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本スレに書き込めない職人のための代理投稿依頼スレ

1魔法少女リリカル名無し:2009/01/08(木) 00:01:53 ID:Qx6d1OZc
「書き込めないの!?これ、書き込めないの!?ねぇ!本スレ!本スレ書き込めない!?」
「あぁ、書き込めないよ」
「本当!?OCN規制なの!?ODNじゃない!?」
「あぁ、OCNだから書き込めないよ」
「そうかぁ!僕OCNだから!OCNだからすぐ規制されるから!」
「そうだね。規制されるね」



捻りが無いとか言うな

95黒の戦士:2009/03/08(日) 01:56:05 ID:JjeSILpg
これで第一話は全部投下終了。

本当に長かった……。

96魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/08(日) 21:15:24 ID:QVxyJ8BM
規制をくらってしまいました。申し訳ありませんがこちらに投下しますので代理投下をお願いいたします。


 さて、とりあえずその件の犯罪者の危険性と、相手をしなければならない可能性の高さは頭に叩き込み理解したが、彼女たちの目的はそれだけではない。
 当たり前だ、現地の犯罪者の相手をしに自分たちは派遣されたわけではない。その本当の目的は別のところにある。
 それこそが―――

「―――それじゃあ本題の次元震の原因究明についての捜査だけど」

 その主目的を語り出したなのはに皆の視線が再び集中する。
 本題とも言えるそれは一体どのような手順で行うのか、それをまだ四人は聞かされてはいなかった。

「この手のケースなら順当に考えれば、原因となっているものは・・・・・・ティアナ、何だと思う?」

 急に話を振られても、しかしティアナは慌てる素振りも無くそれこそ学院の講義の際の質問に答えるようにセオリーとなる答えを述べた。

「―――ロストロギア、でしょうか?」

 尤も、それが正解とは限らないので確証も無い答だとは自分でも思っていた。
「うん、それが真っ先に上げられる最も可能性のある答だね」
 故に間違いではない、そうティアナの答を評価しながら頷く。
 そもそも次元そのものに波及的効果を与えられるモノ、などというものは管理局の常識から考えてみてもまず稀少だ。
 遺失世界の遺産、秘めたる力を有するそんなモノ以外で、次元震を起こすことなどそもそも不可能と言ってもいい。
 だからこそ、管理局はロストロギアという存在を決して侮らず、回収する必要性が高いと認知している。
 次元世界そのものに危機を与えるソレを自分たちの手で安全に保守管理しないことには落ち着くことなど出きるはずがないからだ。
 だからこそ、次元震という現象が発生した際には管理局は必ずと言っていいほどロストロギアの関連の有無を調べる。
 そしてこうしたケースならば八割方、ソレが関わってくることがこれまでの管理局の記録からでも判断できる。

「だからこそ、二十二年前と今回・・・・・・後、これはついさっき分かったことだけど、六年前にもこの市街で惨劇が起こっているの。これらの事件に同一のロストロギアが関わっている可能性は無いとは言い切れない。でも―――」

 先程、ジグマールの口よりなのはは六年前に市街地で大規模なアルターによる惨劇が起こったという話を聞いた。
 ロングアーチスタッフに直ぐ様に確認を取ってもらったが、それにも次元震発生の余地が確認されていることが先程連絡されて届いたばかりだった。
 アルターによる被害、ジグマールは確かにそう言っていた。アルター能力についてはまだ詳しい事を把握していないが、それがロストロギアの誤認という可能性も無いとは言い切れない。
 しかし、それには疑念も残る。
 その最大の理由は観測された事件と事件の間の期間の長さだ。二十二年前と六年前、そして六年前と今回。
 規模こそ違えど観測された次元震の特徴はまったく同じモノなのだという。ならばこそ、これらには同一の何らかの原因が共通してあるはずだという推測が成り立つ。
 だが管理局とてロストロギアとは一概には言っても、その性質はバラバラなものばかりで一纏めには出来ない。・・・・・・だがこういったケースを起こす特徴はロストロギアには存在しない。
 一度何らかの原因で発動したロストロギアは外部からの強制介入による沈静化なくしては治まらないケースが多い。代表的な例を挙げるならあのジュエルシードが良い例だ。
 だが今回観測されている次元震は全て、同質であると共に瞬間的に発生して直ぐに治まっているものばかりだ。
 恒常的とも呼べぬ発生期間といい、瞬間観測でしかないという実例。そして管理局がどうして放置を続けてきたか、その理由を推測すればそれは―――

「―――私はそうじゃない、とも考えてるんだ」

 ―――その推測をなのはへと抱かせていた。

97魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/08(日) 21:16:31 ID:QVxyJ8BM
 四人もロストロギアが関わっているとばかり思っていただけに、なのはの突然の言葉にはやはり驚きを隠せていなかった。
「え? ロストロギアじゃないんですか?」
 疑問を口にしたスバルに対し、なのはは頷きながら己の推論を述べる。

「―――以上のことから、私はロストロギアとは別の可能性も考えられると思うの。
 ・・・・・・ジグマール隊長は六年前のその事件がアルターによるものだと言っていた。二十二年前も今回のものも性質は同じモノらしいから次元震の発生の媒介となったものは同じモノである可能性が極めて高い。ならそれは―――」

 ―――ジグマールの言葉通りなら、アルターということになる。

「・・・・・・じゃあ、次元震の原因はこの世界にいる能力者の仕業ってことなんですか?」
 俄かには信じ難い、言外でそう告げていることが分かるティアナがそう疑問に思うのも無理はない。
 なのはのその推論が正しいと言うのならば、ソレは個人か組織かどちらかにしろ、次元震を発生させているのが人間だということになってしまう。
 規模がどれ程のものであれ次元世界そのものに干渉しうる力を人間が持っている・・・・・・魔法ですら不可能なことを信じろと言う方がおかしなものだ。
 それこそ、あの存在し得ない夢物語の世界たる『アルハザード』は実在している、などと言っているようなものである。
 そんなことを出来る人間がいるとするならば、それは人間とは呼ばれない。

 ―――『災害』である。

「・・・・・・私自身でも穴がありすぎる推論だとは思ってる、けれどやっぱり今回の事件に関わってくる謎の中枢にはアルター能力があるとみて間違いないとは思うの」

 彼女の推論でいくならば、次元震を起こした犯人(人ならば)同一人物ということになるが、アルター能力者が生まれるようになったのは二十二年前にロストグラウンドが誕生してからだ。今回と六年前に起こった事件の犯人が共通だとしても、そもそもロストグラウンド誕生の原因そのものとなった事件に関しては矛盾してしまうことにもなる。
 だからこそ確証は無い。故にロストロギアの可能性も捨てきれず平行して調査を続ける。
 それでも彼女は感じていた。

 ―――事件の真相究明への鍵はアルターにある。

 明示できる証拠は無く、自論と直感という説得性には欠けるものだが、それでも全ての事件にはアルター能力が何らかの形で関わっているはずだと思っていた。
 だからこそ、それに関する調査も無限書庫経由で頼んでいたし、自分たちの方からも現地の情報を通じて調べてみようと思っていた。

「取り合えず、ロストロギアとアルター。この両方の線から調査を進めていこうと思ってる。じゃあそれに関する具体的な方針だけど―――」

 そう言ってなのははこれからのこの世界での行動方針を、部下たちへと語り出した。
 恐らくは長丁場となる、そんな確信を抱きながら・・・・・・

98魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/08(日) 21:17:28 ID:QVxyJ8BM
 標高が高いということは、同時に空にも近いと言う事だ。
 だからこそ―――こんなにも星が近くに感じるのだろう。
 高町なのはは空を飛びながらそんなことを考えていた。
 部隊のブリーフィングを終え、これからの行動方針を決め後は明日に備えて一日を終了するだけなのだが・・・・・・。
 何故かこうして空を飛んでいるわけだが、特に目的は無い。理由も無く、空を飛ぶなどという行為はミッドチルダでは許されない。そんな事は管理外世界とて同じなのだが。
 それでも高町なのはは空からこの大地を見下ろしていた。
 本土から切り離され、その大地の中ですら塀の外と内で異なる世界。
 地球には地球の、ミッドチルダにはミッドチルダのルールがあったように、当然ながら、ロストグラウンドにもソレは存在する。
 尤も、此処のルールというものは場所によっては過激や理不尽などと言ったものであるのかもしれないが。
 それでも、となのはは思う。

 この大地で生きている人たちが願っていること、望んでいることとは何なのか。

 独立自治とは聞こえは良い、だが実情は支援なくしてこの大地の住人・・・・・・少なくとも都市に住んでいる者達は生きてはいけないだろうというのは部外者であるなのはの目から見ても明らかだ。
 そして壁の向こう側、未開発地区と称されるむしろロストグラウンドという名そのものの世界はどうであろう。
 実情こそ目にはしていない。けれどインナー(この大地で都市部以外の生活者のことを指すらしい)出身のホーリー隊員の話を聞いてみても、それは酷い有様らしい。
 奪い合い、壊し合い、そして争い合う。
 少なくとも、そこには秩序と呼ばれる人が互いに生きていくために必要とされるルールはない。

 ―――力こそが全て。

 それこそがルールだと言わんばかりが、この大地の実情だった。
 秩序や法という権力に守られている人間などほんの一部、それこそ都市部の人間だけだ。
 この大地に生きる多くの人間は、恐らくは今日を生き抜くことに必死なのだろう。
 ならば何故、彼らはそれからの脱却を望まない。少なくとも、市街に登録をすれば住民になれ職にもありつける。
 少なくとも真っ当な人間としては生きることが出来る。だが、この多くの人間は進んでそれを求めようとはしていないと言うのが実情だ。
 インナーは自らの意志でインナーであることを在り続ける。多くのインナーはそうらしく、市街に登録・・・・・・本土への帰属を望もうとはしていないらしい。
 それが何故か、インナーの実情や思いを未だ知らぬなのはにはそれが分からない。だがそれは彼らにとっては一種の誇りであると言うことだけは察することができる。
 荒れ果てた無法の大地の上で、何が彼らにそれを選ばしているのか。
 平穏と呼べる世界で生まれ、この職に就くまでは同じように平穏な中で生きてきた彼女からは想像もできないものであった。

 だからだろうか、彼女がそれを知りたいなどと考えたのは。

99魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/08(日) 21:18:19 ID:QVxyJ8BM
 ホーリーが・・・・・・否、本土が示す秩序に目を背けても彼らがそれを見出し、そして守ろうとしているのは何なのか。
 恐らくは『彼』もまたそれを守ろうとしているのではなかろうかと勝手ながらに思った。
 ほぼ単独と言っていいほどに何の後ろ盾も無く、個人レベルでの反抗を続けている一人の反逆者。
 アルターという人とは異なる能力を有し、ソレを用いて戦い続けているその人物。
 ホーリーにおいては犯罪者と認定され、自分たちもまたいずれ出会い、戦うことを予感させるその人物。

「・・・・・・NP3228。・・・・・・ううん、違うよね。君の名は―――」

 資料に書かれていた一度捕獲された時に付けられた番号ではなく、彼自身が名乗ったその名前を。
 名字も無く、本名かどうかも怪しい、けれど恐らくは彼が彼であることを表しているその名前を―――

「―――カズマ、君か・・・・・・」

 星空にその身を浮かばせながら、高町なのははその男の名を静かに呟いていた。



 不意に誰かに名を呼ばれた気がした。
 呼ばれたと思い振り返り見た夜空の方角が都市部の方である事に気づき、彼―――カズマは思わず顔を顰めていた。
 またホーリーのクソ野郎共がこっちを倒すためにいけ好かねえ作戦でも立ててやがるのかとも思い、

「―――へ、それともテメエか?・・・・・・劉鳳ッ!」

 打倒を誓い、名を刻んだ宿敵の姿を脳裏へと浮かべ拳を握っていた。
 まぁどちらだっていい、劉鳳だろうとホーリーだろうとちょっかいを出してくる相手には容赦しねえし、必ずぶっ飛ばす。
 単純とも思える思考だが、それがネイティブアルターであるカズマの当たり前のような考えだった。

「・・・・・・にしても、何だか気にいらねえな」

 何故かは分からない、理由は不明だ。
 だが直感的に、今見ている方角から酷く気に入らない視線のようなものを感じずにはいられなかった。
 まさか空の上から誰かがこっちの方を見ているわけでもあるまいし、気のせいに違いないのだが、何故か気になって仕方がない。
 このまま背を向けたら負けなのではなかろうか、などという馬鹿らしいことすら本気で思っていたほどだ。
 だからカズマも睨み返すようにその方角に視線を向けたまま動かない。傍から見れば遠方に眼ツケをしているだけという酷く奇妙な光景だが、当人であるカズマという男はそんなことを気にしない。
 やがてその気に入らない視線のようなものも暫くすれば感じなくなり、カズマも内心で勝ったなどと密かに鼻を鳴らしながら、視線を外して再び進んでいた方角へと背を向け直した。
 実に馬鹿らしいことに時間を浪費してしまった、ということを漸く自覚しながらカズマは目的地―――ねぐらにしている家(廃墟と化している歯科医院)へと急ぐ。

100魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/08(日) 21:20:42 ID:QVxyJ8BM
「・・・・・・かなみの奴は、もう寝てるだろうな」

 同居している少女の顔をふと脳裏に浮かべながら、恐らくはもう就寝しているだろうことは予想が出来ていた。
 よくあることだ。頻繁に家を空ける自分の帰りが遅い時はいつも先に眠っている。普段からよく寝る娘でもあるし、そもそもカズマ自身も出迎えを期待するような性格ですらない。
 だからそれは問題ない、普段通り当たり前であり考えるまでもないことだ。
 ・・・・・・ならば何故、そんなことをふと思ったのか。
 考えるという行為自体を苦手とする彼はそんな思考も五秒で放棄した。どうでもいいさ、それで良かった。
 帰る場所にはかなみが居る。そんな当たり前のことが分かってさえいればどうでもいいことだ。
 ・・・・・・そう、どうでもいい。そんな当たり前さえ守れるなら。

「・・・・・・まぁ、その代償と思えば安いもんさ」

 右手を持ち上げながら、あのアルターの森での一件以降に進んでしまったアルターによる侵食を見てそんな事を呟いていた。
 だがこのお蔭でシェルブリットはパワーアップした。この力なら、ホーリーの奴らにも何も奪わせないし、劉鳳の野郎だって倒せるはずだ。
 馬鹿で調子者の憎めない相棒や、しっかりものの癖に泣き虫なあの少女だってきっと守れる。

「・・・・・・らしくねえよな、俺としたことが」

 金さえ積めば何だってやる、それがアルター使い“シェルブリット”のカズマであったはずだ。
 そんな自分がどういうわけか、そんな丸くなった思考をしている。・・・・・・まったくもって可笑しい限りだ。
 だがそれも悪くはねえ、そう思っている自分もいた。
 “シェルブリット”のカズマとしての本質は何も変わってはいないという自負がある。
 金さえ貰えば何だってやるし、欲しいものは奪ってでも手に入れる。
 その生き方を変えようとは思わない。
 だから今の考えだって結局同じであり、行き着く先とて同様だとカズマは思ってもいた。
 そう、気に入らねえ奴はぶっ飛ばすし、奪われないように守る。
 そして満足する程の派手なケンカをする。
 カズマが望んでいることは、ただそれだけだった。
 だからこそだろうか、

「なんか、これから派手なケンカが起きそうだ」

 理由も確信も無く、そんなことを思い、期待しているのは。
 だがきっとそれは直ぐに実現する。その相手は劉鳳なのか、或いは別の誰かなのか。
 それはカズマ自身にだって分からない。だがそれでも一つだけハッキリしている事は。

 ―――ソイツが壁となって立ち塞がるなら、この自慢の拳で打ち砕く。

 ただそれだけだった。
 ただそれだけを思いながら、カズマは家路へと着く足を止めることも無く歩き続けた。


 こうして失われた大地に不屈の魔法使いたちは降り立った。
 自身の『正義』という名の信念を貫く男は、彼女たちと出会い戸惑いと予感を覚え。
 未だ出会わぬ反逆者は、その出会いを予感しながら拳を握る。
 その出会いが何を齎し、何を為すのか。
 誰にもそれは分からぬまま、しかしハッキリとしていることがただ一つ。

 物語は、既に始まりもはや止まる事は許されない。
 ただ、それだけのことである。


 次回予告

 第一話 機動六課

 それは何をもっての反逆か
 男は怒りに拳を振り上げ
 女は杖を交わしながら話し合いを望む
 双方、譲れぬ思いを抱きながら最初の邂逅は激闘へと変わる。
 魔法とアルター
 その未知なる力の激突が齎すものとは何なのか・・・・・・



 以上です。初投下で不慣れなので時間を取ってしまいすみません。それと支援してくださった方、ありがとうございました。

101魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 21:40:36 ID:ooJj/na2
また規制くらっちまいました。どなたか代理投下お願いします。


 だが両者とも、先の激突により一つの事実を直感的に悟った。
 それ即ち―――


 ……この女、やりやがる。
 確かに全力ではなかった、だが打ち抜く心算で放った一撃だったのは確か。
 そしてそう決めて打ち下ろした拳であった以上は、その結果はそうなっていなければおかしい。
 だが現実にはそうならなかった。相手のアルターの予想以上の堅さを打ち抜くことが出来なかった。
 言うなればそれは屈辱。……そう、あの日に劉鳳に味合わされた敗北の味の再現と同じ。
 無論、負けたなどとは思っていない。今度は必ず打ち砕く、意地でもそうする。
 けれど……

(……手加減できる相手でもねえか)

 本気でぶつかるに値する相手、それがカズマの眼前の女に対する偽らざる評価だった。


 ……この人、かなりの力だ。
 確かに全力ではなかった。だが制限下とはいえ自身の頑丈さには鉄壁に近い自負があった。
 重装型の砲撃魔導師として、長所として磨き上げた誇りとも呼べるものであったはずだ。
 それが危うく屈しかけた。後少しでも力を抜いていれば確実に打ち破られていただろう。
 言うなればそれは脅威。……久しく経験していなかった、自身を脅かすに値する危険性だった。
 だが屈したわけではない。まだ自分には余力もカートリッジという切り札もある。
 それでも……

(……油断は即敗北にも繋がりかねない)

 それだけの力量を有している、それが高町なのはの眼前の男に対する本心からの評価だった。


 ロストグラウンドの反逆者と時空管理局のエースオブエース。
 互いに不屈の信念を持つ両者の初会合による激突とその結果。
 そして抱いた互いへの評価。
 皮肉と言って良いほどに、それは酷く似通ったものだった。
 だがこうして、遂に―――

 ―――遂にこの大地の上で、二人は出会った。



「……NP3228………ううん、君が“シェルブリット”のカズマ君だね?」
「ハッ、だったらどうだってんだよ、本土のアルター使いさんよぉ!?」
 なのはの確認の為のその問いに、威勢よく啖呵を切るが如く返すカズマ。
 彼がこちらを本土から来たアルター使いという情報を早くも掴み認識していたことには驚きだが、まぁそれも今はどうでもいい。
「……漸く、会えたね」
「あん? 何言ってやがる?」
 これまで資料でのみその存在を確認し、是非会って話し合ってみたいと思っていた人物が眼前に現れてくれたのだ。
 それに興味や喜びを覚えないなのはではない。
 だが一方、そんな彼女の心情などはまったく知らず、しかも初対面の強敵だと認識した矢先にそのようなことをいきなり言われてカズマが分かるはずが無い。
 ……ただでさえ、この眼前の女は何故か自分をイラつかせる。その明確な理由を自分自身でも察せられないカズマにとって苛立ちは増すことはあろうと治まることはない。
 さっさとぶっ飛ばす、そう結論付けると共に彼は拳をなのはへと向けて身構える。
 その瞬間だった。

「なのはさん! 大丈夫ですか!?」

102魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 21:42:18 ID:ooJj/na2
 そう叫びながらゾロゾロと今度は車内から眼前の宙に浮いている女と似たような格好をした輩が四人も出てきた。
 こいつらがどうやら君島が言っていた本土から来たアルター使いたちで間違いないだろう。
 ……だが、

「……ガキばっかじゃねえか」

 それも女子供、内二人はかなみとすら大差が無い。
 アルター使いに年齢など関係ないことはカズマとて承知の上だ。向かってくる奴はたとえどんな相手だろうが容赦しない。
 それでも思わずそんなことを呟いてしまうほどに彼は意外な連中の正体に驚いてもいた。
「……君島ぁ、やっぱりこんな奴らなんかにビビッててどうするってんだよ」
 思わず苦々しくそんな呟きを漏らさずにはいられなかった。ガキだと油断することは愚の骨頂であることはカズマとて理解できていたが、それでも相手の正体には思わず拍子抜けせざるをえなかった。
 だがカズマのそんな呟きを聞き漏らさずにピクリと反応した者たちがいた。
 それは当然、そんな風に侮られた彼女たち自身だった。

「……ティア、あたしたち馬鹿にされてるよ」
「安い挑発……でも癪に障るのは事実よね」
 スバルの言葉にティアナも正直にそう返しながら彼女たちはなのはを見上げた。
 先程あの男は自分たちの隊長と全力ではないほんの一瞬とは言えど互角に渡り合った。
 その実力の片鱗は確かに凄まじく、決して侮れたものではない。
 だが自分たちにも機動六課の隊員として、高町なのはの教え子として、JS事件などを潜り抜けてきて成長してきた自負がある。
 毎日毎日、必死になって歯を食い縛り賢明に鍛錬へと身を投じてきた。
 自分たちだって成長してきている、確実に強くなってきている。もうヨチヨチ歩きのヒヨっ子のままではない。
 その誇りが彼女たちに無言ながらもなのはへと告げさせる。

 わたしたちにやらせてください、と……。

 そしてそれは視線からなのはもまた察することが出来た。
 本当に、自信を持った、そして強い良い眼をするように彼女たちはなった。
 確かに敵は強敵、油断のならない相手だ。
 教え子たちを案ずるなら、もしものことがないように戦うのは自分の役目だ。
 それが当たり前だとも思っている。

 けれど、人は成長する。

 それを誰よりも良く知っているのも高町なのはであり、それを否定することは彼女たちにも出来ない。
 そして此処は心配して守ってあげる場面ではない。
 彼女たちの成長を、強さを信頼して、任せる場面だ。
 最初から全てを取り上げるのは傲慢であり、それは彼女たちを信頼していないのと同じだ。
 自分はJS事件の時もちゃんと彼女たちを信頼してきたではないか。
 ならば、ここもまた同じはずだ。
 故に―――

「―――良いよ、貴方達の力を彼に見せてあげて」

 自信を持って、そして不敵に教え子たちへとそう告げた。
 それを聞いた彼女たちもまた、同様に頷いてそれを了承。
 眼前の、カズマを相手に四人は身構える。
 ならばやってやる、そう行為は無言ながらも悠然とそれを物語っていた。
 相手の方も、こちらのその態度から察したのだろう。同じように対峙して身構える。
 なのははそれに手出しを加えない為に後方へと離れて見守ることにした。
 万が一の事態には、早急にフォローに入れるように覚悟し身構えながら。
 それでも今の彼女の胸中は、純真に自らの教え子たちと眼前の強敵の戦いを見入ることに務めようとしていたが。


 そしてカズマも身構えた。

103魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 21:44:08 ID:ooJj/na2
 どうやら先にガキ共がこちらの相手をするような雰囲気だが……上等だ。
 良い目つきをしてやがる、喧嘩をするには申し分の無い意気込みは確かにある。
 女子供、四対一、それらはもはやこの後に及んでその一切が関係ない。
 こいつ等は敵、立ち塞がる壁。
 だったら―――

「じゃあ始めようぜ、喧嘩をよぉ!?」

 ―――この自慢の拳は纏めて全て打ち砕く、ただそれだけだ。


 右腕に装着した鎧のようなアルター。
 それがシェルブリットと呼ばれるカズマのアルター能力。
 背中に三枚の羽根状の突起物があり、それを推進剤のように用いて爆発的な突貫力を生み出す。
「……それがホーリーのデーターベースに残ってた相手の能力」
 典型的なクロスレンジタイプ、自分たちの部隊で言えばスバルと極めて似た能力。
 情報は全てこちらが掌握している、相手の手の内をこちらは完全に把握しているのだから。
 一方で、相手はこちらの魔法をアルター能力と勘違いしており、それですら未だ手の内は分かってなどいない。
 故にこちらは最初から圧倒的なアドバンテージを有しており、相手も慎重に来ざるを得ない。

 ……そう、思っていた時期がティアナ・ランスターにもありましたよ。

 まさか彼女のそんな思考すらも小賢しく思わせるほどに、いきなり迷いも無くあちら側から仕掛けてくるとは思ってもいなかった。
 事前に渡された大事な情報を一部、彼女は失念していた。
 そう、相手が単純とも評せるくらいに考えなしの突撃馬鹿なのだということを……。

 先手必勝。それは喧嘩において当たり前のことであり、細かいことなど気にしていてもそもそも喧嘩など出来もしない。
 故に躊躇い無く、これまで通りにカズマは地面を拳で叩くと共にその反動で高く跳躍。
 そのまま挨拶代わりのまず一撃。

「衝撃のぉぉぉおおおおおおおおおお―――」

 未だ固まったまま、バラけるにも今更遅い連中を相手に、カズマは容赦なくその一撃にて強襲する。

「―――ファーストブリットォォォオオオオオオオオオオオオオ!!」

 背にある三枚の羽根状の突起物、まずそれが一枚弾け飛ぶと共に、そこから圧縮されていたエネルギーが噴出され、勢い良く彼女たちへと叩き落すべく凄まじい速度にて強襲。
 威力も速度も、先程なのはが防いだ先の一撃の比ではない。

「さ、散開ッ!」

 見ただけでそれは充分過ぎるほどに理解できた。
 故に、ティアナがそう叫び切るよりも早く全員がその場を動いていた。
 何とか全員、その場を飛び離れるも無人となったそこにそのまま勢い良くカズマの拳は振り下ろされた。
 瞬間、轟音と衝撃が地面を抉り陥没させる。
 バリアジャケットを着ていても、防御もせずに喰らえばただでは済まぬ一撃であることは瞬時にこの場の全員が理解できた。
 ……尤も、理解できたはイコールで臆することではないのだが。

 朦々と上がる土煙の中、カズマは地面より拳を引き抜きながら瞬時に左側方へと振り返り拳を構える。
「はぁぁぁあああああああああああ!!」
 地面を削るような勢い良く滑走する車輪の音とその叫び声と共に、土煙を突っ切ってスバル・ナカジマが拳を振り上げて襲撃を仕掛けてきたからだ。
 予想通りの展開、故に迎え撃つ。それがカズマのやり方だ。
 ましてや拳のぶつけ合いをしてこようというのなら、それは望むところ。
「らぁぁぁあああああああああああ!!」
 相手が打ち込んでくる拳に合わせて、そこにピンポイントでカズマも返し、拳をぶつける。

104魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 21:45:46 ID:ooJj/na2
 俺とテメエ、どっちの拳が強えかまずは一勝負ッ!
 そんな思いと共にぶつかり合う、シェルブリットとリボルバーナックル。

 火花と轟音を響かせながら、打ち勝ったのは――――――カズマ。

「おらぁぁあああああああああああああ!!」
 雄叫びと共に、押し負かし土煙の向こう側へと再びスバルを吹き飛ばすカズマ。
 次の瞬間には、そのまま地面を拳で叩き再び宙へと跳躍。
 直後、今まで彼がいたその場を切り裂くように突っ切る閃光。
「―――え?」
 それをやった当人―――エリオ・モンディアルは必殺の瞬間を逃し槍が空を切った現実を信じられずに呆然とそんな呟きを漏らしていた。
 だがそこへ再び着地したカズマは逃すことなくエリオを掴むと同時に、勢い良く今度は向きを真後ろへと変えて放り投げる。
 その瞬間に、
「確かに速え……でも足りねえよ」
 相手にもハッキリと聞こえるように耳元でそう言ってやりながら。
 弾丸のように勢い良く、エリオは放り投げられその進行方向にいた少女に向かって飛んでいく。

「―――なっ!?」

 クロスミラージュを構えていたティアナ・ランスターは予想外の事態に回避もままならずに少年と激突し吹っ飛んで行った。
 それを確認しながら、カズマはそれを追撃するべく駆け出した。

 一連の土煙の中での攻防、カズマは野生の勘とも呼べそうな驚異的な察知と身体能力に物を言わせたごり押しで見事に押し勝った。
 スバルが仕掛けてくるのは音と喧嘩の場数で踏んだセオリーで容易に予想ができ、得意の力技で押し切った。
 直後のエリオの不意打ちは大部分が勘だった。だがクーガーや劉鳳の真なる絶影などの速度を身を持って体験しているカズマには反応できないものでもなかった。
 最後の背後のティアナについては、まぁこそこそと背後から狙ってくる奴というのは何処にでもいるものだ。予想通りに試しにやってみたら案の定いやがった。
 そして二人纏めて直撃し吹っ飛んでいった。後はトドメの追撃を仕掛けるだけ。
 そう思いながら、土煙を突っ切ってカズマは二人を追い―――

