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本スレに書き込めない職人のための代理投稿依頼スレ
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「書き込めないの!?これ、書き込めないの!?ねぇ!本スレ!本スレ書き込めない!?」
「あぁ、書き込めないよ」
「本当!?OCN規制なの!?ODNじゃない!?」
「あぁ、OCNだから書き込めないよ」
「そうかぁ!僕OCNだから!OCNだからすぐ規制されるから!」
「そうだね。規制されるね」
捻りが無いとか言うな
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以上です。現在編と過去編が交差しまくりで解り難かったかしら?
とりあえずルールーが出ているのが現在、ルー母が出ているのが過去だと思っていただければw
それにしてもこれはビショップなのか?という多大な疑問を生みましたね、コレ(他人事
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以上です、ルーテシア徐々にメルティーナ化って話です。
今思うと、メルティーナが乙女っぽいかもしれないです。
本編まで後一話位だと考えています。
それではまたです。
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そしてやってしまいました、どなたか御願い致します。
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代理投下ありがとうございました。
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「俺は殺害に加担したんだ。
そのことを受け入れるために俺は、俺がどんな有用性を持つのか明らかにしなければならない。
俺もいつか死ぬ。その時が来るまでに俺は見つけ出さなければならない。俺自身の有用性を」
ウフコックの軌道――明確な出発点から目指すべき到達点へと弧を描く――誰にも止められない。
それはボイルドの新たなキャリアの始まりであり、選択でもあった。
どちらもジ・エンドに至るリスクを承知してクリストファーの描く“渦巻き”に飛び込もうという意思を示す。
チャールズの溜め息。
「死を見つめ楽園を去るか……」
《門出を祝ってやろうぜ》
トゥイードルディムが陽気に口を挟む。
チャ−ルズ――仕方ないと言うように微笑み、去っていく。
ウフコックはテーブルを飛び降り、イルカの鼻先と少年の膝に触れる。
「さようなら、トゥイーたち。俺は行くよ」
《さようなら、ウフコック」。また遊びに来てね》
《もし見つかったら会わせてくれよ。お前を必要とする相手ってやつをさ》
「約束するよ、トゥイーたち。お前たちは大切な友人だ」
ボイルドはウフコックを手に乗せ、立ち上がる。
男とネズミは楽園を去った。
◆◆◆
襲撃から二日目の朝。
食堂で軽食を受け取り、ロビーへ。
荷物は殆どない。ハザウェイのTシャツやジョーイのラジカセ、ラナのブーツといったものは何もなかった。
食事しながら待つ。誰がクリストファーの選択を選んだのか。
じきにジョーイとハザウェイ。続くようにラナがやって来た。
レイニーとワイズ。クルツと姿の現したオセロット。
介護棟からやって来る二人――イースター博士とウィリアム・ウィスパー。
「ウィスパーの識閾テストをしたんだ。彼もクリストファー教授のプランに賛成した、僕も」
聞かれもしないのに話し出す“お喋り”イースターの肥満体――ヘリウムガスが溜まったような腹。
イースターの押す車椅子の上で虚空を見つめるウィスパー。
脳に損傷を負ったかつてのオードリーの同僚。
脳に埋め込まれたハード/頭皮を覆う金属繊維/直感でコンピューターの操作する“電子世界のシャーマン”。
その結果として、ウィスパーは他者を理解しなくなった。データが精神――ささやきとなったイースターの“体の悪い弟”。
最後に管理棟のドアから姿を現すクリストファー。
「ふむふむ」
くるくると円を指先で描きながら、一人一人を指差す。
「ディムズデイル・ボイルド。
ウフコック・ペンティーノ。
ラナ・ヴィンセント。
ジョーイ・クラム。
ハザウェイ・レコード。
レイニー・サンドマン。
ワイズ・キナード。
クルツ・エーヴィス。
オセロット。
ドクター・イースター。
ウィリアム・ウィスパー。
悪運と実力に満ちた九人と二匹のスペシャリストたちよ、よくぞ私のプランに賛同してくれた。心から感謝と歓迎の意を示そう。
さあ、こちらへ来たまえ。いざ扉は開かれん」
茶番を好むクリストファー――その指にいつの間にか挟まれているカードキー/軽快な歩み/ロビーの扉脇を滑るように通過するカード。
ロックが次々に解除され、ゆっくりと扉が開いていく。
ロータリーには初めて目にする管理局を制服を着た幾人かの男たち。
「いざ“楽園”を出て荒野を渡ろう」
そして“楽園”を出た十人と二匹は新たな戦場へと向かった。
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投下終了です。
リリカルなキャラが全く出てませんが次回からでる予定です。
しかしクランチ文章難しい。
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>>28の方は投下できてました・・・
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>>29
やっときました
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>>31
代理ありがとうございます
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サルサン引っかかりましたのでどなたか代理投下お願いできますでしょうか?
スカルサタモンの攻撃に、スバルとティアナは防戦一方であった。
なんとか決定打は貰わずに済んでいるが、いつまでも防ぎきれるわけでは無い。
「チィ、しぶといんだよテメェ等は!」
スカルサタモンは何度攻撃しても倒れない二人にへの苛立ちが限度を超えていた。
完全体デジモンとしての自信と誇り。それが、たった二人の人間を倒せないという事で打ち砕かれた。
許せない、許してはおけない。自分達デジモンに遥かに劣る人間の分際で生意気なのだ。
「ティア……大丈夫?」
「少なくとも……あんたよりは大丈夫じゃないわよ……」
荒く息を吐きながら言葉を交わす二人に余裕はない。
魔力はほぼ空、応援を頼む暇も無い。体力もそろそろ限界と絶望的な状況だ。
どうやってこの状況を切り抜けるか思考を走らせるが思いつかない。
「いい加減にくたば……ん? なんだ!?」
スカルサタモンが杖を振り上げ、いい加減にトドメを刺そうと動こうとした時、それは現れた。
地響きと共にアスファルトを砕き、地中から出現したそれは全身を鋼で覆った竜。
背中に二つの大砲と緑色の液体に満たされたカプセルを背負った竜。全長は軽く15メートルを超えているだろう。
全身を黒みがかった銀色の装甲に覆われ、頭部のみが緑色に変色した竜は自分の足元にいるスカルサタモンへと顔を向ける。
「バ、バイオムゲンドラモン……なんでこんな処に!?」
「悪いね」
バイオムゲンドラモンと呼ばれた竜は、その外見の凶悪さに似合わぬ十代中頃の少女を連想させる声で呟く。
「ドクターからの命令なんだ」
右腕を振り上げ、豪速を持ってスカルサタモンへと叩きつける。
スカルサタモンはそれに反応もできず、鋼鉄の腕に押し潰され消滅。
バイオムゲンドラモンが腕を持ち上げた跡に出来たクレーターに、デジタマへと還元された姿で転がる。
「なっ……何、アイツ……」
突如出現し、スカルサタモンを一撃で倒したバイオムゲンドラモンにスバルとティアナは困惑する。
当の鋼の竜は軽く二人を一瞥すると、興味無さげに視線を外して自身が空けた地面の穴へと戻っていく。
二人は茫然としたまま、ヴィータとはやてが来るまでその場を動けなかった。
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登場デジモン解説
シードラモン 成熟期 水棲型 データ種
長い蛇のような姿をした成熟期のデジモン。
高い攻撃力を持つが知性は低く、本能のままに行動する。
海は勿論、湖などにも潜んでおりその長い体を利用した締め付け攻撃は驚異の一言。
必殺技は口から吐き出す氷の矢「アイスアロー」
メガシードラモン 完全体 水棲型 データ種
シードラモンの進化形であり、一回り巨大化した水棲型デジモン。
頭部の外郭から伸びる稲妻形のブレードが武器であり、進化前のそれより硬度が増した兜としても用いられる。
知性や泳ぐスピードも発達し、執念深く相手を追いつめる。
必殺技は稲妻形ブレードから放つ雷撃「サンダージャベリン」
バイオムゲンドラモン 究極体 マシーン型 ウィルス種
100%フルメタルボディを持つ究極体。
一時期デジタルワールド最強の座に君臨していた程の戦闘力を持ち、他のデジモンを圧倒する頭脳とパワーを持つ。
その名の通り無限のパワーと持ち、体はさまざまなサイボーグ型、マシーン型デジモンの優れたパーツで構成される。
本作では人とデジモンの融合体であるバイオデジモンとして登場。
必殺技は背中の大砲から放つ超ド級の破壊エネルギー波「∞(ムゲン)キャノン」
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長らくお待たせした上にこんな内容で申し訳ない orz
結局、兄貴と共闘したのライトニングだけだったり、はやてとかヴォルケンズ二人は出番丸ごとカットしたりとホント申し訳ない。
そしてようやく気がつきました……このSS一番のバランスクラッシャーは大だ。戦闘シーン執筆の際、強すぎて使いにくいのなんの。
バイオデジモンも登場……出すかどうか凄く悩んだんですけどね。正体が分かった人はご一報を、好きなデジモン一体差し上げます(何
さて、次回から本作のメインヒロイン(?)がよーやく出てきますといいつつこの辺で。
以上です。どなたかお願いします。
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代理投下終了しました。
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>>36
確認しました。
ありがとうございます。
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――あの人を、助けてください……
惨めな姿で、少女は確かにそう言った。
プレシアのためではなく、少年のためにそういったのだ。
プレシアの前で我侭を言うなど、今まで一度たりとも有りはしなかった。
「何故……」
どうしてあの時、自分は手を止めたのだろう。
――次はもっと、がんばります。だから……
私のことだけ考えていればいい。そう叱るべき筈なのに。
この状況で、あなたは私にお願いできる立場だというの。そう諭すべき筈なのに。
頭ではそれがわかっていたはずなのに、プレシアは確かに躊躇した。
「何故……」
躊躇する理由など、どこにもない筈なのに。
――おねがい、します……
なぜ、そこで完全に手を止めてしまったのだろうか。
わからない。
「けど……考えても、あまり意味がないわね」
直後にプレシアは首を横に振り、その疑問を切り捨てた。
そうだ。こんなことを考えている場合ではない。
あんなことは、どうせ一度きり。フェイトが自分に我侭を言うことなど、もう二度とないだろう。
そもそも自分があの少年を保護した理由は、フェイトの頼みによるものではない。
左手に握るものへと、プレシアは視線を移す。
鈍い光沢を放つ、二振りの剣。あの少年が持っていたものだ。
最初はあの少年を追い出すつもりではあった。だが、腰のベルトに差していた『これ』を一目見た瞬間、プレシアは気付いた。
持ち主の少年からは一切魔力を感じなくとも、『これ』そのものに電子音声機能が搭載されていなくとも……
それでも『これ』は、デバイスだと。
フェイト達は気付いていなかったようだが、間違いない。
少年をフェイトから紹介されたときにもらった少年のデータを見る限り、少年のもといた場所は、おそらく管理局も見つけていない別の次元世界。
「案外と、使えるかもしれない」
プレシアの両頬が、不気味に吊り上がる。
フェイトが課した保護条件に、少年は素直に従っている。
未知の世界から現れた少年。正体不明のデバイス。
うまく利用すれば、悲願達成の近道になるかもしれない。
価値が無ければ捨てるもよし。戦力になるのなら、管理局が手を出してきた時はいい駒となるかもしれない。
プレシアの両肩が自然と震えだし、次第に声が混ざっていく。
やがて、誰もいない廊下に、誰にも聞こえることのない壊れた笑い声が響き渡った。
-
どこまでも、虚しく。どこまでも、狂気的に。
今のプレシア・テスタロッサに、届く声は……ない。
-
*
「はぁ……」
公園のベンチに座り、セラは大きく溜息を吐いた。
時間は既に夕刻。殆ど一日中歩いてディーとジュエルシードを探し続けていたのだが、収穫はなし。
歩き疲れていると察したのか、合流したなのはと一緒に、ユーノから少し休むよう言われた。
当のユーノは、なのはの肩に乗って休むとのこと。小動物ならではの方法だと、セラは思った。
とはいえ、家からは少し遠い。一番近い休憩場所で休み、再び合流してから帰宅することとなった。
そんなわけで、セラはなのは達から指定されたここ、『海鳴海浜公園』にいる。
……やっぱり、言い過ぎたでしょうか?
ふと、合流直後のなのはとのやり取りを思い出す。
朝にユーノが聞いてきたことは、なのはの悩みについて。
ジュエルシードや敵対している魔導師のことで悩み続け、とうとう友人関係にまで影響を与えてしまっている。
それを聞いた時、少しだけ悩んだ。
不思議の国のアリスのように、突如この世界に迷い込んでしまった自分。
ただの部外者である自分が、余計な手を出してもいいのか、と。
とはいえ、せっかく保護を受けているのだから、その位の相談は引き受けようと思った。
ユーノには、私に任せてください、とだけ答え、なのはと合流してすぐにお説教を始めた。
全部話せなくても、肝心な所を伏せたりとか、そういう工夫をしてください……とか。
手伝って欲しくなくても、せめてアドバイスくらいはもらってください……とか。
最初はかなり慌てていたなのはだったが、次の言葉を聞くと何故か息を呑んだ。
――わたしもユーノさんも、なのはさんの傍にいますから。だから、困った時はちゃんと言ってください。わたしたちは、なのはさんのお友達なんですから。
思うところがあったのか、なのはは思案するように俯いたままだった。
その後はなのはの反応を待たずに、自分から先行して捜索を再開したため、なのはからの返事は聞いていない。
というより、返事が少しだけ怖かったからかもしれない。
やはり自分は、本来この世界とは無関係なのだから。
「なのはさんとユーノさん、まだでしょうか……」
さらに、溜息の理由はもう一つある。
なのは達から場所を聞いてここへ来てみると、I-ブレインが情報制御を探知したのだ。
微弱ながらも奇妙な『物理法則の乱れ』に、まさかと思って発生源を探してみると、案の定。
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……まさか、なのはさん達より先に見つけてしまうなんて……
自分の座るベンチからは少し離れた、無造作に立っている一本の木へと視線を向ける。
木の根元には、不気味に明滅を繰り返す、小さな青い宝石。おそらくあれが、話に聞いたジュエルシードなのだろう。
早く対処するべきなのだろうが、封印方法を知らないし、知ったとしても多分できない。
さらにいうなら、なのは達との連絡手段も持っていない。
なのは達の正確な現在位置がわからない以上、迂闊に探すこともできない。
ジュエルシードの暴走条件も大まかだが聞いており、自分が触れても発動する危険は十分に有り得る。
せめて、周囲の物体から引き離せば発動が遅れるかもしれないと思い、重力制御で宙に浮かせようとしたのだが、
……さっきは、ホントにびっくりしました。
朝からずっと展開しっぱなしだったD3を近づけただけで、ジュエルシードの頼りない発光が一気に強まったのだ。
驚いてD3を離すと、それに合わせてジュエルシードの発光は元に戻っていった。
試しにジュエルシードとD3の距離を調整してみると、それに合わせて発光現象の強弱が変化した。
どうやら、魔法士の魔法にも反応するらしい。
魔力や願いにジュエルシードが反応することは聞いていたものの、情報制御にも反応するとは思わなかった。
とはいえ、情報制御も『願い』や『魔導師の魔法』と同様、脳内で『思考』することによって発現する。
魔導師の魔力ではなく魔法そのものに反応していたとすれば、ありえないことではない。
結局、ここでなのはの到着を待つことしか自分にはできない。
完全に八方ふさがりだった。
「はぁ……」
再び大きく溜息を吐き、空を見上げる。
生まれてはじめて見る、茜色の空。
シティの天井も合成映像で空を映せるのだが、本物の空にはやはり程遠いだろうとセラは思う。
公園内を見渡せば、木々や草花などの自然が多くあることもわかる。
シティ内外を問わず、このように緑溢れる場所は存在しない。
自分の周りを取り囲むものすべてが、セラに一つの事実を告げている。
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――この世界に、マザーコアは存在しない。
情報制御によって、シティに住む一千万人の命を支え続ける『マザーコア』。
生きた魔法士を培養層に入れ、ロボトミーを行って心を奪い、情報制御でエネルギーを賄い、コアとなった魔法士が使い物にならなくなれば、新しい魔法士と取り替える。
いわば、魔法士を生贄にして人類を生き長らえさせるシステム。
生贄という表現をより悪く言うなら、電池が似合うかもしれない。
誰かの命を犠牲にしなければ、多くの人々の命が一日ともたずに失われてしまう。
そんなシステムが、この世界には存在しない。
自分の世界の有りさまだったそれが、この世界には存在しない。
魔法士の世界で起こっている争いの理由が、この世界には存在しない。
羨望が無いと言えば嘘になる。
けれど、自分の本来いるべき世界のようになって欲しいとは欠片も思わない。
しかし、ふと思う。
残っている二億人を、この世界に移すことができたら、どんなに楽だろう。
そうすれば、マザーコアの是非という争いだって行う必要がなくなる。
少なくともこの世界は、自分の世界の『かつての姿』に限りなく近い。
生き残った人々で、再スタートを切ることは不可能でもないだろう。
そこまで考えて、セラはぶんぶんと首を横に振った。
いくらそんなことを考えようと、所詮は夢幻に過ぎない。
この世界に自分が来れたのは、きっと偶然。
行き来する方法が見つかっていない以上、いくら考えても無駄でしかない。
――では、今この世界にいる自分はどうなのか?
不意に浮かんできた疑問に、セラは目を見開く。
何の関係もない筈の人間。存在しない筈の人間。
魔法士の世界を見つけるまでの間、この世界における自分は何だというのだろうか。
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「わたしは……」
なんとなしに、そう呟いた時。
(高密度情報制御感知)
「え?」
I-ブレインが、凄まじいまでの情報の歪みを感知。
顔を上げ、ジュエルシードがついている木へと向けば、ちょうどその一帯が青白い光の柱を上げている。
……発動、したんですか?
疑問もそこそこに立ち上がり、一旦この場から離れようと身を翻し、
「封時結界、展開!」
振り向いた先には、異世界のフェレット。
言葉とともに、フェレットを中心に空間が『変わって』いくのを、I-ブレインが余すことなく知覚する。
本来なら自分も結界の外に追い出される筈なのだが、そこはユーノとなのはに必死で頼み込んでおいた。
「セラは、下がっててね!」
「は、はいです!」
とはいえ、やはりできることは『遠くから見ること』だけ。
ユーノの指示通り、この場から離れようとして、
「セラちゃん!」
「あ、なのはさん!」
ユーノの後ろから、遅れてなのはが駆けつける。
先程会った時とは全く違う出で立ちに内心で戸惑いつつ、セラもなのはのもとへと駆け寄る。
左手に持っている杖がレイジングハートであり、現在着ている白服がバリアジャケットなのだろう。
「えと、大丈夫?」
僅かに逡巡したなのはの問いに、怪我はないか、という意味がないことを正確に把握する。
「ちょっと驚きましたけど、平気です!」
答えた直後に地面が揺れ、二人揃って直立のバランスを崩しかける。
揺れが納まったかと思うと、今度は聞いたことのない咆哮が空気を震わせる。
咆哮の主は、すぐに見つかった。
「あれが……」
「うん」
呆然と『それ』を見るセラの呟きに、毅然とした表情でなのはが頷く。
どこかの御伽噺の本にでも出てくるような、巨大化した木のお化け。
そのお化けを中心に、I-ブレインがひっきりなしに異常な情報制御を感知し続けている。
あれが、ジュエルシードの暴走体。
「ちゃんと隠れてますから、その……うまくは言えないですけど」
何か言わなければと思い、なのはと向き合う。
「がんばってくださいね、なのはさん」
「……うん!」
精一杯の笑顔で口に出てきたのは、月並みの励まし。
それでも、お説教を受けていた時の沈みっぷりはどこへやら、なのはは微笑み、力強く頷いた。
お説教が、功を奏したらしい。
「それじゃ、行ってくるね!」
その言葉を最後に、なのはは暴走体へと向かっていく。
-
なのはに手を振ってから、セラは林の中へと走る。
たどり着いてから振り向くと、なのはが暴走体と対峙している。
セラは、遠くからそれを見ていることしかできない。
……わたしは……
さっきベンチで一人きりになったのを見計らい、鞄の中に入れた十個のD3を鞄越しに見つめる。
わかっている。全部わかっている。
あの化け物を倒すことくらいなら自分だってできるが、ジュエルシードを封印しなければ意味がない。
むしろ自分の力に反応して、暴走が更に拡大する危険だってある。
今力を使えば、管理局に目をつけられて実験動物扱いされるかもしれない。
そうでなくとも、立場的に不利になることは確実だ。
――自分が加勢する事に、何等意味は無い。
そう、自分に言い聞かせて、
(情報制御感知。右方)
直後、別方向から情報制御を感知する。
情報制御の発生源へとセラが振り向いた直後、視界を金色の何かが高速で横切っていく。
物体の正体は、先の尖った金の弾体。おそらく魔力弾。
複数のそれらが暴走体へと殺到し、突如現れた半透明の半球に遮られる。
暴走体は攻撃に反応し、魔力弾の射手へと向き直り、吼える。
セラも振り向いてみると、二つの影。
一つは、橙色の狼。使い魔だろう。
そしてもう一つの影は、公園のオブジェの上に立つ、黒衣金髪の少女。
なのはのバリアジャケットと相反するような、色も肌の露出度も違う服装。
黒衣とコントラストを成す白い肌。遠目からでもわかる、意志の強そうな赤眼。
あの少女が、敵対する魔導師――フェイト・テスタロッサ。
凛としたその佇まいが、しかしセラにはあの『悪魔使い』の少女のように危なっかしく見えた。
そこまで考えた時、I-ブレインが暴走体の質量の変化を感じ取る。
暴走体へと向き直れば、木の根に当たる部分が地表に飛び出した瞬間だった。
「ユーノくん、逃げて!」
なのはの指示通り、ユーノもこちらの方へと避難して来る。
しかし当のなのはの方は、暴走体から背を向けようとしない。
『Frier Fin』
レイジングハートの電子音声が聞こえたかと思うと、なのはの両足にピンク色の羽が出現する。
直後になのはが跳躍し、たたき落とされる『根』をすんでのところで回避する。
「飛んで、レイジングハート! もっと高く!」
『All Right』
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なのはの言葉にレイジングハートが答え、魔力で作られた羽が力強く羽ばたき、ぐんぐん高度を上げていく。
と、今度はフェイトの方に情報制御を感知。
振り向くと、少女のデバイスに著しい変化が起こっていた。
それまで斧のような形状だったデバイスがいつの間にか鎌の形をとっている。
形に合わせ、鎌の先端から金の刃が出力される。
「いくよ、レイジングハート!」
なのはの声に顔を上げると、暴走体にデバイスの先端を向けるなのはの姿。
レイジングハートも漆黒のデバイスと同様に、その形状を既に変化させている。
その姿に見入る暇も無く、I-ブレインが新たな質量を探知する。
振り向くと、フェイトのデバイスから伸びていた魔力製の刃が、くるくると回りながら暴走体へと向かっていくところだった。
金の刃は、見た目通りの切れ味を持って『根』を次々と切り飛ばしていく。
しかし、本体の方は先程の魔力弾と同様に障壁で防がれる。
どうやら、暴走体の身を守る障壁を破らない限り、決定打は出せないようだ。
目の前の戦況に、思わずセラは唇を噛む。
一撃。
自分がほんの一撃入れるだけで、あの障壁は簡単に破ることが出来る。
それを、セラのI-ブレインが――質量知覚能力が告げている。
いや、そもそも障壁さえ張らせずに倒すことが出来るかもしれない。
その一撃すら、セラには許されない。
今この状況で力を使ったら、真っ先になのは達に勘付かれてしまう。
口止めするという手もあるが、それではなのは達の負担になるし、時空管理局に保護されれば二度と会えないかもしれない。
管理局に余計な隠し事をするのは、自分一人だけで十分だ。
(情報制御感知。上方)
I-ブレインのメッセージに顔を上げると、レイジングハートを四つの論理回路――否、魔法陣が取り巻いている。
「撃ち抜いて!」
なのはの叫びに、レイジングハートの先端に魔力が集まっていくのを視認する。
I-ブレインの質量知覚が、見た目よりも質量が小さいことを告げる。
ユーノから聞いた、非殺傷設定を使っているのだろう。
「ディバイン!」
『Buster』
掛け声と共に解き放った魔力が、暴走体へと直進していく。
暴走体は先程と全く同じ障壁で防ぐが、今度は悲鳴をあげてのたうち始める。
障壁越しにも影響を与えているのだろう。だが、あと一歩足りないようだ。
-
フェイトの方はどうしているかと振り向けば、足元と正面に魔法陣を展開している。
「貫け、豪雷!」
『Thunder Smasher』
漆黒のデバイスを槍の如く突き出すと、こちらも指向性の高い金の魔力が放出された。
二方向からの同時砲撃に、暴走体も二つ障壁を張って暫く持ち堪えたものの、最後は苦しげな叫び声をあげながら次第に発光していく。
その光の中から、ジュエルシードが浮かび上がる。
直後、
「ジュエルシード、シリアル7!」
「封印!」
早い者勝ちと言わんばかりに、二人の魔導師は封印を仕掛け、その場が一瞬で光に包まれる。
セラは思わず両腕を掲げ、目に入る光を遮る。
閃光が収まると同時に腕を下ろし、I-ブレインの知覚に従ってなのはの方を見上げると、ちょうどフェイトがなのはと同じ高度まで浮かんでいる。
この距離では流石に会話を聞き取れないものの、あまり良い雰囲気ではなさそうだ。
おそらく、これから二人は戦闘を始める。
セラは暗澹たる思いで、二人の対峙を見守り続ける。
……わたしは……
自分が入る余地など、どこにもない。
これから起こる戦いに、他者の入る余地はないのだ。
(情報制御感知)
「え?」
意外な方向からの情報制御を探知し、視線を更に上向ける。
二人の魔導師とほぼ同じ高さで静止したままの、ジュエルシード。
それが、不可思議な振動を起こしている。
生物の鼓動ようでいて、しかし本物とは違うと認識させるような、不気味な振動。
さらに、その振動が大きくなるとともに、ジュエルシードからの情報制御もより大きくなっていく。
……もしかして、封印できてないんですか?
嫌な考えが浮かび、血の気が引く。
二者の同時封印が互いの効果を相殺したせいで、封印が完了していないのか。
魔導師の魔法に反応するのであれば、再び発動する危険がある。
二人の魔導師にいち早く伝えようとして視線を戻し、セラは目を見開く。
既に二人は接近し、互いに得物を振り下ろさんとしている。
声を上げても、もう間に合わない。
それでも伝えなければと、思いっきり叫ぼうとして、
-
(高密度情報制御・空間曲率の異常変化を感知)
その二人の間に、水色に発光する球体が出現した。
「ストップだ――!」
一瞬でその球体がなくなったところには、一人の人間。
振り下ろされる二つのデバイスを、片や右手の杖で防ぎ、片や左手一本で掴む、黒衣の少年。
「え?」
何が起こったのか、セラには一瞬分からなかった。
光学迷彩も自己領域も無しに、突然人が現れたのだから。
……転移魔法、ですか?
