなんて!」

言いながら、彼女の身体に溶け込むように、
『シェパーズ・ディライト』は消えていく。

ちなみにアンジェは以前の邂逅で
『ものを運ぶのが苦手なスタンド使いもいる』と
知ったので、目の前の女性もまぁそうなんだろうなと思っている。

330小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/02/19(月) 02:54:47
>>329

  「――さようなら……」

少女と同じように、立ち去ろうとする猫に別れの言葉を掛ける。
それらの呼び声に反応したのか、猫は一度だけ振り返り、小さな声で鳴いた。
そして、そのまま通りを歩いていく。
明るい夕焼けの中に、しなやかな猫のシルエットが浮かんでいる。
その姿は徐々に小さくなり、やがて見えなくなった。

  「私も驚きました」

  「それに、あんなにも力強いスタンドは見たことがなかったので……」

今しがた目にしたスタンド――『シェパーズ・ディライト』を思い出す。
自分も、それほど多くのスタンドを見てきたわけではない。
それでも、目の前にいる少女のスタンドからは、ほとんど出会ったことがないくらいの力強さを感じた。

  「私の『スーサイド・ライフ』では、あの猫を助けることはできなかったと思います」

  「この場に、あなたがいてくれたことは、本当に幸運でした」

『スーサイド・ライフ』は、自身の肉体を切り離すことによって遠隔操作を可能とするナイフのスタンド。
         パーツ
切り離された『部位』は非力であり、能力を持たない者にも視認できる。
猫をしっかりと捕まえられたかは分からないし、そもそも猫を驚かせてしまう。
助けるどころか、木から転落させてしまうことも考えられる。
そうしたことを考えると、自分のスタンド能力では木から下りられなくなった猫を助けることは難しかっただろう。

331アンジェ『シェパーズ・ディライト』:2018/02/19(月) 23:31:37
>>330
「それほどでもある!」

小石川の言葉に、アンジェは衒った様子もなく素直に頷いた。
元より謙遜とか気遣いとかができるタイプではないのだ。

「ふふん。わたしの『シェパーズ・ディライト』は力持ちだし
 すばしっこいし起用だしでけっこうなんでもできるんだよね。
 できないことなんて遠くのリモコンを取って来るくらい……」

普段のスタンドの使い方がよく分かるセリフである。

「ただ、あの猫はけっこうギリギリだったかな……。
 距離的に、あと少し高いところにいたら届かなかったかも」

パワーとスピード、そして精密性の代償として、
『シェパーズ・ディライト』は射程がとても短い。
意外とギリギリの勝負だったらしい。

「ちなみに、そんなこと言うお姉さんのスタンド能力ってなんなのさ? 拳銃とか??」

知り合いに拳銃の能力を使うスタンド使い(蓮華)がいるのだ。
とはいえヴィジョンだけで、詳しい能力など知らないのだが――
アンジェにとっては自分以外に知っている唯一のスタンドなので印象が強い。

332小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/02/20(火) 00:24:43
>>331

  「私のスタンドは、遠くにあるものを持ってくるには、とても便利ですよ」

スタンドの活用について話す少女に対し、帽子の陰でくすりと笑いながら答える。
ただ、実際に遠くのものを持ってくるためだけにスタンドを使うことはしていない。
元々、普段の生活の中ではスタンドを使ってはいなかった。
日常で使う機会がないというのもあるが、できればあまり使いたくないとも思っている。
もし使うことがあるとすれば、それは必要に迫られた時だけだ。

  「――拳銃……ですか……?」

耳慣れない言葉を聞いて、思わず同じ言葉を繰り返してしまった。
普通は、テレビや映画の中くらいでしか目にすることのない道具だろう。
それでも、それがスタンドならば、そういった形のものがあっても不思議ではないと思い直した。

