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『劇場版プリキュア』を楽しもう!

207ゾンリー:2021/11/23(火) 22:32:06
「ふふ、今ね、みんなで旅行行きたいねーって話してたんだぁ。ちゆちゃんとひなたちゃんは何処に行きたい?」
 一階へと戻りながら、話を広げるのどかちゃん。意外なことに、二人とも即決だったみたいで。
「私は兵庫。温泉の有名どころは抑えておきたいもの」
「はいはいはいはい! 私はねー福岡! だって美味しいものいっぱいあるんでしょ〜、行ってみたいよねぇ」

 旅行の話は尽きないけど、玄関ではみんなが蝋燭と水入りのバケツを用意してお待ちかね。
「カグヤお姉ちゃーん」
「はーい! みんな行こ」
「よっしゃ花火だー!」
 各々好きな色の花火を手に取って、火をつける。鮮やかな閃光とともに、火薬の匂いが鼻孔をくすぐった。
「ねぇ、次はこれやってみない?」
 私が取り出したのは花火の代表格、線香花火。カラフルな「こより」といった風体のそれを、私は三人に手渡した。
「じゃあ誰が一番長く残せるか勝負だ!」
「またー? 二連敗しても知らないわよ?」――

 あの後、案の定二連敗を記したひなたちゃん。楽しい時間ほどあっという間に過ぎて行って、心地よい疲労感とともに迎えた、引っ越し当日。
「カグヤお姉ちゃん……ほんとに行っちゃうんだね」
「うん……ごめんね」
 通いなれたアパートの階段。その裏側で、りりちゃんの頭をそっと撫でる。
「ううん、大丈夫だもん!」
(本当に、強い子だなぁ)
 りりちゃんの目じりに浮かんだ水滴(なみだ)。私はそれを小指で拭って、ポケットから取り出した花のヘアピンを、そっと彼女の前髪に付けた。
「……!」
「よく似合ってるよ」
 スマホの内カメラでりりちゃんを映す。「なんだか自分じゃないみたい」とはしゃぐ姿に、一安心。
「それじゃ、行くね」

「待って!」

 そんな私を呼び止めたのは、りりちゃんでも、りりちゃんのお母さんでもなく……
「のどかちゃん! ちゆちゃんにひなたちゃんも!」
「よかったぁ間に合って」
 三人とも息が荒く、ここまで急いできたことが伺える。
「もー、ひなたが遅刻するから……」
「ほんっとゴメン! 作ってたら夢中になっちゃってさ」
「作る?」
 不思議そうに首を傾げる私に、ひなたちゃんは一冊のノートを差し出した。
「これ、私流のファッションアレンジまとめてみたんだ! 開けてみて」
 ページを開くと、昨日のファッションショーで着たコーディネートの解説が。蛍光ペンでアンダーバーが引かれてて、とってもわかりやすい。
「次は私。これ、よかったら車の中で食べて」
 ちゆちゃんから受け取ったのは、風呂敷に包まれたお弁当箱。中身を聞いたら「開けてからのお楽しみ」ってはぐらかされちゃった。
「私、ちゆちゃんみたいにお料理上手じゃないし、ひなたちゃんみたいにファッションセンスもないから……これ」
 のどかちゃんからは、淡い桃色のお花があしらわれたフォトフレーム。その中を見ると、写真の代わりに手紙が入っていた。
「は、恥ずかしいから車の中で読んでほしいな……」
「……うん。ありがとう」
 感情が高ぶって、うまく言葉が出てこない。本当はもっと、素敵なこと言えたらよかったのに。
「ねぇ、フォトフレームなんだから、みんなで写真撮らない?」
 そう提案した私は、お母さんにカメラを起動したスマホを渡して、皆のもとへ駆け寄る。
「ほら、もっと寄って寄って!」
 おしくらまんじゅう状態に固まった私たち。
 お母さんがスマホを構えると、全員でおそろいの横ピース! 図らずも全員っ被ったそのポーズにひとしきり大笑いして、ようやく踏ん切りがついた私は、大きなリュックを背負い車へと歩き出した。
 
 
 
 
「みんな……またね!」

208ゾンリー:2021/11/23(火) 22:32:39
 来た時よりも多くなった荷物に後部座席を占領されながら、自動車が緩やかな坂を上っていく。ずっと手を振ってくれていた皆もすぐに見えなくなって、カーオーディオから流れ出す懐メロがなんだかやけに胸に響いた。
 ちゆちゃんからもらったお弁当(豪華な天むすだった!)を二人で平らげて、きちんとお手拭きで手を拭いてからフォトフレームの手紙を取り出す。
『カグヤちゃんへ
 一緒に過ごしたこの三週間、良い思い出が多すぎて、いきなり何を書こうか迷っています。
 東京でカグヤちゃんに出会って、色んなことがあって。こうしてまた会えたことが何よりも嬉しかったです。ぎゅうぎゅうのベンチで一緒にお弁当食べたり、めいさんのカフェでプチパーティしたり、小テストの点数で勝負したり、ファッションショー開いてもらったり、ってほんとにキリがないくらい。だから、カグヤちゃんとのお別れは少し……ううん、とても寂しい。
 
 そうだ、このフォトフレーム、自分で作ってみたんだ。ダイヤモンドリリーっていうお花なんだけど、カグヤちゃんの髪の色とそっくりなんだ。花言葉は……自分で調べてみて!
 