この世界で手に入れた知識が間違っていなければ、それしかない。
朝の、フェイトによるものと思われる魔法行使もそうだが、あまりの情報制御にI-ブレインが一瞬悲鳴をあげている。
これ以上大きく情報が歪んだら、I-ブレインそのものが煽りを受けて停止しかねない。
まあ、もしも停止するのであれば、この世界に自分が転移した時点でI-ブレインが止まっていたのだろうが。
「ここでの戦闘行動は危険過ぎる!」
驚愕に目を見開く二人の魔導師に、新たに出現した魔導師は交互に視線を向けつつ、名乗る。
「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。詳しい事情を聞かせてもらおうか!」
その言葉に、セラは目を見開く。
「時空、管理局……」
「まさか、動いたのか?」
セラに続き、いつの間にか近くの木の枝に登っていたユーノも呟く。
管理局員が思っていたよりも若いことに、セラは目を瞬かせる。
肌以外がほぼ全て黒でできた少年の姿が、どこか黒衣の騎士に近い雰囲気を感じさせる。
セラは一瞬ジュエルシードに目を向けるが、相変わらず不気味な鼓動を続けたまま。
今のところ、まだ暴走はしていない。
「まずは二人共、武器を引くんだ」
三人の魔導師は一旦離れ、そのまま真下に降り、ゆっくりと着地する。
「このまま戦闘行動を続けるなら……」
と、そこまで少年が言いかけたところで、
(情報制御感知)
I-ブレインのシステムメッセージと同時に、セラは上空を見上げる。
フェイトが放っていたものとは色違いの弾体が三つ、少年へと降り注いでくる。
魔力に反応したのであろう、魔導師の少年はすぐさま左手を掲げ、魔法陣でできた円形の障壁を発生させて弾く。
「フェイト、撤退するよ! 離れて!」
射手は、いつの間にか空に浮かんで再び魔力弾を放とうとしている使い魔の狼。
呼ばれた少女は、躊躇するような顔で使い魔を見る。
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だがその表情も一秒でなくなり、迷いを振り切ったかのように真上で浮かんだままの青い石へと飛んでいく。
その直前から、使い魔は既に主の元いた場所へと魔力弾を放っている。
取り残された二人の魔導師には当たらない、牽制攻撃。
その魔力弾が地面に着弾すると同時に、爆発が巻き起こった。
「わっ!」
爆発するとは思っていなかったセラは、目を白黒させる。
自分とユーノが隠れている林まで、二人の魔導師が飛行魔法で後退するのを、セラのI-ブレインが淡々と知らせる。
その間に、フェイトが宝石へと手を伸ばす。
させじとばかりに、魔導師の少年が多数の魔力弾を放つ。
なのは達の放ったものよりも、発動から射出までの時間が遥かに速い。
ジュエルシードまであとほんの数十センチというところで魔力弾の弾幕に捕らわれ、一発がフェイトの左手を直撃する。
小さく悲鳴を上げて、少女が落ちていく。
「フェイト――!」
「フェイトちゃん――!」
使い魔となのはの悲鳴にあわせ、セラは一瞬息を呑む。
このままでは、黒衣の少女が地面に叩きつけられるから……ではない。
少女の落下地点に使い魔が滑り込み、そのまま背に乗せた時には、既に魔導師の少年が使い魔の手前にいる。
使い魔が少年に気づいた時には遅く、少年は空中で右手の杖を使い魔に向けている。
少年の杖先に青い魔力が凝り固まっていき……
「ダメ!」
使い魔と少年の間になのはが割って入る。
なのはの無茶ととれる行動に、セラは思わず声を上げそうになる。
魔導師の少年もこれは予想外だったのか、驚いて動きを止める。
「止めて! 撃たないで――!」
なのはの叫びにが耳に入ったのか、使い魔の背で気絶していた少女の瞼が僅かに開く。
「逃げるよ、フェイト! しっかり捕まって!」
使い魔はそれを精神リンクで察知したのか、その場の全員が動きを止めている間に逃げ去っていく。
直後になのはが振り向き、物憂げに顔を曇らせた。
その間に、魔導師の少年は地面に着地する。
表情に険がないところから、攻撃してくるわけではなさそうだ。
ようやく戦闘が終わったらしい。
セラは一つ息を吐き、木から下りてきたユーノと一緒に林を出る。
魔法を使ったのか、ジュエルシードが少年の下へと降りてきている。
幸い、暴走せずにすんだ様だ。
-
「ユーノくん、セラちゃん」
こちらに気付いたなのはは、先程の曇った表情を一変させ、笑顔を向けてくる。
ユーノは定位置であるなのはの肩に乗り、セラはなのはの傍へ駆け寄る。
「怪我とかはしてないですか? なのはさん」
「うん、大丈夫」
ちょうどジュエルシードを手にした少年は、怪訝な表情をセラに向ける。
「民間人?」
表情はそのまま、少年はなのはに顔を向け、
「まさか、巻き込んだのか?」
「ええっと、それはまあ、いろいろと……」
途端になのはがしどろもどろで答えた直後、
(情報制御感知)
海側にミントグリーンの魔法陣が出現し、人の映像が映し出される。
『クロノ、お疲れ様』
映像に映っている女性が、少年に労いの言葉をかける。
少年の上司だろうか。
「すみません。片方は逃がしてしまいました」
一歩前に出て、クロノと呼ばれた少年が報告する。
『ううん。ま、大丈夫よ』
対してあっけらかんとした口調で、女性は答える。
『でね、ちょっとお話を聞きたいから、そっちの子達をアースラに案内してあげてくれるかしら?』
「了解です、すぐに戻ります」
直後に魔法陣は縮小して消え、少年がこちらに振り向く。
完全に取り残されたなのはとセラは、思わず顔を見合わせた。
展開についていけないのは、恐らくなのはも同じだろう。
セラだって、こんなに早く時空管理局と接触できるとは思わなかった。
「転移を行うから、そのままじっとして」
「「あ、はい」です!」
少年の指示に、慌ててなのはと同時に返事をする。
何を思ったのか、少年は一瞬きょとんとしていたが、すぐに元の無表情を取り戻す。
「じゃあ、始めるよ」
少年が、何気なくそう言った直後、
(高密度情報制御・空間曲率の異常変化を感知)
「「わ――」」
セラとなのは、二人の声が再び重なる。
再び転移を受けることに、セラは反射的に身をすくませる。
同時に、セラは覚悟を決めた。
こんなところで、怯えている場合ではない。自分にとっては、これからが大変なのだ。
*
本来の役者達は、次々と出でる中。
魔法士は、未だ表舞台には出でず。
――長い一日は、まだ終わらない。
-
投下終了。
ディーセラがそれぞれ微妙な立場にあることを理解し、
ユーノの立場に嫉妬し(ぇ
セラの葛藤に関してご感想をいただければそれで幸いです。
最新刊読んだ方々は突っ込みを入れるところがあるでしょうが、あれの技術は魔導師の方が遥かに上なので、まあ何とかなるかな……ということで一つ。
以上。
……はい、規制くらうのもそれを予想するのも余裕でした。
どなたか代理投下をお願い致しますorz
-
OCN規制食らったので代理投下願いますorz
投下予告します
タイトル:魔砲戦士ΖガンダムNANOHA
クロス元:テレビ版「機動戦士Ζガンダム」
注意事項
レジアスが原作以上に悪役やっています。レジアス好きはご注意を。
時折R-15レベルの描写が出ます。
余りにも長いので一話を前中後編の3パートに分けます。
今回は前編を投下します。
-
ニュータイプの力と魔法には、共通点がある。
両方とも、高まればその分科学との区別が曖昧になることだ。
―Q・V
テレビの向こうから来た男〜ヅダ黙示録〜
クラナガンでその事件は起きた。
昼下がりの市街地で、突如巨大な人型の機械が飛来。
街中に着地し、動きを止めた。
非番のため偶然現場に居合わせていたギンガ・ナカジマ(当時は陸士第108部隊所属。その後特進と同時に同隊を離れ、別の隊の隊長になっている)がその場で対応。
人型の機械はコックピットと思われる部位のハッチを開き、そこから乗員を取り出しそっと地面に降ろした。
驚くべきことに乗員は意識を失っており、この事実からこの機械が自力で動いていたことが後の調査で判明するも、原因自体は不明のまま調査は打ち切り。
保護された乗員はまだ少年であり、保護の際に居合わせた八神はやての証言から「カミーユ・ビダン」であることが判明するも、何故彼女が少年の名を知っているかに関しては未だ不明である。
なお、その時彼女は非常に動揺していたこともここに記しておく。
その後地上本部で行われた事情聴取の際に、カミーユ少年はあの機械の名前が「Ζ(ゼータ)ガンダム」であり、「モビルスーツ」と言う兵器の一種であることを教えてくれた。
また、事情聴取に当たったゲンヤ・ナカジマ三佐の人徳に触れたのか、終始協力的で素直だったとの証言が残っている。
ゲンヤ三佐の提案で行われた試験運転の際、Ζガンダムはその飛行性能と、並外れた機動性を発揮しており、武装を使わずともその力を誇示して見せる。
偶然とはいえ、あの「ガンダム」の名を関しているだけの事はあり、再開された事情聴取でそれを言われたカミーユ少年もどこか嬉しそうだった。
しかし、試験運転の際にΖガンダムの性能を目の当たりにし、意地でもこちら側に加えようとしたレジアス・ゲイズ中将の行動により、事態が一変。
恫喝まがいの方法で無理やりこちら側に加えようとする、中将の態度に反発したカミーユ少年は協力の是非の回答を保留。
その後は激しい罵り合いに発展し、結局カミーユ少年は本人の意思とこの一件を知った教会の干渉によりΖガンダムごと本局側に身柄を預けられることとなるが、それを聞いた本人は大変喜んでいたと言う。
だからあれほど物扱いは慎むようにと注意したのに……。
近年の中将の行動は血縁者である私の目にも余っており、早期の対策が必要と思われる。
ただ、ギンガ・ナカジマの証言に非常に気になる言葉があったので、この報告書の最後にそれを添えておく。
「ゲイズ中将のことに関して、『何か内側に仕舞い込んでいる様に感じた。それも凄く醜い何かを』と言っていました。中将の話にあそこまで拒絶反応を見せたのと、何か関係があるのかもしれません」
――――オーリス・ゲイズ
-
カミーユとレジアスの激しい罵倒合戦から約一ヶ月後、機動六課。
慣れない事務作業を終え、カミーユは一息ついていた。
立ち上げられたばかりの機動六課では、前線に出る者どころか、後方の事務員まで不足しており、前線メンバーが時折事務作業に狩り出されることもある。
特に軍組織に身を置いた経験があり、立場上いつも暇人なカミーユは、多忙なはやてたちの代わりにこなすことが多い。
もっとも、今回だけは自分から買って出たのだが。
「地上本部に持って行く分はこれで全部。後は……」
ミッドチルダに漂流してから約一ヶ月。
結局、「陸に回されるよりははるかにマシだから」と言う理由で臨時採用の特務局員、と言う形で本局側につき、起動六課設立と同時に配属されたカミーユは、これと言った事件に出くわすこともないまま暇な日々を過ごしていた。
無論、Ζガンダムごと。
この決定に反発する声は、驚くほど少なかった。
地上本部に懸念を抱いている者が海に多かったのと、何より「レジアス・ゲイズ相手に罵倒合戦をしてのけた」ことでカミーユ自身が一目置かれてしまったからである。
「あの戦い……、『グリプス戦役』がアニメになっている世界から来た、か……。なんだろう、ずっと前に一度なのはに会った気が……デジャブか?」
メタっぽい呟きを口から出しながらくつろぐカミーユ。
実はミッドチルダでは、何者かの経由で第97管理外世界から「機動戦士ガンダム」が伝わっていたのである。
無論、はやてがカミーユの名を知っていたのも、彼女が「機動戦士Ζガンダム」(こちらはミッドには伝わっていない)を見ていたから。
結局、気は乗らなかったが、渋々自分で持って行くことにした。
「タクシーが迎えに来るまで、後1分くらいか……」
時間を合わせ、隊舎の玄関で待つカミーユ。
同時に、タイミングよくライトニング分隊の訓練が終わったのか、エリオが戻ってきた。
そして、エリオが声をかける。
「カミーユさん、外出ですか?」
「エリオか。向こうの注文の品が出来たから、これから届けに行くところだよ」
「……同伴、しましょうか?」
エリオのその言葉の意味をすぐに理解するカミーユ。
苦笑するしかない。
歓迎会でレジアスとの罵倒合戦の一部始終を嬉々として説明した自分が地上本部へ行くといえば、心配の余りそう言いたくなると分かるから。
「神父憎ければ教会も憎い、と言うけど、レジアスとは違って俺はそこまで落ちぶれちゃいないさ」
「ゲイズ中将に出くわしても、ケンカはしないでくださいね。八神部隊長に迷惑がかかりますから」
「了解。……ちょうどタクシーが来たな。行って来ます」
-
地上本部。
カミーユは、もって来た書類を渡すべき人物を見つけ、その人目掛けて走り出す。
書類を渡すべき相手、それはオーリス・ゲイズであった。
「オーリスさん!」
「カミーユ君、一体どうしたの? 中将のこと、『見たくもない』って言っていたほど嫌っているのに」
「いえ、例のヤツを持って来たんです。それと、レジアスが嫌いな人は地上本部も嫌い、なんて公式は成り立ちませんよ、オーリス・ゲイズさん」
持ってきた封筒をオーリスに手渡すカミーユ。
その封筒に入っている書類、それは「あの時行われたΖガンダムの試験運転データ」である。
「いいの? わざわざ貴重なデータをこっちに渡すなんて」
「オーリスさんは、あの偏屈漢とは違って信頼できる人です。それに、あの時はフルパワーは出さなかったし、操縦も手を抜いていました。書類に書いてある数値もあの時測ったヤツより低くしてあります」
「なるほど……。道理でこちらの難癖に反発しなかったと思ったら。悪い子ね」
試験運転の際にカミーユは、わざと「低く評価されるため」に意図的に手を抜いたのである。
こちらの手の内を完全に明かすのは良くないと判断したからだ(それでも向こうが感心するほどのパワーを発揮してしまったが)。
実はちゃんとデータは採られたものの担当したラッドの独断で、データ自体はカミーユに譲渡され、六課の方に秘匿されたのである。
このデータがわざわざ地上本部へ提出されることになったのは、地上本部がデータの提出を108部隊に強要し、ラッドがバカ正直に「カミーユに渡した」と答えた結果。
1ヶ月も経ってから言い出したのは、ラッド曰く「こっちの偉いのが、中将の怪我でパニックになってたせいでど忘れしたせいかもしれない」とのこと。
直感でレジアスが黒幕と気付いたカミーユは、自らデータをまとめた書類を作成したのだ。
……改ざんしたデータと、レジアスへの嫌がらせの一言を書いた紙切れを向こうに送り付けたいがために。
罵倒合戦の結果、レジアスにかなり悪い印象を抱いてはいるが、彼とは対照的に冷静で空気を読めるオーリスには好意的なカミーユであった。
「それはどうも。後、お父さんへのプレゼントも同梱してありますから」
「……本当に悪い子ね。…………!!??」
呆れた直後、オーリスの視界に、緑のフィルターが付けられたかのような感覚が襲う。
だがそれは、オーリスだけでなく、周りにいた他の局員たち、更にカミーユにまで起きていた。
そして、彼らは見えてしまう。
カミーユのすぐ隣にいる、宙に浮いた不気味な女の姿に。
「貴方は……誰!?」
「私? 彼を、ベン・バーバリーを追ってここまで来ただけの女よ。でも、この子も意外と惹かれるものを持っているようね」
女は、隣にいるカミーユに興味を示したのか、彼の髪にそっと手を添える。
「! カミーユ君、その女……いいえ、その死神から離れるのよ!!」
オーリスの絶叫に我に帰ったカミーユは慌ててその場を飛び退く。
死神は少しだけ残念そうな顔をしながらも、言葉を紡ぐ。
「カミーユ……、素敵な名前ね。お前から感じるわ、死んだ人たちの思いを背負うことで強くなる力を。……その力、何処に行くのかしら?」
そう言い残し、死神が消えるのと同時に、その場にいた全員の視界が元に戻った。
呆然となる一同。
その場の空気を入れ替えるかのごとく、「グランガイツ・クルセイダーズ」と呼ばれる、ギンガ・ナカジマ率いる陸士新生64部隊が報告のためにやって来た。
それもわざわざ隊員総出で。
彼らを見て、瞬時にオーリスは思い出す、「ベン・バーバリー」と言う名前の男を知っていることを。
よりによって、ギンガの部隊の隊員であることを。
「バーバリー二尉、貴方に会いたがっていた人がついさっきまでここにいたわ」
「自分に? 一体誰ですか?」
「死神よ。とーっても綺麗な」
その言葉に、ベンは一気に青ざめる。
そして、腰を抜かして倒れた。
それを見ていたカミーユは、オーリスの耳元で囁く。
「あの死神と面識があったみたいですよ」
「リアクションを見る限り、そうみたいね……」
-
地上本部前。
書類を届け終え、帰りのタクシーを待つカミーユ。
とそこに、携帯電話が鳴る。
液晶を確認してから、カミーユは電話に出た。
「カミーユ・ビダン。どうした? エリオ。帰ってきたら部隊長室に? はやてがΖガンダムの事で話したいことがあるって? わかった」
電話を切り、タクシーを待ちながら考える。
タクシーが来たのはそれから数分後であった。
機動六課隊舎、部隊長室。
はやてとカミーユがいる。
疾風の口から告げられたことは、カミーユにとって驚くべきものであった。
「改造する!? Ζガンダムをデバイスに!?」
「そうや。Ζガンダムはこの世界で言えば質量兵器。今更やけど、このままやと、向こうがうるさいのよ」
「デバイスじゃなくても、エンジンや武器周りを魔力式に換装すれば済むと思うけどな」
もっともなことを言うカミーユ。
だが、はやては首を横に振る。
「カミーユ君にリンカーコアが無かったらそれでいこうと思ったんやけど……」
「……待ってくれよ、あの時の検査じゃ魔力資質は無いって、シャマルさんからお墨付きもらったぞ」
「あん時はな。でも私も妙に気になってたし、最近なのはちゃんが『魔力資質が無いんじゃなくて、目覚めていないだけかもしれない』って言い出したから、こっそりシャマルに調べてもらったんよ」
はやては、シャマルから提出された一枚の紙を、カミーユに手渡す。
その紙に書かれていたデータを見たカミーユは己の眼を疑った。
シャマルがこっそり行った検査は、数日に渡る物であり、日が経つにつれ検出された自分の魔力資質が高くなっていたのだ。
「1週間前はB−、今日に入ってからAAA+!? 異常だ! なのはでもランク一個上げるのにどれほど時間がかかったと……」
感情が高ぶるカミーユ。
しかし、はやてはあくまでも冷静に、落ち着いていた。
「その魔力、Ζガンダムの武器とエンジンを魔力式に変えただけじゃ活用できんし、それ以前にニュータイプの力だけで戦ったら、また押し潰されるかもしれんよ。サイズがサイズやから、改造はここやなくて本局の設備で行う。以上」
「発狂しないためにも魔法の力でもΖガンダムを動かせと言うのかよ。で、いつ行けばいいんだ?」
「……話はつけてあるから、明日になったらΖガンダムごと転送魔法で本局に送るよ」
「了解」
少し疲れを見せながら、了承するカミーユ。
軽く敬礼してから、彼は部隊長室を後にした。
それを見計らい、はやてはシャマルから提出された「もう一枚」に目を通す。
それは、何故か「高町なのは」についてのものであった。
「ひょっとしたらニュータイプ能力が、なのはちゃんの魔力と共鳴したせいかもな、カミーユ君のリンカーコアが覚醒したんは。なのはちゃんの方も……」
その呟きを聞いたのは、はやてのスカートの中に隠れて一部始終を聞いていたリインフォースIIだけであった。
-
夕方。
定時になり、カミーユは一足先に帰宅。
その身を預かっているのはあくまでも本局の方だが、何処に住まわせようか? で揉めてしまい、その場にいたはやての提案でナカジマ家に居候することになったのである。
ゲンヤとギンガは帰らない日が多く、スバルは六課の寮にいるため、必然的に家の守りを任される形になっていた。
そのため自炊する気になれず、食事はもっぱら外食や買ってきた物か、デリバリー任せ
今週は任務の都合上ゲンヤとギンガは帰らないため、一週間同じ店の違う種類のピザで済ませようかと思っていた矢先に携帯電話が鳴る。
液晶には、ゲンヤ・ナカジマの名が映し出されていた。
「もしもし」
「ゲンヤだ。カミーユ、今何処にいる?」
「家に着いたところですけど」
ゲンヤからの電話。
訝しく思うカミーユだが、それをおくびに出さずに応対する。
「ああ、ちょうどギンガと、アイツの部隊の連中と一緒に晩飯食いに行くことになってな。せっかくだからスバルとお前も誘うことにしたんだ。スバルにはもう連絡してある」
「いいんですか?」
「どうせ俺たちが帰ってこないと飯作らないんだろ? いつも出来合いばかりじゃ野菜不足になるぞ。家にタクシー呼ぶからそれに乗れ」
その一言を最後に、ゲンヤからの電話は切れる。
行動パターンがしっかり読まれていることに、少しげんなりするカミーユ。
それと同時に、今日になってようやく気付いた疑問を口にする。
「料理教室にでも行こうかな? そう言えば、試験運転の時、どうしてΖガンダムは前より楽に飛べた上に推進剤が殆ど減らなかったんだ? 本局に行った時にそれも調べてもらうか」
……君のニュータイプの力が、バイオセンサー経由で空気抵抗と燃費を抑えているからだよ、変形しなくても楽に飛べるのと推進剤が中々減らない点に関しては。
都内某所の居酒屋。
ナカジマ親子に新生64部隊、そしてカミーユで店は貸切同然の状態であった。
ギンガとバーバリー副長に、No.3のルイス以外は「バカ」だらけの新生64部隊はとにかくはしゃぐ。
みんないい気分で楽しんでいる時、突如として店の戸が激しく開けられる。
そこにいるのはどこか疲れた顔をした中年の男。
「赤い彗星……、赤い彗星! 俺は赤い彗星のシャアだ! ジオン復興のため、俺は立ち上がる! ジークジオン!! ジオン・ダイクン、ばんざーい!!」
中年はそう叫び、走り去っていく。
後に残された者の内、唖然としていたのはカミーユだけであり、他はみんなどこか達観していた。
ゲンヤはそっと口を開く。
「ガンダムシンドローム。数年前、こっちに『機動戦士ガンダム』が知られてから発見された新種の精神疾患だ。陸と海の確執を見て心が疲れた局員、特に陸所属で『ガンダム』に夢中になったヤツが陥りやすいとさ」
「……嫌な話ですね。今のを本物が見たらなんて言うか……」
「最近のレジアスを見てると、『むしろもっと増えてくれ』って思う俺がいる……。そのたびに自分が嫌になるんだ」
どこか寂しげな顔で酒を飲むゲンヤ。
ギンガやバーバリーたちもやるせない表情になる。
それを見て意を決したカミーユは、焼き鳥の串を手に持ち、ゲンヤの口に突っ込んだ。
驚いたギンガは慌ててカミーユを諌める。
「カミーユさん!」
「……忘れましょう。今の人の事は。今だけは全部忘れて、バカ騒ぎして」
それが合図であった。
お返しとばかりに、ゲンヤはカミーユにヘッドロックをかける。
それを見て騒ぎ出す新生64部隊の連中に、慌てて止めるナカジマ姉妹。
とりあえず、さっきの「ガンダムシンドロームの男」のことを忘れさせることに成功したカミーユではあった。
-
時空管理局本局。
六課で保管されていたΖガンダムごと転送させられたカミーユを、デバイスマイスターたちが総出で出迎えた。
しかも全員が異様に興奮しており、端から見ると不気味以外の言葉が当てられない。
カミーユは愚痴るように呟くが、それを聞いた局員の一人がそっと訳を説明する。
「大げさだな……」
「ガンダムを弄れますからね」
「けどこいつはみんなが知っているRX-78じゃ……」
「それでも、『ガンダム』が実在していたと言う証拠の一つです」
彼らは知らないが、「機動戦士ガンダム」には続編がある(カミーユはちゃんと知っている)。
こちらに来る前のカミーユの活躍を描いた「機動戦士Ζガンダム」、精神疾患が完治するまでに起きた第一次ネオ・ジオン抗争を描いた「機動戦士ガンダムΖΖ」、これから起きる未来の出来事と思われる「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」。
それ以降も第97管理外世界では「ガンダム」の名を冠した作品が多く創られた。
幾つもの歪みと確執、そして「御大」の情念を背負いながら。
「俺は『エンジンと武器を改造するだけでいいんじゃないか?』と言ったんだけど、聞き入れれてもらえなかった」
「ガンダムですからね。エンジンと武器換えた位じゃ向こうは黙りませんよ」
「デバイスに改造しても、レジアスの信者は言い続けると思う」
サラリと流し、カミーユは約一ヶ月前の出来事を思い出す。
忘れもしない、事情聴取が終わり、ゲンヤから「俺たちのところで働かないか?」と誘われた時のことを。
-
事情聴取に立ち会ってくれたギンガとはやても勧めてくれたので、「それもいいかも?」と思い始めていた。
どう答えようかと迷っている時に、いきなり部屋に入って来た威圧的な態度の男の姿が脳裏に鮮明に映し出される。
有無を言わさず、その男、レジアス・ゲイズはいきなり我々の側につけといってきたのだ。
その態度にムッと来たカミーユは、まだ「ゲンヤさんの下でなら働いてもいいかな?」と考えていたため、その時は「考えさせてください」と答えたのである。
が、直後にレジアスは声を荒げ、「質量兵器は禁止されているんだぞ!」と怒鳴ったため、短気なカミーユも一気に声を荒げた。
「うるさいな! それが次元漂流者に接する態度かよ! それでよくゲンヤさんの上司が出来るな!?」
「言わせて置けば……! 質量兵器に乗っていきなり市街地に着陸しておいて権利を主張するんじゃない!」
「こっちはその質量兵器に拉致されたせいで、ここに来てしまったんだぞ! それ以前に、文句をつけたきゃ、まずその性格を矯正しろよ!」
互いにヒートアップしており、もはや他の者の声が聞こえているかも怪しい。
掴み合いになりそうになった瞬間、ゲンヤが慌てて間に入る。
「落ち着いてください、中将! カミーユ、お前も熱くなるんじゃない!」
「上官に逆らう気か貴様!!」
「どいてください! この馬鹿の唾がかかりますよ!!」
流石に見かねたのか、ギンガとはやても二人を止めに入る。
カミーユの方は、ギンガにまで止められたせいか、ようやく大人しくなり始めた。
しかし、はやてが止めに入ったレジアスの方は……。
「犯罪者が正義であるワシに触るな!!」
そう言って、はやてを振り払い、はやては床に倒れた。
更に倒れたはやての顔を蹴ろうとした直後、レジアスは肩を掴まれ、引っ張られる。
肩を掴んだのはカミーユであった。
「お前、自分が何をしかけたのか分かっているのか!? それは『正義』がすることじゃないんだぞ!!」
「貴様、犯罪者を庇う気かー!」
-
レジアスはそう叫び、肩を掴むカミーユに手を振り解く。
そしてその勢いを利用してカミーユの顔を殴る。
それを見たゲンヤはついに怒号を上げた。
「自分が何をしたのか分かっているのですか、あなたは!!」
「犯罪者を庇う奴を殴って何が悪いと言う! あの犯罪者に師と仰がれる貴様は口出しするな!」
ゲンヤも遂にレジアスに意見する。
レジアスの答えは、怒号と鉄拳。
ゲンヤが殴られたのを見たカミーユは完全に、「キレ」た。
レジアスの股間に狙いを定め、一気に蹴り上げる。
「ぐご、が……!?」
悶絶するレジアスに容赦することなく、カミーユは叫ぶ。
「そっちが殴ったからだぞー!!」
渾身の力を込めて、レジアスの顔に強烈な回し蹴りを食らわせるカミーユ。
蹴られた勢いで、レジアスの顔面は見事に壁に叩きつけられる。
そのまま倒れこんだレジアスを、カミーユは踏みつけた。
「俺は『手』を上げてはいないからな!!」
更にもう一撃足で食らわせようとした直後、突然物凄い力で羽交い絞めにされる。
騎士甲冑をまとったはやてがカミーユを羽交い絞めにしているのだ。
「ええかげんにし! やり過ぎや! おちつくんや、ホラ、深呼吸」
はやてに言われ、深呼吸し始めるカミーユ。
気のせいか、少しづつ昂った感情が沈静化していく。
レジアスの方も、秘書であるオーリスに起こされる。
が、なおもカミーユの方を睨み、吠え立てた。
「貴様、よくもワシを蹴ったな!」
「俺だけじゃなくてゲンヤさんまで殴っておいてその言い草かよ! 正当防衛、って言葉を辞書で調べてから言え!!」
片や蹴られたダメージで動けず、片やはやてに羽交い絞めにされて動けない。
当然、また舌戦になる。
結局、この舌戦はレジアスがオーリスに引っ張られる形で退場させられるまで続いた。
この時の罵倒合戦(とケンカ)が原因で、レジアスとカミーユはお互いを徹底的に嫌い合うようになったのである。
-
「カミーユさん、どうしました!? 鬼みたいな顔で明後日の方を睨んで」
「……! ごめん、あのバカとの一件を思い出したら、勝手に怒りがこみ上げてきた……」
呼びかける局員の声で我に帰るカミーユ。
一方、局員の方はカミーユの言葉から、何を思い出したのかを瞬時に悟る。
「……アレですね。ゲイズ中将相手の罵倒合戦。それのせいで、向こうから移ってきた人たちの間じゃ、結構人気者ですよ、カミーユさんは」
「無理やりこっちに移された人たちの間で?」
「……向こうからこっちに移った人材全部が、強引に引き抜かれたわけじゃありませんよ。引き抜きを拒否するケースだって少なからずあります。中には引き抜かれて心底喜ぶ人までいますし」
局員の説明に、呆然となるカミーユ。
引き抜かれて喜ぶ?
