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『プリキュアシリーズ』ファンの集い!2

1運営:2015/06/27(土) 19:59:43
現行作品を除く、『ふたりはプリキュア』以降の全てのシリーズについて語り合うスレッドです。
本編の回想、妄想、雑談をここで語り合いましょう。現行作品以外の、全てのSSと感想もこちらにてお願いします。
掲示板のローカルルール及び、保管庫【オールスタープリキュア!ガールズSSサイト】(ttp://www51.atwiki.jp/apgirlsss/pages/1.html)のQ&Aを読んで下さい。
※現行作品や映画の話題は、ネタバレとなることもありますので、このスレでは話題にされないようお願いします。
※過去スレ「『プリキュアシリーズ』ファンの集い!」は、過去ログ倉庫に移しました。

125一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/07/18(月) 21:44:22
 食糧庫の扉が、一瞬だけ内側に開く。外へと走り出た少女――せつなは、ギリリ、と音がするほど奥歯を噛みしめて、そびえ立つ化け物を睨みつけた。
 避難所の人たちがパニック状態に陥っていることなど、今はどうでもよかった。
 メビウスがまだこの世界に居るかもしれない。そんな衝撃の告白すらも、どうでもよかった。

(許せない)

 ナケワメーケの姿に、メビウスの本体であった巨大な球体が重なって見えた。
 もうダメかと何度も思うような状況の中で、そのたびに立ち上がって果敢に挑みかかった、仲間たちの姿が蘇る。
 傷つき倒れた自分たちを励まし、思いを託してくれたラビリンスの人たちのお蔭で、キュアエンジェルに覚醒した――あの時の高揚感も、ありありと思い出される。

(許せない)

 自分のことはいい。そもそも、ラビリンスの幹部であったイースがプリキュアになったこと自体、受け入れられるようなことではなかったのだから。
 だが、仲間たちが傷つき、ぼろぼろになりながらも、このラビリンスで戦ってくれたことを、その戦いに心動かして、応援してくれたたくさんの人たちの思いがあったことを、嘲るようにこんな形で無駄にしようとするなんて――。

(絶対に……許せない!)

 せつなの瞳が怒りのためか、常よりも赤く輝く。その鋭い視線が、ナケワメーケの右肩の辺りに流れた。
 そこに立っている小さな人影を認めて、大きく目を見開く。そして次の瞬間、せつなは獲物に襲いかかる獣のように走り出した。

「もう一度言う。これは、メビウス様からお前たちへの、制裁だ!」

 そこに立っていたのは紛れもなく、昨日ラブと共に消えたあの少女――ナケワメーケを操っている少女だった。

 走り出したせつなを遮るように、一台の車が滑り込む。現場に急行した警察車両だ。そこから腕っぷしの強そうな若者が、続々と降りてくる。
 彼らは一様に、警察支給の戦闘服を着用していた。ウエスターやサウラーのような過酷な訓練を積んだ者だけが扱える特別製ではないが、それでも使用者の身体能力を数十倍に底上げしてくれる、優れた武装だ。
 その者たちの中に、慌てたのだろうか、まだ戦闘服を手に持ったままの警官が混じっていた。せつなはそれを見つけるや否や、彼に狙いを定めて躍りかかった。

 その若者は、一瞬、自分の目を疑った。戦闘態勢にあるはずの数人の仲間が、突然目の前で、バタバタと地面に倒れ込む。一陣の風のように近付いてきた何者かが、ただの一撃で昏倒させたのだ。
 仲間の安否を確認する暇など無かった。すぐさま目の前の脅威――不届き者の方へと向き直る。だが、相手はもうそこには居なかった。
 後ろに気配を感じたと思った瞬間、首筋に手刀が叩き込まれる。そして抱えていた戦闘服が奪われると同時に、意外にも女性の声がこう囁いた。
「説明している時間が無いの……ごめんなさい」
 薄れゆく意識の中で、彼が最後に見たものは、ラビリンス人にしては珍しい黒々とした髪と、硬い表情でこちらを見つめる赤い瞳だった。



 警察車両から離れた路地に飛び込んで、せつなは改めて手の中のものに目をやった。
 ラビリンスの戦闘服――久しぶりに手にするそれは、かつて自分が着ていたものに性能では及ばない。だがこれがあれば、少なくとも目の前の敵と――少女と戦う力を得ることが出来る。
 急いで身に纏おうとして、せつなは自分の両手が小刻みに震えているのに気付いた。

(怖れているというの、私は……。この期に及んで)

「泣け! 嘆け! そして許しを請え!」
 少女の声が、頭の上から威圧するように降って来る。
 仲間たちの奮闘も、ようやく自分の足で歩き出そうとしているこの国の姿も、嘲るように踏み潰そうとする声――その声が、かつての自分の声と重なって聞こえた。

(もしかしたら、全てを無駄にしようとしているのは私の方かもしれない。それでも……だとしても!)

「誰も泣かせない! 誰も嘆かない! 私が……このイースが、お前を倒すっ!」
 言葉と共に、手にした戦闘服が旗のように勇ましく空中に翻る。だが、伸ばした腕がそれを纏うことはなかった。
 背後に感じる巨大な気配。と同時に大きな掌がせつなの腕を掴み、締め上げる。せつなの渾身の力を持ってしても、拘束は微動だにしない――。

「何をするのっ、放して!」
「すまん、イース。だが、今のお前にそいつは着せられない」
 いつの間に現れたのか、ウエスターがいつになく神妙な、哀し気にも見える顔つきで、そこに立っていた。

126一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/07/18(月) 21:44:54
「おかしなものでな。この職務に就いてから、こんな俺でも人間の感情ってヤツに、少しは敏感になって来たようだ」
「何が言いたいの?」
「上手く言えんが……とにかく今のお前を行かせたら、俺はもうお前たちに顔向け出来なくなる」
「……え?」
「ラブがあの時なんて言ったか、俺にも読めてしまったんでな」

――せつなぁ〜! 大好きだよ〜!!

 あの時、別れ際にラブが叫んだ言葉――声は聞こえなかったが、唇の動きで確かにそれと分かった言葉。この三日間、焦燥と一緒に何度も脳裏に浮かんできた言葉が、再びせつなの中に蘇った。

「だったら、私の気持ちもわかるでしょう!?」
「ああ、わかるぞ。そしてラブの気持ちもな。たとえ無傷でラブを救っても、お前が変わってしまえば、無事な再会とは言えないということもな」

 せつなの腕から、力が抜ける。ウエスターは優しい手つきで戦闘服を取り上げると、まだ信じられないような顔で後ろに立っていた持ち主に放り投げ、くるりと踵を返した。
「すまん。今度こそ、俺に任せてくれ」
 そう言った途端、ウエスターの纏う空気が、ガラリと変わった。


 ナケワメーケを取り囲んでいた警官たちが、にわかにざわめき出した。前線から一人の男が進み出て、怪物に向かって悠然と歩き始めたのだ。
「た、隊長、何を……」
「お前たちは下がっていろ」
 制止しようとした若者の声が、凄みのある声で遮られる。言われるまでもなく、その背中から発せられる強烈な気に、全員が圧倒されてじりじりと後ずさる。

「ナケっ?」
 ナケワメーケが、人影に気付いた。無謀にも、たった一人で近付いて来る男。その小さな姿目がけて、虫けらを踏み潰そうとでもするように、巨大な足を振り上げる。
 だがその瞬間、男の姿が消えた。そして次の瞬間。

「どぉりゃぁぁぁぁっ!」

 辺りを震わせるような雄叫びが響く。ナケワメーケは軸足を取られ、地響きを上げてその場に転倒した。

 すんでのところで離脱した少女が、驚きに目を見開いてから、それを隠すように、ふん、と鼻を鳴らす。
「そこまでだ! これがただのナケワメーケだと思うのか? お前にコイツは倒せない」
「さあ、それはどうかな?」

 言うが早いか、ウエスターは空中高く跳び上がった。全身の気を右の拳に集め、まだ起き上がろうともがいているナケワメーケのダイヤ目がけて、渾身の一撃を叩き込む。
 その途端、ビリビリと暗紫色の稲妻が走った。ナケワメーケのダイヤから強烈な衝撃波が巻き起こり、空気を不穏に震わせる。
 だが、ウエスターは拳を離さない。髪を逆立て、両目をカッと見開いて、裂帛の気合いをさく裂させる。

「ぐおぉぉぉぉぉっっ!!」

 ついに、ピシリ、という鋭い音がしたかと思うと、ダイヤは乾いた音を立てて粉々に砕け散り、埃を被って横倒しになった街頭スピーカーが、姿を現した。

 スピーカーから飛び降りたウエスターが、今度は少女の方へと歩み寄る。あまりのことに、その場から一歩も動けずにいた少女は、そこでやっと我に返って、戦闘の構えを取った。
 が、そこまでだった。放った蹴りを軽々と受け止められ、地面に叩き付けられる。飛び起きようとしたところで鳩尾に一撃を喰らって、意識を失ったまま、肩に担ぎ上げられた。

「さぁ、ラブの居場所に案内してもらおうか」
 ウエスターが少女を抱えて、警察部隊と共に車に向かう。
 その姿を追う見えない影があったことに、さすがのウエスターも気付いてはいなかった。

〜終〜

127一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/07/18(月) 21:45:26
以上です。5レスにおさまりましたね。
ありがとうございました!

128名無しさん:2016/07/23(土) 00:15:37
>>127
次回はいよいよクライマックス……ですか!?

129ゾンリー:2016/08/10(水) 20:50:50
はじめまして、ゾンリーと申します!
アコちゃんが大好きでよく響アコなど漁ってます。拙い文章ですが見ていただけると幸いです。
タイトルは「響とアコのお泊り会!」
2レス使わせて頂きます。

130ゾンリー:2016/08/10(水) 20:54:38
「いや急に言われてもなぁ…アコがなぁ…エレンもハミィとメイジャーランドに行くと言っておったし…」
「私がどうしたの?おじいちゃん」
急に出てきた私_調辺アコ_の言葉に反応せずにはいられなかった。
ここは調べの館。今日が終業式で明日から夏休みの私達は久しぶりに一緒に帰宅することになっていた。その途中で立ち寄ったのが調べの館だった。
「え?あ、あぁおかえり。皆もよくきたな。」
「「「「おじゃましまーす!」」」」
「で、どうしたの?」
「いやぁ、急に明日外泊することになってのぉ。場所が場所だけにアコを連れてく訳にも行かぬし一人にもできぬし…」

「それなら私のところに来る?」

そう言ったのは響だった。私の肩に手を置くと続けて話す。
「ウチも両親が明日明後日いないんだよね。いいでしょ?音吉さん」
「おお!それはありがたい!アコ、失礼の無いようにな。」
「なんか私抜きで話が進んでるけど…つまり明日響の家にお泊りって事ね。」
「んふふ〜楽しみ〜!」

〜翌日〜

「おじゃましますー。」
ドアをくぐると香りが他人の家だということを自覚させる。
ドタバタと足音がしたと思ったらすぐ目の前に響が出てきた。
「いらっしゃい!待ってたよ〜さ、上がって上がって!」
背中を押されて無理矢理中に入れさせられる。
「なんでそんなにテンション高いのよ…」
あきれ顔で聞くと「だって泊まりに来るなんて久しぶりだし!」と即答された。
案内された部屋に荷物を置いてとりあえずリビングへと向かう。
「ささ、何して遊ぼっか?」
一通り響とじゃれ合ったあと、ふと思い出したように響が言った。
「あ、そろそろ買い物行かなきゃね〜。何食べたい?」
「別に何でも…」
「んーじゃあカレーかな?」

ー近所のスーパーにてー

「人参、お肉、ジャガ芋、カレールー…あと何だっけ」
私は手元のメモに目を落とす。
「あと玉ねぎね。」
カートに玉ねぎを入れる響。そんな彼女の目を奪った…つもりは無かったがついついお菓子コーナーをチラ見してしまった。
そしてそんな私を響は見逃すつもりはなさそうで…
「え、何?お菓子買って欲しいの?も〜しょうがないなぁ〜」
「ちょ…違うって…!」
背中を押されて問答無用でお菓子コーナーへと。
なんとか(?)お菓子の購入を回避して会計を済ませる。
帰り道はパ○コを二人で分けてちゅーちゅー吸いながら帰宅。

ーもう一回響宅ー
エプロンをつけて私達は台所に立っている。
響はカレールーのパッケージの裏を見てうんうん唸っている。
私はちょうど野菜やお肉やらを切り終わったところ。
「とりあえずお肉を炒めればいいみたい?」
(疑問形…)
足場の小さい台からピョンと飛び降りると戸棚から手頃な鍋を取りだしコンロに置く。
「油〜油〜」
私がサラダ油を取り出すのを響は制止する。
「お肉から直接油が出るから油敷かなくていいの!」
「えっ!そうんなんだ…」
しぶしぶ元の場所へと戻す。____

131ゾンリー:2016/08/10(水) 20:55:13
「「でーきたっ!」」
鍋から見える茶色のトロトロの液体。湯気が良い香りを運んで来る。
「「いただきまーす!」」
響は中辛、私は甘口のカレーを口の中へと運ぶ。少し味付けを失敗してしまったけど、自分達で作ったカレーはいつもより美味しく感じた。

その後は後片付けや何やらをしていると時計は8:00を指していた。
そろそろお風呂に入らなきゃ…と思っていると響から衝撃的な一言が。
「もう8時か…せっかくだし、一緒にお風呂入ろうか!」
「うっ…ええええええええ!?」
「何か問題でもあんの〜?」
「いや別に…無い…け、ど…」
最後は尻すぼみになってしまった。
結局一緒に入る事になり、脱衣所で服を脱ぐ。
これまた響の提案で背中を洗いっこして湯舟に浸かる。
ゆっくりしようと思い息をゆっくりと吐く。
…まあ響はそうさせるつもりは無いようで。
「んでー?奏太とはどんな感じなの〜?うりうり〜」
「ちょ…っいきなりなによ!?ふ、普通の友達よ!」
いきなり顔を近づけられる。残念ながら逃げ場は無い。
「ふーん…それじゃあアコ自身はどう思ってるの?」
「それは…その…」
「あぁー!赤くなっちゃってるー!」
「の、のぼせただけだし!もう上がるもん!」
湯舟から出てバスタオルで身体を拭く。肩をすくめながらも響も詮を抜いて上がる。

パジャマに着替えた私達は並んでテレビの前に座っていた。
画面に映るのは暗い廃校。小さな松明を持って歩く一人称のカメラ。
私は膝を抱えて顔を半分うずくめてテレビを睨んでいる。
何となくで見たホラー番組だが、ものすごく…怖い。
「ひっ」
いきなり画面いっぱいに出てきた気色悪い顔に思わず声を上げてしまう。
「エ、エレンがいたら凄い事になりそうね…」と響。
「そ、そうね…」と私。
上の空で会話をしつつも早く終わってくれないかと願うばかり。
お互いにプライドが途中で終わる事を認めてくれないのだ。

〜番組終了〜

「「ふぅ…」」
《また次回》のテロップが消えると同時にため息をつく。
「ねぇ…一緒に寝ない?」そういう響の声には生気が無かった。
そしてその提案に私は
「…賛成」
と言わざるを得なかった。

ー響の寝室にてー
私と響はお互いに向かいあって一つのベッドに入っている。壁側に私、反対側に響が寝ている。
きつい位の密度が今は恐怖心を抑えてくれる。
「うぅん…」
響の腕が私の背中にまわって抱き込まれる。…まあ寝ていて気付かなかったんだけど…不思議と心地好かった気がする。

〜翌朝〜
「じゃあ…おじゃましました。」
「うん!またお泊り会したいね!次は皆で!」
「ホラー番組はナシで…ね。」

___これで、私のちょっとした初体験は幕を閉じたのでした。

132ゾンリー:2016/08/10(水) 20:55:48
以上です。
ありがとうございました!

133名無しさん:2016/08/10(水) 22:40:05
>>132
ゾンリーさん、ガールズサイトへようこそ!
いつもクールなのになんか子供らしくドキドキしてるアコと、自然体の響が良かったです。
ホラーが怖いのに、自分からは切れない二人が最高w
また書いて下さいね。楽しみにしています。

134名無しさん:2016/08/13(土) 00:47:52
>>132
響アコ愛が詰まっていて面白かった!
朝食はアレかな……お茶漬けと沢庵かな

135名無しさん:2016/09/01(木) 00:01:05
プリキュア書き手あるある
投稿した直後、ミスに気付きがち

136名無しさん:2016/09/01(木) 07:26:45
>>135
あるあるw

137一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:47:59
こんばんは。
大変遅くなりましたが、長編の続きを投下させて頂きます。
ちょっと長くなりまして、8〜9レス頂きます。

138一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:49:09
 少女にぐいっと腕を引っ張られたと思った瞬間、ラブは見覚えの無い、狭いトンネルのような場所に立っていた。
 振り返っても何も見えず、前を向くと、先を歩く少女の姿がかろうじて見えるだけのほの暗い場所。
 慌てて彼女の背中を追いかける。程なくして急に視界が開け、二人は大きな建物の前に出た。

「ここはどこ? 何のための建物なの?」
「軍事養成施設・E棟。歴代のイースが生まれ育った場所よ。今は政府によって封鎖されているけど」
「え……じゃあ、せつなもここで!?」
 少女の言葉に、ラブは目を見開いてから、改めて目の前の建物をしげしげと見つめる。

 大きな扉を中心に、左右に広がる黒々とした壁。その造りだけを見ると、どことなく占い館に似た佇まい。だがこの建物は周囲を高い塀で囲まれていて、森の中にあった占い館とは、受ける印象が随分違う。
 より無機質で、硬質で、他を寄せ付けない堅固な要塞のような雰囲気が感じられる場所――。
 少女の方は、そんなラブの様子には目もくれず、中央の重そうな扉に向かって、さっと右手を翳した。

 ギィ、という音を立ててゆっくりと扉が開く。
「開いた……。自動ドア?」
「いや、私が開けた。データを読み込ませてね」
 面白くもなさそうな声でそう言って、少女が無造作に建物に足を踏み入れる。慌てて続くラブの後ろで、大きな音を立てて扉が閉まった。

 入ったところはホールのような、だだっ広い場所だった。壁も床も、全てがグレー一色。その中でまず目に入ったのが、左右に伸びる長い階段だ。色合いやデザインは大きく異なるが、造り自体は、やはりどことなく占い館を思わせる。ラブは不思議な懐かしさを感じながら、階段の中程に目をやった。

(確かあの辺りに、せつなが立ってたんだよね。急に声を掛けられて、びっくりしたっけ……)

 初めて会った時のせつなの動きを目で追うように、ゆっくりと視線を動かす。が、少女は階段まで歩を進めると、ラブの視線とは逆の、地下へ伸びる階段の方へと足を向けた。
 少女に続いて、ラブも階段を下りる。そして地下の部屋にあるものを目にした途端、さっきまでの感傷は一辺に吹き飛んだ。

 一階と同じくグレーの壁に覆われた、薄暗い一室。その真ん中に置かれていたのは、天井まで伸びた透明な円柱状のゲージだった。かつて占い館で見たものほど大きくはないが、一人ではとても抱えきれない太さの筒の中に、濁った液体がラブの膝の高さくらいまで溜まっている。

「これって……まさか!」
 ラブが声を震わせた、その時。
「あら? 珍しい顔ねぇ。あなたがここに居るということは、その子の言うことも、あながち間違いでもなさそうね」
 どこかから妖艶な声が響いて、ラブは再び目を見張った。

 ゲージの前に突如、大柄な女性が現れる。腰まで伸びた濡れ羽色の髪。鮮血のように真っ赤な唇。そして相手を射すくめるような、鋭い眼光――。
「……ノーザ! どうして!?」
 思わず大声を上げてから、ラブはごしごしと目をこすった。ノーザの姿が、何だか透明がかっているように見えたからだ。それどころか、よく見るとその体の向こうに、後ろのゲージがぼんやりと透けて見えている。
 ノーザの姿は実体を伴ったものではなく、ただの映像のようだった。どうやらゲージの前に置かれた、まるで枯れ木のように見える小さな植木の枝先から投影されているらしい。

「あなた、本当にノーザなの? ホンモノはどこにいるの? このゲージは何? もう一度、不幸を溜めるつもりなの? 何のために!?」
「相変わらずうるさいわねぇ。少しお黙りなさいな」
 ノーザがそう言うと同時に別の枝がしなやかに伸び、蔦となってラブに襲いかかった。
 少女がラブの前に飛び出すと、手首を軽く返しただけで蔦を弾いた。ラブのすぐ横の壁が蔦の一撃を喰らって、その表面の一部がボロリと崩れ落ちる。
 目をパチパチさせるラブに一瞬だけ鋭い視線を送ってから、少女は真っ直ぐノーザの映像に向き合った。

「お手柔らかに。相手は生身の人間ですよ?」
「あら、ごめんなさい。それにしても、プリキュアを人質に取るなんて、なかなかやるじゃないの。こうしておけば、裏切り者の幹部たちも迂闊に手が出せないというわけね」
「……」
 少女はそれには答えず、ラブを制して自分の後ろに下がらせる。

139一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:50:11
「それで、ゲージの上がり具合は?」
「見ての通りよ。初めてにしては上出来だわ。それにしても、このラビリンスで不幸を集められるようになるなんてねぇ」
「それだけ、今のラビリンスが愚かな世界になったということ。メビウス様の統治が素晴らしかったという証拠です」
 そう言いながら、少女は今にもノーザの前に飛び出しそうなラブの二の腕を掴んで離さない。その様子を見て、ノーザは口の端を斜めに上げてニヤリと笑った。

「そうねぇ。でも、ウエスター君にあなたの姿を見られたのだけは、失敗だったわね」
「このダイヤを使ったナケワメーケならば、ヤツらが生み出すモンスターでも倒せない――おっしゃる通りなのは確認しました。ならば問題ないはずでは? それに、いざとなればさっきのように時空を開いて頂ければ……」
「こと戦闘にかけては、あまり彼を舐めると痛い目に遭うわよ? 姿を見られた以上、さっき時空を開いたのが最後の一回だと思いなさい。多用すれば、私の存在を奴らに察知される恐れがある。それだけは避けたい――わかるわよね?」
「じゃあ、どうしろと?」

 少女の言葉が終わるより早く、何かがシュッと部屋の中を横切った。と同時に、少女の手に握られていた暗紫色のダイヤが魔法のように消え失せる。
 さっきとは比べ物にならない速さと鋭さだった。気付いた時には一本の蔦が、絡めとったダイヤをまるで捧げもののように、ノーザの前に高々と掲げていた。

「っ……何を!」
 思わず声を荒げる少女をさらに威圧するように、ノーザが重々しい声を出す。
「あなたには二、三日休暇をあげる。後でちゃんと花を持たせてあげるから、しばらくは私に任せなさい」
「ノーザさんに? ですが、そんなこと……」
「あら、出来ないとでも思ってるの? 姿を隠したままでも、あなたの三倍、いや五倍は働いてあげるわ」
 フフフ……と楽し気に笑うノーザに、少女が少し悔しそうに下を向く。その隙をついて、ラブが少女の腕を振りほどき、ようやくノーザの前に躍り出た。
「お願い。これ以上、ラビリンスの人たちを不幸にしないで! みんな、今ようやく幸せゲットしようって、頑張り始めたところなんだよ。だから……」
「聞き分けのない子ねぇ。お前の出る幕じゃないって、何度言ったら分かるのかしら?」

 ノーザがそう言うが早いか、さっきよりはるかに太い蔦が、ラブを目がけて唸りを上げる。
 今度はとても弾けない――そう判断したのか、少女は咄嗟に覆い被さるようにしてラブを庇った。蔦はそのまま少女とラブの身体を絡めとると、二人を部屋の外へと放り出した。
「そうそう。まさかとは思うけど、ここが奴らに見つかったりしていないか、ちゃんと確認しておきなさい。頼んだわよ」
 ノーザのその声を最後に、部屋のドアはバタンと閉まった。

 跳ね起きたラブがドアに駆け寄る。だが鍵がかけられたのか、どんなにノブを回してもドアはびくとも動かない。
「ふん、全く懲りないわね」
 少女は腰に手を当てて呆れたように呟くと、すぐに元来た階段の方へと向かった。仕方なくその後に続きながら、ラブはもう一度閉じられたドアを振り返って、不安そうに胸の前でギュッと両手を組み合わせた。