 ―――瞬間、目の前に降り注ぐ炎に驚き急ブレーキを掛けざるを得なかった。

「―――んなっ!?」
 と驚きながら真上から降り注いできたソレを見上げれば、なんと上空には最後の一人であるキャロ・ル・ルシエが相棒である巨大化したフリードリヒの背に乗りながらカズマの侵攻を防ごうとしてくる。
 正直、かなみと歳も変わりそうに無い少女というのはカズマにとって最も殴りづらい相手だったが、

「アルターの方になら問題ねえだろうッ!?」

 飛び上がり、フリード目掛けてカズマは拳を突き込んだ。
 それをおいそれと喰らってやる義理も無いフリードは迎撃のブラストフレアをカズマに向けて放つ。
 だが―――

「温ぃんだよぉぉぉおおおおおおおおおおお!!」

 物ともせずに炎を拳で切り裂きながら向かってくるカズマ。その勢いは衰えの陰りすらも見えはしない。
 あわやそのまま炎を突っ切り、カズマの拳が飛翔する竜へと届かんとしたその時だった。

「リボルバァァァァァァ―――」

 ウイングロードを展開しながら颯爽とその横合いから駆けつけたスバル。
 そしてカートリッジロードと共に形成された魔力は、

「シュゥゥゥゥトォォォオオオオオオオオオ!!」

105魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 21:47:29 ID:ooJj/na2
 思い切りカズマへと叩きつけられ、彼を吹き飛ばした。
「キャロ、大丈夫!?」
 慌ててそう尋ねてくるスバルに、キャロは間一髪の事態であったことなどもあり、やや呆然としながらも肯定の問いを恐る恐る返した。
「……そっか、よかった〜」
 安堵の吐息を盛大に吐き肩を落としたスバルに、キャロも改めて礼を返そうと口を開きかけ、

「撃滅のぉぉぉおおおおおおおおおおおおお―――」

 瞬間、聞こえてきた相手の言葉に瞬時に緊張しながらそちらへと振り返った。
 視線の先には吹き飛ばされていたカズマが立ち上がり、跳躍しながら再びあの先制攻撃の時と同じ一撃を放とうとしてきていた。
「キャロ、直ぐに離れて!」
 スバルが慌てたように叫びながら、迎撃する心算なのか身構えて彼へと振り向いていた。
 自分に何か出来ることは、そうキャロも思ったが今からでは何も間に合わず足手まといにしかならぬことを痛いほどに悟る。
「―――フリードッ!」
 だから邪魔だけはしないよう、足枷にはならぬように自身が使役する竜へとそう命じてこの場から全速力で離れる。

「―――相棒ッ!」
『―――All right』

 キャロという憂いが無くなった以上、スバルはもはや全力を出し切ることに厭わない。
 だからこその切り札を、相棒に命じて発動させる。

「―――フルドライブッ!」
『―――Ignition.』

 瞬間、盛大に展開されるカートリッジロード。
 それは即ち、己の切り札を出し切ることの、全力全開で立ち向かうことの表明。
 叫びと同時、展開される近代ベルカ式の魔法陣。
 そしてマッハキャリバーより発現する翼。
 ウイングロードを真っ直ぐに向かってくる相手へと定めながら―――

「ギア――――エクセリオンッ!」
『―――A.C.S. Standby.』

「セカンドブリットォォォオオオオオオオオオオオオ!!」

 互いに照準を合わせた弾丸の拳をぶつけ合うべく駆け出した。


 二度目の拳のぶつけ合い。
 今度は互いに掛け値なしの全力の一撃同士。
 その衝撃は先の激突の比ではなかった。
 震動・衝撃・轟音・明滅―――超常のエネルギーのぶつかり合い同士は周囲に激しくそれらを伝播させながら、拮抗を打ち破るべく互いに踏み込み合う。
 何ものをも打ち砕くための反逆の拳。
 何ものからも守るべき存在を守る為の不屈の拳。
 そのぶつかり合いの結果は―――

「―――何ッ!?」

 焼き直し……になることはなく、ほんの僅かながらもスバルの拳が押し返した。
 そのままウイングロードの足場に着地しながらも蹈鞴を踏むカズマに、続くスバルの急襲が降り注ぐ。
 交錯すると同時に次々に殴りかかられ、反応することも出来ずに殴り飛ばされ続ける。
 小娘の思いも寄らぬ猛攻に、カズマはぶち切れるよりも歯を食い縛りながら獰猛に笑う。
「上等だッ! どんどん来やがれッ!」
 そう思い次の瞬間にも殴られるも、カズマはその不敵さを収めない。

106魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 21:50:07 ID:ooJj/na2
 スバルの動きに翻弄され、まるで反応できていない。我武者羅に振り抜く拳は空を切るばかり。
 だがそれでも、

「倒れねえよ……んな温い拳で倒れられっかよ!?」

 まったくもって手緩い。小手先の連撃などただでさえタフなこの身に効くはずもない。
 来るなら、仕留めるなら、デカくてキツイ切り札を持って来い!
 そう叫びながら、カズマはウイングロードを叩き再び跳躍する。
 それを追いかけ真っ直ぐに伸びてくる水色の道。其処を駆け抜けながら覚悟を決めたのか正面から漸く相手も仕留めにかかりに来るようだ。
 そうだ、それでいい。それならこっちも正真正銘、最後の一撃だ。

「抹殺のぉぉぉおおおおおおおおおおお―――」

 そしてスバルも覚悟を決める。
 何度殴り飛ばそうと、何度倒れてくれるよう願ってもこの男は倒れない。
 バリアジャケットを纏っているわけでもない、正真正銘の生身でありながら自分以上のタフネスさを誇っている。
 だからこそ、小手先の連打などどれだけ打ち込もうと、この男は倒れない。
 倒れずして立つ男を倒すにはどうするか?……そんなものは決まっている。
 問答無用で倒れざるえない全力全開の一撃をぶつけてやる。
 それも真正面から、それ以外にこの男を倒す方法は自分には無い。
 だからこそ、ウイングロードの道先を男の正面に真っ直ぐ合わせてスバルは駆ける。
 応える様にカズマは背中の最後の羽根を使っての全力の一撃にかかってくる。
 だからこそ、最大最強の一撃でこちらもまた応えるだけだ。

「一撃ッ……必倒ォォ!」

 残るカートリッジの全てを引き絞り、拳の前面に形成させた魔力を疾走しながら相手へと向けて身構える。
 最後の羽根を推進剤に遂にカズマの拳がスバル目掛けて向かってくる。
 スバルもまた迎え撃つためその拳を同じくカズマ目掛けて突き込んで行きながら―――

「ラストブリットォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「ディバィィィン……バスタァァァアアアアアアアアアアア!!!」

 ―――最後の拳のぶつかり合いが発生した。


 一度目はカズマ。
 二度目はスバル。
 ならば互いに後が無い、決着をつけるべきのこの三度目は?

「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「はぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!!」

 大気を揺るがすほどの雄叫びも、押し込むべき肝心の拳も。
 意地も不屈の信念も。
 全て両者はどちらも譲らなかった。
 故に―――

 此処から先は、限界を超えたもの勝ちだ。
 そしてスバルは全力の切り札、エクセリオンモードを出し切った。
 だがカズマには……まだ限界の先の力が残っていた。

「シェルブリットォォォオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 叫ぶと同時、カズマの右腕を覆うアルターは更なる進化を遂げる。
 より厚く、より鋭角に、より強く。
 背中からは三枚の羽根に変わり、一つの尾が出現しローターの回転のように回りだす。
 それに呼応するように、右手の甲が開き更なる輝きを増していく。
 強大な力がカズマに集まっていくのがその場の全員に理解できた。

107魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 21:53:46 ID:ooJj/na2
 だが当人―――カズマにしてみれば、これだけではまだ足りない。
 そう、もっとだ! もっと、もっと、もっと―――

「―――もっと輝けぇぇぇええええええええええええ!!」

 叫ぶと同時、黄金の輝きを放つカズマの進化した拳が、遂にスバルを振り切った。
 その敗北はスバルにとって驚愕であると同時に……無念でもあった。
 何かを最後に叫ぶよりも早く、輝く光と衝撃に吹き飛ばされスバルは意識を失った。


「……さて、最後はアンタ一人だぜ?」
 そう不敵に言うものの実際は肩で息をしているのがカズマの現状であり、それは相手からも察せられるほどに明らかなものだった。
 実際、シェルブリットの第二段階を前座と思っていた相手に使わざるを得ないとは予想だにしていなかった。
 全力全開、その先にあるものから引き出してくるあの力はその代償として容赦なくその身を蝕んでくれる。
 その疲労は馬鹿に出来たものでなく、洒落にもならないのが現状だった。
 事実、あの時は一瞬こそ出したものの、なのはを前に見上げるカズマはアルターを解除した状態だった。
 もう一度アルターを発現し戦闘……とてもではないが、相手のなのはの方がカズマにそんな余力は残っていないだろうと思っていたほどだ。
 無論、やられた教え子たちの無念は晴らしてやりたい……が、ボロボロの相手を前に私怨をむき出しに私刑紛いの事を行う倫理観をなのはは持ち合わせていない。
 幸いにも、四人には大した怪我は無い。スバルが気を失っているがそれは大事に至るものほどではないことは確認済みだ。
 それらを踏まえ、そして物資輸送の護衛の任務に必ずしも相手を殲滅する必要性がない以上、ここで彼が諦めて引き下がってくれさえすれば撃退したと言う名目は立つ。
 手打ちはソレで充分のはず、これ以上不毛な争いを続ける必要などないはずだ。
 むしろ逆だ、なのははカズマと戦いたいのではない。カズマと―――

「ねえ、争いはもう止めにして少しお話しないかな?」

 対話、それが彼女がカズマへと望んだことだった。
 だが―――

「ハッ、絶対にノゥだ! ホーリーのアルター使いなんぞと話すことなんざこちとら何もねえよ!」

 獰猛に、不敵な獣の笑みを見せての拒絶だった。
 だが一度や二度の激しい拒絶くらいで引き下がる高町なのはではない。
 どんなに拒絶されようと、お話を聞いてもらうために何度も食い下がる。意地でも退かない、それが高町なのはのやり方だ。
 当然、カズマがなのはを受け入れることなど欠片も無い。理由は分からないが、コイツと会話をするだけで何故か分からぬ苛立ちが沸々と湧いてくるのだ。

「どうして? 私は君と争う心算なんて―――」
「テメエがホーリーだって時点で俺にはあり過ぎるんだよ! ゴタクなんざ結構だ、語るってんなら拳でやってやるよ!」

 ―――だからやろうぜ、喧嘩をよぉ!?

 相も変わらず、カズマがなのはに突きつけてくる欲求はただそれだけであった。
 そこに譲る気持ちなどあろうはずもない。只管に眼前の相手は頑なで意地っ張りであった。
 だが繰り返すがなのはにはボロボロのカズマと戦う戦意などもはやない。
 ただどうしてそこまで頑なに彼がホーリーに逆らおうとするか、自分たちと戦おうとするのかを話し合って聞きたかっただけだ。
 それはカズマにとっては苛立たしく、火点きの悪い行為以外の何ものでもない。
 それこそもはやこの茶番すらも打ち切って、問答無用で殴りかかりたいのが本音だ。
 それを思いながらも実行しない理由は……生憎と、カズマ自身にもそれは分からない。
 無抵抗な女に殴りかかる、無意識にもそんなことに負い目を感じているのかもしれない。
 だからこそ、なのはがやる気になってくれないとカズマも相手へと殴りかかれない。
 このままでは埒が明かない、だからこそ仕方なく取った手段がこれだった。

108魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 21:56:05 ID:ooJj/na2
「そんなに俺と話がしてえなら、力づくで話を聞かせてみろよ」

 挑発の蔑笑と共に言ったカズマのその言葉に、ピクリとなのはは反応した。
 力こそがこの大地のルール。だからこそ、誰にも縛られない自分を縛りたいと言うのならそのルールに則ってかかって来い。
 そういう意図で告げたのだが、それはなのはにとって自身の心境を揺さぶられると言っていい提案だった。

 どうしてお話を聞いてくれないのか、それに悩んでいた相手のあからさまな拒絶に戸惑っていたなのはだが、相手のその言葉には思うところもあった。
 力づくで従わせる、などという方法は彼女にとって最も好まぬ方法だった。
 自らの意志で互いに歩み寄っての対話、それを望んでいた彼女にとっては乗る気にもなれない提案だ。
 それでも一方で、己の過去においても話を聞いてもらうために実力行使に出ざるを得なかった場面というのが何度かあったのは確か。
 フェイトの時もヴィータたちの時も、結果的には争わざるを得ない、良い悪いに関係なく、互いに退けぬ理由があったからこそぶつかり合うしかなかったこともあった。
 あの時のあれらの選択、あれらの戦いをなのはは後悔していない。あれは必要であったが故の、本音をぶつけ合うために必要であったからこその戦いだ。

 ……じゃあ、目の前の相手もそれを望んでいるのだろうか?

 喧嘩と言い切り、そちらの都合をぶつけて来る強引なやり方。お世辞にも褒められたものだとはいえない。
 だが彼女たちの時と同じように、この男もまたそういう引けに退けない理由がないとも限らない。ただ戦いだけを楽しんでいる、などということはないはずだ。
 きっと彼にも背負っているものがある、守らなければならないものがある。
 その為にも、話し合いには乗ることが出来ない。
 だからこそ、相手は戦いの中で本音を語り合う方法を望んでいるのかもしれない。
 ならば、不器用な自分がそれを聞き届けるには、それに応える以外にないのだろうか?
 ……本当に、悪魔らしいやり方でしかお話を聞いてもらうことは出来ないのであろうか?
 分からない、こちらが望んでいるのは対話。でもあちらが望んでいるのは闘争だ。
 致命的に違うのに、行き着き先には同じモノが待っている。
 その矛盾はジレンマとなりなのはの胸中を蝕む。
 それでも相手は早く決めろと決断を促がす、こちらと戦えと促がしてくる。
 それは自分がホーリーであり、彼がネイティブアルターである限り、変わらないことなのだろうか。

「迷ってんじゃねえ! そうと決めたことがあるんなら、迷わずそれを為せるように行動しろってんだ!」

 遂にカズマが苛立ちも顕に怒鳴ってくる言葉に、なのはは葛藤から引きずり出されハッとなる。
 迷うな、その強い言葉は確かに今の自分が欲しているものだったはず。
 精神面で弱くなり、戸惑っていた彼女が揺らがぬように欲していたはずの断固たる決意の言葉。
 それを言われて、彼女は漸くに覚悟を決めた。

「私は……君とお話がしたい」
「だったら力づくで実行しやがれ、ホーリー野郎!」

 その拒絶の言葉は次には気持ち良い位に清々しく響いた。
 いいだろう、好みじゃないがそれが必要だと言うのなら……もう迷わない。
 郷に入れば郷に従え、それが此処のルールであり、自分が彼の憎むホーリー隊員でしかないのだとすれば、

「……分かったよ、それでいい」

 今はそれを目一杯に演じきろう。悪魔らしいやり方で、話を聞いてもらう機会を勝ち取る。
 自分が失ってしまった強さにも、それは通じるはずだから。
 だから―――

「おいで、反逆者(トリーズナー)。―――遊んであげる」

 その目一杯の不敵な宣戦布告に、カズマはそれこそ呆気にとられ一瞬ポカンとしながらも、すぐに言葉の意味を悟ると共に。

「上等だぁ、テメエぇぇぇえええええ!!」

 獰猛な笑みと共に、シェルブリットを纏った拳で襲い掛かった。

109魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 21:57:57 ID:ooJj/na2

 なのはがその身を守るように周囲に無数に展開している桜色の光弾の数々。
 それが彼女のアルター能力、詳細は不明だがあの橘あすかの“エタニティエイト”と似た能力なのだろうか。
 なのはと初めて摸擬戦を行い対峙した瞬間、一見して劉鳳はそう思考した。
 そして皮肉にも、カズマもまたこの瞬間、彼女と対峙した時にそう考えた。
 宿敵同士、まったく関係ないところでも同様の考えへと至るその皮肉。

 ……ただし、その思考の次に選んだ行動はまったくの対極であったが。

 劉鳳はまずは相手の能力を把握すべくに、慎重に絶影に隙を見て襲撃を窺わせながらの待ちの姿勢を取り、

「衝撃のぉぉぉおおおおおおおおお―――」

 カズマは考えなしにとりあえず攻めるという姿勢を選んだ。
 近づいて殴る、それがカズマの攻撃方法であり何よりも譲れぬスタンスだ。
 どんな相手だろうが、それを変える心算は無い。
 だからこその先手必勝、先制攻撃を取ろうとしたのだが……

「……駄目だよ、それじゃあ隙だらけだよ」

 宙に跳び拳をこちらに構えてくる相手になのはは瞬時にその光弾を十発、相手に容赦なく叩き込む。
 確かにカズマの攻撃は強力だ。だが幾度の死線を潜り抜けてきた歴戦のエースオブエースである彼女からすればモーションの隙が大きすぎる。
 それではつるべ撃ちの格好の的でしかない。
 事実、桜色の光弾は次々と拳を振り上げようとしているカズマの全身に叩き込まれていく。
 それを回避も防御も出来ずに、カズマは為す術も無く直撃し続ける。
 ―――尤も、

「ファーストブリットォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 どれ程撃ち込まれようともまるで問題にもしないという勢いで、そのまま突撃してくるのが“シェルブリット”のカズマの所以だったのだが。

 だがそれはなのはにとっても承知の上、先程の戦いでスバルがあれだけ打ち込んでも倒れなかったほどの驚嘆的タフネスさを誇る相手に錬度・精度を高める為に威力を搾ったシューターを十数発撃ち込もうとも倒れるはずがない。

(やるならバスター……それも取って置きの一発でも直撃させない限り彼は倒れない)

 それは理解している、だが直射型の砲撃魔法にはどうしても溜めがいる。
 いくらなんでもそれを許してくれる相手でもない。
 だからこそまずは―――

「―――レイジングハート!」
『―――Load Cartridge.』

 突撃してくるカズマの拳、それを受け止めるべくなのははプロテクション・パワードを発動。
 カートリッジを用いて上乗せした障壁の強度は見事にカズマの拳を受け切る。
「……しゃらくせぇッ!」
 カズマはそれを打ち破らんと先程までと同様に更に拳を押し込もうとしてくる。
 しかし、それになのはは、

「綱引きだけが戦いじゃないよ」

 そう告げると共に、フラッシュムーブを発動し一瞬で側面に移動。
 当然、ぶつかっていた対象を失い、勢いを殺しきれずにそのまま拳が空を切るカズマ。その表情にはいきなりの事態に驚愕が走っていた。
 だがそれは当然、なのはにとってはがら空きの致命的な隙でしかない。

110魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:00:51 ID:ooJj/na2
 レイジングハートの照準をカズマに合わせ、瞬時に再び形成された数十の魔力弾が一斉に彼へと向かう。
『Accel Shooter.』
 デバイスから発せられたその音声の直後、全弾がカズマの身へと直撃する。
 流石に堪えたのか、呻き声を上げながら落下していくカズマだがこちらを振り向き睨むその眼は陰りを見せない苛烈なものだ。
 彼の憤慨が分からないわけでもない。こちらは平然と力比べに乗ると見せかけ一方的に放棄した。
 綺麗や汚い云々を戦いに持ち込むほど彼女はアマチュアではない。無論、自ら長所の比べあいを放棄した自身の選択を全面的に肯定するわけではないが。
 だが彼女はプロだ。プライドよりも重視すべきことがあり、勝ちを取りに行くための戦いに拘りなど持ち込みはしない。

「撃滅のぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお―――」

 蹈鞴を踏みながらの着地直後、再びカズマは二枚目の羽根を爆発させての拳の一撃をこちらへと向けてくる。
 その姿勢は愚直とも言えるだろう。なのはの個人的な心情としては好ましくも感じる。
 けれど、これとそれは別。

「セカンドブリットォォォオオオオオオオオオオオオオ!!」

 叫びと同時、再び弾丸と化し向かってくるカズマの拳。
 シェルブリット……正にその名称通りに彼の拳は銃口から発射される弾丸と同じだ。
 だがそれ故に、その軌道はなのはたちが魔法で扱うような例外を除けば決定されているも同じ。

「つまりは直線……それが分かっているなら」

 回避はそう難しいことではない。
 事実、その指摘通りに迫る拳をなのははかわしてみせた。
 そして放たれた弾丸はそこで止まる事もできずにそのまま飛んでいくしかない。
 当然、ここでもなのははすれ違い様に再び形成した魔力弾の群れをカズマへと叩き込む。
 全て的確に、無駄なく、効率的になのはの攻撃は続いていく。
 まるでそれは傍から見ている者からすれば詰め将棋、一方的なワンサイドゲームでしかなかった。


「………ちょこまかちょこまか飛び回りやがって……ッ!」
 挙句に針で刺すみたいな手緩い攻撃を何度もぶつけてくるだけ。
「………そんなんじゃなぁ・・・何度ぶつけられたって……」
 倒れやしねえぞ、と叫ぼうと口を開きかけるもカズマはそれが出来なかった。
 その理由は簡単だ。今の彼の姿を見れば明らかとも言える。
「随分と、お疲れみたいだね」
 その相手の忌々しい指摘の通り、カズマは肩で息をして立っているも辛いと明らかに思わせるほどにふらふらだった。
 実際、手緩い攻撃であり何発喰らおうとも倒れない、そう豪語したカズマの意見は正しいようで間違ってもいた。
 確かに一撃一撃のシューターには彼を昏倒させるだけの威力は無い。
 だがそれを何十発も間髪入れずに喰らわされれば?……それはまた違ってくることになる。
 塵も積もれば山となる、などとも言われるがボクシングでもボディに喰らい続ければ疲労とダメージは無視できぬほどに蓄積される。
 ましてや彼女が扱うのは正に人を倒す目的を持って扱われる魔法だ。常人の拳の比ではない。
 そしてそれには非殺傷設定という効果も一役買っていた。
 時空管理局の魔導師にとって非殺傷設定の魔法とは決して手加減の事を指さない。
 むしろ直接的に魔力ダメージを内部に浸透させるソレは、暴徒鎮圧などの役割において充分過ぎるほどに効果を発揮する。
 簡単に人を昏倒させることだけを目的とするならば、むしろ非殺傷設定の方が容易であるのも確かだった。
 何よりも全力を込めても相手を死に至らせる危険性は限りなく減少させている。ソレは高町なのはなどの非殺傷設定を絶対に対人において解除しないという信念を持つ者からすれば気兼ねの必要も無くなることを意味する。
 故に彼女は容赦なく、手加減抜きで彼を相手に魔力弾を叩き込み続けた。
 なまじ頑丈さに自負があり、手緩い攻撃と防御を怠ったカズマ自身の選択も合わさり、遂に先の新人たちとの戦闘も合わせて無視できぬだけのダメージが蓄積されてしまったのだ。
 傍から見てもこの現状、もはや勝敗は明らかだった。
 故に―――

111魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:02:13 ID:ooJj/na2

「そろそろ、お終いにしようか」

 ―――彼女もまた改めてそう告げてきた。


「……おいおい、圧倒的じゃねえか」
 その様子を君島邦彦は見ていられないと頭を抱えながらも、どうすることも出来ずに物陰に隠れて見ていることしかやはり出来なかった。
 カズマが派手に喧嘩をし始めたのは離れていても響いてくる振動や轟音から直ぐに察せられた。
 失望され、相棒の資格を失ったとはいえそれでもカズマを見捨てることなど君島には出来なかった。
 故に、恐る恐ると言った様子も露わに戦場へと足を運んだのだが……

 そこで見たのは、やはり絶望的な光景でしかなかった。

 空を飛ぶ白い服に杖を持った、自分たちよりも僅かばかり年上の女。
 充分に美人と評されて良いほどに見目麗しくも思えるが、君島にとって彼女は悪魔のようにしか映らなかった。
 それは恐らく戦っているカズマ当人の方が尚更にそう思えたことだろう。
 本土から来たアルター使い、十中八九それで間違いないその女はまるでカズマを子ども扱いでもするように圧倒していた。
 尽く果敢に繰り出すカズマの拳すら、彼女は嘲笑うかのように簡単に避けて自らの攻撃を次々と彼へと撃ち込んでいく。
 それも表情一つ変えることなく淡々としたように、だ。
 カズマを圧倒しているその光景とも相まり、それは君島からすれば正に悪魔の如き所業であり、強さだった。
 あんなものロストグラウンド中のアルター使いを集めてきたところで勝てるとは思えない。
 正直にそう思えるほど、君島はその白い悪魔に恐怖を覚えていた。

 ……それでも、それでもカズマなら。

 そう、一縷の望みを戦いを見守りながらも抱かずには、期待せざるをえなかったのだが、それすらも段々と絶望に変えられるだけだった。
 もう何十発、或いは百発近く撃ち込まれたのではなかろうか。それ程にボロボロなカズマの姿とは対照的に、女の姿は涼しいほどに無傷そのもの。
 それも当然か、君島が見る限りでもカズマの拳は一度たりともあの女には届いていなかったのだから。
 それでも、一撃でも拳が届きさえすればカズマならばそこから逆転してくれるはずだと、そんな希望をこの期に及んでも君島は持ち続けようとした。

 ―――無情にも、次の瞬間には冗談みたいなレーザー砲紛いの一撃にカズマが吹き飛ばされるまでは……

 そして、そこから再び立ち上がる様子を見せないカズマを見て、遂に君島の最後の希望は絶望へと変えられた。



 そろそろ頃合だ。
 仕留めにかかるには充分過ぎると見計らい、なのはは改めて降服勧告をカズマへと促がす。
 尤も返ってきたのは、

「………上等…だッ!……やれるもんなら、やって…みやがれッ!」

 不屈とも言って良いほどに変わらぬそんな反抗の姿勢だったが。
 反逆者、開戦前に相手を思わずそう呼んでいたが、この男は事実その言葉通りの男だった。
 決定的に倒されなければ……否、或いは倒されても、この男は絶対に折れない。
 それが交戦してみて改めてカズマに対して抱いた印象だった。
 それはある意味においても力強く、気高くさえも感じられる。
 ……正直、羨望を覚えないわけでもない。
 或いはそれは失くしてしまったものへの郷愁だったのかもしれない。
 かつては自分もこの眼前の男と同じような時期があった。ただ我武者羅に、自身の信念だけを迷わずに、真っ直ぐに貫こう。
 そうやって空を翔けようとした頃が確かにあった。

112魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:04:06 ID:ooJj/na2
 でもそれはもはや今の彼女には無い。まだ残っているのかもしれないが、本人が思っているほどにあるわけではなく、それならば失くしてしまったのと同じだ。
 何故、それが無くなった?……そんなのは決まっている。

 ―――大人になったからだ。

 少なくとも、社会で生き適応できる身の振り方を身に付けた。
 出来る事と出来ない事を明確に線引きし、限界を定めた。
 諦めという物の分別もまた覚えたのはこの頃だ。
 手にできるモノと手から取りこぼせないモノを定めて、それだけは守り抜こうと固く誓った。
 自身の掌の大きさを自覚した……恐らくは言ってしまえばそういうことだ。
 それに後悔は無い……否、抱けないし抱いてはならない。
 それで手に入れたものがあった、それで守り抜いたものがあった。
 それらを否定する行為だけは、絶対にしてはならない。
 少なくとも、現在に幸せを感じているのだ。そしてそれを守り抜きたいのだ。
 ならばこそ、自分はそれで良いと思う。

 ―――でも、この男は違う。

 言ってしまえばこの男は自分勝手であり、それは我が儘だとそのまま表現できる。
 我慢を知らず、規律を守れず、調和を乱す。
 マイナス面が顕著とも言えるほどに、一見すれば言い方は悪いが……クズだ。

 それでも、少なくとも彼は自分に嘘を吐いていない。

 正直だ、渇望して、執着や奪取に躊躇いを見せない。
 そして諦めと言う行為すら絶対に受け入れず、立ち向かう。
 自身を抑え付けない、限界を定めない、抗うことを決して止めない。
 純然たるアウトローの生き方、決して褒められるものでもない。

 ―――けれどそこには、確かな輝きが存在した。

 その輝きは力強くて眩しくて、自分では決して手に入れられないものだとはっきりと自覚させられる。
 だからこそ、きっとこんなにも惹かれてしまうのだろう。
 羨ましい、それを正直に認めてしまうことが出来る。
 でもそれでも―――

「―――それでも、私と君はやっぱり違うから」

 親近感を抱き、憧れるものを持っている。
 それでも自分たちは生き方も生きるべき場所も違う。
 譲れない、目指すべき場所が悲しいほどに異なる。
 だから―――今は倒す必要がある。
 その後に改めて、歩み寄れる限界ギリギリの部分まで見極めるために話し合おう。
 そのお話を聞いてもらうために、これしかないのなら。
 私は躊躇わずに、悪魔らしいやり方でも君を倒す。

 その決意と共に、なのははレイジングハートを眼下のカズマへと向けカートリッジロード。
 決定的な敗北を相手に与えるために、敢えて彼女は彼へと告げる。

「此処からは小細工なし……お互い、全力全開の比べあいだよ」

 言うなれば挑戦状、真っ直ぐ逃げずにかかって来いと相手のプライドを逆手に取った退路を断つためのそれは布石。
 そして今までのこの相手の言動を見る限り、その性格上必ず―――

「いいぜ! やってやろうじゃねえか!」

 ―――その誘いに乗った。
 カズマは了承の叫びを挙げると同時に拳を構える。

113魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:06:26 ID:ooJj/na2
 その拳を必ずに弾丸と化してこちらへと撃ち込む為に。
 だがそれは彼女もまた同じ。無敵を誇る、誇りとも呼べる砲撃を持ってそれを迎え撃つためにこれまでやってきたのだ。
 だからこその、此処から先は真っ向勝負ッ!