  「私のスタンドは――」

静かに左手を持ち上げて、胸元にかざす。
その手を軽く握り、見えない何かを持つような形を作った。
静かに目を閉じて、意識を集中する。

       スラァァァァァ――――z____

一瞬の間を置いて、先程まで空だった左手の内に、スタンドのヴィジョンが姿を現した。
それは、一振りの『ナイフ』だ。
まもなく、閉じていた目を再び開く。

  「『スーサイド・ライフ』――これが、私のスタンドです……」

燃えるような夕日が、『スーサイド・ライフ』を照らしている。
鋭利な刃は、金属質の鈍い輝きを放っていた。
その輝きからは、切れ味の鋭さが窺い知れるだろう。

333アンジェ『シェパーズ・ディライト』:2018/02/20(火) 00:30:37
>>332
「わっ! きれい!」

突如小石川の手の中に現れたナイフに、アンジェは目を輝かせた。
夕日色を照り返すそれを見ながら、

「やっぱり『スタンド』って道具とか武器とかの方が
 多いのかな〜……? わたしのはなんで人なんだろう」

と、刃に映る自分とにらめっこをするみたいに
まじまじと『スーサイド・ライフ』を見つめていた。
その表情に、鋭利な刃物に対する警戒の色はない。
対抗できる──とかではなく、単純に思考が平和なのだろう。

「なんか、人によって色々な形があるって不思議だよねぇ」

334小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/02/20(火) 01:06:32
>>333

  「本来、スタンドというのは、人の形をしていることが多いようです」

  「私も、そんなに沢山のスタンドを見ているわけではないので、はっきりとは言えませんが……」

そう言った後で、手の中にある『スーサイド・ライフ』を解除する。
今は特に使う必要もない。
それに、スタンドとはいえ人前で刃物を持ったままでいるというのは礼儀に反する。

  「そうですね……」

  「人がそれぞれ違った姿をしているのと同じように、
   それぞれが違った心を持っているということなのでしょうか……」

  「たとえば――あなたと私がそうであるように……」

『スーサイド・ライフ』の能力は、本体の『自傷』によって発動する。
スタンドが精神の現れであるなら、これほど自分に相応しいものはないと感じる。
私自身が、自傷行為という鎮静剤なしでは生きられない人間なのだから。
ほんの一瞬、表情に暗い陰が入り交じる。
それでも、すぐに気を取り直し、再び口元に微笑を浮かべた。

  「私は、小石川文子という者です」

  「もしよろしければ……出会いの記念に、あなたのお名前を教えていただけませんか?」

335アンジェ『シェパーズ・ディライト』:2018/02/20(火) 23:02:34
>>334
「なるほど……確かに、わたしとアナタは違うね……」

分かったんだか分かってないんだか、
とりあえず分かった気ではいそうな神妙な面持ちで頷くアンジェ。

「──よろしく文子! わたしはアンジェ!
 アンジェリカ・マームズベリーだよ!」

一瞬小石川に浮かんだ暗い色の表情には気づかず、
アンジェはにっこりと笑って手を差し出した。
握手がしたい……ということなのだろう。

控えめな小石川の態度に対し、アンジェの態度は
かなり遠慮を知らないグイグイっぷりである。
こういうお国柄なのかもしれないが。

336小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/02/21(水) 01:37:52
>>335

日本人だからという理由だけではなく、自分は元々あまり積極的ではない性格だった。
しかし、表情に困惑の色はない。
この異国の少女は、自分にはない明るさを持っている。
こうした無邪気な輝きに触れることは、自分にとっても好ましいことだと思う。
ふとしたきっかけで悲観的になってしまいがちな自分の心を励まし、勇気付けてもらえる気がするから。

  「アンジェリカさん……ですね」

  「――よろしくお願いします」

アンジェが右手を差し出したのなら右手を、左手を差し出していれば左手で握手に応じる。
どちらの場合でも、共通していることが一つあった。
薬指に光るものがある。
飾り気のないシンプルな銀の指輪だ。
それは通常であれば左手だけにはめられる類のものだが、その指輪は両手の薬指にはめられている。