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第7話:瞳の中の炎 )



 どこからか、タン、という小さな音が断続的に聞こえてくる。それをぼんやりと聞きながら、ラブは目を覚ました。
 ここへ来て二日目の朝。ラブの寝室としてあてがわれた部屋は、同じ形と大きさの部屋がずらりと並ぶ、居住エリアにある一室だ。
 普段寝ている畳のベッドより一回り大きなベッドから降りて、まずは分厚いカーテンを開ける。窓の向こうに見えるのは、こちらもグレー一色の、高い塀だった。
 見上げると、四角く切り取られた空が小さく見える。青というより、塀の色より少し淡いグレーといった色合いの空からは、今の季節の四つ葉町よりずいぶん柔らかな、朝の光が差し込んでいた。

(せつなも見ていたのかな、こんな景色……)

 うーん、と大きく伸びをしてから、くるりと窓に背を向け、改めて部屋の中に目をやる。
 大きさだけは立派だが、あまりにもシンプルなベッドと机、それにクローゼットだったらしい細長い物入れがひとつ。封鎖されている建物だからこんなに殺風景なのか、それとも元々こんな部屋だったのだろうか。
 閑散とした部屋の中に、親友の姿を思い浮かべようとして――しかし、思い浮かんだのは昨日の出来事だった。

 再び目にした不幸のゲージと、まさか再会するとは夢にも思っていなかったノーザの姿。黒雲のような不安が広がりそうになる胸を、ギュッと両手を組み合わせて抑える。

――どうしても私を止めたいと言うのなら、一緒に来い。私がすることを見届ければいい。

140一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:50:42

 そう言って不敵に笑って見せた少女の瞳に、親友の――せつなの哀し気な瞳が重なって見えた。
 だからどうしても、彼女を止めたいと思った。でも……。

(あの子は一体、何をするつもりなんだろう……)

 昨日、ノーザに地下室から放り出された後、少女は真っ直ぐこの棟のコントロール・ルームに向かった。ラブはそんな少女を追いかけて、ノーザの言いつけ通り外部モニターのチェックを始めた彼女に、質問を浴びせかけたのだ。

「ねえ。あそこにノーザの姿が映っていたということは、ノーザがどこかに居るってことでしょう? どこに居るの?」
「今に分かるわ」
「部屋の真ん中にあったのって、“不幸のゲージ”だよね?」
「ええ」
「やっぱり。またナケワメーケで不幸を集めて、一体何をするつもりなの?」
「それもゲージが溜まったらすぐに見せてあげるわ。そう先のことじゃない」

 ここへ来る前よりは幾分柔らかな口調ながら、モニターから目を離さず、今に分かる、の一点張りの少女。

「じゃあ今は……何も教えてくれないの?」
「これでも随分と手の内を明かしているつもりよ。何と言ってもアジトに連れて来たんだから」
 不満そうに問いかけたラブに、初めてチラリと視線を向けて、彼女はそう言ったのだが。

(そう言われたって……これだけじゃ、何も分からないよ)

 はぁっと溜息をついた時、また部屋の外から、タン、という微かな音が聞こえた。

(何の音だろう……)

 廊下に出てきょろきょろと辺りを見回してから、向かいの部屋を覗いてみる。そこを自分が使うから、監視がしやすいように必ず部屋のドアを開けておけと、昨夜、少女に言われていたのを思い出したのだ。
 ラブの部屋だけでなく、少女の部屋のドアも開いていたが、部屋はもぬけの殻だった。寝具はきちんと畳まれていて、シーツに残ったわずかな皺だけが、そのベッドが使われたことを示している。
 誰も居ない廊下に、一人佇むラブ。やがてその瞳が、わずかに輝きを増した。

(……そうだよね。せっかく、せつなとあの子が育った場所に連れて来てもらったんだもの。ここでの暮らしのこと、そしてあの子のことをもっともっと知れば、もっとちゃんと話をすることだって出来るよね)

 おそらく少女は、あの音がしている場所に居るのだろう。ラブは耳を澄ませると、音のする方に向かって歩き出した。
 歩いては立ち止まり、また歩いては立ち止まりしながら、時折聞こえる音を頼りに少しずつ歩を進める。音は少しずつ大きくなり、それにつれてラブの足も少しずつ速まっていく。
 居住エリアを抜けた先には長い廊下が伸びていて、そのさらに先に、この建物の中でも特に重厚そうに見える大きな扉があった。
 物音は、どうやらこの扉の向こうから聞こえてくるようだ。何の音かは定かではないが、何かを叩き付けるような鋭い音――。

(まさか、またノーザがいるわけじゃないよ……ね)

 ラブはゴクリと唾を飲み込んでから、意を決してその重い扉を開いた。
 そこにはひときわ明るい照明の下、等間隔に立つ太い柱とグレーの床に囲まれた広大なスペースが広がっていて、その一角で一人飛ぶように動いている少女の姿があった。時折、タン! と床を蹴りつける音がひときわ大きく響く。さっきからラブが耳にしていたのは、どうやらこの音だったらしい。

(ここって道場……なのかな。おもちゃの国のカンフー道場より、何倍も広い……)

 とりあえずノーザでなかったことに少しホッとして、そろりと扉を閉める。
「危ないから、近くに寄らないで」
 少女はラブの方を見もせずにそう言うと、一旦動きを止めて、ふーっと長く静かに息を吐いた。

 少女の訓練が再開される。空手ならば“型”、拳法ならば“套路”と呼ばれているもの。正しい動作を無意識に出せるようにするための訓練方法だ。しかしその動きは、ラブの目にはまるで舞のように映った。
 見えない相手に向かって、多彩な技を連続して繰り出すような動き。複雑な動きなのに、そこには一切の迷いも無駄もない。
 強く、鋭く、速く、しかも滑らかで、ダンスのように美しく――。
 息を詰めてその動きを見つめていたラブは、ふと不思議な既視感を覚えて、その正体に目を見張った。

141一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:51:17
(この動きって、せつなの……ううん、パッションの動きによく似てる!)

 が、そう思ったのはほんの束の間だった。すぐにまた少女の動きに引き込まれて、その一挙手一投足を食い入るように見つめる。
 しばらくの間、その変幻自在で華麗な舞を披露してから、最後にもう一度、ふーっと長く息を吐いて、少女の訓練は終わった。

 パチパチパチ……という音が訓練場に大きく響き、少女が驚いた顔で振り返る。
 おそらくこの訓練場で、この音が発せられたのは初めてのことだったろう。それは、ラブが少女に対して、思い切り手を叩いて絶賛を贈った音だった。

「それって……一体、何の合図なの?」
「ああ、これ? 拍手だよ。合図じゃなくて、凄いっていう感動を伝えるものなの」
 ラブが手を下ろし、代わりに興奮気味な様子で少女に近付く。
「ホント凄いね! 動き速いし、力強いし、何よりすっごく綺麗!」
「……別に、そんなこと……」
 一瞬ぽかんと首を傾げた少女が、ラブの賛辞を聞いてさりげなくあさっての方を向いた。その顔は、訓練が終わった直後よりも心なしか上気しているように見える。

「そんな風に動けるようになるには、毎日ものすごく練習したんでしょ?」
「そりゃあ……訓練は毎日だった」
「凄いなぁ。何歳くらいから訓練を始めたの?」
「さぁ。物心ついた頃には、既に生活の一部だったわ」
「……そうなんだ。そんな小さい頃から、ずっと頑張って来たんだね」
「そうしないと、ここには居られなかったから」
 キラキラした目で問いかけていたラブが、その一言を聞いて、え、と言葉を途切れさせる。反対に少女の方は、おもむろに顔を上げてラブを見据えた。

 少女が胸の前のダイヤのような飾りに手をやると、黒い衣装が消え失せて、彼女の服装は初めて会った時と同じ、ラビリンスの国民服に変わった。
 そうしておいて、少女がラブの方に右手を差し伸べた。掌を上にしてクイッと手招きして見せながら、挑戦的な笑みを浮かべる。

「ちょうどいいわ、一本付き合って。プリキュアを務めたあなたの手並み、是非拝見したい」
「えぇっ!? む、無理だよぉ。今はあたし、プリキュアにはなれないもの」
「プリキュアじゃなくて、生身のあなたと手合せしたいの。だから私も、戦闘服を解除したでしょう?」
「いや、だから、そうじゃなくて……」
「来ないなら、こっちから行くわ!」
「ええっ!? ちょ、ちょっと待って!」

 次の瞬間、少女の拳がラブを襲った。慌ててよけると、すぐに次の一撃が追いかけてくる。
「わ、わ、わ……うわっ!」
 必死で後ずさりながら三つのパンチを避けたところで、ラブが足をもつれさせて勢いよく転倒した。痛てて……と言いながら起き上がろうとするラブを、少女は腰に手を当てて、やけに真剣な顔つきで見下ろした。

「はあ、びっくりしたぁ……」
「最大限に手加減しても、その程度なの? 会った時から思っていたけど……やっぱりあなた、プリキュアにならなければ何の力も無いのね」
「うん、プリキュアの力はね、変身して初めて出せるもので、あたし自身が持っている力じゃないんだ」
 そう言ってふらふらと立ち上がるラブを見ながら、少女がごく小さな声で呟く。
「一体、何故? メビウス様が、こんなヤツに……」
「へ?」
 何か言った? と問いかけようとしたラブが、少女の顔を見て、思わず口をつぐんだ。

 ラブを見つめる赤い瞳が、言葉よりも遥かに雄弁に、彼女の心を物語っている。
 怒り。憎しみ。そして――哀しみ。瞳に宿る激しい想いが燃え盛る炎となって、ラブの心をチリチリと焦がす。
 ラブにとっては長い時間。だが実際には、ほんの数秒のこと。
 少女は目を伏せるとくるりと踵を返し、黙って道場を後にした。
 バタン、と扉が閉まる音が背後から聞こえる。ラブは一歩も動けぬまま、しばらくの間、その場に立ち尽くしていた。



 棟の備蓄品としてまだ残されていたという非常食を、二人で朝食として食べてから、ラブは少女に、建物の中を案内してほしいと頼んだ。
 さっき少女の瞳に宿る炎を見てから、ラブはますますこの場所のことをよく知りたいと思うようになった。
 この子がここでどんな生活をしてきたのか。何を考え、どんな風に生きてきたのか知りたい――そう思った。
 少女は怪訝そうな顔をしたが、モニターのチェックが終わってからなら、と二つ返事で承知した。ノーザから待機命令を出されている今の状況では、侵入者の監視以外、特にやるべきことも無い。このまま時間を持て余すよりは――そう思ったのかもしれない。

142一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:52:51
 少女がラブの半歩先を行き、ラブはその斜め後ろを、辺りを見回しながら歩く。
 それぞれ異なる戦闘能力を鍛えるための様々なトレーニング・ルームや、数多くの専門書が並んでいたという図書室。少女は次々と案内して、ここがどういう施設だったのかをラブに説明していく。
 元はトレーニング・マシーンや器具類、おびただしい数の書籍がずらりと並んでいたというそれらの部屋は、今はどれもただの空き部屋に過ぎなかった。それでもラブは、何もない部屋の中をきょろきょろと見回し、興味津々の様子で少女にいくつも質問を浴びせる。
 そのせいか、少女の説明は次第に詳しいものになり、その内容も、いつしかここでの暮らしについての説明が多くなっていった。

 やがて少女が、学習室と呼ばれていた部屋にラブを連れてきた。ここも元は数多くの机やコンピュータがあった部屋だという。
 ぽつんと残された演台に両手をついて、ラブはガランとした部屋を、愛おしそうな目つきで見渡した。

「へぇ、同じ建物の中に教室があったんだ。道理で学校に行かなくて済むわけだよね……。ねえ、やっぱりクラス分けがあったり、担任の先生が居たりしたの?」
「“担任”というのは知らないけど……“クラス”というのはレベルのこと? それなら、全国統一で十段階に振り分けられていたわ。ここに居られるのは、レベル九と十の人間だけ」
「凄っ……それって五段階の通信簿に直すと、全員がオール五ってこと?」
「そうなるかしら。あなたはどのレベルだったの?」
「え、あたし? う、うーん……五段階の……真ん中くらい、かな。アハハハ……」
 苦し紛れの笑い声を上げるラブに、隣に立っていた少女はまたも呆れた顔になる。が、次のラブの質問を聞いて、その表情は不思議そうなものへと変わった。

「そんな優秀な人たちがみんなで受ける授業って、きっと難しいんだろうなぁ。ねえ、ここで毎日そういう授業を受けていたの?」
「授業って……日々の学習の? そんなものは、みんな自分の部屋で、コンピュータを使って勉強していた。ここには、まだ幼い頃に端末の操作を覚えたり、コンピュータでは学習しきれない、実験や演習をするために来ていただけ」

「え……じゃあ勉強って、小さい頃から一人でやってたの!?」
「一人じゃなくてどうやって勉強するって言うの?」
 ラブが目を丸くして驚く様子に、少女の方がさらに不思議そうな顔をする。
「だって、小さい子に一人で勉強しろって言ったって……」
「ここでは一日のスケジュールがきちんと決められていた。だからそれに従うだけのこと。幼い子供にだって簡単よ」

 なおも目を丸くしているラブに、少女はすらすらと一日のスケジュールを言ってみせる。
「起床、朝の訓練、朝食、勉学。昼食後、勉学と訓練。身体清掃と夕食の後は、一日の反省と明日の目標をパーソナルデータに入力して、就寝」
「凄い……。で、でも、お休みの日もあるんだよね?」
「丸一日なんか休んだら、頭も体も鈍るだけ。どうしてそんな日が必要なの?」
「え……じゃあ、楽しいことって、何も……」
 遠慮がちに呟くラブの言葉を聞いて、少女は不意に背筋を伸ばすと、妙に誇らし気な様子で言った。

「一日のうちで一番楽しみだったのは、反省の時間の冒頭に、メビウス様のお声が聞けることだった。ほんの短い時間、スピーカーからお声が流れてくるだけだったけど、それでも嬉しかった。有り難かった。こんなところでぐずぐずしていないで、早くメビウス様のお役に立ちたい。毎日その思いを新たにすることが出来た……」
 そう言って、少女が力なく首を垂れる。少女をじっと見つめながら話を聞いていたラブも、悲し気な顔になる。が、少女はそこで顔を上げると、憎々しげな目でラブを睨んだ。

「メビウス様はコンピュータだったのに……そう思ってるんでしょう?」
「ううん。そんなこと、あなたがメビウスを思う気持ちには、関係ないよ」
 一瞬の迷いも無いその答えに、少女がわずかに目を見開く。ラブの方は、何だか泣きそうな表情のまま、少女に向かって愛おし気に微笑んだ。
「本当に偉いね。そうやって小さい頃から、ずーっと頑張って来たんだ」
 だが。
「あなたが……お前が言うな!」
 少女の言葉が鋭い棘となって、今度は耳からラブに突き刺さった。

「偉い、ですって? ずっと頑張って来た、ですって? その努力を水の泡にしたのは誰? 私はもう少しで次のイースに――幹部になれるところだった。完璧に管理された正しい世界で、メビウス様のお傍にお仕え出来るはずだった。それを……このラビリンスを、こんな愚かな世界にしたのは誰!?」

 少女がラブの顔をひたと見据えたまま、押し殺したような声を出す。赤い瞳が、さっきより鋭い光を放って、ラブをねめつける。

143一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:54:00
「ふん、知っているわ」
 呆然とするラブに、少女は勝ち誇ったように言葉を繋いだ。
「あなたは……あなたたちは、ラビリンスなんかどうでも良かったんでしょう? あの時ラビリンスへ乗り込んだ目的は、メビウス様がやっと手に入れたインフィニティを取り返すため。ただそれだけだったんでしょう?」
「え……?」

 ラブの瞳が、小刻みに揺れる。
 確かにはじめは、奪われたシフォンを取り戻すことしか考えていなかった。「みんなの世界を元に戻そう」とは言ったが、その“世界”の中にラビリンスが入っていたかと言われれば、胸を張って「はい」と言える自信は無い。

 言葉に詰まるラブに、相変わらず鋭い視線を向けながら、少女がなおも言葉を重ねる。
「だけど、あなたたちが来て、ラビリンスは変わってしまったわ。メビウス様は、全パラレルワールドをラビリンスのような正しい世界にしようと、壮大な計画を立てておられた。だけどそれが成し遂げられなかったばかりか、このラビリンスまで愚かで醜い世界になってしまった」
「それは違うよ!」
 ラブがようやく顔を上げて、力強くかぶりを振った。

「今のラビリンスは、愚かなんかじゃない。醜くなんかない。みんな、これからは自分たちの力で幸せゲットしようって頑張ってるじゃない」
「本当に、みんながそう思ってるって言えるの? 異世界に住んでいるあなたに、今のラビリンスの本当の姿なんか分からないでしょう?」

――もう老い先短い身だ。このまま静かに、一人で過ごさせてくれ。

 不意に、二日前に出会ったあの老人の言葉が蘇って来た。少女に対してか自分に対してかよく分からないままに、ラブが目をつぶって小さく頷く。

「そうかもしれない。だけど……みんなそれぞれ、感じ方も考え方も違うから、自分の考えと違ったり、上手く行かなかったりすることだってあるよ。だから、みんなで話し合うの」
「メビウス様に正しく管理された世界では、そんなこと必要なかった。人と対立したり、争ったりすることも無かったわ」
「本音を言い合えば、喧嘩になることだってあるよ。でも、人間には互いを思いやる心があるんだよ。だから……」
「そんな心、今も昔も、私はこのラビリンスで一度も見たことなど無い!」
 少女がラブの言葉を遮って、きっぱりと言い切った。

「私は、あのお節介な元・幹部に連れられて、警察組織が争いの仲裁をする現場を何度か見たわ。私自身、人と争ったこともある。でも、結局争った人たち両方か、どちらか片方が罰を受けて終わりよ」
 少女が演台から少し離れ、腕組みをしてラブを見つめる。
「みんなそれぞれ、考え方が違うって言ったわね。それはよく分かる。人と意見が違うから、みんな自分が正しいと主張するのに必死で、人を思いやる余裕なんかどこにも無い」
「そんなことない。誰かと争う嫌な気持ちとか、分かってもらえない悲しい気持ちとか、みんな知ってるでしょう? だったら、相手の気持ちだって分かるはずだよ」
 ラブもいつしか演台から離れ、少女の正面に立ってその顔を見つめる。その真っ直ぐな瞳をしばらく見つめ返してから、少女はフッと、目の力をやわらげた。

「……あなたの世界はそうなのかも知れない。でも、だからと言ってラビリンスもそうとは限らないわ。人がそれぞれ皆違うなら、世界だって、それぞれ違うものなんじゃないの?」
「そんなこと無いよ! ラビリンスの人たちだって……」
「まぁいい。私の言っていることが正しいと、すぐに分かるわ。それに自分の努力だって、このまま水の泡にしておくつもりは無い」
「それ、どういう意味? そのために、不幸のゲージを? ねえ、一体何をするつもりなの?」
 ラブが少女ににじり寄り、不安そうにその腕を掴む。
「今に分かるわ」
 少女は一瞬でラブの手を振りほどくと、先に立って学習室を後にした。



 その夜、昨夜と同じ部屋のベッドの上で、ラブは長い間、闇を見つめていた。
 小さく唸り声を上げたり、大きなため息をついたりしながら、何度も寝返りを繰り返す。
 夜の時間は、闇と静寂の中でのろのろと過ぎ、やがてラブがここへ来て三日目の朝が来た。



   ☆

144一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:55:14
 眠れないと思っていたが、明け方になって少しうとうとしたらしい。
 ラブがベッドの上に起き上がったのは、昨日よりも遅い時間だった。

 慌てて向かいの部屋を覗き、そこに誰も居ないのを確認してから、今度は食堂へと足を向ける。
 テーブルの上には一人分の食事が残されていて、やはり少女の姿は無い。その時ラブの耳に、昨日と同じ、タン、という小さな音が聞こえた。

 道場へ行ってみると、果たしてそこに少女は居た。昨日より厳しい顔つきで、動きもさらに速く鋭くなっている。
「今日は、スケジュール通りじゃないんだね」
「そろそろノーザさんが帰って来る。出撃の前には、それ相応の準備があるの。スケジュールにも組み込まれているわ」
 ラブの方を見ないまま、少女は息も乱さずに答える。
 そう、と小さく答えてから、ラブは大きくひとつ深呼吸をして、少女に一歩近づいた。

「あのね。聞いて欲しいことがあるの」
「何? 不幸のゲージのことなら、ノーザさんが帰って来たら……」
「ノーザが帰って来る前に、聞いて欲しいんだ。せつなの……イースだった、あたしの親友の話を」
 少女の動きが、ぴたりと止まった。

「せつなはね。あたしたちの世界に来て、メビウスの命令を果たそうと、凄く一生懸命だったんだ」
 少し悲しそうな、そして実に愛おしそうな表情で語るラブを、少女が怪訝そうな顔で見つめる。
「一生懸命って……その頃の彼女は、あなたたちの敵だったんでしょう?」
「うん。でもあたしたち、友達になったんだ。本当はリンクルンを……変身アイテムを奪うために近付いたって、後で言ってたけど」
「バカバカしい。そういうのを“潜入”と言うの。あなたを騙していただけ」
 少女が呆れたようにため息をついてから、それで? と先を促す。

「プリキュアになってからも、せつなはいつも一生懸命だった。どんな時でも、どんな小さいことでも、“精一杯、頑張るわ”って、そう言って頑張るの。あなたもそうやって頑張って来たんだよね?」
「あの人と……裏切り者と一緒にしないで」
 少女がラブから顔をそむける。
「あたしの力は、プリキュアに変身して初めて使える力だけどさ。せつなは普段から、すっごく強くて、頭も良くて……。その理由が、ここへ来て、あなたの話を聞いてよく分かったよ。小さい頃からずーっと頑張って来たから、身についたんだよね。メビウスのためだったかもしれないけど、自分自身の力として」
 そう言って、ラブは優しい笑顔で少女の顔を覗き込んだ。

「人がそれぞれ皆違うなら、世界だってそれぞれ違うんじゃないか……あなた、そう言ったよね? でも、一生懸命頑張って身につけた力が、水の泡なんかじゃなくてその人の力になるってことは、どの世界でも同じだと思うんだ。だから、あなたも……」

 次の瞬間、くるりと世界が反転した。ダン、という鋭い音と共に、肩と背中に衝撃が走る。
 気付いた時には、ラブは道場の床に仰向けに転がされていた。のしかかるような格好でラブを見下ろす少女の瞳が、今度は純度の高い怒りの炎を宿す。そしてラブの顔面に、高速のストレートが迫る――!