「抹殺のぉぉぉおおおおおおおおおお―――」
「ディバィィィィィィィィィィィン――――」

 最後の羽根が砕け、カズマの渾身の拳が爆発を伴いながら弾丸と化してなのはを強襲する。
 飛んでくるカズマ、自ら射線に突っ込んでくる相手に躊躇い無く彼女は最強の魔砲を解き放つ。

「ラストブリットォォォオオオオオオオオオオオオオ!!」
「バスタァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 弾丸と化したカズマを拳どころか丸ごと、桜色の奔流は包み込む。
 それを突っ切り、必死に届かせようと拳を相手に向かって突き上げ続けるカズマ。
 だが遂に―――

 ―――反逆の拳は不屈の魔砲に吹き飛ばされた。


 轟音と共にかなり距離の離れた岩まで吹き飛ばされ、叩きつけられたカズマを確認して漸く彼女は己の勝利を確信した。
 傍から見れば彼女はノーダメージ、一見すればこの結果は完勝だ。
 しかし本人からしてみれば、辛勝もいいところだった。
 実際、上手くいったから良い様なものの事実は綱渡りも良いところだった。
 正直に言って二人の間の力量はそれ程かけ離れたものではない。
 むしろ現状ならば、カズマはなのはを僅かばかりほど上回っていたはずだ。
 何故なら彼はエクセリオンモードを解放したスバルを相手に真正面から打ち負かしていたのだから。
 リミッターを課せられている高町なのはと、エクセリオンモードを解放したスバル・ナカジマ。
 この状態の両者ならば、力において上回るのは後者のスバルだ。
 なのは自身、それは正直に認めているところではあるし、スバルがなのはを打ち破れる可能性もまた高い。
 ならばそんな状態のスバルを倒して見せたカズマに、何故リミッターを付けたままのなのはがこうまで一方的な展開を見せ付けることができたか。
 そこは間違いなく、地力の差だった。
 本来ならば幼少時より弱肉強食のこの無法の大地で生き抜いてきたカズマの経験は常人の比ではない。
 だが十年もの歳月を過酷な様々な戦場、それも最前線で戦い抜いてきた高町なのはの経験は決してソレに劣るものでは無い。
 たかが小娘の十年、そう侮るなかれ。
 エースオブエース、無敵や不屈と称されるその経歴は決して伊達ではない。
 最前線の戦闘経験、そして自他共に含める最高峰の鍛錬、その双璧の壁の厚さは、持つ抽斗の多さはそう簡単に他の追随を許さない。
 だからこそ彼女は終始相手にペースを握らせない、土俵では戦わせない搦め手に徹した。
 プライドを押し殺し真正面からの戦闘を避け続け、ヒットアンドアウェイを繰り返す。
 そして蓄積され、無視できぬだけの疲労が溜まったのを確認してから、相手の退路を断ったチェックメイトを掛ける。
 多種多様な能力性を持ちながらも、個人のもの自体は単一性の能力であるアルターと、状況によって切り分けのきく多様性の魔法という相性の良さもあった。
 それら全てを踏まえての実践しきってみせた逃げ切り、この結果は正にそう言えた。
 だが例えどうだろうとも、

「……私の勝ちだよ、カズマ君」

 これで漸くにお話を聞いてもらえる。
 今の彼女が確信を持って考えていたのはそれだけだった。

 だが―――

114魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:07:55 ID:ooJj/na2

 まったくもってボコボコだ。
 一方的に嬲られて、一発もこっちは相手を殴れない。
 ストレスが溜まる以上に、訳がわかんねえ。
 コイツは何だ? 悪魔か何かか?
 ……屈辱? ああ、その通りだ。こりゃあどう考えてもかつてない屈辱だ。
 これと同じほどのモノを味わったのはいつだ?……んなの、決まってる!

 ―――劉鳳、あのクソムカつくホーリー野郎に初めて負けた時だ。

 負け知らずだったこっちを一方的にボコりまくって、こっちのチンケなプライドをズタズタにしてくれた。
 挙句の果てには、俺なんて眼中に無いともきやがった。
 ふざけんじゃねえぞ、この“シェルブリット”のカズマを舐めんじゃねえ!
 テメエが俺を眼中にも入れるつもりが無えってんなら、俺が無理矢理にでも入ってやるだけだ!
 無視できないように、その胸に名を刻ませてやるだけだ!
 プライドをズタズタにされて、ボコボコにされたままのやられっぱなしで誰が終わるかってんだ!

 ……それはなぁ、本土のアルター使いさんよぉ……テメエも同じだ!

 借りは返す、それも倍返しのオマケ付きで、だ!
 やりたい放題やりやがって、ずっとテメエのターンってか?
 ……ハッ、ざけんなよ! 今度はこっちの番だ!
 もう容赦しねえ、ぶち切れたぞ、躊躇わねえぞ。
 テメエだけは許さねえ、ボコる、徹底的にボコる。
 だからこそな、そうやっていつまでも上から―――

 ―――勝ち誇って見下してんじゃねえよ!


 瞬間、ゾクリと背を走る悪寒をなのはは確かに感じた。
 そしてそれを直感的に悟り、ありえないと思いながらもそれでも目の前の現実がそれを否定していた。
 吹き飛ばした、確かに立ち上がれないほどの決定打を決めた心算だ。
 いくらなんでも驚異的なタフネスを誇ろうとも、それを立ち上がるのならもはや人間ではない。

 だというのに、あの男は立ち上がってみせた。

 それこそフラフラ、意識が有るのかどうかも一瞥しただけでは判断できない。
 体中がボロボロで、右腕を覆うアルターも既に砕けている。
 満身創痍などと言う言葉すら生温い、彼はもはや死に体に等しい。
 戦闘など出来るはずも無く、ましてやこちらを打倒することなど不可能な所業のはずだ。
 それでも気圧された。歴戦のエースオブエースであるはずの彼女は確かに彼を見た瞬間に恐怖を覚えた。

「………どうした…よ……?………まだ…終わっちゃ…いねえ…ぜ……」

 やがて不敵に、目一杯不敵に笑いながらこちらを見上げてカズマはそう言ってきた。
 それは正しく、戦闘続行の意思表示。決して自分はまだ敗北していないのだと言う明確な反逆だ。
 なのはは戸惑う、相手がとても余力が残った状態とも思えなければ、それで自分に勝てるとも思わない。
 けれどもこちらもまた、あの男を倒せない。例えもう一度バスターを撃ち込んでも、きっと男は立ち上がる。
 非殺傷設定の魔法と言えど、これ以上の過剰ダメージは相手をショック死に陥れかねない危険性がある。
 人命を奪う心算の無い彼女には、これ以上の彼への攻撃は恐怖を覚えると共に、どうしても躊躇われたものだった。
 けれどそれも所詮は彼女の側の都合。
 相手は―――カズマはそんな事情など知ったことではない。

「手加減抜き……つったよな? だったら―――」

 ―――こっちも此処から先は全力全開だ!

115魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:09:34 ID:ooJj/na2
 そう叫ぶと同時、天を掴むが如く右腕を突き出すカズマ。
 再構成……否、これは更にその先の力。
 先程、エクセリオンモードのスバル・ナカジマを倒したあの黄金の輝き。

 なのはたちで言うならばリミッター解除に該当する行為。
 どう見ても体に限界以上の負担を強いているはずのアレを今の状態で解き放つなど自殺行為もいい所だ。
 黄金の輝きに目を眩ませられながら、それでもなのはは相手に制止を呼びかける。
 自身の保身の為ではなく、彼の体の為を思っての行為だった。
 だがそれを聞き入れるはずが、カズマにあるはずがないのも事実。
 輝きが集束していく。それと共に、更なる進化を果たして顕現する彼のシェルブリット。
 閉じていた右目を開け、両目で真っ直ぐにこちらを定めながら、遂に黄金の拳が解き放たれようとしていた。

「シェルブリットォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ―――」

 本能で身の危険、そして何よりも背後に護衛すべきトレーラーがある事を察したなのはは、自身に退路が無い事をハッとして悟った。
 だからこそ呆けている暇など無かった。取れる選択肢はもはや一つだけ、迎撃と言う道しか残っていない。
 だがリミッター解除も今更間に合わず、今の状態の砲撃で先程の比ではない事が明らかな一撃を破れるか?

 出来る出来ないではない、やるしかないのだ。

 瞬時にそう腹を括った彼女はレイジングハートに命じ、ありったけのカートリッジのロードを行う。
 現状分の魔力をカートリッジを大量に用いての無理矢理の底上げ。……正直、限界越えの蛮行に等しい過負荷超過もいい所だ。
 だが今はこれしかない、この方法でしか対抗できない。
 だから躊躇っている暇は無い。

「ディバィィィィィィィィィィィィィィィィィィン―――」

 来るなら来い、こちらも既に腹を決めた。
 何度でも立ち上がり、何度でも向かってくると言うのなら。
 そこまでこちらとの対話を拒絶しようと言うのなら―――

 ―――こちらも意地でも譲らない。必ずお話を聞かせてもらう。

 だからこそのこれは、互いに退けぬ意地の張り合い。
 高町なのはとカズマとの、一対一の戦いであり、思いのぶつけ合いだ。
 そしてそれならば―――絶対に負ける心算は無い。


 反逆の拳と不屈の魔砲。
 一度目は決着が付いたその勝負、だが今度こそ絶対にケリを付ける為の第二ラウンド。

 ……否、最終ラウンド!

「バァァァアアアアアアアアアアアアストォォォオオオオオオオオオオオオ!!」
「バスタァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 黄金の輝きの拳が一直線、しかし回避も防御も許さぬ勢いでなのはに向かう。
 だが生憎となのははそのどちらの選択も取らない、当然だ。自分は勝ちを拾いに行くのだ。逃げに徹してどうする。
 だからこその迎撃、だからこその返答。
 カズマの拳が相手を撃ち抜く弾丸だというのなら、それも良いだろう。
 こちらは更にその上を行く、正真正銘の無敵の砲撃で迎え撃つ、ただそれだけだ。
 自身の代名詞とも言える、十年間ずっと武器として鍛え上げてきた。

 彼が誇る拳と同様に、自分が唯一誇れるその長所。

 その全力全開の桜色の砲撃がカズマに直撃、彼を飲み込んでいく。
 だが黄金の輝きは今度こそその輝きを翳らすことなく、どんどんとこちらに向かって迫ってくる。

116魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:11:14 ID:ooJj/na2
 なのはは更に魔力を砲撃に注ぎ込み続ける。
 後など無い、考えない、今を勝ち取るために死力を尽くす。
 桜色の奔流はそれによって勢いを増し、飲み込むカズマは押し返そうと勢いを増す。
 カズマもそれには顔を顰め、苦しげに押し返され始める。
 だがまだだ、まだ終わっちゃいない。これくらいでは終われない。
 テメエのその砲撃が無敵だって言うんなら―――

 ―――俺はその無敵に反逆してやる!

 だからこそ、もっとだ! もっと、もっと、もっと、もっともっともっともっと―――

「―――もっと輝けぇぇぇえええええええええええええええええええええ!!」

 咆哮と同時、シェルブリットの回転する黄金の輝きは、その桜色の奔流すら凌駕し始める。
 限界などとうに超えている。だからこそ、ブレーキなど存在しない。
 ギアは常にフルスロット、焼き切れるまで回し続ける。
 あのクソムカつく女、アイツに意地でも一発叩き込むまで、誰が終わってたまるか!
 だからこそ、もっと輝け、そして突き進め。
 アイツを、あの女を、目の前の強大な壁を―――

 ―――突き破れッ!!

 黄金と桜色、二つの輝きの激突。
 両者共に退けぬ意地を、限界を超えてのぶつかり合い。
 切ったカードは正しく鬼札。手持ちで唯一無二の最強カード。
 そのどちらともに絶対の信を置いていただけに、負ける事は許されない。
 等しく拮抗を続け、押し破らんと侵攻する二つの力。
 拳と魔砲、対極にありながらそれでもどこか似たその両者の攻撃。
 反逆と無敵を代表するその両者の激突、それを制したのは―――

「―――ッ!?」
 驚愕に歪み、目を見開いたのは高町なのは。
 無敵を誇った最強の桜色の奔流、それを遂に突き破り黄金の輝きが目前へと迫ってきたからだ。

「なのはさんッ!?」

 それが誰の声だったか、部下たちの内の誰かなのだろうがこの瞬間には判別できない。
 そんな余裕が無かった、それ程に驚異的なその黄金の拳が目の前に迫っていたからだ。
 直撃すれば撃墜、それだけはまず間違いない。
 だからこそ、それだけは避ける必要がある。
 とはいえ、この軌道、このタイミング、この速度。
 全てが回避不能だと言うことをなのは本人にも確信させた。
 だがだからといって諦めない、諦めてなどたまるものか。

「俺の……勝ちだぁぁぁああああああああああああああッ!」

 迫る黄金の拳、勝ち鬨を同時に挙げる相手。
 だが―――

「まだだよ、まだ」

 ―――終わってなどいない。

 そのなのはの言葉と同時、カズマの拳が遂になのはの白いバリアジャケットの表面に触れ―――

「―――なっ!?」

 ―――瞬間、彼女を保護するバリアジャケットの上衣が爆発する。
 リアクティブパージ、バリアジャケットの表面を瞬間的に自ら爆破させることで防御を行う一度限りの切り札。
 だがそのカズマにとっての予想外の爆発、そして威力はカズマの拳の軌道を逸らすには充分なものだった。

117魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:13:21 ID:ooJj/na2
 そしてなのは自身も衝撃に吹き飛ばされはしたが、直撃の結末だけは回避する。
 だが―――

 誤算があったとしたら、それはそれでも彼の拳が止まらなかったこと。
 そして突っ込んでいく軌道の先にあるものだった。
 そう、カズマが突っ込む先に待ち構えているのは彼女たちにとっては護衛対象である物資を積んだトレーラーだった。
 流石に直撃を避けるために必死だったなのはは、その瞬間背後の存在を忘れてしまい、その配慮を怠った。
 結果、カズマの拳はそのままトレーラーへと突っ込み、車両側面に風穴を開けてしまった。
 それは完全にトレーラーを相手に半壊させてしまった結果でしかなかった。


 外した、必殺必倒のタイミングで放ったはずの、今までで文句なく最強と思われた一撃。
 喰らわせれば勝てる、その確信が有ったからこそあの桜色の奔流を突っ切った瞬間に勝ち鬨の叫びを上げたのだ。
 だが結果はどうだ、思いもしなかった予想外の相手の隠し玉で拳の軌道は逸らされて、ぶっ飛ばせたのはトレーラーが一台のみ。
 当初の目的ならそれは成功と言える結果ではあるが、なのはを倒すことしかもはや頭にないカズマには失敗以外の何ものでもない。
 だがだからとはいえ、そこで諦めるという選択を当然の如く選ばないのが反逆者だ。
 故にこそ、外したのならもう一発。今度こそ間違いなく避けえない一撃を相手に叩き込む。
 その意志とともに炎上するトレーラーから拳を引き抜き、再び相手へとその拳を構えようとしたその時だった。

「―――ぐぅっ!?……クソがぁっ……!」

 こんな時に、今までの限界越えの反動が一気に体へと降りかかってきて、もはやアルターを維持するどころか、立っていることすらままならなくなる。
「……畜生…ッ…もうちょっとだってのに……ッ!」
 あと少し、もう一発であの気に食わない相手を倒せるのだ。だというのにどうしてこの体は、右腕は言う事を聞かない。
 それどころか直ぐにでももはや意識を失い倒れてもおかしくない疲労まで襲い掛かってくる。間が悪いどころの騒ぎではない。
 これ程の屈辱、これ程の無念、或いはあの宿敵である劉鳳との戦いに無粋な横槍を入れられる以上に納得できない。
 なんとか体を叱咤させ、疲労に鞭打ち反逆の姿勢を崩しはしないが、それでももう限界だった。
 先程はあんなに限界を必死になって二度も超えたというのに今回ばかりは無理だなどとはあまりにも皮肉すぎるとも思えた。
 だがこればかりはもはやどうすることも出来ない。故にこそ、力を出し切った結果として遂にカズマの体が大地に倒れようとしたその時だった。

「カズマぁぁぁあああああああああああ!」

 聞きなれた、それこそ腐れ縁であり身近とも言える男の声が聞こえてきた。


 やりやがった。……アイツは、カズマは本当にやりやがった。
 もう無理だと思った。いくら何でももう立ち上がれない。
 相棒は、カズマは敗北した。
 先の魔砲に吹き飛ばされた結果を見て、君島はその絶望を遂に受け入れかけた。
 彼にとってもそれは屈辱、無念以外の何ものでもない。
 結局は相棒に荒事は任せ切りの他力本願。それを自覚しているからこそ、自分は小賢しかろうとも相棒の足りない部分を補える役回りを引き受けようと思っていた。
 例え自分にアルター能力がなかろうとも、相棒には強力なアルターがある。だから自分は相棒を勝たせられるお膳立てを作れれば、それは立派な戦いだ。
 君島は自身のその考えを疑っても恥じてもいない。何故なら自分たちはコンビであり、二人で戦い続けてきたのだから。
 だからこそカズマの勝利は君島の勝利であり、その逆もまた然りだった。
 ずっとそうやって自分たちはやってきた。
 だというのに、この様は何だ?

118魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:14:50 ID:ooJj/na2
 相棒だと一蓮托生だとコンビだと、都合の良い事を散々言ってきて、一度状況が悪くなりびびれば、もう自分は関係ないと途中下車。

 ……違うだろう、そうじゃねえだろ?

 確かに自分は臆病だ、腕っ節もからきしでアルターも持っていない。
 頭が回ろうと、口が上手かろうと、所詮は学も教養もないただのチンピラだ。
 それでも、そんな自分でも誇りを持っていたことが一つだけあったはずだ。
 それはあの馬鹿な考え無し、ついでに同居してる女の子を満足に養えない甲斐性無しのロクデナシ、そしてクズとも言える男。
 そんなどうしようもないにも関わらず、それでも折れず曲がらず退かない、不退転の意地を背負った本物の男であるアイツ……カズマと組んで戦っていることだ。
 それだけが君島にとって、誰にも恥じることなく誇れたことだったはずだ。
 アイツの足手まといではなく、肩を並べて歩ける相棒であるその資格こそが君島邦彦にとっての全てではなかったのか?

 それを捨てちまって、アイツ一人に全て任せて投げ出しちまってそれで何が残る?

「……残らねえ……何も……」
 残るものなどあるはずがない、それが当たり前だったはずだ。
 なのにそれなら、俺は此処で何をやっている。ビビッて震えて隠れて、解説役の傍観者になりきって勝手に期待して勝手に絶望して―――

 情けねえ、それでも男の子かってんだ!?

 まだやれることがあるだろう。自分に出来ることがあるはずだ。
 資格を失おうとも、弱い臆病者だろうとも、それでもやらなきゃならねえことがある。
 相棒を……ダチを助けられなくて、何が男だ。
 だからこそ命懸けでも、怖かろうとも殺されようとも直ぐにでも飛び出してカズマを助けに行く。
 それが君島邦彦がしなければならない戦いだ。
 そう決死行を覚悟したそれと同時、カズマは再び立ち上がった。
 そして今までに見たこともないほどの強大な力で、先の破れた魔砲すらも今度は打ち破ってみせた。
 君島はそのカズマの輝きに、功績に魅せられていた。
 だが直ぐにハッとなり、此処から見ていても分かるほどに、もはや力尽き倒れようとしているカズマを確認すると、車を飛ばして助けへと急行する。
 相棒のその名前を叫びながら。


 周囲への確認を怠っていたのは今更ながらに気づいた致命的なミスだった。
 結果、突如乱入してきたジープの運転手は倒れたカズマを車に乗せると瞬く間にこの場から離脱を図ろうとしていた。
 スバルは気絶中、他の三人は逃亡を阻止すべく動きかけるもトレーラーに乗っている運転手の救助と言う人命優先を覆すことは出来ない。
 そしてなのはもまた先の二度の全力の砲撃、過負荷超過のカートリッジロードの反動は魔法を扱うことすら無理なのが現状。
 故に乱入者と反逆者を乗せたジープは悠々とこちらの追撃を振り切り、結果的に逃亡を成功させた。
 護衛目的であるトレーラーは半壊、襲撃者も取り逃がす、この結果は正に・・・・・・

「……大失態、だね」

 部下たちはベストを尽くした、それは間違いない。
 ならばこの結果は自分にあるのだろう、もう見えなくなり始めたジープの姿を見送りながらなのははその結果を苦々しくも認めるしかなかった。
 結局、最後まで話し合う機会を勝ち取れなかった。その最大の無念も共に抱きながら……。



 結論から言えばマーティン・ジグマールからは咎めの一つすら無かった。
 それどころか彼はこの結果をむしろ予想以上に素晴らしいものだと褒め称えた。
 相手のその予想外の反応に一瞬こそなのはは驚けど、しかし直ぐにこの流れのからくりを察することが出来た。
 何てことはない、これは要するに―――

119魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:16:16 ID:ooJj/na2

「私たちを試したんですね?」

 なのはのその問いに、ジグマールもまた隠すことなくその通りだと肯定の頷きを示した。
 薄々予想できていたことだっただけに、それ程に彼女は腹立たしさを感じることは無かった。
 当然だろう、ほぼ予想されていたこちらの経路と相手の襲撃。
 トレーラーに積まれていた物資が最低限の物しか無かったという事実。
 任務に就いた人員の構成とその人数。
 何よりも自分たちの素性と相手の正体。
 それはつまり、

「最初からジグマール隊長は私たち六課と彼が衝突するように、この任務を用意していたんですね」

 全ての結果がその答を示しているではないか。


 ジグマールにとってカズマというアルター能力者は、彼が知る数少ない『向こう側の世界』とこちらを繋ぐ大変に興味深い存在だった。
 彼は自身の目的の為にそういった人材を欲していた、だがあの男は飼い慣らせる存在ではない。
 むしろ逆、反抗を止める事ない反逆者。明確な敵だ。
 だが彼の力は劉鳳と同レベルの潜在能力を秘めた可能性に満ちたもの、必ずいずれはどんな手を使ってでも手に入れる。
 だが劉鳳以上にまだカズマはジグマールの想定するレベルには至っていない。力は目覚めへと至っていない。
 だからこそ、彼の力を目覚めさせ、引き出す必要がある。
 それに最適だったのは自身の部隊のホーリー隊員たちと戦わせることであった。
 だがその求めるには至らぬレベルであろうとも、一般のホーリー隊員たちではもはや敵うレベルを超えた力をカズマは持っていた。
 これ以上にカズマの力を引き出すには、もはや劉鳳と戦わせる他に方法が無かった。
 だがそれはジグマールが危惧する、貴重な存在である両者共に潰し合うという恐れにもなりかねない。
 そんな時だったのだ、この機動六課という異世界の組織の能力者たちがこのロストグラウンドへと舞い降りたのは。
 魔法というアルターとは異なる未知の能力、そしてソレを扱う者の劉鳳にすら劣らぬ実力。
 ジグマールにとって彼女たちはうってつけの人材だったのだ。

 そうして彼が仕組んだ思惑通りに……否、それ以上の結果を彼女たちとカズマの戦いは示してくれた。
 イーリィヤンの“絶対知覚”による監視を通して、カズマが『向こう側』の力の一端を引き出す成果が確認されたのだから、ジグマールにとってそれは喜ぶべきことだった。
 本音を語れば、それを引き出してくれたなのはたちの健闘には感謝してもし足りぬほどだ。
 尤も、それが六課からすれば良い面の皮の扱いを受けたに等しいこともまた承知してのことであったが。
 その思惑の全てを把握できずとも、なのはにもまたそれを察することはできた。
 言ってみれば茶番、任務とはいえ部下を危険に晒され一方的に利用されただけに等しい扱いに怒りや不満を覚えないわけでは無い。
 だが食わせ者と当初から警戒していた以上、これぐらいの扱いは受ける可能性があること自体は承知の上だった。
 最初からそもそも管理局と本土の間には、そして六課とホーリーの間には利用し合う打算関係は織り込まれ済みだ。
 感情に任せた糾弾に身を任せるほどに彼女とてもはや向こう見ずとはいられない。
 こちらにも知り得たものが多かった結果がある以上、ギブアンドテイクの元にこの成果を互いに黙認しあうことこそが、大人が取るべき選択だ。
 充分になのはとてそれは分かっている。だからこそ此処では短絡的な感情に任せた態度だけは取らなかった。

(……でも君なら、きっと違うんだろうね)

 先程死闘を演じた相手……カズマの姿が脳裏へと浮かび、思わずそんな風に思ってしまった。
 もし彼が自分の立場なら、きっと怒りと言う感情に任せてジグマールへと殴りかかっているはずだ。
 まったくもって実に羨ましい、それだけはこの瞬間に正直に思った高町なのはのカズマという男への羨望だった。

120魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:17:48 ID:ooJj/na2
 そしてそんな彼女の思いなど知らぬ当人は、トレーラーへと襲撃をかける前以上に苛立っていた。
 当然だろう、上等な喧嘩だったのは確かだが、結局は相手を殴り損ねた。
 負けた心算など断じてないが、終わってみればこっちはボコボコにされたのにあの女は一発もこちらの拳を貰っていない。
 ダメージの総量から言えば勝ち逃げされたのに等しい。

「……あの女、次会ったら絶対に容赦しねえ」

 最低でも一発、あの不敵な面にぶち込まないことには収まりがつきそうに無い。
 フェミニズムなど欠片も持ち合わせぬこの男にとっては、もはやそれは躊躇いすらも抱かせない決定事項の如く決まっていた。
 間違いなく、この瞬間からあの名前も知らぬ女は劉鳳と並ぶ絶対に相容れぬ敵とカズマは認識していた。
 まぁ、それも今は置いておくとして……

「おい、君島」

 帰路に着く車の中、相棒に名を呼ばれ君島はビクリと反応した。
 直前であんな別れをした後に、余計とは思わないが結果的に彼を助けるために横槍を入れた。
 目に見えて不機嫌、苛立ちのボルテージがかつてないほど高まっているであろう今のカズマだ。こちらに余計な事をしやがってとでも八つ当たりじみた怒りをぶつけられかねない。
 ……まぁ、それもいいさ。今回は寸前で腑抜けちまったこちらも悪い。カズマを助けたことも後悔していないし、先の覚悟していた一発も結局殴られてはいない。
 だからこそ、今回くらいは甘んじて受けてやろう。それもまた相棒の務めと覚悟した時だった。

「んでどうなんだ、まだテメエのやってる事に後悔や迷いはあるのかよ?」

 それは予想外だったカズマからの問いだった。
 君島はそれに思わず驚きながら助手席の相棒へと視線を向けていた。
 カズマは疲れたのか、ぐったりと背をシートに預けながら目を瞑ったままだった。
 その横顔からは、彼が何を思っているかは君島にもはっきりとは分からない。
 ただ呆然と沈黙したまま、君島は相棒の横顔を見ていた後、やがて―――

「そんな余裕、もう無くしちまったよ」

 ―――視線を再び前へと戻しながら、君島は静かにそう答えた。

 後悔することも迷うことも人間なら誰だってすることだ。
 事実、君島だって自分の人生を振り返ってみてもその連続であったことは間違いない。
 正直、カズマがあの本土のアルター使いと戦っていた最中までだってそうだったのだ。
 けれど、先程の激闘の最後に相棒はとんでもない奇蹟を見せてくれた。
 或いは、あれは君島にとっては希望だったのかもしれない。
 だからこそ、助けに飛び出す頃には腹を括れた。
 この男に付いて行く、この男と戦っていくというのならそれで精一杯。
 うじうじと悩んだり悔いたり、ましてや迷うなどと言う余裕を抱く暇などない。
 要するに、覚悟を決めたということだ。
 そして覚悟を決めた以上は―――