目が点になった彼を見て、苦笑しながら職員は続ける。
「最初から引き抜かれるつもりで陸に入る人もいれば、志を持って陸に入ってゲイズ中将の偏屈さに失望して引き抜きに応じる人もいる、ってことですよ」
「後者に当てはまる人たちと一緒に食べるご飯は、とても美味しくなるだろうな」
「ハッキリと言いますね。と、私はこれで持ち場に戻りますね」
そう言って、局員はその場を去る。
カミーユも、Ζガンダムが運ばれていった、工房の方へと向かおうとしたが、直後に携帯電話が鳴る。
液晶を確認すると、「ミゼット・クローベル」と出ていた。
「カミーユ・ビダンです。どうしたんですか? ……そんな理由ですぐに来い? ミゼットさん、ちょっと待って……、切られた」
一時間後、ミゼットの執務室から解放されたカミーユは、ようやく工房にたどり着いた。
工房内では、マイスターたちが一心不乱かつ、異様なまでに手早くΖガンダムを分解し、部品を換えたり、組み込んだりしている。
幾らなんでも手際が良すぎる、と感じたカミーユの後に、いつの間にかミゼットが立っていた。
それに気付き、カミーユは思わず飛び退くが、ミゼットは笑う。
「手際が良すぎる、だろう? ここに流れ着いたガンダムは、Ζ嬢やが初めてだが、モビルスーツ自体はずっと前からこっちに来ていた。今Ζ嬢やをいじっている子達はそれに触れ、知る者達に教えを請うことで知識を得て、それを活かしている」
ミゼットの説明に驚愕するカミーユ。
更にミゼットは、何故今までそれが知られていなかったについても、話し始める。
「ミッドチルダで『機動戦士ガンダム』が知られる以前から、宇宙世紀世界からの漂流者は存在し、MSもまたその姿を現した。もし『MSがある世界』の実在が発覚すれば、MSを欲しがる連中は絶対に出てくる。レジー坊やと最高評議会はその筆頭かも知れない」
ミゼットは、レジアスだけでなく、最高評議会にもある種の不信を抱いているようだ。
カミーユは表情だけでそれを読み取る。
「MSとそれに関わる者達は、この世界における質量兵器禁止の理由も考慮し、『MSの兵器としての攻撃力と汎用性の高さ』という危険性を証明することでこちらの協力を得て、MS諸共自分たちの存在を隠した。後になって『機動戦士ガンダム』を見たときは驚いたよ」
「けれど、Ζガンダムが市街地に降り立った事で、モビルスーツが実在していることを、隠し通せなくなったと?」
「そう。ひょっとしたら、Ζ嬢やはそれが目的だったのかもしれない」
「Ζガンダムに意思がある。その意思がモビルスーツの実在を世論に教えた。怪談ですね。ところで、改造にはどれ位かかるんですか?」
カミーユの問いに、ミゼットは黙って指一本を立てる。
それを見て、カミーユは考える。
一日で終わるなら、「明日には終わる」と言うはずだから。
瞬時に気付く、「一日」では終わりそうに無いことに。
「1週間、ですか。何でそんなにかかるんですか?」
「……複雑すぎるのよ、Ζ嬢やの体は。複製自体は異常なまでに容易だが、変形の仕方と構造が複雑すぎる。更にコストパフォーマンスと整備性も最悪。加えて、あの子たちには他のデバイスの整備や製作の仕事もある。みんな本来の仕事の合間にΖ嬢やを改造しているのさ」
思わず納得するカミーユ。
構造と変形シークエンスが複雑すぎるのと、整備性の劣悪さは、そしてコストパフォーマンスの酷さは設計にかかわりメインパイロットも務めた彼が一番良く知っている。
「一週間という日数は、あの最悪極まるコストパフォーマンスと整備性の改善に必要な時間を入れた分。デバイスに改造するだけなら『2日』で済むわ。それと、その間こっちにいてもらうよ。あの子達は君の意見を欲しがっているからね」
-
ミゼットの説明を聞いていたカミーユは、ふとΖガンダムの方に目をやり、異変に気付く。
マイスターたちが作業を止めて一斉にコックピットに群がっていたのだ。
それを見たカミーユとミゼットは、何事かとΖガンダムに近づき、作業中のマイスターたちに話しかける。
「どうした?」
「幕僚長。いえ、さっきデバイス用データを入れたんですが、システム音声だけが書き換えられたんです」
「何だと!?」
驚いて顔を見合わせるカミーユとミゼット。
マイスターの一人が、何故かΖガンダムに入っていたシステム音声を再生する。
≪Set up≫ 二人にとって聞きなれた声が再生された。
「なのはの声じゃないか……」
「……ひょっとしたら、これはあの子のじゃなくて、Ζ嬢やの声かもしれないよ」
それから時が過ぎ、Ζガンダムのデバイス化は順調に進んでいた。
時に、元々入っているデータやフレームの構造に関してカミーユからの助言を受けながらも、マイスターたちは作業を進める。
作業開始から三日目、デバイス化自体は終わり、コストパフォーマンスと整備性の改善作業に入った。
割り当てられた部屋で、『機動戦士ガンダム』関連の書籍を読んでいたカミーユは、何気なしにテレビのスイッチを入れる。
どうも臨時ニュースをやっているようだ。
カミーユは、映っていた物を見て愕然とする。
「MS-06 ZAKU II」、それがガジェットに攻撃している光景がテレビに映っていたのだ。
更にテロップを見て、目を見開く。
「『これは生中継です』だって!? ミゼットさんに知らせないと!」
慌てて携帯電話を操作し、カミーユはミゼットに電話する。
すぐにミゼットは出た。
「カミーユ・ビダンです! ミゼットさん! ニュースで他のモビルスーツがガジェットと戦っているのが中継されています!」
「さっき政府の方から聞いた!」
「何をやっているんだ! あいつらは!」
「Ζ嬢やのせいで『モビルスーツの実在』が証明され、隠れる理由が無くなった……。今までスカリエッティと水面下で火花を散らしていた彼らは、開き直ってここぞとばかりに大手を振ってきたようだね」
カミーユが電話でミゼットと話す最中も、ザクはガジェットを攻撃する。
電話に集中していたカミーユは気付かなかったが、ザク・マシンガンから飛び出る弾は鮮やかな色をしていた。
見る人によっては、実弾に「魔力素」がコーティングされた特殊弾であることに気付いたはずである。
元の数が少なかったせいか、ガジェットはすぐに全滅、何故かザクは喜び勇んで小躍りしだした。
中継が、ヘリから地上のスタッフに移る。
ザクの足元で危険を顧みず、陸士新生64部隊も一緒に小躍りしている光景が映し出された。
よく見ると、ザクの足元には、ガジェットの残骸が転がっており、総数は明らかにザクが破壊した数を上回っている。
『元ザクハンターとしてどうかと思うが、さすがに今回は感謝するぜ、そこのザク!』
新生64部隊のNo3、パパ・シドニー・ルイスがザクに礼を言う。
ザク(に乗っている奴)の方も嬉しいのか、口元を掻く様な動作をし、さらにマニュピレーターを頭部に置くなど、コミカルな動きを見せる。
『照れるなー』と言う意味のジェスチャーだろう。
更に、ギンガがザクに話しかけている。
やたら大人しく、そのまま新生64部隊に連れられ、ザクが去っていく。
「ザクがギンガの部隊に保護されました」
「こっちも確認した。あのザク坊やのせいで今から緊急会議だ。切るよ」
ミゼットの方から電話が切られる。
カミーユはザクが人間に連れられて歩く姿が中継されているのを見て、不覚にもテレビに映るザクの姿を可愛く感じていたが、同時に市街地の心配もする。
「アレが歩いても道路は大丈夫かな?」
……道路以外にも心配する点が色々あるでしょうが。
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作業開始から4日目の朝。
何故かクロノ・ハラオウン提督がいきなり現れた。
フェイトから借りたビデオで『機動戦士Ζガンダム』を見たことがあるクロノは、一目カミーユの姿を見ようとスケジュールの合間を「突いて」わざわざ来たのである。
ちなみに、カミーユはフェイトに見せてもらった写真でクロノを知ってはいた。
カミーユに当てられた部屋に、クロノは入り、とりあえず挨拶する。
「おはよう、カミーユ・ビダン君。よく眠れた……」
「も、もう朝なのか……? 出来ればノックはして欲しかったな」
クロノが目にしたのは、目が充血しながらも、プレイヤー内のDVDを交換しようとしていたカミーユであった。
手にしているDVDのパッケージイラスト見て、クロノは頭痛を覚える。
「一晩かけて『機動戦士ガンダム』を見たのか、君は?」
「いや、これから『めぐりあい・宇宙編』を見ようとしてたところさ」
「……身支度を整えて、朝食をとった後でもいいだろうに。DVDはリアルタイムと違って置いてきぼりにはしないぞ。今日の夜はちゃんと寝ろよ」
そう言い残し、クロノはそっと部屋を出る。
カミーユはプレイヤーとテレビのスイッチを切り、時間を確認。
後30分もすれば食堂は局員たちでごった返すだろう。
とりあえず、歯を磨きシャワーを浴び、着替える。
そこまでが終わったところで、さっき会いに来た男が、フェイトの義兄、クロノ・ハラオウンであることにやっと気付く。
「そういえば、フェイトに写真を見せてもらったな。アレがお兄さんか。……名乗りもしないでいなくなるなんて、少し失礼な人だな」
徹夜のせいで頭が回っていないらしく、普段のようにカッとなることが無かった。
作業終了当日。
工房についたカミーユは、そのまま安置されているΖガンダムに乗り込み、起動させる。
久しぶりにΖガンダムを動かすが、その動きは全く衰えていない。
気のせいだろうか、乗っている間は体が軽くなったような感じに包まれる。
そこに、ミゼットから通信が入った。
「クラナガン市内にガジェット群が出現。六課が迎撃に出た。あの子達以外でアレを圧倒できるのは君とΖ嬢やだけだ。頼めるかい?」
「了解。転送魔法の準備をお願いします!」
カミーユが了承すると同時に、転送魔法が作動。
そのままミッドチルダへと、カミーユを乗せたままΖガンダムは戻っていく。
転送される直前、カミーユは掛け声を出した。
「カミーユ・ビダン、Ζガンダム、行きます!」
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前編はこれで投下終了。
中編は明日ごろに投下します。
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投下します
今回は中編です
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クラナガン上空。
転送されたΖガンダムはそのままウェイブライダーへ変形。
本局から送られたデータに記された、出現位置目掛けて一気に飛ぶ。
既に機動六課が迎撃している。
それを見たカミーユは、変形と同時に叫ぶ。
「Ζガンダム、セットアップ!」 ≪Set up≫
コックピット内のカミーユを光が包む。
カミーユのバリアジャケットは、心なしかクワトロ・バジーナのあの赤い服と、なのはのバリアジャケットの折衷のような衣装であった(さすがに腕の長袖付き&スカートなし)。
しかも二つの白いリボンが巻かれていた。
バリアジャケット装着が完了すると同時に、Ζガンダムが変形しながら輝き始める。
それはまるで、元の色のまま輝きだしたかの様に……。
変形と、稼動携帯への移行が終わったΖガンダムの姿は、まるで全身が元の色のままメッキを施されたかのようであった。
それを見ていたヴィータが呟く。
「本物がエクストラフィニッシュバージョンになった……」
そんなヴィータの呟きなど露知らず、Ζガンダムは魔力式ビームライフルをガジェットの一体に向け、引き金を引く。
カミーユの急速に肥大化する魔力により、更に強力になって放たれたビームは掠っただけでガジェットたちをなぎ払い、直撃した地点にいたガジェットを瞬時に蒸発させる。
直後に、まるでモビルスーツの核融合炉を破壊した時の如き大爆発が起き、巻き込む形で他のガジェットを破壊した。
「非殺傷設定でも、AMFをものともしない威力をもたらすのが俺の魔力か。これならバルカンで十分に対応できる!」
バルカンから、なのはのそれと全く同じ色の魔力弾が雨となって放たれる。
距離を置こうとしたガジェットが瞬く間に蜂の巣にされ、爆発。
それを見て判断した他のガジェットが、接近して足元からの攻撃を試みるが、瞬く間に全部踏み潰される。
別のガジェットは接近を諦め距離を置こうとして離れた瞬間に、バルカンで吹き飛ばされた。
「死角に回り込もうとせずに近づくから簡単に踏み潰される! オマケに人が動かしているわけではないから、退こうとしない。でもスカリエッティの機械なら引き際を判断出来てもいいだろうに! それが出来ないから追撃されるんだぞ!」
叫ぶカミーユ。
傍目にはΖガンダムは呆然と立っているように見える。
とそこに、エネルギー弾がΖガンダムの右足目掛けて飛んできた。
Ζガンダムはそれに気付き、紙一重で足を上げて回避。
直後に起きた激しい爆発でバランスを崩しそうになりながらも片足立ちを維持する。
その威力にカミーユは戦慄を覚え、直感でガジェットではない誰かが撃ったと悟った。
「Ζのビームライフルと同じ威力の砲撃!? ガジェット? 違う! 今のは人が撃った!!」
一方、エネルギー弾を撃った方はチャージしながら、「足を上げる」という方法で自分の一撃を回避したΖガンダムに驚愕する。
「アタシの一撃をあんな方法で避けるなんて……。RX-78の血が流れているから!?」
「今はファーストガンダムは関係ないだろう!」
Ζガンダム越しに、カミーユの声がディエチに放たれる。
それからすぐに、Ζガンダムが再びビームライフルの引き金を引く。
ディエチの方もタイミングよくチャージが完了しており、Ζガンダムより先に引き金を引いた。
イメーノスカノンとビームライフルの撃ち合い。
何の偶然か、カミーユは非殺傷設定でディエチ自身に、ディエチはビームライフルに照準を合わせていた。
二つの軌跡はそのまま衝突、激しいプラズマの四散という形で相殺される。
「相殺!?」
「ディエチ!」
驚くディエチの耳に、ウェンディの声が聞こえた直後、彼女の体はイノーメスカノンごと宙に浮く。
ディエチが視線を移すと、自分の手を掴み、必死でライディングボートを乗りこなすウェンディの姿が見えた。
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「さ、さすがにイノーメスカノンは重いっス!」
「少しだけ我慢して。もう一発撃つから!」
ディエチは叫ぶと同時に、三発目を撃つ。
Ζガンダムはまた避けようとしたが、回避行動に出る前に、別の誰かが発動させた防御魔法にぶつかったエネルギー弾はそのまま霧散した。
Ζガンダムのコックピットの前に立ち塞がるように、なのはが宙に浮いている。
今の結界はなのはが発動させたものであった。
「今のはなのはが!?」
「にゃはは……余計だった?」
「まさか。おかげで向こうに隙ができた!」
カミーユは答えるのと同時にグレネードランチャーを発射。
ウェンディは発射されたグレネードの機動から、当てずっぽうで撃ったと思い込む。
「ガンダムでも戦闘機人を狙うには腕と集中力がいるっス! そんな撃ち方じゃ落せないっス!」
「生身の人間に当てるつもりはないさ!」
カミーユの狙いは、グレネードランチャーの直撃ではなく、爆風によってライディングボートのバランスを崩すこと。
一緒に乗っているならともかく、ウェンディが片手でイノーメスカノンごとディエチを吊り上げている状態では、近くで爆風がおきただけでも失速に繋がる。
ましてや、飛んできた破片でバランスを崩すこともあるのだ。
当然、廃ビルの壁スレスレで飛んでいたウェンディは、そのビルに命中、爆発したグレネードが起こした爆風と、飛んでくる破片をまともに受けてバランスを崩す。
「これが狙いだったか、あのガンダム!!」
「謀ったなー! っス!!」
物の見事にライディングボートは着地に失敗。
ディエチとウェンディは得物諸共転がりまわる。
「ぺっぺっ! よくも……」
「勝負はまだ……」
戦う意志を捨てていないディエチとウェンディは尚も得物をΖガンダムに向けるが……。
直後に、スバルが背後からディエチの首根っこを掴み、ティアナがクロスミラージュをウェンディのうなじに突きつけた。
それを見ていたカミーユは、Ζガンダム越しに二人に声をかける。
何故かΖガンダムはサムズアップした。
「ナイス不意打ちだ」
カミーユの言葉に、顔を向けることなく、スバルとティアナは空いている手をΖガンダムに向け、Vサインをした。
それからすぐに、ディエチとウェンディはバインドで拘束される。
こうして、ストレージ(?)デバイス、Ζガンダムの初陣は終わった。
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その頃、地上本部にあるレジアスの執務室。
画面にはΖガンダムの戦闘映像が移っていた。
それを見て、レジアスはあっと言う間に表情を強張らせる。
「この映像は何だ? 何故あの質量兵器がガジェットを攻撃している!?」
「先程までの、時空管理局本局古代遺物管理部、機動六課の戦闘映像です。MSの隣にいる女性は、空戦Sの所属魔導師です。MSに関しては、恐らく本局側によって既に動力と武装を魔力式に改造されているかと。搭乗者に関しては、本人が自発的に協力しているとのことです」
淡々と解説するオーリス。
更に一言付け加える。
「ちなみに、4日前に市内に突如迷い込んだザクの搭乗者、『ワイズマン』はある部隊との接触が目的でしたが、その部隊とは他ならぬ機動六課のことです。また、既に接触を果たしており、身柄は向こう側預かりとなっています」
「いつの間に……。それに、地上部隊にSランクの空戦魔導師なぞいたのか?」
「彼女は教導隊所属で、書類上は出向の身ですから。ちなみに名前は高町なのは。もっとも、それ以前に、中将に言えば話がこじれるだけであることを向こうは察知しているものかと」
「第97管理外世界出身の、ガジェットモドキの元半死人か。……機動六課の後見人と部隊長は?」
レジアスのこの一言に、オーリスは仏頂面で端末を操作。
三人の姿が映し出される。
レジアスは服装から、本局と教会の者であることを察した。
「リンディ・ハラオウン総務統括官とその御子息、クロノ・ハラオウン提督、そして聖王教会の教会騎士団所属騎士であるカリム・グラシア女史の計三名です」
「英雄気取りの青二才どもが。特にこの2匹、闇の書の暴走で逃げ遅れて、グレアムに自分の艦ごと消し飛ばされた大間抜けのクライド・ハラオウンの身内ではないか!」
「……何年か前にそのような暴言をクローベル幕僚長の前で言って、大将への昇格が見送られたことをお忘れですか? なお、部隊長は八神はやて二等陸佐。魔導師ランクは総合SS。同隊にはフェイト・T・ハラオウン執務官も所属しています」
オーリスは、若干棘のある言葉で戒めながら続ける
その一言に、レジアスは一気に声を荒げた。
「八神はやてだと!? グレアム共々『闇の書事件』の首謀者ではないか!! それにフェイト・テスタロッサはP・T事件の容疑者の一人だぞ!」
「……グレアム提督はその件で自主退役しており、彼女の方は既に執行猶予を満了しています。それ以前に事件自体、彼女まで首謀者と見なすのはどうか?、という意見も未だにあります。ハラオウン執務官の方は、当の昔に無罪が確定しておりますが」
「犯した罪は消えん! 二匹とも闇の書諸共消滅すればよかったものを! プレシア・テスタロッサの走狗だった出来損ないのクローンの時といい、今回といい、本局と『海』は正義を何だと思っているのだ! あのような犯罪者に隊を任せるとは……」
はやてだけでなく、フェイトのことも罵り始めるレジアス。
「正義」に相応しくない悪辣な口ぶりと表情に、オーリスは表情を変えないまま露骨に嫌悪感を抱いた。
流石に頭に来たのか、それと無く毒が込められた一言で、レジアスに釘を刺す。
「今の椅子と命が惜しかったら公共でそのような発言はしないようにお願いします。中将はここ数年、地上部隊用のAMF対策予算を全て棄却しています。危機意識があるのならまずそれを通してください。無策だから向こうが代わりに行動したと考えるべきです」
「ぬぐ……。オーリス、近く査察しろ。徹底的に粗を探せ。もし見つかったらあの二匹を査問だ」
釘を刺されても尚懲りないレジアス。
「手土産持ってはやてちゃん側に寝返りたくなりそう」と、考えながら、とりあえず従うオーリス。
無論、言葉の毒を残すことも忘れない。
「了解しました。その代わり、AMF対策の予算は通してください。いつまでも地上部隊でガジェットに強いのが『リジーナ』の魔力式改良型を使う陸士新生64部隊だけでは、余りにも格好がつきません」
「ぐぅ……。分かっておる……」
その光景を、死神が嫌悪の感情を露にしながら見ていた。
「醜い……。自分以外の英雄を認めようとしなかった為に、英雄になり損ねた無様な男。その腐った魂、私の方から願い下げ……。オーリスは……良かった、はやての側に乗り換えるかで迷っている。早く寝返ろ、お前の人として堅実な理性も、私の欲する魂♪」
さっきとはうって変わって満面の笑みでオーリスを見つめる死神。
一週間以上前に感じた視(死)線を背後にまた感じたオーリスは振り向くが、既に死神は姿を消していた。
(さっきまで、あの死神がいた……。お父さん……、だけじゃない、私のこと『も』値踏みしていたと言うの……?)
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一方、ジェイル・スカリエッティのラボ。
潜伏中のナンバー2の報告から、ガジェットを指揮していたディエチとウェンディが捕縛されたことを知り、ジェイル・スカリエッティは荒れていた。
それを、オールバックの女性と、リーゼントの男性が呆れた顔で見ている。
「大将、落ち着けよ。二人捕まっただけだろ」
「二人『も!!』だ! 私の娘が二人も! 捕まったんだぞ!」
「すぐに救出、は勘弁してくれよ。捕まえたのは機動六課だ、地上部隊とは違って傷物にはしないさ」
男の言葉に、女は無言でうなずく。
一方のスカリエッティは、途端に弱気になる。
「ちょっと待ってよ、アリシア君にジェリド君! 貴重な戦力なんだよ!? 君たちの仲間でもあるんだよ!?」
「だから落ち着け。いくらAMFがあっても、カミーユと、あんたが向こうに行った際に余計な手を加えたΖガンダム相手じゃ分が悪いぞ」
「むぅ……」
スカリエッティを黙らせるジェリド・メサ。
一方、それを見ていたアフランシ・アリシア・レビルはそっと口を開く。
「最高評議会とレジアスはあくまでも広告代理店兼スポンサー、それも最低最悪のな。当てにはできぬ。だがこちらは時間がいくらでもある。愛娘たちの口の堅さを信じ、ゆっくりと救出のための策を練るべきぞ」
何処となく偉そうな口ぶりで話すアリシア。
その姿は、かつて闇の書の闇に囚われた時のフェイトを激励したあの時とは完全に違っていた。
ティターンズという道具でアースノイドもスペースノイドも減らそうとした漢、ジャミトフ・ハイマンを髣髴とさせる。
「忘れるな、我々の最終目標は第97両管理外世界と宇宙世紀世界という二つの地球を、『モビルスーツが人間を支配する星』にすることだ。それが『ディム・ティターンズ』の理想であることも、な」
その言葉にそっと頷くスカリエッティ。
しかし内心では、どうやってディエチとウェンディを救出しようかとさり気なく考える。
そこに、外部からの通信が入った。
端末をチェックし、最高評議会からのものと確認する
ジェリドは顔をしかめながら通信に出た。
「スカリエッティ・ラボ」
画像が映し出されると同時に、ジェリドは一応ハキハキとした声を出す。
そこに映っているのは、容器に入れられた3つの脳髄。
ジェリドとアリシアは何度も見たが、決して慣れない、それ以前にその言動と思想に対する嫌悪が脳髄への視覚的嫌悪感を極限まで増幅していた。
そして開口(?)一番に、その脳髄たち、最高評議会は件の戦闘の一件を口にする。
「人形の内、2体が『機動六課』如きに鹵獲されたそうだな。単刀直入に言う。その2体を処理せよ。奴らの口から我々の繋がりが露見する恐れがある」
「何を言うんですか! あの子達はそんな事はしない! 父たる私を裏切るような真似をする可能性があるとでも?」
「裏切らない可能性も『ない』。呪うなら『紛い物』を人間らしくし過ぎた己の才を呪え。これは命令だ」
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最高評議会はそれだけを言って、一方的に通信を切る。
相変わらずの言い草に、スカリエッティだけでなく、ジェリドとアリシアも怒りを覚えた。
特にスカリエッティの方は、手を握る力が強すぎる余り、爪が掌に食い込み始める。
とそこに、今度はレジアスからの通信が来た。
相変わらず、やたら威圧的で尊大すぎる態度が前面に出ている。
怒りを何とか抑え、スカリエッティは応対した。
「今日はどのようなご用件でしょうか?」
「ふん……。決まっておろう。機動六課とやらに鹵獲された戦闘機人に関してだ。六課ごとでも構わん、2匹とも始末しろ」
「あの子達が、自白するとお思いなのですか?」
予測通り、レジアスもディエチとウェンディの処分を要求してきた。
怒りのボルテージが一気に跳ね上がる。
スカリエッティたちの怒りの上昇など露知らず、レジアスは当然のように続けた。
「違法研究の産物の分際で、妙に人間臭いからな。向こうに懐柔されて、いつ我々のことを洩らすかわからん」
「随分な言い草じゃないですか……。その違法研究の産物を戦力にしたがっている方のお言葉ではありませんね。そんなに疑わしいなら、査察の名目で御息女に様子を見てもらえばいいじゃないですか」
「いいアイディアだな。ちょうど査察させるつもりだったのだ。まあ、あの2匹の命運は、オーリス次第だな。では、そろそろ会議なのでな。これで失礼させてもらおう」
レジアスからの通信が切れる。
その直後、スカリエッティの顔が瞬時に憤怒の形相になったことを、ジェリドとアリシアは見逃さなかった。
すかさず、二人はスカリエッティの背中をそっと押す。
「大将、そろそろ潮時じゃないのか? 向こうの言いなりになるのも……。自分の子供と、わが子を物扱いするスポンサー、どっちをとる気だ?」
「元々奴等の手助け無しでも十分な資金と資材は確保できるだけの力を持っているだろう。今が奴らに思い知らせる時と思うぞ」
その言葉に、スカリエッティの何かが切れた。
ジェリドとアリシアの言うとおりだと気付いたのである。
憤怒の形相のまま、スカリエッティは吼える。
「そうだよ……。お金と物資は既に十分過ぎるほどあるんだ! そうと決まれば、行動あるのみだ! 思い知らせてやるぞ、最高評議会とレジアス・ゲイズ。誰のために指名手配されてあげたと思ってやがんだ!! 後は戦力の更なる充実化だけだ!」
その言葉に、ジェリドとアリシアは笑顔でハイタッチする。
「これで二つの地球は支配したも同然」とばかりの笑顔で。
と、ジェリドは何故か今まで押し込んでいた疑問を、口にしてしまう。
「ところで大将、ディム・ティターンズの『ディム』って何だ?」
「DIMENSIONの最初の三文字をとってDIM(でぃむ)」
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機動六課、取調室。
スバルとティアナが、ディエチとウェンディを取り調べていたが、二人とも一向に口を割る様子は無かった。
名前を聞いた際に、「ディエチ」、「ウェンディっス。一応ディエチの妹っス」と答えたくらい。
その口の堅さに、スバルとティアナが根を上げかけた頃、様子を見に来たカミーユが入ってきた。
「思っていた以上に、口が堅いようだな」
スバルは、カミーユの方を見ながらこう洩らす。
「茶髪の子がディエチ、赤毛の子の方がすぐ下の妹でウェンディ、という名前なのが分かったぐらいです。読心術か何かで心の中を読めたら楽勝なんですけど……。」
「……ニュータイプでも、そうホイホイと心の中は覗けないし、覗く気にもなれないよ」
「やっぱり……」
ガックリとうな垂れるスバル。
ティアナも頭を抱え始める。
カミーユの方は、少し申し訳無さそうな顔でスバルを見ていた。
この光景を見たディエチたちは、「隙だらけ」と判断する。
実際、3人とも隙だらけ。
ディエチがカミーユたち目掛けて机を蹴り飛ばす。
「二人とも避けろ!」
瞬時にそれを察知して飛び退いたカミーユが叫び、遅れてスバルとティアナが飛んでくる机を避ける
机は紙一重で外れ壁に激突、それを見計らいウェンディがカミーユに肉薄した。
肉弾戦でかなりの強さを見せたスバルとティアナとは違い、カミーユの身体能力はそれほどでもないと判断した結果。
カミーユを人質にして、ここから逃げ出して仲間の所へ戻るつもりなのだろう。
ウェンディ、残念だがカミーユはホモ・アビスと空手のおかげで、体力と腕っ節はかなり付いている方だぞ。
当然、羽交い絞めにしようとして避けられ、逆に右腕と首を掴まれ壁に叩きつけられる。
「今抵抗しても、無意味だってことぐらい、分かれよ! ここが機動六課じゃなかったら、連帯責任云々で姉まで痛い思いをしていたかも知れないんだぞ!」
悲痛な顔で叫ぶカミーユ。
その表情と気迫に、ウェンディはおろかディエチも戦慄する。
カミーユの方は、不意のあの時のことを思い出す。
あの子の声が頭の中に響く、「見つけた、お兄ちゃん!」――――――
「もうお兄ちゃんはお前を殺したくないんだ!」
いきなり訳の分からないことを口にし、錯乱状態になるカミーユ。
危険と判断したティアナが、慌ててカミーユを拘束する。
「わああああああああああああ!!」
「カミーユさん落ち着いて! お願いですから!」
カミーユの悲鳴を聞きつけ、慌てて入ってきたヴィータが、カミーユをそのまま外へと引きずり出す。
ディエチとウェンディは、驚きの余り、動くことが出来なかった。
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医務室。