 思わずギュッと目をつぶる。だが、いくら待っても衝撃はやって来ない。
 恐る恐る目を開けると、ラブの鼻先ギリギリのところで、少女の拳がぴたりと止まっていた。

「……何の努力もせず、与えられた力だけで勝利を収めたあなたに、そんなこと言われたくはない!」
 少女が低く凄みのある声を出す。
「あの人が……イースがどんなに凄い戦士だったか、あなたなんかに分かるわけがない。彼女に追いつき、追い越すことだけを目標にして、私は……」
 少女がギリッと奥歯を噛みしめた、その時。
「どう? 休暇は楽しめたかしら」
 不意に、道場にノーザの声が響いた。



 少女が道場を飛び出し、地下室に走る。ラブも慌てて起き上がり、その後に続いた。
 一昨日は固く閉ざされていた地下室のドアは、今は大きく開かれている。部屋に入ると、既にラブの背丈ほどの高さまで液体が溜まったゲージが、二人を出迎えた。

 ノーザの映像が、相変わらず妖艶な笑みを浮かべて少女たちを見つめる。
「どう? 私の成果もなかなかのもんでしょう?」
「……お見事です」
 少女が無表情にゲージを見上げてから、ノーザに向かって頭を下げる。
「では、この子に見せてあげようかしら。裏切り者のラビリンスの国民たちの、不幸な姿を」
 ノーザの指が、パチリと小気味よい音を鳴らす。すると、ノーザの映像の周囲の空中に、幾つもの画像が浮かび上がった。

145一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:55:46
 見るも無残に破壊された、ラビリンスの街並み。
 我先に逃げようとして、将棋倒しになる人々。
 避難所で言い争っている、怒りと不安に満ちた、顔、顔、顔……。

 ラブの目が大きく見開かれる。それを見て、ノーザは実に楽しそうに、甲高い笑い声を上げた。

「ほらね。私が言った通りじゃない」
「そんな……。こんなの嘘だよ!」
 目を潤ませるラブを、勝ち誇ったような表情で見つめる少女。その目の前に、するすると一本の蔦が伸びる。少女に差し出されるような格好で蔦の先にあったのは、あの暗紫色のダイヤだった。

「さぁ、あなたの出番よ。ラビリンスの国民たちに教えて上げなさい、この不幸の意味を」
「不幸の意味って……どういうこと!?」
 ラブがノーザの映像に迫る。
「これはメビウス様の制裁だ、ってそういうこと。人の不幸は蜜の味。あなたがそれを知らせてあげれば、この世界の人間どもがどれだけ打ちのめされるか……。ゲージが上がるのが楽しみだわぁ」
 実に楽し気なノーザの言葉に、ラブは目に涙をいっぱい浮かべたまま、力一杯少女の両腕を掴んだ。

「ダメだよ! 行っちゃダメ! そんなこと聞いたら、みんな不幸に飲まれちゃう。せっかく立ち上がろうとしているのに、立ち上がれなくなっちゃうよ。お願いだから、そんなデタラメでこれ以上みんなを惑わせたりしないで!」
 と、その時、ラブの背後からもう一本の太い蔦が伸び、ダイヤに気を取られていた少女が反応する間もなく、ラブの身体を巻き取った。

「フフフ……相変わらず能天気ねぇ。私たちの計画がデタラメだなんて、どうして言えるのかしら? この子に教えてあげなさい」
「……本当に、間違いないんですよね?」
 ゲージの横に宙づりにされたラブに目をやってから、少女が初めてノーザを詰問する。
「あら、私が信じられないの? 疑うのなら、降りてもいいのよ?」
「いえ、そんなことは……」
 少女はかぶりを振ってから、ラブに向かってぶっきら棒な調子で言った。
「メビウス様は、もうじき復活なさるの。ノーザさんの力でね」

「嘘! だって、メビウスは自爆したんだよ? 復活なんてあり得ないよ!」
 ジタバタと身をよじって何とか拘束から逃れようとしながら、ラブが声を張り上げる。それを聞いて、ノーザの笑みが消えた。
「せっかく教えてあげたのに……痛い目に遭わないと分からないようね」
 ノーザがさっと右手を挙げると、蔦がギュッと締まって、ラブの身体を締め上げる。
「うわぁっ!」
 ラブは思わず悲鳴を上げて、苦しそうにケホケホと咳をした。

「おやめ下さい!」
 少女が大声を上げてから、我に返ったように小さく咳払いをする。
「そいつには、危害を加えないと約束しました。ですから……」
「甘いなぁ。そんなことで本当に幹部が務まると思っているの? まあ、最近の幹部には何故か愚か者が多いから、仕方ないのかしら」

 ノーザの嘲るような声に、少女の目つきが変わった。グッと拳を握ってから、挑むようにノーザの映像を見つめる。
「私は、メビウス様を裏切った元・幹部たちとは違います。己の力は、メビウス様のために。それ以外のものには使わず、自分の望みを叶えてみせる!」
 言うが早いか、少女の手が暗紫色のダイヤを、躊躇なく掴み取った。

「いい覚悟ねぇ」
 少女の様子を眺めて、ノーザがニヤリと笑う。
「闇は人を不安にさせる。だから通告は、夜まで取っておきなさい。それまでは現状を確認がてら、あなたも一暴れすればいいわ」
「承知しました」

「待って!!」
 ラブがそう叫ぶと同時に、少女の周りの空間が歪む。ギュッとダイヤを握りしめた少女と目が合ったと思った次の瞬間、彼女の姿は消え失せていた。
「フフフ……。これで確実に、不幸のゲージは満タンになる」
 高らかなノーザの哄笑が響き渡る。なす術もなく瞳を震わせるラブの隣で、不幸のゲージが、ゴポリ、と微かに不気味な音を立てた。


〜終〜

146一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:57:13
以上です。ありがとうございました!

147名無しさん:2016/09/05(月) 06:10:13
>>146
相変わらずストーリーや世界観の作りこみがすごいな… 人の考え方が皆違って争い合うだけの今のラビリンスは
「こちら側」の考えからすると、解放されはしたもののまだ精神的に未熟な部分があるのかな、と思いました。

一方でメビウスを崇拝する少女にとって変わってしまったラビリンスは、幼い時分から努力し鍛えられた自分の存在意義が
否定されてしまうような感覚なんでしょうね、愚かで醜い世界と罵る裏に悲壮感すら見える彼女の行動に目が離せません。

ん〜! しかしこの時点でものすごい大作!! ノーザの目的や不幸のゲージがたまった時に何が起こるのか気になります
執筆大変だと思いますが次回も楽しみに待ってます!

148名無しさん:2016/09/06(火) 00:23:44
せつなが元居た場所の、冷た〜い感じが伝わって来ました。
非常食ってどんなだろ?気になる。

149Mitchell&Carroll:2016/09/30(金) 02:10:57
だいぶ前にランキングスレッドで出た話題の回収です。R‐20(ウソ)。


『PANICURE!』


〜某居酒屋〜
響「アコも成人したことだし、これでようやく皆そろって飲めるね!」
アコ「“あたし待ち”だったってこと?申し訳なかったわね」
奏「まあ、それ以前からちょくちょく集まって飲んではいたんだけど……特にあそこら辺は」
なぎさ「ほ、ほろか〜、ほろか、ろこ?」
ほのか「あはは、なぎさったら!私はここにいるじゃない!あはははは」
アコ「もう酔ってる……」
エレン「ふにゃふにゃ……」
奏「エレンももう酔ってる……そんなに飲んでなかったと思うけど」
みゆき「あ、いや……さっきちょっとマタタビ茶を飲ませてみたら、こんなんなっちゃった……」

えりか「ほらほら!ゆりさん、これ飲んでみてよ!あたしが作った特製カクテル!!」
ゆり「要らないわ。お酒は上品に飲むものよ」
えりか「しょぼーん」
いつき「じゃあ、代わりに僕が……」
つぼみ「それなら、私が飲みます!」
ゆり「……仕方ないわね。私が――」
全員「「どうぞどうぞ」」
ゆり「なっ!?」

はるか「みなみさん!私がお酌してあげますね!」
みなみ「ありがとう、はるか。お礼にキスしてあげるわ」
はるか「えっ!?」
みなみ「きららにも、日頃の感謝を込めて、キスしてあげるわ」
トワ「わたくしには……して下さらないのですか……?」
ラブ「た、大変!美希たんが!」
美希「あのね、美希たんね、寂しいの」
きらら「は、はあ……」
美希「きらら〜、チュ」
きらら「ちょっ……」
トワ「な……な……!?……ワイン!!赤ワインをありったけ持ってくるのです!!」

いおな「ねえ、どこかで蛙が鳴いているのかしら?ゲロゲロって……」
六花「えっ、カエル?(喜)」
亜久里「マナがトイレで吐いている音ですわ」
六花・いおな「「な〜んだ」」
ゆうゆう「さっきからありすちゃんはメニュー表とにらめっこしてるわね」
ありす「どれも0(ゼロ)がひとつ足りませんわね」
いおな「普段、どんなものを食べて&飲んでるのよ……」

せつな「ねぇ、聞いて。ラブったらね、今朝、今夜に向けての準備運動だなんて言って、朝からビールを飲み始めたのよ。それも特撮のDVDを観ながら(グビッ)。そうそう、私達、夜寝る前にお話しするんだけど……(グビッ)一緒の布団に入って。そしたらラブったら先に寝ちゃうのよ。私はまだ全然話し足りないというのに。この前だって、あたしが襟足を1ミリ切ったことにも、ラブったら全然気付かないのよ。それに、私はピーマン嫌いを克服したというのに、ラブったら未だにニンジンを食べられないまま……亜久里ちゃんを見習って欲しいわ。ニンジンで思い出したんだけど、ラブったら、ダンスに某市非公認キャラクターの動きを取り入れようなんて言い出して……私、あんなテンションの高い動き、正直言って無理だわ。やるなら一人でやりなさいっていうの!あとねえ、私がイースだった頃、ラブったらスタジアムで暴走した私を取り押さえようとして、思いっきり鯖折りをキメてくれたのよ。あれ、ホントに苦しかったわ。ナキサケーべの副作用よりも効いたもの。手加減を知らないのよね、ラブったら。ラブったら……ラブったら……」
祈里「だ、誰か、せつなちゃんを止めて……」

150Mitchell&Carroll:2016/09/30(金) 02:13:24
ひめ「ねぇ、そのバターコーン食べないの?貰っていい?」
レジーナ「ちょっと!なに勝手にあたしのバターコーン食べてんのよ!」
ひめ「いいじゃない、ちょっとくらい。ケチンボ!」
レジーナ「あのねぇ、世界中のお酒とおつまみは私の物なの!わかった?」
六花「二人ともワガママね……」

マナ「ふぅ〜っ、スッキリした!……まこピー、どこ見てるの?」
真琴「アルコールが……私の魂を浄化してくれる・・・…」

ゆうこ「ご飯に日本酒をかけて、っと」
いおな「侠飯(おとこめし)ってヤツね」
ラブ「漢(おとこ)と聞いちゃ、黙ってられないよね!よーし、あたしも!」

のぞみ「う〜ん♡なんで居酒屋メニューってこんなに美味しい物ばっかりなんだろう?全品制覇するの、けって〜い!!」
みゆき「スゴい食欲……」
あかね「こっちにも似たようなんがおるで……(呆)」
なお「あかね、そんな所で突っ立ってないで、お好み焼き、焼いて」
あかね「おっしゃ、任しときぃ!(喜)」
れいか「ふふ……なおの美味しそうに食べる姿が、何よりの肴です(悦)」

めぐみ「やよいちゃんとあゆみちゃんはお酒飲みながらゲームしてるし……」
あゆみ「すみませーん、ワインもう1本……いや、3本下さい!」
みらい「い、今……3本って言いました!?」
あゆみ「白ワインでHP回復♡」
やよい「赤ワインでMP回復♥」
ひめ「二人の前に空瓶が……」
いおな「次々と並べられて……」
ゆうこ「さながら勲章バッジのようね」

みらい「――って、リコ、顔が真っ赤!」
リコ「で、でんでんよっへないひ!」
ことは「♪で〜んでんむ〜しむし……」

咲「パンとビールって、合うんだよね〜」
舞「ふたつとも、元々エジプトのものだからね」
満「薫、日本酒ばかり飲んでるわね」
薫「満こそ、カクテルばかり飲んでるじゃない」

アコ「――奏、強いのね。響ったら、一発で撃沈したっていうのに」
奏「私はほら、ケーキ作りで、ラム酒とかブランデーとか、しょっちゅう嗅いでるから」
アコ「ふぅ〜ん」
エレン「ふにゃふにゃ……――ハッ!ここはどこ?それにしても喉が渇いたわ。あ、こんなところに水が」
満「薫の日本酒、飲まれてるわよ」
薫「それなら、ついでに満のカクテルも飲ませてあげましょう」
響「グー……」
満「――奏、あなたのところの子が、猫に変身しちゃったわよ」
エレン改めセイレーン「ふぎゃーッ!!」
くるみ「あっ!あたしの秋刀魚の蒲焼き、奪われた!」
亜久里「わたくしのマグロユッケも、ですわ!」
ほのか「あはは!あたしのカツオのタタキ、あはははは!」

151Mitchell&Carroll:2016/09/30(金) 02:14:20
咲「唐揚げか手羽先か……手羽先か唐揚げか……」
舞「唐揚げじゃない?でも手羽先も……いや、やっぱり――」
こまち「羊羹かしら?」
咲舞「「それはない」」

トワ「ぶはッ!?」
はるか「トワちゃんが血を吐いた!?」
きらら「いや、赤ワイン飲んでて咽(むせ)っただけだから」
いおな「ブハァッッ!!!」
はるか「いおなちゃんも赤ワインを?」
ゆうこ「そうじゃなくって、この店のクーポン券を家に忘れてきちゃったんだって。そのショックで……」
はるか「じゃあコレ、本物の血なの!?キャーッ!!」

うらら「のぞみさんが、キムチの汁、飲みまーす!」
のぞみ「ゴクッ、ゴクッ……」
ことは「一気!一気!」
のぞみ「ゲホッ!!」
りん「なに馬鹿なことやってんのよ」
みるく「のぞみは相変わらずアホミル」
ひかり「――布巾をもう一枚。このお皿と、このお皿を下げて……と。あとそれから……」
りん「ごめんね、ひかりちゃん。気を遣わせちゃって」
ひかり「いえ、あかねさんのお店の手伝いで慣れていますから」
かれん「かわいいわね、ひかりさん。キスしてあげるわ」
なぎひゃ「ラメェー!ひかりはあたひのものなのー!」
なお「誰のものでもないと思うけど(モグモグ)。そんなことより、あかね、餅入りスペシャルお好み焼き、焼いて(モグモグ)」
あかね「任しときぃぃ!!(大喜)」
なお「それから、もんじゃ焼きも焼いて。……あかね?あかねったら!」
あかね「あ゛ぁん?誰に物言うとんねん、コラ。んなもん自分で焼かんかい、ボケ!シバいたろか、アホンダラ」
みゆき「た、大変!あかねちゃんとなおちゃんが、取っ組み合いのケンカを!」
なお「焼いてくれたっていいじゃないのさ!!」
あかね「じゃかぁしい、このドアホォ!!」
ひめ「あーあー、二人ともお酒が入ってるからエキサイトしちゃって……」
レジーナ「くだらないことでケンカして、ほんとガキよね〜」
いつき「よしっ、ここは僕が止める!」
えりか「おっ、いちゅき〜。可愛い下着穿いてるねぇ」
いつき「ちょっと、えりか!スカートめくらないでったら!――そういえば、ゆりさんは?」

〜おでん屋〜
ゆり「……ふぅ。もう一杯、いいかしら?あと、がんもをちょうだい」
オヤジ「あいよ」


燗……じゃなくて完

152Mitchell&Carroll:2016/09/30(金) 02:18:45
『真っ赤なランチは愛情の証』


「せっちゃん、赤が好きだものね〜。せっちゃんの好きな赤色の食材で、喜ばせてあげましょ!」

 本日の四葉中学校、給食はお休みで、お弁当の日。4時限目終了後、せつなは机の上で、真っ赤な巾着袋を紐解く。真っ赤な弁当箱には、母・あゆみの愛情が込もっている。蓋を開けてみると、そこには――

・お赤飯(真ん中に梅干し)
・タコさんウインナー
・カニかま
・プチトマト
・紅生姜

 そして、トマトジュース(果汁100%)。

「――お母さん!トマト、被ってるわ!!」


 完
 
 食

153Mitchell&Carroll:2016/09/30(金) 02:20:26
『LET IT BE』


うらら「う〜〜ん、なかなかピンキーが見つかりませんね〜」

かれん「――あら?あの人達もピンキーを集めているのかしら。何かを手にしながら歩いているようだけれども…」

りん「あれ、危なくない?よそ見してるから…」

うらら「それに、車を運転しながら何かを弄っている人も見かけます」

かれん「みんな、何に夢中になっているのかしら?」

のぞみ「見て見て!太ったトンボが虻を食べてる!」

こまち「これはシオカラトンボね!」

うらら「のぞみさん達は別な方に目が行っちゃってるみたいです……あっ、キレイな蝶々!」

りん「ふう、仕方ない。かれんさん、あたし達でピンキーを探しましょ。……あ!珍しい花!」

かれん「まあ!珍しい形の雲だわ!」


おわり

154Mitchell&Carroll:2016/09/30(金) 02:23:59
アイカツ(ジョニー時代)とのコラボ


『Burnin’』


 まるで血のように赤い液は、グングンと上昇して、その値は40度に達する勢いだ。
 もはや、この暑さはどうしようもない。神頼みしようにも、口の中は渇ききって、喋る事すらままならない。外で勢い良く伸びゆく植物達が羨ましい。自分達はというと、今にもドロドロに溶けて、地面に吸い込まれそうになっているというのに。

 洋食屋・豚のしっぽ亭にて、マナと六花はテーブルに突っ伏し、これまでの事を走馬灯のように思い浮かべていた。ジンジャーエールの氷はすでに溶けきっている。
 ――どこからともなく、シャカシャカという乾いた音が聴こえてくる。
「誰?こんな時にマラカスなんか振っているのは」
 音がだんだん近づいてくるにつれ、気温もどんどん上昇し始める。ブラウスがすっかり汗で体にへばり付いてしまった六花の苛立ちも、頂点に達した。
「鬱陶しい事この上ないわね!」
 音の正体を探るべく椅子から立ち上がろうしたその時、客を装った男が店に入って来た。

「チャオ!プリキュアの皆さん」
「あなたは……?」
「俺様の名は――」
 男は燃え上がった。炎が紙ナプキンに引火し、慌ててマナの父が消火器で対処する。
「ククク……そんな泡でこの俺の情熱が治まるとでも?」
「ナプキンをこんなにして……許さない!」
 マナと六花はすかさず変身した。男は興奮した様子で、
「ここでは狭い。表へ出ろ、プリキュア!」
 と言って、二人を公園へと連れ出した。

 灼熱の炎天下、全身に炎を纏った男の振るマラカス――そのテンポは更に速くなっていった。先客のアブラ蝉も、ミンミン蝉も、ツクツク法師も、負けじとテンポを上げて求愛の雄叫びをあげている。
 素早い影が、公園の土に映った。
「マラカスといえば、私よ!」
「ハニー!来てくれたんだ!」
 世界を駆け巡るプリキュア、キュアハニーが到着した。男に負けじとマラカスでリズムを刻んでいる。
「小娘が!この俺のテンポについて来れるとでも?」
 蝉が鳴きまくる中、両者のマラカス合戦は続く。だが暫くして、一匹の蝉が小便を撒き散らしながら戦線離脱する頃、
「ダ、ダメ……手首が……それに、耳も……」
 そう呟いてキュアハニーは、トリプルダンスハニーバトン(マラカスモード)と共に崩れ落ちた。
「ハニーになんて事を!プリキュア・ダイヤモンドシャワー!!」
 キュアダイヤモンドの氷の攻撃が、男を襲う。だが、炎の壁の前に呆気なく蒸発してしまった。
「そ、そんな……」
 戦意の喪失と暑さでよろめくキュアダイヤモンドの肩は、危機を察して駆けつけた仲間によって支えられた。
「目には目を、炎には炎を!プリキュア・ルージュファイヤー!」
「プリキュア・サニーファイヤー!」
「プリキュア・フェニックス・ブレイズ!」
 3つの炎の攻撃が男に直撃し、巨大な火柱が立ち上がる。
「ルージュにサニー、それにスカーレット!」
 再会の感動も束の間、火柱の中から男の笑い声が聞こえて来る。
「いいぞ!この熱で俺は更にパワーアップする!」

155Mitchell&Carroll:2016/09/30(金) 02:24:52
 誰もが絶望したその時、軽やかなカスタネットの音が響いた。
「その折は私の先輩とアミーガス、つまり友人が世話になった。紅林珠璃、参・上!」
 そのアイドルはカスタネットの音をマラカスとシンクロさせながら、男と共に炎の螺旋を描いて空へと舞い上ってゆく。
「あんなに高く……あの子、あのままじゃ太陽の熱で、燃え尽きちゃうよ!」
「羽も生えてないというのに……ワイヤー、ワイヤーはどこ?」
 下から何やら聞こえてくるが、そんな事はお構い無しに、珠璃は不敵な笑みを浮かべてこう答えた。
「望むところよ!エル・ソル、つまり太陽と私、どちらがアレか、根競べだわ!」
 意気揚々と宣戦布告する珠璃に対して、聞こえてくるのは、
「なに馬鹿な事を言っているの!さっさと降りてらっしゃい!」
「アイドルって大変なんだね〜……」
「――あ、これちゃう?うわっ、ワイヤーやなくて蜘蛛の糸やった!」
 などといった言葉ばかり。

 せっかくアパリエンシア、つまり登場したというのに、見せ場無く終わってしまうことへのディズグスト、つまり悔しさと、哀れみに満ちた言葉で足を引っ張る者達へのドロール、つまり悲しみで、たまらず珠璃は泣き出してしまった。その涙の一滴が、男の唇に触れ、潤した。
「――グラシアス、お嬢さん。俺は行く。偉大なる父の元へ――」
 男は、珠璃を突き飛ばし、代わりに自分だけが太陽へと消えていった。その瞬間、より大きな輝きを放ちながら。


 ようやく収束がついた後、皆は豚のしっぽ亭に集い、新しい大きな氷の入ったジンジャーエールで喉を潤した。
「それにしても、あの男の人、いったい何だったのかしらね?」
 六花はマナから借りたTシャツに袖を通しながら問うと、珠璃は答えた。
「あの男は、消えゆく前にこう言っていたわ。『ちょっと目立ちたかっただけ』だと。……プエドレペティール、つまり――」
 そう言って、ジンジャーエールをもう一杯、頼んだ。


 夕方の空を飛行機雲が横切ってゆく。「モエルンバ」と言う文字を描きながら――。



 Adios.

156Mitchell&Carroll:2016/09/30(金) 02:25:37
以上です。ありがとうございました!

157名無しさん:2016/09/30(金) 07:47:35
>>156
うわぁ、ミシェルさん一気に来たぁっ!
相変わらずぶっ飛んでいながらwキャラの特徴捕らえた語り口お見事!
楽しませてもらいました。
そしてやっぱり、ゆりさんは別格なんだなぁと再認識しました。

158名無しさん:2016/10/09(日) 23:17:31
くどまゆさん、引退か〜。惜しいなぁ。こんなパワフルなボーカリスト、なかなかいないだけに。

159名無しさん:2016/10/10(月) 14:28:19
>>158
そうだね〜。
5もスイートもテーマソング好きだった! フェアリートーンも好きだった!(特にファリーがっ)
今までありがとう!
「新しい夢」って何だかわからないけど応援してる。

160名無しさん:2016/10/12(水) 23:54:21
『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。四つ葉中学体育祭(前・後編)――』の感想

走り方とか、綱引きの作戦などの細かい描写が凄いと思いました。ラブとせつなの二人三脚に感動しました。
読み応えがありました。

161名無しさん:2016/10/13(木) 01:03:23
>>160
作者です。ありがとうございます!

162Mitchell&Carroll:2016/10/22(土) 23:55:15
ちょっとバッドエンド気味なんです……。よろしくお願いいたしします。

『プリキュア和食教室』


れいか「みなさん、こんばんは。青木れいかです。」

ほのか「雪城ほのかです。」

ことは「アシスタントの、はーちゃんだよ♡」

モフルン「番組マスコットのモフルンモフ〜!みんな、割烹着姿がとーっても似合ってるモフ〜!」

れいか「本日の料理は【マグロのお刺身】です。」

ほのか「日本でお刺身という調理法が発達したのには 醤油の普及によるところが大きいと言われています。生魚特有のくせを、醤油に浸けることによって和らげることができます。また、タンパク質が固まって薄い膜ができ、うまみを閉じ込めてくれます。塩分で表面が締まるので、水気の多い魚も水っぽさがなくなり、張りのある状態になります。」

モフルン「ほのか先生、くわしいモフ〜!」

れいか「今日は特別に、冷凍マグロを丸ごと1匹用意していただきました。」

ほのか「冷凍の造り身を購入した場合、冷蔵庫に入れてそのまま解凍すると時間もかかる上、うまみのある汁“ドリップ”が流れ出てしまいます。そこで、約1%の塩水にマグロを1分ほど浸けて水気を拭き取り、ペーパータオルに包んで冷蔵庫に入れると、3時間ほどで丁度良い状態に――」

ことは「キュアップ・ラパパ!マグロよ、解けなさい!!」

ほのか「あっ……。」

マグロ「(赤い汁ドバー。)」

モフルン「“ドリップ”がダダ漏れモフ〜。」

れいか「………。」

ほのか「………。」

れいか「……本日の料理は、予定を変更して【熊鍋】をお送りいたします。」

モフルン「わ、何するモフやめ――」

〜〜〜お花畑〜〜〜

163名無しさん:2016/10/23(日) 08:06:23
>>162
いや、そもそも●●にならないって・・・モフルン、ピーンチ!