「―――今はただ目の前の壁を乗り越える、それしかねえ。……だろ?」

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、君島はカズマに向かってそう言った。
 そしてソレを聞いたカズマが浮かべていた表情もまた、自分と同じものであった。
 腐れ縁から続く気づけば長い協力関係だが、これほど心底気が合って笑い合うことが出来たのは、或いはこの瞬間が初めてかもしれなかった。
 凱旋とはとても言えない帰路の途で、それでも二人は久しぶりに愉快に笑いあうことが出来ていた。



 由詑かなみがカズマの帰宅を知ったのは、表に君島の車が停まった音がしてカズマが車から降りながら君島へと別れを告げている声が聞こえたからだった。
 今日もカズマは一緒に働きに出かける約束を破り、また君島と一緒に何処かへと出かけていた。

121魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:19:04 ID:ooJj/na2
 かなみはカズマが外で何をしているのか、その詳しい事を知らない。訊いてもカズマ自身が話してはくれないという理由もあった。
 それでも君島と一緒に何か仕事をしているようではあるようで、少ないがお金を稼いで帰ってくることがある。
 尤も、それも米と野菜を買い溜めてしまえば幾ばくも残らない額だが。
 はっきり言ってしまえば自分たちの生活は火の車であり、決して余裕のあるものでもない。
 カズマの稼ぎだけでは暮らしていけないからこそ、かなみもまた牧場の手伝いをして働いているのだ。むしろ、カズマの不定期の稼ぎよりも余程彼女の方が貢献しているとさえ言える実情だ。
 甲斐性無しのロクデナシ、と偶に不満を揶揄するように彼に向かって言うが彼が反論せずにそれを受け入れるのはこの現実を認めているからでもあるようだ。
 そうならばちゃんと働いて欲しい、それがかなみがカズマに持つ要望だったが、カズマはこれを殆ど守ってくれない。
 仕事場に連れて行くことに成功しても目を離せば逃げられる、かなみが大人たちに申し訳なく何度も謝っていることを彼は知ってもいないことだろう。
 そうしてマトモに働いてくれないカズマは君島と一緒に何かをしている。その何かが分からず、危ない事をしているのではなかろうかと彼女はいつも心配していた。
 かなみからすればお金云々はハッキリ言ってしまえば二の次、彼女が何よりも望んでいるのはこの生活が安心して平和にいつまでも続けられることである。
 カズマが無事に傍に居てくれるなら、それで自分の願いは殆ど叶っている。彼女は別に裕福になることなど望んでいないのだし、今がずっと続いてくれるならそれで満足だ。
 だが此処は無法の大地であるロストグラウンド、ネイティブアルターやホールドの脅威にいつ曝されても可笑しくは無い、そんな場所だ。
 かなみにとってはだからこそ不安だった、いつかカズマがこれらの争いに巻き込まれて自分の元を去っていくのではなかろうか、と……。
 だからこそ―――

「おう、今帰ったぞ。かなみ」

 そう言って帰ってきたカズマへとそんな不安は杞憂だと思いながら、微笑みかけてこの言葉を言わなければならないのだ。

「うん、お帰りなさい。カズくん」



 一つだけ、どうしても分からずに引っかかっていた疑問が漸くに氷解した。
 帰りを待つ少女の元へと帰り、彼女のいつも通りの笑みと言葉を聞き、それで分かった。
「……かなみ」
 少女の名を呼ぶ、それに彼女は不思議そうに首を傾げながら、
「なに、どうかしたの……カズくん?」
 こちらの態度に不審か不安を感じたのだろう、表情と声に滲み出ていた。
「……いいや、何でもねえさ」
 だが少女にそんな顔をさせるわけにはいかず、カズマは何事もないようにそう答えながらかなみの頭に手を伸ばして頭を撫でた。
 慣れない行為に思っていた以上に手に力が込められてしまっていたのか、彼女の髪を結果的にクシャクシャにしてしまい、リボンも曲がってしまった。
「ああ、酷いよカズくん!」
 当然かなみからすれば不満そのものだったようで、逆に泣きそうな顔をされて怒られてしまった。
「……あ、いや…ワリい、すまねえ、許せ」
 そう言いながらいつものように必死に結局は謝った。踏んだり蹴ったりの出来事ばかりの今日だったが、最後のコレが一番堪えた気がしてならなかった。

(……にしても、何か引っかかると思ってみれば)

 何故あの女に自分は訳もなくあんなにも苛立ちを感じてしまっていたのか。
 言葉を交わす度に不機嫌となってしまったのか。
 ……何てことは無い、気づきさえすれば至極尤もなことだ。

(あの女の声、かなみにそっくりだったじゃねえか)

 ならば苛立つのもまた当然だ。

122魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:20:32 ID:ooJj/na2
 それはカズマにとってかなみの存在が憎いからでは無い。むしろその逆の存在であるからだ。
 由詑かなみという少女はカズマにとって貴重な守るべき存在なのだ。
 甲斐性無しのロクデナシ、ついでにクズも加えていい自分がそれでも生きている日常の象徴とも呼べる存在。
 決して、アルター使い“シェルブリット”のカズマの戦いの中にだけはいてはならない存在。
 そうであるはずの少女、まるでそんな彼女が戦場に居て、そして自分の敵である事を無意識に思わせてしまう声をあの女はしていたのだ。
 実にこちらの一方的な都合だが、それを容認できるカズマではない。

(……あの女とはやっぱ尚更、次でケリ付けなきゃならねえらしいな)

 “シェルブリット”のカズマの戦いの中には、由詑かなみを連想させるような存在は認めてはならない。
 だからこそ、あの女の声はもう戦いの中では聞きたくない。
 だからこその改めての固い決意だった。


「……カズくん?」
 やはり今日の彼の様子はどこか変だ。正直、少し怖いとすら思ったくらいだ。
 君島と一緒に出かけた先で何かあったのだろうか。危ないことに巻き込まれていなければいいのだがと不安にもなる。
 だからこそ心配気にもう一度その名を呼んだのだが、
「ん、心配すんな。何でもねえよ」
 そう言いながらいつものように診療台に座り、目を瞑ってしまう。
 そしてあっという間にカズマはもはや夢の住人となってしまっていた。
 その様子から疲れているのだろうと察したかなみは、部屋から毛布を持ってくると、それをカズマにかけてやり、部屋の電気を消した。
「おやすみなさい、カズくん」
 最後にそう就寝の言葉を告げると、かなみも今日はもう眠るために自室へと戻っていく。
 何か色々とゴタゴタが起こり、これから自分たちの生活が大きく変わってしまうかもしれない。
 その不安はかなみの中からはやはり消えることは無い。
 それでも今はそれを心配していても仕方がない。今はまだその時じゃない。傍にカズマがちゃんと居てくれる。
 そして彼は自分を置いていったりしない、そう信じることができる。
 だから今は、これでいい。
 そう吹っ切ってしまえば、後に心配することは殆どなく鬱な気分も無くなった。
 これならば今日もぐっすりと眠れそうだ。
 もしかしたらまた、あの“夢”が見られるかもしれない。
 それを正直、願いながらかなみは床に就き眠りにヘと落ちていった。


 ……夢を、夢を見ていました。
 夢の中のわたしは、何かに強く抗うそんな人になっていました。
 その人の前に現れたのは、白くて綺麗で、そして強い、そんな女の人でした。
 その人は女の人を相手に戦い、何度も倒されました。
 それでも何度も何度も、その人は立ち上がります。
 決して負けない、認めない、そして逃げない。まるでそんな事を告げるように。
 何度も倒され、何度も立ち上がり、何度もぶつかっていきます。
 その人も女の人も、どちらも決して諦めず、退こうとはしません。
 まるでお互いに、絶対に譲れないものを通し合うように。
 どちらが正しいか、どちらが間違っているか、わたしには分かりません。
 夢の中のあなたには、負けて欲しくない。確かにそう強く思いました。
 でも同時に、対峙する女の人にもまた屈して欲しくないとも思ってしまいました。
 それが何故か、わたしには分かりません。
 それでも、わたしは思ってしまったのです。
 夢の中のあなた、そして女の人。
 この二人が、争い合う以外の別の道で重なることは無いのだろうかと。
 わたしはただ、そう願い続けることしか出来そうにはありませんでした。
 ただ、そう願い続けることしか……

123魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:24:49 ID:ooJj/na2
次回予告

 第二話 高町なのは

 無法の大地で生きてきた男。
 数多の世界の空を飛んできた女。
 価値観・願望は対極を示し、
 反対に根幹の想いには共感を示す中、
 女の言葉は男の拳に何を届かすことが出来るのか。
 カズマとなのは、再びの出会いが双方に示す道とは……


以上、投下終了です。
投下速度が遅すぎたり、容量自体が無駄に長くなってしまい申し訳ございません。
次はもう少し短く纏められるよう努力してみます。

124魔法少女リリカル名無し:2009/03/11(水) 22:29:18 ID:gu3qlvFg
ageないと気付かれないよ?
あと、00分過ぎてるから規制が解除されてると思うから。

age

125魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:31:53 ID:ooJj/na2
ご指摘ありがとうございます。その場合は自分で投下し直した方がよろしいんでしょうか?

126魔法少女リリカル名無し:2009/03/11(水) 23:42:12 ID:gu3qlvFg
自分で投下しなおしたほうがいい。(もう代理投下されてますが)
あとどうみても規制される量だから、91KBは。
せめて、二つか三つに割らないと駄目だったと思います。

127りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:10:12 ID:IWMWkURY
すいませんが、アクセス規制をくらってしまって、どなたか代理投下してはくれないでしょうか
ブリーチ第四弾です

128りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:13:52 ID:IWMWkURY

―――――――――――――戸魂界(ソウル・ソサエティ)。
生あるものが死後行き着くとされる、亡者が支配する世界。
その戸魂界の中心部に位置する『瀞霊挺』(せいれいてい)。
選ばれた貴族や死神が住むとされる、戸魂界の中でも特に住み良い場所である。

 瀞霊挺 一番隊舎

 霊界と現世の平和を守り、それを脅かす悪しき者共を駆逐する霊界の正義。

――――――名を『護挺十三隊』。

その陣頭指揮を務める一番隊舎に今、それぞれの隊をまとめる隊長達が集まり始めていた。

――ある者はゆったりと
――またある者は悠然と
――またある者は音もなく
――またある者は面倒そうに
 歩き方に差異はあれど、皆隊長の証である白い羽織と、それぞれに任せられた数字をその背に負い、隊舎に集っていた。
やがて集った隊長達は、それぞれの番号に向き合うように並び始め、総隊長の到着を待つ。その並びは、まさに圧巻の一言につきた。
――――とある事情により今は数人が欠けて久しいが、それでもその凄まじさは微塵も薄れない。

しばらくして――、一番隊舎の巨大な扉が、ゆっくりと開いた。
入ってくるのは、長い髭を蓄えた老人。その外見の傷跡には、元々長く生きている死神の中でも、さらに長い年月、戦いに身を置いてきた事を感じさせる。

「急な収集に、よく集まってくれたの諸君」

 やがて、その老人――、一番隊隊長にして、護挺十三隊総隊長 山本元柳斎重國が、
深い双眸を広げ、重い口を開いた。


「それではこれより、隊首会を執り行う」



         魔法死神リリカルBLEACH
         Episode 4 『Actors gather』



 海鳴市 戦闘終了後 午後二時五分

「あ〜〜くそっ」
 空を覆っていた結界も消え、再び人と活気が訪れた海鳴市。
その外れの方――いまだ死神姿のままの一護が、不機嫌を露わに歩いていた。

「結局何だったんだよ! 一体」
 そう言う彼は、今は一人だった。
道行く人々は、黒い着物に大刀という、あまりにも目立つ出で立ちの彼を、しかし誰も気づかず通って行く。――とりあえず、チャド達の許へと帰る途中だったのだ。

「黒崎く〜〜〜ん!!!」
 すると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
一護が顔をあげると、チャドと織姫、そして一護の代役を務めていたコンが、一護の許へとやって来ていた。

「不穏な気配を感じてきたんだけど…何かあったの?」
 開口一番に織姫が訊いた。
「あ〜〜あったさ…ったく」
 不機嫌を隠さずにそう返す一護。すると今度は織姫への態度が気にくわなかったのか、コンが一護を指差し、こう言う。
「やいやいやいテメエコラ一護!!! 井上さんに対してその態度は無いんじゃないのォ!!」
「うっせーな! どう返そうが俺の勝手だろ!!」
 ただでさえ深い眉間のしわを、さらに深くしながら一護はコンと睨みあう。
「なんだとぅ!? せっかくテメーが心配で見に来てやった俺にもそんな態度か!」
「テメエは俺じゃなくて井上に付いてきただけじゃねえのか?」
「……あったりまえよ!!!」
 隠すどころか悪びれもせず、コンは胸を張って宣言した。
「俺は誓ったんだ……巨にゅ…井上さんの為になら、俺はたとえ火の中水の中……」
「あーそういやルキアに会ったなあ」
 その言葉を聞くなり、コンは急に辺りを見わたし始めた
「――んマジィで!!? 姐さ〜〜〜」
「もういねえけどな」
 一護が冷淡にそう告げた後、無様に固まるコンを見て――鼻で笑った。

「『火の中水の中』ねぇ……フッ」
「……シャラァァッップ!!!!!!」
 空しい叫び声を上げた後、コンは捲し立てるように一護に食ってかかった。
「大体テメエはいままで何やってたんだよ!! アレか、虚退治なんて言っておいて実は姐さんと―――」
 そう言いかけたところで、コン――もとい一護の額に、代行証が投げられていた。
口からコンの元――義魂丸が飛び出し、それを一護がキャッチする。
再び一護の体は、ぐったりと倒れて動かなくなった。

「朽木さんに会ったの!? 黒崎くん」
 チャドに手伝ってもらいながらも、自分の体に入っていく一護に、織姫はそう訊いた。
「ああ、会ったさ」
 一護は、そう返した。
「何があったか、教えてくれるか?」
 今度はチャドが訊いてきた。とりあえず一護は、ガジェットの事、二人の少女に会った事、ルキアと恋次が現れたこと――
――そして『その後』の事を話し始めた。



 海鳴市 戦闘終了後 直ぐ

 ルキアと恋次に連れられ、スバル達の所から逃げだした後、結界から脱出し、―――その後の話。
一通り落ち着いた処で、一護はルキア達に訊いていた。

129りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:16:06 ID:IWMWkURY
「一体何なんだ!! 何で逃げたんだよ!?」
 一護がそう叫んだ。けっこう大きい声にも関わらず、周りの人々は聞こえないかのように彼の言葉を無視した。
しばらくして、ルキアが返す。

「急なことで済まなかったな、だが奴等が管理局だと知れた以上、こっちのことはなるべく悟られてはならぬのだ」
「それに目標物も手に入れたしな、あちらさんも同じように、これが目的ともわかったんだから、あそこに残る方がどうかしてるだろ」
 続けて恋次がそう続ける。その二人の真顔な返答に、一護は頭が混乱してきた。
「じゃあ何か? あいつ等は本当は悪い奴だったのか!?」
 一護がそう言った。
――しかしレリックのような危険物を処理する、と言ったスバルの眼を見たとき、あれは人を騙すような眼ではないと思ったのだが…
 またしばらく間をおいて、ルキアが返す。
「別に悪い奴らではあるまい、奴等もまた、己の正義の為に動いているのであろう」
「??? じゃあ何で? 何で逃げたんだ!?」
 一護は、頭がこんがらがってきた。
 相手は悪人ではないとわかって、しかし逃げ出した理由がわからない。
一護は問い詰めるように訊いていた。――今度は返答に時間がかかった。

「……済まぬな、一度に全てを話すとなると、時間がかかり過ぎてしまう」
 少し困ったように、ルキアはそう答えた。
「詳しいことは、浦原の家で話すことにしよう。私達も、コイツを調べてもらうついででな」
 そう言い、一護の持つレリックを指差す。
一護は納得いかなかったが、ルキアの言い分も一理あるのでしぶしぶ承諾した。
「…わーったよ、じゃあ浦原さん家で話してくれんだな?」
「ああ、井上や茶度、石田も来ているのだろう? あ奴等にも上手く伝えてくれ――それと」
 ルキアは次の瞬間、一護の持つレリックをひったくった。
「あっ、てめ…」
「言っただろう、コイツを調べてもらうと。色々聞いてはいたが、世界規模の破壊力を有しているみたいだしな」
 レリックを翳しながら見るルキアを後に、恋次は続ける。
「じゃ、俺達は一足先に行ってるぜ。早く来いよ」
 そう言い終えると、ルキアと恋次はその場から去って行った。
「あっコラ!! ちょっと待て…」
 一護が言った時には既に、彼等の姿は微塵も無かった。

「ったく 何なんだチクショー」



「―――ってなわけだ」
 啓吾達の所へ向かって歩いていく途中に、一護は話を一通り終えた。
「……そんなことがあったんだ」
 話を聞き終えたところで、織姫がそう漏らす。
「……で、これからどうするんだ? 一護」
 今度はチャドが訊く。だが、一護の腹は決まっていた。
「決まってんだろ? これから浦原さん家に行って、ナニがドーなってんのか訊きに行く!」
「あれ? でもそれって…」

「うお〜〜い!! 一護〜〜〜!!!」
 織姫が言いかけた時、遠くから一護を呼ぶ声が聞こえた。
啓吾と水色、そしてたつきだ。
「何やってんだよ!? これから楽しいイベントが始まるって時に!!」
「ケイゴ、まだ僕達それらしいイベントに突入してないよ?」
「うるせぃ!! これから始まるところなんでぃ!!」
 啓吾と水色の会話は置いといて、たつきが改めて訊いてきた。
「で? あんた等いままで何してたの? トイレにしちゃ長くない?」
「ああ…まあ色々あってな」
「いいじゃねえか! いいじゃねえか!!」
 啓吾が割って入ってきた。聞いてもいないのに彼は、勝手に喋りまくる。
「これから旅館に行って、ポロリありの露天風呂へ入った後、肝試しをしてワーキャーってなって、それからそれから―――」
「ああ、ワリィ。済まねえけど、俺もう帰るわ」
一護のその言葉に、一瞬啓吾が固まった。

「――――――――――――――――――」
 しばらくの沈黙の後、
「――ハァ!!!????」
啓吾が鬼のような形相で叫んだ。
「うおっ 時間差!?」
 やっぱりちょっとたじろきながらも、一護は答えを変えない。
「ちょっと外せねー用事ができちまってな。後は俺抜きでやってくれ」
「あっ!!! ちょっと一――――」
 しかし啓吾の声は届かず、既に一護は遠くの方へ走って行ってしまった。
「イチゴォォォォォォォォォォォォ!!!! カァムバァァァァッックゥゥゥ!!!!!!」

130りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:18:55 ID:IWMWkURY

 啓吾はちょっと涙目になりながらも、皆の方を振り向いた。
「もうこーなったら一護抜きで楽しんでやろうぜ!!! アイツが悔しくて地団駄踏むぐらいはじけてやろうぜ!!!!」
 笑顔をなんとか保ちながらそう言うが、織姫とチャドは、一護が行ってしまった方角をずっと見つめていた。
――――啓吾は嫌な予感がした。
「あのーー、井上さん? チャド?」
 恐る恐るそう聞く啓吾。次の瞬間、織姫とチャドも啓吾の方を振り向き言った。
「ゴメンね!! あたしも急に用事を思い出しちゃったかなあって」
「……ム、スマン。俺も…何か大事な用があった気がする」
「あ、あの!? ちょっとお二人とも―――」
 無論啓吾の制止が利くはずもなく、二人も一護と同じように走り始めていた。
「あ! ちょっと織姫ェ!!!」
 そう言いながら、たつきも一緒にその場を後にする。
結局、その場には啓吾と水色しか残らなくなってしまった。
「……ケイゴ、僕ももう帰っていい?」
 放心状態の啓吾に向って、水色はそう言うが、今の彼に、答えを返す力は残ってなかった。
「オーイ、ケイゴ?」
「……………」
 こうして、浅野啓吾のドキドキツアーは幕を閉じた。


 海鳴市 午後二時三分 とある建物内


「ええっ!!? 任務失敗!!?」

 モニター越しに、機動六課の部隊長、八神はやての驚いた声が響いた。
「うん…ごめんね」
「悪い、はやて」
 至極申し訳なさそうに返すのは、なのはとヴィータ。
――あの後、急に怪物達が引き返し始めたので、急いでスバル達の許へ向かった時には、レリックは取られ、犯人も見失った後だった。

「…せやけど、なのはちゃんとヴィータ、シャマルもおったんよな?…それでもどうにもならなかったん?」
責める風ではなく、疑問に思う風にはやてが言った。長い付き合いゆえに彼女達の実力も知っているからこそ、なおのこと不思議だったのだ。

「うーん…まあ、アンノウンがさ…現われてさ…」
「? ガジェットの新種か何かか?」
「いや、そうじゃなくて…何て言ったらいいんだろ…」
 ヴィータが説明しづらそうに、そう言が、はやての疑問符は増えるばかり。
それにガジェットの新種が現れたところで、そうそうなのは達を抑えられるものなのか?
―――それでも相当な数呼び寄せなくてはならないだろうし、レリック一つの為にそんな体それた数出てくるなら最初からそうしたはずだろうし――。

「まあ、一気に説明は出来ないから、そのアンノウンの画像をそっちに送ったところだし、詳しいことは帰ってから話すよ」
 なのはが、そう説明する。はやてもそれに頷いた。
「わかった。せやったら直ぐにでも帰――」
 一瞬そう言いかけ、急に済まなさそうに続けた。

「――ごめんな、せっかく帰ってこれたのに、またこんなこと言いだして」
「ううん、仕方ないよ。それに、はやてちゃんやフェイトちゃんを差し置いて私だけってのも何だかなって思ってたし」
「せやけど……」
「大丈夫!! 私は大丈夫だから」
 笑顔を繕い、そう言うなのは。はやては、本当に申し訳なさそうに謝った。
「――ごめんな、なのはちゃん」
「何ではやてちゃんが謝るの? 私はホントに大丈夫だから―――じゃあね」
 そう言い、通信を切るなのは。
しばらくして、今度はヴィータが訊いてきた。
「なあ、なのは…ホントにこれでいいのか?」
「――え?」
「だから、なのはの家族とか、アリサやすずかに挨拶してかなくていいのかってことだよ!!?」
 ヴィータが声を荒げた。――ただでさえ人員不足である時空管理局。そこで有名である分、中々休みも取ることはできない。
そのうえ元の世界に帰れることなど、滅多なことではありえないことだった。
―――今逃したらまた、いつ会えるかどうか。

 しかし、なのはは静かに首を振った。
「…しょうがないよ…すぐ帰らなきゃならなくなったし――それに…」
 少し間を置いて、続ける。
「それだったら、いっその事会わない方が、みんな忙しいだろうし…ね」
 ――正直、会いたくない。というと嘘になる。
けど、みんなはみんなの都合があるだろうし、もう帰ってしまう自分の為に、予定を割いて来てもらう程でもないはずだ。
――だったらいっそ会わない方が、妙な後腐れはなくてすむ。

 それでも、ヴィータは納得いかないようだった。
「けどよ…なのははそれで―――」
「ヴィータちゃん、私は大丈夫だから」
 しかし、なのはは皆まで言わせなかった。纏めた荷物を持って、部屋を出る。
「行こ、みんな待ってる」
 ヴィータも、渋々といった感じで部屋を出た。しかし、前を歩くなのはの後ろ姿には、やはりどこか寂しそうに見えた。

131りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:20:20 ID:IWMWkURY



 空座町 浦原商店前 午後四時三十二分

 空座町のとある一角、そこに昭和の感じを醸し出す駄菓子屋があった。
名前を『浦原商店』。
子供には大人気のお菓子から、大人には口では言えないような物も売っている何でも屋であるが、それは世間を欺くためのカモフラージュに過ぎない。
――今、その浦原商店の前で、二人の子供が掃除をしていた。

「四番バッター、花刈ジン太 豪快なフォームから…」
 しかしその内の一人は、掃除などそっちのけで箒をバット代わりにして遊んでいた。
「殺人シュート!!! 打った大きい!!!」
「ジン太くん……何やっているの?」
 もう一人の大人しそうな女の子が、不思議そうにジン太という少年に訊いた。
「何って、ドッチボールに決まってんだろ。雨(ウルル)!! 男は黙ってドッチボールだぜ!!」
「でもそのボール……サッカーボールじゃなかったっけ?」
 雨と呼ばれた少女は、ジン太の持っているボール――先ほどのスイングを空ぶったボールは、確かにどこからどう見てもサッカーボールだった。
――サッカーボールでドッチボール。しかも手に持っている箒は明らかにバットにしていた……。

「なんか……色々混ざってるよ、ジン太くん」
 やんわりとつっこむ雨を見て、ジン太は顔を真っ赤にして叫んだ。
「うっ…うるせえ!!! これは俺が考えた新しいゲームだ!! 文句あるか!!?」
 そう言って、雨をいじめ始めるジン太。しかしこれはいつもの光景だった。
「い…痛い! 痛いよ…ジン太くん!!」
「大体そう言うことは早く言えよ!! チクショーお前のせいだぞ!!」
「酷い! 酷いよ…ジン太くん!」
 しばらくの間、雨の頭をグリグリするジン太。
しかし次の瞬間、ジン太の体は何故か2メートル近くまで飛び上がった。

「何をしておいでかな? ジン太殿」
「うおわっ!! テッサイ!!……さん」
 テッサイと呼ばれた、チャドと同じ2メートルはある巨人につままれ、慌てふためくジン太。――これもいつもの光景だった。
そんなところに、近づいてくる足音が幾つか。
「……これはこれは、お待ちしてましたよ」
足音の主を確認するなり、テッサイがそう言った。

――そこには一護と織姫、そしてチャドがいた
「浦原さんいるか?」



「いらっしゃ〜〜〜い」

 テッサイに案内され、店の居間辺りまで来たとき、そんな声が聞こえた。
入ってみると、テーブルを囲んだ奥に男が座って待っていた。
「しばらくぶりですね、黒崎サン」
見慣れた服に見慣れた帽子。相変わらずといった飄々ぶりを見せながら、彼――浦原商店店長 浦原喜助が挨拶した。
と、隣にいたルキアと恋次が、今度は不平を洩らした
「遅いぞ、一護」
「モタモタすんなって言ったろうが」
「うるせーよ、そんなに早く来れるか!」
 鬱屈そうにそう返す一護。――すると別の声が聞こえた。
「いや、それにしても遅すぎだろ。一体何してたんだ?」
「…石田、来てたのか?」
「…来ていちゃ悪いのかい? 黒崎」
 血管を浮かべながらそう言うのは石田雨竜。一護のクラスメイトでもあり、200年以上前に絶滅した退魔の眷属。
『滅却師(クインシー)』の末裔でもあった。
(しかし今はとある事情により、その滅却師の力は無くしている。)

「まったく、いちいちカンに障る言い方しかできないのか?」
 溜息をつきながらそう続ける雨竜。今度は一護の顔に血管が浮き出たが、しばらく睨みあっただけで丸く治まった。
「こっちだって色々あるんだっての…」
そう呟きながらも、一護はその場に座った。織姫とチャドも後に続いて座る。

「うむ…皆揃ったようじゃな」
 今度はテーブルに座っている、小さな黒猫がそう告げた。
「夜一さん、『そっち』の姿になってんだな」
「まあ、気分じゃ」

「ハイハイでは皆さん、ちゅ〜〜も〜〜く」
 そう声掛けて、喜助は懐から何か取り出した。――レリックだ。
「危ないんで、色々な封印をかけときました。余程のことがない限り安全ですよん」
そう言って皆に見えるようにテーブルに置き、続ける。

「さて、まず黒崎サン達は何が知りたいんですか?」
 一護の目を覗き込むようにして、喜助が訊いた。一護はしばらく押し黙って、やがて言った。
「じゃあ、時空ナンたらについて…」
「ハイでは朽木サン、朽木サン達がここまでに至った経緯をどうぞ!」
 明らかに一護の質問を無視し、ルキアに振る喜助。――――だったら訊くんじゃねえよ。
そう言いたいが、自分もいい大人、彼のこの態度も知らないわけじゃないんだから、と必死に血圧を下げる一護。
そうする間に、ルキアの説明は始まっていた。

132りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:23:23 ID:IWMWkURY

「……ここ最近、虚の動きがどうもおかしくなっているようなのだ」
 どう説明するか考えながら、ルキアは話を続ける。
「一護、貴様も感づいているとは思うが、近頃の虚は、どうも集団行動が多くなってきている」
「え?……あ…ああ!! そうだな!…」
 慌ててそう繕う一護。―――――気づいてなかったな、そんな空気が流れた。
ルキアは一回咳払いをして続けた。
「…まあともかく、虚というのは元々、個々で強い魂魄を求めて途方もなく彷徨うものなのだ。それが最近、普通の虚同士ではしないような、連携的な動きを見せてきている
――その中心にいつもあったのが『コレ』だ」
 そう言って、ルキアはレリックを指差し、さらにこう続ける。