ベッドに横たえられているカミーユは、アイマスクをつけられていた。
シャマルは、ヴィータにカミーユの状態を説明する。
「多分、『ロザミィ』ちゃんのことを思い出しちゃったのよ。彼女とウェンディちゃんが重なって、取り乱したようね」
「『妹』以外の共通点が無いのにか!?」
「……それだけ引き摺っているのよ、カミーユ君は。一度自分のニュータイプ能力に押し潰されて、それから立ち直った後も」
ため息をつくシャマルとヴィータ。
そんな二人をよそに、半強制的に鎮静化され、眠りについていたカミーユはうなされていた。
そこに、なのはが入ってくる。
「カミーユ君、大丈夫なの?」
「……取り乱しただけで、起きた時には元に戻っているわ。流石にアレくらいで押し潰されるカミーユ君じゃないわよ」
シャマルの一言に安心するなのは。
ヴィータも安心はしたが、不安は拭いきれなかった。
カミーユがいつ、また、可笑しくなるのかが気がかりで。
「最高のニュータイプ、ってのも、考え物だな……」
「キツイこと言うな。ニュータイプなのは今更否定はしないけど」
いつの間にか目が覚めていたのか、ヴィータの呟きにカミーユはアイマスクをつけたまま返す。
起き上がり、アイマスクを取ったカミーユは、軽く驚く3人の表情を見て思わず微笑む。
シャマルとなのはは呆然とするが、ヴィータは頬を膨らます。
なのはは、ここに来た理由を思い出し、カミーユに告げた。
「そうそう、はやて隊長からの伝言だよ。明日から2日間休むこと、だって」
「……なんで?」
「……今日のアレが原因だと思う。いきなりパニックを起こしたって聞いて、はやてちゃん心配してたよ」
そう言われ、黙り込むカミーユ。
確かに心配はするだろう。
だからって、いきなり休ませるものか? とカミーユは考える
それに感づいたのか、なのはが付け加えた。
「スバルたちも、ちょうど明日から二日間休みになるの。それに合わせたみたい」
「……俺は見張り役かよ」
「見張り役はスバルたちの方だと思うの……」
「ガキ扱いするのかよ」
カミーユのぼやきに苦笑するなのは。
シャマルとヴィータもつられて笑い出す。
カミーユだけが不貞腐れていた。
だからガキ扱いされるのさ。
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次の日、クラナガン中央公園。
かなりの面積を誇るその公園は、まばらではあるが人が多かった。
スバル、ティアナ、エリオ、キャロらと共にそこに来ていたカミーユは、芝生に座りくつろいでいる。
今ここだけは平和だな、と感じながら。
「俺たちがこうやって和んでいる時でも、どこかでスカリエッティはロクでも無いことを企んでいるんだよな……」
「きゅくるー」
しみじみと呟くカミーユ。
しかしスバルたちは春の陽気に誘われ眠りこけており、聞いていたのはフリードリヒだけであった。
それから10分後、彼女はようやく目覚める。
とりあえず、カミーユたちは集合時間と場所を決め、思い思いに公園を散策することにした。
エリオとキャロは、森の中を進んで行く中である音に、何かを引きずる音に気付く。
木々に遮られているために見えないが、近くから聞こえる。
「すぐ、近くだね……」
「うん……」
木々を掻き分け、音が聞こえる方に急ぐエリオとキャロ。
二人は見つけた。
何かが入ったケースをを手に持ち、それを引きずって歩いていた二人の少女を。
エリオは慌てて、携帯電話でカミーユに連絡する。
その頃、敷地内のかなり大きい池の近くで涼んでいたカミーユは、エリオからの着信に出る。
エリオからの連絡に、カミーユは血相を変えた。
「持っていたケースの中にレリックが入ってた!? 場所は……」
カミーユが場所を聞こうとした直後に、轟音が響く。
空を見上げると、ガジェットに混じってモビルスーツが飛来したところであった。
そのまま一気に着陸するモビルスーツ。
カミーユはその機体が、「ティターンズ」が使っていたものであることに気付く。
「バーザム? 誰が乗っているんだ!? エリオ、ガジェットと一緒に、モビルスーツが来た! キャロと一緒にその子たちを連れて避難するんだ!」
通話を切り、携帯電話をなおすカミーユ。
不意に、バーザムと目が合ったかのような感覚が襲う。
あのバーザムは俺を狙っている、そう確信できる。
バーザムがビームライフルを構える直前に、唐突に池の水面から何かが飛び出す。
その何かは、バーザムをその腕で突き飛ばした。
それも、ビルスーツ。
「ズゴック、セットアップ」
≪Set Up!≫
操縦者の声が出た直後にシステム音声が響き、モビルスーツ、「ズゴック」の目と額に当たる部分に「仮面と角飾り」が付く。
機体色と相まって、「赤い彗星」を髣髴とさせるオプション(?)に、カミーユは何故か感心した。
「凄いセンスだ」
モビルスーツが地面を踏む衝撃により、一帯が軽く揺れた。
だが、市民たちはモビルスーツ同士の対峙に興奮している。
一ヶ月以上も前に突如として飛来したΖガンダム、数日前にガジェット相手に大立ち回りを演じたザク。
そして今度はモビルスーツ同士の対峙である。
逃げるのを忘れてひたすら見入っていた。
無論、カミーユは冷静である。
「何で逃げないんだよ。流れ弾の衝撃だけでも人は死ねるんだぞ!」
-
ビームライフルを使われる前に、赤いズゴックは一気にバーザムに肉薄する。
が、バーザムは人間じみた動きでズゴックを殴り飛ばした。
バーザムのパイロットは思わず舌打ちする。
「ビームライフルを使わせたくないようだな」
「戦闘機人は無益な殺戮が好みのようだな」
「ふん……、そこまで言うなら、貴様はビームライフル抜きで相手をしてやる!」
バーザムは手に持ったビームサーベルを起動、ズゴック目掛けて振り下ろすが、紙一重でズゴックはかわす。
ズゴックのパイロットは、不敵に笑いながら、挑発する。
「見せてもらおうか、ジェイル・スカリエッティの手でパワーアップした、ガンダムMk-IIの量産型の性能を!」
「見せてやろうじゃないか! 『赤い彗星のシャア』!!」
モビルスーツ同士の激しい格闘戦は、普通に歩く以上に激しい揺れを生む。
もはや局地的な地震である。
その激しさ故、同行してきたガジェットたちも揺れに耐えながら静観するしかない。
気のせいだろうか、それともズゴックの爪がヒートクローにでも改造されているのだろうか、ズゴックの爪とバーザムのビームサーベルが鍔迫り合いをしている。
埒が明かない、そうカミーユが考えた直後に、轟音と共に大きな影が飛来。
それは、ウェイブライダーであった。
「……あの時と同じだ。勝手に動いている!」
ウェイブライダーは変形してΖガンダムになり、直後にカミーユの眼前に着地。
コックピットハッチを開け、その手をカミーユに差し出した。
「乗って」という合図と悟り、カミーユは困惑しながらも乗り込む。
「まるで俺の危機に駆けつけたみたいに……。こうなったらなる様になれだ! Ζガンダム、セットアップ!」 ≪Set up≫
「デバイスとしての」稼働モードに入ったΖガンダムを見て、硬直していたガジェットたちは行動を再開。
Ζガンダム目掛けてレーザーを放つも、シールドから発生する防御魔法でことごとく無効化される。
「右」腕に装着したシールドを構えたまま、Ζガンダムは脚部の魔力式ハイブリットエンジンで飛翔、距離を詰めて着地も兼ねて、ガジェットの内の数体を踏み潰す。
そして、空中にいるガジェットに対して、「左」手に持ったビームライフルを構え、発射。
ガジェットたちは瞬く間に撃ち落された。
「こっちより遥かに高い位置にいれば、気兼ねなく撃てる!」
Ζガンダムの姿を確認したバーザムは、ズゴックと距離をとり、ガジェットを盾にしてかく乱。
標的をΖガンダムの方へ変え、急接近する。
ビームサーベルの斬撃を、シールドで防ぎきるΖガンダム。
不意に、バーザムのパイロットからの怒号がコックピットに聞こえてくる。
「さすがだな、ガンダム。妹たちを囚われた悔しみ、その命で晴らさせて貰うぞ!」
パイロットがそう言うのと同時に、バーザムはゼロ距離でビームライフルを発射。
衝撃で後退させはしたが、それでも防ぎ切られてしまう。
それと同時にΖガンダムはバルカンで牽制……するはずが、カミーユの膨れ上がる魔力のせいで強力化していたため、バーザムの装甲に十分な打撃を与えることに成功する。
-
「馬鹿な? ガンダムMk-IIの直系のバーザムが!?」
「ガンダムMk-IIの量産機とは思えない見た目をしているから!」
止めとばかりに、Ζガンダムの鉄拳がバーザムの頭部を直撃する。
その衝撃で、バーザムはいとも簡単に倒れた。
一方、バーザムのコックピットにいる戦闘機人、トーレは舌打ちする。
「単なるメッキバージョン化ではないか……。しかし、貴様のような節操無しに捕まる気は毛頭無い。勝負は預けたぞ、カミーユ・ビダンと機動戦士Ζガンダム!」
トーレが呟いた直後、もう一人の戦闘機人が『潜り』込んできて、彼女に密着。
そのまま『潜行』して行った……。
その頃、やけに静かなのをカミーユが怪しんだ直後、ズゴックが接近し、バーザムのコックピットハッチをもぎ取った。
いるはずの戦闘機人は、いなかった。
ズゴックのモノアイ越しにそれを見た、クワトロ・バジーナは驚愕する。
「どうなっているんだ? 転送魔法でも使えるのか!?」
「クワトロ少佐、これは一体!?」
「……私にも分からん。ところでカミーユ、私は『大尉』だぞ」
「失礼しました。クワトロ・バジーナ『大尉』殿」
突如として消えたパイロットの謎に困惑しつつも、クワトロとカミーユは二人なりに異世界での再会を喜ぶ。
その後は、本当に大変であった。
駆けつけた六課による半壊状態のバーザムの移送に、今回の戦闘と、保護した少女と回収したレリックに関する報告書の作成(避難誘導に専念していたスバルとティアナは別)。
そして、クワトロことシャアに群がるガンオタたちへの応対。
結局、少女たちはそのまま入院、クワトロのズゴックはΖガンダムで運ぶこととなった。
-
機動六課、格納庫。
はやてとクワトロ、そしてカミーユがいた。
Ζガンダム、ザク、ズゴックの3体が並ぶ光景の中で。
はやての方はズゴックとクワトロの方を何度も見ながら、口を開く。
「幕僚長からもう一人来る、と聞いてましたけど、まさか『シャア・アズナブル』大尉とは思いませんでした」
「はやて、私は『クワトロ・バジーナ』大尉だ。ミゼット幕僚長直々の指名で機動六課に協力することになった。よろしく頼む。ところで、エリオとキャロが保護したという少女たちは?」
「検査のために聖王教会系列の病院に入院させました。あの時来たバーザムとガジェット、多分、あの子達が持ってたレリック目当てやったと思います。けど、何でカミーユ君襲おうとしたんやろ?」
あのときのバーザム飛来の原因を推理するはやて。
レリック回収をそっちのけにしてカミーユを襲おうとした原因が分からず首を捻る。
それと無く、クワトロは一言付け加えた。
「あの時、バーザムに乗っていた戦闘機人は『妹たちを囚われた悔しみ』と言っていた。恐らくカミーユを見て、レリック回収より妹たちが捕まったことへの報復を優先したんだろう。以前遭遇したことがある、眼鏡っ娘とは大違いだ」
「クワトロ大尉が会った事があるメガネに、ディエチとウェンディ、そしてバーザムに乗っていた奴……。後何人いるんだろ? 戦闘機人って。それに女ばかりなのかな?」
カミーユのさり気ない呟きに、クワトロは瞬時に反応する。
「あくまでも勘に過ぎないが、恐らく全員女だろうな。そちらの方が目の泳がせがいもある」
「だといいですねー。はやてもその方が揉みがいがあるだろうし」
「そうやなー。一人くらいロリがいてもええかなー。B地区摘まみ易いのばっかやったら流石に手応えが無いし……」
凄い馬鹿な会話に興じる3人。
このおバカなやり取りは、戻ってくるのが遅いからと、心配して来てみたなのはに怒られるまで続いた。
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以上で中編の投下は終了。
後編は明日か明後日ごろに投下します。
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書けないので、代理お願いします。
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おまけ……のようなもの
「エックス! どうして!?」
「ス、スバル!? いきなりどうしたんだ?!」
どう言う訳なのか、エックスは涙ぐんだスバルに問い詰められていた。一体何で責められているのか?
エックスはまだ理解できなかった。
「何であんな事したの!? あたし…信じられないよっ!!」
(そうだよな…俺がいきなり乱入して戦ったんだ…信じられないのも…)
エックスはスバルが突然と戦った自分に幻滅した物だと悟った。エックスに助けられる結果になったが、
いきなり破壊行為的な行動を取ったエックスに悲しんでいた―――と言うのがエックスの憶測であった。
今の自分に出来る事と言えば、とにかく彼女に謝る事だけであろう。
「ゴメン、スバル………あの時は―――」
「"スライディング"するのは本家シリーズだけなんだよ!! エックスはXシリーズなんだよ!?」
「―――へ? ……信じられない部分はそこなの?!」
ディスプレイ画面の皆様は、こんなツッコミするなよ!?絶対だぞ!?
と言うか何故スバルがそんな事を知っているのか?有る意味大いなる最大の謎であった……
(おまけのお話は本編と完全にリンクしている訳ではありません…たぶん)
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以上です。やっぱり間が開いて申し訳ないですorz
今回のエックスの戦闘BGMはX2のOPステージをイメージしてますw
何か誤字、脱字等がありましたらご指摘くださいませー
…次はいつだろう…
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後編を投下します。
前編と中編より長いですorz
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次の日、機動六課のある一室。
フェイトがはやてとなにやら話し込んでいる。
どうやら査察絡みのようだ。
「地上本部からの臨時査察?」
「そや。うちは突っ込み所が多いからな。下手すると査問に進展するかも知れへん」
「……突っ込み所自体、ここ数日で一気に増えたし……。無事に終わりそうにないかも」
深刻そうな表情で話すフェイト。
と、そこに一人の青年が話しかける。
「フェイト執務官、八神部隊長、どうしました? 深刻そうな顔をして」
「あ、バーナード、実はね……」
フェイトから査察の一件を聞いたバーナードは、呆れるようにため息をつく。
何となくではあるが、地上側の意図に気付いた様だ。
「粗探しするヒマがあったら、対AMF予算を通せばいいのに。全く……」
「バーニィ、そんなこと言わんの。レジアス中将も色々考えとるんよ」
「……アレの何処が尊敬できるのさ」
バーナード……バーニィの呆れるような問いかけ。
フェイトも呆れた表情である。
しかし、はやては暖かな微笑を浮かべながらキッパリと答えた。
「ミッドチルダの平和を願う気持ちは本物やし、何より正義感と責任感も強いやん。あんな使命感が強い人、そうおらんよ。正に『地上の正義の守護者』や」
「あんなのが、尊敬してくれてるはやてを『犯罪者』呼ばわりして蹴ろうとしたのが、ねえ……」
「優しすぎるよ、はやて……」
はやてのことが急に不憫に思えてきたフェイトとバーニィであった……。
付き合いきれないとばかりに、バーニィは足を動かす。
それを見たフェイトはどこに行くのかを尋ねた。
「何処に行くの?」
「早朝に向こうからザク・マシンガンのマガジンとSマインの予備弾にザク・バズーカの部品、そして大佐用の新しい機体が届いたんでザクの点検も兼ねてチェックして来ます」
彼はバーナード・ワイズマン。
あの時ギンガたちに保護されたザクの「中身」である。
-
その頃、カミーユたちはクワトロの運転する車で、あの二人が入院している病院へと向う。
クワトロの車は結構な大きさのワゴン車であったため、カミーユとなのはだけでなく、スバル、ティアナ、エリオ、キャロも同行した。
まだ休日なので、みんなでお見舞いに行こう、と言うスバルの提案の結果である。
ふと、ティアナはカミーユとなのはの方を見て、あの時のことを思い出す。
無茶な訓練を繰り返し、なのはの教導を無視した挙句、頭を冷やされそうになった瞬間のことを。
「頭冷やそうか……」、なのはが泣きそうな目でそう呟き、攻撃態勢に入った直後にすぐ近くで見学していたカミーユがいきなり割って入った。
庇うように立ちはだかり、なのはを止めた直後にカミーユはティアナの方を振り向き、悲痛な表情で呼びかける。
「みんなを心配させてまで強くなって、何の意味があるんだよ……。そんなやり方でティーダさんが喜ぶのかよ!?」
「……! 何でここで兄の名を出すんですか!」
「……歯を食い縛れ、お前の無茶がどれだけなのはとスバルを悲しませているか、教導してやる!!」
カミーユは叫んだ直後、ティアナの頬に全力で平手を炸裂させる。
その衝撃でティアナは倒れるが、胸倉を掴み、さらに平手打ちを繰り返す。
自分の頬がはたかれる音に混じって、何かが呻く様な音を聞き、更に顔に何か熱いものが落ちる感触が走る。
ティアナは、呻くような音はカミーユの嗚咽であり、顔についた熱いものはカミーユの涙であったことに気付く。
「どうして……? どうして泣いているんですか!?」
「泣くしかないじゃないか……。お兄さんを誇りに思っているティアナ・ランスターが、兄の魔法じゃなくて兄を侮辱したクズの世迷い言の方を信じていると知ったら、泣くしかないだろう!! アア……うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
結局、号泣しながら両襟をつかんでティアナをシェイクするカミーユの方が頭を冷やされ、ドタバタのままその時の訓練は中途半端に終わってしまう。
その一件と、その後でカミーユとシャマルに見せられた「アレ」のせいで、自分が思い詰め過ぎているだけと知り、反省できたのがせめてもの幸運だった気がする、とティアナは思った。
あの時の回想を中断し、ティアナはため息をつく。
心配そうにスバルが話しかけてきた。
「どうしたの?」
「……カミーユさんに泣かれた時のことを思い出したのよ」
ティアナは苦笑しながら答える。
短気で子供っぽいところがある割りに、何が正しいかを考えて物を言う彼。
自分を省みることができるようになる程、彼は激情家だった。
「……ティアって、いい意味で変わったね」
「……カミーユさんに泣かれた上にあんなの見せられたら、『いい意味で』変わった挙句にそれ自覚できるようになるしかないでしょ」
疲れたように呟くティアナを見て、スバルも苦笑してしまう。
二人の会話を聞いていたエリオとキャロもつられて苦笑い。
それを見ていたカミーユだけが首を捻り、なのはは微笑む。
一方のクワトロは、病院にいるシャッハから、とんでもない報告を聞かされていた。
「何だと? 検査の合間を突かれて、二人に逃げられた!?」
「申し訳ありません、ダイクン卿。こちらのミスです」
「そんなものは挽回すればいい。それよりも、私の名字は『バジーナ』だ。ピースにもそう伝えておくように」
この会話を聞き、なのはたちも驚く。
お見舞いのはずが、逃げた二人の捜索劇に出る羽目になり、なのはとクワトロ以外は少しげんなりする。
-
クワトロたちが病院に着いた直後、シャッハが大急ぎで近づいてきた。
一帯の封鎖と避難が完了している旨を説明する。
そのことに、なのはとカミーユだけが眉をひそめているのに、クワトロ一人が気付く。
かくして、二人の捜索が始まった。
院内の一角、シャッハがあの二人の詳細を説明しながらクワトロと行動を共にしている。
「魔力はかなりのレベルでしたが、それ以外は普通の子供でした」
「なら、どうしてわざわざこのような厳戒態勢にする? 気付いたのは私だけだったが、カミーユとなのはは怒っていたぞ」
避難が完了しているせいか、院内は無人であり、かなり寂しく感じる。
この厳戒態勢を不審に思ったクワトロは、それと無く毒を放つ。
シャッハもこれには気付いた。
「……検査中だった上、更に人造生命体であることが判明しました。どのような危険性が秘められているか、分かりません」
「だから、見つけた後は検査を再開、危険性の有無に関わらず後は隔離か? 『強過ぎる力は災いしか呼ばない』と考え行動すれば、その強過ぎる力が招いた災いを真っ先に味あわされるぞ。真龍を怒らせた、『ルシエ』とかいうマヌケ部族のようにな」
「……たった一人の友人を復讐のためと称して罠にはめ、更にロリコンでもあるのに人の道を説くのですか!?」
クワトロの言葉にムッとしたのか、シャッハはこの一言で返す。
クワトロはただそれに苦笑するだけであった。
何気なしに窓の方に視線を移し、なのはとカミーユ、そして逃げ出したと思われる二人の少女が中庭にいるところを目撃する。
少し遅れてそれを見たシャッハは、何を考えたのかデバイスを起動させた。
「どうやら、カミーユ君となのは君の大金星のようだな。……シャッハ、何を!?」
「逆巻け、ヴィンデルシャフト!」
-
院内の中庭を探していたなのはとカミーユは、運良く逃げ出した少女たちと遭遇する。
一人は金髪のオッドアイ、もう一人は紫色のウェーブのかかった髪であった。
その内、紫の髪の少女はカミーユを見て驚く。
今の姿になる前に、かつてティターンズに「兄」として刷り込まれた彼の姿に。
「お兄ちゃん、……お兄ちゃん!」
その言葉に困惑するカミーユ。
しかし、カミーユは同時にデジャブを感じる。
その仕草、言動、自分を見る目、年齢以外ほぼ同じなのだ、『ロザミア』に。
そしてカミーユはようやく、彼女が『妹』であることに気付く。
「そんな……。どうしてそんなに小さくなったんだ!? ロザミィ!!」
「ええ!?」
この叫びに困惑するなのは。
彼女が「機動戦士Ζガンダム」で見たロザミィは、明らかにカミーユより年上であった。
だが、今目の前にいる「ロザミィ」はカミーユより遥かに年下(5歳児ほどに見える)。
混乱している内に、いつの間にか戦闘態勢のシャッハがロザミィともう一人の少女の前に立ち塞がった。
それを見たなのはとカミーユは、シャッハの肩を掴み、二人から遠ざける。
「シスター・シャッハ、二人を怯えさせてどうするんですか!」
「それでも聖職者なのかよ!」
二人の気迫に押され、シャッハは後ずさる。
それを見たロザミィともう一人は、不思議と安心した。
そして、なのはとカミーユが優しく微笑みながら二人に近づく。
「ごめんね、驚かせた?」
「大丈夫か? ロザミィ」
落ち着いたところを見計らい、なのはは自分の名前を言い、直後にもう一人の少女に名前を尋ねた。
「私は高町なのは。あなたのお名前は?」
「……ヴィヴィオ」
「可愛いお名前だね。ねえ、どうしてヴィヴィオとロザミィは逃げ出したの?」
なのはは穏やかに、一緒に逃げ出した訳を尋ねる。
シャッハから庇ってくれたことで信頼してくれたのか、ヴィヴィオは口を開く。
「ロザミィのお兄ちゃんを、カミーユを一緒に探してたの」
「そうだったの……。もう大丈夫だよ、ロザミィのお兄ちゃん、見つかったから」
なのはにそう言われ、更にカミーユに抱きつくちびロザミィを見る。
そこに、クワトロが駆けつけてきた。
騎士甲冑姿のシャッハと、ヴィヴィオとロザミィをあやす、なのはとカミーユの姿を見て、クワトロはさり気なくシャッハの方に話しかける。
「どうやら、二人を怒らせてしまったようだな」
「放って置いてください……」
-
屋内の方で、ヴィヴィオたちを探していた残りの四人は、無事ヴィヴィオとロザミィが保護された光景を窓越しに見て安堵していた。
しかし、同時に局員と思しき連中が大挙して敷地内に乗り込んでくる一部始終も見えてしまう。
しかもなのはたちは気付いていない。
これを見たティアナはスバルたちに耳打ちする。
かくして、フォワード四人の静かなる大立ち回りが始まった。
これで一安心と安堵するクワトロであったが、何重にも響く足音を聞きつけ、いつの間にか手にしていた本型のデバイスを開く。
それを見たシャッハも身構え、なのはもレイジング・ハートを手にする。
なのはとクワトロの声が、同時に響く。
「レイジング・ハート」 「『旧約』夜天の書よ」 『セットアップ!』
なのははおなじみの白いバリアジャケット、クワトロははやてのそれの影響を多分に受けたような意匠の赤い騎士甲冑を身にまとっていた。
なのはは、セットアップの際にクワトロが言った「夜天の書」という言葉に反応し、その赤い騎士甲冑の意匠に軽く驚く。
そして、局員と思しき者たちが包囲するように現れた。
その中の、隊長と思しき下劣そうな男が口を開く。
「クワトロ・バジーナとカミーユ・ビダンだな……。首都航空第13部隊の者だ。恐縮だが地上本部に任意同行願おうか」
「……何の理由があってそれを言うのかね?」
「昨日の、クラナガン中央公園内での質量兵器使用に関してだ。レジアス中将直々の命令でね、悪く思わないでくれたまえ」
呆れ果てた顔で隊長を見るクワトロたち。
Ζガンダムは本局の方で、ズゴックはかなり前に支局でデバイスに改造済みである。
ミゼットのことだから当の昔に伝えてあるはず。
質量兵器と言っていきなり押しかけてきた時点で言いがかりだと暴露しているようなものであり、クワトロも突っ込みを入れてしまう。
「……気に食わないから連行しに来た、と言った方がよっぽど説得力があるぞ」
「黙れ! 自分たちだけ活躍しやがって……」
隊長の口から出た本音に、心底呆れる一同。
しかし、彼に率いられた局員はその言葉に揃って頷いていた。
とうとうシャッハがキツイ一言を口にし、カミーユも相槌を打つ。
「……そちらが活躍できないのは、レジアス中将が頑なに対AMF対策を拒絶しているのも一因です。文句を言う相手を間違えるにも程があります!」
「そうだ、そうだ!」
だがその言葉も届かなかったらしく、隊長は声を荒げる。
「犯罪者がまとめる様な部隊に協力している分際で……。忘れてもらっては困るぞ、魔法を使う手段がないのが3人もいて、殺傷設定の我々を追い払えると思っているのか?」
嫌らしい笑顔を浮かべて言い切る隊長。
局員たちが、バリアジャケットをつけてすらいない、カミーユ、ロザミィ、ヴィヴィオにデバイスを向ける。
カミーユは微動だにしなかったが、ヴィヴィオとロザミィは地上部隊の悪意を敏感に感じ取り、怯えてしまう。
「これがミッドチルダの平和を守る、地上部隊のすることなのかよ」
「黙れ、我々は正義だ! レジアス中将と言う正義の、代行者である我々に異を唱えた奴は全部悪なんだよ!」
余りにもイかれた発言に呆れ果てる余り、クワトロたちは開いた口が塞がらなくなる。
なのはに至っては、あくびをする始末であった。
「ふわわ……。世迷い言はもう終わり?」
-
なのはのこの一言に激昂した局員たちが一斉にカミーユたちにデバイスを向ける。
が、カミーユの背後にいた隊員が、デバイスを持っていた方の手を突如として撃たれ、デバイスを落としてしまう。
その隊員は振り向くが、そこには誰もおらず、他の隊員たちも混乱する。
その一瞬の隙を突き、カミーユは振り返るのと同時に構え、正拳突きをその隊員のみぞおちに直撃させた。
「…………!」
「正当防衛だぞ!」
うずくまった所を見計らい、後頭部に追い討ちでかかと落としを食らわせる。
後頭部に掛かった強い衝撃で、その隊員はそのまま失神。
それを見ていた別の二名が慌ててデバイスをカミーユに向けるが、彼らの目の前、否、周囲にティアナの姿をしたものが大量に出現。
隊長が真っ先に驚き、不思議な感覚に陥る。
「な、何だこれは!? しかもどこかで見たような?」
その隙に、なのはとクワトロが残りの二人に肉薄。
なのははレイジング・ハートを片方の顎に突きつけ、クワトロはもう片方の顎に狙いを定めて拳を構える。
「ショートバスター!」 「シュヴァルツェ・ヴィルクング!」
桜色の魔砲と、魔力を帯びた鉄拳が二人の顎に直撃。
その衝撃で彼らは宙に舞い、車田飛びよろしく顔面から地面に叩きつけられる。
それに思わず見とれるカミーユであったが、彼の耳には残りの局員たちが次々と撃破される音も聞こえていた。
カミーユが振り向くと、そこには顔を殴られた痕や、焼け焦げた痕、感電したような痕がついている状態で倒れている局員たちと、隊長を睨みつけているスバル、エリオ、キャロの姿が。
よく見ると、シャッハの足下に棒状のもので殴られた痕が残った状態で倒れている者もいる。
そして2秒ほどしてから、ティアナもその姿を現した。
「フェイク・シルエット、見違えるほど凄くなったな」
「エヘへ……、カミーユさんに泣かれましたから」
「……ティアナはそのネタを引っ張るのが好きみたいだな」
カミーユに褒められ、満更でもないのかティアナは、さり気なく憎まれ口を入れながらも喜ぶ。
カミーユの方も、ティアナの言葉に苦笑する。
一方、偶然にも最後まで無事だった隊長は、カミーユが発した「ティアナ」と言う名前に反応した。
ティアナ……、かつて部下だった男、ティーダ・ランスターの妹の名前。
それを思い出した瞬間、隊長の頭に血が上る。
彼はティーダほどではないが優秀だった。
しかし、殉職したティーダの葬儀の際にティアナがいる前で堂々と「無能」と断じてしまい、「人格に非常に問題あり」とされ内定していた違う隊の隊長就任が取り消されてしまう。
レジアスの狂信者であったため、レジアスの熱心な擁護により降格は免れたが、それでも出世が大幅に遅れたことは事実であった。
今の隊長の地位も、反省したフリをして必死にネコを被り続け、数ヶ月前にやっと手に入れたもの。
そして彼は、未だに「ティーダとその妹のせいで出世が遅れた」と、ランスター兄妹を逆恨みしているのだ。
「また、また俺のジャマをするのか! 貴様ら兄妹は!」
隊長は殺傷設定のまま迷わずティアナの顔面を狙って射撃魔法を放つ!