  「アンジェリカさんは、清月学園に通っていらっしゃるんですか?」

  「その制服を着た生徒さん達を、何度か見かけたことがあったので……」

彼女が身に着けているのは清月学園の制服だ。
しかし、一般の生徒という感じには見えない。
見たところ、留学生なのだろうか。

337アンジェ『シェパーズ・ディライト』:2018/02/22(木) 21:21:49
>>336
「アンジェでいいよ! みんなそう呼ぶし」

やはり全体的に距離感の近い少女である。
ちなみに、握手は左手でしていた。利き手が左なのかもしれない。

(あ……結婚してるんだ)

なので薬指の指輪を見てそう理解するが、
だからといって『既婚者なんですね!』と言うほどアンジェの距離感は近くはなかった。

「うん! あ、ちなみに。わたしは去年の九月から日本に来てね。
 清月学園にはその頃から通い始めたよ。『ムシャシュギョー』中なんだ」

よく分からない説明だが、おおよそ『留学生』という認識で間違いないだろう。
九月という『日本の基準』では中途半端な編入時期は──
おそらく、彼女の故国での新学期に合わせた、という形だと思われる。

「あ、『ムシャシュギョー』って言うのはね。わたしもともと
 ケンシキ? を広めるためにこっちに来たんだけど、
 日本ではそういうのを『ムシャシュギョー』って言うらしくってね〜」

聞かれてもいないことをぺらぺら話し始めた。

338小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/02/22(木) 22:31:20
>>337

  「分かりました。それでは、アンジェさんと呼ばせていただきます」

最初に断りを入れてから、少女に対する呼び方を訂正する。
それでも、控えめな態度は変わらない。
元々の気質であるので、こればかりは変えようがなかった。

  「――見識を……。それは、とても立派なことだと思います」

  「この国での――この町での、あなたの『武者修行』が実りあるものとなるよう、陰ながらお祈りしています」

  「アンジェさんのような行動力を、私も見習わなければいけませんね」

そう言って、くすりと笑う。
慎ましく、穏やかな微笑みだった。
その表情は、この出会いにささやかな喜びを感じていることを裏付けていた。

      スッ

ふと顔を上げると、夕日が沈みかけているのが目に入る。
思いの他、長く話していたようだ。
楽しい時間は早く過ぎるということかもしれない。

  「――ごめんなさい。すっかり話し込んでしまって……」

  「アンジェさん、またどこかでお会いしましょう」

丁寧に頭を下げ、別れの挨拶を告げてから、自宅に向かって通りを歩き始める。
誰にも帰る場所はある。
それは、このアンジェという少女にもあるだろうし、おそらく野良猫のあいにもあるのだろう。
そして、私にも帰るべき場所がある。
たとえ、そこに誰も待っていないとしても、それでもそこは私と『彼』の場所なのだから。

339美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/01(日) 23:47:39
      
               ――夕方 星見町内ラジオ局――

   「――さてさて、今日もこの時間がやって参りました!皆様いかがお過ごしでしょうか?」

     「いつものように、パーソナリティーはワタクシこと『美作くるみ』でお送りします」

   「今週のテーマは『ドキッとしたこと』!
    リスナーの皆さんからの『私のドキッとしたこと』をお待ちしてますッ。
    採用された方には、コンビニ各社で使える番組特製クオカードを差し上げちゃいまぁす」

   「ちなみに、くるみの『ドキッとしたこと』は――あれは二年くらい前になりますかねえ。
    買い物してたんですね。大きなスーパーで」

   「その時、一緒にいた男友達が、何も言わずに重い荷物を持ってくれたんですよ。
    で、私は『いや、自分で持つからいいよ』って言ったんです」

   「そしたら、『じゃ、お前はこれを持っとけ』って言われて、彼が手を握ってきたんですよ。
    うっわキザだなあと思ったんですけど、あの時は不覚にも『ドキッ』としちゃいましたねえ」

   「でも、ここからが肝心なんですけど、その『ドキッとした話』を、女友達にしたんですね。
    この前こんなことあったんだけどっていう軽い感じで。
    そしたら、その友達が『え、ちょっと待って。私も同じことされたんだけど』って言い出したんですよ!」