 最後になっちゃったけど、体に気を付けて、元気で過ごしてね。カグヤちゃんの行く先が、希望と夢にあふれていますように。
花寺のどかより』


 彼女の声で再生されるその手紙に見つけた、三粒ほどの小さな水シミ。それを優しくなでていると、私の頬をツーっと何かがつたっていく感覚。それが涙だと分かった途端、目頭が熱くなった。
 
(おかしいな? ちゃんと笑顔でお別れできたのに。ちゃんと……またねって言えたのに)
 せっかくもらった手紙に、一つ、二つと新しいシミが増えていく。だんだんと潤んでいく視界に、太陽の光がやけに眩しく突き刺さって。

「……コンビニで、写真プリントアウトしていくとするか」
「うんっ……!」


 三週間ぶりの懐かしい制服に袖を通して、これまた懐かしい通学かばんを手に取る。
「お母さーん、私先行くね〜」
 棚の上に置かれた、「また会う日を楽しみに」の花言葉を冠した花のフォトフレームに入れられた三週間前の写真。私はあの時の感覚を思い出しながら、使い古したローファーに履き替えた。
「行ってきまーす!」
 ドアを開けた途端に、歓迎するような陽光。それを体いっぱいに浴びながら、階段を下っていく。

 高く、どこまでも続く青空と、これからまた始まる青春。それらに想いを馳せながら、私は精一杯の握りこぶしを突き上げて、走り出した。

「生きてる……って感じー!」

 (終)

209ゾンリー:2021/11/23(火) 22:33:18
以上です。ありがとうございました!

210名無しさん:2021/11/30(火) 01:36:19
読んだー!
丁寧な描写でカラフルな世界が広がる、って感じです。
最初から最後まで、一本筋が通っているのが凄いと思いました。
次回作も楽しみにしています!

211makiray:2023/01/10(火) 20:29:03
ご無沙汰しています。
年も改まり、デパプリがラストに向けて盛り上がっている中、昨秋の映画『夢みるお子さまランチ』でキュアエコーを活躍させるお話をお届けします。
タイトルは“Juvenile”
11 スレ、お借りします。

212makiray:2023/01/10(火) 20:31:16
Juvenile (01/11)
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〈コドモイガイハ ハイレマセン〉
「え…?」
「どういうことですか?」
 坂上あゆみはその声に振り向いた。
 ドリーミア。
 子どもたちのための、おいしい料理とエンターテイメントの楽園。おいしーなタウンの近くにオープンした夢の遊園地に、学校の友人とともにやってきたが、その入園ゲートで、聞き覚えのある声を耳にした。
〈コドモイガイハ ハイレマセン〉
「私は小学生です。入れないとはどういうことですか!」
「亜久里ちゃん」
 声を上げているのは円亜久里だった。隣で困惑しているのは、友人の森本エル。
 ちょっと待ってて、と仲間から離れる。あゆみは亜久里に駆け寄った。
「どうしたの」
「あゆみ…」
 一瞬、笑顔になりかけたが、亜久里は視線を入園ゲートのアテンダント ロボットに戻した。
「私を小学生だと認識してくれないのです」
 ロボットを見る。目が合うと、そのロボットは〈ヨウコソ、ドリーミアへ〉と言った。あゆみは「子ども」に分類されたようだった。
「お友達は?」
「エルちゃんは大丈夫でした」
 小さくうなずくエル。
「さぁ、もう一度、確認なさい。最後のチャンスですわ」
 その意味を理解したのか、ロボットはやや時間をかけて亜久里をスキャンした。
〈コドモイガイハ ハイレマセン〉
「もう結構! 世紀の発明家・ケットシーの技術力も大したことありませんわね。
 あゆみ、エルちゃんをお願いします」
「亜久里ちゃん!」
「私は入れませんが、エルちゃんはドリーミアに来るのを楽しみにしていたので」
 あゆみはエルを見た。エルはあゆみを見てはいなかった。
「私は嫌だよ」
「でも」
「亜久里ちゃんと一緒に来たかったんだもん!」
 はっきり言う様子に、あゆみはいくらかのうらやましさを感じた。
「エルちゃん…」
 ふたりは、かすかに目元を潤ませながら、お互いを見ている。あゆみは静かにそこを離れ、友人たちのところに戻った。
「どうしたの?」
「私の友達なんだけど…ロボットが子どもじゃないって言い張ってて、入れないんだって」
「えぇー」
「しっかりしろよ、ケットシー」
「私、心配だから送ってく」
「え、帰っちゃうの?」
「うん…ちょっとほっとけない」
 振り向くあゆみ。亜久里がエルの涙をぬぐっていた。
「…だね」
「ごめんね。また誘って」
「おう。それが大人の務めってもんだな」
「ありがとう。
 あ、それから」
 あゆみは友人たちを見つめた。
「みんなも気をつけて」
「何に?」
 想像もしなかったからか、三人が同じことを言った。
 自分でもなぜそんなことを言ったのかわからない。しかし、かすかな胸騒ぎがした。
「え、っと…いよいよ食べるぞー、っていう時に、やっぱり中学生は大人だ、とか言い出すかもしれないし」
「あー、そうだねー」
「デジタルは信用できんなー」
「じゃ」
 戻る。お互いに涙を拭き終わった亜久里とエルはもう歩き始めていた。
「あゆみ、あなたは別に」
「うん。また来ることにした」

213名無しさん:2023/01/11(水) 00:50:24
>>212
おお、makirayさんのキュアエコーが活躍する映画SS、キター!
これは続きが楽しみです。
「亜久里ならなぁ……」
と思わず頷いてしまうヒドい大人がここに……