164makiray:2016/10/31(月) 23:13:17
 どうも、キュアエコー大好きな makiray です。
 あゆみちゃんと、お向かいの家のワンコのお話。
 4スレお借りします。

次へ、次へ (1/4)
----------------

 ある日曜。
 母親からお使いを頼まれたあゆみがマンションに戻ってきた。
 向かいの清水家を覗き込む。
 その家はモモという名の犬を飼っている。出かけるときに姿が見えなかったのだが、散歩でもしていたのであればもう戻っているのではないかと思った。
「あれ」
 いた。だが、奥の方の犬小屋に入ったままである。
「モモちゃん?」
 あゆみが声をかけるとモモはこちらを見た。だが、起き上がる様子がない。
 どうしたのだろう。心配だが、勝手に入るわけにもいかないし、と思っていると玄関のドアが空き、向かいの主人が餌の入った器を持って出てきた。
 だが、いつもなら飛び出してくるモモが関心を示さない。むしろ、あゆみの声に上げかけた上体を戻してしまった。
 清水は、困ったな、という顔をしたが、あゆみに気付くと笑顔を向けてきた。
「あの…」
 その笑顔に甘えるようにして、門の中に入る あゆみ。
「モモちゃん、どうしたんですか?」
「それが、昨日からこんな感じなんだよ。餌もほとんど食べないし」
「え…」
 あゆみは心配そうにしゃがんだ。モモの頭をゆっくりとなでるが、モモは何の反応も示さなかった。
「まぁ、モモもそんなに若いわけじゃないしねぇ」
「そうなんですか?」
「六歳だからね。人間で言ったら、そろそろ 50 歳だ」
「…」
 まさか。
 あゆみの唇が震えた。
 モモがいなくなる? それも、そんなに先のことではない、というのか?
「あの。
 獣医さんには」
「診せた方がいいかとは思うんだけど、今日はお休みだし。今週はちょっと私の仕事が立て込んでてね。来週の土曜日くらいかな」
 一週間も先。こんなに弱っているのに。
(その間に何かあったら…)
 あゆみはその想像を振り切ろうとしたが、振り切れなかった。悪い想像ばかりが浮かんでくる。何かないのだろうか。自分にできることは。
「あ」
「どうしたんだい」
「あの、診てもらえるかもしれません」

165makiray:2016/10/31(月) 23:14:08
次へ、次へ (2/4)
----------------

 清水は、距離があることにわずかに難色を示したが、あゆみの必死の表情に折れた。車の後ろにモモを乗せ、向かった先は四つ葉町だった。
「あの…」
 山吹祈里の父、正は、迎えたときこそ笑顔だったが、モモを見るなり厳しい表情になった。あゆみは、そんなにモモの具合が悪いのか、と逆に不安を強めた。
「モモちゃん…」
「あゆみちゃん」
 祈里は、あゆみを診察室の外に連れ出そうとしたが、あゆみは動かなかった。手を震わせながら診察の様子を見ている。
「昨日あたりから、ということでしたが、何かお気づきになったことは」
「そうですね。
 食欲がない様子で、ずっとうずくまっていて」
「ほかには。どんな些細な事でも構いません」
「あぁ、さっき連れ出した時、犬小屋に敷いてあるタオルに赤いものが」
「…。
 血?」
 あゆみが呟く。正は、一度、モモに視線をやった。
「けがをしている様子はなかったのですが…。
 どの辺りでしたか」
「犬小屋の奥の方です」
「奥…」
 正はそれを聞くと眉をひそめ、もう一度、モモの顔を覗き込んだ。
「モモちゃんのエサはどうしていますか。
 皆さんの食事、例えばお味噌汁を与えたりは」
「いえ、そういうことは。ドッグフードだけです」
「そうですか…」
「先生、モモちゃんは」
「近くに小学校などは」
「はい?」
「子供たちが勝手にモモちゃんに餌をやったりはしませんか」
「あぁ、そういうことはないようです」
「散歩のときに何か食べたりは」
「させないようにはしていますが、目を離したすきに、ということが絶対にないかと言われますと…」
「ふむ…。
 ちょっと検査をしましょう。
 みなさんはちょっと外でお待ちください」

166makiray:2016/10/31(月) 23:15:14
次へ、次へ (3/4)
----------------

 じりじりと時間が過ぎる。診察室のドアが開くと、あゆみははじかれたように立ち上がった。
「先生」
「おそらく、タマネギ中毒でしょう」
「タマネギ…中毒?」
 あゆみは何を言われているかわからない、という様子だったが、飼い主である清水の方は理解したようだった。
「うちでタマネギを食べさせたりはしませんけど」
「えぇ。
 それで、近くに小学校があるかどうか、というようなことを聞いたのです。それもないとすると、散歩中に清水さんの目を盗んで、タマネギの入った何かを食べたんでしょうな」
「あの、どういうことなんですか」
 正は、あゆみの様子に、むしろ笑顔を見せた。
「犬はね、タマネギを食べられないんだ。急性の貧血になってしまうんだよ」
「貧血…ですか」
「おそらく、タオルについていた赤いもの、というのは尿の中に溶けだした血液だと思う」
「先生、大丈夫なんですか。
 貧血で、あんな風になっちゃうなんて!」
「大丈夫よ」
 祈里があゆみの手を取る。
「お父さん、吐いたりしていない、ということはそれほど多くはないんでしょう?」
「あぁ」
 正が頷く。
「おそらく心配はない。
 ですが、今夜は念のためにこちらで預からせていただけますか。
 なに、明日か明後日には回復すると思いますよ」
 清水が、お願いします、と言うと、あゆみは手で顔を覆った。よかった、という声が漏れてきた。

167makiray:2016/10/31(月) 23:16:05
次へ、次へ (4/4)
----------------

「あゆみちゃんは、モモちゃんが大好きなのね」
 落ち着くと、祈里はあゆみを自分の部屋に招いた。温かい紅茶で、あゆみはほっと息をつく。
「うん…。
 あの町に引っ越してきて、あの騒ぎを起こして…その後、最初に友達になってくれたのはモモちゃんなの」
「そうなんだ」
 ずっと友達でいてくれると思っていた。そうではない、ということなど、考えてもみなかった。
「あゆみちゃんの家では動物を飼ったりはしないの?」
「うちのマンションはペット禁止なんだ…前のアパートもそうだったから。
 子供の頃に、犬を飼いたい、猫を飼いたい、って駄々をこねたことはあるけど、実際に飼えたことはなかったな。
 でも」
「でも?」
「私、何も知らなかったんだな、と思って」
 犬にタマネギを食べさせてはいけない、ということ。タマネギの入った肉じゃがも、味噌汁も、ハンバーグも危険だ、ということ。
 さらに、チョコレートやコーヒーもダメだ、ということ。
 そして、犬の平均的な寿命は十歳くらいである、ということ。
「私なんかが飼わなくてよかったのかも」
「それは違うと思うよ」
 祈里は、印象とは裏腹にやや強い調子で言った。
「そういうことは飼いはじめるときに憶えればいいことだから。
 それよりも」
 そして微笑む。
「体調が悪そう、っていうことに気付いてあげられる。
 気づいたときにすぐに行動できる。
 そういうことが大事なの。
 あゆみちゃんは、十分、ペットを飼う資格を持ってると思う」
「祈里ちゃん…」
「モモちゃんがあゆみちゃんの友達になったのは、あゆみちゃんのそういうところがわかったからじゃないかな」
「そうなのかな…」
「うん。
 だって」
 祈里はあゆみの手を取った。
「あゆみちゃんは、思いを届けるプリキュアなんだから。
 モモちゃんに届かないはずがないもの。
 私、それは間違いないって、信じてる」
 温かい手。
 将来、この手がたくさんの動物を救うことになるのだ、とあゆみは思った。
 それが遠い先のことではない、ということを あゆみも信じられる。
「祈里ちゃん、私に犬のことを教えて。
 モモちゃんが元気になったら、色んなことをしてあげたい。今よりもっと気をつけてあげたい」
「うん。
 喜んで」
「ありがとう!」
 次へ。
 してもらうだけの自分、してもらえなかったら不平を言うだけの自分からは脱皮できたと思う。多分。
 次は、誰かのために何かをしてあげられる自分にならなければ。
 まずは、モモのために。
 その手助けをしてくれる祈里のために。
 ラブや美希、せつなのために。大事な友達のために。
 今は知らない誰かのために。
 そう思うだけで、胸がどきどきするのはなぜだろう。祈里が笑顔を忘れないのは、その理由を知っているからではないか、とあゆみは思った。

168名無しさん:2016/11/01(火) 00:18:07
>>167
久しぶりに来ましたね、makirayさんのあゆみちゃん話。
ブッキーとの絡みが凄くお得感ありました。
一歩一歩、世界を広げていく彼女の姿がとても愛おしいです。
素敵なお話、ありがとうございました!

169Mitchell&Carroll:2016/11/11(金) 23:21:24
ドキプリ第30話を元にしたお話。ランキングスレに載せるべきかどうかで迷いました。
3スレお借りします。


『華麗なるプリキュア』


マナ「――ありがとう、メラン。またね!」
メラン「待て!まだ帰さん!!」
六花「えっ!?」
メラン「某カレー店の人気メニュー・ベスト10を当てるまで、帰すわけにはいかん!!」
真琴「どうしてそうなるの!?」
ありす「ベスト10に入っていると思われるものを注文して食べきったところで、順位が発表されるのでしょうか?」
亜久里「しかも、一度も間違えずに全部当てるとパーフェクト達成、賞金100万円ゲットというわけですか!?」
メラン「その通りだ!ではさっそく始めるぞ!!」

六花「やっぱりここは定番から攻めていくのがいいわよね」
ありす「作戦は六花ちゃんに任せるのが良さそうですわね」
マナ「よろしくお願いします、六花曹長!」
六花「じゃあまず、ポークカレーから行くわよ!」
セバスチャン「――お待たせいたしました。ポークカレーです」
マナ「(パクパク)う〜ん♡カレーはやっぱりポークカレー♪」
真琴「……具、少なくない?」
亜久里「贅沢を言ってはいけませんわ!」
マナ「完しょーく!」
ありす「セバスチャン、順位のほうを……」
セバスチャン「はっ。こちらのメニュー、第……2位!」
マナ「ランクイーーン!!」
六花「2位か……(計算中)」
セバスチャン「定番の“ベース”カレー、堂々の2位でございます」
真琴「まずまずのすべり出しね」

六花「メニュー表を見たところ、ほかにも定番カレーがいっぱいあるようだから、片っ端からいってみようと思うの」
マナ「カレーだったらいくらでも入るよー♡」
亜久里「となると次は、ビーフカレーといったところでしょうか?」
六花「そうなるわね」
セバスチャン「――お待たせいたしました。ビーフカレーでございます」
真琴「(パクパク)美味しいわ。やっぱり具が少ない気がしないでもないけど」
セバスチャン「こちらのメニュー、第……5位!」
ありす「やはり定番は上位ですわね」
セバスチャン「ビーフの旨味が凝縮された深みとコクのあるカレーは、もうひとつの定番カレーでございます」

170Mitchell&Carroll:2016/11/11(金) 23:24:04
六花「チキンカレーを頼もうと思ってるんだけど、いくつか種類があるのよ」
ランス「おもいきってまとめてたのむでランス〜」
セバスチャン「――お待たせいたしました。チキンカツカレー、チキンにこみカレー、パリパリチキンカレー、フライドチキンカレーでございます」
マナ「あたし、1日にこんなに沢山の種類のカレー食べるの初めて!」
真琴「あたしもよ、マナ」
ありす「たまにはこんな日があってもいいのではないでしょうか」
セバスチャン「順位の発表に参らせていただきます。チキンカツカレー、第……7位!あっさりテイストのチキンの旨みをお楽しみください。続いてチキンにこみカレー、第……1位!!やわらかくボイルした鶏肉を丁寧にほぐして入れたマイルドなカレーでございます。続きましてパリパリチキンカレー、第……6位!衣はパリッ、中はジューシーな一枚肉を贅沢に使用、でございます。そしてフライドチキンカレー、第……10位!カリッと揚がった衣とジューシーなチキンがカレーとよく合いますでございます(?)」
シャルル「すごいシャル!全部ランクインしたシャル!」
ありす「お手柄ですわ、ランス」
マナ「お見事ー!!」
ランス「いや〜(照)でランス〜」

亜久里「わたくし、この納豆カレーというものに興味があるのですが……」
セバスチャン「――お待たせいたしました。納豆カレーでございます」
亜久里「(パクパク)おいしい!」
マナ「カレーと納豆って合うんだね〜。おいしいねぇ、アイちゃん!」
アイちゃん「ネバネバ、キュピ〜♡」
六花「お家でも真似して作ってみるっきゃないわね!」
セバスチャン「納豆カレーの順位、第……9位!納豆好きにはたまらない、ネバネバがヤミツキ、でございます」

六花「さて、残すは3位と4位と8位……」
マナ「六花隊長!チーズカレーはいかがでしょう!」
六花「そうね。そろそろ乳製品が恋しくなってきた頃だわ」
セバスチャン「――お待たせいたしました。チーズカレーでございます」
ラケル「さすがにそろそろお腹いっぱいになってきたケル……」
六花「頑張って、ラケル!あと3つ当てたら、帰れるのよ!」
ラケル「分かったケル!六花のために、ボク、頑張るケル!!」
セバスチャン「チーズカレーの順位、第……8位!カレーの風味をマイルドにしながら、濃厚さを増す“とろとろチーズ”をトッピング、でございます」
ラケル「やったケル!ボクの六花への想いが届いたケル!!」

マナ「そういえばあたし、よくカレーにロースカツをトッピングしてたな〜」
セバスチャン「――お待たせいたしました。こちらロースカツカレーになります」
マナ「また会えたね、豚肉さん!」
六花「気のせいか、さっきよりも美味しく感じるわ」
真琴「ホントだわ。なぜかしら」
ダビィ「会えない時間が、愛を育てるビィ」
セバスチャン「ロースカツカレー、第……4位!カレーのトッピングといえばロースカツ、定番中の定番でございます」

171Mitchell&Carroll:2016/11/11(金) 23:25:27
六花「いよいよ残すは2位だけよ!」
真琴「ながかったわ……」
ありす「みんなで手と手を取り合って、頑張りましたものね」
亜久里「みなさん、最後の最後まで、気を抜かずに走りきりますわよ!」
マナ「そろそろ野菜も摂らなくちゃいけないと思うんだ。といわけで、セバスチャンさん!野菜カレーお願いします!」
セバスチャン「――お待たせいたしました。野菜カレーになります」
マナ「わ〜お♡ニンジン・ジャガイモ・アスパラガスがいっぱ〜い♡♡」
亜久里「………」
真琴「どうしたの?亜久里ちゃん」
ありす「せっかくのカレーが冷めてしまいますわよ?」
六花「さすがにもう、お腹いっぱいなのかしら?」
亜久里「……え、ええ。ジャガイモとアスパラガスは何とかイケます。でも……」
マナ「よぉぉーし!亜久里ちゃんのニンジン、代わりにあたしが食べてあげよう!!」
亜久里「ありがとうございます、マナ!!」
マナ「――せぇーの」
全員「「完しょーーく!!」」
セバスチャン「こちらのやさいカレーの順位、第……3位!色鮮やかな定番のやさいカレーでございます」

メラン「見事だ、お前たち。そら、賞金の100万円だ。持って行くがよい」
マナ「やった!ねぇ六花、コレで何買う?ナニ買う?」
六花「決まってるでしょ――新しい眼鏡よ!!」


おしまい

172名無しさん:2016/11/12(土) 00:01:38
>>171
まさかのコラボでしたw

173名無しさん:2016/11/12(土) 00:19:14
うん。
これはプリキュアランキングじゃないねw
ここで正解だと思いまする。

174名無しさん:2016/11/14(月) 16:59:39
六花ちゃんはメランのせいで命より大事な眼鏡をなくしちゃったもんね(でもそれくらいありすがいればなんとかなりそうだけど・・・てゆうか四葉にとって100万円なんて絶対大した額じゃないよね・・・(苦笑))

175一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/04(日) 14:42:54
こんにちは。
三カ月も間が空いてしまいましたが、長編の続きを投下させて頂きます。
6レスで納まると思います。

176一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/04(日) 14:44:21
 薄暗い部屋の中で、ゲージに降り注ぐ不幸のしずくが陰鬱な音を響かせる。その前にはノーザの姿があって、壁に映し出された街の様子を満足げに眺めている。
 もっとも、このノーザは実体ではなくホログラム。映像が映像を鑑賞しているという何とも奇妙な光景を、ラブは不幸のゲージの隣に吊るされたまま、ぼんやりと見つめていた。

 さっきから、巨大な電波塔のナケワメーケが、まるで砂の城でも壊すように易々と建物を破壊する光景が続いている。その無造作な打撃の音、壁がボロリと崩れる音のひとつひとつが、重く鈍い痛みを伴ってラブの胸を打ちつける。

――やっぱりあなた、プリキュアにならなければ何の力も無いのね。

 昨日の少女の言葉がもう一度聞こえた気がした。少女の攻撃をただ避け続け、無様に倒れたあの時の冷たい床の感触が蘇って来る。

(そうだよね。変身も出来なくて、こんなところで捕まっちゃってる今のあたしに、出来ることなんか……)

 力なくうつむきかけるラブ。だが、その途中で不意に目を見開くと、今度はガバッと顔を上げて食い入るように映像を見つめた。

 場面が切り替わって、ナケワメーケの足元がアップになったのだ。そこに映し出されたのは、ラビリンスの住人たちだった。まだ被害の及んでいない街の奥へと逃げようとしているのか、お互いに目を合わせることもなく、全員がただ同じ方向に向かって一目散に走っている。
 疲れ切って表情のない人々の姿に、少し前のお料理教室の光景が重なった。楽しそうに輝いていた人々の笑顔が思い出されて、目元にじわりと涙が滲む。が、それを振り払うように、ラブはブンブンと乱暴に頭を振った。

(泣きたいのは、あたしじゃなくてみんなの方だよ。あたしに出来ることって、本当に何も無いの? こうしてみんなが苦しんでるのを、ただ見ていることしか出来ないの?)

 住人たちが我先に逃げて行った方に向かって、ナケワメーケがゆっくりと移動を開始する。歯を食いしばってその映像を睨んでから、ラブは気持ちを落ち着けるように目を閉じて、ふぅっと大きく息を吐いた。

 まるで暗闇に淡い光が灯るように、目の裏にぼんやりと浮かんできたのは、四つ葉町公園の景色だった。ラブが一番よく知っている、石造りのステージの上から見た眺めだ。
 豊かな緑を背景に、パンパン、と手を叩いて指導の声を飛ばすミユキ。その足元に置かれたダンシング・ポッド。そして隣に感じる息づかいは、美希、祈里、そしてせつな――大切な仲間たちのもの。
 次に浮かんできたのは、上空から見下ろす巨大な怪物の姿と、耳元で鳴る風の音。そして華麗に変身した頼もしい仲間たち――ベリー、パイン、パッションの姿。
 普段とは桁違いのスピードとパワーは、変身によって手に入れたもの。しかし完全にシンクロした四人の動きは、毎日のダンスレッスンと、プリキュアとしての経験を積み重ねて培った賜物だ。

(確かにプリキュアの力は、あたしの力じゃない。でも、ダンスもプリキュアも両方選んで、全力で頑張って来たのはあたしたちだよ。だからプリキュアになれなくても、凄い力は出せなくても、頑張った分はきっと、あたしの力にもなっているはず)

 パッと目を開けて、今度は決意を込めた眼差しで映像を見つめる。姿は見えないが、このナケワメーケを操っている――そしてこの後、人々を不幸に陥れる通告をするはずの少女が、このどこかに居るはずだ。

(出来る出来ないじゃない。やらなきゃいけないことがあるって、わかってるじゃない。あの子を止めなきゃ。そのためにはまず――ここを出る!)

 映像を見据えたまま、ラブがもう一度歯を食いしばる。でも今度は悔しさを堪えるためではなく、渾身の力を出すためだ。
 まずは両腕にグッと力を入れて、捕えられている腕を何とか外そうと試みる。だが、ただの少女であるラブの力では、蔦はピクリとも動かない。
 今度は腕だけでなく足もバタバタさせ、全身を滅茶苦茶に動かしてみる。それでも蔦の拘束は緩まなかったが、吊るされているラブの身体が小刻みに揺れた。
 ラブは自分の身体を見下ろし、次に周囲を見回して、うん、と小さく頷いた。思い起こすのは心に刻まれたミユキの言葉と、身体に刻まれたダンスの動きだ。

――ある方向に力が働けば、必ずその反対方向にも力が働くの。それが“反動”よ。右に行きたければ、まず左に重心を移す。上に大きく跳びたければ、まずは低く屈みこむ。そうやって――

(……そうやって力を蓄えれば、より大きな力が生まれる!)

 ラブが再び全力で身体を動かして、蔦を揺らそうとする。その顔は見る見る真っ赤になり、額には汗が浮かんできた。それでもラブは、ハァハァと荒い息を吐きながら、不自由な身体を少しずつ、必死で動かし続ける。

177一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/04(日) 14:44:55
 やがて、ラブの動きは少しずつリズミカルになり、それにつれて蔦が少しずつ大きく振れ始めた。その揺れが目に見えて大きくなった時、ラブはさらに力を振り絞って、思いっ切り身体を反らした。
 ぐん、と蔦が大きく揺れる。その揺れを振り子のように使って、ラブは隣に立つ不幸のゲージを、ゴン、としたたかに蹴りつけた。

 ノーザが恐ろしい形相でラブを振り返る。だが一度勢いがついたラブの身体は止まらない。
 もう一度、さらにもう一度、ゴン、ゴン、と響く鈍い音。それを聞いて、ノーザが慌てたようにさっと右手を挙げる。その途端、生きたロープはするすると解け、ラブを床に下ろして開放した。
 思わずその場にへたり込みそうになるラブ。だがそれを必死で堪えて震える足で立ち上がり、鋭い眼差しをノーザに向ける。

「あら、ごめんなさい。苦しかったのならそう言ってくれれば、すぐに下ろしてあげたのに」
 ノーザがさっきの狼狽えた素振りを取り繕うように、妖艶な笑みを浮かべてみせる。それでもラブの表情が変わらないのを見て、ノーザは口の端を斜めに上げると、いつになく優し気な声で言った。
「解放してあげたついでに、この部屋からも出してあげるわ。上の部屋にでも行って、少し休憩なさい」
「それより建物の外に……そこに映っている場所に、帰してくれないかな」
 粗い呼吸を抑えて映像を指差すラブに、ノーザが余裕の笑みを浮かべたままでかぶりを振る。
「それはダメねぇ。でもこの建物の中であれば、どこに居ても構わないわよ」
 余裕の表情でラブを見下ろすノーザの映像。その顔をひたと見つめながら、ラブは唾を飲み込もうとして、口の中がカラカラに乾いていることに気付いた。

(せつな。美希たん。ブッキー。ミユキさん。お願い……あたしに力を貸して!)