「どうやら虚共は、コレを必死になって探しているらしい。コレを見つけた虚達は、己の命を顧みずに守ろうとする
…中にはコレを手に入れた虚が逃げている間、他の虚が囮となって阻んだという報告も受けている
――相当に大事なものだと見るのが妥当だろう」

「ですが…問題はそこだけじゃない」
 今度は喜助が、ルキアの言葉をとって続けた。
「確かにコイツについて、まだまだ知らないことがたくさんありますが…それよりコイツを求めて動いている虚達もまた、よっぽどの統制が執れていることなんですよ。
――それこそ生半可なものではないくらいに」
「………つまり、どういうことだ?」
 一護が、疑問符を浮かべて訊く。話が遠回りすぎてよく分からなかったのだ。

「つまりですね……」
 喜助が、帽子の中にあった眼を覗かせながら、今度はかみ砕いて説明する。
「アタシ達は、コイツを探す虚達の裏に、大きな影が動いてるのでは無いかと疑っているわけですよ…ここまでくればもうお分かりでしょう?」
「裏?……影……――」
 しばらく考え込む一護だったが、やがて彼の脳裏に、ある光景がよぎった。



――――――血塗れのまま倒れている自分。
――――――それを遥か高みから見下ろす3つの人影。
――――――どうにもすることができず、ただ奴等を見上げることしかできなかった自分。

―――やがて彼等は、虚達に導かれ、霊界を去って行った。

忘れもしない、あの光景―――
「―――――あ!!」
 気づけば、一護はそう叫んでいた。他の皆も、同じわかった顔でお互いを見合わせる。
「そう…この裏には、あの男」
 喜助が、続けて言った。

「…藍染惣右介……彼が絡んでいるのではないかとね」

 ――――しばらくの間、沈黙が訪れた。





―――数週間前、霊界 戸魂界にて、ある事件が起こった。
―――霊界を守る護挺十三隊――その数人の隊長達が、反逆の狼煙を上げたのだ。


 ことの発端は、朽木ルキアの処刑からだった。
現世にて魂魄保護の命を受けたルキアは、途中で黒崎一護と出会い、そのまま虚に遭遇、最悪な展開に陥ってしまったため、やむを得ず死神の力を一護に渡してしまったのだ。
 戸魂界は、これを『勝手な死神の力の譲渡』という重度の違反と判断、処刑が決まってしまった。――ルキア自身もこれを受け入れてしまい、彼女は戸魂界にて裁きを待つ身になった。

 ただその処刑に納得がいかなかったのが一人いた―――。
――――黒崎一護だ。
 彼は浦原喜助、四楓院夜一らの先導のもと、そして茶度泰虎、井上織姫、石田雨竜らと共にルキア奪還を決心。戸魂界に乗り込んだ。
 協力者の力を借りてなんとか瀞霊挺に進出したものの、皆とは離れ離れに。そこからは先は、護挺十三隊を相手に、個々による激しい戦いが繰り広げられた。
 何度も傷つき、倒れながらも、抱いた意志を強く持ち、何度も立ち上がり、そしてまた戦う。
――そして遂に、まさに処刑寸前に、ルキアを助け出すことができた。――それで終わるはずだった。

―――――だが、これには別の真実があった。
―――――この処刑そのものが仕組まれたものだったと。

133りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:24:41 ID:IWMWkURY

五番隊隊長 藍染惣右介 

彼は、この戦いで死んだと見せかけて、処刑をめぐる戦いの裏で暗躍していたのだ。

 彼の狙いは、死神と虚の境界を取り払い、更なる存在を生み出すと言われる、戸魂界で最も危険な物質『崩玉』。
製作者である浦原喜助は、この崩玉の存在を危険に感じ、仕方なく魂魄の中に埋め込んで隠すという方法を取った。―――その白羽の矢が立ったのがルキアだった。
 それを知った藍染は、戸魂界の上層部である中央四十六室を殺害。あたかも処刑が上層部の決定であることを見せかけ、自身は死んだと偽って影で戦いを様子見、
――そして処刑を行うことで、ルキアの中にある崩玉を取り出す計画を立てていたのだ。

―――――そして、戸魂界がこの真実に気づいた時は、既に遅かった。

 ――結果、ルキアは死を免れたものの、黒幕は取り逃がし、崩玉も奪われてしまった。
そして戸魂界は深い傷跡を残し、藍染と数人の共犯者――二人の隊長達は、虚達の力を借りて虚園へと去って行った―――――。



「――――――あいつか………」
 ずっと続くかと思われた長い沈黙を、一護が破った。あの惨状は、ある程度時間が経った今でも鮮明に覚えている。
「―――確証は?」
 今度は雨竜が喜助に訊いた。
「まあ100%とは言いませんが、その可能性は大ですよ」
 そう言う喜助だが、彼は絶対と確信しているようだった。
今度はルキアが説明を続ける。
「当初戸魂界は、藍染が動くまでは静観する手はずだったのだが、これ以上好き放題させていたら、これから対処するにつれてますます不利になる
―――ということで今、戸魂界から二つの命が下ったのだ」
「二つの……命?」
「ああ」
 そう言ってルキアは指で二の文字を作り、一つの指を折り曲げて言った。
「一つは、レリックを確保するために私と恋次を現世に派遣すること――もう一つは」
 ルキアが二つ目の指を折り、続ける。

「数名の隊長格と共に、レリックが多く密集しているという世界に赴き、そこから藍染の跡を辿ることだ」

「……つまり?」
 まだ疑問符を浮かべる一護の問いに、ルキアが簡単に言いかえる。
「時空管理局…貴様が会ったあの女達の住む世界へ直に行き、あ奴等よりいち早くレリックを回収する―――そう言うことだ」
「何で崩玉を持つ藍染が、いまさらこんなモンなんか狙ってるか知らねえが、とりあえず奴が求めているモンを俺達も探していけば、奴の尻尾ぐらい掴めるかも知んねーだろ」
「……それってもう決まったことなのか?」
 今度はチャドがそう質問する。
「ああ、決まったなら早ぇ方がいいだろ? いまごろあっちじゃ、どの隊長を派遣するか決めているとこなんじゃねえのか?」
「……あれ?」
 ここで織姫が、不思議そうな顔をして言った。
「だったらその管理局…って人達にも協力してもらえばいいのに、その言い方じゃまるでどっちが早く取るか競争!!…するみたいだよ」
「……確かにそうだ」
 最初に訊きたかった質問に戻ったことで、また一護が詰め寄る。

「あいつ等何者なんだ? 時空管理局って何なんだ!?」
 この質問には、何故か返答が遅かった。やがて喜助が、どう言ったらいいか悩みながらも答えた。
「時空管理局…ねえ……」
 しばらくして、喜助の口から衝撃の言葉が出た。

「……アタシ達も、よく知らないんすよ」

「―――――ハァ!!?」
 あんまりの返答に呆然する一護達を、喜助が慌てて遮る。
「あ、いや!…全く知らないってわけじゃあ無いんですけど…信用できるかどうかとなると…って意味ですよ」
 そう前置きし、喜助は説明しだした。

134りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:26:25 ID:IWMWkURY

「まあ、平たく言えば…時空管理局ってのは、黒崎サン達のような霊力の強い人達が集まってできた警察のようなものって聞いてます
――――いわば滅却師の親戚みたいなものですね」
「…じゃあ死神と同じじゃん。何で信用してないんだ?」
 不思議そうにそう言う一護。わからぬ、とルキアは返した。
「死神になるとき、我らの存在は管理局には絶対に悟られてはならぬ、と教えられたが…その理由となると…」

「…二の舞を避けるためっスよ」
 しばらくの間を置いて、喜助が静かにそう言った。
「聞いた話なんですけどね…もし我々死神の存在が、管理局の連中に知られたらどうなるか、虚の事を知ったらどうなるか」
 ここで少し間を置いて、さらに続ける。
「もし虚の真実を知った管理局の一部…例えば黒崎サンのような正義感の強い人間達が、じゃあ自分達も虚を討つことにしようって事になったら、どうなると思います?
―――奴等は好んで人間を襲うと、死神と違って滅却することしかできない彼等が知ったらどうなると思います?」

「世界の崩壊を防ぐために、滅却師殲滅のようなものがまた起きる…ってことですか?」
 この答には、当事者の末裔である筈の雨竜が答えた。
喜助は、彼がきっぱり答えたことに意外そうながらも頷いた。
「……あんなことがあった以上それを恐れた戸魂界は、同じ轍を踏まないようにと距離を置くことにしたんでしょうね
―――真実を知らない限り、少なくとも彼等は虚のことは数ある魔法生物の一つぐらいにしか考えてないみたいですしね」
「―――けどよ…」
 一護は、まだ納得がいかない様子だった。

「それこそちゃんとお互いを知って話し合っていれば…今回のことだってこんな遠回りにならずに協力してもらえたはずだろ?」
 一護の言うことに、皆は頷く姿勢を見せるが……しかし喜助はただ静かに首を振るだけだった。

「…まあ、お偉いさんの考えることは、アタシ達にはよくわかなんないッスからねえ――怖くて信用できなかったんでしょう」
「それに…たとえ知っていたとしても、今となっては協力なぞ望めぬじゃろう」
 今度は夜一が、厳粛な声でそう告げた。

「…どういうことだよ?」
 夜一に向き直って尋ねる一護。しばらくの間を置いて、夜一は続けた。

「先にも言うた通り、今度の敵は藍染の可能性が高い――あ奴はずっと前から…それこそお主達の祖先がまだ赤ん坊だったそのずっと前からの永い永い間…我ら護挺十三隊を…戸魂界を謀ってきた男じゃ。
―――そんな奴が管理局の連中に何も手を加えていないと思うのか?」
 夜一のその言葉に、一護ははっとする。
「あ奴のことじゃ、管理局の一部を既に抱き込んでいるかもしれんし…いやもしかしたら、管理局全体が藍染の手下となりさがっとるかもしれん―――それぐらいのこと、平気であ奴はするじゃろう」
「………」
 しばらく押し黙っていた一護だったが、突然彼の脳裏に、スバルとティアナの姿が過ぎった。―――彼女達も自分を騙そうとしていたのだろうか?…いや、そんなはずは――
 しかし、夜一は反論を許さぬ口調で続ける。
「無論全員が、というわけでもないだろうが、それでもその位の考えがなければ…その位に疑ってかからねば…あ奴には届かないじゃろう」
 一護は、その言葉に何も返せないでいた。藍染の恐ろしさは…自分も心身共に身をもって知っていたからだ。
 今度は恋次が口を開いた。

「現世に来る時、総隊長が言っていたことがある……『味方と思うのは自分達だけ、周りは全て敵と思え』って……そうしないと勝ち目はねぇ…ってな」

「で、黒崎サン達はどうするんですか?」
 ここで喜助が一護に訊いてきた。
「え…どういうことだ?」
「言葉通りの意味ですよ。戸魂界は既に方針を決め、行動を開始している…派遣する人員が決まったら、直ぐにでも向こうに行くつもりでしょう―――黒崎サンも、当然行きますよね?」
 急な事に一瞬戸惑う一護だったが、確かに行くな、と言われても自分で行くことにするだろう。―――その時また、スバルの姿が浮かんだ。

135りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:27:35 ID:IWMWkURY

(―――あいつとまた会ったら、今度は戦わなきゃならねえのか……)

 いまだ、彼女達と敵対するのに、若干の抵抗が――そして、本当にこれでいいのかという、一抹の不安も覚える。
――だが、ここまで知っていまさら立ち止まるなんてできないし、藍染の策略ならなおさら阻止しなければ、今度はいままで以上の血と犠牲が出るかもしれない。
――それだけは有ってはならない。
 一護は、無意識に拳を握り締めていた。

「――行かせてもらうぜ」

 周りの皆も、その言葉に頷いた。





 暗い暗い闇―――そして唸る砂嵐。
常に夜が空を覆う完全な闇に、小さく光る三日月。
下界には、ただっ広い砂漠に葉も無い枯れた木が疎らにあるだけ、他には何も無い、それだけの世界。

――その砂漠に蠢くは、虚の影―――

 死神は、この世界を『虚園(ウェコムンド)』と呼んでいた。

 その虚園、とある場所に、大きな大きな宮殿が建っていた。
周りの木が米粒に見えるくらいの、圧倒的な存在感を持つそれ―――。
『虚夜宮(ラス・ノーチェス)』
 藍染惣右介を頂点に置く、虚からさらに進化した存在、『破面(アランカル)』が潜む、彼の根城だった。

 虚夜宮 とある廊下

 白と黒で彩られた大きな廊下は今、歩く音で響き渡っていた。
聞こえる足音は一つ。その足音の主は、響き返る自分の足音にも気にも留めず、黙々と目的地に向かって進んでいた。

 その男――彼は面妖な出で立ちをしていた。

 まず身に纏う服は、全てが真白。腰には刀を帯刀している。
全身の肌も同じように白がかっていたが、髪は黒く、その左上には、かつての虚であった頃の名残か、仮面の破片のようなものがついている。
その瞳には、喜怒哀楽どの感情にも浮かんではなく、感情そのものがあるのかさえ疑問に思う眼をしていた。
 やがて―――歩き続ける彼の前には、大きな扉へと辿り着いた。
そこで立ち止まり、彼はしばし聳える扉を見上げた。

「ウルキオラかい? 入っていいよ」
 暫くして、扉の奥から声が響いた。
彼はゆっくりと扉を開け、中へと入った。

「急な呼び出し、済まなかったね」
 ウルキオラと呼ばれた彼の目の前には、後ろを向いた質素な椅子、それだけしか無かった。やがて椅子が前へと向きなおり、座っている者の姿が見える様になる。

「藍染様、御要件は何ですか?」
 ウルキオラは軽く一礼し、単刀直入にそう訊いた。
しばらくして、藍染は不敵な笑みをしたまま答える。
「君に、ある物を届けて欲しいんだ」
「……ある物?」
「そう、ある物だ」
 そう言って愛染は指を鳴らした。

 次の瞬間、ウルキオラのすぐ下の地面から、小さな円柱が伸び出てきた。
円柱はある程度まで伸びた後、今度は上部から螺旋状に分かれ始めた。
――それもある程度まで分かれた時、ウルキオラの前には小さな玉が現れていた。

136りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:28:18 ID:IWMWkURY

 ――小さくも中で何かが激しく渦巻いているように見える『それ』
周囲には、危険だと判断された浦原喜助の手で封印された結界が張ってある『それ』
それでもなお、見る者にとてつもない何かを感じさせる『それ』
 浦原喜助が創り出した、死神と虚の境界線を取り払い、さらなる存在を生み出す『それ』
―――それの名を『崩玉』と言った。

「偽物では無い、正真正銘の本物だ」
 崩玉を手に取るウルキオラに、藍染は変わらぬ笑みを讃えて言った。
「これを、ある男に届けて――そしてしばらくの間は、その男の言う通りに動いて欲しいんだ」
 そしてしばらく間を置き、こう続ける。
「そして、その男の言う通りに動く裏で、君には極秘にあることをしてもらいたい。そのあることとは―――――」



「…わかりました」
 説明を聞き終えたウルキオラは、しばしの黙考の後、静かにそう答えた。
この任務について、疑問に思うことは数あれど、それを藍染に問おうとは思わなかった。
――自分にとって藍染は絶対、藍染がそうしろと言うならば、自分はその通りに動くだけだ。

「頼んだよ、ウルキオラ」
 藍染はそう言い終える頃には既に、ウルキオラは『黒腔(ガルガンタ)』を開いていた。
「では、直ぐにでも」
「ああ、」
 藍染は最後に、ウルキオラに目的地を伝えた。

「場所は、魔法の地ミッドチルダ。男の名はジェイル・スカリエッティだ」


 役者は集う―――彼の地ミッドチルダに―――。




―――――――――――――――――――――――――――――――To be continued

137りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:29:02 ID:IWMWkURY
これにて終了です。どうもお疲れ様でした。
     補足 前回の質問について
 今回は『なのは』と『ブリーチ』の設定について、色々疑問が多いと思うので、
明かせる範囲だけで簡単な説明をしようと思います。

Q 管理局と戸魂界の関係について
今回の事が起こるまで、あまり交流はありませんでした。理由は、本編を見てくれたら多少なりと納得してくれるかと
 管理局側は、死神と虚の存在は確認できるけど、死神の場合あまり記録に残らないように改竄されているという設定です。そのため確認例がちらほらあるだけです。
 虚は、死神に比べると発見例が多いですが、霊=虚と結びつくまでには至っておらず、(外見から結びつけるのは不可能かと)それならまだ危険な魔法生物の一種と見なしているようです
(A`sのような怪物もいましたし)
 戸魂界側は、存在こそ知っていますが、今となっては信用することはできずに、勝手にさせている状態です。

Q なのは達の19年間について
 霊は見えていますが、虚は見てはいません。いつかはそれを描いた番外編でも創ろうかと。
 虚を見なかった理由については、現地の死神が優秀だったことにしてください。(一護も15年間は虚の存在を知らなかった)

Q じゃあミッドチルダに虚や死神は出ないのか
 ―――でません。それは何故か?
それは本編の続きということで。

 また質問があったらどうぞ、すぐには返せないかもしれませんが。

                        ――――――それではまた。
ここまで代理お願いします

138魔法少女リリカル名無し:2009/03/12(木) 20:06:38 ID:ppyTEUP.
>>137
自分も規制中なので無理ですが
代理投下のお願いは一番最後に別レスでやった方がいいと思います
その方が目に付きやすいので

あと何レス目〜何レス目までの範囲も書いて置いた方が

139りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/14(土) 14:45:05 ID:0zvgg.Go
確認しました
代理の方どうもありがとうございました

140レザポ ◆94CKshfbLA:2009/04/12(日) 16:42:01 ID:/jMypZuk
 「くっ!これは!!」
 「無駄ですよ、その赤いバインド、レデュースパワーは縛った対象の力を抑え、
 青いバインド、レデュースガードは縛った対象の防御を抑える……その意味はわかりますね?」
 
 そう言うとグングニルを振り上げるレザード、ザフィーラはバインドを外そうと力を込めるが思うように力が入らなかった。
 ザフィーラはなす統べなくレザードの攻撃を受け吹き飛んだ。
 すると今度はフェイトがトライデントスマッシャーをレザードに放つ。
 最初に撃ち出された直射砲を軸に上下に直射砲が伸び、三本の直射砲がレザードに向かって襲いかかる。
 だがレザードの左手に青白く炎のように揺らめく魔力を纏わせライトニングボルトを放つ。
 ライトニングボルトはトライデントスマッシャーを打ち破りフェイトに直撃した。
 すると今度はなのはがエクセリオンバスターを撃ち込む。
 
 「エクセリオン……バスター!!」
 「フッ……プリベントソーサリー」
 
 するとエクセリオンバスターから黄色い魔力の鎖が現れ、巻き付くとエクセリオンバスターは徐々に拡散し消滅した。
 なのはは驚く表情を見せるとレザードは得意気にバインドの説明を始めた。
 プリベントソーサリー、レザードがこの世界に合わせた魔法で、縛った対象の魔力を封じる効果を持つという。
 つまりそれは魔法を縛れば魔力の運動を止められ消滅し、
 肉体を縛ればリンカーコアの動きを封じられ魔法が使えなくなると語る。
 そしてレザードは眼鏡に手を当てると更に話しを続けた。
 
 「どうしました?さっきまでの威勢は何処へ行ったんでしょう?
  それとも…フフッ犠牲者がでなければ実力が発揮出来ないとか?」
 
 そう言うと左手を地上にかざすレザード、左手は先ほどと同様、魔力に覆われていた。
 なのはとフェイトはレザードがかざす手の方へ目を向ける、すると其処にはティアナやエリオ達の姿があった。
 まさか!といやな予感がしたなのはは、とっさにティアナ達に念話を送る。
 
 (ティアナ!みんな!急いでその場か―――)
 「…バーンストーム」
 
 そう言うとレザードは指を鳴らすと纏っていた魔力が消える。
 そしてスバルが居た場所を中心に直径数百メートルの部分が三度に分けて大爆発を起こし、その光景を目の当たりにするフェイト。
 するとレザードはバーンストームの説明を始める、バーンストームは爆炎を利用した魔法、
 そしてレザードの手によって非殺傷設定されている為、死ぬ事は無いと。
 だがレザードの炎は特別で対象が気絶するか、かき消すか、そして非殺傷設定が解除されてあれば燃え尽きるかしないと、炎は消える事が無いと話す。
 しかしバーンストームの跡地に残された炎は見る見ると消えて来ており、その状況に疑問を感じるレザード。
 
 「おや?思いの外、炎の消えが早い……そうか!相手が弱すぎて最初の爆炎だけで気を失ったのか!
  ならば…その後に訪れるハズであった身を焼かれる苦しみを味わなくて済んだようですね」
 
 そう言って高笑いを上げるレザード、フェイトは依然として跡地を見つめていた。
 あの場にはエリオ達の姿もあった…それが一瞬にして消されたのである。
 
 するとフェイトは怒りで目の瞳孔が開き、髪をふわりと逆立てると、ソニックムーブでレザードの後ろをとり、
 ブリッツアクションを用いて腕の振りを早めたジェットザンバーを放つ。
 だがレザードはとっさにシールドを展開させフェイトの攻撃を防ぐ。
 互いの攻防により火花が散る中、フェイトはレザードを睨み付け吐き捨てるように叫んだ。
 
 「アナタは!命をなんだと思っているんですか!!」
 「ほぅ……“人形”が生意気にも命を語るか……」
 
 その言葉に動揺を覚えるフェイト、その隙を付いてレザードはグングニルでフェイトの子宮辺りを突き刺す。
 グングニルにはアームドデバイスと同様、非殺傷設定されてあれば肉体を傷つけず、
 肉体を傷つけた際に生じるであろう痛みのみを与える効果を持っている。

141レザポ ◆94CKshfbLA:2009/04/12(日) 16:43:13 ID:/jMypZuk
 「かぁ!?……はぁぁぁ……ぁぁ…」
 「“人形”が…処女〈おとめ〉を失う時の様な喘ぎ声を上げるとは…な!」
 
 そう言ってレザードは更にグングニルを深く突き刺し更に突き上げた。
 グングニルによって深く突き上げられた痛みによって、フェイトは目を見開き涎を垂らしていた。
 
 「はぅ!……ぁ…ぁぁああ!!」
 「キツいですか?なぁに…すぐにこの感覚にも馴れます…よ!」
 
 更に深く突き上げ、グングニルは尾てい骨辺りを超えて貫き、腰から刃を覗かせていた。
 
 「カハァ!!」
 「とは言え所詮はただの“人形”……貴方が相手では木偶と情交するに等しいか…」
 「わた…しを…“人形”と……呼ぶな!!」
 
 涎を垂らし目には涙を溜めながらも必死に抵抗するフェイト。
 するとレザードはグングニルを引き抜きフェイトの顎を掴み、顔を近づけこう言い放った。
 
 「“人形”と呼ばれるのがそんなに不服か?…ならばこう呼んでやろう……プロジェクトFの残滓よ」
 「ッ!!!キッキサマ!!」
 
 フェイトの怒りは頂点に達しレザードの手を振り払うとバルディッシュをまっすぐ振り下ろした。
 だがレザードはフェイトの怒りの一撃をたやすく受け止めていた。
 
 「そんな!フィールド系?…いや支援魔法!?」
 「ご名答…正解した貴女にはコレを差し上げましょう…」
 
 そう応えるとレザードはフェイトに手を向ける、手には魔力が纏われており、魔力は手のひらを介して球体へと変化、それは徐々に加速していった。
 それを見つめるなのはは見たことがあった、いや確信していた、あれは自分の十八番とも言える魔法であると。
 
 「確か……名は」
 「フェイトちゃ――」
 「ディバインバスターでしたか」
 
 次の瞬間、レザードから青白いディバインバスターがフェイトに向け撃ち出された。
 フェイトはディバインバスターに飲み込まれ吹き飛ばされていく。
 だが後方でザフィーラがフェイトの救出に成功していた。
 
 「何で!アナタがディバインバスターを!」
 「ただの魔力を加速させて放出させるなど、私が出来ないとお思いで?」
 
 レザードは様々な魔力変換が可能な存在、魔力を加速させて撃ち出すことなど造作もないと不敵な笑みを浮かべ話す。
 その中レザードにルーテシアから念話が届く。
 
 内容は今し方ガリューは目的の品を回収し無事アグスタを脱出、現在ルーテシアの元へ向かっているという。
 
 (…わかりました、ではルーテシアはガリューが到着後すぐに転移して下さい、しんがりは私が務めましょう…)
 (わかった…やりすぎないでね)
 
 ルーテシアは一言残し念話を切る、それを確認したレザードは辺りを見渡すとなのはを中心にメンバーが募っていた。
 レザードは一通り見渡すと肩をすくめこう言い放った。

142レザポ ◆94CKshfbLA:2009/04/12(日) 16:46:54 ID:/jMypZuk
 「さて…貴方がたの実力も見えてきた頃ですし、そろそろ私は退散でもしますか」
 「なっ逃げるの!それに…私達がそれを許すと思うの!!」
 
 なのはのその言葉に大笑いするレザード、するとレザードは眼鏡に手を当てこう言い始める。
 
 「これは面白い事を言う、貴女は自分がどのような状況かまるで解っていないのですね」
 「それはどういう意味!」
 「こう言う事ですよ」
 
 そう言ってレザードは移送方陣で更に上空へと上がる。
 なのは達は必死に追いかけているとレザードの足元に、
 巨大な複数の環状で構成された多角形の魔法陣を展開、そして左手をなのは達に向け詠唱を始める。
 
 「…闇の深淵にて重苦に藻掻き蠢く雷よ…」
 
 するとレザードの目の前に黒い球体が姿を現す。
 球体の中は幾つか稲光が見えていた、そしてレザードは更に詠唱を続ける。
 
 「彼の者に驟雨の如く打ち付けよ!」
 
 すると球体は見る見る膨らんでいきレザードの姿すら見えないほどにまで巨大化していた。
 
 「あれは……まさか広域攻撃魔法か!?」
 「こんな場所で撃ち出そうと言うの!」
 
 なのは達は上空を見上げレザードの魔法を分析する。
 するとレザードの声だけが響いてきた。
 
 「安心なさい…非殺傷設定されてあります…ですので……」
 
 レザードの姿は魔法に隠れ見えないが、不敵な笑みを浮かべているだろう声でこう告げた。
 
 「存分に死の恐怖と苦痛を堪能して下さい…」
 
 そしてグラビティブレスと叫ぶと漆黒の球体はなのは達に向かっていった。
 なのは達は苦い顔をしながら迫ってくる球体を睨みつけると回避を否がす。
 だがヴィータがそれに反発する、何故ならなのは達の後ろにはアグスタが存在していた。
 アグスタの中にはまだ局員達が多数警備しており、今自分達が避けたらアグスタに直撃してしまうからだ。
 するとザフィーラが一歩前に出ると障壁を最大にして展開、グラビティブレスを受け止めようとする。
 その間になのは達はアグスタに残っている局員達に連絡を取ろうとした瞬間、
 ザフィーラの障壁が脆くも打ち崩され、ザフィーラを飲み込んでいった。
 更になのは達をも飲み込み、グラビティブレスは無情にもアグスタを包み込むように直撃した。
 
 …グラビティブレスの中は詠唱如く、無数の雷が蠢きあい、内にあるモノ全てを驟雨の如く打ち付けていた。
 暫くするとグラビティブレスは一つの稲光を残し消え、跡地にはアグスタが瓦礫の山となっており、一部は砂塵と化していた。
 その様子を上空で見届けたレザードは眼鏡に手を当てながら口を開く。
 
 「我ながら中々の威力ですね」
 
 そして高笑いをしながら移送方陣でその場を後にした。

143レザポ ◆94CKshfbLA:2009/04/12(日) 16:49:09 ID:/jMypZuk
 一方、一部始終見届けていたロングアーチは静寂に包まれていた。
 誰もが今まで見ていた光景が偽りであると考えるその中で、はやての檄が飛ぶ。

 「何を惚けとる!早よ現場に救護班を急行させ!いくら非殺傷設定の攻撃だとしても、あの量の瓦礫に埋められたら圧死か窒息死してまう!!」
 
 その言葉に端を発し一斉に動き出すロングアーチ、その中はやては右手を握ると思いっきり机を叩く。
 そして苦い表情を表しながらモニターを見つめ吐き捨てるかのように言葉を口にした。
 
 「私の……私の判断ミスや!!」
 
 
 
 
 一方ゆりかごに戻ったレザードは通路を歩いていると、ルーテシアがレザードの帰りを待っていた。
 ルーテシアはスカリエッティに頼まれた品物を渡しナンバーズにも品物を渡し、残りはレザードの品物だけだと話す。
 ルーテシアはレザードに一つのパピルスを渡す、パピルスには設計図のような物が描かれていた。
 そしてルーテシアはその品物が何なのか問いかけた。
 
 「博士…それ何なの?」
 「これですか?」
 
 ルーテシアの疑問に対し、パピルスに目を通しつつ笑みを浮かべこう答えた。
 
 
 
 「“ゴーレム”の設計図ですよ…」

144レザポ ◆94CKshfbLA:2009/04/12(日) 16:52:17 ID:/jMypZuk
以上です、レザード大暴れな回です。
アームド系の非殺傷設定はあんな感じにしてみました。



次は外伝を挟みながらの投下を予定しています。


それではまた。

145レザポ ◆94CKshfbLA:2009/04/12(日) 16:53:33 ID:/jMypZuk
そして久々に規制に引っかかりました。

どなたか代理投下をお願いします。

146魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/04/16(木) 21:24:31 ID:WCv/C/0M
やはり後一歩のところで規制食らった……すいません、どなたか代理投下お願いします。


 日も落ち夜の闇が支配する廃墟街の片隅で。不安を押し殺しながら、君島に言われた通りにずっとカズマの帰りを待ち続けていた。
 そんな時だ、瓦礫を踏む足音が聞こえてきて弾かれたように振り向いたその先に―――

 ―――待ち続けていた愛しい人がこちらに向かって歩いてきていた。

 かなみは漸くにカズマと会えたことに歓喜に打ち震えながら、彼の名を何度も呼びながら駆け寄り、彼へと抱きついた。

「すまねえな、かなみ。ちょっと野暮用でよ」

 この期に及んでまだいつものバレバレの言い訳をしようとするカズマが可笑しく、しょうがない人だと笑いかけ―――

 ―――カズマが背負っている君島に気づき、その笑みが止まる。

「き、君島さんが………あれ…………?」
「ん、君島がどうしたよ?」

 急に背負っている相棒のことで戸惑いだしたかなみを見て、それこそカズマは不思議そうに首を傾げていた。
 君島がどうかしたのだろうか……っていうかコイツはいつまで寝ている心算なのだろうか。

「おい、ちゃんと掴まってろよ君島。落っこっちまうだろ」

 そう言いながらついでに起きないものかと揺すってみたが、やはり反応なし。
 本当に熟睡してやがるのか、そんな呆れを抱いていたその時にカズマはこちらを……否、君島を見上げて泣いているかなみの姿に気づいた。
 なんでかなみが君島を見て泣いているんだ? その疑問の解が最初は分からなかったカズマであったが急に胸中に広がりだした嫌な予感である事に気づきはじめた。

「………君島?」

 本当に、君島は熟睡しているだけなのか?
 何故呼びかけに応えない?
 何故寝息一つ聞こえてこない?
 それに………何故、かなみが泣いているんだ?