214makiray:2023/01/11(水) 20:02:18
Juvenile (02/11)
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 ここはおいしーなタウンだし、何か食べていこう、と言ってみたが、エルはすっかり意気消沈していた。亜久里が拒絶されたことが相当にショックだったらしい。そのまま帰りの電車に乗った。あゆみは何度か、エルの気を紛らわそうと話しかけてみたが、元気のない返事が返ってくるだけだった。亜久里とエルは、黙って手をつないでいた。
 大貝町のエルの自宅まで送り届ける。早すぎる帰宅に母親は驚いていたが、あゆみが「システムエラーで入れなかった」と説明すると、「まったくデジタルはねぇ」と、友人と同じことを言った。
 次は、亜久里を送り届けて、と思っていると、亜久里が口を開いた。
「あゆみ、グレルとエンエンはどうしていますか?」
「家で留守番しているけど」
 友人たちと遊びに出かけるときは連れて行くわけにはいかない。それはいつもの約束ではあるのだが、今回は説得に手間がかかった。ふたりとも「お子様ランチ」には大いに興味があるようだった。
「一緒にドリーミアへ行きませんか?」
「え?」
「確認したいことがあるのです」
 グレルとエンエンのことを聞いたのはなぜか。プリキュアの力が必要になるかもしれない、と考えているからだ。何が、と言われれば困るが、自分も胸騒ぎを感じたのは事実だった。
「実は今日、クローバータワーでイベントがあって、みんなそちらに行っているのです。私はエルちゃんとの約束があって行けなかったのですが」
「ひょっとしてアイちゃんも…」
「はい」
 亜久里の表情が厳しい。つまり、亜久里は今、キュアエースになれない。
「お願いできますか」
「うん」

 母親は仕事で家にいないので、どうしたの、と聞かれることもなかった。あゆみは、グレルとエンエンが飛び込んだトートバッグを肩にかけてすぐに家を出た。
「久しぶりですわね、グレル、エンエン」
「元気だったか?」
「おかげさまで。フーちゃんもそこにいますわね」
〈フーちゃんはいつもあゆみと一緒〉
 あゆみの襟のエコーキュアデコルが輝いた。
「何があったの?」
 グレルは、どうやらお子様ランチが食べられるわけではなさそうだ、ということに気づいてがっかりしていたが、エンエンは心配そうな声だった。
 電車の中、ほかの客から離れたシートに座ると、亜久里は小さな声で言った。
「実は、ありすが以前から、おいしーなタウンが気になる、と言っていたのです」
「ありすちゃんが?」
「新しい仲間がいる可能性を指摘していました」
「仲間――って」
 その単語を声に出して言うわけにいかず、あゆみは口だけで「プリキュア?」と言った。
「ドリーミアの開園はいいチャンスでした。私はその偵察もかねて向かったのですが…的確過ぎました」
「何が?」
「私が子どもではない、という判定をしたことです」
 もう一度、亜久里を見る。
 円亜久里は、トランプ王国の王女、アンの魂だ。この世界の人間ではない、そして、一度は大人だったことがある。
「レントゲンを撮ったところで、それがわかるわけではありません。
 ですが、この世界のものではない技術、あるいは魔法、魔術のようなものがドリーミアを成立させているとしたら、私という異質な存在を検知――」
 あゆみは亜久里の手を握った。強く。
「ありがとうございます。心配してくれたのですね」
「だって」
「あゆみは大人ですね」
「そんなことない」
「いえ。せっかく友達と一緒に遊びに来たのに、私やエルちゃんのことを心配して一緒にいてくれる。立派なレディです」
「…」
「あなたが友達についてどういう経験をしたかは私も聞いています。その約束をくつがえすのが大変なことだ、ということもわかります」
「私は」
「俺たちもついてるだろ」
「ちょっと、グレル」
 バッグからぬいぐるみがこぼれた、というふりをしてグレルとエンエンが亜久里の膝に乗った。あゆみは慌てて周囲を見回したが、誰かが気付いた様子はなかった。走っている電車の中のことで、ぬいぐるみがしゃべっているところを聞かれてもいないようだった。
「元気出してよ、亜久里ちゃん」
〈フーちゃんも亜久里の友達〉
「ありがとうございます」
「アイちゃんがいなくて寂しいだろうけど、今日は俺が相手してやるからよ」
 いい加減にしなさい、とあゆみはグレルをコツンとやった。亜久里が笑った。