   「つまり、ただの『チャラ男』だったってことなんですよね。これはですね、『ときめき損』ですね。
    私の『ドキッ』を返せ!と声を大にして言いたい瞬間でした!」

   「――さて、私が男運の悪さを披露したところで、リスナーの方(>>340)と電話が繋がったようです。
    はいもしもし、こちら美作くるみでございます」

340鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/02(月) 00:12:30
>>339

「あ。え、えーっと鈴元涼いいますぅ」

「美作さん? で、ええんよね?」

京ことばのイントネーションが混じった若い男の声だ。

341美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/02(月) 00:40:18
>>340

   「――鈴元さん、ですねえ?こんにちは!」

   「もしかして、ご出身は京都の方でしょうか?
   私もあんまり詳しくないんですけど、話し方がそんな風だったので
   京都の言葉って上品で素敵ですよねえ」

   「京都は場所もいいですよね。
    私も何回か旅行したことあるんですけど、なんていうかそこだけ別世界って感じで、
    日常から離れるにはうってつけですよねえ」

   「っと、ごめんなさい。話が反れちゃいましたね。
    お電話してくださったということは、何か『ドキッとしたこと』があったということでしょうか?」

342鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/02(月) 01:35:07
>>341

「いや、上品やなんてそんな……」

照れているのか言葉が濁る。

「でもテレビとかラジオの人とかきれぇに話しはるやろ?」

「僕はそっちの方がすごいって思うんよ」

「で、えーっとそうなんよ。うちの学校で」

343美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/02(月) 01:57:31
>>342

自分は、こうして日々多くのリスナーと話している。
しかし、こういったタイプは、あまり出会ったことがなかった。
言葉には出さないが、心の中では新鮮さを感じていた。

   「いやあ、ありがとうございます。
    そう言ってもらえると、私もこうしてお喋りしてる甲斐がありますねえ」

   「――ねえ、ディレクター?今、向こうで笑ってますけども」

   「なるほど、学校で――?」

おそらくは京都方面の出身。
そして学校ということは学生だろう。
果たして、どんな話をしてくれるのだろうか?

344鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/02(月) 02:21:48
>>343

「ん? 笑ってはるの? 僕なんか変な事言うたやろか?」

「あ、えっと、それでな」

ちょっとの間。
少し思い出して頭の中で整理。

「僕散歩が好きなんよ。引っ越して京都離れてな、地元……今はこっちが地元みたいなもんやねんけど」

「そんで、その日はガッコを散歩しようと思って」

「ほら、ガッコって僕ら毎日のように通ってるけど、授業の関係で使わん教室とかあらはるやろ?」

「そういうの見てみようと思って……ほんで、散歩してたら見てもうて」

345美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/02(月) 02:48:35
>>344

   「そういう訳じゃなくってね、彼も喜んでるってこと。
    だから、ディレクターの分まで、私がお礼を言っておきます。どうもありがとう」

そう言いながら、軽く頭を下げる。
もちろん電話では伝わらないが、こういうのは気持ちの問題だ。
ブースの外側では、ディレクターが片手を上げて同意の意思表示をしている。

   「ああ、言われてみたら確かに。一回も入らないまま卒業しちゃう部屋とか結構あるものね。
    こういうの灯台下暗しっていうのかな」

   「鈴元さんは、そこへ行って何かを見ちゃったってわけね。
    それで、そこには何がいたのかしら?
    なんだか怪談みたいね」

喋っている内に、やや砕けた口調に変わっていく。
それが自分のいつものスタイルだ。
少年が見たものはなんなのだろう?
本当に幽霊か何かでも現れたのだろうか。
怖い話をテーマにするには、まだ早い時期だけど。

346鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/02(月) 23:08:30
>>345

「あぁそうなんや。よかった」

変な事を言ったわけではないという事に胸を撫でおろす。
電話の向こうの相手には分からないことだが、声色は安心した色だ。

「そうなんよ。別館っていうんやろか? 旧校舎……やったら怪談にぴったりやったかもしれんけど」

「ようは実験室とか視聴覚室。そういう教室って、普段使ってる教室にはあんまりないやろ?」

だから座学の場合でも理科の実験などは教室を移動する必要がある。
そういう棟は使う機会が少ないので行く回数も自ずと少なくなる。

「やから、そっちの方に言ったんよ」

「で、その……音楽室の近く行ったら吹奏楽部が練習してて……」

「そこを通り過ぎて音楽準備室……で、あれと遭遇して……」

「なんていうんやろ、カップル? や、アベック? に。遭遇って言っても僕は廊下、向こうさんは準備室の中やけど」

347美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/02(月) 23:39:04
>>346

   「ああ、なるほどね。そういう教室って行く機会が少ないものね。
    科学部とか、その教室に関係するような部活をやってれば行くかもしれないけど。
    特別教室って、変わった道具があったりして興味を引かれるわよねえ」

――部活動、か。
そういえば私は入ってなかったなあ。
中学高校時代はアイドルの活動が忙しかったから、学校の出席日数もギリギリだったっけ。
考えてみれば、普通の学校生活っていうのを謳歌できてなかったかもしれない。
改めて思い直すと、そういう生活が眩しく思えてくる。

   「あらら?つまりロマンスの現場に遭遇しちゃったわけね。
    もし気付かれちゃったりしたら気まずいわよねえ」
 
   「それで、鈴元さんはどうしたのかしら?
    私だったら、こっそり見ちゃいそうだけど」

学校での甘い一時――羨ましい話だ。
アイドルという立場上、自分は恋愛もできなかった。
そもそも、恋をする暇もなかった。
当時の私は周囲から見れば羨望の対象だったのかもしれない。
今になってそれが逆転するというのは皮肉な話だ。

348鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/02(月) 23:50:50
>>347

「そう。やから、そっちの方行ってもうて」

行ってしまったという表現になるのは無意識のうちにマイナス意識が働いているのだろうか。

「うん……ロマンス」

「あんまり、褒められたことやないんやけど……見ててん……そういうの、その、や、ちゃうの、えっと、やめとくわ……」

何か言おうとしてやめる。
顔から火が出そうだ。思い出すだけで心臓がどくどくと速くなる。

「あの、そんで……その二人の片方。クラスメイトやって。なんていうんやろ、あんまり目立たへんっていうかそういう感じの子」

「僕もそういう感じやからよう覚えとって……向こうさんはそう思ってへんとは思うけど」

「やから、なんか、すごい意識してもうて……」

歯切れが悪い。
一つ一つ確認する様に話していく。

「向こうさん、こっち気付いてへんくて。そらそうやんね。だって隣は吹奏楽部、練習してるし。音とかじゃ気付かへんし」

「……ほんなら何で盛り上がったんか、急に二人こう、ぎゅーってして……ちゅーしはってん……」

「僕見たアカンって思うたんやけど見てもうて……もう、ドキーってしてもうたんよ」

349美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/03(火) 00:26:25
>>348

何か言いかけたことに対しては突っ込まない。
大体の内容は想像できる。
それに、電話の向こうにいるリスナーを尊重するのがパーソナリティーというものだ。

   「大人しいようでいて、結構大胆な子だったってことかしら?
    それは意外な一面ねえ。
    誰にでもそういう部分はあるかもしれないけど、実際に目の前で見ちゃうと驚くわよねえ」

   「隣に人がいるのは分かってたわけだし、急にってことは、気分が盛り上がっちゃったのかしらね?
    うん、確かに私もそういうことがあるわ。
    といっても、私は男運が悪いから、ロマンスのことじゃないんだけど」

   「後で考えてみると、『なんでこんなものを買っちゃったんだろう』って思うものを買ってきちゃったりとか。
    衝動的にっていうか。感覚でいうと、そういうものに近いかもしれないわね」