運良くそれに気付いたカミーユは、ティアナに回避するように言うよりも、こちら側に引っ張って強引に避けさせた方がいいと判断。
ティアナの手を掴み、一気に自分の方へと引っ張った。
いきなり手を掴まれ混乱するティアナであったが、引っ張られたサイに視界が移動し、隊長の構えた姿から「自分目掛けて攻撃魔法を放った」ことに気付く。
カミーユの判断は正解であったが、それでも、殺傷設定の魔法がティアナの首筋を掠め、そこの肉が裂け、血が出る。
しかし、それもお構い無しにティアナは的確かつ俊敏に隊長のデバイスを狙い撃ち、破壊した。
-
「……今思い出しました。兄の葬儀の時にお会いしましたね……」
冷たく言い放つティアナ。
片手で首筋を押さえながら、もう片方に持ったクロスミラージュを突きつける。
殺傷設定のまま魔法を放ち、それ以前に兄を侮辱した男に対して慈悲をかける気はない。
そういわんばかりの表情のティアナに、隊長は居直って尚も喚く。
「俺は、俺は悪くないぞ! 人質なんかに配慮した結果殉職するような奴を無能呼ばわりして何がいけないってんだ!!」
風が吹く……。
死神が吹かす、破滅の風が……。
本のページをめくる音が聞こえ、そして……。
「闇に沈め……! ブルーティガードルヒ!!」
余りにも醜い戯言を聞いたクワトロは殺傷設定にしたかったのを堪えつつ、非殺傷設定でブラッディダガーを隊長に放つ。
発音の方はドイツ語の方で。
ブラッディダガーは着弾と同時に爆発。
隊長を物の見事にズタボロにした。
「……この本が蒐集した“魔法”の試し撃ちに付き合ってもらいたいが、他にも貴様を叩きのめしたがっているのが3名いる。口惜しいが私は彼らと交代だ」
クワトロがそう言い放ちその場を引いた直後、今度はスバルが拳を構えた。
「ナックルダスター!」
スバルの鉄拳が、隊長に直撃し、勢い余って壁に叩きつける。
ブラッディダガーとナックルダスターの直撃で満身創痍となった隊長はそのまま壁に寄りかかったまま崩れ落ちた。
しかし、なのはとカミーユは止めとばかりに近づき、仰向けに倒れた隊長を見下ろす。
「……頭冷やそうか。長期入院が必要な程度に」
「そこのチンピラ! ティアナを殺そうとした代償がどれほど大きいかを教導してやるよ!」
「ま、ま、ままま……。ぎゃひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜!!」
なのはの非殺傷設定の攻撃魔法と、カミーユの空手の技の情け無用なコラボレーションが始まった。
流石にヴィヴィオとロザミィが見ないように、二人の前にクワトロが立って視界を遮る。
なのはとカミーユ以外でこの制裁を直視できたのは、クワトロとスバル、ティアナだけ。
この制裁は、クワトロとシャッハが止めるまで続いた。
結局、首都航空隊第13部隊の面子は全員入院、六課側はティアナが首筋を負傷するもキャロの手ですぐに治癒と、なのはたちの圧勝。
クワトロたちは、連中が何をしたかったのか分からないまま、ヴィヴィオとロザミィを連れて六課へと戻っていった。
-
帰路にある車内。
カミーユとなのはは連中が来た理由に関して話し合っていた。
「質量兵器使用で聞きたいことがあるとか言ってたけど、結局何がしたかったんだろう?」
「……さあ。レジアス直々の命令で来たらしいから、何となく察しはつくけど……」
「何がしたいのかな? レジアス中将は……」
「レジアス・ゲイズだもん。自分たち地上本部は戦力不足だから、戦力が豊富な本局と『海』は持っているモビルスーツを全部こっちに寄越せ、って考えているんだよ。質量兵器云々を建前にして、魔力で動くように改造してあっても」
レジアスが何をしたいのかがわからず戸惑うなのはと、レジアスのことをバカにし切っているカミーユ。
スバル、エリオ、キャロは複雑な表情であったが、少なくともティアナはレジアスを否定するカミーユの態度に好感を持ち始めていた。
これ以上レジアスのことを思い出すのが嫌なのか、カミーユは気分を切り替えるためにある疑問を思い出し、クワトロに尋ねる。
「クワトロ大尉、少し聞きたいことがあるのですが」
「どうした?」
「……昨日、どうして公園の池から出て来たんですか? ズゴックに乗って」
カミーユの至極もっともな疑問。
実は、クワトロははやてたちに昨日の内に同じことを聞かれ、その時に答えたが、あいにくカミーユはそれを聞かず、いつもの通りナカジマ邸に早々と帰宅。
なのはたちもヴィヴィオとロザミィのことが気がかりで聞くのを忘れていたのだ。
と言うわけで、質問したカミーユだけでなく、なのはたちも興味しんしんでクワトロを見る。
クワトロからの答えは、単純だった。
「六課の近くに転送してもらう直前に、幕僚長から中央公園にガジェットとモビルスーツが出たと聞いて急遽公園の方に変更してもらった。池から出て来たのは、水中に転送してもらい、そこから地上に飛び出したほうがカッコいいかな、と思ったからだ」
茶目っ気を見せ、微笑みながら答えるクワトロ。
カミーユとなのはは「成る程」と素直に納得したが、スバルたちは少し呆れる。
ヴィヴィオとロザミィは我ら関せずとばかりに助手席で熟睡しており、クワトロにはそんな二人が何となく恋人同士に見えた。
その後、車内での話し合いにより、今日はカミーユがロザミィを預かることになり、カミーユも快諾。
ナカジマ邸でカミーユとロザミィを降ろし、クワトロの車は機動六課へと戻って行った。
次の日、機動六課。
一人で留守番させる気になれなかったカミーユは、ロザミィを連れて出勤してきた。
「おはようございますー」と、ロザミィが元気よく挨拶する。
カミーユも挨拶するが、今一声が大きくなかったため、シグナムに笑われてしまう。
「カミーユ、兄ならもう少し大きい声で『おはようございます』と言った方が様になるぞ。それと……、これを今日中に提出するようにと、八神部隊長直々の命令だ」
シグナムは手に持っていた紙、始末書をカミーユに渡すのと同時に、はやてからの伝言を伝える。
カミーユは面食らうが、シグナムはかまわず続けた。
「昨日の、あの一件のやつ?」
「当たり前だ。クローベル幕僚長が手回ししてくれたから、これ一枚で済むのだぞ。ちなみに、スバルとクワトロ、そして高町教導官は昨日の内に提出したぞ」
渡された始末書を見ながら、カミーユはあることに気付く。
いつもなら真っ先に挨拶してくれるあの娘がいないのだ。
ヴィヴィオとロザミィより2歳ほど上程度の容姿をしたあの幼女の姿が見えない。
「あれ? ヴィータは?」
「……クローベル幕僚長の所だ。彼女はヴィータが大のお気に入りでな、大抵ガンプラで釣って逢引に持ち込むのだ。別に昨日の一件で手回ししてもらったから逢引に応じたわけではないぞ」
「……あの人の遊び相手ですか。アイツも大変ですね」
苦笑するカミーユ。
レジアス相手に派手な罵りあいをしてのけたカミーユをいたく気に入ったミゼットは、初めて会って以来何かにつけてカミーユに「小遣い」をあげている。
カミーユ自身、既に社会人のつもりであるせいか、何となく子供扱いされている感じがするので嫌がったが、結局押し切られ受け取ってしまう。
そんなにガキっぽいのかな? と首を捻りながらも苦笑するカミーユであったが、一方のシグナムはどこか哀しげな表情で、一言付け加える。
「……遊びは遊びでも、ベッドをぎしぎし揺らす方の遊びだ」
-
クラナガン郊外にある、ミゼットの自宅内の寝室。
既に事を終えたミゼットが、バスローブを着た状態で2枚の書類を見比べている。
それは、地上本部から引き抜かれた局員の数の、去年までの総数を記した紙。
何故か最高評議会が『機密』扱いしているため、入手するのに結構な時間がかかった代物。
地上本部にいる協力者から貰った方に書かれている総数は、入手に時間がかかった方に書かれているものより遥かに多かった。
地上本部から入手した方を見ると、20年前から急激に引き抜きの数が増えていることがわかる。
「ここ最近戦力不足云々が激しいから調べたら、偽装か……。私としたことがこんな茶番を見抜けないとは、もうろくしたかね? にしても、これじゃまるでレジー坊やを暴走させるためとしか思えないね、引き抜き数の多さは。抉ってやろうか、あの3馬鹿とその走狗どもが!」
地の底から響くような呟きに反応したのか、ベッドで(一糸纏わずに)ぐったりしていたヴィータが、ミゼットの方を見る。
「ミゼットばーちゃん、どうした?」
「……ちょっとした調べ物だよ。さて、あいつ等をどうやって潰してやろうか? まあいい。今はお前ともっと愛し合うほうが重要だ」
ミゼットは二枚の紙を机に置き、バスローブを脱ぎ去って、ベッドに横たわるヴィータにまたのしかかる。
第2ラウンドの始まりだ?
衣服? 何それ? おいしいの?
その頃、六課の格納庫。
バーニィが昨日言っていた、クワトロ用の「新しい機体」がシャアズゴの隣に立っている。
その機体は、かの「シャアザク」とそっくりの配色の上、装甲の各所(指揮官機を表す角とか)に金メッキコーティングが施されていた。
カミーユはアングラ雑誌で、なのはは『MSイグルー』で見たことがあるその機体に驚く。
その名は「EMS-10 ZUDAH」!
カミーユが思わずため息を洩らし、クワトロが嬉しげに答える。
「EMS-10じゃないですか」
「奇跡的に残っていた一機が偶然こっちに流れ着いていたらしい」
かくして、赤と金に彩られた「シャア専用ヅダ」が誕生したのである!!
と、それは置いといて……。
『軌道上に幻影は疾る』で、ヅダが空中(?)分解するシーンをしっかりと見ていたなのは、さり気なく注意する。
「これ、フルパワー出すと自壊しますよ」
「それを防ぐための対策は用意してある」
その一言と共に、クワトロは『旧約』夜天の書を取り出す。
ページをめくり、クワトロが空いているほうの手を置くと、彼の隣に一人の少女が現れる。
なのはは彼女の姿を妙に冷静に見つめてしまった。
もしはやてがこの光景を見れば、狂喜乱舞していたであろう。
「リインフォース……!」
「そうだ。リインフォースI(アイン)。この娘はヅダとユニゾンしてもらう!」
かつて消滅したはずの彼女、初代リインフォース。
驚いたなのはが、彼女に何故ここにいるのかを聞いたが、彼女は「気が付いたら彼の側にいた」の一点張り。
クワトロも、「こちらに迷い込んだ時には既に持っていた。いつ手に入れたのかは覚えていない」と答える。
初代リインフォース自身は、自分が生きている事を隠したがっているが、クワトロの方はヴィータが戻り次第はやてたちに教えるつもりである模様。
目が点になっているなのはを尻目に、カミーユは珍しそうに初代リインフォースを見ていた。
-
数分後、六課の一画では、はやてとフェイトがまた話し込んでいる。
どうやら、臨時査察の日取りが決まったようだ。
何故か、フェイトの手にはウサギのぬいぐるみが二つ。
「一週間後?」
「そう。急に決まってな。まあ、向こうもこっちに懸念を持ってるから、仕方ないけど」
少し困った表情で言うはやて。
一方のフェイトは、地上本部側の意図に気付いてしまう。
一刻も早く、こちらの粗を探したいことに。
(こちらのことが相当気に入らないみたいね、向こうは。多分、Ζガンダムやヅダの事で相当ねちっこく追及されるわね。ディエチとウェンディからも情報らしい情報は引き出せていないのに……)
唇に指を当て、考えるフェイトであったが、休憩室前の扉に差し掛かった際に、誰かの泣き声が耳に入り、思考が中断される。
何事かと思い入ってみると、そこには、なのはとカミーユに抱きついて泣いているヴィヴィオとロザミィがいた。
どうやら、二人と離れるのを嫌がっているようだ。
(エース・オブ・エースと最高のニュータイプにも勝てへん相手はおるんやね……)
そういえば、今日は機動六課設立の目的云々で、なのはとカミーユ、そしてクワトロと一緒に聖王教会本部に行くことになっていた事を思い出すはやて。
あれこれ考えている内に、両手にぬいぐるみを持ったフェイトがしゃがみ込み、ヴィヴィオとロザミィに挨拶していた。
「こんにちわ。私はフェイト、なのはさんとカミーユ君の大事なお友達。ヴィヴィオ、ロザミィ、どうしたの? なのはさんとカミーユ君の二人と一緒にいたいの?」
『うん』
涙目のまま、頷くヴィヴィオとロザミィ。
フェイトは優しく二人に諭す。
「でも、二人とも大事なご用でお出かけしないといけないのに、ヴィヴィオとロザミィがわがまま言うから、困っちゃってるよ。この子達も」
達人的なオーラを放ちながら、ヴィヴィオとロザミィを上手くあやすフェイト。
使い魔(アルフ)を育て上げ、甥と姪の面倒も見ており、エリオとキャロの小さい頃を知っているフェイトにとって、泣き止まない幼女二人をあやすのはわけないのかも知れない。
フェイトは、こうして見事にヴィヴィオとロザミィをなだめきった。
-
数十分後、聖王教会本部。
はやてたちは、カリム・グラシアに案内され、その一室に入る。
そこには既にクロノ・ハラオウンがいた。
「やあ、昨日はちゃんと寝たかい?」
「そっちこそ、ドアをノックする癖はつきましたか?」
憎まれ口をたたきあうクロノとカミーユ。
これにははやてたち、特にフェイトが目を丸くした。
「お兄ちゃんと会ったことがあるの?」
「……Ζガンダムを改造してもらっていた頃かな。寝ずに『機動戦士ガンダム』を見てて、『めぐりあい・宇宙編』を見ようとしていたときにノックもせずにいきなり入ってきた挙句、名乗りもせずに説教垂れていなくなった」
刺々しい言葉で説明するカミーユ。
フェイトは呆れるような表情で、残りは苦笑しながらクロノを見る。
これにはクロノもバツが悪そうだった。
しかし咳払いをして、説明を始める。
「機動六課の設立目的は、迅速なロストギア対策及びガジェット迎撃を可能とすること。表向きはね」
クロノがモニターを操作し、彼とカリム、そしてリンディの写真が表示された。
「僕と騎士カリム、そしてリンディ統括官が六課の後見人。そして非公式だが、『伝説の三提督』と政府も支援を約束してくれた」
モニターに、今度はミゼットたち『伝説の三提督』の写真が表紙される。
なのはとフェイトは『三提督』が協力していることに驚き、クワトロとカミーユはミゼット以外の二人も協力している事を知り納得していた。
そして、カリムが席を立ち、同時に己のレアスキルを発動させる。
「これは、私のレアスキル、『プローフェティン・シュリフテン』。二つの月の魔力が上手く揃った時に初めて発動可能となるため、年に一度しかできませんが、最短で半年、最長で数年先の未来を詩文形式で書き記した預言書を作成することができます」
カリムの周りに、本のページと思しき物が彼女を囲むように集まる。
その内の一枚が、クワトロの元に近づく。
見たことも無い文字だったため、クワトロは読むことができない。
ページの方も元の位置に戻る。
それを見たクロノが説明した。
「……文章は解釈次第でいくらでも意味が変わるほど難解な上、使用文字は全て古代ベルカ語。更に内容もこれから起きる事態をランダムに書き出すだけ。的中率は『割と良く当たる占い』レベルだ」
「……この予言は、教会や本局に航行部隊のトップ、そして政府中枢も予想情報として目は通す。せやけど、地上本部の方は、レジアス中将が大のレアスキル嫌いやから目は通しとらん。まあ、信憑性はそれほど高いわけや無いから仕方ないけど」
少し困ったように説明するはやて。
それを見たクロノは、モニターにレジアスの写真を表示し、呟く。
「もっとも、レジアス中将の場合、自分に魔力資質が無いから、ひがみ半分逆恨み半分でレアスキルを嫌っているだけかもしれないがな」
表示された彼の顔を見て、カミーユとなのはは一気に眉をひそめる。
クロノも、汚いものを見るような目で評した。
「彼を尊敬しているはやての前で言うのもアレだが……。はっきり言って末期だな。真綿で自分の首を絞めているようなものだ」
冷たい表情で吐き捨てるクロノ。
はやての方は哀しげな表情でクロノを睨む。
しかし、クロノは更にダメ出しする。
「はやてが管理局入りした頃から、公の場での舌禍や部下の不祥事擁護などの問題行動を繰り返し、受けた批判と処分の数のワースト記録を更新中だ。魔法資質の無さを帳消しにできるほどのカリスマと超優秀な政治手腕のおかげで今の地位を維持できているに過ぎない」
-
クロノの言葉に頷き、「そうだよね」と呟くフェイト。
なのはも「地上の正義の守護者も地に堕ちたねー」とぼやく。
カミーユの方も、ここぞとばかりにレジアスをなじる。
「自分に無い力全てを妬み嫉み毛嫌いする。魔力資質が無いのはゲンヤさんも同じだと言うのに。どうやったらああも人として大きな差が生じるんだ?」
「他人を信じられるか否かの差だ。 信じないから疑い、疑うから他人を悪いと思い始める。 そうやって自分自身を間違わせる。自分だけが英雄になろうとすれば、尚更だ。アレを見る度に他人を信じることの難しさを再認識してしまう」
クワトロもそれに続く。
しかし、みんなはやての表情がどんどん険しくなっていることに気付き、話を予言の方に戻す事にした。
カリムは、ページを手に持ち、内容を静かに読み上げる
「無限の欲望、『次元と大地の子ら』を名乗り、青いヴェールをまとう花嫁となりし、黒い翼なびかせる白と青の巨人と冥王の如き、二つの美しき星を欲する。
守り手達統べる三つの影と、それの威を借る堕ちた『地上の正義の守護者』の罪暴かれ、かの者が牛耳る地上を守りし騎士たち惑わす。
やがて無限の欲望は彼らの罪を理由に、騎士たちが守りし中つ大地を征する事を宣す。
そして、滅びし王の宮殿が中つ大地の法の塔を砕き、次元行く船をも屠らん。
されど三つの影は、古き夜空の風と金の角そびえし幻影を従えた赤い彗星に滅ぼされん。
堕ちたる『地上の正義の守護者』は、写された思い出の源泉たる白い冥王を取り込んだ、黒い翼なびかせる白と青の巨人に討たれ、欠片も残らん。
『次元と大地の子ら』と滅びし王の宮殿に挑みし者達の先頭に立つは、彗星と冥王の牙城なり」
この予言を聞き、クロノとカリム本人以外は驚愕する。
そしてカリムは冷静に、冷静に口を開く。
「……最高評議会とレジアス・ゲイズ中将の醜聞の露見による混乱と、その隙を突かれた地上本部と次元航行部隊の壊滅に伴う管理局システムの崩壊。そして最高評議会とゲイズ中将の討伐……! 解読されたこの予言の内容です」
カリムのこの言葉に、はやては表情を暗くする。
クワトロはお構い無しに、カリムに尋ねた。
「地上本部及び次元航行部隊の壊滅と、管理局システムの崩壊阻止。それが六課設立の真の目的か」
「……場合によっては、最高評議会とゲイズ中将の粛清も視野に入れられています。はやてはゲイズ中将の醜聞に関してだけは極めて懐疑的でしたが」
真剣な表情で答えるカリム。
どこまでが当たりなのかは分からない。
だが、プローフェティン・シュリフテンが未来の事を言い当てているのは事実であった
予言の一説に、クワトロは考えを巡らせる。
自分の異名がバッチリ出てきたのだから致し方ないが。
(古き夜空の風と、金の角そびえし赤い幻影……。リインフォースIと私のヅダか。『割りと良く当たる占い』と言うより、『滅多な事では外れない占い』と言った方が適切だな)
-
地上本部の最上階近くのフロア。
相変わらずレジアス・ゲイズがヒーロー物の悪役みたいな態度と目付きで、夕焼けに染まるクラナガン市街を見ている
その後には、オーリスが立っていた。
「よろしいのですか? 査察を行うのは一週間後で?」
「臨時だからな。その日のためにワシ自らメンバーを選抜した。ミラー一尉以下全員、指揮するお前を満足させるに値する優秀な者達だ。奴等の企みなど知らんが、この地上を守って来たのはワシという正義だ! それを理解できん『海』と教会の好きにさせてなるものか!」
己の言葉に醜く酔いしれながら、レジアスは続ける。
それに吐き気を覚えながらも、オーリスは上辺だけ肯定し、内心では「どこが正義なの?」と毒づいていた。
「何より、私には最高評議会という心強い味方がいる。この父が正義だからだ。そうだろ? オーリス」
「……はい」
「公開陳述会も近い。本局と教会を叩く材料になりそうな物を洗い出せ! 向こうはモビルスーツを抱えている上に、昨日ワシの命令で、あの小僧とシャア・アズナブルに任意同行を求めた首都航空隊第13部隊を襲撃している。楽な仕事になるさ」
「機動六課についてですが、事前調査の結果、かなり巧妙に出来ている事が分かりました」
オーリスはそう言って、モニターを表示させる。
そこに映し出される、はやてとなのはたちの写真。
オーリスが説明を始めた。
「若輩を部隊長にし、主力二名は本局からの貸し出し扱い。部隊長の身内であるヴォルケンリッターと、次元漂流者を除けば、後は新人ばかり。モビルスーツは何れも質量兵器と見なされないように魔力式に改造済み。Ζガンダムとズゴックに至ってはデバイス化されています」
モニターに映し出される新人たちと、カミーユたちの写真。
それだけでなく、Ζガンダム、ザク、シャアズゴの写真まで表示される。
「何より期間限定の部隊、言わば使い捨て扱いです。本局にトラブルが起きても、簡単に切り捨てる事ができる編成になっています」
「小娘は生贄か……。同類とそれを庇う異常者の二匹が主力。身内以外の戦闘メンバーも、人間モドキにあの役立たずのティーダ如きに魔法を学んだ凡人、デッドコピーと己の力を使いこなせぬ出来損ないか。犯罪者にはうってつけだな」
とことん吐き捨てるレジアス。
その態度に嫌気が差しながらも顔には出さずにオーリスは呟く。
「もっとも、これ自体彼女が自分で選んだ道なのでしょう」
「オーリス!?」
「首都航空隊第13部隊に関して、教会系列のある病院から「敷地内に押しかけ、『ゲイズ中将の命令だ』という理由で高町教導官一行を包囲していた」と苦情が来ています。今日の予定は消化済みなので、直接赴いて事情を説明された方がいいかと」
「……ああ」
何事も無かったかのように淡々と語るオーリス。
彼女の心は既に決まった。
-
同時刻。
予定よりも早く帰りついたはやてたちは、休憩室で一息つく。
ヴィヴィオはなのはに、ロザミィはカミーユにくっ付いたまま離れようとしない。
ちょうどヴィータも事が終わったのか、戻っていた。
今がチャンスとばかりに、クワトロはヴォルケンリッターの残りを集合させてもらおうとはやてに話しかけようとする。
が、突如として警報が鳴り、モニターに外の様子が映し出された。
映し出されたものを見て、カミーユは声を荒げる
「……ガンダムMk-II! しかも何でティターンズカラーに戻っているんだ!?」
そこに映っているのは、ドダイに乗りこちらに近づくガンダムMk-IIと、それを追うガジェットの群れ、そしてガジェットの指揮機と思しきモビルスーツであった。
既にバーニィのザクと、シャアズゴが出撃してガジェット目掛けて発砲している。
出撃しようとするなのはたちを制し、クワトロは「君たちはヴィヴィオとロザミィをなだめていろ」と言って一人休憩室を出た。
格納庫。
クワトロはヅダに乗り、コックピットに隠してあった旧約夜天の書を取り出す。
「旧約夜天の書よ、セットアップ!」
バリアジャケットを装着し、ヅダを起動させて出撃する。
格納庫から出た直後、ガンダムMk-IIを乗せたドダイがすぐ近くに着地。
コックピットハッチが開くところが視界に入るが、クワトロはそれに構わずエンジンの出力を上げる。
ジール物産製の新型エンジン「新星」の大推力でヅダは飛翔し、クワトロもリインフォースIに命令した。
「ユニゾン・イン・ヅダ!」
この声と共に、ヅダの体が光に包まれる。
装甲の一部に布地のようなものが張り付き、ヅダの頭部に銀色の長い髪の毛が生え、更にピンク色のモノアイが何故か真紅のデュアルアイに変わった。
倍以上に跳ね上がった推力で、ヅダはガジェットの群れに肉薄する。
「魔法を無効化出来ても、衝撃に耐え切られないのなら無意味だぞ!」
ガジェットは構わずレーザーを発射するが、ヅダは大気圏内とは思えないレベルの機動で楽々とかわし、ガジェットたちにすれ違う。
数秒後、超音速で飛ぶヅダの発した衝撃波で吹き飛ばされ、ある機体は味方機のレーザーが当たり、またある機体は複数の味方機にぶつかり道連れにしながら、次々と破壊される。
既に、バーニィのザクとシャアズゴのおかげでかなり減っていたせいか、ガジェットの数は少なかった。
そこに、指揮機と思しき機体に乗っている者からの声が聞こえる。
「……我、現在地の確保に失敗。これにより、奪われたフラッグシップと搭乗者たちの奪還、それ以上に妹たちの救出は絶望的と判断。残存ガジェットは全機、地上の二機に特攻させ、本気はこれよりヅダに突貫する!」
-
モビルスーツがいきなりコックピットハッチを開けたかと思うと、中からディエチたちと同じ意匠の服をまとった幼女が出てくる。
右手では入り口の縁を掴み、自分の機体より下の高度にいるヅダ目掛けて手に持った投げナイフを投げた。
ヅダは構わずモビルスーツ目掛けて加速、投げナイフを装甲で弾いた直後、突如として起きた爆発により視界を遮られてしまう。
「爆弾だと!? 何時の間に?」
「先ほどの者が投げた金属片が爆発したのです。恐らく、あのパイロットは何らかの方法で金属片を爆発物に変えたものと思われます」
驚愕するクワトロに、ヅダとユニゾンしたリインフォースIが説明する。
それに納得した直後、クワトロの脳裏に光の筋が走り、敵がこちらに突っ込んで来ていることに気付き、回避動作を取った。
直後、広範囲にわたる爆風を散らしながら円盤状の物体が突進。
すれ違いざまにヅダはその物体に蹴りを入れた。
「避けきっただと!? だが避けるだけでは、このチンクのアッシマーには勝てん!」
チンクが叫んだ直後、アッシマーは再び変形し、モビルスーツ形体に戻る。
アッシマーの緑のモノアイが光り、ヅダを睨む。
これを見たクワトロは、間髪いれずヅダをアッシマー目掛けて体当たりさせる。
左肩のシールドが顔面に直撃し、アッシマーのモノアイ保護用の風防が砕け散ったが、チンクは動揺しなかった。
「……超硬スチール合金程度ではな!」
アッシマーはヅダのコックピットハッチに蹴りを入れ、弾き飛ばす。
ビームライフルを構え、引き金を引く直前に、全く別の方向から飛んできたビームがビームライフルに命中。
驚いたチンクが振り向くと、そこにはビームライフルを構えたガンダムMk-IIの姿あった
「あの男、あの距離から……!?」
右手ごとビームライフルが爆発し、その隙を突きヅダはギリギリまで接近、ゼロ距離で90㎜マシンガンを発砲。
「認めたくはないだろう? 自分の若さゆえの過ちというものは」
「あ、アッシマーが!」
この言葉と共に、アッシマーの頭部が弾丸で砕け散ったかのように破壊された。
しかし、同時にアッシマーのコックピット内に、チンク以外の第三者の声が聞こえる。
「チンク姉!」
「セイン! 何時の間に忍び……」
「ドクターの命令! もしアッシマーがやられた場合に備えて忍び込んでおきなさいって!」
この会話に感づいたクワトロは、急いでコックピットハッチを抉り取り、中を覗く。
すると、セインと思しき少女が、チンクを後から抱きかかえた状態でコックピットから「抜け出す」最中であった。
そのまますぐに姿を消し、数秒後にアッシマーの脇腹から飛び出し、そのまま落下、地面へと「潜行」する。
乗り手を失ったアッシマーはそのまま失速、盛大な水柱をあげながら海に突っ込んだ。
それを見届け、着陸するヅダ。
その視界の先には、セインが潜行した地点を凝視し、顔を見合わせて不思議がっているザクとシャアズゴがいた。
「あの撃ち方と気配……君もこの世界に来たのか? アムロ」
-
その頃、ガンダムMk-IIが着地した地点。
ガンダムMk-II内のコックピット内には、操縦していた青年だけでなく、壮年の女性とその使い魔もいた。
青年が二人に話しかける。
「プレシアさん、リニス、大丈夫か?」
「私とリニスは大丈夫よ……」
プレシアの方は少し気分が悪そうだったが、何とか強がる。
青年が振り向くと、リニスが優しくプレシアの背中を摩っている所が見えた。
「ゼスト・グランガイツの言うとおり、この『機動六課』に本当にフェイト・テスタロッサがいるというのか? シャア、お前が身を寄せている機動六課に……?」
「アムロ・レイ、彼はウソをついているようには見えませんでした」
アムロの呟きに、そっとツッコミを入れるリニス。
アムロは振り返らずに、モニター越しに見えるヅダの姿をずっと見ていた。
夕焼けの中で吹く風が、モビルスーツたちと、アムロたちを保護するために出たフェイトを、撫で回す。
次回
魔砲戦士ΖガンダムNANOHA
ディム・ティターンズの影
〜ニューメロの鼓動〜
カミーユ・ビダンはリリカルなのはの夢を見るか?