215makiray:2023/01/12(木) 20:23:34
Juvenile (03/11)
----------------
「開かない…」
 あゆみはドリ―ミアの門の大きな扉を何度か動かした。びくともしない。
「ランチタイムが終わった、というわけでもないでしょうに」
「あれ…なんだろう」
「ぬいぐるみでしょうか」
 ゲートのところにいくつもぬいぐるみのようなものが落ちている。売店で売られていたのだろうか。それがなぜゲートに。あんなにたくさん。
「何かが起こっていると考えるべきでしょうね」
「子どもたちは?」
 目を凝らす。ゲートの向こうでアトラクションが動いているのは見える。だが、そこに人が――子どもたちがいるかどうかはを見極めるには遠すぎた。
「変身すれば飛び越えられそうだけど」
 ふたりは高い塀を見上げた。
「それしかないでしょうね」
「お、行くか?」
 グレルはなぜか嬉しそうだった。
「まずは上空から偵察がいいと思います。いきなり入るのは危険です」
「わかった。フーちゃん、グレル、エンエン、お願い」
 あゆみとグレルとエンエンが成す三角形を、エコーキュアデコルからほとばしるフーちゃんの光が満たす。その光がはじけ飛ぶと、あゆみの姿は、長いツインテール、草色の飾りが走る白いドレスの、キュアエコーに変わっていた。
「思いよ届け。
 キュアエコー」
「気をつけて」
 光の力の助けを借りてジャンプ、キュアエコーはドリーミアを一望できる高さにまで飛び上がった。
「?」
 ドリーミアの敷地に赤い点がいくもか浮かぶ。
「エコー、ロボットが!」
 亜久里の声。ゲートの隙間から、入口にいたアテンダント ロボットよりははるかに屈強なロボットたちが見上げているのが見えた。その目が赤く光ったかと思うと、ロボットたちは腕を上げた。
「!」
 その腕が飛んでくる。手は不気味に開閉を繰り返し、キュアエコーを拘束しようと迫ってくる。キュアエコーは身軽にかわしはしたが、数が多かった。よけきれず、手や足、体にぶつかってきた。ついにはバランスを崩し、地上に落下した。
「エコー!」
 亜久里が駆け寄る。グレルが亜久里の腕から飛び降り、キュアエコーの腕をとらえた機械の手をいつもの剣で叩くと、それはパカっと開いて外れた。
「隠れましょう」
 亜久里が駆け出す。キュアエコーがその後を追う。エントランスから遠く離れた岩場の陰に隠れると、ロボットの手はふたりを見失ったようで物音も聞こえなくなった。
「警備ロボットまでいるなんて」
「悪いことをしていると白状したようなものですわ」
 ということは、いきなり戦い、ということになる。自分がどこまで役に立つかは疑問だ、とキュアエコーは思った。
(キュアエコーは戦うプリキュアじゃない。だとしたら)
 中に入って状況を確認する。もし「敵」があの中にいるのなら、その思いを捉えたい。これまでだって、害をなす存在がすべて「敵」なわけではなかった。こちらの「思い」を届けて、あちらの「思い」を受け入れれば、戦わずに解決することはできるかもしれない。
「どうしたの?」
 亜久里が首を振っていた。
「マナたちに連絡が取れないかと思ったのですが、圏外です」
「圏外?」
 道や時間を確認するために何度もスマートホンを見ている。さっきまでは使えたはずだった。
「電波妨害を始めたのでしょう。さすが世紀の発明家、手抜かりはありませんわ。
 ということはやはり、私を排除したのは、子どもかどうかということではなかった、と考えるべきでしょう」
「私は子どもだったんだ」
 キュアエコーは笑ってみせた。
「変身していなかったのですからね。現に、今は攻撃対象となっています」
 亜久里は岩陰からわずかに顔を出した。門のあたりにロボットたちが立っている。
「帰ったかも、とは思ってくれないようですわね」
「亜久里ちゃんは、やっぱり大人だね」
 落ち着いている。
 当然だ。亜久里はトランプ王国の守護神、アン王女なのだから。
「いいえ」
 言下に否定する亜久里。頼りにしている、と続けるつもりだったキュアエコーは言葉を失った。
「今は無力な子どもに過ぎません。足手まといになっています」
「そんなこと」
「私がいなかったら、キュアエコーは中の敵と思いを通わせるためにとっくに突入していたと思います。あなたにはそういうところがあります」
「うん…」
 それがいい結果をもたらし得たかどうかは難しいところですが、と小さな声で言う。

216makiray:2023/01/13(金) 20:10:55
Juvenile (04/11)
----------------
「やっぱり子どもだなぁ…私」
「まっすぐ突き進むことが必要なこともあります」
「亜久里ちゃんに指示してほしいな」
「私など」
「頼りにしてる」
 ふたりは見つめあい、やがて微笑んで拳を合わせた。
「おいおい、仲間外れかよ」
「僕たちもいるんだよ」
「頼りにしろよな」
「うん」
 その上にグレルとエンエンの小さな手が載せられる。デコルも明滅し、フーちゃんの気持ちを伝えてきた。
「それにしても、やはり中に入りたいところですわね」
「うん――亜久里ちゃん!」
 キュアエコーは突然、亜久里を抱き寄せた。その小さい体を放り投げるようにして入れ替わると、ロボットが降り下ろした手を両腕で受け止めた。
「!」
 手首から激痛が走った。だが、引かない。一度、体を下げると、足のパネでロボットを跳ね上げた。
「プリキュア ハートフル・エコー、コルティーナ!」
 両手から広がる光がカーテンのようになり、続々と押し寄せてくるロボットたちを食い止める。
「エコー!」
「逃げて!」
 振り向く亜久里。岩の隙間や切れ目をたどって上に登る道が見えた。
「上に逃げるのは得策ではないのですが、止むをえませんわね」
 グレルとエンエンをカーディガンのポケットに収めるとそれを上り始める。岩を二つよじ登ると振り向いた。
「エコー、早く!」
「やぁっ!」
 光の力ーテンを押しやる。ロボットたちがガラガラと倒れていった。亜久里の後に続く。岩はやがて土の獣道となった。しばらく進むとふたりは止まり、息を整えた。
「追ってこないね」
「あの図体でこの山道は無理でしょう。あるいは、細身のロボットと交代、ということはあるかもしれません」
「そうだね」
 油断はできない、と辺りを見回すキュアエコー。
「腕は大丈夫ですか?」
「うん」
 キュアエコーは赤く腫れた腕に手を当てた。亜久里に見せないように隠しているようにも見えた。
「…」
「地震?」
 思わず体を低くする。長い。
「エコー、あれを!」
 亜久里が指さす。木々の間を透かして、カラフルな色が揺れている。左右だけでなく上下にも。それはまるで暴れているようだった。
「ドリーミアが」
「テーマパークが巨大ロボット…!」
 高い壁はさらに強固になって隙間を埋め、手と足が生えている。それが踏み出すたびに、足元が揺れた。
「…。
 まりちゃん。
 みなちゃん、めいちゃん!」
 キュアエコーが突然、叫ぶ。
「一緒にいらしたお友達ですか」
「あの中に、みんなが!」
 足を進めようとするキュアエコー。まだ揺れる地面がそれを阻んだ。それでも立ち上がり駆け出そうとする。亜久里もバランスを崩しそうになり、ポケットからスマートホンがこぼれた。
「お待ちなさい!」
「だって!」
「落ち着いて。電話番号を覚えていますか」
「電話?」
 何を言っているのかわからない。

