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013 雨竜院金雨(サンライト)
12
:
エピソード(
:2013/07/27(土) 18:28:27
冷や汗を流しつつ聞き入る金雨。
そのときテーブルの下、行儀よく揃えられた彼女の白い足に突如冷たい何かが触れた。
「ひゃあっ!?」
甲高い悲鳴と共に、絶頂したかのように椅子の上でピンッと反り返る金雨。
「あはは、引っかかった引っかかった」
話に集中する金雨の足を、友人は自分の内履きの爪先でちょんとつついたのだ。
「も、もう〜」
太腿をぎゅっと閉じ、両手を挟んで何かを我慢するような姿勢のまま、涙目で友人を睨み付ける金雨。その表情に友人は背筋がぞくぞくするのを感じつつ、ごめんごめんと金雨の頭を撫でてやる。怖い話をしてやった後のこんな表情を見るのが、彼女の大きな楽しみだった。
「こっちでもちょっと降ってたねー。
でも、ボクは嬉しかったよ。かなちゃんが誕生日お祝いしてくれてるみたいでさ」
夜――電話越しにこの日が誕生日の姉・畢はそんなことを言う。「神の雫」が如何ともし難い能力だと知る家族の者は金雨を責めたりはしないのだが、雨を司る一族・雨竜院家でも特に愛雨の精神に富んだ彼女は気遣いからではなく、純粋に妹が降らせる雨を喜んでいるようだ。
そんな姉の言葉に沈んでいた金雨の心も少しだけ弾んだような気がした。まるで「あまんちゅ!」の雨を浴びているように、心に染みついた負の感情が洗い流されていくのを感じていた。
「ありがとう、お姉ちゃん。実習がんばってね。お誕生日おめでとう」
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あめふりちゃんとの電話の2時間ほど後、ベッドに入ってねむりについたかなめちゃんは、気がつくと無機質な、ビルがたくさん立ち並ぶ街にいました。建物がたくさん建っているのに人は全くいない様子で、空虚な匣といった感じです。そしてもう1つ現実の街と明らかに違うのは、建物も、地面の舗装も、全てが黄色で統一されていることです。
「『お兄さん』のところか……」
かなめちゃんは少しだけ嫌そうな顔でため息をつきました。年に何度か、かなめちゃんはこの黄色い世界の夢を見るのです。
「久しいな……金雨」
かなめちゃん1人きりだったその場に、突然人影がぼうっとあらわれました。黄色いマントをはおって、薄い黄色のサイバーサングラスをかけています。
「お兄さん……」
さっきよりもさらに嫌そうな顔になって、かなめちゃんはその人の名前を呼びました。かなめちゃんが夢のなかでこの世界に来ると、このお兄さんも必ず現れるのです。
お兄さんはいつもお漏らしの話とか、ショタの話とかしてきて気持ち悪いのでかなめちゃんはこの人が好きではありませんでした。そんなお兄さんですが、今はいつになく真剣な表情をしています。いったいどうしたんだろう、とかなめちゃんはちょっと不安になりました。
「今まで、済まなかった……。
私のために、お前たち姉妹には重い十字架を背負わせていた」
お兄さんの言葉は謝罪から始まりました。
姉妹……かなめちゃんとあめふりちゃんが背負う十字架。かなめちゃんはそれが何のことなのかすぐにわかり、カーっと赤くなりました。
「お、お兄さんのせいでお姉ちゃんと私はお漏らしをするように……?
なんで? それに、お兄さんは何者――」
「だが、お前たちの十字架を下ろしてやることは私にも叶わない。
畢はともかく、お前はそのために苦しんできたのだろう」
「ア、ハイ」
かなめちゃんの質問に答えず、お兄さんは話をつづけます。お兄さんには人の話を聞かないところが前からありました。
「苦しみの元を断つことは出来ない……だが、苦しみをやわらげてやることは出来る。
今までの侘びに、そのための力を、与えよう」
かなめちゃんは何がなんだかわからないまま聞いていましたが、お兄さんがくれる「力」というのはろくでもない予感しかしなかったので拒否しようとしました。
「あ、あの……別に何もいりま――」
「新たな力は『旧校舎』でも役に立つはずだ。受け取れ」
「き、旧校舎? ふっ……ふわあああっ!!」
お兄さんがかなめちゃんを指さすと、その直後かなめちゃんは淡い光に包まれ、そしてこの世界からすーっと消えてしまいました。
1人きりになった世界で、お兄さんは空を見上げ、呟きます
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