-
これで第一話は全部投下終了。
本当に長かった……。
-
規制をくらってしまいました。申し訳ありませんがこちらに投下しますので代理投下をお願いいたします。
さて、とりあえずその件の犯罪者の危険性と、相手をしなければならない可能性の高さは頭に叩き込み理解したが、彼女たちの目的はそれだけではない。
当たり前だ、現地の犯罪者の相手をしに自分たちは派遣されたわけではない。その本当の目的は別のところにある。
それこそが―――
「―――それじゃあ本題の次元震の原因究明についての捜査だけど」
その主目的を語り出したなのはに皆の視線が再び集中する。
本題とも言えるそれは一体どのような手順で行うのか、それをまだ四人は聞かされてはいなかった。
「この手のケースなら順当に考えれば、原因となっているものは・・・・・・ティアナ、何だと思う?」
急に話を振られても、しかしティアナは慌てる素振りも無くそれこそ学院の講義の際の質問に答えるようにセオリーとなる答えを述べた。
「―――ロストロギア、でしょうか?」
尤も、それが正解とは限らないので確証も無い答だとは自分でも思っていた。
「うん、それが真っ先に上げられる最も可能性のある答だね」
故に間違いではない、そうティアナの答を評価しながら頷く。
そもそも次元そのものに波及的効果を与えられるモノ、などというものは管理局の常識から考えてみてもまず稀少だ。
遺失世界の遺産、秘めたる力を有するそんなモノ以外で、次元震を起こすことなどそもそも不可能と言ってもいい。
だからこそ、管理局はロストロギアという存在を決して侮らず、回収する必要性が高いと認知している。
次元世界そのものに危機を与えるソレを自分たちの手で安全に保守管理しないことには落ち着くことなど出きるはずがないからだ。
だからこそ、次元震という現象が発生した際には管理局は必ずと言っていいほどロストロギアの関連の有無を調べる。
そしてこうしたケースならば八割方、ソレが関わってくることがこれまでの管理局の記録からでも判断できる。
「だからこそ、二十二年前と今回・・・・・・後、これはついさっき分かったことだけど、六年前にもこの市街で惨劇が起こっているの。これらの事件に同一のロストロギアが関わっている可能性は無いとは言い切れない。でも―――」
先程、ジグマールの口よりなのはは六年前に市街地で大規模なアルターによる惨劇が起こったという話を聞いた。
ロングアーチスタッフに直ぐ様に確認を取ってもらったが、それにも次元震発生の余地が確認されていることが先程連絡されて届いたばかりだった。
アルターによる被害、ジグマールは確かにそう言っていた。アルター能力についてはまだ詳しい事を把握していないが、それがロストロギアの誤認という可能性も無いとは言い切れない。
しかし、それには疑念も残る。
その最大の理由は観測された事件と事件の間の期間の長さだ。二十二年前と六年前、そして六年前と今回。
規模こそ違えど観測された次元震の特徴はまったく同じモノなのだという。ならばこそ、これらには同一の何らかの原因が共通してあるはずだという推測が成り立つ。
だが管理局とてロストロギアとは一概には言っても、その性質はバラバラなものばかりで一纏めには出来ない。・・・・・・だがこういったケースを起こす特徴はロストロギアには存在しない。
一度何らかの原因で発動したロストロギアは外部からの強制介入による沈静化なくしては治まらないケースが多い。代表的な例を挙げるならあのジュエルシードが良い例だ。
だが今回観測されている次元震は全て、同質であると共に瞬間的に発生して直ぐに治まっているものばかりだ。
恒常的とも呼べぬ発生期間といい、瞬間観測でしかないという実例。そして管理局がどうして放置を続けてきたか、その理由を推測すればそれは―――
「―――私はそうじゃない、とも考えてるんだ」
―――その推測をなのはへと抱かせていた。
-
四人もロストロギアが関わっているとばかり思っていただけに、なのはの突然の言葉にはやはり驚きを隠せていなかった。
「え? ロストロギアじゃないんですか?」
疑問を口にしたスバルに対し、なのはは頷きながら己の推論を述べる。
「―――以上のことから、私はロストロギアとは別の可能性も考えられると思うの。
・・・・・・ジグマール隊長は六年前のその事件がアルターによるものだと言っていた。二十二年前も今回のものも性質は同じモノらしいから次元震の発生の媒介となったものは同じモノである可能性が極めて高い。ならそれは―――」
―――ジグマールの言葉通りなら、アルターということになる。
「・・・・・・じゃあ、次元震の原因はこの世界にいる能力者の仕業ってことなんですか?」
俄かには信じ難い、言外でそう告げていることが分かるティアナがそう疑問に思うのも無理はない。
なのはのその推論が正しいと言うのならば、ソレは個人か組織かどちらかにしろ、次元震を発生させているのが人間だということになってしまう。
規模がどれ程のものであれ次元世界そのものに干渉しうる力を人間が持っている・・・・・・魔法ですら不可能なことを信じろと言う方がおかしなものだ。
それこそ、あの存在し得ない夢物語の世界たる『アルハザード』は実在している、などと言っているようなものである。
そんなことを出来る人間がいるとするならば、それは人間とは呼ばれない。
―――『災害』である。
「・・・・・・私自身でも穴がありすぎる推論だとは思ってる、けれどやっぱり今回の事件に関わってくる謎の中枢にはアルター能力があるとみて間違いないとは思うの」
彼女の推論でいくならば、次元震を起こした犯人(人ならば)同一人物ということになるが、アルター能力者が生まれるようになったのは二十二年前にロストグラウンドが誕生してからだ。今回と六年前に起こった事件の犯人が共通だとしても、そもそもロストグラウンド誕生の原因そのものとなった事件に関しては矛盾してしまうことにもなる。
だからこそ確証は無い。故にロストロギアの可能性も捨てきれず平行して調査を続ける。
それでも彼女は感じていた。
―――事件の真相究明への鍵はアルターにある。
明示できる証拠は無く、自論と直感という説得性には欠けるものだが、それでも全ての事件にはアルター能力が何らかの形で関わっているはずだと思っていた。
だからこそ、それに関する調査も無限書庫経由で頼んでいたし、自分たちの方からも現地の情報を通じて調べてみようと思っていた。
「取り合えず、ロストロギアとアルター。この両方の線から調査を進めていこうと思ってる。じゃあそれに関する具体的な方針だけど―――」
そう言ってなのははこれからのこの世界での行動方針を、部下たちへと語り出した。
恐らくは長丁場となる、そんな確信を抱きながら・・・・・・
-
標高が高いということは、同時に空にも近いと言う事だ。
だからこそ―――こんなにも星が近くに感じるのだろう。
高町なのはは空を飛びながらそんなことを考えていた。
部隊のブリーフィングを終え、これからの行動方針を決め後は明日に備えて一日を終了するだけなのだが・・・・・・。
何故かこうして空を飛んでいるわけだが、特に目的は無い。理由も無く、空を飛ぶなどという行為はミッドチルダでは許されない。そんな事は管理外世界とて同じなのだが。
それでも高町なのはは空からこの大地を見下ろしていた。
本土から切り離され、その大地の中ですら塀の外と内で異なる世界。
地球には地球の、ミッドチルダにはミッドチルダのルールがあったように、当然ながら、ロストグラウンドにもソレは存在する。
尤も、此処のルールというものは場所によっては過激や理不尽などと言ったものであるのかもしれないが。
それでも、となのはは思う。
この大地で生きている人たちが願っていること、望んでいることとは何なのか。
独立自治とは聞こえは良い、だが実情は支援なくしてこの大地の住人・・・・・・少なくとも都市に住んでいる者達は生きてはいけないだろうというのは部外者であるなのはの目から見ても明らかだ。
そして壁の向こう側、未開発地区と称されるむしろロストグラウンドという名そのものの世界はどうであろう。
実情こそ目にはしていない。けれどインナー(この大地で都市部以外の生活者のことを指すらしい)出身のホーリー隊員の話を聞いてみても、それは酷い有様らしい。
奪い合い、壊し合い、そして争い合う。
少なくとも、そこには秩序と呼ばれる人が互いに生きていくために必要とされるルールはない。
―――力こそが全て。
それこそがルールだと言わんばかりが、この大地の実情だった。
秩序や法という権力に守られている人間などほんの一部、それこそ都市部の人間だけだ。
この大地に生きる多くの人間は、恐らくは今日を生き抜くことに必死なのだろう。
ならば何故、彼らはそれからの脱却を望まない。少なくとも、市街に登録をすれば住民になれ職にもありつける。
少なくとも真っ当な人間としては生きることが出来る。だが、この多くの人間は進んでそれを求めようとはしていないと言うのが実情だ。
インナーは自らの意志でインナーであることを在り続ける。多くのインナーはそうらしく、市街に登録・・・・・・本土への帰属を望もうとはしていないらしい。
それが何故か、インナーの実情や思いを未だ知らぬなのはにはそれが分からない。だがそれは彼らにとっては一種の誇りであると言うことだけは察することができる。
荒れ果てた無法の大地の上で、何が彼らにそれを選ばしているのか。
平穏と呼べる世界で生まれ、この職に就くまでは同じように平穏な中で生きてきた彼女からは想像もできないものであった。
だからだろうか、彼女がそれを知りたいなどと考えたのは。
-
ホーリーが・・・・・・否、本土が示す秩序に目を背けても彼らがそれを見出し、そして守ろうとしているのは何なのか。
恐らくは『彼』もまたそれを守ろうとしているのではなかろうかと勝手ながらに思った。
ほぼ単独と言っていいほどに何の後ろ盾も無く、個人レベルでの反抗を続けている一人の反逆者。
アルターという人とは異なる能力を有し、ソレを用いて戦い続けているその人物。
ホーリーにおいては犯罪者と認定され、自分たちもまたいずれ出会い、戦うことを予感させるその人物。
「・・・・・・NP3228。・・・・・・ううん、違うよね。君の名は―――」
資料に書かれていた一度捕獲された時に付けられた番号ではなく、彼自身が名乗ったその名前を。
名字も無く、本名かどうかも怪しい、けれど恐らくは彼が彼であることを表しているその名前を―――
「―――カズマ、君か・・・・・・」
星空にその身を浮かばせながら、高町なのははその男の名を静かに呟いていた。
不意に誰かに名を呼ばれた気がした。
呼ばれたと思い振り返り見た夜空の方角が都市部の方である事に気づき、彼―――カズマは思わず顔を顰めていた。
またホーリーのクソ野郎共がこっちを倒すためにいけ好かねえ作戦でも立ててやがるのかとも思い、
「―――へ、それともテメエか?・・・・・・劉鳳ッ!」
打倒を誓い、名を刻んだ宿敵の姿を脳裏へと浮かべ拳を握っていた。
まぁどちらだっていい、劉鳳だろうとホーリーだろうとちょっかいを出してくる相手には容赦しねえし、必ずぶっ飛ばす。
単純とも思える思考だが、それがネイティブアルターであるカズマの当たり前のような考えだった。
「・・・・・・にしても、何だか気にいらねえな」
何故かは分からない、理由は不明だ。
だが直感的に、今見ている方角から酷く気に入らない視線のようなものを感じずにはいられなかった。
まさか空の上から誰かがこっちの方を見ているわけでもあるまいし、気のせいに違いないのだが、何故か気になって仕方がない。
このまま背を向けたら負けなのではなかろうか、などという馬鹿らしいことすら本気で思っていたほどだ。
だからカズマも睨み返すようにその方角に視線を向けたまま動かない。傍から見れば遠方に眼ツケをしているだけという酷く奇妙な光景だが、当人であるカズマという男はそんなことを気にしない。
やがてその気に入らない視線のようなものも暫くすれば感じなくなり、カズマも内心で勝ったなどと密かに鼻を鳴らしながら、視線を外して再び進んでいた方角へと背を向け直した。
実に馬鹿らしいことに時間を浪費してしまった、ということを漸く自覚しながらカズマは目的地―――ねぐらにしている家(廃墟と化している歯科医院)へと急ぐ。
-
「・・・・・・かなみの奴は、もう寝てるだろうな」
同居している少女の顔をふと脳裏に浮かべながら、恐らくはもう就寝しているだろうことは予想が出来ていた。
よくあることだ。頻繁に家を空ける自分の帰りが遅い時はいつも先に眠っている。普段からよく寝る娘でもあるし、そもそもカズマ自身も出迎えを期待するような性格ですらない。
だからそれは問題ない、普段通り当たり前であり考えるまでもないことだ。
・・・・・・ならば何故、そんなことをふと思ったのか。
考えるという行為自体を苦手とする彼はそんな思考も五秒で放棄した。どうでもいいさ、それで良かった。
帰る場所にはかなみが居る。そんな当たり前のことが分かってさえいればどうでもいいことだ。
・・・・・・そう、どうでもいい。そんな当たり前さえ守れるなら。
「・・・・・・まぁ、その代償と思えば安いもんさ」
右手を持ち上げながら、あのアルターの森での一件以降に進んでしまったアルターによる侵食を見てそんな事を呟いていた。
だがこのお蔭でシェルブリットはパワーアップした。この力なら、ホーリーの奴らにも何も奪わせないし、劉鳳の野郎だって倒せるはずだ。
馬鹿で調子者の憎めない相棒や、しっかりものの癖に泣き虫なあの少女だってきっと守れる。
「・・・・・・らしくねえよな、俺としたことが」
金さえ積めば何だってやる、それがアルター使い“シェルブリット”のカズマであったはずだ。
そんな自分がどういうわけか、そんな丸くなった思考をしている。・・・・・・まったくもって可笑しい限りだ。
だがそれも悪くはねえ、そう思っている自分もいた。
“シェルブリット”のカズマとしての本質は何も変わってはいないという自負がある。
金さえ貰えば何だってやるし、欲しいものは奪ってでも手に入れる。
その生き方を変えようとは思わない。
だから今の考えだって結局同じであり、行き着く先とて同様だとカズマは思ってもいた。
そう、気に入らねえ奴はぶっ飛ばすし、奪われないように守る。
そして満足する程の派手なケンカをする。
カズマが望んでいることは、ただそれだけだった。
だからこそだろうか、
「なんか、これから派手なケンカが起きそうだ」
理由も確信も無く、そんなことを思い、期待しているのは。
だがきっとそれは直ぐに実現する。その相手は劉鳳なのか、或いは別の誰かなのか。
それはカズマ自身にだって分からない。だがそれでも一つだけハッキリしている事は。
―――ソイツが壁となって立ち塞がるなら、この自慢の拳で打ち砕く。
ただそれだけだった。
ただそれだけを思いながら、カズマは家路へと着く足を止めることも無く歩き続けた。
こうして失われた大地に不屈の魔法使いたちは降り立った。
自身の『正義』という名の信念を貫く男は、彼女たちと出会い戸惑いと予感を覚え。
未だ出会わぬ反逆者は、その出会いを予感しながら拳を握る。
その出会いが何を齎し、何を為すのか。
誰にもそれは分からぬまま、しかしハッキリとしていることがただ一つ。
物語は、既に始まりもはや止まる事は許されない。
ただ、それだけのことである。
次回予告
第一話 機動六課
それは何をもっての反逆か
男は怒りに拳を振り上げ
女は杖を交わしながら話し合いを望む
双方、譲れぬ思いを抱きながら最初の邂逅は激闘へと変わる。
魔法とアルター
その未知なる力の激突が齎すものとは何なのか・・・・・・
以上です。初投下で不慣れなので時間を取ってしまいすみません。それと支援してくださった方、ありがとうございました。
-
また規制くらっちまいました。どなたか代理投下お願いします。
だが両者とも、先の激突により一つの事実を直感的に悟った。
それ即ち―――
……この女、やりやがる。
確かに全力ではなかった、だが打ち抜く心算で放った一撃だったのは確か。
そしてそう決めて打ち下ろした拳であった以上は、その結果はそうなっていなければおかしい。
だが現実にはそうならなかった。相手のアルターの予想以上の堅さを打ち抜くことが出来なかった。
言うなればそれは屈辱。……そう、あの日に劉鳳に味合わされた敗北の味の再現と同じ。
無論、負けたなどとは思っていない。今度は必ず打ち砕く、意地でもそうする。
けれど……
(……手加減できる相手でもねえか)
本気でぶつかるに値する相手、それがカズマの眼前の女に対する偽らざる評価だった。
……この人、かなりの力だ。
確かに全力ではなかった。だが制限下とはいえ自身の頑丈さには鉄壁に近い自負があった。
重装型の砲撃魔導師として、長所として磨き上げた誇りとも呼べるものであったはずだ。
それが危うく屈しかけた。後少しでも力を抜いていれば確実に打ち破られていただろう。
言うなればそれは脅威。……久しく経験していなかった、自身を脅かすに値する危険性だった。
だが屈したわけではない。まだ自分には余力もカートリッジという切り札もある。
それでも……
(……油断は即敗北にも繋がりかねない)
それだけの力量を有している、それが高町なのはの眼前の男に対する本心からの評価だった。
ロストグラウンドの反逆者と時空管理局のエースオブエース。
互いに不屈の信念を持つ両者の初会合による激突とその結果。
そして抱いた互いへの評価。
皮肉と言って良いほどに、それは酷く似通ったものだった。
だがこうして、遂に―――
―――遂にこの大地の上で、二人は出会った。
「……NP3228………ううん、君が“シェルブリット”のカズマ君だね?」
「ハッ、だったらどうだってんだよ、本土のアルター使いさんよぉ!?」
なのはの確認の為のその問いに、威勢よく啖呵を切るが如く返すカズマ。
彼がこちらを本土から来たアルター使いという情報を早くも掴み認識していたことには驚きだが、まぁそれも今はどうでもいい。
「……漸く、会えたね」
「あん? 何言ってやがる?」
これまで資料でのみその存在を確認し、是非会って話し合ってみたいと思っていた人物が眼前に現れてくれたのだ。
それに興味や喜びを覚えないなのはではない。
だが一方、そんな彼女の心情などはまったく知らず、しかも初対面の強敵だと認識した矢先にそのようなことをいきなり言われてカズマが分かるはずが無い。
……ただでさえ、この眼前の女は何故か自分をイラつかせる。その明確な理由を自分自身でも察せられないカズマにとって苛立ちは増すことはあろうと治まることはない。
さっさとぶっ飛ばす、そう結論付けると共に彼は拳をなのはへと向けて身構える。
その瞬間だった。
「なのはさん! 大丈夫ですか!?」
-
そう叫びながらゾロゾロと今度は車内から眼前の宙に浮いている女と似たような格好をした輩が四人も出てきた。
こいつらがどうやら君島が言っていた本土から来たアルター使いたちで間違いないだろう。
……だが、
「……ガキばっかじゃねえか」
それも女子供、内二人はかなみとすら大差が無い。
アルター使いに年齢など関係ないことはカズマとて承知の上だ。向かってくる奴はたとえどんな相手だろうが容赦しない。
それでも思わずそんなことを呟いてしまうほどに彼は意外な連中の正体に驚いてもいた。
「……君島ぁ、やっぱりこんな奴らなんかにビビッててどうするってんだよ」
思わず苦々しくそんな呟きを漏らさずにはいられなかった。ガキだと油断することは愚の骨頂であることはカズマとて理解できていたが、それでも相手の正体には思わず拍子抜けせざるをえなかった。
だがカズマのそんな呟きを聞き漏らさずにピクリと反応した者たちがいた。
それは当然、そんな風に侮られた彼女たち自身だった。
「……ティア、あたしたち馬鹿にされてるよ」
「安い挑発……でも癪に障るのは事実よね」
スバルの言葉にティアナも正直にそう返しながら彼女たちはなのはを見上げた。
先程あの男は自分たちの隊長と全力ではないほんの一瞬とは言えど互角に渡り合った。
その実力の片鱗は確かに凄まじく、決して侮れたものではない。
だが自分たちにも機動六課の隊員として、高町なのはの教え子として、JS事件などを潜り抜けてきて成長してきた自負がある。
毎日毎日、必死になって歯を食い縛り賢明に鍛錬へと身を投じてきた。
自分たちだって成長してきている、確実に強くなってきている。もうヨチヨチ歩きのヒヨっ子のままではない。
その誇りが彼女たちに無言ながらもなのはへと告げさせる。
わたしたちにやらせてください、と……。
そしてそれは視線からなのはもまた察することが出来た。
本当に、自信を持った、そして強い良い眼をするように彼女たちはなった。
確かに敵は強敵、油断のならない相手だ。
教え子たちを案ずるなら、もしものことがないように戦うのは自分の役目だ。
それが当たり前だとも思っている。
けれど、人は成長する。
それを誰よりも良く知っているのも高町なのはであり、それを否定することは彼女たちにも出来ない。
そして此処は心配して守ってあげる場面ではない。
彼女たちの成長を、強さを信頼して、任せる場面だ。
最初から全てを取り上げるのは傲慢であり、それは彼女たちを信頼していないのと同じだ。
自分はJS事件の時もちゃんと彼女たちを信頼してきたではないか。
ならば、ここもまた同じはずだ。
故に―――
「―――良いよ、貴方達の力を彼に見せてあげて」
自信を持って、そして不敵に教え子たちへとそう告げた。
それを聞いた彼女たちもまた、同様に頷いてそれを了承。
眼前の、カズマを相手に四人は身構える。
ならばやってやる、そう行為は無言ながらも悠然とそれを物語っていた。
相手の方も、こちらのその態度から察したのだろう。同じように対峙して身構える。
なのははそれに手出しを加えない為に後方へと離れて見守ることにした。
万が一の事態には、早急にフォローに入れるように覚悟し身構えながら。
それでも今の彼女の胸中は、純真に自らの教え子たちと眼前の強敵の戦いを見入ることに務めようとしていたが。
そしてカズマも身構えた。
-
どうやら先にガキ共がこちらの相手をするような雰囲気だが……上等だ。
良い目つきをしてやがる、喧嘩をするには申し分の無い意気込みは確かにある。
女子供、四対一、それらはもはやこの後に及んでその一切が関係ない。
こいつ等は敵、立ち塞がる壁。
だったら―――
「じゃあ始めようぜ、喧嘩をよぉ!?」
―――この自慢の拳は纏めて全て打ち砕く、ただそれだけだ。
右腕に装着した鎧のようなアルター。
それがシェルブリットと呼ばれるカズマのアルター能力。
背中に三枚の羽根状の突起物があり、それを推進剤のように用いて爆発的な突貫力を生み出す。
「……それがホーリーのデーターベースに残ってた相手の能力」
典型的なクロスレンジタイプ、自分たちの部隊で言えばスバルと極めて似た能力。
情報は全てこちらが掌握している、相手の手の内をこちらは完全に把握しているのだから。
一方で、相手はこちらの魔法をアルター能力と勘違いしており、それですら未だ手の内は分かってなどいない。
故にこちらは最初から圧倒的なアドバンテージを有しており、相手も慎重に来ざるを得ない。
……そう、思っていた時期がティアナ・ランスターにもありましたよ。
まさか彼女のそんな思考すらも小賢しく思わせるほどに、いきなり迷いも無くあちら側から仕掛けてくるとは思ってもいなかった。
事前に渡された大事な情報を一部、彼女は失念していた。
そう、相手が単純とも評せるくらいに考えなしの突撃馬鹿なのだということを……。
先手必勝。それは喧嘩において当たり前のことであり、細かいことなど気にしていてもそもそも喧嘩など出来もしない。
故に躊躇い無く、これまで通りにカズマは地面を拳で叩くと共にその反動で高く跳躍。
そのまま挨拶代わりのまず一撃。
「衝撃のぉぉぉおおおおおおおおおお―――」
未だ固まったまま、バラけるにも今更遅い連中を相手に、カズマは容赦なくその一撃にて強襲する。
「―――ファーストブリットォォォオオオオオオオオオオオオオ!!」
背にある三枚の羽根状の突起物、まずそれが一枚弾け飛ぶと共に、そこから圧縮されていたエネルギーが噴出され、勢い良く彼女たちへと叩き落すべく凄まじい速度にて強襲。
威力も速度も、先程なのはが防いだ先の一撃の比ではない。
「さ、散開ッ!」
見ただけでそれは充分過ぎるほどに理解できた。
故に、ティアナがそう叫び切るよりも早く全員がその場を動いていた。
何とか全員、その場を飛び離れるも無人となったそこにそのまま勢い良くカズマの拳は振り下ろされた。
瞬間、轟音と衝撃が地面を抉り陥没させる。
バリアジャケットを着ていても、防御もせずに喰らえばただでは済まぬ一撃であることは瞬時にこの場の全員が理解できた。
……尤も、理解できたはイコールで臆することではないのだが。
朦々と上がる土煙の中、カズマは地面より拳を引き抜きながら瞬時に左側方へと振り返り拳を構える。
「はぁぁぁあああああああああああ!!」
地面を削るような勢い良く滑走する車輪の音とその叫び声と共に、土煙を突っ切ってスバル・ナカジマが拳を振り上げて襲撃を仕掛けてきたからだ。
予想通りの展開、故に迎え撃つ。それがカズマのやり方だ。
ましてや拳のぶつけ合いをしてこようというのなら、それは望むところ。
「らぁぁぁあああああああああああ!!」
相手が打ち込んでくる拳に合わせて、そこにピンポイントでカズマも返し、拳をぶつける。
-
俺とテメエ、どっちの拳が強えかまずは一勝負ッ!
そんな思いと共にぶつかり合う、シェルブリットとリボルバーナックル。
火花と轟音を響かせながら、打ち勝ったのは――――――カズマ。
「おらぁぁあああああああああああああ!!」
雄叫びと共に、押し負かし土煙の向こう側へと再びスバルを吹き飛ばすカズマ。
次の瞬間には、そのまま地面を拳で叩き再び宙へと跳躍。
直後、今まで彼がいたその場を切り裂くように突っ切る閃光。
「―――え?」
それをやった当人―――エリオ・モンディアルは必殺の瞬間を逃し槍が空を切った現実を信じられずに呆然とそんな呟きを漏らしていた。
だがそこへ再び着地したカズマは逃すことなくエリオを掴むと同時に、勢い良く今度は向きを真後ろへと変えて放り投げる。
その瞬間に、
「確かに速え……でも足りねえよ」
相手にもハッキリと聞こえるように耳元でそう言ってやりながら。
弾丸のように勢い良く、エリオは放り投げられその進行方向にいた少女に向かって飛んでいく。
「―――なっ!?」
クロスミラージュを構えていたティアナ・ランスターは予想外の事態に回避もままならずに少年と激突し吹っ飛んで行った。
それを確認しながら、カズマはそれを追撃するべく駆け出した。
一連の土煙の中での攻防、カズマは野生の勘とも呼べそうな驚異的な察知と身体能力に物を言わせたごり押しで見事に押し勝った。
スバルが仕掛けてくるのは音と喧嘩の場数で踏んだセオリーで容易に予想ができ、得意の力技で押し切った。
直後のエリオの不意打ちは大部分が勘だった。だがクーガーや劉鳳の真なる絶影などの速度を身を持って体験しているカズマには反応できないものでもなかった。
最後の背後のティアナについては、まぁこそこそと背後から狙ってくる奴というのは何処にでもいるものだ。予想通りに試しにやってみたら案の定いやがった。
そして二人纏めて直撃し吹っ飛んでいった。後はトドメの追撃を仕掛けるだけ。
そう思いながら、土煙を突っ切ってカズマは二人を追い―――
―――瞬間、目の前に降り注ぐ炎に驚き急ブレーキを掛けざるを得なかった。
「―――んなっ!?」
と驚きながら真上から降り注いできたソレを見上げれば、なんと上空には最後の一人であるキャロ・ル・ルシエが相棒である巨大化したフリードリヒの背に乗りながらカズマの侵攻を防ごうとしてくる。
正直、かなみと歳も変わりそうに無い少女というのはカズマにとって最も殴りづらい相手だったが、
「アルターの方になら問題ねえだろうッ!?」
飛び上がり、フリード目掛けてカズマは拳を突き込んだ。
それをおいそれと喰らってやる義理も無いフリードは迎撃のブラストフレアをカズマに向けて放つ。
だが―――
「温ぃんだよぉぉぉおおおおおおおおおおお!!」
物ともせずに炎を拳で切り裂きながら向かってくるカズマ。その勢いは衰えの陰りすらも見えはしない。
あわやそのまま炎を突っ切り、カズマの拳が飛翔する竜へと届かんとしたその時だった。
「リボルバァァァァァァ―――」
ウイングロードを展開しながら颯爽とその横合いから駆けつけたスバル。
そしてカートリッジロードと共に形成された魔力は、
「シュゥゥゥゥトォォォオオオオオオオオオ!!」
-
思い切りカズマへと叩きつけられ、彼を吹き飛ばした。
「キャロ、大丈夫!?」
慌ててそう尋ねてくるスバルに、キャロは間一髪の事態であったことなどもあり、やや呆然としながらも肯定の問いを恐る恐る返した。
「……そっか、よかった〜」
安堵の吐息を盛大に吐き肩を落としたスバルに、キャロも改めて礼を返そうと口を開きかけ、
「撃滅のぉぉぉおおおおおおおおおおおおお―――」
瞬間、聞こえてきた相手の言葉に瞬時に緊張しながらそちらへと振り返った。
視線の先には吹き飛ばされていたカズマが立ち上がり、跳躍しながら再びあの先制攻撃の時と同じ一撃を放とうとしてきていた。
「キャロ、直ぐに離れて!」
スバルが慌てたように叫びながら、迎撃する心算なのか身構えて彼へと振り向いていた。
自分に何か出来ることは、そうキャロも思ったが今からでは何も間に合わず足手まといにしかならぬことを痛いほどに悟る。
「―――フリードッ!」
だから邪魔だけはしないよう、足枷にはならぬように自身が使役する竜へとそう命じてこの場から全速力で離れる。
「―――相棒ッ!」
『―――All right』
キャロという憂いが無くなった以上、スバルはもはや全力を出し切ることに厭わない。
だからこその切り札を、相棒に命じて発動させる。
「―――フルドライブッ!」
『―――Ignition.』
瞬間、盛大に展開されるカートリッジロード。
それは即ち、己の切り札を出し切ることの、全力全開で立ち向かうことの表明。
叫びと同時、展開される近代ベルカ式の魔法陣。
そしてマッハキャリバーより発現する翼。
ウイングロードを真っ直ぐに向かってくる相手へと定めながら―――
「ギア――――エクセリオンッ!」
『―――A.C.S. Standby.』
「セカンドブリットォォォオオオオオオオオオオオオ!!」
互いに照準を合わせた弾丸の拳をぶつけ合うべく駆け出した。
二度目の拳のぶつけ合い。
今度は互いに掛け値なしの全力の一撃同士。
その衝撃は先の激突の比ではなかった。
震動・衝撃・轟音・明滅―――超常のエネルギーのぶつかり合い同士は周囲に激しくそれらを伝播させながら、拮抗を打ち破るべく互いに踏み込み合う。
何ものをも打ち砕くための反逆の拳。
何ものからも守るべき存在を守る為の不屈の拳。
そのぶつかり合いの結果は―――
「―――何ッ!?」
焼き直し……になることはなく、ほんの僅かながらもスバルの拳が押し返した。
そのままウイングロードの足場に着地しながらも蹈鞴を踏むカズマに、続くスバルの急襲が降り注ぐ。
交錯すると同時に次々に殴りかかられ、反応することも出来ずに殴り飛ばされ続ける。
小娘の思いも寄らぬ猛攻に、カズマはぶち切れるよりも歯を食い縛りながら獰猛に笑う。
「上等だッ! どんどん来やがれッ!」
そう思い次の瞬間にも殴られるも、カズマはその不敵さを収めない。
-
スバルの動きに翻弄され、まるで反応できていない。我武者羅に振り抜く拳は空を切るばかり。
だがそれでも、
「倒れねえよ……んな温い拳で倒れられっかよ!?」
まったくもって手緩い。小手先の連撃などただでさえタフなこの身に効くはずもない。
来るなら、仕留めるなら、デカくてキツイ切り札を持って来い!