217makiray:2023/01/14(土) 20:24:13
Juvenile (05/11)
----------------
 このタイミングで電話とは。堂々巡りしているうちに揺れは収まった。
「電波が戻っています」
 亜久里がスマートホンを見せた。
「あの形態になったことでエネルギーが必要になったとか、そんなところでしょう。であれば、お友達に電話してみる価値はあります」
「でも」
「パニックになって出られない、ということはあるかもしれません。でも、出てくれるかどうか、それが一つの情報になります」
「…うん」
「どなたでも構いません。思い出せますか」
「え、と。0…0」
「深呼吸して。落ち着いて」
 いつも電話帳から名前で呼び出してかけるから、そもそも覚えているのかどうかも怪しい。だが、友人たちの中で、スマホを手に入れるのが最も遅かったのがあゆみで、何度も公衆電話からかけた。思い出せるはずだ。目を閉じ、その時のことを思い出しながら、キュアエコーは 11 桁の番号を言った。
「これで間違いありませんか」
 亜久里が見せた画面の数字を、声に出して読む。キュアエコーはうなずいた。
「かけます。
 もしもし」
 電話があっさりつながったことにはどちらも驚いた。
《えーと、どちら様》
 亜久里の耳に、朗らかな、というよりは楽しそうな声が飛び込んできた。
「円と申します。さきほど、坂上あゆみさんに送っていただいて」
《あー、ケットシーに意地悪された子》
「皆さんにご迷惑をおかけしたので、お電話しました。あゆみ…さんの電話はなんだかバッテリーが切れたようで」
《あ、そうなんだー。わざわざありがとうねー》
 亜久里は、その明るさが理解できないまま、スマホをハンズフリー モードに切り替えた。キュアエコーに目くばせする。
「まりちゃん?」
《あー、あゆみちゃん。無事にお努め果たした?》
「うん。そっち――みんな、どうしてるの?」
《楽しいよー。今はね、スペシャル イベントで気球に乗ってる》
「気球?」
 360 度を見回す。エンエンが、あれじゃない? と指さした。
「どこに向かっているのですか?」
《んー、聞いてないけど、なんか海の方に向かってるね》
 間違いない。あの気球だ。
「楽しそうですわね」
《楽しい! 今度、あなたも一緒に行こうよ》
「是非、お願いしますわ」
 通話を終えると、亜久里とキュアエコーはうなずきあった。理由はわからないが、ドリーミアは巨大ロボットに変形する前に、子どもたちを排除したのだ。
「戦いの邪魔になると思ったのかもしれませんわね。人質にされなくてなによりです」
「ドリーミアを止めよう」
 ドリーミアだった巨大ロボットは地面を踏みしめながらおいしーなタウンに向かっている。キュアエコーと亜久里は、警戒しながら来た道を戻り始めた。今となっては小型と言うことになってしまうロボットたちは見当たらないが、右側はドリーミアが巨大ロボットに変形した影響で崖になっていた。
「掴まりながら行きましょう」
 左側の木やツタを、引っ張って抜けないことを確認してから、しっかりと握って降りる。気は急くが、とても走り下りることができる状態ではなかった。
「…」
 ふたりは同時に立ち止まった。振動を感じる。音はしない。かなり先を行っているドリーミア ロボットの足音だけだ。ほっと息をつく。
「!」
 突然、足元が抜けた。キュアエコーの長いツインテールの先に、遥か地上の土が見える。足元の岩がすべて崩れ落ちた。
「亜久里ちゃん!」
「エコー!」
 背一杯、手を伸ばす。亜久里の小さな手を握った、と思った瞬間、キュアエコーの手に激痛が走った。ロボットの攻撃を受け止めたところだ。歯を食いしばる。だが、力が弱まった一瞬で、亜久里の小さな手はキュアエコーの手を滑りぬけていった。

218makiray:2023/01/16(月) 21:34:24
Juvenile (06/11)
----------------
「亜久里ちゃん!」
 キュアエコーの体も後を追いかけるように落下していく。だが、どれだけ手を伸ばしても、亜久里には手が届かなかった。
「プリキュア ハートフル・エコー、コルティーナ!!」
 光のカーテンがブランケットのように亜久里の体を包む。それがクッションになってくれれば。
 亜久里は、体が暖かなぬくもりで包まれている、と感じた。
 一瞬、転落の恐怖を忘れそうになる。―直線に落下していた体がゆっくりと回転し、仰向けになったとき、光のカーテンの向こうに見えたキュアエコーの姿に亜久里は息をのんだ。
 キュアエコーは目を閉じている。腕や足に力が感じられない。そして胸元の宝石の光が弱い。
「エコー!」
「あいつ…加減を考えろよ」
「エコー、目を覚まして!」
 グレルもエンエンも叫ぶ。だが、声は届かない。キュアエコーも答えない。
「グレル! エンエン!」
「え…?」
「私に力を貸してください」
「どうしたの?」
「キュアエコーの光を分けてもらって、今、私の中に力がみなぎっています。
 後は、妖精の力があれば」
「俺たちに、アイちゃんの代わりをやれって言うのか?」
「疲れていますか」
「そんなことないよ。でも」
「できるのかよ?!」
 わからない。キュアエースは、ほかのプリキュアとは違う。アンの魂である亜久里が、アンの肉体であるアイの力によって変身するのだ。
 それに、グレルとエンエンはキュアエコーの妖精である。だが、初めからキュアエコーの妖精だったのではない。ほかのプリキュアに力を貸すことはできないか。
「お願いします」
「無茶だろう」
「助けたいのです!」
 亜久里が叫んだ。それは悲鳴だった。
「あゆみと!
 あゆみの友達と!
 子どもたちを、助けたいのです!」
「亜久里ちゃん…」
「こんな、なにもできない子どものまま終わるのは嫌です!
 私をプリキュアにしてください! お願い!」
 グレルとエンエンは、カーディガンのポケットから這い出してきた。力強くうなずきあい、手をつなぐ。
 そして、グレルの右手は亜久里の左手に、エンエンの左手は亜久里の右手に。
「!」
 その新たなトライアングルを新たな光が駆け巡る。三人の胸に確信が生まれた。
「行けるぞ」
「変身だ!」
「プリキュア ドレスアップ!」
 いつもとは異なる純白の光をまとう亜久里。まばゆく輝くドレスに、真紅の髪の毛が重なった。
「愛の切り札、
 キュアエース!」
 落ちてくる岩を足掛かりにジャンプする。
「エコー!」
 キュアエースはキュアエコーの体を抱きしめた。息はある。
(よかった…)
 再び、岩の急流を渡り、ドリーミアがあった場所に降り立つ。中央部は大きな沼になっていた。浜にあたる場所に、キュアエースはキュアエコーの体をゆっくりとおろした。
「エコー」
「…。
 あ」
 キュアエースに触れていた短い時間で、力を取り戻したらしい。キュアエコーはすぐに目を覚ました。
「エース!」
「ありがとう。助かりましたわ」
「変身できたの?!」
「はい。
 グレルとエンエンが力を貸してくれました」
 横でグレルとエンエンが胸を張っている。