この手の恋愛話には、自分も人並みの興味は持っている。
最近は仕事のことばかりで、そういった話とはご無沙汰だ。
私も抱き合ってキスできる恋人が欲しい――なあんてことを、ふと考えてしまう。

   「思いがけずに遭遇した校内のロマンス。
    ふふ、それが鈴元さんの『ドキッとしたこと』なわけね。
    どうも、ありがとう」

この辺りで話も終わりだろうか。
そう考えて、最後のまとめに入っていく。
何事もなければ、もうちょっとでこの通話を終えることになるだろう。

   「ところで、その後は二人に見つからずに無事にその場から離れられたのかしら?」

最後に一つの質問を投げかける。
これは、個人的な興味もあった。
仕事に私情を挟むのは良くないが、これくらいは許されるだろう。

350鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/03(火) 01:03:47
>>349

「ほんまに驚いて驚いて……はぁ……いま思い出しただけでもドキドキするわぁ」

ため息も出る。
心臓に悪い経験だったのだろう。

「うん。意外やった……失礼な言い方かもしれんけど、ほんまに」

「……あの、ラジオ聞いてる印象やけど美作さん、エエ人やから」

「きっと、エエ人見つかると思う。あ、その、これはナンパとかやなくて……あぁ、えっと……」

自分で言って自分で慌てて。
そういう独り相撲だ。

「……実ははよのかなと思ってそこから動こうとした時、目がおうてん」

「女の人の方。うっとこ、一貫校やねんけど高校生の人」

「こっち見て、笑って……ほんでなんか言ってん。もちろん、声には出してへんかったよ」

もし出していたら男子生徒に気付かれていただろうから。

「何言ったかは分からへん。僕、そのあとすぐ走って逃げたから」

「そういうお話でした……聞いてくれて。おおきにはばかりさん」

351美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/03(火) 02:02:30
>>350

   「ふふ、ありがとう。
    でも、そんなこと言われたら、調子に乗っちゃうわよ。
    この場を借りて、どこかにいい人がいないか募集でもしましょうかね?あ、ダメ?」

   「残念ながら番組の私物化はNGということで、ね。
    潔く自分で探すことにしましょうか。
    その代わり、ディレクターもいい人がいたら紹介してくださいよ?」

もちろん冗談だ。
まあ、全部が冗談かというと微妙なところだけど。
今のところそこまで飢えてはいないけど、いい人が見つかればいいなというのは本当だから。

   「ふむ、気になるわねえ。その子が何を言ったのか……。
    でも、笑ってたってことは、怒ってたわけじゃないみたいね。
    照れ隠しという感じでもないようだし……」

   「ロマンスは一種のミステリー。それにまつわる人達も謎のベールに包まれてるってところかしら。
    とても興味深いお話だったわ」

マイクを前にして、うんうんと頷く。
実際のところ、何を言ったのかは気になる。
しばらく頭の片隅に残りそうだ。

   「どうもありがとう。
    鈴元さんからいただいた『ドキッとしたこと』でした!
    聞いてる私も思わず『ドキッ』としちゃうようなお話でしたねえ」

   「お話してくださった鈴元さんには、番組特製クオカードを差し上げます!
    のちほど番組から折り返し電話させていただきますので、その際に送り先をお伝え下さい」

   「今日は本当にありがとうねえ、鈴元さん。またいつかお話しましょう!
    番組の方も引き続き応援よろしくね」

    「――それじゃ、またいつか!」

そう言って、通話を終了する。
『またいつか』というのは、自分の好きなフレーズだった。
一度だけの邂逅かもしれないが、もしかすると次もあるかもしれないからだ。
一人一人のリスナーを大事にしたいという思いが、自分の中にはある。
応援してくれる人を大切に思う気持ちは、アイドルだった時も、パーソナリティーである今も変わらない。

    ――後日、少年の下にコンビニ全店で使える番組特製クオカード(500円分)が届けられた。
       メッセージカードが同封されている。
       『いつかお互いに、いい人見つけようね!by美作くるみ』


鈴元 涼『ザ・ギャザリング』→『500円分クオカード』Get!!


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