そう叫びながら、カズマはウイングロードを叩き再び跳躍する。
それを追いかけ真っ直ぐに伸びてくる水色の道。其処を駆け抜けながら覚悟を決めたのか正面から漸く相手も仕留めにかかりに来るようだ。
そうだ、それでいい。それならこっちも正真正銘、最後の一撃だ。
「抹殺のぉぉぉおおおおおおおおおおお―――」
そしてスバルも覚悟を決める。
何度殴り飛ばそうと、何度倒れてくれるよう願ってもこの男は倒れない。
バリアジャケットを纏っているわけでもない、正真正銘の生身でありながら自分以上のタフネスさを誇っている。
だからこそ、小手先の連打などどれだけ打ち込もうと、この男は倒れない。
倒れずして立つ男を倒すにはどうするか?……そんなものは決まっている。
問答無用で倒れざるえない全力全開の一撃をぶつけてやる。
それも真正面から、それ以外にこの男を倒す方法は自分には無い。
だからこそ、ウイングロードの道先を男の正面に真っ直ぐ合わせてスバルは駆ける。
応える様にカズマは背中の最後の羽根を使っての全力の一撃にかかってくる。
だからこそ、最大最強の一撃でこちらもまた応えるだけだ。
「一撃ッ……必倒ォォ!」
残るカートリッジの全てを引き絞り、拳の前面に形成させた魔力を疾走しながら相手へと向けて身構える。
最後の羽根を推進剤に遂にカズマの拳がスバル目掛けて向かってくる。
スバルもまた迎え撃つためその拳を同じくカズマ目掛けて突き込んで行きながら―――
「ラストブリットォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「ディバィィィン……バスタァァァアアアアアアアアアアア!!!」
―――最後の拳のぶつかり合いが発生した。
一度目はカズマ。
二度目はスバル。
ならば互いに後が無い、決着をつけるべきのこの三度目は?
「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「はぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!!」
大気を揺るがすほどの雄叫びも、押し込むべき肝心の拳も。
意地も不屈の信念も。
全て両者はどちらも譲らなかった。
故に―――
此処から先は、限界を超えたもの勝ちだ。
そしてスバルは全力の切り札、エクセリオンモードを出し切った。
だがカズマには……まだ限界の先の力が残っていた。
「シェルブリットォォォオオオオオオオオオオオオオ!!!」
叫ぶと同時、カズマの右腕を覆うアルターは更なる進化を遂げる。
より厚く、より鋭角に、より強く。
背中からは三枚の羽根に変わり、一つの尾が出現しローターの回転のように回りだす。
それに呼応するように、右手の甲が開き更なる輝きを増していく。
強大な力がカズマに集まっていくのがその場の全員に理解できた。
-
だが当人―――カズマにしてみれば、これだけではまだ足りない。
そう、もっとだ! もっと、もっと、もっと―――
「―――もっと輝けぇぇぇええええええええええええ!!」
叫ぶと同時、黄金の輝きを放つカズマの進化した拳が、遂にスバルを振り切った。
その敗北はスバルにとって驚愕であると同時に……無念でもあった。
何かを最後に叫ぶよりも早く、輝く光と衝撃に吹き飛ばされスバルは意識を失った。
「……さて、最後はアンタ一人だぜ?」
そう不敵に言うものの実際は肩で息をしているのがカズマの現状であり、それは相手からも察せられるほどに明らかなものだった。
実際、シェルブリットの第二段階を前座と思っていた相手に使わざるを得ないとは予想だにしていなかった。
全力全開、その先にあるものから引き出してくるあの力はその代償として容赦なくその身を蝕んでくれる。
その疲労は馬鹿に出来たものでなく、洒落にもならないのが現状だった。
事実、あの時は一瞬こそ出したものの、なのはを前に見上げるカズマはアルターを解除した状態だった。
もう一度アルターを発現し戦闘……とてもではないが、相手のなのはの方がカズマにそんな余力は残っていないだろうと思っていたほどだ。
無論、やられた教え子たちの無念は晴らしてやりたい……が、ボロボロの相手を前に私怨をむき出しに私刑紛いの事を行う倫理観をなのはは持ち合わせていない。
幸いにも、四人には大した怪我は無い。スバルが気を失っているがそれは大事に至るものほどではないことは確認済みだ。
それらを踏まえ、そして物資輸送の護衛の任務に必ずしも相手を殲滅する必要性がない以上、ここで彼が諦めて引き下がってくれさえすれば撃退したと言う名目は立つ。
手打ちはソレで充分のはず、これ以上不毛な争いを続ける必要などないはずだ。
むしろ逆だ、なのははカズマと戦いたいのではない。カズマと―――
「ねえ、争いはもう止めにして少しお話しないかな?」
対話、それが彼女がカズマへと望んだことだった。
だが―――
「ハッ、絶対にノゥだ! ホーリーのアルター使いなんぞと話すことなんざこちとら何もねえよ!」
獰猛に、不敵な獣の笑みを見せての拒絶だった。
だが一度や二度の激しい拒絶くらいで引き下がる高町なのはではない。
どんなに拒絶されようと、お話を聞いてもらうために何度も食い下がる。意地でも退かない、それが高町なのはのやり方だ。
当然、カズマがなのはを受け入れることなど欠片も無い。理由は分からないが、コイツと会話をするだけで何故か分からぬ苛立ちが沸々と湧いてくるのだ。
「どうして? 私は君と争う心算なんて―――」
「テメエがホーリーだって時点で俺にはあり過ぎるんだよ! ゴタクなんざ結構だ、語るってんなら拳でやってやるよ!」
―――だからやろうぜ、喧嘩をよぉ!?
相も変わらず、カズマがなのはに突きつけてくる欲求はただそれだけであった。
そこに譲る気持ちなどあろうはずもない。只管に眼前の相手は頑なで意地っ張りであった。
だが繰り返すがなのはにはボロボロのカズマと戦う戦意などもはやない。
ただどうしてそこまで頑なに彼がホーリーに逆らおうとするか、自分たちと戦おうとするのかを話し合って聞きたかっただけだ。
それはカズマにとっては苛立たしく、火点きの悪い行為以外の何ものでもない。
それこそもはやこの茶番すらも打ち切って、問答無用で殴りかかりたいのが本音だ。
それを思いながらも実行しない理由は……生憎と、カズマ自身にもそれは分からない。
無抵抗な女に殴りかかる、無意識にもそんなことに負い目を感じているのかもしれない。
だからこそ、なのはがやる気になってくれないとカズマも相手へと殴りかかれない。
このままでは埒が明かない、だからこそ仕方なく取った手段がこれだった。
-
「そんなに俺と話がしてえなら、力づくで話を聞かせてみろよ」
挑発の蔑笑と共に言ったカズマのその言葉に、ピクリとなのはは反応した。
力こそがこの大地のルール。だからこそ、誰にも縛られない自分を縛りたいと言うのならそのルールに則ってかかって来い。
そういう意図で告げたのだが、それはなのはにとって自身の心境を揺さぶられると言っていい提案だった。
どうしてお話を聞いてくれないのか、それに悩んでいた相手のあからさまな拒絶に戸惑っていたなのはだが、相手のその言葉には思うところもあった。
力づくで従わせる、などという方法は彼女にとって最も好まぬ方法だった。
自らの意志で互いに歩み寄っての対話、それを望んでいた彼女にとっては乗る気にもなれない提案だ。
それでも一方で、己の過去においても話を聞いてもらうために実力行使に出ざるを得なかった場面というのが何度かあったのは確か。
フェイトの時もヴィータたちの時も、結果的には争わざるを得ない、良い悪いに関係なく、互いに退けぬ理由があったからこそぶつかり合うしかなかったこともあった。
あの時のあれらの選択、あれらの戦いをなのはは後悔していない。あれは必要であったが故の、本音をぶつけ合うために必要であったからこその戦いだ。
……じゃあ、目の前の相手もそれを望んでいるのだろうか?
喧嘩と言い切り、そちらの都合をぶつけて来る強引なやり方。お世辞にも褒められたものだとはいえない。
だが彼女たちの時と同じように、この男もまたそういう引けに退けない理由がないとも限らない。ただ戦いだけを楽しんでいる、などということはないはずだ。
きっと彼にも背負っているものがある、守らなければならないものがある。
その為にも、話し合いには乗ることが出来ない。
だからこそ、相手は戦いの中で本音を語り合う方法を望んでいるのかもしれない。
ならば、不器用な自分がそれを聞き届けるには、それに応える以外にないのだろうか?
……本当に、悪魔らしいやり方でしかお話を聞いてもらうことは出来ないのであろうか?
分からない、こちらが望んでいるのは対話。でもあちらが望んでいるのは闘争だ。
致命的に違うのに、行き着き先には同じモノが待っている。
その矛盾はジレンマとなりなのはの胸中を蝕む。
それでも相手は早く決めろと決断を促がす、こちらと戦えと促がしてくる。
それは自分がホーリーであり、彼がネイティブアルターである限り、変わらないことなのだろうか。
「迷ってんじゃねえ! そうと決めたことがあるんなら、迷わずそれを為せるように行動しろってんだ!」
遂にカズマが苛立ちも顕に怒鳴ってくる言葉に、なのはは葛藤から引きずり出されハッとなる。
迷うな、その強い言葉は確かに今の自分が欲しているものだったはず。
精神面で弱くなり、戸惑っていた彼女が揺らがぬように欲していたはずの断固たる決意の言葉。
それを言われて、彼女は漸くに覚悟を決めた。
「私は……君とお話がしたい」
「だったら力づくで実行しやがれ、ホーリー野郎!」
その拒絶の言葉は次には気持ち良い位に清々しく響いた。
いいだろう、好みじゃないがそれが必要だと言うのなら……もう迷わない。
郷に入れば郷に従え、それが此処のルールであり、自分が彼の憎むホーリー隊員でしかないのだとすれば、
「……分かったよ、それでいい」
今はそれを目一杯に演じきろう。悪魔らしいやり方で、話を聞いてもらう機会を勝ち取る。
自分が失ってしまった強さにも、それは通じるはずだから。
だから―――
「おいで、反逆者(トリーズナー)。―――遊んであげる」
その目一杯の不敵な宣戦布告に、カズマはそれこそ呆気にとられ一瞬ポカンとしながらも、すぐに言葉の意味を悟ると共に。
「上等だぁ、テメエぇぇぇえええええ!!」
獰猛な笑みと共に、シェルブリットを纏った拳で襲い掛かった。
-
なのはがその身を守るように周囲に無数に展開している桜色の光弾の数々。
それが彼女のアルター能力、詳細は不明だがあの橘あすかの“エタニティエイト”と似た能力なのだろうか。
なのはと初めて摸擬戦を行い対峙した瞬間、一見して劉鳳はそう思考した。
そして皮肉にも、カズマもまたこの瞬間、彼女と対峙した時にそう考えた。
宿敵同士、まったく関係ないところでも同様の考えへと至るその皮肉。
……ただし、その思考の次に選んだ行動はまったくの対極であったが。
劉鳳はまずは相手の能力を把握すべくに、慎重に絶影に隙を見て襲撃を窺わせながらの待ちの姿勢を取り、
「衝撃のぉぉぉおおおおおおおおお―――」
カズマは考えなしにとりあえず攻めるという姿勢を選んだ。
近づいて殴る、それがカズマの攻撃方法であり何よりも譲れぬスタンスだ。
どんな相手だろうが、それを変える心算は無い。
だからこその先手必勝、先制攻撃を取ろうとしたのだが……
「……駄目だよ、それじゃあ隙だらけだよ」
宙に跳び拳をこちらに構えてくる相手になのはは瞬時にその光弾を十発、相手に容赦なく叩き込む。
確かにカズマの攻撃は強力だ。だが幾度の死線を潜り抜けてきた歴戦のエースオブエースである彼女からすればモーションの隙が大きすぎる。
それではつるべ撃ちの格好の的でしかない。
事実、桜色の光弾は次々と拳を振り上げようとしているカズマの全身に叩き込まれていく。
それを回避も防御も出来ずに、カズマは為す術も無く直撃し続ける。
―――尤も、
「ファーストブリットォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
どれ程撃ち込まれようともまるで問題にもしないという勢いで、そのまま突撃してくるのが“シェルブリット”のカズマの所以だったのだが。
だがそれはなのはにとっても承知の上、先程の戦いでスバルがあれだけ打ち込んでも倒れなかったほどの驚嘆的タフネスさを誇る相手に錬度・精度を高める為に威力を搾ったシューターを十数発撃ち込もうとも倒れるはずがない。
(やるならバスター……それも取って置きの一発でも直撃させない限り彼は倒れない)
それは理解している、だが直射型の砲撃魔法にはどうしても溜めがいる。
いくらなんでもそれを許してくれる相手でもない。
だからこそまずは―――
「―――レイジングハート!」
『―――Load Cartridge.』
突撃してくるカズマの拳、それを受け止めるべくなのははプロテクション・パワードを発動。
カートリッジを用いて上乗せした障壁の強度は見事にカズマの拳を受け切る。
「……しゃらくせぇッ!」
カズマはそれを打ち破らんと先程までと同様に更に拳を押し込もうとしてくる。
しかし、それになのはは、
「綱引きだけが戦いじゃないよ」
そう告げると共に、フラッシュムーブを発動し一瞬で側面に移動。
当然、ぶつかっていた対象を失い、勢いを殺しきれずにそのまま拳が空を切るカズマ。その表情にはいきなりの事態に驚愕が走っていた。
だがそれは当然、なのはにとってはがら空きの致命的な隙でしかない。
-
レイジングハートの照準をカズマに合わせ、瞬時に再び形成された数十の魔力弾が一斉に彼へと向かう。
『Accel Shooter.』
デバイスから発せられたその音声の直後、全弾がカズマの身へと直撃する。
流石に堪えたのか、呻き声を上げながら落下していくカズマだがこちらを振り向き睨むその眼は陰りを見せない苛烈なものだ。
彼の憤慨が分からないわけでもない。こちらは平然と力比べに乗ると見せかけ一方的に放棄した。
綺麗や汚い云々を戦いに持ち込むほど彼女はアマチュアではない。無論、自ら長所の比べあいを放棄した自身の選択を全面的に肯定するわけではないが。
だが彼女はプロだ。プライドよりも重視すべきことがあり、勝ちを取りに行くための戦いに拘りなど持ち込みはしない。
「撃滅のぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお―――」
蹈鞴を踏みながらの着地直後、再びカズマは二枚目の羽根を爆発させての拳の一撃をこちらへと向けてくる。
その姿勢は愚直とも言えるだろう。なのはの個人的な心情としては好ましくも感じる。
けれど、これとそれは別。
「セカンドブリットォォォオオオオオオオオオオオオオ!!」
叫びと同時、再び弾丸と化し向かってくるカズマの拳。
シェルブリット……正にその名称通りに彼の拳は銃口から発射される弾丸と同じだ。
だがそれ故に、その軌道はなのはたちが魔法で扱うような例外を除けば決定されているも同じ。
「つまりは直線……それが分かっているなら」
回避はそう難しいことではない。
事実、その指摘通りに迫る拳をなのははかわしてみせた。
そして放たれた弾丸はそこで止まる事もできずにそのまま飛んでいくしかない。
当然、ここでもなのははすれ違い様に再び形成した魔力弾の群れをカズマへと叩き込む。
全て的確に、無駄なく、効率的になのはの攻撃は続いていく。
まるでそれは傍から見ている者からすれば詰め将棋、一方的なワンサイドゲームでしかなかった。
「………ちょこまかちょこまか飛び回りやがって……ッ!」
挙句に針で刺すみたいな手緩い攻撃を何度もぶつけてくるだけ。
「………そんなんじゃなぁ・・・何度ぶつけられたって……」
倒れやしねえぞ、と叫ぼうと口を開きかけるもカズマはそれが出来なかった。
その理由は簡単だ。今の彼の姿を見れば明らかとも言える。
「随分と、お疲れみたいだね」
その相手の忌々しい指摘の通り、カズマは肩で息をして立っているも辛いと明らかに思わせるほどにふらふらだった。
実際、手緩い攻撃であり何発喰らおうとも倒れない、そう豪語したカズマの意見は正しいようで間違ってもいた。
確かに一撃一撃のシューターには彼を昏倒させるだけの威力は無い。
だがそれを何十発も間髪入れずに喰らわされれば?……それはまた違ってくることになる。
塵も積もれば山となる、などとも言われるがボクシングでもボディに喰らい続ければ疲労とダメージは無視できぬほどに蓄積される。
ましてや彼女が扱うのは正に人を倒す目的を持って扱われる魔法だ。常人の拳の比ではない。
そしてそれには非殺傷設定という効果も一役買っていた。
時空管理局の魔導師にとって非殺傷設定の魔法とは決して手加減の事を指さない。
むしろ直接的に魔力ダメージを内部に浸透させるソレは、暴徒鎮圧などの役割において充分過ぎるほどに効果を発揮する。
簡単に人を昏倒させることだけを目的とするならば、むしろ非殺傷設定の方が容易であるのも確かだった。
何よりも全力を込めても相手を死に至らせる危険性は限りなく減少させている。ソレは高町なのはなどの非殺傷設定を絶対に対人において解除しないという信念を持つ者からすれば気兼ねの必要も無くなることを意味する。
故に彼女は容赦なく、手加減抜きで彼を相手に魔力弾を叩き込み続けた。
なまじ頑丈さに自負があり、手緩い攻撃と防御を怠ったカズマ自身の選択も合わさり、遂に先の新人たちとの戦闘も合わせて無視できぬだけのダメージが蓄積されてしまったのだ。
傍から見てもこの現状、もはや勝敗は明らかだった。
故に―――
-
「そろそろ、お終いにしようか」
―――彼女もまた改めてそう告げてきた。
「……おいおい、圧倒的じゃねえか」
その様子を君島邦彦は見ていられないと頭を抱えながらも、どうすることも出来ずに物陰に隠れて見ていることしかやはり出来なかった。
カズマが派手に喧嘩をし始めたのは離れていても響いてくる振動や轟音から直ぐに察せられた。
失望され、相棒の資格を失ったとはいえそれでもカズマを見捨てることなど君島には出来なかった。
故に、恐る恐ると言った様子も露わに戦場へと足を運んだのだが……
そこで見たのは、やはり絶望的な光景でしかなかった。
空を飛ぶ白い服に杖を持った、自分たちよりも僅かばかり年上の女。
充分に美人と評されて良いほどに見目麗しくも思えるが、君島にとって彼女は悪魔のようにしか映らなかった。
それは恐らく戦っているカズマ当人の方が尚更にそう思えたことだろう。
本土から来たアルター使い、十中八九それで間違いないその女はまるでカズマを子ども扱いでもするように圧倒していた。
尽く果敢に繰り出すカズマの拳すら、彼女は嘲笑うかのように簡単に避けて自らの攻撃を次々と彼へと撃ち込んでいく。
それも表情一つ変えることなく淡々としたように、だ。
カズマを圧倒しているその光景とも相まり、それは君島からすれば正に悪魔の如き所業であり、強さだった。
あんなものロストグラウンド中のアルター使いを集めてきたところで勝てるとは思えない。
正直にそう思えるほど、君島はその白い悪魔に恐怖を覚えていた。
……それでも、それでもカズマなら。
そう、一縷の望みを戦いを見守りながらも抱かずには、期待せざるをえなかったのだが、それすらも段々と絶望に変えられるだけだった。
もう何十発、或いは百発近く撃ち込まれたのではなかろうか。それ程にボロボロなカズマの姿とは対照的に、女の姿は涼しいほどに無傷そのもの。
それも当然か、君島が見る限りでもカズマの拳は一度たりともあの女には届いていなかったのだから。
それでも、一撃でも拳が届きさえすればカズマならばそこから逆転してくれるはずだと、そんな希望をこの期に及んでも君島は持ち続けようとした。
―――無情にも、次の瞬間には冗談みたいなレーザー砲紛いの一撃にカズマが吹き飛ばされるまでは……
そして、そこから再び立ち上がる様子を見せないカズマを見て、遂に君島の最後の希望は絶望へと変えられた。
そろそろ頃合だ。
仕留めにかかるには充分過ぎると見計らい、なのはは改めて降服勧告をカズマへと促がす。
尤も返ってきたのは、
「………上等…だッ!……やれるもんなら、やって…みやがれッ!」
不屈とも言って良いほどに変わらぬそんな反抗の姿勢だったが。
反逆者、開戦前に相手を思わずそう呼んでいたが、この男は事実その言葉通りの男だった。
決定的に倒されなければ……否、或いは倒されても、この男は絶対に折れない。
それが交戦してみて改めてカズマに対して抱いた印象だった。
それはある意味においても力強く、気高くさえも感じられる。
……正直、羨望を覚えないわけでもない。
或いはそれは失くしてしまったものへの郷愁だったのかもしれない。
かつては自分もこの眼前の男と同じような時期があった。ただ我武者羅に、自身の信念だけを迷わずに、真っ直ぐに貫こう。
そうやって空を翔けようとした頃が確かにあった。
-
でもそれはもはや今の彼女には無い。まだ残っているのかもしれないが、本人が思っているほどにあるわけではなく、それならば失くしてしまったのと同じだ。
何故、それが無くなった?……そんなのは決まっている。
―――大人になったからだ。
少なくとも、社会で生き適応できる身の振り方を身に付けた。
出来る事と出来ない事を明確に線引きし、限界を定めた。
諦めという物の分別もまた覚えたのはこの頃だ。
手にできるモノと手から取りこぼせないモノを定めて、それだけは守り抜こうと固く誓った。
自身の掌の大きさを自覚した……恐らくは言ってしまえばそういうことだ。
それに後悔は無い……否、抱けないし抱いてはならない。
それで手に入れたものがあった、それで守り抜いたものがあった。
それらを否定する行為だけは、絶対にしてはならない。
少なくとも、現在に幸せを感じているのだ。そしてそれを守り抜きたいのだ。
ならばこそ、自分はそれで良いと思う。
―――でも、この男は違う。
言ってしまえばこの男は自分勝手であり、それは我が儘だとそのまま表現できる。
我慢を知らず、規律を守れず、調和を乱す。
マイナス面が顕著とも言えるほどに、一見すれば言い方は悪いが……クズだ。
それでも、少なくとも彼は自分に嘘を吐いていない。
正直だ、渇望して、執着や奪取に躊躇いを見せない。
そして諦めと言う行為すら絶対に受け入れず、立ち向かう。
自身を抑え付けない、限界を定めない、抗うことを決して止めない。
純然たるアウトローの生き方、決して褒められるものでもない。
―――けれどそこには、確かな輝きが存在した。
その輝きは力強くて眩しくて、自分では決して手に入れられないものだとはっきりと自覚させられる。
だからこそ、きっとこんなにも惹かれてしまうのだろう。
羨ましい、それを正直に認めてしまうことが出来る。
でもそれでも―――
「―――それでも、私と君はやっぱり違うから」
親近感を抱き、憧れるものを持っている。
それでも自分たちは生き方も生きるべき場所も違う。
譲れない、目指すべき場所が悲しいほどに異なる。
だから―――今は倒す必要がある。
その後に改めて、歩み寄れる限界ギリギリの部分まで見極めるために話し合おう。
そのお話を聞いてもらうために、これしかないのなら。
私は躊躇わずに、悪魔らしいやり方でも君を倒す。
その決意と共に、なのははレイジングハートを眼下のカズマへと向けカートリッジロード。
決定的な敗北を相手に与えるために、敢えて彼女は彼へと告げる。
「此処からは小細工なし……お互い、全力全開の比べあいだよ」
言うなれば挑戦状、真っ直ぐ逃げずにかかって来いと相手のプライドを逆手に取った退路を断つためのそれは布石。
そして今までのこの相手の言動を見る限り、その性格上必ず―――
「いいぜ! やってやろうじゃねえか!」
―――その誘いに乗った。
カズマは了承の叫びを挙げると同時に拳を構える。
-
その拳を必ずに弾丸と化してこちらへと撃ち込む為に。
だがそれは彼女もまた同じ。無敵を誇る、誇りとも呼べる砲撃を持ってそれを迎え撃つためにこれまでやってきたのだ。
だからこその、此処から先は真っ向勝負ッ!
「抹殺のぉぉぉおおおおおおおおおお―――」
「ディバィィィィィィィィィィィン――――」
最後の羽根が砕け、カズマの渾身の拳が爆発を伴いながら弾丸と化してなのはを強襲する。
飛んでくるカズマ、自ら射線に突っ込んでくる相手に躊躇い無く彼女は最強の魔砲を解き放つ。
「ラストブリットォォォオオオオオオオオオオオオオ!!」
「バスタァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
弾丸と化したカズマを拳どころか丸ごと、桜色の奔流は包み込む。
それを突っ切り、必死に届かせようと拳を相手に向かって突き上げ続けるカズマ。
だが遂に―――
―――反逆の拳は不屈の魔砲に吹き飛ばされた。
轟音と共にかなり距離の離れた岩まで吹き飛ばされ、叩きつけられたカズマを確認して漸く彼女は己の勝利を確信した。
傍から見れば彼女はノーダメージ、一見すればこの結果は完勝だ。
しかし本人からしてみれば、辛勝もいいところだった。
実際、上手くいったから良い様なものの事実は綱渡りも良いところだった。
正直に言って二人の間の力量はそれ程かけ離れたものではない。
むしろ現状ならば、カズマはなのはを僅かばかりほど上回っていたはずだ。
何故なら彼はエクセリオンモードを解放したスバルを相手に真正面から打ち負かしていたのだから。
リミッターを課せられている高町なのはと、エクセリオンモードを解放したスバル・ナカジマ。
この状態の両者ならば、力において上回るのは後者のスバルだ。
なのは自身、それは正直に認めているところではあるし、スバルがなのはを打ち破れる可能性もまた高い。
ならばそんな状態のスバルを倒して見せたカズマに、何故リミッターを付けたままのなのはがこうまで一方的な展開を見せ付けることができたか。
そこは間違いなく、地力の差だった。
本来ならば幼少時より弱肉強食のこの無法の大地で生き抜いてきたカズマの経験は常人の比ではない。
だが十年もの歳月を過酷な様々な戦場、それも最前線で戦い抜いてきた高町なのはの経験は決してソレに劣るものでは無い。
たかが小娘の十年、そう侮るなかれ。
エースオブエース、無敵や不屈と称されるその経歴は決して伊達ではない。
最前線の戦闘経験、そして自他共に含める最高峰の鍛錬、その双璧の壁の厚さは、持つ抽斗の多さはそう簡単に他の追随を許さない。
だからこそ彼女は終始相手にペースを握らせない、土俵では戦わせない搦め手に徹した。
プライドを押し殺し真正面からの戦闘を避け続け、ヒットアンドアウェイを繰り返す。
そして蓄積され、無視できぬだけの疲労が溜まったのを確認してから、相手の退路を断ったチェックメイトを掛ける。
多種多様な能力性を持ちながらも、個人のもの自体は単一性の能力であるアルターと、状況によって切り分けのきく多様性の魔法という相性の良さもあった。
それら全てを踏まえての実践しきってみせた逃げ切り、この結果は正にそう言えた。
だが例えどうだろうとも、
「……私の勝ちだよ、カズマ君」
これで漸くにお話を聞いてもらえる。
今の彼女が確信を持って考えていたのはそれだけだった。
だが―――
-
まったくもってボコボコだ。
一方的に嬲られて、一発もこっちは相手を殴れない。
ストレスが溜まる以上に、訳がわかんねえ。
コイツは何だ? 悪魔か何かか?
……屈辱? ああ、その通りだ。こりゃあどう考えてもかつてない屈辱だ。
これと同じほどのモノを味わったのはいつだ?……んなの、決まってる!
―――劉鳳、あのクソムカつくホーリー野郎に初めて負けた時だ。
負け知らずだったこっちを一方的にボコりまくって、こっちのチンケなプライドをズタズタにしてくれた。
挙句の果てには、俺なんて眼中に無いともきやがった。
ふざけんじゃねえぞ、この“シェルブリット”のカズマを舐めんじゃねえ!
テメエが俺を眼中にも入れるつもりが無えってんなら、俺が無理矢理にでも入ってやるだけだ!
無視できないように、その胸に名を刻ませてやるだけだ!
プライドをズタズタにされて、ボコボコにされたままのやられっぱなしで誰が終わるかってんだ!
……それはなぁ、本土のアルター使いさんよぉ……テメエも同じだ!
借りは返す、それも倍返しのオマケ付きで、だ!
やりたい放題やりやがって、ずっとテメエのターンってか?
……ハッ、ざけんなよ! 今度はこっちの番だ!
もう容赦しねえ、ぶち切れたぞ、躊躇わねえぞ。
テメエだけは許さねえ、ボコる、徹底的にボコる。
だからこそな、そうやっていつまでも上から―――
―――勝ち誇って見下してんじゃねえよ!