「……お、おい……君島。……な、何だよ、チャラけてる場合じゃねえだろ?」

 段々と己の声が震えてくることにカズマは嫌でも気づいていた。
 今思えば、君島の様子はいつもとはどこか違い、変だった。
 よく考え、振り返ってみればそれはありありと分かることでもあり、そして今この状況こそがそれを証明しているのではないのか?

 傷だらけで、目を覚まそうとしない君島邦彦。
 そんな彼を見て泣いている由詑かなみ。

 ありえない、そんなことは絶対にありえない。
 脳裏に過ぎる最悪の予想を無理矢理に振り払いながら、カズマは君島を起こす為に何度も呼びかける。
 応えは、一度たりとも返ってこなかった。
 そのせいだろう、段々とカズマも焦ってきていた。

 おい、君島。そろそろ起きろよ。
 お前が誤解されるような寝方してるせいで、かなみが泣いちまってるじゃねえか。

 かなみも泣くな、泣く必要なんて無いだろう。
 お前が泣いちまってるもんだから……まるで……まるで………

 まるで、君島邦彦は本当に――――

147魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/04/16(木) 21:30:12 ID:WCv/C/0M

「………おい、起きろよ。………君島…………?」

 それでも、震える声でなんとかそれを認めたがらないように、否定するように、彼が応えてくれるように願って、カズマは君島へと呼びかける。
 だが―――



 ―――だが二度と、君島邦彦がカズマの呼びかけに応えることは無かった。



 次回予告

 第7話 ロストグラウンド

 誤解が不和を呼び、不和が戦いを呼び、戦いが悲しみを呼ぶ。
 その中で芽生えた友情も、愛も
 光の中に溶け込むしかないのか?
 往くは破壊、来るは破壊
 全て―――破壊。


というわけで君島退場です。
予定調和と言われればそこまでですが、サプライズ要素でも生かすことは自分の未熟な技量では出来そうにありませんでした。
その代わり自分なりにこれまでで一番力を注いだ部分だったのですがどうっだたでしょうか?
今回はちょっと詰め込みすぎた感もありますし、もう少しこれからは精進したいと思っています。
いつも長くてすいません。それでは、また。

148LYRICAL COMBAT ◆CF.MGbgQBo:2009/04/20(月) 17:17:37 ID:5mwSsDMs
さるさんに引っかかってしまいました…。投下の方は終了しましたので
どなたか次のレスの代理をお願いします…。

149LYRICAL COMBAT ◆CF.MGbgQBo:2009/04/20(月) 17:20:29 ID:5mwSsDMs
はい、第2話終了です。やっと六課との接触ができました。
支援してくれた方、ありがとうございます!
それでは、また。

150りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/04/26(日) 23:16:48 ID:anR3nOTw
新人隊員です。スレの容量が超えてしまって投下できません。
どなたか、続きを投下してはくれないでしょうか

151りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/04/26(日) 23:18:26 ID:anR3nOTw
新人隊員です。スレの容量が超えてしまって投下できません。
どなたか、続きを投下してはくれないでしょうか

152りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/04/26(日) 23:26:03 ID:anR3nOTw
 ――場所は変わり、研究施設。

「レリック反応を追跡していた、ドローンⅠ型6機、すべて破壊されています」
「ほう…」
 モニター越しに女性と会話をするのは、白衣の男――ジェイル・スカリエッティ。
別に映し出されたガジェットの残骸を見、至極興味深そうな表情をした。

「破壊したのは局の魔導師か…それとも、アタリを引いたか?」
「確定はできませんが、どうやら後者のようです」
「すばらしい、早速追跡をかけるとしよう」
底冷えするような冷笑を湛えてそう言うスカリエッティ。
と、そこにコツコツとこちらへと来る足音が一つ。

「ねえ、Dr。それなら、アタシも出たいんだけど」
「ノーヴェ、君か?」
「駄目よノーヴェ、貴女の武装は、まだ調整中なんだし」
「今回出てきたのがアタリなら、自分の目で見てみたい」
 どこかぞんざいな口調で頼む、ノーヴェと呼ばれた少女。
しかしスカリエッティは、ゆっくりと首を振った。

「別に焦らずとも、アレはいずれ必ず、ここにやってくる事になるわけだがね……まあ、落ち着いて待っていて欲しいね、いいかい?」
「……わかった」
 渋々納得したかのように、ノーヴェは引き下がった。
その間にも、彼等は事も無げに話を進める。

「ドローンの出撃は、状況を見てからにしましょう。妹達の中から、適任者を選んで出します」
「ああ、頼むよ」
そう言って頷くスカリエッティの視線は、もう片方のモニターに映し出された、何者かに破壊されたガジェットの詳細の方に移っていた。



「…俺の手が必要か?」
 不意に、スカリエッティの後ろから声が聞こえてきた。
ノーヴェとは違い、音も無く彼の背後を取る男。

 男は、面妖な出で立ちをしていた。
全てが白く染まった様な、死覇装にも似た服を着こなし、頭部には虚の欠片と思しき物が付いている。そして精密機械を思わせるような感情の起伏が見られない顔。
その冷徹な表情で、彼は睨むように訊ねていた。


「君の出番はここじゃあ無いよ」
しかし後ろを取られにも関わらず、スカリエッティの声は平坦そのもので返した。

「『破面』の力というのが、どれ程のものか、確かに見てみたいところだが、ここで使うにはいささか早計というもの……
当面君には別の場所で働いてもらうとしよう、頼むよ、ウルキオラ」
 その言葉に、男――ウルキオラは特に異議を唱えることはしなかったが、いま一つ、確認するように訊く。

「別に構わないが、藍染様との契約を、忘れてはいないだろうな?」
「わかっているさ、私と君の主とは、少なからない仲でもあるのだからねえ――約束はちゃんと守るよ」
 彼の謹直さに苦笑いを呈しながらも、スカリエッティは頷いた。

―――ならいい、とそれだけ確認するとウルキオラもその場を後に去って行く。

「……後は」
 そしてスカリエッティは再び視線をモニターに戻し、そこに映る高台――を感慨も無く見下ろす少女を見て呟いた。
「愛すべきもう一人の友人にも、頼んでおくとしよう」

153りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/04/26(日) 23:26:46 ID:anR3nOTw
「あ〜〜買った買った!」
 大手を振って歩く二人の女性がいた。
道行く人が十人いれば十人、振り返ること間違いなしの美女二人が、両手に買い物袋を抱えて歩いている。
「あの…いいんですか? こんなに買っちゃって」
 隣の巨乳美女、織姫が手荷物を見て恐る恐る訊くが、しかし乱菊はどうってことなさそうに返す。
「いいのよ! ちゃあんと経費から落としてきたし!」
「それ、いいんですか? 勝手に使っちゃったら日番谷君怒るんじゃ…」
「大丈夫、うちの隊長は懐が大きいから!」
 にっこり微笑んで言い切る乱菊。―――冬獅郎の苦労はまだまだ絶えない。
アハハ、と織姫が苦笑いを呈しながら、何気なく道を歩いていたその時。


「……?」
 ふと、何か気付いたように織姫が立ち止った。

「どうしたの織姫?」
「え、と…今何か聞こえませんでしたか?」
 周りを見渡して、聞き耳を立てる織姫。
乱菊もそれに倣うが、特に怪しい音は聞こえてこない。

「別に何も―――」



    カコン




 と、重く低い音が、乱菊の耳にも響いた。
聞き間違いじゃない、確かに何かが…こっちに来ている。

「こっちです!!」
 織姫が、角の路地裏に回った。
乱菊も織姫の後を追って角を曲がる。

 次の瞬間、二人は驚きに目を見張った。

「乱菊さん…これは……」
今、織姫たちの目の前には、重度の怪我を負った、少女が倒れていた。
だが、乱菊が目を向けたのはそこだけではなかった。

「……この子…」
 乱菊が彼女を介抱しながら、少女の腕に繋がれているケースを見た。
―――それは、レリックのケースに他ならなかった。


「とにかく、隊長に報告しなきゃ」
 彼女の瞳には、いつもの楽天的な表情が微塵にも消えていた。





 仮本拠地内 執務室にて

「…………終わった……」
 今しがた最後の生類整備を終え、やっとぐったりと机に項垂れる冬獅郎。
―――結局、乱菊の分までやってしまった。
先刻ほどに乱菊が出て行った時は、目も当てられないほどに雑多だった副隊長机も、今や自分の机と同じように綺麗に整っている。

154りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/04/26(日) 23:27:33 ID:anR3nOTw

 しかし、今広がる光景とは裏腹に、冬獅郎の心はストレスで曇りに曇っていた。

(やっぱり俺はお人好しか?)

 自己嫌悪で悶絶する冬獅郎。こんな調子では本当にこれからが思いやられる。
――もし、こんな時に何かありでもしたら。



「ん、何だ?」
 それを告げるかのように突然、懐にある伝令神機から、連絡が来た。
嫌な予感がすると分かりつつも、冬獅郎は渋々電話に出る。

「――十番隊 日番谷だが」
「隊長ですか? あたしです!」
「……何だよお前か」
 ただでさえ深い眉間をさらに寄せて、不機嫌を露わに訊く。

「一体今度は何があったんだ?」
「単刀直入に言います、路地裏で少女が大怪我で見つかったんです!!」
そらきた。
また新たに増えた厄介事に、冬獅郎は大きなため息を吐く。

「オイ…テメエまさか、それも俺の手が必要とか抜かすんじゃねえだろうな? それくらいの状況判断ぐらい自分でしやがれ―――」
「少女の持っていた物の中に、レリックと思しき物も見つかりました」


「!!!」
 瞬間、冬獅郎の目が驚きに開かれた。
まさかこんなにむ早く見つかるとは―――。
どうやら、状況というものは、いつもやってきてほしくない時にこそ、起こってしまうものらしい。
冬獅郎は再び大きなため息をつくと、改まった声で訊き直した。

「…場所は何処だ?」





「あ、ここです! 隊長」
 数分後、乱菊達の処に、えらくクールな、昭和風の少年服を着た冬獅郎が路地裏へと行き着いた。
「隊長…その服で来たんですか?」
 勇気があるなあ、という目と、それはないだろう、という珍妙な目で冬獅郎を見る乱菊。
―――どうやら自分がこれを着せたことは遥か遠い記憶の中に置いてきてしまったらしい。

「松本…テメエ後で覚えてろよ」
 そう吐き捨てから、改めて織姫の結界術で治療中の少女と―――隣の鎖に巻かれたケースを見やった。

「………封印は?」
「一応、しときました」
「――そうか」
 冬獅郎の視線は、レリックから再びケースへと移る。
正確には、ケースに繋がれている鎖に注目しているようだった。


「…これは……」
――切れている鎖の先端。
冬獅郎がそこから答えを導き出すのに、そう時間はかからなかった。


「レリックはもう一つある」
「――え?」
「直ぐに動くぞ、松本、準備をしろ」
 あまりの事についていけない乱菊を余所に、冬獅郎はすぐさま懐から丸い丸薬――もとい義魂丸を取り出し、口に入れた。

仮初の肉体から、彼の本来の姿が現れる。

155りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/04/26(日) 23:35:59 ID:anR3nOTw
黒い着物『死覇装』を身に纏い、さらにその上、護挺隊の頂点に立つ者のみ着用が許される『隊首羽織』そこに書かれている『十』の数字の白い羽織をなびかせ、
そこに長身の愛刀を担ぐ。
同時に、先程まで不機嫌で歪んでいた顔も、威厳のあるものへと変わっていた。

「はぁ…仕方ないか」
 渋々といった感じで、乱菊も冬獅郎の後に続き、義魂丸を口にする。
同じように身体から魂が引き剥がされ、冬獅郎と同じ死神装束の彼女が現れ出る。


その頃には、冬獅郎がレリックをケースから取り出し、先程までの自分の義骸に指示を出していた。
「とりあえず、お前達は拠点にまでこのレリックを届けてくれ」
冬獅郎の身体に入った義骸は、大仰な敬礼を取って答える。

「わかりました! 70%の確率で届けます!」
「100%の確率で届けろバカ!!」
 多少の不安は残しながらも、冬獅郎と乱菊の義骸達は素直に指示を受け取り、速やかにその場を去って行った。冬獅郎は素早く乱菊に向き直る。

「松本、お前はまず今のこの状況を黒埼達に伝えろ。それが終わり次第、残りのレリック探索を始めるぞ」
「え〜〜〜! 地下水の中を探し回るんですかあ?」
乱菊も開けられた地下道を見、不服そうな声を出す。
しかし、冬獅郎は有無を言わせない。


「松本、束の間の休息はもう堪能しただろ?」
 その口調は、先程までの不機嫌が醸し出したようなものでは無かった。怒鳴るでもなく諭すでもない、ただただ静かで、そして重みのある声。

「こっから先はマジで取り組め―――でねえと、死ぬぞ」
「…わかってますよ」
面倒そうに返しながらも、もう彼女の瞳からは、いままでのお茶らけた感じは消えていた。

「あの、日番谷君…あたしはどうしたら…」
「お前は、そのガキをある程度治療したら保護しろ―その後は命があるまで待機だ。わかったな」
「え、でも―――」
 
その眼には、「自分も戦いたい」という意味が容易に察せられた。
だが危害を加えられない彼女の性分では足手まといになることは分かり切っているし、第一状況が状況、個人の我儘に付き合うほど、今は暇でも無かった。

「言ったろ、待機する役も重要だってな――だから大人しく待っていろ」
「大丈夫よ、直ぐに終わらせてくるから」
「…わかりました」
 乱菊のその言葉に、織姫はただ頷くしかなかった。
そして、二人は再び地下水の入口の方に向き直る。

「準備はいいな、松本」
「何時でも」
 簡素な返答――だが、それだけでお互いの準備ができたことが、長年培ってきた信頼でわかっていた。
「日番谷君、乱菊さん」
織姫は、二人が消える最後の最後まで、冬獅郎達を見送っていた。

「―――気をつけて」
「ん、ああ」
「これが終わったら、またショッピングの続きでもしようね」
二人は、それぞれ織姫にそう返すと、暗い地下水の穴の中へと消えていった。





「―――それにしてもこの子、どっから来たんだろう?」
 目を覚ますまでの間、その場で治療することにした織姫は、改めて酷く傷ついた少女を見やった。着てる服や、痣だらけの身体を見ても、
ただ地下水を歩いてきたにしてはおかしい位ボロボロだった。
無論、レリックのケースを何故運んで来たのかも大きな疑問の一つ――なのだが……。

(…何だろう、この子…)

 それ以上に織姫の疑問を抱かせているのが、少女から感じる『霊圧』だった。
決して大きくは無い、むしろ小さい部類に入るくらいものではあるのだが、――どこか違う、織姫は理屈ではなく感覚でそう感じた。
 死神のものでも虚のものでも無く、だが自分達ともどこかかけ離れているような…この感覚は一体……。

156りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/04/26(日) 23:43:15 ID:anR3nOTw
「ウオオオオオオオオオオオオオァァァァァァ!!!!!!」


今度は路地裏の奥で、地獄から聞こえてくるような、重く、響くような唸り声が聞こえてきた。
織姫は、一旦手を休め、恐る恐る向こう角で蠢く影を見た。


 ――腕が、脚が。


人体の形相を留め得ないその姿態を見たとき、織姫の神経に戦慄が走った。

(虚だ……!! 何でここに?)

新たに湧き出る疑問。
虚は、自分に気づかず、その場から消えていく。
 ―――このまま野放しにはできない。

「ゴメンね、直ぐ帰ってくるから」
 織姫は少女に結界術を張ったまま、急いで虚の後を追いかけた。
角を曲がり、細道を通り、人気の無い路地裏を突き進み―――そして、見つけた。
長い時間を掛けてしまったが、漸く虚の影がその眼に視認することができた。

(せめて、これぐらいはみんなの役に立たなきゃ!!)
 そう意に決し、攻撃準備を整え、虚に向かって行こうとして―――不意に止めた。

「―――ガッ!!!?」
「……え?」
 突然虚は、頭を抱え込んで苦しみだした。
それと同時に、虚の身体がみるみるうちに溶けだし始める。
鱗のようなもので覆われた皮膚は、不気味な音を立てながらドロドロに落ちて、その上から蒸気が立ち込める。

「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
そして次の瞬間、原形すら留めずに、虚は字義通り蒸発して、消えた―――。

「……どうなってるの……?」
 織姫は、わけがわからず、ただそこで立ち竦むだけだった。


そして、その同じ頃。


「―――あれ?」
「どうしたの、エリオ君?」
 同じく束の間の休暇を楽しんでいたエリオとキャロは、ある街路地で足を止めた。

「いや、何か叫び声のようなものが聞こえたような――」
 エリオは不審げに辺りを見回し、そしてすぐ角にある細道に目を向けると、そこに一目散へと駆け出した。

「あ、待ってよエリオ君!」
急いで追いかけるキャロを余所に、エリオは角を曲って、そして驚きに立ち止った。
後から来たキャロも、エリオが見ているものを見て、その理由を悟った。

 道端に、不思議な光に包まれている少女が倒れていた。

「お…女の子? 怪我してる!」
「それと…何だろ、この光…?」
 少女に駆け寄り、不思議に光るものにエリオが触れようとした時、それはふっと消えてしまった。

「な、何? 今の」
「と……とにかくスバルさん達に知らせないと!!」
 慌てふためきながらも、少女の介護を始めるエリオとキャロ。
そんな彼等のやり取りを、頭上から遠巻きに見る小さな影が二つ。

「た…大変だ……」
 さっきまで少女の、治療の担当をしていた織姫の分身体ともいえる小人――舜桜が、エリオ達と同じくらいに慌てて言った。

「とにかく、織姫さんに知らせないと…!」




 時は進む、ゆっくりと。
  世界は交わる、再びに。
   そしてそれぞれの思いを胸に、彼等は衝突する。






―――――――――――――――――――――――――――To be continued.

157りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/04/26(日) 23:45:55 ID:anR3nOTw
今日はここまで、全然目新しいものが無くてすいませんでした。
なので予告でもしておきましょう。

次回、いよいよ戦闘開始! まず最初は『子供対決』からです!!
 ―補足…というか反省―
冬獅郎の少年服の下り、完全に要らなかったですね。
衝動的にやってしまって、最後まで入れようか迷ったんですけど…。
でもやっぱり今は反省しています。
質問があったらどうぞよろしくお願いします。
                       ――――――ではまた。


ここまでお願いします。今回はさるさんにやられるわスレは越えるわで色々と迷惑をかけました本当に申し訳ないです。

代理の方、ありがとうございました。

158魔法少女リリカル名無し:2009/04/27(月) 00:01:09 ID:sCgDLBUE
age

159魔法少女リリカル名無し:2009/04/27(月) 00:01:48 ID:sCgDLBUE
age

160<削除>:<削除>
<削除>

161魔法少女リリカル名無し:2009/04/27(月) 22:08:50 ID:uw0hWcUg
容量オーバーとわかっていながら、スレ立てせずに代理投稿依頼とな。

162無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 20:10:11 ID:8AABVTo2
大変お久しぶりです。本当はGWに投下したかったんですが忙しかったりアクセス規制にあったり…ors
遅くなりましたがリリカル×ライダー第4話を20:30に投下したいと思います。

163無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 20:53:01 ID:8AABVTo2
遅くなりましたがどうぞ。


「アンタみたいな犯罪者を、あたしは許さない」
 ティアナが一枚のカードを握りしめながら俺を睨み付ける。
 俺はそこまで恨まれるようなことをしただろうか?……いや、恨んでいるとは違うか。しかし彼女がああなっている理由はなんだ?
 人を傷付けたのが許せないのか、言い訳にしか聞こえないことばかり言うのが許せないのか、それとも罪が課されなかったことが許せないのか。
「おい、俺は戦い方なんか知らないぞ?」
 そんなの知らないとばかりに構えを取るティアナ。こちらの台詞は無視する算段か。
 しかしどんな理由にしろ彼女とは分かり合う必要がある。勘違いされたままというのは気分が悪い。
「じゃあ、いくわよ」
 結局、いくら考えようと、この戦いを止めることは出来なさそうだ。



   リリカル×ライダー

   第四話『模擬戦』




「なのは、何故この模擬戦を許可した?」
 後ろから話しかけられたので振り向くと、そこにはシグナムさんが立っていた。
 彼女の特徴は燃えるような、しかし赤いとは違う桃色に似た髪だと思う。普段からその髪をポニーテールに纏めていて、キリッとしててカッコいい。厳しく真面目な性格で、はやてちゃんの守護騎士達の中でも特にリーダーとして慕われている。
「シグナムさんがここに来るなんて珍しいですね」
「何を言う。こんな興味深い模擬戦、見ないはずがなかろう」
 彼女の戦闘(決闘?) 好きは、今に始まったことではなかった。
「にゃはは……そ、そうですね」
 実はわたし、ちょっとだけシグナムさんが苦手。あんまりお話しないからというのもあるけど、何より性格的に合わない。嫌いってわけじゃないし、むしろ尊敬してる所もあるのだけれど。
 逆にフェイトちゃんとは仲が良いんだけどなぁ。
「で、何故許可した? なのはらしくないと思うが」
 自分は過去の失敗から、無茶はさせないように教育している。今回の模擬戦はそれに反するということだろう。そう、自分でもそれぐらいは分かっている。
「やらせてあげないとティアナも納得しないだろうな、と思ったので。それにカズマ君が何故暴走していたかも知りたいし、丁度いいかと思いまして」
「やはりらしくないな。お前がそんな打算的な行動を取るとは」
 クスリと笑ってそんなことを言うシグナムさん。わたしってそんなに良い人ぶってたかな?
 ただ、らしくないなとは自分でも思うけど。
「まぁ、私は楽しませてもらうだけだ。なのはの判断以上の答えを私が出せる訳ではないからな」
 それっきり、黙り込んでしまった。

164無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 20:53:46 ID:8AABVTo2



     ・・・



「クロスミラージュ、セットアップ!」
『Set up』
 ティアナが一枚のカードを掲げる。彼女の一声と共にそのカードと持ち主が橙色の光に包まれ、それが無くなった頃には先ほどとは全く違う、活動的な服装になっていた。おそらくあの服がバリアジャケットとやらだろう。
 そしてカードの代わりに握られた二丁の拳銃。アレが彼女のデバイスらしい。
「さぁ、アンタもバリアジャケットを纏いなさい」
 いや、纏えって言われてもやり方知らなんだがな。今から何をすればいいのか、さっぱりなんだから。

 ――戦え。

「……っ!」
 来た、アレだ。あの衝動が沸き上がってくる。俺に全てを破壊させようとする、あの衝動。なのはを傷付けたあの力。……俺をおかしくする、この力。

 ――戦え。

 また左手が動き出す。返却された例の機器を握った左手が。
「チェンジデバイス、セットアップ」
『Stand by ready set up.』
 例の機器、チェンジデバイスが動き出す。中央のクリスタルが一瞬光り、ベルトが射出されて腰に取り付けられ、待機音が鳴り出す。

――戦え。

 また、俺が俺でなくなっていく……。

165無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 20:56:13 ID:8AABVTo2



     ・・・



「あれが、お前の言っていた」
「ホントに“変わった”でしょう?」
 わたしが見る先、空間シミュレーターが設置された訓練場。そこでティアナと“彼”は戦っていた。
 鎧に似た青いバリアジャケットを纏い、ティアナに向かって歩くカズマ君。けれど、彼はカズマ君であってカズマ君ではない。
「確かに戦うことしか考えていない戦闘狂のようだな。闘争本能の具現とは、言い得て妙だ」
 今日の朝、カズマ君の部隊入り挨拶の後にシャマルさんが出した一つの結論がそうだった。少ないデータと推測で成り立った、まだ原因すら欠片も考えられていない危うい推論ではあるけれど、確かに納得出来る考えでもあった。
「わたしのときはあっちが先だったんですけどね」
「あれが先だと、やはり恐怖を抱くだろうな。今は不安と危険性を感じているが」
 カズマ君の拳に展開された小さな青い三角形の魔法陣がティアナの放つ橙色の弾丸を悉く粉砕する。それは荒々しく原始的で、しかし緻密で精巧な迎撃。あんなシールドの使い方、初めて見た。
 シグナムさんの言う通り、不安と危険性、そして何とかしてあげたいという思いをわたしは抱いていた。そのためにも、まずはこの戦いを見届けなければならない。
 何をすればいいか、見極めるために。



     ・・・



「……くっ!」
 またも放った弾丸が迎撃される。
 すでに数十発は撃ち込んでいるのに、全て叩き落とされていた。あのカズマって人が突然表情を歪ませて変身してからずっと、言い知れぬ恐怖があたしを包んでいるのが分かる。それを振り払うように攻撃を続けるが、ことごとく無力化されてしまった。
「いったい、何なのよっ!」
 なのはさんの教えを破るのを覚悟でビルに飛び込む。射撃型魔導師、特にセンターガードの自分がみだりに動くのは本来得策ではないのだが、今回は一対一ゆえに例外だ。
 アイツはゆっくりとこちらに歩み寄る。こちらを侮っているのではなく、こちらを見極めるために。
 念のために空間に残しておいた魔力スフィア三つを魔弾に変えて、飛ばしておく。ただの時間稼ぎだ。今は考える時間が欲しかった。
(アイツ、戦い慣れしてる……)
 いや、正確には戦いをどう進めるのが最も合理的かを理解している、と言うべきか。普段みんなに指示を出す司令塔または頭脳となるあたしだからこそ、それらを理解しているということが分かる。
「カートリッジは使ってないから十分にある。ただ通常の魔法弾はまともに使用しても意味はない。ならクロスファイアか“アレ”を――」
 ――いやダメだ。そんな正攻法では勝てない。だいたい“アレ”はまだ実用段階にある代物じゃないのだから、今はまだ使えない。
 そう考えている間に、アイツはやって来ていた。
「っ!」
 自分の隣の壁が吹き飛ぶ。丸く穿たれた穴の先に見える、青い影。
「このォ!」
 考えている暇すら与えてはもらえない。あたしはクロスミラージュを構えて魔法弾を撃ち出した。

166無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 20:57:35 ID:8AABVTo2



     ・・・



 ――戦え。

(……うるさい)

 ――戦え。

(うるさい)

 ――戦え。

(五月蝿い!)