 もう一度、一瞬だけ祈るように目を閉じてから、ラブは静かに目を開けて、ノーザに向かって声を張り上げた。

「本当にいいの? この建物の中に居たら、あたし、何をするか分からないよ? コントロール・ルームの場所も分かっちゃったし、またゲージを壊しちゃうかもしれないけど」
「あら。あなたにそんなこと、出来るのかしら」
「……試して、みる?」
 そう言いながら、ラブはノーザから片時も目を離さずに、ゆっくりと腰のリンクルン・ケースに手を置いて見せた。

 今度は苛立たし気な表情を隠そうともせず、ノーザがラブを睨み付ける。
「ふん、せっかく優しくしてあげたのに、つけ上がるとはいい度胸ね。ならば元通り、大人しく縛られているがいい」
 ノーザの声と同時に、鉢植えから再び蔦が放たれる。だが一瞬早く、ラブはパッと身を翻した。
 横っ跳びで不幸のゲージの後ろに身を隠す。鋭い鞭のようにラブに襲い掛かった蔦は、ゲージに届く直前に、まるで慌てて急ブレーキをかけたかのように失速した。
 忌々し気に歯噛みしたノーザが、指をパチリと鳴らす。すると蔦が再び方向転換し、今度は部屋のドア目がけて直進すると、バタンと大きく押し開けた。

「今はお前に構っているヒマは無いの。さあ、この部屋から出て行きなさい」
「嫌だよ。出て行ってほしいのなら、外に出してくれなくちゃ」
「調子に乗るのもいい加減にすることね」

 再び蔦が、今度はさっきとは違う枝から放たれる。続いてもう一本、その次は同時に二本、太さを変え、速さを変え、本数を変え、次第に数と力を増して襲ってくる緑色の鞭。だが、ラブはゲージの後ろ半面を盾に使い、サイドステップを繰り返して、何とかそれを凌ぎ続ける。

 ラブの真剣な眼差しは、蔦を放つ小さな鉢植えにじっと注がれていた。最初はただスピードにばかり翻弄されたが、何度か避けているうちに、その動きに規則性があることに気付いたのだ。
 あの最終決戦で、蔦を自在に操って攻撃してきたノーザの動き――あの時によく似た、でももっと単純で分かりやすい予備動作が、必ずあるということに。

(蔦が飛び出す直前に、枝がグッとしなる……。これもミユキさんが言ってた“反動”だよね。それをちゃんと見ていれば、何とか避けられるはず!)

 頼みは盾にしている“不幸のゲージ”。四つ葉町にあったものより小さなこのゲージは、大きさだけでなく強度の面でも劣るのか、蔦はゲージに触れることさえ避けるような動きをしている。
 ラブにとっては、それが付け目だった。自分と蔦との間に常にゲージが挟まるよう小まめに動きながら、蔦を避け続け、帰してほしいとノーザに訴え続ける。

 ゲージを挟んでの攻防が、どれくらい続いただろう。いくら動きを予測できると言っても、変身もしていないラブの体力には限界がある。もうとっくに息が上がり、膝もがくがくと震えるようになった頃。
 完全にゲージの方を向いて、苛立たし気にラブを睨んでいたノーザが、不意にハッとした顔をして壁の方を振り返った。ラブも思わず鉢植えから目を離して、映像に注目する。

178一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/04(日) 14:45:47
「愚かな者たちよ。これは、メビウス様からお前たちへの制裁だ!」

 映像の中から、威圧感を伴った声が響く。スピーカーのナケワメーケに増幅されたその声の主は、怪物の肩の上で腕を組み、仁王立ちしているあの少女だった。
 少女による不幸の通告が、ついにラビリンスの住人たちにもたらされたのだ。

 ずっと渋面を作っていたノーザが、ニヤリとほくそ笑む。
「フフフ……。これでラビリンスの国民たちは不幸に沈む。残念だったわねぇ」
「うわぁっ!」
 映像をもっとよく見ようと、ついふらふらと前に出たラブが、初めて蔦の鞭を喰らって弾き飛ばされる。何とかゲージの陰に転がり込むと、ラブは自分に言い聞かせるように、必死で声を絞り出した。
「まだ……諦めないよ。不幸は……不幸は必ず、幸せに、生まれ……変われるんだからっ!」
「ええい、まだそんな戯言を!」

 今度は何本も一度に襲い掛かる、蔦の攻撃。ラブは何とかゲージの陰を移動して避けたが、その動きはさっきと比べて明らかに精彩を欠いていた。
 枝の動きを注視しなくてはいけないのに、どうしても気になって、その視線が時折映像の方へちらちらと流れるのを止められない。おまけにさっき鞭の攻撃を受けた左腕が、ズキズキと痛み出した。そうでなくても身体はとっくに限界を超えて、悲鳴を上げているのだ。ゲージのお蔭でそれ以降は大きな打撃は免れているものの、次第に蔦の先がラブの身体に当たり始める。

 そしてついに、ラブがゲージを背にしてよろよろと崩れ落ちる。ノーザの含み笑いと共に、蔦がゆっくりと遠巻きに伸びてゲージの後ろを窺う。そして何とか立ち上がろうともがくラブの身体を、容赦なく絡め取った。
 だが次の瞬間、蔦の動きが止まった。映像の中から突然響いた、パリン、という乾いた音。それを聞いて、ノーザが顔色を変えて映像の方に向き直ったのだ。

 そこに映っていたのは、あろうことかナケワメーケのダイヤを拳で打ち砕くウエスターと、それを驚愕の表情で見つめる少女の姿だった。
 少し遅れて地面に倒れる、元に戻った街頭スピーカー。しばしの間呆然としてから、ウエスターに挑みかかる少女。そんな少女をいとも簡単に倒して、その身体を肩に担ぎ上げるウエスター……。

「おのれ……これからが不幸集めの本番という時に! だからあれほど、彼には気をつけろと……」
 悔しそうにそう呟いてから、ノーザはさっと右手を前に突き出した。
「こうなっては仕方がない」
 それを合図に、動きを止めていた蔦がするすると動き出す。そして、もう抵抗も出来ずに荒い息を吐いているラブを吊り上げると、ノーザのすぐ目の前の中空にかざした。



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第8話:全力の想い )



 ナケワメーケが倒された現場から一番近い警察組織の建物に、一台の車が横付けされた。バラバラと車を降りる警官たちの最後にウエスターが降り立って、気を失った少女を建物の中に運び込み、床に下ろす。
 その瞬間、少女の表情が動き、眉間にわずかに皺が寄った。
「気が付いたか。起こす手間が省けたな」
 ウエスターが無表情でそう言いながら少女を見下ろす。が、部屋の外がにわかに騒がしくなったのに気付いて、今度は彼の方が眉間に皺を寄せた。

 少女をそこに寝かせたまま、部屋の入口の方へ取って返す。すると、開けっ放しだったドアから小さな人影が飛び込んだ。
「イース! ここは俺に任せろと言っただろう!」
 人影は――せつなはウエスターの呼びかけには応えず、部屋の中に目を走らせた。そして少女の姿を認めると同時に、その身体から、フッと力を抜いた。

 ウエスターの眉間の皺が、わずかに深くなる。それは些細だが、確かな違和感だった。ここで筋肉を弛緩させたのは、次の瞬間に力を爆発させるため。飛び出す“反動”を得るための予備動作としか思えない。
 普段の優しい眼差しからは考えられないような、感情の見えない赤い瞳に危機感を覚え、ウエスターはせつなを拘束すべく動き出す。だが、せつなは目にも留まらぬ速さでその腕の下をかいくぐると、仰向けに寝かされている少女に覆い被さるようにして、その顔のすぐ横の床に、ダン、と掌を叩きつけた。

「ラブをどこへやったの!? 答えて!!」
 至近距離から睨み付けるせつなの顔を、少女が驚愕の表情で見つめる。戦闘服を身に着けている自分が、さっき全く反応できなかった男の動きを、彼女は生身で見切って避けてみせたのだ。
 だが、それも一瞬のこと。すぐに表情を取り繕うと、少女は青白い顔に不敵な笑みを浮かべた。
 せつなの掌の下で床がギュッと鈍い音を立て、赤い瞳に怒気を超えた殺気が浮かぶ。今度こそ割って入ろうとするウエスター。が、その足は異変を感じてぴたりと止まった。

179一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/04(日) 14:46:26
 突然、二人の横手の壁の真ん中辺りがぐにゃりと歪み、まるで木の洞のような時空の口が開いたのだ。そこから浮かび上がるように現れた人物を見て、せつなの目が大きく見開かれた。

「ラブ……!」

 ラブは前のめりになった格好で、緑色の蔦のようなもので拘束されていた。だが、それがすぐに解けて、部屋の中へと放り出される。
 せつなは飛び上がるようにしてラブを受け止めると、夢中でその顔を覗き込んだ。
 ぐったりと力の抜けた身体。力なく閉じられた目蓋――。

「ラブ! しっかりして、ラブ!」
 耳に煩いような自分自身の心臓の音と、締め付けられるような胸苦しさに耐えて、せつなが必死で呼びかける。すると、ラブの睫毛が微かに震え、その目がゆっくりと開かれた。

「せつな……」
「……良かった……!」
 ラブを抱き締めるせつなの目から涙が溢れて、ぽろぽろと零れる。

 二人の姿を安堵の表情で見つめるウエスター。しかし一瞬の後、彼は慌てて壁に向かって突進した。
 だが、ほんの少し遅かった。
 せつなとウエスターがラブに気を取られている隙に、蔦がするすると伸びて、少女の身体を絡め取ったのだ。ウエスターの目の前で、少女が時空のトンネルへと連れ去られる。そして彼の手が壁に届いたときには、時空の口は消え失せていて、後には何も残ってはいなかった。



   ☆



 淡いグレーの壁と天井で仕切られた、何の変哲もない小さな部屋。仮眠室として使われているという警察組織の一室で、せつなはベッドの隣で小さな椅子に座り、ラブの寝顔をじっと見つめていた。

 ナケワメーケを操る少女を止めようとして、自分の意志で彼女に付いて行ったこと。そのアジトが、せつなや彼女が育った軍事養成施設・E棟であったこと。その地下にあった不幸のゲージと、映像として現れたノーザの存在――それだけを何とか話し終えてから、ラブは気絶するように眠ってしまったのだ。
 ウエスターはラブの話を聞き終えると、サウラーのところへ相談に行くと言って、厳しい顔つきで出て行った。

 ラブの身体には、締め付けられたような跡や、何かで打たれたような痣が無数にあった。

――何とかここに戻って、あの子を止めなきゃ、って思ったんだけど……。

 うつむき加減でそう呟いたラブの顔を思い出す。
 今は変身することも出来ないというのに、その想いだけで、映像とはいえあのノーザと渡り合ったのだろうか。

「全く……。無茶し過ぎよ」
 眠っているラブの姿がやけに小さく見えて、思わずその顔に指を伸ばして、目の上に掛かった髪をそっと払う。その途端、ラブが小さく口を開けて、弱々しく言葉を吐き出した。

「せつなぁ……」

(えっ?)

 思わずドキリと手を止めて、もう一度ラブの顔を見つめる。
 その目は閉じられたままだったが、口元がムニャムニャと柔らかく動いて、再び途切れ途切れに言葉を紡いだ。

「大丈夫だよ……せつな……」

 ぽかんとするせつなの目の前で、ラブが再びすうすうと寝息を立て始める。

(ひょっとして……寝言?)

 不意に可笑しさがこみ上げて来て、せつなは口に手を当てて、クスクスと声を立てずに笑った。

(私がこれだけラブのことを心配して、居ても立ってもいられなかったっていうのに、当のラブは、夢の中でまで私の心配をしてくれてるっていうの……)

 口元に当てた手の甲に、ポツリとあたたかな雫が落ちる。それが自分の涙だと気が付くのに、少し時間がかかった。
 もう一度手を伸ばして、ラブの布団を掛け直す。前に一度、あゆみにそうしてもらったことを思い出して、布団の上からあやすように、トントン、と優しく叩いた。

(ラブと一緒に居るときの涙は、どうしてこんなに、あたたかいのかしら……)

 心の中にぽかりと浮かんだ小さな疑問。その答えが見つからないままに、せつなはラブの寝顔を愛おし気に見つめながら、そっと頬の涙をぬぐった。



   ☆

180一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/04(日) 14:47:08
 目蓋の裏に感じる朝の光。そして頬を滑る、柔らかなシーツの肌触り――。
 ぼんやりとそんなことを感じて……次の瞬間、せつなは跳ね上がるようにして身体を起こした。
 いつの間にか、椅子に座ったままベッドに突っ伏して寝ていたらしい。こんなところで朝まで眠ってしまうなんて、初めての経験だった。
 考えてみれば、ラブが心配でこの三日間はほとんど眠っていなかったから、安心して一気に疲れが出たのかもしれない。

 ベッドに目をやったせつなが、今度は弾かれたように立ち上がる。そこに寝ているはずのラブの姿は、どこにも無かった。

(まさか、ラブったらまた一人でどこかへ……!?)

 咄嗟にそう思った時、どこかから聞き慣れた明るい声が聞こえて来て、せつなは慌てて部屋から走り出た。

 声を頼りに進んで行くと、小さなキッチンに辿り着いた。湯気の立つ大きな鍋をかき混ぜている、ラブの後ろ姿が見える。その隣には一人の少年が立っていて、せつなに気付き、照れ臭そうな顔でぺこりとお辞儀をした。その様子を見て、ラブも後ろを振り返る。
「あ、せつな、おはよう。ちょうど良かった、ちょっと手伝って」
「ラブったら。身体の方はもう大丈夫なの?」
「へーきへーき!」
 ラブがそう言いながら、左手でガッツポーズを作ろうとして、痛てて……と苦笑いをする。ラブの左腕に特に大きな痣があったことを思い出して、せつなは小さく溜息をつく。そしてラブの隣に歩み寄ると、鍋の中を覗き込んだ。

 ふわりと懐かしい香りが、せつなの鼻をくすぐった。たっぷりの汁の中で、細かく切られた具材とお米が、コトコトと音を立てている。
「これ、“おじや”よね? 前に、お母さんに作ってもらったことがあるわ」
「そ。これならみんなで一緒に、あたたかいうちに食べられるでしょ?」
「え? みんな、って……」
 首を傾げたせつなが、あ、と小さく声を上げて、そっと隣の部屋を窺う。道場のようなその広い部屋には、せつなの予想以上の人数が集まっていた。ナケワメーケの攻撃を逃れたこの建物もまた、人々の避難所になっていたのだ。

「ここは警察官が寝泊まりも出来る施設だから、食糧も置いてあるって、この子が教えてくれたんだ」
 ラブがそう言いながら、鍋の中のものを小皿に取って、それを少年に差し出す。怪訝そうな顔で受け取った少年は、促されるままにそれを口にして、驚いたように目を丸くした。

「こんな料理、初めてだ……。いろんなものが入っているんですね」
 少年が、ぼそぼそとした調子で呟くように言う。
「うん。本当は残り物で作る料理なんだけど、これなら食材を無駄なく使えるから、食糧が長持ちするんだ。それに、あたたかいものを食べて身体があたたまると、元気が湧いて来るからね」
「元気……ですか」
「まぁこれは、お母さんの受け売りだけど」
 一層低い声になった少年に、ラブが小さく微笑む。そして、「でーきたっ!」とひときわ明るい声で叫ぶと、鍋を持ち上げようとして、痛てて……と再び顔をしかめた。

「あ……俺、運びます」
「ひとりで大丈夫? 結構、重いよ?」
「平気です。力には自信がありますから」
 少年がそう言って、ひょい、と鍋を持ち上げる。せつなとラブが食器を持ち、三人は人々が避難している隣の部屋に向かった。

「みんな、お待たせ〜! 朝ご飯、持って来たよ〜」
 ラブが明るい声で呼びかけても、応える者は誰も居なかった。全員が思い思いの場所に座り込み、暗い目をして床の一点を見つめている。
 メビウス様が復活する。この襲撃は、メビウス様による制裁である――少女による衝撃の通告を受けて、まだ半日しか経っていない。最初はパニック状態に陥った人々は、今は絶望と虚無感に支配され、全てを諦めて来たるべき時を待っているように、せつなの目には映った。

 グッと拳を握り締め、せつながラブの隣から一歩前に進み出る。何か言おうとして口を開き、言うべき言葉が見つからなくて立ちすくんだ、その時。
 ラブがおもむろに鍋の蓋を開けると、それを椀によそって、近くにうずくまっている小さな女の子の傍に座り込んだ。

181一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/04(日) 14:47:43
「はい。熱いから、一緒に食べようね」
 最初の一匙をすくってフーフーと息を吹きかけてから、ラブがそれを女の子の口元に持っていく。
 お腹が空いていたのだろう。戸惑った顔をしながらも素直に口を開けた女の子は、すぐに目を輝かせて叫んだ。
「美味しい!」

 すぐに自分でスプーンを握って食べ始めた女の子を横目で見ながら、周囲の子供たちがゴクリと喉を鳴らす。その目の前に、せつながタイミング良くお椀とスプーンを差し出した。
 ほどなくして、子供たちの食べっぷりにつられるように、大人たちもスプーンを手にする。しばらくすると、全員が夢中で椀の中身を食べ始めた。
 やがて、部屋の中に少しずつざわめきが――人の声が聞こえ始める。子供たちの顔には笑みが見え始め、大人たちの表情も、さっきまでよりも明らかに穏やかなものになっていた。

「ありがとう、せつな。さ、あたしたちも食べよ」
 驚いた顔で人々を見回すせつなに、ラブがおじやの入った椀を差し出した。鍋を運び、配膳を手伝ってくれた少年は、二人から少し離れたところに座って、既に猛然と椀の中身をかき込んでいる。

 ラブは、自分もスプーンを手に取りながら、せつなだけに聞こえるような、小さな声で言った。
「せつな……心配かけて、ごめんなさい」
「……」
 せつなが無言でラブの背中に手をやると、ポンポン、と二回、優しく叩く。その仕草に、ちらりと上目づかいでせつなの顔に目をやると、ラブはフッと小さく顔をほころばせた。

「本当はあの子を止めたかったけど、出来なかった……。だから今はほんの少しでも、みんなに元気になってもらいたいんだ」
「ほんの少しじゃないわ。まだ“元気”とは言い切れないかもしれないけど、大きな変化だと思う」
「そうかな……。もしそうなら、嬉しいな」
 ラブはそう言って、食べ始めたばかりのおじやの椀を、大切そうに両手で包んだ。

「ねえ、せつな。あたし、決めたんだ」
 相変わらず密やかな、でもさっきより明るい声で、ラブが語りかける。
「“どうせ出来っこない”なんて思わないで、自分の力を信じようって。プリキュアの力に比べれば小さな力かもしれないけど、その力で、やらなきゃいけないことを、あたしが本当にやりたいことを、全力でやろうって。だからあたし、いつか、あの子とも……」
 ラブがそう言いかけた時、建物が突然、ズシン、と揺れた。



「様子を見てきますから、皆さんは建物の外に出ないでください!」
 せつながテキパキと人々に指示を出してから、既に廊下を走り始めたラブの後を追う。玄関から外に飛び出すと、二人の耳に、ナケワメーケとは明らかに違う怪物の声が飛び込んで来た。

「……まさか、これって!」
 せつなが驚きの声を上げて、呻き声が聞こえた方角へ向かって走り出す。そして、そこに立っている化け物の姿に、やっぱり……と唸るように呟いた。

 顔の中央に貼り付いている、涙を流す一つ目のマーク。言葉を発せず、ただ苦し気な呻き声を上げるだけの哀しきモンスター。
 その巨大な姿の後ろに見えるビルの上に小さな人影を見つけて、せつなが今度こそ絶句する。
 紙のように白い顔に苦悶の表情を浮かべて立っているのは、あの少女。その腕に、鋭い棘を持つ暗紫色の茨が巻き付いているのが、せつなの目にはっきりと映った。

〜終〜

182一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/04(日) 14:49:08
以上です。ありがとうございました!
次はもう少し早く更新できるように頑張ります。
(オオカミなんちゃら、って言わないでください……(汗))

183名無しさん:2016/12/08(木) 00:48:44
もしも某芸人風にプリキュアにあだ名を付けるとしたら(気を悪くしたらすみません)

なぎさ→足クサ馬鹿トンカチ
ほのか→おしゃべりクソ女
ひかり→たこ焼きマシーン
咲→黒コゲ筋肉
舞→幽霊部員
満→暴走族
薫→おで子
のぞみ→くそ馬鹿リア充
りん→恋愛下手
うらら→かぼちゃぱんつ
こまち→エロ羊羹
かれん→金持ちクソババア
くるみ→母乳垂れ流し変態クソ女
ラブ→熱血馬鹿野郎
美希→自意識過剰
祈里→もののけ姫
せつな→鉄仮面
つぼみ→高木○保
えりか→ブレーキ故障中
いつき→女装癖
ゆり→栄養不足
響→ケーキ泥棒
奏→クソ女子力
エレン→バカ黒猫
アコ→上げ底
みゆき→クソバカ大凶女
あかね→国際結婚
やよい→妖怪しょんべんちびり
なお→ノーブラ
れいか→猪木イズム
あゆみ→不登校
マナ→ヤリチ○女
六花→金魚のフン
ありす→くしゃぽいクソ金持ち
真琴→進路相談
亜久里→真っ赤なオバサン
めぐみ→偏差値低め
ひめ→らきたま
ゆうこ→飯炊き女
いおな→守銭奴
はるか→牝狸
みなみ→二代目金持ちクソババア
きらら→らんこの親友
トワ→洗濯女
みらい→テレ朝アニバーサリー
リコ→緊張ガチガチ魔法ヘタクソ女
ことは→年齢不詳
モフルン→糖尿病

個人的には響の「ケーキ泥棒」が御気に入り。

184名無しさん:2016/12/11(日) 12:54:32
えりかとのぞみはぴったりだ!
舞、満、ゆりさん、亜久里ちゃんのは特にツボに入りました〜(レジーナも気になりますね)

185名無しさん:2016/12/15(木) 23:43:50
>>184
レジーナは候補がいっぱいあって……「パツキンのチャンネー」「アイカツ」「キッカ」「レジーナ軍曹であります」

186一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/18(日) 17:58:31
こんばんは。
長編の続きではありませんが、投下に参りました。
出張所(Twitter)のフォロワーさんが500人を超えたので、そのお礼のSSです。
前回の競作の時に掲示板に書き込んで頂いたSSネタを、私も使わせて頂きました。

フレッシュ・美希せつです。第33話(タコ回)の、その夜と次の日のお話。
タイトルは、「Thank you, my follower 〜美希のもうひとつのこわいもの〜」
5レス使わせて頂きます。

187一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/18(日) 17:59:19
 思えばあの日のアタシの運勢は、最悪だったに違いない。
 昼間は十四年の人生で最も怖いものと戦う羽目になり、夜は夜で、あんな目に遭ってしまったんだから。

 それでも夕食を終えて、お気に入りのアロマオイルを垂らした湯船に浸かっていた時は、なかなかに幸せな気分だったのだ。
 思いがけず、せつなと初めて二人きりで買い物に出かけた今日。会話は弾まないわ、洋服は決まらないわ、おまけに……アレに遭遇するわで散々だったけど、今までよりずっとせつなと心を開いて話ができたし、昨日より、せつなに少し近づけた気がした。
 湯船の中で、今日の出来事をあれこれ振り返って、思い出し笑いがこみ上げてきたくらい。こんな風にせつなの顔を思い浮かべたことなんて、今まで無かったと思う。
 笑顔でお湯の中から立ち上がった途端、せつなに言おうと思っていて言いそびれたことがあるのを思い出した。

(明日、言うの忘れないようにしようっと)

 そう思いながら、鼻歌交じりでお風呂から上がる。そしてバスタオルを巻いただけの姿で、いつものように体重計に乗って――そこでアタシは凍り付いた。
 いったん体重計から降り、数字がゼロになっているのを確認してもう一度乗ってみる。
 さらにもう一度……そしてムキになってもう一度。
 でも何度測り直しても、体重計は同じ数字をアタシに突き付けてくる。昨日測った時より明らかに大きな、あり得ない数字を。

(なんで? なんで? たった一日で五キロも増えるって、どういうワケ!?)