瞬間、ゾクリと背を走る悪寒をなのはは確かに感じた。
そしてそれを直感的に悟り、ありえないと思いながらもそれでも目の前の現実がそれを否定していた。
吹き飛ばした、確かに立ち上がれないほどの決定打を決めた心算だ。
いくらなんでも驚異的なタフネスを誇ろうとも、それを立ち上がるのならもはや人間ではない。
だというのに、あの男は立ち上がってみせた。
それこそフラフラ、意識が有るのかどうかも一瞥しただけでは判断できない。
体中がボロボロで、右腕を覆うアルターも既に砕けている。
満身創痍などと言う言葉すら生温い、彼はもはや死に体に等しい。
戦闘など出来るはずも無く、ましてやこちらを打倒することなど不可能な所業のはずだ。
それでも気圧された。歴戦のエースオブエースであるはずの彼女は確かに彼を見た瞬間に恐怖を覚えた。
「………どうした…よ……?………まだ…終わっちゃ…いねえ…ぜ……」
やがて不敵に、目一杯不敵に笑いながらこちらを見上げてカズマはそう言ってきた。
それは正しく、戦闘続行の意思表示。決して自分はまだ敗北していないのだと言う明確な反逆だ。
なのはは戸惑う、相手がとても余力が残った状態とも思えなければ、それで自分に勝てるとも思わない。
けれどもこちらもまた、あの男を倒せない。例えもう一度バスターを撃ち込んでも、きっと男は立ち上がる。
非殺傷設定の魔法と言えど、これ以上の過剰ダメージは相手をショック死に陥れかねない危険性がある。
人命を奪う心算の無い彼女には、これ以上の彼への攻撃は恐怖を覚えると共に、どうしても躊躇われたものだった。
けれどそれも所詮は彼女の側の都合。
相手は―――カズマはそんな事情など知ったことではない。
「手加減抜き……つったよな? だったら―――」
―――こっちも此処から先は全力全開だ!
-
そう叫ぶと同時、天を掴むが如く右腕を突き出すカズマ。
再構成……否、これは更にその先の力。
先程、エクセリオンモードのスバル・ナカジマを倒したあの黄金の輝き。
なのはたちで言うならばリミッター解除に該当する行為。
どう見ても体に限界以上の負担を強いているはずのアレを今の状態で解き放つなど自殺行為もいい所だ。
黄金の輝きに目を眩ませられながら、それでもなのはは相手に制止を呼びかける。
自身の保身の為ではなく、彼の体の為を思っての行為だった。
だがそれを聞き入れるはずが、カズマにあるはずがないのも事実。
輝きが集束していく。それと共に、更なる進化を果たして顕現する彼のシェルブリット。
閉じていた右目を開け、両目で真っ直ぐにこちらを定めながら、遂に黄金の拳が解き放たれようとしていた。
「シェルブリットォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ―――」
本能で身の危険、そして何よりも背後に護衛すべきトレーラーがある事を察したなのはは、自身に退路が無い事をハッとして悟った。
だからこそ呆けている暇など無かった。取れる選択肢はもはや一つだけ、迎撃と言う道しか残っていない。
だがリミッター解除も今更間に合わず、今の状態の砲撃で先程の比ではない事が明らかな一撃を破れるか?
出来る出来ないではない、やるしかないのだ。
瞬時にそう腹を括った彼女はレイジングハートに命じ、ありったけのカートリッジのロードを行う。
現状分の魔力をカートリッジを大量に用いての無理矢理の底上げ。……正直、限界越えの蛮行に等しい過負荷超過もいい所だ。
だが今はこれしかない、この方法でしか対抗できない。
だから躊躇っている暇は無い。
「ディバィィィィィィィィィィィィィィィィィィン―――」
来るなら来い、こちらも既に腹を決めた。
何度でも立ち上がり、何度でも向かってくると言うのなら。
そこまでこちらとの対話を拒絶しようと言うのなら―――
―――こちらも意地でも譲らない。必ずお話を聞かせてもらう。
だからこそのこれは、互いに退けぬ意地の張り合い。
高町なのはとカズマとの、一対一の戦いであり、思いのぶつけ合いだ。
そしてそれならば―――絶対に負ける心算は無い。
反逆の拳と不屈の魔砲。
一度目は決着が付いたその勝負、だが今度こそ絶対にケリを付ける為の第二ラウンド。
……否、最終ラウンド!
「バァァァアアアアアアアアアアアアストォォォオオオオオオオオオオオオ!!」
「バスタァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
黄金の輝きの拳が一直線、しかし回避も防御も許さぬ勢いでなのはに向かう。
だが生憎となのははそのどちらの選択も取らない、当然だ。自分は勝ちを拾いに行くのだ。逃げに徹してどうする。
だからこその迎撃、だからこその返答。
カズマの拳が相手を撃ち抜く弾丸だというのなら、それも良いだろう。
こちらは更にその上を行く、正真正銘の無敵の砲撃で迎え撃つ、ただそれだけだ。
自身の代名詞とも言える、十年間ずっと武器として鍛え上げてきた。
彼が誇る拳と同様に、自分が唯一誇れるその長所。
その全力全開の桜色の砲撃がカズマに直撃、彼を飲み込んでいく。
だが黄金の輝きは今度こそその輝きを翳らすことなく、どんどんとこちらに向かって迫ってくる。
-
なのはは更に魔力を砲撃に注ぎ込み続ける。
後など無い、考えない、今を勝ち取るために死力を尽くす。
桜色の奔流はそれによって勢いを増し、飲み込むカズマは押し返そうと勢いを増す。
カズマもそれには顔を顰め、苦しげに押し返され始める。
だがまだだ、まだ終わっちゃいない。これくらいでは終われない。
テメエのその砲撃が無敵だって言うんなら―――
―――俺はその無敵に反逆してやる!
だからこそ、もっとだ! もっと、もっと、もっと、もっともっともっともっと―――
「―――もっと輝けぇぇぇえええええええええええええええええええええ!!」
咆哮と同時、シェルブリットの回転する黄金の輝きは、その桜色の奔流すら凌駕し始める。
限界などとうに超えている。だからこそ、ブレーキなど存在しない。
ギアは常にフルスロット、焼き切れるまで回し続ける。
あのクソムカつく女、アイツに意地でも一発叩き込むまで、誰が終わってたまるか!
だからこそ、もっと輝け、そして突き進め。
アイツを、あの女を、目の前の強大な壁を―――
―――突き破れッ!!
黄金と桜色、二つの輝きの激突。
両者共に退けぬ意地を、限界を超えてのぶつかり合い。
切ったカードは正しく鬼札。手持ちで唯一無二の最強カード。
そのどちらともに絶対の信を置いていただけに、負ける事は許されない。
等しく拮抗を続け、押し破らんと侵攻する二つの力。
拳と魔砲、対極にありながらそれでもどこか似たその両者の攻撃。
反逆と無敵を代表するその両者の激突、それを制したのは―――
「―――ッ!?」
驚愕に歪み、目を見開いたのは高町なのは。
無敵を誇った最強の桜色の奔流、それを遂に突き破り黄金の輝きが目前へと迫ってきたからだ。
「なのはさんッ!?」
それが誰の声だったか、部下たちの内の誰かなのだろうがこの瞬間には判別できない。
そんな余裕が無かった、それ程に驚異的なその黄金の拳が目の前に迫っていたからだ。
直撃すれば撃墜、それだけはまず間違いない。
だからこそ、それだけは避ける必要がある。
とはいえ、この軌道、このタイミング、この速度。
全てが回避不能だと言うことをなのは本人にも確信させた。
だがだからといって諦めない、諦めてなどたまるものか。
「俺の……勝ちだぁぁぁああああああああああああああッ!」
迫る黄金の拳、勝ち鬨を同時に挙げる相手。
だが―――
「まだだよ、まだ」
―――終わってなどいない。
そのなのはの言葉と同時、カズマの拳が遂になのはの白いバリアジャケットの表面に触れ―――
「―――なっ!?」
―――瞬間、彼女を保護するバリアジャケットの上衣が爆発する。
リアクティブパージ、バリアジャケットの表面を瞬間的に自ら爆破させることで防御を行う一度限りの切り札。
だがそのカズマにとっての予想外の爆発、そして威力はカズマの拳の軌道を逸らすには充分なものだった。
-
そしてなのは自身も衝撃に吹き飛ばされはしたが、直撃の結末だけは回避する。
だが―――
誤算があったとしたら、それはそれでも彼の拳が止まらなかったこと。
そして突っ込んでいく軌道の先にあるものだった。
そう、カズマが突っ込む先に待ち構えているのは彼女たちにとっては護衛対象である物資を積んだトレーラーだった。
流石に直撃を避けるために必死だったなのはは、その瞬間背後の存在を忘れてしまい、その配慮を怠った。
結果、カズマの拳はそのままトレーラーへと突っ込み、車両側面に風穴を開けてしまった。
それは完全にトレーラーを相手に半壊させてしまった結果でしかなかった。
外した、必殺必倒のタイミングで放ったはずの、今までで文句なく最強と思われた一撃。
喰らわせれば勝てる、その確信が有ったからこそあの桜色の奔流を突っ切った瞬間に勝ち鬨の叫びを上げたのだ。
だが結果はどうだ、思いもしなかった予想外の相手の隠し玉で拳の軌道は逸らされて、ぶっ飛ばせたのはトレーラーが一台のみ。
当初の目的ならそれは成功と言える結果ではあるが、なのはを倒すことしかもはや頭にないカズマには失敗以外の何ものでもない。
だがだからとはいえ、そこで諦めるという選択を当然の如く選ばないのが反逆者だ。
故にこそ、外したのならもう一発。今度こそ間違いなく避けえない一撃を相手に叩き込む。
その意志とともに炎上するトレーラーから拳を引き抜き、再び相手へとその拳を構えようとしたその時だった。
「―――ぐぅっ!?……クソがぁっ……!」
こんな時に、今までの限界越えの反動が一気に体へと降りかかってきて、もはやアルターを維持するどころか、立っていることすらままならなくなる。
「……畜生…ッ…もうちょっとだってのに……ッ!」
あと少し、もう一発であの気に食わない相手を倒せるのだ。だというのにどうしてこの体は、右腕は言う事を聞かない。
それどころか直ぐにでももはや意識を失い倒れてもおかしくない疲労まで襲い掛かってくる。間が悪いどころの騒ぎではない。
これ程の屈辱、これ程の無念、或いはあの宿敵である劉鳳との戦いに無粋な横槍を入れられる以上に納得できない。
なんとか体を叱咤させ、疲労に鞭打ち反逆の姿勢を崩しはしないが、それでももう限界だった。
先程はあんなに限界を必死になって二度も超えたというのに今回ばかりは無理だなどとはあまりにも皮肉すぎるとも思えた。
だがこればかりはもはやどうすることも出来ない。故にこそ、力を出し切った結果として遂にカズマの体が大地に倒れようとしたその時だった。
「カズマぁぁぁあああああああああああ!」
聞きなれた、それこそ腐れ縁であり身近とも言える男の声が聞こえてきた。
やりやがった。……アイツは、カズマは本当にやりやがった。
もう無理だと思った。いくら何でももう立ち上がれない。
相棒は、カズマは敗北した。
先の魔砲に吹き飛ばされた結果を見て、君島はその絶望を遂に受け入れかけた。
彼にとってもそれは屈辱、無念以外の何ものでもない。
結局は相棒に荒事は任せ切りの他力本願。それを自覚しているからこそ、自分は小賢しかろうとも相棒の足りない部分を補える役回りを引き受けようと思っていた。
例え自分にアルター能力がなかろうとも、相棒には強力なアルターがある。だから自分は相棒を勝たせられるお膳立てを作れれば、それは立派な戦いだ。
君島は自身のその考えを疑っても恥じてもいない。何故なら自分たちはコンビであり、二人で戦い続けてきたのだから。
だからこそカズマの勝利は君島の勝利であり、その逆もまた然りだった。
ずっとそうやって自分たちはやってきた。
だというのに、この様は何だ?
-
相棒だと一蓮托生だとコンビだと、都合の良い事を散々言ってきて、一度状況が悪くなりびびれば、もう自分は関係ないと途中下車。
……違うだろう、そうじゃねえだろ?
確かに自分は臆病だ、腕っ節もからきしでアルターも持っていない。
頭が回ろうと、口が上手かろうと、所詮は学も教養もないただのチンピラだ。
それでも、そんな自分でも誇りを持っていたことが一つだけあったはずだ。
それはあの馬鹿な考え無し、ついでに同居してる女の子を満足に養えない甲斐性無しのロクデナシ、そしてクズとも言える男。
そんなどうしようもないにも関わらず、それでも折れず曲がらず退かない、不退転の意地を背負った本物の男であるアイツ……カズマと組んで戦っていることだ。
それだけが君島にとって、誰にも恥じることなく誇れたことだったはずだ。
アイツの足手まといではなく、肩を並べて歩ける相棒であるその資格こそが君島邦彦にとっての全てではなかったのか?
それを捨てちまって、アイツ一人に全て任せて投げ出しちまってそれで何が残る?
「……残らねえ……何も……」
残るものなどあるはずがない、それが当たり前だったはずだ。
なのにそれなら、俺は此処で何をやっている。ビビッて震えて隠れて、解説役の傍観者になりきって勝手に期待して勝手に絶望して―――
情けねえ、それでも男の子かってんだ!?
まだやれることがあるだろう。自分に出来ることがあるはずだ。
資格を失おうとも、弱い臆病者だろうとも、それでもやらなきゃならねえことがある。
相棒を……ダチを助けられなくて、何が男だ。
だからこそ命懸けでも、怖かろうとも殺されようとも直ぐにでも飛び出してカズマを助けに行く。
それが君島邦彦がしなければならない戦いだ。
そう決死行を覚悟したそれと同時、カズマは再び立ち上がった。
そして今までに見たこともないほどの強大な力で、先の破れた魔砲すらも今度は打ち破ってみせた。
君島はそのカズマの輝きに、功績に魅せられていた。
だが直ぐにハッとなり、此処から見ていても分かるほどに、もはや力尽き倒れようとしているカズマを確認すると、車を飛ばして助けへと急行する。
相棒のその名前を叫びながら。
周囲への確認を怠っていたのは今更ながらに気づいた致命的なミスだった。
結果、突如乱入してきたジープの運転手は倒れたカズマを車に乗せると瞬く間にこの場から離脱を図ろうとしていた。
スバルは気絶中、他の三人は逃亡を阻止すべく動きかけるもトレーラーに乗っている運転手の救助と言う人命優先を覆すことは出来ない。
そしてなのはもまた先の二度の全力の砲撃、過負荷超過のカートリッジロードの反動は魔法を扱うことすら無理なのが現状。
故に乱入者と反逆者を乗せたジープは悠々とこちらの追撃を振り切り、結果的に逃亡を成功させた。
護衛目的であるトレーラーは半壊、襲撃者も取り逃がす、この結果は正に・・・・・・
「……大失態、だね」
部下たちはベストを尽くした、それは間違いない。
ならばこの結果は自分にあるのだろう、もう見えなくなり始めたジープの姿を見送りながらなのははその結果を苦々しくも認めるしかなかった。
結局、最後まで話し合う機会を勝ち取れなかった。その最大の無念も共に抱きながら……。
結論から言えばマーティン・ジグマールからは咎めの一つすら無かった。
それどころか彼はこの結果をむしろ予想以上に素晴らしいものだと褒め称えた。
相手のその予想外の反応に一瞬こそなのはは驚けど、しかし直ぐにこの流れのからくりを察することが出来た。
何てことはない、これは要するに―――
-
「私たちを試したんですね?」
なのはのその問いに、ジグマールもまた隠すことなくその通りだと肯定の頷きを示した。
薄々予想できていたことだっただけに、それ程に彼女は腹立たしさを感じることは無かった。
当然だろう、ほぼ予想されていたこちらの経路と相手の襲撃。
トレーラーに積まれていた物資が最低限の物しか無かったという事実。
任務に就いた人員の構成とその人数。
何よりも自分たちの素性と相手の正体。
それはつまり、
「最初からジグマール隊長は私たち六課と彼が衝突するように、この任務を用意していたんですね」
全ての結果がその答を示しているではないか。
ジグマールにとってカズマというアルター能力者は、彼が知る数少ない『向こう側の世界』とこちらを繋ぐ大変に興味深い存在だった。
彼は自身の目的の為にそういった人材を欲していた、だがあの男は飼い慣らせる存在ではない。
むしろ逆、反抗を止める事ない反逆者。明確な敵だ。
だが彼の力は劉鳳と同レベルの潜在能力を秘めた可能性に満ちたもの、必ずいずれはどんな手を使ってでも手に入れる。
だが劉鳳以上にまだカズマはジグマールの想定するレベルには至っていない。力は目覚めへと至っていない。
だからこそ、彼の力を目覚めさせ、引き出す必要がある。
それに最適だったのは自身の部隊のホーリー隊員たちと戦わせることであった。
だがその求めるには至らぬレベルであろうとも、一般のホーリー隊員たちではもはや敵うレベルを超えた力をカズマは持っていた。
これ以上にカズマの力を引き出すには、もはや劉鳳と戦わせる他に方法が無かった。
だがそれはジグマールが危惧する、貴重な存在である両者共に潰し合うという恐れにもなりかねない。
そんな時だったのだ、この機動六課という異世界の組織の能力者たちがこのロストグラウンドへと舞い降りたのは。
魔法というアルターとは異なる未知の能力、そしてソレを扱う者の劉鳳にすら劣らぬ実力。
ジグマールにとって彼女たちはうってつけの人材だったのだ。
そうして彼が仕組んだ思惑通りに……否、それ以上の結果を彼女たちとカズマの戦いは示してくれた。
イーリィヤンの“絶対知覚”による監視を通して、カズマが『向こう側』の力の一端を引き出す成果が確認されたのだから、ジグマールにとってそれは喜ぶべきことだった。
本音を語れば、それを引き出してくれたなのはたちの健闘には感謝してもし足りぬほどだ。
尤も、それが六課からすれば良い面の皮の扱いを受けたに等しいこともまた承知してのことであったが。
その思惑の全てを把握できずとも、なのはにもまたそれを察することはできた。
言ってみれば茶番、任務とはいえ部下を危険に晒され一方的に利用されただけに等しい扱いに怒りや不満を覚えないわけでは無い。
だが食わせ者と当初から警戒していた以上、これぐらいの扱いは受ける可能性があること自体は承知の上だった。
最初からそもそも管理局と本土の間には、そして六課とホーリーの間には利用し合う打算関係は織り込まれ済みだ。
感情に任せた糾弾に身を任せるほどに彼女とてもはや向こう見ずとはいられない。
こちらにも知り得たものが多かった結果がある以上、ギブアンドテイクの元にこの成果を互いに黙認しあうことこそが、大人が取るべき選択だ。
充分になのはとてそれは分かっている。だからこそ此処では短絡的な感情に任せた態度だけは取らなかった。
(……でも君なら、きっと違うんだろうね)
先程死闘を演じた相手……カズマの姿が脳裏へと浮かび、思わずそんな風に思ってしまった。
もし彼が自分の立場なら、きっと怒りと言う感情に任せてジグマールへと殴りかかっているはずだ。
まったくもって実に羨ましい、それだけはこの瞬間に正直に思った高町なのはのカズマという男への羨望だった。
-
そしてそんな彼女の思いなど知らぬ当人は、トレーラーへと襲撃をかける前以上に苛立っていた。
当然だろう、上等な喧嘩だったのは確かだが、結局は相手を殴り損ねた。
負けた心算など断じてないが、終わってみればこっちはボコボコにされたのにあの女は一発もこちらの拳を貰っていない。
ダメージの総量から言えば勝ち逃げされたのに等しい。
「……あの女、次会ったら絶対に容赦しねえ」
最低でも一発、あの不敵な面にぶち込まないことには収まりがつきそうに無い。
フェミニズムなど欠片も持ち合わせぬこの男にとっては、もはやそれは躊躇いすらも抱かせない決定事項の如く決まっていた。
間違いなく、この瞬間からあの名前も知らぬ女は劉鳳と並ぶ絶対に相容れぬ敵とカズマは認識していた。
まぁ、それも今は置いておくとして……
「おい、君島」
帰路に着く車の中、相棒に名を呼ばれ君島はビクリと反応した。
直前であんな別れをした後に、余計とは思わないが結果的に彼を助けるために横槍を入れた。
目に見えて不機嫌、苛立ちのボルテージがかつてないほど高まっているであろう今のカズマだ。こちらに余計な事をしやがってとでも八つ当たりじみた怒りをぶつけられかねない。
……まぁ、それもいいさ。今回は寸前で腑抜けちまったこちらも悪い。カズマを助けたことも後悔していないし、先の覚悟していた一発も結局殴られてはいない。
だからこそ、今回くらいは甘んじて受けてやろう。それもまた相棒の務めと覚悟した時だった。
「んでどうなんだ、まだテメエのやってる事に後悔や迷いはあるのかよ?」
それは予想外だったカズマからの問いだった。
君島はそれに思わず驚きながら助手席の相棒へと視線を向けていた。
カズマは疲れたのか、ぐったりと背をシートに預けながら目を瞑ったままだった。
その横顔からは、彼が何を思っているかは君島にもはっきりとは分からない。
ただ呆然と沈黙したまま、君島は相棒の横顔を見ていた後、やがて―――
「そんな余裕、もう無くしちまったよ」
―――視線を再び前へと戻しながら、君島は静かにそう答えた。
後悔することも迷うことも人間なら誰だってすることだ。
事実、君島だって自分の人生を振り返ってみてもその連続であったことは間違いない。
正直、カズマがあの本土のアルター使いと戦っていた最中までだってそうだったのだ。
けれど、先程の激闘の最後に相棒はとんでもない奇蹟を見せてくれた。
或いは、あれは君島にとっては希望だったのかもしれない。
だからこそ、助けに飛び出す頃には腹を括れた。
この男に付いて行く、この男と戦っていくというのならそれで精一杯。
うじうじと悩んだり悔いたり、ましてや迷うなどと言う余裕を抱く暇などない。
要するに、覚悟を決めたということだ。
そして覚悟を決めた以上は―――
「―――今はただ目の前の壁を乗り越える、それしかねえ。……だろ?」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、君島はカズマに向かってそう言った。
そしてソレを聞いたカズマが浮かべていた表情もまた、自分と同じものであった。
腐れ縁から続く気づけば長い協力関係だが、これほど心底気が合って笑い合うことが出来たのは、或いはこの瞬間が初めてかもしれなかった。
凱旋とはとても言えない帰路の途で、それでも二人は久しぶりに愉快に笑いあうことが出来ていた。
由詑かなみがカズマの帰宅を知ったのは、表に君島の車が停まった音がしてカズマが車から降りながら君島へと別れを告げている声が聞こえたからだった。
今日もカズマは一緒に働きに出かける約束を破り、また君島と一緒に何処かへと出かけていた。
-
かなみはカズマが外で何をしているのか、その詳しい事を知らない。訊いてもカズマ自身が話してはくれないという理由もあった。
それでも君島と一緒に何か仕事をしているようではあるようで、少ないがお金を稼いで帰ってくることがある。
尤も、それも米と野菜を買い溜めてしまえば幾ばくも残らない額だが。
はっきり言ってしまえば自分たちの生活は火の車であり、決して余裕のあるものでもない。
カズマの稼ぎだけでは暮らしていけないからこそ、かなみもまた牧場の手伝いをして働いているのだ。むしろ、カズマの不定期の稼ぎよりも余程彼女の方が貢献しているとさえ言える実情だ。
甲斐性無しのロクデナシ、と偶に不満を揶揄するように彼に向かって言うが彼が反論せずにそれを受け入れるのはこの現実を認めているからでもあるようだ。
そうならばちゃんと働いて欲しい、それがかなみがカズマに持つ要望だったが、カズマはこれを殆ど守ってくれない。
仕事場に連れて行くことに成功しても目を離せば逃げられる、かなみが大人たちに申し訳なく何度も謝っていることを彼は知ってもいないことだろう。
そうしてマトモに働いてくれないカズマは君島と一緒に何かをしている。その何かが分からず、危ない事をしているのではなかろうかと彼女はいつも心配していた。
かなみからすればお金云々はハッキリ言ってしまえば二の次、彼女が何よりも望んでいるのはこの生活が安心して平和にいつまでも続けられることである。
カズマが無事に傍に居てくれるなら、それで自分の願いは殆ど叶っている。彼女は別に裕福になることなど望んでいないのだし、今がずっと続いてくれるならそれで満足だ。
だが此処は無法の大地であるロストグラウンド、ネイティブアルターやホールドの脅威にいつ曝されても可笑しくは無い、そんな場所だ。
かなみにとってはだからこそ不安だった、いつかカズマがこれらの争いに巻き込まれて自分の元を去っていくのではなかろうか、と……。
だからこそ―――
「おう、今帰ったぞ。かなみ」
そう言って帰ってきたカズマへとそんな不安は杞憂だと思いながら、微笑みかけてこの言葉を言わなければならないのだ。
「うん、お帰りなさい。カズくん」
一つだけ、どうしても分からずに引っかかっていた疑問が漸くに氷解した。
帰りを待つ少女の元へと帰り、彼女のいつも通りの笑みと言葉を聞き、それで分かった。
「……かなみ」
少女の名を呼ぶ、それに彼女は不思議そうに首を傾げながら、
「なに、どうかしたの……カズくん?」
こちらの態度に不審か不安を感じたのだろう、表情と声に滲み出ていた。
「……いいや、何でもねえさ」
だが少女にそんな顔をさせるわけにはいかず、カズマは何事もないようにそう答えながらかなみの頭に手を伸ばして頭を撫でた。
慣れない行為に思っていた以上に手に力が込められてしまっていたのか、彼女の髪を結果的にクシャクシャにしてしまい、リボンも曲がってしまった。
「ああ、酷いよカズくん!」
当然かなみからすれば不満そのものだったようで、逆に泣きそうな顔をされて怒られてしまった。
「……あ、いや…ワリい、すまねえ、許せ」
そう言いながらいつものように必死に結局は謝った。踏んだり蹴ったりの出来事ばかりの今日だったが、最後のコレが一番堪えた気がしてならなかった。
(……にしても、何か引っかかると思ってみれば)
何故あの女に自分は訳もなくあんなにも苛立ちを感じてしまっていたのか。
言葉を交わす度に不機嫌となってしまったのか。
……何てことは無い、気づきさえすれば至極尤もなことだ。
(あの女の声、かなみにそっくりだったじゃねえか)
ならば苛立つのもまた当然だ。
-
それはカズマにとってかなみの存在が憎いからでは無い。むしろその逆の存在であるからだ。
由詑かなみという少女はカズマにとって貴重な守るべき存在なのだ。
甲斐性無しのロクデナシ、ついでにクズも加えていい自分がそれでも生きている日常の象徴とも呼べる存在。
決して、アルター使い“シェルブリット”のカズマの戦いの中にだけはいてはならない存在。
そうであるはずの少女、まるでそんな彼女が戦場に居て、そして自分の敵である事を無意識に思わせてしまう声をあの女はしていたのだ。
実にこちらの一方的な都合だが、それを容認できるカズマではない。
(……あの女とはやっぱ尚更、次でケリ付けなきゃならねえらしいな)
“シェルブリット”のカズマの戦いの中には、由詑かなみを連想させるような存在は認めてはならない。
だからこそ、あの女の声はもう戦いの中では聞きたくない。
だからこその改めての固い決意だった。
「……カズくん?」
やはり今日の彼の様子はどこか変だ。正直、少し怖いとすら思ったくらいだ。
君島と一緒に出かけた先で何かあったのだろうか。危ないことに巻き込まれていなければいいのだがと不安にもなる。
だからこそ心配気にもう一度その名を呼んだのだが、
「ん、心配すんな。何でもねえよ」
そう言いながらいつものように診療台に座り、目を瞑ってしまう。
そしてあっという間にカズマはもはや夢の住人となってしまっていた。
その様子から疲れているのだろうと察したかなみは、部屋から毛布を持ってくると、それをカズマにかけてやり、部屋の電気を消した。
「おやすみなさい、カズくん」
最後にそう就寝の言葉を告げると、かなみも今日はもう眠るために自室へと戻っていく。
何か色々とゴタゴタが起こり、これから自分たちの生活が大きく変わってしまうかもしれない。
その不安はかなみの中からはやはり消えることは無い。
それでも今はそれを心配していても仕方がない。今はまだその時じゃない。傍にカズマがちゃんと居てくれる。
そして彼は自分を置いていったりしない、そう信じることができる。
だから今は、これでいい。
そう吹っ切ってしまえば、後に心配することは殆どなく鬱な気分も無くなった。
これならば今日もぐっすりと眠れそうだ。
もしかしたらまた、あの“夢”が見られるかもしれない。
それを正直、願いながらかなみは床に就き眠りにヘと落ちていった。
……夢を、夢を見ていました。
夢の中のわたしは、何かに強く抗うそんな人になっていました。
その人の前に現れたのは、白くて綺麗で、そして強い、そんな女の人でした。
その人は女の人を相手に戦い、何度も倒されました。
それでも何度も何度も、その人は立ち上がります。
決して負けない、認めない、そして逃げない。まるでそんな事を告げるように。
何度も倒され、何度も立ち上がり、何度もぶつかっていきます。
その人も女の人も、どちらも決して諦めず、退こうとはしません。
まるでお互いに、絶対に譲れないものを通し合うように。
どちらが正しいか、どちらが間違っているか、わたしには分かりません。
夢の中のあなたには、負けて欲しくない。確かにそう強く思いました。
でも同時に、対峙する女の人にもまた屈して欲しくないとも思ってしまいました。
それが何故か、わたしには分かりません。
それでも、わたしは思ってしまったのです。
夢の中のあなた、そして女の人。
この二人が、争い合う以外の別の道で重なることは無いのだろうかと。
わたしはただ、そう願い続けることしか出来そうにはありませんでした。
ただ、そう願い続けることしか……
-
次回予告
第二話 高町なのは
無法の大地で生きてきた男。
数多の世界の空を飛んできた女。
価値観・願望は対極を示し、
反対に根幹の想いには共感を示す中、
女の言葉は男の拳に何を届かすことが出来るのか。
カズマとなのは、再びの出会いが双方に示す道とは……
以上、投下終了です。
投下速度が遅すぎたり、容量自体が無駄に長くなってしまい申し訳ございません。
次はもう少し短く纏められるよう努力してみます。
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