 自らの内から響く声がうるさい。俺を惑わすこの声が五月蝿い。俺に望まないことをさせる声が本当にうるさい!
 俺は、人を守るためにしか、戦わない!
「……っ!」
 頭が疼く。今何かを思いだそうとしたはず――
「――あ、あれ?」
 目の前の光景に、思考がフリーズした。
「あ、アンタ、なんかに……」
 俺が、正確には装甲に包まれた俺の右腕が、ティアナの首を掴んでいた。その右手が、俺の意思に反して力を込めていく。
「や、やめ……」
止めろぉぉぉぉぉぉぉ!
 そう思った途端、手から彼女が消え失せた。
「き、消えた?」
 まるで陽炎のように橙色の輪郭を一瞬残して消えた彼女。あれは、一体?
 いや、そもそも俺は何をしていた?
「また、またなのか……」
 そう思い立った矢先に、事態は推移していた。
「ぐあっ!」
 背中に衝撃。装甲ごしではあるが、内臓を揺るがすような嫌な感じ。まさか、攻撃された?
 後ろを見れば、消えたはずのティアナがこちらに銃口を向けていた。
「あ、当たった……?」
 彼女も驚いたような顔をしている。
 そして状況を思い出す。今が模擬戦の真っ最中だったということを。
「や、ヤバい!」
 速攻で、全力で逃げることを決めた。
「あ、待ちなさい!」
 そして第2ラウンドが始まった。

167無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 20:58:12 ID:8AABVTo2



     ・・・



「あれは幻影だったのか」
 シグナムさんが驚いたという顔をして、そう呟いた。
「ティアナ、この頃は頑丈なフェイクシルエットも作れるようになったんですよ。しかも喋ることが出来る精巧なものを。……まだ軽く掴めるぐらいですし、維持と精製に相当魔力を持っていかれるんですけどね」
 ティアナ特有と呼べる、彼女の得意魔法、それがフェイクシルエット。幻影を精製する魔法だけど、彼女が使えば色んな応用が効く。今のような精巧な偽者も、最近は作れるようになった。
 今の奇襲も、彼女らしい機転の効いたものだった。
「しかしアイツ、元に戻ったみたいだな」
 アイツとはカズマ君のことだろうけど、確かにさっきとは違う普通のカズマ君に戻っていた。先程の怖いぐらい完璧な戦闘が嘘のように今はティアナから逃げている。
「今のカズマ君じゃ、ティアナには歯が立ちませんよね」
魔法弾がカズマ君に降り注ぐ。橙色の光雨はフェイクを混ぜたものだけれど、相手の戦意を喪失させ、回避を困難にさせる。カズマ君の装甲にいくつかがぶつかり、火花が飛び散っているのが痛々しい。
 そろそろ模擬戦も終了か、と思う。これ以上続けても意味はないと思うし。
「いや待て、なのは。あいつをよく見ろ。無意識か知らないがティアナの射撃を避けてるぞ」
「え?」
 ……確かに、彼は逃げ惑いながらも体を左右にずらして避けていた。ティアナが四方八方から放つ射撃と誘導弾を当初は全弾直撃していたのが、今は八割を避けている。
「なのは、まだ面白くなるかもしれんぞ?」
 シグナムさんの笑顔が、妙に楽しげに映った。

168無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 20:59:03 ID:8AABVTo2



     ・・・



「このっ、落ちなさい!」
「うわぁ!」
 アイツの右に着弾。いや、アイツが左に避けた結果、右に着弾と言うべきか。
 さっきから段々と回避が上手くなってる。無様に逃げているくせに、その背中に魔力弾が当たらない。その上、当たっても致命傷にならないほど頑丈なのだ。
 さっきとは違う意味で、焦りを感じていた。
「おい! もう降参するから撃つのを止めろ!」
「そうやって騙そうとしても無駄よ!」
 多分騙そうと言っているわけじゃないと思うけど。でもコイツをコテンパンに叩きのめさないと気がすまない。
 なんでここまでムキになっているか、自分でもよく分からなくなってるけど。
「このっ……!」
 フェイクシルエットを彼の前に出現させる。同時に誘導弾四発を二手に別れさせて左右同時攻撃。そして回避した所をあたしが――!
「うわっ!」
 彼が目の前に現れた偽のあたしを慌てて避ける。そこに誘導弾を仕向ける。
「いい加減にしろっ!」
 彼が体を捻って右の二発を避ける。流石に体制的に無理があるので左の二発は避けられなかったけど、手で強引に叩き落としている。それもシールドも無しに。
「でも、これで終わりよっ! クロスファイアァァァ、シューーート!」
 彼に向けた二つの銃口から八つの魔弾が炸裂する。魔力弾達は渦を描くような弾道を取りながら一つの砲撃のようにアイツに迫る。
「っ!」
 それに対しアイツは、剣を引き抜いて待ち構えていた。その構えは垂直に支えた剣の峰に左手を添え、腰を落とした独特のもの。
その左手が、ゆっくり剣の峰を撫でる。
「そんなんで……」
「でやぁぁぁ!」
 そんなあたしの疑問も刹那。一瞬の内に彼の元に届いた魔弾の軌道に合わせるように、彼は剣を動かす。その剣の腹を滑るようにして魔弾達はあらぬ方向へ流れていった。
 アイツは、その剣で、あたしの射撃を弾いた。いや、反らしたのだ。
 完璧に、受け流されたんだ。
「そ、んな」
「これで、もう終わりだ」
 疲れたような声で宣言するアイツ――カズマ。
 あたしは……まだ、負けてなんか――
「――二人とも、そこまで!」
 唐突に、なのはさんの声が訓練場を満たした。

169無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 20:59:41 ID:8AABVTo2



     ・・・



「主はやて。これがカズマについての報告書です」
 大きな机と大量の書類。隣には小人用としか思えない小さな机。
 特徴と呼べるものがそんなものしかないこの部屋が部隊長室、そう、八神はやての部屋だ。
 ペンと紙の匂いに混じる仄かな甘い香りだけが、ここが女性の部屋であることを証明していた。
「ありがとな、シグナム。慣れないことやらせてしまって大変やったやろ?」
 いえ、と断りつつ書類を机に置くシグナム。
「しかし何故このようなことを?」
 彼女からしてみれば疑問に違いない。これではまるで彼を監視しているようだからだ。
 少なくとも彼女からすればカズマは本当に記憶喪失に見えるし、性格も悪くはないように見えたので、主の目的が読めなかったのだ。
 だが、それは決して主を勘繰っているわけではない。シグナムははやてを信じているからこそ、事情を説明して欲しかったのだ。
「んー、単に知りたかっただけよ? 今後使えるかどうかを」
 ……シャマルが言っていたのはこれか。
 シグナムは溜め息をつきながらはやての手を握った。
「シグナム……?」
「主、私達は家族であり、家来です。貴女のことを守護騎士全員が大切に思っていますし、我々全員が貴女のためなら命を捨ててでも尽くすつもりです」
「シグナム……」
 彼女は握った手に力を込め、決して離さぬように胸にかき抱く。
「だから主はやてよ、私達にだけは、隠し事をしないで下さい。私達家族を、信じてください」
 シグナムが深々と頭を下げる。その手は僅かだが、震えていた。
 はやては少しだけ驚いた表情を浮かべたものの、すぐにそれを笑顔に変えて彼女の頭に優しく手を置いた。
「私がシグナム達を信じていないなんてことは一度だってあらへんよ?」
 シグナムは頭を上げて、はやてと視線を合わせた。
「では教えてください。何故カズマの監察を、私に命じたのかを」
 そこで少しだけはやては困ったように首を竦めるも、すぐに笑顔に戻す。
「私は、カズマ君を助けるつもりや。けどそのためには彼の事を知っておかないかん。武装局員になれる実力があるなら私が連れていくつもりやし、本人が望むなら進路先を斡旋することもできる。逆に戦闘能力がないようならそれに応じた仕事を探してやらないかん。どちらにしろ、カズマ君のことを知らんと私は何も出来んやろ?」
「そういう、ことだったのですか……」
 流石は我が主だ、とシグナムが頷く。彼女としてもはやてがそこまで考えて動いているとは想像がつかなかったのだろう。
「申し訳ありません。信じ方が足りなかったのは、私の方だったのかもしれません」
「ええよ、気にせんどいて? それよりカズマ君のこと、ちゃんと見といてや?」
「はい、主はやて」
 今度こそ晴れやかな顔で、シグナムは力強く頷いた。

170無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 21:00:17 ID:8AABVTo2



     ・・・



 結局、勝負はティアナの勝利で決まった。当然だ、自分はひたすら逃げていただけなのだから。
「カズマ君はやっぱりセンスはあるんだけど……」
「……すいません」
 不貞腐れたような返答を、なのはに返す。
 やはり最大の問題は"あれ"だろう。制御出来なければ俺は役立たずだ。ふと思ったが、記憶を失う前の自分は、こんなことで苦しんだのだろうか。
「痛っ!」
「こんなになるまで模擬戦続けたの?」
 俺の身体中に出来た打撲の後を見てシャマルさんが顔をしかめる。バリアジャケットとやらで多少はダメージを緩和出来ても、完全には無力化できないらしい。なのはも最初見たときは顔を歪ませていた。
「なんだかカズマ君って早速患者の姿が板に付いてきたわね〜」
「勘弁してくれよ……」
 小声で抗議しておく。効果は全くないだろうが。
 二度目の医務室だが、未だに慣れることはできない。いや、こういった場所に医者以外が慣れること自体おかしいか。アルコールの臭いが僅かに鼻をくすぐる空間は、やっぱり居心地悪さしか感じない。
「はい、おしまい」
 包帯をあちこちに巻かれてようやく完了か。何だか治療だけで疲れた。
「さ、二人とも疲れたでしょ? 食堂で皆待ってるから」
 なのはが笑いながら指差す。もう二時だった。一緒に付いてきていたティアナは隣で不満そうにしていたが、諦めたように溜め息をついた。
 シャマルさんに送られて医務室を出た後、食堂に三人で行く間、なのはが何度か話しかけてきたので気まずくはならなかった。ティアナも考え事をしているらしく、俺に絡んではこなかったし目も合わせなかった。
 そうして着いた食堂ではフォワードメンバーの三人、スバル、エリオ、キャロが待っていた。
 皿に盛られた料理を見て、ようやく空腹を意識したのが不思議だ。あんなに運動したというのに。俺は少食だったのだろうか。
「「お帰りなさい、なのはさん、ティアさん!」」
「お帰りなさい、なのはさん! ティアもお疲れ!」
 年少組のエリオとキャロは口を揃えて、スバルは大きく元気な声で、二人を迎えた。
 当然、俺の名前はない。
「……なのは、用事思い出したから今日は――」
「――ダメだよ。皆と仲良くしてくれなきゃ」
 見事に捕まってしまった。
 どうやら自分は器用なことが出来ない質らしい。腕を捕まれていたことにも、今更気付いたほどだ。
 ティアナはまだ考え事をしているのか、挨拶をした三人に軽く答えた後に椅子に座っても腕組みを崩さなかった。
「……ティア?」
「あ、な、なによスバル?」
 彼女も恥ずかしいと頬を赤く染めたりするのか、と思った。当然のことか。

171無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 21:00:57 ID:8AABVTo2
「ティアがボーっとしてるなんて珍しいなーと思って」
「あたしは考え事してたのっ!」
 わいわいと騒ぎ出す二人だが、仲が良いのだろうからか、端からはコントのように見えた。決してティアナには言えないが。
「あ、あの」
「……え?」
 唐突に話し掛けられた。まさか誰かに話しかけてもらえるとは思ってなかったので、咄嗟に反応出来なかった。
 見ればキャロがこちらを向いて必死に何か言おうとしていた。……けれど、俺の関心は別の方にいってしまっていた。
「な、なんだその蜥蜴……」
「と、蜥蜴じゃないです! フリードです!」
「キュクルー!」
 彼女の頭に乗っている小さな羽を生やした白蜥蜴――もといフリードなる生物に、俺は驚いていた。
「そっかぁ、竜なんて知らないよね」
 なのはが合いの手を入れてくれたのは助かった。正直、驚いてる最中の俺に女の子の相手は無理だ。
「竜、だって?」
「そうだよ。わたしもフリードが初めてだったけど、似たようなものなら前に行った戦地で見たかな」
 とても竜には見えなかった。さすがに蜥蜴は違うだろうが。
「あ、りゅ、竜だったのか。その、間違えて、悪かったな」
 歯切れの悪い口振りに自己嫌悪したのは秘密だ。
「もう、せっかくエリオ君と謝ろうと思ってたのに……」
 怒っても可愛らしいのは幼い女の子の特権だろう。俺もキャロを見てるとひたすらに自分が悪いように思えてきた。
「ご、ごめんな」
「キャロもそのくらいで許してあげなよ」
 エリオがぽんぽんとキャロの肩を叩く。何だかお兄さんのようだ。
 ようやく機嫌を戻したキャロとエリオが姿勢を正してこちらを向く。こちらも何だか緊張してきた。
「「か、カズマさんっ」」
 二人が揃って声を上げる。いつの間にか、なのはもティアナとスバルも押し黙っていた。
「「今まで冷たい態度を取って、すみませんでしたっ!」」
食堂中に、二人の声が鳴り響いた。
 取り敢えず、声のでかさには驚かざるを得ない。二人仲良くハモるのはいいが、そのせいで食堂中に響いてしまうのは勘弁して欲しかった。
 しかも二人の声に反応した周りの目線が凄かった。何故だろう、謝られているのに悪者として見られているような気がする。
「べ、別に謝るほどのことじゃ――」
「その、わたしたち勘違いしてたんです」
 俺の言葉を遮るように、キャロは言った。
「わたし、最初は怖い人なんだろうな、って思ってて。あの時近くで見てたエリオ君が怖かったって言ってたし。でも模擬戦見てて、最初はやっぱり怖いと思いましたけど、途中から本当は優しい人なんじゃないかと思い始めて……」
「僕達にはティアさんを傷付けないように戦っているように見えたんです。戦いが終わった後も自分のことなんか全然気にせずティアさんの心配をしてましたし」
 キャロの言葉をエリオが引き継ぎ、俺に訴えかける。
 確かに自分に彼女を傷付ける意志があったかと言えば否だ。でもそれは当然のことだ。人を傷付けるなんて――。
(――待て。何故俺はそこまで人を守るだの傷付けるなどに拘るんだ?)

172無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 21:01:28 ID:8AABVTo2
 一瞬の疑問。だが、それはすぐに氷解する。
(いや、人として当然か)
 それで決着はついた。ついてしまった。
「……聞いてますか?」
「――あ、あぁ、もちろんだって。それで?」
 すぐに誤魔化す。今考えることはそんなことではなかった。
「それで、その、これからは仲良くしてもらえませんか?」
「お願いします!」
 ぺこりと頭を下げるエリオとキャロ。願ってもないことだ。
「こちらこそ、仲良くしてくれると嬉しい」
 初めて心の底から笑えた気がした。
「――うん、無事仲直りできたね」
 にっこり笑顔でなのはが俺達の手を取って握らせる。気恥ずかしいが、なのはの気配りは嬉しかった。おそらくセッティングしてくれたのもなのはだろう。彼女も童子のような満面の笑みを浮かべていた。
 たちまち主導権を握ったなのはが話を進めていく。自分と彼女達が話しやすいようにしてくれながら。

 ――ま、これも悪くないか。

 俺もようやく、そう思えるようになった。



     ・・・



「ようやく打ち解けたか。世話の焼ける」
 くつくつと低くくぐもった笑い声を放つ男が一人、広大な広間でカズマを見つめる。
 巨大なモニターにはカズマが笑う姿が映し出されている。
「これでわしはお前の願いを叶えたぞ。すまんが、今度はわしの研究に付き合ってもらう」
 広間のあちこちに置かれた機械を操作しながら、ポケットから十二枚のカードを取り出す。スペードのマークと、鮮やかな生き物の絵が描かれたカードを。
「わしは研究者だ。悪く思わないでくれ」
 それらのカードを、機械のスリットに差し込む。
「さぁ、見せてくれ。人を超えた、仮面の戦士の力を」
 スリットから、光が溢れ出した。



     ・・・



 ようやく打ち解け始めた居場所、機動六課。安息の地を手にした彼は、日々腕を磨きながら内に潜む闇を押さえ込んでいた。そんな彼を試すかのように、断罪の鉄槌がカズマを襲う。

   次回『鉄槌』

   Revive Brave Heart

173無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 21:09:10 ID:8AABVTo2
えー、ようやく第四話です。話は全然進んでおりません(汗)。
文章がかなり変わってしまい、書き方もイマイチだなぁとは思っています。第五話では改善したいので、感想や批判はバンバン受け付けております!

それとスレの過疎化を耳にしました。確かにベテランの多くが去ってしまい、寂しくなったかもしれません。最盛期の頃を知りませんが、やはり今より賑やかだったのかもしれません。
ですが、今も多くの新人は作品を投下しています。その中にはベテランと肩を並べるほどの実力者もおります。自分もいつかそうなるために精進しています。
そんな職人のために住人の皆さんが更なる応援をしてくださることを祈っています。このスレをいつまでも生かすために、皆さん頑張りましょう!

長文失礼しました。それでは。

174無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 21:09:44 ID:8AABVTo2
では代理投下よろしくお願いします。

175無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 22:49:30 ID:m.1OCQvU
ageます。そしてお願いします。

176ロクゼロ2 ◆1gwURfmbQU:2009/05/14(木) 23:39:36 ID:49i/o7Mo
じゃあ、私が代理投下してきましょう。

177ロクゼロ2 ◆1gwURfmbQU:2009/05/15(金) 00:04:51 ID:rqa.JTzM
投下終了。
>>175
行の長さに関するエラーが多発したので、もう少し投下の際は文章を改行した方が
良いと思いますよ。避難所の板は大抵の規制が解除されてますから気付きにくいで
すが、2chはそうでもないので。
ワープロソフトで書いたのをそのまま改行せずに流し投下をすると、結構見にくい
ですし。

178リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:47:30 ID:LLxI1tRg
さるさんばいばい食らってしまったので代理投下お願い致します
初回からミスしてすいません

「フェイトちゃんご飯出来たよ!」
「出来たよ!」

声を差し伸べてくれたのは、なのはとヴィヴィオ。
今は素直にこの手に縋ろう。そして思考の迷路から抜け出しなのはの作ってくれた食事を楽しもう。
フェイトが書斎から食卓へ行ってみれば、テーブルに並べられているのは大きなハンバーグが3つ。
今にも破裂しそうなほど肉汁を溜めこんだそれは、見ているだけでフェイトの食欲をそそった。

「うわー美味しそうだね」
「ヴィヴィオも手伝ったんだよねー」
「うん! フェイトママのはヴィヴィオが作ったの!」

よく見れば自分がいつも付く椅子の前に置かれているハンバークの形はかなりいびつだった。
だけど一生懸命作っていた様子を思えば、不格好さがかえって愛しく思えてくる。

「上手だね。ヴィヴィオが作ったのいちばん美味しそうだよ」
「私が作ったのはイマイチなの?」

そう言ったなのはの不満げな表情にしまったといった様子を見せるフェイト。

「えっと…なのはが作ったの凄く美味しそうだよ! 食べてみたいなぁ」
「ヴィヴィオの作ったのは食べたくないの?」

今度はヴィヴィオが泣きそうな顔をして上目使いに見上げてくる。
ここまで来たらもはやフェイトはパニック状態で、どうしたらいいのか分からずに目尻には涙が浮かび始めていた。
その様子を見たなのはがさすがにからかい過ぎたかと思い、声を掛ける。

「ほらほら冷めないうちに食べよ」
「食べよ!」
「二人ともいじめないでよぉ」

恨めしそうなフェイトの表情は、なのはの目にはむしろ愛らしく映り、やはりいたずら心をくすぐるのであった。
しかしこれ以上やって本気で泣かれても困る。今は家族3人で夕食を食べよう。
ひょっとしたらこれが3人で囲める最後の食卓かもしれないのだから。
なのは自身そういう仕事である事は覚悟してきたが今回は状況が状況だ。
もし脱走したスカリエッティとの本格的な戦闘になればフェイトもなのはも駆り出される。
そうすれば前回は勝ったが今回も同じようにはいかないかもしれない。だからせめてこうして娘や親友と過ごせる時間を大切にしよう。
悔いは尽きないがそれでも走馬灯を見るのならば幸せな記憶で満ちる様に。

「それじゃあいただきます」
「いただきまーす」

笑顔を浮かべるフェイトとヴィヴィオを見つめながら何故かは分からないがこの時なのははある予感がしていた。
自分はきっと。

「はい召し上がれ」

きっと二人を残して死ぬだろうと。

179リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:48:24 ID:LLxI1tRg
その頃ミッドチルダのある和風居酒屋にて。

「こんな時間にごめんなさいね、はやてさん」
「いえ最近は暇してますから」

座敷に腰掛けている女性が二人。一人はリンディ・ハラオウン。もう一人は元機動六課部隊長である八神はやてだ。
向い合せに座り、営業スマイルのような笑顔を向けるリンディに、こちらは正座をしながら硬い微笑みを浮かべるはやて。
はやては居酒屋にリンディと二人で居るこの状況に些かの戸惑いを覚えていた。
もちろんリンディとは面識がある、しかしそれでも親友の母親であり優秀な指揮官であるという面が強く、このような場所で二人で会う間柄とは言いにくい。
少なくとも杯を交わし合い、日ごろの愚痴を言い合う様な仲でない事は確実である。
はやて自身邪推とは思いつつも、当然この呼び出しには裏があるのだろうと想像せざるおえないのであった。

「あの」
「いらっしゃいませ。ご注文は」

何があるのかとはやてが戦々恐々として口を開いてみれば、それを遮る様に店員が声を掛けてきた。
いや、これが彼の仕事なのだから仕方がない。仕方がないのだが、それでもタイミングという物があるだろう。
そんな風に思っていれば向かいに座るリンディが笑顔で口を開いた。

「まだ決まっていないので後で注文します」
「かしこまりました」

そう言って店員はお冷だけ置いて別の客が居る座敷へと去っていった。
リンディとの緊迫した状況に渇きを訴える喉を潤そうと、はやてがお冷を口に運ぼうとした瞬間。

「はやてさん」
「は、はい」

リンディの呼びかけに、はやては慌ててお冷の入ったコップを座卓の上に戻すと両膝に手を置いた。

「実はお願いがあって呼んだの」

急に笑みの消えたリンディの表情に、はやてはますます身体を強張らせた。
一体何を言われるのだろうか。少なくともこの表情、良い知らせとは思えない。
もったいぶったように口を開こうとしないリンディ。その様子にどんどん事態を最悪の方向へと想定し直すはやて。
そんなはやての不安など気にも留めずにリンディは話し始めた。

「もうすぐ世界が滅ぶわ。はやてさん止めてもらえないかしら?」
「世界が? 滅ぶ?」

この人は何を言っているのだろう。唐突に世界が滅ぶと言われてもどう答えればいいか。
もったいぶったかと思えば今度がさらっと世界滅亡を口にしたリンディに、はやてが取れる態度と言えば、困惑と呆然のいずれかしかなく。

「どういう意味ですか?」
「そのままの意味よ」

聞き返しても返ってくる答えはやはり取り留めのない物で、より一層はやてを混乱させるのに一役買ってしまった。
しかしリンディの顔は至極真剣といった様子で、一見突拍子もない世界が滅ぶという言葉をはやての中で信用足る物に変えていく。

180リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:49:28 ID:LLxI1tRg
「あの…リンディさん何が起こるんですか?」

そうだ。何が起こるのか分からなければ戦えない。そもそも誰が相手なのか? どうすれば世界を救えるのか?
リンディの言葉が本当だとするならば、世界が滅ぶと言うならば、自分一人で何が出来るのだろうか。
1年前に起こったJS事件でそれに近い経験はしたかもしれない。だがあれは犯罪であって世界の存亡とはまた次元の違う問題だ。
はやてにとってリンディの世界が滅ぶという言葉はあまりに曖昧で、それにスケールが大きすぎて理解出来ない。
言葉が持つ意味の租借に苦闘するはやてに、リンディは表情を崩さずに話し始めた。

「それはまだ言えないの。だけど世界は確実に崩壊へと向かっているわ。
 だからもう一度、もう一度あなたの六課を使わせてほしいの」

理由を断固口にしようとしないリンディにさすがのはやても不信感は隠せない。
重大な事をリンディが隠しているのは確かだ。それも世界が滅ぶかもしれない秘密を。
いくらリンディに闇の書事件の恩があると言え、理由も分からずに命を掛けるのはまっぴらごめんだ。
例え親友の母親でもそんな事を二つ返事で引き受けられるほど、はやてもお人好しではない。

「理由も分からず命はかけられません。
 何を隠しているんですか?」

はやての言い分はもっともだった。詳細も知らされずに命を掛けるなど愚行に等しい。
リンディもはやての言い分はよく分かる、分かるのだが理由を言う事は出来ないのである。
それを知る事がはやてのこれからの人生を闇で染め上げてしまう事にもなりかねないのだから。
だけど世界を守らればならない。そう葬らねばならない物がある。

「それは……」
「リンディさん!」

世界を守るために少女一人を犠牲にするのは安いかもしれない。だがそれでは10年前の再現ではないか。
そう、はやて自身が犠牲になり解決しようとした闇の書事件。あんな惨劇を二度も繰り返すなど許される事なのだろうか。
それが……少女を犠牲にする事が私に課せられた罪なのだとしたら、私はどんな罰を受けるのか。
いや既に罰は受けている。これ以上ないほど罰を。
言ってしまえればどれほど楽にだろうか。どれほど心安らぐのだろうか。

「そうね、確かに。でもね、あなたを『こちら側』の人間にはしたくないのよ」
「こちら側?」

はやては分からない。この人の言葉は私には理解出来ない。
何が罪で何が罰なのか、リンディ・ハラオウンはどんなパンドラの箱を開けてしまったのだろうか。
リンディの言う『こちら側』とは一体どういう意味なのだろうか。
しかし執念にも似たリンディの言葉にはやては知りたくなっていた。リンディの言葉の意味がなんであるかを。
リンディにとっての『こちら側』つまりはやてにとっての『向こうの世界』の世界がどうなっているのかを。

「分かりました。お引き受けします。
 でもいつか、いつか全てを話してください」
「ええ、時が来たら必ず……必ず話しますから」

結局はやては真実を知る事は出来なかった。
だがしばらくの後はやてはリンディから思いもよらぬ真実を聞かされる事になる。
それが全次元世界を破滅へ導く全人類の存亡を賭けた戦いの引き金になろうとは、この時のはやてには想像も出来なかった。

181リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:50:24 ID:LLxI1tRg
午後20時。高町家は既に夕食を終え、ヴィヴィオがテレビにかじり付いている中、なのはとフェイトは夕食の後片付けをしていた。
二人が食器を洗いながら話すのはヴィヴィオ作成のハンバーグの話題でもちきりである。

「ヴィヴィオのハンバーグ美味しかったよ」
「まぁ味付けは私なんだけどね」

そんななのはの言葉にフェイトは苦笑いを受けべる。まぁその通りなのだがはっきり言ってしまうのは寂しい様な気もする。
折角ヴィヴィオが作ってくれたのだからもう少し褒めてあげてもいんじゃないだろうか?