219makiray:2023/01/17(火) 21:03:18
Juvenile (07/11)
----------------
「すごい…」
「さすがですわね」
 ふたりに向かってほほ笑むキュアエース。
「あれ…でも」
 キュアエコーはゆっくりと立ち上がった。キュアエースも続く。
「いつもと違うような気がする」
「そうですわね」
 キュアエースはドレスの裾をもって軽く振ってみた。
 真っ赤な髪はいつもの通りだが、スカートがブラウンだった。そして白いドレスの縁取りはクリーム色。
「宝石も違う」
「え?」
 キュアエースは水際に駆け寄った。自分の顔を映してみる。
「本当ですわ」
 髪飾りの宝石はひし形、胸元の宝石はハートだったが上下が違う。
「あ」
「?」
「グレルとエンエンの模様だ。額の」
「ということは、このブラウンとクリーム色も」
「そうだよ」
「すごいですわ、グレル、エンエン!」
 キュアエースはいつもと違う装いになっていることを純粋に喜んでいるようだった。むしろ、グレルとエンエンの方が、何がそんなにうれしいんだ、という顔をしていた。
「では、参りましょうか」
 表情を引き締める。巨大ロボットとなったドリーミアはおいしーなタウンに向かっている。止めなければ。
 高いジャンプ。キュアエコーからキュアエースへ、キュアエースからキュアエコーヘバトンのように渡された光の力は、そのたびごとに増幅されていたとでもいうのか、キュアエコーに疲労の色はなかったし、キュアエースにもぎこちなさはなかった。
「もうすぐです」
「うん――えっ」
 突然、ふたりの目の前からドリーミアが消えた。
「…これは」
「気球も」
 海の方に向かっていた気球も姿が見えなくなった。
「みんな」
「エコー、待って」
 キュアエースが言い終わらないうちに、キュアエコーの体は何かにぶつかったように弾き飛ばされた。再びキュアエースに抱きかかえられる。
「大丈夫ですか」
「何…今の」
 キュアエースは足元の石を投げてみた。それは、何の音もたてず、だがキュアエコーと同じように跳ね返された。
「何か…ありますわね」
 ゆっくりと歩いていくふたり。抵抗があった。
 何が見えているわけではない。見回しても、さっきと同じ森が続いているだけだ。だが、進もうとすると押し返そうとする力を感じる。
 グレルはキュアエースの肩に飛び乗ると剣を抜いた。
「気をつけてくださいね」
「心配すんな」
 剣が届くように半歩、前に出るキュアエース。グレルが剣を突き出すと、その先端が消えた。グレルが慌てて剣を引っ込めると、元の長さに戻った。折れたり欠けたりはしていない。
 その剣が消えたポイントにそっと手を当ててみる。やはり何かある。ゆっくりと手を伸ばしてみると、キュアエースの手が見えなくなった。同じように慌てて引く。これも何も起こらなかった。
「空間が歪められているとか、そういうことでしょうね」
「異次元、とか?」
「おそらく。
 ドリーミアはこの向こうにいるのでしょう」
「気球も一緒に」
 うなずくキュアエース。
「行こう」
「お待ちなさい」