 気を取り直して、今日一日の行動を、さっきとは全く別の視点で振り返ってみる。
 朝のジョギングは、いつも通り。朝食も昼食も、量も内容もいつもと変わらない。むしろカオルちゃんのドーナツを食べなかった分、いつもよりカロリーは控えめなくらいだ。体調も、特に変わったところは無い……。
 体重が増える原因なんて、どこをどう探したって見つからない。と、言うことは。

(この体重計が、壊れてるってことよね)

「そうよね、それしか考えられないわよ」
 思わず声に出してそう呟いたまさにその時、廊下に通じるドアがバタンと開いて、アタシはビクッと肩をすくめた。
「あらぁ、ごめんなさい、美希ちゃん。少し早く来すぎちゃったかしら」
 パジャマを抱えたママが、いつもののんびりとした口調でそう言いながら脱衣場に入って来た。

「どうしたの? 何だか難しい顔しちゃって」
「え? う……ううん。それより、ママこそどうしたの?」
「どうしたの、って……お風呂に入りたいんだけど」
「ああ、お風呂、ね。アハハ。さぁ、どうぞどうぞ」
「変な美希ちゃん」

 そう言って、ママがおもむろに服を脱ぎ始める。そして下着姿になったところで、何と問題の体重計に足を乗せた。
「ちょ、ちょっとママ! 体重を測るなら、お風呂の後じゃないの?」
「普段ならそうなんだけど」
 つい勢い込んでしまったアタシの顔を、一瞬あっけにとられたように見つめてから、ママがキラリと目を輝かせる。
「さっき、テレビで“ダイエットに効く入浴法”っていうのをやっててね。早速試してみようと思ってぇ。だからまずは、現状チェックよ」
「あ……そう。で、どうだった?」
「どうって、それをこれから試すんじゃないの。やっぱり何だか変よ? 美希ちゃん」
「アハハ……。ちょっと、お風呂でのぼせちゃったかな」

 我ながら苦しい言い訳をしながら、ママを観察する。
 ママは体重計の数字にちらりと目をやっただけで、あとはさっさと下着を脱いで、そのままお風呂場に入っていった。その後ろ姿を見届けてから、アタシは体重計をはったと睨み付ける。

(あの様子だと、別におかしな体重じゃなかったみたいね。ってことは……これ、壊れてないってこと!?)

 お風呂上りだというのに、さーっと血の気が引くのを感じた。もうこうなったら、トコトン確かめないと寝るに寝られない。
 そそくさとパジャマを着て、超特急で化粧水だけ付けてから、小走りでダイニングへと向かう。そこに、今日お米屋さんが届けてくれたばかりの、封の開いていないお米の袋があったのを思い出したからだ。
 五キロの米袋を、半ばヤケになってお風呂場へと運ぶ。もしあの数字が本当だとすると、この重さの分だけ昨日より重くなってるってこと――そう思ったら、何だか目の前が霞んだ。

188一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/18(日) 17:59:51
 アタシは仮にもモデルだ。そして将来の夢は、海を越えて世界を駆け巡るトップモデルになること。
 もし万が一、体重計が壊れていなかったりしたら……ここまで自己管理が出来ていないモデルなんて、あり得ない。
 って言うかそもそも、一日に五キロも太……ふっ、増えるなんて、そんなことあるわけないじゃない!

 ようやく脱衣場に辿り着いたと思ったら、慌てたせいか、米袋をお風呂場のドアに思い切りぶつけてしまった。ガコンガコン、と大きな音がして、ガラス戸が震える。
「……美希ちゃん? どうかしたの?」
「な、何でもないわ!」
 しまった、と思いながら、お風呂場の中から響くママの声に、大声で答える。
 さぁ、急がなきゃ。ママが不審に思ってお風呂場から顔を出す前に。

(アタシ、何やってるんだろう……)

 目頭が熱くなるのを何とか抑えて、祈るような気持ちで体重計の上に米袋を置く。だが。
 アタシの期待をものの見事に裏切って、数字はぴたりと五キログラムを表示して止まった。



   ☆



 翌朝、アタシはまさにどん底の気分で目を覚ました。いや、そもそも一晩中ハテナマークが頭の中をぐるぐると回っていて、少しでも眠ったのかどうか、自分でもよく分からない。
 体重計は壊れていないらしい。でもアタシ自身にはまるで心当たりがない。なのにどうしてこんなことになっちゃったんだろう。
 何だかヤケに黄色っぽく見える太陽をちらりと眺めてから、トレーニングウェアに着替える。
 ちっともワケがわからないけど、まずはやれることからしっかりやろう、と決めた。もしこの最悪の事態が事実なら、悩むより先に、さっさと元のアタシに戻らなくちゃいけない。

 朝の街を走り出すと、寝不足のせいか――それとも別の理由なのか、何となく身体が重い気がして、気分がさらに重くなった。それを振り払おうとして、いつもよりスピードを上げる。
 息が切れるのも構わず走っていたら、向こうから大きな二匹の犬に引きずられるようにして、ブッキーがやって来た。こちらもかなり息を切らしている。
 いつもなら、立ち止まって言葉を交わしたり、一緒に公園まで走って休憩したりするんだけど、今日のアタシにそんな余裕はない。どうやらブッキーも、二匹を制御するだけで精一杯みたい。それでお互い、目と目で挨拶するだけで別れた。それにしてもブッキー、今日は随分張り切っているんだなぁって思ったら、何だか自然に顔が下を向いた。



 その日は午前中、ミユキさんのダンスレッスンがあった。家に帰ってシャワーを浴びてから、体重計……は、ちょっと睨んだだけで、急いで支度して家を飛び出す。
 レッスンはいつもの四つ葉町公園じゃなくて、ミユキさんがよく使っているダンススタジオで行われるということで、四人で待ち合わせて公園近くのビルに向かった。

「スタジオって、最上階だったよね。何階だっけ?」
「えっと、確か十階じゃなかったかしら」
 ラブとブッキーがそう言い合いながら、エレベーターの列に並ぶ。
 ここは、本屋さんや歯医者さん、スポーツジムや英会話スクールなどが入った総合ビルで、朝から多くの人で賑わっている。そのくせ到着したエレベーターは小さめで、三人の後に続いてアタシが乗り込もうとした時には、小さな箱はもう満員に近かった。

 ふと、普段ならまず考えないような、嫌な想像が頭をよぎった。ここでアタシが乗り込んだ瞬間、もし重量オーバーのブザーが鳴ったりしたら……そう考えてしまったのだ。
 そんなこと、普段なら笑って済ませられることだ。別に、アタシ一人のせいで重量オーバーになるワケじゃないんだし。だけど今は――今だけは、あのブザーの音は絶対に聞きたくない!

「え、えーっと……アタシ、トレーニングを兼ねて階段で行くわ」
「え〜! 美希たん、十階だよぉ?」
 驚くラブの声を背中に聞きながら、くるりと踵を返す。エレベーターの隣にある金属製の扉を開けると、無機質なグレーの階段がアタシを出迎えた。
 半ばヤケになって、階段を勢いよく駆け上がる。だがちょっとペースを上げ過ぎたのか、五階に差し掛かった辺りで息が上がって来た。そして七、八階まで上がった頃には、息が切れて足が上がらなくなってきた。仕方なく、踊り場で立ち止まって、一回、二回と深呼吸する。と、その時。
「やっと追いついたわ」
 少し低めの、でもいつもより少し上気した声が、すぐ下から聞こえてきた。

189一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/18(日) 18:00:23
「せつな! どうして?」
「別に。私もちょっと、身体を温めたかっただけ」
 だからって、エレベーターを降りてわざわざ追いかけてきたのだろうか。アタシと違って息のひとつも切らしていないのが、ちょっとばかり憎たらしくなる。
 せつなは軽やかにアタシの隣までやって来ると、いつも通りの生真面目な様子で言葉を繋いだ。

「あと少しだし、ここからは歩いて行かない?」
「ア、アタシは……もう少し頑張るわ」
「これからレッスンだし、あまり無理しない方が……」
「いいから放っといてよ!」
 心配そうなせつなの声と表情に、思わずカッとなって怒鳴ってしまった。その声が、ガランとした空間に思いのほか大きく響いてドキリとする。同時に胸の中に、苦いものが広がった。

 アタシったら、やってることが昨日と同じだ。せつなはただ、アタシのことが心配で追いかけて来てくれただけ。幼馴染で付き合いの長いラブやブッキーなら、もう少し遠くから見守ってくれていたかもしれないけど、せつなは――せつなという人は、ただ不器用なくらい真っ直ぐで――。

(ううん。不器用だなんて、アタシも人のこと言えないか。こういう時どうしたらいいか、全然わかんないんだもの)

「……ごめん」
「ううん。でも、一体どしたの?」
 うなだれたアタシにかぶりを振って、せつながアタシの顔を覗き込む。そのほっそりとした少し冷たい手が、いつの間にか握りしめていたアタシの手にそっと触れた。
 何だかフッと肩の力が抜ける。せつなになら打ち明けてもいいかな……ふとそう思えて、今度はアタシの方からせつなと向かい合う。
「実はね、アタシ……」
 そう口にして、何て説明しようかと次の言葉を探す。が、次に口を開いたのはアタシじゃなかった。アタシの後ろにある小さな窓を指差して、せつなが鋭く叫んだのだ。
「美希、あれって……!」

 振り返ったアタシの表情も引き締まる。
 見えているのは隣のビルの屋上。地上からは見えないであろうその場所に、普通ならあり得ないものが立っていた。
 つり上がった赤い目を持つ大きな化け物と、その隣で腕組みしている銀色の長髪の男――。
「ラビリンス!!」
 声を揃えてそう叫んでから、アタシとせつなは、手近の階のエレベーターホールに飛び込んだ。



 赤い光が、パッと目の前で四散する。ラブとブッキーにも連絡を取って、みんな一緒にせつなのアカルンで、隣のビルの屋上へと瞬間移動したのだ。
 現れたアタシたちを見て、銀髪の男――サウラーはあまり驚いた様子もなく、いつもの小馬鹿にしたような顔で、口の端を斜めに上げてみせた。

「ほぉ。意外と時間がかかったようだね。いや、むしろ早かったと言うべきかな」
「それ、どういう意味? こんなところで、何してるの!?」
 ラブが、いつもの闘志満々の口調で問いかける。
「不幸のしずくが滴り落ちる音を聞いているんだよ。もっとも、ゲージの上がり具体に比べれば、街は少々静かすぎるみたいだけどね」
「静かすぎるって……」
「えっ? まさか、このナケワメーケ!」

 ラブの言葉を遮って、思わず大声を上げてしまった。サウラーの隣に立っている、怪物の正体に気付いてしまったから。
 平べったくて四角張った形。上の方に付いている赤い目の下には扇形の窓があって、そこには目盛りと針が……。
「このナケワメーケ、元は……体重計、よね?」
 慎重に問いかけるアタシに、えっ、と驚きの声を上げる三人。そんなアタシたちを見回して、サウラーが得意げに、フン、と鼻を鳴らす。
「ああ、そうだよ。この世界の人間は、自らの体重の増加をとても気にしているようだからね。まぁ、こんなに様々な食べ物がある世界だ、僕ですらつい食べ過ぎることだって……コホン。だから、少し上乗せした数字を見せてあげたのさ。まさかそれだけでここまで不幸が集まるなんて、予想できなかったけどね」

190一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/18(日) 18:01:48
 モヤモヤと心に巣食っていた霧が晴れるって、まさにこういう感じなんだと思う。
 全てがわかって、悔しいけどまずはホッとして、次に無性に腹が立ってたまらなくなった。相変わらず涼しい顔をしている全ての元凶を、思いっ切り睨み付ける。
「よくも……よくもこんな陰険な手を使ってくれたわね!」
「陰険? フン、表面は何でもないように取り繕ってるのは、この世界の人間も同じだろう? 不幸を抱え込んでいるのに誰も騒がないから、君たちもこの事態に気付くのが遅れたんじゃないか」
「そんなの、誰にも言えなくて当ったり前でしょう!? 乙女の屈辱、きっちり清算させてもらうわ。みんな!」

 もうあったま来た。今日だけはアタシが決める!
 怒りのあまり、震える人差し指を無理矢理ビシッっと立てて、仲間たちに呼びかける。だが。
「変身よっ!!」
 一足早く、アタシに負けず劣らず高く鋭い声が響く。それは、今まで一度も号令などかけたことのない、ブッキーの声だった。



   ☆



「でもさぁ。まさか美希たんとブッキーまでそんな目に遭ってたなんて、本当にびっくりだよぉ」
 ラブが呑気そうな声でそう言いながら、二個目のドーナツに手を伸ばす。
「そのせいで、美希はエレベーターに乗らずに階段を使ったの? でも、カロリーならその後すぐにダンスレッスンで、たっぷり消費できたのに。どして?」
「え、えーっと……ほら、積み重ねよ。小さなことからコツコツと、ね」
 心底不思議そうに問いかけるせつなに、アタシは冷や汗をかきながらそう言い切った。
 どうしてもエレベーターに乗りたくなかったあの時の気持ちを、どう説明すればせつなにわかってもらえるのか――それは、今はちょっと、アタシにはハードルが高すぎる。
 目の端にラブとブッキーの生温かい視線を感じながら、アタシは澄まして紅茶のカップに口を付ける。
 スタジオでのダンスレッスンを終えたアタシたちは、結局いつもの、カオルちゃんのドーナツ・カフェに陣取っていた。

 変身したアタシたちを前に、体重計のナケワメーケは、最近では珍しいくらいあっさりと倒された。しかも、ピーチとパッションは変身はしたものの、出る幕は全く無かった。
 完全に頭に来ていたアタシの蹴りは、自分で言うのもなんだが、いつもより相当威力があったと思う。でも、そんなアタシをも驚かせたのは、まるで背中に炎でも背負っているかのように闘志むき出しの、パインの体当たり攻撃だった。
 そして最後は、ヒーリング・プレア・フレッシュとエスポワール・シャワー・フレッシュのコラボ技を受けて、ナケワメーケは元の体重計に戻ったのだ。
 あまりにもあっけない幕切れに、忌々し気に舌打ちしたサウラーは、次の瞬間、何かを感じたのか慌てたように姿を消した。もう一歩遅かったら、最高に熱いダブル・プリキュア・キックが彼を襲ったに違いない。

「そっか。ブッキーも、アタシとおんなじ悩みを抱えてたのね。あ、それで今朝、あんなに大きな犬を二匹も?」
 アタシの問いに、ブッキーはさっきまでの勇ましさが嘘のように、真っ赤な顔でコクリと頷いた。そしてふと気が付いたように、今度は彼女がラブとせつなに問いかける。
「でも、どうしてラブちゃんとせつなちゃんは、わたしや美希ちゃんみたいな目に遭わなかったの?」
「そりゃあ、あたしは昨日、体重計になんか乗ってないもん」
 エッヘン、と何故か大威張りで腰に手を当ててみせるラブに、アタシは思わず脱力する。
「あのねぇ、ラブ。女の子が、そういうチェックを怠っちゃダメでしょ! え……ってことは、まさかせつなも?」
 ラブを軽く睨んでから、隣のせつなに目を移す。すると彼女はまたしても不思議そうな顔をした。

「え? 体重測定のこと? ええ、昨日は必要なかったから」
「必要ないって、あのね、せつな……」
 思わずせつなを相手に、もう一度お説教モードに入りそうになるアタシ。が、ちょっと小首を傾げながら、せつなが大真面目で語り始めたのを聞いて、喉まで出かかった小言を慌てて飲み込んだ。

「そんな驚くほどの変化があったら、測る前に自分でわかるでしょう?」
「それは……確かにね」
「ちゃんと数字で確認する必要はあると思うけど、昨日は体重計で測れるほどの変化は無かったと思うから……」
「あ……そうなの」
「でも美希の言う通り、定期的なチェックは必要よね。これから気を付けるわ」
「そ、そうね。時々は、測ってみるといいかもしれないわね」

191一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/18(日) 18:02:21
 理路整然とした答えにたじたじとなって、何とかしどろもどろで相槌を打つアタシに、せつなが素直に頷く。その顔を見ていたら、何だか少し胸が苦しくなって、アタシは冷めかけた紅茶をひと口すすった。
 せつながアタシなんかよりずっと自分の身体の状態を把握しているのは、アタシとはまるっきり別の理由から。きっと、小さい頃から戦士として生きてきた彼女が、生きるために身につけたもの――。

(でもこれからは、それを違う目的で使うことだって、きっと出来るはずよね)

 アタシはカップを置くと、ワザと悪戯っぽい表情でせつなに笑いかけてみせた。
「だったら、せつな。その時、ラブにも一緒にチェックさせてよ。全く、毎日こ〜んなにドーナツ食べてるっていうのに、自己管理が甘いんだから」
「フフッ……わかったわ」
 せつなも今度は、アタシの顔を見てニヤリと笑う。
「えーっ!? 美希たん、あたしのことは別にいいよぉ」
 ラブの方は急に慌てた顔になって、ガタンと椅子から立ち上がった。
「ほ、ほら、もうこの話はおしまいにしようよ。美希たんとブッキーの悩みが解消したのを祝って、ドーナツのお代わり、貰って来よう!」
「ちょっとラブちゃん! 美希ちゃんの話、ちゃんと聞いてた? これ以上食べたら、また悩まなくちゃいけなくなっちゃうよぉ」
 逃げるようにドーナツ・ワゴンへと足を向けるラブを、ブッキーが慌てて追いかける。そんな二人の様子に、アタシはせつなと顔を見合わせて、クスクスと笑った。

「あ、そうそう、せつな」
 アタシはもうひと口紅茶を飲んでから、せつなの顔を真っ直ぐに見つめる。
 昨日の分と今日の分、今度は言い忘れないように、ちゃんと伝えておかなくちゃ。
「さっきはありがとう」
「……え?」
「心配して追いかけて来てくれて。それと……昨日も。“来ないで”って言っちゃったけど、追いかけて来てくれたのは、嬉しかったわ」
 そう言って、アタシはパチリと片目をつぶる。
「だから、アタシもせつなに何かあったら、どこまでも追いかけるから、覚悟しなさい」

 そう、もう独りぼっちにはしないと約束したから。まだお互い分からないことも多いし、自分の気持ちを上手く説明できないことも多いけど、そばに居てお互いに支えることは、きっと出来る。
 昨日も今日も、突然走り出したアタシを、せつなが訳もわからぬまま、必死で追いかけてくれたように。アタシのことを心配して、ずっとそばに居てくれたように。
 その想いを込めて、テーブルに乗せられたせつなの手に、そっと自分の手を重ねた。

 せつなの頬が、淡いピンク色に染まる。そして上目遣いにアタシを見つめると、珍しく少しおどけた口調で言った。
「私に追いつけると思ってるの?」
「モチロン。だってアタシ、完璧だから」
 すっと背筋を伸ばし、とびっきりの笑顔で決めてみせると、せつなの笑みが大きくなる。それを見ながら、アタシは二日ぶりにドーナツを手に取って、それをひと口齧った。
 口の中に優しい甘みが広がる。何だか、お疲れ様、と言われているみたいな気がして、アタシはせつなの隣で、ようやく心からホッとしていた。


〜終〜

192一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/18(日) 18:02:54
以上です。ありがとうございました!
長編の続きも、頑張ります。

193名無しさん:2016/12/19(月) 00:43:05
>>192
流石です。心情の描写、自然な会話。いかにもサウラーらしい戦法。
公式に33.5話でいいんじゃないかと思います。

それにしても、ブッキーの号令のあとの星マークを見て一瞬ビックリしちゃいました。サウラー君はお星様になっちゃったのかと……。(その後、生存を確認)

194名無しさん:2016/12/19(月) 22:17:26
>>192
めっちゃ面白かったです!ブッキーさん、あんたもか!www
コミカルなとこもあり、ほっくり心温まるとこもある良いお話でした。

195makiray:2016/12/25(日) 00:16:22
 メリークリスマス。
 ドキプリ組のパーティで、4スレお借りします。

贈りもの (1)
------------
 コンコン、と窓をたたく音がする。
「あ、まこぴー」
「どうしたんだろう、入ってくればいいのに」
「…。
 鍵がかかっていませんか?」
「あ!」
 マナが慌ててドアに駆け寄った。カチャ、という音とともにロックを外す。
「何をやっているのですか、あなたは」
「ごめーん、お店が休みだと思ってたらつい」
「あたし、参加してもいいのかしら」
 ドア口に戻ってきた真琴が怒った様子もなく言った。
「お待ちしておりましたー」
 クリスマス。
 多くの人が、パーティをしよう、と考えるが、この五人についてはそうはいかなかった。
 マナの家はレストラン、クリスマスは書き入れ時である。
 六花の父は相変わらず海外で写真撮影、母は「クリスマスにも病院にいる子供たちのそばにいてあげたい」と自発的当直。
 ありすは様々な企業や団体に呼ばれたり呼んだりする。
 真琴はイベントに正月番組の撮影。
 辛うじて支障がなさそうなのは亜久里だけだったが、彼女の場合は、祖母と一緒にいるだけで十分にうれしいし、マナたちの事情が分かっているので、自分から言い出すこともなかった。
 そんな彼女たちを見かねたのか、マナの父が、クリスマス明けは休業にするから店とキッチンを自由に使っていい、と提案、12/26 のクリスマスパーティとなった。学校はすでに冬休み、午後から準備を始め、真琴が仕事を終えたら開始、という予定だったのだが、マナはうっかり店の入り口に鍵をかけてしまったのだった。
 飾り付けられたテーブルに全員がそろう。
「メリー・クリスマース!!」
「お腹空いたー」
「撮影、大変だったの?」
「出る方もスタッフさんもバタバタで」
「でも、これくらいの時間に来られてよかったですわ」
「まだ続くんでしょ?」
「30 日まではね」
「大晦日の国民的歌番組への出演依頼が来ないのが不思議ですわね」
「断られると思ってるみたい」
「あー、アーティスティックな方に路線変更したもんね」
「まこぴー、やっぱり出たいの?」
「…。
 正直、大晦日くらいは休みたい。元旦からライブだし」
「お体には気を付けてくださいね」
「じゃ、まこぴーにチキン、もう一つ」
「そんなに食べられないわよ」
 大皿が二つほど片付くと、プレゼント交換会になった。持ち寄ったプレゼントを、真琴の歌に合わせて順番に隣に手渡していく。それが終わったところで手にするプレゼントが決まる。
「何でしょうか――お茶碗。これは、亜久里ちゃんですわね」
 ありすが手にしているのは深い青に釉薬が流れる上品な茶碗であった。
「お気に召すといいのですけど」
「うれしいですわ」
「あたしは…文庫本? 六花ね」
 真琴は袋から本を取り出した。
「はーい」
「あ、童話なんだ。面白そう。ありがとう」
「いえいえ」

196makiray:2016/12/25(日) 00:17:41
贈りもの (2)
------------

「私のはずいぶんと軽いですわ…これは」
 亜久里の顔がこわばる。
「どうしたの?」
「栄太堂のギフト券ですわ!」
「って、平日休日を問わず開店一時間でその日の商品を売り切ってしまう、伝説の和菓子屋さん?!」
「ありがとうございます!
 おばあ様も喜びますわ!」
「亜久里さんのところにたどり着いて、ギフト券も喜んでいると思います」
「あたしのはっと…」
 六花が眉をひそめた。
「白いハンカチ…マナでしょ」
「あー、何を用意したらいいかわかんなくってぇ…」
「忙しかったもんねぇ。期末試験に、生徒会に、お店の手伝いに」
「すいません…」
「そういうマナは何もらったの?」
「これも軽いな…封筒?」
 マナは袋から封筒を取り出した。
「なに…あなたの歌を作ります券?」
 四人の視線が真琴に集まる。
「あたしも…時間取れなくって」
「え、まこぴーがあたしに歌を作ってくれるの?!」
 テーブルがガタンと揺れる。
「っていうか。
 何かテーマを設定してほしいなって。
 それで、書いてみる…から」
「うん!
 えっとね、あのね」
「ストップ、マナ。
 今、慌てて考えようったって無理」
「でも!」
「いつでもいいから…逃げないし」
 真琴の耳が赤くなっていた。

197makiray:2016/12/25(日) 00:19:02
贈りもの (3)
------------

「つかぬことをうかがってよろしいでしょうか」
 亜久里が言った。
「みなさんは、いくつまでサンタクロースが実在すると思ってらっしゃいましたか?」
「どうしたの?」
「実は、クラスに一人、実在を信じてる人がいるのです。
 とても純粋に信じてらっしゃるので、その夢を壊さないようにと皆がピリピリしていまして」
「あー…」
 また視線が真琴に集まったが、誰もそれ以上は言わなかった。次には、マナと六花とありすが顔を見合わせた。
「あたしたちは割と早かったよね」
「だねー」
「はい」
 亜久里が、そうでしょうね、と頷いた。三人とも、早い時期に「現実」を認識していそうな気はする。
 視線が真琴に戻る。
「しょうがないでしょ!
 あたしはこの世界のこと知らないんだから」
「いつなのですか?」
 真琴が顔をそむける。
「私、ひょっとして不愉快なことを申し上げていますか?」
 亜久里の率直な態度に真琴は顔を戻した。
「去年…」
「え?」
「悪かったわね。
 去年まで、サンタクロースは実在すると思ってたわよ!」
 亜久里は絶句した。
「まぁ、確かに、世界中でサンタ、サンタって言ってるものね。そこまで言うなら実在するに違いない、って思ってもしょうがないかな」
「この時期になるとたくさんサンタの格好をした人が現れますでしょ? 中に本物が紛れ込んでいるかもしれない、とおっしゃってましたわ」
「サンタの行方を追ってるホームページもあるし…」
「もう、この話、おしまい!」

198makiray:2016/12/25(日) 00:20:28
贈りもの (4)
-------------

 真琴の機嫌は直ったらしい。ありすの紅茶が運ばれると真琴は店内を見渡した。
「それにしても、ここ貸切にしちゃってよかったのかな」
「大丈夫だよ。お休みなんだから」
「私もマナのお父様のご厚意に甘えすぎなのではないか、という気はしていました」
「とは言っても、代金を払う、っていうのも違うような気がするし」
 六花が言うとありすが頷いた。
「お父様にとっては、私たちはマナちゃんのお友達。それはきっと筋違いですわね。逆に失礼にあたるかもしれません」
「…」
 では、店の手伝いをするか、いや、それは却って迷惑になるのではないか、と話が議論になりかけたとき。
「あ」
「どうしたの?」
 真琴が外を見て言った。立ち上がり、窓にかけよる。
「これ、いいかも」
「なにが…あ!」
「雪ですわ」
「ホワイト クリスマスだ!!」
 五人はしばらく窓越しにそれを見ていた。マナが明かりを消すと、窓の外の白い花ははっきりと見えるようになった。
「積もるかも…」
「雪かきですわね」
「そうか」
「うん。
 明日の朝、お店の前の雪かきをしよう」
「お客さんが足を滑らしたりしないように」
「安心して歩けるように」
「寒いって思わなくて済むように」
「そうしよう!」
 不思議なものだ。なぜか雪が暖かく見える。
 綿を連想させるからなのか、彼女たちが暖かいからなのか。
 五人は、空からの白い贈りものを飽きることなく見ていた。

199名無しさん:2016/12/25(日) 00:59:42
>>198
5人の会話が凄く楽しそうで、それぞれのプレゼントもそれぞれらしくて……。
ギフト券が出てきた瞬間に、誰からのプレゼントかすぐに分かりましたw
素敵なクリスマスプレゼントでした。ありがとうございます!