「でもちゃんとふっくらしてたからヴィヴィオの腕がいいんだよ。味付けだけじゃあんなに美味しくならないよ」

だからヴィヴィオの名誉を保つためにも後見人としてしっかり母親に意見しなくては。
ヴィヴィオのこね方がよかったからこそ味付けが最大限に生かされたのだと。
いかにヴィヴィオのハンバーグが素晴らしかったか熱弁をふるうフェイトになのははやや頬を膨らませていた。

「フェイトちゃんヴィヴィオばっかり」
「そうかな?」
「私だってフェイトちゃんの事考えてご飯作ってるんだよ。栄養のバランスとか考えて」

フェイトは少し怒ったなのはが何となく面白かった。
六課の頃もJS事件後は別の仕事で忙しくなり同室と言っても一緒に過ごす時間が多かったとは言えない。
それに食事は給仕の人が用意しくれた物を食べていたから片付けもトレイを下げるぐらいな物だった。
こうして食器を洗いながらなのはと他愛のない話をする時間はフェイトにとって懐かしさを感じさせていた。
なのはと過ごす日常は本当に久しぶりだから、こんな皿洗いの時間でも嬉しく思えてしまう。

「分かってるよ。なのはにも感謝してる」
「うん」

今度は微笑みを浮かべるなのはに愛しさを感じていた。
一番最初の親友で、世界で一番大好きな親友。何が起こってもこの笑顔だけは守り抜いてみせる。
フェイトはそう誓ってなのはに微笑み返した。

――ピリリリ。

それも束の間。かすかに鳴り響いたのは、なのはの携帯電話のコール音。
なのははエプロンで手を拭くと自身の携帯の置いてある寝室へと走りだした。
寝室へ入るとベッドの上で着信を主張し続けるそれを手に取り、通話ボタンを押す。

「はい、高町です。はいはい……今からですか?」

一方皿を洗い続けるフェイトはなのはの会話の内容が少し気になって聞き耳を立てていた。
あまり良くは聞こえないがどうやら緊急の呼び出しらしい。
だがなのはに呼び出しが掛かるとは余程の緊急事態なのか? となれば当然危険度の高い任務だろう。
フェイトは皿を洗う手を止め、なのはの言葉に聞き入っていた。

「分かりました。すぐに向かいます」

フェイトにとってあまり聞きたい言葉であった。かなり厄介な事になっているらしいのは想像に難しくない。
蛇口から流れる水を止めるとフェイトは寝室へと歩き出した。
中を覗くと教導隊の制服に着替えるなのはの姿。その表情は先程見せた笑顔とは違う軍人としての高町なのはだった。
あらかた着替え終わるとフェイトの視線に気が付いたのか申し訳なさそうな表情を浮かべて。

「ごめん。緊急の呼び出し掛かっちゃった。悪いだけどヴィヴィオ見ててくれる?」
「どういう状況?」
「よく分からない。ただ高ランクの人達が何人も墜ちたって……」

182リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:51:11 ID:LLxI1tRg
その言葉で思い出すのは、なのはが墜ちたあの日の事。
あんな風になのはの苦しむ姿を見るぐらいなら、この身を引き裂かれた方がどれだけ良かっただろう。
だから今度は一緒に行きたい。高ランクが何人か落ちているなら自分にもいずれ声が掛かるだろう。どうせ行くならばなのはを守れる方がいい。
それにスカリエッティとの関与も気になる。

「私も行くよ。ヴィヴィオは、悪いけどアイナさんに見てもらおう」
「……分かった。じゃあアイナさんが来るまでヴィヴィオお願いね」
「うん」

あいにく高町家で家政婦をしているアイナはこの日休みを取っていた。フェイトとしても本当ならなのはと一緒に行きたいがヴィヴィオを放ってはおけないだろう。
とにかくなのはの事も心配だが、アイナが来るまではヴィヴィオの傍に居なければなるまい。
そんな事を考えている間にもなのはは準備を終え、玄関へと歩き出していた。
フェイトもその後を追う。

「じゃああとお願い」
「気を付けて」

慌てた様子で玄関を飛び出していったなのは。その様子を見届けるフェイト。
勢いよく締められたドアを見つながら妙な胸騒ぎがするのをフェイトは止める事が出来ない。
悪い事が起きる気がする。何故かはわからなかったがフェイトが思い出すのは今朝見た夢の事。
フェイトの中であの血のような紅い色をした瞳が見つめてくるのだ。そう、まるで自分と同じような瞳の色をしたあの鉄の巨人が。
その眼に宿っているのは夢で見た寂しさや儚さではない。殺戮と破壊と思わせる狂気の赤。
何度振り払おうとしても、その視線がこちらを見つめる事をやめてくれようとはしない。

「アイナさんに電話しないと」

フェイトはこれ以上夢の事を考えたくなくて携帯を取り出しアイナへと電話を掛けた。



午後22時 ミッドチルダ首都中央部。

「第1小隊。配置につきました」
『了解。敵を目視確認した後、排除行動に移れ』

いつもは美しい夜景を見せてくれる都市中心部は本局から派遣された武装局員達の存在によって物々しい雰囲気となっていた。
派遣されたのはエース級と呼ばれるAAランク以上の魔導師ばかり。
地上でこれほど戦力が展開される事は稀であり、恐らくは1年前のJS事件以来の事ではないだろうか。
召集を受けた高町なのはは第3小隊を任され、後方のビル陰から双眼鏡を使い様子を伺っていた。

今回の作戦で出動した小隊は4人1組で計6小隊。まずは偵察隊として第1小隊を送り、彼らが敵を確認次第、全小隊で奇襲による集中砲火を掛ける。
この作戦になのは自身、強い緊張感を感じていた。その理由は高ランクが墜とされたと言うのに敵の情報全くない事である。
最初に敵発見の通信を入れたのは、哨戒任務中の地上本部魔導師小隊だったらしいのだが、その報告後通信が取れなくなった。
不審に思った地上本部は、その後も通信があったポイントに部隊を投入し続けたが、いずれも現場到着直後に通信が途絶えてしまっている。
そして地上本部から本局に支援要請が入り、なのはに白羽の矢が立ったと言うわけである。

『敵と思われる物体を目視で確認! なんだありゃ10mはあるぞ!』

突如入る先遣隊からの通信。隊員は畏怖の感情に支配されているようで、その声は上ずり気味であった。
それを皮切りに先遣隊からの通信が続々と押し寄せてくる。

『いやもっとだ。もっとでかい!』
『こっちへ来るぞ! うわぁぁぁぁぁ!!』

断末魔の様な悲鳴を最後に先遣隊からの通信は途絶えた。各小隊は臨戦体制を整え、先遣隊から通信があった場所へ急ぐ。

183リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:52:13 ID:LLxI1tRg
「レイジングハート! エクシードモード!」

そう叫んだなのはの身体が桃色の光に包み込まれ、数瞬後に弾けて姿を現したのは戦闘形態エクシードモード。
なのはが持つ形態の中でも最大の出力と装甲を兼ね備えたエクシード。それを使うという事は全力全開の証。
恐らく先遣隊はやられたのだろう。だから省エネ形態であるアグレッサーモードの勝てる相手ではないとなのははそう判断したのだ。

「第3小隊出撃! 敵を殲滅するよ!」
『了解!』

なのははレイジングハートで敵の居る方向を指し示すと最大出力で飛行を開始した。
桃色の軌跡を伴い、音速に迫まろうかという速度で空を切る小隊長に、第3小隊員もぴったりと追従している。
直線速度では高機動魔導師にさえ匹敵するなのはに付いてくる辺り、彼等もエース級である事は想像に難しくなかった。
他の小隊も、それぞれが異った魔力光を発して高層ビルの隙間を彩りながら敵が待つ場所まで高速で駆け抜ける。
やがて全ての小隊は同じ場所にたどり着いた。そこは高層ビル群が立ち並ぶ中でも特に開けた空間で、中隊規模で動いても戦いやすそうである。
だがその風景と比べて他と比べても明らかに異質な物であった。規則的に大きく陥没している道路に砕かれたビルの壁。そしてその壁や道路の陥没の中にべっとりと付いた赤い何か。
それが先遣隊のなれの果てであろうとは、誰も想像したくないだろう。だがこれがなのは達に突き付けられた事実なのだ。
本局から送られた精鋭部隊に走るのは恐怖、絶望、戦慄、そして逃れようのない絶対的力量差。

「これは一体……ん?」

そう呟くなのはの耳に音が入り込んでくる。何かが駆動するような音、そう油圧パイプが動くような。
次に聞こえてくるのは何かが砕かれるような音。アスファルトが砕けているのだろうか? それらの音が一定のリズムを保って紡がれる。
徐々に近づいてくる音に、その場に居る全員が同じ事を考えていた。恐らくこれは敵が出す音だと。ビルの陰に隠れて姿は見えないがこれこそが敵なのだろう。
音はどんどん大きくなり耳を覆いたくなるほどだ。しかしなのは達が見つめるビルの向こう側に奴は居る。
敵の姿がどんなに強大でも目を逸らすな! 敵がどれほど恐ろしい音を立てようとも耳を塞ぐな!
全神経を集中して敵を感じろ! 奴が姿を現した瞬間、一斉射撃だ! なのはを含めた小隊員全員がそう思っていた。
もうすぐ、もうすぐ、ビルの陰から顔を出す。仲間の仇だ! 誰であろうと倒してみせる!
彼らはそう誓ったはずだった。はずだったのどうだろう。誰一人として動かない、いや動けないのだ。
何故ならビルの谷間からその巨体を見せた敵の姿は、彼らの乏しい想像力など遥か彼方に超越するほど強大で。

「ガオォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

彼らが想像したよりも遥かに恐ろしい咆哮を上げたからだ。



「ママ……」

なのはが緊急招集されてから実に1時間、彼女の娘であるヴィヴィオは涙ながらにフェイトに縋りついていた。
そう、幼いながらもヴィヴィオはこの異様な状況に不安感を覚えていたのだ。
フェイト自身ヴィヴィオに付いていたい気持ちはあったが、とにかくなのはが心配でたまらない。
それにそろそろアイナが来てくれるはずだ。折角の休暇、しかもこんな時間に呼び出すのは気が引けたがそうも言っていられない。
とりあえずアイナならヴィヴィオを安心して預ける事が出来る。フェイトはヴィヴィオを宥めながら腕にはめた時計にちらちらと目をやる。

「ママ……ママ」
「傍にいるよ、大丈夫」

嘘だ。今から遠くへ行ってしまう。でもとにかく今は泣き止んでもらわないと。
なのはは無事だろうか。もしもの事があればこの子はどうなるだろう。いや自分はどうなってしまうだろうか。
あの夢、私と同じ色の瞳で見つめ続けてくる彼。どれほど振り払おうとしても彼の視線が揺らぐ事はない。
真っ直ぐに見つめて投げ掛けてくる感情は存在の意義、存在の定義、存在の肯定と否定、孤独、悲しみ、生まれた意味。
兵器として代用品として生み出された者に生きる価値はあるのか? それはフェイトが長年悩み続けてきた事。
どれほど考えても答えなど出ない。出したつもりでも結局悩み、迷ってしまう。
そうだ、なのはを失えば拠り所を失くしてしまう。そうなればきっと。

――私は壊れるだろう。

184リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:53:22 ID:LLxI1tRg
フェイトはヴィヴィオを抱き締める腕に力を込める。お願いだから泣かないでよ。泣きたいのはこっちなんだから。
なのはを喪失してしまう可能性、それはフェイトにとって最大の恐怖であり、自己の存在意義を失う事でもある。
フェイトと言う人間は危うい。その心はちょっとした事で砕けてしまう。そしてバラバラになった破片を繋ぎ合わせる事は容易ではない。
だからヴィヴィオの背中を撫でているのは自己防衛のため。幼い我が子を守るふりをして自分に言い聞かせているのだ。
なのはは大丈夫。なのはは死なない。なのはを失うなんてありえない。なのはは笑顔で帰ってくる。
帰って来たら眩しいぐらいの笑顔で自分を抱き締めてくれる。私に美味しいご飯を作ってくれる。
寝る前には笑顔で「おやすみ」を言ってくれて、朝起きて隣を見たら「おはよう」と言って笑顔をくれる。

「なのはママ帰ってくる?」

小さな身体を抱き締めながらフェイトは思う。帰って来ないなんて嫌だ。なのはを失う未来なんてこの手で壊してみせる。
高町なのはを失う事が運命ならばそれさえも壊す力を、なのはを傷つけるならば例え相手がなんであろうと敵だ。
フェイトと言う人間は危うい。なのはを守るためならば世界を敵に回しても戦い続けるだろう。
そして望むだろう。世界を敵に回しても勝利を得る事が出来る絶対的な力を。
思い浮かべるのは夢の中で手に入れたあの力、フェイトが望む力の理想像、いかなる敵をも叩き砕く無敵の鋼鉄兵士。
だがそれは夢想でしかない、なら今この手にある力を信じる以外ないのだ。10年以上の歳月を掛けて磨き上げた魔法という名の技術。
フェイトは縋るヴィヴィオを離してその小さい肩に手を置いた。

「よく聞いてヴィヴィオ、なのはママは私が助ける。だからヴィヴィオはアイナさんとお留守番してて。
 私はなのはママを迎えに行ってくるからここで待ってて欲しいんだ」
「本当?」

ヴィヴィオの表情に僅かばかりの光明が差すとフェイトは柔らかい髪の感触を確かめながらその頭を撫でた。

「うん本当だよ。フェイトママはね、強いんだから」
「知ってる」
「なら、お留守番しててくれる?」

フェイトの言葉にヴィヴィオは涙を拭いながら力強く頷いた。やはり血は繋がっていなくてもなのはの子なんだ。
きっと強くて立派な女性になる。なのはのような不屈の心を持った魔導師に。
フェイトが未来のヴィヴィオに想いを馳せれば、玄関から響くチャイム音。
この時間に訪ねてくる人物は1人しか居ない。念のためフェイトがドアを開けて確認するとそこには待望の人の姿が。

「ごめんなさい、遅くなってしまって」
「アイナさん。いえ、こっちこそ急なお願いで。じゃあヴィヴィオお願いします」

フェイトはアイナを招き入れるとその足で寝室へ向かった。
そしてロッカーに掛けられている執務官の制服に手早く着えるとポケットから愛用のデバイスを取り出し、触れる様な口付けをする。

「バルディッシュ、なのはを守る力を私に」

フェイトは口付けしたままバルディッシュに囁きかけた。

22時30分 ミッドチルダ首都中央部。


時空管理局地上本部と高層ビルが立ち並ぶミッドチルダの中央部。
その中でもひときわ高いビルの上から下界を見下ろすのは、八神はやてと守護騎士ヴォルケンリッターが将シグナムにオールラウンダーのヴィータ。
彼女たちの視線の先に広がる光景は惨たんたる有様であった。

185リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:54:08 ID:LLxI1tRg
「なんだよこれ…廃墟じゃねぇか」

そう口にしたヴィータに他の二人も同意せざるおえない。先程までは照明から眩いばかりの光を放っていたであろうビル群。
だが今その輝かしい明かりは消え果て、どこまでも広がる瓦礫から突き出している鉄骨は、まるでこの街に対する墓標のようにも見えた。
つい数時間前には凛々しくそびえるビルであったろう瓦礫の山々に、半壊して内部構造を痛々しげに晒しているビルも複数見られる。
滅多な事では壊れない鉄筋コンクリートの壁は砕かれたり剥がされていたり、途方もない質量を支えるために生み出された鉄骨もどうやったらこう出来るのか、まるで溶けたようにぐにゃりと折り曲げられている。
こんな事を出来る人間が居るのか。もしこの場になのはクラスの砲撃魔導師が大勢居れば、或いは出来るかもしれない。
だが独力でこれほどの事が出来る者は居るはずもなく、たとえ居てもそれは人間ではないだろう。

「そう、こんな事が出来る人間、居るわけがない……まさかこれがリンディさんの言っとった」
『はやて聞こえるか?』

突然はやての言に割り込むように入る通信。それはフェイトの兄であるクロノ・ハラオウンからであった。
予期せぬ相手からの連絡に、はやては目を丸くしていた。

「クロノ君! どうしてクロノ君が?」
『ああ、今回母さんから君達のバックアップを頼まれてな。だが少ないな』

クロノが差すのは今回のメンバー。はやて自身いきなり六課のメンバーを集めろと言われても出来るはずもなく、自身の守護騎士であるヴォルケンズを伴ってきたという訳である。

「せやな。本当ならなのはちゃんとフェイトちゃんだけでも確保しよう思ったんやけど捉まらんのや」
『知らないのか? フェイトはともかくなのははそこの前線に出ているはずだ』
「なんやて!?」

そんな事聞いていない。出動前の報告では本局からの武装隊は、既に壊滅寸前との事だ。もしかしてなのはは……。
はやての脳裏をどす黒い空想が支配していく。それは血塗れになりがら息絶えたなのはの姿だった。
なのはは自分やヴォルケンズを助けてくれた親友の一人だ。そんな親友の変わり果てた姿など見たくはない。

「はやてぇ!」

はやての思案に突如入りこんで来た聞き覚えのある声。
振り返り見てみれば、上空から黄金色の魔力を伴って見知った顔が高速で近付いてくる。

「フェイトちゃん!?」

フェイトはその言葉が自身の耳届くと同時に、はやて達の待つビルへと降り立った。
何故ここにはやて達が居るのか? フェイトにとっては当然の疑問である。
彼女は娘ながらリンディから今回の作戦を聞かされてはいない。はやて自身フェイトには当然話が行っているものと思っていたから自分達を見て驚く理由が分からないのだ。
はやてはリンディからの頼み事に改めてきな臭い物を感じていたが、引き受けた以上は仕方があるまい。
いずれ全てを話すと約束したのだ。今はそれを信じるより他にないだろう。

「どうしてみんながここに?」
「説明は後や。それより」

はやては眼下に広がる光景を見るよう視線でフェイトに促す。
ゆっくりと視線を落としてみれば広がっているのは一面の廃墟。つい数時間前通ったばかりの光景とはまるで違っていた。
いつも通る風景の変わり果てた様子にフェイト自身驚愕する以外なかった。

「これは……どうして、どうしてこんな事に」
「聞いてへんの?」
「何を?」

やはり聞かされていないのか。しかし何故リンディはフェイトに話していないのだろう。
クロノには話が行っているようだし、リンディはフェイトに話したくなかったのか?
妙な勘繰りかもしれないが、自分がフェイトを指名するのは目に見えていたはず。なのになぜ事前に話が通ってないのか。

186リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:54:59 ID:LLxI1tRg
「はやて何の事!」

何も言わないはやてに苛立ちを覚えたのか、フェイトは乱暴にはやての肩を掴んだ。
バリアジャケット越しでも力強さを感じるとは相当強い力で掴んでいるのだろう。
そしてフェイトの視線。普段は優しさしか見せないそれは狂気とも取れる感情を孕んでいるようだった。

「答えてはやて! 何でこうなったか知ってるの!? なのははどこ!?」

そう、全てはなのはのため。ここで何が起こったのか、なのははどこへ行ったのか、その答えを知るのは、はやてだ。
なら自分は知らなければならない。問い詰めてでも何が起きているのか言わせねばならない。
フェイトの思わぬ剣幕にたじろぐはやてだったが、リンディがフェイトに今回の件を言わなかった以上何か理由があると考えていた。
フェイト・T・ハラオウンという人間に対して、はやては全幅の信頼を置いている、だがリンディはどうなのだろう?
実の子でないと言え、深い愛情を注いでいた事は周知の事実だ。それに執務官としてのフェイトにも信頼を寄せているはず。
ならどうして、どうしてリンディはフェイトに何も告げないのか?

「いやそれは……」

リンディの行動が理解出来ないはやては言葉に詰まり俯いてしまった。
その様子に普段温厚なフェイトも声を荒げる。

「はやて!」

――ドオォォォ!!

するとフェイトの問い掛けに被さるように突如響きわたる爆音と粉塵の嵐。その瞬間、辛うじて原型を留めるビル陰から桃色の閃光を帯びた人影が飛び出した。
フェイト達は見覚えのある光を目で追う。そして光を脱ぎ捨てる様にして現れた白いバリアジャケットの姿に確信した。

「なのはぁ!!」

咆哮にも似た呼び掛け。聞き覚えのある声に驚いたなのはがその方向を見やるとそこには見覚えのある姿が4つ。
間違いない、いや間違える筈がないその姿。

「フェイトちゃん! それに……」

みんな自分を助けに来てくれたのだろう。
だがそう思った瞬間なのはは気が付いた。そうだ来てはいけない。なぜなら今ここに居るのは。

「逃げてぇぇぇぇぇ!!」

なのはの叫び、その刹那響く轟音。なのはの後方にあるビルが噴煙を上げながら、積み木細工を蹴散らすように崩れ去ったのだ。
そして残留する土煙に浮かび上がる黄色い光源が二つ。その光になのはが戦慄を覚えた次の瞬間、一帯を覆う煙は爆音を伴った暴風によって吹き飛ばされたのだ。

「ガオォォォォォ!!」

廃墟と化した都市部に響き渡る咆哮。雄々しく吠えたその姿にフェイトが、いやその場に居る全員が感じたのは逃れようのない恐怖。
粉塵を切り裂き現れたのは、身の丈20mに迫ろうかという大巨人。全身には薄汚れた包帯を巻き、魔導師の攻撃で引火したのか、垂れ下がる端々には篝火のように炎が灯っている。
そしてその姿は、身に宿る癒えぬ古傷を隠さんとするように見えたのだ。まるでそれその物が大きな傷跡であるかのように。
剛腕と形容するのが相応しい力強く巨大な腕に、大地を踏みしめる脚部はその地鳴りを響かせる重量を支えるのに十分な大きさがある。
それに伴った巨躯はまるで神話に出てくる神のように威厳に溢れ、そして怪物のような禍々しい威圧感を併せ持っていた。
顔に巻かれた包帯より覗かせる黄色い眼光は鋭く、目の前に居るなのは達へと向けられている。
だがそれでも高町なのはは退こうとはしなかった! 恐怖の感情はあったがそれよりも今は、かけがえのない友を守る事の方が大事だった!

187リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:55:38 ID:LLxI1tRg
「私の大切な友達を!」

だから立ちはだかる物を撃ち抜く! それが自分の出来る事、これが自分の最大火力! 今までこの砲撃に。

「傷つけさせなんかしない!!」

撃ち貫けなかった物などない!!

「行くよレイジングハート!」
『了解マスター』

そう、これこそが高町なのはの全力全開にして、神さえも撃ち倒すと言う名を与えられた究極の砲撃魔法!

そしてその名を!

――カートリッジ全弾ロード!

その名を!

――チャージ完了! 発射準備!

その名を!

――射線軸固定。照準ロック!

その名を!

――これが私の……。

その名を!

――全力全開!!

その名を!

「ディバイィィィィィィンバスタァァァァァァァァァ!!」

レイジングハートから放たれた桃色の光流が巨人目掛けて突き進む。突然の攻撃に巨人は身動きを取る事も出来ない。
なのはが持ち得る最大火力の砲撃は巨人の腹部に直撃し、辺り一面を桜色の光で包み込んだ。

「ブレイク! シュゥゥゥトォォォ!!」

なのはの咆哮が轟くと同時に、眩い閃光が巨人を覆ったかと思いきや突如起こる大爆発。それは凄まじい爆流となり憎き敵を覆いつくした。
巨人の全身を内包するほどに巨大な爆発が現すのは砲撃手の完全勝利。ビルの壁でさえ貫くこの砲撃に撃ち倒せぬ物はない!
誰もが思う。なのはの本領をぶつけられては無事で済むまい。今巨人を包む爆炎が晴れる頃には、彼が神さえ倒す砲撃に屈した姿を見る事になるだろう。

「やったんか?」

はやては晴れない煙を見つめ続ける。どうやら敵が動く気配はない。
カートリッジ7発ロードのディバインバスター。やはりその砲撃は巨人の身体を粉砕するには十分すぎる程の威力があったようだ。
ゆっくりと爆風が天へと舞い上がる様子に、なのははホッと一息付いてからフェイト達の居るビルへと飛翔する。

188リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:57:04 ID:LLxI1tRg
「フェイトちゃ〜ん! みんな!」

遠目から見ても心配そうな様子を浮かべている4人に、なのはは笑顔で手を大きく振り、自分の無事をフェイト達に知らせた。

「なのは!」

それを見るやフェイトは最高速度で飛び出し、なのはに辿り着くや否や、その華奢な身体を力強く抱き締める。

「無事でよかったぁ……よかった」

そう言ってフェイトが嗚咽を漏らし始めるとなのはは笑みを浮かべ、フェイトの身体を抱き寄せた。
ひょっとしたらもう感じる事が出来ないかもしれないと思ったなのはの温かさにフェイトの安堵はますます強くなる。
なのはが家を出てからどれほどこの瞬間を待ち望んだろう。また抱き締め合えるこの瞬間がフェイトにはどんな事よりも嬉しかった。
なのは自身も最近感じていたフェイトやヴィヴィオよりも先立ってしまう不安をこの時だけは拭う事が出来た。
どうやら自分が死ぬのは今ではないらしい。まだヴィヴィオやフェイトと笑い合って過ごせる、そう思うとなのはは堪らなく嬉しくなって目尻に涙が浮かべていた。

「私は無事だよ。でも他の人達は……」

だが同時に思うのは散っていった仲間たち。皆果敢に巨人と戦ったがなのは以外の全員が殺されてしまった。
ディバインバスターを撃てていれば全滅はなかったのかもしれない。
そうは思っても砲撃は足を止めなければ撃てない。あの巨人にそんな隙を見せれば瞬く間に殺されていただろう。
実際先程の砲撃も友達を守りたいがためのやけくそであり、それが直撃した事も、そもそも撃つ事が出来たのが奇跡に近かった。

「なのはが悪いんじゃないよ。とにかく無事でよかった」

落ち込むなのはを何とか励まそうとフェイトは微笑みかける。そうしたフェイトの気遣いは嬉しいがそれでもなのはは責任感を拭い切れずにいた。
だがそれも束の間、後方から地響きのような音が聞こえた。なのはとフェイトは音のする方へ振り向く。
視線の先にあるのは、今だ砲撃の爆風が停滞している巨人の亡骸があるべき場所。そしてまた聞こえる地響き。

「これは……」

フェイトが呟くとなのははハッとした。この音は間違いなく。

「巨人だ」

そう、爆炎を振り払い現れたのは包帯姿の巨人であった。その悠然と歩く姿からはこれと言ってダメージを受けているようには見えなかった。
だが、所詮布でしかない包帯はディバインバスターの直撃を受けて吹き飛んだようで、隠されていた腹の部分を露わにしていた。
そこから覗くのは非常に彩度の低い青色の肌。もはや金属本来の色と言ってもいいほど鈍くて、色合いの薄い青である。
不気味な色合いの皮膚に一同は困惑する。相手の正体は何なのか? 果たして生き物なのか? それともそれ以外の何かなのか?
皆が思案している中、はやては冷静に巨人の肌を見る。視線の先にはディバインバスター直撃の跡。
よく目を凝らして見るが、そこにあるべき物がない。あれだけの攻撃を受ければどんな物でも必ず付く筈の物。
その結果を突き付けられてはやての額には汗が滲み出してくる。はやての様子に心配なったヴィータが声を掛けると。

「はやてどうしたんだ」
「なんて奴や。傷一つ付いてないなんて」

189リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:58:10 ID:LLxI1tRg
そう言われてヴィータは巨人の腹に視線を送る。そこには綺麗な光沢こそあれど傷らしい物は一切見られなかった。
まさかなのはの砲撃を、その直撃を受けて傷一つ付かない物質など、この世に存在するのだろか?
分厚い鉄筋コンクリートでさえ撃ち抜いてしまうなのはの砲撃で無傷。それもカードリッジを7発もロードした超超威力砲撃。
もはやこれは常識で考えられる範疇を超えた相手なのだとはやては確信した。リンディの世界が滅ぶという言葉、あながち嘘ではないらしい。
そして相手の様子をじっと観察していたフェイトは、敵の正体に気が付いて叫び声を上げる。

「あれは……そうか鉄だ! 鉄で出来た巨人だ!」

フェイトの言葉になのはも叫んだ。

「じゃああれは鉄巨人!」

いいや違う! 鉄で出来た巨人でも鉄巨人などでは断じてない!

分からぬというなら見せようこの姿! とくと焼き付けろこの身体! 全力全開の砲撃魔法に耐えたこのボディー!

神をも倒す? 笑わせる! ならこの身体は神をも超えし物なのか?

あるいはそうか? それも違う! これを操る者こそ全知全能絶対無敵の神となりえるのだ!!

鉄巨人は自らの身体に纏った包帯を掴んでそれを取り払った。

そして現れたのは全身が鉄で出来た鋼鉄の兵士! それが勝利する事のみを目的とした完全なる兵器、鉄人!

「ガオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」



――鉄人28号!!



そうこれが私フェイト・テスタロッサ・ハラオウンと後に鉄人28号と呼ばれる正太郎との出会い。
それは、JS事件から1年が過ぎた夏の日の事でした

続く。

190リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 21:00:03 ID:LLxI1tRg
あとがき

まず初めての投下なのに規制食らってしまって申し訳ありません。
もう少し投下感覚調整すべきでした。
これで第1話は終了です。ここまで読んでくださった方、支援してくださった方ありがとうございます。
SSは書き慣れていないので文章などにおかしい所がたくさんあると思いますが書いていく内に改善したいと思います。
なので指摘などありましたらどんどん言って下さるとありがたいです。
改めて読んでくださった方、支援してくださった方ありがとうございました。

191リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 21:35:46 ID:LLxI1tRg
また規制……
>>187までは投稿出来たので>>188からどなたか代理で投下して頂けないでしょうか?
自分のせいでスレの進行止めるのも申し訳ないので
本当にお手数ですがよろしくお願い致します

192リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 21:53:39 ID:LLxI1tRg
本スレに代理投下してくださった方、本当にありがとうございました
これからはこのような事態がないように気を付けます

193ラッコ男 ◆XgJmEYT2z.:2009/05/17(日) 21:54:35 ID:HIgUv1Wg
リリカル鉄人氏の残りの部分を代理投下させていただきました。
これでよろしかったでしょうか?

194リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 21:56:41 ID:LLxI1tRg
>>193
ラッコ男氏、代理投下誠にありがとうございました
これからは他の方に迷惑をかけないよう注意していきたいと思います




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