220makiray:2023/01/18(水) 21:19:09
Juvenile (08/11)
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「みんな、私の友達も、子どもたちもみんな、この中に閉じ込められている、ってことなんでしょう?」
「わかりません」
「でも、今」
「ドリーミアは、閉じ込められているのかもしれませんが、自分の本拠地に逃げ込んだのかもしれません」
「だったら、今すぐ行かないと」
「さっきも言ったはずです。無闇に突入するのは危険――」
「私は、行く」
 反論しようとするキュアエースを無視してキュアエコーはつづけた。
「ドリーミアが捕まっているとしても、ドリーミアの本拠地だとしても、子どもたちはいるべき場所にいるんじゃない、ということに変わりはない」
「…」
「私はみんなを助けに行く」
 キュアエースはキュアエコーを見ていた。睨んでいるようでもあったが、キュアエコーは譲らなかった。
「わかりました。ご一緒します」
 エンエンがエコーの肩に乗ると、キュアエースとキュアエコーは手を伸ばした。中指の先が見えなくなる。
「私の感触で、証拠があるわけでないのですが」
 キュアエースが言った。
「悪いものではない、という気はします」
「うん」
 それはキュアエコーも感じていた。
「違和感はあります」
「うん」
「例えていうなら、同じ『光の使者』である、ほかのプリキュアと出会った時のような。同じではないけれども、大きく違っているわけでもない、という感じと言えばいいでしょうか」
「それは私にはわからないな」
 キュアエースは空いている右手で、キュアエコーの空いている左手を取った。それは、キュアエコーがどこのチームにも属していないからだ。
「今は、私があなたのパートナーです」
「新ユニットだね」
 エンエンが笑顔で言った。
「エコーとエースだから、『えぇコンビ』でどうだ」
「グレル…」
「この状況でダジャレとは、余裕ですね」
 苦笑するふたり。
「だから、大丈夫です」
「うん。
 行こう」
 一歩。視界から森が消えた。代わりに、様々な色の光が乱舞していた。オーロラの中に入ったらこうだろうか、と思われた。
 だが、体が浮いている感じはない。森の下生えの感触ではないが、しっかりと前に進むことはできる。
 正面から真昼の日差しが差し込んできた
「あそこですね」
「待ってて…みんな」
 ふっと、オーロラが消える。出るときには何の抵抗もなかった。
「え?」
 そこに広がっていたのはまったく予想外の光景だった。
「砂漠?」
「テレビで見たような…」
 一面の砂。それを取り囲む、岩肌の露出した崖。ここは、一体、どこだ。
「いたぞ!」
「気球もいる!」
 その疑間を吹き飛ばす、グレルとエンエンの声。
 キュアエコーとキュアエースの目は、その中間に注がれていた。きらきらと光を反射しながら、ドリーミアに挑むその姿は。
「プリキュア?」
「プリキュアです!」
 四葉の調査網が捉え、ありすが気づいた、新しい仲間。彼女たちがドリーミアと戦っている。

221makiray:2023/01/19(木) 21:01:18
Juvenile (09/11)
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「何人いるんだ?」
「1…2…3…わかんないよ」
 激しく動いているため数えられない。エンエンは諦めてしまった。
「ペアを組んでいるようですね。四組…?」
「地上にもいるみたいだね」
「プリキュア教科書を書き直さないと」
「何ページ使うつもりだよ」
「参りましょう」
「うん」
 走り出す。
 プリキュアの戦いがはっきり見えるようになってくる。やがて、キュアエコーは足を止めた。キュアエースも止まる。
「どうしたのですか?」
「なんか、戦い方が…」
「私も気になっていました」
 全員で当たっているわけではなく、一組のプリキュアをドリーミアにたどり着かせようとしているように見える。ほかのメンバーはその援護をしている、という様子だ。
「どういうことでしょう」
「思いを届けようとしてるのかな…」
 キュアエースはそう言ったキュアエコーを見た。そして、うなずく。
 何度も見てきた。悪事をなすものがすべて敵とは限らない。この巨大なドリーミアもそうなのではないか。
「であれば、キュアエコーの出番ではありませんか」
「おい、ちょっと」
 グレルが空を指さす。見上げたエンエンが恐怖にひきつった声を上げた。
「空が割れている…!?」
 砂漠に似つかわしい強い日差しで埋め尽くされた真っ青な空に、黒いひびが入っている。そこから崩れ落ちてくるのではないか、とエンエンはキュアエコーの首に縋りついた。
「この空間が壊れ始めているのかもしれませんね」
 誰が、なんのために作った空間なのかはわからない。しかし、百メートル単位の直径を持つあのドリーミアが暴れているのだ。何らかの影響を受けているとしても不思議ではない。そういえば、ドリーミアが足を踏み下ろしたときの振動が強くなっているような気もする。
「支えよう」
「どうやって」
「エースが言ったでしょ。
 この空間は悪いものではない、って」
「ええ」
「もし、この空間が、あそこで戦っているプリキュアが作ったものだとしたら、私たちの『光』が役に立つんじゃないかな」
 キュアエースは黒いひびを見上げた。ひびは少しずつ伸びていっている。
「私たちの『光』で補強しよう、ということですか」
「思いを届けることは、あのプリキュアに任せていいと思う」
「…え?」
 キュアエースは、それ以上を表情に出さないように努めた。
 キュアエコーは「思いを届ける」役割をほかのプリキュア――かどうかはわからないが―――に委ねようとしている。
 いいのか、それを許して。
 所属するチームのないキュアエコーは常に、自分の役割を手探りしている。強い技を持っているわけではないことに引け目を感じている様子もある。
 だが、「届ける」時であれ「受け止める」時であれ、「思い」が重要な役割を持つとき、その中心にはキュアエコーがいた。それを他者に任せることを見過ごすのは正しいことなのか。
 いや。
(プリキュアたる者、いつも前を向いて歩き続けること)
 分別臭く他の仲間を導こうとするキュアエースの役割は、ジコチューとの戦いが終わったとき、同時に終わったはずだ。キュアエコーが次のステップを進もうとしている。キュアエースも続くべきだ。
「事情を知らない私たちが参加してからでは時が過ぎます。その環境を整えるほうが適切かもしれません」
 それが「勘」に頼った判断であることはふたりともわかっていた。あの光がプリキュアのものかどうかはわからない。まして、この空間が悪いものではない、というのも「感触」に過ぎない。
 だが同時に、この判断は間違っていない、という確信もあった。
「彩れ、ラブ・キッス・ルージュ!」
「プリキュア ハートフル・エコー!」
「ショット・コルティーナ!!」
 ふたりの体から伸びた光が天に突き刺さった。青い空が金色に染まっていく。その金色がしみこむように消えた後、ひびは跡形もなく消えていた。
「ひびが消えました!」
 それが合図になったように、先頭の一組がドリーミアの中に消えた。
(思いよ、届け)
 キュアエコーは息を整えると、両手を合わせて祈った。