200苺ましまろ* ◇K5Xb5cLrLM(転載):2016/12/26(月) 00:39:32
偶然この掲示板を見つけました…*
プリキュアに再びはまってからまだ1年半なので知らないことが結構あります……;*
良かったら雑談がてら色々教えてください-*

201名無しさん:2016/12/26(月) 00:45:22
>>200
ようこそ〜。
1年半ってことは、姫プリで再はまりしたのかな。
好きなキャラとかは?

202名無しさん:2016/12/26(月) 23:00:31
ご存知の方もいると思われますが、ご報告。
キラキラ☆プリキュアアラモードのエンディング曲、宮本佳那子!!

203名無しさん:2016/12/26(月) 23:26:10
>>202
インタビュー動画見たよ〜。
元気になって戻ってきてくれてうれしい限り。

204Mitchell & Carroll:2017/01/07(土) 23:00:11
該当シリーズ:ドキドキ!プリキュア
内容の傾向:な、内容の傾向!?うーん……

2レスお借りします。


『大貝中一年レジーナ!』


〜〜これは大貝第一中学校に通う女の子・レジーナ(一年生)の、とある1日の学校生活を記録したものである〜〜

【1時間目・数学】
レジーナ「こんなの絶対、将来なんの役にも立たないって……ねぇ、あなたもそう思うでしょ?」
隣の席の子「え?う、うん……どうかな……」
数学の先生「レジーナさん、公式を間違えてるね。正しい公式で、全部解き直し!」
レジーナ「はぁ!?間違ってるのはあんたの人生の公式じゃないの?」
数学の先生「きょ、教師に向かって、あんた……!?」

【2時間目・理科】
レジーナ「実験♪実験♪」
理科の先生「今日はね、この有名な“段ボール箱空気砲”を使った実験をするからね」
レジーナ「アハハハ!楽しーーい!!(ボンッボンッ)」
クラスメートA「うわっ、ちょっ!」
クラスメートB「レジーナさん、暴れないで!!」
レジーナ「そんなコト言って、ホントはあんたたちも楽しいんでしょ?それそれ!(ボンッボンッ)」
理科の先生「レジーナ君、落ち着きなさい」
レジーナ「先生にも、それっ!(ボンッ)」
理科の先生の頭「(ズルッ)」
クラスメートたち「「あ……」」
理科の先生の頭にあった物「(ポトッ……)」
レジーナ「あ……」
理科の先生「………」
理科室「「「(しーーーん)」」」

【3時間目・体育】
体育の先生「今日の授業はバレーボールよ」
レジーナ「そーれそれそれ!アタックー!!」
体育の先生「おお、いいぞレジーナ!是非うちのバレー部に!」
レジーナ「手ぇ痛ぁ〜い……もうや〜めた!」
体育の先生「そ、そんな……」
レジーナ「バスケでもしよーっと!」
クラスメート「マイペースね……」
レジーナ「やっぱりや〜めた!バスケのボールって重いんだもん」

【4時間目・美術】
美術の先生「まあ、レジーナさん!ピンク色が多めで可愛らしい絵ですこと!」
レジーナ「あたしねー、ピンクが好きなの!黄色とか紫色とか要らなーい。青も邪魔ー。赤とかムカムカするし!」

【給食】
レジーナ「なんでっ……このあたしがっ……こんな重いものをっ……」
クラスメートA「レジーナさん、早く食缶持ってきてー」
クラスメートB「今日の給食は、エビピラフ、コーンポタージュ、牛乳、プリン……か」
レジーナ「やったー!プリン!!みんなの分のプリンもあたしの所に持って来て!プリンは全部あたしの物よ!!」
クラスメートC「そんな!不公平よ!」
クラスメートD「でも!男子は従ってるわ!」

205Mitchell & Carroll:2017/01/07(土) 23:01:40
【5時間目・社会】
社会の先生「――というわけで、色んな国に色んな歴史があるわけだが……」
レジーナ「そういえばねー、あたしのパパ、昔、悪い奴に利用されて、国を滅ぼしちゃったの」
社会の先生「な!?」
クラス中「「「ざわざわざわざわ……」」」

【掃除】
レジーナ「かったる〜い……」
クラスメート「レジーナさん、掃除はテキパキと!ゴミを無くして、綺麗にするのよ!」
レジーナ「だったら学校ごと無くしちゃえばいいじゃん。あたしが綺麗にしてあげる!」
マナ「ストーップ、ストーップ!!」
レジーナ「あ、マナ!」
マナ「嫌な予感がすると思って来てみたら……」


[通信簿]
「明るく、クラスのリーダーで、自分の意見をハッキリと言える子です。ただ少しわがままで
マイペースなところがあるので、ご家庭でもその点に注意して見守っていただけたらと思います。担任より」

レジーナパパ「うっ、うぅ…レジーナ……こんなに立派になって……!」
レジーナ「ちょっと、パパ!通信簿ビチョビチョにしないでよ!それより、パパの分のパンケーキ、食べていい?」


おわり

206名無しさん:2017/01/08(日) 00:59:23
>>205
レジーナ、あっという間にクラスを牛耳ってそうw
先生は大変そうだけど(特に理科の)楽しそうで和みました。

207名無しさん:2017/01/09(月) 07:31:23
>>205
美術の時間のレジーナがいいね、笑いましたw

言ってることもやってることもメチャクチャだけど、なぜか憎めないレジーナw

208makiray:2017/01/09(月) 13:55:36
 遅ればせながら、おめでとうございます。
 今年の一発目は、「Yes! プリキュア5」から。
 2スレ、お借りします。

ふくふくふふふ (前)
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 年が明けてしまった。
 いや、もう一週間も経ってるけど。
 あたしは、のぞみからの年賀状を見ながらため息をついた。
 別に、字が間違ってるとか、表と裏で上下が違う、とかそんなことじゃなく。
 30 日にけんかをした。
 大したことじゃない。いつものように、はしゃぎすぎの のぞみに一言。気が付いた時には往来で大声で言い合っていた。
 虫の居所でも悪かったのかな…違う、これはこの一週間ずっと、百回くらい思っては打ち消してきたこと。あたしが言い過ぎたんだと思う。たぶん。
 年賀状の のぞみは、お餅食べ過ぎておなかこわしちゃだめだよ、とか言っている。
(誰の話よ…)
 のぞみ、お餅好きだもんな。それを手土産にして謝りに行こうかな。逆に、嫌味になっちゃうかな。
(お餅、ないんだっけ)
 なにせ食べ盛りが二人もいる。こんなもんかな、と用意した分は、二日でなくなってしまった。大食いについては あたしも大概だけど、今年は食欲不振。
 行こう。
 お餅は三が日でなくなってもいいけど、のぞみとの仲は松が取れる前になんとかしなきゃ。

 とりあえずマフラーだけして外に出た。今年のお正月は暖かい。
(手ぶらだな…)
 今更、手土産を気にする関係じゃない。そんなことしたら、のぞみのお母さんたちはかえって恐縮すると思う。でも、今回は特別。あたしは、遊びに行くんじゃなくて、謝りに行くんだから。
(お餅ねぇ…)
 正月と言えばお餅、だけど、パック入りの切り餅を持っていくのは変。かと言って、お雑煮や安倍川はお店では売ってない。っていうか、温かくないと食べられないものだから、手土産にはしづらい。別のものを考えるか…。
 あ。
 お餅あるとこ、知ってる。

「ごめんください」
「あら、りんさん」
 暖簾をくぐると、こまちさんがいつもの笑顔で迎えてくれた。
「あけましておめでとうございます」
「あ、あけましておめでとうございます」
 お互いに頭を下げる。これは、新年のお約束。親しき仲にも礼儀あり。
「ひょっとして、お年賀?」
「お年賀って言うか…。
 のぞみんちに行こうと思って」
「のぞみさん?」
 こまちさんは、かすかに首をかしげた。
「お使いかしら」
 鋭い。もう十年の付き合いである のぞみの家に行くのに手土産を買いに来ている、ということは、のぞみに会いに行くのではないだろう、という推理。小説家志望の眼力は怖い。それは同時に、あたしは、それくらい異例なことをしている、ということでもある。
「え、っと。
 実は…」
 あたしは、ほかにお客さんがいたら大変に迷惑になるほどためらった挙句、のぞみとけんかした、という一言をやっとの思いで喉の奥から押し出した。
「そう…」
 こまちさんは、一言だけ口にして、あたしの後ろの暖簾に視線をやった。そして。
「ちょっと待っててね」

209makiray:2017/01/09(月) 13:57:56
ふくふくふふふ (後)
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 時計を見てたわけじゃないけど、結構、待たされた。
 ここでお客さんが来たらどうすればいいかな、と思っていると、こまちさんはパタパタと音を立てて戻ってきた。そして、カウンターの横から出てくる。
「こんなのはどうかしら」
 小さな箱。
 こまちさんがそれを開けると、さらに小さいタッパーがあって…梅干し?
「あと、これは、昆布」
 昆布。細く切ったのをご祝儀袋のあれみたいに結んであって、確かにお正月っぽい。でも、なんで、梅干しと昆布?
「京都の風習でね、お正月は、お茶に梅干しと結び昆布を入れていただくんですって」
「はぁ」
「『おおぶくちゃ』って言うの」
「おおぶく」
「『大福』って書くのよ」
 あたしはきっと、何十秒もこまちさんの顔を見てたと思う。
 それくらいびっくりした。
 なんてぴったりなものを。この一週間、あたしがあれこれ考えて、ぐるぐるループしてたことをまるで知ってたみたいに。お餅をお土産にしようとか思ってた、なんてこれっぽっちも言ってないのに。
「どうしてわかったんですか?」
「え?」
「あ、じゃなくて。
 こまちさんは なんでこの大福茶のことを思い出したのかな、と思って」
「そうねぇ」
 また小首をかしげる。
「初詣のおみくじかしらね」
「おみくじ?」
「大吉だったの」
 なるほど。大吉から大福。
「よかったじゃないですか。
 あたしが今引いたら、きっと大凶だな」
「その方がいいじゃない」
「だって」
「おみくじが大吉っていうことは、元旦が幸せのピークで、後は落ちていく一方なのよ。
 今年は一体、どんな悪いことが起こるのか、今から心配でしょうがないの」
 ふふ。
 あたしは吹きだしそうになった。
 これが、あたしのことを心配しておどけて言ってくれているのか、それとも本当にそう思っているのかはわからない。でも、こまちさんの本当に困ったような顔であたしの肩からちょっと力が抜けた。さすが、プリキュア一の癒し系。
「でも、風流すぎてのぞみにはちょっともったいないかな。
 のぞみなんか、雪見だいふくだけでも喜びそう――」
「りんさん」
 こまちさんは相変わらず笑顔だったけど、ちょっと癒し成分が減っていた。あたしは今、怒られている。あのこまちさんに。
 確かに、喧嘩をしてしまっている今、そして、自分に原因がある、と思っている時に言っていいことではなかった。
「はい」
 あたしは箱を受け取るとふたを閉めた。
「あの、代金は」
「いいわよ。
 それはお店の商品じゃないから」
「でも、この箱はお店のですよね」
「そうね…。
 じゃぁ、後で何か買いにきてくれるとうれしい。
 のぞみさんと一緒に」
「…。
 わかりました」
 あたしはその白い箱を両手に抱いて、頭を下げた。
 ありがとう、こまちさん。
 待っててね、のぞみ。
 あたし、スタートを切るから。
 のぞみに許してもらって、それで今年を始めるから。
 店を出たあたしは、いつの間にか走り出していた。

210名無しさん:2017/01/09(月) 14:37:26
>>209
これ続き読みたいな。
あれこれ考えて困ってるりんちゃん、ぐるぐる堂々巡りしてるりんちゃん、
なんか、りんちゃんらしくて愛らしいw

211名無しさん:2017/01/10(火) 23:42:12
makirayさんが書くプリキュア5のSS、好きです。

212makiray:2017/01/11(水) 20:55:39
「ふくふくふふふ」の続編。あのケンカを、のぞみの側から見たものです。
 2スレおかりします。

おはなのおみやげ (前)
---------------------

 多分、三分くらいはそうしてたと思う。
 りんちゃんの家の前。あたしは、呼び鈴を押そうとしては手をおろす、ということを繰り返していた。お店の方から行かなかったのは怖かったから。
(のぞみ、はしゃぎすぎ)
(だってお正月だよ。クリスマスの次はすぐにお正月。楽しみだねぇ)
(だからって、ほら、人にぶつかるから)
(あ、ごめんなさい。へへへ)
(ったく、いつまでたっても子供なんだから)
 自分でも、なんでそこで言い返しちゃったのかわからない。りんちゃんに叱られるのはいつものことだし、子供だ、なんて多分、聞き飽きるほど言われてる。だけど、気がついたら、人通りのあるところで大声で喧嘩していた。
 どう考えたってあたしが悪い。眠れなくなっちゃって、生まれて初めて除夜の鐘を聞いた。おせちもお餅もあんまり食べてない。
 だから来た。謝りに。深呼吸。押す。
 やだな、この間。誰もいないといいな、って思っちゃうから。あ、パタパタって音がする。来る、来る。そして、ガチャ。
「りんちゃん、ごめんなさい!」
「あら、のぞみちゃん」
「え…?」
 りんちゃんのお母さん。
 やっちゃった。こういうところを直さないとまたりんちゃんに叱られるのに。
「りんなら、のぞみちゃんのところに行くって出かけたわよ。すれ違っちゃったのかな?」
 りんちゃんのお母さんが言ってることがわかるまで、また時間がかかってしまった。

 走った。
「お母さん、りんちゃんは?!」
 家に飛び込むと、お母さんはりんちゃんのお母さんと同じくらいびっくりした顔であたしを見た。
「来てないけど…約束してたの?」
 あたしはすぐに靴を履き直した。

 もう一度、りんちゃんの家の前。ここでやっと、りんちゃんはとっくに家を出てるんだから、ここにいるはずがない、ということに気付いた。あたしって本当にダメだな。
 またすれ違ったのかな。戻ってみようか。
(回り道してるのかも)
 久しぶりにケンカした。りんちゃんも、顔を合わせづらい、と思ってるかもしれない。
(じゃぁ)

「そうですか…」
 かれんさんは朝から出かけていた。坂本さんは、りんちゃんは来てない、と言う。困った時に相談しようと思ったら かれんさんだと思ったんだけど…りんちゃんは強いから相談しようとか思わないのかな。
 ケータイが震えた。
「りんちゃん?!」
《え、あの、うららです…》
「あ、ごめん」
 今度の休みがオフになったから、ということだった。りんちゃんはうららに連絡はしてないみたいだった。じゃぁ、来週ね、と言って電話を切る。その来週までに、あたしはりんちゃんと仲直りできてるかな。
(りんちゃん、どこにいるの)

 心当たりは探した。もちろん、ナッツハウスにも。ココが、なんか心配そうな顔をしてたけど、あたしはすぐに飛び出した。
 ちょっと離れてるけど、フットサルの練習をしてるグラウンドまで来てみた。でも、りんちゃんはいない。
 こまちさんの家は反対方向だから違うと思ったけど、行ってみた方がいいだろうか。
(このまま会えなくなっちゃうのかな…)
 もう足が動かない。体も冷えてきた。もうすぐ震えはじめるかも。
(嫌だ。
 りんちゃんに、ごめんって言わなきゃ!)
「あ、痛!」
 走り出したあたしは誰かにぶつかった。
「ごめんなさい!」
 まただ。またやってしまった。
「まっすぐこっちに来るから見えてるかと思ったのに。相変わらずだねぇ、君は」
「…。
 ブンビーさん!」

213makiray:2017/01/11(水) 20:58:32
おはなのおみやげ (後)
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「そりゃぁ、相手がどこにいるかわからないのに闇雲に走り回ったら見つからないでしょう」
 グラウンドのベンチに座る。おしりが冷たかったけど、それどころじゃなかった。
「そんなこともわからない人に苦戦したんだねぇ、私」
 ブンビーさんがため息をつく。あたしの代わりみたいに。
「あ」
「どうしたの」
「まさか、ナイトメアとかエターナルとかが復活してりんちゃんをさらったんじゃ」
「そんなわけないでしょう!」
 なぜか慌てて立ち上がるブンビーさん。あたりをキョロキョロと見回している。
「そんなことになったら、君のお友達より私の身が危険じゃないの…。
 大丈夫かな。大丈夫みたいだな。うん、大丈夫…きっと」
「じゃ、どうしてブンビーさんがこんなところに」
「私は年始のお得意先回り」
「この辺に会社があるの?」
「…の後の一休み」
「サボってるってこと?」
「休息は重要なんですよ。覚えておきなさいね」
 そうだ。一休みしたら、りんちゃんを探しに行こう。
「それにしても、口げんかくらいでなんでそんな大騒ぎを」
「だって、りんちゃんは」
「そうか」
 ブンビーさんは、あたしの言葉を遮って、ポンと自分の手を打った。
「君の弱点は、あの子だったんだ!」
「…え?」
「じゃ、キュアルージュを集中攻撃して倒してしまえば、その動揺に付け込んで、君のことを倒せたんだね。
 なんでもっと早く気が付かなかったんだろう。バカバカ、昔の私。あー、もう、タイムマシンがあったらあの時の自分に教えてあげたい。そうすれば、今頃は私の時代だったのに」
「…。
 ブンビーさん、ルージュに勝てるの?」
 ブンビーさんの顔が一気に赤く染まる。あたしはどうやらまた言っちゃいけないことを言っちゃったらしい。ブンビーさんは何度も深呼吸をした。
「ごめんなさい」
「帰んなさい、家に」
「でも、りんちゃんが」
「だから、あの子は君のところに行くって言って出かけたんでしょ? 家で待ってれば会えるじゃない」
「でも、あたしはりんちゃんに謝らないといけないんだから。それを待ってるなんて」
「もう家にいるんじゃないの?」
「あ…」
 そうだ。家を飛び出してから随分、時間が経ってる。もし回り道をしてたとしても、もう着いてるかも。
「行かなきゃ」
「あぁ、これ、あげる」
「なに?」
 ブンビーさんが、大事に抱えていた箱を私の手に押し付けた。
「お年賀でもらったんだけど、あげる。謝罪には手土産が必要でしょ。もういい年なんだから、それくらいの気を利かせなさい」
「でも」
「『花びら餅』って言うそうだから。花屋の娘にはピッタリでしょ」
「『花びら餅』…?」
「なんでも、京都のお正月はそれを食べるんだって。なんかのお茶がつきものらしいんだけど、それは忘れちゃったな。そもそも、私、そのお餅もいただいてないし」
「ブンビーさん…」
「いいねぇ、その目。もっと尊敬して。それで、私をリーダーにする気になったら連絡――」
「ありがとう、ブンビーさん!」
「今度、戦うときはその分、手を抜いてもらうからね」
 あたしは笑顔になっていた。たぶん、十日ぶりくらい。
「うん!」
 ありがとう。あたしは何度も言い、その箱を胸に抱いて頭を下げた。
 待っててね、りんちゃん。
 あたし、スタートを切るから。
 りんちゃんに許してもらって、それで今年を始めるから。
 もう動かない、と思っていた足はちゃんと動いた。あたしはりんちゃんのもとに走った。

214名無しさん:2017/01/11(水) 21:42:51
>>213
まさかの〇〇〇○さん登場!(ひょっとしてこの掲示板初登場じゃないですか?)
相変わらずいい味出してて、好きです。
のぞみとりんのそれぞれの行動と想いが詰まってて、メチャ面白かったです。

216運営:2017/01/11(水) 22:00:48
運営です。
遅くなって申し訳ありません!
新シリーズ『キラキラ☆プリキュアアラモード』のスレッド作りましたので、新シリーズに関する書き込みは転載させて頂きました。
ご了承ください。

217名無しさん:2017/01/11(水) 22:02:32
>>213
あっちこっち走り回るのぞみがのぞみらしいw
双方からお茶とお菓子を持ち寄って、ってところが良きかな。

218一六 ◆6/pMjwqUTk:2017/01/15(日) 12:11:21
今年もよろしくお願い致します!
またまた遅くなりましたが、長編の続きを投下させて頂きます。
7レス使わせて頂きます。

219一六 ◆6/pMjwqUTk:2017/01/15(日) 12:12:59
 灰色の硬い床の上に、どさりと投げ出される。身体を拘束していた蔦がほどけると同時に、頭の上から、冷たい床の感触よりさらに冷ややかな声が降って来た。
「全く情けない。あなたには失望したわ」
「申し訳……ありません」
 まだ痛みの残る腹部を庇いながら、少女がのろのろと立ち上がる。そして彼女を見下ろすノーザの映像を、すがるような目で見つめた。

「ですが、メビウス様復活の通告は、思った通り連中に大きなダメージを与えています。今なら簡単にゲージを満タンに出来る。お願いです! もう一度だけ、ダイヤを……」
「だからあなたには失望したと言っているのよ」
 ノーザはぴしゃりと少女の言葉を遮ると、まだ七分程度しか溜まっていないゲージの方に目をやった。

 少女の方を見ないまま、ノーザは淡々と語る。
 他の三人の幹部と違って、自分はダイヤを支給されてはいなかった。あのダイヤは、かつての試作品に自分で手を加えて作ったただひとつのもの。万が一、メビウス様の野望を阻むさらに強大な敵が現れたときのため、この予備のゲージと一緒に自分の部屋に隠し持っていたのだと――。

「あのダイヤを失った今、どんなに人間たちが不幸になろうが、その不幸をゲージに集めることはもう出来ない」
「そんな。じゃあ、メビウス様は……」
 少女が絶望したように呟く。が、ノーザの言葉を聞いて、その顔に僅かながら明るさが戻った。