222makiray:2023/01/20(金) 20:54:39
Juvenile (10/11)
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 フォローの必要がなくなったわけではない。ふたりは妖精たちとともにプリキュアの元へ走った。だが、ペースが上がらない。
 どちらも歯を食いしばっている。キュアエースはやはり本来とは異なる形で変身していることが大きい。キュアエコーには疲労の色が見える。「ハートフル・エコー」を何度、放ったのだったか。
 だが、あと一息の筈だ。
「エコー、ロボットが」
 グレルが指さす。エンエンがつぶやくように言った。
「消えていく…」
「首尾よくいったようですね」
 地上にいるメンバーが慌てている様子がない。キュアエースはほっと息をついた。
「気球…気球は?!」
 キュアエコーは激しく頭を巡らせた。それはまだ空に浮かんでいた。だが。
「下降していませんか?」
 早い。加速がついているようにも見える。
「まりちゃん! みなちゃん! めいちゃん!」
 キュアエコーの息が荒い。回復していないのは明らかだった。
「ここから」
 キュアエースの手を振り払うように手を伸ばす。
「エコー」
「フーちゃん、お願い」
〈うん〉
 ゆっくりと息を吐くと、キュアエコーは右手を気球に向けた。
「お手伝いいたします」
 その左手を取るキュアエース。だが、この空間に入った時と比べて力が弱いような気がした。
「大丈夫。
 だれも傷つけさせはしません」
 キュアエースが左手を上げた。呼吸を合わせる。
「グレル、エンエン。もう一度、お願いします」
「任せろ!」
「僕たちだってプリキュアだもん」
 ふたりの手のひらに光の珠が生まれた。
「プリキュア ハートフル・ショット・コルティーナ!」
 ふたりの前に広がった光のカーテンは、魔法のカーペットのように飛んでいく。それは次第に速度を増して落下していく気球の下に滑り込んだ。
「間に合った」
「…。
 速度が」
 いくらかゆっくりになった、という程度だった。もう地面が近いのに、スピードは十分に落ちていない。
「もう一度――あ」
 キュアエコーとキュアエースは、もう一度「ショット・コルティーナ」を放とうとそれぞれの手に力を込める。その瞬間、ふたりの周囲で光が飛び散った。
「変身が」
 坂上あゆみと円亜久里の姿に戻ってしまっただけなく、ふたりは砂漠に膝をついてしまっていた。立ち上がろうにも力がはいらない。
「みんなを、助けないと」
「変身…ですわ」
 両手で体を支えて立とうとする。だが、厚い砂はそのわずかな力を吸い込んでしまう。
「早く」
「もう一度」

223makiray:2023/01/21(土) 21:11:45
Juvenile (11/11)
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「プリキュア パーティ・アップ!」
 光が空間を満たしたように見えた。「ショット・コルティーナ」よりも明るい光が気球を包み込む。
 止まったように見えた気球はゆっくりと着陸した。
「よかった…」
「大丈夫?」
 大人の男性の声だった。グレルとエンエンはあゆみの背後に隠れた。
「はい」
 やっとの思いで立ち上がったがバランスを崩しそうになる。あゆみを青いドレスの少女が、亜久里をカラフルなドレスの少女が支えた。
「みなさんがプリキュアなんですのね」
「はにゃ! わたしたちの秘密が!」
「どうしてそれを…」
 チャイニーズドレスの少女が飛び上がって驚き、和服を思わせる装束の少女が首をかしげる。
「な、なんだ、おまえ!」
「ふたりは妖精コメ?」
「あなたも妖精?」
 あゆみの足元では、グレルとエンエンが、見たことはないが、全く知らない雰囲気でもない動物たちに目を自黒させている。驚いてるのか、フーちゃんのエコーキュアデコルも不規則に点滅した。
「え、妖精?
 ということは?」
 初めて見る少女たちが顔を見合わせている。
「ふたりもプリキュア!?」
 その声が砂漠の砂に吸い込まれていく。
「あの!」
 沈黙を破るあゆみ。
「ドリーミアに来ていた子供たちを助けないと!」
「そうよ。
 そうだわ」
 男性は手を鳴らすと、両手を組み合わせた。そのまま踊るように振ると、さっき見たオーロラのような光に続いて景色が戻った。砂漠は跡形もなく消えていた。
 ドリーミアも、建物に傷はついているようだが、元の場所に戻っていた。気球も、元あった場所に格納されている。あゆみがほっと息をつき、亜久里がほほ笑んだ。
「あのね、たくさん、お話したいことがあるの」
 ピンクの服を着た少女が言った。
 それはあゆみと亜久里も一緒だった。
 みんなの帰宅を見届けて、このプリキュアたちのことを知って、自分たちのことも知ってもらって、フーちゃんやグレルやエンエンの友達になる妖精たちも紹介してもらって。
 亜久里を家に送り届けて、その前に、エルちゃんと一緒に出かける計画も相談したい。
 まだまだ盛りだくさんの一日になりそうだった。

224makiray:2023/01/21(土) 21:12:50
お騒がせしました〜。

225名無しさん:2023/01/22(日) 00:11:23
>>224
意外な組み合わせ!
でも入り口のシーンでは、確かに彼女なら……でした。
相変わらず一生懸命なあゆみと、グレル、エンエン、フーちゃんとの組み合わせが好きです。
楽しませて頂きました。


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