「安心なさい。今溜まっている不幸を使って私の身体を取り戻せば、まだメビウス様復活の手立てはあるわ」
 ノーザの言葉が終わると同時に、鉢植えから蔦がするすると伸びた。ゲージの下方にあるコックを器用にひねって、不幸のエネルギーを水差しに入れる。そして自らの根元に、その中身を溢れんばかりに注いだ。
 注がれた不幸のエネルギーを、小さな木がゴクゴクと音を立てて吸収する。そして時を移さず、その枝先に人型のようなものが出現し、それが丸まって実のような形になった。

「これは“ソレワターセの実”。この実から生み出されるモンスターは、私が欲しいものを確実に奪う、強力で忠実なしもべよ。今度はこの子に働いてもらうわ」
「ソレワターセの実……」
 灰緑色の実を呆然と見つめていた少女が、ハッとしたようにノーザに目を移す。
「では、私は……」
「あら、挽回の機会が欲しいのね? ならば、ソレワターセの邪魔をする者を足止めしなさい。そのために、あなたにも素敵な贈り物をあげましょう」

 さっきまでとは打って変わって楽しそうに少女を見下ろしてから、ノーザはパチリと指を鳴らした。
 蔦が再び鉢植えの根元に不幸のエネルギーを注ぐ。小さな木はまたも勢いよくその液体を吸収したが、今度は枝先に実は現れなかった。代わりに一本の枝の先が、球状に膨れ上がる。そして別の枝から、空中にらせんを描くように新たな蔦が放たれ、膨れた枝の先からそれを目がけて、真っ黒な霧が吹きかけられた。
 固唾を飲んで見守る少女の目の前で、小さな霧が晴れる。すると、らせん状の蔦は黒々とした、薄っぺらい三角形に変化していた。

 霧を吹き出し終えて元の形に戻った枝が、その三角形の部分を切り離し、ゆっくりと少女に差し出す。
「メビウス様は、それを“カード”と呼んでおられた。ナケワメーケより強大なパワーを持ったモンスターを生み出せる、特別なアイテム。私が持っていたデータを使って、復元してあげたわ」
 ノーザの言葉を聞いて、少女が枝先にあるものに恐る恐る手を伸ばす。
「ただし」
 そこで再び、ノーザの声が飛んだ。
「その強大なパワーには代償が必要なの。当然でしょ?」
 少女が伸ばしかけた手を止める。
「どんな代償ですか?」
「それを使うと、激痛を受けるのよ。モンスターを使役している間、ずーっとね。耐えられなくて、命を縮めることもあるらしいわ」
「……」

 少女の手が、ゆっくりとカードから離れる。それを見て、ノーザは大きなため息をつくと、さも残念そうな口調で言った。
「そうねぇ。あのイースですら、それを四枚も与えられたというのに、結局使いこなせなくてボロボロになったんですもの。あなたには無理な話かもしれないわね」
「あの人が!?」
「ええ、そうよ。それは元々、プリキュアを倒すためにイースに与えられたものなの。失敗して寿命を止められたけど、そうでなくても、もう使い物にはならなくなっていたみたいね」
 少女の手が今度はギュッと握られ、ブルブルと震え出した。

220一六 ◆6/pMjwqUTk:2017/01/15(日) 12:13:40

「出来ないのなら、もう手を引きなさい。後は私一人で何とかするわ」
「誰が……やらないなどと?」
 少女が左手で右手を掴んで、無理矢理手の震えを止める。そして今度は勢いよく、その手をカードに向けた。
「私は、メビウス様のためなら何だって耐えられる。あの人が……先代のイースが出来なかったことだって、やり遂げてみせます!」
 ノーザの口の端が、わずかに上がる。まるで少女の意志に反応したように、三角形のカードは枝先を離れ、はらりと彼女の手の中に納まった。



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第9話:起動! )



 おびただしい瓦礫の山。人っ子一人いない、廃墟と化した街。
 足場の悪さなど物ともしないスピードで、サウラーは道なき道をひた走っていた。厳重にくるんで胸元に抱えたモノを、少しでも早く、少しでも安全な場所に運ばなければ――使命ではない自らの想いが、彼を突き動かす。

 この三日間、サウラーは執務室に籠り、ずっとラブの手がかりを探し続けていた。だからラブが無事に戻ってきたと連絡があった時には心底ホッとしたのだが、それに続く報告を聞いて、自分の顔から一切の表情が消えたのが分かった。

 ウエスターが捕えた少女が奪い去られたこと。
 E棟の地下にある“不幸のゲージ”。
 そして何より、少女の後ろにいるノーザの存在。

 少女がラビリンスの国民にとんでもない通告を行ったと聞いた時から――いや、彼女があんなにも鮮やかにラブを連れ去った時から、何か強大な者の力が働いているのではないかと疑ってはいた。
 まさかそれが、あの計り知れない力を持った、かつての最高幹部だったとは。だが、ノーザはプリキュアの技を受けて、球根の姿に戻ったはず……。

――彼女は何故、今再び現れたのか。
――彼女は少女を使って、何をしようとしているのか。

 心はまだ呆然としているのに、頭の中に幾つもの仮説が浮かび、その検証が進んでいく。
 記憶しているノーザに関するデータとの照合。選択肢の抽出。可能性の算出。やがて相手の次の一手と、自分が取るべき次の行動が、次第に明確な形を取って浮かび上がってくる。

(おそらくノーザは、最終決戦の前に自らのデータのバックアップを残したのだろう。E棟の地下にあったという植木がその媒体か……。不幸のゲージの使い道はまだ分からないが、ヤツは十中八九、自分の実体を狙ってくる!)

 ものの数秒でそう思い至るが早いか、サウラーは執務室を飛び出し、ノーザの本体である球根が保護されている施設に向かった。
 中心地から少々離れているその施設まで、夜の闇の中を駆け抜け、無事を確認したその球根を持って、元来た道を再び走る。
 ノーザ本人のバックアップだ、自分の身体の在り処は、こちらが隠してもすぐに分かってしまうだろう。それならば、標的は手元に置いて、守りを固めた方がいい。

 執務室のある新政府庁舎が見えてきた時には、もうすっかり夜が明けていた。今にもノーザが襲ってくるかもしれないという焦燥感から飛ぶように駆け戻って来たものの、まだ辺りはしんと静まり返り、不穏な気配は何も感じない。

(どうやら少し慌て過ぎたか。やはりこんな即断即決は、ウエスターならともかく僕には似合わないね)

 フン、と自嘲気味に微笑んで、庁舎の中に入る。そして執務室までの道すがら、開け放たれた会議室の中をちらりと覗いた。
 この庁舎もまた、襲撃を受けた人々のために開放されている。大会議室には多くの人が避難していたが、薄暗いその部屋はしんと静まり返って、生気というものがまるでなかった。

 声もしない。動く者もいない。
 そう早い時間でもないというのに、人々は寝具にくるまったりうずくまったりした姿勢のまま、ただ時が過ぎるのを待っている。

(これが、あの通告がもたらした結果というわけか。やはりあの世界の連中と比べると、僕らはこんなにも弱く、脆いのだな)

 無表情の下で、苦々しい思いをかみ殺す。その時、何かが動く気配を感じて、サウラーは部屋の中に目を凝らした。

221一六 ◆6/pMjwqUTk:2017/01/15(日) 12:14:11

 薄闇の中、ゆっくりと起き上がる人の姿が見える。その人は自分が使った寝具をきちんと畳み、サウラーのいる入り口に向かって歩いて来る。その顔を見て、サウラーの頬がわずかにほころんだ。
「あなたは、あの畑の……。ここに避難していたんですか」
 彼は、サウラーたちが試験的に作った野菜畑の管理人。時々、野菜作りのための情報を得るために、ここへやって来る老人だった。

 老人がサウラーに会釈を返し、そのまま廊下に出て行こうとする。
「どこへ行くんです?」
「朝だから、顔を洗うだけです」
 当たり前のようにそう答えながら、老人は洗面所の方へ歩き出す。
 しわがれてはいるが、落ち着き払った声。動きは遅いが、しっかりとした足取り。その姿は、何をするでもなくただ死んだような目をしている人々と比べて、とても力強くサウラーの目に映り――気が付くと、その後ろ姿に向かってもう一度呼びかけていた。

「あなたも、あの通達を聞いたんですよね?」
「通達……ああ、メビウス様が復活するという、あれですか」
 老人はサウラーを振り返って、思いのほかあっさりとした調子で答えた。
「でも、あなたは普段と同じように生活できているんですね」
 老人がいぶかし気な視線をサウラーに向ける。それを見て、サウラーは薄暗い部屋の中を指し示した。
「ほら、他のみんなはあの有り様だ。それなのに、何故あなただけが?」
 今度は老人の答えが返ってくるまでに、少しばかり時間がかかった。

「私はもう長く生きてきた。だからそう思うだけかもしれんが……」
 ようやく口を開いた老人が、目をしょぼつかせながら言葉を続ける。
「もう一度管理されようが、制裁を受けようが、ほんの少し前に戻るだけでしょう。むしろ……」
「むしろ?」
 真剣な表情で聞いていたサウラーが、老人の言葉が途切れたのに気付いて、怪訝そうに先を促す。そこで初めて老人の顔に、しまった、というような戸惑いの表情が浮かんだが、彼は促されるままに、絞り出すような声で言った。
「むしろ……制裁してくれた方が、楽なくらいで」
「それは一体、どういう……」
 そう言いかけた時、サウラーは通信機の着信に気付いて、失礼、と言いながらそれを耳に当てた。

 途端にウエスターの怒鳴り声が飛び込んで来て、思わず顔をしかめる。しかし、すぐにサウラーの表情が引き締まった。
 あの少女が再び現れた。それもナキサケーベを引き連れて――ウエスターはそう告げたのだ。
「わかった。僕もすぐに現場に向かう」
 早口でそう答えて着信を切り、何か思考を巡らせながら歩き出すサウラー。が、そこでふと何か思い付いた様子で、老人の方を振り返った。
「そうか、あなたなら……。申し訳ないが、僕と一緒に来て手伝ってくれませんか。お願いします」
 その真剣な表情に押されたように、老人がためらいながらも小さく頷く。
「ありがとう。早速相談があります。こちらへ」
 しんと静まり返った庁舎の廊下に、二人の足音だけが響いた。



   ☆



 顔の中央に貼り付いている、涙を流す一つ目のマーク。言葉を発せず、ただ苦し気な呻き声を上げるだけの哀しきモンスター。
 巨大なタイヤで出来た両手両足と、四角いメタリックな身体を持つそれは、どうやら乗り捨てられた車が素体のようだった。
 怪物の後ろに見えるビルの上に、あの時の自分と同じ、腕に暗紫色の茨を巻き付けた少女が立っている。その姿を苦し気な表情で見つめるせつなの肩を、ポン、と叩く者がいた。

「……ウエスター」
「危ないから下がっていろ。こいつを倒して、ヤツの目を覚まさせてやる!」
 せつなとラブの前に進み出たウエスターが、薄水色のダイヤを構える。
「ホホエミーナ! 我に力を!」
 叫びと共に、昨日少女にナケワメーケにされた街頭スピーカーが、今度はホホエミーナになって立ち上がる。
「ウオォォォ〜!」
 新たな呻き声を上げて襲い掛かる怪物――ナキサケーベを、ホホエミーナはその太くて長い腕でしっかりと受け止めた。だが。

222一六 ◆6/pMjwqUTk:2017/01/15(日) 12:14:44
「ソ〜レワタ〜セ〜!」
 今度は呻き声ではないはっきりとした雄叫びが、まるでウエスターを嘲るように別の方角から響く。
 暗緑色の蔦が人型になったような、ナキサケーベより遥かに大きな身体。そして蔦の裂け目から覗く、邪悪に光る赤いひとつ目。
「え……まさかあの子、ソレワターセも一緒に呼び出しちゃったの!?」
「違う。きっとノーザの仕業だわ」
 驚くラブにかぶりを振って、せつなが低い声で呟いた、その時。
「さすが、お見通しねぇ」
 不意に聞き慣れた声がしたかと思うと、ソレワターセの後ろの空間が、一瞬だけぐにゃりと歪んだ。

「久しぶりね、イース。それにウエスター君」
 巨大なソレワターセの後ろに、さらに大きなノーザのホログラムが出現する。
 その声は、まるで天から降って来るよう。視界一杯に広がる半透明な姿は、かつての主の姿すら思い起こさせる。
 ウエスターはグッと奥歯を噛みしめてから、自分を励ますように、巨大な映像に向かって声を張り上げた。

「出たな、ノーザ!」
「あら。もう“ノーザさん”とは呼んでくれないのかしら」
 からかうような口調でそう言うと同時に、ノーザの右手がさっと上がる。
「さぁ、ソレワターセ。プリキュアが加勢などしないうちに、私が欲しいものを奪いなさい」

「そうはさせん! ホホエミーナ!」
「くっ……そいつを止めろ!」
 ウエスターと少女の叫びがほぼ同時に響いた。くるりと向きを変えてソレワターセに飛びかかろうとするホホエミーナと、それを後ろから羽交い絞めにするナキサケーベ。
 身動きが取れなくなった相棒を見るが早いか、ウエスターが単身、ソレワターセに挑みかかる。が、今度はナケワメーケのようなわけにはいかなかった。
 スピードが違う。パワーが違う。おまけにサイズが違い過ぎる。ウエスターはたちまち防戦一方に追い込まれ、荒い息をつき始める。

 二つの戦況を楽しそうに見つめていたノーザが、ラブとせつなの方に目をやって、ニヤリとほくそ笑む。
「ただ見ているだけで変身しないなんて、あなたたちも薄情ねぇ。それとも、本当はもう変身出来ないのかしら。だったら勝負は決まったも同然ね」
 悔しそうに睨み返すだけで、何も言えない二人。すると二人のすぐ後ろから、新たな声が聞こえた。
「さあ、それはどうですかね」

「ホホエミーナ! 我に力を!」
 新たな薄水色のダイヤが、瓦礫の山に突き刺さる。
「ホ〜ホエミ〜ナ〜! ニッコニコ〜!」
 ゴツゴツしたゴーレムのような姿の怪物が立ち上がり、その場にそぐわぬ明るい雄叫びを上げた。それと共に周りの瓦礫が次々に吸収されて、その体が見る見るうちに大きくなる。
 やがてソレワターセと同じくらいの大きさに成長したところで、ホホエミーナは太い両手を広げ、目の前の怪物に掴みかかった。

「サウラー!」
「どうやら間に合ったようだね」
 サウラーがせつなの隣に並んで、口元だけで小さく微笑む。その姿を、ノーザが忌々し気に見下ろした。
「あら、あなたも私に逆らうのね? サウラー君。でも、そんな間の抜けた物を作って、ソレワターセに敵うと思ってるの?」
 ノーザの言葉を証明するように、ソレワターセがホホエミーナを捕えて地面に叩き付けた。灰緑色の腕を槍のように真っ直ぐ伸ばし、とどめを刺そうと身構える。
 だが、サウラーは慌てる様子もなく、いつもの皮肉めいた口調でノーザに叫び返した。
「お生憎様。僕は一人ではないんでね」

「え? サウラー、それってどういう……うわっ!」
 怪訝そうに問いかけたラブが、驚いたように手で顔を覆う。突然、温かな空気が頬を撫で、視界が真っ白になったのだ。辺りにはもうもうと湯気が立ち込め、その向こうでソレワターセがよろよろと後ずさるのが、ぼんやりと見えた。さっきまでとは打って変わって、その体は萎れ、腕はへなへなと力なく垂れ下がっている。

「何だ。何があった! ……あっ」
 珍しく慌てたような声を出したノーザが、湯気の向こうに目をやって、驚いたように息を呑む。
 そこには一人の老人の姿があった。少々へっぴり腰ながら、その両手はしっかりと消防用のホースを握り締めている。彼の隣にはぐらぐらと沸く大鍋があり、ホースはそこに繋がっていた。

223一六 ◆6/pMjwqUTk:2017/01/15(日) 12:15:15
「なるほど、植物は高温に弱く、熱湯をかければ枯れるほどのダメージを受ける。植物から生まれたソレワターセも例外ではない、か。あなたの知識に助けられました」
「ええい、ただの人間の癖に、小癪な真似を!」
 サウラーの言葉を聞いて、ノーザが恐ろしい形相で老人を睨む。その視線はそのまま少女へと向けられた。
「何をしている。邪魔者を排除するのはあなたの仕事よ。早くそいつらを片付けなさい!」

「おっと。お前の相手は、俺たちだ」
 ソレワターセの方へ向かおうとするナキサケーベを、今度はウエスターのホホエミーナが体当たりで止める。
「ウォォォ〜!!」
 苦し気な雄叫びを上げたナキサケーベが、今度は短い腕をブンブンと振り回す。するそこから、タイヤ型の砲弾が次々と飛び出した。

「みんなが危ない!」
 ラブが思わず声を上げる。ナキサケーベとホホエミーナが戦っているすぐ後ろには、さっきまでラブたちが居た警察組織の建物があるのだ。ラブの声が聞こえたかのように、ホホエミーナが体を投げ出すようにして砲撃を受け止めようとするが、とても全部は止めきれない。
 やがて、弾のひとつが建物の近くに着弾して盛大な土煙を上げた。それを見て、せつなが素早く身を翻し、建物に向かって走り出す。そして、既に昨日までの襲撃によって壊されていた頑丈そうな門の残骸を見つけると、その一端を引き上げてその下に潜り込んだ。

「せつな!」
「何をする気だっ?」
 ラブに続いてサウラーが、ここへ来て初めて焦りの声を上げる。
「この建物の中には、避難してきた人たちがたくさん居るの。傷付けるわけにはいかない」
「よせ! 今のお前に砲弾を止められると思うのか!」
「やってみなきゃ……分からないでしょう? 私も……やらなきゃならないことを、全力で……やるだけよ!」

 せつなが渾身の力で門を押し上げ、大きな盾の代わりにする。その真ん中に、一発の砲弾が命中した。着弾の勢いに押されながらも、せつなは歯を食いしばって門を支え、後ろの建物を守ろうとする。

「……せつなっ!」
 あっけに取られて一部始終を見ていたラブが、ハッと我に返ってせつなの元へ駆け出そうとする。その肩を、誰かの手ががっしりと押さえた。
「ここは僕に……僕たちに任せて下さい」



 耳をつんざくような爆発音が、絶え間なく響く。強烈な硝煙の臭いと、全身の筋肉がしびれるような衝撃――。
 せつなは、盾にした門の残骸を必死で支え続けていた。
 彼女が立っているのは、避難者が居る会議室の前方に当たる場所。この重い盾を持って、動き回って砲弾を止めることは出来ないが、ここならば少なくとも彼らの居る部屋への被弾を防ぐ助けにはなるだろう。

(だけど……)

 門を支えている掌が、さっきからヒリヒリと痛んでいる。度重なる着弾で、門が次第に熱を持ってきているのだ。これ以上温度が上がれば、せつなには支えきれない。そもそも門が、盾としての役に立たなくなってしまうかもしれない。

(そうなる前に、何か……何か手は無いの!?)

 唇を噛みしめて、何か妙案はないかと思考を巡らせる。
 その時、ひときわ大きく苦しそうな雄叫びと共に、今までとは比べ物にならない数の砲弾が打ち出される音が響いた。

(駄目……そんな数は防ぎきれない!)

 せつなは全身を盾に預けるようにして支えながら、思わずギュッと目をつぶった。

 着弾音が、少し遠くから聞こえた気がした。最悪の予測が外れ、弾がこちらまで届かなかったのか――そう思いながら恐る恐る目を開けて、せつなの目がそのまま驚きに見開かれる。

 目の前に、いつの間にか銀色の長い壁が出来ていた。いや、それは壁では無かった。
 二十人、いや三十人は居るだろうか。揃いの警察組織の戦闘服に身を固めた若者たちが、やはり警察組織の大きな盾を手に、ずらりと一列に並んでナキサケーベの砲撃を防いでいたのだ。
 ぽかんと口を開けるせつなを、一人の若者が振り返る。それは、今朝ラブが作ったおじやの鍋を運び、配膳を手伝ってくれたあの少年だった。

224一六 ◆6/pMjwqUTk:2017/01/15(日) 12:15:46
「せつなさん、ありがとう。僕たちもやらなきゃならないことを、全力でやってみます」
 少年が、相変わらずぼそぼそとした口調でそう言って、ニッと照れ臭そうに笑う。そして次の瞬間、その顔がきりりと引き締まった。ナキサケーベの新たな呻き声が響いたのだ。
「みんな、少しでも隙間を空けると危険だわ!」
 せつなが門の残骸を放り出して、少年たちに向かって声を張り上げる。訓練は積んでいるが、こんな実戦経験など無い若者たち――そう思った瞬間、自然に体が動いたのだ。
「盾を少し斜めにして、隣の人の盾と半分ずつ重ね合わせるの。そうすれば、隙間は完全になくなるし、盾の強度も倍になる」
 少し低めのよく通る声が、若者たちに的確な指示を出す。やがて建物の前面全体を守る、頑丈な防御壁が出来上がった。

 せつなと若者たちの様子を眺めていたラブが、ゆっくりと笑顔になる。そして勢いよく走り出すと、ホースを構える老人の元へ駆けつけ、その手を取った。
「おじいさん、手伝うよ!」
「い、いや、これは……」
「ううん、手伝わせて。お願い!」
「あ、ああ……それなら、頼む」
 老人がラブの勢いに押されたように、こくんと頷く。その戸惑ったような顔にもう一度ニコリと笑いかけてから、ラブは老人と一緒にホースを支え、ぴたりとその先をソレワターセに向けた。



 少女が操るナキサケーベと、ウエスターのホホエミーナ、そしてナキサケーベの砲弾を防ぐ盾を担うせつなと警察組織の若者たち。
 ノーザが檄を飛ばすソレワターセと、サウラーのホホエミーナ、そしてラブと老人による援護射撃。
 一進一退の攻防を、幾つかの建物に潜むラビリンスの避難者たちは、固唾を飲んで見守っていた。

「思い出すな……。プリキュアの戦いを見た、あの日のことを」
「あの時も、私たちを助けてくれたのよね」
「でも、メビウス様が復活すれば、それもすべて終わりだ」
「それはそうかもしれないが……」
「でも、あの人たちは今、私たちを守るために戦ってくれている」

「私たちは、守られているだけ? それだけで何も出来ないの?」

 いくつもの力のない呟きが重なって、やがて一人の若い女性がそう言って人々の顔を見回す。すると、最初はバツが悪そうに顔を見合わせていた人たちの間から、少しずつ声が上がり始めた。

「砲撃を防ぐ工夫なら……僕たちにも出来るかもしれないな」
「確かにその方が、みんなも戦いやすいはずね」
「よし、ここにバリケードを築こう」
「じゃあ俺は、会議室の隅に片付けた机と椅子を持ってくる」
「私はあのおじいさんを手伝って、お湯を調達してきます」

 にわかに活気づいた雰囲気に押されるように、うずくまっていた人たちが、一人また一人と立ち上がる。
 戦いの様子を目の当たりにして、久しぶりに声を出し、言葉を交わす。そして何かをしようと駆け出していく。
 それは、せつなもラブも、ウエスターもサウラーも、勿論ノーザも少女もまだ気付いていない、ラビリンスに起こった静かな、しかし確実な変化だった。



「うっ……な、何をしている。そんなヤツ……うっ……さっさと倒せ!」
 暗紫色の茨が、一巻き、また一巻きと、少女の二の腕に絡み付き、締め付けていく。苦痛に耐えながらモンスターに檄を飛ばし続ける少女がふらりとよろめいて、ついにガクリと膝をついた。

「ああ……」
 老人が喉の奥から小さな悲鳴を吐き出して、少女から目を背ける。心配そうにその顔に目をやったラブは、その向こうに見えるせつなの様子に気付いて、さらに心配そうに眉根を寄せた。

 せつなの右手が、小刻みに震えている。拳を固く握り締め、片時も目を離さずに、苦しむ少女の姿を見つめている。
 しばらくその様子を眺めてから、ラブもグッと唇を引き結んだ。


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